構造分析からみた介護現場におけるモラール
(質問紙調査からみた長崎県特別養護老人ホームにおける現状)
内 田 延 佳 杉 原 敏 夫
Abstract
For the aim of understanding of the morale at care spots in the special nursing homes for elderly located in Nagasaki prefecture, the morale survey to staffs and managers is researched and the structural factors forming morale are extracted. The morale structure and the gaps be- tween staffs and managers are explained and the corresponding problems to the gaps are pointed out. Simultaneously, the effective fac- tors related with morale-forming at care spots can be evaluated and some aspects to improve the morale are pointed out. At the research of morale survey, eighteen homes in Nagasaki prefecture are selected and 516 samples (63.3%) are analyzed.
Keywords:Special nursing home for the elderly, Morale survey, Fac- tor analysis, Gap analysis between staffs and managers, Multi regres- sion analysis, Evaluation of structural factors to morale-forming 特別養護老人ホーム,モラールサーベイ,因子分析,職員と管理者間の 意識の乖離,重回帰分析,モラール形成への構造因子の評価
1.はじめに(介護現場の人的側面としてのモラール)
1.1. 職場環境とモラール
モラールは一般的には「士気」とか「やる気」という言葉で表されるが,
同じ「仕事そのものへの動機付け」を表す場合にも,個人での立場からのも
のがモチベーションという言葉で表されるのに対し,組織集団の立場からの 意欲,さらには,「集団と組織が合体された」ものへの意欲をモラールとい う言葉で表されるのが通常である。(梅沢,1988)
したがって,このような集団における精神的・心理的状態には仕事そのも のと並んで職場環境や様々な条件が関与する。例えば,報酬・手当,福利厚 生,地位・昇進,職場の雰囲気,組織の風土,上司との関係,管理・監督方 法,組織の方針や制度さらにはその組織が存立する地域社会など多様なもの が挙げられる。すなわち,モラールは組織そのものにおける「組織目的の達 成に向けての意欲」であるが,それは組織そのものが抱える職場環境の様々 な要因と深く関わっているものと考えられる。
モラールの測定はその組織目的の達成及び阻害要因の把握などのためには 関心の高いものであるが,モラールそのものを直接に測定することは出来ず,
通常は「モラールサーベイ」という組織構成員に対しての意識・態度調査を 通して行われる。
1.2. 介護現場におけるモラール
本稿が対象とする長崎県下の「特別養護老人ホーム」におけるモラールを 計測・把握する場合,介護業務をとりまく上記に挙げられるような様々な職 場環境要因を取り上げる必要がある。
介護業務そのものについては,基本的な業務分類区分として,「整容・身 体のケア」,「移動・動作」,「排泄」,「食事」,「入浴」,「対話・対応」,「物品・
環境」があり,その各々の区分に対して基本的なケア作業が位置づけられて いる。(全国社会福祉協議会,1993)
ケアは「基本」,「高齢者タイプ」,「特別」などの分類区分のもとにパッケー ジ化され,利用者は直接的にはそれらの利用区分に応じたサービスを享受す ることになるが,そのレベルや品質については職場における職員のモラール に依存するところが大きく,モラールの計測による現場の実態の把握とその
問題点の追求と改善を含めた今後の方向性の検討は施設の評価と今後の在り 方のための重要な課題と考えられる。
職場環境についてのモラールに及ぼす要因については,介護現場にかかわ らず職場に共通したものとして次のものがある。(例えば,高久・中小企業 基盤整備機構,2007)
・組織方針とその徹底及び遵守
・組織の運営と仕事の仕組み
・組織におけるコミュニケーション
・待遇と処遇
・組織構成員個人の意欲
