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(1)

欧州における環境損害に関する民事責任の状況 :  欧州評議会条約を中心として

その他のタイトル Die Situation uber die zivilrechtliche Haftung fur Umweltschaden in Europa

著者 今西 康人

雑誌名 關西大學法學論集

巻 46

号 4‑6

ページ 927‑961

発行年 1997‑02‑25

URL http://hdl.handle.net/10112/00024540

(2)

西 康 人

欧州における環境損害に関する民事責任の状況

欧州評議会条約を中心として││̲

(3)

目 次 一 は じ め に

二本条約の概要とその特徴

三 本 条 約 の 評 価 四むすびに代えて

(4)

欧 州

に お

け る

環 境

損 害

に 関

す る

民 事

責 任

の 状

環境損害の救済につき︑民事責任制度はどの程度有用なものであるのか︒最近︑欧州ではこの制度を救済方法と

して積極的に活用しようとする動きが目立ってきている︒この動向は各国の国内法レベルにとどまらない︒

Eu

で は

(1 ) 

既に別稿で取り上げたように一九九三年五月十四日に﹁環境損害の救済に関する

E

C 委員会のグリーン・ペーパー

︵以下︑グリーン・ペーパーと略称する︶﹂が提案されている︒同じ年の三月九日︑欧州評議会は閣僚委員会で︱つの

条約を可決し︑同年六月ニ︱日に採択した︒本稿で取り上げる欧州評議会の条約︑﹁環境に危険を及ぼす諸活動から

(2 ) 

生じる損害についての民事責任に関する欧州評議会条約︵以下︑本条約と略称する︶﹂がそれである︒本条約は九五

年︱一月現在で八か国︑

一九八六年六月︑チェルノプイリの事故の六週間後︑欧州評議会の フィンランド︑ギリシア︑アイスランド︑イタリア︑リヒテンシュタイン︑ルクセンプルク︑

(3 ) 

オランダ︑キプロスが署名国となっている︒

(4 ) 

本条約の成立過程を振り返ると︑もともと︑

第一五回欧州法務大臣会議︵オスロ︶が環境損害に対する相当な賠償の問題を取り上げ︑厳格化した環境責任に関す

る適切な法制度を立法化することを欧州評議会に勧告したことがその始まりである︒これを受けて︑各国の専門家を

メンバーとする欧州評議会専門家委員会

( C J I E N )

が一九八七年より条約案の制定作業を開始し︑条約草案が

(5 ) 

作 ら

れ ︑

条約草案は法的な共同作業に関する欧州評議会委員会

( C D C J )

会に提出されたのである︒ここに至るまでの条約草案作成において︑基本となったのは以下の法政策上・環境政策上

一九九一年の一月と五月にこの草案につき利害関係団体を対象に議論を行った︒そして︑

は じ め に

の 承

認 を

得 て

一 九

九 二

年 ︱

二 月

一九九三年欧州評議会の閣僚委員

ニ ニ

︵ 九

二 九

(5)

関法第四六巻第四・五・六号

(6 ) 

の考えである︒すなわち︑①

挙されるべきではあるが︑そのリストは例示にしかすぎない︒③

危険責任の免責・制限は狭く限定された要件の下でのみ許される︒③

れに当たるかは︑各国の国内法によりこれを定める︒⑧

下された判決の相互的承認及び執行に関する規定によって補充される︒

本条約の概要とその特徴

ニ ニ 八

︵ 九 一 ︱

1 0 )

活動に当たる︒危険な物質とは︑人︑環境又は財産に重大な危険を生じさせる物質をいう︒これら物質の大部分は列

場合︑廃棄物の保管は別として︑例えば︑大気汚染︑火事などのような環境上重大な事件であることの証明が要件と

被害者の証明責任への配慮︒具体的には訴訟上の証明責任の軽減︑官庁・企

業に対する情報提供請求権︒さらに︑複数の原因に基づく損害につき︑各原因者は︑原因の割合を確定できない限り︑

強制的な填補準備

(o bl ig at or is ch e  D ec ku ng sv or so rg e)

︒具体的にいかなる領域がこ

以下︑本稿では︑これらの基本的な考えが本条約の中にどのように具体化されているのかという問題関心から︑

本条約の概要とその特徴を紹介してみたい︒その上で︑本条約の限界又は問題点を明らかにしてみることとする︒

本条約の構成は︑前文に引き続き︑八章・三七か条の規定から構成され︑第一章﹁一般規定﹂︑第二章﹁責任﹂︑第 三章﹁情報へのアクセス﹂︑第四章﹁損害賠償訴訟及び他の請求﹂︑第五章﹁この条約と他の規定との関係﹂︑第六章

﹁常設委員会﹂︑第七章﹁条約の修正点﹂︑第八章﹁最終条項﹂の章立てになっており︑末尾に︑第二条二項

a 号に関 3  連帯責任を負担すること︒⑦ 回復のための措置費用も含まれる︒⑥

環境保護団体の団体訴権︒⑨裁判管轄の国際上の確定は なる︒④ 賠償の対象となる損害には環境の 危険責任は︑通常の企業活動にも妥当する︒その 危険な活動に伴う危険責任を導入する︒② 特に危険な物質を取り扱うことは危険な

(6)

(1) 

欧 州

に お

け る

環 境

損 害

に 関

す る

民 事

責 任

の 状

人︑環境及び財産が特定 環境におけ 特に自然で健康的で快適な

わる危険な物質の範疇に当てはまるための基準及び方法に関する添付資料︑第二条二項 b 号の危険な物質に関わる物

質のリストに関する添付資料︑第二条一項 c 号に関わる廃棄物の焼却︑処理︑取扱い又はリサイクルのための施設又

は用地の定義に関する添付資料が付けられている︒第一章は︑対象と目的︵第一条︶を冒頭に定め︑次に︑本条約で 使用される種々のキーワードにつき第二条で定義規定を設けている︒危険な活動︵同条一項︶︑危険物質︵同条二項︶︑

