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6),7) Basu & Fernald 8) 34 Holtz-Eakin & Lovely 9) Haughwout 10) Duggal, et al. 11) Aschauer Everaert & Heylen 12) (error correction mechanism) Pereir

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Academic year: 2021

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長期記憶性を考慮した社会資本の生産性測定

塚井 誠人

1

・小林 潔司

2 1正会員 広島大学大学院工学研究科 社会環境システム専攻(〒 739-8527 東広島市鏡山 1-4-1) E-mail:[email protected] 2フェロー会員 京都大学経営管理大学院 経営管理講座(〒 606-8501 京都市左京区吉田本町) E-mail:[email protected] 社会資本の整備効果は,時間遅れを伴い長期的に出現する.本研究では社会資本の整備がもたらす長期生 産力効果を考慮して,社会資本の生産性を測定する方法を提案する.そのために,地域生産関数における社 会資本の長期的生産力効果を実数和分を用いて表現する.その上で,地域生産関数を外生変数を有する自己 回帰実数和分移動平均(Auto-Regressive Fractionally Integrated Moving Averaged model with eXogenous

variables:ARFIMAX)モデルとして定式化し,多地域時系列データを用いて推計する方法を提案する.実証分

析の結果,地域生産関数に長期記憶性が存在しないという仮説を棄却できることが判明した.さらに,社会資 本の生産力効果の長期記憶性を無視すれば,社会資本の生産性を過小評価する危険性があることが判明した.

Key Words : ARFIMAX model, production function, infrastructure productivity, long memory

1.はじめに

社会資本の生産性の測定に関しては,数多くの研究が 蓄積されている.また,これらの研究に関するレビュー 論文も数多い.江尻らは,社会資本の生産性を測定し た既存の研究を,1)生産関数アプローチ,2)費用関 数アプローチ,3)因果関係分析に大別し,これらの アプローチの中で代表的な研究をとりあげ,社会資本 の生産性に関する測定結果を整理している1).中でも, 生産関数アプローチは取り扱いが容易なため,数多く の分析結果が蓄積されていることを指摘している. 生産関数アプローチは,時系列データに基づく方法 と,クロスセクションデータに基づく方法に大別でき る1).特に,社会資本の地域別の生産性を分析するため には,クロスセクションデータを用いた分析が有効で ある.そこでは,多時点にわたるクロスセクションデー タ(多地域時系列データ)をプールし,地域生産関数 を推計する方法がとられることが多い.しかし,多地 域時系列分析の枠組みの中で,地域生産関数を推計し た事例は,それほど多くない. 本研究では,多地域時系列データに基づいて地域生 産関数を推計する方法を開発する.社会資本の整備は, 各地域の総生産の時系列過程に多様な影響を及ぼす.社 会資本整備は,短期的に生産性を増加させるだけでな く,その効果は時間的な遅れを伴って現れる.ある時 点の社会資本の整備の効果が長期にわたって現れる時, 整備効果は長期記憶性を持つと呼ぶこととする.さら に,地域の社会資本ストックは,空間的なスピルオー バー効果を示すという特性を有する.塚井らは社会資 本の空間的なスピルオーバー効果を考慮した地域生産 関数アプローチの方法を開発しているが,クロスセク ションデータを用いた分析にとどまっている2) 以上の問題意識に基づいて,本研究では,多地域時 系列データに基づいて,社会資本整備の長期記憶性と 空間的スピルオーバー効果を同時に考慮することがで きるような生産関数アプローチを開発することとする. 具体的には,長期記憶性を考慮した多地域時系列モデ ルを用いて地域生産関数を定式化する.以下,2.で は,本研究の基本的な考え方を述べる.3.では,読 者の便宜を図るため,本研究の基礎となる長期記憶性 を考慮した時系列モデルについて簡単に紹介する.4. では長期記憶性と空間的スピルオーバー効果を考慮し た地域生産関数モデルを定式化する.5.では,都道 府県を対象とした実証研究の結果について分析する.

2.本研究の基本的な考え方

(1)生産関数アプローチの研究課題 Aschauer3)は生産関数を用いて社会資本の生産性を 測定し,1)社会資本の生産性が予想以上に大きいこ と,2)1970 年以降のアメリカ合衆国における社会資 本投資の低下が,アメリカ合衆国における生産性の低 下を招いたと指摘した.Aschauer 以降,社会資本の生 産性に関して,膨大な研究成果が蓄積されている4),5). 社会資本の生産性の測定に関する既往の研究成果に関 しては,例えば江尻らのレビュー論文1)を参照して欲し い.一方で,生産関数を用いて社会資本の生産性を測 定する生産関数アプローチに対して,多くの批判が蓄 土木学会論文集D

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積されている.中でも,内生的経済成長論の立場6),7)

から,規模に関して収穫一定の生産技術,生産要素市 場の完全競争性,社会資本市場の非競争性に関する仮 定が批判された.これらの批判の中で,生産関数の規 模に関する収穫一定の仮定に対して,いくつかの分析 が試みられている.例えば,Basu & Fernald8)は,ア

メリカ合衆国の 34 産業部門を対象として,生産関数の 規模に関する収穫一定の仮定について検証した.その 結果,いくつかの細分化された産業分野においては規 模に関する収穫一定の仮定が棄却されると報告してい る.Holtz-Eakin & Lovely9)は規模の経済性を考慮した

一般均衡モデルを用いて社会資本の経済活動に及ぼす 影響を分析した.彼らは,社会資本は生産要素価格を 低下させ,新規設立企業の数を増加させることを主張 した.Haughwout10)は生産要素市場における地域的独 占力を考慮した空間一般均衡モデルを用いて社会資本 の生産性を測定した. その結果,社会資本の整備は地 域経済活動の限界生産性に重要な影響をもたらすこと を指摘した.以上に挙げた研究においては,いずれも 社会資本は生産力増加効果,あるいは費用削減効果を 持つと主張しているが,分析に用いたデータの発生過 程,すなわち,確率過程の構造について注意が払われ ておらず,結果としてモデルの特定化が得られた知見 に重要な影響を及ぼしていると言わざるを得ない. 一方,計量経済学の立場からは,生産関数の特定化 誤差,社会資本と生産性の間に存在する累積的な因果 関係,時空間相関の存在,社会資本の整備効果の遅延 の問題が指摘されている.これらの問題が存在する時, 生産関数のパラメータの推計量の一致性,効率性が損 なわれたり,推計結果にバイアスが生じることが指摘 されている.生産関数の特定化の問題は,主に技術革 新や規模の経済性の取り扱いと関連している.Duggal, et al.11)は社会資本によってもたらされる技術革新を明 示的に考慮するため,労働力の限界生産性に規模の経 済性が存在するような時系列生産関数を定式化してい る.さらに,2段階最小2乗法を用いて,労働力の要 素需要関数と生産関数を推計し,Aschauer の結論を支 持する結果を得ている.この研究では,社会資本は全 要素生産性の決定要因とされ,その生産力効果は同時 点にのみ及ぶと仮定されている.つぎに,Everaert & Heylen12)は,投入要素の一次同次性の範囲に関する仮 説(労働力と民間資本,または,労働力,民間資本,お よび社会資本)について検討するため,コブ=ダグラ ス型生産関数を前提として,全要素生産性を測定した. その上で,測定した全要素生産性を内生変数とする回 帰モデルを推計して,仮設の検証を試みた.さらに,生 産関数アプローチに特有な相関性,累積的因果関係,お よび内生性に関する推計バイアス問題の存在を検討す るために,1階差分データを用いて誤差修正メカニズ ム (error correction mechanism) に基づいた同時方程式 モデルを推計し,変数間の因果性を検討している.彼 らは,ベルギーのデータを用いた実証分析を行い,全 要素生産性に関する回帰分析から,労働力,民間資本, および社会資本ストックの間に一次同次性が存在する ことを示した.また,同時方程式モデルの推定結果に 基づいて,社会資本から生産量への因果関係の存在を 支持する一方で,生産量から社会資本への逆因果関係 の存在を棄却している.また,Pereira & Frutos13)は,

