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へき地学力の性格

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

へき地学力の性格

著者 太田 静樹

雑誌名 奈良学芸大学紀要. 人文・社会科学

13

ページ 141‑161

発行年 1965‑02‑27

その他のタイトル CHARACTER OF RURAL PUPILS' ACHIEVEMENT URL http://hdl.handle.net/10105/3434

(2)

へ き 地学 力 の性格

太  田  静  樹

(教 育 学 教 室)

は じ め に

141

学力低下の問題が戦後昭和23年頃から社会的な問題として起り、その論議と共にその実態を明 らかにするための学力調査も次々に行われてきた。最近はむしろ積極的に教育目的達成の程度を 知り教育行財政、教育指導のための参考資料を得るという趣旨で文部省が中心となり強力に行っ ている。それは昭和31年以来であるが、殊に昭和36年以来中学校は全国悉皆調査として強行した ために地方において混乱を生じたが、そのような行政的な問題と共に永年の学力調査の結果は弊 害も次第に大きくなりつつある。毎年のぼう大な調査結果資料が果してその日的通りに活用され

ているかについては疑問であるが、ここではこれらの学力調査の批判についてでなくして、従来 の学力調査から、その地域性が問題となり特にへき地の学力は最も複雑困難な問題を含んでいる ことが指摘されてきていることから、この間題を検討するものである。それは従来の学力調査に おいて地域差を指摘しても明瞭にへき地を取上げたのは小範囲の個人的研究か或は文部省の学力 調査であった。それに伴って各府県の報告書もへき地を取上げたが、それは唯へき地学力を平均 としてまとめただけであってそれを他の地域と比較しているにすぎない。又いくつかの学力規定 要因を求めているけれども、ごく少数の例(1)を除いてはへき地学力の内実の分析がないために、

唯へき地の学力が甚しく劣っているというだけでそれ以上にいかなる分野において劣っており又 秀れているか、いかなる傾向を有するか不明である。しかしへき地学力の問題を解明していくた めには各教科について内容分析をし要因の相互開運から総合的にへき地学力の性格を考察する必 要があるのである。

ここでへき地学力の性格という時、それは当然へき地学力の概念規定から構造にまで関連さし て考えねばならないが、それは又学力一般の概念、構造から規定してかからねばならないもので ある。しかしここでは概念規定から始めて理論的に構想していくというより、既存の学力調査資 料から学力の実態を明らかにしながらその傾向を探り出し徐々にへき地学力の核心に迫る方法と 理論を検証しようとするもので本稿はまだその序論的段階にすぎない。そのためにはへき地学力 が従来からどのように調査研究されてきたか、その立場と共に分析されねばならないが、へき地 自身の性格が現代社会の変貌と共に急速に変化しつつ今日において学力問題も決して固定したも のではあり得ない。それは現代社会に要求される学力そのものの改革とへき地白身の変革によっ てまき起されるものである。又、それをいかなる立場と方法で以て把捉していくかによっても異 なってくるものである。へき地学力の性格を人格形成の見地から追求していく方法も教育心理学 的テストによって行われているが\2)、筆者の立場は上述のように一応学力としては学力調査に よって把えられた結果を考え、要因を分析しながら、いかなるへき性による特色を持つかを追求

し、本来的なへき地学力の構造を求めようとするものである。もちろん一般学力論においてもま

(3)

142 へき地学力の性格 (太田)

だ確立されているとはいえない今日においてこれは国難な仕事であるが、従来のへき地学力の研 究が要因分析に重点がおかれてきているのに対して必要なことであろう。

I.へき地学力の槻向

1.へ き 地学力 観

一般に学力の把え方に二つの立場があることは如られていることであるが、(4二

(1)学習によって獲得された能力として客観的に評価するもの

(2)教育目的的に内容を選択し社会的価値観を含めて考えるものである。

しかし(1)に測するものがほとんどであって自明の如くすら考えられている。又比較的容易にな されるということもあるが、(2)についてはかなり難しい問題を含んでいる。これをへき地学カ についてあてはめても同様である。へき地学力として直接取上げたものは個人研究は別として研 究機関による大規模のものは少なかった。全国的なへき地学力としてまとめられるようになった

のは前述のように昭和31年以降の文部省の学力調査である。ここでへき地学校とはすでに各府県 においてへき地指定校とされているものであるが、これはほとんど全国的に統一された規準によ るものである。もちろんへき地には1〜5級の程度があり、それを同一に取扱うことには細かいへ き地学力の分析には無理であるが他地域との比較においては平均としてまとめられるのである。

ここで取られている学力観はその調査報告書にも明示しているように(5)「教育目標に対する現在 の学習の到達度」である。教育目標とは学習指導要領に具体的に明示してあるわけだから結局、

学習指導要領の目標への到達程度を学力として考えているものである。この学力観に基づいて学 力調査が行われており今日まで変りない。この学力調査は別に標準化されたものではないけれど も学習指導要領に示された内容の到達度であるから、それにふさわしい出題であればよく、25〜

40の問題に全部を含ませることは出来ないにしても、それを代表するものと考えられたものであ ろうし、それによって示された結果がその間題による学力ということになる。問題自身の客観性 に問題はあっても、その時の程度を知り比較することば可能である。

(2)について最も熱心に議論し続けてきているのは日本教職員組合の全国研究集会における、

へき地教育の分科会である。この分科会が出来たのは昭和31年(第6回大会)以来であるが(6:、、

しかしへき地学力としてまとめて議論せられるのは第8回大会以後であって、始めそれぞれの立 場における学力観の矛盾の究明から論議をし、それを統一するためには望ましい人間像を措定し なければならないとして、新しい意識に目覚めた働く人間として、又村を変革していく人間とし ての像を求め、結局生活の現実から矛盾を認識、克服し新しい生活の建設を進めるウデとチエを 持った人間、従ってそのような力量が学力として要求されるということになるが、そのためにこ れからの働く人間や生産教育の内容を歴史的社会的に分析していかなければならず、当然従来の 教育内容方法を批判改革していくことになるのである。以上のような立場に立っても現在の実力 ほどの程度かということになればやはり何らかの基準を設けて調査テストしなければならないの であって(1)と(2)と相関連して学力の問題を明らかにする必要がある。学力低下の問題が起っ た時にもやはり質的な学力論争と共に実証的な学力調査によって比較検討しなければならなかっ たのである。