操業者︵同条五項︶︑損害︵同条七項︶︑浄化措置・防止措置︵同条八・九項︶︑環境︵同条一

0 項

︶ ︑

事 件

︵ 同

条 ︱

対象と目的

因 果

関 係

6

暫定規定︵遡及適用の有無︶︑という順にみていく︒

本条約は︑環境に対する危険な活動から生ずる損害に対する適切な損害賠償を確保することをその目的としており︑

それ故︑その防止手段及び回復手段を定めている︵第一条︶︒なお︑他の条約によって既に定められているもの︑例 えば︑危険物の運搬から発生した損害及び原子力事故等については︑これを適用除外にしている︵第四条︶︒

なお︑本条約の前文は︑以下のような諸点を考慮してこの条約が制定されるに至ったことを説明している︒すなわ

欧州評議会の目的が加盟国間のより一層の結合を達成することにあること︑②

環境を促進することによって人間の生活の質に寄与することが欧州評議会の目的の︱つであること︑③

る自然の維持と保護の領域で他の諸国と協調することは欧州評議会の願いであること︑④

ニ ニ 九

︵ 九一 ︳ 二 ︶

訟︑9強制的財政保全制度︑

1 0

4 損害と損害回復の方法︑ 5 賠償額の制限規定の不存在︑7 出訴期限と裁判管轄︑8 団体訴 以下︑この中の重要事項につき︑ 1 項︶などがそうである︒

対 象

と 目

的 ︑

2 責任原理と責任主体︵厳格責任と操業者︶︑ 3

免 責

定 規

(7)

操業者の概念を条文に即して整理してみる︒ 特定のリスクに着目して︑厳格責任︵危険責任・無過失責任︶を採用している︒すなわち︑右のような危険な活動を 支配

( c o n t r o l )

している﹁操業者

(0

p er a t or )

﹂を責任主体とし︑無過失責任の性質を有する﹁操業者責任﹂を定め ている︵第六・七条︶︒操業者は︑損害を防止し︑その損害の範囲を限定するために最もふさわしい地位にあり︑他

(9 ) 

方︑この者の活動は︑広い意味での環境損害の源であるというのが︑その認識である︒操業者が負担する責任の財政

( 10 )  

的コストは︑汚染者負担の原則に従って︑製造又は供給される製造物又は供給物に転嫁しうると考えるのである︒こ こで使用される﹁支配﹂という概念︑すなわち当該危険な活動を実行する方法につき決定権限を有する者の確定は︑

( JI )  

効果的かつ世界的規模での支配という視点から︑すべての法的︑財政的かつ経済的諸事情を考慮して行われる︒以下︑

本条約は︑公共事業団体も含め職業上 2  責任原理と責任主体︵厳格責任と操業者︶

︵例えば︑商業上︑農業上通常又は工業上︶行われる危険な活動に内在する あること︑が考慮されて︑本条約が制定されたのである︒ 慮して厳格責任を設けることが望ましいこと︑⑦ の活動によって特別な危険にさらされていること︑⑥ そのような損害に対する適切な損害賠償の問題が国際的な問題であること︑⑤

環境と開発に関する一九九二年 特に︑損害を防止し︑原子力物質及び危険物質の運搬によって生

ずる損害に対処するため︑既に国際レベルで一定の措置が講じられていること︑⑧

(8 ) 

のリオ宣言の第一三条の存在︑⑨

危険な活動による損害が甚大でその発生につき切迫した恐れあるという事態に対 処するため一層の諸方策を採用し︑そのような損害に対し損害賠償を求める者の証明責任の負担を軽減する必要性が

J

の分野では汚染者負担の原則を考 一国で放出される放射が他国で損害を引き起こし︑それ故︑

(8)

欧 州

に お

け る

環 境

損 害

に 関

す る

民 事

責 任

の 状

操業者概念の基本構成要素

操業者とは︑﹃危険な活動﹄を支配する者をいう︵第二条五項︶︒﹃危険な

活動﹄という概念が操業者概念の基本要素を構成している︒﹃危険な活動﹄は︑以下に挙げる第二条一項a号から d

号までの各号に定められている︒本条約はその中のa号から

C

号までの各号にいう危険な活動を行う操業者を一方の

類型︵第六条一項︶に︑そして d 号にいう危険な活動を行う操業者を他方の類型︵第七条一項︶に分類し︑それぞれ

操業者の責任を定めている︒危険な活動の内容を二分化し︑これに従って類型化された二つの操業者の各々につき責

若しくは危険物質を処理する類似の性質の活動

(h

an

dl

in

g)

︑保管し︑使用し又は排出する活動

(0

pe

ra

ti

on

)

b 号益以下の一っ又は複数を生成し︑培養し

(c

ul

tu

ri

ng

)

︑流通させ︑保管し︑使用し︑破棄し︑処分し︑又は排

占機体の特性によって︑動植物の属の変更によって︑又は当該活動が行われる条件によって︑人︑環境又は

( 12 )  

財産に対して重大なリスクをもたらす︑動植物の属が変更された有機体

ー微生物の特性により︑又は当該活動が行われる条件により︑人︑環境又は財産に対して重大なリスクをもた

らす微生物︑例えば︑病原菌となる微生物や毒素を発生させる微生物

( 13 )  

c号こ例えば︑添付書類

I I に定められた施設や用地のように︑含有する量が人︑環境又は財産に重大なリスクを及

ぼす限り︑廃棄物の焼却︑処理︑取扱い又はリサイクルのための設備又は用地の活動 出する活動若しくはその他の活動

a号~―つ又は複数の危険物質を製造し、取扱い

任規定を置くという条文体裁を採っている︒

︐ .

