カナダ国ヌナビック・イヌイットの社会経済変容 : 狩猟者支援プログラムの挫折と村落間相互交易の導 入の諸影響
著者 岸上 伸啓
雑誌名 人文論究
巻 60
ページ 81‑99
発行年 1995‑09‑30
URL http://hdl.handle.net/10502/5777
カナ ダ国ヌ ナ ビ ック ・イ ヌ イ ッ トの社 会経 済 変容
:狩 猟 者 支 援 プ ロ グ ラム の 挫 折 と村 落 間 相 互 交 易 の 導 入 の 諸 影 響
岸 上 伸 啓
1.は じめ に
世 界 の 先住 少 数 民族 は 、大 航 海 時 代 以 降西 欧諸 社 会 の世 界 進 出 と と もに急 激 な変 化 を体 験 して きた 。 こ れ ま で に異 文 化 問 の接 触 や 世 界 シ ス テ ムへ の接 合 に よ り世 界 各 地 で諸 民 族 が物 理 的 に消 滅 した り、そ れ らの 文 化 が 大 き く変 容 を遂 げて きた こ とが 知 ら れ て い る 。
世 界 の 近代 史 の流 れ の特 徴 の一 つ は、 「周 辺 民 族 」(清 水1992:470)の 形 成 で あ ろ う。歴 史上 、各 々 の民 族 は他 の民 族 と支 配=被 支 配 関係 や 同盟 関 係 を保 ち な が ら ロー カ ル ・ネ ッ トワ ー ク を形 成 し、 そ の ネ ッ トワー ク は政 治 経 済 的 な力 学 に よ って西 欧諸 社 会 に対 し周 辺 へ と秩 序 づ け られ て きた(清 水1992:474‑5)。 この 過程 で 人 々 は 自 己 の周 辺 的 な位 置 を 自覚 しなが ら、 中心 的存 在 との 関 係 で 自 ら を民族 と して形 成 して きた。 こ れ らの民 族 は近 代 に入 り西 欧諸 社 会 を中 心 と して 形 成 され て きた世 界 的 ネ ッ トワ ー ク に組 み 込 まれ る こ と に よ りロ ー カ ル ・ネ ッ トワー クや そ れ を形 成 す る諸 民 族 は様 々 な変 化 を体 験 して きた の で あ る 。清 水 は 、 諸 民 族 の 具 体 的 な変 化 の様 態 は多 様 で あ る と しなが ら も、 地 球規 模 で の社 会 変 化 を考 え た場 合 、 西 欧 の政 治 経 済 力 を求 心 力 とす る世 界 的 ネ ッ トワー クの拡 大 と と もに 、周 辺 民 族 は伝 統 主体 のパ タ ー ンか ら近 代 主 体 の パ タ ー ン(注1)へ と移 行 して きた と主張 して い る(清 水1992:478)。
本 論 文 で は、 これ まで狩 猟 社 会 の典 型 と看 倣 され て きた カ ナ ダ ・イヌ イ ッ ト社 会 に お け る生 業 活 動 の 維持 、存 続 の 問題 を 中心 に取 り上 げ 、 そ の社 会 経 済 変 容 の過 程 を検 討 す る と と も に、 変化 の特 質 を考 え てみ た い 。
2.理 論 的 な 視 座
社 会 ・文 化 変 化 の研 究 は文 化 人 類 学 な ど社 会 科 学 に お い て 中心 的 な研究 課題 で あ り、
これ まで に多 数 の研 究 方 法 や 仮 説 が 提 起 され て きた。 そ の 中 で、 狩 猟 採 集 民社 会 や 園 耕社 会 な ど小 規 模 社 会 の変 化 を説 明 しそ の 方 向 を予 見 す る理 論 と して 、 マ ー フ ィ とス チ ュ ワー ドの仮 説(MurphyandSteward1956)や ピ ー タ ー ソ ンの仮 説(Peterson1991
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:2)が あ る 。 これ らの 仮 説 は両 者 と も経 済 活 動 と社 会 の変 化 に焦 点 を合 せ て い るが 、 狩 猟採 集 民社 会 な ど小 規 模 社 会 の社 会 変 化 に関 し異 な る見 解 を提 示 して い る 。
マ ー フ ィ らは カナ ダ東 部 亜 極 北 地 域 の 狩 猟 民 モ ンタ ニ ェ ・イ ンデ ィア ン(theMonta gnaisIndian)と ブ ラ ジル の 園耕 民 ム ン ドゥル ク ・イ ンデ ィ ア ン(theMundurucu)の 社 会 の 比較 を通 して 、 交 易 経 済 が 二 つ の 異 な る社 会 に お い て 同 じよ うな 変化 の過 程 を 生 み 出 した 点 に 注 目 し、 貨 幣 経 済 の 小 規模 社 会 に与 え る諸 影 響 を理 論 化 して い る 。そ の 結 果 を仮 説 と して 提 示 す れ ば次 の よ う にな る(MurphyandSteward1956:353,3
50)0
仮 説1.成 層 化 して い ない 先 住 民 族 の 人 々 が個 人 の活 動 に よ って 自然 か ら獲 得 した 産物 を交易 し始 め れ ば、 先 住 民 文 化 の構 造 は崩 壊 す る。
仮 説2.交 易 が 進 展 す れ ば人 々 は最 終 的 に交易 品 とな る諸 資 源 に対 し明確 な権 利 を 持 ち 、 交易 の セ ンタ ー を通 して 個 々 の家 族 が 国家 に連 結 され る 。
仮説3.先 住 民 族 は 国 家 の 社 会=文 化 シス テ ム の 地 方 的下 位 文 化 と して 同化 さ れ 、 民 族 と して の 帰 属 意 識 を喪 失 す る。
ニ カ ラグ ア の ミス キ ー ト ・イ ンデ ィ ア ン社 会 の社 会 変 化 を調 査 した ニ ー チ マ ン(Ni etchmann1973)は この 理 論 を支 持 してい る一方 で、 カナ ダのケベ ック州 北部 の ク リー ・ イ ンデ ィァ ン を研 究 して い る フ ェイ ト(Feit1982,1991)や ア ラス カ の ユ ッ ピ ッ ク を 研 究 して い る ラ ング ドン(Langdon1991)ら は この 理 論 に異 を唱 え て い る 。
フェ イ トは 、 ク リー ・イ ンデ ィ ア ンの 事 例 を用 い て マ ー フ ィ らの 仮 説(1956)を 吟 味 し、 そ の仮 説 で は 経 済 的 要 因 のみ が 外 的 な 変 化 の 要 因 と して考 え られ て い る うえ に 、 人 々 が 意 図 的 に 変 化 を制 御 しよ う とす る実 践 が 無視 され て い る と指 摘 して い る(Feit 1982:388‑389)。 さ ら に彼 は こ れ まで の と ころ ク リー の 人 々 は分 配 、 消 費 、 生 産 な ど の社 会 的 実 践 に よっ て 商 品 化 や 貨 幣 経 済 の 諸 影響 を吸 収 し、社 会 の再 生 産 を続 け て き た と主 張 して い る(Feit1991:260)。 また 、 現 金 経 済 の生 業 活動 に対 す る影響 をユ ッ ピ ック社 会 を事 例 と して 研 究 した ラ ング ドンは 、稼 い だ現 金 を生 業 活 動 に投 入 しな が ら、 ユ ッ ピ ッ クは 国 民 経 済 に接 合 さ れ なが ら も彼 らの社 会 を再 生 産 し続 けて い る と報 告 して い る(Langdon1991:280‑283)。 これ らの研 究 は 、生 業 活 動 を単 な る経 済 活動 とみ ず社 会=経 済 シス テ ム とみ な し独 自 な社 会 の 再 生 産 に お い て そ の維 持 が 最 も重 要 で あ る と考 えて い る う え に 、所 与 の先 住 民 社 会 が 支 配 的 な社 会 経 済 シス テ ムの 影 響 下 にあ って も人 々 の 意 図 的 な社 会 ・経 済 的 実 践 に よ って 再 生 産 す る こ とが 可 能 で あ る こ
とを強 調 して い る。
フ ェ イ トや ラ ン グ ドンの研 究 を うけ て、 ピー ター ソ ンは仮 説(Peterson1991:2)を 次 の よ う に修 正 し、 提 示 して い る 。
仮 説4.経 済 活 動 が 社 会 的 に構 成 され てい る な らば 、 外 的 な 影響 に よ っ て変 容 され る一 方 で 狩 猟 採 集 民 は彼 らの意 図的 な対 応 に よ って 政 治経 済 的 な外 圧 を吸 収 し、 独 自 の社 会 関係 の セ ッ トを再 生 産 で き る。
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カナ ダ国 ヌ ナ ビ ック ・イ ヌ ビ ッ トの 社 会 経 済 変 容 この 仮 説4を 社 会 の再 生 産 仮 説 と呼 ん で お きた い。
以 上 、 こ こで は社 会 の変 容 仮 説(仮 説1〜3)と 社 会 の再 生 産 仮 説(仮 説4)を 提 示 した。 理 論 的 に は こ れ らの 仮 説 は相 反 す る仮 説 で は な く、清 水 が 提起 した枠 組 み の なか で 解 釈 す れ ば 、前 者 は周 辺 民 族 が伝 統 主 体 の パ タ ー ンか ら近 代 主体 のパ ター ンへ の移 行 を説 明 しよ う とす る仮 説 で あ り、 後 者 は特 定 の条 件 の も とで は周 辺 民 族 が 中心 的 存 在 の影 響 下 に あ りなが ら も伝 統 主体 のパ ター ン を保 持 で き る こ と を説 明 す る仮 説 で あ る と解 釈 す る こ とが で き る。 この解 釈 の 妥 当 性 につ い て の検 討 は 、 別稿 に ゆず る こ とに した い 。
