研究チーム報告
【人文科学研究部】
言語と社会及び文化に通底する領域に関する研究
言語・社会・文化総括研究チーム(課題番号:0 5 3 0 0 2)
研究期間:平成1 7年4月1日〜平成2 0年3月3 1日
研究代表者:白谷敦彦 研究員:石井和仁、一瀬陽子、大津敦史、奥田裕司、
Tim Cross
、福田慎司、Bernardo Villasanz
本研究チームは、言語・社会・文化を総括的 に研究するチームである。個別の研究成果と研 究業績を以下に記述する。紙面の都合上、業績 は一部を挙げることとする。なお、研究期間中 途から加わった研究員もおり、本チームでの研 究時間が短く、当然ながら論文として纏め上げ る中途である場合もあることを申し添える。
石井和仁
【研究成果】
「コミュニケーション的観点か ら 見 た キ ッ ズ・マーケティング」 という研究を行った。 キッ ズ・マーケティングというのは、 「子供をター ゲットとした企業の販売促進宣伝活動」のこと を指して言うが、近年その経済規模はアメリカ においても日本においても拡大の一途をたどっ ており、年間1兆円を越える莫大な額に達して いる。子供をターゲットにする理由は、子供自 身の購買力の拡大に加えて、子供が親の消費行 動にかなりの影響力を持つためである。
広告をコミュニケーション的観点から分析す る試みは新しいものではないが、焦点をキッ ズ・マーケティングに絞った分析はまだ見られ ない。しかし、この分野は広告業界においては 主要分野の一つであり、その手法もかなり確立 されている。ただ、文献としてまとまったもの はきわめて少なく、学問的に分析されたものも 現在のところ限られている。
筆者がアメリカのキッズ・マーケティングを
コミュニケーションの観点から概観した際に得 ることができた主要な知見は、1)7歳から8 歳以下の子供に対しては、言語メッセージを少 なくして視覚メッセージを多くすることが効果 的である点と、2)1 0歳前後のトゥイーンやそ れ よ り 上 の テ ィ ー ン エ イ ジ ャ ー に 対 し て は
「クール」という概念が重要なキーワードに なっている点である。 「クール=cool」には、
さまざまな意味があるが、ここで用いられてい る意味は、 「カッコイイ、粋である」という意 味である。
次にメッセージの伝達にはメディアが重要な 役割を果たすことになるが、キッズ・マーケ ティングにおける重要なメディアは、テレビ
(ケーブルを含む)とネット情報である。これ らのメディアを通して子供たちは日々大量の広 告情報にさらされることになる。今のところメ ディアへの接触時間をコントロールできるのは 家庭であるが、これをうまくコントロールする のはどの家庭にとってもなかなか難しい問題で ある。
直接キッズ・マーケティングとの関係は無い が、 子供のメディア接触を減らし、 親とのコミュ ニケーションを促すノーメディアチャレンジと いう試みが熊本県宇土市の網田(おうだ)小学 校と網田中学校で行われている。これらの学校 では毎月2 0日を「ノーメディア(テレビ)デー」
と定めてテレビ、ネット、ゲームなどを排除し ているが、この試みが地域社会の中で受け入れ
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るようである。
キッズ・マーケティングを推進する側には利 潤追求の原理しかなく、教育的影響に関する配 慮はない。 また、 親や教育者の側もキッズ・マー ケティングの持つ影響力の大きさに気づいてい ないことが多い。今回の報告は、まだ途中経過 を述べたに過ぎないが、今後も継続的取り組み を予定している。
一瀬陽子
【研究成果】
第二言語習得研究の観点から、異なる母語を 持つ学習者が、ある同じ言語を学習する際に観 察される特徴について研究を行った。
【主な研究業績】
一瀬陽子:On Psych Verbs in English and Japanese,
福岡大学人文論叢,3 9 (4) , pp. 9 6 7 ‐ 9 8 4,2 0 0 8.
