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Promoting Biliteracy in Minority Students: A Case Study of a Chinese Student with Limited Ll Proficiency

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Academic year: 2021

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Title

両言語リテラシー獲得をどう支援するか : 第一言語

の力が不十分な子どもの場合

Author(s)

清田, 淳子; 朱, 桂栄

Citation

母語・継承語・バイリンガル教育(MHB)研究. 1

P.44-P.66

Issue Date 2005-03-31

Text Version publisher

URL

http://hdl.handle.net/11094/24998

DOI

(2)

母 語 ・継 承 語 ・バ イグンカフ〃教 育 伽 〃8丿研 究 レolumeアMAR(:H2005卿 物 吻4彡 砌 卿

両言語 リテラシー獲 得を ど う支援す るか一 第一言語の力 が不十分 な子 どもの場 合

Promoting Biliteracy in Minority Students: A Case Study of a Chinese Student with

Limited Ll Proficiency 清 田淳 子(お 茶 の 水 女 子 大 学 大 学 院 生)kb5j-kyt@asahi-net.or,jp 朱 桂 栄(お 茶 の 水 女 子 大 学 大 学 院 生)keieisyu@yahoo.co。jp 要 約 本研 究では,第 一言 語の読み書 き能力が不十分 な子 どもを対象 とす る協働支援 を取 り上げ,(1)在 籍 学級 と関連づけた母語 による学習支援では,子 どもに学 年相応の母語使用の機会 を提供す ること で抽 象的概 念の理 解を助 け,母 国での経験 を活 か し思考 の深 化を促 し,母 語の学習意欲を引 き出 し ている ことが示 され た。(2)こ の よ うな基盤の上 に展 開 され た 日本 語に よる学習支援 では,国 語の 学習課題 に対す る創 出型解答 の分析 を通 して,子 どもの書 く力が確実 に伸びてい ることが分かった。 子 どもが 自分の解釈や 考えを書 き表す ことか ら,課 題への取 り組みを通 して考 える力 も身に付 いて いった と推 測 され る。 1.は じ め に 近 年,日 本 語 を母 語 と しな い子 ど もた ち に 対す る教 科 学習 支援 の必 要1生が 提 起 され て い る。 学 校 の授 業 が わ か らな い ま ま で い る こ とは,学 習 活動 に 実 質 的 に 参加 で きず,学 習 を通 して獲 得 して い くはず の様 々 な知 識 や思 考力 も獲 得 で きな くな る こ と を意 味 して い よ う。 子 ど もた ち が教 室 で の学 習 に参 加 す る た め に は,日 本 語 で 書 かれ た 教 科 書 や 資料 を読 ん だ り,教 師 の説 明 を メモ した り 自分 の考 え を ノー トに 書 き付 け るな ど,学 習 面 で の 基 礎 ・基 本 とな る 「リテ ラシー 」 を獲 得 して い く必 要 が あ るが,本 研 究 で は 「リテ ラ シー 」 を,単 に漢 字 が い くつ 読 め る よ うに な っ た か とい うこ とだ け で は な く,言 語 を媒介 と し て,抽 象度 の高 い 晴報 を処 理 ・操 作 す る力 を含 む もの と して と らえ て い く。 と こ ろで,二 言 語 環 境 にい る子 ど もの場 合,分 析,統 合,言"i面 な ど認 知 的 活 動 に 必 要 な 能 力 は二 つ の 言 語 の 間 で 共 有 され,母 語 で培 っ た概 念や 知 識 が第 二 言 語 に よ る概 念 の 形成 や 学 習 内容 の 理 解 に役 立 つ こ とが 指 摘 され て い る(CumminsandSwain1986)。 この よ うな 知 見 をふ ま えて 考 えれ ば,子 ど もた ち の母 語 の力 が発 揮 で き な い状 態 で,第 二 言 語 だ け を用 い て 学 習 を行 うこ とは,子 ど もの認 知 面 の発 達 や 教 科 内容 の理 解 に 不 利 で あ 一44一

(3)

両言語グテ ラシー獲 獰をどう支接 するか一第 一言瑟のカが不 ナ分な 子どもの場 合!汚 田淳 子 ・朱 荏栗 る とい え よ う。 した が っ て,教 科 学 習 支援 に お い て は,母 語 を活 用 す る こ との 重 要1生を ふ ま え,両 言 語 リテ ラシ ー の 獲 得 を ど う支 援 す るか とい うこ との 追 求 が必 要 で あ る と考 え られ る。 ま た,二 言 語 間 の 転 移 に つ い て も,子 どもが 母 語 の 読 み 書 き能 力 を 十分 に持 っ て い る 場 合 は母 語 の力 が比 較 的 容 易 に第 二GIP吾に転 移す る と され る(CumminsandSwain1986)。 しか し,支 援 の 現揚 で は,母 語 の読 み 書 き能 力 が不 十 分 で,し か も 日本 語 の力 も弱 い子 どもた ちが 数 多 く見 受 け られ る。 この よ うな子 ど もた ち の母 語 と 日本 語 の 両言 語 リテ ラ シー を ど う支 援 して い くか とい うこ とは,日 本 語 を母 語 と しない 子 どもた ちの 教 科 学 習 支 援 に 関わ る重 要 な 課 題 の一 つ とい え よ う。 そ こで 本 研 究 で は,第 一言 語の 読 み 書 き 能力 が不 十 分 な子 ども を対 象 とす る協働 支援 (第3節 で 述 べ る)を 取 り上 げ,(1)在 籍 学 級 と関連 づ けた 母 語 に よ る学 習 支 援 は どん な 意 味 が あ るか を論 じ,(2)日 本 語 にお け る子 ど もの 書 く力 が どの よ うに 変化 した か を 明 らか にす る こ とを 通 して,第 一 言 語 の 読 み 書 き能 力 が 不 十 分 な 子 ど もへ の 学 習支 援 の あ り方 を提 案 して い きた い。 2.子 ども の プ ロフ ィール 協働支援 にお ける学習者 は,中 国出身 の男子生徒1名(以 下,S男 と呼ぶ)で あ る。 S男 は1998年 に10歳 で来 日した。中国で は農村部の小学校の2年 生に在籍 していた。 入学 年齢がや や高い 中国の農 村部 では,10歳 で2年 生 とい うケースが とき どき見 られ る。 母親 によれ ば,中 国 の小学 校での成績 はたいへ んよか った とい う。 来 日後,S男 は実 年齢 に合 わせ る形 で,3学 年分 の 「飛 び級」 を して5年 生 に編入 し た。編入先 の小学校 では 日本 の学 校生活 に慣れ るための取 り出 し授業 を受 けたが,中 学 校で は取 り出 し等 の制度 がな く,教 科の内容 理解 は困難 であった。 また,家 庭学習 の習 慣 はまった く形成 され ていなかった。 S男 に対す る学習支援 は,中 学校入学(2000年4月)と 同時 に始ま り,卒 業時まで継 続 して行われ鳥 最初 の1年 間は 日本言磊諸 支援者が単独で,2年 目か らは中国語 母語 言諸 との協働支援で あった。以下,支 援 開始 当時 の状況 を述べ る。 一45一

(4)

