ベリンジアからみた新大陸文化起源の諸問題
著者 小谷 凱宣
雑誌名 国立民族学博物館研究報告
巻 8
号 2
ページ 489‑520
発行年 1983‑08‑31
URL http://doi.org/10.15021/00004456
小谷 ベ リンジアか らみた新大陸文化起源の諸問題
ベ リン ジ アか らみ た新 大 陸文 化 起 源 の諸 問 題
小 谷 凱 宣 *
Problems of New World cultural origins as seen from Beringia
Yoshinobu KOTANI
This paper reviews recent developments of studies on pre- historic cultures and paleoecological conditions in Beringia, formerly exposed land mass in the Bering Strait region during the Late Wisconsin period. Noteworthy is the implication that the vast expanses of the Circumpolar region were mainly steppe- tundra, providing favorable conditions for large mammals and, eventually, for man, and only locally covered by glaciers on high mountains and by boreal forest along major river systems.
The Paleoindian tradition, which is widely distributed from the Greater Southwest and Plains to the Eastern Woodlands, has been regarded as the oldest cultural manifestation in the New World. The American Paleoarctic tradition, radiocarbon dated from ca. 11,500 to 8000 B.P. and regarded as the earliest in Beringia, chronologically parallels the former and is represent- ed by two internally heterogeneous groups of sites in Alaska.
Cultural materials recently reported from the Meadowcroft Rock-shelter and other sites in the Americas are radiocarbon dated from ca. 20,000 to 14,000 B.P. and characterized by blade and point manufacturing techniques as well as unifacial flaking.
The presence of these techniques temporally prior to both the Paleoindian and American Paleoarctic traditions indicates some cultural relations with the Upper Paleolithic culture in Eastern
Siberia and is suggestive of the cultural basis from which these two traditions developed locally in North America. In the light of these new data, it is necessary to reconsider the traditional view that the Paleoindian tradition is the oldest in the New World.
*国立民族学博物館第 1研究部
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国立民族学博物館研究報 告 8巻 2号
1. は じめ に
H. ベ リ ンジァ の古環 境 1・ 渡 来 経路 の問 題
2. 約 20,000年 前 以 降 の 自然 環境 (1) ウ ィス コ ン シ ン氷 河 期最 寒 期
(2) ウ ィス コ ン シ ン氷 河期 最 末 期 (3) 沖 積世 初 頭
皿. 「先 パ レオ ・イ ンデ ィァ ン文 化 」 1>.パ レオ極 北文 化
V. ま と め
1 . は じ め に
筆 者 は , か つ て , ア ラ ス カ を 中 心 とす る ベ リ ン ジ ア (べ 一 リ ン グ 海 峡 付 近 に , 洪 積 世 の 氷 河 期 に 存 在 して い た 陸 橋 と そ の 周 辺 の 陸 地 の こ と) の 最 古 の 人 類 文 化 と そ の 自 然 環 境 条 件 を 概 観 し, 約 11,500年 前 か ら9000〜 8000年 前 の ア ラ ス カ の 先 史 文 化 (パ レ オ 極 北 文 化 と い う) と , 南 方 の 同 時 代 の パ レ オ ・イ ンデ ィア ン文 化 (ヤ ー ノ 文 化 と も い う) と の あ い だ に , か な り の 形 態 的 相 違 が あ る こ と を 例 証 す る と と も に , そ の 相 違 に つ い て の 説 明 は 将 来 の 課 題 と して の こ る こ と を 指 摘 した [小 谷 1974,1976]。 最 近 , D .E.デ ュ モ ン も, 新 し い考 古 学 的 資 料 に も と づ き, そ の 相 違 の こ と を 論 じて い る [D uMoND 1980]。 ま た , ウ ェ ス ト [W est l981],ラ フ リ ン [LAuGHLIN 1980:
chap.6;LAuGHLIN and W oLF 1979] も こ の 問 題 に触 れ て い る 。
新 大 陸 の 最 古 の 文 化 を 表 わ す 文 化 の 発 展 段 階 と して , ウ ィ リ ー と フ ィ リ ッ プ ス は 打 製 石 器 製 作 技 法 に よ る 非 定 型 の 石 核 石 器 や 剥 片 石 器 に特 徴 づ け られ る 先 史 文 化 の 存 在 の 可 能 性 を 論 じ た こ と が あ る [W ILLEY and PHILLIPs 1958:82−86]。 しか し, 彼 ら は 文 化 の 歴 史 的 発 展 段 階 説 の 石 器 段 階 の 一 部 に , こ れ を 加 え て は い な い 。 つ い で , 年 代 的 に古 い と考 え られ て い る石 器 お よ び 獣 骨 類 を 総 括 し て , A .L.ク リー ガ ー は
「先 尖 頭 器 文 化 伝 統 」 の 存 在 を 提 唱 した [K RIEGER l964]。 これ に 対 して , 多 く の 研 究 者 は , 地 質 学 的 位 置 付 け が 不 明 確 で あ る こ と , 共 伴 す る 動 物 相 が 明 確 で な い こ と,
独 立 し た 年 代 測 定 が 不 十 分 で あ る こ と な ど を 理 由 に , こ の 仮 説 に 否 定 的 立 場 を 取 っ て い る [H AYNEs l964,1967]。
