平成
31
年度函館白百合学園高等学校
一般入学試験問題
国 語
全コース共通
平成
31
年2
月14
日(
木)
実施注意事項
1. 試験時間は 45 分です。
2. 問題は一から四まであり,12 ページまであります。
3. 答えはすべて別紙の解答用紙に記入し,解答用紙だけ提出しなさい。
一般入試 国語 - 1 -
- 1 -
一次の問いに答えなさい。
問一次の線のカタカナを漢字に直しなさい。
①アツくお礼を申し上げます。②最後まで全責任をオう覚悟だ。
③キミョウな出来事。④世界にホコる技術力。
⑤君のサシズは受けない。⑥使者を相手国にハケンする。
⑦カセンが氾濫する。⑧シュウキ的に繰り返す痛み。
問二次の線の漢字の読みをひらがなで答えなさい。
①四月に新入部員を募る。②重い荷物を担ぐ。
③家屋の傷みが激しい。④投球に緩急をつける。
⑤事件の発端を知る。
問三次の□に漢字一字を入れて、上の熟語の対義語を完成させなさい。
①否定的→□定的②楽観的→□観的
問四次の三つの四字熟語の□の中には全て漢数字が入る。その数を全て足すといくつになるか、数字で答えなさい。
・□朝□夕・□里霧中・危機□髪
- 2 -
問五次のに入る四字熟語として最も適当なものを、ア~エから選びなさい。
・彼はどんなときでもとしていて、とても頼りになる。
ア無我夢中イ傍若無人ウ泰然自若エ縦横無尽
問六次のに入る語として最も適当なものを、ア~エからそれぞれ選びなさい。
①音取りが終わると、歌い出しを待つ間、を打ったような静けさが会場を包んだ。
ア波イ水ウ竹エ手
②マラソンは長くきつかった。風邪ぎみの私は、とうとうを出して、走るのをやめてしまった。
アつのイきばウひじエあご
問七次のうち、ひらがなの「は」のもととなった漢字を、ア~エから選びなさい。
アイウエ破羽把波
一般入試 国語 - 3 -
次の文章は『今昔物語集』の一節で、結婚後三年で亡くなった夫が、さらに三年後の秋の夜に亡霊となって妻の前に現れるという話である。読んで後の問いに答えなさい。後半は古文で書かれている。
今は昔、大和国に住む美しく気立ての優しい娘がいた。また河内国に住む年若く、りりしい男がいた。笛がうまく、心も優しかった。そのうち男は大和国の娘の評判を聞きつけ、交際を申し込み、二人は結婚した。その後二人は仲むつまじく暮らしていたが、三年経ったころ、夫は病を得て死んでしまった。妻はたいそう悲しみ、亡き夫のことを思い慕い、再婚の話も聞き入れなかった。*()は現代語訳
三年といふ秋、女、常よりも涙に溺 おぼれて泣き臥 ふしたりけるに、夜半ばかりに笛を吹く音の遠く聞えければ、「あはれ、昔の人に 似たるものかな」と、 1いよいよあはれに思ひけるに、やうやく近く来て、その女の居たりける蔀 しとみのもとに寄り来て、「これ開け
よ」といふ音、ただ昔の夫の音なれば、あやしくあはれなるものからおそろしくて、やをら起きて蔀のすきよりのぞきければ、
男、あらはにありて立てり。うち泣きてかく言ふ、
死 出の山こえぬる人のわびしきは 2恋ひしき人にあはぬなりけり とて立てるさま、ありしさまなれど(以前と同じであったが)おそろしかりけり。紐 ひもをぞ解きてありける。また身より煙の立ちければ、 女おそろしくて、物も言はざりければ、男、「 3ことわりなりや。いみじく 4恋ひ給ふがあはれにあれば、はかなき暇を申して参
り来たるに、かくをぢ給へばまかり帰りなむ(こうして怖がっているのだから、もう帰ることにしましょう)。日に三度燃ゆる苦をなむ受けたる」
といひて、かき消つやうに失せにけり。
しかれば、女、これ夢かと思ひけれども、夢にもあらざりければ、あやしと思ひてやみにけり。これを思ふに、人死にたれど
も、かくあらはにも見ゆる者なりけりとなむ、語り伝へたるとや。
二
- 5 -
問一線1でますます悲しく思った理由を説明した文の【①】【②】に入る語を、ア~エから一つずつ選びなさい。
三年たっても【①】の死が悲しいうえに、聞こえてきた【②】の音が【①】のものと似ていたから。
ア妻イ夫ウ笛エ涙
問二線2は誰のことか、古文中の語を書き抜いて答えなさい。
問三線3とあるが、夫は妻のどのような心情を「ことわりなりや」(無理もないことだよ)と言っているのか、ア~エから選びなさ
い。
ア恐怖イ心配ウ愛情エ怒り
問四線4を平仮名・現代仮名遣いに書き改めなさい。
問五『今昔物語集』は平安時代末期に成立した説話集だが、次のア~エの作品のうち平安時代に成立したものでないものを一つ選びなさ
い。
ア枕草子イ源氏物語ウ徒然草エ土佐日記
一般入試 国語 - 5 -
結婚して娘「あかり」を産み専業主婦をしていた田村小夜子は、いろいろ思うところがあって、ある日働くことを決心する。同い年の楢橋葵が社長を している小さな会社に採用された。ある日、なかなか保育園に馴染 なじめないあかりや、育児を押し付けてくる夫に苛立ちを感じていた時、ちょうど気心がしれてきた葵に誘われ、彼女の家を訪れる。以下は、それに続く場面である。文章を読み、後の問いに答えなさい。