 

, 1,  

①危険な活動︵操業者の類型化の基準︶

~

(9)

活動﹄と定義しているため︑ここでは﹁危険な物質﹄が﹃危険な活動﹂︑ひいては操業者概念の基本構成要素となっ

ている︒したがって︑責任の主たる領域となるa号関連の操業者責任は︑危険な物質と関連した﹁物質責任︵物質と

( 16 )  

関連した危険責任︶﹂としての性質を有する︒そこで︑第二条は危険な活動の定義に続き︑次項の二項a号と b

号 に

②危険な物質 なリスクを及ぼす活動を各々 d 号二廃棄物の最終処分場

s i ( a t e   f

or

  th e  p

er

ma

ne

nt

e   d

po

si

t)

 

の 活 動

~

a号は危険な物質の製造︑取扱い︑保管等の活動を︑ b 号は動植物の属の有機体上の変更及び微生物の生成等の活

動 を

c 号は廃棄物の焼却︑処理︑取扱い又はリサイクルのための施設又は用地の活動で︑人︑環境又は財産に重大

地中への処分・保管︶を﹃危険な活動﹄とする︒

廃 棄

物 の

問 題

は ︑

﹁ 危

険 な

活 動

﹄ と

す る

︒ ま

た ︑

d 号は廃棄物の最終処分場の活動︵具体的には地上又は

c号から明らかなように危険な活動の定義に関連して取り上げられるだけで︑次に述べる②危険

の物質の定義に関連しては取り上げられていない︒このことは︑廃棄物が通常特定することが困難なさまざまな物質

から構成され︑それらの物質がそれ自体常に危険とは考えられないという認識︵いわゆる有価物も含まれるという立

( 14 )  

場︶に基づく︒さらに︑廃棄物の蓄積に伴うリスクが存在するとしても︑廃棄物の処理等を行う施設・用地及び廃棄

物の最終処分場は︑

c 号

d 号で各々別個に規定されている︒これは後者の特別な性質に着目したものである︒すな

わち︑廃棄物の処分(d号︶は︑リサイクルされず︑地上に又は地中に無限に又は長期間にわたり廃棄物を永久貯蔵

( st o r ag e )

することと関わる特別なカテゴリーなのである︒そのため︑施設又は用地上で廃棄物を取扱う活動と処分

( 15 )  

とを意識的に区別しようという趣旨から︑ d 号は施設という用語を使用していない︒

ところで︑第二条一項a号は︑﹃危険な物質﹄を製造︑取扱い又は保管するなどの活動を﹃危険な

関法第四六巻第四•五·六号

(10)

欧 州 に お け る 環 境 損 害 に 関 す る 民 事 責 任 の 状 況

( 17 )  

おいて﹃危険な物質﹄を簡単に定義すると共に︑その内容の一部を

E

C 指令を引用する添付書類

I

A のパート とパー

( 18 )  

ト B に譲っている︒この添付書類

I

パート A

及 び

B が定めるみなし規定は︑危険性が存在しない旨の反証を認めない

( 19 )  

趣旨のものと解され︑しかも︑これら危険物質の例示は限定列挙ではない︒以下︑危険な物質の定義を挙げておく︒

a

号:八環境又は財産に対し重大なリスクをもたらす特性を有する物質又は合成物

(p

re

pa

ra

ti

on

)

︒本条約の添

付書類

I

・ パ

ー ト

A が挙げる爆発性物質︑酸化性物質︑超発火性物質︑高発火性物質︑発火性物質︑超有毒物

質︑高有毒物質︑有害物質︑腐食性物質︑刺激性物質︑過敏性物質︑発癌性物質︑可変性物質︑再生すること により有毒となる物質又は環境に危険な物質若しくは合成物は︑右リスクを有するものと見なす︒

b 号こ添付書類

I

・ パ

ー ト

B

で明記された物質︒本号の適用については︑このパート

B は︑危険物質の列挙を特定

a 号は︑危険な物質に関する一般的条件として︑人︑環境又は財産に対する重大なリスクを要求する︒さらに︑こ

の一般的条件の下で常に発生し︑結果的に当該物質を危険なものにする特性︵爆発性︑酸化性等︶を要求している︒

( 20 )  

この点は︑二つ以上の物質を結合させることによって生じる合成物についても同様である︒他方︑

b 号は︑その物質

( 21 )  

一定の場合に危険な物質となるものに関する︒結局︑危険な物質は︑三つに分類されている

自体は危険ではないが︑

( 22 )  

のである︒すなわち︑それ自体危険で責任を生じさせる物質︵危険な物質中の中核的物質︶︑当該物質を危険な物質 に変える性質︑例えば爆発の危険性や発火の危険性︑毒性といった性質が現れたときに責任を生じさせる物質︵危険 な物質中の周辺領域の物質︶︑さらに右いずれの性質を有するものではないが︑人︑環境又は財産に重大な危険を生 じさせる別個の性質が出てきたとき︑危険責任が適用される物質に分かれる︒

の量又は濃度︑特定のリスク又は特定の状況に限定する︒

~ ︵ 九

三 五

(11)

操業者の類型

二 ︳ ︱ ‑

活動により損害が発生した場合において︑﹁事件の当時﹂︑当該活動につき支配を行っていた操業者に︑責任を課して

いる︒事件とは︑損害の原因となり︑又は損害を引き起こす重大かつ切迫した危険を生じさせる︑﹁突発的事件

(s

ud

de

n  o

cc

ur

re

nc

e)

﹂ ︑

﹁ 幽

加 結

5

( co n t in u o us )

1 4 ﹂及び﹁同一原因からの一連の複数事件

(a

ny

s e r i e s   o f  o

cc

ur

  , 

re

nc

es

  ha vi ng h   t e  s am e  o r i g i

n )

﹂をいう︵第一一条︱︱項︶︒突発的事件とは︑例えば︑火災︑漏洩︑放射などをいう︒

( 23 )  

工場のドラム缶から有害物質が漏洩し︑その結果汚染被害が発生したような場合である︒継続した事件とは︑例えば︑

長年にわたり水路に危険物質を排出する行為をいい︑河川への長期にわたる危険物質の排出行為により河川が汚染さ

( 24 )  

れる場合が典型的事例である︒同一原因からの一連の複数事件とは︑例えば︑ガス管のパッキングが壊れ施設の一部

に影響が発生して生じた一連の爆発︑過度の圧力によりパイプが壊れ発生した一連の爆発をいう︒ガス管の亀裂によ

( 25 )  

る連続したガス爆発により付近住民が人的・物的損害を被るのが典型的事例である︒これらの例の中には︑事故

( a c c i d e n t ,   U n fa l l )

も当然含まれるが︑本条約は広く環境上重大な事件︵突発的出来事をも含む;

V o r f a l l )

を原因と

( 26 )  

