発達障害及びその疑いのある児童生徒を包摂した学 級経営に関する研究の動向
著者 石川 天衣, 村山 拓
雑誌名 東京学芸大学紀要. 総合教育科学系
巻 72
ページ 199‑207
発行年 2021‑02‑26
その他の言語のタイ トル
Theoretical Review on Class Management for the Class with the Students with Developmental Disabilities and the Suspected Developmental Disabilities
URL http://hdl.handle.net/2309/166808
* 1 東京学芸大学 大学院教育学研究科
* 2 東京学芸大学 特別支援科学講座 特別ニーズ教育分野(184‑8501 東京都小金井市貫井北町 4‑1‑1)
発達障害及びその疑いのある児童生徒を包摂した 学級経営に関する研究の動向
石 川 天 衣
* 1・村 山 拓
* 2特別ニーズ教育分野
(2020 年 9 月 29 日受理)
1.はじめに
文部科学省が平成 24(2012)年に実施した「通常 の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育 的支援を必要とする児童生徒に関する調査」による と,特別支援学校や特別支援学級に在籍している幼児 児童生徒や通級による指導を受けている児童生徒が増 加している1)。また,学習障害,注意欠陥多動性障害,
高機能自閉症等,学習や生活の面で特別な教育的支援 を必要とする児童生徒数について,約 6.5 パーセント 程度の割合で通常の学級に在籍していることが示され ており,今後さらに増えていくことが予想される。
著者が観察したある高校生の事例によれば,その生 徒は入学当初は「面白いやつと受け入れられていた が,学年が上がるにつれて冷やかしや無視の対象と なってしまった」ということである。そのような事例 から,クラス内の人間関係の差が生じるメカニズム や,教員,特に担任となる教員がどのような学級をつ くればよいのかという問題の着想を得ることができ る。
ところで,障害のある子と障害のない子が子ども同 士の関係を築くためには,インクルーシブ教育を推進 し,幼少期から障害のある子どもとない子どもが共に 生活することが望ましいとする指摘は少なくない。し かし,児童生徒が,ただ一緒にいるだけでは冷やかし や無視の対象となってしまうことも考えられる。ま た,学校・学級の中で教師の影響力は大きいと考えら れるため,発達障害のある子及びその疑いのある子を 含んだ学級の教師に,どのような学級経営を進めるこ
とが期待されるのかを検討することには意義があると 考えられる。
本稿では,発達障害及びその疑いのある子どもが在 籍する通常学級において,子どもが安心感,学習意欲 等を持って学校生活を送ることができるような学級経 営の方法や視点を探ることを目的とする。あわせて,
特別支援教育の視点を踏まえた学級経営の課題につい て検討することを通して,障害のある子ども,支援を 要する子どもの学級経営の理論的課題を明らかにする ことをねらいとして,これまでの研究動向を整理す る。
2.調査方法
国立情報学研究所学術情報ナビゲータ(CiNii),お よび国立研究開発法人科学技術振興機構科学技術情報 発信・流通総合システム(J-STAGE)を用い,2012 年 から 2020 年までに刊行された国内学術雑誌を検索,
抽出した。検索,抽出は 2020 年 8 月に実施した。検 索には,「発達障害 学級経営」,「特別支援 学級経 営」の記述子を用いた。それぞれで抽出された検索結 果より,重複する記事,座談会形式の記事,Q&A形 式の記事,発行機関の構成員の業績一覧などを除外し たところ,合計 210 件の学術記事が抽出され,それら を検討の対象とした。
3.結果と考察
本章では,まず抽出結果について,対象となる校種
やそれぞれの校種に応じた視点を整理し(第 1 節),
3 つの観点に基づいて研究をレビューする(第 2 節か ら第 4 節)。 3 つの観点は,著者らの研究関心を加味 したうえで,抽出結果全体の傾向を概観し,個に応じ た指導と集団指導,ネットワーキング,いじめや不登 校とした。これらは厳密な意味で,相互に独立する観 点ではないが,今日の学級経営研究の動向を探るため の手がかりとして有効ではないかと考え,設定するこ ととした。
3.1 研究対象となっている校種について
