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ヨーロッパ移民政策の教訓 : 社会的受容力と国際 移民レジーム

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(1)

ヨーロッパ移民政策の教訓 : 社会的受容力と国際 移民レジーム

著者 小野塚 佳光

雑誌名 經濟學論叢

巻 59

号 4

ページ 353‑401

発行年 2008‑03‑20

権利 同志社大學經濟學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000012338

(2)

【論 説】

ヨーロッパ移民政策の教訓

1)

―社会的受容力と国際移民レジーム―

小 野 塚 佳 光  

1) 本稿は,平成17年度私立大学等経常費補助金特別補助高度化推進特別経費大学院重点特別経

費(研究科分)の助成を受けた.

は じ め に

1 「移民問題」とは何か?

  (1)アメリカの論争 (2)ヨーロッパの論争   (3)社会統合としての移民過程

2 「移民政策」とは何か?

  (1)完全自由化論 (2)移民の理論   (3)移民のタイプとケース

3 移民過程と社会的受容力

  (1)「社会的受容力」とは何か? (2)EU統合と共通移民政策   (3)ヨーロッパ労働組合評議会

4 移民過程と国際機関

  (1)国際労働機構(ILO) (2)国際移住機構(IOM)

  (3)ボーダー・コミュニティー 結 び

(3)

は じ め に

 「移民問題」は移民に関する問題,「移民政策」はその対応策と考えられて いる.しかし,その理解は正しくない.

 移民は私たちと同じ人間である.しかし,国境を超えることで「問題」と 見なされ,「政策」の対象として差別される.国家による移民の差別的取扱い は,人間を国民と国民でない者(移民,不法入国者,登録された外国人,正式な登 録を欠く,もしくは非合法な就労状態にある外国人2),など)に分けて,前者の利 益のために,後者を強制的な措置に従わせることが正しい,と主張する.グロー バリゼーションの過程で,その根拠は疑わしいものとなる.

 国連は人口予測に依拠して,また人権や開発の視点から,日本を含めた世 界の高所得国が移民受入政策を積極的に整備するよう求めている.

   「国家の境界が作られてからも,人々はそれを乗り越え続けてきた.単に 外国を訪れるだけでなく,そこで働き,暮らすために.そうする中で,彼 らはリスクを負い,逆境を克服し,より良い暮らしを模索したのだ.彼ら の向上心は常に進歩の原動力であった.歴史的に,移住が個々の移民の生 活を改善しただけでなく,人類全体の改善をもたらした.

   …(中略)…

   国家が存在する限り,移民も存在するだろう.そうでないことを願うか もしれないが,移民は現実の一部である.だから移民を阻止することが問 題ではなく,それにより良く対処すること,すべての立場からそれを理解し,

もっと協力することが問題だ.移民はゼロサム・ゲームでは決してないし,

すべての者に利益をもたらすようにできるのである3).」

2) 国際連合などの最近の報告書では,“irregular immigrants”と表示する.本論文では,「非合法移民」

という従来の呼称を用いた.他に,“illegal”“clandestine”“undocumented”とも呼ばれる.

3) Annan, Kofi A., “In Praise of Migration,” The Wall Street Journal, June 8, 2006. また,国連人口基 金(2006)も参照.

(4)

 たとえ豊かな国が移民を拒むとしても,国家が人の移動を管理する能力は 低下している.グローバリゼーションの進展は,輸送・通信手段の発達・低 廉化,市場自由化と国際制度による国内規制の撤廃推進,安価な工業製品・

輸入品の浸透,低賃金の外国人労働者の利用,ハイテク技術者・労働者の奪 い合い,貧困・所得格差の増大,通貨・経済危機の波及,などをもたらした.

 移民管理は,非合法移民や犯罪組織の仲介,地下経済など,それ自体が複 雑な問題を派生させる.また,ある国の移民管理は,他の国の利益を損ない,

政策目標と対立するかもしれない.そして,移民管理を行う国が,その長期 的な目標や,グローバリゼーションに対する国民の姿勢を歪め,戦略的な地 位を損なう恐れもある.

 筆者はヨーロッパで移民政策が転換する兆候4)に注目し,その背景を理解 するため,

2006

年の春,現地調査を行った.ブラッセルでは,

EU

EESC

(ヨー ロッパ経済社会評議会),

ETUC

(ヨーロッパ労働組合連合),ジュネーブでは

ILO

(国 際労働機構)と

IOM

(国際移住機構)を訪問した.インタビューの際に行った主 要な質問は以下の四つである.

 1. 移民問題とは何か? (もしそれが「問題」であるとしたら.それはどのよう な意味で「問題」なのか?)

 2. 移民問題に対する解決策とは何か? (この「問題」に「正しい解決策」は あるのか?)

 3. 移民政策を決めるもの(要因,勢力,制度など)は何か? (何が現実の移 民政策を決めているのか? 今後,移民政策はどうなるのか?)

 4. 移民に関する国際協力は重要か? (あるいは,必要のない,無駄なものか?)

国際移民システムは誕生するだろうか?

4) イングランド北部の「人種暴動」,パリ郊外都市における移民の二世・三世による自動車への 放火と抗議行動,オランダ人映画監督の暗殺事件と移民抑制を掲げる政党の躍進,デンマーク の新聞が掲載した風刺漫画をめぐるEU諸国とアラブ圏との対立,欧州憲法条約をめぐる論争 とフランス・オランダの国民投票による否決,など.

(5)

 本稿は第

1

節で,最近の欧米における移民論争を紹介し,「移民問題」とは 何か,を考える材料を示す.第

2

節では,移民政策を支える主要な理論,移 民(そして,特に受入国)のタイプ,個々のケース,イデオロギーについて整理・

検討する.第

3

節は,ヨーロッパの移民政策が模索する新しい段階を紹介し,

それを「社会的受容力」という概念と比較する.第

4

節では,地域統合や国 際機関の重要性を指摘し,最後に,移民をめぐる統合・調整過程を日本政府 が考える上で,参考となるモデルを示す.

 本稿では,ヨーロッパ移民調査から得た資料やインタビューの中で,特に,

N.

ハリスの移民完全自由化論,②移民政策研究所がまとめた新しい政策思 想,③

EESC

(経済社会評議会)や

ETUC

(ヨーロッパ労働組合連合)の役割,④

ILO

(国際労働機構)や

IOM

(国際移住機構)の移民支援策,を重視する.

1 「移民問題」とは何か?

 「移民問題」として議論されるのは,特に,言葉や習慣・文化の違いによる 誤解と差別,低賃金・労働条件の悪化,犯罪(麻薬,買春,人身売買,ギャング), 病気(ウィルスの感染など),貧困地区・スラムの形成,医療費や住宅・生活保 護など社会保障のコスト,そして信仰や政治思想の違い,などである.それ らは国内の失業問題や政治的不安定化,戦争の勃発と難民急増などにより,

にわかに「問題化」した.

 移民をめぐって激しい反対論,排斥・追放論,選別論が起きている.アメ リカとヨーロッパの論争から,その例を示す.

(1) アメリカの論争

 アメリカでは推定

1200

万人と言われる非合法移民が問題になっている.一 定の条件を満たす国内の非合法移民については,アムネスティー(恩赦)を与 えて合法化するべきだ,という主張と,それは将来の移民流入を助長させる,

追放するべきだ,という主張が対立している.

