二項的社会選択ルールと社会的選択対応に関する不 可能性定理のトポロジーを用いた分析について
著者 田中 靖人
雑誌名 經濟學論叢
巻 57
号 1
ページ 1‑15
発行年 2005‑07‑20
権利 同志社大學經濟學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000007599
【論 説】
二項的社会選択ルールと社会的選択対応に関する 不可能性定理のトポロジーを用いた分析について
田 中 靖 人
1
は じ め に本論文ではArrow による二項的社会選択ルール(binary social choice rule)に関 する不可能性定理(Arrow(1963))とDenicolo` による社会的選択対応(social choice correspondence)に関する不可能性定理(Denicolo`(1985)を,初歩的な代 数的位相幾何学(algebraic topology,以下「トポロジー」と呼ぶ)の知識を用いて分 析する.
トポロジーを用いた社会的選択理論の研究としてはChichilnisky による一連 の論文が知られている1).そこで得られた主な結論は次のようなものである.社 会的選択の対象となる選択肢がユークリッド空間のある集合に含まれるものと 仮定し,選択肢に関する人々の選好に基づいて社会的な選好を決める社会的選 択ルールが連続性(人々の選好のわずかな変化によって社会的な選好が大きく変わって はならないという意味での)を満たすことを要求すると,匿名性(anonymity)(すべ ての人々が同じように扱われなければならない,もちろん独裁者が存在してはならないが それ以上に強い条件)と全員一致性(unanimity)(すべての人々の選好が一致すれば社 会的な選好もそれと一致する,パレート原理よりは弱い条件)のいずれかが満たされ なくなる.
一方Baryshnikov(1993),(1997)はトポロジーを用いた社会的選択ルールの
1)Chichilnisky(1980),(1982).この分野の解説および主要な結果の証明についてはMehta(1997), Lauwers(2000)が参考になる.
分析を有限個の選択肢に関する人々の選好から社会的選好を導く離散的な世界 に適用し,トポロジーの手法でArrow の定理が証明できること,またこの定理
がChichilnisky の定理と類似した構造を持っていることを示した.本稿はこの
Baryshnikov の考え方を,より単純なモデルを用いて二項的社会選択ルールと
社会的選択対応の分析に応用するものである.
2
モ デ ルm 個の選択肢があり,それらをx1 x2 xm と表す.m は3 以上の正の整数
である.またn 人の個人が存在するものとする.n は2 以上の正の整数である.
選択肢に関する人々の選好は完備性(すべての選択肢の組について選好が決まる),
推移性(x3 よりx2 を好み,x2 よりx1 を好むならばx3 よりx1 を好むという性質)を満た し,またどの選択肢の組についても無差別にはならないものと仮定する.2 つ のタイプの社会的選択ルールを考える.1 つは人々の選好の組に対応して1 つ または複数の選択肢を選ぶようなルール, すなわち社会的選択対応(social
choice correspondence)であり,これをSCC と略記する2).もう1 つは人々の選
好の組に対応して社会的な選好を決めるものであり社会的厚生関数(social wel-
fare function)と呼ぶ.これをSWF と略記する.SCC およびSWF を構成する
人々の選好の組については制約を加えない.これらの社会的選択ルールをとも
にf で表し,人々の選好の組(profile)をp, p' などで表す.
まずSCC は次の条件を満たすことが求められる.
独立性(Independence,Denicolò(1985)による) ある選好の組pにおいてxi が
SCC によって選ばれ,xj が選ばれていないものとする.別の選好の組p' に
おいてxiとxj に関する人々の選好がpにおける選好と同一であるならば,p'
においてSCC はxj を選ばない.
2)補題1 において人々の選好が無差別な関係を含まないならばSCC は関数である(1 つの選択肢の
みを選ぶ)ことを示す.
パレート最適性(Pareto optimality) すべての人々がxj よりxi を好んでいるなら ばSCC はxj を選ばない.
同様にSWF は(社会的選好の)推移性に加えて次の条件を満たさなければなら ない.