まず, 2 で示した 210 件が,それぞれどの校種につ いての検討,論考を行っているかを集計したところ,
小学校を対象としたものが 124 件,中学校を対象とし たものが 70 件,高等学校を対象としたものが 46 件で あった。これらには,一つの論考で複数の校種を扱っ ているものも含まれる。また,いずれにも分類できな いものは 63 件あった。学校種が明示されていないも の(大学の教職課程履修学生の意識を調べているもの や,海外の事例,歴史的な事例等を含む),特別支援 学校や幼稚園等を対象としているもの,教員研修など を対象としているものなどが含まれている。
小学校を対象とした研究は,いわゆる担任業務とし ての学級経営に関するものから,授業改善と連動させ た学級づくりに関するものや,クラス内の人間関係形 成に関わるものまで,広範に展開されていることが確 認できた。また,中学校,高等学校では担任としての 役割や機能よりも,どちらかというと特定の教科の授 業や,生徒指導・特別活動・進路指導などと関連づけ て学級経営について考究しているものと,生徒の心理 的支援に焦点を当てているものが目立った。複数の校 種について検討している研究では,学校組織マネジメ ントに関するものや,学校心理学やスクールカウンセ リングと関連づけて学級経営を展望しているもの,教 師の意識を主な検討対象としているものが見られた。
3.2 個に対する指導と集団に対する指導
具体的な検討の一つ目の観点として,個に対する指 導と集団に対する指導を設定した。通常学級の中で発 達障害がある子及びその疑いがある子に対する指導に は,個に応じた指導と集団に対する指導がある。個に 応じた指導は,学習指導要領等に記載されている。
小学校の学習指導要領では,各教科等の指導に当 たっては,児童が学習内容を確実に身に付けることが できるよう,学校や児童の実態に応じ,個別指導やグ ループ別指導,繰り返し指導,教師の協力的な指導な
ど指導方法や指導体制を工夫改善し,個に応じた指導 の充実を図ることなどが記載されている2)。
中学校学習指導要領でも同様に,各教科等の指導に 当たっては,生徒が学習内容を確実に身に付けること ができるよう,学校や生徒の実態に応じ,個別指導や グループ別指導,学習内容の習熟の程度に応じた指 導,教師の協力的な指導など指導方法や指導体制を工 夫改善し,個に応じた指導の充実を図ることと記載さ れている3)。
高等学校では,各教科・科目等の指導に当たって は,教師間の連携協力を密にするなど指導体制を確立 するとともに,学校や生徒の実態に応じ,個別指導や グループ別指導,教師の協力的な指導,生徒の学習内 容の習熟の程度等に応じた弾力的な学級の編成など指 導方法や指導体制を工夫改善し,個に応じた指導の充 実を図ることと記載されている4)。
しかし,個に応じた指導だけでなく,集団に対する 指導も重要である。深沢・河村(2017)によると,特 別支援対象児の学級適応には学級集団の状態によっ て,学級適応が促されたり,反対に学級集団の状態が 良好でない場合には二次的な障害としての不適応を引 き起こしやすいことがあるとされる5)。特別支援対象 児にとって比較的学級適応の良好な学級集団であって も,学級成員の大部分を占める非対象児にとっては学 級適応が良好ではないことがあるということもある。
そのため,特別支援対象児が在籍する学級を担任する 教師は,学級の状態を的確にアセスメントし,特別支 援対象児と非対象児の双方の学級適応を考慮した学級 づくりをしていくことの必要性が述べられている。
指導を行う際の教師の姿勢はどのようなものが望ま しいのだろうか。田中・奥住(2020)によると,教師 が日常的な指導の中で否定的な言動を多く行うことに より,子どもが日常的に教師への信頼感を持つことが できなくなることや不信感や恐怖感を持つことにつな がるとされる6)。指導の中で肯定的な言葉がけをする ことにより子どもたちが自己肯定感を得られ,学習意 欲を向上させることができていると指摘されている。
教師が集団の場で否定的な言動をとることによって,
否定的な言動の直接的な対象となる子どもだけでな く,他の児童生徒にも影響がもたらされる。そのこと により,いじめやからかいの対象となってしまうこと も考えられる。そのため,指導の中での教師が肯定的 な姿勢で児童生徒に接する必要があるのではないかと 考えられる。
中学生や高校生を念頭においた研究に注目すると,
また違った問題が見えてくる。中学生や高校生になる 東 京 学 芸 大 学 紀 要 総合教育科学系 第 72 集(2021)