現 在 , 新 大 陸 最 古 の 先 史 文 化 と み な さ れ , 大 多 数 の 研 究 者 が 支 持 して い る の は パ レ ォ ・イ ンデ ィ ア ン文 化 で あ る 。 こ の 文 化 は 北 米 の 大 平 原 , 南 西 部 を 中 心 に 広 く分 布 し て お り, ク ロ ー ヴ ィ ス 文 化 , フ ォ ル サ ム 文 化 な ど の 名 称 で よ ば れ て い る 。 こ の 文 化 は 次 の 特 徴 を もつ [H AYNEs 1964,1967; M ARTIN 1973; M oslMANN and M ARTiN l975; W orm ington 1957;W ILLEY }966:ch.2]。
(a) 文 化 要 素 は 打 製 石 器 が 主 体 で , そ の 石 器 は 樋 状 剥 離 痕 や 平 行 剥 離 痕 を もつ 尖 490
小谷 ペ リンジアか らみた新大陸文化起源 の諸 問題
頭 器 (ポ イ ン ト) に 代 表 さ れ る 。 こ れ ら の 剥 離 痕 は 押 圧 剥 離 技 法 に よ り つ く ら れ て い る 。
(b) 地 質 年 代 の う え で は , ウ ィ ス コ ン シ ン氷 河 期 の 最 終 段 階 (上 部 洪 積 世 末 )か ら 沖 積 世 初 頭 に 位 置 づ け ら れ る 。
(c) 共 伴 す る 出土 遺 物 に ,現 在 は 絶 滅 して しま っ て い る か ,遺 跡 周 辺 の 地 域 に は 生 存 し て い な い , 大 型 哺 乳 動 物 の 骨 を と も な う。 こ れ ら の 大 型 獣 が パ レ オ ・イ ン デ ィ ア
ン文 化 の 担 い 手 の 狩 猟 の 対 象 で あ っ た と考 え られ て い る。
(d) 放 射 性 炭 素 年 代 測 定 に よ る と , い ま か ら 約 12,000年 前 か ら 9000〜 8000年 前 に 年 代 づ け られ る 。
パ レオ ・イ ン デ ィ ア ン文 化 の 尖 頭 器 (ポ イ ン ト) は, 最 初 の 発 見 ・発 掘 の 地 域 や 遺 跡 の 名 称 , 技 法 上 の 特 徴 に も と つ い て フ ォ ル サ ム ・ポ イ ン ト, ク ロ ー ヴ ィ ス ・ポ イ ン ト, プ レ イ ンヴ ュ ー ・ポ イ ン ト, 平 行 剥 離 ポ イ ン トな ど と よ ば れ て い る [W ILLEY 1966:26−77】。 こ れ ら に 共 通 す る特 徴 は , 細 長 い 剥 片 (多 く の ば あ い 石 刃 ) に 両 面 加 工 が 施 こ さ れ て い る こ と で あ る 。 そ の 加 工 法 は , い わ ゆ る 押 圧 剥 離 技 法 で , 微 細 な 剥 離 を 施 こ す 技 法 で あ る 。 こ の 押 圧 剥 離 法 に よ る 剥 離 痕 の 形 態 的 相 違 に も と づ き , 樋 状 剥 離 痕 あ る い は平 行 剥 離 痕 と 呼 ん で い る 。
パ レオ ・ イ ン デ ィ ア ン文 化 の 尖 頭 器 は , 石 刃 技 法 に も とつ く と い え る 。 石 刃 技 法 と は, 少 量 の 石 材 (石 核 )か ら細 長 い , ほ ぼ 平 行 な 縁 辺 を も つ 石 片 (剥 片 )を 間 接 打 法 や 押 圧 剥 離 法 に よ り大 量 に つ く り だ す , 一 連 の 石 器 製 作 技 法 の こ と を い う 。 こ の 技 法 に よ り製 作 さ れ た 剥 片 (石 刃 ) が 二 次 的 に 加 工 さ れ て , ビ ュ ラ ン, ス ク レ イ バ ー な ど の 各 種 の 石 器 に 加 工 さ れ る こ と に な る 。 こ の 石 器 製 作 技 法 は , 旧 大 陸 の 後 期 旧 石 器 文 化 の 主 要 特 徴 で あ る 。 そ の 起 源 地 は, 東 ヨ ー ロ ッ パ の 平 原 地 方 と い わ れ て い る [M tiLLER−
BECK 1968,1967]。
こ の 石 刃 技 法 の 発 展 が , 後 期 旧 石 器 文 化 時 代 に お け る 寒 地 へ の ヒ トの 居 住 空 間 の 拡 大 に 深 く関 わ り あ っ て い た こ と は , こ の 時 期 の遺 跡 が , 中 期 旧 石 器 時 代 ま で に 遺 跡 が 認 め られ な か っ た 寒 冷 地 域 に お い て 急 増 す る現 象 か ら推 測 で き る 。 つ ま り, ヒ トは 後 期 旧 石 器 時 代 に 本 格 的 に 寒 地 に 進 出 を し始 め , 樹 木 の と ぼ し い ッ ン ド ラ地 帯 を も居 住 空 間 と した の で あ る。 こ の 進 出 の 始 ま り は 地 質 年 代 で は 最 後 の 氷 河 期 (ヴ ュ ル ム 氷 河 期 , ウ ィ ス コ ン シ ン氷 河 期 ) の 前 期 か ら後 期 の こ と で , 放 射 性 炭 素 年 代 で は , 今 か ら約 40,000年 か ら30,000年 前 以 降 の こ と で あ っ tc。
現 在 ま で に ベ リ ン ジ ア で 確 認 さ れ て い るパ レ オ 極 北 文 化 も, の ち に 触 れ る よ う に , 石 刃 技 法 に 特 徴 づ け ら れ て い る 。 しか し , こ の パ レ オ 極 北 文 化 の 遺 跡 は , 大 別 し て ,
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国立民族学 博物 館研究報告 8巻 2号 二 群 に 分 け ら れ る 。 第 一 の 遺 跡 群 か ら は, 大 型 石 刃 と そ れ を 加 工 し た 石 器 が 出 土 し て い る 。 こ れ に 対 し第 二 の 遺 跡 群 か ら は大 型 石 刃 と と も に , 細 石 刃 お よ び 細 石 核 , 両 面 加 工 を 施 した 尖 頭 器 (ポ イ ン ト) も 出 土 し て い る 。 こ の 両 遺 跡 群 は , 放 射 性 炭 素 年 代 測 定 に よ り, と も に 約 11,500年 前 か ら 9000〜 8000年 前 に 年 代 づ け られ て い る 。 大 平 原
・南 西 部 地 方 で パ レ オ ・イ ンデ ィ ア ン文 化 が 発 展 した の と ほ ぽ 同 じ時 期 に , ベ リ ン ジ ア に は 文 化 内 容 の 若 干 異 な る パ レ オ 極 北 文 化 が 存 在 して い た こ と に な る 。
ア ラ ス カ と カ ナ ダ 北 西 部 で は , 1970年 代 に 重 要 な 調 査 計 画 が 実 施 さ れ た 。 ま ず , ユ970年 に 開 始 さ れ た ア ラ ス カ を 南 北 に縦 断 す る パ イ プ ラ イ ン敷 設 工 事 に 伴 な う 事 前 の 遺 跡 分 布 調 査 [CAMPBELL l973] と発 掘 調 査 [CooK (cd.) 1971,1977] で あ る 。 こ の 一 連 の 調 査 は , ア ラ ス カ を 縦 断 す る 試 掘 溝 を 設 定 し た の と 同 じ意 味 を も って い た
[小 谷 1977]。 次 に , カ ナ ダ の ユ ー コ ン 準 州 の オ ー ル ド ・ク ロ ウ盆 地 で カ ナ ダ 国 立 博 物 館 と トロ ン ト大 学 の 研 究 者 に よ る 大 規 模 な 調 査 が 実 施 さ れ た 。 こ れ ら は 1960年 代 に オ ー ル ド ・ク ロ ウ 河 畔 で 採 取 さ れ た古 い 骨 器 [IRvlNG and H ARINGToN I973] の発 見 が 発 端 に な っ た もの で あ る 。 調 査 の 結 果 , ベ リ ン ジ ア の 古 環 境 と人 類 の ベ リ ン ジ ァ へ の 進 出 に 深 い 関 わ り が 毒 る資 料 が 得 られ た [BoNNIcHsEN 1979;M oRLAN 1980;
JoPLING, IRviNG and BEEBE l981; IRvING l 978]。 ま た ,古 環 境 に つ い て の 総 合 の 試 み が お こ な わ れ た の も こ の 時 期 で あ る [H opKINs 1972, 1979; CoLINvAux
