模
模擬 擬患 患者 者参 参加 加型 型演 演習 習が が高 高齢 齢者 者や や看 看護 護大 大学 学生 生に に及 及ぼ ぼす す効 効果 果
松本智美,幸 史子,井口悦子,出口由美,斉藤昌子,野口靜子
要旨
本研究の目的は、教育的資料として模擬患者参加型演習が高齢者及び看護大学生に及ぼす効果を明ら かにすることである。 基礎看護学実習前演習に参加した高齢者
23名と看護大学生
148名を対象とした。
模擬患者へのアンケート調査や学生が記載したレスポンスカードから得られたデータを質的記述的に分 析した。その結果、模擬患者は【看護大学生を育てたい】 【学生の成長を見て感じることができる喜び】
【学生との関わりによる活性化】 【不安】 【負担感】 、学生は【自分の傾向や課題に気づく】 【患者の視点 に気づく】のカテゴリーが抽出された。このことから、模擬患者参加型演習は、高齢者の【看護大学生 を育てたい】という役割意識を刺激し、学生の成長を実感できる喜びや看護大学生との関わりにより活 力を得ることで役割意識の継続につながっていたが、同時に【不安】 【負担感】も認識していた。一方看 護大学生は、学生同士では気づけなかったことに自ら気づくことができていた。
キーワード
模擬患者(
SP) 、高齢者、基礎看護学演習
1.諸言
看護系大学に入学した学生において、生活体験 の乏しさ、コミュニケーションツールが多様化し た社会背景の中、同世代の若者同様コミュニケー ションスキルの低下が指摘されている(廣瀬,
2011
) 。そのような中、文部科学省(
2011)は「大 学における看護系人材養成の在り方に関する検討 会」において、看護実践に必要な能力を提示し、
看護学教育において実践能力の重要性を示し、こ れまでの知識偏重教育ではなく、実践能力を高め る教育も必要であると述べている。模擬患者参加 型学習効果として、 「リアリティのある体験をする ことで、学生のやる気や本気を引き出すきっかけ となっていることや大学と臨地との橋渡しの役割 を担っている(渡邉,
2016)ことが報告されてい る。また、模擬患者は、演習に参加することで「看 護への理解の深まり」 「日常生活に活用できる知識 の獲得」 「学生との交流による活性化」といった効 果を実感していた(玉田ら,
2014) 。一方で、看護 大学
1・
2年次の学生の特徴として、生活の実体 験の少なさや適切な話し言葉を使って積極的にコ ミュニケーションをとることができない (加悦ら,
2006
)ことや病棟や患者をイメージできない(安 ヶ平ら,
2010)ことが報告されているように、臨 地実習において、 知識の実践への応用だけでなく、
患者や臨床指導看護師とのコミュニケーションも 充分取れない場合が多くみられる。学生への学習 効果は明らかにされているが、模擬患者側からの 評価や参加することの意義について言及された報 告はない。
そこで、当学部基礎看護学領域では、より効果 的な臨地実習が行えるよう、
2014年度から、実習 の事前準備として、
A市の2つの老人会のボラン ティアによる協力を得て、模擬患者による演習を 行っている。
今回、模擬患者へのアンケート調査(無記名)
や学生が記載したレスポンスカード (記名) から、
模擬患者参加型演習への思いやその効果を検討し た。その結果から今後の課題を明らかにできたの で報告する。
2.方法 1
)用語の定義
模擬患者(
Simulated patient:以下
SPとする)
本研究では、
A市の地区老人会に所属し、基 礎看護学における演習や講義内容や模擬患者に ついて事前に説明を受けた地域住民によるボラ ンティア。特別な研修会やトレーニングは行っ ていない。
2
)研究方法
(
1)研究デザイン 質的記述的研究
(
2)研究対象
当大学の基礎看護学領域では、教員が
A市 の地区老人会に出向き、演習の報告会と同時 に広報活動を実施している。その地区老人会 に参加した者の中で、演習・講義に参加可能 な
60歳~
90歳代の
SP23名を対象とした。
当大学看護学部看護学科
1年次(
71名) 、
2年 次(
77名)を対象とした。
(
3)調査期間
2018
年
5月および
2018年
11月
(
4)基礎看護学実習Ⅰ前演習(
1年次:コミュニ ケーション技術)の実施方法
この演習は、様々なコミュニケーションス キルを用いて、模擬患者とのコミュニケーシ ョンが展開できることを目的としている。
SPには、 当日演習前のオリエンテーションにて、
①学生は入学して2ヶ月であること、②
30分 程度学生と会話してほしいこと、③持病等に ついて学生が質問した場合、支障のない範囲 で応えてほしいことを依頼した。
SPひとり に対し学生
3~
4名を配置した。学生は、グル ープに分かれ、コミュニケーションを実施し た。終了後にグループ毎に
