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モデリング学習環境におけるモデルの構造レベル及び振る舞いレベルの支援比較

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モデリング学習環境におけるモデルの構造レベル及び振る

舞いレベルの支援比較

Comparison between structural level explanation and behavior level explanation in a model-building learning environment

益田 哲宏 堀口 知也

Tetsuhiro Masuda Tomoya Horiguti

神戸大学大学院海事科学研究科

Graduate School of Maritime Sciences, Kobe University

Abstract: In science education, the model-building learning environment is one of the promising methods for promoting learners’ ability to make appropriate models of various phenomena with scientific concepts. However, it isn’t an easy task for most learners and some assistance is necessary. In previous research, we have developed the function which detects differences between learners’ models and current models and gives feedback about errors to learners. We conducted an experiment for evaluating the function which revealed that the degree of model intelligibility isn’t promoted by how to explane about errors. In this paper, we reported the difference of model intelligibity to compare structural level explanation and behavior level explanation.

1.

はじめに

科学教育の重要な目的の一つは、様々な現象に対 して適切なモデルを作成する能力を養うことである [1]。より良いモデルを作成するには、対象系に含ま れる原理や法則の深い理解が不可欠であり、領域の 概念的理解への到達が鍵となる。これを達成するた めの一つの方法としてモデリング学習環境が開発さ れている[2,3,4]。 モデリング学習環境では学習者にモデルを表現す るための部品セットを与え、それらの組み合わせで モデルを作成することができる。各モデル部品はな んらかの形式言語における基本語彙に対応しており、 従来のモデリング学習環境では数学的表現がよく用 いられ、数値計算によりその振る舞いを表現してい た[5]。しかし、数値的な表現では対象系の振る舞い を直感的に理解することは難しく、領域の概念的理 解に必ずしも向いているとは言えない。 一方、最近のモデリング学習環境では定性推論に おける表現を用い、定性的なシミュレーションを行 うものも存在する。定性的なシミュレーションでは 対象系の振る舞いを、多い、少ない、増加、減少、 といった離散的概念で表現することが可能であり、 これは学習者にも直感的に理解しやすく、領域の概 念的理解に適している。これらのモデリング学習環 境の有用性は、教育における実践経験を通して実証 されている。 しかし、学習者が対象系をモデリングすることは 一般に難しい。定性的なモデルであっても実質的に は形式言語を用いた表現であり、方程式の立式と同 様に物理的、数学的な概念的理解が必要になる。 そこで、モデリング学習環境では様々な支援機能 が試みられている[6,7,8]。先行研究では学習者作成モ デルと正解モデルの差を表示する機能を実現した。 この機能を使用することにより学習者のモデルは正 解モデルに近づくことが示唆されたが、一方で差異 の説明の仕方次第では、モデル理解を必ずしも促進 しないこともわかった[9]。 本研究ではモデル作成を支援する説明の質に着目 し、構造レベルの説明を用いた支援と、振る舞いレ ベルの説明を用いた支援とでモデル理解に差が生じ るか比較実験を行った。

2. モデリング学習環境

2.1. モデリング学習環境とは

モデリング学習環境はモデリングを通して、学習 人工知能学会研究会資料 SIG-ALST-B506-06 - 29 -

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した知識を正確・精密にすること、内省や他者との 議論を通して科学的理解を深めることなどを支援す る目的で開発されてきた。実際の教育現場において も一定の効果が確認されている[10]。 従来のモデリング学習環境では主として数学的道 具(数式、方程式)が用いられてきた。しかし、数式 の立式は特に初学者、初等教育の学習者にとって難 しく、また定量的なシミュレーションでは具体的な パラメータを測定できなければシミュレーションで きないなど課題も多い。 そこで近年、定性的な語彙を用いてモデリングを 行わせ、定性推論の技術を用いてそれをシミュレー トするモデリング学習環境が開発されるようになっ た[11,12]。これにより、数式を用いずにモデルを表現 でき、より簡単にシミュレーション結果を捉えるこ とができる。

2.2. Evans

Evans(Error-visualization of students’ answer)とは 著者らの研究室において開発中のモデリング学習 環境であり、ダイナミックシステムを対象とし、定 性的な語彙を用いたモデリングと定性的なシミュ レーションを行うことができる[13]。Evans の特徴は 教育、学習を指向していること、つまり対象分野・ 対象系への理解を助ける機能を備えていることで ある。モデリングとシミュレーションを通して、学 習者は学習した原理や法則が具体的にどのような 状況で使われるか体験し、現象における因果関係を 考察することができる。これは実際の科学者・技術 者が行っている活動の疑似体験であり、単に公式化 された原理や法則に数値を代入して方程式を解く 「問題演習」とは異なり、より豊かな学習を実現す ることが期待される。

