日本機械学会[No.167-1]北陸信越支部 第 53 期総会・講演会 講演論文集 [2016.3.5 長野県長野市]
[No.167-1]日本機械学会北陸信越支部 第 53 期総会・講演会 講演論文集 [2016.3.5 長野県長野市]
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熱的探傷試験データに基づく樹脂構造体内の空洞に対する 形状同定シミュレーション
丸岡 宏太郎*1,倉橋 貴彦*2,井山 徹郎*3
Numerical shape identification of cavity in resin structures based on thermal non-destructive testing data
Kotaro MARUOKA
*1, Takahiko KURAHASHI
*2and Tetsuro IYAMA
*3*1
Graduate School of Nagaoka University of Technology Kamitomiokamachi 1603-1, Nagaoka-shi, Niigata, 940-2188 Japan
Thermal non-destructive testing and shape estimation analysis based on the finite element and the adjoint variable methods is carried out to obtain hitherto unknown defect shapes in a structure. In this study, a test piece incorporating a known defect shape was employed to solve the shape estimation problem. We also describe the shape estimation problem of a cavity in a heated resin test piece made using a 3D printer by employing the temperature pattern observed on the surface of the test piece. The surface temperature of a test piece will not be uniformly distributed if it contains cavities. Practical experiments have confirmed that the characteristic of the temperature distribution depends on the size of the cavity. Shape estimation analysis was then carried out. Using numerical analysis, the finite element method was applied to simulate the temperature distribution in the test piece, and the adjoint variable method was employed to estimate the cavity's shape. In the estimation process, the Gaussian filter was employed to smooth the movement of nodes. Using the Gaussian filter, the estimated shape of the cavity was smoother than the result calculated without a smoothing process.
Key Words : Shape estimation analysis,Thermal testing method, Heat conduction analysis, Finite element method,
Adjoint variable method, Gaussian filter
1. 緒 言
熱的探傷試験は非破壊検査手法の一つとして知られており,欠陥を有する構造体に対して加熱を行い,温度分 布から欠陥の大きさや形状を推定する方法である.例えばコンクリート中の鉄筋周りの腐食領域では熱的物性が 異なるため,腐食していない領域と比べて温度が異なる結果が得られ,腐食領域を特定することができる.熱的 探傷試験は,他に腐食領域の推定に用いられている電気探査法(1)などの推定手法と比べ,面的に欠陥形状を推定 できる利点を持つ一方で,欠陥の大きさや深さによっては推定が困難になる場合もある.
熱的探傷試験により得られた温度のデータを使用することで,欠陥形状を解析的に推定する研究が行われてい る(2) .この形状同定手法は,有限要素法と随伴変数法を使用し,測定した温度を指標に欠陥形状の同定を行うも のである.これまでの研究では,厚みが一様なコンクリート中の鉄筋周りの腐食形状を対象に検討を行い,熱的 物性値に補正を加えることで推定が可能になるという結果が得られている.しかし,厚みが一様でない形状の場 合,推定形状に凹凸が生じるため,適切な解を得るには手法の改善が必要である.以上のことを踏まえ,本研究 では,厚みが一様でない楕円形状の空洞を有する試料を
3D
プリンターで作成し,熱的探傷試験および形状同定*1 非会員,長岡技術科学大学大学院(〒940-2188 新潟県長岡市上富岡町1603-1)
*2 正員,長岡技術科学大学大学院
*3 正員,長岡工業高等専門学校(〒940-0817 新潟県長岡市西片貝888)
E-mail: [email protected]
シミュレーションを行った.また,ガウシアンフィルタを用いた推定形状の凹凸の抑制について検討した.