「へえー、かわいいね、目のあたりが田村さんに似てるのかな。ね、子ども産むときさ、こわくなかった?」携帯画面をのぞきこんだまま、
葵は訊 きく。
「こわい?」
「1私はこわい。こわい、ってすごいよね。私、大人になって、ちゃんと自分で稼いで、営業だって飛びこみでいけるし、うんとA年配の男 と喧嘩 けんかしたって勝つ自信もある。なのにさ、子ども産むことがこわいなんて、なんていうか、情けないよね。でもさ、自分から出てきた子
どもが、成長して、私には決してわからないことで絶望したり傷ついたりするって、想像しただけでこわい。自分が親に何にも話さない子
どもだったからかな。2私みたいな子どもだったら、私、いやだもん」
葵は笑って言い、小夜子に携帯電話を返した。
「でもね」待ち受け画面で笑うあかりに小夜子も目を落とす。「子どもって、ほんと、3私みたいって思うことあるな。私も、自分みたいな 子じゃなくて、もっと明るくて、こう、なんていうの、さわやかな子どもになってほしいんだけど、うちの子、かなしいくらい内弁慶 うちべんけいなの。
保育園通いはじめて一カ月近くたつのに、まだお友だちできないみたいだし。自分のちいさいころのこと、思い出すのよね。私もそうだっ
たなあって。そういうの、こわいっていうより、なんか落ちこんじゃって」
保育園にいきたくないと、家を出る間際に泣くあかりを小夜子は思い出す。保育園で保育士さんに引き渡しても、あかりはすさまじい勢
いで泣きわめいて①いる。園庭を見まわしてもそんな子どもはほかにいない。こんなに泣く子もめずらしいと、年輩の保育士さんが【a】 言ったのを耳にしたのはついおとといだ。その姿が思い出させるのは、ちいさいころのことではなく、4公園巡りで悩んでいた自分だった。
足の爪をいじりながら話を聞いていた葵は、「わかる」と一言言って立ち上がり、台所へ向かう。
「わかるなー、それ。私には子どもいないけど、Bケッキョクさあ、私たちの世代って、ひとりぼっち恐怖症だと思わない?」 声のトーンをあげて葵はしゃべる。カウンターキッチンの小窓からのぞくと、葵は背伸びして頭上の棚から何か取り出して②いる。
「ひとりぼっち恐怖症?」小夜子は訊き返した。
「そ。お友だちがいないと世界が終わる、って感じ、ない?友達が多い子は明るい子、友達のいない子は暗い子、暗い子はいけない子。
そんなふうに、だれかに思いこまされてんだよね。私もずっとそう。ずっとそう思ってた。世代とかじゃないのかな、世界の共通概念かな
あ」
三
ならはしあおい
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最後のほうは独り言のように言い、葵は皿を用意して ③いる。小夜子は驚いて葵を見た。公園の話を、葵にしたのだっけと思い返す。公 園を巡り歩いて、母親友達のできない自分を責め、同い年の子と仲良くできないあかりに苛立 いらだっていた日々を、打ち明けたのだっけ。
両手に皿を持って葵が台所から出てくる。皿にのっていたのはスナック菓子だった。片方がポテトチップスで、片方がミックスナッツ。
「ごめんね、こんなものしかなくて。私料理しないから」
ソファテーブルに置かれた皿を、見るともなく小夜子は眺めた。
「だけど……」
小夜子は言いかけ、しかし続きが思い浮かばず、粉引きの皿に手をのばしポテトチップスを口に運んだ。
「私さ、子どものとき、友達ができないのは悪いことだってずっと思ってた。なーんか、そう思うことってけっこうつらいんだよね。それ
でね、子どもいたりしたら、またそういう思いこみ持って、子どもに押しつけちゃいそう。それもこわいんだよね。子種見つけてから言え
って感じだけど」あはははは、と葵は高らかに笑う。
「だけど、友達、たくさんできたほうがやっぱりいいじゃない?」耳に届く自分の声は、 5みっともないくらい切実だった。けれど小夜子は 知りたかった。あかりの未来か、自分の選択の 6成否か、葵の話の行き着く先か、何を知りたいのかは判然としなかったが、しかし知りた
かった。
「私はさ、まわりに子どもがいないから、成長 Cカテイに及ぼす影響とかそういうのはわかんない、けどさ、ひとりで ④いるのがこわくなる
ようなたくさんの友達よりも、ひとりでいてもこわくないと思わせてくれる何かと出会うことのほうが、うんと大事な気が、今になってす
るんだよね」
小夜子は正面に座る葵をじっと見つめた。目の前で【b】手をたたかれたみたいに思えた。そうだ、 7あかりに教えなければならない
こと、それは今葵が言ったようなことなんじゃないか、泣きわめくあかりを保育士さんに預け、まだ友達ができないのかとじりじり焦り、
迎えにいったあかりから友達の名がひとりも出ないことにまた落胆するのは、何か間違って ⑤いるのではないか……葵を見つめたまま、小
夜子は考えた。
「楢橋さん」
葵の名を呼んでみたが、何を言っていいのかわからず小夜子はそれきり黙った。
(『対岸の彼女』角田光代)
※設問の都合上、漢字などの表記を改めました。
一般入試 国語 - 7 -