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RIETI - 財政問題のストック分析:将来世代の負担の観点から

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RIETI Discussion Paper Series 04-J-019

財政問題のストック分析:

将来世代の負担の観点から

高橋 洋一

経済産業研究所

独立行政法人経済産業研究所 http://www.rieti.go.jp/jp/

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RIETI Discussion Paper Series 04-J-019

2004 年 3 月

財政問題のストック分析:将来世代の負担の観点から

高橋洋一* 要 旨 公 的 年 金 や公 共 投 資 などの多 くの政 策 は、将 来 の複 数 年 度 に及 ぶ効 果 を分 析 するこ とが政 策 決 定 に重 要 である。このような長 期 分 析 を可 能 にするために、将 来 補 助 金 を含 む財 政 ストック・データをバランスシートで表 す手 法 を提 示 し、公 的 年 金 問 題 と道 路 公 団 問題という現在直面している問題に適用する。 公 的 年 金 について、今 回 の改 正 でマクロスライド方 式 の導 入 によって維 持 可 能 性 に一 定の改善がみられ、債務超過額は約800兆円から約600兆円へと減少している。保険料 方 式 か税 方 式 という議 論 には意 味 がなく、社 会 保 険 庁 は税 務 当 局 と統 合 することが望 ま しい。なお、改 善 したとはいえ依 然 として維 持 可 能 性 は盤 石 ではなく、債 務 超 過 額 の対 G DP比は、アメリカで0.4%であるが、日本で1.2%である。 道 路 関 係 4公 団 は債 務 超 過 ではない。ちなみに道 路 公 団 で3∼5兆 円 の資 産 超 過 で ある。このため、これら4公 団 は国 民 負 担 なしで民 営 化 できる。また、それらの大 きな債 務 が問 題 とされるが、見 合 いの資 産 をもつので、債務 のカットだけを行 うべきでない。高速 道 路 で問 題 であるのは、その高 い高 速通 行 料 金 であり、それらを引 き下げることに民 営化 の 意味がある。 キーワード:バランスシート、政策コスト、行政コスト、公的年 金 の持続可能 性、自主運 用、 道路公団、民営化 JEL classification: H54、H55 *独 立 行 政 法 人 経 済 産 業 研 究 所 コンサルティングフェロー(E-mail: [email protected]) 本 稿 は、高 橋 洋 一 が独 立 行 政 法 人 経 済 産 業 研 究 所 コンサルティングフェローとして、2001 年 4月 から 開 始 した研 究 プロジェクトの成 果 の一 部 である。本 稿 を作 成 するに当 たっては、経 済 産 業 研 究 所 の同 僚 の方 々から多 くの有 益 なコメントを頂 いた。本 稿 の内 容 や意 見 は、筆 者 個 人 に属 し、筆 者 の属 する組 織 および経 済 産 業 研 究 所 の公 式 見 解 を示 すものではない。

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財政問題のストック分析:将来世代の負担の観点から

経済産業研究所 コンサルティングフェロー 高橋洋一 1.はじめに ・複数年度分析の必要性 ・社会保障制度と将来世代の負担 ・公共財のファイナンスのあり方 2.現状 (1)公的活動を監視する公会計の重要性 ・国のバランスシート ・行政コスト(特殊法人) ・政策コスト分析(財政投融資対象事業) (2)行政コストと政策コスト分析 3.理論的検討 (1)構成 (2)ストック分析の類型 ・資産の見方 ・負担とコストの発生主義的な比較 ・政策評価を通じた政策のパフォーマンスを計測 ・政府の債務償還能力の分析 4.具体例 (1) 公的年金の維持可能性 ・公的年金の実態 ・年金バランスシート ・二つの基準による積立不足額 ・日本の公的年金の財政状況はアメリカよりも悪い ・国債よりも将来負担になる年金債務 ・社会保険方式と税方式 ・社会保険料の法的性格 ・年金積立金運用の問題 ・2000年年金改正の評価 ・2004年年金改正の評価 (2)道路公団民営化 ・2001年整理合理化計画 ・2002年民営化委意見書 ・2002年民営化委最終報告の評価 ・道路4公団は債務超過か

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・国民負担はあるのか ・もっと高速通行料金は下げられる ・2003年政府与党申し合わせの評価 5.結論 ・公的年金と道路民営化の検討 ・基礎データの公開、客観的な機関での分析 ・政策コスト分析の対象拡大と個別政策への適用

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1. はじめに 日本の公的活動について、厳しい批判が続いている。最近においても、1996年、行政改革会議が設 置され、2001年の中央省庁改革へとつながっている。その中で、改革のために、公的活動のパフォーマ ンスを計 るべく行 政 評 価 の手 法 が提 唱 ・導 入 されているが、それらが行 政 改 革 のために具 体 的 にどのよ うな役割を果 たしているのか、必ずしも明らかでない。特に、財 務テータに基づき公 的 活動を評 価 する際 に、日 本 の予 算 及 び決 算 では、現 実 問 題 として単 年 度 収 支 に焦 点 があてられているために、本 来 中 長 期的な視点で行われるべき政策について判断材料を提供しにくく、事後成果も見にくいという面がある。 このため、2001年 から、特 殊 法 人 に対 して、民 間 企 業 会 計 ベースの財 務 諸 表 と行 政 コスト計 算 書 を 中 心 とした財 務 報 告 書 が作 られることとになった。また、2000年 から、国 に対 して、バランスシートが作 ら れている。 ところが、公 的 年 金 や公 共 投 資 などの多 くの政 策 は、将 来 の複 数 年 度 に及 ぶ効 果 を分 析 することが 政 策 決 定 に重 要 である。例 えば、民 間 企 業 会 計 ベースの財務 諸 表 は基 本 的 には過 去 情 報 に基 づいて おり、また行政コストは単年度ベースであるので、現状の財務データでは十分な経済分析はできない。公 的年金の運営では、将来給付と将来保険料がどうなるかが公的年金を維持できるかどうかに重要である。 本 来 であれば、年 金 制 度 設 計 にあたり、将 来 給 付 と将 来 保 険 料 を現 在 価 値 ベースで把 握 できるバラン スシートが必 要であるが、厚生年金 保 険特別会 計 には複式簿 記に基づくバランスシートは存在せず、十 分 な情 報 を入 手 するのが困 難 である。また、公 的 投 資 を行 うかどうかの判 断 基 準 は、投 資 に伴 う限 界 的 な社会的便益と社会的な費用の比較検討であり、これらは将来におけるキャッシュフローから算出される 現在価値であるので、当然に単年度ではなく複数年度の分析が必要になってくる。 そこで、このような長 期分析 を可 能にするために、将 来 補 助 金を含 む財 政ストック・データをバランスシ ートで表 す手 法 を提 示 し、公 的 年 金 問 題 と道 路 公 団 問 題 という現 在 直 面 している問 題 に適 用 し、具 体 的な提言をしたい。ここで、検討の対象とするのは、公的 活動は主に国及び特 殊 法人で行われているの で、国(一般会計と特別会計)と特殊法人の予算及び決算に関する財務データである1 現 状 のバランスシートは、政 府 活 動 を総 覧 する手 段 であり、基 本 的 には過 去 情 報 に依 存 するものであ るので、特定 の目的をもつ複数年度 に及ぶ政策 の分析には使いにくい。このために、特定の目 的 に応じ て加工する作業が必要になる。具体的には、バランスシートを分解し、個別政策に応じたものを作ることと し、資 産 ・負 債 について将 来 キャッシュフローを含 むものに修 正 することである。これを「ストック分 析 」(ま たはバランスシート・アプローチ)と呼びたい。 2. 現状 複 数 年 度 にわたる経 済 分 析 では、単 年 度 フロー・データではなくストック・データが必 要 である。しかし、 現状では、個別政策を分析するためにバランスシートなどの財務データがないなどの問題が多い。 (1)公的活動を監視する公会計の重要性 経 済 分 析 を行 い適 切 な経 済 政 策 を実 施 すためには、公 会 計 制 度 が十 分 に機 能 していることが前 提 1 ここで検討する手法は地方公共団体や第三セクターなどにも応用できる。

