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学位論文題名土壌生態系における温室効果ガスの発生に関する研究

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 澤 本 卓 治

     学位論文題名

土壌生態系における温室効果ガスの発生に関する研究

     ― と く に 森 林 土 壌 に お け る 土 壌 呼 吸 , および畑土壌におけるN20 生成と放出を中心として一

学位論文内容の要旨

  近年、 地球温 暖化の影響が指摘されている。しかしながら、様々な陸上生態系からの温暖化ガ ス発生 に関す る研究 事例の絶 対数は 不足し ており 、特に 陸上生 態系における温暖化ガス発生と 今後の炭素・窒素循環の変化が研究上の大きな課題となっている。

  このよ うな背 景の下 、本研 究では 人為の影 響によ って生 態系の炭素・窒素循環の変化が顕在 化する と思わ れるふたつの生態系―シベリアタイガおよび北海道の野菜畑―において、その生態 系にお ける温 室効果ガス発生に関する研究を行った。シベリアタイガ生態系は、陸上生態系の炭 素循環 に重要 な位置を占める。この生態系では、人為的な森林火災が頻発し、シベリアタイガの 破壊が 地球規 模の気候システム・炭素循環において極めて重要視されている。この地域において は、土 壌呼吸 のデー タが不足 してお り、森 林火災 が土壌 呼吸お よぴ生態系内の炭素循環に与え る影響 につい ては調査されていない。北海道灰色低地土タマネギ畑では、多量の施肥が行われ、

温室効 果ガス として 強い効果 のあるNっO発生 と硝酸 の溶脱 の問題が顕在化する可能性が高い。

したが って、 これらの生態系において土壌呼吸およぴNっO放出といった温室効果ガスの発生メカ ニズム、および炭素・窒素循環を明らかにする必要があると考えた。

  本研究は、このような生態系において、「現場における温室効果ガスの動態を定量的に測定し、

土壌からの温室効果ガス発生のメカニズムを解析すること」を目的とし、温室効果ガスを中心とした 生態系の炭素・窒素循環を明らかにすることとした。

1ガスフラックスの測定法

  これまで、チャンバー法は土壌から大気へのガスフラックスを測定する際に用いられ、拡散法は 土層中のガスフラックスを測定する際に用いられてきた。本研究では、チャンバー法と拡散法を用 いて、土壌から大気へのNっOおよびC02フラックスを同時に測定し、それらを比較した。その結果、

両方法によって、等しく定量的にフラックスが測定可能であることを確認し、以下、両方法を用いて ガスフラックスを測定した。

2シベリ アタイ ガにお ける森 林火災 が土壌呼 吸に与 える影 響

  森林火 災が頻 発するシベリアタイガにおいて、森林火災が土壌呼吸に与える影響を調査した。

有機物 分解量 (微生 物呼吸 量)を室 内培養 実験に よって 推定し た結果、火災後に有機物分解量 は増加 した。 しかし ながら、現場で測定した土壌呼吸は未撹乱の森林あるいは火災後再生した森     ‑ 926―

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林 におい て高かった。これらの地点において、土壌呼吸に対する根呼吸の寄与率を推定した。根 呼 吸の寄 与率は70%以上 であり 、土壌 呼吸の 変化は主 に根呼 吸の増減によって生じていると結 論 した。

3北海道 灰色低 地土タ マネギ 畑にお ける土 壌呼吸

  北海道 灰色低 地土タマネギ畑における土壌呼吸は、作物の成長と地温の上昇に伴って上昇し、

収穫後 には地 温の低下とともに低下した。土壌呼吸に対する根呼吸の寄与率は45%とシベリアタ イガに 比べて 有機物 分解が 盛んで あるこ とが示さ れた。

4両土壌植物系の炭素収支

  土 壌一植 物系が 大気か ら正味に 吸収す るC02量を推定した。その結果、シベリアタイガにおけ る 未撹乱 の森林は 大気から130gCIIl‑2 y‑1の炭素を吸収しているのに対し、火災によって森林が 焼失した地点では、逆に大気に90gCml.2y−1の炭素を放出していた。このようにシベリアタイガに おける森林火災は、森林を大気中のC02に対してシンクからソースヘ大きく変化させていた。灰色 低 地 土 タ マ ネ ギ 畑 で は 、 大 気 中 のCOっ を70gCm−2y‑'吸 収 し て い る と 見 積 ら れ た 。