母 藷 ・纒 藷 ・ノYイグン丿グニノ〃教 育`ん4〃β丿獺 ヲ1/o%〃ηθ アMAR(::H2005D伽4彡 吻 彡勧 2.1支 援開始時の 日本語力 支援開始 当時,S男 は支援者 の指示 に反 応す るな ど日本 語を聞 く力 はある程度 もって いたが,自 ら日本語 を話 す ことは極 めて少 なかった。ひ らがなを読 む ことはできたが, い くつか の文宇 に混 同が見 られ 鳥 カタカナ は未習 である。学 校の授業 では黒板 に書 い てあ るこ とを写す こ とはで きたが,作 文 はも とよ り1文 で さえ自分の考 えを書いて表 す ことはで きなか った。 2.2協 働 支 援 開始 時 の母 語 力 母 語 を 聞 く ・話 す 力 につ い て は,S男 の 中 国語 の発 音 は 不 明 瞭 で 声 も小 さか っ た が, 家 族 や 学校 生 活 な ど身 の 回 りの こ とにっ い て母 語 でや り と りす る こ とは で き た。しか し, 語 彙 や 表現 は非 常 に 限 られ,質 問へ の 聞 き返 しや,沈 黙,言 い よ どみ が 多 く見 られ た。 読 む ・書 くにつ い て は,い くっ か の漢 字 は知 って い た もの の 文 字 の混 同が 激 しか った 。 また,中 国語 の発 音 記 号 で あ る ピ ンイ ン が分 か らな か っ た。 家 庭 で は父 親 とは 日本 語 と 中国 語 の両 方 を使 い,母 親 と は 中 国語 を使 い,弟 とは 日本 語 で話 して い た。 家 で は 中国 語 を読 ん だ り書 い た りす る こ と は な く,ま た,両 親 が 仕 事 に忙 しい こ と もあ り,家 庭 で の 両親 との 中国 語 の 会話 は少 な か った。 2.3飛 び級の影響 先 に も述べ た よ うに,学制の違いか ら3学 年 分の飛び級 をS男 は抱 えるこ ととな った。 学習 面において,こ の3学 年分 の飛び級 がS男 に与 える影響 には,少 な くとも次 の3点 が予想 され る。 まず第一 に 日本語 はもちろん中国語で の読み書 き も発達途上 にある とい うことが ある。 この ことは,S男 が使 える語彙や 表現 がきわめて限 られ ているだけでな く,ピ ンイ ンとい う中国語 の読み書 きに不可欠 な手段 をS男 が獲得 していない ことを意 味す る。 第二 にS男 は3学 年分の未 学習部分 を抱 えている とい うことがあ る。 これは, た とえば,九 九 を習い終 えた子 どもが,そ の直後 に分数 のわ り算や 円の面積 を求め る問 題 を こな さな けれ ばな らない状況 を表す。 しか し未 学習部分 があ るとい うことは,単 に その領 域 の知識が欠 けている とい うだけではな く,そ れ らの学習過 程で獲得で きたはず の思考力や想像力,表 現 力を も身 につ けていない可能1生があ ることを表 す。そ して第三 に学び方 を学んで いない とい う問題 がある。 た とえば,S男 に家庭 学習の習慣が確立 し ていない のは,S男 が怠 け者だ か らなの ではない。これ は,宿 題 をす る,家 で復習す る, 一46一

(5)

両言語 グテラシー獲 得をどう支援 するか 一第 一言語 のカが 不≠分 な子ど右の場 合1薄 盈淳子 ・朱 荏栄 わ か らな い と ころ をき く ・調 べ る な ど,子 ど もた ちが 自立 した学 び 手 に な っ て い くた め の ステ ップ を踏 む機 会をS男 が も た な か っ た か らに ほか な らない と考 え られ る。 3.学 習支援 の概 要 3.1概 要 S男 は,中 学 校入学時か ら卒業 までの3年 間(2000年4月 ∼2003年3月),都 内のあ る大学 に開設 され た支援教室 で,週1回90分 の学習支援 を受 け鳥 支援教科 は子 どもの 意 向を踏 まえて国語 を取 り上 げ,在 籍学級 で使 われ ている教科書 を使用 した。 最初 の1年 間は 日本人支援者 が母語訳テープ(教 材文のあ らす じを母語訳 し,テ ー プ に録音 したもの)を 使 って単独で支援 を進め,2年 目か ら中国語 母語話 者 と日本 語話 者 支援者 が協 働で支援 を行 った。 3.2「 教 科 ・母 語 ・日本 語相 互 育 成 学習 」 日本 語 を母 語 と しな い 子 ど もに 対 す る学 習 支 援 にお い て,岡 崎(1997)は 「教 科 ・母 語 ・日本 語 相 互 育 成 学 習 」 を提 唱 して い る。 そ の 理 由は,子 ど もた ちの 母語 が第 二言 語 に取 っ て代 わ られ る こ とは,認 知 面 の発 達 だ けで はな く,家 庭 で の コ ミュ ニ ケー シ ョン や ア イデ ン テ ィテ ィー の確 立 な ど 瘠意 面 で も問題 が 生 じや す い か らで あ る。 この モ デル で は,子 ど もが 各 家庭 で 学 校の 授 業 の予 習 と して 教 科 書 を 母語 訳 した音 声 テー プ を 聞 き,母 語 と 目本 語 の 両 方 で 書 かれ た ワー ク シー トの課 題 に取 り組 む。 この よ うな 家庭 学 習 で 得 た 知 識 や1青報 に よ って 子 どもた ち は見 通 しを持 って 学 校 の 授 業 に臨 む こ とが で き る よ うに な り(ス キー マ の形 成),授 業 で の 「理 解可 能 なイ ン プ ッ ト」が 増 え, そ の 結果 と して 学 習 内容 の理 解 や 日本 語 力 の 向上 にっ なが って い く と され る。 ま た,学 習 場 面 で 母語 を使 い 続 け る こ と を通 して,母 語 力 の保 持 が 目指 され て い る。 3.3協 働 支援 の流 れ S男 に対す る学習支援 は 「教科 ・母語 ・日本 語相互 育成学習」 を もとに実 施 した。毎 回の授業では,ま ず 中国語母語話者支援者(以 下 ㏄ と表す)が 母語 で先行学習を行 い, 続 いて 躰 謡 諸 支援者(以 下JTと 表す)が 日濡 吾でalの 学習 を行 うとい う流れで展 開 した。 なお,支 援 の学習 は学校 の授業 の予習 として位 置付 けられてい る。 一47一

(6)

母語 ・継 承 語1・ノ、イ{ノンカヲ〃教 育 砌 θβ丿研 究 レolumelMAR(:H2005卿 物 吻4殉 彡協 母語先行 学習 にお いてCTは,教 材文の母語訳文,あ るいは教材文の あらす じを母語 に 訳 した ものを使 用 し鳥 また,教 材文の内容 に関わって中国語 で書いた課題 を提示 し, そ の課 題をめ ぐって中国語 でのや りと りを行 った。一方,日 本語 に よる読 解の場面 で も 学習課 題を書 いたワー クシー トを用意 し,課 題に関す る十分 なや りと りを したあ と学習 者が解答 を記述す る とい う活動 を行 った。 図1支 援 の授業の流れ 支 援 の 学 習

踊 による先彳

弾 習

匚 ⇒

日本 語による学習

学校の授

4.在 籍学級の学習 と関連づけた母語学習 の意味 本節 では,上 述 した母語 に よる先行学習 を取 り上 げる。 この場面 におい て,在 籍学級 の教科 内容 を母語で学 ぶ と同時 に母語 の学習 も促す とい う内容 と言語の 統合 を重 視す る 立場 に立ってい る。本節 では,両 方のね らい を含めて,在 籍学級 の学習 と関連づ けた母 語学習(以 下,母 語 学習 と略す る)の 意味 を捉 えたい。 4.1母 語 学 習 支 援 の実 施 4.1.1母 語 を読 む とき の状 況 前 述 した よ うに,S男 は 中 国 で小 学校2年 生 の学 習 を終 え て来 日 した。 そ の た め 中 国 語 の読 み書 きに は 大 き な 困難 を 抱 えて い た が,こ こで は そ の 一例 と して,協 働 支 援 を 開 始 した 直後 の識 字 状 況 を示 す 。表1は,中 国 に お け る小 学3年 生 用 の語 文(国 語)教 材, 「趙 州 橋 」 を音 読 した とき の結 果 で あ る。 一48一

(7)

両 言語ワテ ラシー獲 獰 をど う支 援 す るかOi語 の カが 不 ≠分 な 子 ど{5の 場 合 ノ汚 毋 淳 子 ・朱 荏柴 表1S男 の中国語での識字状況

