を を こ 塗
‑ 須 藤 八 十 八 氏 の技 法 の分 析 と考 察 ‑
佐 藤 武 司*
緒 言
青森児の津軽地方で生産 され てい る漆器の模様は変 り塗技法 によるものが多い。 これ らの中に,なな こと 呼ばれ る模様がある。 この模様 をもつ器物をなな こ塗漆器 といい, この塗装には高度の技術が必要であると されてい る。
著者は,なな こ塗作品で多 くの受賞歴 をもつ須藤八十八氏のなな こ塗工程を分析的に観察記録 し,それ に 使用 され る菜種の大 きさ,種漆の粘度 を測定 し,輪紋 を形成す る輪状突起の形状 を確かめ, これ まで秘伝 と して受け継がれてきた個人のなな こ塗技法 を明 らかにす ることがで きた。
また,津軽地方で塗 られてい るなな こ塗 を分類 し, これ らの技法 について史的考察 を し,なな こ塗に関連 す る用語 にも触れ てみた。
測定項 目 ・測定方法
1
菜種 (青森1
号)の直径 昭和1 3
年か ら奨励品種 として,青森児内各地で栽培 され,なな こ塗 に も使 用 されていた菜種10 0
校 の直径 を,マ イクロメーターで測定 し,測定値の上下5%
を それぞれ 上限値,下限 値 とし,中央値 も求め表1
に した。表
1
なな こ塗 に使用され る菜種一 青森1
号の直径( mm)
2
輪状突起の形状 種漆 (素黒 目漆へ弁柄を混合 した ものを億円)の上へ上記青森1
号 を蒔 き,菜種の 球形 を中心に盛 り上 が った輪状突起 を顕微鏡 (マ イクロメーター)で測定 し,断面図に した。3
輪紋 仕上 げ研 ぎした塗膜面 に現れた輪紋10 0
個 を顕微鏡 (マ イクロメーター)で測定 した。4 種漆の粘度 なな こ塗の良否 を左右す る要素の‑つ とされてい る種漆の粘度 を,東京計器製 ビスコニ ックE型粘度計で測定 しその値 を求めた。
5
漆風 呂内温 ・湿度の変化 須藤氏の作業場 と,そ こに施設 され ている塗膜乾燥用の漆風 呂の,温 ・湿 度 を,佐藤計量器製 自記温湿度計で記録 した。*
弘前 大学教育 学 部技術 科 教室考 察
1
菜 種諸政時代には燈用,食用 として自給 され てお り, また秘伝書の中で も 「自 しめ油」「志 らしめ油」 として 使用され てい るがその品種は明 らかでない。
しか し,大正
2
年頃か ら同14
年頃 までは青森県上北地方の在来種 を奨励品種にし,大正15
年か ら昭和13
年 まで,農商務省が ドイツか ら明治19
年に輸入 した‑ ソブルグ種が栽培 され,昭和13
年か ら昭和49年 まではノ、ンブルグ種 よ り分離 した青森
1
号 を奨励品種 としてい る。青森
1
号は子実が大粒 で油分含量が多いので,第二次大戦後 に塗 られたなな こ塗 の輪紋が大 きく見え,古 作漆器の輪紋が小 さく見 えた。 このため,古作 なな こ塗 には,粟粒 が使用 されていた と考え られた こともあるが,菜種が使用 された ものであることは明白である。
昭和50年か らは,東北67号がなな こ塗 の輪紋 として津軽塗の歴史に残 ることになる0
2
種蒔用菜種の選別 円形の輪紋が美的表現 に望 ましい と考え られ てお り, このため球形の菜種を選別 す る必要がある。約50
×6 0c
nlの平坦な板 の片側 に敷 きつめるように置 き,それ を菜種を置いた側 を高 く,反対側 を低 くし, 傾斜 させた板 に振動 を与え る。傾斜 と振動 によって,球形の菜種は不整形のものよ りも速 く斜面 を転が り落 ち,敷かれた風 呂敷 に入 る。選別 された球形菜種を節にかけて,更に径 を揃 える場合 もある。輪紋の大 きさが不揃いである方が変化 に富んで好 ましい と考 えた場合 には,鮪 にかけることは しない。
表
1
のよ うに,選別 された菜種の直径は, 1. 8
JEJlか ら2
.4bはぐらいまであ り,2. 1h t
blぐらいのものが 多 い。3
