渦対振動子の長波短波共鳴相互作用が引き起こす液 滴の自発運動

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(1)

九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

渦対振動子の長波短波共鳴相互作用が引き起こす液 滴の自発運動

伴, 貴彦

同志社大学理工学部

畑田, 洋祐

同志社大学理工学部

塩井, 章久

同志社大学理工学部

https://doi.org/10.15017/14275

出版情報:応用力学研究所研究集会報告. 20ME-S7 (3), 2009-02. Research Institute for Applied Mechanics, Kyushu University

バージョン:

権利関係:

(2)

応用力学研究所研究集会報告

No.20ME-S7

「非線形波動の数理と物理」

(研究代表者 矢嶋 徹)

共催 九州大学グローバル

COE

プログラム

「マス・フォア・インダストリ教育研究拠点」

Reports of RIAM Symposium No.20ME-S7 Mathematics and Physics in Nonlinear Waves

Proceedings of a symposium held at Chikushi Campus, Kyushu Universiy, Kasuga, Fukuoka, Japan, November 6 - 8, 2008

Co-organized by

Kyushu University Global COE Program

Education and Research Hub for Mathematics - for - Industry

Research Institute for Applied Mechanics Kyushu University

February, 2009 Article No. 3 (pp. 15-20)

渦対振動子の長波短波共鳴相互作用が 引き起こす液滴の自発運動

伴 貴彦

(BAN Takahiko),

畑田 洋祐

(HATADA Yosuke),

塩井 章久

(SHIOI Akihisa)

(Received February 2, 2009)

(3)

1

渦対振動子の長波短波共鳴相互作用が引き起こす液滴の自発運動

同志社大学理工学部 伴貴彦

(Takahiko Ban)

畑田洋祐

(Yosuke Hatada)

塩井章久

(Akihisa Shioi)

概要

物質移動を伴いながら液滴を成長させると,界面不安定性によって液滴内部に自発 的に渦対が発生する.発生した渦対は液滴界面に沿って回転し,やがて振動する.液 滴は内部の渦対の運動と同期して振動する.渦対の運動は章動を行いながら歳差運動 をする回転ゴマに類似している.その章動する渦対は,連成した振動子のように相互 作用し,章動振幅は変調する.その包絡線の周期が歳差運動の周期と一致すると,長 波短波共鳴相互作用が生じ,液滴の運動が劇的に変化する.

はじめに

二次元渦糸群は,閉じた理論体系を持ち,渦糸群の運動はよく理解されている.そ の中でも最も単純な場合は,符号が異なった循環を持つ二つの渦-すなわち渦対であ る.循環の強度が等しいときは直進し,強度が異なると重心の周りで定常に回転する.

しかしながら,液滴などの球形セルに渦対を拘束すると,同一平面状に存在していた 渦対は立ち上がって,渦対の中心間を結ぶ軸に垂直な形状になり,上述とは異なる運 動様式が表れることが実験的に分かった1).本研究では,渦対のこの新規な運動につ いて議論する.

渦対の生成方法に,界面不安定性が伴う油相中の液滴を利用する2,3).物質移動が,

液滴から連続相に生じる際に,液滴表面に溶質の噴出(

eruption

)が起こり2),液滴 内部に流れが発生することがある.液滴を成長させ続けることにより,内部の流れが 液滴表面の形状に沿って発展するため,自己組織化された流れ-渦対へと発展する.

液滴内部の渦対の運動は,液滴の成長速度に依存し,変化することが分かった.また,

渦対の運動に連動して液滴自体が自発的に運動し,渦対の長波短波共鳴相互作用によ って,液滴が高速回転運動を示すことがわかった.

実験

連続相としてトルエンを使用した.ガラス製の容器に連続相を満たし,ステンレス 製の毛管(内径および外径:

1.2mmx1.6mm

)を垂直に設置し,その先端に所定濃度

(4)

のアセトンを含む水滴を,シリンジポンプを用いて生成した.物質移動は液滴から連 続相に向かって起こる.シリンジポンプの体積流量(

25

100μL/min

)を調節して,

液滴の成長速度を変化させた.液滴内部にアルミナ粉末を加え,液滴の側面もしくは 下部から高速度カメラにて,液滴の運動および液滴内部の流動パターンを撮影した.

Fig

1

に,液滴の側面と下部から撮影したときの,典型的な液滴運動の写真を示す.

側面からの撮影時の運動の変位は液滴表面のある点の位置の液滴中心部からの変位 によって定義し,二次元運動の変位は,液滴表面上のある点の軌跡の経時変化によっ て定義する.