した損害の発生を問題にしている点が特徴である︒なお︑ a 号から

C

号までの各号がいう危険な活動の停止後に損害

が初めて認識された場合︑この活動の直近の操業者は︑損害の全部又は一部が自ら操業者となる以前に発生した事件

から生じたものであることを証明しない限り︑損害につき責任を負う︵第六条四項︶︒直近の操業者はその活動を

行っていた当時︑損害を予見させうる状況を認識する可能性が十分あり︑又は損害を回避する措置を採ることができ

( 27 )  

る可能性が大きいというのがその趣旨である︒

, ' ,

①第六条︳項の操業者 同条項は︑事件

 

( i n c i d e n t )

の結果︑第二条一項

a

号から

C

号までの各号に挙げる危険な 関法第四六巻第四・五・六号

(12)

欧 州 に お け る 環 境 損 害 に 関 す る 民 事 責 任 の 状 況

` ︑

①継続した単一事件 ②第七条︳項の操業者

同条項一文は︑ある用地に最終処分された廃棄物によって発生した﹁損害が認識された時 点﹂における当該用地の操業者に︑責任を課している︒﹁事件当時の操業者﹂を問題にする第六条一項の操業者の責 任と異なり︑﹁損害が認識された時点での操業者﹂を責任主体としているのは︑当該用地に永久保管・貯蔵される廃 棄物については︑ある事件を原因として廃棄物により損害が発生したとしても︑

m

①で既述したように当該事件が何

( 28 )  

時生じたのか正確に確定することが困難であるためである︒ただ︑損害発生が認識された時点を基準にするとなると︑

この時点で当該最終処分場が閉鎖され︑操業者が既に存在しない事態も予想される︒そこで同条項︱一文は︑このよう な場合には︑直近の操業者を責任主体としている︒その他︑同条二項は︑﹁本条の責任には︑廃棄物の性質いかんに かかわらず︑第六条の操業者に関する免責規定を準用する﹂と定め︑廃棄物の性質を問題としていない︒これは︑危 険な物質である廃棄物と危険な物質ではない廃棄物とによって︑異なる二つの法的処理を回避するのがその目的であ

( 29 )  

る︒この点は︑廃棄物のすべての構成要素を判別することが必ずしも可能でないことによっても理由づけられる︒

複数操業者の連帯責任

第六条一項の操業者については︑ある事件が継続した単一事件であ る場合︑当該事件が発生した期間中︑危険な活動を継続して支配していたすべての操業者が連帯して責任を負う︵第 六条二項・︱︱︱項︶︒但し︑操業者は︑自ら危険な活動を支配していた期間中における事件が損害の一部のみの原因で あることを証明したなら︑当該一部の損害についてのみ責任を負う︵第六条二項但書・三項但書︶︒

②複数施設等・複数の危険活動からの損害の場合

一連の複数事件の場合

危険な活動が行われる複数の施設内若しくは複数の用地上にお いて発生した事件から損害が生じ︵第二条一項

a 号

ic

号︶︑又は第二条一項 d 号にいう危険な複数活動から生じた

二三五

(13)

3  当該一部だけにつき責任を負う︵第︱一条︶︒

場合︑当該複数の施設又は用地のすべての操業者は︑全損害につき連帯して責任を負う︒このような複合事例の場合 には︑それぞれの事件とその事件から発生した特定の損害との間の因果関係を証明することが困難又は不可能である

( 30 )  

からである︒但し︑操業者が危険な活動を行う施設内若しくは用地上における事件によって損害の一部だけが発生し︑

又は第二条一項 d 号にいう危険な諸活動によって損害の一部だけが発生したことを証明する場合︑操業者は︑損害の

免 責 規 定 第八条は操業者の免責規定である︒損害の原因が︑戦争︑敵対行為︑内戦︑暴動又は例外的︑不可避的かつ抵抗し

えない性質を有する自然現象である場合

( a

号︶︑問題となる危険な活動のタイプに応じた適切な安全措置を講じて

いたにもかかわらず︑損害を生じさせる目的で第三者によって行われた行為である場合

( b

号︶︑及び行政の特定の

命令又は強制措置を遵守したことから必然的に生じた場合

(C

号︶にそれぞれ免責するというのは︑通常の免責条項

( 31 )  

で あ

る ︒

た だ

C

号は︑行政によって操業者が許認可を受けたこと又はそのための要件を充足していたこと自体を免

( 32 )  

責条項とするものではない︒

号︶を免責事由にし︑ 免責条項の中で重要なのは︑損害が当該地方特有の環境の下での受忍しうるレベルの汚染を原因とした場合

( d

( 33 )  

いわば受忍限度論を採用している点である︒受忍可能なレベルでの汚染か否かの判断は︑当該

地域の事情︵都市部か農村部か︶を考慮して行われる︒これを免責条項としたのは︑受容し得る不便︵迷惑

i n c o

n , 

4 ) ( 3  

v e n i

e n c e

)

にまで厳格責任を拡大することを回避することにある︒その他︑損害を被った者の利益のために適法に行

われた危険な活動で︑かつ︑当該活動によって被害者を危険な活動のリスクにさらすことがこの者に対して合理的で

関法第四六巻第四•五・六号

(14)

欧 州

に お

け る

環 境

損 害

に 関

す る

民 事

責 任

の 状

れ る

b 号ご財産損害︵但し︑危険な活動が行われる敷地内における施設自体に対する損害及び操業者の支配に服する財

産 損

害 を

除 く

c号~a号及びb号の損害と見倣されない、環境を損なうこと

その賠償は︑環境侵害による逸失利益を除き︑現実に実施され︑又は実施されるべき浄化措置の費用に限定さ

d 号五防止措置費用及び現実に防止措置を講ずることによって発生する損失又は損害 a号こ生命侵害又は身体傷害

(i

mp

ai

rm

en

t)

自体による損失又は損害︵但し︑ ある場合には︑右活動を原因とした損害についても︑免責される

( e

号︶︒具体的には︑被害者が右活動を承諾して

( 35 )  

いる場合が挙げられる︒

これらの免責事由の取扱いにつき︑条約は締結国がその一部を適用除外することを許している︵第二五条︶︒また︑

いわゆる開発リスクの抗弁︑すなわち第二条一項 a

号 .