大津敦史
【研究成果】
期間中の研究で論文にまとめるに至ったテー マは次の3点である。
1)本学における CALL などの e-learning を 活用した英語教育において、いかに効果的 に学習させることが可能か。
2)今日、能力低下が著しい日本語(コミュ ニケーション)能力をいかに補完させるこ とが可能か。
3)上記の日本語能力以外に、大学という高 等教育機関において今後学習を進めていく 上で必要不可欠であるが、高校までに未習 得な知識やスキルをいかに補完させること が可能か。
最初の課題については、ハワイ大学で在外研究 中を利用して、同じ外国語教育メディア学会に 属する2名の研究者と協同で研究成果を学会誌 に発表した。2番目と3番目の課題についても
紀要に発表した。
【主な研究業績】
大津敦史,奥田裕司,長加奈子,竹野 茂:e-
learning におけるドロップアウト要因を探る
基礎研究.LET Kyushu-Okinawa BULLETIN, 6, pp.33-47, 2006.
大津敦史:福岡大学における日本語リメディア ル教育の可能性,福岡大学言語教育研究セン ター紀要,5,pp. 6 1 ‐ 7 2,2 0 0 6.
大津敦史:初年次教育と言語教育の接点,福岡 大学言語教育研究センター紀要,6,pp. 3 3 ‐ 4 7,2 0 0 7.
奥田裕司
【研究成果】
CALL (Computer-Assisted Language Learning)
を利用して語学教育をより効果・効率的に行う 為には、学習者にとってどのような CALL メ ディアが有効であるのか、実際にどのようなコ ンテンツを備えた CALL 教材を制作し、その CALL システムを構築すべきであるのかの調 査・研究を進めた。その結果、CALL を利用し た教育でいかにドロップアウトを防いでいくか、
PC を用いた CALL に携帯電話端末利用の学習 をブレンドすることによりいかに学習の相乗効 果を生むか、中・高等学校や大学の教育機関で CALL システム全体の構築をどのようにすべき か、の3点について論文及び著書としてまとめ る事ができた。
【主な研究業績】
奥田裕司,大津敦史,長加奈子,竹野 茂:e-
learning におけるドロップアウト要因を探る
基礎研究.LET Kyushu-Okinawa BULLETIN, 6, pp.33-47, 2006.
奥田裕司,他:2 1世紀の英語科教 育.開 隆 堂
(東京) ,pp. 2 4 3 ‐ 2 8 2,2 0 0 7.
奥田裕司:携帯電話端末を利用した英語学習の
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可能性.福岡大学人文論叢,3 9 (1) ,pp. 5 7 ‐ 8 6,2 0 0 7.
Tim Cross
【研究成果】
コミュニティの歴史を探り、コミュニティの アイデンティティを形成したと思われるもの、
また、その下位文化を分析した。
【主な研究業績】
Tim Cross: Performing Hakata: Yamakasa and Sosaku Noh. Fukuoka University Review of Lit- erature and Humanities, 39 (2) :367-407, 2007.
Tim Cross: Subjectivity and Analysis as Perfor- mance: Autoethnography as Communication Studies. Fukuoka University Review of Literature and Humanities 37(2) :501-545, 2005.
白谷敦彦
【研究成果】
認知言語学の枠組みを用い前置詞 under, be-
neath, below の違いを明らかにした。2つの物
体(the mouse under the bed では2つの物体とは the mouse と the bed である)がどのような物理 的位置になっているか類別し、それを類別した グループ(スキーマと呼ぶ)ごとに前置詞の使 い分けを明らかにした。3つの前置詞は用法が 重なる部分と独自の部分があること、それぞれ に特定の語彙と結びついている表現があるとい うのが結論である。
【主な研究業績】
白 谷 敦 彦:Under, below, beneath の 違 い,福 岡 大学人文論叢,3 8 (1) ,pp. 4 7 ‐ 6 8,2 0 0 6.