Fig.1 Typical motion of droplet from (a) side view and (b) bottom veiw

実験結果

この実験系には,二つの推進力-液滴内外に生じる濃度差によって生じるアセト ンの物質移動と液滴の成長による一様な流れ-が加わっている.液滴中のアセトン濃 度

C

0.4vol%

以下では,液滴内

部に組織化された流れの発展や 液滴運動は観測されなかった.ア セトン濃度が臨界値を越えると,

液滴から

eruption

が生じ,液滴

内部に段階的な流れの発展が見 られ,それに伴い液滴が運動し始 めた.アセトン濃度を

2vol%

にし,

液の供給流量

V = 50 μL/min

のと きの液滴の自発運動を

Fig.2

に示 す.液滴運動は三段階に変化する.

約2秒の長周期の回転運動に,そ の10分の一以下の周期の小刻み

x x

(a) (b)

x y

0 10 20 30 40 50 60 70

3 4 5 6

X [mm]

(b)

time [s]

(a)

(c)

1314 15 16 17 18 19 4.5

5.0 5.5 6.0 6.5

X

(a)

Y

(c)

58.0 58.5 59.0 59.5 60.0 3

4 5 6 7

X

(b)

Y

30 31 32 33 34 35

4 5 6

7 Y

X

0 10 20 30 40 50 60 70

3 4 5 6

X [mm]

(b)

time [s]

(a)

(c)

1314 15 16 17 18 19 4.5

5.0 5.5 6.0 6.5

X

(a)

Y

(c)

58.0 58.5 59.0 59.5 60.0 3

4 5 6 7

X

(b)

Y

30 31 32 33 34 35

4 5 6

7 Y

X

Fig.2 Evolution of droplet motion at different volumetric flow rates, V = 50 μl/min. Water droplet containing 2vol%

acetone was formed at the stainless steel nozzle, 1.2mm inner diameter, in toluene at room temperature. Lower panels are an expansion of the box in upper panels. Lower panels in represent two-dimensional motion of the droplet in the first stage (a), second stage (b), and third stage (c).

(5)

3

な振動が重なった運動をする(第一段階).その後,その小刻みな振動の振幅が変調 し,振動と回転を不規則に繰り返す,ランダムな運動が表れる(第二段階).そして 最終的に,大きな振幅を持った規則的な回転運動に落ち着く(第三段階).

渦対は,液滴運動の第一段階のときに表れる.そのときの液滴内部の流動パターン

Fig.3

に示す.界面の不安定性のため,液滴から溶質を豊富に含んだ物質が噴出す

る.この噴出は同時に液滴内部にも生じ,内部に突発的な流れを生み(

Fig.3a

),そ の流れが対面の液滴表面に衝

突すると,回転方向が異なる二 つの渦が生成される(

Fig.3b

). 渦の面が液滴表面に沿って成 長するため,ほぼ垂直に渦が立 ち上がる.液滴の成長に伴い渦 が薄膜化し,液滴表面の非常に 薄 い 球 殻 領 域 に 拘 束 さ れ る

Fig.3c

).その後,渦対は同時

に左右にゆれ,やがて液滴内部を一方向に回転し始める.

液滴表面上を回転しているときの渦の中心の軌跡を,

Fig.4

に示す.液滴の生成速 度が小さいときは,渦対は安定な軌道で回転運動を行うが,

V = 50 μL/min

のとき,

渦対は振動しながら回転する.その軌跡は,まるで固定点を章動しながら歳差運動を 行う回転ごまのように

loop pattern

Fig.4a

)や

wave form

Fig.4b

)や

cusp pattern

Fig.4c

)を描く.渦対の歳差および章動の振動数の経時変化を

Fig.5

に示す.

0.00 s

0.00 s 0.33 s0.33 s 1.33 s1.33 s

(a) (b) (c)

(d) 25.4 – 26.2 s (d) 25.4 – 26.2 s (a) 15.5 – 16.1 s

(a) 15.5 – 16.1 s (b) 16.5 – 17.2 s(b) 16.5 – 17.2 s (c) 21.2 – 22.1 s(c) 21.2 – 22.1 s

10 12 14 16 18 20 22

0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5

f [Hz]

time [s]

forward backward

10 12 14 16 18 20 22 24 26 0

2 4 6 8 10

f [Hz]

time [s]

forward backward

(a) (b)

Fig. 3 Evolution of self-organized flow in the first stage atC= 2 vol% at V = 50 μL/min. (A) A vortex pair from bottom of the vessel. (a) Internal flow induced by solute eruption, (b) onset of a vortex pair, and (c) thinning of the vortex pair. Number in panels is time from onset.

Fig.4 Trajectory of vortex center from side view when the vortex pair rotates unidirectionally. (a) Loop pattern, (b) smooth pattern, (c) cusp pattern, and (d) amplitude modulation.