3. 構造レベルの支援と振る舞いレ

ベルの支援

3.1. 差異リスト

先行研究にて、Evans に「差異リスト」と呼ばれ る支援機能を実装した。これは学習者作成モデルと 正解モデルを比較し、その差異を提示する機能であ る。また差異の説明方法として,単に正解モデルと の部品の過不足及び部品間の関係(矢印)の方向の 違いといった構造レベルの指摘をする「構造の差の 説明」と、各変数間の値(の変化)の関係の不自然 さといった振る舞いレベルの説明を含む「数学的な 意味の説明」の2 種類を用意した。 検証実験の結果、差異リスト機能の使用により、 正解モデルとの一致度(モデル完成度)が向上するこ とが示唆された。また、2 つの説明の差としてアン ケート結果から、モデリングの際にモデルが何故間 違っているのかを考え修正を行ったと答えた被験 者は数学的な意味の説明の方が有用と感じ、場当た る的にモデルを組み替え差異の有無のみを気にし たと答えた被験者は構造の差の説明の方が有用と 感じることが示唆された。 これらの結果から、差異リスト機能によりモデル の完成度は高まるが、構造レベルの説明のみを用い た場合、差異の修正自体がモデリングの主体となり、 モデル理解、つまり各部品がどのように働き、それ が振る舞いにどのように影響するかに関する理解 (数学的・物理的意味の理解)を必ずしも促進しな いと考えられる。そのため、このような「振る舞い レベルの支援」が重要となる。

3.2. ノード・リンクの意味説明

本研究ではEvans にノードやリンクの数学的・物 理的意味といった振る舞いレベルの説明を提示す る「ノード・リンクの意味説明」機能を実装した。 ノードやリンクにマウスカーソルを合わせること で対応する説明が表示される。説明は、モデルに含 まれる物理量やそれらの関係に合わせて問題毎に 用意する。図1 はバスタブに蛇口から水を入れ、排 水口から排出させるモデルでの例である。 図1 意味説明表示図 この例では蛇口から単位時間当たりに流入する水 の量を表すノードを説明しており、「時間当たりの 水の増加程度を表しています。」と表示されている。 また、例えば比例を表すリンクに関しては、「一方 の変量が増加/減少するともう一方の変量も増加 /減少します。」といった説明が表示される。

4. 検証実験

Evans を用いて、構造レベルの支援(構造の差の説 明を行う差異リストを使用)と振る舞いレベルの支 援(ノードリンクの意味説明を使用)を行った場合と - 30 -

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でモデル理解に差があるかを明らかにするための 検証実験を行った。

4.1. 実験計画

被験者 理工系大学生 7 名である。被験者 1~4 を ノード・リンクの意味説明使用群,5~7 を差異リスト 使用群とした。 手順 実験の手順を示す。なお実験は2回にわけ て行った。 1 回目 被験者に実験の流れを簡潔に説明し、プ レテストを解いてもらった。プレテストは全部で4 題あり、課題1 はバスタブの水の流出入について、 課題2は底部が接続された 2 つのタンク間の水の 流れについて、課題3はカエルの個体数の変動(出 生、死亡)について、課題4は異なる温度の物体を 接触させた時の熱交換についてである。課題3は課 題1の、課題4は課題2の転移課題という位置付け である。課題にはそれぞれ部品間の局所的な関係を 問う問題と、系全体の振る舞いを予測する問題が含 まれている。前者は、モデルを構成する各部品の働 きに関する理解の測度となる。後者は、本来は前者 の理解に基づく系全体の振る舞いに関する理解の 測度となる(ただし、観察済みの振る舞いについて は、単に記憶によって正解することもあり得る)。 次に、Evans の操作に慣れてもらうため、チュート リアルを行い、簡単な例題を用いて実際にモデルを 作成してもらった。その後、課題1についてのモデ ルを作成させた(モデリングセッション 1)。 2回目 課題2についてのモデルを作成させた (モデリングセッション2)。その後ポストテストを 行った。ポストテストの内容はプレテストと同じで ある。モデリングセッション1 および 2 ではモデル に必要な部品は予め全てモデル作成画面上に用意 しておいた。(ただし定義域、初期値といった部品 のパラメータは未記入である)。 仮説 本実験の仮説を以下に示す。 A. 局所的関係を問う問題について、意味説明使用 群は学習課題のポストテストの点数が向上し、 転移課題でも少し向上する。差異リスト使用群 は学習課題、転移課題とも向上しない。 B. 系の振る舞いの予測について、意味説明使用群 は学習課題のポストテストの点数が向上し、転 移課題でも少し向上する。差異リスト使用群は 学習課題のみ点数が向上し、転移課題では向上 しない。