総字数

異な り字数 異な り字数 にお ける読 めなか った 漢字 の数(割合) 小3語 文 「趙 州 橋 」 341字 184字 76字(41%) 表1か らは,「趙州橋 」の音読 にお いて,S男 の読 めなかった字 数は異な り字数の41% にも達 して いるこ とがわかる。音読 とい う特殊 な作業 であったことも影響 してい る可能 性 があるに して も,S男 は小学3年 生 レベル の文章 で さえも母語 で読む ことが難 しい と い える。そ して文字だ けに頼った文章理解がS男 に とって困難 であるこ とも推 測 され る。 4.1.2母 語学習支援の方針 上述 したS男 の状況 を踏ま え,支 援の方針 を定 めた。 その際留意 したのは,学 年相応 の教材文の学習内容 を巡 って 口頭 で,母語を使 って十分にや りとりを行 うこ とで あった。 S男 は母語の識字能力が低か ったが,そ の点のみに重 点を置いて読み書 きでき る漢字 の 数 を増や すのではな く,む しろ,内 容 に即 した母語 での十分なや りとりを通 して,母 語 の読み書 きの確 固 とした認知 的基盤 を作 る ことに焦 点を当てた。 4.1.3母 語 学習支援 に使 われ る教 材 本稿 に取 り上げた母語学習支援 は在 籍学級の教科学習 との関連 性を図ってい るので, S男 の在籍 学級 の 「国語」の教材文に基 づ きCTが 作成 した母語要約文,母 語 で書 かれ た ワー クシー トな どを使 った。 また,中 国の小学校や 中学 校の 「語文」 の教 材文 も使 った が,在 籍学級 の 「国語」の教 材文 の内容 となん らかの関連 陸があるものを選択 した。 4.2分 析 の 方 法 分 析 に 際 して は,母 語 学 習 揚 面 にお け るCTとS男 との や りと りを質 的 に分 析 し,母 語 学 習 の 意 味や 役 割 を と らえ る。 ま た,S男 の発 話 や 授 業 の観 察 記 録 か ら,S男 の母 語 学 習 に 対 す る 意識 の変 化 を探 る。 分 析 に用 い たデ ー タ は,表2に 示 す教 材 文 を扱 っ た授 業 を録 音 し,文 字 化 した資 料, S男 の様 子 を メモ した授 業 記 録,支 援 開始 時,進 行 中,終 了後 に行 っ たS男 へ のイ ン タ ビュ ー で あ る。 一49一

(8)

400・ 継 承 語1・バ イグンカフ〃教 育`M〃 β丿研 究VolumelMARCH2005卿 御4彡 勧% 表2日 本 語の教材文 と関連 した中国語 の学習 資料

中国語 の学習資料 日本語の教材文(ジ ャンル) 中学 2年 1学 期 漢 詩 一 首及 び 「短 歌 ・そ の 心 」 の母 語 訳 要 約 文 「短 歌 ・そ の 心 」(鑑 賞 文) 「言葉 の力 」の母語訳要約文及 び 教材文 「人類 の言 語」 「言 葉 の 力 」(説 明文) 2学 期 ワ ー ク シ ー ト 「字 のな い は が き」(随 筆) 教材 文 「趙州橋 」及 び 「縄 文土器 に学ぶ」の母語 訳要約文 「縄 文土器に学ぶ」(説明文) 3学 期 漢詩 一首 「漢 詩 の 風 景 」(鑑 賞 文) 3年 1学 期 ワー クシ ー ト及 び 「夜 は 暗 くて は い けな い か 」母 語 訳 要 約 文 「夜 は暗 くて は い けな い の か 」 (説 明文) 注:「 語 文 」 小 学 第3冊 人 民 教 育 出 版 社(1998),中 学 第6冊 開 明 出版 社&北 京 出版 社(2000) 4.3分 析 と考 察 S男 に 対す る母 語 学 習 支 援 で は,「 母語 で 抽 象 的概 念 の 理 解 を促 進 す る 」,「母 語 や 母 文 化 に根 付 い た経 験 を活 か し,学 習 内容 につ いて の思 考 を促 進 す る」,「母 語 を学 ぶ 意 欲 を 引 き上 げ る」 とい う三 つ の効 果 が 認 め られ た。 4.3.1母 語 で抽 象 的概 念理 解 を促 進 す る 支 援 の 開始 当時,学 年 相応 の 教 材 文 の 内 容 を 母語 で 学 ぶ 場 面 で は,S男 は 「自己表 現 」 だ けで な く,「 理 解 」の段 階 で さえ極 め て 困難 な状 況 で あ る こ とが示 され た。そ の理 由は, S男 が 多 くの抽 象 的概 念 を獲 得 して い な か っ たか らだ と推 測 され る。 なぜ な ら,前 述 し た よ うに,中 国 の小 学 校 で2年 生 を終 え て来 日 したS男 は,来 日後,中 国語 に よ る学 習 の機 会 が全 く恵 まれ ず,抽 象 的概 念 を母 語 で 学 ぶ こ とが で き な か っ た と考 え られ るか ら で あ る(在 籍学 級 で も ほ とん どの教 科学 習 に参 加 で き な か っ た た め,日 本 語 に よ る抽 象 的概 念 の学 習 は,実 質 的 に は達 成 で き なか っ た と推 測 され る)。 そ れ で は,母 語 学習 は,S男 の概 念理 解 を促 進 した の だ ろ うか。 以 下,支 援授 業 中の CTとS男 の母 語 に よ るや りと りの 一場 面 を具 体 的 に 見 て い く。例1は,CTとS男 が 「『万 葉 集 』 が8世 紀 に編 纂 され た」 こ とにつ いて や り と りを して い る場 面 で あ る。 一50一

(9)

両言語リテラシー獲得をどう支援するか一第一言語の力が不十分な子どもの場合:清田淳子^朱桂栄 101 :

它产生于哪个世纪?

それは,(

可世紀にできたの?】

2 3

:世紀?

世紀?】

厂「

世紀」 という言葉の聞き返り

3 0 1

你 告 織 ,现在是多少應己? 【

いま,何働己ヵ隶えて。】

4 3

:现在是

^ [

沉 默

9

]

いま

,. ‘

[

沈黙

9

秒 ] 屢問返答が困難な翻

501 : “

世紀,

,这个词你听说过吗?现在是

2 1

世纪。

世紀ってレ、

うことば,聞いたことある?!

/

, 2 1

世紀なの。】

63 : X X X [

无法听清

]

X X X

】[聞き取れな

V

]

丨質問返答が困

! ! ^ ^ 701 :—

个應己是多少年?

1

世紀は,何年?】

83 :

ー个世紀?

1

猶己?】

I

世紀」という概念が理解困難な翻

0

^ 丨

士し

、1 105 :

一年

?

1

年 ?】

1

世紀」という概念の未獲得

! 1101 :—

个世纪是ー百年。现在是

2001

年。你数数,七百多年八百多年,所以是一千多年

以前的书。【

1

世紀は百年よ。いまは

2001

年,数えてみて,

700

800

,だから千

年以上前の本なの。

畤間的概念を具体的に説明する

! 125 :

那要弄,是不是把这个减起来

? 800

そうすると,ここカゝらこれを

引く

?】

他者の説明を受け止め,母語で積極的に考える

1 1301

对呀,它减它。

そうよ。ここからこれを引く。】

145 : 1201

[

概数を示す

] -― 〈2001

5

30

日)一

1

から, 「『

^ ^

8

世紀に編纂された」という内容について学ぶとき,

3

男は

最初,「

世紀」 という抽象度の高

V

繼の賴科こ引っかかったことが分かる。 「

世紀」と

いう概念は,すでに中学

1

年 の社会科歴史)の!

^ ^

に 「

1 0 0

年を一くぎりとする単

位を世紀といいます」 と説明されているが,

1

世紀は

1

年であるという

3

男のあてずっ

ぼうな回答(

观 )から,

3

男 は 「

世紀」 という概念を獲得していないことが分かる。

しかしさらに,例

1

のやりとりを見ていくと,最 初 に 「

世紀」ということばの意味が

分からなかった

3

男は,

0 1

の時間につ

!/

ヽての説明を受け止め,

1

世紀は百年であること

を麵军できたようである。そして,本来の教科書のトピックに戻って,『

万葉集^は千年

以上前の本であることを,自分自身で計算し納得している様子も見られた〔

123

148)0

母語学習場面では,例

1

の 「

世紀」のように,

3

男 が 麵

?