l981]。 さ ら に , 北 米 東 部 の ペ ン シル バ ニ ア州 で は, 人 類 の 新 大 陸 へ の 進 出 に 直 接 関 連 す る 資 料 を 提 出 す る 重 要 な 調 査 が 実 施 さ れ て い る [A DovAslo et al. 1977,1978a,
1978b,1980,1982]。 こ れ ら の 新 事 実 に 照 ら して , 約 10年 前 の 知 見 に 触 れ た 筆 者 の 旧 稿 [小 谷 1974,1976] は 修 正 の 必 要 が あ り, ま た , 筆 者 自身 の 考 え か た も若 干 変 化
し た 。
こ れ ら の こ と を 考 慮 して , 筆 者 は 次 の 二 つ の 作 業 仮 説 に 従 って , 現 段 階 に お け る ベ リ ン ジ ア へ の ヒ トの 進 出 に つ い て の 研 究 の 現 状 を 考 察 した い 。 そ の 第 一 の 作 業 仮 説 は ジ 従 来 ま で 新 大 陸 最 古 と考 え られ て き た パ レ オ ・イ ンデ ィ ア ン文 化 の 特 徴 で あ る樋 状 剥 離 痕 を もつ 尖 頭 器 は 旧 大 陸 に 由 来 す る文 化 要 素 で あ り, ベ リ ン ジ ア を 経 由 して 新 大 陸 に も た ら さ れ た と す る考 え 方 で あ る 。 こ の 考 え 方 に 従 う と , パ レ オ ・イ ン デ ィ ア ン文 化 と ほ ぼ 同 質 , 同 時 期 の 先 史 文 化 が ベ リ ン ジ ア に も存 在 して い た は ず で , そ の 先 史 時 代 文 化 は 今 の と こ ろ未 発 見 で あ る と い う こ と に な る 。 第 二 の 作 業 仮 説 は , 新 大 陸 へ の 人 類 の 渡 来 は , こ れ ま で 研 究 者 が 考 え て い た の よ り も, 更 に古 い 時 期 に お こ っ た こ と で , パ レ オ ・イ ン デ ィ ア ン文 化 もパ レ オ 極 北 文 化 も, そ の 古 い 時 期 の 先 史 文 化 か ら独 自 の 発 展 を 遂 げ た も の で あ ろ う とす る 考 え 方 で あ る 。 こ の 考 え 方 に 従 う と , パ レ オ 極 492
小谷 ベ リンジアか らみた新大 陸文化起源の諸問題
北 文 化 もパ レオ ・イ ンデ ィア ン文 化 も, 後 に地 域 的 発 展 を 遂 げ た先 史 文 化 と い う こ と に な る。
この よ うな視 点 を もって, 人 類 の新 大 陸 へ の渡 来 経 路 , 氷 河 の消 長 に と も な う陸橋
・回 廊 の存 否, 動 植 物 相 と気 候 変 化 な どの古 環境 条 件, 北 米 や 中南 米 に お いて 最古 と み な され て い る先 史 文 化 の 特徴 , ア ラス カ とカ ナダ 北 西 部 の パ レオ極 北 文 化 の研 究 の 現 状 を 概 観 し, ベ リン ジア の先 史 学 的 知 見 に も とつ い て人 類 の 新大 陸 へ の渡 来 の もつ 諸 問 題 を 検 討 した い。
皿 . ベ リ ン ジ ア の 古 環 境
1. 渡 来 経 路 の 問 題
ベ ー リ ン グ 海 峡 地 域 (ベ リ ン ジ ア ) が 人 類 の 新 大 陸 へ の 渡 来 経 路 で あ っ た と い う 見 解 は 古 くか ら主 張 さ れ , ほ ぼ す べ て の 研 究 者 の 意 見 の 一 致 を み て い る [W illey and Sabloff l980, Chap. II]。 そ の 根 拠 と して は, 原 住 民 の 形 質 人 類 学 的 特 徴 の 類 似 , 言 語 学 的 特 徴 の 類 似 , 文 化 要 素 の 類 似 な ど が あ げ ら れ て き た 。 ま た , 最 近 の 考 古 学 的 研 究 の 発 展 に よ り, ユ ー ラ シ ア 大 陸 北 東 部 と ベ リ ン ジ ア と の 間 に , 先 史 文 化 の 類 似 が 認 め られ , こ の 見 解 の 妥 当 性 を よ り強 固 に し て い る [ANDERSON 1980]。
ベ リ ン ジ ア が 新 大 陸 へ の 人 類 の 渡 来 経 路 で あ れ ば , ベ リ ン ジ ア に 新 大 陸 人 類 の 最 古 の 居 住 の 痕 跡 が 残 存 して い る と考 え られ , そ れ に も とつ い て 渡 来 の 経 路 も具 体 的 に 復 原 で き る は ず で あ る 。 当 時 の 考 古 学 的 知 見 に も と つ い て ,チ ャ ー ド [Chard 1963] は , ベ リ ン ジ ア 内 の 人 類 の 渡 来 経 路 と して , 次 の 二 つ の ル ー トを 想 定 し た 。第 一 は,現 在 の チ ュ ク チ 半 島 の 北 極 海 沿 い に べ 一 リ ング 陸 橋 の 北 部 を と お り , ア ラ ス カ の ブ ル ッ ク ス 山 脈 北 麓 を ふ くむ 北 極 海 沿 岸 を 通 過 して , マ ッ ケ ン ジ ー 川 河 口 付 近 か ら ロ ッキ ー 山 脈 東 麓 を 南 下 す る ル ー トで あ る 。 第 二 は ベ ー リ ン グ 海 峡 付 近 か ら ユ ー コ ン川 流 域 に は い り, 上 流 域 に 達 して か ら ロ ッ キ ー 山 脈 東 麓 に で る ル ー トで あ る 。 こ の 第 二 の ル ー ト に は 二 つ の 可 能 性 が か ん が え ら れ る。 一 つ は , ユ ー コ ン川 本 流 域 を さ か の ぼ る もの で , 現 在 の ユ ー コ ン ・タ ナ ナ 高 地 の 北 方 を 通 り , ポ キ ュ パ イ ン 川 , オ ー ル ド ・ク ロ ウ 盆 地 に い た る 。 も う 一 つ は , ユ ー コ ン川 の 支 流 の タ ナ ナ 川 を さ か の ぽ り, ユ ー コ ン ・タ ナ ナ 高 地 の 南 方 を と お る も の で あ る。 さ らに ,最 近 ,第 三 の ル ー トの 可 能 性 と して ,ベ ー リ ング 海 峡 地 域 か ら南 東 に 進 み , ア ラ ス カ 南 海 岸 か ら北 西 海 岸 地 域 へ 南 下 す る ル ー ト が 考 慮 さ れ て い る 。 こ の ル ー トは , 古 くか ら , 最 後 の 氷 河 期 (ウ ィ ス コ ン シ ン氷 河 期 ) に コ ル デ ィ エ ラ 氷 床 に 広 く覆 わ れ て い た と考 え ら れ て お り [PEw E 1975;COULTER 493
国立民族学博物 館研究報告 8巻 2号 et al. 1965], しか も現 在 の 海 岸 地 形 が 急 峻 な た め [BRYAN l 969], ヒ トの南 下 経 路 に は 不 適 当 と み な さ れ て き た 。 こ の 見 解 は洪 積 世 末 の 氷 河 形 成 に つ い て の 知 見 に基 づ く と は い え , こ の 地 域 の 海 底 地 形 は 今 の と こ ろ 明 ら か に さ れ て お らず , ウ ィ ス コ ン シ ン氷 河 期 の 海 水 準 低 下 現 象 の も と で , ど の よ う な 旧 地 形 で あ っ た か は 不 明 で あ る 。 ま た 現 在 は 急 峻 な 海 岸 地 形 に特 徴 づ け られ る も の の , ヒ トの 居 住 に 適 し た 平 坦 地 も 分 布 して い る 。 こ れ ら の こ と を 基 礎 に お い て , ア ラ ス カ 南 海 岸 か ら北 西 海 岸 地 域 に い た るル ー トを , 南 下 経 路 の 一 つ の 可 能 性 と して 考 慮 す べ き で あ る と の 主 張 が な さ れ て い る [FLADMARK 1978,1979]。 こ の 主 張 の 背 後 に は , オ ー ス トラ リア へ の 人 類 の 渡 来 が 何 らか の 海 上 交 通 手 段 に よ っ て お こ な わ れ た こ と [JOHNSON l 970] が あ る こ と は い う ま で もな い 。 同 時 に マ ンモ ス な ど の 獣 骨 が 最 近 ス シ ッ ナ 川 流 域 で 発 見 さ れ , こ れ に も とつ い て ウ ィ ス コ ン シ ン氷 河 期 に 大 型 哺 乳 動 物 や 人 類 が ア ラ ス カ 山 脈 以 南 に も居 住 して い た の で は な い か とす る ソ ー ソ ン ら [THORSON et al. 1981] の 主 張 に も 関 連 を もつ こ と は い う ま で も な い 。