福田慎司
【研究成果】
大学設置基準の大綱化以降、英語の授業カリ キュラムは各大学、各学部により様々な形態が とられてきたが、特に大学全体あるいは学部単
位で ESP(English for Specific Purposes)を含め た英語教育を模索し始めた感がある。その理由 のひとつとして、高等教育の大衆化に伴い、従 来行われてきた知識伝達型の英語の授業だけで は学生のモチベーションやニーズに合わなく なってきていることが挙げられる。そこで、学 生の英語教育に対する関心を高め、専門教育へ の橋渡しとなる英語教育を ESP の観点から研 究した。目標状況分析の概念である、1)ディ スコース・コミュニティーのニーズ、2)教師 および大学のニーズ、そして現状分析の概念で ある、3)学習者のニーズに分けて研究してい るが、現在はまだ研究を始めて1年目というこ と も あ り、1)の デ ィ ス コ ー ス・コ ミ ュ ニ ティーのニーズ分析の途中である。学生が卒業 後に関係する各ディスコース・コミュニティー の中で英語で支障なくコミュニケートできるよ うになるためには、どのような英語を学習する 必要があるのか、またどのような言語ツールの 利用法を習得する必要があるのかを分析し、目 標の設定を行った。
Bernardo Villasanz
【研究成果】
スペインの言語と文化について研究を行った。
諺については辞典を作成した。 Refranero espanol という題目では no. 2 5から no. 3 1まで、6回に 渡って論文として発表した。
【主な研究業績】
Bernardo Villasanz: Apuntes Sobre Cultura Gallega, Fukuoka University Review of Literature and Hu- manities, 37(1) :175-211, 2005.
Bernardo Villasanz: Refranero espanol (30), Fukuoka University Review of Literature and Humanities, 38 (3): 1097-1100, 2006.
Bernardo Villasanz: Refranero espanol (31), Fukuoka University Review of Literature and Humanities, 38 (4): 1321-1334, 2007.
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【社会科学研究部】
日本企業再生の条件と経営学の理論的課題に関する研究
日本企業再生の経営学的研究チーム(課題番号:0 5 4 0 0 5)
研究期間:平成1 7年4月1日〜平成2 0年3月3 1日
研究代表者:中川誠士 研究員:居城克治、川口義博(平成19年3月退職)、川上義明、三浦隆之、水野博志、
森 正紀
【研究成果】
本研究チームにおいては、バブル崩壊後それ までの評価が逆転し批判の対象となった日本的 経営の根底にある価値や伝統の意義を問い直す とともに、それをいかにすれば新しい時代環境 にあったものに作り直すことができるか、そし て日本企業の再生に結びつけることができるか について、国際経営論、中小企業論、経営管理 論、人的資源管理論、経営組織論、経営財務論、
工業経営論の観点から多面的に考察した。但し 日本企業の現在に対象を限定していてはその再 生の糸口を見つけ出すことが困難であるので、
日本以外の国々の企業経営を歴史的に考察する ことにまでテーマが広がらざるをえなかった。
各研究員の研究成果は以下の通りである。
居城は、主として九州における自動車産業集 積に焦点を合わせ、グローバルサプライチェー ンとの関連での、その構造的脆弱性と低水準の 域内部品調達の実態について検討した。
川上は、企業生成・発展の変動要因としての
「企業家」概念について、アダム・スミス等の 当該分野の古典的文献にまで遡って理論的研究 を行い、中小企業の経営と管理を鳥瞰する研究 フレームワークを構築するための基礎的作業を 中心的に行った。
中川は、日本企業の再生にとって不可避の課 題である人的資源管理の再構築の方向性を探る ために、 「リソース・ベースト・ビューに依拠 した戦略的人的資源管理」の可能性を米国の2 つの企業のケーススタディを通じて検討した。
三浦は、 「経済付加価値」 「分業」 「テイラリ ズム」 「フォーディズム」等の基礎的概念を、