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条件である。政策は政治 プロセスを経 て決定されるために、国 民に対 して十分な情 報 提供が求められて いる。国民 の投票 による政治 プロセスでは、いわゆる財政 錯 覚や情報 の非対 称性 により歳 出拡 大・財政 赤 字 の拡 大 の傾 向 になるといわれている。こうした観 点 から見 ると、財 政 の透 明 性 を確 保 し財 政 規 律 を 機能させるために、公会計制度は必須なものである。 最 近 、日 本 においても、諸 外 国 のようなニュー・パブリック・マネージメントの理 論 に基 づき、行 政 コスト の適正 な把 握によって行政の効率 化を図り財 政に対 するアカウンタビリティーを高 めようとしている。それ を背景として、近年 、複 数 年度にわたる経済分 析 の基礎 となりうるバランスシート、行政 コストと政 策 コスト が整備されつつある。 ・国のバランスシート 2000年10月、「国の貸 借対 照表(試案)」が作 成・公 表された。貸 借 対 照表(バランスシート)とは、財 務の状況を明らかにするためにすべての資産・負債などをまとめて一表としたものであり、公表された国の バランスシートには、 ① 一 般 会 計 と各 特 別 会 計 を連 結 した貸 借 対 照 表 を作 成 することにより国 (政 府 )全 体 の財 政 状 況 を示 すことができる。 ② 国の資産・負債に関する各報告書のストック情報を統合することにより、その全体像を把握できる。 ③ 公 共 用財 産 等 、従来 報 告 の対象 外 とされていた情 報 を新 たに作成し、貸 借 対照 表 の形 で一 体 的 に 説明することができる。 ④ 未 収 収 益 ・前 受 収 益 、減 価 償 却 後 の資 産 額 、退 職 給 与 引 当 金 等 、企 業 会 計 における期 間 損 益 計 算のための手法を考慮した資産・負債情報を国の財政状況に関する新たな情報として提供することがで きる。 といった特徴をもっている。 また、この結 果、国の資 産・負債に係る各種の情報について、一覧 性 のある形で説明をすることができ るようになり、単 なる財 政 状 況 の説 明 にとどまらず、国 の広 範 な活 動 の全 貌 を俯 瞰 する手 がかりをも与 え ることになる。2002年9月には、国と特殊法人を連結したバランスシートも公表されている。 しかしながら、国 と民 間 企 業 ではその目 的 などが異 なり、特 に資 産 と負 債 の差 額 の意 味 合 いなど国 の 貸 借 対 照 表 の役 割 や内 容 は民 間 企 業 の貸 借 対 照 表 とは異 なる。国 は営 利 活 動 により利 潤 を得 ることを 目的としているわけではなく、また、企業のように倒産処理手続によって財産を清算することが予定されて いるわけではない。また、国の活動は外部経済性 を有していることから、それを含めて国の収益を数量的 に把 握 することは困 難 であること、また、国 の活 動 は収 益 獲 得 を目 的 としておらず、種 々の観 点 から国 会 によって予 算 という形 式 で資 源 の配 分 が決 定 されるので費 用 と収 益 の対 応 関 係 が基 本 的 に存 在 しない こと等 から、国 の活 動 について企 業 会 計 における費 用 収 益 対 応 の原 則 により費 用 を把 握 することもでき ない。 ・行政コスト(特殊法人) 2001年 6月 、財 政 制 度 等 審 議 会 財 政 制 度 分 科 会 の法 制 ・公 企 業 会 計 部 会 公 企 業 会 計 小 委 員 会 により「特殊法人等に係る民間企業と同様の会計処理による財務諸表の作成と行政コストの開示につい て」が公表され、行政コスト計算書を中心とした財務報告書が作られることとになった。これらの財務報告 書 は、予 算 統 制 を確 保 するための現 行 の決 算 書 類 に付 加 して作 成 されるものであり、①民 間 企 業 会 計 原 則 が統 一 的 に適 用 される結 果 、特 殊 法 人 等 の財 務 状 況 及 び業 務 運 営 状 況 等 が網 羅 的 かつ、統 一

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的な尺度で示されることとなり、法人間の比較検討が可能となる。②将来の国民負担に帰する行政コスト を明 らかにするため、企 業 会 計 原 則 では要 請 されない機 会 費 用 についても計 算 表 示 される等 の特 色 が あることから、国 民 にとって重 要 な情 報 をわかりやすく提 供 することが期 待 できる。特 殊 法 人 改 革 を巡 る 議論にも大きく貢献するだろう。 また、日本においては、2001年1月から、政策評価を導入しているが、「評価結果をできる限り予算編 成 の過 程 においても活 用 する必 要 がある」とされており、行 政 評 価 と予 算 を関 係 付 けるものとして、行 政 コストの役割が重要となるだろう。 というのは、行政コストが的確に把握できれば、財政の透明性が増し、 行政サービスに対して将来発生する国民負担をも考慮した意思決定が可能となるからである。 また、予 算の配分においても、行政コストを考慮すれば、より適正な配 分が可能となるだろう。 例えば、英 国にお いて2001年度より導入される資源予算(resource budgeting)では、こうしたメリットが強調されている。 具 体 的 な行 政 コストは次 のように算 出 される。まず、現 行 の貸 借 対 照 表 、損 益 計 算 書 について、企 業 会計原 則に準拠した会 計処理 に則 って修正を行い、仮 定 貸借対 照表 、仮定 損益 計算書 等を作成する。 次 に、仮 定 損 益 計 算 書 に計 上 された費 用 (損 失)から、手 数 料 収 入 等 の特 殊 法 人 等 の自 己 収 入 を控除 し、これに政府出資や政府からの無利子貸付金、国有財産の無償使用等に係る機会費用を加算して、 行政コストを算出する。 こうして、国民 の将 来 の負 担 や内 在 的 な損 失 等 を含 め国 民の負 担 を明確 にするとともに、国 からの出 資金や無利子貸付金等に係る機会費用を認識することにより、現在の時 点において認識すべき特殊法 人 等 の公 的 業 務 に要 する実 質 的 な国 民 負 担 額 が明 らかになる。これら公 的 業 務 の行 政 コストと対 応 す るベネフィットとの比較を検討すれば、その公的業務の政策評価等の議論にも役立つだろう。 ・政策コスト(財政投融資対象事業) 1999年 8月 、財 投 改 革 の一 環 として政 策 コスト分 析 は導 入 された。この分 析 は、アメリカの連 邦 信 用 プログラム(Federal Credit Program)において1992年から実施されている手法にならったものだ。つまり、 事業に必要な将来の(ネットの)補助金の総額を割引現在価値として算出するものである。もちろん、誰も 将来の補助金を確定できないが、推計はできる。政策コスト分析の結果、将来補助金がマイナスとなる事 業は民間でも実施できる可能性がある。

政策コスト分析を継続的に実施し、その結果を公表することは、財投機関の規律づけに大いに貢献す るだろう。なぜなら、長期間にわたり必要な補助金額を隠し通すことは困難である。

また、政策コスト分析は、財投機関のキャッシュフローデータ(cash flow data)に基づいて行われている。 財 投 システムを使 うと、財 投 機 関 のキャッシュフローをモニタリング(monitoring)することが可 能 である。財 投 システムは財 投 機 関 と資 金 取 引 を常 に行 っているので、民 間 企 業 に対 するメインバンクと同 じような存 在 である。したがって、モニタリングできる理 由 は、メインバンクが取 引 先 企 業 の資 金 繰 りをみながら、キャ ッシュフロー情報を入手できる理由と同じである。 また、財投システムでは財投機関の資金使途をモニタリングできる。コーポレート・ガバナンスの一般理論 として、企 業 のキャッシュフローを管 理 し、その資 金 使 途 に制 限 を加 えることがガバナンスの一 つとして有 効であるといわれている。財投システムにおいても、その手法は利用できる。 さらに、政 策 コスト分 析 に用 いられたデータを活 用 すれば、財 投 機 関 の時 価 価 値 ベースでのバランス シートが作成できる。これらのデータは、将来の戦略的な民営化に不可欠なデータになるだろう。 (2)行政コストと政策コスト分析