ここでは,モラールの把握については,職場環境に基づく要因を取り上げ,
介護現場の職員に対してのアンケートによる実態調査を通じてその現状と構 造を明らかにすることを目標とする。
1.3.本研究の目的
本研究は長崎県下の特別養護老人ホームにおける介護現場の職員モラール を計測し,その構造分析を行うことによりモラールの主要側面を明確にする ことにある。その場合に管理者から見た意識水準と介護現場職員の意識水準 との乖離を明確にし,介護現場における双方の意識のミスマッチを明らかに することにより,施設運営の問題点の検出と今後の解決に向けての糸口を提 起しようとするものである。
研究の要素は次の通りである。
・モラールに対しての職員と管理者との意識の把握とその乖離の明確化
・職員へのアンケートデータの因子分析による因子の抽出及びその解釈
・職員と管理者との意識の乖離の大きい質問項目に関与する因子の摘出
・職員の因子得点を説明変量,職員による組織・職場の評価を目的変量 とする重回帰分析による組織・職場の評価へのモラール要因の影響度 の把握
2.モラールサーベイ
2.1. サーベイの方法
図表2‑1に本調査の概念を示す。
図表2‑1 本調査の目的と概念
管 理 者
①職員と管理者の意識の乖離
②職員のモラール構造区分による乖離の実態
③組織・職場評価へのモラール要因の寄与
職 員
モラール調査票
①については,同一の調査を職員と管理者の双方に行い,各々の項目につ いての双方の乖離を描き出そうとするものである。管理者の結果が職場モ ラールの一応の「期待水準」と仮定するならば,職員の結果はその「現状水 準」であるものと考えられ,双方の意識の乖離が明確になるとともに問題点 が浮かび上がることになる。
②については,職員のデータに対して因子分析を適用し,その因子構造を 求めることにより,職場のモラール構造を推定し,その解釈を試みる。また,
それらの各々のモラール要因において①の乖離項目を位置づけ,モラール要 因間での乖離の実態を明らかにしようとするものである。
③については,②の因子分析結果の因子得点を説明変量とし,同時に調査 された職員による組織・職場の評価得点を目的変量とした重回帰分析によ り,モラール要因の影響度を順位づけようとするものである。
2.2. サーベイの対象 (1) 職員と管理者
職員と管理者は次の区分によって分類される。
・職員:介護・看護職,厨房職,事務職,その他
・管理者:上記以外の管理的業務を行うもの(施設長を含む)
(2) 職員属性
職員は次の5つの属性によって区分する。
・性別:男/女
・年齢:20歳未満/20〜29歳/30〜39歳/40〜49歳/50〜59歳/60歳以上
・勤続年数:1年未満/1〜3年/4〜9年/10〜19年/20年以上
・職種:介護・看護/厨房/事務/その他
・雇用形態:正職員/パート/その他 (3) 施設特性について(地域と設立時期)
施設の地域と設立時期は次のように区分する。
・立地地域:都市部(長崎市,佐世保市)/県中央区(諫早市,大村市)
/西彼・北松地区/島原半島/離島地区(五島市)
・設立時期:昭和年代/平成元年〜12年3月(介護保険適用以前)
/平成12年4月以降(介護保険適用以降)
2.3. 調査票及び回収状況
調査表は職員/管理者モラールサーベイと同時に施設のサービス評価のた めに設計されているが,モラールサーベイの部分については,(独立行政法 人)中小企業基盤整備機構において実施されている従業員意識調査の調査票
(高久・中小企業基盤整備機構,2007)をもとに対象を介護現場として修正 を加えたものである。もともとの調査票は従業員の意識調査のために従業員 を対象として設計されたものであるが,本調査では管理者の意識をも見るた めに,管理者に対しての質問項目については管理者の視点に立った記述に置
き換えている。質問項目は30項目であり,そのうちの1つは職員が本人の属 する組織・職場に対しての総合的モラールの評価を表すものと考える。各項 目は「1」〜「5」までの5段階のリッカート指標により指標化され,質問 の内容のレベルに応じて得点が高くなるように設計されており,調査票記入 者により評点化される。その調査票の概念を付表1に示す。
回収実績の詳細を図表2‑2,2‑3に示す。送付先施設が20であったのに対し,
18施設からの回答があり,回収サンプルの総数は職員が485,管理者が31で あり,回収率は63.3%であった。なお,調査票の回収においては(特に,職 員の調査票の回収においては),施設で職制を通して回収するのではなく,
各個人ごとに返信用の封筒を配布し,施設の管理者と独立性が保たれるよう に心がけた。
図表2‑2 調査票の回収数(立地地域,設立時期)(回答施設数は18施設)
立 地 地 域 設 立 時 期
区 分 全 体 都市部 県 中央区
西彼・
北松地区 島原 半島
離島 地区
昭和 年代
平成01
〜12.3 平成12.