b 号が定める危険な活動において︑事件当時の科学技術上の

知見をもってしては当該物質が有する危険な特性又は有機体を取扱う作業に伴う重大なリスクを認識しえなかった場

合にこれを理由に操業者を免責させることにつき︑第三五条一項 b 号は右抗弁を認めるか否かを当事国の国内法の裁

( 36 )  

量に委ね︑免責事由とすることを避けている︒

損害と損害回復方法

損害の四類型

本条約は︑第二条七項において賠償の対象となる損害を以下のように四つ列挙する︒

二 ︳ ︱ ‑

(15)

( 2 )  

損害を間接的に定義しようとしているものと思われる︒ よって定められた要件に従い︑行われる︒他方︑

二 ︳ ︱ ‑

0 )

さらに︑同条項の但書は︑これらの損害と操業者による危険な活動との間に因果関係が存在することを要求してい

る︒損害の把握の仕方で特徴的なのは︑①逸失利益の取り扱い︑②環境を損なうことによる損失又は損害をも損害の

一っと評価していること︑これと関連して︑③浄化措置及び防止措置の出費をも損害と評価していることである︒

まず︑①については︑二つの取扱いを行う︒ a

号 ︑

b 号及び d 号の損害に伴う逸失利益の損害賠償は︑国内法に

c 号

は ︑

a 号又は b 号の損害と見倣されない﹂という文言を使用

( 37 )  

し︑個人の逸失利益をそもそも賠償の対象としていない︒ただ︑純粋のエコノミック・ロスであっても︑環境侵害か

ら生じた逸失利益については︑損害賠償の対象とすることを明記している︒それ故︑ホテルが存在する当該用地の汚

染によってホテルの移転を余儀なくされ︑その結果ホテルの利用客が減少した場合︑その営業逸失収益につき︑ホテ

( 38 )  

ルに対する損害賠償が認められる余地がある︒

②の点は︑特に特筆すべき点である︒ a 号及び b 号は個人にかかわる損害の範疇であるのに対して︑

C

号は︑環境

が損なわれた結果︑個人の生命︑身体︑健康及び財産を超えて発生する損害︑すなわち大気汚染︑土壌汚染︑生態系

の破壊︑文化的遺産の損傷など環境自体につき発生した損害につき︑操業者に責任を課そうとしているのである︒た

だ︑いわゆる環境損害

(o ko lo gi sc he Se ba .d en )

自体を明確に定義しそれを賠償させる旨の規定を設けることは断念

( 39 )  

している︒これは︑環境損害自体の定義の困難さが本条約の草案段階から意識されていたためである︒但し︑次善の

策として︑本条約は︑同じ第二条の一 0 項において環境を定義するという方法を採用することによって︑言わば環境

環境の意義

関法第四六巻第四•五・六号

(16)

欧 州

に お

け る

環 境

損 害

に 関

す る

民 事

責 任

の 状

第 二

条 一

0 項は︑﹁環境とは︑以下のものを含む﹂とし︑﹁大気︑水︑土壌︑動物群︑植物群及びこれら同︱ファク

ター間の相互作用のような非生物及び生物の天然資源﹂︑﹁文化的遺産を構成する財産﹂及び﹁風景の特徴的景観﹂を

( 40 )  

列挙する︒文化的遺産や風景の特徴的景観が環境概念に内包された点で︑環境の文化的側面をも考慮している︒環境

( 41 )  

を定義したのは︑以下のような三つの理由からである︒第一に︑本条約の目的は環境に対する損害につき賠償を行う

ことにあるので︑環境という観念を定義することが必要である︒第二に︑環境を定義することは︑環境に関する特別

な規定を適用することを容易にする︒第三に︑環境の定義によって︑本条約の射程距離が人又は財産に対する損害賠

償に限定されず︑特別な保護を要する環境に対する損害賠償にまで及ぶという点を強調すべきである︒ところで︑こ

こでの定義は︑﹁以下のものを含む﹂という文言から明らかなように包括的なものでなく︑例示列挙の形を採ってい

c 号は︑環境が損なわれる場合につき︑金銭賠償主義を採っている︒すなわち︑浄化措置を講ずるの る︒したがって︑環境の何か別の側面に対する損害についても︑また環境につき新たな自然科学的︑社会的構成要素

( 42 )  

が認識された場合において︑当該要素の侵害による損害についても︑本条約の下で責任を発生させる︒

③損害回復方法:金銭賠償と原状回復

①浄化措置

に必要な費用を操業者に賠償させるという方法︑又は第三者が現実に浄化措置を講じる際に出費した費用相当額を事

( 4 3 )  

後的に操業者に賠償させる︵いわば費用償還義務を負担させる︶という方法が並記されている︒これらは︑財産又は

( 44 )  

人に対する損害と独立した環境の直接的な保護の認識を促進しようというのがその趣旨である︒浄化措置とは︑損害

を被った︑又は破壊された環境の構成要素の浄化又は回復を目的とする︑又は合理的であるときにはそのような構成

要素に相応するものを環境に導入することを目的とする合理的措置をいう︵第二条八項︶︒可能な限り︑常に環境の

二 三

︵ 九

四 一

(17)

浄化又は回復を行い︑損害が生ずる以前の状態に相当する環境状態を回復させるのである︒そして︑右回復が不可能 な場合に限り︑浄化措置は︑同様の構成要素を環境に再導入する方法で行われる︒このことは︑例えば︑ある動物の 種が消滅した場合やある生物圏が修復ができないほど破壊された場合に当てはまる︒確かに︑このような場合には︑

損害は経済上算定することができず︑環境を浄化することが理論的に不可能である︒しかし︑この事態を放置し損害 賠償責任を課さないというのは妥当でない︒むしろ︑特殊な損害賠償方法を導入すべきである︒この認識に基づき︑

5 )( 4  

当初本条約の第一草案には存在しなかったこの浄化措置が審議の過程で追加されたのである︒

ところで︑浄化措置費用を操業者に賠償させるという方法は︑実質的に操業者自らが浄化措置を講ずることを意味 する︒したがって︑原状回復主義が採用されていると評価することも可能なのである︒この場合︑環境保護を目的と