2. 約 20,000年 前 以 降 の 自 然 環 境
ウ ィ ス コ ン シ ン氷 河 期 最 寒 期 (約 20,000年 前 ) 以 降 の ベ リ ン ジ ア の 古 環 境 条 件 に つ い て は , ペ イ ウ ェ イ [PEw E l975], ホ プ キ ン ス [H opKINs 1968,1972,1979], ブ ッ ツ ァ ー [BuTzER 1971], フ リ ン ト [FLINT l971], エ イ ジ ャ ー [A GER l975],
シ ュ ウ ェ ー ガ ー [ScHw EGER l976], コ リ ン ヴ ォ ー [CoLINvAux l964,1967,1981]
ら に よ り 詳 細 に 論 じ られ て い る 。 後 に 触 れ る カ ナ ダ の ユ ー コ ン準 州 オ ー ル ド ・ ク ロ ウ 盆 地 や 北 米 東 北 部 の 最 近 の 考 古 学 的 知 見 な ど を 考 慮 し て , 確 実 に ヒ トの 所 産 と み な し う る 最 古 の 石 器 群 は 約 20,000年 前 以 降 と 筆 者 は 考 え て い る 。 そ の た め , こ こ で は ウ ィ ス コ ン シ ン氷 河 期 末 期 (20,000年 前 以 降 ) か ら沖 積 世 初 頭 だ け を 取 扱 い た い 。 そ し て , こ の 時 期 を , ウ ィ ス コ ン シ ン氷 河 期 の (1)最 寒 期 (約 20,000年 前 〜 14,000年 前 ), (2)最 末 期 (約 14,000年 前 〜 10,000年 前 ), お よ び (3)沖 積 世 初 頭 (約 10,000年 前 以 降 ) に分 け て , 氷 河 の 消 長 と陸 橋 ・回 廊 の 存 否 , 動 植 物 相 , 気 候 変 化 な ど に つ い て 触 れ る こ と に す る 。
( 1) ウ ィ ス ユ ン シ ン 氷 河 期 最 寒 期
新 大 陸 に お け る 最 後 の 氷 河 期 ウ ィ ス コ ン シ ン氷 河 期 は , ふ つ う前 期 (約 80,000年 前
〜 約 30,000年 前) と後 期 (約 30,000年 前 〜 約 10,000年 前) に分 け られ る1)。 上 に触 れ
1)新 大 陸 の氷 河 期 の 諸 問題 につ いて は,[W RIGHT and FREY (eds・) 1965],[FLINT 1971]お よ び [BurZER 1971]を 参照 の こ と。
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小 谷 ベ リンジアか らみた新大陸文化起源 の諸問題
た よ う に , 新 大 陸 へ の 人 類 の 渡 来 は い ま の と こ ろ 約 20,000年 前 と筆 者 は 考 え て い る の で , こ こ で は 後 期 の み を 取 扱 う 。
(a) 氷 河 の 消 長 と陸 橋 ・回 廊 の 問 題
こ こ で 氷 河 の 消 長 と い う の は , 主 と し て , ウ ィ ス コ ン シ ン氷 河 期 後 期 に 拡 大 , 縮 小 を 繰 り 返 し た 氷 河 の 動 き の こ と を い う 。 氷 河 は 大 量 の 水 分 を 陸 上 に 固 定 す る 機 能 を も ち, 氷 河 の 生 長 に 必 要 な 水 分 は , 雪 ・雨 の 形 で 供 給 さ れ , そ の 供 給 源 は 海 で あ る 。 し た が って 氷 河 が 生 長 す る と, 必 然 的 に 海 水 量 が 減 少 し, 結 果 と して 海 水 面 が 低 下 す る 。 さ て , ウ ィ ス コ ン シ ン氷 河 期 後 期 に , 世 界 的 に 氷 河 が 最 も 発 達 した の は , い ま か ら 約 20,000年 前 で , こ の 時 期 を ウ ィ ス コ ン シ ン氷 河 期 最 寒 期 (旧 大 陸 で は ヴ ュ ル ム 氷 河 期 最 寒 期 ) と 呼 ん で い る 。 北 半 球 で は ス カ ン ジ ナ ビ ア 半 島 , 西 シ ベ リア , ロ ッ キ ー 山 脈 北 部 , ハ ドソ ン湾 , グ リー ン ラ ン ド に そ れ ぞ れ 中 心 を もつ 大 規 模 な 氷 床 が 発 達 し
[FLINT l 971:463−4971, と くに , ハ ド ソ ン 湾 に 中 心 を もつ ロ ー レ ン シ ア 氷 床 と グ リ ー ン ラ ン ド氷 床 と は 融 合 し, 現 在 の 北 米 五 大 湖 地 方 , ニ ュ ー イ ン グ ラ ン ド地 方 北 部 , 大 平 原 地 方 の カ ナ ダ ・ア メ リカ の 国 境 付 近 以 北 な ど の 広 大 な 地 域 は , 厚 い 大 陸 氷 床 に お お わ れ て い た 。 こ の 氷 床 の 西 端 は , ユ ー コ ン準 州 の マ ッ ケ ン ジ ー 河 口 付 近 か ら ロ ッ キ ー 山 脈 東 麓 近 くに ま で 達 して い た 。 一 方 , ロ ッキ ー 山 脈 北 部 に 中 心 を も つ コ ル デ ィ エ ラ 氷 床 は , カ ナ ダ の ブ リテ ィ ッ シ ュ ・コ ロ ン ビ ア 州 か ら ユ ー コ ン準 州 南 部 に 達 し て お り, さ ら に 西 方 に は , ア ラ ス カ 山 脈 と ア ラ ス カ 半 島 へ 伸 び て い た 。 そ の た め , ロ ー レ ン シ ア 氷 床 と コ ル デ ィ エ ラ 氷 床 が , ロ ッ キ ー 山 脈 東 麓 で 融 合 し て い た か 否 か が , 長 く 問 題 と さ れ て き た 。 これ が 「回 廊 」 の 存 否 の 問 題 で あ る 。
コ ル デ ィ エ ラ氷 床 と ロ ー レ ン シ ア 氷 床 と の 間 の 回 廊 が 存 在 し て お れ ば , い い か え れ ば 両 氷 床 の 末 端 が 相 互 に 離 れ て い た ら , ベ リ ン ジ ア の 人 類 が 南 下 し , 北 米 ・中 南 米 各 地 に 進 出 す る 経 路 が つ ね に 存 在 して い た こ と に な る 。 も し, 回 廊 が 存 在 せ ず , い い か え れ ば 両 氷 河 が 融 合 し て い た な らば , 人 類 の 南 下 は 融 合 の 期 間 に は 妨 げ ら れ て い た こ と に な る 。 回 廊 存 否 に つ い て は , 賛 否 両 論 の 論 争 が 続 け ら れ た が , 現 在 で は 回 廊 が 恒 常 的 に 存 在 して い た と す る 考 え か た が 有 力 と な っ た 2)が , 周 氷 河 現 象 に 支 配 さ れ て い た と考 え ら れ る 回 廊 の 古 環 境 に つ い て は 不 明 で あ る。