企業経済学と経営組織論の両面から検討し、こ れまでの企業経営を貫通してきたパラダイムの 現在における意義を再確認するとともに、経営 再生のための相対的な規範あるいは戦略的な判 断のための基礎的材料を提供することを目指し た。
水野は、主として、個人投資家の行動分析を インタビューによって行い、それに基づいて成 功した投資家に共通する投資方法を理論的に整 理するとともに、株式投資教育に対して提言を 行った。
森は、経営原則の正当性が成功企業ではなく むしろ倒産企業の事例研究から導き出されると いう逆説的仮説を検証するために、J. Aegentiの 所説に拠りながら、永大産業の事例を分析した。
【研究業績】
<著書・論文>(紙幅の関係上、サブタイトル は省略した。 )
居城克治
「自動車産業におけるサプライチェーンと地域 産業集積に 関 す る 一 考 察」 『福 岡 大 学 商 学 論 叢』第5 1巻第4号、平成1 9年3月。
川上義明
『現代中小企業経営論』税務経理協会、2 0 0 6年 2月。
「企業生成・発展の変動要因としての企業家
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( # ) 」 『福岡大学商学論叢』第5 2巻第2号、平 成1 9年9月。
「企業生成・発展の変動要因としての企業家
( " ) 」 『福岡大学商学論叢』第5 2巻第1号、平 成1 9年6月。
「企業生成・発展の変動要因としての企業家
( ! ) 」 『福岡大学商学論叢』第5 1巻第2・3号、
平成1 8年1 2月。
「中小企業経営・管理研究に関する基礎的考 察」 『福岡大学商学論叢』第5 1巻第4号、平成 1 9年3月。
「下請中小企業の経営に関する一考察」 『福岡 大学商学論叢』第5 1巻第1号、平成1 8年6月。
「中小企業とコーポレート・ガバナンス」 『中 小企業季報』 (大阪 経 済 大 学) 、No. 1、2 0 0 5年。
「中小企業への新しい視点を求めて(その2)
〜(その4) 」 『福岡大学商学論叢』第5 0巻第1 号、平成1 7年6月、第5 0巻第2・3号、平成1 7 年1 2月、第5 0巻第4号、平成1 8年3月。
「中小企業への新しい視点を求めて」 『三田商 学研究』 、第4 8巻第1号、慶應義塾大学商学会、
2 0 0 5年4月。
中川誠士
「 「リソース・ベースト・ビューに依拠した戦 略的人的資源管理」の可能性」 『福岡大学商学 論叢』第5 1巻第4号、平成1 9年3月。
「サウスウエスト航空の人的資源管理」 「リン カーン・エレクトリック社の人的資源管理」伊 藤健市・田中和雄・中川誠士編著『現代アメリ カ企業の人的資源管理』税務経理協会、2 0 0 6年 5月2 5日。
三浦隆之
「EVA(経済付加価値)概念の「落とし穴」 」 第5 1巻第4号、平成1 9年3月。
What Has the Division of Labour Brought? : A Lesson from Charles Babbage 、 『福岡大学商学
論叢』第5 0巻第2・3号、平成1 7年1 2月。
Did Fordism Take Up Taylorism? 、 『福岡大学 商学論叢』第5 0巻第2・3号、平成1 7年1 2月。
水野博志
「株式持ち合いの株価への影響」 『月刊資本市 場』2 0 0 6年7月。
「富裕層と危険回避度」貝塚啓明監修『パーソ ナルファイナンス研究』2 0 0 6年1 0月。
「理想の個人投資家 (個人投資家から学ぶ1) 」
『ジャパニーズインベスター』5 2号、2 0 0 7年1 月。
「富裕層の投資行動と富裕聊ビジネスヘの提 言」 『月刊資本市場』2 0 0 5年6月。
「隣の富裕層の実像に迫る」 『ジャパニーズ インベスター』第4 7号、2 0 0 5年1 2月。
「富裕層の危険回避度」 『証券経済研究』2 0 0 6 年3月。
「富 の 水 準 と 危 険 回 避 度」 『フ ァ イ ナ ン シ ャ ル・プランニング研究』2 0 0 6年3月。
森 正紀
「急成長企業の破綻と復活(その1)〜(その 2) 」 『福岡大学商学論叢』第5 0巻第4号、平成 1 8年3月、第5 1巻第1号、平成1 8年6月。
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【社会科学研究部】
中国を中心としたアジアの経済政策研究
アジアの経済政策研究チーム(課題番号:0 5 4 0 0 8)
研究期間:平成1 7年4月1日〜平成2 0年3月3 1日
研究代表者:姜 文源 研究員:高瀬光夫【研究成果】