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民間企業会計については、経営内容をわかりやすい形で見るための有効な手法である。 民間 企業 会 計と特殊 法 人会 計との差異 には、主要なものとしては資 産 の減 価償 却 方法 の違いによる 償 却 不 足 、貸 倒 引 当 金 の計 上 の差 による引 当 不 足 などがある。行 政 コスト計 算 書 による欠 損 額 と特 殊 法 人 会 計 による欠 損 額 の差 は、ほとんど減 価 償 却 不 足 と貸 倒 引 当 金 不 足 によって説 明 することができ る。 なお、民間企業会計では、今後も事業を継続して行う特殊法人の運営について国民負担を把握する には、長期にわたるキャッシュフローは考えない(将来キャッシュフローはあまり考えない)、負債の実質評 価 は行 わない(負 債 は法 的 には額 面 取 引 )、会 計 手 法 により評 価 が異 なる(特 に税 務 会 計 )、資 産 の評 価増は行わない(会計の保守性)などの不十分な点もある。 行 政 コストは会 計 的 な観 点 から単 年 度 に絞 ってコストを把 握 するので、確 定 した事 象 に基 づき算 出 さ れた数字には安定度がある。ところが、公的投 資の判断にはそれだけでは十分ではない。投資について は、官 民を問 わず将 来のリスクを見込 む必 要 があるからだ。この点 で、社会 的 便 益 と社 会 的 費 用の比 較 検討を実務的に行うためには、将来キャッシュフローによる費用便益分析も必要になる2 会 計 学 的 な行 政 コストと経 済 学 的 な便 益 費 用 比 率 との間 の溝 は大 きい。しかし、両 者 の中 間 的 な性 格を持つ政策コストがある。

政策コスト分析は、アメリカの連邦信用プログラム(Federal Credit Program)において1992年から実施 されている時価主義的な考え方による将来キャッシュフローに基づく分析手法であり、日本においても財 投 改 革 の一 環 として1999年 度 から実 施 されている。つまり、政 策 コストとは財 政 投 融 資 を活 用 している 事 業 の実 施 に伴 い、今 後 当 該 事 業 が終 了 するまでの間 に国 (一 般 会 計 等 )からの投 入 が見 込 まれる補 助 金 等 の総 額 を、割 引 現 在 価 値 として、一 定 の前 提 条 件 に基 づいて仮 定 計 算 したものであり、事 業 に 必 要 な将 来 の(ネットの)国 民 負 担 総 額 の割 引 現 在 価 値 である。もちろん、誰 も将 来 の補 助 金 を確 定 で きないが、一 定 の前 提 の下 で推 計 はできる。その前 提 が確 実 でなければ、前 提 自 体 を変 化 させて分 析 (感 応 度 分 析 )することさえ可 能 である。政 策 コスト分 析 の結 果 、将 来 補 助 金 がマイナスとなる事 業 は民 間 でも実 施できる可 能性 がある。つまり、政 策 コストは、ここでの「国 民負 担 」を表 している。なお、事 業 終 了 までの間 、どのような会 計 手 法 (特 殊 法 人 会 計 、民 間 企 業 会 計 )であっても、「政 策 コスト」は同 じであ 2実 務 上 では、費 用 便 益 分 析 においても便 益 の貨 幣 化 が困 難 な場 合 があるなど問 題 点 は多 い。そのた め、欧米先進国における公的投資の判断に、 ①費用便益分析(Cost Benefit Analysis)の他に、

②費 用 効 果 分 析 (Cost-Effectiveness Analysis):貨 幣 化 できない便 益 を目 標 の達 成 度 という物 理 量 で 表し、 費用当たりの効果を評価する手法。

③プランニング・バランスシート法(Planning Balance Sheet Method):代替案ごとに利害関係者を拾い出 すとともに、プロジェクトの効果についてできるだけ詳細に把握し、それらの利得・揖失を評価する手法。 ④トレード・オフ分析(Trade-Off Analysis):あらかじめ設定された同一の目的集合のもとで、プロジェクト 案が他の代替計画案より優れているかどうかを評価する手法。

⑤多基 準分 析(Multi Criteria Method):プロジェクトの評 価項 目に対 して相対的 重要 度を示すウェイト を与えて、社会的便益と社会的費用を比較検討する手法

が併用されていることが多い。

なお、公的投資では、プロジェクト期間が長いために、その間環境変化などの各種の不確実性が存在す る。こうしたリスクに対応するために、金融分野でのオプション理論を適用したリアル・オプション手法を用 いて、社会資本整備の時間管理として、着手、休止、再開、中止を行おうとする考え方もある。

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る。減 価 償 却 不 足 はその後 資 産 がなくなる過 程で考 慮 され、貸 出 金 の引 当 不 足 も将 来 キャッシュフロー として把握される。政策コスト分析を継続的に実施 し、その結果 を公表することは、特殊法人の規律づけ にも大いに貢献するだろう。 ただし、コスト分 析 の問 題 として、適 用 範 囲 がある。つまり、地 方 公 共 団 体 、財 投 改 革 によって財 投 外 になった特殊法人(簡易保険福祉事業団、年金福祉事業団の財テク)は適用されない(なお、政府保証 をすべて対象とすべきとか一般公共事業も対象にすべきとの意見もある)。また、過去に国民負担になっ た額 が分 析 できないという点 も留 意 すべきである。さらに、政 策 コストは将 来 キャッシュフローに依 存 する ので、需要見通しの的確性もチェックしなければならない(例えば、道路建設の前提になっている交通需 要予測には、大きな問題があった。『週刊エコノミスト』2002年10月29日号 参照)。 いずれにしても、これら特 殊 法 人 会 計 、行 政 コスト計 算 書 及 び政 策 コストの情 報 を有 機 的 に組 み合 わ せれば、特 殊法人 等が担っている政策を分 析 することが可 能となり、特 殊法人 改革 を議論するにも有 益 だろう。これらの情報は相互補完的であるので、その十分な活用が望ましい。 表 特殊法人会計、行政コスト計算書、政策コストと便益対費用比率の概念比較 特殊法人会計 行政コスト計算書 政策コスト (参 考 )便 益 対 費 用 比率 情報 バランスシートと 損益計算書 費用 (国民負担) 費用 (国民負担) 便益と費用 (費 用 は建 設 費 と維 持管理費) 特徴 減 価 償 却 不 足 と 貸 倒 引 当 金 不足 減 価 償 却 不 足 と 貸 倒 引 当 金 不 足 の補正 減 価 償 却 不 足 と 貸 倒 引 当 金 不 足 は考 慮 済 み 減 価 償 却 不 足 と 貸 倒 引 当 金 不 足 は 考 慮済み 分析対象 特殊法人等 特殊法人等 特殊法人等のうち 財投対象事業 年 金 資 金 運 用 基 金 や 簡 易 保 険 福 祉 事 業 団 の財テク事業は含まな い 新 規 公 共 事 業 プ ロ ジェクト 計算方法 現金ベース 資産評価等 将 来 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー 分析 将 来 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー分析 数 値 の 安 定度 大 資 産 評 価 方 法 に 依存 計算前提に依存 計算前提に依存 算出根拠 過去データ 過去データ 将来キャッシュフロー 将 来 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー 3.理論的検討 (1)構成 以上のような現状の分析とストック分析は次のように整理できる。 -民間企業会計

