2013 年度 博士論文
在宅後期高齢者のスピリチュアリティを支える 看護における対話援助に関する研究
A Study on Interactive-care of Nursing to Support the Spirituality of Late elderly at the Home
指導教員 白畑範子
岩手県立大学大学院 看護学研究科
鈴木 美代子
学位論文要旨
題名:在宅後期高齢者のスピリチュアリティを支える看護における対話援助に関する研究 専攻領域・分野:地域健康看護領域・老年看護分野
学籍番号 氏名:2162006003 鈴木美代子
要 約
【目的】日本は未踏の超高齢社会を迎え,後期高齢者が急増する中,全人的視点に立った在 宅での健康支援が求められている.こうした中,看護において,老年期の発達課題をふま え,最期までその人らしく健康のバランスをとりながら人生を全うしていけるよう,スピ リチュアリティを含め健康を支える援助は重要である.そこで本研究では,十分なコンセ ンサスが得られていない日本人高齢者のスピリチュアリティの特性を明らかにし,在宅後 期高齢者のスピリチュアリティを支える看護における対話援助の在り方について検討した.
【方法】本研究は,2段階で研究枠組みを構成した.【研究1】では文献レビューによるメタ 統合(Meta-synthesis)分析を行い,日本人高齢者のスピリチュアリティの概念枠組みを統合 した.それに基づいて,高齢者のスピリチュアリティを支える対話援助の看護介入プログ ラムを構築した.【研究 2】では,介入研究の評価から,スピリチュアリティを支える看護 における対話援助のあり方について検討した.対話は,Bruner(1986)のナラティブモード の立場でかかわり,分析の視点は,高齢者のスピリチュアリティを外在化する目的で,内 藤(1997)の個人態度別分析(PAC 分析)を援用し,外在化されたスピリチュアリティの意 味の変容プロセスはナラティブ分析を行った.具体的には,対話で得られた語りのスクリ プトは,Labov(1982)のフレームワークを援用し物語を構成し,ストーリ化と意味の変容 のプロセスは, Riessman(2003)のナラティブ分析で行った.本研究は,岩手県立大学大学 院看護学研究科研究倫理審査の承認を得て実施した(承認番号2013-D002).
【結果】【研究 1】メタ統合の結果,日本人高齢者のスピリチュアリティは,『スピリチュア
ルペインにかかわる喪失体験』『対象との関係性から意味を見出す過程』『人生や自己存在 の意味の再構成・統合を目指す過程』と,看護援助の内容は『スピリチュアリティに関心 を寄せ意味づけの過程を支える援助』に統合され,そこから在宅後期高齢者のスピリチュ アリティを支える対話援助の看護介入プログラムを構築した.
【研究2】参加者は,78〜100歳の後期高齢者5名(男性2名,女性3名)で,対話は1
名につき 6〜8 回実施した.対話援助の介入プログラムは,【関心を寄せて理解する態度】
を基盤に,対話1~3回はPAC分析を援用した【外在化による気づきを促す援助】,対話4
~最終回はナラティブアプローチ法を用いた【人生の振り返りを通して意味を再構築・再 構成する過程を支える援助】で構成した.前者では,初回にスピリチュアリティに関わる5 つの質問を提示し,①潜在意識の外在化による認識化,②無知の姿勢で傾聴の態度でかかわ り,後者では,外在化されたナラティブの相互作用的な意味の生成を目指す,③物語の筋を 立てながら傾聴,④経験の真実性の共有,⑤語り直しによる意味の再構成,⑥意味づけの相 互主観化の態度,を主軸に行った.
その結果,在宅後期高齢者の体験世界の意味づけに依拠して,スピリチュアリティと人 生を統合するプロセスは異なっていた.すなわち,同居家族の中で役割意識を強く認識し ていた高齢者は,過去への後悔が表出され語り直しにおいて過去を受容し,意味の再構成 が促されていく変容プロセスが示された.また,病気や怪我を繰り返し死に直面するよう な病いの体験をした高齢者は,苦難を乗り越えた所以の強さを備えており,物語の筋立て において生き方を導く力となって,先祖や次世代の永続的存在との関係に意味を再確認・
確信していくプロセスが示された.
【考察】高齢者のスピリチュアリティが,役割意識や病いの体験の意味づけによって,異 なる変容のプロセスが示されたことで,対話援助のかかわりの態度を組み変えながらかか わったことは,外在化を促し意味の再構成の過程を有効に支えることができたと考えられ る.特に,病いの体験の意味づけが,高齢者の生き方を導く力になって統合のプロセスを 支えていたことから,外在化の過程では「無知の姿勢」と同時に看護職としての「専門的 姿勢」の態度の重要性が示された.また,在宅後期高齢者の役割意識や力の存在の意味づ けには,高齢者の歴史的時代背景に基づく多難な人生体験や日本固有の家父長・家制度の 文化の重視,先祖や子孫の永続的存在との関連が影響していたことから,高齢者のスピリ チュアリティは,一人ひとりが生きている社会文化的文脈の中で体験の意味を理解するこ とが重要である.今回,高齢者のスピリチュアリティの外在化をとおして,同居家族の中 での役割意識や先祖との永続的存在との関係性において深めることができたのは,在宅の 場で家族と直接時間が共有でき,普段の日常生活の中にスピリチュアリティを意識化しや すい環境にあったことが要因と考えられ,ここに病院や施設のスピリチュアルペインだけ ではなく,在宅後期高齢者のスピリチュアリティを支える対話援助の可能性が見出された.
キーワード:スピリチュアリティ,対話,ナラティブ,発達課題,在宅後期高齢者
Abstract
Title:A Study on Interactive-care of Nursing to Support the Spirituality of Late-elderly at the Home
Field:Division of Community Health Nursing No. Name:2162006003 Miyoko Suzuki
Purpose:
Japan in the super-aged society of unexplored, the elderly over the age of 75 has increased rapidly and holistic-care at home is required. It is important nursing care that the elderly are supported to can fulfill their life including spirituality while maintaining the balance of the health.The purpose of this study is to clarify the features of the concepts of spirituality held by elderly Japanese people, with reference to literature. Further I considered the interactive-care to support the spirituality of late-elderly living at the home.
Method:
This study is structured by 2 steps of 【study 1】 and 【study2】.【Study 1】 is First step to synthesize qualitative literature on spirituality and spiritual care at of the Japanese elderly people using a systematic review of meta-synthesis. The aim of 【Study 1】is identify the characteristics of concept of spirituality in Japanese elderly by were reviewed previous studies, and I structured the concept of spirituality in Japanese elderly . Thus the program of integrative-care to support the spirituality of elderly was structured by this research result.【Study2】 Design of this study is intervention study. I considered the effects that the interactive-care to support the spirituality of nursing intervention. Base on the narrative-mode of Bruner(1986),perspective of analysis are two attitudes. First is to externalize the potential spirituality of elderly by Personal Attitude Construct analysis of Naito(1997), and Second is to clarify the process of change of the meaning spirituality externalized by narrative analysis of Riessman(2003).
Results:
Analysis by meta-synthesis showed the following four processes of spirituality of Japanese elderly people, 【Process of finding meaning from relationships (Vertical process)】【Process of integrate meaning of self-existence and life (Horizontal process)】【Loss experience relating to spiritual pain】, And【Care supporting the process of meaning through interested in spirituality】Then I constructed
the nursing intervention program to support the spirituality of late-elderly.