ミス キ ー ト≧ク リー の場 合 は歴 史 的状 況 が 異 な るの で 変 容 仮 説 と再 生 産仮 説 の どち らが 正 しい か を単 純 に確 定 す る こ とは で きな い が 、 前 者 は国 家 や 国 民経 済 に よ り破 壊 さ れ た民 族 で あ る とす れ ば、 後 者 は州 政府 や 連 邦 政 府 と政 治 交 渉 を行 な い現 代 の狩 猟 民 と して歴 史 を歩 ん で い る民 族 で あ る と言 え る(岸 上1995)。 本 論 文 で は 、後 者 と同 じよ うな条 件 下 に あ る カ ナ ダの ケ ベ ッ ク州極 北 部 に住 む ヌ ナ ビ ッ ク ・イ ヌ イ ッ ト(Nu navikInuit)の 社 会 経 済 変 容 の 検 討 を通 して 、 こ こで 提 示 した 仮 説 を吟 味す る と と も
に 、 カ ナ ダ ・イ ヌ イ ッ ト社 会 の 変 化 の 特 質 につ い て 考 察 を加 え る。
3.カ ナ ダ 国 ケ ベ ッ ク 州 の 先 住 民 族 ヌ ナ ビ ッ ク ・ イ ヌ イ ッ ト
① ケ ベ ッ ク 州 の 先 住 民 族 ヌ ナ ビ ッ ク ・イ ヌ イ ッ ト
現 在 の カ ナ ダ に は 、 ク リ ー(theCree)、 デ ネ(theDene)、 イ ヌ イ ッ ト(theInuit) や イ バ ル イ ト(theIvaluit)を は じ め とす る 複 数 の 先 住 民 族 が 住 ん で い る 。 こ の 先 住 民 族 の 中 で 、 寒 冷 ツ ン ドラ 地 帯 が 広 が る カ ナ ダ 極 北 地 域 に 住 ん で い る イ ヌ イ ッ ト と イ バ ル イ トは 国 勢 調 査 な ど の う え で は 一 つ の 民 族 カ テ ゴ リ ー と して 一 括 さ れ 、 イ ヌ イ ッ ト と総 称 さ れ て い る 。1991年 の 調 査 結 果 に よ る と 、 イ ヌ イ ッ トの 総 人 口 は3万6千 余 りで あ る(StatisticsCanada1993)。 彼 ら は 主 に 北 西 準 州(約2万1千 人)、 ケ ベ ッ ク 州 北 部(約7千 人)お よ び ニ ュ ー フ ァ ウ ン ドラ ン ド州 ラ ブ ラ ドー ル(約4千7百 人) に 分 れ て 住 ん で い る(StatisticsCanada1993)。 こ の う ち ケ ベ ッ ク 州 に 住 む 人 々 の こ と を 現 在 で は ヌ ナ ビ ッ ク ・イ ヌ イ ッ ト(NunavikInuit)と 呼 ん で い る 。
ケ ベ ッ ク 州 は フ ラ ン ス 系 カ ナ ダ 人 が 多 数 派 を 占 め て い る 点 で カ ナ ダ の 中 で も 非 常 に 特 異 な 存 在 で あ る 。 同 州 の 人 口 上 の 多 数 派 で あ る フ ラ ン ス 系 カ ナ ダ 人 は 、 カ ナ ダ 全 体 の 中 で 主 流 派 で あ る イ ギ リ ス 系 カ ナ ダ 人 に 対 し て 人 口 数 の み な らず 政 治 力 と 経 済 力 の 点 で 少 数 民 族 の 立 場 に あ り、 母 語 で あ る フ ラ ン ス 語 を 中 心 に 彼 ら の 文 化 を 守 ろ う と 努 力 を 続 け て き た 。 そ して1960年 代 の ケ ベ ッ ク 州 で の 「静 か な る 革 命 」 以 降 、 ケ ベ ッ ク 州 で は フ ラ ン ス 系 住 民 が 政 治 ・経 済 力 を 握 り 、 州 の 公 用 語 を 実 質 的 に フ ラ ン ス 語 と し て きた 。 同 州 の 中 に は 先 住 少 数 民 族 と し て 、 そ の 北 部 の 極 北 地 域 に イ ヌ イ ッ ト(lnuit) が 、 亜 極 北 地 域 に は ク リ ー(theCree)、 ナ ス カ ピ(theNaskapi)、 モ ン タ ニ ェ(the
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Montagnais)な ど が 住 ん で い る 。
② ヌ ナ ビ ッ ク ・イヌ イ ッ トの歴 史
ヶベ ック州 の ほ ぼ北 緯55度 以北 の極 北 地 帯 に は、西 暦1100年 以前 か らプ レ=ド ーセ ッ ト文 化(Pre‑DorsetCulture)や ドーセ ッ ト文化(DorsetCulture)の 担 い手 と考 え られ る人hが 活 動 を行 な って い た形 跡 が残 っ てい る。 彼 らが現 在 の イ ヌ イ ッ トの 直 接 の祖 先 で あ るか ど うか は断 言 で きな い が 、エ ス ノ ヒス トリー の調 査 に よる と17世 紀 には ハ ドソ ン湾 東 部沿 岸 と ジ ェー ム ス湾 の沿 岸 に は イヌ イ ッ トとイ ンデ ィア ンの グル ー プが 存 在 して お り、相 互 に敵対 関 係 に あ っ た こ とが 分 って い る(FrancisandMorantz1 983)。 西 欧社 会 と接 触 す る以 前 の イ ヌ イ ッ ト社 会 は 、 近接 す る イ ンデ ィ ア ンの グ ル ー
プ とや イ ヌ イ ッ ト同士 とで ロー カ ル ・ネ ッ トワー ク を形 成 して い た 可 能 性 が あ る が 、 そ の ネ ッ トワ ー ク の 中核 は イヌ イ ッ トとイ ヌ イ ッ トの 関係 で あ った と考 え られ る 。 当 時 の イ ヌ イ ッ トは、 冬 と初 春 は 海 氷 上 で の ア ザ ラ シ猟 に従 事 し、 海 岸 部 や河 川 で の漁 携 、秋 に は河 川 で の 漁 携 や 内 陸 部 で の カ リブ ー猟 等 に従 事 して い た 。基 本 的 に冬 は海 氷 上 で は規 模 の 大 き な冬 キ ャ ンプ を形 成 し、 そ れ以 外 の時 期 は拡 大 家族 関係 を基 に小 規 模 な キ ャ ン プ集 団 を形 成 して い た(Graburn1969:34,41‑42)。
とこ ろが 毛 皮 を求 め て ジ ェ ー ム ス湾 地 域 に進 出 して きた 英系 お よび仏 系 の交 易 商 と 16世 紀 半 ば に は接 触 をは じめ 、1920年 代 に は ほぼ す べ て の ヌ ナ ビ ック ・イ ヌ イ ッ トは ハ ドソ ン湾 会社 との 毛 皮 交 易 に か か わ っ てい た 。 イヌ イ ッ トは 、冬 場 に罠 猟 で とれ る ホ ッキ ョクキ ツ ネ の 毛 皮 や 夏 か ら秋 にか けて 海 上 で とれ る ア ザ ラ シ の毛 皮 を開 設 され た 交 易 所 に持 っ て 行 き鉄 製 品 、 紅 茶 、 布 地 、 ライ フル な ど と交 換 した。 毛 皮 交易 は イ ヌイ ッ トを世 界 シ ス テ ム に結 び つ け た とい って よい 。 当 時 の ロ ー カ ル ・ネ ッ トワー ク は 毛 皮 交易 を通 して イ ギ リス 、 カ ナ ダや フ ラ ンス を 中心 とす る世 界 的 ネ ッ トワー クに 連 結 され て い た の で あ る 。1903年 か ら1929年 まで仏 系 の交 易 会 社 とハ ドソ ン湾 会 社 は 競 合 関係 に あ っ たが 、競 争 に勝 った 後 者 は カ ナ ダ の極 北 地 域 にお い て1958年 まで毛 皮 交易 を独 占 した。 キ リス ト教 は1800年 代 頃 か ら広 ま り、1930年 頃 に はほ ぼ全 て の ヌ ナ ビ ック ・イ ヌ イ ッ トは キ リス ト教 徒 にな っ て い た。
1950年 代 に入 る まで は、 こ の 地域 に お け る連 邦 政 府 の 活 動 は科 学調 査 と年 に一 回の 健 康 診 断 、 飢 餓発 生 時 の 緊 急 援 助 や不 定 期 の警 察 の巡 回 な ど に限 られ て い た 。 た だ し
1930年 代 後 半 か ら1940年 代 に か け て こ の地 域 で結 核が 蔓延 したた め連 邦政府 のイ ヌイ ッ トに対 す る医療 活 動 を初 め とす る行 政 介 入 が 本 格 化 した 。 そ して1950年 代 の後 半 あ た りか ら分散 して生 活 を営 ん で い た イ ヌ イ ッ トを拠 点 と な る村 に定住 化 させ 始 め、1970 年 まで には全 て の イ ヌ イ ッ トが 村 落 で 定 住 生 活 を営 む よ うに な っ て い た。1960年 代 に
は、 定住 した村 を拠 点 と して 狩 猟 や 漁 携 に 出か け て行 く こ とが一 般 的 とな り、 村 の 中 で専 従 の賃 金 労 働 に就 く者 も増 加 して きた 。 さ らに1960年 代 の半 ば頃 か ら イヌ イ ッ ト は現 金 を持 っ てい れ ば ス ノ ー モ ー ビ ル、 船 外 機付 きの カヌ ーや 高 性 能 ラ イ フ ル銃 を容
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カナ ダ国 ヌナ ビ ッ ク ・イ ヌ ビ ッ トの社 会 経 済 変 容 易 に入 手 で きる よ うに な っ た 。
1963年 か ら はケ ベ ッ ク州 政府 も イヌ イ ッ トに対 しサ ー ビス を提供 し始 め た。イ ヌイ ッ トは 政府 の補 助 金 に経 済 的 にか な りの 程 度 依 存 す る よ う にな って きた し、 この時 期 か らイ ヌ イ ッ トが村 の外 で生 活 す る時 間 が 大 幅 に減 少 し始 め た 。 そ して定 住 村 落 にお い て 多 数 の 人 間 が 賃 金労 働 に就 き始 め た 。