と学習内容が一段と難しくなるため,個に応じた指導 はかなり重要になる。しかし,中学校や高等学校では 教科担任制であるため,様々な教科担任の教師との連 携が必要になったり,学級経営と教科等の学習の一貫 した指導が難しい場合が考えられる。また,中学校や 高等学校では,生徒が担任教師と関わる時間が小学校 と比較すると少なくなることにより,担任教師の側か らすると,学級づくりに十分な時間を割けないことが 考えられ,集団に対する指導は難しい場合が考えられ る。そのような状況でどのような問題が想定されるの であろうか。丹羽(2015)によると,特別な教育的支 援を必要としている子どもの多くは,周囲の理解と適 切な配慮を必要とするが,中学生や高校生になると周 囲との違いを悟られないように様々な行動を起こすと いう7)。例えば,その場を取り繕ったり話をしなく なったりすることや,周囲に対して威圧的な態度をと ることもあるとされる。それらの行動が誤解されて,
人間関係が上手く行かなくなり,いじめられたり友人 がいなくなることがあると述べられている。
では,どのような指導や支援が考えられるのだろう か。実際に,教科指導の中で集団に対する指導を実践 的に検討,記述した玉木・久田(2019)によると,高 等学校の英語による教科指導の中で,ノートチェッ ク,Reading,成績評価などの授業方法の改善や授業 内での約束事を決め,生徒を丁寧に観察,指導し,生 徒との密なやりとりをすることによって,人間関係の 変化や生徒個人のゆとりが生まれ,結果的に学習意欲 を向上させることが示されている8)。クラスの中で,
在籍した発達障害の疑いのある生徒を中傷するような 雰囲気はなくなり,その生徒の異質性を彼の個性と認 めるようになったと述べられている。
これらのことから,中学生や高校生においては,個 別指導の中で自分の特性を理解する指導や,好ましく ない行動について理解してもらう指導をきちんと行い ながら集団に対する指導を行う必要がある。その中 で,障害のある生徒及びその疑いのある生徒がいじめ られたりしているような集団の中では,その生徒が尊 敬,尊重されるような活動が展開されることが求めら れる。そのためにきちんと生徒を見て得意不得意や人 間関係を把握しながら,尊敬されるような活動を行う ことが大切であると考える。
個に応じた指導と集団に対する指導については,そ の指導内容だけでなく,両者の関係性についても様々 な見解が挙げられている。個に応じた指導と集団に対 する指導は,どちらも重要なものであり,切り離して 考えることはできないという見解がある。高橋(2015)
の研究によると,個に応じた指導では,教師と個がつ ながりながら子ども同士をつなぐことが授業内で展開 されている。集団に対する指導では教師と子どもや子 ども同士のつながりが,学習活動に様々な形で取り組 まれるなかで醸成され,子ども同士のつながりと理解 を広げられることになる9)。これらの相互作用から,
学級が集団としての機能を持ち始めると考えられる。
このように,個に応じた指導と集団に対する指導は,
独立したものではなく,相互に関連しているいるもの であるという考え方が示されている。
一方で,集団づくりに関して深沢・河村(2019)は 異なる見解を述べている。深沢・河村(2019)では,
特別支援対象児童の在籍数が増えるにしたがって,周 囲児の学級適応が良好でないという傾向があると示さ れている。クラスの中で発達障害のある子及びその疑 いのある子に教師の目が向きがちになってしまうこと による,個別指導の課題が挙げられる10)。周囲の児童 生徒の満足感や充実感の低下が気づかれず,それに配 慮した対応がなされていないためであると考えられて いる。そのため,担任は個別指導に力を入れるという よりは,集団づくりに力を入れて個別指導に関しては 支援員やチームティーチング(TT)を用いて指導し ていくことが述べられている。このように,集団に応 じた指導と個に応じた指導を分担するなどしていく考 え方であるため,集団に対する指導と個に応じた指導 がつながっているという考え方とは異なっている。こ のように集団に対する指導と個に応じた指導との関係 の捉え方は様々であり,その捉え方によって,学級経 営にあたる教師の対応や,関連する職種(例えば支援 員)との役割分担等も異なってくる。
3.3 学級経営とネットワーキング