SPによるフィー ドバックが行われた。
(
5)基礎看護学実習Ⅱ前演習(
2年次:日常生活 援助技術)の実施方法
この演習は、患者の状態に合わせた援助計画 を立案し、実施した看護をリフレクションする ことで実習に向けた課題を明らかにすることを 目的としている。
SPには、当日演習前のオリエ
ンテーションにて、①事例の紹介、②それ以外 は、
SP自身の持病等を訴えるなど自然な演技 で良いことを伝えた。学生は、演習の事前準備 として、グループ毎に事例の情報収集とアセス メントを行い、援助計画を立案した。
SP
ひとりに対し学生
4~
5名を配置した。援 助方法については、演習当日に
SPから新たな 情報を得て援助計画を修正し実施した。学生は 看護師役
1名が実施し、他の学生は物品の準備 や記録など役割を分担した。
(
6)調査の実施方法
演習終了後、
SPにアンケート用紙を配布し た。質問内容は、 『模擬患者として演じることが できたか』 『気づいたことを学生に伝えることが できたか』とし、 「できた」~「できなかった」
の
3択とした。 『疲労感』 『充実感』 『負担感』 『次 回の参加希望』については、 「ある」 「ない」の
2択とした。また自由に記載できる欄を設けた。
学生に対しては、演習直後に全員にレスポンス カードを配布し、自由記載とした。
(
7)分析方法
アンケート調査については、各項目の回答分
布を割合で記述した。自由記載やレスポンスカ ードの内容については、類似した文脈をまとめ カテゴリー化し、質的帰納的に分析を行った。
研究グループの教員数名で結果の信頼性、妥当 性の検討を行った。
(
8)倫理的配慮
SP
及び学生には、文書にてアンケートまた はレスポンスカード使用の是非、研究参加の拒 否の保証、研究不参加による不利益が生じない こと、個人情報の保護、研究結果の公表につい て説明し同意を得た。この研究は、活水女子大 学倫理委員会の承認を得た。
3
.結果
1
)模擬患者の概要
SP
の年齢幅は、男性
70歳~
90歳、女性
69歳~
88歳で、参加者数は男性
14名、女性
5~
9名であった。 (表
1)
2
)アンケートの調査結果:コミュニケーション技 術(
1年次)
『
SPとして演技ができたか』については、
「できた」 「まあまあできた」と回答した人は
87.0%であった。また、 『気づきを学生に伝えら れたか』については、 「できた」 「まあまあでき た」と回答した人が
78.2%であった。演習後の
『疲労感』 『負担感』は「ない」と回答した人が
91.4%、 『充実感』が「ある」 、 『次回も参加した い』と回答した人は
95.7%であった。 (図
1)
3)アンケートの調査結果:日常生活援助技術
(
2年次)
『
SPとして演技ができたか』については、 「で きた」 「まあまあできた」と回答した人は
100%、
『学生へ気づきを伝えられたか』については、
「できた」 「まあまあできた」と回答した人が
94.8%
であった。演習後の『疲労感』 『負担感』
は「ない」と回答した人が
94.7%、 『充実感』が
「ある」 、 『次回も参加したい』と回答した人は
100%
であった。 (図
2)
4
)高齢者に及ぼす効果とその思い
<カテゴリー:
【】 、サブカテゴリ―《》 、自由記載内容: 「」
で示す
>「学生さんも初めてだからでしょうか、やは り堅い感じのようでしたので少しでも和まれる ように感じ取り自分が学生さんの質問に少し長 く話しすぎたと感じています」など、 《学生の学 びに貢献したい思い》や、 「血圧測定の時、腕巻 きをもう少し練習して欲しかった」など、 《看護 師を育てることに貢献したい思い》をもってい た。 「昨年、演習に参加しましたが、
1年たった 成長のあとがよくわかりました」と《学生の成 長を実感》し、 「学生の真面目な言動に大きな期 待がもてた」 「時間はかかったが、まじめさにこ ころ打たれました」など《学生の学ぶ姿勢に好 感》や《学生の学ぶ姿勢に感動》し、 「ひとつひ とつ丁寧に声掛けがあり安心して体験させてい ただきました」と《援助技術に対する肯定的な 評価》をしていた。 「昨年
1年間休みましたが、
久しぶりにきて若い人と会話をして元気をいた だきました」など学生との関わりを通して
SP自身も活力を得ており、 《学生とのかかわりによ る活性化》がみられた。一方で、 「ベッドから起 き上がる時に腰痛・膝痛が発生するしくみを自 分なりに解説したがどうだっただろうか」など
《役割遂行に対する自身の不安》や「日常生活 であまり緊張すること」がなく、 《人前で発言す
図1.アンケートの調査結果:コミュニケーション技術(1年次)
図2.アンケートの調査結果:日常生活援助技術(2年次)