【Study 2】Narrative approach of semi-structured interview were conducted to five elderly person of ages of 78 to 100. The program of interactive-care was constructed from【Care to promote awareness by externalization of spirituality】In the first half and【Care to reconstruct the meaning of life through the reflection】in the second half. The first involvement was consists by [Awareness of externalization by subconscious] and [Active Listening with not-Knowing] .And I presented the five questions related to spirituality in the interview for the first time. In the second involvement was consists by [Active Listening While story line],[empathy the truth of the experience], [ Reconstruction of meaning by repeating of narrative],[ Meaning through Mutual subjectivity].
Results, transformation process of spirituality was different based on the meaning of the experience of the late elderly at home. In other words, elderly people who were recognize the role consciousness of family showed the regret to the experience of the past. And Elderly have been received the experience of past by [Reconstruction of meaning by repeating of narrative].
In addition, elderly people who have experienced repeated illness or injury was equipped with the strength to get over the hardship. Elderly had reaffirmed its meaning in a persistent relationship with the next-generation ancestors and by [Active Listening While story line].
Discussion:
While different processes depending on the difference of the meaning of the experience of the elderly have been shown, it is considered effective that the interactive-care have been changing by meaning of experience. In particular, the experience of illness had given important implications for the elderly. From this, in process of externalization of spirituality, it was shown importance with professional attitude as nurse. In addition, the meaning of strength and awareness of the role these elderly, family system and patriarchy difficulties and history of Japanese culture-specific had been affected. Therefore, the spirituality of the late elderly, be seen in the social context in which each person is experiencing is important. This time, the elderly was able to deepen to the spirituality externalized. In such a factor, since home environment of the elderly share time with his family directly and was in friendly environment conscious spirituality in the life of everyday.
Thus, the need for Interactive-care of nursing to Support the Spirituality placed in perspective to developmental tasks and health of Late-elderly at the Home has been suggested.
Key words:Spirituality,Interactive-care, Narrative, Developmental tasks Late-elderly at home
第 I 章
序論
I. 研究の背景1. 社会的背景 1
1) 超高齢社会の現況 1
2) 後期高齢者の特徴と健康課題 3
3) 在宅ケア推進への動き 4
2. 高齢者の健康を支援する看護の役割 6
1) 高齢者の健康の捉えと看護実践 6
2) 高齢者の健康に関わるスピリチュアリティ 8
3) 高齢者のスピリチュアリティを支える看護視点 9
II. 本研究の課題と目的 1. 本研究の課題 11
1) 高齢者のスピリチュアリティ概念にかかわる課題 11
2) 在宅高齢者のスピリチュアリティを支える看護の課題 12
3) 研究動機と先の研究成果に基づく課題 14
2. 研究目的 15
3. 研究意義 15
第 II 章
文献検討
I. スピリチュアリティ概念の変遷 171. 健康とQOL概念との関連にみるスピリチュアリティ 17
2. 海外における看護のスピリチュアリティに関する文献 17
3. 日本におけるスピリチュアリティに関する文献 19
4. パースペクティブの違いにみるスピリチュアリティ概念 21
1) 存在論の位相の違いにみるスピリチュアリティ 22
2) 人間の時間の志向性の違いにみるスピリチュアリティ 23
3) 全体論モデルの2つの次元にみるスピリチュアリティ 24
II. スピリチュアリティを支える看護実践研究 24
1. 看護におけるスピリチュアルケア研究の動向 24
2. 文献検討のまとめ 27
III. スピリチュアリティにかかわる課題 28
1. 生涯発達理論にみる老年期 28
2. 高齢者の危機構造 29
3. 老年期の喪失体験 30
4. 高齢者の語りの機能 31
5. 対話的態度 32
6. 既存の看護援助との違い 35
IV. 本研究の枠組み 36
第Ⅲ章 研究方法 I. 研究枠組み 38
II. 【研究1】日本人高齢者のスピリチュアリティ概念と看護援助の明確化 39
1. 研究目的 36
2. 用語の定義 39
3. 研究方法 39
1) 研究デザイン 39
2) メタ統合を用いる意義 40
3) メタ統合の研究デザイン 41
4) 方法論の選択 41
5) 対象文献とデータ収集期間 42
6) 分析手順 42
4. 結果 43
1) 第1段階:成果に対する研究者の関心の明確化 43
2) 第2段階:対象論文の選定 43
3) 第3段階:研究論文の精読 46
4) 第4段階:論文相互の関連性の検討 46
5) 第5段階:研究成果の解釈 51
6) 第6段階:解釈した結果の統合 51
7) 第7段階:統合した結果の表現 60
5. メタ統合分析結果のまとめ 63
III. 対話援助の看護介入枠組みの構築 65
1. 看護介入枠組みの構築 66
2. PAC 分析を援用する意義と立場 69
3. ナラティブ分析を用いる意義 69
4. ナラティブ・モードの思考様式 71
1) ナラティブの特性 72
2) ナラティブ分析の方法論 74
5. 研究者の立場 77
6. 対話援助の進め方 78
1) スピリチュアリティの外在化を支える進め方 78
2) 意味の再確認・再構成を支える進め方 78
7. 対話援助のための準備 80
1) ラポート形成 80
2) 場の確保 80
3) 対話時間と対話回数 81
8. 対話内容と方向性 81
IV. 【研究2】看護における対話援助の介入研究 82
1. 研究目的 82
2. 用語の定義 82
3. 研究方法 82
1) 研究デザイン 82
2) 参加者と手続き 82
3) 調査期間 83
4) データ収集方法 83
5) データ収集内容 84
6) データ分析方法 84
4. 倫理的配慮 86
5. 真実性と信頼性への留意 87
第 IV 章 結果 I. 参加者 88
1. 参加者の概要 88
2. フィールドの概要 88
II. 分析結果 88
1. PAC分析による外在化の結果 88
2. 主題的分析の結果 90
1) 分析手続き 90
2) 対話から構成された物語 92
3. 構造的分析の結果 104
1) 分析手続きと解釈の視点 104
2) 物語から構成されたストーリー 105
4. 相互作用的分析 110
1) 分析の視点 110
2) 対話的関与によって構成された相互作用的物語 110
3) 参加Bの分析過程の一例 119
5. 遂行的分析 121
1) 分析・解釈の視点 121
2) スピリチュアリティ概念構造に照らした物語の解釈 122
3) 概念構造に照らした解釈 124
第 V 章 考察 I. 対話により外在化された在宅後期高齢者のスピリチュアリティの様相 129
1. 対象との関係性から見出す意味 129
1) 役割の移行と活動の再方向付け 129
2) 超越的・永続的な存在との関係性 131
3) スピリチュアルペインに関わる病いの体験 132
2. 考慮すべき援助の視点 135
1) 老年期の世代継承性 135
2) 発達段階をふまえた援助 137
II. 対話援助に求められる看護の視点 139
1. 外在化による気づきを促す援助 139
2. 人生の振り返りを支え,意味の再確認・再構成を支援する援助 142
3. 関心を寄せて理解する姿勢 143
III. 本研究の限界と今後の課題 145
第 VI 章 結論 146 謝辞
文献(引用文献)
資料(付録)
— 1 —
第Ⅰ章 序 論
本章では,筆者が本研究に取り組むに至った研究の背景と研究目的について述べる.研 究動機では,社会的背景として日本の超高齢社会の現況について述べ,そこから見えてく る課題として,急増が見込まれる75歳以上後期高齢者の特徴と健康課題について概観す る.そして,医療政策の方向性として在宅ケア推進への動きの中で,高齢者の健康を支援 する看護の役割について確認する.看護の役割では,高齢者の健康の捉えと看護実践につ いて検討し,高齢者の健康を支える上でスピリチュアリティが関わっていること,そして 高齢者のスピリチュアリティを支える看護の視点について確認する.