(1)のような学力調査による学力と雅もそれが学力全体でないことは承知の上でなされている

(4)

へぎ地学力の性格 (太田) 143

わけであり、より科学的に把擬する努力はなされてもペーノ1−テストによって調査される限界は どうすることも出来ないのであって特にそれが、へき地学力の場合には一層へき地の子供である がためにもたらされる制約も出てくるのである(7)。例えばへき地学校は教師も子供も少人数であ ることが学力調査に特殊的に強く影響する。教師個人の能力、態度がへき地はど鋭敏に学校、学 級経営や子供に影響する所はない。このことは学力規定要因車に占める教師の力の特に強いこと を示すものである。又子供が少人数であるためにその能力の差や分布が極端になり易く統計的に も上下差が著るしくなる。1人の占める%が大きいからである。(1学級5人のところでは1人 は20%を占める、このような学級では1問題において5人共正答であれば100点であり、誤答で あれば0点である。このような結果が時々現われるのであるが、10人以上の学級ではほとんどあ りえない現象である。)次に標準テストにしろ、学力テストにしろ、テスト適応性とも言うべき点 において既にかなりの差が都市とへき地において考えられる。都市のようにテスト的学習の傾向 の強いところでは一定時間に一定内容を速やかに処理解答するに馴れて早いであろうことは想像 される。又出題の内容によっても都市偏重の傾向のあることが最も標準化されたる知能テストに ついても早くから指摘されてきていることであって、へき地児には不利である。もっとも今口の 学力は都市的な内容を要求されており(8)、又、テスト適応性も一つの能力として要求されている ということであれば、すでにそのような能力差、従って学力差のあることは当然であり、やむを えないということになろう。故にその学力をどの程度おさえていくかが問題になる。

結局(1)による学力の把え方も調査の操作にのる限りの方法的な学力であって、へき地の学力 といえばもっと包括的に考えられねばならないことは言うまでもない。或教科について知識理解 はいかに秀れていてもその態度、技術、興味は貧弱かもしれないが、それは把えにくいものであ る。国語のテストがいかに秀れていても話し方は拙劣であるということがある。学力が単にテス トのための要素的暗記的な知識でないこと、教科の学習全休に展開する活動力であること、又生 活の中に応用される力(生活力)であることとしても論ぜられるのであるが、そのためには今日 の地域社会や社会全般の動きから検討されねばならないことになってくる。そのことは前述の日 教組の研究集会で行なわれている通りである。しかしここでは筆者は前述のように学力観の問題 を批判的に展開するのでなく、先ず学力調査の資料から学習の結果による能力としての学力を、

いくつかの教科について分析し、へき地学力としての特性を明らかにし、その聞達要因を出来る だけ具体化しようとするものである。

2.へき地学力の全国的傾向

これを知るためにはやはり全国的に広くへき地を調査した資料が必要であるが、現在のところ 文部省の全国学力調査による外ないので以下これを中心に考察するが、特に中学校は昭和36年以 降すでに悉皆調査が3カ年行われているので小学校より中学校資料を利用することにするこ9、。

(1)文部省学力調査では地域類型区分が年度によって異なっていたが昭和36年以降、住宅市 街地域よりへき地(但し再掲)に至る15の区分を設けて統一しているので、これに従ってみるの に〔10)、どの年度、学年、教科をとってみても、ほとんど大都市の住宅市街地域が学力平均点が最 高であり、へき地は最低である。その両地域の平均点差をみれば例えば中学校で各年度、学年、

教科において大体14点である。この差がどのように動きつつあるか問題であるが、へき地の特色 をみるのに両地域を比較するのは極めて対照的であるが浮動性も大きいので、本稿ではその年度 の全体の平均点を一応標準的なものとみなしてそれとの差がいかにあるかをみることにした。も ちろん全体平均点そのものも浮動しているわけであり、年度、学年、教科によって問題の難易、

(5)

144 へき地学力の性格 (太田)

形式が異なるため平均点で単純に比較することは出来ないが、平均点差であれば一応全体の標準 的なものからの位置付けが明らかになり、その点から他との比較も出来るからである。従って高 得点でも平均点差が多ければ余りよいとは言えないし、低得点でも差が少なければ悪いとは言え ないということである。又各価域や問題の正答率も参考にしたけれども、むしろその傾向を重視 したのであこて正答率の高低による学習指導上の開腹点については各府県の学力調査報告書に詳 しい。各教科全般については、学力調査では各教科同数の問題であり、出題形式もすべてほとん ど同数の選択肢法であり同一の配点であるので教科の性質によって平均点の高低が左右されるこ とも少ないのであって平均点差によって一応各教科との比較も出来るわけである。但し出題その ものの適否についてはその方面の専門家によってなされ、その正答率から学習指導要領にまで及 んで検討されているわけであるがCll)、ここでは正答率の高低よりもその平均点差において問題点 を見出そうとするものである。