種漆 種漆は素黒 目漆 と顔料 を混合 し,溶剤 として灯油を用い粘度 を調整す る。輪状突起が高 く盛 り上 が り丈夫であるためには,漆液の晶質,頚料 との混合比,粘度,放置時間,漆風 呂 内での乾燥法な どが重要 となる。
表
2
素黒 目漆 と蕗料の重量混合比須藤八十八氏の場合
種 漆
漆 '.産 科
上 げ 漆 漆 :頚 料
呼
び
色 顔料
名黒
l
油煙,松煙( C
203) n or( CO) n l 1 0:0・ 25‑03い o: o・ 8
赤 硫化水銀HgS
カ ドミウム赤 CdS・n Cd
S e 1 0:2. 5 . ‑3 1 1 0: 1 0: 8 2
≡l三
日 紺青K
Fe H Fe
e.(C
N)6〕 紺青 +酸化 チタニウム1 0:1. ‑2 1 0: 8
黄l
石黄A S2 03
l 〟1
10:8. ‑1 0
み ど り 紺青+石黄クローム緑
10
: 8 1 0:6ノ ‑7
莱 弁柄Fe
203弁柄+油煙
10: 6
1 0: 1 0
桧 肌
l
赤色顔料+石黄 l 〝 l1 0: 1 0
う ぐ い す l 紺青+石黄 +油煙 l 〝 l
1 0: 8
自l
酸化チタニウム, リ トポ ン l ′′1 1 0: 1 2
種漆 には国内産初辺漆液が最良 とされてい るが,表
2
のように素黒 目漆10に対 し2. 5‑ 3
の重 量 割合 で産 科を入れ種漆 を作 る。粘度は1
3, 95×
102セ ンチポアズである。 この粘度は計器類 に依 らず,定盤上 での色漆の動 きと練 り合 わ せ を してい るへ らに感 じられ る抵抗感によって適格に判断 され ている。4
輪状突起 菜種 を中心にその周辺の種漆が0.1 7‑0. 25
杭htの高 さに盛 り上が り,直径約1.5J
Hの月 面 の クレーターのような形状 を呈 してい る。 この形状 を図 1.写真1・2とした。
菜種の球径 の大小 と高 さとの関 係は表
3のよ うに今 回の測定値か
らは得 られなか った。
この突起 を研 ぎ出す ことによっ て生ず る輪紋は,頂部 よ り
0. 1 2
hEnL ぐらい研磨 され るまでは,輪の幅 が狭い ものか ら直線的に広 くな り0. 1 7
枕nlぐらいにな る。更 に研磨 した場合 には輪の幅は 曲線的に広 くな る。
写真
2か ら分るように,突起内
側は皿のような曲面にな り,菜種 の殻 に完全 に密着す るような球面 にはな っていない。 また,内側 の 底部表面は滑 らかにな っ て い る が,外側 の地は粗面である。種漆 に混入 された頚料が,塗膜乾燥 ま での間に沈下 し,細かい粒 子の成 分の多い漆が移動 して盛 り上が る ので,輪紋 の色彩に違いが生 じて い ることが写真3
で分る。5 漆風 呂の温 ・湿度 昭和48 年
9
月か ら10月にかけての記録 の 一部が図2である。
同時に作業場 の温 ・湿度 をも記 録 した ものが図
3
であ る。室内の 湿度 と漆風 呂内温度 を 比 較 す る と,一 日の最高,最低湿度は漆風 呂のそれ よ り士3ccぐらい変化が 大 き く,漆風 呂の内部が15‑20c c
ぐらいで安定 してい る。
湿度に関 してみ ると,漆風 呂内 の湿度は90%ぐらいで安定 してい るが,室内の湿度は70′
‑80%
と変 化 してい る。漆風 呂の扉 を開 くと,瞬間的 に
主 十
直 1,i17nn
図
1
輪 状 突 起 断 面写真
1
菜種 ・種皮 ・輪状突起写真2 輪 状 突 起
表
3
輪状突起の直径 と高 さ荏
1
.3
0 1 1.401 1. 50
0.17 1 0.25
1 0. 1 9
表4 なな こ塗 輪紋直径 (外径)
( mm)
最 大 値 l 上 限 値 J中 央 値 l 下 限 値 l 最 小 値1. 86 1 1. 63 1 1. 50 1 1. 30 1 1. 20
‑
. .f . 4 ..
.巨 コ 【 ‑. 彊 . .