そこから見えてきた本研究の課題を,高齢者のスピリチュアリティ概念にかかわる課題 と高齢者のスピリチュアリティを支える看護の課題,そして筆者が本研究に取り組むにい たった研究動機と先の研究成果に基づく課題の3つの課題にまとめ,最後に本研究の目的 と意義を述べる.
I. 研究の背景 1. 社会的背景 1) 超高齢社会の現況
我が国の平均寿命は,平成22年9月現在で男性79.59歳,女性86.35歳となり,毎年 男女とも過去最高を更新し続けている(厚生労働省,2010).日本は,今や「人生90年」
の時代を迎えたともいわれ,世界のどの国も経験したことのない前代未踏の超高齢社会を 迎えている.平均寿命の長期化とともに高齢者人口も増加し,日本は,2005年に世界に先 駆け,65歳以上の高齢者人口の割合が20%を超え超高齢社会に突入した.以来,高齢者 人口の割合は増加し続け,2012年(平成24年)の調査結果では,24.1%(前年23.3%)
と依然上昇の途は止まず「前例のない超高齢社会」が到来している.その中でも特に,75 歳以上高齢者の割合が,11.9%(前年11.5%)と上昇を続けている.この傾向は今後も「団 塊世代」の高齢化に相俟って上昇し続け,2042年にはそのピークをむかえると推測されて いる.その後,高齢者人口は減少に転じるが,総人口の減少から依然高齢化率の上昇は続 き,2060年には39.9%となり,実に国民の2.5人に1人が65歳以上の高齢者で,4人に 1人が75歳以上の高齢者になると推計される(内閣府, 2013年6月14日公表).しか も,この傾向の大部分は,大都市圏で著明となり,都市部を中心に後期高齢者が現在に比 し倍増すると予測されている(辻,飯島;2013).
— 2 —
世界の高齢化の状況をみると,日本の次に韓国,シンガポールが続きアジア諸国が追随 しており,先端を辿る日本は,世界の手本となる高齢化への対応を示していくことが求め られる. 高齢者を65歳以上と定義付けたのは,1956年に,国際連合の世界保健機関
(World Health Organization:WHO)が高齢化率を報告したときにはじまるといわれ,
当時の日本の平均寿命は男性63.6歳,女性67.8歳で,まさに平均寿命を生き抜いた人,天 寿を全うした人というイメージであった.ところが近年の長寿社会の進展はさることなが ら,現代の高齢者の身体能力の高さも以前とは大きく違ってきた.こうした社会の変化を
ふまえ,2013年に日本老年医学会と日本老年学会 はワーキンググループを結成し,
これまで65歳以上を高齢者としてきた従来の定義を見直し,その引き上げについて検討 を始めた.また,「改正高年齢者雇用安定法」が2013年4月から施行され,定年年齢が65 歳に引き上げられるなど,高齢者ととらえる年代についても変化している.いずれ,65歳 に定年を迎えたとしても,老年期は,寿命を終えるまでには15年から20年,それ以上の歳 月を過ごすことになり,人間の発達段階(ライフサイクル)では,最も長い年代を過ごす ことになる.とはいえ,高齢者は,いつまでも元気に過ごすことは不可能であり,必然的 に人間の寿命としての終焉を迎える.そして,近年医療が進歩したとはいえ,殆どの高齢 者は年齢とともに死に至る過程で,老化をはじめ病気や障がいを有することで虚弱な期間 を多かれ少なかれ過ごすことになる.
かつての日本は,病人を自宅で看病し看取ってきたが,近年は,医療技術の目覚しい発 展を軸として,病院信仰と表現されるように病院医療を中心に展開してきた(辻,飯島,
2013).看取りの場所をみれば,医療機関における病院死の割合は,終戦直後では10%で あったものが,1976年には在宅死を上回り現在80%と殆どが病院で最期を迎える現状にあ る.また,死亡者数では,現在100万人/年であるのに対し,30年後にはその1.7倍になる と推計され,このうち後期高齢者の占める割合は,1965年には3分の1であったものが,現 在は3分の2を占め,20年後にはさらに4分の3になると予測されている.医療費による国の 財政圧迫もさることながら,こうした超高齢社会の現況から,もはや,これまでの病院医 療中心の在り方には限界があり,医療体制の問い直しが国策として講じられている.そし て,当然看護においても世界に例のない超高齢社会に対応するべく高齢者看護のあり方を 探究することで,追随する他国への見本となる知見を構築し提示していくことは,世界一 の長寿国を走り続ける日本の高齢者看護にとって重要な課題と考える.
— 3 — 2) 後期高齢者の特徴と健康課題
厚生労働省の調査によれば,65歳時の平均余命は,平成23(2011)年には男性が18.69 年,女性が23.66年となっており,男性,女性とも老年期が長くなっており,今後の推移 をみてもその傾向は今後も続く(内閣府, 2013年6月14日公表).統計表をもとに高齢者 の介護認定者数の割合を算出したところ,前期高齢者は要支援1.3%要介護3.0%,後期高 齢者は要支援7.8%要介護22.1%(資料;厚生労働省「介護保険事業状況報告」平成22年よ り算出)で,前田(2010)が2005年の時点で算出した数値と比較して,後期高齢者の値に は大きな変化はないが,前期高齢者の介護率はむしろ低下していた.この数値からみれば,
殆どの前期高齢者は自立した生活を送っており,後期高齢者においても実に7割が介護認 定を受けずに自立していることになる.高齢者に現在の健康状態について聞いた厚生労働 省の調査においても,「よくない」「あまりよくない」とする人の割合は,女性が男性より 高く,年齢とともに上昇し85歳以上では3割強を占めている(資料;平成22年厚生労働省 国民生活基礎知識より).今後,日本が豊かな安心できる超高齢社会を築いていくには,こ うした前期高齢者と後期高齢者の健康特性をふまえ,生活に配慮した支援が重要な鍵にな ると考える.とはいえ,健康状態は加齢に伴う影響を受けていることは確かであり,身体 の自覚症状の訴えや病気やけがにより医療機関を利用する人の割合は後期高齢者になれば 急激に高くなっている.後期高齢者が自覚する老いの捉え方は,精神面より身体面が強く,
後期高齢者は物覚えや耳の聞こえ方の訴えを高く意識しているとの報告もある(原崎と二 宮,2012).