(2)全国各教科平均平均点差 第1表から第4表は全国及び奈良県の昭和36〜38年度3カ年 第1表   全国住宅地域一平均

年度 学年 国語 社会 数学 理科 英語

3   6.7  5.8  7.2  5.4  3.9 2   7.2  5.7  5.8  4.3  5.0

3   6.3  4.5  5.5  3.8  5.0 2   6.3  4.2  5.5  3.3  5.0

38

3   5.8  4.5  5.8  3.7  5.0 2   5.7  4.3  5.5  3.5  5.0

均  6.3 4.8 5.8 4.0 4.8

第3表   奈良県都市地域一平均

年度 学年 国語 社会 数学 理科 英語

36

3   4.3  3.8 2   3.1 3.2

8 6

2 1

9

・∴3   0 3   2

2.7  2.0  2.5 1.2  2.3 3.5  3.3  3.0  2.0  3.2

3   2.7  2.0  2.8ノ 1.7  3.0

2   2.8  3.0  2.5 1.7  3.0

均  3.2 2.9 2.7 1.4  2.6

第2表   全国平均一へき地

年度 学年 国語 社会 数学 理科 英語

3   8.5  8.6 11.6  8.2 10.1 2  9.1 9.5 10.4 7.2 10.5

37

38

3   9.5  7.2  9.7  6.0 19.5 2  9.2  7.8  8.7  5.0  9.8

3  11.7 10.0 12.0  8.5 14.3 2   9.3  9.0 10.3  5.8 10.5

平  均  9.5 8.7 10.4 6.8 12.5 第4表   奈良県平均−へき地

年度 学年 国語 社会 数学 理科 英語

3   8.8 11.8 11.5  9.6  8.6 2   7.5 11.2 11.1 8.0  8.6

37

38

3   8.3 10.0  9.7  6.0 12.0 2  6.3  7.2  9.0  4.5  8.2

3  4.7  8.5 10.0 6.3 10.7 2  6.8  8.5 10.0 4.0  9.7

平  均  7.1 9.510.2 6.4  9.6 註 奈艮県の都市地域は学力調査の地域類型で

は「その他の市街」に属する。

問の中学校第2、3学年各教科の住宅地域とへき地と全体平均との差をまとめたものであり、第1、

2区Iはその平均をグラフにしたもので参考までに他の地域も入れている。(但しその表は略する)

その結果を察するに

(i)都市住宅地は国語、数学、英語などのいわゆる記号教科において他の教科と比較して 全平均より差が大きく秀れており、理科の差は少ない。

(ii)へき地は逆に記号教科において劣っており、理科の差は少ない。

(6)

へき地学力の性格 (太田)

第1図 全国地域別平均点差 固  社  叡  増  兵

2 棚一一一一・一一一へ一、−一一一   2

/ヽ− /一へ・、・、

4 普通/′/

屠柑

6

8

10 12 14

第 2 区!奈良県地域別平均点差 回  礼  教  理  葵

その伸一−__−___

 ̄\、、//

145

(iii)従って両地域の比較では国語、数学、英語の3教科において差が大きく開いており、

理科の差は最も少ないことである。

故に都市型の学力と言えるとすれば、それは国語、数学、英語などの記号教科において秀れてお り、へき地型の学力は逆に記号教科に劣っているということである。この傾向はその標準偏差や 最高最低差などからみても大体同様の傾向が見出されるのである。

何故このような傾向が現われるか、いかなる要因が影響を与えているか。これについてはそれ ぞれの教科について地域的な分析をしなければならない。考え方によればむしろ問題解決的な、

内容的な教科としての社会や理科の方が国語、数学よりも大きい差があっても不思議ではない。

何故なら社会や理科に関する生活経験、学習経験にへき地の子供は乏しく、又それを補う教具教 材に劣っているからである。殊に理科設備の充実度は明らかに地域差があり、それが学力に関連 していることも証明せられている。然るに理科学力は5教科中最も差の少ない教科である。この 傾向はいくつかの県の学力調査結果をみても同様である。英語は平均差においても最高最低差、

標準偏差などにおいても最も大きく差の開いている教科である。特にへき地が劣っているのは外 国語学習のための生活環境や学習環境が都市の方が有利であり、へき地は不利な条件が多いとい うことから納得されることである。国語、数学の差が社会、理科よりも大きいことについては従 来国語、数学など練習的要素の多い教科はへき地学校では必然的に自学自習量が多く、それを国 語、数学にとり易いので、この分野においてはへき地でも都市には劣らないという現場の芦がよ く聞かれたのであるが、上述の結果からみればそれは認められないことである。もっともその教 科内の練習的分野では他の分野よりよいということは考えられるが全体的にみれば甚だ弱いとい

うことである。へき地の学力について諸教科の中ではやはり国語、数学に問題があることは個人 的な研究においても前から指摘せられてきているのであってこれについては後にふれることにす

(7)

146 へぎ地学力の性格 (太田)

る。

以上のことが果して中学校だけのものであるか、或は小中学校通じての傾向であるかをみるた めに、全国小学校について同様の資料について検討した。4教科(国語、社会、算数、理科)に

第5表   全国地域別平均点差

(小学校)

学年 地 域 国語 社会 算数 理科 住 宅 7.6 7.6  7.2 3.6 5  その他 2.8 2.4  2.0 1.2 Lへき地 9.2 9.6 10.8 8.4 住 宅 6.8 3.6  6.4 3.2 6  その他 2.8 1.6  2.4 0.8 へき地 8.4 8.0 10.8 5.6 乎 住 宅 7.2 5.6  6.8 3.4 その他 2.8 1.3  2.2 1.0 均 へき地 8.8 8.8 10.8 7.0

8

6

4

2

第6表   奈良県地域別平均点差

(小学校)

学年 地 域 国吉吾 社会 算数 理科 その他 7.6  3.2 6.8 −0.4 へき地 8.812.411.6 9.6 その他 6.8 −0.4 8.4 −1.6 へき地 6.410.010.8 8.0 平 その他 7.2 1.4 7.6 −1.0 均 へき地 7.6 7.511.2 5.9 註 第5表と同じ

註 国語、算数は昭和37年度調査 社会、理科は昭和38年度調査 住宅は住宅市街平均一全平均 その他はその他の市街平均 一会平均 へき地は金平均一へき地平均

第 3 図 全国地域別平均点差

(小学校)

国  後  教  理

二二

ヽ/

8

第 4 図 奈良県地域別平均点差

(小学校)