無関係選択肢からの独立性(IIA) ある2 つの選択肢に関する社会的選好はそ れらの選択肢についての人々の選好のみによって決まり,他の選択肢につ いての選好の影響を受けない.
パレート原理(Pareto principle) すべての人々がxj よりxi を好んでいるならば 社会もxj よりxiを好む.
さらにSCC とSWF について以下の言葉を定義する.
決定的(SCCについて,Denicolò(1985)による),独裁者 ある1 人の個人(個人 i とする)がxj よりxi を好んでいれば他の人々の選好に関係なくxj がSCC に よって選ばれないとき,その個人はxj に対してxi について決定的であると 言う.もし,ある個人がすべての選択肢の組について決定的であるならば その人が最も好む選択肢のみがSCC によって選ばれるので,その個人は独 裁者(dictator)である.
決定的(SWF について),独裁者 ある1 人の個人(個人i とする)がxj よりxi を 好んでいれば他の人々の選好に関係なく社会がxj よりxi を好むとき,その 個人はxj に対してxi について決定的であると言う.もし,ある個人がすべ ての選択肢の組について決定的であるならば,その個人は独裁者(dictator)
である.
SWF とSCC に関する不可能性定理は次のようなものである.
定理 1.(1)(Denicolo`(1985))独立性とパレート最適性を満たすSCC には独 裁者が存在する.
(2)(Arrow(1963))推移性,IIA,パレート原理を満たすSWF には 独裁者が存在する.
人々の選好の集合を表現する円周をm! 個の点v1, v2, …, vm!を順に結ぶことに
よって描く3).選択肢が3 つの場合を例にとると,これらの点は次のような選好 に対応している.
v1:(132), v2:(123), v3:(213), v4:(231), v5:(321), v6:(312) x3 よりx2 を,x2 よりx1 を好む選好(言い換えればx1,x2,x3の順に好む選好)を (123) と表している.他も同様である.選択肢の数がもっと多い場合の表し方も 同様であり,一般的に点v1〜v(m−1)!はx1 を最も好む選好に,点 v(m−1)!+1〜v2 (m−1)!
はx2 を最も好む選好に対応する.以下同様である.またx2, x1, x3, x4, …, xm の順に 好む選好を(2134…m) などと表すことにし,x2よりx1 を好み,他のすべての選 択肢よりx1, x2を好む選好を(12 […]) と表す.この場合x1, x2 以外の選択肢につ いての選好は特定されない.
この円周をS1i とする.選択肢が3 つの場合のS1i の例が図1 に描かれている.
n 人の人々の選好の組(profile)の集合は積集合S1i ×…×S1i(n 個の積)によって 表現される.この集合を(S1i)n とする.トポロジーの基礎的な理論によってS1i の 1 次元ホモロジー群は整数の集合Z と同型(群として同じ構造を持つ),すなわち H1 (S1i) 〜=Z であり,(S1i)n の1次元ホモロジー群はZn のn 個の直積(直和とも言 う)と同型,すなわちH1((S1i)n) 〜〜=Znであることがわかる.
ここで次の2 つの補題を示す.
補題 1.(1)人々の選好が無差別関係を含まない厳密なものであれば独立性,
パレート最適性のもとでSCC は1 つの選択肢のみを選ぶ,すなわ ち関数となる.
(2)(Baryshnikov(1993)のLemma 1による)人々の選好が無差別関係 を含まない厳密なものであれば,IIA,パレート原理,推移性の もとで社会的選好も厳密なものとなる.
証明.(1)ある選好の組pにおいてSCC がxi とxj の両方を選んでいるものと
3)m! はmの階乗を表す.
m!=Пmj=1j=m (m−1)(m−2)×……×2×1 である.
する.xi, xj以外のある選択肢をxk,その他の任意の選択肢をxl と して以下のような選好の組を考える.
(i)p':pにおいてxj よりxiを好む人々はxi, xk, xj, xl の順に好み,p においてxiよりxjを好む人々はxk, xj, xi, xl の順に好む.
(ii)p'':pにおいてxj よりxiを好む人々はxk, xi, xj, xl の順に好み,p においてxiよりxjを好む人々はxj, xk, xi, xl の順に好む.