困難を示した概念に対し,

0 1

がその概念との関連事

I

頁を

し,具体的に説明したりして,やりとりをすることを

通して

, 3

男の概念の趣率を助けていた。

3

男の理解が促進されたそれらの概念

だけを示す)は, 日本の学校では何年生で学習することになっているかを阪本

各幻

の枠組みを用いて調べたところ,表

3

のような結果となった

0

(10)

母 語 ,継 承 語9ハ イ リ ン ガ ル 教 育 研 究 1/0/(7/776 1 IV!八尺〔1~1 2005 ジ欲4&穴 岭 奴 名 旁^ ^

表 :

3

母語学習で取り上げた抽象的概念

小 報

1 5 ^ (

3

年)

小 報 高 钟

4

6

年)

中学校

ひ〜

3

年)

その他

种 类 (

自 然 (

自然)

电 (

電気)

工 具 (

道具)など

演 讲 (

講演する)

人 类 认 勧

特 征 (

雛 )

平 行 (

历 史 歴 史 )

技 术 (

撕 )

分 エ (

分業)

作 者 (

储 )

燃 料 燃 料 )など

世 纪 (

世紀)

历史遗产壢史遺産)

营 养 雛 )

遗 产 (

競 )

照 明 (

照明)

噪 音 齡 )

模 仿 (

模倣する)

反 映 仮 映 す る )

摄 取 (

摂取する)

沸 騰 (

沸騰する)など

表 面 (

表面)

高等动物

(

高等動物)

など

3

からは,母語学習場面では,「

自然」「

人類

]

など

3

男が小学校で学ぶことのでき

なかった基本的概念だけでなぐ「

世紀」 「

歴史遺産」など中学校レベルの概念も扱った

ことが分かる。

3

男の事例から,学年相応の学習内容を取り入れた母語学習を行うことにより,

3

の欠落した概念や知識を学ぶ機会が得られたといえよう。また,例

1

が示すように,母

語で抽象的な概念の趣

?

を促すプロセスは,

3

男の認知的発達の基盤を広げ,学年相応

の学習内容の理解にも有益であろうと考えられる。

3 . 2

母 語 ,

母文化に根付レ、

た経験を活かし,学習内容につレ、

ての思考を促進する

次に,教材

^

の母語訳文に基づいたやりとりを取り上げ,母語を媒介としながら

, 5

男が学年相応の樹才文につレ、

てどのように思考を深めて!

/

るのかとレ、うことにつレ、

て見

ていく。

夜は暗くてはいけなレ、

か」という教材文は

,

現代社会の繁栄を問い直すものである。

この主題を理解するには,教材文の内容を踏まえながら,現代ネ土会の繁栄と闇の持つ価

値を対比して考える必要がある。このような高度な思考活動の参加を促すために

,0 1

は,

まず

3

男の母語

母文化に密着した経験を活性化させることを狙ってやりとりを進めた

0

次の例

2

は,

0 1

の 「

あなたのふるさとの夜はどんな様子?」

,「

夜は楽しかった?』

, 「

は怖かった?」などの質問に対する

3

男の返答である。そして,例

3

は,

3

男が幼い日

にふるさとで見た不思議な物体を母語を使って生き生きとした表[青で語ってレヽる場面で

ある。

52 —

(11)

両言語リテラシー獲得をどう支援するか一第一言語の力が不十分な子どもの場合:清田淳子~朱桂栄

く例

2

籲ふるさとの夜の補!子

8

:社

,夕卜画每天都是黑洞洞的。【

毎日,夜になると,外は真っ暗なの。】

3

:月亮出来的时候,圆月出来的时候,很亮。【

月が出て,月が丸いとき,周りがと

ても明るい。】

区るさとの夜の様子につレヽての言

5

匱がよみがえる

春夜の楽しいこと

5 :

捉虫

0

虫をつかまえる。】丨ふるさとの夜の様子につレ、

ての記憶がよみがえる

'

籲闇に対する思い

3 :

不怎么害怕。【

あまり怖くない。】

II

への感情を表出する

2002

4

22

日)一

く例

3

101 :

月亮好的时候星星也出来,远处的山呢? 【

月のきれいな時,星も出る。山は?】

23 :

山上圆圆的,我不知道是什么东西。我中国人都不知道是什么东西。

山の上には丸くて,わけが分からない物体がいて,それが何か,私たち中国人だれ

も知らない。】

丨ふるさとの夜に見た不明物につレヽての記憶がよみがえる丨

3 0 1

你们都不知道? 【

あなたたち,みんな誰も知らないの?】

45 :

嗯,奇怪的东西,奇怪的光。【うん,不思議な物,不思議な光(

を出す物体)。】

5 0 1

真的? 【

ほんと?】

68 :

嗯。跑 細 去 的 。这是山,跑到这边,跑至娜边。又跑到这边。【う ん (

その不明な物

が)山の上を行ったり来たりしている。こっちに来てそっちに行って,またこっ

ちに戻る。】

『ヽきいきした声で語る

| 701 :

不是有云彩吗? 【

それは雲じやなレ、

の ?】

88 :

不是。跑樹艮快。跟跳一祥。跳呀跳呀。然后又回来。「

绘声绘卢地

1

違う。 とても

速い。飛ぶように

飛んで飛んで,また戻って。】

|

ぃきぃきした声で語る

]

2

,例

3

が示すように,

0 1

は時には質問をし,時には聞き手となって,

3

男にふる

さとの夜を思い出させ,それを語る経験を共有しようとしている。その結果,例

2

のよ

うに,

3

男からふるさとの夜の様子についての思い出や, 「

闇」が怖くなかったという感

情についての表出を引き出している。また,例

3

のように,

3

男がふるさとの夜に見た

不思議な物体を巡る体験も弓丨き出している。 このように,

3

男は自分の経験と結びつけ

ることで教材文の内容に親しみを持ち始め,そのことが文章内容や作者の主張につレ、

も積極的に考えていくきっかけとなっていることが分かる。

次に,教材文の主題に関わる

3

男の発話の一部を取り上げ,例

4

と例

5

として示す。

(12)

母語^継承語~パ イ リ ン ガ ル 教 育 ひ /研 究1/0/0/776 1 从八尺⑶ 2005 ^ 4 0 ^ 0 ^

く例

4

鲁東京とふるさとの明るさの比較

3 :

东京比老家亮。【

東京はふるさとより明るい。】

I

自分の経験に基づき,東京とふるさとの夜の明るさを比較する

春夜は明るすぎることに対する感想

3 :(

东京)太亮了。人家都睡不着。跟白天一祥,到处玩。【

東京は明るすぎる。眠れ

なレヽほど。人々は昼間と同じくいろいろなところで遊ぶ。】

齡 の 夜 にっレ、

ての感想、

を述べる

籲闇についての意見

3

:晚上应该黑一点好。因为黑一点的话,就育證见无

1

的星星。【

夜は暗いほうがい

い。暗いと,空の星が見えるから。】 鬧についての意見とその理由を述べる

4

22

日)

^

く例

5

101

:在东京容易找到ー个伸手不见五指的地方吗

?

東京では真っ暗なところを簡単に見つけられるのだろうか?】

25 :

不容易。【

簡単じやない。】 丨事実に基そ判断を行う

301 :

不容易找。为什么不容易找? 【

簡単じやない。 どうして簡単じやないの?】

45 :

因为东京全都是亮的。【

東京はどこでも明るいから。】固分の意見に理由を付ける

501

:到处都是亮的。在曰本东京你说有什么解决办法?