国  社  教  理

榊憮ヽ

6   ヽ\

4    ヽ\

2

2

4

6

8

ユ0

12

ノ、、、

/  1 ノ  \

、、∨ノ、、、、

山村、_、

ヘ音士せ .°

ヽ    ′ ヽ   ′

ヽ ′

ついてまとめたものが第5表、第3図であるが、但しここでは同年度のものでなくして国語、算 数は昭和37年度調査、社会、理科は昭和38年度のものであり資料として少なく一つにまとめるこ

(8)

へき地学力の性格 (太田) 147

とに難があるが参考として一応比較してみたものである。それによれば、やはり都市は中学校と 同じく国語、算数の記号教科が内容教科の社会、理科よりも平均点差が高く秀れており、理科の 差は最も少ない。その傾向は中学校よりももっと先鋭に現れているといってよい。へき地は算数 が最も悪く、理科が巌もよいということは中学校と同じであるが、国語は、社会と同じくその中 間に位している。へき地中学校のように国語が劣っているということもないが、都市との比較を すれば、やはり差の大きい教科は算数、国語であり、次に社会、理科であることは、へき地型の 学力構造であり、へき地中学校と同傾向であると言える。

参考のために2、3の例をあげれば、北野栄正氏によれば(12ニl、北海道へき地の小、中学生に田 中式標準学力テストを国語、社会、算数、理科の4教科について行ない比較しているが、その 中でへき地児は図語学力が最も低く、しかも小学校より中学校上級に進むにつれて国語学力は遅 滞が著るしい(特に男子)という。又数学も全学年にわたって低く、これは特に小学校低学年に 悪いという。又、香川県教育研究所にて実施した昭和36、37年度の全県下の小学校の学力調査に おいても(13)、都市と山間地域との差の大きい教科は小学校高学年では国語、算数であるとしてい る。又、岩手県の昭和38年度の全国学力調査の結果をみても(14)l、中学校第3学年において差の大 きいのは国語、数学、英語である。以上はごく一部の地方の例を示したにすぎないが、やはり全 国傾向と同じく、へき地山間地域は記号教科において劣っているということである(38)。

次にそのことを奈良県について考察してみる。

3.奈良県の傾 向

前述の全国学力調査と同じく[田口36〜38年度における同調査の奈良県中学校の資料を基にして まとめる(15㌔県の中学校数は、昭和38年度で公立学校109校であり、その中、「その他の市街地 域」(奈良県での都市)に含まれる学校数は15校(13.8%)(その生徒数は37.2%)であり、へ き地学校25校(22.9%)(その生徒数5.3%)である。但しへき地校には名称は本校に統合されて いても実質的にはまだ分校として残っているものを加えれば、その%はやや多くなるはずであ

る。小学校は公立小学校292校中、都市校7%、へき地校24%であり、いずれにしても小中学校 共、県の接がへき地校である現状であるが、最近はこの数がへりつつあり、それがへき地学力に 影響を及ぼすであろうことは充分考えられることである。その学力の傾向を第3、4表、第2図か ら察するに、都市は県平均よりも大体2.6点(教科によって1.4〜3.2点)上廻っており、各教科 ほとんど同じ程度に県平均よりも秀れている中に、強いてその差を認めれば理科のみやや下って いること、即ち差が少ないことである。全国傾向と止してむしろ社会は秀れている形にあると言 える。このことは奈良市の中学校例を調べても明らかである(吋。

へき地についてみると県平均よりも約8.6点(教科によって6.4〜10.2点)下廻って劣ってい る。結局都市と比較して約11点の差であるが、これは全国の同14点と比較するとその差はやや縮 少されていると言える。その傾向は全国傾向と同じく理科の差が小さく、数学、英語の差がより 大きいのであるが、唯、国語が全国に比してかなり秀れていることでこれは特異な傾向といって よい。国語は全国へき地も山村も社会より劣る傾向にあるのに奈良県へき地中学校は逆に国語が 秀れているのである。何故国語が秀れているか、いかなる分野において秀れているのか、これは 興味ある問題であり更に分析しなければならない。

奈良県小学校についてはどうであろうか。第6表、第4図から察せられるように、都市は記号教 科と内容教科の上下差が著るしいのは同中学校のゆるいカーブと対照的であり問題を提供してい る。へき地についても県べき地中学校と全く同じで国語、理科の差が少なくて秀れているのに対

(9)

148 へぎ地学力の性格 (太田)

して社会、数学がひどく惑いという対照をなしている。全国小学校の傾向に比較して国語は秀れ ているが、社会は劣るということである。

以上、県小、中学校を通じて、へき地学校はへき地型学力として言えば算数数学の差が最も大 きく、理科が最小であることであるが、全国比と異なっている点は国語が特に秀れているという ことであろう。

4.へ き地学校事例

へき地学力の傾向を全国的に叉奈良県について概観してきたのであるが、その中から特に小、

中学校を通じて問題としてあげたことは記号教科としての国語、算数が劣っていることであっ た。しかしそれは平均点差の比較においてであってその内実においていかなる問題を含んでいる か追求しなければならない。その分野領域においてどのような様相を呈しているか、単に量的面 のみならず質的にもみなければ、へき地学力の性格は表示されてこないのである。それをへき地 学校全体についてみることは到底困難であるので代表的に中学校のへき地分校を事例として取上 げ検討してみたい。それはへき地は特殊的な要因が強く作用していることは前述の通りであっ て、それをいつも平均化してみていたのでは現実に迫ることが出来ないのであって(17)、どうして

も各学校について具体的に研究していく必要がある。そのことは既に早くから全国学力調査の時 にも指摘されていることであって、大規模な全国調査では難しいが、地方地方においてなされる べきことである。出来れば継続的に一定の学校について、又一定の生徒について追求していくべ きであろう。それによって特定の要因をより具体的関連的に把起し学力の構造を明らかにしえよ