表1.模擬患者の概要
ることに対する負担感》も抱いていた。これら
9つのサブカテゴリ―から【看護大学生を育て たい】 【学生の成長を見て感じることができる喜
び】 【学生との関わりによる活性化】 【不安】 【負 担感】の
4つのカテゴリーが抽出された。 (表
2)
表2.高齢者に及ぼす効果とその思い
5
)看護大学生に及ぼす効果
<カテゴリー: 【】 、レ スポンスカードの内容: 「」で示す
>「声の大きさや話すスピードなど、学生同士で は気づかないことを気づくことができた」 「自分 の計画を実施するのに精一杯で、患者さんの状 況や思いまで気持ちが向いていなかった」 など、
学生同士の演習では得られないことを実感し
【自分の傾向や課題に気づく】ことができてい た。また、 「実施前の細かな声かけが大事だとわ
かった」 など、 実践に近い状況での演習により、
これまで気づかなかった 【患者の視点に気づく】
ことができていた。 (表
3)
4.考察
SP
の年齢は、
60歳代から
90歳代と幅広く、
全員が、過去5年間ほぼ毎年模擬患者としての 活動に参加していた。性別では、女性よりも男 性の参加者人数が多かった。青木(
2014)は、
表3.看護大学生に及ぼす効果
在宅高齢者の研究において「男性は女性に比べ て社会的役割が多く、役割を担うことや遂行す ることが社会的存在感を保持させ自己効力感や 充実感などを高めることになり、精神的健康を 高める」と述べている。演習参加は、高齢者に とって社会の中で役割を担う場でもあり、社会 的存在を自身が意識できる場でもあると考えら れる。
アンケート調査の自由記載からは、演習に参 加することで、高齢者の【看護大学生を育てた い】という役割意識を刺激し、更によりよい役 割を演じたいといった内発的動機付けになって いた。また【学生の成長を見て感じとることが できる喜び】を実感したり、 【学生との関わりに よる活性化】を得ており、そのことが役割意識 の継続につながっていた。学生の演習に
SPと して参加することで、今までとは違う自分の役 割を認識し意欲を向上させるきっかけとなった ことや、自己の健康に着目したり、自己の生活 を振り返るきっかけとなっていること (阿部ら,
2012
)が報告されている。本研究の
SPは、自 身の健康に着目するといった内容はなかったが、
役割意識を向上させていることでは一致してい た。一方で、模擬患者養成講座を修了しており
3~
4年の経験のある
SPを対象とした研究で は、本当に自身の演技やフィードバック内容で よいのか、
SPとして学生の役に立っているの かの自問をもっており、 「役割遂行に対する不安」
がみられている(山崎ら,
2016) 。本研究の
SPは、トレーニングを受けていない
SPであった が、 同様の結果が得られた。 【不安】 に対しては、
SP
自身が達成感を抱けるように、学生の反応 をもっとフィードバックすることが教員に求め られているのではないかと考える。またトレー ニングをしないことで自然に患者役を演じるこ とができるメリットもあれば、人前で発言する ことに【負担感】を抱く
SPもいることから、
SP
に対してのトレーニングについては、今後 の検討課題としたい。
学生のレスポンスカード内容の結果は、
1・
2年次共にカテゴリーは共通していた。
SPとの 演習をとり入れることにより、模擬患者から気 づきを伝えてもらうことで、ケアの提供の仕方
やコミュニケーションのとり方などに学生自身 が気づくことができ、実習に向けて改善の努力 を行うチャンスとなっていた。渡邉ら(
2016) の研究でも、看護大学の教員が認知する
SP患 者参加型教育の教育効果として、 「臨地でのリア リティに近い」 「患者をイメージしやすい」 「自 己課題の明確化」 「学習の内発的動機づけ」 「コ ミュニケーション能力の形成」 「看護職としての 態度の形成」が報告されている。本研究では、
「看護職としての態度の形成」 「コミュニケーシ ョン能力の形成」 までは見られていないものの、
「自己課題の明確化」 「学習の内発的動機づけ」
については、同様の効果がみられた。
今回は演習直後の効果を調査したものであり、
基礎看護学実習に対する演習の効果は調査して いない為、今後の課題としたい。
5
.結論
SP
参加型演習により、
SPは、 【看護大学生を 育てたい】 【学生の成長を見て感じることができる 喜び】 【学生との関わりによる活性化】 【不安】 【負 担感】を感じていた。一方学生は、学生同士の演 習では得られないことや、これまで気づかなかっ た【自分の傾向や課題に気づく】 【患者の視点に気 づく】ことができていた。
6
.利益相反
本調査・報告において利益相反はない。
謝辞
今回、アンケート調査に協力頂いたA