視覚特別支援学校におけるキャリア教育の現状と 今後の在り方についてⅡ
— 全国視覚特別支援学校教員への質問紙調査から —
中村 信弘
*1・藤井 慶博
*2・高田屋陽子
*3The current status and future shape of career education in special needs education schools for the visually impaired II -Findings of the questionnaire survey of teachers at such schools-
NAKAMURA, Nobuhiro; FUJII, Yoshihiro; TAKADAYA, Yoko Abstract
A questionnaire survey of schoolteachers at special needs education schools for the visually impaired was conducted to examine in the current status and future shape of career education at such schools. The findings showed that the decline in the number of students and increase in those with multiple disabilities, a growing number of students are unable to enroll in courses that lead to career education. Career options after upper secondary school graduation are also not very promising, with very few organizations accepting such graduates for general or sheltered employment. For this reason, the study proposed the importance of career education that is coherent and clearly focused on developing the capabilities of individual students for future social participation and with attention to the psychological traits of the visually impaired. Furthermore, it shed light to examination into what are "basic ability and generic competency" for students who are visually impaired, in building personal abilities and qualities that lead to career development.
Key Word : Special needs education school for the visually impaired, Career education, Basic ability and generic competency
Ⅰ はじめに
中央教育審議会(1999)の「初等中等教育と高等教育 との接続の改善について(答申)」で学校教育と職業生 活の接続を改善するために「キャリア教育」の必要性が 示された。また,同審議会(2011)の「今後の学校にお けるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)」
においてその定義が言及され,社会的・職業的自立に向 けて必要な基盤となる能力として「基礎的・汎用的能力」
が提唱された。特別支援学校に関しては「特別支援学校 高等部学習指導要領」(2009)において「自立と社会参 加に向けた職業教育の充実」が示され「キャリア教育を 推進するために生徒の特性等に配慮し関係機関等との連 携をもとに就業体験の機会を積極的に設けること」と規 定された。また,国立特別支援教育総合研究所(2011)