つ0

本稿で取上げたへき地学校事例は奈良県吉野郡の山村へき地であるが、当村が陸の孤島と称せ られていたのは昔であって今日は10年来の諸種の国土総合開発に伴い、部分的にはかなり変貌し てきており、教育面への影響も現れつつあるわけであるが(18)、それでも小学校について言えば村 内25校中、複式の学校は21校(84免)である。中学校についても10校中、4校は複式又は複式を 含んでいるのである。村内でも山奥部に入れば人口減少し、かえってへき地化しつつある現象も 呈しているのであるが、ここでは代表的に国道バス路線よりかなり山間部に入る中学校分校3校

を取上げその資料を分析検討したのである。この3分校はへき地級も最高或はそれに次ぐもので あり、地域環境は同じような山林部落であり、学校規模も類似しており進学率も余り変らない。

学校の概況(昭和38年度)は第7表の通りである。3分校を仮にA、B、C校と称する。これらの 第7表      分校の概況(第3学年)

誇叢全校品姦

学校 教師 生徒 学 級 霹藁

A   2人  6人 複 式 98.8  28人 4級 ち   2   5  単 式 92.1 25  5 C   2   14  単 式 92.1 37  2

第8表  分校の平均点(第3学年)

国語 社会 数学 理科 英語 県 平 56.0 47.0 45.8 48.3 56・5 へき平 51.3 38.5 35.8 42・0 45・8 分 平 48.9 30.6 26.6 34.7 39.4

A   48.0 27.5 23.0 33.7 28.O B   60.0 41.2 42.5 35.7 47.5 C  45.2 27.0 24.2 37.2 41.5 証 県平は県平均

へき平は へき地平均 分平は 3分校平均

(10)

へぎ地学力の性格 (太田)

第 5 図 分校平均点(1)

50 40  C 30 20

註 県平は県平均

第7図平均点差(県平う滝等)

国  後  敬  増  英

話芸芸提蒜産等竃岩室差

60 50 40 30 20

第 6 図 分校平均点(2)

回  礼  教  理  英

/ 一

149

\、ト一一、.!二二ノ分平

\−\//

註 県へ平は県へき地平均 分平は3分校の平均

分校はその地の小学校に併設されていたも ので伝統的に小学校の小人数をそのまま引 き継いでやっており教師2人、学級2学級 の単式、複式混合の形態であるが小学校は 後々式であり、従って生徒達は小学校以来 ほとんど複式学級少人数の中で2人宛の教 師によって教育せられてきたわけで、この ことは教育条件の悪い積み重ねの上に、へ き性が加味せられて一層条件を悪くしてお り、中学校第3学年で単式か複式かという ことは余り問題にならないほどである。A とBとは学級人数がほぼ同じであり、又B とCとは生徒のI.9.も同じであることも考 えて検討したい。3分校についての資料は 昭和38年度全国学力調査によるもので、それ以外は入手出来なかったためである。主に第3学年 について述べ第2学年は参考にした。3分校はそれぞれ特異性を持っているのであるが統計上一 つにまとめてへき地の分校として考えた。それは前述のように地域環境、学校条件、生徒のI.

Q.等において相似しており、しかも現在本校に統合されているからである。

第8表、第5図から分るように3分校の異なる傾向のうちに、AとCとはやや似ており、その 点はほとんど最低であるが、Bは各教科においてかなり秀れており、県へき地平均よりも理科以 外は上である。しかもBはAと同じ規模であり、又、Cとは生徒のI.9.が同じであるのに何故秀 れているのか、そこに教師の指導力、指導法に関係するのでないかと考えられるのである。しか し又3分校を平均すれば第6図のように、それは県平均とも県へき地平均とも相似した傾向をも つことが分り、しかも分校平均は県へき地平均に比してどの教科においても劣っていることを示 している。これはやはり分校の条件がへき地性の深いことと共に不利であることを示しているが、

その中でも特に複式学級における学習指導上の問題であろうことは前述した通りである。しか し、その「恒こ上にあげたようにB校のように秀れた例もあり、それが果して教師の要因によるも

(11)

150 へき地学力の性格 (太田)

のか究明していく必要がある。先に県へき地中学校の特色として特に国語が秀れていることをあ げたが、分校についても一層明瞭であり(第7図)、各教科中、最も差の少ないものになってい る。数学が最も大きい差であることは同じ記号教科でありながら対照的である。以下へき地学力 として最も問題になる国語、数学、理科についてまだ部分的であるが若干内容を分析してみる。

Ⅱ.国語・数学・理科の学力分析 1.国  語

国語学力について、県へき地校は全国傾向に反してかえって成績がよいということに特色を 見出したのであるが、その内実をみるのに、国語の出題を構成している分野領域は第3学年も 第2学年も同じであるが、5分野あり、(1)語句と文字、(2)(3)文章の読解、(4)読解と鑑賞、(5)

組立てと鑑賞に分けている。それは出題文章の種類にもよっているわけであるが重複している領 域を含んでいるので、出題の狙いからこれを区別し直して(a)語句の意味、用法、(b)文章構成 の把握、(C)語法の理解、(d)鑑賞力、(e)要旨の把握 の5分野にしてその平均点及び平均点差を まとめた。(第9表、第8、9図)それによって明らかなことは(3年、2年はほとんど同じ傾向で あるが)、分野別にみて(C)(e)において秀れており、(a)(b)において劣っているということで ある。即ち、語法の理解(平均点72.0)と要旨の把握(58.3)においてよく、語句の意味、用法

(46.1)、と文章構成の把握(36.6)において悪いということである。しかしこの傾向は県平均 についても全く同様であり、へき地だけのものではない。結局これはへき地は易しい問題におい

第9表  国語平均点(第3学年)

a b c d e  平均 県 55.6 47.1 68.2 57.6 60.0 56.0 分校 46.1 36.6 72.0 51.3 58.3 48.9

第8図 国語平均点

n b C d e

てほよく出来ているが、難しい問題において差を つけられているということである。しかしそれも 10点前後の差であって平均して7.1点の差であ り、小問題別にみても分校平均が県平均より秀れ ているものは10問題もあり成績のよいことを示し

