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―薄膜から構造材料まで―

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生 産 と 技 術  第60巻 第4号(2008)

箕 島 弘 二

*Kohji MINOSHIMA

− 40 − 京都大学大学院工学研究科機械工学専攻 博士後期課程修了

現在、大阪大学大学院工学研究科 機械 工学専攻 教授 工学博士 材料強度学,

機械材料学,マイクロマテリアル工学,

環境強度学 TEL:06-6879-7240 FAX:06-6879-7243

E-mail:[email protected] 研究室紹介

Micro Materials, MEMS, Micro Systems, Thin Film, Advanced Metallic Materials,  Micro Mechanical Testing, Indentation, Mechanical Properties, Strength, Fracture,  Interfacial Fracture, Fatigue, Environmental Strength, Hydrogen Embrittlement

マイクロ・ナノ工学が拓く安全・安心

―薄膜から構造材料まで―

1. はじめに

 本研究室は,大阪大学大学院工学研究科機械工学 専攻マイクロ機械科学講座の領域の一つとして2004 年に発足した研究室であり,ナノ・マイクロメート ルの視点から,薄膜をはじめとする構造材料の変形 と破壊の力学を明らかにすることにより,機械・構 造物の信頼性を担保する強度設計を可能ならしめ,

安全・安心に寄与することを目的としている。2008 年4月現在のスタッフは教授: 箕島弘二,准教授: 平 方寛之,助教: 米津明生,技術専門職員:  原雅之で ある。

 近年,マイクロマシンや MEMS(Micro  Electro  Mechanical  System)などのマイクロシステムや電 子デバイスに代表されるように,複雑な構造を有す る微小構造物の開発が活発に行われている。これら の構造物は寸法が nm からμm オーダの薄膜材料を 組み合わせて作られており,信頼性を確保するため には,μm オーダの微小機械要素の機械的・強度 評価手法を開発して,その強度特性や劣化機構を解 明することが不可欠である。一方で,航空機構造用 炭素繊維強化複合材料などの先進複合材料や先進高 強度金属材料では,nm からμm オーダで構造や界 面を最適化することにより,バルク材における優れ た機械的特性を引き出している。このような場合は,

力学的特性や変形特性,あるいは長期信頼特性はバ

ルク材中の微視的な領域における力学応答に支配さ れるため,バルク材においても微視領域の力学特性 を解明する必要がある。

 このように,マイクロシステムに用いられる薄膜 からなる微小機械要素など,寸法そのものが微小な 材料,および微小構造を最適化して所望の材料特性 を発現する構造材料などを対象にして,これらの変 形や破壊をナノ・マイクロメートルオーダの視点か ら明らかにする,マイクロマテリアル工学の確立を めざして研究を実施している。

 現在の研究テーマとしては,マイクロマテリアル の機械的特性評価法の開発と破壊機構・信頼性評価,

ナノ・マイクロ薄膜の界面の力学・強度特性と界面 破壊基準,ナノ−メゾ−マクロ特性評価による機械 的特性の発現機構と環境ぜい化機構解明,局所弾塑 性評価技術の開発とその応用,ナノ変形特性解析に よる先端機械材料と水素ぜい化感受性評価法の開発、

高強度鋼の動的環境ぜい化特性に及ぼす水素吸蔵状 態の影響,などである。以下では,これらのうちの いくつかを紹介する。

2 薄膜微小機械要素の機械的特性評価法の開発   と信頼性設計

 バルク材のヤング率やポアソン比などはハンドブ ックを参照することにより容易に知ることができる。

一方,薄膜材料ではバルク材では構造鈍感であるヤ

ング率などの機械的特性も成膜法やその条件に大き

く依存するため,それぞれの薄膜ごとに特性を調べ

る必要がある。しかも,微小機械要素が mm オー

ダの機械要素と異なる点は,寸法効果により強度が

大きくなることを利用して,時にはバルク材では破

壊するような高い作動応力で用いられる場合がある

ことである。したがって,微小機械要素では,使用

される大きさと同程度の寸法の試験片を用いて,機

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図1 自立薄膜微小引張試験片の例

  (膜厚: 約 500 nm − 3.5μm,試験片幅: 約 5 − 50μm)

図2 マイクロマテリアル機械的特性評価試験機の概略図

械的・強度特性を評価することが不可欠である。し かし,従来の構造材料で規格化された材料試験法を 用いることができないこと,微小機械要素では荷重 が極めて小さく,従来の負荷方法やバルク材用の試 験機を用いることができないこと,試験片への荷重 を負荷するためのチャッキング方法や微小機械要素 そのもののひずみの高精度測定が困難なことなどが 問題点として挙げられる。