広井(1997)は,1970年代からいわれてきた年金や医療に関するいわゆる高齢化問題を
「65歳問題」,75歳以上高齢者が増加する1990年以降に起こる問題を「80歳問題(ないし
75歳問題)」として双方を区別して考え,取り組む必要があると述べている.前者は主に
社会制度の問題に視点をおくが,後者の問題は,不可逆的に心身の生理的機能が低下して いく後期の高齢者を多く抱えることになる医療や福祉での場での問題,看護や介護の「人 の手」の量の不足と質の低下の問題であると述べている.こうした背景をうけて厚生労働
省は,2007年(平成19年)に特別部会を設置し,75歳以上高齢者の医療の在り方について
検討することで,「後期高齢者医療の在り方に関する基本的考え」を報告している.それに よると,後期高齢者の心身の特性として,(1)老化に伴う生理的機能の低下による,治療 の長期化,複数疾患への罹患特に(慢性疾患)がみられる,(2)多くの高齢者に認知症 の問題がみられる,(3)いずれ避けることができない死を迎える時期であることを指摘
— 4 —
している.そして,後期高齢者への医療のあり方はこのような心身特性をふまえ,単に医 療機関に治療を受けに来る患者の疾患を個々に診るという医療ではなく,精神的面も含め た複数の疾患についてトータルに診る医療が必要であり,一般に療養生活が長引くことか ら高齢者の生活の中で提供されることが望ましく,生活を重視した在宅医療の充実が必須 である.そのためには,看護や介護などとの連携を図り一体的なサービス提供のもとに,
個々の尊厳に配慮した安らかな終末期を迎えることのできる医療体制の充実が必要である と報告している(厚生労働省 特別部会,2007).すなわち,後期高齢者は前期高齢者と異 なり,複数の疾患をもち多臓器障害を持つリスクが高くなることや,認知症などの老年症 候群や虚弱高齢者の問題をふくめて,総合的に生活機能を評価し診ることが重要である(遠 藤,2010).そのためには,もはや従来型病院医療中心のあり方には限界があり,生活習 慣予防と併せて,介護予防や在宅医療の推進が不可欠で,とりわけ地域に根ざした在宅医 療の推進が大きな鍵となっている(辻,2013).それは,「患者は病人である前に生活者で ある」ととらえ,従来の「治す医療」から「治し,支える医療」への転換が必要であり(辻,
2013),「医療モデル」から「生活モデル」への転換であった(田中,2008).そして,今
まさに看護は,人間の生活と健康を全人的にみる看護本来の機能に立ち返り,後期高齢者 がいかに生活の質と健康を保ち尊厳ある終焉を迎えることが出来るかに視点を合わせかか わることが必要である.
3) 在宅ケア推進への動き
以上,概観してきたが,老年人口の急速な増加と疾病構造の変化,家族や地域形態の変 化などに伴い,人々の健康や生活に関するニーズも変化してきている.健康・医療面では 従来の疾病管理を中心としたものから生活全体にかかわる包括的ケアへと,生活の質
(Quality of life: QOL)が重視されるようになった.こうしたニーズの変化と併せて,
高齢者の多くはこれまで生活してきた家庭や地域で生活を送りたいという基本的欲求をも っており,高齢者をトータルな生活者としてとらえた在宅ケアの充実が求められている.
この流れをうけて,我が国における医療・保健・福祉施策も従来の入院・施設収容中心か ら在宅ケアを重視したものへ,さらに施設ケアと在宅ケアとの一体化・統合化へと移行し ている(緒方,大森,1993).
厚生労働省の調査によると,高齢者の9割は現在の住居に満足しており,6割は身体が弱 っても「自宅で療養したい」と回答している(内閣府,2013).また,自分が要介護状態
— 5 —
になっても,自宅や子供・親族の家での介護を希望する人が4割を超え,多くの高齢者が 自宅等住み慣れた環境での療養を望んでいる.こうしたなか,在宅医療を必要とする高齢 者は,人口の増加にともなって,2025年には29万人になると推計され,現在より約12万人 増えると見込まれている.超高齢社会を迎え,医療機関や介護保険施設等の受入れにも限 界が生じることが予測されるなかで,在宅医療は急性期治療を終えた慢性期・回復期患者 の受け皿として,さらに看取りを見据えた終末期ケアとしても生活の質を重視した在宅ケ アのニーズは高まっている.厚生労働省は,こうしたニーズに対応するべく将来必要とな る高齢者の在宅医療と在宅ケアの充実を目指す目的で,「在宅医療・介護あんしん2012」
プランを策定した(厚生労働省,2012年8月20日).本プランは,2025(平成37)年の日 本の将来像を見据え,施設中心の医療・介護から,可能な限り,住み慣れた家庭や地域で の生活の場において必要な医療・介護サービスを受けながら安心して自分らしい生活を実 現できる社会を目指すもので,その実現に向けてようやく歩みだしたところである.
在宅ケアへの推進は,高齢者側からのニーズに加え,家庭・家族構造の変化によるニー ズがある.厚生労働省の2012年の国民生活基礎調査(平成24年6月7日現在)によると,
65歳以上の高齢者のいる世帯は増加を続けており,全世帯の43.4%で,その世帯構造別で は,夫婦のみ世帯が最も多く30.3%,次いで単独世帯23.3%で, 30年前の昭和61年の18.2%,
13.1%と比較して世帯構造は大きく変化している.こうした背景の要因には,後期高齢者 になると配偶者と死別する割合も高くなるため,後期高齢者の単独世帯が増加している.
こうした在宅ケア促進への動きは,病気を有しながらもできるだけ住み慣れた自宅で暮ら したいという高齢者のニーズと同居家族の介護力の不足があるが,一方では増加する医療 費の抑制策として講じられた入院期間の短縮化や入院病床数の削減といった,国の方針を 背景に在宅ケア推進のための誘導政策がとられてきたとの指摘もある(鳥羽,2011).い ずれにせよ,個人,社会の要請に応じるべく,増加する75歳以上の後期高齢者の在宅ケア の充実は必須であり,それにかかわる看護をはじめ医療・福祉・保健などの専門職の役割・
責任を果たすべく方策を提示していくことは必要である.
高齢化の進展と在宅療養のニーズの中で,行政として医療制度と介護制度の両面から在 宅療養を支える仕組みの構築・実現がすすめられている.なかでも2006年の診療報酬改定 において,患者が在宅で24時間安心して療養できる環境を構築するために在宅療養支援診 療所が制度化された.在宅療養支援診療所は,高齢者ができる限り住み慣れた家庭や地域 で療養しながら生活ができるよう,また,身近な人に囲まれて在宅での最期を迎えること
— 6 —
も選択できるよう,高齢療養者のニーズに応じて24時間往診が可能な体制を確保し,訪問 看護ステーションなどと連携しいつでも看護が提供できる環境の確保が必要とされ,病院 中心の看護から地域に密着した在宅ケアの必要性が高まっている.在宅ケアは,療養者の 生活の場である自宅で健康と生活を支援することであり,医療の側面に加え,生活の場と してQOLが重視され,看護・医療・介護の地域連携による他職種からのチームケアが必要 である.
2. 高齢者の健康を支援する看護の役割 1) 後期高齢者の健康のとらえと看護実践
国民生活基礎調査によると,実に高齢者の5人のうち3人が,老化や病気が原因で医療機 関を利用しているという現況の中で,特には75歳を過ぎた高齢者は,不可避的に身体の生 理的機能は低下し次第に他者への生活依存は避けられない状況が多くなる.このような状 況にある後期高齢者の健康はどのように捉えるべきなのだろうか.1984年に世界保健機関
(World Health Organization:WHO)は,高齢者の健康のとらえ方について,「高齢者 の健康水準は,死亡や疾病の有無に基づく保健指標に代えて,日常の生活を営む上で必要 とされる生活機能が自立しているかどうかを健康指標に用いること」と提唱し,「生活機 能は多面的であるため,評価に際しては日常生活動作能力,精神状態,身体的健康,社会 的健康,経済的健康など各側面を包括的に評価すべきである」と提言している.高齢者や 老年期に対する社会の共通認識は,文化や時代とともに変化しており,エイジング(Aging)
や老年,高齢者に対する認識がケアする看護者の態度に反映され ,ケアの質に影響を及ぼ すとの指摘もある(北川ら,2010).