第9図 国語平均点差(県平1分校)

U

ている。特によかった(C)分野の問題の成績は⑰(出題の通し番号、以下同じ)漢字に「する」

をつけるもの(分校平均69.0、県69.1)、魯助詞「から」の用法について(分校80.0、県67.4)

であるが、この分野はわずか2題であり、問題も易しく、へき地児もよく出来て少人数だけに率が

(12)

へき地学力の性格 (太田) 151

高かったと言える。問題は差の大きかった(a)(b)の分野であるが、しかしそれもその分野全体に わたってでなくして或問題において特に悪いという傾向である。例えば(a)では、⑥〜③短文中 に漢字(固定、徹底、講座、裕福)を入れるもので(分校29.0、県55.4)(b)では⑱産業航空の 文章中、垂直写真の意味を整理するもの(分校20.0、県56.2)である。結局、各分野においても それ程大きな差はないということであって、(C)がよいといっても問題数が少ないので不安であ るが、(a)(b)の分野で悪いといっても一部分的であるということである。しかし語句の意味用法 や文章構成把捉において悪い面が全成績の悪い分校−ほど大きいのは、へき地性に関連して欠点を 持っていると思われるが、語句や文章把捉は結局読解力であり、それに弱いことを示すものであ る。他の地方においてへき地学力の中、国語の劣っている場合を分析することは上に関連して興 味あることであるが、参考に例えば、鈴木淳一氏による北海道へき地中学校の国語の学力調査に よればClg)、これは主に基礎的な言語知識を調査したものであるが、複式よりも単級になる程(即 ち、へき地性が強くなる程)成績は悪くなり、殊に漢字の書写が読みより悪いこと、その他熟語 や語句の意味において問題によってアンバランスが大きいと指摘している。又、同小学校の調査に よれば(20)、やはり語いが悪いことと共に、へき地2、3級の複式、複々式の学級は文章読解、鑑 賞力、語法等において特に劣ることを示し、国語学力は日常生活と関係深いだけに学校規模より かはむしろ地域の生活環境の文化的要因が学力を強く規制していると言っている。奈良県の分校 の場合、3分校を比較すれば最も秀れているのはBであるが(他より12点の差)、その中で最もよ いのはやはり(C)の語法の領域であってこれは珍らしく100点満点である。(これは学級人数5人 という少人数のために可能である。)(e)の要旨の把擦などはかえって他校より悪い位である が、全般的には国語の学力として各分野において秀れているが、これは地域環境が同類と思われ る以上、その規定要因としては内部的な教師の要因が強いのではないかと考えられるのである。

もちろん地域要因がへき地の国語学力に強い力を持つことは前例と共に考えられることであり、

奈良県へき地についても同様である。この3カ年問の資料のみからの推察であるが、平均点差か らみてへき地の国語学カがや\向上しつつあることである。他の教科は停滞又は差が拡大しつつ あると思われるのに、逆によくなりつつあることである。これが今後どう変化するか予測出来な いが、もし仮説的に言えば県へき地における(分校についても同様であるが、)最近10年間の総 合開発によるへき地の急速な交通の便利化、テレビの急速な普及、それらによる生活への直接間 接の影響が、へき地の子供の言語生活、言語能力に特にそれが言語的受容性の強い中学生に影響 を及ぼしていることが、へき地中学校の国語の学力の上昇に現われているのではないかと言うこ

とである。しかしこれについては他に同類の事例を調査し、又へき地校について条件的に統制し て研究する必要があろうが、この傾向が今後学校統合などによって一層助長され他の教科にも及 ぶものであるかどうか注目すべきであろう。

2.数  学

数学は5教科中で英語と並んで最も差の大きい教科であることは前に指摘した通りである が、県平均45.8点に対して、へき地平均35.8点と10点の差(昭和38年度第3学年)は同国語の 4.7点の差の倍である。又へき地分校はへき地平均に対しても最も差をつけられている。(分校は 児へき地平均より更に9、2点の差であるのに同国語は2.4点)結局へき地分校は県平均に対して 約20点の差で同国語が7点であるのに比すると非常に大きな差である。このことばへき地になる 程数学が悪くなるということである。数学の問題の分野は次の如くである。(a)数(計算)、(b)

式(式の値、計算、一次方程式、連立方程式)、(C)数量関係(一次関数、一般比例関係)(d)計

(13)

152

第10衷  数学平均点(第3学年)

へぎ地学力の性格 (太田)

a b c d e 平均 県  56.2 48.9 34.3 40.0 45.8 45.8 分校 25.6 24.319.5 37.3 32.4 26,6

第10図 数学平均点

n b c d e

室(縮図)(e)図形(論証、合同、相似)。第3学 年を中心に各分野別にみると、(d)において最も 差が少なくて県平均に近い(平均点差3ユ点)。(a)

(b)の分野が最も差が大きいこと(平均点差(a)

30.6点、(b)24.6点)である。即ちへき地分校が 第11図 数学平均点差

n b C d e

数学が劣っているのは数及び式の分野であって(これは第2学年も同じである。第11図参照)県平 均と比較して単なる量的な差でなくして質的に違った傾向を示しているといってよい。県平均に おいては(a)(b)の分野は県平均よりも秀れてよいのに、へき地分校においてはむしろ分校平均よ りも悪くなっているところに、いかにこの分野において、へき地が弱いかを示しているのである。

小問題の例をあげれば、(a)の① 2×(−3)2+4×(−3ト6 は鬼55.9点、分校20.0点(b)の

⑳2一触=触+16鬼58・8点、分校16・0点、⑪(芝電‡と1。児48・0点、分校32・0点(C)の数 量関係においても⑯一次関数をグラフで示す問題は、児35.3点、分校4.0点、(25人中正答者1人)