5北海道灰色低地土タマネギ畑におけるN20発生量

  同じ灰色低地土タマネギ畑における、N20フラックスは、タマネギ生育後期で降水が大きく土壌 水 分が高 かった 夏から 秋にか けて上 昇した。これまで畑地からのN20フラックスは施肥直後の硝 化に伴って生じるものが多いといわれていたが、この結果はそれと異なっていた。タマネギ生育期 に おけるNっO放出 量は0.38〜0.78gNI11‑2であり、これは施肥窒素の1.1 ‑‑2.9%であった。この N20放出量の値は、これまでの測定事例の中でも極めて高かった。

  なお、同 タマネ ギ畑に 窒素施 肥の利 用効率 は半分 以下で あり、水圏へ施肥窒素の半分以上に 相 当する 窒素が 硝酸と して流 出し、 さらに地球温暖化に寄与するN20を大気圏に放出していた。

6同タマネギ畑におけるN20生成と放出のメカニズム

  同 タマネギ 畑において、さらに、下層土から作土へ流入するC02フラックスとN20フラックスを 比較したところ、N20フラックスは、硝酸溶脱が増加した後に上昇した。このことは、作土から粗孔 隙を 通して 溶脱し た硝酸 の一部 が土壌 粒団内 に拡散し 、粒団 内に発達した嫌気的部位において 脱窒 され、 その過 程でN20ガ スが生 成した と考え られる 。そのN20ガスがN2ガスまで還元される 以 前 に 、 粒 団 外 に 拡 散 し 、 粗 孔 隙 を 通 し て 大 気 ヘ 放 出 さ れ た と 推 察 し た 。

以上 のよう に、人為の影響による生態系内の炭素・窒素循環の変化が顕在化すると思われる生態 系に おいて 、土壌における温室効果ガスの動態を定量的に測定することによって、土壌からの温 室効果ガス発生のメカニズムを明らかにした。さらに、それらの生態系内の炭素・窒素循環から、森 林火 災は森 林を大気中のCOっに対してシンクからソースヘ大きく変化させ、農耕地においては大 気中 のCOっを 正味で 吸収し ている ものの、窒素利用効率が低く、系外に窒素負荷(NっO放出・硝 酸溶脱)を与えていることを明らかにした。今後、炭素・窒素循環の面からこれらの負荷を軽減する 対策を講じる必要がある。

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学位論文審査の要旨 主査   教授   波多野隆介 副査    教 授    但野利秋 副査    教 授    高橋邦秀

     学位論文題名

土壌生態系における温室効果ガスの発生に関する研究

     ― と く に 森 林 土 壌 に お け る 土 壌 呼 吸 , および畑土壌におけるN20 生成と放出を中心として―

  本 論文 は8章か らな り、 図32、表31、付表19、引用文献136を含む総頁数1ユ3の和文 論文である。他に参考論文6編が添えられている。

  近年人間活動のインパクトにより、産業革命以降とく に1975年以降には大気圏におけ る温暖化ガス濃度が急速に上昇しており、地球温暖化傾向が指摘されはじめ、人類の生存 基盤の不安定さが浮き彫りになりつっある。そのために人類は対策を講じようとしたが、

実態がわからないことに直面している。とくに陸域の温暖化ガスのソースおよびシンクは 土壌・植物生態系をめぐる炭素循環および窒素循環に深くかかわっており、野外における モニタリングによる実態解明が大きな課題となっている 。

  本論文は、人為の影響によって生態系の炭素・窒素循環の変化が顕在化すると思われる ふたつの生態系一シベリアタイガおよび北海道の野菜畑ーにおいて、温室効果ガス発生量 の 測 定 、 そ の 発 生 メ カ ニ ズ ム を 明 ら か に す る こ とを 目的 にし た研 究成 果で ある 。   シベリアタイガ生態系は、凍土とカラマツの相互作用のもと、乾燥地に大森林を作り出 している熱帯林に相当する10億haを有する地域であるが 、地球温暖化の影響を最も受け やすいこととともに、近年は人為的な森林火災の頻発により、炭素収支が負になっている かもしれないことが指摘され、にわかに注意を要する地域としてクローズアップされてき た地域である。

