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Vol.18 , No.2(1970)007平井 俊榮「中国仏教における不空の概念」

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一 中 国 仏 教 の 特 質 の 一 つ と し て、 た と え ば ﹁ 即 事 而 真 ﹂ と か ﹁ 理 事 相 即 ﹂ と い う こ と ば に よ っ て 象 徴 さ れ る よ う に、 現 実 肯 定 的 な 面 が 非 常 に 顕 著 で あ る と い う こ と は 従 来 よ く い わ れ て い る こ と で あ る。 本 稿 の 主 題 と し て 取 り 上 げ た ﹁ 不 空 ﹂ と い う こ と ば も、 中 国 の 空 観 思 想、 と く に 嘉 祥 や 天 台 等 の 著 書 に お い て は き わ め て 重 要 視 さ れ た こ と ば で あ る が、 イ ン ド の 中 観 派 に お け る 使 用 と は そ の 意 味 内 容 を 全 く 異 に す る も の で あ り、 中 国 の 般 若 思 想 史 に お い て 独 自 の 展 開 を 遂 げ た も の で あ る。 と い う よ り は、 概 念 内 容 と し て は イ ン ド の 中 観 派 に は 見 ら れ な い 中 国 仏 教 独 特 の も の で あ ろ う か と 思 わ れ る の で あ る。 ど こ が 違 う か と い え ば、 イ ン ド に お い て は 不 空 (a su n y a ) と は、 本 来、 縁 起 し な い ( a p r a t it y a -s a m u tp a n n a ) と い う 意 味 で あ り、 自 性 を 有 す と い う こ と で あ る。 し た が つ て、 縁 起 を 意 味 す る 空 ( su n y a ) の 反 対 概 念 と し て、 縁 起 ・ 空 性 の 開 示 ( 1) に よ っ て 一 向 に 破 せ ら る べ き も の で あ る。 こ れ が 吉 蔵 や 智 顕 に 代 表 さ れ る 中 国 の 空 観 思 想 に あ つ て は、 む し ろ い わ ゆ る ﹁ 真 空 妙 有 ﹂ と い わ れ る よ う に、 妙 有 を 示 す 概 念 と し て 積 極 的 な 価 値 を 付 与 さ れ て い る の で あ る。 こ れ は 簡 単 に い え ば、 絶 対 の 否 定 を 経 た 絶 対 の 肯 定 で あ る と か、 あ る い は ﹁ 空 亦 復 空 也 ﹂ と い う こ と ば を 弁 証 法 的 に 理 解 し て、 空 を 無 限 に 空 じ た 究 極 に お い て 見 出 さ れ る 価 値 体 で あ る と し て、 当 然 の 帰 結 の よ う に み な さ れ て き た 訳 で あ る。 絶 対 の 否 定 が 即 絶 対 の 肯 定 で あ る と い う こ と は、 主 体 的 な 解 釈 と し て は、 そ れ は そ れ で 充 分 に 首 肯 す る こ と の 出 来 る も の で あ る が、 そ の 場 合 あ く ま で も 空 性 が 主 体 的 に 行 ぜ ら れ る そ の 行 を 媒 介 と し て、 あ る い は 悟 り そ の も の を 契 機 と し て は じ め て 成 立 す る こ と で あ っ て、 無 媒 介 に イ コ ー ル で あ る と は 論 理 の 場 に お い て は い え な い こ と で あ る。 