2. 熱的探傷試験
実験に使用した試料を図
1
に示す.図1
の空洞を有する試料(試料A)に加えて,空洞の無いもの(試料 B)
を
3D
プリンターで作成した.試料A
と試料B
をホットプレート上に並べ,設定温度を50℃として, 1200
秒間,加熱と熱電対による温度測定を行った.測定点は,試料上面の中心に
Point A,中心から 40mm
の位置にPoint B
を設置した.空洞内の温度,ホットプレート,試験時の周囲の温度も同時に測定した.図
2
に試験中の試料A
の熱画像を示す.試料の中央部分の温度が周囲と比べ高くなり,この温度分布から空洞 の形状を推定することができる.2つの試料のPoint A,Point B
での温度履歴を図3,図 4
に示す.これらの結果 より,空洞を有する試料では,空洞の無い密の試料に比べ,試料中央の温度が高くなる傾向があると言える.
Fig.1 Test piece
Fig.2 Heat image
Fig.3 Time history of temperature at Point A
Fig4. Time history of temperature at Point B
3. 形状同定シミュレーション 3・1 状態方程式
熱的探傷試験で得られた温度履歴を使用し,試料
A
に対する形状同定シミュレーションを行った.空洞の厚さ13mm
の三次元有限要素モデルを初期形状として与え,順解析と節点位置の更新を繰り返し,実際の試料と同じ 空洞形状を有するモデルを最終形状として収束することを目標とする.順解析(三次元非定常熱伝導解析)にお ける支配方程式は式(1)の熱伝導方程式により与えられる.0 c
,ii
(1)ここで
はシミュレーション上の温度,ρは密度,cは比熱,κは熱伝導率を表す.測定した温度履歴を考慮し,モデルの領域全体
Ω,下面 Γ
1,表面Γ
2,空洞内部の表面に式(2)の境界条件を与える.
3 2
,
2 inf
1 ,
1 0
) (
) (
ˆ ) ˆ (
on h
n
on h
n on
in t
cav i
i i i
(2)
t
0は加熱開始時間,h
1は表面での熱伝達係数,h
2は空洞内部での熱伝達係数である.また,
infは雰囲気温度,
cavは空洞内部の温度であり,測定した温度履歴を使用する.3・2 評価関数
随伴変数法を導入した逆解析手法(3)(4)により,測定温度を参照した空洞形状の推定を行う.推定された形 状と目標としている形状との誤差を評価する評価関数を式(4)のように定義する.
dt d R
J 1 2 tt0f
(
obs)
2
(4)
ここで
t
f は加熱終了時間,Ω
は計算領域,Rは重み係数,
obsは測定温度である.3・3 ラグランジュ関数
評価関数を最小化するため,未定乗数
λ
を使用することで式(5)のラグランジュ関数を定義する.dt d J
J
* tt0f
( c
,ii)
(5)
ここで
ρ
,c,κ
,R,
obsは定数とすると,ラグランジュ関数の第一変分は式(6)に示すように書くことができ る.i i
x x J J
J
J J
* * * **
(6)ここで
x
iはモデル中の移動可能な節点の座標を表している.評価関数の停留条件は,式(6)の各項が0
と等し くなる場合である.式(6)の第一項より状態方程式(式(7))が,第二項,第三項より未定乗数λ
を求める随伴 方程式(式(8))が得られる.0 )
c
(
,*
0
J ttf
ii d dt
(7)
0 ))
(
(
,*
0
J ttf
c
ii R
obs d dt
(8)
有限要素法に基づき,式(7)と式(8)を空間方向には
Galerkin
法,時間方向にはCrank-Nicolson
法での離散化 を行い,状態方程式および随伴方程式に対する有限要素方程式が得られる.これらの方程式の数値解より,移動 可能な節点に対する評価関数の勾配ベクトルが計算され,評価関数を下げる方向にモデル中の空洞表面の節点位 置を更新する.3・4 解析条件
解析条件を表
1
に,モデルの熱的物性値を表2
に示す.試料はABS
樹脂製であり,3Dプリンターにより作成 したため,樹脂と樹脂の間に隙間が存在する.本研究ではこの影響を考慮した熱的物性値を使用する.Table 1 Computational conditions Table 2 Thermal properties for test piece Total number of nodes 1460
Total number of elements 5552 Total time t
fsec 600 Time increment
Δt
,sec 10
Time steps 60
Convergence criterion 10
-6 3・5 解析結果計算を行い得られた空洞形状を図
6
に示す.図のように,空洞の表面には凹凸があり,計算された勾配ベクト ルの大きさや方向にばらつきがあることが原因だと考えられる.図6
には反復回数ごとの評価関数が示されてい るが,最終形状では反復回数は18,また評価関数の値は初期形状の場合の値を 1
とすると,評価関数収束時には 約0.55
となった.