かつての日本の高齢者のイメージは,戦後の復興期を経て高度成長時代に入り,社会全体 が生産性を追求し,高齢者に対しても身体的観点から,虚弱・衰退・寝たきり・認知症など の衰退現象に注目してマイナスイメージで捉える傾向にあった.社会学的にも,老年期は職 業や社会の第一線からの引退,重要他者との死別など様々な喪失を体験することで孤独や 無気力になりやすいといったネガティブなイメージで捉えられ,必然的に身体的機能の低 下が生じてくる高齢者は,「社会的弱者」のイメージが強くなる傾向にあり,高齢者自身 も様々な喪失の自覚,さらに周囲からマイナスイメージをもたれることで,ネガティブな 感情を抱きやすい環境にある(原崎,二宮;2012)といわれていた. ところが1980年代に 入り,高齢者の経験や知恵,生命力,生きる技法といったポジティブなパワーに着目した
— 7 —
研究が心理社会学などの領域から報告されるようになり,サクセスフル・エイジング
(Successful Aging)プロダクティブ・エイジング(Productive Aging)などの概念が注 目されるようになり,老年看護においても,これらの知見をふまえ,高齢者は生涯において 主体的に発達し続ける存在であるとの発達論的み方において,ケア実践のあり方が追究さ れるようになってきた.
人間の健康と生活に焦点をおく看護において,高齢者の健康支援は重要な機能であり,
高齢者ケアとしての看護実践は幅広い年齢層の個々異なる健康状態の高齢者を対象に,看 護活動の場も,在宅,医療施設,保健施設,福祉施設,地域等,多様な場で展開すること になる(竹田,2010a).高齢者といっても,65歳から100歳を超える幅広い年齢層を含ん でおり,老年期の健康課題にかかわる加齢変化や健康水準は実に個人差が大きいといえる.
高齢者の中には,若い世代以上に精力的に仕事や地域活動に熱心に取り組んでいる人もい れば,病気や老化のために著しい身体的苦痛や孤独な不安を抱えながら暮らしている人も いる.人生80年時代といわれる今日,長期化する老年期をどのように過ごすかは高齢者一 人ひとりにとって重要な問題であり,社会的課題である.高齢者は,誰しも健康にいきい きと生きがいをもって人生を全うしたいと願っている.しかし,一般には75歳以上になる と加齢とともに健康機能や社会的機能の面で個人差があるにせよ変化や衰えは不可避的に 遭遇せざるを得ない.こうした現実に直面しながらもいかに健康で,自分らしくいきいき と充実した日々を過ごしていくかは,高齢者にとっても,超高齢社会を迎えた日本にとっ ても大きな課題となっている(柴崎,青木,2011).
竹田(2010a)は,高齢者の健康状態の捉えとして,高齢者が自己の発達課題の達成に向 けて積極的・主体的に生きる存在で,死の直前まで発達・成長しつづける存在であり,現 在の健康状態が長い生活歴の中で培われた生活習慣や生き方,価値観により形成されたも ので,すべてのライフサイクルの中で最も個人差が大きいと述べている.すなわち,高齢 者看護の視点は,高齢者を一時的・部分的に表出される症状や訴えに集中しその問題解決 を目指すのではなく,その背後にある社会的背景はもとより,長大な人生背景をも理解し,
部分や側面ではなく全人的にとらえかかわることが重要といえる.つまり,従来の多様な 機能の喪失や衰退から生じる低下をきたした部分に着目し,「できないことを補う」とい う視点に立った老年看護の健康支援ではなく,高齢者が多少身体的変調を抱えていても,
自己を見失わずに人生の統合に向けていきいきと生きていく自分の人生を全うして生き抜 いていく過程を支援することが重要となる.
— 8 — 2) 高齢者の健康にかかわるスピリチュアリティ
今や人生80年の時代を迎え,長期化する老後をいかに健康に心豊かに過ごすかは,高齢 者自身の課題であると同時に,高齢者の健康支援を担う専門職にとって,いかに支援体制 を構築していくかは重要な課題であることは先に述べたとおりである.高齢期に入ると,
身体機能や知的・認知機能の低下が起こり,定年退職や養育などの社会的・家庭での役割 の低下,家族や友人との親しい人との死別を体験し,意欲の低下や生きがいの喪失,孤独 感をもたらし,時にうつ状態を引き起こすことがあるといわれ,加齢は,成熟意向の衰退 過程と捉えられ,高齢者は,複合的,連鎖的な要因により複合喪失を体験するといわれて いる(岡本,2013).特に75歳上の後期高齢者は,配偶者との死別経験や,有病率ととも に身体機能の衰退が増加してくる年代であり,認知能力にも変化が起こり死は身近なもの として感じてくることで,加齢にともなってスピリチュアリティは具体的,現実的なもの として認識されてくることで,高齢者のスピリチュアリティが着目されてきた.老年期は,
単に衰退期や喪失期としてあるのではなく,生涯発達し続ける存在として捉えることで,
高齢者が自らの死をも含めた老いの過程の中で,何如に全体的な健康のバランスを保ちな がら自己を失わずに自分自身でありえるかという人生を統合する発達課題を有している
(高橋,2004;竹田ら,2010a).この人生の統合という発達課題を達成するために,自 らの存在意義を確認し,あるがままの自分を受け入れるという老いにおけるスピリチュア ルな作業が必要である(Blazer1991)といわれ,そしてスピリチュアリティは,人間のア イデンティティを統合する力で,生物学的,心理学的,社会的側面を越えた人間の領域で あるといわれる(Mauritzen J,1998).
スピリチュアリティ(spirituality)は,健康に関連する因子として,1980年代より欧米 のホスピスケアや緩和医療領域でQOL 概念とともに発展してきた概念であるが,1990年 に世界保健機関(以下,WHO)は,「身体的・心理的・社会的因子を包含した人間の“生”
の全体像を構成する一因とみることができ,生きている意味や目的について関心や懸念に 関わっていることが多い」と言及し,1998年のWHO第101回執行理事会で,健康定義へ の「Health is a dynamic state of physical,mental,spiritual and social well-being…」
の付加案が提示されたのをきっかけに,今や人間の健康を支える第4の領域としてとらえ られている.看護でも,スピリチュアルな側面を理解したケアは重要な役割・機能と位置 づけられ,北米看護診断協会(NANDA)の看護診断の定義と分類では,Spiritual Distress
「霊的苦悩(魂の苦悩)」,Readiness for Enhanced Spiritual Well-being「霊的安寧促進
— 9 —
準備状態」などの診断名が取り上げられ,危険因子をアセスメントすることで問題解決に 向けた看護介入が実践されている.看護診断は,主として病院など医療の場で,疾患を有 した患者を対象に実践される標準化されたスピリチュアルペインへのケアといえる.スピ リチュアリティは,全ての人間に備わる普遍的本質としてあり,病気や老化,衰え,喪失,
痛みや死など人生の危機に直面したときに意識されるといわれ(窪寺,2004),それは加 齢とともに強く意識されてくるともいわれる(高橋ら,2004).しかし,高齢者のスピリ チュアリティは,がん末期患者が痛みや死の恐怖を体験したときに表出するスピリチュア ルペインとは異なり,自らの人生の終末を見据えこれまでの人生を統合することによって 表出されるものと考えられる.このようなことから,スピリチュアリティは,人生の意味 や生き方に基づく価値や信念と深く関わる重要な概念(竹田,2010a)であり,高齢者の 健康の維持・増進に向けた看護を実践する上でスピリチュアルな側面へのケアは不可欠で ある.しかし,高齢者の健康を支える上でスピリチュアリティへのケアが不可欠とはいえ,
スピリチュアリティ概念が大変捉えにくく看護においては十分にコンセンサスが得られて いないのが現状である.
