【講話の概要】
○ 柏木昭先生(PPT ~ソーシャルワーク”かかわ り”の思想 による講話)
まず、「ワーカーとクライエントの対等性の尊重」
について~。クライエントと一対一で向き合うこ と。また、クライエントが地域で自立して生きよ うとする主体的な存在であることの尊重。クライ エントとワーカーが対等になりにくい実態を踏ま え、対等性を意識し続けることが重要。それらは、
“自己決定の尊重”を意味し、これらの関係性を「か かわり」と言ってきた。それは、ワーカーとクラ イエントの“力動的な時間的経過(クロノスではな くカイロス=時熟)”により熟成されるもの。
さらなる大事な支援視点は、「人と状況の全体性 への着眼」である。ワーカーは、障害や病気は、
当事者をめぐる様々な全体状況(因子)によって 形成されることに着眼することが不可欠。それは、
家族、学校、職場、社会通念などへの目配りをさす。
それ等の取り組みは、徹頭徹尾、「クライエント を個として大事にする」ということでなければな らない。そのためには、ワーカーは「自己開示」に 努め、クライエントが自分の思いを表明しやすい ように、自分の意思を率直に伝えることが大事で ある。そのような対話を通じて新たな信頼関係が 生まれことや、そのような結果が醸成される場を
「トポス」という。トポスは、この講演会の司会を
されている中村先生のお兄さんである、哲学者の 中村雄一郎先生らが日本に紹介したものである。
今後に向けては、「専門性への固執からの脱却」
が重要。また、ソーシャルワーカーとピアサポー ターは「同じ地平にある人と人との関係性」であ ることを踏まえることが重要。このことについて は、相川先生が講演レジメ(配布資料)の後半で 述べられている。
○ 相川章子先生(PPT ~ソーシャルワークにおけ る「対等」とはなにか~による講話)
「柏木先生との出会い」~ 医学部保健学科での 学びの後、国立精神衛生研究所に勤務となり柏木 先生と出会った。その後、先生の指導のもと、大 学院での研究(地域精神保健福祉)に取り組み、
その経過の中で、ソーシャルワーカーアイデンテ ティと当事者(精神科受診経験)へのめざめ、そ のはざまで葛藤し、研究課題として認識した。
これまで、「ソーシャルワーカーとして大切にし てきたこと」~柏木先生が提唱されている、自己 決定の尊重や人と状況の全体性を意識し、とこと ん、クライエントとの対等性や地域性を重視して 実践してきた。そのかたわら、「ワーカーがクライ エントの進路などを決めてしまう現実や、それら の権利はどこにあるのか」という疑問を持ち続け てきた。
聖学院大学総合研究所 人間福祉学研究 ソーシャルワーク研究主催 2019 年度 第 1 回ソーシャルワーク研究講演会
ソーシャルワークにおける「対等」とはなにか? ―“かかわり”から“ピア”へ
対談:柏木昭・相川章子 報 告
左:柏木昭先生 右:相川章子先生
会場の様子
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聖学院大学総合研究所 NEWSLETTER vol.30, No.1・2, 2020
「ピアサポート研究・活動者としての私」~ そ れらの経験とピアスタッフとの出会いにより「ピ アサポートの価値」を自覚し、ピアスタッフやピ アサポート研究に取り組んできた。その結果、「ピ アサポートとは、同様の経験をした仲間同士によ る対等な関係性の中で生まれる支え合いの営みの すべて」という認識をえた(注 1 )。
ピアサポートの魅力(要点)は、①ありのまま に経験を語ることのできる場。②経験している人 にしか見えないもの、わからないこと、感じない ことがあること。③対等で相互主体的な関係性。
また、「ピアサポートのカギ(接着剤)は「経験の 物語(ナラティブ)」であるということができる。
さらに、本日のテーマに特化すると、「ピアサポー トから考える対等とは」次のように説明できると 考える。~ まず、自分の経験を他者に物語るこ とで次のような変化がうまれる。①存在価値、② 立場性(互酬性)、③関係性~互いが変化し、「する・
される」を超えた関係になる。
それは、国分功一郎氏のいう「中動態―借りの 哲学」である(注 2 )。すなわち、クライエントの 欲求や思いは、かかわりと状況の組み合わせで変 動するということである。それぞれの置かれたポ ジションや思いにそれぞれの物語があるからである。
さらに言えることは、「対等を意識すること自体 が権力的であり、それを脱却する方途が自己開示 と時熟であるということ」である。私は長くこの ような疑問を抱き乗り越えようとしてきた。
なお、「対等性」などについては、柏木先生はじ め、三野宏治、M.ブーバー、今井伸和ほかの論考 がある(注 3 )。
最後に、「かかわりからつながりへ、つながりか ら協働へ」ということを踏まえ、「これらからのピ アサポートを必要とすることの重要さ」に言及し ておきたい。まず、「かれらは我われと地続きの当 事者であり、当事者にしか見えない世界を持つ 人々」である。同時に、「困難を乗り超えて生き続 けてきた経験(経験知)をもつ人々」であるとい うことである。これらの認識や取り組み(協働)
は今後、精神科領域だけではなく、「広く人間社会 が抱える難題に対し、さらなる、課題解決拡充の 確かな一翼となる」にちがいない。
(注 1 )・相川 章子:精神障がいピアサポーター 中央法規(2013)
(注 2 )・国分 功一郎:中動態の世界 意思と責任 の考古学 医学書院(2017)
(注 3 )・稲沢 公一(古川孝順):援助するという こと 有斐閣(2002)
・ 今居 伸和:ブーバーとロジャースの対話に関す る一考察 三重短期大学紀要 7 (2006) 19−25
・ 三野 宏治:精神障害当事者と支援者との障害者 施設における対等性についての研究 立命館大学 人間科学研究22(2011) 7 −18
・ 柏木 昭:ケースワーク入門 川島書店(1966)
・ 柏木 昭 佐々木 敏明 荒田 寛:ソーシャ ルワーク協働の思想 へるす出版(2010)
・ 牛津 信忠:福祉形成における互酬構造とその原 点 聖学院大学論叢 91−117(2019)
【Data】
日 時:2020年 2 月15日(土)10:30 ~ 12:00 会 場:聖学院大学 4 号館4401教室
テーマ: ソーシャルワークにおける「対等」とは なにか? “かかわり”から“ピア”へ ~ 講 師:柏木 昭 (聖学院大学名誉教授、公益社
団法人日本精神保健福祉士協会 名誉会長)
相川章子 (聖学院大学心理福祉学部心理 福祉学科教授、同大学スーパー ビジョンセンター長、人間福祉 学研究・ソーシャルワーク研究 会代表)
司 会:中村磐男(聖学院大学名誉教授)
参加者:40名(登壇者、スタッフを含む)
(助川征雄[すけがわ・ゆきお]聖学院大学名誉教 授)
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