成績のよい分野をみると、(d)(e)は分校としても正答率は最も高く、差も少ない。その中でも

(d)の計量であるが、その差は3点で、⑱は県平均よりも秀れているほどである。その問題は△A BCの面積を求めるものである。同じく⑲⑩は△ABCの周囲や縮尺を求める問題で成績がよい

(平均点差 ⑱+0.4点、⑰−5.2点、⑲−4.3点)。しかし同じ三角形について㊨の如く三角形の相 似の条件を求める問題になると平均点差、25.3点と非常に悪くなる。ここにも問題があるように 思われる。ここで3分校を比較すると、国語におけると同様にBは他の2校に秀れている。学級 人数を比較すればBはCの右Iであるが、Aと同数であり、生徒人数と成績とはここでは関係ない ようで、やはり未知数である教師の力にその要因を求むべきであろう。Bが秀れている分野は

(b)であって他の2校が(d)であるのに対して異なった傾向である。叉国道筋の単式中学校(第3 学年2学級51人)と比較すればほとんど同じ成績であってB分校はへき地の単式中学校並というこ とである。以上へき地分校として特に数、式の分野において劣っていることを明らかにしたので あるが、これらが他の分野の基礎であることは確かであって、一次関数などの数量関係や三角形 の相似条件などに弱いことも問題であるが、それもやはり文字式に弱いことから起因しているの であろう。成績がよい三角形や四角形の周囲や面損を求める単なる数字の計算は出来るのが当然

(14)

へき地学力の性格 (太田) 153

であろうが、文字や図式によってやや抽象化せられた形において推理論証になるとひどく劣って くるのほ数学的思考力の弱さ、欠陥を示すものであろう。国語の例と同じく北海道へき地中学校 の例を参考にみると(21ノ、標準学力テストを、へき地校24校996名(第1〜3学年)に課した結果で あるが、第3学年において特に悪いものはやはり計算と式(分数、小数の混合四則算や文字式)

である。ここでも学校規模よりも、へき地性の影響の大きいことを結構しているが、同小学校算 数学力テストをみても(22、、四則計算力、単位、目盛、分数など悪く、面積、体積の計算、グラフ などがよい面であるとしている。以上の諸例は大体へき地学校の数学の同じような傾向であるこ

とを示しているが、基礎的(応用発展出来る)な学習が小学校以来充分指導されていない。又抽 象論理化に弱いということであろうが、それは又教師の指導の面からのみならず、子供自身の生 活、思考経験において数的思考に不利貧弱であることも考えていかねばならない。このことは奈 良県3分校中、Bが秀れているというが、その生活、思考経験にどうであろうか調べねばならな い。単なるI.9.の比較ではないのである。Bにおいて同じ教師に数学を指導されていると思われ る第2学年の数学の成績は必ずしもよくないことをみれば、子供自身の問題も無視することが出 来ないのである。

3.:理  科

国語、数学などの記号教科に対して内容教科の一つとして理科を代表的に取上げてみた。第 第11表 理科平均点(第3学年)

a b c d 平均 県  42.7 46.4 57.9 44.9 48.3 分校 31.6 30.0 42.3 32.5 34.7

第12図 理科平均点

60 50 40 30 20

′へ

′      ヽ′  ヽ

′       ヽ

/      ヽ

ニノ\\

3学年において分校の全体的な差は13.6点であって第 2学年の12点と余り変らないが、前述のように県へき 地中学校は国語と共に最も差の少ない教科であり、そ の県平均との差は6.4点であったのに対して、へき地 分校はその倍の差が開いており、それだけ理科におい

第13図 理科平均点差

q b c d

a b c d

ても劣っていることである。又、第13図にみるように第3学年と第2学年との傾向が異なっている のも、今までみてきた記号教科と違った傾向であるが、これは恐らく理科の分野が物理、化学、

生物、地学と分れ、内容的に記号教科ほど共通性がなく、従って特殊性が強く、しかも出題の問 題も少なくごく一部に限定せられるために結果も特殊的になるのであろう。故にこれだけの資料 を以て理科全体の傾向として論ずることは無理であろうが、一応第3学年を中心に考察してみ る。問題の分野領域は次の如くゼある。(a)物理的領域(音、電流、力と仕事)(b)化学的領域

(電解質・酸、アルカリ、塩)(C)生物的領域(動物の内部形態、植物の機能、構造、呼吸)(d)地

(15)

154 へぎ地学力の性格 (太田)

学的領域(気象)、これらの分野において第12図に明らかなように、平均点としては(C)の生物が 最も高く(42.3点)、県平均も同様であるが、平均点差においては分校は、化学(16.4点)、生物

(15.6点)の領域において差が大きく、物理(11.点)、地学(12.4点)が小さい。普通にはへき 地故に生物、地学の教材は自然環境として比較的恵まれて学習には有利と予想されるし、物理、

化学の如き実験室の実験を多く要するものはそれだけ特別の教材教具が必要であり、へき地学校 のように理科教室の設備が貧弱であれば、当然学習にも不利であると思われるが、学力調査の結 果はかえって逆になっている。その内実を分析してみるのに、

差の大きい生物の領域において、①〜(彰の動物の内部形態についてはほとんど差がない(0.7 点)それは問題が、カエルの内臓を人間のそれと比較するもので、へき地の子供には親しい教材 であり、どの学校でも取上げてやっているであろう。しかし同じ生物龍城でも植物の働き(主に 葉や茎についての構造や蒸散作用について)や動植物の呼吸作用については28〜18点の大きな差 となる。同じ自然に身近かに豊富に恵まれた教材でありながら形態よりもその機能面になると、

これ程異なってくるのか、へき地の子供にとって蛙も木の葉もありふれた教材であるが、経験上 どうしてはるかに不利な都市の方が秀れているのである。へき地の子供は自然環境に囲まれ恵ま れているといっても、それが日常生活的な経験としてであってそれが科学的認識としてつき進め

