母子 関係 と子 どもの病理

全文

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西 村 優紀 美

Yukirni Nishirnura:〕√other―Child]Relationship in Connection with

Some Psychopathological States in his/her Later Life

< 索 引用語 : 母子関係, 子 ど もの精神病理, 場 面絨黙, 人 格障害 >

<Keywords:rnother― child relationship,psycopathology in childhood,elective lnutisnl,personality disorder>

1 .   は しめ に

小学 生 か ら大学 生 まで の心 の悩 み を抱 え た ケー スには,発 達 的 見地 か らの対応 が必要 な場 合 と, その病理 の背景 を多角的 に捉 え,医 学 的 0心 理学 的 アプ ローチが必要 な場合 が あ る。

原 田4)は

,心 の悩 み を抱 え た子 ど もた ちにかか わ る ときの基 本 的 な視点 と して,① 年齢 によ るか か わ り方 の違 い,② 時期 に見合 った タイ ミングの よ いかか わ り,③ 取 り巻 く環境 へ のかか わ りの必 要性 ,④ 心 の悩 み の質 的違 い,⑤ 発達 的 な視点 か らの子 ど も理解,の 5点 を挙 げて い る。 筆者 は, 保育所 の幼児か ら大学生 までの幅広 い年齢層 のケー スにかかわ った経験か ら,原 田 と同様 の印象 を持 っ て い る。特 に,④ ,⑤ につ いて,本 人 お よび家族 の面接 か ら得 られ た情報 を整理 し,現 在 の本人 を 取 り巻 く状 況 との関連 性 と,周 囲 の人 々 との関係 性 を もとに分 析 す る ことが必要 で あ る。

き っか けは乳幼児期 にあ った と して も,症 状 と して現 れ た り,問 題行動 と して顕在化 す るの は, 思春期 や,大 学生 にな ってか らの ケースが あ る。

また,症 状 の兆 しは中学生 の頃 にすで にあ った と して も,大 学生 にな ってか ら本人 が不適応 を起 こ し, カ ウ ンセ リングを希望 す るケー ス もあ る。 他

方 , 本 人 の発 達 的 , 精 神 的 な問 題 と い うよ り も, 周 囲 の 環 境 的 な 問 題 か ら二 次 的 に症 状 と して現 れ

る ケ ー ス もあ る。

こ こで は, い くつ か の ケ ー ス につ いて ク ライ エ ン トの症 状 とそ の背 景 を紹 介 し, そ の環 境 的 な問 題 の意 味 と, 治 療 に必 要 な人 的環 境 の重 要 性 を述 べ て み た い。

2 . 事   例

1 . 症 例 A ( 1 4 歳 ・女 子 ) ( 1 ) 生育 歴 ・家 族 歴

A は , 母 親 が1 6 歳, 父 親が1 8 歳の時 に第一子 と して 生 まれ た。両親 はA が 2 歳 の時 に離婚 し, A は 父親 に 引 き取 られ る。 しば らくして父親 は, 別 の女性 と同居 しA の 近 くに住んでお り、 A と は交流があ る。現在, A は 祖父母 と暮 らして いる。祖母 は父親 の叔母 に当た る人で, 祖 父母 は再婚であ る。

祖母 はA の 養育 に熱心 であ るが, A の 自分勝手 な言 動 に困惑 し, 非 常 に困 って いる。父親 は祖母 か らA の 言動 を聞 いて, 叱 る くらいの関 わ り しか してお らず, 学校 か らの働 きか けに も逃 げ腰 であ る。

A は , 小 学校 4 年 生 の頃, 男 子児童 に 「くさい,   き たない」 と言 われ, 教 室 に入 れな くな り, 保 健室や職 員室 で過 ごす よ うにな った。聞 き分 けな く暴 れた り,

著者所属 :富 山大学 保健管理 セ ンター,The Department of Hcalth Services,Toyama University

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不意 にいな くなるAの 言動 に困 った祖母 は,某 精神科 を受診 し,Aは 人格障害 と診断 される。