1971年 、 ケ ベ ック州 の 首 相 ロベ ー ル ・ブ ラ ッサ(RobertBourassa)が ケ ベ ック 州 北 部 の ジ ェ ー ムス 湾 地 域 にお け る水 力 発 電 開 発 計 画 を一 方 的 に宣言 した 。 そ れ は ジ ェ ー ムス 湾 に注 ぎ込 む5つ の 主 要 な河 川 に ダ ム をつ く り、水 力発 電 を行 な い 、 電力 を カ ナ ダの 他 地 域 に供 給 した り、 米 国 に売 る と い う計 画 であ った。 その地域 や ダ ム建 設 に よっ て影 響 を受 け る か も しれ ない 周 辺 地 域 に は以 前 か らク リー ・イ ンデ ィア ンや イ ヌ イ ッ トが 狩 猟 、漁 携 や 罠 猟 を行 ない なが ら生 活 を営 んで い た 。 ク リー ・イ ンデ ィア ンは17 63年 の英 国王 宣 言(theRoyalProclamation)に よ っ て、 君 主 国 の 主 権 を認 め る代 り に彼 らの生 活 様 式 を保 持 し、土 地 を 占有 しか つ君 主 国か ら保 護 を受 け る権 利 を認 め ら れ て い た 。一 方 、 イ ヌ イ ッ トは カ ナ ダや 英 国 とは い か な る条 約 も締 結 していな か った。
この よ うな状 況 か ら、 ケベ ック州 や カ ナ ダ連 邦 政 府 が ジ ェ ーム ス 湾 地域 で 開発 を行 な うた め に は 、 ま ず先 住 民 で あ る ク リー ・イ ンデ ィア ンや イ ヌ イ ッ トと土 地権 な ど先 住 民 の 諸権 利(nativerights)に つ い て交 渉 し、 合 意 を得 る必要 が あ っ た。
ケ ベ ッ ク北 部 の 先住 民 で あ る ク リー ・イ ンデ ィア ン とイ ヌ イ ッ トは 、 ケ ベ ック州 の 提 案 した 開 発 計 画 には 反対 で あ っ た が 、 この 計 画 の 阻止 が 事 実 上 不 可 能 で あ る こ とが 判 明 す る と、 よ りよい 条件 を求 め て 話 し合 い に入 っ た 。 こ の話 し合 い の 当 事 者 は 、 カ ナ ダ連 邦 政 府 、 ケ ベ ッ ク州 政府 、 ク リー ・イ ンデ ィア ンを代 表す る ク リー ・グラ ン ド ・ カ ウ ン シ ル(theCreeGrandCouncil)と ケベ ック州 の イヌ イ ッ トの ほ ぼ4分 の3の人 々 を代 表 す る北 部 ケ ベ ッ ク ・イ ヌ イ ッ ト協 会(TheNorthernQuebecInuitAssociatio
n)で あ った 。彼 らは約2年 間 の 交 渉 を行 ない 、1975年11月 に 「ジ ェ ー ム ス 湾 お よ び 北 ケ ベ ック協 定 」(TheJamesBayandNorthernQuebecAgreement)に 調 印 した 。 この結 果 、 ヌ ナ ビ ック ・イヌ イ ッ トは ク リー ・イ ンデ ィア ン と と もにす べ て の先 住 民 と して の権 利 を失 う代 りに 、30項 目400ペ ー ジ に もお よぶ合 意 協 定 書 に 明 記 さ れ た 権 利 や 請 求権 を得 た 。 この合 意 は包 括 的 な もの で あ り、狩 猟 、 漁 携 と罠 猟 、 土 地 の所 有 権 と 占有権 、 自治体 、厚 生 お よび社 会 サ ー ビス 、教 育 、社 会 ・経 済発 展 、収入 の保証 、 警 察 、 司 法 、 行 政 、環 境 保 全 、 ジ ェ ー ム ス湾 プ ロジ ェ ク トの変 更 や 補 償 と資格 な どに 関す る事 項 か ら成 って い た 。 また 、 ク リー ・イ ンデ ィア ン とイ ヌ イ ッ トは補 償 金 と し て両 者 を あ わせ て総 額2億2500万 ドル を受 け取 る こ と に な った 。本 論 文 で は 、 こ の協 定 の こ とを ジ ェ ー ムス 湾協 定 と略称 す る。
4.ジ ェ ー ム ス 湾 協 定 と イ ヌ イ ッ トの 狩 猟 者 支 援 プ ロ グ ラ ム
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① ヌ ナ ビ ッ ク ・イ ヌ イ ッ トとジ ェー ム ス湾 協 定
ケ ベ ッ ク州 の 北 部 極 北 地 域 の ハ ドソ ン湾 沿 岸 とウ ン ガバ 湾 沿 岸 に住 む イ ヌ イ ッ トは 1960年 代 に10余 りの 村 で 定 住 生 活 を始 め た 。1970年 代 に ジ ェ ー ムス 湾 地域 で の水 力 発 電 開 発 計 画 が 契 機 とな り、 ク リー ・イ ンデ ィ ア ン と と も に イヌ イ ッ トは州 政府 や 連 邦 政府 を相 手 に土 地 権 を は じめ とす る先 住 民 の諸 権 利 につ い て 政 治 的 な話 し合 い に入 っ た 。 そ の 結 果 が 、1975年11月 に締 結 さ れ た ジ ェー ム ス 湾協 定 で あ る 。
ケ ベ ッ クに 住 む イ ヌ イ ッ ト約5000名 の う ち8割 の イ ヌ イ ッ トは この協 定 に合 意 した が 、 ボ ブ ング ニ ツ ク(Povungnituk)と イ ブ イ ビ ッ ク(lvujivik)の 全 員 とサ ル イ ト(Sall uit)の 半 分 の イ ヌ イ ッ トは こ の協 定 に反対 した。 後 者 は 、InuitTungavingatNuna miniと い う政治 団体 を結 成 し、現 在 で もジ ェー ム ス 湾 協 定 に反 対 し、 そ の 無 効 を主 張 し続 け て い る 。
1975年 当 時 、協 定 に合 意 した約5000名 の イ ヌ イ ッ トに 関 して は、8737歴 の土 地 に対 し公 認 さ れ た権 利 が認 め られ 、 それ 以 外 に も約1万 冠 の 地域 で の 独 占 的 な狩 猟 ・漁 掛 権 が 認 め られ た 。 ま た 、9500万 ドルの 補償 金 が支 払 わ れ る こ とに な った うえ に、 イ ヌ イ ッ ト以 外 を も含 む地 域 住 民 に よ る 自治 体 の運 営 も認 可 さ れ た。 この他 、建 設 、土 地 使 用 、 保 健 行 政 等 の権 利 もイ ヌ イ ッ トに対 し認 め られ た。
1977年 の10月 に は こ の協 定 が 発 効 し、 翌78年6月 に は必 要 な組 織 を作 る た め の 法 案 が 州 政 府 に よ って 可 決 さ れ た。 この結 果 、地 域 住 民 の地 方 自治 体 で あ る カ テ ィ ビ ッ ク 地 域 政 府(theKativikRegionalGovernment)、 イ ヌ イ ッ トの経 済 政 治 組 織 で あ る マ キ ビ ッ ク会 社(theMakivikCorporation)そ して イヌ イ ッ トの土 地 を管 理 す る土 地 管 理 会社(theLandholdingCorporation)が 設 立 され た 。
カ テ ィ ビ ッ ク地 方 政 府 は各 村 か ら選 出 され た代 議 員 か ら構 成 され てい る。 この 政府 は準 州 や郡 の 自治 体 に相 当 し、 ヌ ナ ビ ック地 域 で 保健 厚 生 、環 境 、教 育 や 経 済 開発 な どの 分 野 の行 政 を担 当 す る。 この 自治 体 の長 や代 表 は ヌ ナ ビ ック地 域 の 住 民 に よる投 票 で選 出 され る が 、 この 自治 体 は イ ヌ イ ッ トだ け の もの で は な く地 域 住 民 全体 の た め の もの で あ る こ と を強調 して お きたい 。 ア ク リ ビ ック(Akulivik)や イヌ クジ ュ ア ック (Inukjuak)な ど15の 村 落 は 地 方 自治 組 織 と して ケ ベ ック州 議 会 の承 認 を受 け 、下 位 組 織 と して州 の政 治 組 織 の 中 に組 み込 まれ る こ と とな っ た(Quebec,JBNQA,section 7.1.2)0
マ キ ビ ック会 社 と土 地 管 理 会 社 は、 ジ ェー ム ス湾 協 定 に 同意 した イ ヌ イ ッ トのみ に 係 わ る組 織 で あ る 。 マ キ ビ ック会社 は 、 イ ヌ イ ッ トの諸 権 利 の 遵 守 と協 定 に基 づ き カ ナ ダ政 府 とケ ベ ック州 政 府 か ら イヌ イ ッ ト全 体 に支 払 われ る補 償 金 の 管理 運 用 に責 任
を持 つ 政 治 ・経 済 団体 で あ る。 そ して マ キ ビ ック会 社 は、 キ ガ ク建 設(KigakConstr uctionInc.)、 営 善 補 修 会 社 サ ナ ク(Sanak)、 旅 行 代 理 店 キ ガ ク旅行 社(KigaqTrave lInc.)、 航 空 会社 イヌ イ ッ ト航 空(AirInuitLtd.)な どに 出資 し、経 済 的利 潤 を 目指 す と と もに イ ヌ イ ッ トの 経 済 発展 を促 進 させ る役 割 を果 してい る(DeLaBarre1988)。
:・