こ こ に 不 空 と い う 概 念 を 問 題 に し た の は、 こ の よ う な 主 体 的 ・ 哲 学 的 意 味 で こ れ を 問 題 に し た の で は な く て、 む し ろ こ の よ う な 主 体 的 解 釈 を そ の ま ま 中 国 の 般 若 思 想 の 展 開 の 上 に あ て は め て、 文 献 的 な 意 味 に お い て も、 空 の 論 理 の 必 然 的 な 帰 結 と し て 不 空 と い う 概 念 が 成 立 し た と み な す 中 国 仏 教 に お け る 不 空 の 概 念 ( 平 井 ) 五 九

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中 国 仏 教 に お け る 不 空 の 概 念 ( 平 井 ) 六 〇 の が 正 し い か ど う か と い う こ と を、 改 め て 検 討 し て み た い と 思 つ た か ら で あ る。 つ ま り、 中 国 仏 教 の 文 献 の 上 に お い て、 イ ン ド に は な い 不 空 と い う 概 念 が 何 時 ご ろ ど の よ う に し て 成 立 し て 来 た の か、 そ れ は 般 若 空 観 思 想 の 展 開 と ど う い う 関 わ り を も つ て い る の か、 と い う こ と を 文 献 的 に 跡 づ け て み よ う と い う の が こ の 小 論 の 意 図 す る と こ ろ で あ る。 二 不 空 と い う こ と ば 自 体 は、 古 く 西 瞥 無 羅 又 訳 の ﹃ 放 光 般 若 経 ﹄ の 中 に 亦 不 観 五 陰 有 我 非 我、 亦 不 空 亦 非 不 空 ( 大 ・ 八 ・ 三 六 ・ 上 ) ( 2) と あ り、 こ れ が 最 も 古 い 例 か と 思 わ れ る。 竺 法 護 訳 の ﹃ 光 ( 3) 讃 経 ﹄ 第 一 巻 に は 二 十 種 の 空 を 挙 げ て い る が、 竺 法 護 の 訳 語 に は 不 空 と い う こ と ば は な い。 し か し、 無 羅 又 訳 の 不 空 ・ 非 不 空 は 有 我 ・ 非 我 と パ ラ レ ル に 用 い ら れ た も の で、 有 自 性 と し て の 不 空 で あ っ て、 空 の 対 概 念 と し て の も の で あ る。 漢 訳 般 若 経 典 に み ら れ る 不 空 と い う こ と ば は 例 外 な く こ の 原 初 的 な 意 味 に 限 ら れ た も の で あ り、 こ れ は の ち の 羅 什 訳 に あ つ て も 同 じ で あ る。 た と え ば ﹃ 大 品 般 若 ﹄ に は 菩 薩 摩 詞 薩 行 二 般 若 波 羅 蜜 一時、 不 レ 観 二 色 若 常 若 無 常、 若 苦 若 楽、 若 我 若 非 我、 若 空 若 不 空、 若 離 若 非 離 一 ( 大 ・ 八 ・ 三 七 〇 ・ 下 ) な ど と あ り、 ﹃ 小 品 般 若 ﹄ に 関 し て も 同 様 で あ る。 一 般 に 般 若 系 の 経 典 に つ い て は、 嘉 祥 や 天 台 以 降 に 訳 さ れ た 例 え ば 唐 玄 突 訳 ﹃ 大 般 若 経 ﹄ や さ ら に 下 つ て 施 護 訳 ﹃ 仏 母 生 経 ﹄ に も 修 二 行 般 若 波 羅 蜜 多 一菩 薩 摩 詞 薩、 不 レ 著 二 色 有 性 一不 レ 著 二 色 無 性 一 ( 中 略 ) 不 レ著 二 色 空 一不 レ 著 二色 不 空 一 ( 大 ・ 七 ・ 一 五 ・ 下 ) 不 レ住 二色 受 想 行 識 若 空 若 不 空 一 ( 大 ・ 八 ・ 五 九 二 ・ 中 ) と い う よ う な 用 例 だ け が 見 ら れ、 所 謂 縁 起 し な い 有 性 と し て の 不 空 の 意 味 し か 見 出 す こ と が で き な い。 