する一定の社団又は財団は︑操業者に対する浄化措置命令を請求することができる

三者が現実に浄化措置を講じたことにより出費した費用相当額を事後に操業者に賠償させるという方法が選択される 場合︑事後に浄化措置費用を操業者に請求するに先立ち︑誰がこのような浄化措置を講ずる権限を有するのかが当然

問題となる︒この点につき︑本条約は定めておらず︑その決定は国内法に委ねられている

②防止措置

︵ 第

一 八

条 一

d 号 ︶ ︒ 他 方 ︑ 第

︵ 第

二 条

八 項

二 文

︶ ︒

d 号は︑防止措置費用及び現実に防止措置を講ずることによって発生する損失又は損害を損害の一っ

として定めている︒防止措置とは︑ある事件発生後に第二条七項 a 号から

C

号にいう損失又は損害が発生する切迫し

た重大な危険がある場合において損害の発生を防止し︑又はその損害を最小限に回避する合理的措置をいう︵第二条 九項︶︒損害回復の方法は︑①の浄化措置の場合と同様であり︑金銭賠償主義によっている︒なお︑同条項は︑防止

措置の主体を明記しておらず︑﹁ある者

(a

ny

pe

rs

on

﹂によって講じられる合理的措置とのみ定義する︒ただ︑浄化

) 関法第四六巻第四•五・六号

0

(18)

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環 境

損 害

に 関

す る

民 事

責 任

の 状

5

因 果 関 係

措置の場合と同じく︑ここでも一定の団体は︑違法で︑かつ︑環境に対し損害発生の重大な恐れがある危険な活動の

禁止︵第一八条一項a号︶︑操業者に事件又は損害を防止する措置を講ずるよう命ずること︵同条項 b 号︶及び操業

したがって︑操業者が防止措置の主体であることに疑いはなく︑原状回復主義が導入されているのである︒他方︑事

後に操業者から防止措置費用相当額を損害賠償︵費用償還︶として請求することができるので(d号後段︶︑操業者

以外の者が防止措置の主体となることもある︒ただ︑具体的に誰がその主体となるかは︑浄化措置の場合と同様の問

題となろう︵但し︑この点の定めを国内法に譲る旨の規定が防止措置に関する第二条九項には欠けている︶︒

第 一

0 条は︑事件と損害との間の因果関係の証拠を掛酌する場合又は第二条一項 d 号が定義する危険な活動におけ

る当該活動と損害との因果関係の証拠を掛酌する場合︑裁判所は︑﹁当該危険な活動に内在する︑当該損害の原因と

なり得る増大した危険性﹂を必ず考慮しなければならない︑と定めている︒被害者の損害賠償請求を容易にするため

一定のタイプの損害を発生させる特定の危険な活動によって生じる特別なリスクに配慮しているの

の 手

助 け

と し

て ︑

( 46 )  

である︒ただ︑そのために︑因果関係の推定規定を設けることは行わず︑因果関係の証明責任を軽減したにとどまる

( 47 )  

点が特徴である︒その他︑損害賠償を請求する者の証拠収集の便宜を図るため︑第一三条から第一六条の規定は︑こ

の者に行政機関︑環境につき公的責任を有する団体又は操業者が各々保有する情報へのアクセス権を認めている︒但

し︑アクセス権は操業者にも認められており︑複数の操業者が連帯責任を負担する場合︑損害に対する自己の寄与割

合を立証して全額賠償責任を免れるため︑この権利を他の操業者が保有する情報に対して行使することも認められる

者に事件の後︑損害を防止する措置を講ずるよう命ずること︵同条項c号︶を内容とする請求を行うことができる︒

(19)

ニ四二︵九四四︶

( 48 )  

︵第一六条二項︶︒アクセス権は必ずしも︑被害者のための権利とまでは言いきれないのである︒

当初︑専門委員会の条約草案では賠償額の上限を限定する規定が設けられていた︒しかし︑その後これは撤廃され

( 49 )  

出訴期限と裁判管轄

出訴期間の制限

第一七条一項において︑本条約の下での損害賠償訴訟につき︑損害及び操業者を知り︑又は合理的に知り得ぺき時 を起算点として出訴期間を三年に制限する旨を定めている︒また︑同条二項において︑損害の原因となる事件の日か ら ︱ ︱

1 0

年を経過した後も︑訴訟を提起することができない旨を定めている︒このように︑条約で出訴期間につき三年 の明文を設けたのは︑国内法にこの点を委ね出訴期間が各国で異なると︑被害者が常に出訴期間が有利に定められた 国の裁判所を探しそこに駆け込むという弊害︑いわゆる裁判所ショッビング

ある︒また︑二項の三 0

年は原告と操業者の利益調整の結果であり︑特に︑操業者が加入する保険につき保険期間を

( 51 )  

確定する必要性を考慮したものである︒なお︑第六条が定める操業者の責任のうち︑事件が継続した事故︵第六条二

項︶の場合︑及び同一の原因からの一連の複数事故︵同条三項︶ の場合︑さらに︑廃棄物の最終処分場の場合につい

ては︑第一七条二項において三 0 年の期間の起算点が別個に定められている

終了の時点から︑事件が同一の原因からの一連の事故の場合は当該一連の複数事故のうちの最後の事故における最後

の日から︑廃棄物の最終処分場については遅くとも︑当該用地が国内法の規定に従い閉鎖された日から︑それぞれ起 7 

(1) 

6 賠償額の制限規定の不存在

関法第四六巻第四・五・六号

︵事件が継続した事故の場合は当該事故

( f o r u m ' s h o p p i n g )

が発生するからで

(20)

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環 境

損 害

に 関

す る

民 事

責 任

の 状

第 一

八 条

は ︑

4 ③で既述したように︑定款上環境の保護を目的とする一定の団体︵当事国の国内法の諸規定に従い

設立された環境保護団体である社団又は財団など︶に︑以下の請求につき﹁団体による請求

(r

eq

ue

st

sb y  or

ga

ni

sa

  ,  t io n

)