二つ目の観点として,ネットワーキングに関わるも のを取り上げる。越(2015)は,学級集団の不適応予 防機能に注目し,ネットワーク論の観点から,その特 徴を明らかにしている11)。それによれば,学級集団 は,多様性,交流内容,課題の共有,同質性,欲求の 達成という五つの特質をもち,それらが教育目標のも とで機能することによって,不適応予防機能を有効に 発揮するとしている。つまり,多様な交流の過程で信 頼や支援が交換され,他者の同時的な存在によって,
自己肯定感が得られたり,視点の展開・新たな行動の 展開が期待され,相互作用の繰り返しのなかで,適切 な能力やスキルの獲得が可能となり,それらにささえ られた達成や欲求充足を経験するということである。
そのように学級は共通アイデンティティ・グループと
東 京 学 芸 大 学 紀 要 総合教育科学系 第 72 集(2021)
して機能しているという。杉本(2016)は集団随伴性 に焦点を当て,トークンエコノミーシステムを導入し た給食準備指導を小学 1 年生に対して実施した成果を 示している12)。
また,学級内では,友人集団のように,メンバー間 での相互作用やそれに伴って生じる愛着や親密感を基 礎とする集団の共通ボンド・グループがあり,同書で は,学級間で多くの成員による相互作用を基礎とした 集団機能が発揮されるためには,その共通ボンド・グ ループが学級に対して開かれた集団になることが必要 だと指摘されている。そこで例として挙げられている のがグループ学習や係活動による関係構築である。教 師は授業において,共通ボンド・グループとは無関係 に,学習集団を組織することがあり,結果的にそこで 新たな人間関係が発生することがある。 3
.
1 で,教科 学習等と関連づけて検討したものが見られることをす でに指摘したが,柳橋・佐藤(2014)では小学校 1 年 生の算数科の授業改善にユニバーサルデザインの視点 を取り入れた実践事例13),藤本ほか(2017)では,小 学校理科の河川を取り上げる学習における対話的な学 びを促進するための教師の働きかけ14),佐見・植田(2018)では,中学校保健学習と関連づけて,健康や 安全の問題への重大性の認識と学校における日常生活 の安全性に対する意識の向上についての取り組みが,
それぞれ報告されている15)。さらに,山中(2018)は 社会心理学的な観点から,「対話的な学び」に焦点を 当て,それらの集団構造や教室での人間関係,友人関 係への変容に注目する研究が多くみられることを指摘 している16)。
このような授業と学級経営を関連づけた検討は,学 校が授業や学級活動・ホームルーム(HR)活動を通 した働きかけをさまざまな形で行っているという特質 をある意味象徴するものといえる。再び越(2015)に 依拠すると,学級活動は,学級編成によってつくられ た個々人の寄せ集めの学級集団を,共通ボンド・グ ループにする行為であるという。グループ学習や班活 動,係活動などを通して,自分の共通ボンド・グルー プ以外の級友と協同行動をすることによって,新たな ボンドが形成され,その繰り返しによって学級の多く の共通ボンド・グループが重なりながらつながってい く,とされる17)。このような視点は,発達障害を有す る等により,支援を必要とする児童生徒を包摂する学 級において,特に有効性を発揮する。冒頭の例でいえ ば,当初,少なくとも表面的には受け入れられてきた 生徒が,いずれ排除の対象となっていくプロセスは,
そのような共通ボンド・グループの形成が十分でな
かった,あるいは当初の(一見受容的な)人間関係 が,ボンドとして成熟するには至らなかったと考える ことができるためである。そのように考えたときに,
いわゆる通常の学級において,発達障害等を有する子 どもが学習できるような環境をつくろうとするとき に,ボンドとして機能する教材の開発は今後さらに課 題になると考えられる。
3.4 不登校やいじめ
三つ目の観点として,不登校やいじめに関するもの を取り上げる。これらは,クラス内の人間関係の病理 的な側面とでもいえるものであるが,学級経営の点か らみたときに,その予防的対応や予防的風土の形成と いう点で,注目できるものでもある。
いじめは身近に起こるものであり学級内でも実際に 起こっている。文部科学省の調査によると,平成 30
(2018)年度のいじめの認知件数は 543,933 件である。