(6)

 たとえば,自由主義の国際派エコノミスト,M.ウルフ5)は,雇用主に十分 厳しい罰金を科せば非合法移民は来なくなる,と考える.他方,移民の専門家,

D.

マッシー6)は,たとえ罰金を重くしても,また国境線を軍事要塞のように 厳しく監視しても,非合法移民はなくならない,と主張する.むしろ,ます ます入国に費用がかかることで,非合法移民の賃金や労働条件は悪化する,

と主張した.

 また,L.チャベスは次のように考える7).アメリカの工場や農場は,仕事 を中国やインドに取られたくなければ,非合法移民を雇うしかない.アウト ソーシングが嫌なら,メキシコ人をインソーシングすることになる.彼らの 多くがアメリカに来ないなら,アメリカの労働者が安い賃金で畑の厳しい労 働に従事するか,あるいは,メキシコから農産物を輸入する.

 地方政府の対応はどうか? 彼らは決して非合法移民を排除していない.

彼らがいなければ経済は機能しないからだ.むしろ市民と同じように扱い,

歓迎する場合もある.国籍に関わらず,住民たちの自治が重んじられる.彼 らを問題なく統合することが重視されている.同時に,移民たちは納税し,

社会保障費を支払うよう促される.そして銀行口座を持ち,子供たちを学校 へやり,運転免許証を得る.

 合法であれ,非合法であれ,移民と住民たちは一緒に暮らさなければなら ない.この国に住む者が,公平かつ迅速にアメリカ社会に統合されることこそ,

正しい移民政策である.彼らが国境をどのように越えたかによって,その基 本的な権利を損なったり,生活水準を悪化させたりするべきではない.移民 法改正の主要な動機である「非合法移民の処罰」はやめるべきだ.むしろ新 しい労働者たちが経済に円滑に吸収され,彼らを社会に統合する新しい方法 を見出すべきだ.

5) Wolf, Martin, “Disputed fruit of unskilled immigration,” Financial Times, April 4, 2006.

6) Massey, Douglas S., “The wall that keeps illegal workers in,” New York Times, April 4, 2006.

7) Chavez, Lydia, “Caught in the overlap of two societies,” Los Angeles Times, December 19, 2005; do., “The quiet assimilation of the undocumented,” Los Angeles Times, December 20, 2005; do., “Rebuilding the nation of immigrants, ” Los Angeles Times, December 21, 2005.

(7)

 G.ボージャスと

D.

カードも新しい移民の影響と選別政策について論争し た8)

 ボージャスは,最近のメキシコ系移民の多くが未熟練労働者で,独自のネッ トワークを形成し,大規模に流入して,しかも以前ほど同化する傾向を示し ていない,と考える.それゆえ,移民がアメリカの未熟練労働者の雇用や賃 金に悪影響を与えている.アメリカ全体の利益から見て,非合法移民の規制 は合理的である,と主張する.

 他方,カードは,移民が増えることは,労働力を供給するだけでなく市場 に需要をもたらし,それゆえ(アメリカの労働者に)労働需要をもたらしている,

と主張する.自由貿易であれ,ウォルマートであれ,市場競争は勝者と敗者 をもたらす.移民もそうだ.市場によってダイナミックに成長できる社会も あれば,それを拒むことで停滞することを選ぶ社会もある.アメリカは前者 である,と主張する.

 P.クルーグマン9)は,心情的に移民を支持し,国境を開放することが望ま しいと感じているが,「移民の経済学」はそれに反対することを理解しなけれ ばならない,と書いた.デマゴギーに対抗するために,以下の真実を知るべ きだ.①移民の経済全体に及ぼす利益は小さい.②アメリカの,特に貧しい 労働者は,メキシコからの移民によって生活が悪化している.③移民は福祉 国家を侵食する.

 移民論争は福祉国家だけでなく安全保障と結びつく.国境にフェンスを建 設せよ,という意見が保守派からもリベラル派からも出ている.

 G. F.ウィル10)は,非合法移民への処罰を強化するだけでなく,国境のフェ ンスを求める.「アメリカは第三世界と

2000

マイルの国境線で接している唯 一の先進国だ.」この状態は,東西ドイツ境界線と比較できる.もし本当に移 民を阻止したいなら,「壁,有刺鉄線,地雷,マシンガンを持った兵隊が監視

8) Lowenstein, Roger, “The immigration equation,” New York Times, July 9, 2006.

9) Krugman, Paul, “North of the border,” New York Times, March 27, 2006.

10) Will, George F., “Guard the borders: and face facts, too” Washington Post, March 30, 2006.

(8)

塔に登り,獰猛で巨大な犬が出番を待って」いなければならない.もちろん,

アメリカはもっとハイテク装備を利用できる.本国に帰還する移民たちには バスの隊列を用意することだ.

 未熟練労働者の賃金を下げる,と移民たちは非難される.しかし

R.

カット ナー11)は,賃金を低下させているのはアメリカの経済政策である,と主張す る.もし労働法が厳しく適用されれば,移民労働者が賃金を大きく下げるこ ともない.労働需要は固定されているのではなく,経済活動の水準で変化する.

移民による弾力的な労働力供給は投資や成長を刺激し,雇用も増やすはずだ.

アメリカ人労働者の生活水準が悪化したのは移民のせいではなく,中産階級 の支出に大きな割合を占める医療費や教育費などが一般物価よりも急速に上 昇したからである.生産性上昇の利益を富裕層に与えてしまった政府を責め るべきだ,と主張する.

 R. J.サミュエルソン12)は,アメリカ型福祉国家に非合法移民を正式に吸収 し,それゆえ,ケインズ主義の基盤を強化せよ,と主張する.①雇用主への 罰則を強化せよ.②非合法移民に市民権を与えよ.③ゲスト・ワーカー案は 放棄せよ.

 また

R. J.

サミュエルソン13)は,これが移民の同化(assimilation)に関する 論争である,と考える.問題は賃金格差であり,非合法移民は容易に阻止で きない.彼は,非合法移民のもたらす社会的コストが甚大であると考え,選 別政策を支持する.移民たちは時間をかけて同化するだろうし,社会的コス トも賃金格差も時間とともになくなる.しかし,毎年,新しい移民がメキシ コから流入するのを放置して,それでも同化を期待するほど「愚かな楽観論者」

ではない.アウトサイダーをインサイダーに変えるためにも,新移民を選別・

11) Kuttner, Robert, “Stagnant wages? Made in USA,” Boston Globe April 1, 2006.

12) Samuelson, Robert J., “The immigration impasse: a way out,” Washington Post, April 5, 2006; do.,

“Seeking sense on immigration,” Washington Post, May 2, 2007.

13) Samuelson, Robert J., “Conspiracy against assimilation,” Washington Post, April 20, 2006.

(9)

抑制するべきだと主張する.

 T. L.フリードマン14)は,アメリカが巨大な磁石であるから,それに見合っ た高いフェンスと本格的なゲートを築くべきだ,と考える.この世界では革 新する力がすべてだ.革新的なアイデアと起業家を集めることが世界を制覇 する道だ.すなわち,アメリカの移民文化が最高の優位を発揮する.また,

移民は社会を弾力的で競争的にする.自国を捨てることは,高度技術者であ ろうと,未熟練の肉体労働者であろうと,成功への最大の動機となる.彼ら はがむしゃらに働くだろう.フリードマンは移民を大いに奨励する.しかし,

彼らを歓迎しようと思えば,同時に,より厳格で安心できる巨大なフェンス が必要である.もし移民問題が安全保障や情緒的な人種差別に結びつけば,

移民を受け入れる政治的な条件が損なわれる.

