博 士 ( 農 学 ) 山 本 充
学 位 論 文 題 名
マクロ環境会計による経済社会の 持続可能性評価に関する実証研究
学位論文内容の要旨
1. 経済 活 動の 近 代 工業 化 とグ ロ ー バル化に 伴い環境 悪化は,地 域的な環 境汚 染から地球規模の環境破壊へと拡大している。こうした経済活動と環境悪化の連 鎖を断ち切り,生命の基盤である生態系の保全が緊急の課題となっている。このた め,経済社会の持続可能性を適切に評価できる環境指標と,その情報基盤となる マ クロ 環 境 会計 の 枠 組み を 実証 的 に 考察 す るこ と が 本論 文 の目 的である 。 経済主体 の経済活動 とその環境側面の相互関係を分析する手法として環境会 計が活用されている。その理論フレームワークは,基礎とする会計手法により2っに 大別される。1っは,国家レベルの会計である国民経済計算体系に基づくマクロ環 境会計である。もう1っは,企業会計に基づくミクロ環境会計である。前者は,生産 活動と消 費活動を包 括的に捉えるものであるのに対し,後者は生産活動面に重 点を置いている。これまで,経済社会の成長はGDPのような社会が生み出す付加 価値を成長の指標としてきた。しかし,こうした従来の指標は公害のように人間の福 祉・厚生からみて損失と考えられる事象の発生に関連する付加価値をも成長とみ なしている。そこで,人間の福祉・厚生を減退させる付加価値を控除した指標の構 築が試みられるようになった。これがいわゆるグリーンGDPの試みである。しかしなが ら,グリーンGDPの成長が環境保全を実現した総合的な指標となることに対しては 疑問視されている。それは,グリーンGDPが貨幣情報として提示されるカミ,環境は 市場で貨幣評価されていないことと,経済成長が環境負荷削減よりも大きい場合 でも指標は成長を示すという課題を抱えているからである。そこで,本論文では,グ リーンGDPのような環境と経済の両面を考慮した環境指標を導出するマクロ環境 会計の理 論フレーム ワークを地域経済や農林業に適用し,持続可能性を評価す る指標と理論フレームワークの適切性を考察して,上記の課題解決に向けたマクロ 環 境 会 計 の 理 論 フ レ ー ム ワ ー ク と 指 標 構 築 を 示 す も の で あ る 。 2. 第 1章 で は , 本 論 文 の 背 景 と 目 的 , 分 析 課 題 を 整 理 し て い る 。 第2章 で は ,環 境 会 計を 「 経済 と環 境の相互 関係を物 量情報およ び/また は 貨幣 情 報 とし て 定 量的 に 計測 ・ 整 理し て ,ス テ イ クホ ル ダー に伝達す る プ ロセ ス で ある 。 」 と定 義 し, そ の 目的 を 「そ の 会 計単 位 とス テイクホ ル ダ ーの 環 境 保全 活 動 を活 性 化さ せ , 経済 シ ステ ム 全 体の 環 境保 全機能を 高 め るこ と に 貢献 す る ため , 経済 と 環 境の 相 互関 係 に 関連 す る情 報を提供 す る こと 」 と した 。 ま た, 環 境会 計 を 会計 単 位と 取 り 扱う 環 境情 報による 分 類 を行 い 整 理し た 。 さら に ,貨 幣 勘 定を 中 心と す る 環境 経 済統 合会計( 以 下SEEAと 略 す ) と , 貨 幣 勘 定 と 物 的 勘 定 を 統 合 した ハ イ ブリ ッ ド 型環 境 会 計 に つ い て マ ク ロ 環 境 会 計 の 理 論 フ レ ー ム の 整 理 を 行 っ た 。 第3章 で は ,SEEAフ レ ー ム ワ ー ク を 適 用 し , 北 海 道 経 済 と そ の 廃 棄 物 処 理活 動 , わが 国 の 農林 業 部門 を 対 象と し たマ ク ロ 環境 会 計の 推計を行 っ
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明示するマテリアルフロー勘定を導入することで,さらに発展させること が可能であることも明らかとなった。
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学 位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 准教授
出村 長南 波多野 山本
学 位 論 文 題 名
克彦 史男 隆介 康貴
マク ロ環境会計による経済社会の 持 続可能性 評価に 関する実証研究
本 論 文 は6章 か らな り , 図10, 表43, 文献140を含 む 頁 数146の和 文 論 文で あ り ,別 に参 考論文17編が添え られて いる。