施 護 訳 の ﹃ 仏 母 生 経 ﹄ は 現 存 の 梵 文 ﹃ A s ta sa h a s r ik a -p r a jn a p a r a m it a ( 八 千 頒 ( 4) 般 若 ) ﹄ に 最 も よ く 一 致 す る と い わ れ る か ら、 イ ン ド 的 原 意 に 近 い の は 当 然 で あ る か も 知 れ な い が、 と に か く、 妙 有 的 な 意 味 で の 不 空 と い う 術 語 の 典 拠 を 直 接 漢 訳 般 若 経 典 に 求 め る こ と は で き な い。 三 次 に 三 論 乃 至 四 論 に つ い て 見 る と、 こ れ ら は い ず れ も 羅 什 訳 で あ り、 当 然、 中 国 仏 教 的 な 不 空 の 意 味 を こ れ ら の 論 書 に 求 め る こ と が で き る と 想 定 さ れ る が、 結 論 か ら い う と、 不 空 と い う こ と ば は 羅 什 の 翻 訳 に は し ば し ば 散 見 す る に も か か わ ら ず、 例 え ば ﹃ 中 論 ﹄ 成 壊 品 に 不 空 則 決 定 有、 亦 不 レ 応 レ有 二 成 壊 一 ( 大 ・ 三 〇 ・ 二 八 ・ 上 ) と 説 く よ う に、 や は り 縁 起 せ ざ る 実 有 の 性 と し て の 意 味 内 容 に 限 つ て 用 い ら れ て い る。 た だ、 従 来 か ら 中 国 に お い て は 空 も 一 つ の 極 端 ( 一 辺 ) で あ る と 見 な す 考 え 方 が 強 か つ た と い ( 5) わ れ る が、 そ の 傾 向 は す で に 羅 什 訳 に お い て 明 了 に う か が え る 所 で あ る。 周 知 の 通 り、 羅 什 訳 ﹃ 中 論 ﹄ に は ﹁ 空 亦 復 空 ﹂ と い う こ と ば が 見 ら れ、 当 然 こ の 空 を 空 ず る と い う 意 味 を も

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つ た、 不 空 に 穎 似 し た 概 念 規 定 が な さ れ て む る と 予 想 ざ れ る 訳 で あ る。 こ れ に 当 る も の と し て 例 え ば ﹃ 大 智 度 論 ﹄ 習 相 応 品 な ど に 説 か れ る 大 空 (m a h a s u n y a ) が あ る。 す な わ ち 問 曰、 汝 言 二諸 法 実、 諸 法 空、 皆 不 レ 然 者、 今 如 何 復 言 二 諸 法 空 一 と い う 問 に 対 し、 答 日、 有 三 一種 空 一 一 者 説 二 名 字 空 一 但 破 二著 有 一 而 不 レ 破 レ 空、 二 者 以 レ 空 破 レ有、 亦 無 レ 有 レ 空 と い つ て い る が、 こ の 後 者 を 大 空 と 名 づ け 大 空 者 破 二 一 切 法 一 空 亦 復 空、 以 レ 是 故 汝 不 レ応 レ作 二是 難 一 ( 大 ・ 二 五 ・ 三 二 七 ・ 上 ) と 結 ん で い る。 そ の 他、 般 若 経 に 説 か れ る 十 八 空 或 い は 二 十 空 の 一 つ で あ る 空 空 ( su n y a t a s u n y a ta ) と い う の も、 空 亦 復 ( 6) 空 と 同 じ よ う に 空 見 の 破 択 を 意 図 す る 観 念 で あ る。 