ID

カードを導入して,バーチャ ル・フェンスを築くべきだ.そして,反移民感情を煽るデマゴーグたちを移 民政策から排除する.

 しかし,フェンスが現実的な対策か? 10フィートの高さのフェンスを建 設すれば,10フィートの梯子が要るだけだ15),とそれを批判する声も強い.

むしろ,もし

NAFTA

が国家を超える地域的な統合型発展を実現していたなら,

フェンスなど不要であった.メキシコなど,移民送出国で十分な発展と雇用 が期待できるなら,子供たちを残して外国に出稼ぎに向かう者はいない16).  つまり,送出国を含めた地域経済統合や開発政策が必要だ.アメリカはグ ローバル化する経済システムに鍵をかけるのか? 政治的支配者の都合に合 わせて外国人を差別するのか? アメリカという雇用の磁石を鈍らせたいの か? D.ロドリク17)は,アメリカとメキシコの双方で,移民や政府のイン センティブを正すように求める.そうすることで,移民による莫大な利益を 双方が得るだけでなく,ドイツが失敗したようなゲスト・ワーカー制度の再

14) Friedman, Thomas L., “High fence and big gate,” New York Times, April 5, 2006.

15) Stein, Joel, “My run for the fake border,” Los Angeles Times, June 1, 2007.

16) Nazario, Sonia, “The love left behind,” Los Angeles Times, April 2, 2006. また,次の論説も参照.

Hill, Steven, “Time for a tex-mex Marshall plan,” Washington Post, April 23, 2006.

17) Rodrik, Dani, “Be our guests,” New York Times, June 1, 2007.

(10)

現を阻止できる.

 ワインのブドウ畑から見るアメリカ,テレビやインターネットで誇張され た豊かさを振り撒くアメリカに,貧しい,仕事のない,第三世界から追い出 された人々が何とかして集まってくることを,完全に阻止する方法はない.

移民システムの改革は,移民が流出する地域の経済改革と同時に模索される.

(2) ヨーロッパの論争

 戦後の経済復興において,ドイツだけでなく,ヨーロッパ諸国は政府間契 約で短期の出稼ぎ労働者を利用した.しかしそれは,J. F.ホリフィールド18)

が指摘したように,一方では,商品として自由市場による解決を望み,他方 では,人間として福祉国家の下での人権や基本的な社会保障を提供すること になった.この制度は,家族の呼び寄せを認め,移民労働者への依存を強め,

国内の二重社会化を改善する要求を生みだした.

 政治的に扱いにくいという理由で移民問題がヨーロッパ各国の選挙で主要 政党の争点から外されたことに,かつて

R.

ダーレンドルフ19)は異議を唱えた.

国民が強い関心を持つ移民問題を主要政党が忌避すれば,移民論争は政治的 過激集団の宣伝材料となり,ますます解決が難しくなるからだ.

 移民は,経済的・政治的な窮状に迫られて選択しており,これを妨げるこ とは難しいし,適当でもない.また,移民労働者の流入は,ヨーロッパ諸国 が今後も豊かな福祉国家を維持する上で必要である.移民の受入国は,彼ら がその目的地として,豊かで自由な国を選んだことに大きな誇りを見出すべ きだろう.それは歴史的にアメリカが得てきた地位であり,EUはこれに匹敵 する地位を占めつつある.

 しかし,移民がハイテク部門の労働需要に応えるという理由で自由化され るとしたら,問題を矮小化しすぎている.むしろ移民労働者の多くが占める

18) Hollifield, James F. (1992).

19) Dahrendorf, Ralf, “Home truths about immigration,” Strait Times, September 20, 2002.

(11)

のは,国民が嫌うようになった職場であり,彼らは労働市場の底辺に参入する.

また移民の将来は,受入社会への完全な同化・統合化か,あるいは出身国へ の帰還か,ともに可能な選択肢であるべきだ.現在,アイルランドやポルト ガルが示しているように,活発な社会への参加を目指して移民たち自身が帰 国を選択できる条件が望ましい.

 その意味で,ダーレンドルフは,EUの拡大が,移民を含めた社会のダイナ ミズムを回復する鍵になる,と期待した.EUの新規加盟

10

カ国からイギリ スに入国した移民の数は,登録しただけで

50

万人に達する.以前から農業に おける出稼ぎ労働者はいた.彼らの母国で経済の見通しが改善すれば,アイ ルランドと同様,彼らの多くも帰国するだろう.従来,EUは域内の労働力移 動が少なすぎることを心配してきた.それが改善されるわけである20).  ヨーロッパ移民政策を決定したのは,その時々の政権や論争の性格,有権 者の関心を集めた出来事であった.2004年

5

月にチェコ,ハンガリー,ポー ランドなど,10カ国が加盟して

EU

25

カ国に拡大した後,欧州憲法条約の 批准をめぐって論争が強まった.そのとき移民問題が,「ポーランド人の配管 工」(あるいは「ラトビアの大工」)として,一つの焦点になった.

 たとえば,アイリッシュ ・ フェリー社は,アイルランド労働者に代えて,

半分以下の賃金でラトビアの労働者を雇う計画を発表した21).海運業やトラッ ク運転手,漁業,その他,国境を越える職場には,規制さえなくなれば,外 国人労働者が即座に進出できる.EUは,ある意味で,こうした競争を促そう としている.この数十年で,EUはイスラム教圏から数百万人の移民を吸収し た上に,所得の低い東中欧圏から新規加盟した

10

カ国の移民労働者も受け入 れている.

 他方,アフリカの貧しい諸国からヨーロッパに多数の移民が流入する.「カ ナリア諸島では今年(2006年

7

月まで)既に

1

5500

人の未登録移民が拘束

20) Sriskandarajah, Dhananjayan, “How the flood of European migrants is receding,” Financial Times, May 1, 2007.

21) “Westward ho! in Europe,” Christian Science Monitor, January 3, 2006.

(12)

されている.それは

2005

年の

3

倍である22).」この問題について,スペイン 首相(José Luis Rodríguez Zapatero)がヨーロッパ諸国に支援を求めた.この「移 民危機」により新しい制度が構築された.ヨーロッパへの侵入を阻むため,

スペイン,イタリア,ドイツ,ポルトガル,フランス,フィンランドが人員 と輸送機を提供する一種の

EU

同盟軍(FRONTEX)23)が,境界線を防御する.

こうして共同で移民を阻止し,受入負担をスペインやイタリアだけでなく他 のEU諸国も分担する仕組みができた24)

 H. D. S.グリーンウェイ25)は,ヨーロッパにおける移民統合の二つのモデ ル,フランス型とイギリス型が,ともに見直しを求められている,と考える.

前者を「同化」型,後者を「自由放任型の多文化主義」と呼ぶ.フランスの 新しい大統領サルコジは,フランス型を移民には適用せず,アメリカ型の「ア ファーマティブ・アクション」を取り入れる,と提案した.他方,イギリスでも,

ブレア政権と保守党のキャメロン党首は,多文化主義が社会的統合を軽視す ることであってはならない,と主張し,フランス型の「同化」政策を一部取 り入れようとしている.