3) 高齢者のスピリチュアリティを支える視点
老化には生理的老化と病的老化の2つがあるといわれ,後期高齢者の多くは生理的老化 に加え,複数の疾患を有することが多く慢性的に病的老化を伴いながら生活を送ることに なる. Kleinman(1988)は,病い(illness)と疾患(disease)とは根本的に異なるこ とを指摘している.すなわち,病いというのは,治療やモニタリング,診断の対象として 兆候や症状に着目した疾患とは異なり,痛みや,その他の特定の症状や,患うことの経験 である.「病いの経験は,われわれの時代や生活を構成しているあらゆる特徴と分かちが たく結びついて」おり,「観念,感情,家庭や職場での対人関係を形作る密接な結びつき,
さらには広く共有されているイメージ,経済的な力,ケアや福祉の社会的機構と結びつい ている」と述べている.慢性的な疾患の場合,病いのたどる軌跡は人生行路の一部であり,
それを生活史から切り離して考えることはできず,また,病いは個人的経験のみならず,
文化的表象や集合的経験によって分析し得るものであるという.それは,高齢者の健康問 題が,身体面・精神面だけではなく社会文化的背景に依拠した価値や信念と深く関わり,
そのスピリチュアルな側面をも理解し全人的に理解することの重要性を示している.高齢 者の健康支援は,決してそのひと個人だけで完結できるものではなく,周囲の環境やその
— 10 —
調和のもとに創造されていることに着目し,多くの文化的内容を含んだ事柄を理解し整え ることによって,高齢者が心豊かに生き身体の健康につながるといわれ(正木,山本;2008),
文化的・社会的文脈の中で理解することが重要である.まさに後期高齢者は,スピリチュ アリティが強く意識されてくる年代であり,それは家族や地域,周囲の慣れ親しんだ取り 巻く環境に直接ふれられる在宅という生活の場でこそ,これまでの人生をみつめ生きてき た道のりを確認することができると考える.
Kleinman(1988)は,この病いの経験を知ることができるのは,その人が体験してい る病いについての語りを通じて,物語を通じて病いの経験にかかわることができると述べ ているように,高齢者が語りを表出できる「対話」において可能になるのではないかと考 える.高齢者の語りは,病気や老化をはじめ複合的に遭遇する喪失・危機体験により失わ れた自己の存在意義や人生の意味を,繰り返し語り確認することで繋ぎ再構築していくこ とができると考える.また,こうした語りは援助者からの意図的,計画的,継続的にかか わることで構築される「対話」の形式をとり「援助」として成り立つことで可能になる.
スピリチュアリティが,深まる過程が人生の統合という発達課題と重なることを勘案す るならば,その課題の達成は,自己の人生を振り返り自らの死を見据えて人生を肯定的に 受容していくことである.すなわち,この過程を支えていくことが高齢者のスピリチュア リティを支える援助になる.このようなスピリチュアルケアに携わる職種は,看護職のみ ならず,スピリチュアルケアの専門家や医師,ソーシャルワーカー,臨床心理士,宗教家 など高齢者ケアに携わる多様な職種である.このような職種の中でも,看護職は予防から 疾患を有する急性期・慢性期患者の看護,ターミナル終末期の看護と,とりわけ高齢者に 対象を絞っても,高齢者のあらゆる健康ステージに携わり,最も身近な生活の場に,ニー ズがあれば24時間ケアをとおしてかかわることのできる唯一の専門職であるといえる.そ れ故に,看護職者は,家族はもとより地域の社会的文脈を全体的にとらえることで,長期 化する老年期にあっても継続した健康サポートと身近な生活ケアの実践が可能であり,生 涯においてその人の健康を支えることができると考える.
これまで日本の超高齢社会の現況から後期高齢者の健康課題と看護の役割について検討 してきた.その結果,高齢者の健康を支える上でスピリチュアリティを理解した援助が必 要であること,そのスピリチュアリティは,老年期の発達課題である“人生の統合”と関 連しているのではないか,健康なときにも潜在しているが加齢とともに強く意識され,そ れはがん患者とは異なる様相にあるのではないか,高齢者の生き方や人生の体験に基づく
— 11 —
信念や価値などに関わるものではないか,といった命題が浮かび上がってきた.さらに,
高齢者のスピリチュアリティは,高齢者の語りの機能において理解でき,また語りが構築 する対話によってスピリチュアリティを支える援助が可能になるのではないかと命題は追 加された.一般に語りの機能には,「自己への語り(monologue)」と「他者への語り(dialogue)
に分けられるが,本研究では両者を含め「対話(interaction)」としてその過程に着目す る.そして,この対話を通して相互作用的に生成される語りの意味づけと,その意味が再 構成・再構築されていくその変化のプロセスを明らかにする.
II. 本研究の課題と目的
以上,本研究における研究背景として,1.社会的背景と2.高齢者の健康を支援する看 護の役割の視点から検討したところ,いくつか命題が浮かびあがってきた.それは,高齢 者の健康を支える上でスピリチュアリティを理解した援助が必要であること,そのスピリ チュアリティは加齢とともに強く意識される傾向にあり,がん患者とは異なる様相にある こと,高齢者のスピリチュアリティは,高齢者の生き方や人生の体験に基づく価値や信念 などに関わっていること,また老年期の発達課題である“人生の統合”と関連していること,
そして,高齢者のスピリチュアリティを理解するには,高齢者の語りの機能において表出 され,意図的,計画的な対話の展開によって援助が可能になるのではないかというもので あった.そして,これらの命題とともに本研究の課題を整理した.
1. 本研究の課題
1) 高齢者のスピリチュアリティ概念にかかわる課題
高齢者の老いの過程は,身体的機能の喪失,家族や友人との死別体験,社会的な役割か らの引退といった人生転機の体験の中で,自らの存在目的や人生の意味を見つめ直さざる をえないという危機的状況に置かれ,自らの死についても人生の必然的な終焉としてより 現実的かつ日常的に意識化される傾向にあり,高齢者ケアにおけるスピリチュアリティを 支える援助の重要性が提唱されている.高齢者のスピリチュアリティの認識は,これまで 経験した多くの苦労,苦痛,また生きることのパラドックス(paradox:逆説)を通じ,
存在目的や人生の意味を見つめてきた自己の人生経験に基づいた独自の解釈をもって形成 される傾向にあり,それ故に人間としてのスピリチュアルな部分が加齢とともに高まる傾 向にあることが示唆されている(高橋,井出,2004).また,竹田ら(2007)は,地域在
— 12 —
住高齢者を対象に高齢者版スピリチュアリティ健康尺度を用いた調査を行い,前期高齢者 よりも後期高齢者においてスピリチュアリティ得点が高く,とくに「自己超越」と「死と 死にゆくことへの態度」にその傾向が強く加齢とともに豊かになることを指摘している.