られていないということである。このことについては既にへき地の子供の多くの実際例から、そ の学習経験、指導上の問題として指摘せられているのである(23)。化学の領域においても差の大き いものは、(郭⑧の電解質についての理解であって(差27.0点)、酸、アルカリ、塩については、

10点位の差である。一般的な教材よりやや難かしくなると差が大きくなっている。近くの単式中 学校の同問題の成績が県平均と同じであり、県平均は化学の領域中、電解質の方が好成績である ことに比較するとそこにへき地の理科的弱さを見出すのである。地学においては気象関係の問題 に限定されたが、2、3の問題以外は余り差なくよく出来ているが、基礎的とみなされる⑪㊨の 風向や気圧の問題においてへき地は悪いのである。3分校の比較において、ほとんど差がないの も記号教科の場合と異なっているが、何故そうなのか、この場合要因がどう働いているのか問題 である。設備、教師、子供の要因について探っていかなければならないだろう。竹内茂氏によれ ば(24)、へき性が強くなる程、科学的思考、自然、機械の面において劣るとし、その要因の強いも のとして、理科教師の資格の有無よりかは、理科設備、教材、家庭が問題であると言っている。

以上、理科は他教科からみれば差の少ない教科であるが部分的には生物や化学の領域でみられ たように、かなり重要な面で差の大きいことを明らかにした。このことはへき地の子供の学習の あり方に関連してくるのである。

Ⅲ.学 力 規定要因 1.要因分析

まだ部分的に過ぎなかったが今まで説明してきた各教科の学力の傾向の中に、断片的に関連 する要因をあげてきたけれども、学力を規定する要因は今までの多くの学力謝査が示してきたよ うに子供、教師、学校、家庭、地域と内的、外的要因が錯綜しているのであって決して単純では ないが、その中から、へき地学力を規定する要因を機能関連的に導き出さなければならない。今

まで解明せられてきた例をみると、

昭和26、27年に行われた「中学校生徒の基礎学力調査」がある(25)。この調査ではまだ、へき地 そのものを取上げていないが学力差と地域差の関連を重要視し、その要因を事例研究的に追求し

(16)

へぎ地学力の性格 (太田) 155

ている。そして各因子が働く、その機能、程度を分析しているが、その要因をあげると、地域

(地域層、経済、父兄の知的水準、方言)学校(規模、形態、経費、設備)教育活動(職員、教 育方法、教科外活動、伝統、進学率)素質(知能、性別経験)であるが、これらの中で最も強調 しているのは教育的要因であるが、これらの要因がいかなる関連作用しているかの実証的研究を 示唆している。

国立教育研究所が中心になって行った昭和27〜29年の3カ年継続の全国小中学校学力水準調 査(26)は小中学校最終学年児について毎年4教科について同一学校を対象にして継続調査したこと に特色があるが、その層化は主に教育要因中の学校規模と進学率からなし、地域は4層に区分し た程度でまだへき地そのものは特に論じていない。

文部省が昭和31年以降実施してきた学力調査の要因分析も、地域、教育関係、子供の3条件の 中から学校教育条件にしぼられてきているが、それは目的のための資料収集と紙上調査としての 可能性からきているものである。今まで調査せられてきた項目をあげると年度によって多少異な るが(27)、(1)教師(資格、学歴、勤務年数、専攻、担当時数、勤務時数、担当児童数)(2)設備、

教材(理科設備保有量、図書保有量、教材消費量、特別教室)(3)学校運営(学校規模、学級規 模、授業時数、教育費(国、公、私費))等である。地域差はこれらの要因、他の要因が重なり 合って有利不利の条件を作り出しているが、それらが、どの程度働き関連しているか量的なまと めと共にその仕組を解明していかねばならない。そのためには調査上数量化の困難な要因でしか も学力への影響が強いものをいかに把握するかである。又それと共に始めにも述べたように、地 域的要因としての、へき地社会そのものが、最近著るしく変動しつつあることも特に考慮されね ばならない。それが又他の諸要因に影響を与えるのである。(地域の開発によって学校統合が可 能になり、それが又他の要因に影響を与える。)その過程において学力がいかなる方向に進展しつ つあるかが学力問題の眼目になってくるのである。これらのことについては国語学力のところで 多少ふれたことである。

学力規定要因の相互関連性を求めるために種々試みられているが、例えば山下重明氏(28)のよ うに、同一地域類型の学校を同一条件によって次々にしぼっていき最後に残る学校についてその 条件の強さを計ろうとするものである。又、北野栄正氏のように(29)、学習診断検査法によってそ の要因を%で示したり、又、松下寛氏のように。町、へき地性と学校規模の2要因について相互関 達させて各地域の学力を位置づけ比較する方法である。それを各教科に適用分析して今まで学力 規定要因を一般的に取扱い勝であったものを各教科によってその機能の異なっていることを明ら かにしている。かくして統計的に数量化される要因は出来るだけ厳密に数量化していけば、残っ てくるものは結局、人間教師や子供の内面的問題、家庭や地域の教育的環境の問題であろう。上 述の山下論によれば、教師はすべての要因中、50%以上の働きを持っているという。それは教師 の熱意、態度、方法、技術などを含んだものである。又、家庭や地域の環境要因についても研究 例によっては、地域の風、文化度、民度、雰囲気、教育的関心などの項目で取上げられている が、特に家庭では父親の学歴や職業が学力に強い関連あることは早くから指摘されているが、母 親についてもその教育的関心、態度、指導などは子供の家庭学習に最も密着しているだけに統計 化困難でも無視することは出来ないであろう。そしてこれらの要因がへき地には、特に作用して いることも否定出来ないのであって小規模地域、学校、少人数であるために個々の特殊性が平均 化されず強く働くということである。統計的に処理される要因についても単に量の多少が重要な のでなくしてそれがいかに働いているかであるが、例えば理科設備にしても授業時数にしても、

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