前年度のいじめの認知件数から 129,555 件の増加がみ られた。「いじめにより生命,心身などに重大な被害 が生じた疑いがある」重大事態も 602 件となり,いじ め防止対策推進法の施行以降,最多となった18)。しか し,いじめは現在だけの問題ではなく,以前からの問 題である。この件数の増加にはいじめの定義の変遷が 関係している。現在の定義はいじめ防止対策推進法の 施行に伴い,平成 25(2013)年度から制定されてい る19)。「いじめ」とは,「児童生徒に対して,当該児童 生徒が在籍する学校に在籍している等当該児童生徒と 一定の人的関係のある他の児童生徒が行う心理的又は 物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて 行われるものも含む。)であって,当該行為の対象と なった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの」とい うものである。いじめは以前から存在しているとされ るが,定義の変遷によりいじめの範囲が広くとらえら れるようになったことが関係している。そのため,こ れまでいじめと認められていなかった行為もいじめと 認められたため件数の増加がみられるようになったこ とには留意する必要がある。
また,現代はインターネットの普及により
SNS
を 用いたいじめなどが行われるようになったため,教室 内で行われるものだけでなく,教員の目が行き届かな い範囲で行われるいじめも多くなっている。発達障害 及びその疑いのある子どもは人間関係が上手くいかな くなり,トラブルやいじめにあうことがある。春日・上嶋(2017)は,自閉症の特徴の一部を軽度に持って いるために学級の対人環境に適応が難しく,いじめの 対象となりはじめている児童の事例を挙げている20)。
その事例では,障害傾向などから対人関係が上手くい かない児童を含み,いじめ等の問題を持つ学級集団や 本人に対し,きちんと指導や支援を行うことにより,
双方の問題行動は減少し適応的な行動が増加し,楽し く安心して活動できる学級が醸成され,相互に補い楽 しむ行動を向上させたと述べている。いじめの問題に 対応するには,本人への指導や支援だけでなく,周り の環境も変えていくことも必要になると考えられる。
また,不登校は現在,小学校では学年に 1 人,中学 校ではクラスに 1 人いるといわれている。文部科学省 の平成 29(2017)年度の調査では小・中学校での不 登校児童生徒数は 144,031 人であり,全体の中で不登 校児童生徒の割合は 1.5 %に及ぶ21)。
文部科学省の調査の中で用いられた定義は「不登校 児童生徒」とは「何らかの心理的,情緒的,身体的あ るいは社会的要因・背景により,登校しないあるいは したくともできない状況にあるために年間 30 日以上 欠席した者のうち,病気や経済的な理由による者を除 いたもの」と定義している22)。そのうえで文部科学省 では不登校を 6 つに分類している。一つ目の分類は
「学校生活上の影響」の型である。これはいやがらせ をする子どもの存在や,教職員との人間関係等,明ら かにそれと理解できる学校生活上の影響から登校しな い又はできないタイプである。二つ目の分類は「あそ び・非行」型である。これは遊ぶためや非行グループ に入ったりして登校しないタイプ,三つ目の分類は
「無気力」型である。これらは無気力でなんとなく登 校しない,登校しないことへの罪悪感が少なく,迎え にいったり強く催促したりすると登校するが,長続き しないタイプである。四つ目の分類は「不安など情緒 的混乱」の型である。これは登校の意思はあるが身体 の不調を訴え登校できない,漠然とした不安を訴え登 校しない等,不安を中心とした情緒的な混乱によって 登校しない又はできないタイプである。五つ目の分類 は「意図的な拒否」の型である。これは学校に行く意 義を認めず,自分の好きな方向を選んで登校しないタ イプである。六つ目の分類は「複合」型である。これ は不登校状態が継続している理由が複合していて,い ずれが主であるかを決めがたいタイプである。これら はあくまで分類した場合のものであり,全員が当ては まるわけではなく様々な要因が考えられる。このため 教員は子どものおかれている状況や背景などを的確に 捉え,子どもと信頼関係を築きながら対応することが 求められていると考えられる。
また,発達障害が不登校と関連づけられることもあ る。丹羽(2015)は,いじめや虐待を受けていたり,
不登校やうつ病等を抱えている生徒の中には,発達障 害等の障害特性が関係している場合もあると述べてい る23)。また,岡野(2019)によると発達障害の特性が 直接問題行動につながる事はないが,発達障害の特性 により学力や対人関係の問題が生じることがあるとい う。それについて,周囲の理解が十分でないために,