 I.ブルマ26)は,異なるエスニシティー集団が同じ国でも分離したコミュニ ティーに住むべきだとか,異なる集団が話し合うことや互いに批判する必要 はない,と考えるのは間違いだと主張する.多文化主義が国民に共通の政治 的コミュニティーを不要にする,などと主張する者はいない.多文化主義とは,

少なくとも法に従っている限り,単一の価値のヒエラルキーに従うことを誰 も強いられない,ということである.

 多文化主義が初めて提唱されたとき,それは

1970

年代,80年代の文化的

22) “Utopia with border control,” Financial Times, August 11, 2006.

23) 欧州対外国境管理協力庁(European Agency for the Management of Operational Cooperation at the External Borders of the Member States of the European UnionFRONTEX)

24) EUの政治指導者たちは,国境警備の目的を人道的なものだと強調する.しかし,1993年以

来,国境を越えようとして死亡した者は6000人以上,その非合法な請負ビジネスは年間3 ドルの規模になる.脚注22の記事による.

25) Greenway, H.D.S., “Integrating, tolerating immigrants,” Boston Globe, May 1, 2007.

26) Buruma, Ian, “The Strange Death of Multiculturalism,” Project Syndicate, May 1, 2007.

(13)

な相対主義のイデオロギーと共鳴したものだった.ヨーロッパの自由民主主 義的政治システムが白人にしか適当でない,アフリカ人には無理だ,という 傲慢さもあった.オランダには,以前から独自の文化多元主義,すなわち「ピ ラー」システムがあり,これにイスラム教徒を加えた.

 しかし,オランダにおける宗教は世俗化しており,多文化主義を支持した 人々は啓蒙的な価値観を重視した.彼らはイスラム教徒の伝統的価値を強く 否定した.そしてイスラム教徒を恐れるあまり,オランダ自身の信仰・表現・

結社の自由を損ない,ヨーロッパの市民的な価値を破壊するに至った.穏健 なイスラム教徒を含めたヨーロッパが啓蒙主義の価値を回復できるのか,政 治的模索が続いている.

 日本人は,しばしば,自分たちが同質性を重視し,異質なものを排除し,

外国人を恐れ,差別すると認めている.外国人への不安や差別,排斥は,多 くの国で見られることであり,特異な現象ではない.たとえば

H. D. S.

グリー ンウェイ27)が伝えるように,ドイツの移民たちは次のように感じている.「ド イツはもっともリベラルな憲法を持ち,…信仰の自由もある.私たちは世界 のどの国でよりも自由を享受している.しかし他方で,私はパキスタン系ド イツ人として個人的に矛盾を感じている.」彼はドイツで生まれ,流暢なドイ ツ語を話し,ドイツの兵役にも服した.しかし,「ドイツは心理的にイスラム 教をもっとも嫌っている国だと思う」と.

 どうすれば敵意を克服して,平和的に共存できるのか? グリーンウェイ はその成功例として,ドイツよりも多くの非白人がメディアに登場するイギ リスを示し,また代表チームに多くのイスラム教徒や移民の子孫を入れたフ ランスを紹介する.公的な地位やメディアに自国の多様な人々を正しく反映 させることが重要である.

 食品,農業,建設,清掃,介護,給食,家事,など,非常に弾力的で安価 な労働者として,非合法移民がサービス部門で貢献している.ある意味で,

27) Greenway, H.D.S., “Absorbing Europe's Muslims,” Boston Globe, March 28, 2006.  こ の 点 で,

Lucassen, Leo (2005) が特に興味深い.

(14)

こうした分野に移民労働者たちがいるから,福祉国家は維持できている.し かし,移民を攻撃する人々は「インチキ難民」を喧伝し,経済移民を無視する.

テロの取締りも強化されて,非合法な移民たちは厳しい搾取にさらされてい る.国外追放を恐れて雇用主に逆らうことができない.今や,彼らを合法化 するための議論が必要である28)

 人々の移動や企業の再編,外国からの投資を促し,ヨーロッパの貧しい地 域の経済活動を支援するため,住宅や学校,通信施設を建設する.中小企業 の育成も技術や資金を与えて支援する.こうして時間をかけて,貧困や格差 を縮小し,ヨーロッパが一つになることをめざす.それと並行して,EU外か らの人の移動を抑制するため,むしろ貧しい地域の開発に

EU

は投資を増や そうとしている.貧しい新加盟諸国は支援を受ける代わりに,人権や民主主義,

労働規制について,国内の法律や制度を改善する.

(3)社会統合としての移民過程

 大規模な新しい移民が生じると,彼らはしばしば特定の職業や地域に集中 するため,受入国の住民に不安が高まり,非難する声が起きた.移民たちも 言葉の違いや差別に苦しみ,受入国の制度的社会統合から排除されたから,

共通の信仰と相互扶助に頼った.また,新しい社会で機会を得るために自分 たちを組織してきた.L.ルカッセン29)の歴史的な事例比較が示すように,多 くの場合,同化もしくは統合化が進むことでこうした「問題」は解消される.

ただし,それには数世代という時間がかかった.

 N.ハリス30)による「移民神話」の批判は,移民問題と移民政策を考える 上で基本的な論点である.移民政策をめぐる論争は以下のような主張が広ま ることでその流れが変わった.これらの主張が正しいかどうかは,個々のケー スで実際に検証すべきである.移民自由化を支持するハリスの考えは括弧内

28) Lawrence, Felicity, “Time to talk about an amnesty,” The Guardian, June 16, 2006.

29) Lucassen (2005).

30) Harris (1995) (2002).また,Legrain (2006),UN(2004) も参照.

(15)

に示しておく.

1.

人種差別や外国人への恐怖心があるから,移民を抑制するべきだ.(移 民規制は,ナチのような人種差別主義の外国人排斥運動を処罰することなく,逆 に,その犠牲者である移民たちを苦しめる.)

2.

国境を開放すれば,貧しい移民たちが洪水のように押し寄せる.(貧しい から移民するのではない.労働者に限れば,移民たちが来るのは受入国に雇用が あるからだ.)

3.

特に未熟練労働者の雇用が奪われ,国内の賃金水準が引き下げられる.(移 民労働者と雇用を競うのは限られたグループである.経済全体としては,移民の 流入が他の分野の雇用を増やすだろう.)

4.

国民の文化や伝統が耐えられないほど損なわれる.(保守派の政治家が民 族や国家を極端に賛美し,その特権を外国人から奪いたがる.しかしそれは幻想 にすぎない.国家は家族ではないし,歴史的に「民族」は混合を繰り返してきた.)

5.

移民たちは公共サービスや社会福祉に「ただ乗り」している.(移民たち の多くは,たとえ資格があっても,申請することを控える.もっぱら労働年齢に 偏る移民たちの構成から見て,彼らは給付を受ける以上に負担しているだろう.)

6.

新しい移民たちは,旧移民と違って,同化することを拒んでいる.彼ら は分断や隔離を好み,社会対立をもたらす.(同化は時間とともに起きる.

貧困や病気,犯罪が,移民の居住区に集中するのは,その国の公共政策の問題で ある.弱い立場の移民にその負担が押し付けられている.)