写真3 仕上げ研 ぎされた輪紋
F L I ∫l P l J ー I l l J l r l f F l ■ ■ I 一 一 l r . ∫ l r l l l 一
十= 巨 ト + l 」 l 」 f ∩ ヽ I f l r 「 l r 】 l l ≠ l F I f ー 1 】 I ∫ r l l ) ー J T 一 ) l J l
I l t
丁
‑ 一
m 二I=
一 一 一
‑‑‑‑‑‑‑‑5‑ ‑‑ ‑‑‑‑‑ i FjE
E
‑‑ ‑J ‑.‑j iil 十 / .̲fi i
二二二仁二手 =≠ =±≠=H..J =∃=ゴh'̲二二白日R≠=≠二二才二二⇒ ± ≠二二トー.‑「トーl ・E lt聖 空 ∃∃;∃ ≡ 書巨 巨 巨 ti〒≡≡̲一撃葺葉 書∃≡士 十一 一一十 一十 ̀ 一一
一一 ‑
‑‑+ 一 一 ‑
一一1‑+ ..l転 巨=巨∃==≠ここ土 二 i+ ̲二二仁=̲
+
+ ̲̲1二二 ≠ = ヰ
=輯=
6
時1 8
時6
時1 8
時 図2
漆風 呂内の温 ・湿度S4 8.9. l l ‑1 2
lTl
lI■‑‑
‑ J
b j ‑ ■‑■‑‑ J‑雷‑J E J d J
' '
, I
. ,I .' ,I‑十十「」 トー十十」‑⊥ J十 ‑
‑‑.‑遍 冨j
E
冨罫51嗣 冨i冨‑ 冨嗣冨■■■ ■一■ ‑‑罰躍弓 i
‑ J】
一一十一トl T 、 」 ■ ′
∫l l
壬≡壬≡壬∃≡∃
≡
=≠1∈ ∈控 室
一 一 一
妻 妾章 ‑:# =窒 要
撃 圭 ≠∃ ∃一 一
∃ ∃ 葺∃ ∃ 葦≡喜孝
聖 墨 壷
墓室墓 室 ̲̲̲̲̲‑ ≡ 巨「 「
̲」̲ ≡壬 毒
筆 警
備6
時1 8
時 6時図
3
作業場 の温 ・湿度S4 8.9. l l ‑1 2
表
5
種漆 と上 げ漆 の配色 関係 種 漆 の 色 l 上 げ 漆 の 色里
赤 (弁 柄 が よ い)
朱
粟 皮
絵
肌
二王三 円
萌 黄
里
束
桧
肌
青 l 里
特 に 濃 い 青
黄
絵
肌
栗 栄
室内 の湿度 まで下 が るが,再 び上 昇 し安定す る。
湿度計 の記録 か ら,須藤氏 の製 作 の リズムを読 み取 る ことが出来 た。漆風 呂へ入れ た漆器 の乾 燥状 態 の観察 と乾燥 条件 を同 じにす る ための作業‑ 手前 と奥 との入れ 換 えや上段 と下段 との置 き 換 え
‑ を就寝前 に行 な って い る こ と,朝 に起 きると漆風 呂を見 る こ とな どであ る。
なな こ塗 の呼称
1. 呼 称 なな こ
(1) 呼称 彫金技法 に斜子打, なな こ
魚 々子打 と書 き,刃先 が輪状 にな った聖 で金属面 を打 ち,粟状 の粒 を密 に敷 いた よ うに見せ る技法 が
あ る。
この技法 は中国唐代 の金属器 に も見 られ, わが国で も奈 良時代 に す でに打 たれ ていた。一般 に地紋 として打 たれ紋様 を浮 き立 たせ , 打 たれ た面が魚卵 に似 てい るとこ ろか らそ の呼称 が起 こってい る。
また,平織 の変化組織 に もなな こと呼び,斜子,七子,魚子, 並子 と書 く織 物技法 が あ る。
なな こ塗 も七 々子,魚子 な どと書 かれ て きたが, この呼 称は視覚 的 に金工技法 の魚 々子打 され た金属面 に 似 て お り,更 に紋様 を浮 き立 たせ た り,器物 に軟 かい雰 囲気 を も たせ る効 果 も金工技法 の方 に近 く,織 物技法 との関連 か ら 出た とは思 えない。
写真
2を見 ると, 「なな こ塗 」 の呼称は金工技法 と関連
の深 い ことを示 してい る。単 に 「なな こ」 とい う場合 は,輪紋 を意味 してい る場合 が多い。
「なな こ塗 」 とい う場合 は,菜種 を蒔 い て輪状突起 をつ く り,上 げ漆 を塗 り,研 ぎ出 して輪紋 を出す技法 を意味 す
る。
また作 品の色彩 を主体 に してい う場合 ,種漆 の色 と上 げ 漆 の色 を もって表現 してい る。表
5
に須藤 氏が好 んで用 いる配色関係 を示 したが, これ を例にとると 「黒種の朱上 げ」「赤種の黒上 げ」「育種の黒上 げ」な どとい う ものである。 これは無地なな こ塗 とか模様入 りなな こ塗の地色 を意味す る場合が多いO