4以降
管理職 31 13 3 5 3 7 10 15 6
職 員 485 191 87 54 54 99 191 175 119
図表2‑3 調査票の回収数(職員の属性別)(回答施設数は18施設)
男/女 年 齢 別
区分 属性未記 入は除く
男 女 20才
未満
20才〜
29才
30才〜
39才
40才〜
49才
50才〜
59才 60才 以上
職員 93 378 6 97 110 128 109 18
年数別 職種別 雇用形態別
区分 1年 1〜
3年 4〜
9年 10〜
19年 20年 以上
介護 看護
厨 房 事 務 その 他
正職 員
パート その 他 職員 74 147 163 68 18 345 62 30 32 296 127 47
なお,本稿においては,2.1.の①〜③をテーマとするために,職員,管 理職とも施設の立地地域,設立時期,属性など区分化したサンプルにおい
て分析は行わず,全体サンプルにおいて検討を行う。施設の立地地域や設立 時期,職員の属性ごとの分析と検討については,ここでは言及しない。
3.職員と管理者の意識の乖離
3.1. 平均値及び平均値の差による傾向の把握
職員,管理者ともサンプル全体に亘っての各項目各々の集計値(平均値,
標準偏差)及び管理者と職員との平均値の差を付表2に示す。この図表から 次のことが判明する。
(1) 職員について
質問区分において,平均値が高位なものから順に挙げれば次のようになる。
「個人の意欲」 −−平均値 3.38
「組織運営・仕事の仕組み」−−平均値 3.36
「コミュニケーション」 −−平均値 3.15
「方針の徹底」 −−平均値 2.96
「処遇」 −−平均値 2.90
「個人の意欲」や「組織運営・仕事の仕組み」が比較的高得点を示し,職 員の仕事に対する意欲や組織運営については比較的高い評価を示している一 方で,平均値が3点を割ったものに「方針の徹底」と「処遇」があり,これ らについては,やや不満を感じているということが窺われる。
(2) 管理者について
職員の場合と同様に,質問区分において,平均値が高位なものから順に挙 げれば次のようになる。
「個人の意欲」 −−平均値 3.84
「組織運営・仕事の仕組み」−−平均値 3.63
「コミュニケーション」 −−平均値 3.51
「方針の徹底」 −−平均値 3.49
「処遇」 −−平均値 3.44
平均値から見た順位は職員の場合と同様であるが,各質問区分とも平均値 が3.44以上の高得点が挙がっており,特に「方針の徹底」や「処遇」におい て,職員の意識とはかなりの乖離があり,職場環境においては十分な配慮を 払っているという意識が窺われる。また,「個人の意欲」においては,平均 値が3.84であり,職員の3.38を0.5ポイントも上回る。管理者層においては かなり高いモチベーションが感じられる。
3.2. 意識の乖離とその実態
職員と管理職の意識の乖離を見るために,各項目について,平均値の差の 検定を行った。項目全体に亘っての差の状況を図表3‑1に示す。横軸の質問 項目番号は付表2の質問項目の通し番号(1〜30)であり,縦軸は各項目に ついての平均値の差と対応するt検定値を示している。ここで,「差」は付 表2において示したように各質問項目に対しての「管理職得点の平均値−職 員得点の平均値」を表し,t値は管理職,職員双方とも分散が未知という前
図表3‑1 管理者と職員間の意識の乖離
提の基に行ったt検定値である。
t検定値から見て乖離の度合いの大きいものから順に挙げれば図表3‑2の ようになる。
なお,t値の計算においては,各質問項目についての自由度を個々に計算し た結果,概ね40近辺に分布したので自由度は40として検定を行った。
図表3‑2 意識の乖離度の大きい項目
棄却有意水準0.1%以下 棄却有意水準0.1%〜0.5% 棄却有意水準0.5%〜1.0%
通し 番号
区分内
番号 t値 通し
番号
区分内
番号 t値 通し
番号
区分内
番号 t値
25 29 16 26 07 08 15
D4 E3 C3 D5 B3 B4 C2
6.49 6.11 4.84 4.14 3.69 3.67 3.43