からは,キャリア教育の視点による教育課程及び授業の 改善,個別の教育支援計画に基づく支援の充実が提起さ
れた。
このような経緯の中で,特別支援学校では幼児期から 高等部に至るまでの継続的な教育の推進や実践的な進路 指導を重視し,生涯学習の観点に立ったキャリア形成支 援の在り方を模索してきた。しかし,これまで特別支援 学校において各障害の特性や一人一人の実態に即して行 われてきた作業学習,生活単元学習,自立活動等の目標 や指導内容・方法と,キャリア発達としての「基礎的・
汎用的能力」の位置づけが明確化しにくいという状況も 見受けられる。また,近年,視覚特別支援学校では在籍 する児童生徒数の減少傾向により,社会性を培うための 同年齢集団による学習活動が難しい状況がある。そのた め,キャリア発達に必要な学習経験を十分に蓄積できな いまま進路決定を迫られているという状況も推測され る。文部科学省(2018)によれば,近年,視覚特別支援 学校の児童生徒の重複障害在籍率は 40%台を推移して おり,高等部本科卒業生の就職率は 10%台を推移して いることが報告され,高等部卒業後の進路選択は非常に
*1*3 秋田大学教育文化学部
*2 秋田大学大学院教育学研究科
厳しい状況となっている。
そこで,視覚特別支援学校における進路指導やキャリ ア教育が,小学部から高等部まで一貫性のあるものとし て確立されているのか,また,具体的にはどのような方 法で実践されているのか,教員のキャリア教育への意識 や,児童生徒や保護者と教員間における共通理解に課題 はないのかという点等について明らかにし,今後の視覚 特別支援学校におけるキャリア教育と進路指導の在り方 を検討することとした。
Ⅱ 方 法 1 調査方法
全国 64 校の視覚特別支援学校の小学部,中学部,高 等部普通科の教員を対象にキャリア教育に関するアン ケート調査用紙を郵送し,各学校で回答を取りまとめた うえ返送してもらった。複数の選択肢がある場合は択一 で回答を求めた。なお,専攻科については,中途視覚障 害のために専攻科から入学する生徒が多く,学部を超え て一貫したキャリア教育の指導が困難であるため本調査 の対象としないこととした。
2 調査期間
2017 年 9 月 6 日〜同年 9 月 29 日
3 調査内容
(1)視覚特別支援学校での延べ経験年数 (2)所属学部
(3)キャリア教育の意義の理解
(4)キャリア教育に関する研修への参加状況 (5)「基礎的・汎用的能力」のうち重視する能力 (6)キャリア教育の共通理解の程度
(7)キャリア教育の学習活動における実施状況 (8)キャリア教育が行われ難い原因
(9)キャリア教育の教育課程上の取り扱い (10)進路指導における課題
(11)生徒の進路先の状況
(12)視覚障害児童生徒にとって重視したい進路
4 分析方法
分析方法は,回答を単純集計した。また, (8) (9) (12)
の質問項目の「その他」については,回答内容を項目化 した。
Ⅲ 調査結果
1 回収率 調査を依頼した 64 校のうち,57 校(89%)の小学部,
中学部,高等部普通科の教員 1
,171 人から回答を得た。
2 視覚特別支援学校での延べ経験年数
視覚特別支援学校での延べ経験年数を図1に示した。
回答した 1
,171 人のうち「0〜3年」は 411 人(35%), 「4
〜6年」は 264 人(23%), 「7〜9年」が 148 人(12%),
「10 〜 13 年」が 126 人(11%), 「14 年以上」が 222 人(19%)
であった。
3 所属学部の状況
各教員の所属学部別の状況を図2に示した。小学部は 366 人(31%),中学部は 351 人(30%),高等部は 454 人(39%)であった。
4 キャリア教育の意義の理解 キャリア教育の意義の理解についての結果を図3に示 した。回答した 1
,165 人のうち,「十分に理解している」
と答えた者は 75 人(6%),「概ね理解している」が 866 人(74%),「あまり理解していない」が 220 人(19%),
「理解していない」は4人(1%)であった。
5 キャリア教育に関する研修への参加状況
「キャリア教育に関する研修への参加状況」を図4に 示した。回答した 1
,167 人のうち「参加したことがある」
図1 延べ経験年数(N = 1,171)
図2 学部別教員数(N = 1,171)