VAR モデルを用いて,社会資本の生産力効果が遅延を 伴って累積する効果を分析している.VAR モデルは同 時方程式モデルであり,変数の内生性の問題を回避で きる.彼らは,アメリカ合衆国のデータを用いた実証分 析を行い,社会資本の生産力効果が正であることを示 した.さらに,推計結果から得られるインパルス応答 関数により,粗生産額に対して,遅延を伴って現れる社 会資本の生産力効果を求めている.しかし,VAR モデ ルでは,変数やラグ次数を大きくすると,パラメータ 推計が安定しない over-parmetarization 問題が起こる. この問題に対しては,理論または先験知識によって,一 部のパラメータを 0 に制約しなくてはならない.さら に,同時方程式の誤差項を直交化してインパルス応答 関数を求める操作にも先験知識が必要となる.すなわ ち,VAR モデルから得られる社会資本の累積的生産力 効果は先験知識に依存するため,一意ではないという 問題がある.最後に,確率誤差項の時系列相関,空間 相関に関しては,空間計量経済学14)において研究が蓄 積されている.塚井ら2)は地域間のスピルオーバー効果 を考慮した生産関数を空間計量経済学の手法を用いて 推計し,スピルオーバー効果が無視できないことを指 摘している.しかし,この研究ではクロスセクション データをプールして生産関数を推計しているため,確 率誤差項の時系列相関の問題は考慮されていない. 以上の既往研究のうち,社会資本の生産力効果の遅延 に関する研究事例は,Pereira & Frutos13)による VAR

アプローチにとどまる.一方,Duggal, et al.11),

Ever-aert & Heylen12)をはじめとする生産関数アプローチで は,筆者が知る限り,社会資本の生産力効果の遅延を分 析した研究事例は見あたらない.社会資本の生産力効 果の遅延を分析するためには,その時空間波及過程を 明示的に考慮した生産関数の特定化が必要となる.そ の場合,長期的な技術革新の効果を適切に取り扱わな くてはならない.なお,生産関数アプローチでは技術 革新の効果を知識資本を導入して説明するアプローチ も存在するが,適切な知識資本の代理指標を得ること は難しいため,技術革新の効果は推計残差として処理 されることが多い.ただし,技術革新の効果も遅延を

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伴うため,推計残差の時空間過程を適切にモデル化す る必要がある.以上の問題意識の下に,本研究では社 会資本の生産力効果と技術革新の効果が遅延を伴って 発生するメカニズムを,長期記憶性を有する多地域時 系列モデルとして定式化する. (2)社会資本整備効果の長期記憶性 社会資本の整備効果が遅延を伴って発生するとすれ ば,生産関数を推計するための多地域時系列データに 長期記憶性が現れる.時系列データの長期記憶性に関 しては3.(1)で定義するが,時系列データに長期記 憶性が存在することが,すでに多くの研究分野で指摘 されている15),16). 時系列データが長期記憶性を示す理 由の1つとして,個別の系列が長期記憶性を持たなく ても,集計化された時系列データに長期記憶性が現れ ることが指摘されている.Davidson & Sibbertsen17)

データ発生メカニズムが,時系列データの長期記憶性 に及ぼす影響に関してシミュレーション実験を試みて いる.例えばホワイトノイズのように,ある平均値の 周りで時間的に無相関な確率過程を考えよう.さらに, ある一定期間を経ると,系列の平均値がランダムにス イッチするような確率過程を考える.このような確率 過程は,それぞれの期間において長期記憶性を持たな い.しかし,互いに独立な無数の確率過程を集計した システム全体の集計的確率過程は,長期記憶性を持つ 実数次元ブラウン過程となることがシミュレーション 実験を通じて明らかにされた.すなわち,個々の企業 の行動データの確率過程には長期的記憶性が存在しな くても,個別の企業行動を空間的なゾーンや産業分野 ごとに集計化した確率過程には長期記憶性が存在する 可能性が指摘されている. Michelacci18)は,合理的な企業行動に起因する経済 時系列データの長期記憶性を指摘している.例えば,最 新技術の導入により,企業の生産性が向上することが 判明したとしよう.しかし,直ちに最新技術を導入す ることが必ずしも全企業にとって最適戦略であるとは 限らない.技術革新のスピードが早い段階では,技術 の導入を遅らせることが最適となる場合や,既存の資 本の償却が進むまで新技術の導入を遅らせる場合もあ り得る.このため,現実には一部の企業は直ちに新し い技術を導入するが,他の企業は導入しないことが起 こり得る.つまり,技術革新の効果は,集計化された マクロデータにおいて,遅延を伴って現れることにな る.社会資本の生産性に関しても,同様の議論が成立 する.土地利用の変化を例にとろう.新しく整備され た道路の周辺地域に,直ちに住宅や企業の立地が進む 訳ではない.技術革新の例と同様に,個々の家計や企 業の意思決定には時間遅れが伴うため,立地変化は緩 やかに進行する.また,生産関数アプローチで用いら れる社会資本ストックデータは,整備年次の異なる個 別の社会資本の集合体である.したがって,個別の社 会資本の生産力効果は必ずしも同時に現れるとは限ら ない.このため集計化された社会資本データの生産力 効果は,遅延を伴って現れる.以上の考察より,社会資 本の整備効果が有する長期的記憶性の問題は,社会資 本の生産性を測定する上で重要な課題となる. ここで,社会資本の生産力効果が「遅延を伴って現れ る」ような生産関数を例示しておこう.時点 t の社会資 本 Gtの生産力効果が将来の生産額 Yt+1, . . . , Yt+j, . . . に及ぶことと,時点 t の生産額 Ytが過去の社会資本 . . . , Gt−j, . . . , Gt−1の生産力効果を受けることは同値 である.後者について社会資本のみ生産力効果の遅延 が現れるとすると,コブ=ダグラス型の生産関数は, ln Yt= ln At+ β1ln Nt+ β2ln Kt+ β3ln Gt 1ln Gt−1+· · · + κjln Gt−j+· · · (1) となり,右辺には時点 t の定数項 At,労働力 Nt,民間 資本ストック Kt,社会資本ストック Gtのほかに,過 去の社会資本 Gt−jとそのパラメータ κjが現れる.2. (1)で述べたように,VAR アプローチでは,安定し たパラメータ推計とインパルス応答関数の導出に,先 験知識が必要である.一方,4.で述べる長期記憶性 を考慮した生産関数モデルでは,ラグパラメータ κjが 構造化されており,長期的な遅延を伴う社会資本の生 産力効果を,推計結果から直接求められる. (3)長期記憶性を考慮した時系列モデル 周知のとおり,時系列データの分析方法として,Box-Jenkins 法19)が確立している.すなわち,原データ 系列が非定常であれば原系列の差分によって定常化 し,自己回帰と移動平均パラメータによって,定常化 された確率過程をモデル化する.このような方法を, ARIMA(Auto-Regressive Integrated Moving Average: 自己回帰型和分移動平均) モデルと呼ぶ.これに対して, Granger & Joyeux20)および Hosking21)は,原系列の非

定常性を除去するために1階差分を用いることにより, 原系列が含んでいる長期的特性に関する情報が失われ ると指摘した.差分操作による情報損失の問題は,社 会資本の生産性測定に関する文献においても指摘され ている.Munnel22)は,1階差分を用いて生産関数を推 計する方法は,データに存在する長期的な関係を捨象 してしまうことを指摘した.また,Strum & deHaan4)

は1階差分データを用いたコブ=ダグラス型生産関数 を推計した結果,決定係数が極めて低く,パラメータ の推計値が解釈が不可能なほど大きな値をとるなどの 問題が生じると報告している.