14 04 22 30 03 27
C1 A4 D1 E4 A3 E1
3.33 3.26 2.94 2.83 2.72 2.71
06 B2 ‑2.46
乖離度の高い領域から見ていくと,棄却有意水準に応じて,次のような点 に問題が大きいことが判明する。
・「休暇の取得」,「職場の動向への関心」,「上司の配慮」,「福利厚生」,
「指示命令系統」,「職場のルールの説明」,「相談相手」
・「上司からの信頼感」,「職場改善への提案」,「給与と賞与」,「継続的な 働きがい」,「自分の仕事の達成感」,「仕事へのやりがい」
・「自らの職場規律への遵守」
(※ただし,
B
‑2の質問項目(通し番号06)については,職員の意識の 得点が管理職のそれを上回っており,このことは管理職の認識以上に職 員自らの意識が高いことを窺わせている。)棄却有意水準が0.5%以下の13個の質問項目をみてみると,質問項目区分が
・「方針の徹底」のものが2個
・「組織運営,仕事の仕組み」のものが2個
・「コミュニケーション」のものが3個
・「処遇」のものが3個
・「個人の意欲」のものが3個
であり,「コミュニケーション」,「処遇」,「個人の意欲」の3つの区分に対 して乖離度の大きな要素が多いことが分かる。特に,棄却の有意水準が0.1
%以下の領域における「休暇の取得」,「上司の配慮」,「福利厚生」,「相談相 手」から窺われる職員から見た介護現場の「仕事のきつさ」と「上司との信 頼関係」及び「指示命令系統」,「職場ルールの説明」,「職場動向への関心」
から見受けられるように,介護現場における双方の意識の相違が如実に浮か び上がっているものと考えられる。
4.因子分析によるモラール構造の把握
4.1. 職員のモラール構造とウエート
因子数は寄与率の落差の大きい番号までの8個とし,回転は標準バリマッ クス法を用いた。各因子の固有値,寄与率及びその累積値を図表4‑1に示す。
図表4‑1 各因子と固有値
バリマックス回転前 バリマックス回転後
番 号 固有値 寄与率 累積寄与率 番 号 二乗値 寄与率 累積寄与率 1
2 3 4 5 6 7 8
11.20 1.58 1.09 0.88 0.73 0.60 0.57 0.46
38.01 5.44 3.76 3.03 2.53 2.06 1.95 1.60
38.01 43.46 47.21 50.25 52.78 54.84 56.79 58.39
1 2 3 4 5 6 7 8
3.67 2.74 2.63 2.11 1.72 1.65 1.40 1.01
12.64 9.46 9.07 7.28 5.93 5.67 4.84 3.49
12.64 22.11 31.17 38.45 44.39 50.06 54.90 58.39
職員のデータ(有効サンプル443)の因子負荷量マップを図表4‑2に示す。
なお,質問項目E4は,職員の組織・職場に対する総合的なモラール項目 と考え,因子分析の対象として導入しなかった。この項目は③の分析により
図表4‑2 因子負荷量マップ
因子1 因子2 因子3 因子4 因子5 因子6 因子7 因子8
B8 0.6786 0.1986 0.1663 0.1042 0.1269 0.2660 0.0027 0.1126 B7 0.5551 0.1638 0.1894 0.1425 0.1517 0.0804 0.2133 ‑0.0344 C7 0.5460 0.2360 0.2149 0.1678 0.2611 0.1511 0.3141 ‑0.0071 B6 0.5439 0.1787 0.1449 0.2415 0.3686 0.0865 0.1823 0.0172 B5 0.5355 0.2857 0.1654 0.0913 0.3177 0.0629 0.2261 0.0977 C5 0.5306 0.1793 0.3850 0.3615 ‑0.0436 0.1038 0.0006 0.2560 C6 0.5289 0.1180 0.2364 0.2995 0.0407 0.1086 0.0222 0.0923 C8 0.4916 0.2045 0.2089 0.1402 