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-公会計 -行政コスト分析(過去データのみ) -国のバランスシート -行政コスト計算書 -政策コスト分析(将来キャッシュフローを含む) -財投対象事業の政策コスト分析 -「ストック分析」 -公的年金問題(年金バランスシート) -道路公団問題 (2)ストック分析の類型 2001年 3月 末 現 在 の国 のバランスシートをみると、公 的 年 金 を考 えなければ、負 債 の多 くには、民 間 保 有 公 債 ・政 府 短 期 証 券 、郵 便 貯 金 、保 険 準 備 金 である。しかも、このうち、郵 便 貯 金 、保 険 準 備 金 は、 2003年4月以降、郵政公社の負債になっており、別に検討することが必要である。民 間保有公債・政府 短期証券については、確定した将来キャッシュフロー(・アウト)を持っており、比較的分析は容易である。 このため、資 産・負債 についての修 正といっても、公 的年金 を分析 対象 としないかぎり、資産の修 正のみ を考えれば十分であろう。 資産の修正には、次の3通りが考えられる3 ①負担とコストの発生主義的な比較(世代間の財政負担の移転) ②政策評価を通じた政策のパフォーマンスを計測 ③政府の債務償還能力の分析 ①負担とコストの発生主義的な比較(世代間の財政負担の移転) 資産を時価評価ベースで再評価する。 減価償却を実態(経済的価値)にあわせて行い、それと負債 の償還ルールが同じであれば、資 産と負 債は同じペースで減少していくので、差額(国民の負担・ギフト)が発生しない。これは世代間での負担と コストが均 衡 している意 味 になる。逆 に、資 産 と負 債 の差 額 があれば、将 来 の国 民 負 担 (ギフト)と考 える ことができる。 資 産 (時価評価ベース) 負 債 差 額 (世代間の負担転嫁) ここで、国 民 負 担 とは何 か。例 えば、財 投 の場 合 、政 策 として行 う国 の事 業 であるので、その収 入 によ り費用が賄えるものは原則として存在しない。もしそのような事業であれば、民間に行うことが可能であり、 民 間 に委 ねることができるからだ。そこで、事 業 の採 算 性 を確 保 するために、補 給 金 などの財 政 措 置 が 必要になってくる。単純化していえば、財投事業では、 収入+補助金等=支出 ・・・(1) となっている。 財 投 の国 民 負 担 という場 合 、この補 助 金 がイメージされる。しかし、財 投 事 業 は長 期 にわたって行 われ 3 小西左千夫[2003] 「政府のバランスシートから財政運営に必要な情報を読みとる」を参照。

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るために単 年 度 の補 助 金 額 は不 十 分 である。ある年 度 以 降 、新 規 事 業 を行 わないとした場 合 、今 の事 業の最 終年 度まで、(1)が成り立つが、それらの割引現 在価 値の総 額を財投の国民 負担と考えることが できる。したがって、(1)における補助金等の割引現在価値の総額を財投の国民負担としよう。 これを別の観点から見ると、 国民負担=支出の現在価値の総和-収入の現在価値の総和 ・・・(2) となるが、右辺 は貸 借 対照 表 の負 債 ・資 本 の実質 価 値 から資 産 の実 質 価 値 を減 じた額 と見 ることができ る4 このため、財投の国民負担の算出方法としては、補助金の将来キャッシュフローから算出する方法と現 在 の貸 借 対 照 表 から実 質 的 な債 務 超 過 額 を算 出 する方 法 がある。前 者 が政 策 コスト分 析 による政 策 コ スト、後者は企業会計を利用し資産を時価評価ベースで再評価する貸借対照表を変える評価手法であ る。方法論として見れば、両者の方法による資産負債差額は一致し、国民負担であると考えることができ る5 この考 え方 によって、国 の一 般 的 な財 政 状 況 を見 れば、赤 字 国 債 があることなどから、国 の資 産 負 債 差額はマイナスであり、現役世代から将来世代に負担を先送りしていることを意味している。 ②政策評価を通じた政策のパフォーマンスを計測 受 益 と負 担 という観 点 から分 析 しようとすれば、資 産 を取 得 価 格 や時 価 評 価 ベースではなく、その価 値 を政 策 評 価 の考 え方 に基 づいて評 価 し、金 銭 換 算 する必 要 がある。具 体 的 には、インフラ資 産 が生 み出 すサービスに対 するシャドープライスを推 定 し、それをもとに収 益 還 元 によって資 産 価 値 を割 り出 す (例えば、図書館ならば、利用者がその図書館に払ってもよい考える入場料=シャドープライス)。 この場合 、資 産負債 差額 は国民・住 民の純 満足 の大きさと考 えることができる。もしこれが計 測可 能な ら、大きくなるように、政策を運営することになることが望まれ、きわめて包括的な政府活動への評価手 段 となるだろう。 資 産 (公共サービスの価値に基づいて資産評価) 負 債 差 額 (国民・住民の純満足の大きさ) しかしながら、このような試 みは、限 定 されたサービスに関 しては可 能 であっても、政 府 の政 策 全 体 に 対して行 うことは不 可能 である。しかも、シャドープライスが計 測できるような行 政サービスであれば、民 間 で行える可能性があり、そもそも政府活動として適当かどうかという問題がある。 ③政府の債務償還能力の分析 公債の信用は、将来の租税収入が根拠であり、政府が所有しているインフラ資産の価値ではない。政 府の負債に対応する資産は、課税権という資産であり、過去 に建設されたインフラ資産と考えるべきでな いとも考えられる。少なくとも換金不可能な資産は負債と相殺できない。 資 産 (償還財源の将来フローの現在価値) 4 この考え方は、実際の会計実務から違和感があるかもしれない。というのは、一般的に企業会計は貨 幣価値一定の公準を前提としており、そのもとでの純資産(債務超過を含む)は分配可能額や清算価値 を表すものとされ、将来のキャッシュフローの現在価値を表すものとはなっていないからである。ここで述 べているのは、あくまで計算上の考え方である。 5 議論を簡単にするために、政府からの資本を考えていない。

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純負債 (包括的に定義された負債から、厳密に算定した換金可能な資産額を引いたもの) 差 額 (償還能力の程度) 政府全体 のバランスシートを利用する場合には、一つの考え方である。償 還財源をどのように定義 する かという問題があるが、 償還財源/金利>純負債 で あ れ ば 、 債 務 償 還 能 力 が あ る と い え る 。 純 負 債/償還財源は、国債残高/GDPと相関がある と思われるので、国債残高/GDPが一定以下なら債務償還能力とみなすという古典的な分析と 大差がないともいえる。いずれにしても、個別政策を議論するためには、必要ではなく、大雑 把な債務償還可能性をつかめるにすぎない。 以 上①から③までの考 え方 がありうるが、本 稿でのストック分 析では、個 別政 策を取 り上げることや計算 の簡便性を考慮して、基 本的には①に従うこととしたい。ただし、①の考 え方は負債を時価評価しないが、 ストック分 析 では、負 債 も時 価 評 価 したい6。特 に、公 的 年 金 について、その維 持 可 能 性 が問 題 となって いるが、これは、一 定 の期 間 において、資 産 ・負 債 を時 価 評 価 した際 の資 産 ・負 債 差 額 に関 係 するから である。この観 点 から言 えば、本 稿 のストック分 析 とは、概 念 的 にはほぼ政 策 コスト分 析 である。政 策 コス ト分析の適用対象は、一部の特殊法人に限定されているが、その対象を特別会計などに拡大したものと いえる。 4. 具体例 (1)公的年金の維持可能性 ・公的年金の実態 年 金 問 題 は切 実 である。高 齢 者 にとっては今 日 の生 活 を左 右 する死 活 問 題 である。高 齢 者 ほど選 挙 での投 票 率 が高 いので、民 主 主 義 のもとでは、高 齢 者 の意 向 は通 りやすくなる。一 方 、若 年 者 にとって 年 金 は将 来 の問 題 にすぎず、今 日 を生 きることに精 一 杯 でとても将 来 まで気 が回 らない。また、若 年 者 は選 挙 に関 心 が少 なく、投 票 率 も低 い。こうした事 情 から、年 金 問 題 では、高 齢 者 に手 厚 く、若 年 者 に 負担となる政策が採られがちである。 高 齢 化 によって高 齢 者 人 口 が増 加 するほど、この傾 向 は高 まるので、年 金 問 題 は民 主 主 義 経 済 にビ ルトインされた不安定要因であると考えることもできる。 さらに、年金は福祉政策の一環として一般には理解されている。このため、無限定な奉仕と思われがち であり、経済的な観点を持ち込むべきでないとされたこともある。 年 金 問 題 を理 解 するためには、まず年 金 財 政 の現 状 を数 量 的 に正 しく見 る必 要 がある。年 金 は超 長 期の運営が行われるので、年々のフロー数字では全容を理解できない。将来のフローを含んだストックの 6 バランスシートの負債に政府からの出資金がない場合には、この差をあまり意識する必要はない。しか し、例えば、特殊法人のように政府からの出資金がある場合、通常出資金に対する配当はないが、これ は出資金相当の無利子融資を受け、利子分だけ政府から補助を受けていることになる。この場合には、 その利子分は国民負担になる。政府による出資金は政府による国債発行によって資金調達され、国債 発行にかかる利子負担があることを考えれば、その利子分は政府の国民負担になることがわかる。