こ の 当 時 , ア ラ ス カ の ア ラ ス カ 山 脈 以 南 は 広 く氷 床 に お お わ れ て お り , ア ラ ス カ 半 島 も大 部 分 が 氷 床 下 に あ った と考 え られ て い る 。 ま た , ブ ル ッ ク ス 山 脈 も か な り の 広 が り を も つ 氷 河 に お お わ れ て い た と 推 定 さ れ て い る [COULTER et at, 1965; PEw E
2) Canadian J・umal ・f Anthr・P・leg7 vol・1, no・1(1978)所 載 の 諸 論文 を参 照 の こ と。
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国立民族学博物館研究報告 8巻 2号
図 1 ウ ィス コ ンシ ン氷 期 最 寒期 (約 20,000年 前 ) の ア ラスカ お よび パ レオ極 北 文 化 の遺 跡 の 分布 [小 谷 1976:293] 、
氷 河 ・氷 床
森林
ス テ ッ プ ・ ツ ン ド ラ
べ一 リング陸橋 の推定 海岸線
1 オ ー ル ド ・ク ロ ウ (O ld Crow) 2 ト レ イ ル ・ク リー ク (Trail Creek)
3 ギ ャ ラ ガ ー ・フ リ ン ト (Gallagher Flint Station) 4 ア ナ ン グ ラ ・ブ レ イ ド (Anangula Blade)
5 オ ニ オ ン ・ポ ー テ イ ジ (O nion Portage) 6 ド ラ イ ・ク リー ク (Dry Creek)
7 ヴ ィ レ ッ ジ (ヒ ー リ ー 湖 )(H ealy Lake Village) 8 ド ゥ ナ リ ・ リ ッ ジ (D enali R idge) 9 プ ト ゥ (Putu) . 10 ウ ガ シ ッ ク ・ナ ロ ウ (U gashik Narrow)
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小谷 ベ リンジアか らみ た新大陸文化起源の諸 問題
1975]。 し か し, 現 在 の ア ラ ス カ の 北 極 海 沿 岸 や ア ラ ス カ 内 陸 の ユ ー コ ン川 流 域 の 低 地 に は 氷 河 は 存 在 せ ず , 後 に 触 れ る よ う に , ス テ ッ プ 状 ッ ン ド ラ が 広 が って い た 。 ベ ー リ ン グ 海 峡 付 近 も ス テ ッ プ 状 ッ ン ド ラ に お お わ れ た 陸 橋 (陸 地 ) で
, シ ベ リ ア 東 部 と ア ラ ス カ と は 陸 続 き で あ っ た 。
氷 河 ・氷 床 の 発 達 に つ れ て , 海 水 準 低 下 現 象 が お こ り, 大 陸 棚 上 の 浅 い 海 は 陸 地 化 す る こ と に な った 。 ウ ィ ス コ ン シ ン氷 河 期 最 寒 期 に は , す くな く と も 100m か ら 120 m の 海 水 準 低 下 が お こ り, 理 論 的 に は, 現 海 深 が す くな く と も 100 m の 海 底 ま で 陸 化 し て い た こ と に な る 。 し か し, 海 水 準 低 下 の 規 模 に つ い て は , 世 界 的 に は , 一 定 の 数 字 は得 られ て お らず , と くに , 氷 河 や 氷 床 の 重 量 に よ り低 下 して い た 陸 塊 が 氷 河 ・ 氷 床 の 消 滅 の の ち 隆 起 した こ と の わ か っ て い る地 域 で は , 現 在 の 海 深 か ら 当 時 の 海 水 面 低 下 の 規 模 を 推 測 す る の は 困 難 で あ る 。
ベ ー リ ン グ 海 峡 付 近 の 水 深 は , 現 在 , 約 38m で あ る 。 そ れ 以 上 の 海 水 準 低 下 が お こ る と, 理 論 的 に は , ベ ー リ ン グ 海 峡 は 陸 地 に な り, ア ラ ス カ と シ ベ リア は 陸 続 き に な る 。 こ の 陸 地 が 「ベ ー リ ン グ 陸 橋 」 と よ ば れ る 。 現 在 の 水 深 か ら 推 測 し て , 最 寒 期 の ベ ー リ ン グ 海 峡 付 近 は, 南 は 北 緯 54度 付 近 の プ リ ビ ロ フ 諸 島 と ア ナ デ ィ ー ル 湾 南 端 を 結 ぶ 線 か ら, 北 は チ ュ ク チ 海 の ラ ン ゲ ル 島 付 近 ま で 陸 地 で あ った と さ れ て い る 。 そ
の 幅 は, 最 も狭 い と こ ろ で も約 600km に お よ ん で い た 。
ウ ィ ス コ ン シ ン氷 河 期 の 最 寒 期 に 海 水 準 は 少 く と も 約 100m は 低 下 して い た 。 最 寒 期 を す ぎ る と氷 河 ・氷 床 は 後 退 し始 め , そ れ に つ れ , 海 水 面 は 徐 々 に 上 昇 し た と考 え られ る 。 い ま か ら約 14,000年 前 に は , 海 水 準 は現 在 よ り も 約 60m 低 い 水 準 ま で 回 復 し た と さ れ て い る 。
最 寒 期 か ら 約 14,000年 前 ま で の ベ リ ン ジ ア は , 陸 地 や 陸 橋 が 次 第 に 狭 くな り つ つ あ り, 陸 地 の 水 没 現 象 が 起 って い た と い え る 。 しか し, 海 峡 付 近 に は , 依 然 と して ベ ー リ ン グ 陸 橋 は存 在 し て お り, シ ベ リア (旧 大 陸 ) と ア ラ ス カ (新 大 陸 ) は 陸 続 き で あ っ た 。 ベ リ ン ジ ア の 東 方 に 位 置 す る カ ナ ダ 北 部 は ロ ー レ ン シ ア 氷 床 に 広 くお お わ れ , ヒ トの東 方 へ の 移 動 の 障 害 に な っ て い た 。 ア ラ ス カ 南 部 に も コル デ ィ エ ラ氷 床 が 伸 び て い た と考 え ら れ る が , 上 に も触 れ た よ う に , 最 近 に な っ て 大 型 哺 乳 動 物 の 獣 骨 が ア ラ ス カ 山 脈 の 南 方 で 発 見 さ れ て お り, こ の 地 域 の 古 環 境 の 再 検 討 が 必 要 に な っ て き た
[THORSON et al. 1981]。
こ れ らの こ と か ら, こ の 時 期 に は, 人 類 は シ ベ リア (旧 大 陸 ) とア ラ ス カ (新 大 陸 ) の 間 を 自 由 に 往 来 で き, 後 に 触 れ る よ う に , 両 地 域 の 動 植 物 な ど は 同 質 で あ っ た と考 え ら れ る の で , 移 動 に と も な っ て 生 業 活 動 を 変 化 さ せ る 必 要 は存 在 し な か っ た 。
497
国立民族学 博物館研究報告 8巻 2号 (b) 動 植 物 の 分 布
植 物 分 布 の 変 遷 を 詳 細 に 理 解 す る た め に 必 要 な 花 粉 分 析 学 的 調 査 は , 広 大 な ベ リ ン ジ ア 地 域 の な か で は , 限 ら れ た 地 点 で しか 実 施 さ れ て い な い 。 た と え ば , 南 西 ア ラ ス カ に お け る コ リ ン ヴ ォ ー の 研 究 [CoLINvAux l964, 1967, 1981], 北 西 ア ラ ス カ に お け る シ ュ ウ ェ ー ガ ー の 研 究 [SCHW EGER l976], ア ラ ス カ 内 陸 タ ナ ナ 川 流 域 に お
け る エ イ ジ ャ ー の 調 査 [AGER 1975] な ど で あ る 。
エ イ ジ ャ ー の ア ラ ス カ 内 陸 部 に お け る湖 底 堆 積 土 の 花 粉 分 析 の 結 果 に よ る と, ア ラ ス カ 内 陸 部 で は 約 16〜 17,000年 前 ま で お よ ぷ 花 粉 ス ペ ク ト ラ ム が 得 ら れ , そ れ に も と づ き 4花 粉 帯 が 確 立 さ れ て い る 。 最 古 の 花 粉 帯 1は , 今 か ら 14,000年 以 前 に 対 比 さ れ