更 になな こ塗 された作品全体 をい う場合 には次の項 のように分類 で きる。
(2)なな こ塗の分類 なな こ塗漆器 を分類 してみ ると次のようになる。
なな こ塗‑ 無地なな こ塗 なななな ここ 塗塗塗
1) 菜種による輪紋があ り,輪紋 と地の二色で仕上げ られた漆器 を無地なな こ塗 とい う。
2)
輪紋 と地 の中に,色漆や粉類 による模様や絵が入 っている漆器 を模様入 りなな こ塗 といい,模様の紗 綾形 ・唐草な どがある程度固定化 した ものが錦塗 である。ィ.錦塗は種漆を朱 と黄 の二色 に分けて塗 り,種蒔 き,種剥 ぎ後 の突起のある塗膜面 に,黒漆で紗 綾 形 を 描 き,その上 に緑漆で唐草 を描 き,朱漆 を塗 り, この上 に本来 と銀粉 を混ぜた粉末 を蒔 き,研 ぎ出 して艶付 け した ものである。
ロ.模様なな こ塗は,錦塗のよ うに技法が固定化 しない 自由な模様 を措いた ものをい うO これは模様 を描 く 時期によって二種類 に分け られ る。一つは模様を描 き,その上 に種漆 を塗 り,菜種を蒔 く技法であ り,他は 菜種 を蒔いて突起 をつ くり,その上 に模様を描 くものである。
ノ、.蒔絵なな こ塗は色漆で 自由に絵を描 き,その上 に種漆 を塗 り,菜種を蒔いて輪状突起 をつ くり,上げ漆 を塗 った後 に研 ぎ出 し,艶 を付 けるもの と,輪状突起のある面 に漆絵を描 き,上げ漆を塗 ってか ら研 ぎ出 し て艶付 けす るものの二種類がある。
漆器 に小形 の模様や絵を描 く場合は模様の上 に菜種を蒔 き,大型の漆器に大 きな絵を措 く場合は,種蒔 き された輪状突起のある塗膜面 に絵 を措 く。
2.技法の史的考察
津軽地方で生産 されてきた漆器 の技法 の主体は変 り塗技法であるが,元禄十七 甲申年
( 1 7 0 4
年)正 月の御 国 日記 に 「外黒塗内朱鶴亀松竹」の椀 「内外共朱」の盃な どのよ うに,黒塗や朱塗 の技法が主体 を しめていた 。
正徳四甲午年
( 1 71 4
年)に 「貫 に うぬ り丸御たば こ入」「下始 りぬ り丸御 たば こ入」「ひ ら作 ぬ り丸御た ば こ入」「黒ぬ り丸たば こ入」な どと御国 日記 に書かれ,変 り塗技法が津軽地方に伝播 してきた こ と が 窺 える。正徳五乙未年 (
1 71 5
年) 「黒塗蒔絵銀か こ蓋御香炉」「同塗 (黒塗)蒔絵元角御香盆」「唐塗」な どが書 かれ,変 り塗技法,蒔絵技法な ど多 くの技法が漆器製作に用い られ るよ うにな った ことが窺 える。 この こと は次の年,正徳元丙申年 (1 71 6
年)7
月の御国 日記 に 「くわん入塗」「霜降塗」「古手塗」「色蒔絵」「利 休唐塗」「梅かえ塗」「色紙塗」「紋虫喰塗」「黒塗」な ど多彩な紋様が考案 されてい る。塗技法 の呼称は,開発段階や創作 された段階では,命名 されていない ことが普通である。
1 71 5 ‑6
年頃に多彩な漆器が見 られ るが, これ らの技法は1 7 0 4
年江戸の青海方か ら帰 国 した池田 源 兵 衛 が,帰 国 と同時に創作 を試み,技法が安定 し,命名 された と考 えることがで きる。なな こ塗は天保 四莫巳年
( 1 8 3 3
年)の塗物伝書や弘化三丙午年( 1 8 4 6
年)の塗物秘伝書 には記 されていな い。 しか し嘉永元戊申年( 1 8 4 8
年)に塗 られた重箱 の蓋 の模様入 りなな こ塗は技術的に優れ,現在 のなな こ 塗 と比較 してみても優劣をつけられない。 この技法はすでに安定 した技法 として活用 され ていた と考えるこ とがで き, この技法 の開発は更 に時代が古い もの と考 える。津軽地方 にお ける変 り塗技法 の創案者であ る青海派 に属 し,今 日にその技 を伝 え た 成 田伊太郎
( 1 8 2 8 ‑ 1 8 8 9 )
とその弟子達 もなな こ塗漆器 を製作 してお り,彼 の弟子達 によって明治時代 に命名 された と 考 え ら れ る。これ らのなな こ塗 には模様が入 ってい るが,第二次大戦後か ら無地 なな こ塗が行なわれ るよ うにな り,今 日のよ うに多種多様 のなな こ塗漆器 を製作 す るよ うにな った。
3.