 筆者が調査の際に行った第一の質問(「移民は問題か?」)に対して,すべて の回答者の意見が一致した.すなわち,移民は「問題」ではなく,「解決」の 一部である,と彼らは答えた31)

 移住する人々は,働く機会や,より高い賃金,子どものための優れた教育 環境,などを求めている.貧しい地域から豊かな地域へ出稼ぎに来る労働者 たちは,賃金のできるだけ多くを残してきた家族に送金する.彼らは受入国

31) もちろん,これは日本の論調と大きく異なる.

(16)

の労働市場で,労働力の一部として経済成長に貢献している.また,彼らが 行う送金や貯蓄は,送出国の投資や消費の増大につながり,熟練や技術移転 にも役立つだろう.

 移民それ自体は,経済発展の過程が一定の領域に集中して起き,それを超 える人や物,貨幣,情報の移動によって生じるさまざまな状態,変化の過程 を反映している.移民は,個人や国境,短期の選択に限定している限り,正 しく理解することができない.だから多くの経済紙やエコノミストたちは,

移民が経済全体に利益をもたらす,と主張する.たとえば,高齢化する国は 若くて勤勉な移民労働者の流入を歓迎する.それと並行して,労働者たちに 言葉や技術の再訓練,労働市場における移動を促す支援策を取るなら,受入 社会にも移民にも,その利益はさらに増大する.

 移民は,ある特定の社会変化・統合化(あるいは同化)の「過程」である.

しかし,その際の社会的コストを考えれば,移民の熟練度や技術水準を理由 に,移民を制限し,選別する政策を多くの政府が模索する32).しかし,なぜ 国民は選別しないのか? なぜ熟練度や教育水準の劣った国民を追放しない のか?

 「移民問題」や「移民政策」では,移民をともなう社会変化の過程に,一定 の領域を支配する政治的主体が介入する.たとえば,P.マーチンらの研究33)

M.

ウルフ34)は,移民に関する「中間的選択肢」を支持した.移民は社会 的な利益をもたらすが,もし民主的な制度の持続性を脅かすなら,不完全で あるとしても規制されるべきだ.マーチンらは,新しい一時雇用制度を国際 的に導入するよう求めている.他方,ウルフが好むのは労働許可証を有料化 して入札方式で販売することだ.

 イタリアの老人介護に従事する労働者,イギリスの医療サービス,清掃業,

食品加工工場の労働者,アメリカのトマトやレタス,イチゴの畑で働く労働者,

32) Borjas (1999).

33) Martin, Philip, Manolo Abella, and Christiane Kuptsch (2006).

34) Wolf, Martin, “Immigration policy must be a compromise,” Financial Times, December 21, 2006.

(17)

東南アジア諸都市で裕福な家庭に住み込みで働く家政婦,などは,もし日本 の労働市場が開放されれば,ただちに本格的な市場を形成するだろう.

 外国で働くのは「悪い」ことか? 外国人は「不安」や「脅威」か? 移 民とは,長期的,構造的に,それが影響を及ぼす社会変化の過程を意味する.

移民過程について,政府はさまざまな管理の方法を試みてきた.しかし同じ 人間として,「誰であれ,グアテマラからここまで歩く決意をした者にふさわ しいのは,敵意ではなく,賞賛である.」35)

 政治的合意が得られるなら,移民を完全に自由化することが望ましい.移 民たちが十分な雇用や住宅,教育の機会を得るように社会制度を整備し,また,

移民の規模を抑制したいなら送出国の貿易と投資を助けるべきである.「移民 問題」を緩和し,人々の理解を得るために,移民の受入国と送出国とが共通 の制度を運営する必要がある.移民自由化には,地域間の所得水準が接近し,

異なる文化や多言語をよく理解し,大幅な不況や失業が起こらず,労働市場 が柔軟で,人々が開放的・協力的な慣行を尊重する,といった,現実に望め る以上の社会状態が前提となる.

2 「移民政策」とは何か?

 境界内の同質的な社会・政治システムが,グローバリゼーションの過程で変 容を迫られる.その場合,貿易や投資に比べて,移民は政治的権利や文化的な 親密さ,合意形成の慣習などが異なるため,より差別化された.しかし,具体 的に移民政策の方向を転換し,その内容を決めた要因は他にあっただろう.

 国家が移民を管理する目的は,基本的に,領土内における資源の有効利用 である.産油諸国の労働力不足はその典型であるが,石油ショックとインフレ,

金融危機などにおいて,アジア諸国に市場が調整を求めた際,国際移民がさ まざまな不均衡の調整を助けた36)

35) Brooks, Rosa, “Immigration: the game,” Los Angeles Times, March 17, 2006.

36) ILO(2004) p.18. Table 2.1. Potential advantages and disadvantages of emigration and immigration, 参照.

(18)

 しかし政府は,領土的な政治秩序に対する脅威や論争を遮断するために,

移民の権利を無視して,その入国から出国までを選別・管理しようとする.

移民に対する政府の姿勢は,その両極として,完全な隔離やフェンスの建設 から,完全な自由化まである.国内の異なった利害と変化する政治的関心に 影響されて,どの政府も一貫した移民政策を実現できていない.

 移民政策を大きく二つに分ける.一つは,移民過程に積極的に関与して,

これを変形しようとするものである.もう一つは,移民によって変容を迫ら れる社会そのものの「受容力」を高め,もしくは,構造調整コストを抑制す るものである.移民政策は,国境の開放もしくは閉鎖から,国境における移 民の選別,国内における移民過程への介入,もしくは支援も行うようになった.

 移民に関して最も重視されるのは経済的効果,特に,労働市場を介する影 響である.この点で,二つの考察を確認しておきたい.一つは,「移民は,受 入国政府がその国内労働市場で労働力の不足を経験した分野に,合法もしく は非合法で受け入れる.」

 国による所得水準や成長率の違い,人口変動の違いを前提すれば,現状では,

移民を積極的に受け入れる国が,移民を流出させている国よりもはるかに少 ない.移民の需給は常に供給過剰に近い.それゆえ,移民が入国を希望する 国の政策が,世界の移民のパターンや影響を強く規定する.

 もう一つの考察は,「労働力の流入は,その分野の賃金を低下させる.」た だし,長期的には,投資や消費が刺激されて成長と雇用を促すから,直接に 賃金低下をこうむる分野・地域を除けば,経済全体として利益を受ける可能 性が高い.

 J. G.ウィリアムソン37)によれば,移民をめぐる政治経済学の原理は一つ の問いに集約される.すなわち,誰が得をして,誰が損をするか? 移民政 策を決めるのはだれか? 第一次世界大戦までのグローバリゼーションにお いて,移民の開放政策が転換した要因はアメリカでの参政権拡大であった.

37) Williamson (2005).

(19)

1860

年,アメリカでは他の移民受入国に比べて多くの国民が,自由な白人男 性であれば投票権を与えられた.移民の流入によって,貧しい労働者たちは 不平等が増大することに反対したのだ.

 他方,現在,非合法移民が投票できないことにより,逆の問題が示唆され ている.低賃金労働者が増加しているが,その多くは移民によって占められる.