Fig.5. (a) Precessional frequency and (b) nutational frequency of the vortex pair in the first stage of droplet motion for C = 2 vol% at V = 50 μL/min. Open and closed keys are the periods of back- and forward-rolling vortices, respectively.

(6)

歳差運動の振動数は,前転渦および後転 渦ともに同じ値を示したが,章動振動数 は,時間の経過に伴い,二つの渦の間に 差が生じた.さらに時間が経過し,液滴 が成長すると,章動振幅に変調が起こる

Fig.4d

).渦対が振幅変調を起こすと,

液滴の運動は,

Fig.2b

に示す第二段階に 移行する.その後渦対はお互いに相互作 用しながら不規則な運動をし,最終的に 交じり合い,消滅する.その後液滴運動 の第三段階が始まる.液滴運動が第一段 階から第二段階に移行する際のフーリ エスペクトルを

Fig.6

に示す.低振動 数領域に鋭いピークが見られ,振動数 の値が

5

付近に

3

つの特徴的なピーク が現れた.低振動数

(=0.351 Hz)側のピ

ークは,液滴運動の第一段階(

Fig.2a

)のゆっくりとした回転運動に相当し,渦対の 歳差運動の振動数に等しい(

Fig.5a

).高振動数側の真ん中の一番鋭いピークは前後 の振動数の算術平均に等しい.この値は液滴の小刻みな動きの振動数に等しく,前後 の振動数は,渦対のそれぞれの章動振動数に等しい(

Fig.5b

).このとき,液滴の小 刻みな振動の振幅も変調を起こし,その包絡線の振動数の値は

0.335 Hz

であった.

考察

渦対の循環の強度に差が生じることで渦対の歳差運動が引き起こされたものと容 易に想像できるが,この際注意が必要である.一般的に異なる循環強度を持つ渦対は,

その強度で決定される外分点を回転することになるが,本実験では渦対が液滴内部に 拘束されているため,強度で決定される内分点を回転することになる.そのため,渦 対の重心はノズルの中心から外れる.その結果,液滴は渦に外側に押され,液滴表面 の軌跡は,静止状態の液滴表面より大きな曲線を描く.これが,液滴が第一段階でゆ っくりと回転した理由である.

次に渦対の章動運動について考察する.液滴内部に発生した渦は,液滴の成長に伴 い運動が持続するため,減衰渦に,軸方向に伸長する流れが加わった

Burgers

渦とみ なすことができる.その渦の速度分布

v(r)

は円柱座標系において次式で表される4,5)

⎭ ⎬

⎩ ⎨

⎧ ⎟

⎜ ⎞

⎛ ν

α

− − α

= νω

0 2

exp 4 2 1

)

( r

r r

v (1)

ここで,

ν

は動粘度,

ω

o は渦度,

α

は伸長率を表す.この渦の速度分布は,渦中心近

0 5 10 15

0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10

10.2 4.57

5.51 5.16

0.703 0.351

Spectrum

f / Hz

22 24 26 28 30

0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

X [mm]

time [s]

0 5 10 15

0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10

10.2 4.57

5.51 5.16

0.703 0.351

Spectrum

f / Hz

22 24 26 28 30

0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

X [mm]

time [s]

Fig.6 Evolution of droplet motion and the corresponding frequency spectra when droplet motion develops hierarchically at C = 2 vol% at V = 50 μL/min. Frequency spectra correspond to the oscillation patterns of the insets. Numbers in figures are frequency values at peaks.

(7)

5

辺では,動径方向の距離

r

に比例する.この領域では,渦は一定角速度を持って運動 する剛体のように振舞う.ここで,この渦に周辺媒体とは異なった重さを持っている と仮定しよう.このとき渦の運動は,重力のもとに軸を水平にして運動する回転円柱 の運動に相当し,次式で表される.

( M + M ′ ) z && = i ρ Γ z & − i ( MM ′ ) g . (2)

この解は,

Vt , Re z

z =

o

+

iΩt

+ (3)

となり、

.

, g

ρ M V M

M M

ρ

Γ

− ′

′ = +

= Γ

Ω (4)

となる.Mは円柱(渦)の重さで,M’は誘導質量(=

ρ πa

2),zは円柱の中心座標の複 素表示,zoは円柱の中心座標の初期値,aは円柱の半径,

Γ

は循環,gは重力加速度を 表す.この運動は

Phugoid

運動と呼ばれ4,5),水平飛行速度を一定に保ったまま,宙返 りをする飛行機の運動を表す単純なモデルである.この運動は

V

の大小関係に より,運動が変化する.