Aは ,中 学生 になって も周囲の人々との トラブルが 絶えず,そ の原因は常 に他者 にあると確信 している。

教室 に入 らず,職 員室で授業のない教師に話 し相手 に な って もらう毎 日で,特 に女性教師への依存的態度は 顕著である。学校は,Aの ために特別時間割を作 って, 個別 に対応 しているが,そ のよ うな中で もAは 満足で きずに,イ ライラしたり,不 満をぶつけたりして不安 定な状態にある。

(2)現在 の状 況

Aは , 2歳 の ときに母親 が 自分 をお いて家 を出 て い った ことに,現 在 の 自分 の不幸 の原点 が あ る と思 って い る。 「お母 さん は,私 を捨 てて い った」

と母 親 を恨 み,嘆 くこ と もあれ ば,「 お母 さん と 一 緒 にいた ら,私 は もっと可愛が られて,い い子 にな って いた。 お母 さん に会 いたい」 と母親 へ の 憧 れ を語 る こと もあ る。 自分 が最 も愛 され るべ き 母 親 が い な くな った こ とが,「 私 の好 きな人 はみ ん な ど こかへ行 って しま う」 現在 の状況 を象徴 的 にあ らわ して い る と思 って い る。誰 か らも愛 され な い 自分 は, こ の世 で いちばん不幸 で あ る と嘆 く 一 方で,自 分 はすべての人か ら愛 され るべ きであ

る とい う自分勝手 な考 えを持 ち,他 人 か ら常 に見 つ め られ,評 価 を受 けたい と渇望 して い る。一方 的 に愛情 を求 め るわ りに は,他 人 の感情 へ の配 慮 は ま った く見 られず,相 手 の良心 や親切 を裏切 る よ うな言動 や その理解 しが た い対人 関係 の持 ち方 に,周 囲 の人 々は精神 的 な混乱 を きたす ことが多 い。

こ こで実例 を紹 介 して,Aが 人 とどの よ うな関 係 を取 り結 ぶ のか を紹 介 す る。

〔1:出 会いの初めは従属的で,次 第に支配的になる〕

Aは 同 じ部 活 の同級生 の Yと 友達 にな った。 い つ も一緒 で,他 の同級生 と交 わ る ことはな い。 Y が他 の子 と話 した り行動 を共 にす ると,Aが

と友達 なのに,ど うして他 の子 と仲良 くす るの !"

とYを 責 め る。 それ まで他 の友達 もいた Yは 徐 々 に孤立 して い った。 その様子 を担任 は 「べ った り と した関係 で,Yが Aの 世 界 にはま りこんで い る

とい う感 じ。 Yの 精 神状 態 が心配」 と言 う。 2ヵ 月後,Yは Aを 避 けは じめた。 すべ て行動 が Aの ペ ースで決 まることに疲 れて きたのであ る。 また, Aの い うとお りに しな い と ど う して私 を裏切 る の。私 に冷 た くした ら死 んで しま うか ら !"と 言 わ れ,密 着 した Aと の関係 に怖 さを感 じ始 め たの だ った。

〔2:百 パ ー セ ン トの独 占〕

筆者 とAが 2時 間 た っぷ り話 をす る機 会 が あ っ た。30分 後,職 員室 で歓談 して い る筆者 に,Aか らこん な メモが手渡 され た。

『私 。:。私 …私 … なん で こん な に切 な いの…。先 生 ,な ぜ そん な にわ ざ と私 の前 で だれか と楽 しそ うにす るの ?私 が見 え な いの ?SOSを 心 の 中で な ら して い るのを,な ぜ わか って もらえ ないの…。