彼らが市民権を得られないのであれば,再分配や平等を求める政策を要求で きない.だから労働力の構成が移民に偏ることと労働者がより低い所得にな ることは,互いに強め合うかもしれない38)

(1) 完全自由化論

 移民は働くことを望んでおり,受入国は移民を必要としている.N.ハリス や

P.

ラグレインの移民自由化論は,この基本的な事実を強調する.もし移民 を規制するさまざまな政策や管理制度を撤廃したら,移民にとっても,移民 を受け入れる社会にとっても,双方の利益が増大するだろう.

 境界線を閉ざすことは,「移民問題」の理想的な解決策ではない.移民を規 制すればするほど,非合法化された移民は国際犯罪集団の収益源となり,移 民たちはますます厳しい条件で入国を強いられる.ドーバー海峡では,老朽 化した漁船に定員を超える数の移民たちが詰め込まれて難破し,多くの死者 を出した.アフリカ大陸を横断してヨーロッパを目指す移民たちは,スペイ ン領カナリア諸島の近海で自ら船を沈め,救出されることを願う.メキシコ からテキサスの砂漠を越えてアメリカで働くことを願う移民たちに,非合法 な越境を組織的に請け負うコヨーテと呼ばれる者たちがいる.アメリカが国 境警備を厳しくすれば,コヨーテに騙されて砂漠に置き去りにされ,死亡す る移民たちが増える.

 深刻な経済格差と社会・政治問題が続く限り,移民の流れも続くだろう.

もし麻薬やテロを取り締まるように,すなわち,人権を無視した強制と破壊で,

38) Mackie, Brendan, “Why we fight,” The American Prospect, July 17, 2006. 記事に引用されたNolan McCarty, Keith T. Poole, and Howard Rosenthalの意見.

(20)

徹底的に移民のネットワークを壊滅するなら,非合法移民を減らすことは可 能だろう.しかし,そのような取締りや破壊行為は,同じ人間に対して行え ない.今も,国際社会や国内の人権団体が抗議活動を強めている.

 それでも

G.

ダイアー39)は,世界中で国境フェンスの建設が進んでいるこ とを伝える.「前にもウォール・シティー(主に治安上の理由で,富裕層が居住す る地区を防壁で囲んだ町)はあった.今や,国全体を壁で防御している.」

 境界を開放することを恐れる人々は事実に依拠していない.完全自由化し ても移民の洪水は起きない.たとえ大規模な移民の流入があっても,受入国 の経済が弾力的で,それに続いて活発な投資や住宅建設,雇用が起きるなら,

賃金水準が長期に低下することはなく,失業者が増えることもない.

 たとえば

1980

年,キューバからアメリカへの亡命をカストロが認めたとき,

数カ月間でマイアミの労働力の

7%に相当する 12

5000

人が主に未熟練労 働者の移民として加わった.1990年代初め,ソ連がユダヤ人に出国を認めた とき,イスラエルの人口の

7%に相当する 61

万人が最初の

2

年間(1990~

91

年)

にイスラエルへ向かった.1990年代半ばまでに約

100

万人,人口の

12%にも

達した.2005年,東欧から

EU

に加盟した

10

カ国,特に,ポーランド,ルー マニアなどからも移民が旧加盟国へ向かった.新加盟諸国からの移民を制限 しなかったイギリスは,制限した国よりも成長率が高く,失業率も低い.こ うした例は,移民自由化を支持する根拠を与えている40)

39) Dyer, Gwynne, “It's increasingly a walled world after all,” The Japan Times, February 11, 2007. 

この記事によれば,最近,タイがマレーシアとの境界で,75キロにおよぶ壁を築いた.言語 や宗教を共有するマレーシア北部から,イスラム教徒が多数を占めるタイ南部へ「テロリスト たち」が流入するのを防ぐ,とタイ政府は説明した.インドも防壁で囲まれつつある(ヒマラ ヤが北部に天然の防壁を提供している).パキスタンとの3000キロにおよぶ境界は,険しい,

しかも内戦の地であるが,ほとんど壁で閉ざされた.バングラデシュから流入する非合法移民 を阻止する3300キロの防壁も築きつつある.中国政府が北朝鮮との境界に築いている防壁は,

ピョンヤンの体制が崩壊した場合に備えて,中国に向かう膨大な難民を阻止するものである.

モロッコは西サハラを1975年に併合したが,アルジェリアに逃れた住民たちが難民キャンプ から攻撃するのを防ぐため,2700キロの土塁,有刺鉄線,地雷,レーダー,塹壕,弾薬庫を 建設した.

40) Williamson(2005), Borjas(1999), Legrain(2006). さらに次も参照.Legrain, Philippe, “Don't believe this claptrap. Migrants are no threat to us,” The Guardian, January 15, 2007.

(21)

 完全自由化論によれば,その経済や社会が十分に公平で弾力的な,それゆ え多様性や革新を好み,法によってたがいの権利を認め合う限り,移民の自 由化は受入国の利益でもある.

(2) 移民の理論

 十分な情報や安価な移動手段が利用できるようになれば,移民が起きるこ とは当然である.むしろ,なぜ移民がこの程度しか起きないのか? なぜもっ と移民しないのか? その疑問に答える方が難しい.

 第 1 表が示すように,経済的要因だけでなく,非経済的要因も加えて,移 民のプッシュ=プル理論がその動向の推移を説明し,将来の傾向を予測する.

しかし,個人の経済的・合理的な選択を重視するだけでは,政策や制度の変 更を説明できないし,移民の及ぼす長期的・社会的な影響は判断できない.

 むしろ各国経済(投資,住宅建設,長期循環)や国際経済の歴史的動向から不 均衡の発生とそれに対する移民という選択肢を理解する長期の変動理論が重 要になる.また,移民を個人ではなく,制度の変化としてとらえ,その政治的・

イデオロギー的要因を重視する社会・政治構造論も重要である.近代化や都 市化,労働組合の組織化,大企業と零細・下請け企業との二重経済,安価な 輸入品との競争,など,移民労働者が利用される構造的な要因が指摘できる.

 戦後の復興と急速な成長によって,日本もドイツも労働力の供給が枯渇し 移民理論 分析対象 移民の理由 短期効果 長期効果 プッシュ=

プル理論 個人 賃金・雇用の改善

(抑制)期待 格差の縮小 不定

長期変動論 国民経済 労働市場の需給

景気変動・工業化 均衡化 成長持続・

投資促進 社会・政治

構造論 社会集団 市場の分割化・

構造的要因 相互利益 社会対立・

地下経済 第 1 表 移民の基本理論

(22)

てきたが,日本は移民労働者を受け入れるより機械化や東南アジアへの直接 投資を選択した.他方,ドイツはトルコ政府との歴史的な友好関係を基礎に,

政府間の合意により,短期契約労働者を安定的に受け入れた.

 ドイツやヨーロッパ諸国が戦後成長期に採用した政府間契約労働者(ゲス ト・アルバイター)制度は,これらの基礎理論によって支持される41).しかし

1950

年代・

60

年代のドイツの政策は,

1970

年代になって不況が広がる中で「外 国人労働者」に不満が集中し,契約は打ち切られた.そして外国人労働者の 帰国を促したが,期待されたショック・アブソーバーの役割を十分に果たせ なかった.「ローテーション」の過程は,送出国の不況と失業が深刻で,しか も受入国が再入国を認めないという懸念から,定住化に向かう.それは定住 化した移民たちの人権問題や家族の呼び寄せ,移民コミュニティーの統合化,

という問題に転化していった42)

 ますます政府による国境管理は難しくなり,世界都市やネットワーク型の 移民が増えている.こうした移民の増減や地理的パターンは,三つのいずれ のモデルとも異なる.空間的な社会変化・統合化の在り方が変われば,すな わち,グローバリゼーションとともに,移民過程も変化する.