カ ナ ダ国 ヌナ ビ ッ ク ・イヌ ビ ッ トの社 会 経 済 変 容 また 、 イ ヌ イ ッ トの 利 害 を代 表 す る こ と に よ って 政 治 、社 会 や文 化 の分 野 で も役 割 を 果 して い る。 一 方 、 土 地 管 理 会社 は、 ジ ェ ー ムス 湾 協 定 で カ テ ゴ リー(北 緯 五 十 五 度 以 北 で は約8千 平 方 キ ロ メ ー トル の広 さ)と い うイ ヌ イ ッ トが 特 別 の 権 利 を付 与 され て い る土 地 を イヌ イ ッ ト全 体 を代 表 して 各村 の た め に管理 す る役 割 を果 して い る。
② ジ ェ ー ム ス湾 協 定 と狩猟 者 支援 プ ロ グ ラム
1970年 代 の イ ヌ イ ッ トとク リー は と も に生 業(subsistenceactivity)を 生 活 様 式 と して続 け た い と切 望 して い た 。 しか しホ ッキ ョク キ ツ ネ 、ビーバ ー や ア ザ ラ シ の 毛 皮 の価 格 が不 安 定 で あ りか つ低 迷 して い た た め に獲 物 の毛 皮 を売 って 現 金 を獲 得 し、 そ の現 金 を利 用 して生 業 活 動 を従 前 の よ うに続 け る こ とが 困 難 に な って きて い た 。 そ こ で ク リー とイ ヌ イ ッ トは生 業 を促 進 す る よ うな経 済 プ ロ グ ラム の確 立 を ジェ ー ム ス 湾 協 定 の 中 で提 案 し、 ケベ ック州 政 府 も原 則 的 にそ の提 案 に同意 した 。ク リー ・イ ンデ ィ ア ンは綿 密 な調 査 に基 づ き生 業 従 事 者 に対 し収 入 保 証 プ ロ グ ラム を創 設 し、 実施 した (ScottandFeit1992;岸 上1995)。 一 方 、 イ ヌ イ ッ トは、 ク リー ・イ ンデ ィ ァ ン型 の収 入 保 証 プ ロ グ ラ ム は福 祉 プ ロ グ ラ ム に他 な ら ない と して 、 そ れ とは異 な る独 自 の プ ロ グ ラ ム を導 入 す る こ と に した 。 イヌ イ ッ トが 考 え出 した プ ログ ラム とは 、人 口 の 1%な い し最 大65名 に相 当 す る 数 の狩 猟 者 を雇 い 、彼 らが 捕 獲 した 魚 や 動 物 の 肉 を他 の 住 民 や 食 料 とな る魚 や 動 物 が 周 辺 にい ない 他 の村 に無料 で提供 す る とい う もので あ っ た 。 しか しこの プ ロ グ ラム で は最 大 数65名 の 狩 猟 者 しか金 銭 的 な恩 恵 を受 け る こ とが で き ない との 意 見 か ら、1%か ら最 大65名 ま で の狩 猟 者 を雇 い 入 れ る とい う計 画 は 中 止 され 、 別 の プ ロ グ ラム が創 り出 され た(WeihsandOkalik1988:284‑5)。
この 協 定 に基 づ き イヌ イ ッ トの 生 業 活 動 を維 持促 進 す る た め の プ ロ グ ラ ム と して 狩 猟 者 支 援 プ ロ グ ラム(HunterSupp◎rtProgram)が1982年12月 に ケベ ック州 議 会 で 法 案83(憲 章47)と して 可 決 され た 。 この プ ロ グ ラムの 目的 は、生 活様 式 としてイヌ イ ッ
トの 狩 猟 、 漁 携 や 罠 猟 な ど生 業活 動 を助 長 し、永 続 させ 、かつそ の よ うな諸 活動 によ っ て 得 られ る産 物 の 供 給 をイ ヌ イ ッ トに対 し保 証 す る こ とで あ っ た。 プ ロ グ ラム の基 本 的 な 運 用 方 法 は 、 狩猟 者 は捕 獲 した獲 物 の 肉 や魚 の余 剰 物 を村 に プ ロ グ ラ ムの 金 で 買 い 取 って もらい現 金 を得 る一 方 で 、村 に よっ て 買 い上 げ られ た 魚 や 肉 はそ れ ら を必 要 とす る村 人 に無 償 で 分 与 され る とい う もの で あ る 。 こ の余 剰 物 の 買 い 上 げ価 格 は村 に よ って 異 な って い た 。 また 、 この プ ロ グ ラ ム の資金 を利 用 して村議 会 は村 用 の大型 ボー トや 大 型 冷 凍庫 を購 入 した り、近 隣 の村 か ら村 民 の食 料 用 の 魚 や 肉 を買 い 取 る こ と も あ る(WeihsandOkalik1988:287)。
この プ ロ グ ラム は カ テ ィ ビ ック地 域 政 府 とイ ヌ イ ッ トの 村 々 に よ って 管 理 され る も の で あ った 。 この プ ロ グ ラ ム の全 予 算 の うち15%は 地 域 政 府 が 管 理 事務 用 に使用 し、
残 っ た85%の うち の15%を 地 域 政 府 が 地域 全 体 の プ ロ ジ ェ ク トの た め に使 用 し、残 り が 村 の 人 口 数 に 比例 して各 村 に配 分 さ れ る こ とに な って い た(WeihsandOkalik19
一87一
88:288‑9)。 各村 の プ ロ グ ラ ム は そ れ ぞ れ の村 が 管 理 す る こ と にな っ て い たが 、 同 じ 北 ケベ ック地 域 で も、 村 ご と にそ の 生 態 条 件 や 狩猟 ・漁携 条 件 が 異 な って い るた め 、
そ れ ぞ れ の村 が 独 自 の プ ロ グ ラム を実 施 して い た 。 な お 狩猟 者 支 援 プ ロ グ ラム の 予算 は 、 イ ンフ レ率 とイ ヌ イ ッ トの 人 口 増 加 率 に基 づ い て 毎年 補 正 が 加 え られ た 。
次 に ヌ ナ ビ ック の ア ク リ ビ ック村 の プ ロ グ ラム の 運 用事 例 を取 り上 げて 、 狩 猟 者 支 援 プ ロ グ ラ ム に焦 点 を合 せ なが ら、 社 会経 済 的変 容 と現状 を報 告 して み た い 。
5.ヌ ナ ビ ッ ク の ア ク リ ビ ッ ク 村 の イ ヌ イ ッ トと 狩 猟 者 支 援 プ ロ グ ラ ム
① ア ク リ ビ ック村 の概 況
ア ク リ ビ ック村 は北 緯60度48分 、 西 経78度8分 に位 置 し、 ケ ベ ッ ク州 北 部 の ハ ドソ ン湾 に面 した 海岸 部 に あ り、1970年 代 の 半 ば に形 成 され た 。 こ の村 落 の 歴 史 につ い て は別 稿(岸 上1988、1990、1992a)で ふ れ てい る の で こ こで は 省 略 す る 。1990年 の 時 点 で の 同村 の イ ヌ イ ッ トの人 口 は約360名 で 世 帯 数 は60余 りで あ っ た 。 現 在 の イ ヌ イ ッ トの村 落 規 模 で み る と小 規 模 な方 に属 す る。 しか も他 の村 とは異 な り、 村 の社 会 構 成 は2つ の親 族 関係 集 団(キ ン ドレ ッ ド)か ら成 り立 っ てお り、 両 者 は さ ら に複 数 の婚 姻 関係 で相 互 に結 ば れ てい る。 この た め村 人 はほ ぼ全 員 が お 互 に血 縁 関 係 か 姻 戚 関係 に あ る とい え る(岸 上1992b:194‑5;1992a:70)。
イ ヌ イ ッ トの経 済活 動 は 自立 的 な生 業 活 動 だ け で は な く、賃 金 労 働 の比 重 も年 々 高 ま りつ つ あ り、生 業 と貨 幣 の混 交 経 済 シス テム で あ る。現 在 の イ ヌ イ ッ トは、 ラ イ フ ル 、化 繊 漁 網 、 ス ノ ー モ ー ビルや 船 外 機 付 き カヌ ー 等 を利 用 して狩 猟 ・漁 掛 活 動 を行 な っ て お り、 他 の 地域 の イ ヌ イ ッ トと同様 にそ の よ う な活 動 を行 な うた め に は、 現 金 が必 要 で あ る(Wenzel1991;ス チ ュ ア ー ト1993:31‑32、1995;岸 上 、 ス チ ュ ア ー一
ト1995:415)。 イ ヌ イ ッ トの現 金 収 入 源 と して は、 生 協 や村 役 場 で の仕 事 、 滑 石 彫 刻 の 制作 ・販 売 、獲 物 の 余 っ た 肉 を村 に売 る こ とや 、 老 齢 年 金 、家 族 扶 養 手 当、 失 業 手 当 な どの よ うな 政 府 が支 給 す る福 祉 金 ・生 活 補 助 金 な どが あ る 。村 人 の うち約70名 が 村 内 で の 仕 事 や 滑 石彫 刻 に従 事 して お り、 生 活 補 助 金 以 外 の 収 入 を得 て い た 。村 全 体 の 現 金 収 入 の 内 訳 は 、賃 金 労働 が78.5%、 福 祉 金 や生 活 補 助 金 が16.9%で 、 狩 猟 者 支 援 プ ロ グ ラム か らの 収 入 が4.1%で あ っ た 。 なお 、 こ の数 値 に は彼 ら が 生 業 活 動 か ら 得 た 成 果 は金 銭 に換 算 され て い な い こ とを指 摘 してお きたい 。
80年 代 後 半 か ら90年 にか け て ア ク リ ビ ック村 で の5度 の現 地 調 査 か ら得 た デ ー タ に よれ ば 、 この 村 の 男 性 成 人 イ ヌ イ ッ トは狩 猟 や 漁 扮 活 動 を最 も重 要 な経 済活 動 で あ る と考 えて い た。 この た め彼 らは 自由 に生 業 活 動 に従 事 す る こ とが で きな くな る こ と を 嫌 い 長 期 間(1、2年 以 上)に わ た っ て専 従 の賃 金 労 働 に就 くこ と を避 け る傾 向 が あ っ た。 中高 年 の村 人 は仕 事 を得 て も半 年 を す ぎ失業 保 険 を受 給 す る資格 が で き る とす ぐ に仕 事 をや めて しま う こ とが 多 か った 。 しか し一 方 で は 、30才 以 下 の 青 年 層 の 中 には
..