パレート最適性によってSCC はp' においてxi またはxk あるいはその両方を選 ぶ(xj は選ばない).同様にp'' においてはxj またはxk あるいはその両方を選ぶ(xi
は選ばない).もしp' においてxi が選ばれているとすると独立性によってp'' にお いてxj は選ばれない.同様にp'' においてxj が選ばれているとすると独立性によ
ってp' においてxi は選ばれない.したがってp', p'' のいずれか(または両方)に
おいてxkのみが選ばれる.p' においてxkのみが選ばれると仮定する.p'' におい てxkのみが選ばれると仮定しても議論は同様である.さらに以下のような選好 の組を考える.
p :p'においてxkよりxi を好む人々はxi, xj, xk, xl の順に好み,p' においてxi
図 1 S1i
v4
v3
v5
v2
v6
v1
図 2 S1 w3
w2
w1
よりxk を好む人々はxj, xk, xi, xl の順に好む.
パレート最適性によってSCC はp においてxi またはxj あるいはその両方を 選ぶが,一方独立性によってp においてxi は選ばれない.したがってp におい てはxj のみが選ばれるが,そうすると独立性によってp においてはxi が選ばれ ないことになる.
p'' においてxk のみが選ばれると仮定する場合は次のような選好の組を考える.
p1:p'' においてxj よりxk を好む人々はxi, xk, xj, xl の順に好み,p'' においてxk
よりxj を好む人々はxj, xi, xk, xl の順に好む.
パレート最適性によってSCC はp1においてxi またはxj あるいはその両方を選 ぶが,一方独立性によってp1 においてxj は選ばれない.したがってp1 において はxi のみが選ばれるが,そうすると独立性によってp においてはxj が選ばれな いことになる.
(2)ある選好の組p において社会がxi とxj について無差別であるとする.別 の選択肢xk をとり以下のような選好の組を考える.
(i)p':pにおいてxj よりxi を好む人々はxi, xk, xj の順に好み,p において xi よりxj を好む人々はxk , xj , xi の順に好む.
(ii)p'':pにおいてxj よりxi を好む人々はxi, xj , xk の順に好み,p におい てxi よりxj を好む人々はxj, xk , xi の順に好む.
IIA およびパレート原理によってp'において社会はxjよりxk を好みxi とxj につ いて無差別であるから推移性によってxi よりxk を好む.一方p''においてはIIA およびパレート原理によって社会はxk よりxj を好みxi とxj について無差別であ るから推移性によってxk よりxi を好む.しかしp'とp''においてxi とxk に関する 人々の選好は同じであるから,これはIIA に反する.
次に社会による選択肢の選択または社会的選好の表現を考えよう.
(1)社会による選択肢の選択を図2 に描かれている円周で表す.この円周
は3 つの点w1, w2, w3を結んで描かれているが,円周上の各点が意味す る社会の選択は次のようなものである.
(i)w1:x1のみがSCC によって選ばれる状態.
(ii)w2:x2のみがSCC によって選ばれる状態.
(iii)w3:その他のすべての状態.
この円周をS1 と呼ぶ.その1 次元ホモロジー群はやはりZと同型,す なわちH1(S1)〜=Z である.
(2)選択肢に関する社会的な選好も同様にこの円周によって表される.円周 上の各点が意味する社会的選好は以下の通りである.
(i)w1:x1を最も好むような社会的選好.
(ii)w2:x2を最も好むような社会的選好.
(iii)w3:その他のすべての社会的選好.
SCC と SWF は単体写像である. SCC(またはSWF)はf:(S1i)n →S1 ((S1i)nか らS1 への写像あるいは関数)と表される.S1i の隣り合う2 つの点は1 次元 の単体を張り,n 人の人々の隣り合う点の組からの対応によって得られる S1 のどの2 つの点の組も1 次元の単体を張る.したがってfは単体写像
(simplical map)であるから,fによって誘導されるホモロジー群の準同型
(homomorphism)を定義することができる.
