障害児をもつ母親のソーシャルサポートと抑うつとの関連
岡
治
子
は じ め に 私の経歴は“変わっている”とよく言われる. 10代の 頃, 私はこの地球上に起こる物理学的現象に興味をもっ ていた. 今では小学 の教科書でも紹介されているがプ レート・テクトニクスに興味をもち, 大学では理学部の 地球物理学講座で地震学を専攻した. 卒業研究では, 当 時の茨城県桜村 (現在のつくば市) にある国立防災科学 研究所で関東地方における地震データの解析をする機会 を得た. 私が学生だった 1980年代は地震計の精度が向 上し, より正確な地震データを用いて解析できるように なっていた. その結果, 震源 布をとると, プレート境界 面で起きている地震がプレートの形状をきれいに描き出 してくれた. このような経験は私に“学ぶことのおもし ろさ”を教えてくれる貴重なものだった. その後, 社会人生活を経る中で私の興味は人間のここ ろと身体に向くようになった. そして 30歳を目前にし て看護学と心理学の勉強を始めた. 私は遅いスタートで はあったが, 振り返れば母性看護学領域で 3年, 精神看 護学領域で 7年が過ぎた. 保 学科看護学専攻精神看護 学 野に着任してからは今, 4年目を迎えている. 今回 は, これまでに行った家族支援に関する研究のうち, 障 害児をもつ母親を対象にした研究について紹介する. 障害児をもつ母親のソーシャルサポートと抑うつの関連 目 的:自閉症やダウン症などの障害をもつ子どもの母 親が現在, 受けているソーシャルサポートと母親の抑う つの程度との関連を明らかにする. 方 法:対象は群馬県内の療育施設に子どもが入院ある い は 通 院 し て い る 母 親 169 名 で あった. 測 定 尺 度 は, ソーシャルサポートについては Houseの社会的支援尺 度を一部改変して 用した. 抑うつの程度は東大式 康 調査票 (The Todai Health Index: THI)の中から抑うつ 尺度を用いた. また, 子どもの障害について「母親のせ い」と言われた経験,および「自 のせい」と思った経験 などについて尋ねた. 結 果:回答者 140名のうち, 子どもの障害について 「母親のせい」と言われた経験をもつ者は 32.9%を占め た.また, 自 のせい」と いつも思う>あるいは 時々, そう思う> という母親は 54.3%を占めていた. いずれの 母親も, そのような経験のない母親に比べて抑うつ得点 が有意に高かった. 母親のせい」と言われた母親, およ び「自 のせい」と思っている母親の子どもの診断名は, いずれも脳性マヒ, てんかん, ダウン症候群などが主で あった. 母親のせい」と言った対象をみてみると「夫の 親」がもっとも多く, 次いで「夫」, 夫の兄弟」, 自 の 親」であり, 複数の者から言われた経験をもつ母親もい た.このように「母親のせい」と言われた経験を持つ母親 は,言われた経験のない母親と比較して「夫」および「夫 の親・兄弟・親戚」からのサポート得点が有意に低く,母 親が子どもの介護を一人で抱えている状況が伺えた. 子どもの障害について説明される場面は, 障害をもつ 我が子とこれからの生活をともにしていく心構えをでき るようにするなど, 両親がともに責任を持って子どもを 育てていく姿勢を作るための意義がある. しかし, 夫の サポートの程度は医師から診断を受けた場面にも現れて おり, 子どもの診断を母親が一人で受けた者 37名は, 夫 が一緒だった母親 82名と比較して夫のサポート得点が 有意に低かった. さらに, 抑うつ得点を目的変数として 247 Kitakanto Med J 2006;56:247∼248 1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学医学部保 学科臨床看護学講座精神看護学 野 平成18年5月9日 受付 論文別刷請求先 〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学医学部保 学科臨床看護学講座精神看護学 野 岡治子重回帰 析を行ったところ, 抑うつ得点には夫のサポー トの程度と子どもの障害を自 のせいと思うことが関連 していた (それぞれ, β=−.304; β=.284). 結 論:子どもの障害を「母親のせい」と言われた経験 をもつ母親は 3割を占め, 自 のせいと思っている母親 も半数以上を占めていた. また, 障害児を持つ母親にお いては, 夫のサポートが少ないこと, 子どもの障害を自 のせいと思うことが母親の抑うつの程度を高めること がわかった. お わ り に 子どもの障害について, 母親が夫や親族から責められ る経験や母親が自 のせいと思うことは母親を抑うつ的 にする. そのことは母親が子どもの障害を受け止め, 適 応していく過程を恐らく困難なものとするであろう. 障 害受容の過程は直線的に進むものではなく, 多くの場合, 行きつ戻りつを繰り返し, 少しずつ再起の段階へと進む と えられ, 長期間の支援が必要であろう. 私は現在, 心 療内科でカウンセリングに携わっているが, 障害をもつ 子どもの母親,あるいは兄弟姉妹 (同胞)のメンタルヘル スを支援することもある. その中で母親のみでなく, 障 害をもつ児の同胞の支援も極めて重要と感じている. 今 後も家族のメンタルヘルスに視点を当てた効果的な支援 方法について探求していきたい. 文 献
1. Drotar D., Baskiewicz A., Irvin N., et al. The adapta-tion of parents to the birth of an infant with a congenital malformation. Pediatrics 1975; 56: 710-717. 2. 野辺明子,加藤一彦,横尾京子 : 障害をもつ子を産むとい うこと 19 人の体験. 東京 : 中央法規, 1999. 3. 岡治子,竹内一夫,竹内政夫 : 障害児をもつ母親のソー シャルサポートと抑うつとの関連について. 女性心身医 学 2002; 7: 46-54. 4. 三牧孝至 : 障害児と家族への支援. 保 の科学 1998; 40: 304-307. 5. 宮川 子 : ダウン症の診断告知と家族へのカウンセリン グ・フォローアップ ; 出生後.小児看護 2001; 24: 59-64. 障害児をもつ母親のソーシャルサポートと抑うつとの関連 248