カ ナ ダ 国 ヌ ナ ビ ック ・イ ヌ ビ ッ トの 社 会 経 済 変 容 生 業 活 動 を好 む者 もい た が 、大 多 数 は現 金 収 入 が 得 られ る職 を探 して い た 。 詳細 な 統
計 的 な デ ー タは な い が 、2年 以 上 にわ た って 同 一 の専 従 の仕 事 に就 い て い る男 性 は5名 以 下 で あ った 。彼 らは仕 事 の合 間 や休 暇 中 に生 業 活 動 に従 事 して い た 。 一 方 、 女性 は 年 齢 に 関 係 無 くフル タイ ム の仕 事 に従 事 し、 しか も男 性 と比 較 す る とは る か に 長期 間 勤 続 す る傾 向 が あ っ た 。成 人 男 性 の 問 で最 も多 い パ ター ンは 、 一 時 的 な季 節 的 な 賃金 労 働 に従 事 した り、滑 石 彫 刻 を生 協 に売 った り、 生 活 補 助 金 や福 祉 金 か ら現 金 収入 を 得 、 そ れ を利 用 して食 料 や生 業 活 動 に必 要 な物 品 を購 入 し生 業 活動 を行 な う とい う も の で あ っ た 。 高齢 の男 性 は政 府 支 給 の生 活 補 助 金 を受 け な が ら、労 働 が相 対 的 に楽 な 漁 掛 な どに従 事 して い た。1960年 代 以 降 に村 で 生 まれ 育 った者 とそ れ以 前 の者 との 間 に経 済 活 動 に対 す る態 度 に違 いが 見 られ たが 、 全 体 の 傾 向 と して 、生 業 を行 な うた め に は現 金 を稼 が ね ば な らず 生 業 活 動 に従 事 す る時 間 が 減 少 しつ つ あ っ た 。
しか しな が ら狩 猟 や 漁 携 を通 して得 られ る食料 は ア ク リ ビ ック村 の人 々 の好 物 で あ り続 け て い る。 著 者 の調 査 体 験 に よ る と中 高 年 世帯 で は少 な く と も5割 程 度 の食 料 は 漁 携 や 狩 猟 か ら得 て い た よ う に思 う。 この 村 の イ ヌ イ ッ トの人 々 は次 の よ うな年 周 期 で生 業 に従 事 して い る。11月 か ら翌 年 の4月 にか け ての冬 期 は 、 海 氷 上 の 呼 吸 穴 や 海 氷 上 の水 際 で の アザ ラ シ猟 、 陸 上 で の カ リブ ー猟 や湖 で の網 漁 な どが行 な われて い る。
5月 か ら6月 にか け て 氷 が 本 格 的 に融 け る が 、 この 時期 に 海氷 上 の水 際で の アザ ラシ猟 、 陸 上 で の カ リ ブ ー猟 や 湖 で の 網 漁 が 行 な わ れ て い る 。7月 か ら9月 にか け ての 夏 は、 海 上 で の カ ヌ ー を利 用 した アザ ラ シ猟 、 海 浜 部 で の ホ ッキ ョク イ ワナ の 網 漁 、陸 上 で の カ リ ブ ー猟 や 村 所 有 の 大 型 ボ ー トを利 用 した セ イ ウ チ猟 や シ ロ イル カ猟が 行 なわ れ る。
10月 か ら11月 にか け て の 秋 ・初 冬 に は 、 海上 で カ ヌ ー を利 用 した アザ ラ シ猟 や 陸 上 で の カ リ ブ ー猟 が 行 なわ れ る。 また 川 で は ホ ッキ ョク イ ワ ナ の網 漁 が 行 なわ れ る。
② 狩 猟 者 支 援 プ ロ グ ラム の 運 用
狩 猟 者 支 援 プ ロ グ ラム 委 員会 が 、 調査 地 の ア ク リ ビ ック村 で もつ くられ ア ン グ ヴ ィ ガ ピ ッ ク("anguvigapik")と 名付 け られ た。 この 委 員 会 は 、 委 員 長1名 と5名 の 委 員 か ら な り、18才 以 上 の村 民 に よる 直接 選 挙 に よ っ て選 ばれ た 者 に よっ て構 成 され て い た 。 この 委 員 会 の 主 要 な役 割 は村 の プ ロ グ ラ ムの 管 理 運 営 とセ イ ウチ猟 を管 理 す る こ とで あ る。 村 に配 分 され る金 額 に応 じて彼 らは村 の予 算 をた て る。1983年 には約5万3 千 ドル 、1984年 に は32万6千 ドル、1985年 には11万2千 ドル が カテ ィ ビ ック 地 方政 府 か
ら村 に配 分 され た 。村 の 委員 会 は そ の金 を セ イ ウチ 猟 、 シ ロイ ル カ猟 とホ ッキ ョク イ ワナ 漁 の 実 施 、 大 型 ボ ー トや 狩猟 漁携 具 の購 入 や 村 人 か らの 余剰 の 肉 や魚 の買 い上 げ のた め に使 用 した 。
第 一 に ア ク リ ビ ッ ク村 は1984年 に この プ ロ グ ラ ムの 資 金 を用 い て全 長14メ ー トル の ピー ター ヘ ッ ドボ ー ト(金 属 製 大型 ボ ー ト)を 購 入 した 。 人 口集 中 に よ り村 の周 辺 の 食 料 資 源 が 枯 渇 化 し、 狩 猟 ・漁 掛 場 が年 々遠 くな りつ つ あ り、 船外 機 付 きカ ヌ ー で は
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十 分 に生 業 活 動 を行 な う こ とが で きな くな っ た た め に 、 こ の 問題 を解 決 す る一 つ の 方 法 と して村 に よ る大 型 ボ ー トの購 入 が 提 案 され た の で あ っ た 。 こ の ボ ー トを使 用 す る こ とに よ って 今 まで と比 べ 遠 方 に あ る狩猟 ・漁掛 場 ま で短 時 間 で行 くこ とが で き る よ
うに な っ たの で あ る 。
第 二 に、 い くつ か の狩 猟 お よび 漁携 の た め の遠 征 旅 行 が 、 こ の プ ロ グ ラ ムの 予算 を 使 っ て組 織 され て い る 。 別 言 す れ ば 、 多 数 の村 人が 参 加 す る よ り大 規 模 な狩猟 お よび 漁 携 が 、 この プ ログ ラム に よっ て 開 始 され た 。1986年 に は、 夏 に約2週 間の シ ロイ ル カ猟 、9月 に約1週 間 の セ イ ウチ 猟 と約5日 間 の カ リブ ー猟 や11月 初 め に行 なわ れ る約 2週 間 の ホ ッキ ョク イ ワナ の網 漁 が 村 の委 員 会 に よ って遠 征 旅 行 と して 組 織 さ れ 、 実 施 さ れ てい た 。 は じめ の3つ の狩 猟 遠征 は村 所 有 の大 型 ボ ー トを使 用 して行 なわ れ 、 最 後 の1つ は20台 あ ま りの村 人 の個 人所 有 の ス ノ ーモ ー ビ ル を用 い て 実 施 され た 。村 人 で あれ ば全 員 これ らの企 画 され た 狩猟 漁携 活 動 に参 加 す る権 利 が あ る。 村 が 狩 猟 者 支 援 プ ロ グ ラム の 予算 に よっ て大 型 ボ ー トの ガ ソ リ ン と参 加 者 の食 料 を購 入 し、提 供 す る。 この 狩 猟 遠征 に よっ て村 に持 ち帰 られ た獲 物 は 、狩 猟 に参 加 した者 の 取 り分 を 除い た後 、 村 に よっ て狩 猟 者 支 援 プ ロ グ ラ ム の予 算 を用 い て 買 い 上 げ られ 、 すべ て の イ ヌ イ ッ トの 世 帯 へ と平 等 に 無料 で 配 分 され る とい う仕 組 で あ る 。一 方 、 この 狩 猟 遠 征 に参 加 した村 人 は何 が しか の現 金 を獲 物 の報 酬 と して受 け取 る ので あ る。村 の 船 が ア ク リ ビ ッ ク村へ 戻 っ て 来 た 時 は い つ で も、村 に面 した浜 辺 で 共 食 が 行 なわ れ る。 さ らに ク リス マ ス や復 活祭 の 時 に は この委 員会 が 中心 とな っ て村 人 全 員 参 加 の会 食 が 開 催 され る。
第 三 に、 漁 網 や 無線 通 信 機 の よ うな 狩猟 ・漁 携 具 や そ の補 助 具 を ア ク リ ビ ッ ク村 の 狩 猟 者 支 援 プ ログ ラ ム委 員 会 が購 入 し、村 の狩 猟 者 や 漁 携 者 に半 額 の値 段 で 売 る。 こ の よ う に プ ロ グ ラム の予 算 は 、個 々 の 狩猟 者 や漁 携 者 の生 業 活 動 を促 進 させ る た め に 使 用 さ れて い る。
第 四 に、 個 々 の 狩猟 者 が 、 カ リブ ー 、 ア ザ ラ シや ホ ッキ ョク イ ワ ナ な どを多 量 に獲 得 した時 に は、 余剰 を村 に 売 る こ とが で きる 。 す な わ ち 、 も し狩 猟 者 支 援 プ ロ グ ラ ム の予 算 に余 裕 が あ る よ うな場 合 に は 、村 人 が役 場 に持 っ て きた獲 物 の重 さ を村 の役 人 が 計 量 し狩 猟 者 か らそ れ を 買 い取 り、 食料 を 必要 と して い る住 民 に無 償 で提 供 してい る 。