無理強いをしたり注意や叱責が繰り返されたりするこ とがあるとされる24)。失敗やつまずきの経験だけが積 み重なってしまい,ストレスや不安感が高まった結 果,自信や意欲,自己評価,自尊感情の低下や適応困 難,不登校や引きこもり,反社会的行動等の二次的な 問題が起こる場合がある。橋爪・衣斐・谷尻・武田
(2017)は,発達障害があり人とのコミュニケーショ ンがうまくいかずストレスを抱えてしまう生徒の事例 を挙げている25)。その中で我慢が限界に達し,翌日か ら学校に行かないとう場面が示されている。コミュニ ケーションや人間関係がスムーズに成立しなくなるこ とにより,不登校を誘発する可能性があるという。こ のように,発達障害が直接の原因となるわけではなく ても,人間関係やコミュニケーションが不調になった り,不登校につながったりすることがあるため,子ど もの特性を理解し,人間関係やコミュニケーションの 不調や,望ましい人間関係の構築や維持,適切なコ ミュニケーションの成立のための対応が有効であると 考えられる。
また一つの手がかりとして,学校に対するポジティ ブな帰属感を生徒が持つことができているかに注目す る研究がある。例えば藤原(2020)は,学校生活にお ける主体的で積極的な関与や心理状態を測る上で,ス クールエンゲージメントの概念に注目し,スクールエ ンゲージド尺度を作成し,その尺度が学年や性差によ らず,個人の学校生活への関与を測定することができ たことを示しているが,調査対象の拡大や縦断研究の 必要性もあわせて指摘している26)。
4.まとめと今後の課題
本稿では,発達障害及びその疑いのある子どもの在 籍するクラスにおける学級経営の論点や実践的課題を 探るため,2012 年から 2020 年の研究動向を調査した。
概略していえば,特別支援を要する子どもが,学級集 団の中でどのように包摂されうるか,またそのことに どのような課題が含まれるかを検討した。そして,そ れらを学校種別に整理したうえで,個と集団の関係,
ネットワーキング,いじめや不登校の三つの観点か ら,その特徴を検討した。まず,全体の傾向として
は,小学校を対象とした研究が比較的多くみられ,担 任教師と授業者が多くの時間で同一になる小学校にお いて,教師が重層的な働きかけを行っていることが示 された。また学級内の人間関係の形成や維持に,学級 の力学を使っていること,また校種を問わず,教科学 習の授業も共通ボンドとして活用されることによっ て,その働きかけが展開されていることが確認でき た。そして,いじめや不登校との関連においては,発 達障害が直接のきっかけとなるわけではないものの,
不登校リスクとして学級経営研究の中でも言及される ことを確認した。
今後の課題として,四点述べる。第一に,特別支援 教育で重視されている個に応じた指導と集団での指導 とが,学級経営において重層的,相互補完的に展開さ れていることは以前から経験的に知られてきているも のの,そのメカニズムや成立要因に注目した研究が必 ずしも多くないことである。ネットワーク論などの知 見も借りながら,事例の検討を積み重ねることによる 研究の展開が必要と考えられる。第二に,通常学級で 支援を必要とする子どもを包摂するような学級経営や 学習活動を展開するうえで,共通ボンドとなるような 学習材の開発である。これもすでに多くの実践の展 開,蓄積があるはずであるが,学級経営という営為の 多義性も手伝って,十分な焦点化がなされているとは いえないことにも注意する必要がある27)。第三に,子 どもの自尊感情や安心感,学校・学級への帰属感等の 心理状態やそれらに応じた支援の課題と可能性の検討 である。子どもが安心して在籍し,生活・学習できる ための学級経営の特徴を探ることが引き続き必要と考 えられる。第四に,発達障害やその疑いのある子ども が包摂されるクラスでの学級経営において,発達障害 に伴うニーズはどのように反映されるのか,周囲児の 理解はどのように醸成されるのか,その機制を検討す ることである。これは学級経営を担う教師への聞き取 りや参与観察を通した検討が必要となると考えられ る。これらの課題を通した,子どもの包摂のための学 級経営の理論的,実践的探究が今後の課題となる。
引用・参考文献
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tokubetu/material/__icsFiles/afieldfile/2012/12/10/1328729_01.