本研究チームでは二重構造経済の動学的発展 モデルを作り、アジア経済、とりわけ中国の経 済成長経路を分析するとともに、政策的な提言 を行うことを目標にしている。中国経済は ! 戸 籍制度による離農者の制限、 " 一人子政策によ る人口制限、 # 大学教育マーケットの歪み、な どほかの国ではみられない独自の特徴をもって いる。中国経済を理論的に分析するのは不可能 ともいわれるが、本研究チームはその理論的分 析から着手した。経済学の動学モデルにおいて、
経済社会の構造変化をモデルのなかで説明する のが極めて難しい。最近、Galor などによる研 究はあるが、最近の研究においても構造変化は 仮定されるものであって、システムのなかで必 然的に起きるものではない。研究チームでは内 性的な構造変化のモデル化を試みたが、まだ、
半分くらいしか成功していない、そういう段階 に留まった(この結果は姜によって、平成1 9年、
福岡大学経済学論叢に発表された) 。
動学モデルの構築とともに、研究チームでは 上に例示している中国の経済政策の政策効果を 分析した。このような政策分析は中期的なモデ ルを用いる。長期の構造変化を内生化したモデ ルの構築の前にも、中期的な政策効果の分析は 可能であった。とくに、離農者の制限、一人子 政策が中国の所得配分に及ぼす影響について、
研究チームは注目した。ロレンツ曲線を用いた 所得配分の変化を検討した結果、中国政府によ
る農村戸籍制や一人子政策は中国の所得配分を より不平等なものにする、との結論に至った。
政策目標として、経済成長率の極大化を考える 場合でも、農村の戸籍制による離農の制限は望 ましくない、との結論に達する。この離農制限 政策とは都市部の失業率を減らし、社会経済の、
あるいは、政治の安定をはかるための政策だと 理解はできるが、経済的な観点からみると政策 的な修正が要求されると思われる。人権や移動 の自由の観点からみても、厳しい戸籍制度は撤 廃されるべきと思われる。この点については、
近年の中国政府も戸籍制度緩和の方向で政策の 修正を検討しているようだが、より迅速な政策 的対応が求められるものだと思う。
一人子政策にかんしても同様のことがいえる が、同じく、最近になって中国政府は農村部に おける一人子政策を緩和、見直す、と発表して いる。中国の経済発展段階からみて、都市部で は一人子政策を撤廃しても、出生率は2を超え ないことが予想され、人権や自由の侵害にもあ たるこのような政策は撤廃したほうが望ましい と思える。農村の戸籍制度との関連で、離農が 自由になれば、その分、都市部の人口が増加し、
中国全体の出生率も減少することになる。戸籍 制度と廃止と一人子政策の廃止、この二つの政 策を組み合わせることによって、中国経済は望 ましい成長経路に移行できるというのが、まだ 暫定的なものではあるものの、本研究チームの 結論である。
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最後に中国の大学教育マーケットにかんする 部分だが、中国の大学進学率は2 2%と、その経 済規模から考えるととても低い数字である。一 方、中国における大学教育の(学生の立場でみ た)収益率はとても低く、 大学生も少ないの に、大学を出ても給料はあがらない といった 経済理論とは矛盾する状態におかれている。こ の点については、最近、様々な研究を通じて指 摘されるようになったが、その原因については まだ分かっていないのが現状でもある。この問 題の原因について、研究チームでは労働市場の 歪みがこの矛盾の背後にあると考えている。つ まり、中国の労働市場は競争的ではなく、高卒 が大卒より有利な立場で就職できる場合も多い。
労働市場がほとんど競争的に機能してないため、
大学進学の収益率がとても低い水準に留まって いる、と思われる。同じく、暫定的な結論では あるものの、このような教育マーケットを分析 するための経済モデルを姜は平成2 0年に経済学 論叢に発表した。
【研究業績】
姜 文源
Educational Cost Differences among Students, Over - education and Educational Policy 、福岡大 学経済学論叢、第5 2巻第4号、平成2 0年。
経済学における合理性、合理的選択の倫理性 にかんする一考 、福岡大学経済学論叢、第5 1 巻第4号、平成1 9年。
Lewis−Harris−Todaro モデルからみた中国経 済の配分問題 、福岡大学経済学論叢、第5 1巻 第3号、平成1 8年。