 「ゲスト・アルバイター」の考え方は,差別された地下経済や隔離社会をもた らした,という理由で否定された.しかし最近,一時(temporary)雇用契約43)(も しくは労働許可制度)が,移民論争で再び注目されている.すなわち,グロー バリゼーションによって発生する地理的な労働力需給の変化は,永住型の移 民が望ましい,という主張を退けたからだ.むしろ合法的に一時雇用契約が 可能であれば,労働者は仕事のある場所へ自由に移動できるだろう.それに より受入社会の不安が抑えられ,社会制度の調整も最小限にできる.

41) Martin, Abella, and Kuptsch(2006) pp.83―94; Tito Boeri, Herbert Bruecker and Richard Portes, “It’s an economic sense to open borders,” Financial Times, June 9, 2005.

42) この段階の移民理論が注目したのは,プッシュ=プルやマクロ経済の動向ではなく,移民コ ミュニティーと送出国とのネットワークによって移民が増大し続ける,というネットワーク効 果であった.

43)  Martin, Philip, Manolo Abella, and Christiane Kuptsch (2006). 特に,Part II.

(23)

 このように,移民の規模やパターンを決める要因は移民過程に応じる制度 の側にあり,それを準備する受入国の社会・政治構造が重要である.移民過 程が複数の国を相互に関係させることから,受入国の移民管理と選別は国際 協調とそのイデオロギー44)にも影響される.

(3) 移民のタイプとケース

 さまざまな移民過程は,グローバリゼーションと国家との関係や位置付け,

戦略的な関与を示している.すべての国で,また,グローバリゼーションの どの局面にも有効な「移民政策」というものは存在しない.移民過程を正し く理解するには,個々のケースと国家・政府の性格の違いが重要である.移 民一般よりも,重要なタイプを抽出することが有効な政策の前提になる.正 しい移民政策は個々のケースによって判断される.

 すべての国(政府や国民)が「伝統・文化・国民性」を重視するが,移民に 関する論争は,文化的な同質性の定義や,それを法律で維持,強制すること の是非に関わる.「民族の純粋性」「国民の同質性」を守るためならグローバ リゼーションのすべての機会と利益を捨てても良い,という主張はどこにで も現れる.

 たとえばイギリスでも,移民,難民,犯罪に対する不満が高まって,この 問題についての選挙前の論争が政治家たちを刺激した.「模範的な市民」や「イ ギリス人らしさ」とは何か? 自分だけはその条件を完全に満たしており,

移民たちのすべてが非難されるべきだ,と何を証拠に主張するのか?45)イギ リスでは,市場型の統合化を重視し,政府は積極的に介入しなかった.政府 の姿勢は,「多文化主義」の名目で,事実上の居住区や学校の分断,隔離を承 認するものであった.しかし「人種暴動」や「7. 7テロ攻撃」を経て,政府

44) Meyers, Eytan (2000),Hollifield, James F. (1992)は,社会学,政治経済学,歴史学など,移 民過程を多面的に研究した.国民国家や市民権・国籍,福祉国家の在り方,民族性・ナショナ リズム,などが,移民過程を管理する政策や制度の重要な差異となる.

45) “Ill-timed debate on migration controls,” Financial Times, February 8, 2005; Brooks, Rosa, “An SAT for citizenship,” Los Angeles Times, December 8, 2006.

(24)

の姿勢が統合化や同化の推進に転換する.

 同化・統合化と多文化主義について,オランダ,カナダのケースはイギリ スと異なる経過を示している.オランダは「多文化主義」を個人の嗜好や生 活への寛容さとして強く支持し,移民を福祉国家に積極的に統合してきた.

しかし,イスラム教徒の移民に対する偏見や排斥運動が政治論争において重 要なテーマとなり,映画監督の暗殺事件などもあって,「多文化主義」の見直 しが進んでいる.

 他方,同じ「多文化主義」を支持してきたカナダ46)の場合,「同質性」よ りも「多様性」が自国の強さであると理解している.そのためにカナダ政府は,

移民を含めた自国のアイデンティティーを再定義してきた.1988年に,カナ ダ多文化主義推進法が制定され,多くのエスニック集団が互いの文化を尊重 しながら共通の法律によって生活している.国民の多数は,こうしたカナダ の積極的な移民政策を政治的に支持している.

 自分たちが「移民の国」であると認めてこなかったドイツ47)が,積極的な 法改正により移民の統合化を支持した経緯は重要である.キリスト教民主党 のコール政権は,1980年代の不況により強まった「外国人労働者」への不満 を政治的に利用した.80年代末のコソボ危機と難民の流入,90年の東西再統 一による不況の中で,極右の外国人排斥運動が過熱するのを政府は抑えるこ とができなかった.それはついにトルコ人家族の放火殺人事件を引き起こし,

世論を逆転させる.

 1991年の新しい帰化法では,最低

6

年以上ドイツに住む外国人は帰化を申 請する権利を得た.それでもドイツ人は,共産主義体制の崩壊によるドイツ 系難民の受入れを主に考えていた.「ドイツは移民の国ではない」のである.

漸く

1990

年代の末に,社会民主党のシュレーダー政権が移民・難民の統合化

46) Legrain (2006), pp.222―225.

47) 以下の文献を参照.Oberndorfer, Dieter, “Conceptual and political approaches to integration: A german perspective,” in Sussmuth and Wiedenfeld (2005), pp.12―15; Harris (2002), p.45; Soysal (1994), p.153, Lucassen (2006), pp.151―155.

(25)

を主要な政治課題に取り上げ,エスニックとしてのドイツ人と国籍とを切り 離す.ドイツ再統一において,

EU

統合化を積極的に推進することが合意され,

移民の扱いにも公平性をもたらした.

 アイルランドやスペインのケースは,かつて典型的な移民送出国であった 国が,急速に移民受入国になることを示す.移民流入の歴史的経験が異なり,

高齢化や人口減少,労働力(特に熟練労働力,技術者)不足に注目することで,

移民は歓迎された.外国に住む旧移民たちが帰還することを促したり,移民 流出との置き換えを進める政策を取った.こうしたケースが起きることも考 えれば,移民たちに新しい国籍を与えるだけでなく,彼らが帰国する選択肢 も重要になる.

 石油危機に際して産油諸国に大量の移民労働者を送ったアジアのケースで は,その後の各国の経済成果が政策によって大きく異なる.台湾やタイは,

急速な成長と労働力不足に対して移民労働者を受け入れたが,台湾政府は輸 出加工区で管理し,フィリピン政府は移民労働者の輸出を積極的に支援し,

タイ政府は企業に登録させることを前提に自由な利用を容認した48)

 アメリカ・メキシコ国境についても,P.アンドレアス49)が指摘するように,

偏った認識が解決を阻んでいる.アメリカの農場や企業が労働者を需要し,

NAFTA

がメキシコ農業を大きく変えたことを無視して,共和党も民主党も「問

題」を国境の管理に集中する.このような姿勢は無責任な政治的象徴の利用 であり,問題の性格や解決の選択肢を不当にゆがめている.すなわち,アメ リカ側では,警察がメキシコからの「非合法移民」を取り締まることに議論 も予算も集中する.移民過程の主要な利害グループと,組織された政治的発 言や政治的意思決定メカニズムとが乖離している.