特 別 な 用 語ふ くベ
1
敏 輪紋が2
箇接触 し,恰 も植 物の夕顔 や瓢箪 のよ うな形 を形成す ることがあ る。諸 条件が整 わな い時 に多数生ず るので,作品の良否 の判断材料 の一つにあげ られ てい る。2
な じぎが出 る 額 を津軽 弁で 「な じぎ」 とい う。 これは輪紋 と輪紋 の空 自部 分に,見 えるべ き色が 見えず,擦 り切れた よ うな感 じで他 の色が顔 を出 した とい う意味 の言葉 であ る。 しか し業者 の問では,技術 的 に劣 った作品に見 られ る欠点 とい う意味 で使われ てい る。蒔絵なな こ塗工 程分析
津軽地方で漆器 の素地 に使 われ る材料の種類 は多い。 しか し彼が好 んで用い る素地材料は木材 や木質材料 である。 これ らに適 した下地法 として,漆下地 を行な ってい る。
下地調整 を終 え,下塗 し, 中塗 を した上 になな こ塗は行なわれ る。
今 回は, なな こ塗紋様部 分につい ての工程分析 を主眼 に したので,漆塗技法 に共通 した下地調整や艶付 け 工程 を別 に取 り上 げる ことに し,中塗工程か ら,輪紋 を出す仕上 げ研 ぎ工 程 までを書いた。
1. 中 塗 工 程
(1) 中塗 素黒 目漆 と油煙 を練 り合せ る。溶剤 と して灯油 を使用す る。普段 使用 してい る漆刷毛 を使用す る。塗 った後乾燥風 呂へ入れ る。乾燥 に要す る時間は夏 季,朝8 :00‑ 2 :00頃まで,約6時間。冬季間, 朝 に風 呂へ入れ ると次 の 口のその時間頃 まで約24時 間。乾燥 したか どうかの判断は塗膜 の色 と艶の失せ具合 によってす る。
( 2 )
中塗研 ぎ 中塗研 ぎは,大清水砥 の中で も比較的硬度 の大 きい多少青味 をおびた砥石 で,刷毛 目が と れ平坦 にな るまで水研 ぎ し,木綿布で研 ぎ水 を拭 き,砥石 を名倉砥 で平坦 に調整 し,注意深 く観察 しなが ら 水研 ぎす る。水研 ぎ後,乾 いた木綿布で水 分を拭 き取 り,そのまま放置 して乾燥 させ る。2.なな こ 塗 工 程
( 1 )
下絵か き 構想を具体化す るために,石黄 の粉 を水 で溶 き,細 い筆で下絵 を描 く。 この下絵は水彩 え の ぐで絵 を描 いてい るの と同 じよ うな感 じです ぐ乾燥す る。乾燥後す ぐ次の漆絵描 きの工程に入 る。(2)漆絵描 き 精魂 こめて漆絵 を描 き,か き終 るとす ぐ,乾燥風 呂へ入れ,夏季は約24時間,冬季は24‑
48時間 ぐらいで乾燥 させ る。乾燥 した漆絵の表面 に,特 に凹凸が多 くあると思 われ る場合 には, 大清水砥で 力 を加 わえない よ うに注意 しなが ら,軽 く水研 ぎし, その面 の水分 を木綿 在で拭 き取 るC
(3)種 漆 素黒 目漆 を灯油で溶 く。漆 と顔料 の混入量は10:2.5‑ 3である。粘度 の適否の判断は定 盤 の
上 で種漆 を練 り合 わせ, この ときの色漆 の動 きと‑ ラか ら感 じられ る抵抗感 によってす る。
(4)種漆潰 し としが ら 1枚,吉野紙 2枚 を重ね て 3枚に し,その紙 の両瑞 をね じり,箱舟状 の 形 に し て,定盤 の上へ置 き,その中へ種漆 を入れ,渉み出てきた爽雑物の入 っていない種漆 を使用す る。
(5)種漆塗 り 潰 された種漆 を漆刷毛 で塗 る。濡れ塗膜 の厚 さは光 の反射光 によって現 われ るは け 目か ら 判断す るO濡れ塗膜 が厚い場合 には,菜種表面へ隆起す るクt/一夕ー状 の輪形が高 く,反対 に薄い場合 には 輪形が低いO