  一方、窒素化合物のうち亜酸化窒素は窒素施肥により多く発生する温暖化ガスであり、

二酸化炭素の150倍の温室効 果をもつ。欧米の畑作農業からの発生量が多く、水田湿地生 態系からはほとんど発生しなかった。しかし我が国では近年の水田転換に伴ない集約的野 菜栽培が増加し、また世界的にも食糧増産のための窒素肥料使用量の増加に伴ないその発 生量が増加することが懸念されているものである。

  以下に研究成果を要約する。

1ガスフラックスの測定法

  ガスフラックッス測定のために、チャンバー法と拡散法を比較した。チャンバー法は一 定時間、体積31Lのチャンバ ーを土壌表面に被せ、その内部のガス濃度変化を測定して求

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める。拡散法は、土壌のガス拡散係数とガス濃度勾配を測定しその積から求めるものであ る。 土壌か ら大気へのN20およぴC02フラックスを同時に測定しそれらを比較した。その 結果、両方法の測定値は統計的に差が無かった。以下、両方法を用いてガスフラックスを 測定した。

2シベリアタイガにおける森林火災が土壌呼吸に与える影響

  森林火災が頻発するシベリアタイガにおいて、森林火災が土壌呼吸に与える影響を調査 した。丶有機物分解量(微生物呼吸量)を室内培養実験によって推定した結果、火災後に有 機物分解量は増加した。しかしながら、現場で測定した土壌呼吸は未撹乱の森林あるいは 火災後再生した森林において高かった。これらの地点において、土壌呼吸に対する根呼吸 の寄与率を推定した。根呼吸の寄与率は70%以上であり、土壌呼吸の変化は主に根呼吸の 増減によって生じていると結論した。

3北海道灰色低地土タマネギ畑における土壌呼吸

  北海道灰色低地土タマネギ畑における土壌呼吸は、作物の成長と地温の上昇に伴って上 昇し、収穫後には地温の低下とともに低下した。土壌呼吸に対する根呼吸の寄与率は45% と シ ベ リ ア タ イ ガ に 比 べ て 有 機 物 分 解 が 癌 ん で あ る こ と が 示 さ れ た 。 4両土壌植物系の炭素収支

  土壌一植物系が大気から正味に吸収するC02量を推定した。その結果、シベリアタイガ における未撹乱の森林は大気から130gCIIl‑2y−1の炭素を吸収しているのに対し、火災に よって森林が焼失した地点では、逆に大気に90gCm・2y―1の炭素を放出していた。このよ うにシベリアタイガにおける森林火災は、森林を大気中のC02に対してシンクからソース ヘ大きく変化させていた。灰色低地土タマネギ畑では、大気中のC02を70gClIl‑2y一1吸収 していると見積られた。

5北海道灰色低地土タマネギ畑におけるN20発生量

  同じ灰色低地土タマネギ畑における、N20フラックスは、タマネギ生育後期で降水が大 きく土壌水分が高かった夏から秋にかけて上昇した。これまで畑地からのN20フラックス は施肥直後の硝化に伴って生じるものが多いといわれていたが、この結果はそれと異なっ ていた。タマネギ生育期におけるN20放出量はO.38‑‑‑0. 78gNm−2であり、これは施肥窒素 の1.1〜2.9%であった。このN20放出量の値は、これまでの測定事例の中でも極めて高か った。なお、同タマネギ畑に窒素施肥の利用効率は半分以下であり、水圏へ施肥窒素の半 分以上に相当する窒素が硝酸として流出し、さらに地球温暖化に寄与するN20を大気圏に 放出していた。

6同タマネギ畑におけるN20生成と放出のメカニズム

  同 タマネギ畑において、さらに、下層土から作土へ流入するC02フラックスとN20フラ ックスを比較したところ、N20フラックスは、硝酸溶脱が増加した後に上昇した。このこ とは、作土から粗孔隙を通して溶脱した硝酸の一部が土壌粒団内に拡散し、粒団内に発達 した嫌気的部位において脱窒され、その過程でN20ガスが生成したと考えられる。そのN20 ガスがN2ガスまで還元される以前に、粒団外に拡散し、粗孔隙を通して大気へ放出された と推察した。

  以上のように、土壌生態系を巡る炭素・窒素循環課程における温室効果ガスの動態を野 外において定量的に測定し、土壌からの温室効果ガス発生のメカニズムにも言及したもの であり、その成果は学術上高く評価される。よって審査員一同は、澤本卓治は博士(農学)

の学位をうけるのに十分な資格を有するものと認めた。

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