図3 キャリア教育の意義の理解(N = 1,165)
という者は 525 人(45%),「参加したことがない」とい う者は 642 人(55%)であった。また,「参加したこと がある」という者のうち,研修会に参加した回数につい て図5に示した。1回が 247 人(47%),2回が 159 人
(30%),3回が 119 人(23%)であった。
6 重視する「基礎的・汎用的能力」
「キャリア教育における4つの基礎的・汎用的能力の 中で特に重視すべき能力を選択させた。その結果を図6 に示した。回答した 1
,152 人のうち,「人間関係形成・
社会形成能力」を選択した者は 626 人(54%)と最も多 く,「自己理解・自己管理能力」を選択した者は 244 人
(21%), 「課題対応能力」を選択した者は 134 人(12%),
「キャリアプランニング能力」を選択した者は 148 人
(13%)であった。
7 学校全体の共通認識
「キャリア教育は学校全体の共通認識により実施され ていますか」の問いに対する結果を図7に示した。回答 した 1
,172 人のうち「十分な共通認識により実施してい る」と回答した者は 64 人(6%),「概ね共通認識され て実施している」は 700 人(60%),「あまり共通認識さ れていない」は 374(31%),「共通認識されていない」
は 34 人(3%)であった。
8 学習活動における実施状況
「キャリア教育が実際の学習活動の中で具体的に行わ れていますか」の問いに対する結果を図8に示した。回 答した 1
,169 人のうち,「十分に行われている」と回答 した者は 72 人(6%),「概ね行われている」は 784 人
(67%), 「あまり行われていない」は 303 人(26%), 「全 く行われていない」は 10 人(1%)であった。
9 キャリア教育が行われていない原因
調査項目8の,学習活動の中で「あまり行われていな い」「全く行われていない」と回答した 313 人(27%)
に対して,その原因について以下の4つの選択肢(その 他を含む)により回答を求めた。その結果を図9に示し た。「教育課程上の位置づけが曖昧である」と回答した 者は 142 人(45%),「進路指導として取り扱っている」
が 73 人(23%),「教育活動の中で実施する時間が十分 図4 研修会への参加状況(N = 1,167)
図5 研修会への参加回数(N = 525)
図6 重視する基礎的・汎用的能力(N = 1,152)
図9 実施できない原因(N=313)
図7 学校全体の共通認識(N = 1,172)
図8 学習活動における実施状況(N = 1,169)
に取れない」が 70 人(22%), 「その他」は 31 人(10%)
で,主な記述内容は「指導者が理解できていない」「全 校の共通理解が難しい」「学校としてのグランドデザイ ンが示されていない」「教員の認識不足」「各担任に任せ られている」などであった。
10 キャリア教育の教育課程上の取り扱い
「キャリア教育は教育課程上どのように取り扱われて いますか」の問いに対する結果を図 10 に示した。回答 した 973 人のうち,最も多かったのは,「教育活動全般 を通して配慮して行われている」と回答した者で 525 人
(54%)であった。「主として道徳,特別活動,総合的な 学習の中で行われている」が 220 人(23%),「主として 各教科,科目の中で行われている」が 88 人(9%),「主 として自立活動の時間の中で行われている」が 90 人
(9%),「主として生活単元学習や作業学習の中で行われ ている」は 50 人(5%)であった。
11 進路指導に関する課題
「キャリア教育の一環として行われている進路指導に 関する課題と思われることはどれに当てはまりますか」
について,以下の 4 つの選択肢により回答を求めた結果 を図 11 に示した。回答した 1
,155 人のうち「進路選択 肢の少なさ」と回答した者が最も多く 652 人(56%)で あった。次に「保護者と教員の進路選択の意識の違い」
で 342 人(30%)。「児童生徒と教員の進路選択の意識の 違い」は 90 人(8%)と少なく, 「その他」は 71 人(6%)
で,主な記述内容は「教員の認識不足」「情報の少なさ」