結果 として同種 の菜種 を使用 した と しても高い輪形か らは直径 の大 きい輪紋 が生 まれ, 低い輪形か らは高 い輪形 に比較 して,径 の小 さい輪紋 が生ず る。
風 呂敷 を敷いた場所へ移動 し,風 呂敷 の上 で次の工程 を行な う。
(6)種蒔 き 種漆 を塗 り終 えると直 ちに,その濡れ塗膜面へ菜種 を蒔 く。
1)
濡れ塗膜面が広い平面 の場合 ・‑‑面 を傾斜 させ,その傾斜面へ水 をす くうよ うな形 に した両手 のひ ら とか椀形容器 に入れ,落 ちた菜種がバ ウン ドしない程度 の高さ (10‑20C仇)か ら菜種 を山状 にな るよ うに蒔 く。振動 を与 えて この菜種の山を除 々に くず し,菜種 を広 く敷 きつめ る。最初 に蒔 いた菜種が まだ積 み重 さな ってい る状態 の時 に,第
2の山を,最初 の山を築いた よ りも下 方に,
敷 きつめ られた菜種 の上 に築 き, また振動 を与えて, これ を くず し,第3
の山をその下方 に築 き, これ もま た振動 によって くずす といった行動 を くり返す ことによって濡れ塗膜全面へ菜種 を付着 させ る。2)
せ ま く, また細長 い平面 の場合 ‑‑水 をす くうよ うして,菜種 を両手 にす くい,濡れ塗膜面へ両手の 開 きを加減 して菜種 の蒔 き量 を調節 し,全面へ菜種 を付着 させ る。3)
立面へ菜種 を蒔 く場合 ‑‑‑器物が大 きくて容易 に動 かせ ない場合 には,菜種 を手 に握 り持 ち,立 面へ 軽 く投 げつ けるよ うに して付着 させ る。4)
曲面へ菜種 を蒔 く場合 ‑‑・(イ) 凸面 の場合 には菜種 を蒔 き付 けよ うとす る場所 が頂 にな るよ うに上 に し,その上‑両手か椀形 の容器 に入れ て蒔 く。回 凹面 の場合 には,その曲面へ菜種 を入れ, しば らくしてか ら器 を傾 け,余 分な菜種 を除 く。
( 7 )
放置 種蒔 きを終 え,器 物表面 に菜種が付 着 した状態 で室内に放置 してお く。放置時 間は夏季で1
時 間位,冬季 で30分位 であ る。 この放置時間は輪状 突起 とその周辺 の地 との高低関係 に影響 を与え る極 めて重 要 な工程である。 この放置時 間を設 けないまま,乾燥風 呂へ入れ ると,菜種 を中心 として漆液が盛上が って 出来 る輪状突起が充分高 くな らない うちに,輪状突起 と輪状突起構成 のために周辺 の地漆液が移動せず,描 状突起 と地 との高低差が大 き くな らず,仕上 げ られ た作 品の地 に輪紋 と同色 の研磨跡 を残 し,良い物 とはい い難い。 この研磨跡 を 「な じぎが出 る」 と表現 してい る。放置時間が長過 ぎると輪状突起が高 くな り,地 の 種漆が薄 くな り過 ぎることもあ る。悪い晶質 の漆液 を使用 した種漆は種蒔後 の放置時間を長 くし,乾燥 を緩慢 に行な って も輪状突起が高 くな らず, このよ うな漆液 を使用す る場合, 日本産 の良質漆 を約30%混入す るO
( 8 )
種漆 の乾燥 乾燥風 呂へ入れ られた器物の種漆 の乾燥 には緩速 の差があ るO夏 季は1
日,冬 季 には2
日漆風 呂へ入れ てお くが,乾燥速度は出入 口屍 の方向よ り,他の三方壁面 の方が湿度が高 く速い。 この こと は壁面側 にあ る種蒔 きされた塗面 の輪状突起 の盛上 が りが屍面 よ り早 く停止す ることにな り,突起 に高 低を 生ず る原因 とな るので,時 々器物 を回転 させ,全体が同 じよ うな速度 で乾燥す るよ うな配慮が必要であ る。(9)種剥 ぎ 種漆の上 に蒔かれた菜種 を剥 ぎ取 る作業 を種利 きとい うO漆 を扱 き塗 りす る時 に使用す る‑