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数 字 が必 要 になる。そのためには、年 金 財 政 のバランスシートを作 ることがまず第 一 歩 である。それがで きれば、年金制度改正や年金保険料凍結の意味を知ることができる。 実 は、年 金 保険 料 の凍 結や物 価スライドの停止 は、年金 債 務を増加 させることと同 じであり、同 額の赤 字国債発行と同じになる。さらに、年金財源として年金保険料方式と税法式の差異が一部で議論されて いるが、バランスシートから見 た年 金財 政 への貢献 という観 点から見 れば、両 者 にはほとんど差 異のない こともわかる。いずれにしても、公 的 年 金 の現 状 を数 量 的 に正 しくとらえるためにも、年 々のフローではな く、将来のフローを含んだストック分析が不可欠である。 ・年金バランスシート どんな企 業 にも貸 借 対 照 表 (バランスシート)がある。だが、2000年 10月 、「国 のバランスシート」の試 算(1999.3 末)が公表されたが、いまだに日本の国家財政には正式なバランスシートがない。 もっとも重 要 な問 題 は、多 くの人 が「大 穴 が隠 れているのではないか」と懸 念 する公 的 年 金 の扱 いであ る。公表された試算では、国の債務超過額が 3 通り示された。1999.3末における政府バランスシートに おける資 産・負債 差 額は、公的 年 金 の債 務を最 大に見 積 れば△776兆 円 、最 小 の見積 もりで△133兆 円 となっている。公 的 年 金 について、前 者 の場 合 債 務 だけ△796兆 円、後 者 の場 合 資 産 だけ153兆 円 と計上しているが、前者の場合でも政府全体の資産・負債差額を考える上では過小見積もりと言える。 なぜなら、債務を過去に支給決定された分に限定しているからだ。つまり年金制度を打ち切った場合、 どれだけの債 務 があるかを示 す「輪 切 り」の数 字 なのだ。しかし、公 的 年 金 は永 続 する制 度 として考 えら れている。したがって、過 去 に支 給 決 定 された分 のみならず、今 後 もさらに将 来 にわたっての債 務 を負 う ことを計 算 に入 れなければならない。この将 来 債 務 は、現 行 の公 的 年 金 制 度 を維 持 する限 り確 実 に将 来世代が背負うからだ。 ところが、現在の会計制度では、将来債務は「負債」の定義から除かれている(「試算」では一応考慮さ れている)。そこで、公 的 年 金 だけ取 り出 して、その性 格 に相 応 しいバランスシートが必 要 になる。なにし ろ債務の大きさや積立不足額(債務超過額)は、国の将来にとって決定的な意味を持っているからだ。 多くの人は自分の掛け金で自分の年金給付が賄われていると思っている。これは民間生保などの私的 年 金 では正しいが、厚 生年 金 などの公 的 年 金 では正 しくない。大 雑 把 に言 えば、現 役 世 代 が公 的 年 金 で支払った保険料の 9 割は、直ちに今の老齢世代に給付として支払われ、残り一割が積み立てられて 自 分 たちの将 来 の給 付に充 てられる。現 役 世 代 が老 齢 世 代になったとき、その積 立 金 と合 わせて、その ときの現 役 世 代 (今 の将 来 世 代 )が支 払 う保 険 料 が自 分 たちの給 付 になる。これが公 的 年 金 の「世 代 間 助 け合 い」といわれる仕 組 みだ。要 するに、どれだけ給 付 を受 けられるかは将 来 世 代 がどれだけ保 険 料 を支 払 うかによる。人 口 増 加 が大 きければ将 来 世 代 が払 ってくれる保 険 料 も多 くなるので、給 付 も多くで きる。ところが、少子化などで人口増加がないと、給付も少なくなる。 よく知 られているように、年 金 財 政 の運 営 方 式 には、給 付の原 資 について現 在 の掛 金 (保 険料 )で賄 う 賦 課 方 式 と、過 去 の掛 金 (保 険 料 )の積 立 金 とその運 用 収 入 で賄 う積 立 方 式 がある。賦 課 方 式 では積 立金は支払準備のために少額でよいが、積立方式では十分な積立金が必要である。 民間の保険では、一般的に積立方式が採用されている。この場合、年金給付債務を計算して、それに 見 合 う資 産 があれば、年 金 財 政 は一 応 健 全 であるとされる。つまり、年 金 バランスシートを見 て、未 積 立 債務がないという状態である。 公 的 年 金 では、賦 課 方 式 が採 用 されることが多 い。日 本 の公 的 年 金 の場 合 、純 粋 な賦 課 方 式 ではな く、いくらか積 立 方 式 の要 素 が加 味 されているが、ほぼ賦 課 方 式 といってよい。しかし、どのような方 式 で

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あっても、年金バランスシートを作ることはできる。つまり債務としては年金給付債務を計上し、資産として は既に保有している積立金と保険料収入の累積値(現在価値)を計上することになる。 ここで、注意 しなければいけないのは、年 金給 付 は既に事 実 上 約 束してしまっているのに対 して、保 険 料 は将 来 の料 率 など、まだ約 束 されていないという点 である。そこで、資 産 側 の保 険 料 収 入 の現 在 価 値 は現在の保険料率が維持されるとした上で計算される。 例えば、負 債が資産を上回っている場合(企業のバランスシートの債務 超過に相当 。債務超過 額は積 立不 足 額という)、年金 制度 を維 持 するためには何らかのバランスをとる措 置が必 要だということがわかる。 基 本 的 には、事 実 上 約 束 した年 金 給 付 をカットするか、将 来 保 険 料 を引 き上 げるしか方 法 がない。いず れも簡 単 に実 施 できないが、積 立 不 足 額 の大 きさが年 金 財 政 の維 持 可 能 性 をはかるバロメーターであ る。 ・二つの基準による積立不足額 実は今の公的年金制度では、30 代以降の将来世代は、保険料負担に見合う将来給付を期待できな い。将 来世 代という新 規 加入 者 が途 絶えると、自 分の取 り分 が少 なくなる――これはネズミ講 式 トリックで 名を馳せた米金融詐欺師の名に由来する「ポンジー・スキーム」に似た構造である。 こういた仕 組 みの全 体 像 を見 るには、年 金 のバランスシートを見 る必 要 がある7。債 務 には年 金 給 付 債 務(現在価値)を計上し、資産には既に保有している積立金と保険料収入(現在価値)を計上することに なる。負 債 が資 産 を上 回 っている場 合 (企 業 のバランスシートの債 務 超 過 に相 当 する積 立 不 足 の場 合 )、 年 金 制 度 を維 持 するためには、約束 した年 金給 付 をカットするか、将 来 保 険 料 を引 き上 げるしか方 法 が ない。だから、積立不足額の大きさが年金財政の維持可能性をはかるバロメーターになるのだ。 公的年金では次の二つの定義によって積立不足を見なければならない。 第 一は「プラン・ターミネーション基準 」である。今 直ちに公的 年金を廃止 したとき、それまで約束 した年 金 給 付 債 務 額 (現 在 価値 )から、そのときに保 有している積立 金 を差 し引 いた数 字である。いわば「輪 切 り」の数字で、将来予定されている保険料収入は含まれていない(表 1)。 第 二 は「オープン・グループ基 準 」である。これは公 的 年 金 制 度 が現 状 凍 結 のまま将 来 も継 続 されると して、第一のプラン・ターミネーション基準に将来の年金給付と保険料収入を加味するものだ(表 2)。輪 切りを時間軸に沿って展開させた数字である。 いずれの基準 においても、年 金 債 務は、これから将 来 の保 険料(現 行 保険 料 17.35%より将 来 引き上 げられる分 も含 む)、これから将 来 の国 庫 負 担 (これは年 金 財 政 から見 ると収 入 になるから資 産 とみなさ れる)、これまでの保険料による積立金によって賄われる。 プラン・ターミネーション基準(表 1)においては、既に年金受給者の年金債務及びその時点までに払っ た保険料期間に対応する年金債務の合計から積立金を除いた552兆円を「積立不足額」と考えることが 多い(2000.3 末)。国庫負担は確かに年金財政から見ると、約束された将来収入であり、この数字から97 兆円を除いた455兆円を積立不足額と考えてもいい。 オープン・グループ基 準 (表 2)では、将 来 にわたるすべての年 金 債 務 から積 立 金 及 び現 行 保 険 料 を 維 持 した場 合 の将 来 保 険 料 収 入 を除 いた809兆 円 を「積 立 不 足 額 」と考 える。ただし、国 庫 負 担 を除 く と積 立 不 足 額 は529兆 円 となり、これは保 険 料 に換 算 すると8%であり、現 行 保 険 料 の17.35%と合 わ 7 特別会計予算参照書では、厚生保険特別会計年金勘定の貸借対照表が掲載されている。ところが、 これは複式記帳によるバランスシートではない。本稿におけるストック分析に必要なデータは、厚生省「厚 生年金の給付債務と財源構成」等による。