「小・中・高の連携」 「学校全体の共通理解不足」 「系統だっ た指導ができない」「保護者の意識が低い」「児童生徒が 将来を考えられない」「保護者と生徒の意識の違い」「進 路の複雑化」「障害の重複化」などであった。また,そ の結果を学部別にまとめたものを図 12 に示した。各項 目において学部による大きな差は見られなかった。
12 生徒の進路先の状況
「視覚に障害のある生徒を雇用する(受け入れる)事 業所や福祉施設が地域にありますか」の問いに対する結 図 10 教育課程上の取り扱い(N = 973)
図 11 進路指導に関する課題(N = 1,155) 図 14 重視したい進路(N=1,150)
図 13 生徒の進路先の状況(N=1,126)
図 12 進路指導に関する課題(学部別)(N = 1,155)
果を図 13 に示した。回答した 1
,126 人のうち「あまり ない」と回答したのは 683 人(61%)に上った,「やや ある」と回答したのは 415 人(37%)にとどまり「十分 にある」 「全くない」と回答した者はいずれも 14 人(1%)
であった。
13 重視したい進路
「児童生徒の進路として重視したいものは何ですか」
の問いへの結果を図 14 に示した。回答した 1
,150 人の うち,「一般雇用や公務員等への就労」が 373 人(32%)
と最も多く,次いで「作業所・授産施設等への福祉的就 労」が 276 人(24%),「三療師としての就労」が 194 人
(17%),「ヘルスキーパー」が 60 人(5%),「視覚特別 支援学校教員養成校への進学」が 18 人(2%)であった。
「その他」は 229 人(20%)で,主な記述内容は「本 人の希望がかなうところ」 「児童生徒の実態に応じて」 「本 人の意欲・適性に応じて」が多く, 「安心して働ける場所」
「保護者が納得できる進路先」「高等教育への進学」「生 きがいの持てる場所」「重複障害者の受け入れ」などの 回答もあった。
Ⅳ 考察
1 教員が重視する「基礎的・汎用的能力」
(1) 視覚に障害のある児童生徒にとっての「基礎的・
汎用的能力」
国立教育政策研究所(2002)は,小・中・高等学校の 各段階における職業的(進路)発達課題を検討・整理し,
これらの課題達成との関連における能力領域として「人 間関係形成能力」「情報活用能力」「将来設計能力」「意 思決定能力」の4領域8能力の枠組みの例を示した。し かし,中央教育審議会答申(2009)において,4領域8 能力について具体的な説明がなかったことにより十分な 理解が得られていないなどの課題が指摘された。これ受 けて,同審議会答申(2011)において改めて分析を加え
「基礎的・汎用的能力」として提起し「人間関係・社会 形成能力」「自己理解・自己管理能力」「課題対応能力」
「キャリアプランニング能力」の4つの能力に捉え直し,
分野や職種に関わらず社会的・職業的自立に向けて必要 となる基盤となる能力であると提唱した。
本調査では,視覚に障害のある児童生徒にとって最も 必要な「基礎的・汎用的能力」は「人間関係形成・社会 形成能力」と答えた教員が 54%と最も多かった。「人間 関係形成・社会形成能力」は,中央教育審議会答申(2011)
によれば「多様な他者の考えや立場を理解し,相手の意 見を聴いて自分の考えを正確に伝えることができるとと もに,自分の置かれている状況を受け止め,役割を果た しつつ他者と協力・協働して社会に参画し,今後の社会
を積極的に形成する力」であると示されている。その具 体的な要素として「コミュニケーションスキル」「チー ムワーク」「リーダーシップ」等が挙げられている。
障害のある児童生徒に対する教育は,一人一人の障害 特性や能力差により,発達段階や学齢を考慮した「個別 指導」の充実が普通教育以上に求められるとともに「集 団指導」の二つの側面を両輪として学習活動が展開され ている。しかし,近年,視覚特別支援学校では,全国的 に児童生徒数の減少傾向が続いており,同年齢集団によ る学習活動を行うことが難しい状況にある。そのため,
学校生活の中で,キャリア発達に必要な社会性の育成や 集団活動の規範,協調性の涵養などを学ぶ場面が少ない という状況があると推察される。また,視覚に障害のあ る児童生徒は,相手の表情の変化を視認することが困難 であることからコミュニケーションの形成という点で思 わぬ誤解を生じていることも指摘されている。更に,
Goffman
(1963)が指摘するように,弱視者は見えにく