V < RΩ

のとき,円柱の運動の軌跡は,トロコイド(loop)を 描き,

V = RΩ

のとき,サイクロイド(cusp)を描き,

V > RΩ

のとき,波型の軌跡を描 く.ここで,式4の

V

を,我々の実験における渦の歳差運動の速度に等しく,

R

およ び

Ω

を渦の章動の振幅と振動数にそれぞれ等しい仮定する.実験から求めたこれらの 値を

Table.1

にまとめる.

Table.1

表に示すように、

V < RΩ

のとき,渦の軌跡は

loop

を描き,

V > RΩ

のとき,波型の 軌跡を描き,

V ≈ RΩ

のときは,

cusp

を描く.

ρ

vは渦の密度を表し,周りの媒体より

2

%だけ重いことが分かる.これらの値を式

2

に代入し,初期値を適当に決定して渦 の軌跡と比較した結果を

Fig.7

に示す.計算結果は渦の軌跡をうまく再現している.

これまでの結果より,渦の歳差運動が液滴の第一段階における、ゆっくりとした回 転運動を生み出し,渦の章動が,液滴の小刻みな振動を生み出していることが分かっ た.液滴はこのあと遷移状態を得て,第三段階の高速回転運動に移行するが,その原 因について考察する.渦対はわずかに異なる章動振動数を持ち,かつ質量を持ってい

Pattern

R [mm] Ω [rad/s] RΩ [mm/s] V [mm/s] ρv

/ρ [-]

ωo

[rad/s]

Loop 0.1875 34.3 6.43 3.06 1.02 69.3

Smooth 0.0278 33.3 0.926 2.93 1.02 67.3

Cusp 0.0865 31.4 2.72 3.02 1.02 63.4

Pattern

d

[mm]

Γ

[mm

2

/s]

α [s-1

]

Vcalc.

[mm/s]

Loop 2.68 51.5 10.8 3.04

Smooth 2.68 49.4 11.0 2.91

Cusp 2.92 55.3 9.2 3.03

(8)

るため,渦対を連成振動子とみなすことが可能である.一般にわずかに異なった固有 振動数を持つ連成振動子は,その両者の固有振動数の和の半分の値の振動数で振動し,

両者の差の半分の振動数で振幅が変調する6)

Fig.5b

Fig.6

の結果より,二つの渦 の章動振数の和の半分の値(

=5.26 ± 0.52 Hz)と等しい振動数で,液滴が小刻みに振

動する.第一段階から第二段階に遷移するとき,この小刻みな振動の振幅は変調を起 こす.この変調振動の包絡線の振動数(

=0.335 Hz)と液滴のゆっくりと回転する振

動数(=

0.333 Hz)は一致している.さらに渦対の固有振動数の差の半分の値(=

0.75 ± 0.50 Hz)とも一致している.

以上の結果をまとめると,固有振動数が異なる渦対が,連成振動子のように振舞い、

うなり現象を起こす.そのうなりの周期が渦対の歳差運動の周期と等しくなるときに,

液滴が高速回転運動を起こす.

終わりに

界面不安定性によって液滴内部に生成された渦対は,章動しながら歳差運動を行う.

章動する渦対は連成振動子のように働き,振幅変調が起きる.その振幅の包絡線の振 動数と歳差運動の振動数が一致すると,長波短波共鳴相互作用が起こり,液滴の爆発 的な回転運動を生み出す.

参考文献

1. T. Ban, Y. Hatada, K. Takahashi, Phys. Rev. E. (accepted) 2. J. B. Lewis, H. R. C. Pratt, Nature 171 , 1155 (1953).

3. T. Ban, F. Kawaizumi, S. Nii, and K. Takahashi, Chem. Eng. Sci. 55, 5385 (2000)

4. T. Tatsumi, Ryutairikigaku (Baifukan, Tokyo, 1982) 5. I. Imai, Ryutairikigaku (Shokabo, Tokyo, 1973) 6.

K. Kondo,

Shindoron

(Baihukan, Tokyo, 1993).

2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0

-3.5 -3.4 -3.3 -3.2 -3.1 -3.0 -2.9

Y [mm]

X [mm]

3 4 5

-3.58 -3.56 -3.54 -3.52 -3.50

Y [mm]

X [mm]

2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0

-3.6 -3.5 -3.4 -3.3 -3.2

Y [mm]

X [mm]

(a) (b) (c)

Fig.7 Comparison between the calculated and experimental values of vortex motion, (a) loop motion, (b) smooth motion, and (c) cusp motion. The experimental values of V, R and Ω in the three patterns are substituted into eq.2, and initial condition, zo is suitably chosen to fit the trajectory of the three patterns of vortex motion shown in Fig.

4a–4c.

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参照

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