経済 活 動 の近 代工 業化と グローバ ル化に 伴い環境 悪化は ,地域的 な環境汚 染から 地球 規 模 の環 境 破 壊へ と拡大 している 。こう した経済 活動と環 境悪化 の連鎖を 断ち切 り,生 命 基 盤で あ る 生態 系の保 全が緊急 の課題 となって いる。1992年の環境 と開発 に関する 国 際 連 合会 議 で は, 持続可 能な発展 に向け た地球規 模での新 たなパ ートナー シップ の構築 に 向 けり オ 宣 言や アジェ ンダ21など の合意 がなされ た。ア ジェンダ21では持 続可能な 発 展 の 進捗 状 況 を把 握 す るた め の 環 境指 標 の 導出 が 可 能な 環 境 と経 済 を統 合する マクロ 環 境 会計 の 構 築す る必要 性が記さ れてお り,その 開発が進 められ ている。1993年の国 民 経 済 計算 体 系(SNA:System of National Accounting)の 改 訂 では サ テラ イト勘定 とし て 環 境 経 済 統 合 会 計(SEEA:System for integrated Environmental and Economic Accounting)の 枠 組 み が 示 さ れ , そ の 後 , 各 国 の 研 究 ・ 試 算 状 況 に 基 づ き 改 訂 版 (SEEA2003) も 示 さ れて い る が, そ の 枠組 み と 総 合的 な 指 標に っ い ての 確 立 は未 だ な さ れ てお ら ず ,マ クロ環 境会計の 枠組み と持続可 能性を表 す環境 指標の開 発が急 務とな って いる。
本研 究 の 課題 は, 経済社 会の持続 可能性 を適切に 評価で きる環境 指標と, その情 報基 盤 と な る マ ク ロ 環 境 会 計 の 枠 組 み を 実 証 的 に 考 察 す る こ と で あ る 。 第2章 で は, 環 境 会計 の 定 義 と目 的 の 明確 化と会 計単位 と分析領 域による 分類整 理を 行 っ てい る 。 また ,経済 的効用と 環境的 不効用の 分離を示 すデカ ップリン グ指標 と環境 効 率 性 指 標 の 関 係 を 整 理 し て い る 。 さ ら に , 環境 を 貨 幣 評価 す るSEEAと,SEEA2003 の 中 心 的 枠 組 み で 物 的 環 境 勘 定 を 適 用 す る 環 境 勘 定 を 含 む 国 民 会 計 行 列(NAMEA: National Accounting Matrix including Environmental Accounts)の2つの 理論的枠組み につ いて試 算例を用 いて分析 ・整理 している 。
第3章 で は ,SEEAの 枠組 み を 適用 し , 北海 道 を 対 象と し た 北海 道SEEAの 推計 , そ の
サブ勘定である北海道廃棄物勘定の推計,および農業由来の廃棄物を対象とした農業廃 棄物勘定の推計を行っている。その結果,SEEAの枠組みは環境コスト指標の導出には 有用であるが,環境効率性の評価など環境と経済の相互関係を分析するには物的環境勘 定 と 貨 幣 的 経 済 勘 定 の 統 合 が 有 用 で あ る こ と を 明 ら か に し て い る 。 第4章で は,SNAの生 産境 界の 拡張に よるSEEA枠組 みの 改良 を行いSEEAの発展型 を開発し,農林業の環境便益をSEEAの枠組みに導入した特化型マクロ環境会計を推計 している。その結果,農林業が社会全体に与える外部経済効果としては国土保全や温室 効果ガスの吸収等の面で大きく社会貢献しているが,持続可能性確保には大気汚染や水 質汚 濁の環境側面でさらなる環境負荷抑制が必要であることを明らかにしている。
第5章では,NAMEAを原型としたハイブリッド型環境会計の枠組みの適用と,エコ ロジカル・フットプリント(EF: Ecological Footprint)指標の導出による持続可能性指 標の考察を行っている。北海道を対象とした推計からは,EF指標により推計時点の北海 道経済が持続不可能な状態にあるが,デカップリング指標より北海道経済が持続可能な 方向へと進捗していることを明らかにしている。また,北海道農業を対象とした推計か らは,北海道農業の環境便益が経済社会のEFを縮小させる効果は大きいが,経済の低迷 から 北海 道農 業は デカ ップ リン グが実 現で きて いな いこ とを 明らかにしている。
第6章では,SEEAのような環境の貨幣評価に基づく枠組みとグリーンGDP指標が環 境コスト指標の導出面では有用であるが弱い持続可能性指標となることを指摘し,経済 社会の総合的な強い持続可能性指標としてはEFが有用であること,これを導出するマク ロ環境会計の枠組みとしてはハイブリッド型の枠組みが有用であると結論づけている。
以上のように,本研究は,マクロ環境会計の理論的枠組みと持続可能性指標の導出を 環境経済学およぴエコロジカル経済学的見地から分析したものである。本研究は,マク ロ環境会計の枠組み内で経済社会の経済面と環境面の統合を行い,その相互関係を包括 的に明らかにしている点で高く評価できる。また,本研究の分析結果は経済社会の持続 可能性実現の進捗状況を確認し,環境効率性改善をすすめて行く上での基礎的知見とし ても有用である。
よって,審査員一同は,山本充が博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格を有す るものと認めた。
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