0.2556 0.1172 0.2513 0.1632 E2 0.3864 0.3231 0.1948 0.0698 0.2279 0.3716 0.2899 0.1867 D2 0.1943 0.8153 0.2252 0.0889 0.1421 0.1815 0.0740 0.0456 D1 0.2065 0.7739 0.1198 0.0629 0.1031 0.0192 0.0445 0.0666 D3 0.1926 0.6507 0.1880 0.0968 0.0759 0.0876 0.1517 0.1750 D5 0.2121 0.4739 0.1548 ‑0.0499 0.0988 0.1554 0.2765 0.4683 C2 0.2229 0.2373 0.7392 0.1235 0.1606 0.0976 0.1182 0.1044 C4 0.3284 0.2119 0.6971 0.0568 0.2428 0.2488 0.1340 0.0694 C3 0.3395 0.2376 0.6757 0.1274 0.2465 0.1726 0.2287 0.0768 C1 0.2669 0.2007 0.4595 0.3742 0.2143 0.1763 0.0543 0.0707 A4 0.1461 0.1794 0.1875 0.6085 0.0642 0.1284 0.3047 0.0566 A3 0.1138 0.0177 0.0423 0.5904 0.1932 0.2342 0.2747 ‑0.0214 E3 0.2169 0.0812 0.0808 0.4546 0.0918 0.3801 0.2088 0.1390 B2 0.1846 ‑0.0160 0.0463 0.4323 0.2007 0.1037 ‑0.0690 0.0140 B3 0.3111 0.0883 0.2210 0.2778 0.5598 0.1387 0.0842 0.0792 B1 0.1848 0.2275 0.2744 0.2659 0.5572 0.0877 0.1151 0.0347 B4 0.4219 0.1886 0.3206 0.1939 0.5204 0.0367 0.1410 0.0299 E1 0.1693 0.1603 0.1984 0.2361 0.0374 0.7604 0.1714 0.0540 B9 0.1581 0.0840 0.1549 0.3444 0.1200 0.5642 ‑0.0418 0.0861 A2 0.2672 0.1299 0.1133 0.2443 0.1224 0.0037 0.5292 0.0639 A1 0.0659 0.0664 0.0761 0.0629 0.0383 0.0747 0.5130 ‑0.0339 D4 0.0725 0.1341 0.0794 0.0770 0.0358 0.0712 ‑0.0518 0.7226
組織・職場の評価要因として用いられる。
図表4‑2と質問項目表(付表1)から各因子については次のように解釈で きよう。
・因子1(F1):職員の勤務する職場における雰囲気
・因子2(F2):職員に対する評価・処遇及び福利厚生
・因子3(F3):上司との関わり,上司への信頼
・因子4(F4):職員自らの職場への働きかけ
・因子5(F5):職場の指示命令系統
・因子6(F6):仕事へのやりがいと適性
・因子7(F7):職場組織の経営方針とその徹底
・因子8(F8):休暇の取得
4.2. 因子構造から見た職員と管理者の意識の乖離
4.1.において解釈された因子において,職員と管理者との意識の差が顕著 なものを取り上げる。図表4‑3は,職員と管理者との得点の平均値の差にお いて有意な項目を因子と対応させて示したものである。
図表4‑3 職員と管理者の意識の差が有意な項目と因子の対応
因 子 有意水準項目
(0.001 <p<0.005)
有意水準項目 (p< 0.001)
F1:職場における雰囲気(9項目) なし なし
F2:評価・処遇と福利厚生(4項目) D1 D5
F3:上司との関わり,信頼(4項目) C1 C2,C3