 日本政府は,単純・未熟練労働者としての「外国人」をできるだけ排斥し,「帰 化」を制限する.あるいは,「外国人労働者」を家族と切り離し,短期・特定 職種にだけ,しかも訓練を名目として,それゆえ労働者の権利や協約を無視

48) 中川(2007),布留川(2007),Martin, Abella, and Kuptsch (2006), pp.133―149,参照.

49) Andreas (2000).

(26)

して受入れる.他方,長期の滞在や労働を「日系人」に限定するが,彼らの 社会的な統合化や帰国について積極的に支援していない.こうした「政策」は,

その目標においても,手段においても,また,その成果においても,他国の これまでの経験に照らして,優れた移民政策とはいえない50)

3 移民過程と社会的受容力

 なぜ,ある社会では移民を積極的に受入れ,移民たちも活躍して,互いに利 益を受ける友好関係が育つのか? なぜ,社会によっては移民を恐れ,移民を 憎み,あるいは移民を差別して,市場や社会から排除し,隔離するのか? そ の結果として,移民だけでなく受入社会が伝統的な価値観を損ない,活発な革 新や投資機会を失い,閉鎖的で疲弊した社会,犯罪や暴動,テロが多発する社 会になるのか?

 ヨーロッパが示す重要な教訓とは,移民過程を管理し,選択する移民政策 を効果的に実現するために,統合化に向けた受入国の側の「受容力」を構築 する必要がある,ということだ.移民政策とは,移民過程もしくは移民たち の統合化過程をできるだけ円滑に,受入社会も支持する形で促進するもので ある.それは移民の制限や選別,移民政策の選択だけでなく,受入社会の側 の社会制度を評価し,改善することを意味する.

 ヨーロッパの責任ある地位にある人たちは,一貫して,ナショナリズムが 移民への憎悪を過熱させないよう,意図的に発言し,ヨーロッパの共通の理 想を示す形で介入してきた.彼らは移民過程について,統合化が双方に利益 をもたらすことを強調し,また,そうならねばならない,と力説する.その ために必要な法律や制度の改正,市場の改善,教育やさまざまな社会集団間 の対話を充実させようと努める.

 大規模な移民流入に対しても,それを容易に吸収して,社会問題を起こさず,

経済成長に役立てるケースがある.他方,人口や労働市場に対してわずかな

50) 駐日欧州委員会代表部(広報部)が発行する雑誌『europe』に掲載された河野太郎前法務副 大臣の「特別寄稿 岐路に立つ日本の入管政策」は,その問題点を率直に認めている.

(27)

移民流入にも拘わらず,彼らの受入れをめぐって排斥運動がおこり,極端な 民族主義を唱える集団の抗議活動や襲撃事件が起きて,社会・政治的な混乱 をもたらすケースもある.

 その違いを考えるためには,「移民」の属性ではなく,受入社会の側の移民 過程に関わる反応を比較しなければならない.そして,その差を「社会的受 容力」と定義する.

(1)「社会的受容力」とは何か?

 「社会的受容力」とは,移民過程を社会にとって(より大きな)プラスに転 化する能力である.第

1

表に示した基本理論によって「社会的受容力」を理 解するなら,短期の合理的個人による選択を重視した「プッシュ=プル理論」

と,マクロ経済を重視した「長期変動論」とをつなぐものである.さらに,「社会・

構造理論」がさまざまな移民過程の構造的要因や制度的な制約条件を解明し,

「受容力」の改善を受入国の政治課題として提示する.

 現代の移民論争の背景には「雇用をもたらさない景気回復」という労働者 たちの不満がある51).たとえ社会全体では豊かになり,成長を高めても,移 民労働者と直接に競争を強いられる国内労働者は損失を強いられ,激しく反 対するかもしれない.その場合,政府が移民労働者を国内の労働者が満たさ ない分野に限ることで,こうした反対を少しは抑えられる.他方,フェンス の建設は近隣諸国への反発を強めるだけで,国内労働者の助けにならない.

もし移民と競争して所得が減る未熟練労働者を助けたいなら,彼らの賃金や 雇用を直接支援する(また,移民労働者や雇用主に課税する)ほうが良い.

 イデオロギーや国民性(歴史),国内政治も「社会的受容力」の形成を一定 の仕方で妨げ,あるいは,支持するだろう.同じ移民たちがその社会に組み 込まれるとしても,移民が働ける分野,条件,資格,持続性などは国によっ て大きく異なる.移民が受入社会にもたらすプラスの効果とマイナスの効果

51) たとえば,“Lex: US immigration,” Financial Times, March 27, 2006,を参照.

(28)

は,受入れ後の過程で長期的に変化していくが,その過程を通じて,社会へ の組み込まれ方による重要な差異が生じている.

 たとえば,蛮族の侵入で滅んだと言われるローマ帝国が,史上最も多様な エスニック国家を建設し,その繁栄を維持した例であると,C.マーフィー52)

は主張する.その歴史は,①国境をふさぐことはできない.②国民文化の育 成,文化的な優位が重要である,という教訓を残した.ハドリアノスの要塞 は,マジノ線と違って蛮族を防ぐものではなく,交通を促す出入り口であった.

それは,むしろ境界線の各地で交易を促した.

 現代でも,社会的な統合化の国による違いが,移民をその社会において統 合する考え方に重要な影響を与えている.ヨーロッパ諸国が顕著に示すよう に,各国経済の制度的統合化には異なるタイプがある.各国の政府は,「受容力」

を高める制度,すなわち,学校,社会福祉,職業訓練,差別の禁止,労働市場,

社会・政治生活への参加と発言メカニズム,などを革新するために投資しな ければならない.

 Y. N.ソイサル53)によれば,社会統合のパターンもしくは政治組織(polity)

として,ヨーロッパには四つの主要なタイプがある.この統合化のタイプに 従って移民政策も分類できる.すなわち,制度的な統合化を重視するスウェー デン,オランダと,個人・市場を重視するスイス,イギリス,そして,個人 を重視するが,国家に権限が集中したことで移民過程にも積極的に介入する フランス,逆に,制度的な統合化に深く関与するが連邦政府に権限は集中し ておらず,地方政府に移民受入れの判断を委ねたドイツ,である.

 まず,コーポラティスト的な移民政策として,スウェーデンもオランダも 移民を「エスニック・マイノリティー」と位置付けた54).非常に同質的であっ

52) Murphy, Cullen, “Roman Empire: gold standard of immigration,” Los Angeles Times, June 16, 2007.

ローマ帝国の築いた道路,法体系だけでなく,ローマ帝国は異民族を最も容易に吸収・統合す るシステムを持っていた.それは軍隊とともに,<文化>であった.優れた教育や医療を提供 し,清廉な政府を持ち,平等や企業家精神を尊び,誰にでも機会を与える,こうした価値を堅 持する社会なら,すべての人に境界を開放できるだろう.

53) Soysal (1994), pp.29―64.

54) Ibid., pp.46―52.

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