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せた25.4%が、厚生年金制度を将来とも維持するための保険料(平準保険料)になる。 先に発表された「国のバランスシート」では、プラン・ターミネーション基準(表 1)の厚生年金バランスシ ートのほか、国民年金等公的年金のプラン・ターミネーション基準のバランスシートが加えられた。公的年 金は制度を継続するのが前提だから、表2のオープン・グループ基準のほうが適切である。 オープン・グループ基準(表 2)の積立不足額は529兆円であり、プラン・ターミネーション基準(表 1) の455兆 円 より大 きく、制 度 を継 続 するほど財 政 状 況 が悪 化 する。さらに、この529兆 円 は少 子 化 を過 小評価しており、それを考慮すると900兆円以上に膨らむ可能性が高い。計算の前提として出生率1.6 1(1997年 1 月の将来人口推計)が使われているが、出生率は戦後ほぼ一貫して低下してきており、89 年 に1.6を割 り込 んでからも低 下 し、99年 には1.34に落 ちこんでいる。公 的 年 金 のポンジー性 から見 て、出 生 率 が公 的 年 金 財 政 に与 える影 響 は大 きい。つまり出 生 率 が低 下 すると、年 金 制 度 を維 持 する ための保険料(平準保険料)を上昇させなければならない。具体的には、出生率が0.1ポイント低下する と、平準保険料は2.2%ポイント上昇させなければならない。 仮に出生 率1.61を現状の1.34に修正すると、平準保険料 は6%ポイント上昇する。これは積立不足 額 400兆 円 に相 当 するので、厚 生 年 金 の積 立 不 足 額 は900兆 円 を超 えることになる。将 来 の出 生 率 は 誰 にもわからないとはいえ、将 来 の推計 で重 要 なのは「外 れた場 合 」を考慮 しておくことであり、せめて出 生率が上下にぶれた場合も計算(感応度分析)しておくべきだろう。 (表 1) 厚生年金バランスシート・プラン・ターミネーション基準 単位:兆円 資産 負債 2000.3 末 将来保険料 455 積立金 141 国庫負担 97 過去債務 693 2001.3 末 将来保険料 455 積立金 143 国庫負担 97 過去債務 695 (資 料 )「国 の貸 借 対 照 表 」(11 年 度 版 ・12 年 度 版 )及 び厚 生 労 働 省 「厚 生 年 金 の給 付 債 務 と財 源 構 成」 (表 2) 厚生年金バランスシート・オープン・グループ基準 単位:兆円 資産 負債 2000.3 末 将来保険料 1611 (うち引上分 529) 積立金 141 国庫負担 280 年金債務 2032 2001.3 末 将来保険料 1611 (うち引上分 529) 積立金 143 国庫負担 280 年金債務 2034 (資 料 )「国 の貸 借 対 照 表 」(11 年 度 版 ・12 年 度 版 )及 び厚 生 労 働 省 「厚 生 年 金 の給 付 債 務 と財 源 構 成」

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・日本の公的年金の財政状況はアメリカよりも悪い 日 米 の公 的 年 金 の現 状 について、日 本 は厚 生 年 金 、アメリカはOASDIで比 較 しながら見 てみよう(表 3 )。 1997年において、プラン・ターミネーション基準の積立不足額は、日本の場合490兆円、アメリカは11 00兆円となっている。 また、オープン・グループ基準では、日本の積立不足額は910兆円、アメリカは3 50兆円となっている8 日本の積立不足を解消するためには、保険料率で13%の引き上げを将来にわたって実施する必要が ある。一方、アメリカでは2.2%の引き上げですむ。 日本では、制度を継続すると財政状況が悪化している。この傾向は現在においても変わりない。一方 、 アメリカでは、積立不足額はプラン・ターミネーション基準で9兆ドル、オープン・グループ基準で3.5兆ド ルとなっており、公 的 年 金の制 度 維 持は正 当 化できるが、さらに改 善 するために民 営化 が真 剣 に議 論 さ れている。日本 では、民営 化 議 論 といっても、1997年 12月に厚 生 労 働 省 から示 されたのは、制 度 維 持 案を四つ、民営化案は一つだけという選択肢であった。アメリカでそれ以前に示されたのは、民営化案で 二 つの選 択 肢 、制 度 維 持 は一 つの選 択 肢 であった。これを見 ると、日 本 では民 営 化 なしと「はじめに結 論ありき」といわれても仕方あるまい。 (表 3) 公的年金の日米比較 日本 アメリカ プラン・ターミネーション 積立不足額 GDP比 1997 年 490 兆円 1.0 1997 年 9 兆ドル 1.1 オープン・グループ 積立不足額 GDP比 保険料率換算 積立不足額 GDP比 保険料率換算 1997 年 910 兆円 1.8 13.0% 2001 年 530(900)兆円 1.1(1.8) 7.2(13.3)% 1997 年 3.5 兆ドル 0.4 2.2% 2002 年 4.6 兆ドル 0.4 1.9% (資料)日本については、1997 年 6 月年金審議会資料及び厚生労働省「厚生年金の給付債務 と財源構成」 ただし、2001 年の( )内は、出生率を補正した筆者の推計。

アメリカについては、1997 Consolidated Financial Statements of the United States Government、2002 Financial Report of the United States Government