F4:職場への働きかけ(4項目) A3,A4 E3
F5:職場の指示命令系統(3項目) なし B3,B4
F6:仕事のやりがいと適性(2項目) E1 なし
F7:組織の経営方針と徹底(2項目) なし なし
F8:休暇の取得(1項目) なし D4
表4‑3からF1,F7以外の6つの因子において,職員と管理職とのかな り明確な意識の乖離が見受けられる。これらについては次のような傾向が窺 われる。
・「職場における雰囲気」及び「組織の経営方針と徹底」には職員と管理 職の意識間に有意な差は認められない。
・「上司との関わり,信頼」については,それを構成する項目の75%にお いて有意な差が見受けられ,職員と管理者との意識には明確な乖離が あるものと考えられる。また,それほどではないが,「職場への働きか け」についても,同様な傾向が見受けられ,職員の職場に対しての働 きかけを同じような意識において管理者が受け止めていないことが窺 われる。
・「職場の指示命令系統」においても,これを構成する3項目のうち2つ が低い有意水準に該当し,双方の受け止め方の乖離を表している。こ の様子は「仕事のやりがいと適性」においても見受けられる。
・「休暇の取得」は単一項目が単一因子となり,しかもその項目について の平均値の差は棄却率が極めて低い有意水準に該当する。休暇の取得 は,職員においてはその平均値の低さからも考慮すれば,現状のきび しさを表した因子といえよう。
しかしながら,表4‑3については,基本的に職員と管理者間の意識の 相違をみたものであり,平均値そのものの評価とは異なるものである。
5.職員の総合的モラール意識に対しての各因子の影響度
5.1. 重回帰モデル
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dñAªÍÌÊÉ¢ÄCÚIÏÊÌeWCf®Ì¸xƪUª ÍÊð}\5-1ɦ·B
図表5‑1 重回帰式の諸要素
[重回帰式] 目的変数 E4
説明変数名 偏回帰係数 標準偏回帰
係数
P値 判定 T値 標準誤差
因子1 0.3102 0.2355 0.0000 [**] 6.8755 0.0451 因子2 0.3455 0.2794 0.0000 [**] 8.2660 0.0418 因子3 0.1424 0.1121 0.0010 [**] 3.3097 0.0430 因子4 0.2393 0.1760 0.0000 [**] 5.1562 0.0464 因子5 0.1968 0.1383 0.0001 [**] 4.0363 0.0488 因子6 0.5799 0.4397 0.0000 [**] 12.9440 0.0448 因子7 0.1738 0.1194 0.0005 [**] 3.5189 0.0494 因子8 0.1233 0.0873 0.0101 [* ] 2.5841 0.0477
定数項 3.3896 89.3921 0.0379
[精度]
決定係数 R2= 0.5090
自由度修正ずみ決定係数 R2'= 0.5000
重相関係数 R= 0.7134
自由度修正ずみ重相関係数 R'= 0.7071
ダーヴィンワトソン比 DW= 1.9096
赤池の情報量規準 AIC= 1071.6602
残差の標準偏差 Ve^1/2= 0.7990
[分散分析表]
変動 偏差平方和 自由度 不偏分散 分散比 P 値 判定
全体変動 565.5923 443
回帰による変動 287.8893 8 35.9862 56.3695 0.0000 [**]
回帰からの残差変動 277.703 435 0.6384
図表5‑1により,E4の重回帰分析による推定値は次のものである。
E
4*i=3.3896 +0.3102F
1i+0.3455F
2i+0.1424F
3i+0.2329F
4i(6.8755) (8.2660) (3.3097) (5.1562)
+0.1968
F
5i+0.5799F
6i+0.1738F
7i+0.1233F
8i(4.0362) (12.9440) (3.5189) (2.5841)
(ただし,(....)はt値であり,
i