[AGER l 975:ii and 83], 高 率 の イ ネ 科 植 物 と ヨモ ギ 属 の 植 物 の 花 粉 , お よ び 低 率 の ス ゲ や ヤ ナ ギ の 花 粉 に 特 徴 づ け られ る 。 トウ ヒ , カ バ , ハ ン ノ キ な ど の 北 方 系 の 樹 木 の 花 粉 は ご く少 な い 。 こ の こ と は , ア ラ ス カ 内 陸 部 は ス テ ップ 状 の ヅ ン ド ラで あ っ た こ と を 示 す 。 こ の ス テ ップ 状 ッ ン ド ラ は , ユ ー コ ン 河 口付 近 の 低 地 帯 に も広 が って お り, ベ ー リ ン グ 陸 橋 の 大 部 分 を お お って い た [H oPKINs l972,1979; FRENzEL 1968;,CoLINvAux 1964, 1967, 1981]。 一 方 , 北 方 針 葉 樹 林 は ユ ー ラ シ ア の 北 部 に 細 長 く, 断 続 的 に 存 在 す る だ け で , そ の 北 方 に は ツ ン ド ラ と 局 地 的 に 氷 河 が 広 が っ て い た と考 え ら れ る 。 こ の 時 期 に 北 方 針 葉 樹 林 帯 の 分 布 域 が 極 め て 狭 か っ た こ と
[H oPKINs I979] は , ヒ トの 寒 地 へ の 進 出 の 問 題 を 考 え る と き に 重 要 な 意 味 を も
つ ◎
こ の 時 期 の 気 候 は , 現 在 よ り も , 年 平 均 気 温 が 数 度 は低 か った と 推 測 さ れ る 。 そ し て , ベ ー リ ン グ 陸 橋 の 存 在 に よ り大 陸 性 気 候 の 特 徴 が よ り顕 著 に な り , 比 較 的 短 く暑 い 夏 と 長 く厳 し い 冬 に 特 徴 づ け ら れ て い た と考 え ら れ て い る [A GER l975]。
ス テ ッ プ ・ツ ン ド ラ の 環 境 に は イ ネ 科 や ヨ モ ギ 属 の 植 物 が お お く, 哺 乳 動 物 の 生 息 に は 適 し て い た と推 測 さ れ る 。 こ の 時 期 に 草 食 性 哺 乳 動 物 が 豊 富 に 生 息 し て い た こ と は , 古 生 物 学 的 資 料 に よ り 示 さ れ て い る [GuTHRIE l968a,1968b; PEw E l975:
88−103; H opKINs l979]。 第 1表 は , 現 在 ま で に 確 認 さ れ て い る , ウ ィ ス コ ン シ ン 氷 河 期 後 期 に ベ リ ン ジ ァ 地 域 に 生 息 し て い た 主 要 な 哺 乳 動 物 を 示 す 。 こ れ ら の 哺 乳 動 物 の 主 な 食 性 を み る と , 草 食 性 大 型 動 物 が 圧 倒 的 に 多 い こ と が 注 目 さ れ る 。 ガ ス リー
[GUTHRIE I968a] は , こ れ らの 大 型 動 物 の う ち バ イ ソ ン, ウ マ , マ ン モ ス が ア ラ ス カ 内 陸 部 の 哺 乳 動 物 相 の 大 部 分 を 占 め て い た と 解 釈 し て い る 。 しか し, こ れ らの 資 料 は 鉱 山 の 採 掘 活 動 な ど の 過 程 で 得 ら れ た も の が 多 く, 絶 対 年 代 の 点 に 問 題 が 残 る 。
498・
小谷 ベ リンジアからみた新大陸文化 起源 の諸問題
表 1 ウ ィス コ ン シ ン氷 河期 に ベ リンジ ァ に生 息 して い た主 要 な哺 乳 動物 と そ の食 性 およ び 現在 の 生 息状 況
名 称 と 学 名 陣 況 1 食 性
コ ヨ ー テ Canis latrans ラ イ オ ン の 一 種 Pα磁 θ7α 碑 oκ ジ リ ス Citellus undulatus
ト ナ カ イ R απ9⑳ r∫α7αηぬ 5 レ ミ ン グ Lemmus sibiricus ア カ キ ツ ネ 殉 砂 雛 膨 砂 蹴 ウ マ E gUUS caballUS ア ナ グ マ Taxidea taxus サ イ ガ カ モ シ カ 5α忽 α 物 θ∫
ヒ ツ ジ Ovis dalli
ホ ッ キ ョ ク ギ ツ ネ A loPex lagoPUS ツ ン ド ラ ウ サ ギ LePus othus ヤ マ ネ コ L2nx canadensis ジ ヤ コ ウ ウ シ Bootherittm nivicolens ジ ヤ コ ウ ウ シ の 励 o∫6α〃妙 oη5 ジ ヤ コ ウ ウ シ O vibos moschatus バ イ ソ ン (絶 滅 種 ) B ison Priscus オ オ ナ マ ケ モ ノ M egalon!x sp.
ビ ー バ ー Castor sp.
ム ー ス Alces alces
マ ン モ ス M am muthUS Prim igeniUS ク マ (絶 滅 種 ) 』 物 ぬ ∫ ∫加 鰐 オ オ カ ミ Canis luPus
グ ズ リ (;ulo gulo ヒ グ マ Ursus arctos オ オ シ カ Cervalces alaskensis ヤ ク B os bunnelli
エ ル ク ジ カ Cervus elaPhttS ラ ク ダ Cam eloPs sp.
マ ス ト ド ン M amm ut americanum 剣 歯 虎 H omotherium serum
十
* 十 十 十 十
*
*
* 十 十 十 十
×
×
*
×
× 十 十
×
× 十 十 十
×
*
*
*
×
×
C C N N N C G C G G C N C N N N G N N N G C C C C N G G G N C
汎例 : × 現 在 は 絶滅
* 現 在 ア ラス カ には生 息 しな い + 現 在 も ア ラス カに生 息 ([GuTHRIE l 968a]お よび [PEwE
G 草食 性
N 禾本 科 以 外 の植 物 に依存 C 肉食 性
1975=91−103] よ り作成 )
(2 ) ウ ィ ス コ ン シ ン 氷 河 期 最 末 期
(a) 氷 河 ・氷 床 の 後 退 と陸 橋 の 消 滅
ウ ィ ス コ ン シ ン氷 河 期 の 最 寒 期 の 後 , 氷 河 ・氷 床 は 後 退 の 一 途 を た ど っ た 。 そ れ に 499
国立民族学博物館研究報告 8巻 2号 と もな い ,海 水 面 は 上 昇 を 続 け た 。 ホ プ キ ン ス [H oPKINs l979]に よ る と, 約 13,000 年 前 に は , 海 水 準 は 現 在 よ り約 38m 低 い と こ ろ ま で 回 復 し, セ ン ト ・ロ ー レ ン ス 島 と シ ベ リ ア の 間 に は海 峡 が 成 立 し始 め た 。 約 12,000年 前 ご ろ に は 海 水 準 は さ ら に 上 昇 して , 今 よ り 約 30m 低 い と こ ろ [H oPKINs l979] に な り, セ ン ト ・ロ ー レ ン ス 島 と ア ラ ス カ 本 土 の 間 は海 峡 と な り, ラ ンゲ ル 島 もチ ュ ク チ 海 に あ らわ れ た と考 え て い る 。 そ し て , 今 か ら 約 10,000年 前 に は , 海 水 準 は 上 昇 して 現 在 よ り も 約 20m ほ ど 低 い だ け に な り, ベ ー リ ン グ 海 峡 は ほ ぼ 現 在 と 同 じ姿 に な った 。 しか し, コ ツ ェ ビ ュ ー 湾 や ノ ー ト ン湾 は 陸 地 の ま ま で あ り, ヌ ニ バ ッ ク 島 もユ ー コ ン ・ク ス コ キ ウ ム 低 地 の 一 部 で あ っ た と さ れ る 。