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こ の よ う な 情 報 損 失 の 問 題 を 回 避 す る た め に , Granger & Joyeux20)および Hosking21)は,伝統的な

ARIMA モデルにおいて自然数とされていた和分次数 を,実数次数に拡張した実数和分 (fractional integra-tion) を用いた ARFIMA(Auto-Regressive Fractionally Integrated Moving Average:自己回帰型実数和分移動 平均)モデルを提唱した.ARFIMA モデルは,ARIMA モデルでは表現できなかった長期記憶性を表すことが 可能となる.実数和分された時系列データは,実数和 分次数が 0.5 未満であれば長期記憶性と同時に定常性 を有するという優れた統計的性質を示す23).ARFIMA モデルは,ARIMA モデルの自然な拡張であり,すで に国際為替レートの分析において,適用が試みられて いる24),25).ARFIMA モデルに外生変数を導入したモ

デルは,ARFIMAX(Auto-Regressive Fractionally In-tegrated Moving Average model with eXogenous vari-ables) と呼ばれる26).社会資本の生産性を測定する場 合,生産関数に労働力,民間資本ストック,社会資本ス トックという外生変数を導入するため,この ARFIMAX モデルを用いる必要がある.

3.長期記憶性と実数和分モデル

(1)ARIMA モデルと短期記憶性 筆者らの知る限り,土木計画学の分野で長期記憶モ デルを用いた実証的研究は見あたらない.読者の便宜 を図るため,長期記憶モデルに関する研究成果を簡単 に説明しておく.以下では,長期記憶モデルの一般的な 紹介であり,長期記憶性を考慮した生産関数に関しては 4.で説明する.本章で記述することは,あくまでも既 存研究の紹介であり,新しい知見はない.なお,本研究 と関係のある事項のみ記述するため,長期記憶性に関 する詳細に関しては参考文献27),28)に譲る.以下では, まず伝統的な ARIMA モデルを簡単に紹介し,ARIMA モデルが対象とする短期記憶性と本研究で着目する長 期記憶性との相違点について説明しよう. いま,離散的時点 t = 0, 1,· · · において観測された時 系列データ Ytが以下の条件を満たすとき,Ytを定常確 率過程と呼ぶ. γ(j) =|Cov(Yt, Yt−j)| < ∞ (2a) γ(0) = V (Yt) = E(Yt− µ)2= σ2<∞ (2b) E(Yt) = µ (2c) ここで,ラグ j は観測時点の差を表す.定常確率過程の 共分散関数 γ(j) は時点 t とは独立なラグ j のみの関数と なる.ここで,ラグオペレータ L を LYt= Yt−1, LkYt= Yt−kと定義する.Ytの d (> 0) 階の差分系列は (1−L)d で表される.なお,d < 0 の時は,和分系列を意味する. 自己回帰(AR),差分,移動平均(MA)の次数が,それ ぞれ (p, d, q) である ARIMA モデルを ARIMA(p, d, q) と表記する.ただし,差分パラメータ d (d = 0, 1, . . .) は自然数である.和分の場合は,d (d = 0,−1, · · ·) とな る.また,AR 作用素と MA 作用素をそれぞれ ϕp(L), ψq(L) とすれば,ARIMA(p, d, q) モデルは, ϕp(L)(1− L)dYt= ψq(L)εt (3) と表せる.ただし,AR 作用素 ϕp(L),MA 作用素 ψq(L) は,それぞれラグ多項式 ϕp(L) = 1− ϕ1L− ϕ2L2− · · · − ϕpLp (4a) ψq(L) = 1− ψ1L− ψ2L2− · · · − ψqLq (4b) で表される.ϕp(L) に関する反転可能性,および ψq(L) の定常性条件より,式 (4a),式 (4b) において,i| < 1 (i = 1,· · · , p),|ψj| < 1 (j = 1, · · · , q) が成立すると 仮定する19).また,ε tは確率誤差項であり,時点間で 独立で同一の正規分布 N (0, σ2) に従うと仮定する(以 下,i.i.d. 仮定と呼ぶ).ここで,短期記憶性の意味を 説明するために,次式に示すような 1 次の自己回帰過 程 ARIMA(1, 0, 0) をとりあげよう. Yt= ϕ1Yt−1+ εt (5) εt∼ i.i.d. N(0, σ2), t≥ 0 さらに,上式をラグオペレータ L を用いて, (1− ϕ1L)Yt= εt (6) を得る.ここで,確率誤差項に関する i.i.d. 仮定より, E[εtεt−j] = 0,∀t ̸= j が成立することに留意しよう.自 己共分散関数 γ(j) は, γ(j) = Cov(Yt, Yt−j) = E   (k=0 ϕk1εt−k )  ∑ l=j ϕl1−jεt−l     = ϕj1σ2 k=0 ϕ2k1 = ϕ j 1σ2 1− ϕ2 1 1< 1) (7) と表され,ラグ j の増加に対して指数的に減衰する性 質を持つ.このように自己共分散が指数的に減衰する 性質は「短期記憶性」と呼ばれ,ARIMA(p, 0, q) モデ ル全般に共通する性質である. 式 (6) において Yt系列が次数 1 で差分される(d = 1 が成立する)場合,確率誤差項が次数 1 で和分されるた め,その分散は時点 t の単調増加関数となり,定常性の 条件を満たさない.この場合,Box-Jenkins 法では原系 列の差分によって定常性を確保し,差分系列に対して ARMA モデルを当てはめる.ARIMA モデルは,1) AR / MA 項の次数が自己相関関数 ρ(j) = γ(j)/γ(0) の形状に基づいて決定される恣意性の問題,2)系列 の定常化のために差分操作を行うと原系列が示す長期 的な変動に関する情報が失われる問題,および3)モ

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デルが「短期記憶性」しか表現できないため,指数関 数よりも緩やかに減衰する自己共分散を表現できない, という限界を抱えている.

(2)ARFIMA モデルと長期記憶性

ARFIMA モデルは,Box-Jenkins による ARIMA モ デルにおいて,和分の次数を自然数から実数に拡張し たモデルである.3.(1)と同様に,離散的時点 t(t = 0,· · · , T ) において観測される内生変数 Ytが正規分布に 従う確率変数 εj∼ N(0, σ2) (j = t, t− 1, · · ·) により表 現されると仮定する.この時,ARFIMA モデルは, ϕp(L)(1− L)dYt= ψq(L)εt (8) と定式化される.ここで,(1− L)dは d が非整数の場 合を含む実数差分作用素であり,d > 0 の場合は実数差 分を, d < 0 の場合は実数和分を表す.また d = 0 の時 は,定常 ARMA モデルである.実数差分(和分)作用 素 (1− L)dは2項級数展開により, (1− L)d= j=0 ( d j ) (−L)j (9) と表せる.ここで,d は任意の実数,j は非負整数とす れば,式 (9) は一般化された2項係数 ( d j ) =d(d− 1) · · · (d − j + 1) j(j− 1) · · · 1 = Γ(d + 1) Γ(j + 1)Γ(d− j + 1) (10) を用いて表現できる.ただし,Γ(a) はガンマ関数 Γ(a) = 0 xa−1e−xdx (11) を意味する.ガンマ関数の定義より,Γ(a) = aΓ(a− 1) が成立する.また,a が整数であれば Γ(a) = (a− 1)! が成立する.Γ(a) は負の実数(負の整数を除く)に対 しても定義される.この時,式 (9) は, (1− L)d= j=0 Γ(d + 1) Γ(j + 1)Γ(d− j + 1)(−1) jLj(12) と表せる.式 (12) は,実数差分(和分)が内生変数 Yt に関する無限次数のラグ変数の和として表されること を示している.なお,長期記憶過程の定常性条件は, 0 < d < 1/2 (13) で表される29).系列がこの条件を満足するとき,反転 可能である.式 (12) の右辺は (1−L)k= 1+k 1!·(−1) 1+ k(k−1) 2! · (−1) 2· · · であるので,k に −d を代入すると, (1− L)−d = 1 +−d 1! · (−1) 1L +−d(−d − 1) 2! · (−1) 2L2· · · = 1 + j=1 Γ(d + j) Γ(j + 1)Γ(d)L j= j=0 πjLj (14) となる.ただし,πj = Γ(j+1)Γ(d)Γ(d+j) である.AR 項が定 常性条件を満たすときは,逆作用素 ϕ−1(L) はラグオペ レータ L に関する無限級数に展開できるので,(1−L)−d と共に式 (8) を反転すると, Yt= (1− L)−d ψq(L) ϕp(L) εt= Hε(L)εt (15a) Hε(L) = (1− L)−d ψq(L) ϕp(L) (15b) を得る.したがって,式 (8) の Ytは確率誤差項の無限 級数として表現できる. ここで,短期記憶過程と長期記憶過程の違いを明ら かにしておこう.確率過程の自己相関関数列 ρ(j) (j = 0,· · ·) に対して,長期記憶過程は, j=0 |ρ(j)| = ∞ (16) を満足するような絶対和不可能な定常過程として定義 される.なお,確率過程式 (8) が条件式 (16) を満足す ることを付録で示す.一方,短期記憶過程は, j=0 |ρ(j)| < ∞   (17) を満足する,絶対和可能な定常過程である.式 (16) と 式 (17) の違いは,ラグ j の増加に対して確率誤差項 の係数が 0 に収束する「速さ」の違いとなって現れる. AR 項の逆作用素 ϕ−1p (L) と長期記憶ラグ項の逆作用素 (1− L)−dが,それぞれ定常性条件を満たすとき,十分 大きな j に対して, πj≈ ψ1 ϕ1Γ(d) jd−1 (18) と近似できる30).式 (18) において jd−1は,式 (14) の πjでは, Γ(d+j) Γ(j+1)に相当する.長期記憶過程の定常性条 件 0 < d < 1/2 の下で jd−1は,j が大きくなるにつれ て幾何級数的に 0 に収束する.一方,定常性の条件を満 たす AR,MA パラメータは,ある|k| < 1 に対して kj の速度で指数的に 0 に収束する.したがって,高次項 (ϕ2, ϕ3, . . . , ψ2, ψ3, . . . など)は,jd−1よりも速く収束 するため,式 (18) に現れない. このように長期記憶過 程の誤差項に現れる係数 πjはラグ j が大きくなるにつ れて 0 に収束するが,ϕ−1p (L) よりも (1− L)−dの方が, ラグ次数の増加に対して 0 への減衰が緩慢となる. (3)ARFIMAX モデル 外生変数を付加した ARFIMA モデルを ARFIMAX モデルと呼ぶ26).ARFIMAX モデルの一般形は, (1− L)dYϕ Y(L)Yt− (1 − L)dGϕG(L)Gtβ = ψq(L)εt (19) と表せる.ここで,Gt= (G1t, . . . , GKt ) は外生変数行 ベクトル,β = (β1, . . . , βK)はパラメータ列ベクトル 土木学会論文集D

