冂本 管理会計 学 会誌 管 理 会 計 学 第2巻 第1号 1993年 春季 号
特 集
グ ロ ー バ ル
企 業
に耐
え るた め の 基 本 的 管 理 思考
松 田 修一 *
〈研 究 要旨〉
1985 年のプラザ 合 意 以降の急 激 な 円高誘導以降, さ らにわ が国 人冂構 造の 高齢化 進 行が相 俟 っ て, 各 企 業の グロ ーバ ル戦 略の重 要 性が強 調 さ れ る ように な っ て きた.
し かし,昨今の新聞報道に み る 通 り,企 業の特に欧米先進 国へ の 現 地 化の 多くは, 苦戦 を強い ら れ てい るの が現 状である.
本 論 文で は, 次の 3 点に関し て検 討してい る.
1. 米国に進出 し た わ が国子会社の経営実態の調査を もと に, 各種 経 営 問 題 を 明ら か に して い る.過 去 5 年 間 売上高の 年 率10%前 後の成 長と従 業 員の 雇用の 創出 には , 大変な貢献を して きたが,利 益は悪化傾向に あ り,配 当は期 待で きない . 2. 1990 年当 時, わ が 国企 業, 特 に製 造 業は史上 空 前の好 決 算に も か かわ ら ず,先 進 諸 国での子会 社経営 が な ぜ軌道に乗ら ない の か を明確にする.い わゆ る 日本 型経営の 特性とこ こ か ら発生する 目本企業の 収益構造 と資金構造が, 欧米先 進 国に は移転が困難であるのが 原因である.
3 . こ の ような状況下で,日本企業は グロ ーバ ル 企
業 として耐 え うる経 営 体 質に変 革する必 要が ある.管理 シス テ ムの 前提と しての 基 本行動 ,さ らに基 本 的 管 理
思考を変革する必 要が ある.と くに,経 営 管 理の基 本 と な る経 営 目標の 変 革,
親 子 会 祉 間の取 引の変 革 が 不 可 欠で ある.
〈キーワード〉
海外子会杜の苦戦, 日本企業の経営特性, H本企 業の収 益 源 泉, 日本企 業の経営 目 標の変革, 子会 社経営の変革
1. 米国進 出子会 社の 経 営 実態
1985年の プ ラ ザ合 意によ る円 高シ フ ト以 降わが 国 企業の 海外 直 接投資は急増 し, 企業規
1993年1月受 付
* 早稲Mk 学 教 授 (シ ステム科 学研 究所 )
管理会 計学 第2巻第 1号
模を拡 大 して い る との新 聞報道 が 相 次 い だ .し か し, バ ブ ル崩 壊 後, 海外子会社の業 績悪 化に よ り 連結 利益 がマ イ ナス になっ て い るとの報 道が 散見 さ れ る、こ の間 ま だ 5年 しか経 過 して い ない .こ こで は, わ が 国 企業の 海外 進出状 況 と最 大の市 場で あ る米 国に進 出 し た わ が 国 子会社の 経 営 実 態を 明確に し たい 。
1.1 わが 国企 業の 海 外 進 出状 況
日本企業の 海 外進 出 状況 を直接 投 資で 示 す と, 下記の表の通 りで ある .特に プラザ合 意 後の 1986 年 度 以 降の 直接 投 資は急 増 し て い る(1).
最大の 市場で ある米国で 競 争 力をつ け な けれ ば, グ ロ ーバ ル 時 代に生 き残れ ない との 判
断が働い て い る と同 時に, EC 統 合を睨ん だ欧 州へ の 投 資 も活発 で ある.た だ し, バ ブル 崩 壊の 1991年以降急減してい る.