こ の 海 水 準 上 昇 に と も な い , 両 大 陸 の 間 の 陸 橋 は , 約 13,000年 前 に 姿 を 消 し, 両 大 陸 間 の 陸 地 に よ る つ な が り は 断 た れ た 。 そ の 後 , 現 在 に い た る ま で , こ の 地 域 に は 陸 橋 は 存 在 し な か っ た こ と は い う ま で も な い 。 一 方 , 地 上 の氷 河 ・氷 床 も徐 々 に後 退 し,
ロ ー レ ン シ ア 氷 床 , コ ル デ ィ エ ラ氷 床 と も , そ の 規 模 が 縮 小 し て き た 。 上 に 触 れ た よ う に , 南 方 へ の 回 廊 の 幅 は 時 間 の 経 過 と と も に 広 が っ た と考 え ら れ る 。
(b) 動 植 物 の 分 布
ア ラ ス カ 内 陸 部 に お け る 花 粉 分 析 学 的 研 究 に よ る と [AGER l975], こ の 時 期 を あ ら わ す 花 粉 帯 2 は , 高 率 の 繧 小 な カ バ 類 の 花 粉 と 減 少 傾 向 に あ る イ ネ 科 植 物 , ス ゲ 属 , ヤ ナ ギ 属 な ど の 花 粉 に 特 徴 づ け ら れ る 。 こ の こ と は, ス テ ップ 的 環 境 の 縮 小 を 意 味 す
る 。 そ れ に つ れ て , 樹 木 性 の 花 粉 が 増 加 し は じめ , 北 方 系 針 葉 樹 林 が 進 出 し は じめ た こ と を 示 して い る 。 こ の ス テ ップ の 消 滅 と 森 林 進 出 を 示 す 花 粉 構 成 の 変 化 は , ウ ィ ス コ ン シ ン氷 河 期 の 最 末 期 に , 気 候 が 比 較 的 温 暖 か つ 湿 潤 に な っ た こ と を 示 唆 して い る 。 こ の気 候 変 化 と植 物 分 布 の 変 化 は , ア ラ ス カ を は じ め と す る北 極 周 辺 の 動 物 の 分 布 に き わ め て 大 き な 影 響 を 与 え た こ と が 予 想 さ れ る 。 そ れ は , イ ネ 科 , ス ゲ 属 , ヤ ナ ギ 属 な ど の ス テ ッ プ 的 環 境 に 生 育 す る植 物 が 減 少 し, そ の た め 大 型 草 食 性 動 物 が 減 少 し た こ とを 意 味 す る 。 哺 乳 動 物 の 個 体 群 を 支 え る 食 料 の 減 少 は , 当 然 の こ と な が ら, 哺 乳 動 物 の 種 類 と 個 体 数 の 構 成 に 大 き な 影 響 を 与 え た は ず で あ り, ヒ トの 狩 猟 対 象 に も 大 き な 変 化 が も た ら さ れ た は ず で あ る 。 こ の 時 期 に 比 定 さ れ る ア ラ ス カ 内 陸 の 遺 跡 か
ら は, 断 片 的 で は あ る が , 獣 骨 資 料 が 出 土 して い る 。 た と え ば , ド ラ イ ・ク リ ー ク 遺 跡 の 第 ]1文 化 層 か ら は , ウ マ と絶 滅 種 バ イ ソ ン の 骨 や 歯 が 出 土 し,10,690士 250B・P・
(SI−1516) と 9340圭 195 B. P・(SI−2329) に 年 代 づ け ら れ て い る [THoRsoN and H AMILToN l977]。 ヒ ー リー 湖 の ヴ ィ レ ッ ジ 遺 跡 の 最 下 層 は,8210土 155 B・P・(SI一 500
小谷 ベ リンジアか らみた新大 陸文化起源 の諸問題
738) と 11,090士 170B. P.(G X −1341)の 年 代 が 与 え られ , 同 定 不 能 の 小 型 哺 乳 類 の 骨 と 鳥 骨 の 破 片 が 多 数 出 土 して い る [CooK:personal com m unication l973]。 最 近 ア ラ ス カ 内 陸 か らマ ン モ ス な ど の 大 型 動 物 の 資 料 [THORSON et at・ 1981] や バ イ ソ ン の 骨 も報 告 さ れ て い る [W EBER 6♂砿 1981]。 し か し・ こ れ ら ⑱ 資 料 は 断 片 的 で あ り , こ の 時 期 の 動 物 相 の 変 化 の 復 原 は 今 後 の 研 究 を 待 た ね ば な ら な い 。
(3) 沖 積 世 初 頭 (a) 氷 河 ・氷 床 の 後退 と海 水 面 変 化
沖 積 世 (10,000年 前 以 降)に お け る氷 河 ・氷 床 の後 退 は, 約6〜 7000年 前 の いわ ゆ る 後 氷 期 温 暖 期 に至 るまで 継 続 し, コルデ ィ エ ラ, ロー レ ンシア 両 氷 床 は後 退 ・消 滅 し た 。 そ の後 退 につ れ, カ ナダ 北 部 とカ ナダ 東 部 の北 極海 沿岸 地 域 は初 め て人 類 の居 住 空 間 と して 利 用 で き る こ とに な った 。 また, 海 水 準 も上昇 しつ づ け, 約8000年 前 に現 在 と同 じ水 準 に達 しお 後, 今 か ら6000〜 7000年 前 の小 海 進期 (日本 の縄文 海 進 期 に相 当) に は, 現 在 よ り も数m も高 い海 水 準 に な った地 域 もあ る。 そ の後 ,海 水面 , 氷 河 は と もに若 干 の変 化 を た ど りな が ら, 現 在 にい た って い る。
(b) 動 植 物 の 分 布
沖積 世 を 表 わ す 花 粉帯 は, 3A と 3B に分 け られ て い る [AGER 1975]。 花 粉 帯 3A は 約10,000年 前 か ら 約 8400年 前 ま で の期 間 を 表 わ し, トウ ヒな どの樹 木 性 花 粉 の 急 増 に特徴 づ け られ る。 この こ と は,北 方 系 森 林 の進 出を意 味 して お り, ア ラ ス カ 内 部 で は, お よ そ9000年 前 まで に, 針葉 樹 林 が成 立 して い た こ とを示 して い る。
花 粉 帯 3B [AGER l975] は, 約 8400年 前 か ら現 在 まで の 期 間 に相 当す る。 この 花 粉 帯 の特 徴 は, ハ ンノキ 属 の 植 物 の 花粉 の増 加 と トウ ヒの花 粉 の減 少 に もと め られ る。
この変 化 は, 沖積 世 初 頭 に, 急 速 に侵入 して き た トウ ヒを 中 心 とす る森 林 の な か に,
ハ ンノ キ属 の植 物 が 進 出 して き た こ とを 示 し,沖 積 世 に お け る北 方 系 森 林 の 構 成 に変 化 の お こ った こ とを示 して い る 。
上 に触 れ た ドライ ・ク リー ク遺 跡 の獣 骨 が 示 唆 して い る よ う に, ウマ や絶 滅 種 のバ イ ソ ンは この時 期 の 初 頭 ま で生 き の びて いた 。 しか し, 各 種 の哺乳 動物 が それ ぞ れ 沖 積 世 の いつ まで 生 存 しつ づ けた か は, 各 哺 乳 類 につ い て の知 見 が 十 分 で な く, 現 在 の と こ ろ不 明 で あ る。 た だ し, 花粉 分析 学 的 資 料 が 示 唆 す る北 方 系 森 林 の 進 出 と ステ ッ プ 状 ツ ン ドラ の消 滅 が , 動物 相 の 変化 に大 きな 影 響 を 与 え た こと は,第 1表 か ら も推 測 しう る。 そ の影 響 は, 草 食 性大 型 動物 に大 き くみ られ る。 そ の結果 , かつ て 生 存 し 501
国立民族学博物 館研究報告 8巻 2号 て いた大 型哺 乳 動 物 の多 くは地 上 か ら絶 滅 して しま った か, ア ラ ス カ に は現 存 しな い か の いず れ か で あ る3)。
皿 . 「先 パ レ オ ・ イ ン デ ィ ア ン 文 化 」
新 大 陸 各地 か らは, パ レオ ・イ ンデ ィア ン文 化 よ り も年代 的 に古 い と み な され る遺 跡 ・遺 物 が 多 数報 告 されて きて い る。 これ らの資 料 に も とつ い て, 押圧 剥 離 技 法 に よ り製作 され た 定 型 化 した尖 頭 器 に特徴 づ け られ るパ レ オ ・イ ンデ ィア ン文 化 以 前 に,