とりわけ,75歳以上の後期高齢者は,統計的調査においても,老化や病気が原因で身体 機能の衰退がおこり,また社会的には配偶者との死別を経験するなど多様な喪失・危機を 複合的に体験している.一方で高齢者は,生涯において発達し続ける発達論のみ方におい て,いかに健康のバランスを保ちながら自らの終焉を見据え自分らしく生きていくかとい う発達課題をもっておる.この発達課題を達成するためには,高齢者一人ひとりのスピリ チュアルな作業が必要であり,このスピリチュアルは,人間の健康に深く関わる概念で,
人間が生きていくうえで生きる意味や方向性を与える人間の根源的なものと理解されてい る.したがって,当然高齢者の健康を支援する看護において,高齢者のスピリチュアルな るものを理解した包括的な健康支援が必須となる.このことから,まずケアに関わる看護 職者は,スピリチュアリティについて理解することは重要な課題となる.
昨今は,こうしたスピリチュアルの特性から,ヒューマンケアに関わる専門諸領域から,
スピリチュアル,スピリチュアリティについて概念やケアの方法論を探る学術的研究が展 開されている.しかし,その一方でスピリチュアリティという概念が,いまだ曖昧に捉え られ一致を見ないまま多領域から独自に研究が進められていることへの懸念や,特に看護 において高齢者ケアにおけるスピリチュアリティ意識が低いとの指摘がある.スピリチュ アリティが,社会文化的背景に依拠した価値や信念と深く関わるといわれることから,ス ピリチュアリティ概念の理解は,単なる海外直輸入の引用ではなく,日本の文化や風土に 即した日本人独自の特性をふまえ概念の特徴を明確にしていくことが重要である.
以上のことから,1つ目の研究課題は,《課題1》後期高齢者のスピリチュアリティを支 える看護援助を検討するにあたり,看護における日本人高齢者のスピリチュアリティ概念 の特性を明らかにすることが必要である. ⇒【研究1】
2) 在宅高齢者のスピリチュアリティを支える看護の課題
スピリチュアリティは,健康や QOLに関連する概念として論じられ,普段は意識され ないが病気や死などの人生の危機的状況に遭遇したときに意識化してくるといわれる.こ うした観点から看護におけるスピリチュアルケアも, NANDA(北米看護診断協会)の看 護診断名の,「霊的苦悩(魂の苦悩)(Spiritual Distress)」や「霊的安寧促進準備状態
— 13 —
(Readiness for Enhanced Spiritual Well-being)」があり,病床者をケアする立場で標準 化された査定に基づいて看護介入方法の方向性を示してくれている.1990年代の日本のス ピリチュアリティに関する看護研究は,スピリチュアリティの概念が緩和ケア領域を中心 に発展してきたことに起因して,高齢がん患者を対象にした研究は散見されるのみであっ た.それまでの高齢者の看護研究は,身体機能の低下やそれを予防するための転倒やリハ ビリテーションに焦点をおくものが多かった.2000年に入り,他領域の研究動向に追随し,
高齢者のスピリチュアリティにも焦点が当てられるようになってきた.散見される看護実 践に関する研究は,その殆どが病院に入院する高齢患者や施設入所の高齢者を対象にした 研究で,在宅高齢者を対象にした研究はごくわずかである.
本来高齢患者は,社会的な存在として家庭や社会,地域の中でそれぞれの役割を持って 社会生活を送っている.ところが,病気や怪我を有したことで医療機関に関わり入院する ことは,これまで暮らしてきた生活や自分の社会的役割から離れ病院という場で,新たに 患者という「病者役割(stick role)」を担うことになり(山口,2011),あるいは,施設に 入所することで入所者・利用者と呼ばれ,その役割を担うことになる.日本の医療は,こ の病者役割のパターナリズム的な態度に起因してきたといわれる.すなわち,パターナリ ズムとは,「父権主義」「家父長的温情主義」とも訳され,患者-医療者の関係性において 患者は医療者に従属する関係性となることで,医療者も何かをしてあげているという上か ら目線の立場であったことが指摘される(尾藤,2011).この関係は同等であると見直され てきたが,患者側にも「おまかせ」したいという医療者に対する患者の依存的役割がある との指摘もある.いずれ病院は,治療過程を介してこうした患者側の病者役割が働きやす く,患者としての理想を求めた患者を強いる可能性がある.これに対し,在宅にいる高齢 者は,少なからずなんらかの病気や障がいを抱えながらも,今家族や地域のなかでの自分 の役割を意識し遂行している.それは高齢者の長い人生の中で構築されてきた役割であり,
高齢者が自身の存在意義を確認することで健康のバランスをとりながら自分らしい生き方 を保持していくことであり,まさにスピリチュアリティを深めている過程と考えることが できる.そして,こうした高齢者のスピリチュアリティは,まさにその人一人ひとりの社 会的文脈の中のその人の体験そのものの中にあるととらえることができる.したがって,
高齢者のスピリチュアリティを理解するには,社会的文脈を構成する在宅に視点をおき,
一人ひとりの体験の意味を理解することが重要と考える.
以上のことから,スピリチュアリティは,全ての人間に本質的に備わる根源として論じ
— 14 —
られ,普遍的共通性の側面を有しながら,個人の経験や生活実感に根ざした考えや感性な どに関連した極めて個別的多義性の両側面をもった概念であると考えることができ,その 共通性を核に,多義性という幅を含めたその人個人のスピリチュアリティを理解し,援助 していくことが必要である.このような,高齢者のスピリチュアリティを理解するには,
単なる身体面や精神面の断片ではなく,主体となる高齢者の内面世界を全体的に理解する ことが重要と考える.
以上のことから,研究課題の2つ目は,《課題2》在宅高齢者のスピリチュアリティを理 解するためには,高齢者の社会的文脈においてその人が体験する意味を理解することが重 要である.⇒【研究2】
3) 研究動機と先行研究に基づく研究課題
以前,筆者は市町村の保健センターに勤務したことがあり,そのときに一人暮らし高齢 者や虚弱高齢者をリストアップし自宅訪問を行った経験がある.訪問先の高齢者の生活機 能をみるADLをはじめ言語や認知,身体機能など多側面から質問項目についてスケールな どのツールを活用しながら質問調査を行うものだった.質問項目の数値の値などから今後 の継続ケアの必要性について査定する方法に疑問を感じていた.看護職という立場で自宅 を訪問し,そこに語られるは高齢者の語り内容には,これまでの病気をはじめ様々な健康 問題にはじまり,それらに関連して乗り越えてきた多難やそれを成し得た時の達成感につ いて語られた.そして,意図せず傾聴し共感的理解をしている自分の態度が,語られる高 齢者の体験の意味づけに変容を与えていることを実感できた.しかし,同時にこれについ てこそ継続ケアにつながる重要な内容と思われたが,調査用紙の中には記載出来る部分は なく,切り捨てられる状況にあることにも疑問を感じていた.訪問先の高齢者は,突然の 筆者の訪問にも関わらず概ね肯定的に受け入れ,まさに自らの病いの体験について語った.