いことを隠して非障害者集団に帰属しようとする「パッ
シング(
passing)」という心理的行動が見られ,学校生
活や社会生活の中で周囲の理解を得にくい状況も見受け られる。このような障害特性を要因として,多くの教員 が将来の社会参画に必要な能力として「人間関係形成・
社会形成能力」を重視しているものと考えられる。
(2) 視覚に障害のある児童生徒のキャリア発達とレジ リエンス
木村・菊地(2011)は「キャリア教育の理念への注目 は,子どもたちが社会の激しい変化に流されることなく,
それぞれが直面するであろう様々な課題に柔軟にかつた くましく対応し,社会人,職業人として自立して生きて いくことができるようにする教育の推進,即ち『生きる 力』の育成とも重なる」と指摘している。視覚に障害の ある児童生徒の「生きる力」として懸念されている「人 間関係・社会形成能力」に係る様々な課題を乗り越えて,
社会とどう関わりより良い生活を送るのかという視点が キャリア発達の前提とされなければならないと考えられ る。そのために,障害のある児童生徒のキャリア発達に 関する諸能力は,現在「できる」「できない」という結 果に焦点が当てられるのではなく,児童生徒が主体的に 考え答えを導き出す学習活動や,失敗体験や成功体験の 蓄積を重視しなければならないであろう。このような経 験の積み重ねにより,将来の社会生活において困難な場 面に遭遇した時に精神的に回復する力としての「レジリ
エンス(
resilience)」の概念が「基礎的・汎用的能力」
の基盤として重要であると捉えることができよう。視覚
障害者でもある長尾(2015)は「盲学校で位置付けるべ
きキャリアアンカー
註1とは何か。自己の障害を改善・
克服するために身に付けた諸能力だけでは社会参加が実 現できない場面において,合理的な配慮を申し出て関係 者と調整しつつ時間をかけてでも,その諸能力の全面的 な発揮,やりたいことの実現を目指して差別に負けない 軸(心)を育てることが,私は盲学校教育におけるキャ リアアンカーであると考える」と視覚に障害のある児童 生徒のキャリアアンカーを育てる教育の重要性を提唱し ている。このように,キャリアアンカーとして大切な「他 に譲れない価値観や欲求」を確立し,レジリエンスとし ての「自己修正する力」を培うための教育活動を体系的・
継続的に位置付けることが重要であると考えられる。
2 キャリア教育の実施状況と教育課程上の位置づけ
(1)キャリア教育の実施状況
学校におけるキャリア教育の実施状況について「十分 行われている」と答えた者が6%と僅かだったが,「概 ね行われている」と答えた者は 67%に上った。また,
教育課程上の取り扱いについては 54%の者が「主とし て教育活動全般を通して配慮して行われている」と答え ており,次に「主として道徳,特別活動,総合的な学習 の時間で行われている」と答えた者が 23%であった。
特別支援学校高等部学習指導要領(2009)「総則,第 2節第4款5(6)進路指導の充実」には「学校の教育 活動全体を通じ,計画的,組織的な進路指導を行い,キャ リア教育を推進すること」と明示されている。川崎(2008)
は,「キャリア教育の結果としてどのような教育効果が あったのか,それが問われる時期を迎えている。学力の 場合と異なり,何を指標としてどのように効果を測れば よいのか,学校現場では戸惑いが生じている」と評価と しての課題を提起している。また,本田(2009)は「教 育全体が,キャリア教育に向けて動員されていることを 意味すると同時に,教育活動におけるキャリア教育の位 置づけが拡散し,焦点がぼやけがちになる状態をも生み 出している」ことを指摘している。このように,「教育 活動全般を通じて行う」ことにより,結果的にどのよう に計画し,実践され,評価・改善するのかというマネジ メントサイクルの確立が曖昧になる可能性が否定できず 適切に実践されているかという検証が難しいという点も 懸念される。さらに,青木(2014)は,特別支援教育に おけるキャリア教育について「障害の状況を踏まえて児 童生徒一人一人のキャリア発達を支援し,生活上の困難 を克服できる資質や能力を高め,社会的な自立を育てる 教育」と定義している。一方で,特別支援教育の独自の 指導領域である「自立活動」の目標やその内容である 6 区分 27 項目と,キャリア発達としての「基礎的・汎用 的能力」を育てる教育内容と重なり合う部分も多く,特 別支援教育では「自立活動」として概に定着しているも