ラを右手 に持 ち,塗面 に対 し10
‑1 5
度 に傾 け,左 よ り右方向‑,‑ ラ先全体へ同 じよ うな力が配分 され るように注意 しなが ら移動 させ る。‑ ラ先端中央部‑カを加 えてい るとい う気持 ちで移動 させ るのが こつである。
‑ ラ先の一端‑カが集中す ると輪状突起 を次 々と線状 に欠 き欠点 とな る。種 を剥 ぎ取 る時は,先ず,蒔かれ た種の端 にな る部分を取 り,その場所 を起点 として全体へ剥 ぎ取 り作業 を進めて行 く。凹曲面の器物の種剥
ぎにはその曲面 に合 わせた‑ ラを作 り使用す る。
uo? 殻取 り 種漆に密着 した菜種 を剥 ぎ取 る際,‑ ラによって球形の種子が破壊 され,内部の仁 と密着 し ていない部分の種皮だけが取 られ,密着 していた部分の種皮が塗膜 に残 ることがある。 このよ うに して塗膜 面 に残 った種皮 を穀 といい, この種皮 を取 り去 る作業 を票取 りとい う.作業 の効率 を良 くす るためには殻 を 多 く残 さない よ うに配慮す る必要があ り,次の諸点 に留意 してい る。
先ず,新 しい菜種 を使用す る。一度使用 した ものは望 ま しくない。
次に,気候による種漆の乾燥具合 を適確 に捕 えることである。
冬季間はあま り問題 とな ることはないが,梅雨時 には種漆の乾燥 には部分的に差が生 じ,乾燥度の進んだ 場所 には穀が多 く残 り,乾燥が十分でない場所 には殻は残 らないが,軟かい輪状突起 を痛 めることもある。
輪状突起が痛 まない程度 に乾燥 した塗膜 を標準 にす ると, この場合,殻は全面積のyi程度 の部分に残 り, これ よ り乾燥度が遅れてい る場合殻は残 らず,乾燥が進んでい る場合 には%程度 の殻 を残す.殻取 りに要す る時間は 9平方尺で約 5時間である。
殻取 りには,切出 し小 刀 (茂森町,三国典三氏製作)の刃先 の先端 を使い,輪状突起 を痛めぬよ う細心の 注意 を払いなが ら一個ずつ取 り去 る。
( l l )
乾燥 票取 り後の乾燥は十二分に行 う方が良い.注文が多い夏季で も3日間は乾燥風 呂へ入 れ て お く。 自分のペースで作業 を進 めてい る場合 には4‑ 5
日,冬季 は5‑ 6
日間乾燥風 呂へ入れ る。u 2
) 種漆研 ぎ 種漆の輪状突起 を大清水砥や市販の赤砥で水研 ぎす る。砥粒が凹部 に入 ってい るので,負 の甲たわ しで水洗 し,その後,木綿布で水分を拭 き取 り, 自然乾燥 させ る。研磨の程度は,無地なな こ塗 に仕上 げよ うとす る場合 は突起の頂上部分を約0.
08n
tnt, この上 に漆絵 を描 こ うとす る場合 は0.1 ‑0. 1 2n t
nt程度削 り,筆の動 きをスムーズにす る。u3) 上 げ漆塗 完成品の色の感 じは上 げ漆の色彩 に左右 され る.種漆の色 との関係か らも工夫 してある。
素黒 目漆 と顔料の混合重量比は大体
1 0:8‑1 2
である。(14) 上 げ漆遣 り 上 げ漆に要求 され ることは,色 む らが出ない ことである.そのために漆液 と顔料 との混 合 には十分な時間をと り,練 り合 わせす る。朱色の上 げ漆 を塗 ろ うとす る場合 には,塗 ろ うとす る
4‑ 5
日 前 に上 げ漆 を遣 り,容器 (どんぶ り) に入れ,紙ぶたをしてお く。(15) 上 げ漆塗 り 漆刷毛で塗 り漆風 呂へ夏季は1日,冬季は2E]入れ る.