表 1 製 造業 海外 直接 投資 許可 ・届 出額 と海 外生 産比 率
年 度 単 位 198411985 198611987 1988 1989
億 ドル 1
;
25 24 38 : 78 138 163
投資額
(うち 北米)
海外生産比率
一7
i l2
1 12 22 48 92 96
一一一
圭一一
% 4.3 3.0 3.2 40 49 5.7
出所 :通 商 産 業 省 産 業政 策 局 国 際企業 課 編 集 「第四回 海 外事業 活 動基 本 調 査 海外 投 資 統 計総覧」 平 成3年11月28 日よ り
この 結果, 1986 年 以 降製 造業の海 外生産比 率が増 加 し始め た.これ は, 海外 現 地生産が 定 着 して きた こ と を意味 し てい る.1991 年度 に は 7% に達 し て い る と推 測される。既に こ れ が 20 %前 後に達 して い る業 種は , 自動車, 電機 ・通信, 機 械の 3 業種で ある .こ の 3業 種に代 表 さ れる 日本 の グロ ーバ ル 先進 企業は,グル ープ 内競合 時 代 に突 入 し たとい える.
1.2 米国進 出子会社の調査
米 国に進 出 し てい るわ が 国企業の 経 営 実 態 調査 を し たの は,1990 年で あ る.調査対 象 会 社は, 日本 を代 表 する企業101社の 各 米 国子 会 社 群の うち最 大の 中核 子 会社の みで ある. ア ンケー トの業種 別発送先,回答 結 果を 示 す と,下記の 逓 りで あ る.
ア ン ケー ト回答 会社44社 中19社 につ い て , トッ プ ・イ ンタビ ュ ーを行 っ た .
ア ン ケー トの 内容は, 親 会社の 海外進 出意欲, 海外進 出 目 的,米 国子 会社に期待さ れて
グローバ ル企業に 耐える た め の基 本 的 管理 思考
表2 米国 進 出 関 係 会 社 の 調 査 の 回 答 回 収 結 果
業種 発 送 数 回答数 回収 率%
19 10 53.6
15 7 46.7
電機 ・通信 機 自動 車 ・部 品 精密 機器 ・事務機 その他 製 造
製造業計
13 4 30.8
17 6 35.3
64 27 42.2
9 5 55.6
墨4 7 5α0
商社 金 融機関
その他 非 製 造 非 製 造 業 計
14 1 5 35,7 37 1 17 !
「一
45.9
一一‘圃.
合 計 101 44 43.6
い る事 項, トッ プ を含 む人の 現地 化 , 人の 定 着 化 施 策, 責 任 権 限の委譲, コ ミュ ニ ケ ーシ
ョ ン,経営 業 績の 推移 等で ある.イン タビ ュ ーは ,設 立 以 来 の事 業お よ び 組織拡 大,親 会 社の 指揮命令系統 , 真の 現 地化の 可能性 ,現 地 調 達率, 価格 移転 問 題 と親子間の 取引, さ
ら に アン ケー トの 補 完を内容と してい る.
こ の小 論で は, 調査 結 果の うちか ら米国進 出形 態 ,企業 業 績 , リス ク と管理 の み を採 用 して,グロ ーバ ル 子会 社の経 営 実 態 と 基本的管理 思考につ い て 検討するこ と と す る.
L3 米国 子会社の進出状況
日本企業の 海外 直接 投 資および製造 業の 海外生産比率に 関して は, 前 述 し た通 りで ある
が , 日本を代 表 する製 造 業 各社が どの ような米 国進出形 態 を とっ た か, ア ン ケ ー トに よ
っ
て 整 理 する と次の 通 りである.
この データ は, 回答 製造 業 27 社が, 米国に初め て進 出し た子会 社の 形態 を年代別 に表示 し た もの で ある。回答 子 会社 は ,進 出 各社の うち最 も伝 統が あ り,規模の大 きく,中核 的 な子会社で ある .
こ の 間の わが国の 景 気動向を示す と次の 通 りで ある. 〈 年 代 〉 < ト ピッ ク >
1963 〜64 オ リン ピッ ク景気
管 理 会 計 学 第 2 巻 第 1 号
1966 〜70 1971 1972 〜73 1973 1985
1987 〜 91
い ざ な ぎ景気
ニ ク ソン シ ョ ッ ク に よ り為 替変動相 場 制 に
日本 列 島改 造 ブーム 第一次石 油 シ ョ ッ ク
プラザ 合意によ る急 激な 円高 進 行 平成 景 気
米国へ の 進 出が 5 年 聞 き ざみ で 際だっ て増 加 して い るの は,東 京オ リン ピッ ク直前,列 島改 造ブ ーム ,さ らに プラザ合意後の 円 急騰以 降で あ る.特 に 1985 年以 降の 5年間は, 全 体の 31.5% に達 し, 「世界で生 き残るに は最 大の 市場で ある米国で勝 ち残る必 要が ある」〔3)
との認 識 が 強 か っ た とい うこ とがわ かる.