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【理工学研究部】
大学キャンパスとまちづくりに関する研究
キャンパス・まちづくり研究チーム(課題番号:0 5 5 0 0 5)
研究期間:平成1 7年4月1日〜平成2 0年3月3 1日
研究代表者:井上信昭 研究員:趙 翔、飯田利彦、堤香代子一、背景と目的
都市における大学キャンパスは単に教育・研 究の場であるにとどまらず、都市内に1つの地 区を形成し、その周辺地域と様々な関係をつく りだしてきた。本研究は福岡大学キャンパス計 画と都市との関係に焦点をあてて、周辺地域と どのような関係を築き、福岡市の中に位置付け ていくべきかを土地利用、交通計画、施設計画 の3つの側面から明らかにすることを目的とす る。
二、研究成果
趙翔(分担課題:大学キャンパス施設計画とま ちづくり)
1、分担課題の背景
本研究は、人々がどのように公共交通機関を 利用して福岡大学キャンパスに出入りしている かを調査し、このような公共交通機関の利用状 態と人の流れは福岡大学にどのような影響を与 えているかを明らかにしようとする。
2、調査概要 2−1 調査対象
地下鉄七隈線が正式開通の前後に、福岡大学 キャンパスを出入りする人々の公共交通機関の 利用状態を調査した。第1回調査は、地下鉄七 隈 線 が 正 式 開 通 の 約1週 間 前(2 0 0 5年1月2 5 日)に行われ、第2回調査は、七隈線が正式開 通後の約半年後(2 0 0 5年7月2 7日)に行われた。
2回の調査はいずれも大学期末試験の期間中を
選んで実行されたため、キャンパスを出入りす る学生、教職員の人数規模が近い。そのため、
2回の調査はほぼ同じ条件のもとで行われたと 見なし、調査結果のデータが比較可能のもので あると考えられる。
2−2 調査方法
第1、2回の調査に共通する測定ポイントは、
図2−1に示したように、 ! から # までの計1 2 箇所である(注:計測ポイント " の出入口は、
今回研究報告の対象区域外にあるため省略し た) 。
調査は第1、2回ともに、学内方向及び学外 方向に向け、8:3 0から1 8:3 0までの3 0分毎に 集計する方法をとった。すなわち、キャンパス
図2−1
―3 0―
30 25 20 15 10 5 0
① 東 門︵ 旧 正 門 前
︶
② 旧正 面玄 関
③ 東 七隈 バス 停 前
④
号5 館 と 6 号 館の 間
⑤ 5 号 館 裏の 階 段
⑥ 地学 部入 口
⑦ 鳥 帽 子 池 入 口
⑨ 正 門︵ 旧 西 門
︶
⑩ 第一 記 念 会 堂 前
⑪ 通用 門
⑫ 号7 館前 全
体 に占 める 交 通 量 の 割 合︵
%
︶
測定ポイント 第1回 in 第2回 in
30 25 20 15 10 5 0
①東 門︵ 旧 正 門 前
︶
②旧 正面 玄関
③東 七 隈バ ス停 前
④5 号 館と 6 号 館の 間
⑤5 号 館 裏 の階 段
⑥地 学部 入口
⑦ 鳥 帽 子 池 入 口
⑨正 門︵ 旧 西 門
︶
⑩第 一記 念 会 堂 前
⑪通 用門
⑫7 号館 前 全
体 に占 める 交 通 量の 割 合︵
%
︶
測定ポイント 第1回 out 第2回 out
25000 20000 15000 10000 5000 0
8:30 9:00〜 9:30
10:00〜 10:30 11:00〜 11:30
12:00〜 12:30 13:00〜 13:30
14:00〜 14:30 15:00〜 15:30
16:00〜 16:30 17:00〜 17:30
18:00〜 人
数
時間帯
各時間帯入り小計 各時間帯出る小計 各時間圏内人数
出入口における双方向の歩行者通行量の変化を 測定する調査を行った。
3、調査結果
3−1 キャンパスへのアクセス
今回研究報告の対象区域は福岡大学の七隈区 域に限られているため、計測ポイント " の出入 口の調査データを集計からはずした。
図3−1は、第1回と第2回調査の学内方向
(in)各測定ポイントの通行量が全体通行量に 占める割合値(%)であり、図3−2は、第1 回と第2回調査の学外方向(out)各測定ポイ ン ト の 通 行 量 が 全 体 通 行 量 に 占 め る 割 合 値
(%)である。この二つの図から、入る場合で も出る場合でも、正門(旧西門) # の利用者人 数の変化が最も大きく、第1回と第2回の調査 で、全体を占める比率では約1 0%の差が見られ た。 # の利用者人数は、第2回の調査では第1