こ の よ う に 羅 什 訳 の 諸 経 論 に は、 大 空 と か 空 空 と い う、 空 を 一 辺 と 見 な し、 空 を 空 ず る と い う 意 味 内 容 を 盛 つ た こ と ば が 多 く 見 ら れ る に も か か わ ら ず、 不 空 と い う こ と ば で こ れ を 表 現 し よ う と し た 例 は 絶 無 で あ る。 例 え ば ﹃ 中 論 ﹄ 観 行 品 の 若 有 二 不 空 法 一 則 応 レ 有 二 空 法 一 実 無 二 不 空 法 一 何 得 レ 有 二 空 法 一 ( 大 ・ 三 〇 ・ 一 八 ・ 下 ) の 偶 頗 は 空 法 に 対 す る 執 著 を 破 し て い る が、 こ の 場 合 に も、 不 空 は 空 の 対 概 念 と し て 有 自 性 の 意 味 に 用 い ら れ て い る。 こ れ に 対 す る 青 目 註 に お い て も、 若 有 二不 空 法 一 相 因 故 応 レ 有 二空 法 一 而 上 来 種 々 因 縁 破 二 不 空 法 一 不 空 法 無 故 則 無 二 相 待 一 無 二 相 待 一故 何 有 二 空 法 一 ( 同 ) と あ る の み で あ る。 つ ま り、 ﹁ 空 亦 復 空 ﹂ と い う こ と ば の 言 い 換 え と し て、 単 に 空 の 一 辺 に 留 ま る こ と を 排 す る た め に 用 い ら れ た 大 空 と か 空 空 と い う 概 念 は、 妙 有 的 な 不 空 と は 極 め て 類 似 し た 概 念 で は あ つ て も、 厳 密 に は こ の 両 者 は 区 別 さ る べ き も の で あ る。 し た が つ て、 大 空 と か 空 空 と い う 術 語 観 念 が そ の ま ま 不 空 と い う 概 念 の 成 立 に 連 な る と い う こ と は、 羅 什 訳 の 論 書 に お い て も 見 ら れ な い の で あ る。 四 ま た、 中 国 仏 教 に お い て は 仮 (p r a jn a p e に 対 す る 考 察 と い う も の が、 南 北 朝 時 代 を 通 じ て と く に 成 実 ・ 三 論 の 二 宗 に よ っ て 盛 ん に 考 究 さ れ、 こ れ が の ち に 天 台 に よ っ て 空 ・ 仮 ・ 中 の 三 諦 の 一 つ と し て 独 自 の 思 想 に ま で 発 展 せ し め ら れ た こ と は 周 知 の 通 り で あ る。 と く に 天 台 に お け る 仮 の 理 解 と し て は、 最 後 的 な 仮 観 に お い て、 例 え ば ﹃ 摩 詞 止 観 ﹄ 巻 第 六 上 に 入 仮 意 者、 自 有 二但 従 レ 空 入 ツ 仮、 自 有 下 知 二 空 非 レ 空 破 レ 空 入 占 仮 ( 中 略 ) 若 論 二 自 行 一入 空 有 レ 分、 若 論 二 化 物 一出 仮 則 無、 菩 薩 従 レ 仮 入 レ 空 自 破 二縛 著 一 不 レ 同 二 凡 夫 一 従 レ 空 入 レ 仮 破 二 他 縛 著 一不 レ 同 三 一 乗 一 処 レ有 不 レ 染、 法 眼 識 レ 薬 慈 悲 逗 レ 病、 博 愛 無 レ 限、 兼 済 無 レ 倦、 心 用 自 在、 善 巧 方 便 如 二 空 中 種 7 樹 ( 大 ・ 四 六 ・ 七 五 ・ 中 -下 ) と 入 仮 の 意 味 を 説 い て い る が、 こ れ は 明 ら か に 空 の 二 重 否 定 中 国 仏 教 に お け る 不 空 の 概 念 ( 平 井 ) 六 一