Fig5. Estimated shape of the cavity (1)
Fig6. Variation of performance function (1)
4. 平滑化処理の導入 4・1 ガウシアンフィルタ
次に,勾配ベクトルに対して平滑化処理を行い,滑らかな表面の空洞形状の推定を検討する.平滑化処理には,
画像処理の分野で主にノイズの除去に使用されているガウシアンフィルタ(5)を採用する.ガウシアンフィルタは,
ある節点の持つ値を,指定した領域内の節点の値と重み係数から計算する方法であり,計算方法が単純である上,
変数
σ
の値により平滑化作用の強さを調整できる利点を持つ.ガウシアンフィルタを導入するため,空洞表面をx
軸とy
軸からなる二次元平面に置き換え,平滑化した勾配ベクトルの計算を考える.平面上の節点m
に対する 節点n
の重み係数G
(m,n)は,ガウス分布に基づき式(7)により計算される.
cx
n
y y x x
y y x x
n m n m
n m n m
e e
1
2
) ( ) ( 2
2
) ( ) ( n) 2
(m,
2
2 ) ( ) ( 2 ) ( ) (
2
2 ) ( ) ( 2 ) ( ) (
2 1 2
1 G
(7)ここで
cx
は平面上の全節点数,x
(m)とy
(m)は節点m
のx
座標とy
座標を表す.計算された重み係数を用いて,平滑化処理前の節点
m
の勾配ベクトルに対する,処理後の勾配ベクトルは次のように計算される.Density
, kg/m3750
Specific heat c, J/(kg・℃) 1386
Thermal conductivity
, W/(m・℃)0.1352
Heat transfer coefficient on outside surface h
1, W/(m2・℃)10.0
Heat transfer coefficient on the cavity surface h
2, W/(m2・℃)7.0
cxn
n n m
m
x
G J x
J
1
) (
* ) , ( )
(
*
(8)
4・2 平滑化処理を取り入れた解析結果
勾配ベクトルへの平滑化処理を取り入れて形状同定を行った結果,図
6
の空洞形状が得られた.処理を行わず に計算を行った際の結果と比べ,空洞は表面が滑らかな形状となった.また,反復回数は多く,評価関数は小さ くなる結果が得られた(図7
参照).また,空洞の厚みは初期形状の13mm
から15.8mm
になり,目標としている 空洞形状の厚み15mm
に近い結果が得られていると言える.
Fig7. Estimated shape of the cavity (2) Fig8. Variation of performance function (2)
5. 結 語
3D
プリンターで作成した,空洞を有する樹脂構造体に対し熱的探傷試験と,有限要素法と随伴変数法を利用し た形状同定シミュレーションを行い,空洞形状の推定と解析手法の改善について検討した.この結果,以下の所 見が得られた.(1)空洞を有する試料を下面から加熱した場合,空洞の上面の温度は密の試料に比べ高くなる.
(2)ガウシアンフィルタを用いて,節点に対する勾配ベクトルへの平滑化処理を取り入れることで,形状同定 シミュレーションでの推定形状は適切に得ることができる.また,平滑化処理を施した場合の評価関数 の値は平滑化処理がないものに比べて小さくすることができる.
謝 辞
本論文を執筆するにあたり長岡技術科学大学より「H27年度高専-長岡技科大共同研究助成」および「次世代 ものづくり技術の基盤となる超高信頼性材料創成事業(長岡技術科学大学)」の援助を受けた.ここに謝意を表す.
文 献