 本研究室では,図1に示すような微細加工により 創成した自立薄膜微小試験片を対象として,引張試 験や引張負荷条件下の疲労試験が可能なマイクロマ テリアル機械的特性評価試験機(図2)や薄膜曲げ 試験システムを開発している。マイクロマテリアル 機械的特性評価試験機は,nm オーダの位置分解能 を有するアクチュエータ,微小ロードセル,マイク ロマニピュレーションシステム,および2視野顕微 鏡による非接触ひずみ測定装置よりなる。一方,薄 膜曲げ試験システムは微小負荷システムを用いるこ とにより,高精度の曲げ試験(荷重精度: 10 nN,最 大荷重:  10 mN,荷重点変位測定精度:  1nm,最大 変位:  26μm)が可能である。これらを用いて,ポ リシリコンや SiN 自立薄膜の機械的特性や破壊強度,

それらに及ぼす寸法,成膜法,熱処理,引張・曲げ 負荷モードやナノ欠陥,さらには疲労荷重の影響に ついて検討している。一般に材料寸法が小さくなる

と強度が上昇する寸法効果が見られるが,寸法が小 さくなることにより現出する特筆すべき点として,

体積に比べて表面積の割合が大きくなり,mm オー ダのバルク材では環境の影響が見られない材料/環 境の組合せにおいてもμm オーダの微小機械要素 では環境との相互作用により強度が低下する場合が あることを示すなど,微小機械要素特有の現象を見 いだしている。

3 薄膜界面の力学・強度特性と界面破壊基準の   解明

 電子デバイスやマイクロシステムでは種々の薄膜

やそれらからなる微小機械要素を組み合わせて,所

望の機能を発現させている。しかし,それらの異材

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界面には,変形のミスマッチングや原子構造の不整 による応力集中(応力特異性)が生じる。このよう なナノ・マイクロ薄膜からなる微小構造体の界面破 壊を支配する力学法則の解明と設計手法の確立を目 指して,独自の界面強度評価法を開発するとともに,

それらも元にした力学解析に取り組んでいる。とく に,界面端部からのき裂発生や,界面き裂の発生・

進展に及ぼす疲労荷重や環境の影響,あるいは塑性 変形に及ぼす界面の影響などについて検討して,マ クロな構造体に対して検討されてきた破壊力学に基 づく強度則(特異場の力学)の適用性や破壊基準に ついて研究を進めている。

4 局所弾塑性特性評価法の開発とその応用  マイクロマテリアルの機械的特性を評価する上で は,前述の微小試験片に引張りや曲げ荷重を負荷す る方法は,単純な応力場における材料そのもの力学 応答を評価できる点で,実験手法として優れている。

一方,微小な圧子を材料表面に押し込む押し込み法

(インデンテーション法)は,比較的簡単な実験に より,局所領域の材料特性を把握することができる。

本研究室では,種々の特性を有する材料を対象とし た有限要素解析による押し込みシミュレーションと 次元解析を併用することにより,押し込み試験で得 た押し込み力―押し込み変位などの力学応答の精密 測定結果を用いて,降伏応力をはじめとする弾塑性 特性を局所領域で評価可能な手法を開発している。

さらに,この手法を発展させて,工業上有用である

塑性加工材や複合材料などの塑性異方性の評価手法 の開発,さらには疲労発生や疲労損傷,水素ぜい化 をはじめとする環境ぜい化に応用することにより,

微視領域における変形・力学的な観点からそれらの 機構解明やぜい化感受性評価手法の開発に関する研 究を行っている。

5 マイクロ・ナノ評価による環境強度機構の解   明と寿命予測

 環境負荷低減をはじめとして,近年では高強度材 料を用いることが多いが,高強度材料は環境に敏感 であり,使用条件によっては水素ぜい化をはじめと する環境ぜい化が問題となる。本研究室では,環境 ぜい化に及ぼす動的応力の影響をはじめとして,種々 の支配因子を解明している。とくに水素ぜい化に関 しては,nm オーダでき裂先端をその場で可視化す ることにより,水素吸蔵によりき裂先端の変形が抑 制されることや,水素吸蔵により材料そのもののナ ノ変形特性が影響を受けること,あるいは水素ぜい 化は室温で拡散する拡散性水素が支配因子であるが,

疲労荷重の負荷条件下では,静的な応力条件下では

ぜい化を生じさせない非拡散性水素のみを吸蔵した

条件下においてもき裂発生が促進されて,強度が低

下することなどを明らかにした。さらに,μm オー

ダの局在化した水素の可視化手法などを用いて,そ

の機構解明とより耐環境性のある材料設計指針提言

に関する研究など,多岐にわたって研究に取り組ん

でいる。

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