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中 国 仏 教 に お け る 不 空 の 概 念 ( 平 井 ) 六 二 の 論 理 を、 仮 と い う 術 語 に よ っ て 菩 薩 の 行 と し て 具 象 的 に 表 ( 7) 現 し た も の で あ る と 指 摘 せ ら れ て お る。 こ う い う 仮 観 の 確 立 は 当 然 背 後 に 妙 有 的 な 考 え 方 を 予 想 さ せ る も の で あ り、 そ の 意 味 で は 仮 と い う こ と ば に 不 空 と い う 意 味 を 認 め 得 る と 考 え る こ と も 可 能 で あ る。 現 実 の 存 在 が す な わ ち 真 理 そ の も の の 具 ハ現 で あ る と い う 考 え 方 は、 す で に 僧 肇 の ﹃ 不 真 空 論 ﹄ な ど に 見 ら れ る ﹁ 立 処 即 真 ﹂ と か ﹁ 即 事 而 真 ﹂ と い う 表 現 の 中 に も あ る わ け で、 と く に 天 台 が そ う い う 中 国 的 な 思 惟 の 基 盤 の 上 に 立 つ て、 仮 と い う 表 現 に よ っ て 考 え ら れ る 現 象 面 に 菩 薩 の 化 導 の 場 と し て 積 極 的 な 意 義 づ け を 行 な つ た と い う こ と は 特 筆 さ る べ き で あ る が、 そ の 場 合 に も あ く ま で、 菩 薩 の 化 導 方 便 と い う 行 道 の 場 と し て の 仮 の 肯 定 で あ っ て、 論 理 構 造 と し て 仮 が 即 ち 不 空 で あ る と い う 表 現 は 天 台 に お い て も な い の で あ る。 仮 名 即 不 空 と い の は、 む し ろ 例 え ば 南 斎 周 顯 の 著 わ ( 8) し た ﹃ 三 宗 論 ﹄ の ﹁ 不 空 仮 名 義 ﹂ な ど に 紹 介 さ れ て い る よ う に、 成 実 学 派 の い う 即 実 的 な 意 味 あ い の 仮 名 の 方 が そ れ に 近 い の で あ る。 し か し、 こ れ は 嘉 祥 や 天 台 に よ っ て 徹 底 的 に 破 択 さ れ た、 そ の 上 で、 さ ら に 天 台 に よ っ て 実 相 の 場 に お い て 妙 有 と し て 現 前 す る と い う 構 造 の も の で あ る。 し た が つ て 妙 有 そ の も の を 意 味 す る 不 空 と い う 概 念 は 論 理 的 に は こ れ に 先 行 す る も の で あ り、 若 し く は こ れ を 媒 介 す る も の で あ っ て、 天 台 的 仮 観 の 確 立 に よ っ て も た ら さ わ た も の で は な い の で あ る。 こ の こ と は 歴 史 的 に は 天 台 と 違 つ て 仮 と い う も の を あ く ま で 仮 説 と し て 認 め る こ と し か し な か つ た 嘉 祥 に お い て も、 不 空 と い う 術 語 の 文 献 的 な 典 拠 用 例 は 天 台 と 全 く 同 じ も の が 見 ら れ る か ら で あ る。 五 そ こ で 最 後 に 嘉 祥 や 天 台 に つ い て 不 空 と い う こ と ば の 概 念 規 定 や そ の 用 例 を 見 る と、 両 者 に お い て は 不 空 と は 常 に 浬 繋 ・ 仏 性 の 功 徳 を 意 味 し、 悟 り の 智 に つ い て い わ れ る こ と ば で あ る。 