﹂を認める︒すなわち︑違法で︑かつ︑環境に対し損害発生の重大な恐れがある危険な活動の禁止

(a

号 ︶

︑ 操

業者に事件又は損害を防止する措置を講ずるよう命ずること

ずるよう命ずること

趣旨は︑これら請求内容から明らかなように︑個人がこれらを請求しうる事態ではないけれども早急かつ効率的な介

( 52 )  

入を必要とする緊急の事態に配慮したことにある︒ただ︑請求を一定範囲で排除する定め︵同条二項︶及び団体の範

囲・訴訟の諸手続きに関する具体的な定めが国内法に委ねるられているため︵同条三項︶︑そもそも右請求が団体訴

(V

er

ba

nd

sk

la

ge

)

上の訴権

(K

la

ge

re

ch

t)

を意味するのか︑単なる申立権

(A

nt

ra

gs

re

ch

t)

を指すのか︑さらに

( 53 )  

右請求が裁判所又は行政官庁のいずれに対するものであるかを本条約は明らかにしていない︒その他︑原告適格に関 8 団体による請求

(C

号︶及び操業者に浄化措置を講ずるよう命ずること (d号︶を請求することができる︒その る行政不服審査機関がこれを管轄する︵第一九条三項︶︒ 算

さ れ

る ︶

裁判管轄権 ︒

(b号︶︑操業者に事件の後︑損害を防止する措置を講 2  第一九条一項は︑当該当事国における︑損害を被った場所(a号︶︑危険な活動が行われた場所(b号︶又は被告 の平常の住所地

(

C

号︶に存する裁判所がその裁判管轄を有する旨を定める︒また︑団体による請求が認められる場

合︵第一八条一項︶︑危険な活動が行われる︑若しくは行われる予定の場所の当事国の裁判所又は国内法の定めによ

(21)

1 0

暫定規定︵遡及適用の有無︶

, ̲ ︑一,1

同条の内容を実現するに当たっては︑ 委

ね ら

れ て

い る

︶ ︑

財政的な保全制度が設けられることを締約国に要求すると共に︑危険な活動については︵その活動の決定は国内法に

の制度に服する危険な活動を決定するに際して︑特に当該活動自体のリスクの程度を考慮すべきことを定めている︒

的な保全制度がなければ︑当該制度が被害者に対して損害賠償を支払うに見合う十分財政的資力をもたないという点︑

予見しえないリスクから損害が生ずる事態に十分な対応を行い︑リスクをカバーする財政的保障を確保するという点

( 5 5 )  

が考慮されねばならない︒右制度としてまず考えられるのは︑保険契約制度︑さらに操業者自らが財政的な財源を有

する制度︵操業者を構成員とした共同基金組織も含む︶である︒本条約の起草者は︑汚染についてのリスクと責任が

一層認識されるなら︑環境損害の分野で保険市場が発展し︑財政的な保全制度は徐々に保険契約にとって代わられる

( 56 )  

と認識しているようである︒

第六条︳項の操業者に対する遡及効の禁止原則︵第五条一項︶ ︐  する規定はこの第一八条だけであり︑金銭賠償請求︑原状回復請求などに関する原告適格の一般的規定が設けられて

( 54 )  

いない︒なお︑複数の国にまたがる環境汚染の問題に配慮して︑本条は一方の当事国における環境保護団体が他方の

当事国において団体訴訟の原告適格を有する途を開いている︵同条五項︶︒

強制的財政保全制度

(c

om

pu

ls

or

f i y n a n c i a l   s e c u r i t y   sc he me ) 

第︱二条は制度の具体的内容は定めていないものの︑危険な活動を行う操業者がそのリスクをカバーできるような

一定限度まで責任の履行につき財政上の保障を確保し︑維持することを求めている︒そして︑こ

関法第四六巻第四・五・六号

一定の活動がそれ自体損害発生の大きなリスクを内包しているという点︑財政

ニ四四︵九四六︶

(22)

欧 州

に お

け る

環 境

損 害

に 関

す る

民 事

責 任

の 状

同条項は︑本条約発効前の事件に対して第六条一項の操業者の責任を遡及的に適用することを禁止している︒この

原則は︑条約発効前に生じ︑その後も継続している﹁継続した事故﹂及び﹁同一原因に基づく一連の複数事故﹂にも

( 57 )  

適用される︒すなわち︑本条約は︑条約発効後に生じた事故を原因とする損害にのみ適用される︒

第七条一項の操業者︵第五条二項︶

廃棄物の最終処分場の操業者の責任については︑条約発効後に認識された損害にのみ適用される︒同条一項のよう

に事件が条約発効前か否かを基準にしなかったのは︑ここでは事件の発生時点を確定することが困難であるという事

( 58 )  

情に配慮したからである︒したがって︑損害の原因となる事件自体が条約発効前に生じた場合でも︑遡及的に責任が

( 5 9 )  

成立する場合がありうる︒但し︑この点は︑同条項の但書が定める a

号 と

b 号によって回避しうると説明されている︒

すなわち︑本条約発効する前に国内法の規定を遵守した適切な方法により当該用地が閉鎖されていた場合には︑本条

約の適用が排除される(a号︶ ので︑たとえ条約発効後に当該用地につき損害が認識されたとしても︑操業者は責任

を負わない︒また︑本条約発効以降も当該用地での操業が継続される場合において︑本条約発効前に当該用地に置か

れた廃棄物のみを原因として損害が発生したことを操業者が証明するときには︑ a 号同様︑操業者は免責される

( b

号 ︶ ︒

a 号において﹁適切な方法により﹂用地を閉鎖したことが要件となっているのは︑用地を単純に放棄した

( a b a

n d o n

)

操業者には免責を許さない趣旨からであり︑将来損害が発生しないよう一定の措置を講じることを一般

( 60 )  

的に伴う閉鎖条件を定める幾つかの国の国内法が参考になっている︒

(23)

ぎ な い こ と は ︑

本 条 約 の 評 価

操業者の危険責任

本条約は︑操業者に危険責任を課すことを内容とする︒すなわち︑第一に︑

境上重大な事件によって引き起こされた一定の損害につき無過失責任を負担する︒また︑廃棄物の最終処分場につい ては︑その操業者も︑廃棄物によって引き起こされた損害につき無過失責任を負担する︒ただ︑操業者概念について