のと捉える傾向もあろう。このようなことから,特別支 援教育が実践してきた様々な教育活動と,キャリア教育 の目的や方法との違いを明確にすることに困難さを抱え ていると考えられる。本調査の「キャリア教育があまり 行われていない,全く行われていない原因」として答え た教員の 45%が「教育課程上の位置づけが曖昧である」
としていることからもその傾向を伺い知ることができよ う。
(2)教育課程上の位置づけと授業改善
文部科学省(2006)は, 「既存の教育活動のなかにキャ リア教育と関連する内容が数多くある。それをキャリア 教育の視点でとらえ直すことでそれぞれの活動の関連が 明確になる」と明示している。青木(2014)は,特別支 援学校におけるキャリア教育について,「学校として,
小学部・中学部・高等部を総合的に考え,卒業後を見据 えたキャリア発達を支援する観点から,児童生徒の発達 段階を踏まえて,社会的自立に向けて各学部間や各領域 間に関連する諸活動を体系化し,計画的かつ組織的に実 施することができるように教育課程編成の在り方を見直 す」ことを提起している。障害のある児童生徒のキャリ ア発達は,学校生活の中でどのように多様な体験や経験 を積み重ねることができるのか,その体験や経験を将来 の社会生活の中で必要とされる能力や態度に結びつける ことができるのか,そして,児童生徒自身がその体験や 経験の意味づけをどのように深めていけるのかが重要な 観点となろう。特別支援学校における各教科や領域等の 指導内容や方法の中にキャリア発達を育む「基礎的・汎 用的能力」の視点を見出し焦点化することが教員の役割 であり,キャリア教育を教育課程上どのように位置づけ 計画的・組織的に実施できているかという検証は,日々 の授業改善に向けた大きな契機になり得るものと考え る。
(3)教員の研修の機会
本調査で,「キャリア教育の意義を十分に理解してい る」と回答した教員は僅かに6%で, 「概ね理解している」
が 74%という結果であった。一方で,「キャリア教育に
関する研修等に参加したことがある」は 45%にとどまっ
ていた。キャリア教育の必要性が示された 1999 年から
既に 20 年を経て「勤労観」「職業観」の育成という目的
が,ワークキャリアからライフキャリアへと理念の観点
を含めて大きく変化してきている。特別支援教育におけ
るキャリア教育の在り方も,障害種に応じて一人一人の
児童生徒が将来の社会参画に必要な「生きる力」として
検討され続けていることを踏まえ,視覚障害教育に携わ
る教員が積極的に研修できるような学校運営上の工夫が
必要と考えられる。
3 視覚に障害のある生徒の進路選択における課題
(1)視覚障害者の就職状況と進路選択肢
日本盲人連合会(2016)によれば,2015 年度の視覚 障害者の就職状況は 2
,283 件で,そのうち専門的・技術 的職業への就職件数は 1
,206 件(53%)であり,その内 訳は,三療業が 1
,063 件(88%),ヘルスキーパーが 54 件(5%),機能訓練指導員が 45 件(4%),理学療法 士が 26 件(2%),ケアマネージャーが6件(0
.5%),
情報処理技術者が7件(0
.6%)と報告されている。
本調査の「進路指導に関する課題」について 56%の 教員が「進路選択肢が少ない」と回答していた。また, 「視 覚障害のある児童生徒の進路として重視したいものは何 か」について 32%が「一般雇用や公務員等への就労」,
24%が「作業所・授産施設等の福祉的就労」,「三療者と しての就労」が 17%,「ヘルスキーパー」が5%,「視 覚支援学校教員養成校への進学」が2%と回答していた。
「作業所や授産施設等の福祉的就労」を選択した者が 24%と「一般雇用」に次いで多いことや,視覚障害者の 伝統的職業である「三療者としての就労」を進路先とし て選択した教員が 17%と少ないのは,在籍する児童生 徒の障害の重度・重複化の傾向がその一因と推察される。