す な わ ち、 嘉 祥 は ﹃ 中 観 論 疏 ﹄ の 中 で 小 乗 の 人 法 空 と 大 乗 の 空 と の 差 異 に つ い て、 大 乗 知 二 無 明 本 自 不 生 一爾 時 見 三 一種 空 一 一 者 有 所 無 空、 謂 無 明 不 可 得、 二 者 即 見 二仏 性 畢 寛 清 浄 無 フ 有 二 煩 悩 一 亦 名 為 レ 空、 此 亦 即 見 二 是 空 不 空 二 義 一 見 二 二 種 空 一名 レ 見 レ 空、 即 見 二 仏 性 妙 有 一名 レ 見 二 不 空 一 小 乗 並 不 レ 見 二 此 三 事 一 但 折 二 無 明 有 一是 故 言 レ 空 耳 ( 大 ・ 四 二 ・ 一 六 〇 ・ 下 -一 六 一 ・ 上 ) と い つ て い る。 同 様 の 趣 旨 で、 二 乗 但 観 二 十 二 縁 空 一 不 レ 知 三 因 縁 即 有 二 仏 性 不 空 義 一 大 士 了 二達 十 二 縁 空 一 後 知 二仏 性 不 空 義 一故 与 三 一乗 一異 也 ( 大 ・ 四 二 ・ 五 三 ・ 下 ) と 述 べ た り ﹃ 法 華 玄 論 ﹄ で は 仏 身 無 漏 名 レ之 為 レ 空、 仏 身 無 為 名 為 二不 空 一 故 大 浬 榮 具 二 空 不 空 義 一 ( 大 ・ 三 四 ・ 三 七 五 ・ 上 ) と い う 表 現 も 見 ら れ る。 天 台 も 同 様 で ﹃ 法 華 玄 義 ﹄ を は じ め、 不 空 と い う 術 語 観 念 の 説 明 は 至 る 所 に 見 ら れ る が、 と く

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に ﹃ 維 摩 経 玄 疏 ﹄ の 中 で 不 空 即 是 智 慧 之 性 名 二 見 仏 性 一 ( 大 ・ 三 八 ・ 五 五 五 ・ 下 ) と 述 べ、 さ ら に 不 空 は 当 有 の 為 の 故 に 見 不 空 と 名 づ け る の か、 無 空 の 為 に 不 空 と 名 づ け る の か と い う 問 を 設 け、 具 さ に 二 意 あ り と し て、 有 故 是 不 空 者、 智 慧 性 故 非 レ 空 也、 無 故 説 二 不 空 一 真 諦 法 性 之 理 即 是 空、 此 空 畢 寛 不 可 得 故、 故 言 二 不 空 一 ( 大 ・ 三 八 ・ 五 五 五 ・ 下 ) と 述 べ て い る。 こ の 最 後 の ﹁ 此 空 畢 寛 不 可 得 故、 故 言 二 不 空 こ ' と い う 表 現 な ど は、 思 想 と し て は 羅 什 訳 の 論 書 等 に う か が う こ と は で き て も、 表 現 形 式 と し て は つ い に 見 出 す こ と の で き な か つ た も の で あ る。 そ れ が こ の よ う な 形 で 空 観 の 論 理 構 造 の 中 に 組 入 れ ら れ て い る の で あ る。 所 で、 至 る 所 に 見 ら れ る こ う い う 表 現 の 典 拠 と し て、 両 者 と も 必 ず と い つ て よ い 程 ﹃ 浬 葉 経 ﹄ 師 子 吼 晶 の 声 聞 縁 覚 見 二 一 切 空 一不 レ 見 二 不 空 一 乃 至 見 二 一 切 無 我 一不 レ 見 二於 我 一 以 二是 義 一故、 不 レ 得 二 第 一 義 空 一 不 レ得 二 第 一 義 空 一故 不 レ 行 二 中 道 一 無 二 中 道 一故 不 レ 見 二仏 性 一 と か、 仏 性 者 名 二 第 一 義 空 一 第 一 義 空 名 為 二智 慧 一 所 レ 言 空 不 レ 見 二 空 与 不 空 一 智 者 見 二 空 与 不 空 常 与 無 常 苦 与 楽 我 与 無 我 一 空 者 一 切 生 死、 不 空 者 謂 大 浬 繋 ( 大 ・ 一 二 ・ 五 二 三 ・ 中 ) と い う 文 句 を 挙 げ て い る。 ﹃ 浬 繋 経 ﹄ の 師 子 吼 品 は 梵 本 の な い ( 9) 部 分 で あ る が、 天 台 が ﹃ 法 華 玄 義 ﹄ 巻 二 ・ 下 に 不 空 の 義 を 説 く 典 拠 と し て こ の 浬 契 経 と と も に 挙 げ る ﹃ 宝 性 論 ﹄ の 一 文 は、 現 存 の ﹃ R a t n a g o tr a v ib h a g a -Mahayana-uttaratantra に 見 ら れ る こ と ば で あ り、 そ の 直 接 の 典 拠 は ﹃ 勝 髭 経 ﹄ で あ ( 10) る。 そ し て こ の ﹃ 勝 髭 経 ﹄ に お い て、 二 種 の 如 来 蔵 空 智 と し て 空 如 来 蔵 と 不 空 如 来 蔵 と が 説 か れ て い る の で あ る が、 そ の 意 味 は 如 来 蔵 は 本 来 煩 悩 を 離 脱 し て い る と い う 意 味 で 空 で あ る が、 恒 沙 の 無 上 仏 法 の 功 徳 を 具 す る と い う 意 味 で は 不 空 と ( 11) い わ れ る の で あ る。 こ れ が ﹃ 宝 性 論 ﹄ や ﹃ 仏 性 論 ﹄ に 継 承 さ れ、 さ ら に ﹃ 浬 藥 経 ﹄ に お い て、 第 一 義 空 ・ 仏 性 ・ 中 道 を 示 す も の と し て 説 か れ て い る 訳 で あ る。 ま た、 の ち の ﹃ 大 乗 起 信 論 ﹄ の 空 真 如 ・ 不 空 真 如 の 考 え も 全 く 同 一 の 趣 旨 の も の で あ る。 中 国 仏 教 に お け る ﹃ 浬 繋 経 ﹄ の 影 響 と い う も の は 多 大 で あ ( 12) る が、 灌 頂 の ﹃ 浬 契 経 疏 ﹄ に よ れ ば、 五 世 紀 中 葉 の 北 涼 の 人 で あ る 河 西 道 朗 が、 羅 什 訳 の ﹃ 大 品 般 若 ﹄ に あ る 二 切 諸 法 悉 皆 是 空、 是 空 亦 空 ﹂ と い う の を 解 釈 し て、 ﹁ 万 法 錐 レ 空、 而 智 体 不 空 ﹂ と い つ た と 伝 え ら れ て い る。 河 西 道 朗 は 長 安 古 三 論 の 系 統 を 引 く 人 で あ る と 同 時 に、 当 時 新 し く 漢 訳 さ れ た ﹃ 浬 藥 経 ﹄ の 註 釈 家 で も あ つ た か ら、 灌 頂 の 証 言 は 充 分 信 頼 し て よ い と 思 う が、 そ の 意 味 で は、 河 西 道 朗 は 中 国 に お い て 如 来 蔵 系 の 不 空 と い う こ と ば を、 空 観 の 解 釈 に 転 用 し た 最 初 中 国 仏 教 に お け る 不 空 の 概 念 ( 平 井 ) 六 三

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申 国 仏 教 に お け る 不 空 の 概 念 ( 平 井 ) 六 四 の 人 で あ っ た か も 知 れ な い。 と に か く、 本 来 如 来 蔵 思 想 を 表 わ す 不 空 と い う 術 語 観 念 が、 嘉 祥 や 天 台 に お い て 空 観 の 論 理 と し て こ の よ う に 定 着 さ れ た と い う こ と は、 如 来 蔵 思 想 が、 中 国 仏 教 に お い て 果 し た 役 割 と い う も の を 改 め て 考 え さ せ る も の が あ ろ う か と 思 う の で あ る。 1 中 村 元 博 士 ﹁ 空 の 考 察 ﹂﹃干 潟 博 士 古 稀 記 念 論 文 集 ﹄ 一 七 四 頁 参 照。 