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である.また,dG, dY は実数差分(和分)パラメータ, ϕY(L), ϕG(L) は AR 作用素,ψq(L) は MA 作用素であ る.Ytの定常性と反転可能性を仮定すれば,式 (19) を, Yt= (1− L)dG−dY ϕG(L) ϕY(L) Gtβ +(1− L)−dY ψq(L) ϕY(L) εt (20) と書き換えることができる.式 (20) は,長期記憶性が 外生変数ベクトル Gtのみならず,確率誤差項 εtに関 しても成立することを示している.dG = dY が成立す れば,外生変数ベクトル Gtは長期記憶性を示さない. また dY = 0 が成立すれば,確率誤差項 εtは長期記憶性 を持たないため,誤差構造は ARMA 過程に帰着する. ここで,関数 HG(L), Hε(L) を用いて式 (20) を, Yt= HG(L)Gtβ + Hε(L)εt (21) と書き換えよう.ただし, HG(L) = (1− L)dG−dY ϕG(L) ϕY(L) (22) である.HG(L) と Hε(L) はパラメータとラグオペレー タを含み,それぞれ確定項,確率誤差項のラグ分布の 形状を決定する.ここで,変数 Gk t (k = 1,· · · , K) の平 均的な遅延ラグを表す lk G (k = 1,· · · , K) を求めよう. 式 (22) に示す合成関数 HG(L) を展開した時に,Gkt−j の各項に対応するパラメータを hk t−jと表そう.ただし, hk t = 1 である.a を単位ラグ期間,m をラグ切断長とす れば,長期記憶モデルにおける変数 Gk t (k = 1,· · · , K) の平均的ラグ遅れ lk Gは, lGk = ∑m j=0(j + 1)h k t−jm j=0hkt−j a (23) と表すことができる31),32).なお,式 (14) の d の定義 より−d = dG− dY となり,長期記憶性が現れる条件 d > 0 は dY < dGに相当する.式 (23) の右辺の分子に 現れる hk t−jに式 (18) を代入すると j· jd−1 = jdとい う項が現れるので,d > 0 かつ m =∞ の ARFIMA モ デルでは,lk Gは +∞ に発散する.このため,実数和分 パラメータ d が正となる長期記憶モデルにおいて,無 限視野の下で定義される平均ラグ遅れは無限大となる. しかし,実証分析ではデータの利用可能性に関する制 約があるため,ラグ次数を有限の値 m に切断せざるを 得ない.すなわち,平均的ラグ遅れ lk G は,式 (23) を 用いて計算することができる.このように計算した lk G は,本来無限視野の下で定義できるラグ遅れを,分析 対象とする有限の観測期間に対してラグ遅れを定義し ていることに留意しなければならない.言い換えれば, 観測期間を拡大し,より長い期間を分析対象すること により,ラグ切断長を長くすることが可能となれば,平 均的ラグ遅れの値は大きくなる. (4)実数和分モデルの推計法 伝統的な時系列モデルとは異なり,ARFIMA モデ ルや ARFIMAX モデルでは実数和分パラメータも推 計の対象となる.ARFIMA モデルの推計上の課題は, ARFIMAX モデルでも共通する.ここでは,議論の 簡単化のために,ARFIMA モデルを例にとり,その 推計上の課題について整理しておく.ARFIMA モデ ルの実数和分パラメータ d のパラメトリックな推計 法として,Geweke および Porter-Hudak による GPH 法33),および交互推計法34)等が開発された.前者の 方法は,まず実数和分パラメータの推計値 ˆd を求め, 階差オペレータ (1− L)− ˆdによって系列を定常化した 後,通常の時系列分析法で AR および MA パラメータ ϕ = (ϕ1,· · · , ϕp), ψ = (ψ1,· · · , ψq) を推計する2段階 推計法である.後者の方法は,まず GLS によって ϕ, ψ を推計し,その推計値 ˆϕ, ˆψ に基づいて d を推計する手 順を,推計値が収束するまで繰り返す.しかし,いず れの推計法も実数和分パラメータが AR,MA パラメー タと相関を持つ35)ため,小標本下では大きなバイアス が生じる危険性がある36)−38) 近年になり,実数和分パラメータ d を最尤法に基づ いて推計する方法が提案された.矢島39)や Robinson40) らは,データ系列のスペクトル密度関数に基づく周波 数領域において,実数和分パラメータを最尤推計法の 近似推計法である Whittle 推計法41)に基づいて推計す

る方法を提案している.さらに,Robinson & Yajima は,Whittle 推計量の漸近的な性質や頑健さの検討を行 い,共和分分析への応用を含む実証分析42),43)を試みて いる.しかし,生産関数の推計に用いることのできるサ ンプルデータは限られており,原系列を変換しない時 間領域の最尤法を用いることが必要となる.さらに,生 産関数モデルの場合,実数和分パラメータ,AR および MA パラメータおよび生産関数の構造パラメータを同 時に推計することが望ましい23).Sowell は,最尤法を 用いて ARFIMA モデルの実数和分パラメータと AR, MA パラメータを時間領域において同時推計する方法 を提案した44).式 (8) において,左辺の時系列実数和 分過程 Ytが定常性の条件 d < 12を満たし,右辺の確率 誤差項が独立に同一の正規分布 (εt∼ N(0, σ2)) に従う とき,Ytは多次元正規分布 NT(0, Σ ) に従い,その対 数尤度関数は, L(ϕ, ψ, d, σ) = −T 2 ln 2π− 1 2ln|Σ(ϕ, ψ, d, σ)| 1 2Y tΣ (ϕ, ψ, d, σ)Yt (24) と表される.ここで,T はサンプル数,Σ (ϕ, ψ, d, σ) は Ytの分散共分散行列である.しかし,分散共分散 行列 Σ (ϕ, ψ, d, σ) はパラメータ値 ϕ, ψ, d, σ に依存す る.このため,尤度関数 (24) を最大化するには,行列式