しかし,多くの作業所や授産施設における作業種や内容 は視覚障害者にとって有効なものとは言い難く,受け入 れることのできる作業所や授産施設は全国的にも極めて 少ないという状況がある。本調査の「視覚に障害のある 児童生徒を雇用する(受け入れる)事業所や福祉施設が 地域にありますか」の問いに対して,61%の教員が「あ まりない」と回答していることからもその現状を推察す ることができる。また,佐藤(2011)は,「近年の三療 業界は急激な経済変化に伴う雇用不安や,規制緩和を基 調とした政策の基で,晴眼者業者の台頭や無資格マッ サージ業の拡大等により混迷の度合いを深めている。す なわち三療という職業はもはや視覚障害者にとって安定 した社会自立の手段ではなくなってきている」現状を指 摘している。新谷(2003)は,「高等部普通科の生徒の 約6割が三療で生計を立てていくことは難しいと感じて おり,多くの生徒が三療以外の職業,とりわけ専門的・
技術的職業に就くことを希望している」と報告している ように,視覚特別支援学校の専攻科を卒業して三療業へ の就労という単線的なキャリア形成プロセスを望まない 生徒が多くなっていることも事実であろう。このような 状況に鑑み,視覚特別支援学校が中心となり関係機関と の連携の基に障害の重度・重複化への対応と新たな進路 開拓に向けた理解啓発活動が一層求められていると考え られる。
(2)生徒や保護者と教員の意識の違い
進路指導の課題として「進路選択肢が少ない」と回答 した教員が 56%と最も多かったが,次に多かったのが
「保護者と教員の進路選択の意識の違い」(30%)であっ た。保護者が我が子の将来を案じて,できるだけ安定し た将来の可能性を一つでも多く求めることは極めて自然 な思いである。特に,障害のある子どもの保護者は,中 田(1995)が提案する障害受容に関する「螺旋形モデル」
註2
に見られるような「慢性的悲哀」を感じており,子 どもの将来に対する思いは不安とともに一層強いものが あると思われる。このように,特別支援教育に携わる教 員は,地域の特性を下に障害のある児童生徒の個性を重 視した進路選択を保護者との十分な相互理解により構築 する姿勢が望まれよう。また,「児童生徒と教員の進路 選択の意識の違い」と回答した教員は8%と少ないこと にも着目する必要があろう。視覚に障害のある児童生徒 にとって,学校生活の中で身近な職業人として認識でき るのは「三療師」や「視覚特別支援学校の教員」など極 めて限られている。しかも,社会が求める職業人として の姿そのものが大きく変化する時代背景の中で,社会と 職業の関係を適切に理解し主体的に進路を選択するとい う経験と機会は極めて少ないと思われる。このようなこ とから,視覚特別支援学校では全学部一貫した組織的,
継続的な進路指導の充実により効果的な指導内容を構築 することや,社会参加に向けて重要な位置づけである「職 業実習」や「現場実習」が,児童生徒にとって単なる社 会見学や一時的な興味付けの場になっていないかという ことを改めて検証し,生徒が体験から何を学ぶのかにつ いて明らかにする必要があると考えられる。
Ⅴ まとめ
視覚特別支援学校におけるキャリア教育の現状と今後 の在り方を検討するため,教員への質問紙調査を行った。
その結果,在籍する児童生徒の減少傾向や重複障害在籍 率の増加傾向により職業学科である専攻科への進学が難 しい生徒が増加し,一般就労や福祉的就労への進路も受 け入れ先が極めて少ないなど高等部卒業後の進路選択は 厳しい状況にある。そのため,視覚障害の心理的特性を 踏まえ,児童生徒一人一人の将来の社会参加に向けて育 むべき力を明確にし,学部の共通理解を基に一貫した キャリア教育の重要性が示唆された。また,児童生徒が,
自己と社会との関係性について考え,キャリア発達に向
けた能力や資質を育成するために,視覚に障害のある児
童生徒にとっての「基礎的・汎用的能力」の考え方はど
うあればよいか提起した。
キーワード: 視覚特別支援学校,キャリア教育,基礎的・汎用 的能力
註1 エドガー・シャイン(Edgar Henry Schein)の理論「個 人のキャリアの在り方を導き方向付ける錨,キャリアの 諸決定を組織化し決定する自己概念」
註2 障害受容を段階として捉えず,保護者の慢性的な悲哀や ジレンマが異常な反応ではなく通常の反応であることの 理解を促すモデル
謝 辞
この度のアンケート調査にご協力いただいた,全国の視覚支 援学校の校長先生をはじめ,回答をお寄せいただいた各学校の 教員の皆様に深く感謝を申し上げます。
参考・引用文献
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(Retrived 2018.11.9)