第 五 に、 この プ ログ ラム の予 算 が 利 用 で きる 時 は い つ で も、委 員 会 が老 人 を村 の成 人教 育 コ ース の 講 師 と して や とい 、 い ろ い ろ な 狩猟 法 や 地理 的 な知 識 に つ い て村 人 に 伝 授 で きる よ う に して い る 。例 え ば 、 この教 育 プ ロ ジ ェ ク トに よっ て何 人 か の村 の若 者 は呼 吸 穴 を利 用 した ア ザ ラ シ猟 の や り方 を学 び 、冬 場 に は何 度 か そ の 方 法 で 狩猟 を 行 な っ て い る。
③狩猟者支援 プログラムの諸影響
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カナ ダ国 ヌ ナ ビ ッ ク ・イ ヌ ビ ッ トの社 会 経 済 変 容 狩 猟 者 支 援 プ ロ グ ラ ムの 諸 影 響 を経 済 的 な もの と社 会 的 な もの の2点 に分 け て 論 じ て み た い 。
狩 猟 者 支 援 プ ロ グ ラ ムの 利 用 に よっ て ア ク リ ビ ック村 で は 、大 型 ボ ー トを購 入 し、
狩 猟 ・漁 扮 活 動 に役 立 て る と と もに 、村 に持 ち帰 られ た獲 物 は狩 猟 遠 征 に参 加 した者 の 取 り分 を取 っ た後 に村 中の 全 て の イ ヌ イ ッ トの世 帯 に均 等 に無 償 で分 配 され る よ う
に な った 。
村 の 発 起 に よ る セ イ ウチ 猟 、 シ ロイ ル カ猟 、 カ リブ ー猟 や 集 団 で の ホ ッキ ョク イ ワ ナ漁 の 場 合 、 村 人 全 員 で 共 食 す る分 と狩 猟 参 加 者 の取 り分 を除 い た後 に 、獲 物 の 肉 は 全 世 帯 に等 し く分 配 され る。 一 方 、全 体 に分 配 され る 肉や 魚 は 、 プ ロ グ ラ ム のお 金 で 村 が 狩 猟 参 加 者 か ら買 い 上 げ る形 を取 り、狩 猟 参 加 者 に は代 金 が 支 払 わ れ る 。
また 冬 に は、 個 々 の 狩猟 者 が カ リブ ー猟 へ 行 き、余 剰 とな る 肉 を持 ち帰 っ た場 合 に は、 この 肉 を村 に売 る。 この 肉 も また狩 猟 者 支 援 プ ロ グ ラ ムの 予 算 で 買 い 上 げ られ 、 肉 は村 はず れ の 所 に作 られ た 冷 凍庫 か わ りの雪 の家 の 中 に入 れ られ る。 食 料 の必 要 な 村 人 は 自 由 にそ こか ら肉 を と る こ とが許 され る。
以 上 の よ う に ア ク リ ビ ッ ク村 で は 、狩 猟 者 支 援 プ ロ グ ラ ム を利 用 して 、村 が 組 織 す る狩 猟 や 漁 携 に よ っ て肉 や魚 を獲 得 し、村 人 に主 食 で あ る 肉や 魚 を少 しで も多 く供 給 しよ う と努 力 して い た。 また村 に魚 や 肉 を もた ら し、 村 に よ って そ れ らが 買 い 上 げ ら れ た 場 合 、 村 か らそ の狩 猟 者 に現 金 が 支 払 わ れ る こ とに な っ てい た 。 村 が 組 織 す る狩 猟 や 漁 携 で 持 ち帰 られ る獲 物 は各 回一 世 帯 に付 き1週 間 程 度 の 食 料 を供 給 す る にす ぎ ず 、 恒 常 的 な食 料 供 給 源 に は な って い な い点 で 、村 人 全 体 に対 す る経 済 効 果 はあ ま り なか った 。 しか し普 段 で あ れ ば入 手 で きな い シ ロ イ ル カや セ イ ウチ の 肉や 脂 肪 を村 人 全 員 が 入 手 で きる点 は金 銭 に換 算す る こ とが で きない 文 化 社 会 的 な価 値 が あ る こ と を 指 摘 してお きた い。 この 肉や 魚 の余 剰 を村 に売 った 狩 猟 者 は現 金 収 入 を得 るが 、 予 算 の枠 が 決 っ て い る の で、 肉 を村 に売 る収 入 だ け で専 従 の狩 猟 者 と して生 計 をた て る こ とは不 可 能 に近 い。 さ ら に イヌ イ ッ トの人 口が 急 増 し続 け れ ば 、 現 在 の 制 度 を実 施 し て い る 限 りは 、結 果 的 に一 人 あ た りに分 配 され る 肉や 魚 の 量 は減 少 す る こ とに な り、
将 来 は問 題 とな る こ とが 予 測 され て い た 。
次 に社 会 的 な効 果 を考 えて み た い 。 この プ ロ グ ラ ムで 買 い 上 げ られ た 肉や 魚 は原 則 と して村 の世 帯 全 部 に平 等 に配 られ る とい う点 で、 分 配 量 に係 わ り無 く分 配 の 社 会 規 範 な い しコ ミュ ニ テ ィ ー全 体 の福 祉 とい う理 念 が 象 徴 的 に具 現 化 さ れ てお り、 イ デ オ ロ ギ ー の再 生 産 に 間違 い な く貢 献 して い た 。 また、 こ の プ ロ グ ラ ム の運 営 委 員 会 は ク リス マ ス や復 活 祭 の時 に は村 人全 員 が参 加 で きる夕 食 会 を準 備 し、共 食 の 機 会 を提 供 して い る 。 この よ うな共 食 は、村 人 の 間 の社 会 的連 帯 性 や 村 人 と して の ア イ デ ンテ ィ テ ィー を維 持 、 強化 した り、再確 認 をす る機 能 を有 してい る と言 え よ う。
筆 者 は別 稿 に お い て ア ク リ ビ ッ ク村 で は狩 猟 者 支 援 プ ロ グ ラ ムが 比 較 的成 功 を して い る と指 摘 した一 方 で 、 イ ヌ ク ジュ ア ッ クや カ ンギス ア ル ジ ュ ア ック(Kangiqsualujj
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uaq)な どの 人 口規 模 が 大 きな村 で は、 経 済 的 に も社 会 的 に も効 果 を上 げ て い な い こ とを指 摘 した(岸 上1993)。 そ して ア ク リ ビ ック村 が2つ の 相 互 に 姻 戚 関 係 の あ る親 族 集 団か ら な る小 規 模 な村 で あ る とい う条 件 に着 目 し(岸 上1993:315)、 イ ヌ イ ッ
トの狩 猟 者 支援 プ ロ グ ラ ム が効 果 的 に機 能す る の は 、村 の 人 口規 模 が 小 さい こ とお よ び村 の構 成 が拡 大 家 族 関係 にあ る生 活 を シ ェ ア ーす る人 々か ら成 り立 って い る場 合 で あ る こ と を指摘 した(岸 上1993:315)。
現 在 の ヌ ナ ビ ック地 域 に村 落 は 、一 部 の例 外 を除 い て人 口規 模 は500名 を越 え 、 か つ それ ぞ れ の村 が 複 数 の親 族 集 団 か ら成 り立 って い る こ とか ら、 この プ ロ グラ ム の運 用 上 の 問 題 点 は プ ロ グ ラ ム を導 入 した 当初 よ り予 測 しえ た。 実 際1990年 台 に入 りこの プ ロ グ ラム は破 棄 され 、 マ キ ビ ック会 社 の主 導 に よ り村 落 間 相 互 交 易 制 度(inter‑com munitytrade)の 導 入 が 計 画 さ れ 、実 行 に移 され つ つ あ る。
6.ヌ ナ ビ ッ ク 地 域 に お け る 村 落 間 相 互 交 易 の 導 入
1990年 代 に入 りヌ ナ ビ ック ・イ ヌ イ ッ トの 政 治 経 済 団 体 で あ る マ キ ビ ッ ク会 社(M akivikCorporation)は 、 狩 猟 や漁 携 に よ って獲 得 した ワモ ン アザ ラシの 肉やホ ッキ ョ
ク イ ワナ の商 業 化 を提 案 した。 この 提 案 は、 無償 で 分 配 され た り分 与 され て い る伝 統 的 な 食物 を イヌ イ ッ トが 現 金 を 出 して 買 うで あ ろ う とい う前 提 に立 つ もの で あ る(M akivik1992:60‑61)。 この 商 業 化 と は、 狩 猟 者 や 漁 扮 者 が 捕 獲 し た 肉 や 魚 を各 村 に あ る村 落 間相 互 交 易 委 員 会 が 購 入 し、村 の 加 工 工場 で 検査 、加 工 、 ビニ ー ル袋 詰 め を 行 な い 、村 民 に売 る と と もに他 の 村 に も出荷 し売 る とい う もの で あ る 。狩 猟 者 や 漁扮 者 は獲 物 を委 員 会 に 売 る こ とに よ り、 現 金 収 入 を得 る こ とが で き るの で あ る。