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|Σ(ϕ, ψ, d, σ)| の値を繰り返し評価する必要があるが, その数値計算は容易ではない45).したがって,Sowell の厳密最尤法による推計は,計算負荷が大きくなると いう難点がある. Li & McLeod46)は,式 (24) の最尤推計量 ˆθ = ( ˆϕ, ˆψ, ˆd, ˆσ) が一致性と漸近有効性を持つことを証明し た.ARFIMA モデルの最尤推計量のフィッシャー情報 量行列 Ip,d,qは, Ip,d,q = ( Ip,q J J π62 ) (25) と表される.ここに,Ip,qは,通常の ARMA モデルの AR / MA パラメータ ˆϕ, ˆψ に関するフィッシャー情報 量行列,J = (· · · , Jϕpd(r),· · · , Jψqd(s),· · ·) は ˆϕ, ˆψ と ˆ d の相互情報量ベクトルであり,以下のように定義され る.すなわち,AR / MA パラメータ ˆϕ, ˆψ の第 r 要素 および第 s 要素を ˆϕr, ˆψsとすれば,Jϕpd(r),Jψqd(s) は,それぞれ AR / MA パラメータ ˆϕr, ˆψsと d の相 互情報量であり,それぞれ, Jϕpd(r) = i=0 ϕ′i r + i + 1 (26a) Jψqd(s) = i=0 ψi s + i + 1 (26b) と表される46).ただし,ϕ i, ψ′i は,AR / MA 多項 式オペレータ ϕ−1p (L), ψ−1q (L) を無限級数展開した多 項式 ϕ−1p (L) =i=0ϕ′iLi,ψ−1 q (L) = i=0ψi′Li の各ラグオペレータの係数を表している.例として, ARFIMA(0, d, 1) をとりあげる.確率過程 Yt の定常 性| ˆψ| < 1 を仮定すると,ψ−1(L) = (1− ψL)−1 = ∑ i=1ψ′iL iを得る19).式 (26b) に基づいて共分散を求 めると Cov( ˆψ, ˆd) =−|Id,q|−1 i=0 1 i+1ψ′iとなる.す なわち, ˆψ と ˆd は逆相関しており,ψ = 0 の場合のみ ˆψ と ˆd は無相関になる.一般の ARFIMA(p, d, q) モデル についても ˆϕ, ˆψ と ˆd は無相関ではないため,段階的推 計法は望ましくないことが理解できる.さらに,Li & McLeod は,Ytの AR 項を反転して MA(∞) 表現とし

た場合に,有限の MA 次数で近似することが推計量に 与える影響について検討した結果,|d| < 1 2を満たす定 常な系列は,十分に長いラグをとれば大きなバイアス を生じないことを示した46) このように ARFIMA モデルでは,実数和分パラメー タと AR / MA パラメータの相関性に起因する推計バ イアスを補正し,かつ計算負荷を軽減するような推計 法の開発が望まれる.このような実用的な要請に対して Chung は,誤差 εtに関する対数尤度関数を最大化する CSS 法 (Conditional Sum-of-Squared) を提案した47). いま,確率過程 Ytが次の条件を満足すると考えよう. (a) {t ≤ 0} において Yt= 0 である(すなわち,εt= 0, t≤ 0).また確率誤差項 εtは独立で同一の正規分 布 N (0, σ2) に従い,E[ε4 t] <∞ である. (b) 確率過程 Ytの期待値 µ は既知である. (c) パラメータベクトル η = (ϕ, ψ) はコンパクト空間 Dη に含まれる.また σ2> 0 とする. (d) 実数和分パラメータは定常性条件と反転可能条件 |d| <1 2 を満たす. 以上の仮定の下で,θ = (η, d, σ) に関する尤度関数 S(θ) =−T 2 ln 2π− T 2 ln σ 2 1 2 Tt=1 εt(η, d)2 (27) を定義する.式 (27) を最大にするような ¨θ を CSS 推計 量と呼ぶ.ただし,εt(β) は以下のように定義される. εt(η, d) = ψq(L)−1ϕp(L)(1− L)dYt (28a) = j=0 πj(η, d)Yt−j (28b) ここで,πj(η, d) は AR / MA パラメータ η = (ϕ, ψ) と実数和分パラメータ d に関する多項式である. 条件 (a) が成立する時,確率誤差項は互いに無相関で あり,確率誤差項の分散共分散行列|Σε| は対角行列と なる.すなわち,ln|Σε| = ln ¨σ2I = T ln ¨σ2が成立す る.なお,CSS 推計量 ¨η, ¨d は,一致性と漸近有効性を 持つ48)

4.長期記憶性を考慮した生産関数モデル

(1)モデルの定式化 本研究では,地域生産関数をコブ=ダグラス型生産 関数を用いた ARFIMAX モデルとして定式化しよう. いま,地域 i (i = 1,· · · , R),離散時点 t (t = 1, · · · , T ) の多地域時系列データが得られたと考える.地域 i の 時点 t における粗地域総生産を Yit,労働力を Nit,民 間資本ストックを Kit,社会資本ストックを Gitと表そ う.対数変換したコブ=ダグラス型地域生産関数を, ln Yit= α0+ α1t + β1ln Nit+ (1− β1) ln Kit 2ln Gdit+ β3ln Git+ uit (29) と表そう.ここに,式 (29) の右辺第1項は定数項,第 2項は線形の確定トレンド項を表す.第3項と第4項 は,労働力 Nitと民間資本ストック Kitに関して規模 に関して収穫一定の仮定を表している.右辺第5項は 社会資本ストックの自地域に対する生産力効果を,第 6項は社会資本ストックのスピルオーバー効果を表す. ここで,社会資本ストックに関して,長期記憶性が存在 すると考えよう.社会資本ストックに関する実数和分 パラメータを dGとすると,社会資本の生産力効果は, d ln Git= (1− L)−dGln Git 土木学会論文集D