(16) 上 げ漆研 き 大活水石如 ゝ赤砥で水研 ぎす る. この工程 を普通荒研 ぎとい う. この時の塗膜 の乾燥度が 十分でない と認め られ ることもあ り,その場合 には漆風呂へ もう
1
日入れてお く。u7) 共漆塗 りとも 荒研 きによって平滑化された塗膜面 を注意深 く観察す ると凸凹部 と平坦部に近い部分があ る。凹凸部分を荒気 (あ らけ)の部分 と称 し, この凹部分には更に上 げ漆 を塗 り平滑化す る必要がある。 し か し前工程で使岡 した上 げ漆 をそのまま塗 ると,平担部は仕上が り色にな り,凹部であった部分は多少黒ず んだ色 とな り,仕上げた時に色むらを生ず る。
この色む らを防止 す るのが共漆塗 りである。共漆は上 げ漆へ素黒目漆を約
2
割差 し捺 してつ くる。共漆塗 りは漆刷毛 や‑ ラで扱 き塗 りす る。刷毛塗 りにす るか,‑ ラ扱 きにす るかの判断は塗膜表面 の凹凸 の程度 によってす る。
次 の仕上 げ研 ぎの工程で平面 にな ると考 え られ る場合 は‑ ラ扱 き し, も う一度共漆塗 りを必要 とす るので はないか と考 え られ る場合 には漆刷毛 で共漆 を塗 る。共漆塗 り後器物 を漆風 呂へ夏季 は半 日,冬季 は
1
日入 れ て置 く。姻 仕上 げ研 ぎ 比較的硬度 の大 きい大清水砥,す るが炭,場合 によってはろい ろ炭な どを赤砥 や名倉砥 を合せ砥 と して使用 し,水研 ぎす る。木綿布で研 ぎ汁 を拭 き取 りなが ら全体 を平滑にす るOその後室内に放 置 し,水分を乾燥 させ る。
以上 でなな こ塗特有 の輪紋が塗 られ た ことにな る。次か らの工程は鏡面仕上 げの津軽塗 に共通 した呂色塗 と呼ばれ てい る艶付 け工程であ る。
結 言
選別 された直径約
2. 1
ntnlの球形菜種 を, 種漆 を塗 った濡塗膜面 に蒔 き, 輪状突起 (直径約1. 5
ntnl,高 さ約0. 2 m m)
をつ くり,上 げ漆で凹面 を埋 めて研 ぎ出 し,輪紋 を形成 させ る技法 をなな こ塗 とい うOなな こ塗 された漆器 には,無地なな こ塗や これ に模様 を入れ て,錦塗,模様なな こ塗,蒔絵なな こ塗 と呼 ぶ ものな ど,その種類 は多い。 この技法は
,1 8 4 8
年頃,すでに完成 し, これ以 前に開発 され た と考 え られ る。先ず模様入 りなな こ塗が塗 られ,無地なな こ塗へ と発展 した
。1 7 0 4
年蒔絵製作法 を学び,江戸か ら帰蒲 した 池 田源兵 衛 (子供 の時 の名前 を源太郎 とい った)が,津軽在来 の髭漆法へ蒔絵製作法 を と り入れ,発展 させ た ことが この技法 か らも理解 で きる。なな こ塗 の創案者は, 自然界 や神霊的な ものを表現 しようとす るよ り,寧 ろ外見的美観 を追求 しよ うとす る目的か らこの技法 を試 みた と考え られ る。 (古なな こ塗 に見 られ る模様が,具 象的で も抽 象的で もない唐 草模様が多 く, これ らと幾何学的輪紋 を合致 させ てい ることによる。)
製作者は使用者の権威 を誇示す るための飾 り模 様に しよ うと考 えて製作 していた とい うよ りも,製作者 自 身が製作工程 の中で ,技術 の難 しさを克服す る楽 しさと,空 自を埋 め る楽 しさを味 わ っていた と考 え られ る。
この技法 による漆器 を見 る人 々は,種漆の色 と上 げ漆 の色の混色 によって,軟 かい雰 囲気 を感 じ,美 しさ を発見 し,技法 についての疑問 を起 こす。 これは 日本人のみな らず外 国人に も共通 してお り, なな こ塗の美 は世界 の人 々に理解 され るものであ る。
本研究 にあた り須藤八 十八氏か ら昭和
4 8
年9
月 よ り今 日まで懇切な御指導や御援助 をいただいた。 ここに 深 く感謝 の意 を表す る。著者 に髭漆法 を御指導下 さった児工業試験場主任研究員藤 田清正氏, また各種資料 を提供 して下 さった児 農業試験場畑作部長那須噴正 氏,東奥 日報社社会部長長谷誠一氏 と弘 前支社編集部長工藤英寿氏,揃 引元三 氏,柴 田正 雄氏,竹 内重夫氏,八木橋武実氏や本学塙順助教授, 中畑武 夫技官 の協 力を得 た。各氏に対 しこ
こで御礼 申 し上 げ る。
参 考 文 献
○
沢 口悟‑, 日本漆工 の研究,美術出版社,昭和41
年7
月1 0
日。○佐藤武 司他6名,津軽塗秘伝書,弘前大学教育学部技術科教室,昭和50年8月8日o O青森 県教育委員会,津軽塗,青森県教育委員会,昭和
51
年1
月1
4日。○青森 県農業試験場, 青森 県農業試駅場