どこでも明るい。 日本の東京では何か解決方法があるのだろうか?】

68 :

解决的办法?日本?我觉得他们只喜欢亮,不喜欢黒。

解決方法?日本では?人々は明るレ、

のだけが好きで,暗 !/、

のが好きではなレヽよう

,

思える。】

材文の主題に迫る批判的な見方を示す

701 :

为什么你这么想? 【

どうしてそう思うの?】

85 :

因为我觉得日本用的电太多了。【

だって, 日本ではたくさん電気が使われている

と思うから。】

丨事実と関連づ丨子,論理的に説得する

4

22

日)

4

では,

0 1

の働きかけを受け,

3

男は東京とふるさととの夜を比較し,望ましい闇

のあり方など理由をつけながら,自分の意見を述べている。そ

して,例

5

でも,

0 1

との

やりとりの中で,

3

男は,東京は明るすぎること凼)を認識し,人々は明るいのだけ

が好きで電気を使いすぎている岐,

83

〉 と自分なりの意見を述べている。 これらの発

話の流れから,

3

男が母語を媒介としながら, 「

夜は暗くてはいけないか」という学年相

応の教材文の主題の理解に迫り,思考を深めてレヽることが分かる。

以上,母語力が十分でない

3

男に対し,母語学習支援は,母語による抽象的概念の理

解,母語帝母文化に密着した経験を弓

|

き出し活性化することで,母語による思考の促進

に働きかけている事例を見てきた

0 —

方,

3

男も母語による働きかけを受け,思考のリ

ソースが豊かになり,自ら思考

'

を深め,教材文の内容理解に迫る可能性が示唆されたと

(13)

両 言 語 グテ ラシ ー獲 得 をど う支 蔆 す るか 一 〇 〇〇'のカ が 不 ナ 分 な 子 ど 右の場 合 ノ汚 毋 夢子 ・朱 荏柴 い え よ う。 4.3.3母 語 を学 ぶ 意 欲 を引 き上 げ る 上 述 した よ うに,在 籍 学 級 の 教 科 内容 と関連 づ けた 母 語 学 習 は,S男 の母 語 にお け る 言 語 面,認 知 面 の 発 達 に働 きか けて い る こ とが確 認 で きた 。 一 方,母 語 学 習 を通 して, S男 の母 語 学 習 に対 す る意 欲 の 変 化 も見 られ る よ うに な った 。 支 援 開 始 当初,S男 は よ く 「た く さん の 単 語 を 忘 れ た 」こ とを 口に して い た。 しか し,支 援 開始1年 後 に な る と, 中国 語 の 文 章 が少 し難 しい と言 っ て い た が,読 む の を嫌 が る よ うな反 応 は全 くな か っ た。 そ して,「 中国語 を 学び た い」 とい う願 望 を 自 ら表 出す る こ とが多 くな った 。 さ らに,連 携 支 援 の終 了時(中 学 校 を 卒 業 した 時点)に1ま,S男 は 「中 国語 の漢 宇 を 覚 え て,日 本 語 を勉 強 して 覚 え る」 と希 望 を表 明 した。 漢 字 を勉 強 した い理 由 にっ い て は,「 中国 に帰 って,紙 とか も らっ た り,そ れ をぱ っ と読 め る。 中 国 に帰 っ て(そ れ が) で き な い か ら」 と述 べ て い る。 これ らの発 言 か ら,母 語 を 学ぶ 意 欲 がS男 の 自 らの ニー ズ か ら生 まれ た こ とが分 か る。 この よ うに,母 語 学 習 はS男 の母 語 を学 ぶ 意 欲 の 向上 に慟 きか けて い た こ とが推 測 さ れ る。 ま た,母 語 学 習 に お け るS男 の母 文 化 へ の 思 い な ど 隋意 面 の 変化 を追 究す る必 要 もあ るが,こ の 点 に つ い て稿 を 改 め て 取 り上 げ た い。 4.4第4節 のま とめ 在 籍学級の 「国語」の学習 と関連づ けた母語学習支援で は,S男 に学年相応の母語使 用の機会 を提供す ることで抽象的概念 の理解 を助 け,母 国にお ける経験 を引 き出す こと で思考の深 化を促進 し,母 語での発話 を促 し,そ れ が相乗 して母語の学習意欲 を引 き出 してい るこ とが示 された。 日本語 を母語 としない子 どもの 多 くは,来 日後,母 語 を学ぶ機会 が閉 ざされ た状態で 日本語 の学習や 日本 語のみ による教 科学習 が始 ま ることが多 い。 このよ うな状況の 中で は,子 どもたちの母語力 が弱体化 し,認 知 的発達に も空 白や 断絶 ができて しま うこ とが 少 な くない。S男 の支援 例か らは,在 籍 学級の教科内容 と関連 づけた母語 学習支援 は, 母語力 が十分 でない子 どもの思考 ・表 現の道具 と しての母語 力の発達 を促す ことに意味 が あっただけでな く,母 語学習 を一つ の基盤 と して 日本 語に よる教科 学習 を促進す る可 能1生も示 唆 された。第4節 での検 討 を通 して,母 語 の読み書 き能力が不十分な子 どもに 対 して も,在 籍学級 の教 科内容 と関連 づ けた母語学習の機 会を提 供す ることが重要 であ 一55一

(14)

母 藷 ・'継承 語 ・バ イJン か 〃教 育(7W〃β丿研 究u・ ノ・m・1MARCH2005卿 伽4殉 幽 る と い え よ う。 5.第 二言 語(二 日本 語)に お け る書 く力 の変 化 第5節 で は,「 教 科 ・母 語 ・日本 語相 互 育成 学 習」 に基 づ く国語 の学 習 支 援 にお い て, S男 の 日本 語 力,特 に書 く力 の 変 化 に 着 目 して 分 析 を行 う。 5.1分 析 の方 法 支 援 の 授 業 に お け る,教 材 文 を 読 み 取 るた め の 学 習課 題 に対 す る解 答の記 述 か ら,S 男 の 書 くカ の 変化 を 分析 す る。 書 く力 の 変 化 は 文 の長 さ,文 構造 の複 雑 さ,使 用 語 彙 の 広 が りか ら と らえ て い く。 分 析 に 際 して は表4に 掲 げ た授 業 にっ い て,授 業 中の や り と りを文 字 起 こ し した もの, 教 材 文 を読 み 取 る た め の学 習 課 題,そ の課 題 に対 す るS男 の言 ・/¥解答 を デー タ と して用 い る。 表4分 析 に用いた教材一覧

時期

教 材名(ジ ャ ンル)

実施時期

授業回数

学習

課題数

中学 1年 1期 そ こま で飛 べ た ら(小 説) 2000年5月 一7月 8回 113 大 人 に な れ な か った 弟 た ち に (小説) 2000年8月 一10月 6回 II期 自然 の瓜 さな診断役(説 明文) 2000年10月 一11月 5回 74 少 年の 目の思 い出(小 説) 2001年1月 一3月 7回 2年 皿期 字のないはがき(随 筆) 2001年9A"'10月 4回 42 IV期 縄文 土器に学ぶ(説 明文) 2001年11A'"12A 4回 34 3年 V期 夜 は暗 くてはいけないか (説明文) 2002年4月 一5.月 5回 34 VI期 故郷(小 説) 2003年1月 一2月 3回 33 この うち学習課題 については,文 レベル 以上の記 述解答を要求す る課題 を対象 と し,さ らに,そ れ らの解 答のなかで,本 文 か ら該 当部分 を抜 き出 して答 えた 「抜 き出 し型」で はな く,学 習者 自身 が本文 の事柄 を解 釈 した り,状 況 を説 明 した り,自 分の感 想や意見 を表 した 「創 出型」 の解答 を対象 に分析 を行 う。 一56一

(15)

両 言語ワテラシー獲獰をどう支授 するか一 〇i語のカか不 ナ分 な子ど右の場 合!汚 毋淳 子 ・朱荏栄 表5「 抜 き 出 し型 」 と 「創 出型 」 の例 1課 題例1解 答1教 材 文の記 述 抜き出し型母 が 迎 え に 行 っ た と き,妹 は ど ん な 様 子 で した か。 百 日ぜ き を わず らっ て い た。 し 三 月 目に 母 が 迎 え に 行 っ た と き,百 日ぜ き を わ ず らって い た 一 らみ だ らけ の頭 。3畳 の 部屋 に 寝 か され て いた 。 妹 は,し らみ だ らけ の 頭 で 三 畳