さて , 当該データ か ら, 進 出年 度 別の 各種 子 会社 数が,左上 か ら右下 に表 示 さ れて い る
こ とがわ かる .進 出形 態は,上位ほ ど年代が 古い こ と を意味 して い る .子会社 進 出の順 序 は,ロ ーリス クか らハ イ リス ク とい うこ とがで きる.最 もロ ーリス クの 商社の活用 は , 販 売お よ び 回 収 リス クは ほ と ん ど無い とい える. リス ク が 急 増 するの は, 製造 業が みずか ら 販 売 拠 点で ある米 国で 生 産 を 開 始 す る と きで ある.多 額の投下資金の 必 要性 と その 固定 化 , 表3 米国 子会 社の進出形 態 (製造 業 ) (単 位 :会社 数 ・%)
年代 59 年 形態
i以前
60
i65
馴
1
靭1
70
−74
75
−79
80
−8485 年
以降 合 計 商 社 ・代 理 店 の 活 用 ; 7
{
4 2 3 3 19
支店の 開設 ・販 売 会社の設立 1 5 10 6 5 5 3 34
サ ー ビ ス 会 社 の 設 立 3 1 2 2 8
生 産 会 社 (組 立 中 心)の 設 立 1 1 1 3 5 3i … 8 21
生産 会社 (開発 含む)の設立 1 i 1
… 2 r5
1 5 14 合 弁 会 社 の 設 立 1
1
1 3 2 5 12
企業 買 収 に よ る 会 社取 得 1 3 12 16
金 融 子 会 社 の 設 立 5 6 11
米 国 統 括 会 社 の 設 立 1 玉 一 8 ●ll
合 計 12 21 9 15 21 22 46 146
構 成 比 8 .214 .4 6 .210 .314 .415 .13L5100 .0
グローバ ル企業に耐える た め の基 本 的 管理 思考
さ ら に 現 地 従 業 員 の雇 用 拡 大 に よる雇用責任の 増 大で あ る.親 会 社か らの 業 務全 般の指 導 を含む支援 体制 が,単な る輸出に よ る販 売会 社の 運営と は飛躍 的に リス ク を増 大さ せ る. さ ら に, 企 業 買収は , ゼ ロ か らの ス ター トで は な く, 米 国 企業 を 時 価で購入 する の で あ るか ら, 買収 金 額は数 千 億に達 する こ ともある. しか もカル チ ャーの 全 く異な る 企 業を買 収 し,経 営 陣を 可能な か ぎ り残 し た ま まの間接 管理 によ っ て投 資回 収 をするの で あ る か ら,
リス ク は飛 躍的に 増大する.
ハ イ リス クの 米 国子 会社は, 特に 1985 年以降急増 して い る .ハ イ リス ク子 会社の リス ク を 可能なか ぎ り少な くするため に,金融 子 会社 を 設 立 し,さ ら に北 米統 括の た め の持株 会 社 を 設 立 して き た.統括 持 株会 社の 運 営 には各種の形 態 が あるが, 北 米で の リス ク を域 内
で解決 す る 地 域完 結型経営 を め ざし た布石で ある とい える.
海外 依 存経営が ます ます 進 行 す る と き, 国 内の みで 考えら れてい た グル ープ経 営の基本 的管理 思考 を変 質 する必要 がある.
1.4 米 国 進 出子 会 社の規 模 拡 大
米 国に進 出 し た グ ロ ーバ ル企 業の 目覚しい 躍進が, プラザ 合 意によ る円 高シ ョ ッ ク をの りこ えた1988 年 頃ジャ ーナ リ ズム を 賑 わ し た.