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図−1 実数和分パラメータ(1− L)−dG = j=0 Γ(dG+ j) Γ(j + 1)Γ(dG) ln Gi,t−j (30) と表せる.ただし,式 (30) において j = 0 の場合,長 期ラグの係数は Γ(d)/{Γ(1)Γ(d)} = 1 となる.実数和 分パラメータ dGが正の時は実数和分を,負の時は実数 差分を表している.図−1は dG= 0.2,dG =−0.2 と 設定した場合に,ラグ j に対して式 (30) の係数 Γ(dG+ j)/{Γ(j + 1)Γ(dG)}(−1)jがどのように変化するかを示 している.dG> 0 の場合には,過去の社会資本ストッ クが現在の生産量に対して正の効果を持つことになる. 社会資本の整備は将来の生産量に対して正の効果を有 するため,実数和分パラメータは dG ≥ 0 でなければ ならない.つぎに,社会資本ストックの地域間スピル オーバー効果を考えよう.地域間距離抵抗を重み係数 ωijを定義すれば,地域 i の企業が他地域の社会資本ス トックを利用することにより生じる生産力効果は, ln Git= ∑ j̸=i wijln Gjt (31) と表すことができる.式 (31) で表現されるスピルオー バー効果は,これまでの社会資本ストックの生産力効 果を分析するために用いられてきたものである.しか し,社会資本のスピルオーバー効果として,誤差の空 間相関や内生変数 Yjt, j̸= i を近隣地域の知識水準を表 す指標として知識のスピルオーバー効果を特定化した 生産関数2)を導入する方法もある.この場合,空間相関 の長期記憶性を考慮した生産関数モデルが必要となり, 時空間長期記憶過程の定常性に関する検討や推計方法 等,本研究の枠組みを超えた分析方法を開発すること が不可欠となる.本研究では,地域間スピルオーバー 効果として,単純な時空間構造を有する社会資本の近 接効果のみ着目する. 式 (30),(31) を式 (29) に代入すれば, ln Yit= α + α1ln t + β1ln Nit+ (1− β1) ln Kit 2(1− L)−dGln Git+ β3 ∑ j̸=i wijln Gjt+ uit (32) を得る.なお,uitは確率誤差項である.ここで,記述 の便宜を図るため,式 (32) を時点 t の地域生産関数に 対応するように行列表示しておこう.まず,従属変数の 列ベクトル Ytと確率誤差項列ベクトル utを, Yt=     ln Y1t .. . ln YRt     , ut=     u1t .. . uRt     と定義する.さらに,説明変数行列,ベクトルを, Ct=     1 t .. . ... 1 t     Nt=     ln N1t .. . ln NRt     Kt=     ln K1t .. . ln KRt     Gt=     ln G1t .. . ln GRt     と表そう.この時,地域生産関数 (32) は, Yt= Ctα + β1Nt+ (1− β1)Kt 2(1− L)−dGGt+ β3W Gt+ ut (33) と表記することができる.ただし,α = (α0, α1),W は wij (i̸= j; i, j = 1, · · · , R) を要素とする空間重み付け 行列であり,対角要素に関しては wii = 0 (i = 1,· · · , R) が成立する.さらに,3.の議論と対応をつけるため に,式 (33) の右辺を構成する変数のうちで,実数和分 パラメータ dGを持つ Gtと,その他の変数を区別して 表記する.行列 Xt= (Ct, Nt, Kt, W Gt),列ベクト ル β = (α, α1, β1, 1− β1, β3)を用いて式 (33) を, Yt= β2(1− L)−dGGt+ Xtβ + ut (34) と書き換えておく.すなわち,2.(2)で言及したよ うに,社会資本整備により立地が進展するなど,家計 や企業行動に及ぼす影響には長期的な時間遅れが伴う と考え,自地域の社会資本ストックに関してのみ長期 記憶ラグ効果が現れている.景気変動等の短期記憶効 果は,すべて誤差項に現れると考え,上式には AR ラ グ項は含まれていない.また既往の生産関数アプロー チにおいて,筆者の知る限り,社会資本整備効果の時 間遅れを明示的に考慮した定式化は行われていない. (2)確率誤差項の相関構造 式 (33) はクロスセクションデータと時系列データを 含む多地域時系列モデルである.確率誤差項 utは各地 域の生産性に関する時空間的変動を表しており,景気変 動や技術革新の影響等を含んでいる.景気変動が存在 する場合,確率誤差項の時・空間相関を無視できない. また,技術革新が累積的に進展する場合,その普及過 程の影響は確率誤差項の長期記憶性として現れる.地 域生産関数の長期生産力効果を測定するためには,確 率誤差項の長期的な時空間相関構造をモデル化するこ

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とが必要となる.現在のところ,時空間過程を考慮し た長期記憶モデルに関する研究は緒に就いたばかりで あり,確率誤差項の時空間長期記憶構造に関する研究 はほとんど進展していない.本研究では,長期記憶構 造のプロトタイプとして,時間方向にのみ長期記憶性 が存在する場合をとりあげる.そこで,式 (33) におけ る確率誤差項の時系列構造を, ut= ψq(L)(1− L)−dεεt (35) と特定化する.ただし,ψq(L) は q 次のラグ多項式で ある.εtは正規分布に従う時点 t の確率誤差項であり, E(εt) = 0 E(εt, ε′t−j) = { σ2I (j = 0) 0 (j̸= 0) E(Xt, ε′t−j) = 0 (j > 0) を満足すると仮定する.すなわち,生産関数の確率誤差 モデル式 (35) は, 景気変動効果を表す MA ラグ多項式 と,長期的な技術革新の影響を表す長期ラグ多項式に より構成されている.上述した確率誤差モデル式 (35) では,空間的確率誤差伝播過程の長期記憶構造を考慮 していない.技術革新の効果が長期記憶性を持つ場合, その効果は長期間にわたって地域間スピルオーバー効 果として現れる.このようなスピルオーバー効果を分 析するために,確率誤差伝播過程の長期記憶モデルを 開発することが今後の課題として残されている. 式 (34),(35) より,地域生産関数は ARFIMAX モデル Yt− β2(1− L)−dGGt− Xtβ = ψq(L)(1− L)−dεεt (36) として表される.以上の地域生産関数を一般的な ARFI-MAX モデル式 (19) と比較しよう.まず,ARFIARFI-MAX モデル式 (19) の実数和分パラメータ dY,dGが,地域 生産関数式 (36) では,それぞれ dε,dε− dGに対応す る.また,一般的な ARFIMAX モデル式 (19) では含 まれていない新しい項 Xtβ が含まれる.さらに AR 作 用素 ϕY(L), ϕG(L) を考慮していない.なお,5.に示 す実証分析では,確率誤差項の時系列相関構造として, 最終的に1次の MA 過程が選択されている.このこと は,式 (36) において ψq(L) = 1−ψL と表現することに 他ならない.この時,推計すべきパラメータは式 (34) に含まれる α0, α1, β1, β2, β3, dG,および式 (35) に含ま れる誤差過程の実数和分パラメータ dε,および確率誤 差項の MA パラメータ ψ となる. 当然のことながら,本研究でとりあげる長期記憶性 を考慮した地域生産関数の推計結果は,確率誤差項の 特定化に高度に依存している.特に,確率誤差項の相 関構造として長期記憶モデル式 (35) を採用しているが, 長期記憶時系列モデルのみでは長期記憶の空間的相関 関係をモデル化できないという限界がある.先述した ように,時空間過程を考慮した長期記憶モデルに関し ては,研究の蓄積がほとんど存在しないのが実情であ る.時空間過程を考慮した長期記憶モデルに関しては, 現在のところ今後の研究課題であると言わざるを得な い.本研究では,確率誤差項の特定化に関して課題が 残されているものの,社会資本の生産力効果の測定研 究において,長期記憶性がもらたらす影響に関して1 つの問題提起をしたいと考える. (3)地域生産関数モデルの推計法 3.(4)で言及したような理由により,ARFIMAX モデル式 (36) の実数和分パラメータ dG, dεと MA パ ラメータ ψ は互いに相関している.そのため,これら のパラメータを同時推計することが必要となる.また, 時系列データに関する回帰モデルの構造パラメータを 推計する場合,確率誤差項の系列相関を無視すると構 造パラメータが正しく推計できない.このため,系列 相関を特定化した上で,すべてのパラメータを同時に 推計する方法を採用することが望ましい49).本研究で は,3.(4)で説明した CSS 法47)を用いて,実数和分 パラメータ dG, dε,MA パラメータ ψ と,地域生産関 数の構造パラメータ β を同時推計することを試みる. しかし,地域生産関数式 (33) の右辺には,説明変数 Ytの期待値とトレンドを与える項が含まれている.こ のため,CSS 法の前提条件 (b) を満足しないという問 題点が発生する.この問題に対して,Chung & Baillie は,確率過程の期待値を既知とする仮定 (b) を緩和し, ARFIMA モデル式 (8) にトレンド項を付加したような ARFIMAX モデルを提案し,トレンドパラメータ α と 構造方程式のパラメータ d, ϕ, ψ を同時に推計する方法 を提案した50).さらに,CSS 推計量の小標本下の推計 バイアスについて,シミュレーション実験を通じて検討 している.これによると,トレンドパラメータ α,実数 和分 d,AR パラメータ ϕ,および MA パラメータ ψ を すべて同時推計すると,いずれのパラメータ推計値に おいても無視できない推計バイアスが発生することを 指摘している.一方,構造方程式に α, d, ϕ,もしくは α, d, ψ のみが含まれる場合,推計バイアスは無視しう ることを報告している.本研究では,構造方程式に AR パラメータ ϕ が含まれておらず,Chung & Baillie によ る修正 CSS 法50)を用いることとした.社会資本ストッ クのスピルオーバー効果は,パラメータ β3で表されて いる.4.(2)で述べたように,地域生産関数式 (33) の 確率誤差の相関構造として,時系列相関のみを考慮して いる.したがって,本研究で適用する修正 CSS 法では 空間相関の問題は考慮されていない.クロスセクション のサンプル数を R,時点数を T とする.推計すべきパ 土木学会論文集D