は幾つか検討すべき点がある︒

m

責任の基礎としての﹁開かれた物質リスト﹂

な物質が中核的な構成要素となっており︑操業者の責任はいわば﹁物質責任﹂と位置づけられる︒しかも︑この危険 な物質につき︑本条約は例示列挙の立場を採っている︒別稿で既に指摘したが︑この点はドイツの環境責任法と好対 照をなしている︒ドイツの環境責任法は︑土地に据えられた設備に相当する︑限定列挙された九六種類の施設から発 生する一定の損害につき施設の保有者に責任を課す﹁施設責任﹂である︒本条約中の危険な物質が例示列挙にしかす

一方で物質の危険性につき新たにリストの補充を行わなくても︑責任を課すことができるという点で︑

長所を有する︒しかし︑他方︑当該物質を取扱う者にとって︑責任を負担するのか否か予測がつき難く︑法的安定性

( 62 )  

を欠く状況がもたらされる点で︑短所を有する︒

﹁ 支

配 ﹂

概 念

危険な活動を支配する者を操業者とよぶ場合︑支配がどのような内容のものでなければならな

いかが問題となる︒本条約の趣旨説明によると︑当該危険な活動に投資資金の貸付行為を行う者のように︑危険な活

関法第四六巻第四•五・六号

既にみたように︑第六条一項が定める操業者については︑危険

一定の危険な活動を支配する者は︑環

︵九 四八

(24)

となった財貨の有する経済的価値だけが考慮され︑環境に関係する価値は考慮されていなかった︒侵害が財産価値を

有する財貨に対して行われた場合にのみ︑損害賠償が議論されたにすぎない︒動植物の生息空間の破壊︑野生生物の

( 67 )  

排除︑微生物の死滅などは︑従来の損害賠償法の下では完全には保護されない︒さらに︑環境損害︵生態損害芸舌)' 2 

欧 州

に お

け る

環 境

損 害

に 関

す る

民 事

責 任

の 状

環 境 損 害

.  ̀  

, ' ー

動を可能にし︑又は促進させる外部の者は︑当該活動に対して効果的な支配を行っていない限り︑操業者と見倣され

ない︑とされている︒これと同じく︑危険な活動に必要な設備に設定された担保によりその権利を行使する債権者も︑

原則として操業者に含まれない︑と説明されている︒米国のスーパー・ファンド法のように銀行など債権者にも貸付

( 63 )

6 4

)  

責任を課すということは行っていないのである︒レンダー・ライアビリティを環境責任の分野で導入することの是非

には賛否両論があるが︑所有権担保の法制度につき大陸法系の成文法の加盟国が多く存在する欧州評議会では︑本条

( 65 )  

約の立場はもっともと思われる︒

通常の操業行為 3 

義務︵行政上の注意義務など︶に違反したことに基づき損害が生じたことを要件としていない︒ドイツの環境責任法

が﹁施設が規定どおりに操業されていた場合﹂すなわち操業上の特別な義務が遵守され︑かつ︑操業上の異常がない

場合には︑物的損害につき免責され︵同法第五条︶︑又は因果関係の推定を認めない

( 66 )  

約は通常の操業︵正常業務︶を特別扱いしていないのである︒危険な物質を構成要素とした危険な活動に伴うリスク

が危険責任の基礎となっている以上︑正常業務に対しても責任を課すのは当然のことと思われる︒

定義の難しさ

従来︑民法における損害概念は︑これを経済的に評価・理解してきた︒差額説では侵害の対象

︵ 九

四 九

︵ 同

法 第

六 条

のに対し︑本条 本条約は︑損害が事故から生じたこと︑さらに危険な活動を行う際に尽すべき操業上の注意

(25)

lo

gi

sc

he

  Sc ha de n)

の中には伝統的な損害論の下で経済的損害

(o ko no mi sc he

Sc

ha

de

n)

と評価することができるも

( 68 )  

のの存在する︒こうした状況の下で︑本条約の草案作りに携わった専門委員会は環境損害という用語を使用すること

を避けたのである︒その代わりに︑損害及び損害回復方法についてもキーワードとなったのが﹁環境を損なうこと﹂

第二条七項

c

号の制定の経緯 2 

での定義という方法によって︑本条約は環境損害を間接的に定義し︑これを賠償責任の対象にしたと考えられる︒も 第二条七項c号にいう損害の定義︑さらに同号にいう環境に関する同条一 0 項

と も と c 号中の﹁環境を損なうこと﹂という文言︑さらに

C

号 の

内 容

自 体

は ︑

一九八四年の原油責任に関する協定及

び危険物輸送に際する責任に関する条約に存在した︒本条約はこれらの規定を参考にし︑これを発展させ︑内容を明

( 6 9 )  

確化したものである︒すなわち︑前者の協定は︑﹁汚染損害とは︑︵中略︶原油の漏洩︑排出を問わず︑船舶からの漏

洩又は排出を原因とする汚染によって船舶外で発生する損失又は損害をいう︒但し︑環境を損なうことに対する損害

賠償は︑右損なうことによる逸失利益は別として︑現実に講じられた又は講じられるべき適切な回復措置の費用に限

定される﹂と定める︒また︑後者の条約は右協定を参考として︑﹁損害とは︑危険物を原因とする環境汚染によって

発生した損失又は損害をいう︒但し︑環境を損なうことに対する損害賠償は︑逸失利益の侵害を除き︑現実に講じら

れた又は講じられるべき適切な回復措置の費用に限定される﹂と定める︒既存の規定を踏襲したという点については

評価が分かれよう︒ただ︑本条約が第二条一 0 項で環境を例示規定の態様で定義したことを考慮するなら︑環境損害

の範囲は相当広くカバーできていると言ってよい︒環境を﹁損なうこと﹂という文言が有する概念としての曖昧さも︑

環境損害を固定させないという点では︑好意的に評価することができよう︒間題は環境損害自体の定義に関すること と い う 文 言 で あ る ︒

関法第四六巻第四•五・六号

ニ 四

参照

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