この村 落 間相 互 交易(略 称ICT)に は以 下 の よ うな2つ の 主 要 な 目標 が あ る(Maki vik1992:60)。 第 一 は ヌ ナ ビ ック地 域全 体 に伝 統 的 な 食 物 を万 遍 な く配 給 で き る よ
うにす る こ とで あ る。 ヌ ナ ビ ック には 、 ア ク リ ビ ッ クや ク ア タ ク(Quataq)の よ う に 狩猟 場 や 漁 携 場 が 近 くに あ り多 くの 肉 や魚 を 入手 で きる村 もあ れ ば 、 クジ ュ ア ク(Ku ujjuaq)や ク ジ ュ ア ラ ー ピ ック(Kuujjuarapik)の よ う にそ うで ない 村 も あ る。 ま た ア
ク リ ビ ックの よ うに ホ ッキ ョクイ ワナ が豊 富 な 地域 もあ れ ば 、 カ ンギ ス ア ル ジュ ア ッ クの よう に カ リブ ー が多 数 取 れ る地 域 もあ る 。 こ の村 落 間相 互 交易 で は 、村 の 余剰 食 物 を他 村 に売 り、 自 らの村 にな い 食料 を得 る と と もに 狩猟 者 や漁 携 者 は現 金 収 入 を得 る こ とが で き る仕 組 に な っ て い る。 しか も冷凍 庫 の使 用 な どに よ り多 くの種 類 の伝 統 的 な食 料 を一 年 を通 して 地域 全 体 に供 給 す る こ とに よ りイ ヌ イ ッ トの食 物 の 自給 率 の 向上 や 栄 養 バ ラ ンス の 向上 が 可 能 とな る 。 第 二 に この 交 易 は生 業 の 主 な 従 事 者 で あ る45才 か ら65才 ま で の イ ヌ イ ッ トの経 済状 態 の改 善 を 目標 と して 制度 化 され る。 この 世 代 の イヌ イ ッ トは正 規 の教 育 を受 け て お らず イ ヌ イ ッ ト語 以外 を話 す こ とが で きな い た め に専 従 の賃 金 労 働 に つ くこ とが で きず 、福 祉 金 に頼 りな が ら生 業 活 動 を続 け て
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カ ナ ダ 国 ヌ ナ ビ ッ ク ・イヌ ビ ッ トの社 会経 済 変 容 い る 。 も し彼 らが獲 得 した 肉や 魚 を、 日本 の 漁 師 の よ うに売 り現 金 を得 る こ とが で き る な らば 、 自立 的 な生 業 を営 む こ とが で きる よ うに な り福 祉 金 に頼 らな くて もす む よ
うに な る 。
1992年 の秋 か ら冬 に か け て加 工 工 場 が 建 設 され た ク ア タク 、 カ ンギ ス ァ ル ジ ュ ァ ッ ク とウ ミ ウヤ ク(Umiujak)で パ イ ロ ッ ト ・プ ロ ジ ェ ク トが行 な わ れ 、 こ の交 易 が 実 現 化 され よ う と して い る。 さ らに1993年11月11日 に は イ ヌ イ ッ トとケベ ック州 政 府 は30 年 間 の期 限付 で 一 部 の野 生 動 物 の商 業 化 合 意 に 関す る協 定 を締 結 した(Makivik1993 /1994)。 こ の結 果 、 カ リ ブー 、雷 鳥や 野 兎 ら を地域 内 の み な らず 、 ヌ ナ ビ ッ ク 以 外 の 地域 へ 売 りに 出す こ と も可 能 に な った 。 筆 者 は ヌ ナ ビ ック地 域 にお け る村 落 間 相 互 交易 や 野 生 動物 の 商 業化 は イ ヌ イ ッ ト社 会 の 変 容 を考 え る上 で非 常 に重 大 な事 件 で あ る と考 え て い る 。 この制 度 が う ま く機 能 す れ ば伝 統 的 な食 料 め分 与 や 分 配 の 制 度 の 崩 壊 を意 味 す る。 一 方 、野 生 動 物 の 肉 や 魚 に関 して は従 来 通 りの分 与 や 分 配 が 機 能 し続 け れ ば 、村 落 間 相 互 交易 の経 済 効 果 は上 が らない とみ て よい 。 いず れ にせ よマ キ ビ ッ ク会 社 に よ る この 制 度 の導 入 は ま さ に生 業=貨 幣 混 交 経 済 か ら貨 幣 経 済 へ の 移 行 を不 可 避 の もの とみ る 近代 経 済 学 の立 場 にた つ 経 済 戦 略 で あ る 。
7.ヌ ナ ビ ッ ク ・イ ヌ イ ッ トの 社 会 経 済 変 容
ヌ ナ ビ ッ ク ・イ ヌ イ ッ トは南 限 地 域 で は イ ンデ ィ ァ ン との接 触 や 交 渉 が あ った もの の(FrancisandMorantz1983)、 か つ て は イ ヌ イ ッ ト集 団 同士 の ロ ー カ ル ・ネ ッ ト ワー クか ら な る独 立 した狩 猟 者 社 会 を形 成 して い た とい って もよい。 ところが ヨーロ ッ パ か ら来 た 捕鯨 者 、 漁民 や 毛 皮 商 人 そ して キ リス ト教 の宣 教 師 ら と接 触 を始 め 、 よ り 強 力 な 政 治 経 済 力 の あ る社 会 と交易 関 係 に はい った 。 こ の交 易 関係 は 当初 は季 節 的 で 散 発 的 な もの で あ った が 、時 代 が 進 む と と もに経 済 的 な外 部 へ の依 存 化 が 進 展 し、 生 業 を営 む た め に は毛 皮交 易 か ら現 金 を獲 得 しそ れ を生 業 の運 営 の た め に投 資 す る とい うパ ター ンが 一 般化 した 。 こ の時期 に は イヌ イ ッ トは 、 ホ ッキ ョク キ ッ ネや アザ ラ シ の毛 皮 を ヨー ロ ッパ や カ ナ ダ南 部 か ら きた毛 皮 商人 に売 る とい う一種 の コマ ーシ ャル ・ ハ ン タ ー(Stiles1992)で あ り、 か つ食 料 を得 る た め の 生 業 ハ ン タ ー で あ っ た 。 ワ モ
ンアザ ラ シや ホ ッキ ョクキ ツ ネ の場 合 に は、 毛 皮 は売 られ 、 肉 は食 料 に な っ たの で あ る。 毛 皮 市 場 で の 毛 皮 の価 格 が イヌ イ ッ トに とっ て 良 い 限 りは 、毛 皮 交 易 に参 加 す る こ とに よ っ て現 金 を得 る こ とが で き、 そ の現 金 を利 用 す る こ とに よっ て生 業 活 動 を維 持 す る こ とが で き た。
マ ー フ ィ ら(1956)の 説 に よる と貨 幣 経 済 へ の小 規 模 社 会 の接 合 や 包 合 は社 会 の 根 底 的 な崩 壊 的変 化 を もた らす と考 え られ て きた 。 と ころ が ヌ ナ ビ ッ ク ・イ ヌ イ ッ ト(岸 上1990,1992b,1993)や パ フ ィ ン島 イヌ イ ッ ト(Wenzel1991)は 、1980年 代 の 半 ば か ら ヨー ロ ッパ 共 同体 で の 毛皮 の輸 入 禁 止 に よっ て 毛皮 交易 か ら現 金 収 入 が得 られ な
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くな る まで 、 毛皮 交 易 か ら得 られ る現 金 で 生 業 活動 を維 持 して きた ので あ った 。狩 猟 採 集 民社 会 で の基 幹 とな る 生 業 活 動 の社 会 経 済 的 意 義 は これ まで十 分 に認 識 され て き た(例 え ばFreeman1984;Wenzel1991;岸 上1994)。 す なわ ち1980年 代 末 ま で の ア ク リ ビ ッ ク村 の事 例 は変 容 仮 説 で は な く社 会 再 生 産 仮 説 を支 持 して い る。 イ ヌ イ ッ ト の生 業 とは単 な る経 済 活 動 で は な く社 会 経 済 シ ス テ ム で あ り、食 物 獲 得 の た め の集 団 の組 織 化 、獲 得 物 の分 配 と消 費 の シ ス テ ム で あ り、生 業 の維 持 は社 会 関係 の再 生 産 に 直 結 して い た ので あ る。