・国債よりも将来負担になる年金債務

2000年10月から、公的年金を含む国のバランスシートが公表されているが、公的年金をプラン・ターミ

8 日本では、国庫負担を除いて積立不足額を考えている。国庫負担を含めれば、積立不足額はさらに

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ネーション基準で見たとしても、欠損額の大半は公的年金の積立不足額であることがわかる(2001.3 末 において、この場 合の欠 損額は832兆円であるが、厚生 年 金で552兆 円、国民 年 金で73兆 円 になって いる)。つまり、国の借金という観点では、よく問題視される国債より、年金のほうがはるかに重大である。 なお、財 政 不 均 衡 の中 で年 金 が重 要 であることや、その観 点 でみると日 本 が先 進 国 中 で最 悪 な状 況 であるという事 実 は、別 の研 究 でも明 らかにされている。コトリコフらが開 発 してきた世 代 会 計 は、年 金 な どの政 府 の将 来 債 務 を資 産 との対 比 で世 代 ごとに明 らかにしようとする試 みであり、年 金 などで将 来 世 代 へのつけ回 しは、世代 会 計 の不均 衡 として示 される。彼らの研 究による主 要 国比 較 でも、日本 の財 政 状 況 は世 界 最 悪 のグループに属 している。そして、世 代 会 計 の不 均 衡 を是 正 するためには、歳 出 の2 6%カットか歳入の16%引き上げが必要だとしている。 ・社会保険方式と税方式 公 的 年 金 の徴 収 ・給 付 方 法 には社 会 保 険 方 式 と税 法 式 がある。しかし、このストック分 析 から見 ると、 年金 財 政とはほとんど関 係のない議 論であることがわかる。実 際、社 会保 険のための目的 税 と社 会保 険 料 とでは大 差 ない(日 本 の社 会 保 険 料 も徴 収 は国 税 徴 収 法 に準 拠 している)。年 金 債 務 を国 の債 務 で はないと考 えることがおかしいように、社会 保険 料 と税 が異 なると強 調すると問題 の本 質 が見 えにくくなる。 この点をさらに検討してみよう。 講学上、社 会保険方式 は一定期間にわたり保険料を拠出しそれに応じて年金給付 を受け、税方式 は 税という名目で拠出し国内在住年数などの要件によって年金給付を受けると、分類されている。 厚生労働省は、次のように、社会保険方式のほうがすぐれていると主張している。 社会保険方式は、①自助と自律の精神を基本とし、②保険料の納付実績が記録され将来の給付の根 拠 となるため権 利 として年 金 を主 張できるという安 心 感 があり、③基 礎 年 金 の給 付 費 は今 後 巨 額に達 す る見 込 みであることから社 会 保 険 方 式 を基 本 とした税 財 源 との組 み合 わせが最 も安 定 的 な運 営 方 法 で あり、④主要先進国でも公的年金はほぼ例外なく社会保険方式を採用している。 さらに、次 のように税方 式では問題 があるとしている。税方 式は、①一 定の年齢 が来たら個々人の保 険 料 拠 出 と連 動 することなく税 によって国 が生 活 の基 礎 費 用 を一 律 に支 給 する制 度 は自 助 と自 律 の精 神 とはいえず、②個 々人 の負 担 の記 録 もなくその記 録 に基 づき将 来 の年 金 額 を約 束 するので、年 金 支 給 に必要となる巨額の費用 負担について国民の合意が得られず、③受給時の権利性 が乏しくなることから、 少 子 高 齢 化 に伴 って負 担 が増 大 していく過 程 で、給 付 水 準 のカット、所 得 制 限 の導 入 、受 給 対 象 者 の 絞り込みが行われる可能性があり、④これまで保険料負担をしてきた方々について上乗せの年金を支給 する必 要 があり、財 源 がない、⑤税 方 式 化 により事 業 主 負 担 の減 少 及 び被 用 者 本 人 の負 担 が増 加 し、 ⑥未 加 入 者 ・未 納 者 は基 礎 年 金 を支 える国 民 全 体 からみれば5%程 度 で、所 得 面 でも納 付 者 と大 きな 差異はない。 厚生労働省は、このように社会保険方式のメリット、税方式のデメリットをあげているが、この中で説得的 であるのは、社 会 保 険 方式 が個 々人の保 険 料 拠出 と連 動 して給 付 が受けられるために自 助 と自律 に役 立つという点 である。確 かに、この論 点 は、長期 的 に社会 保険 を運用するために重要 である。このために、 諸 外 国 においても、税 財 源 により、実 質 的 に生 活 を保 障 する年 金 を保 険 料 拠 出 に関 係 なく所 得 制 限 な しで支 給 する制 度 は、ニュージーランドにみられるのみである。アメリカ、イギリス、フランス、ドイツなど主 要先進国の制度は、すべて社会保険方式を採用している。 ただし、この点 は、年 金 給 付 について個 々人 の保 険 料 拠 出 と連 動 することがポイントである。年 金 徴 収 という点に限ってみれば、保険料は一般には社会保険税 social security tax といわれていることからわか

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るように、社 会保険 方式 か税方 式 かどちらの制 度を採用しているとしても、徴収コストを軽減するために、 税 務 当 局 が諸 税 の徴 収 を通 じて保 険 料 を徴 収 している。この点 、保 険 料 を徴 収 する独 自 機 関 (社 会 保 険庁)を有する日本は、世界でも希 な存 在である。社 会 保 険方 式をとっていたイギリスでも、1999年4月 から保 険 料 を徴 収 していた社 会 保 険 徴 収 庁 を英 国 国 税 庁 に統 合 した。社 会 保 険 徴 収 庁 の約 8000人 の職 員 はそのまま国 税 庁 に移 された。税 と保 険 料 の徴 収 サービスを向 上 させる必 要 があるからとその理 由は明快だ。 翻 って日 本の現状 はどうか。社 会 保険 方式 を主張 する厚 労省 らは税 法式では税 負担 が大 きいという。 税 方 式 を主 張 する企 業 らは社 会 保 険 方 式 では社 会 保 険 負 担 が大 きいという。保 険 料 も税 も統 合 される なら、どんな名 目 でも合 算 した負 担 は変 わりない。社 会 保 険 方 式 か税 方 式 というストック分 析 から見 ても 空 虚 な議 論より徴 収 機 関 を一 元 化するほうが確実 に国 民 の利 益 になる。少 なくとも、年 金 徴 収 面におい ては、年金保険料と税金は同じであるからだ。 ・社会保険料の法的性格 最近、社会 保険庁は国民年金保険 料の滞納者 に対する強制徴収を行う方針を明らかにした。同 庁 に よれば、国民年金保険料未納者(過去 2 年間)は2001年度末に327万人で、2002年度の未納率は3 7.2%と過 去最 悪 となっている。高 額納 税 者リストなどを参 考に強 制徴 収対 象 者を1万 人程 度 選定 する 予定であるという。 日 本の公 的年金 制度 は、全国 民 に共通 した国民年 金(基礎年 金)を基礎に、被用者 年金 、企業 年金 の2階建ての体系となっている。つまり、1階部分として、全国民に共通した「国民年金(基礎年金)」があ り、すべての国 民 は強 制 的 に国 民 年 金 制 度 に加 入 することとなっている。そして、この制 度 加 入 者 に共 通に給付される年金を基礎年金といっている。 2階部分としては、国民年金の上乗せとして報酬比例の 年金を支 給 する被用 者 年金(厚生 年金、共済 年金)がある。自営 業者 や農業者 などは国民年 金のみに 加入するが、国民年金に加えて、民間の被用者は厚生年金にも、公務員等は共済年金にも加入してい る。 国民年 金 は、自営業 者や農業者 など日本に住所がある20歳以上60歳未満の者 の全員が加 入しなく てはならないが、ここで保 険 料 の未 納 が問 題 となっている。民 間 の被 用 者 や公 務 員 などでは、保 険 料 未 納の問題はない。 国民年金保険料は月額 13,300 円であるので、年額 159,600 円になるが、これを40年間支払うと65歳 から年額 797,000 円(03 年度)が終身支給される。平成14年度の平均余命表によればわが国の平均寿 命は男性が 78.32 歳、女性が 85.23 歳であり、65歳から受給する国民年金の老齢基礎年金は男性が1 3年 間 、女 性が20年 間となる。計 算を簡 単 にするために、(現在 価 値 化せずに)単 純 に受 給 総 額をみれ ば、男性は総額 10,361 千円、女性は総額 15,940 千円となる。支払 い保険料も単純に計算 すれば、 6,384 千円である。現時点でみれば、保険料を払い将来に給付を受けることは明らかに有利だといえる。 ところが、後 述するように将来の年金 の財政 状況 に不安があるために、年 金制度を信 用せずに、保険料 の未納という問題が生じている。 現 状 の国 民 皆 年 金 制 度 では、すべての国 民 は強 制 的 に国 民 年 金 制 度 に加 入 することになっており、 それは国 民 年 金 法 を見 れば明 らかだ。同 法 第 88条 (保 険 料 の納 付 義 務 )では、「被 保 険 者 は、保 険 料 を納 付 しなければならない。」と規 定 されている。さらに、同 法 第 95条 (徴収 ) には、「保 険 料 その他 この 法律の規定による徴収金は、この法律に別段の規定があるものを除くほか、国税徴収の例によつて徴収 する。」 とある。