4.2. 結果と考察

表 1 に意味説明使用群のプレ・ポストテストの結果 を、表2 に差異リスト使用群のプレ・ポストテスト の結果を示す。なお被験者2 の斜線部は未回答であ ったため採点の対象外とする。被験者 1,2 に関して はプレテストの段階でほぼ満点を取っており、天井 効果のため後の分析の対象外とする。上昇度を正規 化した得点上昇率を表3 に示す。 8 957 8 957 8 957 8 957 3 4 2 ( ( 3 4 2 3 4 2 3 4 2 ) ( ) ( ( 8 -957657 . 0 1 0 1 . 6 735 6 735 6 735 1 2 0 ( ( 1 2 0 1 2 0 1 2 0 ( ) ( ( ) 35 -. 35 6 735435 ( ) 4 36 7 4 36 7 . 5 - 5 1 01 - 31 -

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仮説 A を検証する。局所的関係を問う問題につい て、意味説明使用群は学習課題で上昇し、転移課題 でも僅かに上昇している、差異リスト使用群は学習 課題、転移課題とも上昇が見られない。この結果か ら意味説明を用いた振る舞いレベルの支援ではモデ ルの局所的関係の理解が促進される一方、差異リス トを用いた構造レベルの支援では理解が促進されな いことが示唆される。 また、学習課題と転移課題では、実際にモデルを 作成した学習課題では、ノード・リンクの意味説明 を見たことでポストテストの点数が上昇したが、モ デルを作成しない転移課題では、ノード・リンクの 意味説明を見ていないため、学習課題に比べ得点上 昇率は低くなったと考えられる。 次に仮説B を検証する。振る舞いを予測する問題 について、意味説明使用群は学習課題で上昇し、転 移課題でも僅かに上昇している、差異リスト使用群 も同様に学習課題で上昇し、転移課題でも僅かに上 昇している。意味説明群は局所的関係の理解が促進 されることで振る舞いの予測も向上することが期待 される。差異リスト使用群はモデルを完成すること ができれば、モデルを実行し、その振る舞いを知る ことができる。その結果、学習課題に関しては得点 が上昇し、実際にモデルを作成しない転移課題にお いては得点は上昇しないと予想できる。しかし、意 味説明使用群と差異リスト使用群とで転移課題の振 る舞いの予測に関する問題で得点上昇率にほとんど 差がなく仮説の検証には至らなかった。原因として 転移課題である課題3の振る舞いを予測する問題は 回答した被験者全員がプレテストで満点を取ってお り、得点上昇率として現れにくくなったことが考え られる。

5. おわりに

本実験を通して構造レベルの支援と振る舞いレベ ルの支援を比較した結果、モデルの局所的関係の理 解は振る舞いレベルの支援の方がより促進すること が示唆された。一方で振る舞いの予測に関しては、 振る舞いレベルと構造レベルの支援の効果に明確な 差が見られなかった。プレ・ポストテストの内容や 難易度等を見直し、再度検証する必要がある。 今後の課題として被験者数を増やし、構造レベル の支援と振る舞いレベルの支援の差を、統計的に明 確な形で明らかにすることがあげられる。

参考文献

[1] Collins, A.:Design Issue for Learning Environments, In

Vosniadou et al.(eds.), International Perspectives on the Design of Technology-Supported Learnig Environments, pp.347-361, Lawerence Erlbaum (1996).

[2] Biswas, G., Schwartz, D., Bransford, J.: Technology Support for Complex Probrem Solving -From SAD Environment to AI. IN Forbus, K.D. and Feltovich, P. J. (eds.), Smart Machines in Education, pp.72-97, AAAIPress (2001).

[3] Forbus, K.D., Carney, K., Sherin, B. and Ureel, L.: Qualiative modelong for middle-school students, Proc. of QR2004 (2004).

[4] Breaweg, B., Linnebank, F., Bouwer, A. and Liem, J.: Grap3 -Workbench for qualiative modeking and simulation, Ecological Informatics, 4(5-6), pp.263-281 (2009).

[5] isee systems, http://www.iseesystems.com (1985-2017). systems:STELLA,http://www.iseesystems.com/(1985) [6] Carney, K.: When is a Process? Influence on Student

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and required for modeling with DynaLearn -A case study, Education and Information Technologies, Vol.18, Issue 4, pp 621–639 (2013).

[8] Bravo, C., van Joolingen, W.R. and de Jong, T.: Modeling and Simulation in Inquiry Learning: Checking Solutions and Giving Intelligent Advice Simulation, Vol.82, Issue 11, pp.769-784 (2006).

[9] Horiguchi, T. and Masuda, T.: Evaluation of the function that detects the difference of learner’s model from the correct model in a model- building learning environment, Proc. of HCI International 2017 (to be appered). [10] 舩川豊, 正司和彦: モデリング学習環境における高

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[11] Weld, D.S. and deKleer, J. (Eds): Readings in Qualiative Reasoning about Physical Systems, Morgan Kaufmann (1990).

[12] 西田豊明: 定性推論の諸相, 朝倉書店 (1993). [13] Horiguchi, T., Hirashima, T. and Forbus, K.D.: A

Model-Building Learning Envi- ronment with Error-based Simulation, Proc. of QR2012 (2012).

参照

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