1980年 代 の前 半 に、 ジ ェ ー ム ス湾 協 定 の も と生 業 活 動 を維 持 す べ く狩猟 者 支 援 プ ロ グ ラ ムが 導 入 され た 。 こ の プ ロ グ ラ ムで は、 イ ヌ イ ッ トは賃 金 労働 者 をふ くめす べ て の村 人 が 平 等 に狩 猟 支 援 プ ロ グ ラ ムか ら恩 恵 を受 け る こ とが で きる よ うに設 計 され て い た。 ヌ ナ ビ ッ ク ・イ ヌ イ ッ トの 場 合 は ク リ ー ・イヌ イ ッ トの 場合 とは異 な り個 人 を 対 象 とす るの で は な く、 村 全 体 を プ ロ グ ラ ムの 対 象 単 位 とす る傾 向 が あ り、 増大 し多 様 化 す る人 口 に対 処 で き ない よ う な プ ロ グ ラム の 運 用 で あ った 。結 果 と して この プ ロ グ ラム は 失 敗 に終 わ っ た 。 しか も1983年 以 降 は、 ホ ッキ ョクキ ツ ネや アザ ラ シの毛 皮 が 市 場 で ほ とん ど売 れ な くな った た め 、 イ ヌ イ ッ トは 政 府 支 出 の生 活 補 助 金 や福 祉 金 以 外 には 安 定 した現 金 収 入 源 が な くな っ て し まっ た 。 そ れ らの現 金 収 入 に頼 りなが ら 狩 猟 漁携 活動 を続 け ざる を得 な くな っ た の で あ る 。
1990年 前 後 に は 、 ヌ ナ ビ ッ ク ・イ ヌ イ ッ トに は生 業 の維 持 が難 し く感 じ られ る よ う に な り、 この 地域 の政 治経 済 団体 で あ る マ キ ビ ック会 社 は生 業 活 動 の 産物 の商 業 化 に 踏切 る こ とに な っ た 。 こ れ は社 会 の根 底 的変 化 が起 こっ て い る か将 来 起 こる こ とを象 徴 的 に示 す もの で あ る と言 え よ う。現 在 の ヌ ナ ビ ック社 会 で は 、30才 台 以下 の若 者 を 中心 に賃 金 労 働 へ の就 職 と生 業 離 れが 進 ん で い る 。一方 、40才台 の生業従 事者 が コマ ー シ ャ ル ・ハ ンタ ー化 す る とな れ ば 、生 業 本 来 の持 つ 意 義 が 変 化 す る こ とを余 儀 な くさ れ社 会 の質 的 変 化 が 進 行 す る こ とに な る 。別 言 す れ ば、イ ヌイ ッ ト社 会 の経済 が生業=
貨 幣 混 交 経 済 か ら貨 幣 経 済 へ とさ らに変 容 してい くこ とを意 味 す る。
ヌ ナ ビ ッ ク ・イヌ イ ッ トを取 り巻 く政 治 的 状 況 の た め 、 イヌ イ ッ トと しての 民 族 意 識 は高 揚 して きた し、 これ か ら も簡 単 に消 滅 す る と は考 え られ な い 。 しか しイヌ イ ッ ト社 会 の 生 業 活 動 が 弱 体 化 した り商 業 化 す る につ れ て拡 大 家 族 関係 を基 盤 と して きた 側 面 が 大 き く変化 を余儀 な くされ核 家 族 世 帯 や 個 人 が 経 済 や社 会 の基 本 単 位 にな る可 能 性 が 大 きい こ と を指 摘 して お きた い 。 す なわ ちヌ ナ ビ ッ クの事 例 は 、将 来 的 に 変 容 仮 説1と2を 部分 的 にせ よ支 持 す る可 能性 が あ るの で あ る。
ヌ ナ ビ ッ クの事 例 は 、 同 じジ ェー ム ス 湾協 定 に合 意 した ク リー ・イ ンデ ィ ァ ンの 事 例 と比 較 した場 合 、 そ の相 違 が 顕著 にな る。 ヌ ナ ビ ッ ク ・イ ヌ イ ッ トもク リー ・イ ン デ ィア ン も生 活 様 式 と して の生 業 を維 持 す る こ と を第 一 の 目標 に あ げ てい た が 、 後 者 は協 定 の 中 に生 業 従 事 者 に対 して収 入 保 証 プ ロ グ ラム を導 入 し、一 定 の条 件 で 生 業 に 従 事 す る だ けで 現 金 収 入 を え る こ とが で きる よ う に し、 生業 の維 持 を可 能 と した(岸
・,
カナ ダ国 ヌナ ビ ッ ク ・イヌ ビ ッ トの社 会 経 済 変 容 上1995)。 ク リー ・イ ンデ ィア ンの場 合 、 人 口の 半 分 は非 生 業従 事 者 で あ る もの の 、 残 り半 分 に対 す る経 済 お よび社 会 的効 果 が 上 が って い る。 特 に ク リー ・イ ンデ ィ ァ ン の 場 合 に は、 生 業 を行 な うた め に は 長期 間(6か ら9ヵ 月 間)村 か ら離 れ て キ ャ ンプ生 活 を行 な う とい う形 態 を取 り、特 定 の 狩猟 場 と人 々 の 問 の 関係 も緊密 で あ る 。 さ らに 現在 で も ク リー の人 々 は 、野 生 動 物 の 肉 の 商 業 化 に反対 して い る。 しか もク リーの 場 合 は 、 多 くの研 究者 が指 摘 す る よ うに生 業 活 動 と毛 皮 交易 は矛 盾 す る もの で は な く、
毛 皮 交易 に携 わ りつ つ 、彼 らは生 業 活 動 を維 持 し、 ひ い て は社 会 の再 生 産 を行 な って きた の で あ る 。 ク リー は政 治 経 済 的 実 践 を 通 して社 会 変化 を統 制 しよ う と努 力 し、 あ る程 度 そ れ に 成功 して き た事 例 で あ る 。
一 方、 ヌ ナ ビ ック ・イ ヌ イ ッ トの場 合 は 、 同 じ よ うな条 件 下 にあ りなが ら カナ ダの 主流 社 会 の政 治 経 済 力 に押 し流 され つ つ あ る事 例 で あ る 。獲 物 を商 業 化 し流 通 させ る こ とは 、社 会 関係 の 再 生 産 の 最 も重 要 な要 因 の一 つ で あ る食 物 の 分 与 や 分 配 の 実践 を 阻害 す る こ とに な り、 イヌ イ ッ ト社 会 の 基 盤 を根 底 か ら覆 す 自体 に な りか ね ない 。筆 者 が注 目 して い る点 は、 も しこの 村 落 問相 互 交 易 が大 きな障 害 にぶ つ か らず機 能 す る こ とが あ る な ら ば、 ヌ ナ ビ ッ ク ・イ ヌ イ ッ ト社 会 はす で に質 的 な社 会 経 済 変容 を遂 げ て い る と断定 で き る。 一 方 、 この交 易 に対 しイ ヌ イ ッ トの 人 が 反対 す る な らば 、彼 ら の社 会 は質 的 な社 会 経 済 変 容 をい まだ 遂 げ て い な い こ との左 証 で あ る。
8.結 語
こ こで は ヌ ナ ビ ッ ク ・イ ヌ イ ッ トの事 例 を取 り上 げ、 イヌ イ ッ ト社 会 の社 会 経 済 変 容 を論 じて きた 。
カ ナ ダの イヌ イ ッ ト社 会 の歴 史 を振 り返 え る時 、 毛 皮 交易 の よ うな貨 幣 経 済 へ の 包 合 、定 住 化 、 新技 術 の採 用 や先 住 民 諸 権 益 措 置 交 渉 の 合 意 な ど複 数 の社 会 ・経 済 変 容 要 因 を抽 出 す る こ とが で きる 。 この社 会 ・経 済 的 変 容 をア ク リ ビ ック村 の事 例 で 見 た 場 合 、 多 くの 変動 要 因 の影 響 下 に あ りな が ら1980年 代 末 まで は少 な く と も生 業 活 動 を な ん とか維 持 す る こ とに よっ て社 会 関係 は基 本 的 に再 生産 され て きた と言 え る(岸 上
1990、1991、1992b、1993)。 これ は従 来 の生 業論(例 え ば、Freeman1984;Feit1982, 1991;Wenzel1991)の 考 え 方 や社 会 再 生 産 仮 説(仮 説4)を 支持 す る もの で あ る 。
す で に指摘 した よ うに現 代 の狩 猟 や 漁 掛 活 動 を維 持 す る た め に は現 金 が 必 要 で あ る が 、 毛 皮 の価 格 の低 迷 な どに よ りイ ヌ イ ッ トは従 来 の よ うに毛 皮 交 易 で 儲 け た現 金 だ けで 狩猟 活動 を続 け る こ とが 困難 に な りつ つ あ っ た 。 ジ ェ ー ムス 湾 協 定 の よ うな 先 住 民 の 諸権 利 に 関す る政 治 交 渉 にお い て もイ ヌ イ ッ トは生 業 権 を守 り、 生 業 を維 持 す る よ うな取 り決 め を政 府 との 間 で 結 び、 生 業 活 動 の維 持 を望 ん だ。 結 果 と して ヌ ナ ブ ッ ト ・イ ヌ イ ッ トの プ ロ グ ラム は ク リー ・イ ンデ ィア ンの プ ロ グ ラ ム とは異 な り経 済 的 に失敗 に終 わ っ たが 、1980年 代 に入 りヌ ナ ビ ック 地域 で は狩 猟 者 支 援 プ ロ グ ラム が創
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