の布 団部屋 に寝か され ていた。

創出型

な ぜ 父 は 泣 い たのですか。 妹 か そ かい に行 た の はや 規 食 物 も な い,百 日ぜ き,す こ くか わ い そ うで す 。 (理由についての直接的な記述 な し) (注)上 の 表 の 「解 答 」欄 に お い て,線 部 分 は 教 材文 の 文 言 が そ の ま ま 抜 き出 され て い る と こ ろを 表 す 。 創 出型 の解 答 数 は 表6に 示 す 通 りで あ る。よっ て 以 下 の 分 析 は,S男 の解 答67例(100 文)を 対 象 に進 め る こ と とす る。 表6創 出型 解 答 の数 時期 (支援 開始後 の時 間) 1期 (1年目前 半 H期 (1年目後 半 皿期 (2年目前 半 IV期 (2年目後 半 VI期 (3年目前 半 V期 (3年目後 判

創 出型の解 答の数 2 8 13 17 11 16 67 (創出型の解 答にお ける文の数) (2文) (8文) (24文) (25文) (21文) (20文) (loo 文) (全課題数) (109) (72) (41) (40) (32) (37) 5.2書 くカ に 関す る分析 とそ の結 果 5.2.1文 の 長 さの 変化 S男 の創 出型 の記 述解 答(用 例 数 の 少 な い1期2文 は 除 く)を 対 象 に,文 の長 さを調 べ た と ころ ,表7の 結 果 が得 られ た。 なお,文 の長 さは 一 つ の文 に含 まれ る文 節 数 に よ っ て表 した。 一57一

(16)

母 語9継 承 語 σノYイ{ノンカ ノ〃教 育6んイ〃β丿砺 ヲ レ'olume1ル9ARCH2005卿 伽a彡 物 卿 表7一 文 あた りの平均文節数 時期 (支援 開始後 の 時間) II期 (1年 目後 半) 皿期 (2年 目前 半) IV期 (2年 目後 半) V期 (3年 目前 半) VI期 (3年 目後 半) 一 文 あ た りの 平 均 文 節 数 (SD) (文 の数) 2.75 (o.7i> 3.42 (1.64) 3.92 (1.50) (25文) 4.43 (2.11) (21文) 5.10 (2.00) (8文) (24文) (20文) グ ラ フ1一 文 あ た りの平 均文 節数 一 文 あ た りの 平均 文 節 数 に つ い て分 散分 析 を行 っ た結 果 ,1%水 準 で 時 期 に よ る主 効 果 が 認 め られ た(F(4,93)=3.98,p<.005)。 テ ユ ー キ ー(Tukey)に よ る多 重 比 較 に よ る と,II期 とVI期,皿 期 とVI期 の 差 は有 意 で あ っ た が(p<.05),そ れ 以外 の 平 均 の 差

は有 意 で な か っ た。 この こ とか ら,S男 の場 合,文 の長 さはVI期 の支 援 開始3年 目後 半 に入 る 頃 か ら有 意 に伸 び て い る とい え る。 在 日ブ ラ ジル 人 中 学 生 の 作 文 能 力 を調 べ た 生 田(2001)は,滞 在 年 数 が 長 く な る に し たが っ て一 文 の長 さ が伸 び て い る こ とを 明 らか に し,一 文 あ た りの 文 節数 が,「 滞 在1-3年 」 の子 ど もの場 合 で は4.94文 節,「 滞 在3-4年 」 で は6.89文 節 とい うデ ー タ を示 して い る。 今,こ の生 田 の デー タ をS男 の値 と比 較 して み る と,S男 に とっ て 「滞 在3 -4年 」 に相 当す る 皿期 か らVI期 に か け て の 平均 文 節 数 は3 .42,3.92,4.43,5.10文 と,い ず れ も生 田 の示 した6.89文 節 よ り低 くな っ て い る。 こ の理 由 と して は,デ ー タ の質 の違 いや 学習 者 の母 語 で の 読 み書 き能 力 の 差 が 推 測 さ 一58一

(17)

両 言 語 グテ ラシー獲 獰 を どう支 援 するか 一 駕「一 言 語 のカ が 不 ナ 分 な 子 ども の場 合 ∫汚 毋 淳 テζ・茱 荏柴 れ る。 まず,生 田の用 い た 自由作 文 は教 材 文 の読 解 に 関 わ る記 述解 答 に 比 べ て 自分 で比 較 的 自由 に こ とば を選 ぶ こ とがで き,そ の こ とが 文 章 の 書 きや す さに影 響 を及 ぼ して い る の で は な い か とい うこ とが 考 え られ る。 ま た 生 田の場 合,「 滞 在3-4年 」 の 子 ど もた ち は全 員 ポル トガル 語 で も作 文 が 書 け て お り,し か も この ポル トガル 語 の 作 文 は,日 本 謝 乍文 と産 出量 にお い て 「相 互 依 存 の 関 孫」(Cummins1991)に あ る こ とカミ検 証 され て い る こ とか ら,学 年や 滞在 年 数 が 同 じで も,小 学 校2年 生 まで の 教 育 しか受 けて い な いS 男 とは 日本 言哥乍文に転 移 可能 な母 語 で の 読 み 書 き能 力に 差 が あ り,そ の こ とが 文 の 長 さ の違 い とな っ て 現れ て い る と推 測 され る。 5.2.2文 構 造 の複 雑 さ の変 化 次 に,文 構 造 の複 雑 さ を従 属節 と並 列 節 に着 目 して み て い く。 従 属節 と並列 節 の 分類 は,益 岡(1997)に した が っ て行 う。 以 下,そ の 例 を掲 げ る。 (1)「 従 属 節 」(副 詞 節,名 詞 節,補 足 節 を含 む) ① 副 詞 節(例)物 を も らわ な か っ た の で,ふ くれ っ つ らを した。 ② 名詞 節(働 貝 と魚 を煮 た 栄養 は,体 の 中 に はい い。 ③ 補足 節 1)引 用節(例)ル ン トー は刺 す ま た を持 っ て,チ ャ ー を殺 そ う と思 って い た。 2)形 式 名詞 や 「の 」 につ な が る節(例)外 に誰 もい な い の が寂 しい 。 (2)「 並 列 節 」 ① 連 用 形 に よ る並 列(例)も の を煮,土 を作 る。 ② テ形 に よる並 列(働 物 を売 っ て,金 に換 えて,新 しい 家 を買 う。 以 上 の よ うな分 類 に した が っ て,創 出型 の 記 述 解 答 にお け る従 属 節 と並 列 節 の 出現 状 況 を調 べ た と ころ,表8の よ うな 結 果 とな っ た。なお 「甲府 に行 ったの とき,よ か った よ。」 の よ うに従 属節 を正 し く作 れ てい な い もの(5例)は 除 外 し,「妹 が そ か い にい た(=行 っ た)の は,や だ。」 の よ うに 表 記 の誤 用 が あ る もの は 従 属 節 に含 め る こ と と した。 一59一

(18)

母 語 ・継 覊 浮 ノfイグンカ ル 教 育(MHB)bJf究Uo/ume1MARCH2005卿 伽6殉 獅 表8従 属節 と並列節 の使 用状況 (働 支援 開始後 の時期 文の数 従属節 を含む文の数 (割合) 並列節 を含む文の数 (割合) 1期(1年 目前 半) 一 一 一 II期(1年 目後 半) 8 1(13%) 1(13%) IH期(2年 目前 半) 24 3(13%) z(a%) IV期(2年 目後 半) 25 5(20%) 3(12%) V期(3年 目前 半) 21 3(14%) 1(5%) VI期(3年 目後 半) 20 7(35%) 7(35%) グラフ2従 属節 と並列節の使用状況 表8に お い て,ま ず 従 属 節 を含 む 文 に 注 目 して み る と,VI期 にな って 従 属 節 を含 む 文 は20文 中7例 と増 加 して い る こ とが 認 め られ る。中学 生 の 日系 ブ ラ ジル 人 の作 文 を分 析 した 生 田(2001)で は,滞 在3-4年 で 日本 人 と同 じ複 雑 さを も った 文 を産 出す る よ うに な る こ とが 指 摘 され て い るが,S男 の場 合,VI期 伎 援 開始3年 目後 半,来 日4年 目) に あ っ て もい ま だ 複雑 な構 造 の 文 を十 分 に 書 け る段 階 に は 至 っ て い な い とい え る。 そ の 理 由を 考 えて み るに,や は り文 の 長 さ同様,母 語 の 読 み 書 き 能 力 の影 響 が 推 測 さ れ る。 成 田他(1997)に よれ ば,第 一言 語 の 環 境 下 に あ る子 ど もた ちは 小 学 校入 学 以 後 「長 い 文 を書 け る よ うに な る段 階」 「複 雑 な文 を書 け る よ うに な る段 階 」 「文 の長 短 を 意 識 して 書 け る よ うに な る毀 階 」 と書 き こ とば の発 達 を 遂 げ て い く とい う。 この こ とを踏 ま え て 考 えれ ば,小 学 校2年 生 を終 えて 来 目 したS男 は 「長 い 文 を書 け る よ うに な る段 階 」の 途 中 で第 一 言 語 か ら第 二 言 言諤 鏡 へ と移 動 し,し か も3学 年 分 の飛 び級 に よっ て, 「長 い 文 」 か ら 「複 雑 な文 」 へ の発 達 を遂 げ る た め の練 習 の機 会 を ど この場 で も持 ち得 一60一