非定 型 の打 製 石 器 に特 徴 づ け られ る文 化 が存 在 して い た ので はな い か とす る 「先 尖 頭 器文 化」 の存 在 が ク リー ガ ー に よ り提 唱 さ れ た こ とが あ る [KRIEGER l964]。 しか しな が ら, これ らの古 い とみ な され て い る遺 物 ・遺 跡 は, 打 製石 器 は普 遍 的 に存 在 す る石 器 で文 化 の指 標 にな りえ な い こ と,地 質年 代 的 な位 置付 けが 明 確 で な い こと, 動 物 相 が共 伴 しな い こ と, 放 射性 炭 素 年 代 の 測 定 に 問題 が あ る こ と な どの 理 由 に よ り,
論 拠 が 不十 分 といわ ざ るを えず , そ の存 在 は否定 され るに い た って い る。
現在 まで に報 告 され , 「古 い」 と考 え られ て い る諸 遺 跡 の うち, 地 質 学 的 な位 置づ けが 明 確 で あ り, 古 環 境 との 関連 が明 瞭 で あ り, しか も,す くな くと も放 射性 炭素 年 代 測 定 に よ り年 代 がわ か って い る とい う基 本 的条 件 を 備 え て い る の は, メ ドウク ロ フ ト岩 陰遺 跡 (北 米 ペ ン シル バ ニ ア州 ) で あ ろ う。 この ほ か, メ キ シ コの トラバ コ ヤ遺 跡 , ペ ル ー の ギ タ レロ洞 穴 遺 跡 , ピキ マチ ャ イ洞 穴遺 跡 な ど もあ げ られ る。
(a) メ ドウ ク ロ フ ト岩 陰 遺 跡
メ ド ウ ク ロ フ ト岩 陰 遺 跡 は , ア メ リ カ 合 衆 国 東 部 の ペ ン シ ル バ ニ ア 州 南 西 部 に 位 置 す る 遺 跡 で , 1973年 以 来 , ピ ッ ッバ ー グ 大 学 の ジ ェ イ ム ス ・M ・ア ドヴ ァ シ オ 氏 を 中 心 に 発 掘 調 査 さ れ て き た 。 遺 跡 の 調 査 に は ,考 古 学 者 だ け で な く,地 質 学 者 や 古 環 境 条 件 の 復 原 に 必 要 な 関 連 諸 分 野 の 研 究 者 が 参 加 し, 総 合 調 査 が お こ な わ れ た [ADOVASIo θ 認 1977,1978a,1978b,1980]。 本 論 に 関 係 が あ る の は , 第 皿a層 の 出 土 遺 物 と放
射 性 炭 素 年 代 で あ る 。
第 J a層 の 下 部 は , 放 射 性 炭 素 年 代 測 定 に よ る と , 19,600土 2400B. P,(SI−2060)
か ら 12,800士 870B. P.(SI−2489)の 聞 に 6点 の 年 代 が え られ , 2xoレ オ ・イ ン デ ィ ア ン文 化 よ り も古 い こ と を 示 す [ADovAslo et at. 1978b]。
3) 新 大 陸 に お け る 洪 積 世 末 か ら沖 積 世 初 頭 の 動 物 相 の 変 化 に つ い て は , [M ARTIN and W RIGHT (eds.) 1967]に 詳 し く論 じ られ て い る 。
502
小 谷 ベ リンジアか らみた新大陸文化 起源の諸問題
第 皿a層 出 土 の 石 器 は , 13個 の 石 器 と 400点 余 の 剥 片 か ら な る 。 石 器 は石 刃 (6点 ),
調 製 痕 の あ る剥 片 (1点 ), 両 面 加 工 の ナ イ フ 型 石 器 (2点 ), 小 型 の グ レ イ バ ー (2 点 ), 尖 頭 器 (1点 ) な ど が あ る 。 剥 片 の な か に は , 石 器 に 両 面 加 工 を 施 し調 製 を 加
え る と き に え られ る 小 剥 片 も報 告 さ れ て い る [ADovAsIo et at. 1978b]。
出 土 して い る石 器 の 数 は 多 くな い が , 注 目 さ れ る の は 石 刃 と尖 頭 器 の存 在 で あ る。
石 刃 はパ レ オ 極 北 文 化 に と も な う よ う な 大 型 石 刃 で は な い が , 剥 片 の 長 軸 と 巾 の 比 が 2 : 1 と い う石 刃 の 基 本 的 要 件 を 備 え て い る 。 石 核 が 出 土 し て い な い の で 石 刃 の 製 作 技 法 は 不 明 で あ る が , 石 刃 技 法 が 援 用 さ れ た と 推 定 で き る 。 一 方 , 尖 頭 器 は両 面 に 細 か な 調 製 の 痕 跡 を の こ して お り, そ の 形 態 は 不 整 三 角 形 な い し将 棋 駒 状 の 五 角 形 と い う こ と が で き る。 両 面 加 工 の 痕 跡 は , こ の 尖 頭 器 だ け で な く, 他 の石 刃 や 剥 片 に も認 め ら れ て い る 。
さ ら に , メ ド ウ ク ロ フ ト岩 蔭 遺 跡 の 古 環 境 の 研 究 に よ り, ウ ィ ス コ ン シ ン氷 河 期 最 寒 期 か ら末 期 の 遺 跡 周 辺 の 自 然 環 境 は , 現 在 の そ れ と 大 差 が な か っ た こ と が 指 摘 さ れ て い る [ADovAsIo et al. 1978b; ADovAsIo l982]。
第 皿a層 下 部 の 古 さ に た い し て は ,若 干 の 疑 問 が 提 出 さ れ て い るが [H AYNEs l980],
複 数 の 放 射 性 炭 素 年 代 が 層 位 的 に 矛 盾 な く得 ら れ て お り, 古 さ に つ い て は 問 題 は な い と調 査 者 は 考 え て い る [ADovAsIo 8♂磁 1980]。
メ ドウ ク ロ フ ト岩 蔭 遺 跡 か ら得 られ た 資 料 は , ウ ィ ス コ ン シ ン氷 河 期 最 寒 期 の こ ろ に , す で に 北 米 に 人 類 が 生 存 し て い た こ と を 示 し て い る 。 そ して , 北 方 に ロ ー レ ン シ ア 氷 床 が 発 達 し, そ の 厚 さ が 1000m を 越 え て い た と想 定 さ れ る に も か か わ ら ず , 現 在 と 同 じ よ う な 自 然 環 境 が 存 在 し て い た こ と を 示 し て い る 。 さ ら に 重 要 な こ と は , パ レ オ ・イ ンデ ィ ア ン文 化 の 尖 頭 器 を 特 徴 づ け る石 刃 技 法 と細 か な 押 圧 剥 離 技 法 , お よ び 尖 頭 器 が 存 在 し て い た こ と は , 時 期 的 に 後 に 発 展 す る こ と に な る ク ロ ー ヴ ィ ス , フ ォ ル サ ム な ど の 特 殊 な 形 態 の 尖 頭 器 の 製 作 技 法 が す で に こ の 時 期 に 存 在 し て い た こ と を 示 し て い る 。
(b) ピ キ マ チ ャ イ 洞 穴 遺 跡
ペ ル ー の ア ヤ ク チ ョ地 方 の 考 古 学 的 , 植 物 学 的 調 査 が 1960年 代 後 半 に 実 施 さ れ , そ の 調 査 結 果 の 概 要 が 発 表 さ れ て い る [M AcN EIsH l 969,1971;M AcN EIsH, N ELKEN−
T ERNER and CooK l 970]。 そ れ に よ る と , ピ キ マ チ ャ イ 洞 穴 か ら, パ レ オ ・イ ン デ ィ ア ン 文 化 よ り も古 い 時 期 に 対 比 さ れ る パ カ イ カ サ 文 化 と ア ヤ ク チ ョ文 化 の 存 在 が 認 め られ た 。
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