2 竺 法 護 訳 ﹃ 光 讃 経 ﹄ 巻 第 一 ( 大 正 ・ 八 巻 ・ 一 四 九 頁 ・ 下 -一 一 五 〇 頁 ・ 上 ) 3 無 羅 叉 訳 ﹃ 放 光 般 若 経 ﹄ 二 〇 巻 は ﹃ 大 品 般 若 ﹄ と 同 じ く、 ﹃ P a n c a v im sa ti s a h a s ri k a -p r a jn a P a r a m it a ( 二 万 五 千 頗 般 若 ) ﹄ の 同 本 異 訳 で、 訳 経 史 的 に は 般 若 経 の 原 型 に 近 い ﹃ A s t a -sa h a s ri k a -p r a jn a p a ra m it a ( 八 千 頗 般 若 ) ﹄ の 同 本 異 訳 で あ る 後 漢 支 婁 迦 識 訳 ﹃ 道 行 般 若 ﹄ 十 巻 ・ 呉 支 謙 訳 ﹃ 大 明 度 経 ﹄ 六 巻 な ど の 成 立 が 早 い が、 後 者 に は い ず れ も 不 空 と い う 訳 語 は 見 当 ら な い。 4 山 田 竜 城 博 士 ﹃ 梵 語 仏 典 の 諸 文 献 ﹄ 八 四 頁 参 照。 5 中 村 元 博 士 ・ 前 掲 書。 6 中 村 元 博 士 に よ れ ば、 空 見 と は 空 と い う 原 理 を 想 定 す る 考 え で あ り、 空 亦 復 空 と は こ の 空 見 を 排 斥 し た も の で あ る と い う。 同 ・ 前 掲 書 一 七 四 頁 参 照。 7 塩 入 良 道 助 教 授 ﹁ 三 諦 思 想 の 基 調 と し て の 仮 ﹂ ﹃ 印 度 学 仏 教 学 研 究 ﹄ 第 五 巻 第 二 号 一 -七 頁 参 照。 8 吉 蔵 ﹃ 中 観 論 疏 ﹄ 巻 第 二 末 ﹁ 次 斉 隠 士 周 顯 著 三 二 宗 論 一 一 不 空 仮 名、 二 空 仮 名、 三 仮 名 空、 不 空 仮 名 者 経 云、 色 空 者 此 是 空 二 無 性 実 一 故 言 レ 空 耳、 不 レ 空 二 於 仮 色 ↓ 以 二 空 無 性 実 一故 名 為 レ 空、 即 真 諦、 不 レ 空 二 於 仮 一故 名 二 世 諦 ↓ 晩 人 名 レ 此 為 二 鼠 楼 栗 義 二 ( 大 正 ・ 四 二 巻 ・ 二 九 頁 ・ 中 ) 9 智 顎 ﹃ 法 華 玄 義 ﹄ 巻 第 二 ・ 下 ﹁ 如 二 宝 性 論 云 一 羅 漢 支 仏 空 智、 於 二 如 来 身 一 本 所 レ 不 レ 見 ﹂ ( 大 正 ・ 三 三 巻 ・ 六 九 九 頁 ・ 下 ) 10 ﹃ 究 寛 一 乗 宝 性 論 ﹄ ﹁ 世 尊、 一 切 阿 羅 漢 辟 支 仏 空 智 者、 於 一 切 智 境 界 及 如 来 法 身、 本 所 不 見 ﹂ ( 大 正 ・ 三 一 ・ 八 二 九 ・ 中 ) ﹃ 勝 壼 経 ﹄ ( 大 正 一 二 巻 ・ 二 二 二 頁 ・ 上 ) 11 ﹃ 勝 髭 経 ﹄ ﹁ 世 尊、 有 二 種 如 来 蔵 空 智、 世 尊、 空 如 来 蔵 若 離 若 脱 若 異 一 切 煩 悩 蔵、 世 尊、 不 空 如 来 蔵 過 恒 沙 不 離 不 脱 不 異 不 思 議 仏 法 ﹂ ( 大 正 ・ 一 二 巻 ・ 二 二 一 頁 ・ 下 ) 12 灌 頂 ﹃ 浬 葉 経 疏 ﹄ 巻 第 一 八 ﹁ 大 品 云、 一 切 諸 法 悉 皆 是 空、 是 空 亦 空、 有 両 師 不 同、 一 云、 一 切 法 空 者 空 猶 未 妙、 今 更 将 空 来 空 此 空、 二 云、 不 爾、 前 一 切 法 己 是 妙 空、 今 空 亦 空 只 能 空 之 法 亦 空、 河 西 同 後 解、 故 云、 或 謂 万 法 錐 空 而 智 体 不 空、 遺 破 惑 情 故 日 空 空、 是 有 亦 空、 是 無 亦 空 ﹂ ( 大 正 ・ 三 八 巻 ・ 一 四 二 頁 ・ 中 )

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