(19)

両言藷グテ ラシー獲繹 をどう支接 するか 一第 一言語の1カが不 ナ分な子ど右の場 合1汚 田淳 子 ・朱荏柴 な か っ た とい うこ とが で き,こ の こ とがS男 の複 雑 な 文 の 習得 を難 し く して い る と考 え られ る。 次 に 並列 節 に 目を転 じてみ る と,従 属 節 と同 じ くVI期 に な って7例 が 見 られ るが,そ れ ま で の 時期 に は ほ とん ど出現 してい な い。この よ うに 並 立節 の 出現 が遅 い こ とは,「 並 歹櫛 は 滞 在3年 目ま では ほ とん ど現 れ ず,日 本 人 生 徒 の割 合 と同 じに な るに は 従 属節 よ り時 間 が か か る 」(生 田2001)と い う指 摘 と も合 致 す る と ころで あ る。 最 後 に従 属節 や 並 列節 を含 む個 々 の使 用 状 況 につ い て み て い き た い。 まず 例 ① と② は 従 属節 が一 っ の 文 に 一 つず つ 単独 で用 い られ て い る例 で あ る。 例 ① 戦 争 が あ るか ら,甲 府 に 行 っ た。(II期) 例 ② も の を煮,f器 を作 る。(皿 期) ① は副 詞 節 の例 だ が,こ こで は 「Aだか らB」 の よ うな1対1の 単 純 な 対応 関係 が 表 現 さ れ て い る。 また ② は並 列 節 の 例 で,二 つ の 事 柄 だ け が単 純 に並 べ られ て い る文 で あ る。 S男 の場 合,IV期(支 援 開 始2年 目)ま で は,従 属 節(12例)に して も並 列 節(6例) に して も18例 す べ て が この形 に相 当す る 。 とこ ろが その 後,一 つ の 文 の 中 に複 数 の 従 属節 を含 む ものや(例 ③),従 属 節 と並 列 節 とが 両方 用 い られ て い る文(例 ④)が 出 現 す る よ うに な った 。' 例③ 人は家の 中にい【,冬 なので,外 に誰 もい ないのが寂 しい。(VI期) ③ の課 題 は,20年 ぶ りに故 郷 を訪 れ た 主 人公 が 「寂 寥 の感 」を抱 い た理 由を 問 うもの で, 本 文 に は 主 人公 が 「厳 しい寒 さの 中」 を帰 っ て きた こ と,村 に は 「い さ さか の 活気 もな か っ た 」 こ とが 記 され て い る。S男 は こ う した 本 文 の描 写 を手 が か りに,「 冬 」 「外 に誰 もい ない 」 「寂 しい」 とい う三 つ の こ と を結 びつ け て解 答 を記 述 して い る。 例 ④ ル ン トー にはまだ話 を した くて,も(う)会 えないかも しれないので泣 い属(VI期) ④ は,幼 友 だ ち のル ン トー との別 れ の 場 面 で 「主 人公 は なぜ 泣い た の か」 とい う課 題 に 対 す る解 答 で あ る。 本 文 に は 「別 れ が つ ら くて,わ た しは声 を あ げて 泣 い た」 と しか書 一61一

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母 語 ・qtr,承語 ・バ イ{ノンカフ〃教 育`M月 β丿研 究VolumelMAR(}12005卿 惣 吻4殉 彡協 かれ て い な い が,S男 は この 「別 れ がつ ら くて」 に は,「 ま だ 話 が した い 」 「も う会 え な いか も しれ な い 」 とい う心 陦 が含 ま れ る と解 釈 し,そ の解 釈 を 「泣 い た 」 とい う行 為 と 結 び つ け て記 述 して い る。 こ の よ うに 一つ の文 の 中 で複 数 の従 属 節 や 並 列 節 を使 う とい うこ とは,よ り多 くの事 柄 を 関連 づ け て文 章化 して い るこ とに ほ か な らな い。 複 数 の節 を用 いて よ り複 雑 な 関係 性 を記 述 して い る文 は,V-W期 に14例 中5例 で あ っ た。 S男 の場 合,複 雑 な文 の習 得 は確 か に難 し く時 間 も か か って い る。 しか し支 援 開始3 年 目の後 半 か らは従 属 節 や 並 列 節 の使用 も増 え,ま た ③ や ④ の よ うな よ り複 雑 な 関係 を 表 す 文 を産 出 して い る こ とを考 え る と,S男 は こ の時 期 に至 っ て 「長 い 文 が 書 け る よ う に な る段 階」 を経 て 「複 雑 な文 が書 け る よ うに な る段 階 」 に よ うや く入 り始 め,確 実 に 発 達 の プ ロセ ス を遂 げて い る と考 え られ る。 5.2.3使 用語 彙 の広 が り こ こ で はS男 の 創 出型 解 答 にお い て,異 な り語 数 の 割 合 が どれ く らい 増 えて い るか と い う点 か ら使用 語 彙 の 広 が りを と らえて い く。 語 の認 定 は 『日本 語 の た め のCHILDESマ ニ ュ ア ル 』(大 嶋 、McWhimey1995)に 基 づ い て行 い,ま た,動 詞 の活 用 形 は生 田(2001) に した が って,た と えば 「見 る」 「見 た」 「見 て い る」 は3つ の 異 な り語 とみ な した。 Wolfe--Quintero他(1998)は 作 文 にお け る語 彙 の広 が りを と らえ るた め に,「 延 べ 語 数 ×2の 平方 根 あ た りの異 な り語 数 」 とい う方 法 を示 して い る。 こ の方 法 は 作 文 の 量 に 左 右 され ず 語 彙 の 広 が りを測 定 で き る とい う利 点 を もっ こ とか ら(生 田2001),本 研 究 で も この 方 法 を用 い て 測 っ た と こ ろ,次 の よ うな結 果 が得 られ た。 表9使 用 語彙 の広 が り 時期 (支援 開始後の時間) II期 (1年 目後 半) 皿期 (2年 目前 半) IV期 (2年 目後 半) V期 (3年 目前 半) VI期 (3年 目後 半) 延 べ 語 数(a) 37 115 149 145 158 異 な り語 数(b) 28 70 81 75 95 語 彙 の広 が り*(c) 3.25 4.62 4.69 II' 5.34 (b)*語彙 の 広 が り( c)=