健康や生活への不安はさることながら,語り合える他者が誰もいない寂しさや,困難を乗 り越えてきたことを認めてくれる人がいない虚しさを表出してきた.語りの中に表出され る時間を忘れて語られる病気の経験や意味づけが,語りをとおして変容していくことを筆 者の中に体感できたが,それが何であるのかがわからずただ傾聴するのみであった.そし て,筆者は,高齢者から語られた明確にできなかった心の痛みのようなものは,スピリチ ュアルペインなるものではなかったのかという課題に至り研究に取り組んだ.
そこで,在宅療養後期高齢者のスピリチュアリティについて,人間生成学的解釈をとお
— 15 —
して意味を探究したところ結果,高齢者は,ある対象に結びつきを求めそこから生きる意 味を見出そうとしており,対象との関係性から見出された目的や価値に向かって進んでい こうとするその人独自の生き方の過程の構造が示された(鈴木,2013).そして,高齢者 のスピリチュアリティの意味は,対象との関係性を探る「模索的探究過程」と,対象との 関係性から見出された目的や価値に向かおうとする「動的探究過程」があり,高齢者はこ れまでの人生で築いてきた力となるものを起動し,自らの生き方を確信しながら進んでい こうとしていると解釈することができた.高齢者は,複合的に直面する病気や老化,配偶 者の死から生じる失望,喪失,孤独により生きる意味や目的を見失いやすい状況にあり,
高齢者のスピリチュアリティを支える援助は,これら2つの探究過程の方向性を理解し援 助することの重要性が示唆された.また,高齢者が言語や態度で表出する言語化の過程は,
他者との関係性において多次元的に意味を構成しながら,生き方への意味付けを行う重要 な過程である.高齢者のスピリチュアリティは言語化をとおして理解され得るものである ことから,看護職の意図的な対話援助が,高齢者が自らの人生を見つめ意味を再構成しな がら生きていく過程において,重要な援助となり得ることの示唆を得た.これに基づき,
3つめの研究課題は,《課題3》看護における対話援助が,在宅後期高齢者のスピリチュア リティを支える援助となる可能性が示唆されたことから,その具体的な援助のあり方につ いて検討する必要がある ⇒【研究2】
2. 研究目的
本研究の目的は,日本人高齢者のスピリチュアリティの特徴を明らかにし,看護におけ る在宅後期高齢者のスピリチュアリティを支える対話援助の在り方について検討すること である.
3. 研究意義
高齢者は病気や老化により多様な身体状態の衰退は避けられず,健康状態は変化しやす くなる上に,療養の場も病院から多様な施設へと変更を迫られる中,在宅ケアが推進され ている.加えて,後期高齢者層が増加し続けており,後期高齢者の有病率,介護認定率が 上昇する現況の中,後期高齢者の一人暮らし世帯が増えている.こうした中,多様な職種 が高齢者ケアにかかわっているが,あらゆる健康ステージの多様な療養の場に継続的に携 わることができる看護職は,高齢者の健康状態の良い時も悪い時も身近な存在として高齢
— 16 —
者の健康問題に寄り添いかかわることができる.そして,その人の健康状態を,疾病の有 無にかかわらず全体的に捉え最期までその人らしい生き方を支えていくことは重要であり,
すなわち,ここに看護職独自の機能があると考える.そこで,筆者はこれまで主眼がおか れがちであった病院における患者としてではなく,在宅ケアを見据え生活を営む療養者と 捉えることで,在宅後期高齢者の健康にかかわるスピリチュアリティに視点を置く.すな わち,在宅後期高齢者のスピリチャリティを含め全人的な健康のとらえのもとに,後期高 齢者が住み慣れた環境や他者との関係性において変化する健康状態に対応しながら自らの 健康と生活の質を維持・向上していくことで,一人ひとりが人生を全うしながら人生の終 焉を迎えることができる看護援助の在り方を探る.
この看護援助の在り方は,今後ニーズが高まる在宅後期高齢者のケアに携わる看護職の スピリチュアリティへの理解を深め,看護の独自性を発揮するべく看護援助の在り方を提 起することで,在宅ケアへの視野を広げ関わる看護職の指針になり得ると考える.同時に,
増加してくる後期高齢者は,ますます長期化する老年期を多様な健康不安や問題を抱えな がら生きていくことになる.そして,看護職が継続的に健康支援を行う立場からスピリチ ュアリティを支える看護実践は,こうした一人ひとりの不安を取り除き安心して最期まで 自宅で自分らしい生活が出来るよう,健康問題の解決へと導いてくれる一つの標になり得 ると考える.そのためにも,日本人に特化したスピリチュアリティの特性を明らかにする ことは,日本人の文化的背景や,年代,健康課題を理解したかかわりに貢献できると考え る.そして,コミュニケーションは看護の基本であり,普段のケアの中で日常行われてい ることであるが,それがスピリチュアリティを意識した意図的な対話の形式に方向づける ことで援助として成立し,援助を行う看護職者にとってもケアをしながらケアを受けてい るというケアリングの構築につながる可能性がある.対話援助のあり方の追究は,臨床心 理学をはじめ社会福祉学など多様な専門職による手法が行われているが,健康と生活をキ ーワードに,ケアをとおして多様な高齢者の生活の場に,最期まで継続的にかかわること ができる看護職である故に行える,専門職としての独自性を明確にしていくことは意義あ ると考える.
-17-
第Ⅱ章 文献検討
本章では,本研究の主題となる高齢者のスピリチュアリティに関する国内外の先行 文献を概観し,本研究における立場と到達点について明らかにする.さらに,本研究 の主題にかかわる課題をまとめ記述する.
I. スピリチュアリティ概念の変遷
1. 健康とQOL概念との関連にみるスピリチュアリティ
1971年の高齢者に関するホワイトハウス会議では,Spiritual Well-beingに関する論 議がなされ,それが契機となり,「Spiritual Well-beingは,神,自己,コミュニティ,
環境との関係の中で人生の肯定であり,それらは全体性を育み,心から享受されるもの である(鶴若,2013)」と定義された(White house Conference on Aging,1960).以 来,スピリチュアリティ(spirituality)は,健康に関連する因子として,1970年代よ り欧米のホスピスケアや緩和医療領域でQOL 概念とともに全人的医療の臨床で発展 してきた概念である(石井,2006;岡本,2013).スピリチュアリティについては, 1990 年に世界保健機関(World Health Organization:WHO)専門委員会が,「身体的・心 理的・社会的因子を包含した人間の“生”の全体像を構成する一因とみることができ,生 きている意味や目的について関心や懸念に関わっていることが多い.特に人生の終末に 近づいた人にとっては,自らを許すこと,他の人々との和解,価値の確認など関連して いることが多い」と言及している.そして,人間として生きることに関連した経験的一 側面で,身体感覚的な現象を超越して得た体験を表す言葉である」「“生きていること”
がもつ霊的な側面には宗教的な側面が含まれているが,“霊的”は“宗教的”と同じではな い(WHO,1990)」と述べている.このように,スピリチュアリティは,健康との関 連においてQOL概念の多元的な構成要素の一つとして考えら発展してきた概念である.
しかし,今日の研究においては,必ずしもQOLとスピリチュアリティの関連が強いと はいえず,両者は独立した概念であるととらえるべきであるとの指摘もあり(Sawatzky
et al.,2005),スピリチュアリティ概念のとらえは,必ずしも十分なコンセンサスを
得るには至っていなのが現状である(藤井,2010;真鍋,古屋,三谷,2010).
2. 海外における看護のスピリチュアリティに関する文献
看護学におけるスピリチュアリティに関する論議は,宗教や文化的な時代背景の影