回より1 0 0%前後も増加した。すなわち、地下 鉄開通前後では、延べ2, 0 0 0人前後の差が見ら れる。入ると出る両方を考慮に入れると、この 出入口の通行量は、地下鉄開通前に比べて、開 通後に延べ約4, 0 0 0人増となっていることが分 かる。
もう一つ変化が大きかった出入口は、烏帽子 池入口 ! で、第2回調査の時は第1回より人数 が減少し、約5 0%減となっている。一方、全体 に占める割合が比較的に大きい通用門口 $ の通 行量には、あまり大きい変化が見られなかった。
3−2 時間帯とキャンパス内の人数
図3−3は、2 0 0 5年7月2 7日の各時間帯にお けるキャンパスを入る人数の累計値と出る人数 の累計値を集積したものである。表から分かる ように、8:3 0〜1 8:3 0の間に、計2 1, 1 1 0人が キャンパスに入っていき、1 8, 6 2 9人がキャンパ スを出てきた。1 8:3 0時点で、七隈区域ではま だ2, 4 8 1人がキャンパス内にいた。また、最も 多いときに、キャンパス内に7, 9 7 8人がいたこ とも分かる。
4、考察及び今後の課題
今までの調査及び集計数値から、福岡大学 キャンパスは人の流れが分散して出入りする構 造を持つキャンパスであることが分かる。人の 出入り量がもっとも多いところでも、全体通行
図3−1 学内方向向けの各点が全通行量に占める比率
図3−2 学外方向向けの各点が全通行量に 占める比率
図3−3 キャンパスにおける一日の人 数変化(平成17年7月27日)
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福岡大学キャンパスが周辺地域との接触または 連繋が、多ルートかつオープン的に行われてお り、いわゆる正門主導で周辺地域と接触や連携 するところとかなり違う。福岡大学キャンパス のこのような多ルート的アクセス構造と空間は、
周辺地域、すなわち街との交流にかなり有利に なる。周辺地域の住民との間のコミュニケー ションを保持し拡大していくためには、まず現 在のこの多ルートかつオープン的なキャンパス 空間構造をしっかりと維持する必要がある。次 に、今後建築施設を新築または増築する際に、
現有のこの空間構造の特徴と魅力を十分に考慮 する必要があり、施設を新築するためにこの空 間構造を破壊してしまうようなことを避けるべ きである。また、キャンパスの多ルート的アク セス構造と空間は、周辺地域と大学の防災・避 難の面においても有利である。
福岡大学のような、都市型大学と郊外型大学 の中間に位置するキャンパスを持つ大学の利用 者は、独特な利用特徴がある。今後の調査研究 ではこの課題に注目し、その特徴に合うキャン パス空間メカニズムとそのポテンシャルを解明 していく。
本研究の分析から分かるように、キャンパス 内の人数は時間の推移とともに変化している。
調査された時間帯の中で、 キャンパス面積 (A)
における人口密度の最高値は7, 9 7 8人/Aであ り、最低値は1, 3 5 8人/Aである。従って、あ る区域における人口密度は、動態的な意味を持 つ数量値であることと考えられる。また、一週 間の間に大学キャンパスを往来する人の数もほ ぼ同じであるため、この数値には持続往復型と いう特徴も有するといえよう。そのため、
「往 復型動態人口密度」(仮称)という概念を提起 したい。これは、人口と土地の関係を客観的・
リアル的に描く概念である。
「往復型動態人口 密度」(仮称)の概念及びこの概念がカバーす
度という、現在一般的に使われているが、静止 状態しか表していない人口と土地関係を説明す る際の限界が超えられるかもしれない。今後、
「往復型動態人口密度」
(仮称)概念のもとで、
土地の使用(たとえば容積率など)に対する一 連の新しい評価基準が得られるように、時間を かけてこの研究を展開し深化させていくつもり である。
最後に、本分担内容の研究を進めるにあたっ て、サポートしていただいた研究チームの皆様、
出入口の通行量に関する継続調査に協力してい ただいた趙研2期生及び福岡大学建築学科生の 皆様、調査データの整理に手伝っていただいた 趙研の野口雅広君に、感謝の意を表したい。
―3 2―
研究チーム報告
【生命科学研究部】
横紋筋融解症に見られる急性腎不全の遺伝子解析とマススクリーニング
急性腎不全の遺伝要因研究チーム(課題番号:0 5 6 0 0 6)
研究期間:平成1 7年4月1日〜平成2 0年3月3 1日
研究代表者:兼岡秀俊 研究員:高橋三津雄、阿部正義、村田敏晃