pdf(最終閲覧日,2020 年 9 月 7 日),東京(文部科学省),
2012 年
2 )文部科学省:小学校学習指導要領(平成 29 年度告示)解 説総則編,東京(東洋館出版),2018 年
3 )文部科学省:小学校学習指導要領(平成 29 年度告示)解 説総則編,京都(東山書房),2018 年
4 )文部科学省:高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)解 説総則編,東京(東洋館出版),2019 年
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12)杉本任士:相互依存型集団随伴性にトークンエコノミー システムを組み合わせた介入による給食準備時間の短縮
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13)柳橋知佳子,佐藤愼二:通常学級における授業ユニバー 東 京 学 芸 大 学 紀 要 総合教育科学系 第 72 集(2021)
サルデザインの有用性に関する実証的検討:小学 1 年生
「算数科」を通した授業改善を通して,植草学園大学紀要,
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20)春日作太郎・上嶋洋一:発達障害傾向の小 4 男子のいじめられに関する臨床心理技法を応用した学級経営と個別
補習による指導 : 担任教師とカウンセラーの連携による 学級全体の健全化,都留文科大学大学院紀要,第 21 巻
, pp.131-149, 2017 年
21)文部科学省:平成 29 年度 児童生徒の問題行動・不登校 等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要,https://
www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/siryo/__
icsFiles/afieldfile/2018/12/25/1411547-2.pdf(2020.8.5 閲覧),
2018 年(再掲)
22)文部科学省:平成 30 年度 児童生徒の問題行動・不登校 等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要,https://
www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/000021332.pdf,(2020.8.6
閲覧),2019 年23)丹羽(2015)前掲論文
24)岡野由美子:通常の学級における,障害理解教育に関す る授業実践―発達障害のある児童生徒理解を図る授業実 践事例を通して―,人権教育,第 2 巻第 6 号,pp.145‑153,
2019 年
25)橋爪順子・衣斐哲臣・谷尻治・武田鉄郎:発達障害のあ る生徒に対する支援の在り方についての質的研究,学校 教育実践研究 和歌山大学教職大学院紀要,pp.169‑177,
2017 年
26)藤原和政:中学生用スクールエンゲージメント尺度の作 成,心理学研究,第 91 巻第 2 号,pp.125‑132,2020 年 27)白松賢:学級経営の教科書,東京(東洋館出版),2017 年
*1 Graduate School of Education, Tokyo Gakugei University (4‑1‑1 Nukuikita-machi, Koganei-shi, Tokyo, 184‑8501, Japan)
*2 Tokyo Gakugei University (4‑1‑1 Nukuikita-machi, Koganei-shi, Tokyo, 184‑8501, Japan)
発達障害及びその疑いのある児童生徒を包摂した 学級経営に関する研究の動向
Theoretical Review on Class Management for the Class with the Students with Developmental Disabilities and the Suspected Developmental Disabilities
石 川 天 衣
* 1・村 山 拓
* 2ISHIKAWA Takae and MURAYAMA Taku
特別ニーズ教育分野
Abstract
In this paper, the theoretical review on class management for the class with the students with the developmental disabilities and the suspected developmental disabilities for the purpose of research on the theoretical and practical issues for the class management. In addition, the topics for the inclusion for the students with the special needs into the class groups and the related issues are surveyed. The results are categorized into the levels of schools, and the features of the research are analyzed on three viewpoints, the relation between the instruction for the individuals and the one for the groups, the networking, and the bullying and school refusal. Mainly, the research for the elementary schools are found, and they shows the classroom teachers’ maulti-layered approach with the class management and the academic teaching. Many teachers utilizes the class dynamics for the formation and maintanance of the students’ human relationships and the academic teaching and instruction as the common bond. With regard to the bullying and school refusal, the developmental disabilities are refered not as the direct cue but as the risk for the school absenteeism.
Keywords: Class Management, Developmental Disabilities, Regular Classes
Department of Special Needs Education, Tokyo Gakugei University, 4-1-1 Nukuikita-machi, Koganei-shi, Tokyo 184-8501, Japan
要旨 : 本稿では,発達障害を有する子どもの在籍するクラスにおける学級経営の論点や実践的課題を探るた め,2012 年から 2020 年の研究動向を調査した。そのうえで,特別支援を要する子どもが,学級集団の中でど のように包摂されうるか,またそのことにどのような課題が含まれるかを検討した。そして,それらを学校種 別に整理したうえで,個と集団の関係,ネットワーキング,いじめや不登校の三つの観点から,その特徴を検 討した。まず,全体の傾向としては,小学校を対象とした研究が比較的多くみられ,担任教師と授業者が多く の時間で同一になる小学校において,教師が重層的な働きかけを行っていることが示された。また学級内の人 間関係の形成や維持に,学級の力学を使っていること,また校種を問わず,教科学習の授業も共通ボンドとし
中でも言及されることを確認した。
キーワード : 学級経営,発達障害,通常の学級