次に,すべての人々の選好が同じであるという仮定のもとでのS1i から(S1i)n へ の包含写像(inclusion map)を定義しΔ:S1i →(S1i)n と表す.また,ある1 人の個
人(個人i とする)以外の人々の選好の組が固定されているような状況における
S1i から(S1i)n への包含写像を定義しii :S1i →(S1i)n と表す.これらの包含写像によ って誘導されるホモロジー群の準同型は次のように表される.
Δ*:Z→Zn:h →(h, h, , h), h∈Z
ii*:Z→Zn:h →(0, ,0 , h, 0, , 0), h∈Z(第i 成分のみがh)
これらの定義からΔ*とii*について次の関係が得られる.
(1)
またf によって誘導されるホモロジー群の準同型をf*:(Z )n→Zとする.
異なる選好の組についての SCC および SWF はホモトピックである. 個人i 以外の人々の選好の組がある固定されたものであるときのf ( f|p−iで表す) と,それらの人々の選好が別の選好の組に固定されているときのf ( f|p'−iで 表す) とはホモトピックである.したがって,それらによって誘導されるホ モロジー群の準同型は同型となる.個人i 以外の人々の2 つの選好の組を p−i およびp'−i とすると,それらの間のホモトピーは次の式で与えられる.
f|p−i とf|p'−i とは円周上で対極に位置する点とはならないのでこれは定義可 能である.
ii とf との合成関数をf ○ii : S1i →S1と書くとそれが誘導するホモロジー群の準同 型は( f ○ii )*=f*○ii*(すべてのi について)を満たす.またΔとf との合成関数を f ○Δ: S1i →S1と書くとそれが誘導するホモロジー群の準同型は( f ○Δ)*=f*○Δ*
を満たす.(1)式より次の式を得る.
(2)
パレート最適性(SCC についての)またはパレート原理(SWF についての)によっ てS1i の点からS1の点へのf ○Δによる対応は次のようになる.
v1〜v(m−1)!→w1, v(m−1)!+1〜v2 (m−1)!→w2, v2 (m−1)!+1〜vm!→w3
S1i に含まれる1 次元鎖群の要素であって1 次元の輪体になるものは次のz とそ の符号を変えた−zのみである.
z=<v1, v2>+<v2, v3>+…+<vm!−1, vm!>+<vm!, v1>
S1i は2 次元の単体を含まないのでz はS1i のホモロジー類の代表元であり,それ
は( f ○Δ)*によって次のz' に移される.
tf|p−i+(1−t) f|p'−i
ft = (0≦t≦1)
|tf|p−i+(1−t) f|p'−i│
( f ○Δ)*=
Σ
( f ○ ii)* n i=1Δ*=
Σ
ii*n i=1
z'=<w1, w2>+<w2, w3>+<w3, w1>
これはS1の輪体であるから( f ○Δ)*≠0 が導かれる.
3
主要な結果まず次の言葉を定義する.
弱い単調性(SCC に関する) 2 つの選択肢xi , xj について,ある選好の組p にお いてxi のみがSCC によって選ばれているものとする.p においてxj よりxi
を好む人々が別の選好の組p' においてもxj よりxi を好んでいるならばp' に おいてxj はSCC によって選ばれない.
弱い単調性(SWF に関する) 2 つの選択肢xi , xj について,ある選好の組p に おいて社会がxj よりxi を好んでいるものとする.p においてxj よりxi を好む 人々が別の選好の組p' においてもxj よりxi を好んでいるならばp' において も社会はxj よりxi を好む.
これらについて次の補題を得る.
補題 2.(1)独立性とパレート最適性を満たすSCC は弱い単調性を満たす.
(2)IIA,パレート原理および推移性を満たすSWF は弱い単調性を満 たす.
証明.
xi とxj 以外の任意の選択肢をxk で表す.p においてxj よりxi を好む人々が別の ある選好の組p'' においてxi, xj, xk の順で好み,p においてxi よりxj を好む人々は p'' においてxj, xk, xi の順で好むものとする.またp においてxj よりxi を好む人々 が別のある選好の組p* においてはxi, xk, xj の順で好み,p においてxi よりxj を好 む人々はp* においてxi よりxk を,xj よりxk を好むものと仮定する.xi とxj に関 する選好は特定されない.p は弱い単調性の定義に示されている選好の組であ る.