は職員番号であり,1〜443)重回帰モデルについては,決定係数(自由度調整済)が,0.5とかなり 高い値を有し,分散分析においても,自由度(8,443‑8)でF値が56.3695 と大きい。したがって,この重回帰式は十分な説明力を有するものといえ よう。
各因子の係数においては,全ての因子においてt値が高く,8因子中の 7因子が棄却水準1%以下の値を示し,残る1因子(F8)も棄却率が5
%以下の有意水準を有する。目的変量であるE4に対して十分な影響度が あるものと考えられ,F1からF8までの全ての因子が有意な影響を及ぼ しているものと言えよう。
5.2. 各因子の影響度の評価
各因子の標準偏回帰係数から,目的変量E4に対する各因子の影響度の 大きさは次の順であることが分かる。
第1順位:F6(仕事へのやりがい,適性)
第2順位:F2(評価・処遇および福利厚生)
第3順位:F1(職場における雰囲気)
第4順位:F4(職員自らの職場に対しての働きかけ)
第5順位:F5(職場における指示・命令系統)
第6順位:F7(職場組織の経営方針)
第7順位:F3(上司との関わり,信頼)
第8順位:F8(休暇の取得)
以上のことから,「今後とも自らの職場での働く意欲」に対してのモラー ル要因については,まずは各人の介護に対するモチベーションが最大要因と なっており,介護に対しての姿勢は働く職員個人のモチベーションに大きく 依存していることが分かる。また,「評価や処遇」,「職場環境」が並んで高 く,職場での継続的な労働に対して大きな条件となっているものと考えられ よう。
「休暇の取得」については,職員平均値でも最下位の値を呈し,また,管 理職との意識においても最も大きな乖離度を示した。特に,因子分析におい て,その項目単独としての因子を構成し,モラールの要因について大きな位 置づけとなるものと考えられる。
6.まとめ
今回の調査においては,長崎県下における特別養護老人ホームを対象とし て,その介護現場における職員のモラールを管理職との比較分析,因子分析 による構造の抽出及びそれらの因子の重要度評価などにより測定を行い,全 体構造の把握を試みた。
職員と管理者間の意識の乖離からは,因子構造からみて,自らの置かれて いる処遇や上司との信頼関係を中心において,職場への働きかけに対しての 評価および指揮・命令系統を中心としたマネジメントシステムの改善に対し ての要望が窺われる。
就労の継続性の視点から見た現在の施設における評価においては,自らの 介護業務に対してのモチベーションを基盤として,「職場における雰囲気」
から「休暇の取得」までのモラールを構成する全因子が有意となり,特に,
処遇やコミュニケーション及び上司からの理解と信頼関係など重要性の高い 因子が挙げられる。
これらの結果に基づき,モラール改善を目標とした介護現場に共通する次 のようなアプローチが考えられよう。
・職員と管理者間における意識の乖離の改善
特に,平均値の差についての棄却率の低い有意水準に対応する因子を 構成する項目に対しての乖離を解消する対処が必要であること
・職場環境に及ぼす重要要因への対策
施設の職場環境を評価する重要度の高い因子に対しての対応を検討す る必要性があること
なお,長崎県下における特別養護老人ホームの介護現場を対象とした今回 の報告は職員のモラール面からの収集したサンプル全体についての構造と特 徴を示したものであり,調査の目的を達成するためには,今後,施設サービ スに対する評価やそれへのモラールの関与についての深層構造,およびサン プルにおいて層別された地域・設立時期・職員属性などの特性領域にまたが る分析が必要である。
本研究調査のアンケート回答にご協力いただいた施設職員,管理者の方々,
並びに調査の許可をいただいた施設長の方々にお礼申し上げます。及び,本 調査票の基本的部分について,使用の許可をいただいた高久馨氏・中小企業 基盤整備機構に感謝いたします。
本研究の一部は独立行政法人「日本学術振興会」の2007年度萌芽研究「今 後の高齢化世代における
QOL
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