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ラメータをまとめて,¨β = (α0, α1, β1, β2, β3, dG, dε, ψ) と表記しよう.R× T 行 1 列の誤差ベクトル ε(¨β) = 1( ¨β), . . . , εt( ¨β), . . . , εT( ¨β))を用いると,尤度関数は 以下のように表せる. S( ¨β, ¨σ2) =−R· T 2 ln 2π− R· T 2 ln ¨σ 2 1 2¨σ2ε( ¨β) ε( ¨β) (37a) εt( ¨β) = ψ−1(L){(1 − L)dε Yt −β2(1− L)−dGGt− (1 − L)dεXtβ} (37b) (4)検定統計量 本研究で採用する修正 CSS 推計量は,一致性と漸近 有効性を持つことが保証され,パラメータの検定には 中心極限定理に基づく大標本理論が適用できる50).す なわち,修正 CSS 推計量の検定には,通常の最尤推 計法の場合と同様に,尤度関数式 (37a) を用いて尤度 比検定を行うことができる.いま,表記の都合上,パ ラメータベクトル β = (α0, α1, β1, β2, β3, dG, dε, ψ) を β = (β1◦,· · · , β◦8) と表記しよう.ここで,修正 CSS 推 計量 ¨βi◦(i = 1,· · · , 8) の尤度比検定の帰無仮説を, { H0 β¨i◦= 0 H1 β¨i◦̸= 0 (38) と表そう.さらに,パラメータベクトルの中で,尤度比 検定の対象となるパラメータ β◦i に関して,βi = 0 と 制約を設けた修正 CSS 推計量ベクトルを ¨¯βi と表そう. この時,検定統計量 ξiは, ξi=−2{ln[S(¨β, ¨σ2)]− ln[S(¨¯β i, ¨¯σ 2 )]} (39) と表せる.検定統計量が自由度 1 の χ2(1) 分布に漸近す ることより,帰無仮説 H0の有意水準 α%の棄却域は, ξi≥ χ2(100−α)%(1) (40) と表される.なお,帰無仮説 βG= 0 が成立する場合,長 期記憶パラメータ dG自体が意味をもたず,パラメータ の独立性が保証されない.そこで,長期モデルに βG = 0, dG = 0 と制約を置いた場合の修正 CSS 推計量ベク トル ¨β¯ G,dGを求め,検定統計量を, ξG,dG =−2{ln[S(¨β, ¨σ 2 )]− ln[S(¨¯β◦G,dG, ¨σ¯ 2 )]}(41) と定義する.この時,検定統計量は自由度2の χ2(2) 分布に漸近する.つぎに,推計残差の時系列相関に関 しては,1階の時系列相関を検出するための Durbin-Watson 統計量 (DW ) を用いることとする.すなわち, 地域 i,時点 t の推計残差を ˆεitと表そう.この時,地 域 i に関する DW 統計量は, DWi= 2− 2 ·T t=2εˆitεˆi,t−1T t=2εit)2 (42) と表される.さらに,全地域に関する DW 統計量は, DW = 2− 2 ·R i=1T t=2εˆitεˆi,t−1R i=1T t=2εit)2 (43) と表される.時点 t におけるクロスセクションの推計残 差の中に,誤差構造として特定化されていない空間相関 が存在するか否かを,残差ベクトル ˆεt= (ˆε1t,· · · , ˆεRt) を用いた Moran’s I 統計量 Mtによって検定する51). Moran’s I 検定量は, Mt= ˆ εt {1 2(W + W )}εˆ t ˆ εtεˆt (44) と表せる.ここに,W は空間重み行列14)である.こ の時,標準化された Moran’s I 統計量(以下,標準化 Moran’s I 統計量と呼ぶ) ˜Mtは, ˜ Mt= Mt− E[Mt] V ar[Mt] 1 2 (45) と表される.ただし, E[Mt] = tr(Ut) R− k (46a) V ar[Mt] =

tr(UtPtW) + tr(Ut2) + [tr(Ut)]2

(R− k)(R − k + 2) − (E[Mt])2 (46b) である.ここに,R は地域数,k(= 11) はパラメータ数 を表す.Ptは射影行列 Pt= Mt− Xt(XtXt)−1Xt であり,Ut = PtW と定義される.標準化 Moran’s I 統計量 ˜Mtは,漸近的に標準正規分布に従う52). なお,DW 統計量,Moran’s I 統計量は,いずれも残 差成分に長期記憶成分が存在しない場合を想定したも のである.空間パネルデータの確率誤差項が時空間相 関を持つ場合の残差の空間相関,および時間相関を検 出する検定統計量の研究は,筆者らの知る限り,誤差構 造が空間相関と短期記憶性を含む場合の Baltagi らの研 究にとどまっている53).しかし,式 (35) のように,誤 差構造が長期記憶性と短期記憶性を共に含む場合の残 差から空間相関と時間相関を検出する検定統計量の研 究は進んでいない.より適切な検定統計量の導出とそ の適用可能性は今後の課題である.

5.実証分析

(1)データ 都道府県単位の社会資本ストックデータに関しては, いくつかのデータセットが入手可能である.経済企画 庁が公表している社会資本ストックデータ54)以外にも, NTT や JR 民営化以前に関しては,大河原ら55),浅子 ら56),吉野・中島57)があり,民営化以後のデータに関 しては土居によるデータセットが利用可能である.塚 井ら2)が指摘したように,内閣府(旧経済企画庁)の社 会資本ストックデータは,社会資本の除却を考慮せず, 耐用年数に達しない範囲の中で過去の投資額を積み上

(11)

げて社会資本ストックを求めている.しかし,実際に は,古い社会資本ストックの相当量が除却されており, 除却を考慮しないストックデータは現実のストック量 を過大評価している危険性がある.その後,旧経済企 画庁の社会資本ストックデータに減価償却が導入され, 過大評価の問題はある程度緩和されている.このほかの データセットでは,いずれも社会資本ストックの減価償 却を考慮している.例えば,土居のデータセットでは, 社会資本ストックの除却スケジュールとしてワイブル 分布を仮定している.土居が仮定したように,現実の除 却スケジュールにおける残存価値分布がワイブル分布 に従っている保証はないが,少なくとも旧経済企画庁 データのような社会資本ストックの過大評価の問題を 回避できている可能性がある.年次別データの整備が 充実していることもあり,本研究では土居が公開して いるデータベース58)に基づいて地域生産関数を推計す ることとした.土居によるデータベースでは,1987 年 の旧3公社民営化以降,3公社分の社会資本ストックが 民間資本ストックに加算されるために生じた統計の断 絶を考慮して,民営化前後のデータを整合的に統合し ている.さらに,1970 年以前の社会資本ストックデー タについても,国富調査をベースに減価償却を考慮し ている.同時に,1975∼1993 年度は県民経済計算年報, それ以前は長期遡及推計県民経済計算報告に基づいて 県民総生産を求めている.労働力に関しては,県民経済 計算報告に基づいて算定している.1974 年以前は,就 業構造基本調査,国勢調査に基づいて補正計算をして いる.民間資本ストックは長期遡及推計県民経済報告 に記載の「総固定資本形成−民間企業設備」を民間企 業資本ストックの取り付けベースの純除却率で補正し て積み上げ,都道府県按分値を求めている.なお,これ らのデータは,1990 暦年価格で表示されている.本研 究では,沖縄を除く 46 都道府県について,1955∼1998 年の 44 時点のデータセットを用いる. 長期記憶性を考慮した地域生産関数を推計する上で, 空間重み付け行列 W は社会資本ストックのスピルオー バー効果を表現する役割を果たす.塚井ら2)は,代替的 な空間重み付け行列を用いて地域生産関数を推計し,社 会資本ストックのスピルオーバー効果の計測を試みて いる.その結果,時間距離等を用いた空間近接行列を用 いると確率誤差項との相関が発生し,地域生産関数の 推計精度が低下することを指摘している.さらに,多 地域時系列データを用いる場合,時間距離と確率誤差 項との間に,系列相関の問題が発生する可能性がある. 一方,空間的距離を用いて定義した空間的近接行列は 時間を通じて一定であり,系列的相関の問題を回避で きる.以上の理由により,本研究では,空間近接行列 を空間的距離を用いて定義することとした.なお,空 間近接行列は,各行 i がすべてjWij = 1 を満たす ように基準化する W-coding 法を用いるのが一般的で あるが,W-coding 法では空間の端に位置する地域 i′他地域 j ̸= i′全体との近接度も,空間の中央に位置す る地域 i′′の他地域 j ̸= i′′全体との近接度も同様に評 価することになり,都道府県の地理的位置に基づく異 質分散性の問題が生じる2).そこで,以下の分析では, Tiefelsdorf による S-coding59) Wij = RR i=1    ∑R j=1Wij √∑R k=1W 2 ik    Wij √∑R j=1W 2 ij (47) を用いることとした.なお,S-coding では,∑jWij = 1 の条件は満たされない. (2)推計結果 ARFIMAX モデル式 (33) を推計するために,打ち 切り次数 m を決定しなければならない.打ち切り次数 m を 1∼20 の範囲で設定し,それぞれの m に対して ARFIMAX モデルを推計した結果,m = 10 の場合に パラメータの収束条件を満足し,かつ推計精度が最も 良好な結果を得た.また,AR ラグ多項式と MA ラグ 多項式を共に含むモデルは符号条件を満足しなかった. MA ラグ多項式のみを含むモデルは,そのラグ次数 q を 変化させて推計を繰り返した結果,ラグ次数を1次に 設定した(q = 1)の場合にのみ,符号条件を満足する 推計結果が得られた.以下の実証分析では,MA ラグ 多項式を 1− ψL と設定した場合の結果を示す. 修正 CSS 法の前提条件 (a) を満足させるために,打 ち切り次数 m = 10 に対応する年度における観測値をす べて外生変数として取り扱うことが必要となる.そこ で観測データの中で,最初の 10ヶ年のデータを外生変 数としたため,推計に用いたデータ数は,1965∼1998 年にわたる合計 1568 サンプル(34 時点× 46 都道府県) である.なお,既往研究が指摘するように,確定的トレ ンドの設定が構造パラメータや実数和分パラメータの 推計精度に影響を及ぼすことが知られている.推計対象 期間(1965∼1998 年)に対して,一様の確定的トレン ドを設定することには問題がある.そこで,対象期間を 1)1973 年の第 2 次石油ショックまでの高度経済成長期 (1965∼1973 年),2)1992 年のバブル経済崩壊までの 期間(1974∼1990 年),3)バブル崩壊後の期間(1991 ∼1998 年)までの3つの期間に分類し,それぞれの期間 に対して異なる確定トレンドのパラメータを設定した. これら3つの期間のトレンドパラメータを α1 1, α21, α13と 表そう.地域生産関数の確定トレンドは,全要素生産性 または技術進歩の成長率を表現していると解釈できる. 以上のデータを用いて推計した結果を表−1に示して いる.同表において,左側2列は ARFIMAX モデルと 土木学会論文集D