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社 会 保 険 料 は滞 納 しても、強 制 徴 収 されることはこれまでほとんどなかった。だから、滞 納 者 に対 し強 制 徴 収 するという当 り前 のことが、新 聞 ネタになる。未 納 率 が4割 近 くに達 すること自 体 が異 常 である。こ れは社 会 保 険 庁 の温 情 措 置 であった。逆 にいえば、滞 納 者 に対 して国 税 並 みに強 制 徴 収 するという法 律の執行を怠っていたともいえる。 社 会保 険 料を税 金と同じように考 えれば、新 聞報道 のように「高額 納 税者リストなどを参考 に強制徴 収 対 象 者 を1万 人 程 度 選定 する」というのではなく、すべて滞納 者 に対 して強 制 徴 収すべきであろう。民 間 の被用者や公務員などは給料から天引きされており、自営業者や農業者などの未納のために不公平感 が生じるからだ。 ・年金積立金運用の問題 年金の財 政状況は悲惨であるが、公的年金バランスシートの資産にある積立金170兆円の運用がうま く行 われていない。このことも、年 金 制 度 についての将 来 不 安 を大 きく助 長 している。この積 立 金 につい ては、「その運 用 収 益 を将 来 の年 金 給 付 に充 てることによって、子 や孫 の世 代 、すなわち、将 来 の現 役 世 代 の保 険 料 負 担 を軽減 することに用 いられる」とされているが、その運 用 実 績 は決して満 足 のいくもの とはいえない。 年 金 積 立 金 の運 用 は、財 投 への運 用 と市 場 での運 用 に分 けられる。現 時 点 で110兆 円 程 度 が財 投 運 用 部 分 で残 り60兆 円 程 度 は市 場 運 用 部 分 と思 われる。先 般 の財 投 改 革 によって、財 投 運 用 は市 場 運用 に振り替わるので、数年 後 にはほとんどが市 場運 用 になる予 定だ。財投 運 用部 分は特殊 法 人への 資 金 提 供 になっており、提 供 先 の特 殊 法 人 の活 動 に問 題 が見 られるときもあるが、公的 年 金 側 から見 る と、国 債 金 利 以 上 の利 回 りが保 証 されており、安 全 確 実 な運 用 となっている。ちなみに、米 国 連 邦 政 府 の公 的 年 金 も国 債 運 用 に限 定 されており、日 本 の公 的 年 金 の財 投 部 分 と運 用 方 法 としては同 じであ る。 1986年から市場運用は行われているが、当時厚生省幹部は「市場金利を1∼1.5 %以上上回り保険 料の軽減ができる」と国会で豪語した。当時から「プロがやっても 0.1 %上回れば御の字」といわれており、 役人組織では無理と指摘されていた。 市場 運用 すなわち財 テク事業 開 始直後は運 用成績もまずまずだった。当時 の特殊法 人である旧 年金 福 祉 事 業 団 は証 券 会 社 から損 失 補 填 を受 けていたと報 道 されたが、これも財 テク運 用 の成 績 をよくして いた。旧年金福祉事業団は2001年度から年金資金運用基金と名称・組織変更されたが、1986年から 2000年 までの15年 間 で各 年 の損 益 実 績 を見 ると、黒 字 5回 赤 字 10回 の5勝 10敗 の成 績 である。この 結果、この期間の累積損失は1兆7025億円であった。 新たな特殊法人である年金資金運用基金へ改組後の2001年度、同基金による新規運用分と旧年金 福 祉 事 業 団 から継 承 された運 用 分 をあわせた損 益 は1兆 3084億 円 の赤 字 となり、2002年 度 の損 益 も 3兆608億円の赤字と公表されている。この結果、2002年度までの累積損失は6兆 717億円となってい る。これだけ巨額な損失 を計上したのだから、もはや政府による財テク事 業が失敗だったのは明らかであ ろう。さらに、これらの公表数字には紛らわしい点がある。年金資金運用基金へ改組後、同基金による新 規 運 用 分 については、財 テクを行 わなかった場 合 の機 会 費 用 が計 上 されなくなっているからだ。旧 年 金 福 祉 事 業 団 時 代 の損 益 数 字 は財 テク事 業 を行 わなかった場 合 の機 会 費 用 が計 上 された数 字 であった ので、より適 切 に財 テク事 業 の評 価 ができたが、年 金 資 金 運 用 基 金 は機 会 費 用 が計 上 されず損 益 がそ れ以前よりかさ上げされている。旧年金福祉事業団時代と同じように損益を計算すれば、2001年度は1 100億 円 、2002年 度 は4300億 円 程 度 の費 用 となるはずなので、それぞれの年 度 の実 質 損 益 は、1兆

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4200億 円 、3兆 円4900億 円 程 度 の赤 字 だったはずだ。この結 果 、2002年 度 までの累 積 損 失は6兆 6 100億円程度のはずだ。公表数字の累積損失は1割も過小になっている。 (表 4)2002年度までの市場運用による累積損失 公表数字 6兆717億円 実態 6兆6100億円 (資料)公表数字は年金資金運用基金「資金運用事業概況書」各年度版。実態は筆者試算。 ・2000年年金改正の評価 ストック分 析 により、2000年 の年 金 改 正 を評 価 してみよう。この年 金 改 正 では、年 金 保 険 料 の凍 結 、 5%給付カット、支給開始年齢の引上げが大きな柱である。 年 金 保 険 料 の引 上 げ延 期 は、これまでもよく使 われた手 法 である。前 回 の95年 に2.5%引 き上 げて1 7%とすべきところであったが、16.5%までしか引 き上 げず、96年 10月 に再 び0.85%引 き上 げ17.3 5%にせざるをえなくなった。 95年 であれば、2.5%の引 き上 げで済 んでいたところ、引 き上 げが遅 れた分 を埋 め合 わせるため、合 計で2.85%の引き上げになってしまった。また、96年10月の引き上げが昨今の経済不況の一因だとい う批判もあった。 今 回 は19.5%まで引 き上 げなければいけないときであるが、それを再 び凍 結 してしまった。年 金 保 険 料1%は債務額約70兆円に相当するので、この年金保険料凍結は減らすべき200兆円の債務を減らさ ないという意味で、債務を200兆円増加させることになる。 一方 、5%給付カットと支給開始 年 齢の引上げは、年金債 務を減少させることになる。これによって、将 来期間に対応した年金債務は400兆円程度減少することになる。支給開始年齢の引き上げは、最終的 には債務を2割程度減少させることとなり、数量的な効果が大きい。 しかしながら、前 述 のように、計 算 の前 提 として出 生 率 1.61(1997年 1月 の将 来 人 口 推 計 )が使 われ ているが、これを現状の1.34に修正 すると、平準 保険料は6%ポイント上 昇する。これは積立不足 額40 0兆 円 に相 当 するので、年 金 債 務 カットは出 生 率 を現 状 に即 したものに見 直 せば相 殺 されてしまうだろ う。 ・2004年年金改正の評価 2004年年金改正において、公的年金の維持可能性に関わるものは、①基礎年金国庫負担率の二分 の一 への引 き上 げ、②保 険 料 水 準 固 定 方 式 とマクロ経 済 スライドによる給 付 の自 動 調 整 、③年 金 自 主 運用がある。 まず、基 礎 年 金 国 庫 負担 率 の二 分の一 への引き上 げについては、公的 年 金 のみを見 ると、その維 持 可能性を高めるかのように思われるが、国の全 体を見ると、国庫内の資金移転にすぎず、本質的に公的 年金 の維 持 可能 性を高 めることにはならない。税 金と社会 保 険料は、財 政収 入としてその徴収 面 を見る と法 的には全く同じであり、社 会保 険 料と税金 を同一 視してみると、基礎 年金 国庫 負 担率 の引 き上げに 何 ら意 味 を見 いだせないことは明 らかである。この点 について、2004年 改 正 の中 で、国 民 保 険 料 の徴 収 強 化 として、所 得 水 準 に応 じた多 段 階 免 除 制 度 の導 入 、若 年 の就 業 困 難 者 に対 する納 付猶 予 制 度 の導 入 等 が盛 り込 まれているが、社 会 保 険 料 について税 とともに税 務 当 局 がその徴 収 を行 えば足 りる。 社会保険庁と税務当局を統合すれば、行政改革になるとともに、社会保険庁の公的年金番号を税徴収 に利用しさらに税・社会保険料の効率的な徴収が可能になるだろう。

参照

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