(1)独立性(xiとxj に関する)およびパレート最適性(xj とxk に関する)によりp'' においてSCC はxi のみを選ぶ.再び独立性(xi とxk に関する)とパレート最
適性(xj とxk に関する)によってp* においてもSCC はxi のみを選ぶ.する と独立性(xiとxj に関する)によって,p においてxj よりxi を好む人々が同 じようにxj よりxi を好む限りSCC はxj を選ばない.
(2)IIA(xiとxj に関する),パレート原理および推移性によりp'' において社会は xk よりxi を好む.再びIIA(xi とxk に関する),パレート原理および推移性に よりp* において社会はxj よりxi を好む.したがってIIAによって,p にお いてxj よりxi を好む人々が同じようにxj よりxi を好む限り社会はxj よりxi
を好む.
前節での準備的な考察と補題2 より次の結果が示される.
補題 3.(1)あるSCC が独立性,パレート最適性を満たし独裁者を持たないと する.そのときすべてのi について
( f ○ii )*=0 である.
(2)あるSWF がIIA,パレート原理,推移性を満たし独裁者を持たな いとする.そのときすべてのi について
( f ○ii )*=0 である.
2 つのケースの証明はほぼ同じであるが両方を示す.
証明.(1)個人i が独裁者ではないとすると,ある選好の組p において,ある2
つの選択肢xi, xj について個人i が他のすべての選択肢よりxiを好ん でいるときにSCC がxj を選ぶということがある.パレート最適性に より(すべての人々がxj よりxi を好めばxj は選ばれないので)i 以外の 人々の内何人かはxiよりxj を好んでいなければならない.
もしxi がx1(あるいはx2)であれば弱い単調性によって,p において x1(またはx2)よりxj を好む人々が同じようにx1(またはx2)よりxj を 好んでいる限りx1(またはx2)がSCC によって選ばれることはない ので,個人i 以外の人々の選好がp における選好に固定されている
ならば w1(またはw2)がf ○ii によって実現されることはなく,した がってf ○ii は全射ではない.
次にxi がx1, x2以外の選択肢であり,xj もx1, x2以外の選択肢である場 合を考える.p 以外の選好の組p' が以下のようなものであるとする.
(i)p においてxi よりxj を好む人々はp' においてx1, xj, xi, x2の順に好み,
さらに他のすべての選択肢よりもこれら4 つの選択肢を好む.
(ii)p においてxj よりxi を好む人々はp' においてxi, x2, x1, xjの順に好み,
さらに他のすべての選択肢よりもこれら4 つの選択肢を好む.
弱い単調性とパレート最適性によってp' においてSCC はx1を選ぶ.
すると弱い単調性により,p においてxiよりxj を好む人々がx2よりx1
を好む限りSCC はx2を選ばない.したがって,個人i 以外の人々の
選好がp' における選好に固定されているならばw2はf ○ii によって実
現されることはなくf ○ii は全射ではない.xj がx1のときは次の選好の 組を考えることによってw2がf ○ii によって実現されないことが示さ れる.
(i)p においてxiよりx1を好む人々はp' においてx1, xi, x2の順に好み,
さらに他のすべての選択肢よりもこれら3 つの選択肢を好む.
(ii)p においてx1よりxi を好む人々はp' においてxi, x2, x1の順に好み,
さらに他のすべての選択肢よりもこれら3 つの選択肢を好む.
xj がx2のときには次の選好の組を考えることによってw1がf ○ii によ って実現されないことが示される.
(i)p においてxiよりx2を好む人々はp' においてx2, xi, x1の順に好み,
さらに他のすべての選択肢よりもこれら3 つの選択肢を好む.
(ii)p においてx2よりxiを好む人々はp' においてxi, x1, x2の順に好み,
さらに他のすべての選択肢よりもこれら3 つの選択肢を好む.