今 回の調査対 象で あ る米 国 進出の 中核企 業の 過 去5年 間に わ たる企業 規 模 拡 大の状 況を 売上高, 従 業 員数の推 移で 示 すと,次の通 り大 躍 進 であ るこ と が裏付 けら れる .
表4 過去5年 間にわ た る 企業規模の拡 大 (単位 :M $,人, %)
区分 規模指標 198513 199013 年 間増加率
売 上 高 1,128 1,806 99
全社
(38社) 従業員 666 1,204 12。6 売上高 613 1,343 17.0
製 造 業
(25社) 従 業員 762 1,395 12.9
売上高 2,201 2,772 4 ,7 非製 造 業
(13社) 従 業員 467 806 115
(注)売上高,従 業 員 数は1杜の 平均 を意味 してい る。
回 答会 社38社の平均 売上高 成 長 率が 9.9% で あ り, こ れ を製 造 業に限る と17.0% とい
管理会 計 学 第2巻 第1号
う高い 成長率で あ る,この売上高には ,現 地 生産の み ならず, 日本か らの 輸入製 品の 販売 も含まれ て い る.米 国 企業の成 長率が 2〜4% で ある か ら, 米 国内の シェ ア を拡 大 して い る
こ と がわかる .急 激な円高以降, 「良い もの を安 く」 提 供 する こ とに よっ て , わが 国製 品が 米国市場 に受け 入 れ られて きた こ とを意味 してい る.
従 業 員の 増 加 率は, 12.6% で ある .こ れ を製 造 業に限る と12.9% で ある .25社の平均 従 業員 数は 1,395 人に増 加 し, 雇 用の創 出に貢 献 して い る と同 時に, 雇 用 責 任が急 増 して い
るこ と が わ か る. 日本 国 内で あ れ ば, 売上 成長 率に比較 しこ れ程の従業 員の 増 加 は あ りえ ない .従 業員の平均的能 力 ,雇用 形態に相違 が あ るこ とに よ る.
さて ,米国へ 進 出 した 日本 企業, 特 に製 造業の 規 模 拡 大 は, 次の 2つ の課 題 が 発 生 す る.
(1) 子 会社の 規模 拡大に よる リス ク の急 増
日本企業の 製造 子 会 社の規 模 拡 大は, 単なる量 的拡 大の み な らず , 質 的向上 を伴 わ ざる
を え ない , し か も,企 業 グル ープ 内 にお け る 海外 シ ェ ア と海外に お け る 現 地化が 進行す る
の で ,各種の リス ク が 増 大 す る.
開 発 ・技術の 拠点 と して 開 発 リス ク, 資 金投 下増大 によ る 回収 リス ク,日本企業同 志の 競合 に よ る収 益 リス ク, 雇用 増大によ る雇 用維持 リス ク, 企 業 グル ープ 内 生 産 調 整 問 題等 が 含 ま れる.
(2)米 国における経 済摩 擦の 拡大
良 い もの をよ り安 くとい う日本企業の得 意 と す る継 続的 な 改良改 善を優先 し た プ ロセ
ス ・テ ク ノ ロ ジー ・ベ ース の進 出 は, 米 国企業に対す る シェ ア拡 大に は貢 献 し た が各種の 規 制 を 引 出 して き た,ダン ピング 問 題,価 格 移転問 題 ,総 量 規 制 ,現地調 達 率 問題 ,み な
し利益 課税 問 題 で ある.
L5 米国進 出 子会社の収益構造の悪化
日本企業が ,米 国にお ける シ ェ ア拡 大 を し な が ら 高い 利 益 率を 維持 し,余 裕の ある経 営を 行っ てい る の であれ ば問題は ない .米 国進 出 子 会社の 中核企業が,どの程 度の税 引 前利 益
率で あ るかの 調査結果 を示す と次の 通 りで ある (4)。
1985 年3月期と 1990 年3 月期 との 二 時 点 間の利 益 率の 推 移を示 してい る.1985年3月期
は, 第一次 ・第二次石油シ ョ ッ ク をの りこ え企 業 業 績が最高に 達 した時で あ る.
1990 年3月期は, プラザ 合意 後の急 激な 円高を克服 し, 証券 市場の ダ ウ 平均が38千 円 を