(12)

表−1 地域生産関数の推計結果 変数(記号) 長期記憶モデル 短期記憶モデル 長期記憶モデル2 推計値 χ2 推計値 χ2 推計値 χ2 労働力 (β1) 0.544∗∗ 24.90 0.488∗∗ 35.69 0.459∗∗ 62.69 民間資本ストック (1− β1) 0.456∗∗ 99.94 0.512∗∗ 138.45 0.541∗∗ 105.73 社会資本ストック (β2)      0.028∗∗ 13.36 0.149∗∗ 14.73 0.072∗∗ 10.73 社会資本空間スピルオーバー (β3) 0.020∗∗ 6.63 0.013 1.13 0.022∗∗ 8.04 社会資本実数和分 (dG) 0.310∗∗ 13.36 -   -  -   -  確率誤差項実数和分 (dε) 0.428∗∗ 57.24 -   -  0.487∗∗ 150.52 確率誤差項1次 MA(ψ) 0.752∗∗ 194.19 0.972∗∗ 370.25 0.734∗∗ 187.12 確定トレンド 1965-73(αt1) 0.077∗∗ 35.78 0.008 0.06 0.078∗∗ 48.64 確定トレンド 1974-91(αt2) 0.025∗∗ 9.57 -0.021 1.47 0.027∗∗ 15.30 確定トレンド 1992-98(αt3) -0.016∗∗ 23.90 -0.051∗∗ 78.86 -0.014∗∗ 38.10 定数項 (α0) -2.612∗∗ 13.73 -0.320 0.03 -2.516∗∗ 48.30 分散 0.032 -  0.034 -  0.033 -  サンプル数 1564 1564 1564 自由度調整済み決定係数 R2 0.999 0.998 0.993 REG 検定統計量(全地域) 1.716 3.935∗∗ 2.024 Durbin-Watson 比(全地域) 1.930 1.718∗∗ 1.924 注)式(36)より,社会資本実数和分パラメータは自由度2の複合パラメータβ2(1− L)−dG であるので,χ2 検定を用い る.**はχ2 検定の結果,有意水準 1%で,*5%の有意水準でパラメータが0である仮説を棄却できることを意味するχ2(1)α=0.05= 3.84, χ2(1)α=0.01= 6.63, χ2(2)α=0.05= 5.99, χ2(2)α=0.01= 9.21).長期記憶モデルの社会資本ストックのパ ラメータβ2と社会資本実数和分パラメータdGの尤度比検定の方法に関しては,それぞれ4.(4)に注記している. して定式化した地域生産関数モデル式 (34)(以下,長 期記憶モデルと呼ぶ)の推計結果を示している.ここ で,長期記憶性を表す2つの実数和分パラメータにつ いて,dε= dG= 0 とした ARIMAX(Auto-Regressive

Integrated Moving Averaged Model with eXogensous variables) モデル ARIMAX(0, 0, 1) を, Yt− β2Gt− Xtβ = (1− ψL)εt (48) と表そう.上記のモデルを短期記憶モデルと呼ぶ.さ らに,社会資本の生産性に関する長期記憶性の有無が, 推計残差の長期記憶成分に及ぼす影響を検定するため に dG = 0 とした ARFIMAX モデルを, Yt− β2Gt− Xtβ = (1− ψL)(1 − L)−dεε t (49) と定式化しよう.このモデルを,長期記憶モデル2と 呼ぶ.長期記憶モデル2は,確率誤差項のみに長期記 憶性が含まれることを仮定している.表−1の中央2 列には,短期記憶モデルの推計結果を,右2列には確 率誤差項の長期記憶性のみを考慮した長期記憶モデル 2の推計結果を併記している. ここで,長期記憶モデルと短期記憶モデルの推計結 果を比較しよう.自由度調整済み決定係数は,長期記 憶モデルの方が良好である.全地域にわたり集計した 推計残差に対する Durbin-Watson 比式 (43) の検定不 能域(サンプル数 1564,有意水準 1%,パラメータ数 11)は,ψ > 0 に対しては 1.868∼1.896,ψ < 0 に対 しては 2.104∼2.132 である49).すなわち,式 (43) に基 づいて算定した Durbin-Watson 比が 1.868 を下回る場 合は,ψ > 0,2.132 を上回る場合は,ψ < 0,1.896∼ 2.104 の場合は,ψ = 0 の各仮説が,それぞれ棄却で きない.表− 1 に示すように,推計残差から得られる Durbin-Watson 比は,長期記憶モデルでは 1.930 であ るので帰無仮説 ψ = 0 が棄却できないのに対して,短 期記憶モデルでは 1.718 であるので帰無仮説 ψ = 0 は 棄却できる.すなわち,ψ > 0 という仮説が支持され る.つぎに,各都道府県の推計残差の Durbin-Watson 比式 (42) は,1.576∼2.189 の範囲で分布している.サ ンプル数 37,有意水準 1%,パラメータ数 11 のとき, Durbin-Watson 比の検定不能域は ψ > 0 に対しては 0.610∼2.160,ψ < 0 に対しては 1.840∼3.390 である. 表−2に示すように,2都道府県において仮説 ψ > 0 が棄却されるが,残りの都道府県においては検定不能 である.図−2は各時点における標準化 Moran’s I を 示している.有意水準 5%の棄却域は|t| < 1.96 であり, 全時点の残差について有意な空間相関は見られない. 長期記憶モデルの労働力,民間資本ストック,社会資 本ストックの生産力のパラメータはいずれも有意であ る.短期記憶モデルと比較すると,労働力の推計値がや

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