以上の議論はすべての個人に当てはまるから,すべてのi について ( f ○ii )*=0
が得られる.
(2)個人i が独裁者ではないとすると,ある選好の組p において,ある2 つの選択肢xi, xj について個人i がxj よりxi を好んでいるときに社会 がxiよりxj を好むということがある.パレート原理により(すべての 人々がxj よりxi を好めば社会もxj よりxi を好むので)i 以外の人々の内 何人かはxi よりxj を好んでいなければならない.もしxi がx1(ある いはx2)であれば弱い単調性によって,p においてx1(またはx2)よ りxj を好む人々が同じようにx1(またはx2)よりxj を好んでいる限り 社会はx1(またはx2)よりxj を好むので,個人i 以外の人々の選好が p における選好に固定されているならばw1(またはw2)がf ○ii によ って実現されることはなく,したがってf ○ii は全射ではない.
次にxi がx1, x2以外の選択肢であり,xj もx1, x2以外の選択肢である場 合を考える.p 以外の選好の組p' が以下のようなものであるとする.
(i)p においてxi よりxj を好む人々はp' においてx1, xj, xi , x2の順に好む.
(ii)p においてxj よりxi を好む人々はp' においてxi, x2, x1, xjの順に好む.
弱い単調性とパレート原理および推移性によってp' において社会は x1, xj, xi, x2の順に好む.すると弱い単調性により,p においてxi より xj を好む人々がx2よりx1を好む限り社会はx2よりx1を好む.したが って,個人i 以外の人々の選好がp' における選好に固定されている ならばw2はf ○ii によって実現されることはなくf ○ii は全射ではない.
xj がx1のときは次の選好の組を考えることによってw2がf ○ii によっ て実現されないことが示される.
(i)p においてxi よりx1を好む人々はp' においてx1, xi , x2の順に好む.
(ii)p においてx1よりxi を好む人々はp' においてxi, x2, x1の順に好む.
xjがx2のときには次の選好の組を考えることによってw1がf ○iiによ って実現されないことが示される.
(i)p においてxi よりx2を好む人々はp' においてx2, xi , x1の順に好む.
(ii)p においてx2よりxi を好む人々はp' においてxi, x1, x2の順に好む.
以上の議論はすべての個人に当てはまるから,すべてのi について ( f ○ii )*=0
が得られる.
以上で証明が終わった.
この補題の結論と(2)式および( f ○Δ)*≠0 は矛盾する.したがってSWF に 関する不可能性定理とSCC に関する不可能性定理が本質的に同じ手法によって 証明された.
【参考文献】
Arrow, K. J., Social Choice and Individual Values, Second Edition, Yale University Press, 1963.
Baryshnikov, Y., Unifying impossibility theorems: a topological approach, Advances in Applied Mathematics, vol. 14, pp. 404-415, 1993.
Baryshnikov, Y., Topological and discrete choice: In search of a theory, Social Choice and Welfare, vol. 14, pp. 199-209, 1997.
Chichilnisky, G., Social choice and the topology, Advances in Mathematics, vol. 37, pp.
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Chichilnisky, G., The topological equivalence of the Pareto condition and the existence of a dictator, Journal of Mathematical Economics, vol. 9, pp. 223-233, 1982.
Denicolo`, V., Independent social choice correspondences are dictatorial, Economics Letters, vol. 19, pp. 9-12, 1985.
Lauwers, L., Topological social choice, Mathematical Social Sciences, vol. 40, pp. 1-39, 2000.
Mehta, P., Topological methods in social choice: An overview, Social Choice and Welfare, vol. 14, pp. 233-243, 1997.
The Doshisha University Economic Review Vol.57 No.1
AbstractYasuhito TANAKA, Topological approaches to the impossibility theorems for binary social choice rules and social choice correspondences
We will examine the relation between the impossibility theorem for binary social choice rules by Arrow (1963) and the impossibility theorem for social choice correspondences by Denicolo (1985) using elementary tools of algebraic topolo- gy. We will show that these two theorems are proven by essentially the same method that uses the tools of algebraic topology such as homomorphisms of homology groups induced by simplicial maps.