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両言語グテラシー獲得をどう支 覆す るか一第 一言語のカ か不ナ分 な子ど右の場合'汚 毋淳 子 ・朱 荏 栄 グラフ3使 用語彙の広 が り 日本 語 を母 語 と しな い 子 ど もた ち を対 象 に した 語 彙 の 獲 得 に 関す る研 究 で は,滞 在 年 数 が長 くな る につ れ て 語 彙 の 数 が 増 え る こ とが 指 摘 され て い るが(一 二 三1996,生 田 2001な ど),上 の表 や グ ラ フ か らはS男 に お い て も年 を 追 うご とに使 用語 彙 が広 が って い く傾 向が 認 め られ る。 と こ ろで 自由作 文 を扱 っ た 生 田(2001)で は,語 彙 の広 が りを示 す 値 が 「滞 在3-4 年 」 で3.29,「 滞 在6-10年 」 で も3.83で あ るの に対 し,S男 の 場 合は 皿期 か らいず れ も4点 台 を越 えて い る。 これ は,S男 の取 り組 ん だ 読 み とっ た こ とを記 述す る とい うタ ス ク で は,自 分 が安 心 して楽 に使 え る こ と ばだ けで は な く課 題 が 要 求 す る こ とば を使 わ ざ る を えな い た め,そ の こ とが新 しい 語 彙 の積極 的 な使 用 に つ な が っ て い っ た の で は な い か と考 え られ る。 5.4第5節 の ま とめ 国 語 の学 習 課 題 に対 す る創 出型 解 答 を も とにS男 の書 くカ を分 析 した 結 果,3年 間 の 支 援 にお い て は,文 の 長 さが 伸 び,複 文 を使 い,使 用 語 彙 が広 が る とい う変 化 が 確 認 さ れ た 。しか し,「 第 一言 語 の読 み書 き レベル が 低 い小 学校 高 学 年 か ら中学 校 段 階 の子 ども た ち の場 合,第 二 言 語 の読 み 書 き能 力を発 達 させ る こ とは 簡 単 で は な く,時 間 が か か る も の で あ る 」(OvandoandCollier1985な ど)と い う指 摘 に も あ る よ うに,S男 の場 合 も大 きな変 化 が認 め られ る ま で に は,文 の 長 さにつ い て は支 援 を 開始 して3年 半,文 構 造 の複 雑 さにつ い て も 同様 に3年 半 と い う長 い時 間 が か か って い た 。 しか し,時 間 は か か っ て もS男 の 書 く力 が確 実 に伸 び て い る こ とは,第 一 言 語 の 読 み 書 き レベ ル が低 い こ 一63一

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母 藷 ・・継承 瑟 ・ノ¥イグンガ ル 教 育 砌 月8煽 究Volum・1MARCH2005卿 伽4殉% とが第 二言語 の読み書 き能力 の発達の可能 性を決 して否 定す るものではない こ とを教 え て くれ る。 また,自 分の解釈や考 えを書いて表す創 出型の言Qが 長 くな り,複 数の事柄 を関 連づ けなが ら多様 な語彙 を用いて書 けるよ うになった ことか らは,S男 が考え る力 をも 身 に付 けてい った ことが推測 され る。 日本 語を母語 としない子 どもたちの教科学習支援 を行 うe,rには,子 どもた ちの 目本 語力 の伸 張 とい うことだけではな く,教 科理 解が どの 程度進 んだのか とい うことや,学 習課 題の解決 過程 で どのよ うな思考力や想像 力が養 わ れた のか とい うことの追究 も重要 ではあるが,こ の点については稿 を改 めて取 り上 げた い。 さ らに,書 くことへ の動機 とい う点 か ら考 えてみ る と,S男 の支援で は課 題を巡 るや りと りを十分 に行 ってか らS男 自身 が理 解できたこ とを記述す る とい う形 を取 った ため, 作文の時間 によ く見 られ る 「書 くこ とが ないのにいやいや書か され る」 とい う状況 は一 度 も発 生 しなか った。 このよ うな書 くこ との必然性 をもたせ る授業の展開や,ま た,何 時間 もの授業 を通 して積み重ね られた作品世界への理解 や親 しみは,S男 の動機に好影 響 を与 えた と考 え られ る。 6.全 体 の ま とめ 本研 究では第一 言語の 読み書 き能 力が不十分なS男 に対す る協働支援 を取 り上げ,母 語話者支援者 か ら教科学習 と関連 づけて母語 学習を行 うことの意味を,日 本 言髷諸 支援 者か らは子 どもの書 く力の変化 を報 告 した。 口頭 でのや りと りを重視 し,在 籍 学級 の学習 と関連づ けた母語学習 は,S男 の語彙 を 拡充 し,特 に教 材文 に含 まれ る抽象 的概念 の理解 を促す ことが確 認 され た。 そ して,教 材文の 内容 に関わる子 どもの体験や既有知識 を引き出す ことによ り,文 章理解 のための 手がか りや 内容へ の親 しみ を持 たせ るこ とができた。 このよ うに在籍学級 の学習 と関連 づけた母語学習 は,課 題の正解 を教 え込 んだ り,教 材文 の重要事 項を一方的 に解説す る ための場 ではなく,子 どもが教 材文 を第二言語 で読み,考 えてい くための基盤 を創 り出 す場 とい うことが できよ う。 そ して,こ の よ うな基盤 の上 に展開 され る 目本語 による学習支援で は,S男 の 日本 語 力の伸 張が確 認 された。第5節 で示 したよ うにS男 の変化 は確 かに時間のかかるもので 一64一

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両 言語 グテラシー獲得をどう支餐 ずるか一第 一言謬のカが 不ナ分な 子ど右の場 台!汚 毋淳 子 ・朱 荏栄 は あったが,第 一言語の読み書き能力が低い こ とが第二言語 の読み書 き能力の発達の可 能性 を決 して否定す るものではない ことが示唆 された といえ よ う。 最後に,S男 の よ うに第一言語の読み書 き能力が不十分 な子 どもに対す る学習支援で の留意事項 をま とめておきたい。 ・第一言語の力が不十分な子 どもに対 して は,母 語の読み書きか ら入るのではなく,口 頭でのや りと りを重視 した支援 を工夫す ること ・子 どもの持ってい る第一言語の能力 を活用 して,在 籍学級の教科学習と関連づけた支 援 を行 うこと ・書 くことに必撚 性 を持たせ るよ うな活 動 を実施 す ること ・発 達上必要な思考力の育成 に働 きかけ るよ うな学習課題を設 定す る こと ・書 きことばの獲得 には時間を必要 とす る とい う認識 をもつ こと 一65一

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母 藷 ・纒 讙 ・ノ1イグンガ ノレ教 育`ルブん1β丿獺 ヲVolumelMARCH2005ノ 贓 伽4彡 彡卿% 引 用 文 献 Cummins,J.&Swain,M.(1986)BilingualisminEducation.Longman. Cummins,J.(1991)Interdependenceoffirst-andsecondlanguageproficiency. InBialystok,E.(ed.),LanguageCultoreandCognztlon,CambridgeUniversity Press,70-89. 一 二 三 朋 子(1996)年 少 者 の 語 彙 習 得 過 程 と言 言吾使 用 状 況 に 関 す る 考 察 在 日ベ トナ ム 人 子 弟 の 場 合一 」 『日本 語 教 育 』90号 日本 語 教 育 学 会13-24. 生 田裕 子(2001)『 在 日ブ ラ ジ ル 人 中 学 生 の 作 文 能 力 に お け る バ イ リ ン ガ リズ ム に 関 す る 実 証 的 研 究 』 平 成13年 度 名 古 屋 大 学 大 学 院 文 学 研 究 科 学 位 申 請 論 文 益 岡 隆 志(1997)『 複 文 』 く ろ しお 出 版 中 島 和 子(1997)「 継 承 語 と し て の 日本 語 教 育 序 論 」 『継 承 語 と して の 日本 講 教 育 一 カ ナ ダ の 経 験 を 踏 ま え て 一 』 カ ナ ダ 日本 語 教 育 振 興 会3-20 成 田 信 子,宗 我 部 義 則,田 中 美 也 子(1997)「 作 文 能 力 発 達 に 関 す る 縦 断 的 研 究 そ の 一 一 小 学 生 か ら 大 学 生 に 至 る 同 題 作 文 の 分 析 」 『児 童 ・生 徒 ・学 生 お よ び 日本 語 学 習 者 の 作 文 能 力 の 発 達 過 程 に 関 す る 研 究 』 平 成8年 度 文 部 省 科 学 研 究 費 補 助 金 基 盤 研 究(B)(2)研 究 成 果 報 告 書(研 究 代 表 者 長 友 和 彦)23-30. 岡 崎 敏 雄(1997)「 教 科 ・ 日本 語 ・母 語 相 互 育 成 学 習 の ね ら い 」 『平 成8年 度 外 国 人 児 童 生 徒 指 導 資 料 』 茨 城 県 教 育 庁 指 導 課

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