この まま じゃ, も う生 きて いけな いわ。 ああ 切 な い 誰 で もいいんです。

sos  SOS  助 けて 〜 』

〔3:誇 張 された感情表出 と他人への配慮の欠如〕

小学 生 の頃,学 年 が進 ん で も常 に Aを 温 か く見 守 って くれ た の は養護教 諭 だ った。 Aは ,養 護 教 諭 を独 占 し,他 の子 ど もが保健室 に入 って くる と, それ だ けで拗 ね た り泣 いた り,幼 児 の よ うに大声 で泣 き暴 れ る こと もあ った。 3年 間献 身 的 に関 わ りを続 けた養護 教諭 は,「 彼女 へ の愛 情 が,ザ ル の 目か らこばれ落 ち るよ うに通 りす ぎて い く虚 し さを感 じる。 もっと, も っとか ま って ほ しい と求 めて くる姿 に こち らもノイ ローゼ気 味 にな り,泣 きつ か れ て ベ ッ ドで寝 て い るAの 首 に手 をか けそ うにな った こと もあ る」 と言 う。

〔4:依 存〕

Aは 年齢 の近 い子 ど もとい るよ りも,大 人, し か も女性 を強 く求 め る傾 向が あ った。 自分 を幼 く 頼 りな い子 ど も,ず っと傍 にいて面 倒 を見 な い と 生 きて い けな い子 ど もと して扱 って ほ しいので あ る。 Aは , 次 の よ うに語 る。 「つ らい時, 抱 き じ めて くれ る大 人 の人 が欲 しい。 だれか と一 緒 にい た い。 私 が辛 そ うに して いた ら ̀ど

う したの ?' と声 をか けて ほ しい。 私 の ことだ けをず っと考 え て くれ る大 人 の人 に甘 えて,つ らくな るまでず っ

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と一 緒 にいたい」

〔5:解 離 的言動〕

Aは 時 々 「私 は本 当 は, とて も小 さい女 の子 な の」 と言 う。 「何 才 く らい ?」 と尋 ね る と 「小 1 よ り小 さ くて, 4歳 よ り大 きい と思 う」 と答 え る。

「私 は小 さい子 や か らま と もな絵 が描 けな い。 こ ん な絵 を描 いて い る自分 で いい。幼稚 園 で使 うよ うな油粘 土 が好 き。 楽 しい と思 え る。 今年 で小児 科 が終 わ りだ と思 うと悲 しい。イヽ児 科 の絵本 やぬ い ぐるみを見 て い るのが いい」

思 い どお りにな らな い ことが続 いた とき, Aは 突然 み き"に

な った。 「私 はみ き。 Aは 死 ん だ。

名字 は忘 れ た。 小 さいか らまだ字 は書 けな いの」

いつ もの甘 え るよ うな喋 り方 で はな く,幼 い けれ どハ キハ キ した口調 で語 った。

(3)考  察

Aの 第一 印象 は,ま じめでお とな しい地 味 な感 じの女子 中学生 で あ る。 上 目遣 いに相手 の表情 を うかが い,自 分 か らは言葉 をか け られないよ うな, お どお ど した雰囲気 が あ る。 甘 え たよ うな喋 り方 で, 幼 さが あ る。 と ころが, Aと のかか わ りが回 数 を重 ね るにつ れ そ の印象 は影 を潜 め,絡 み取 ら れ そ うな怖 さを Aの 中 に見 るので あ る。

Aは ,担 任 が代 わ るたび にその人 を独 占 した い と思 い,そ の願 い は しば ら くで破 れ る。担任 が ク ラスの他 の生徒 と話 す だ けで, も う 「私 を無視 し て い る」 と失望 の どん底 に沈 むか らだ。 また友人 関係 にお いて も相手 を独 占 し,友 情 を二 人 だ けの 永 遠 の もの に しよ うとす るので あ る。

Aの ̀私

を愛 して ほ しい' と

い う願 い は,彼 女 の 目の前 に現 れ るすべ て の人 々ヘー 直線 に向 け ら れ て い く。 多 くのメ、は,呑 み込 まれ そ うにな る彼 女 との関係 に怖 さを感 じ,後 ず き り して しま う。

Aの 小 さな子 へ の こだわ りは, 2歳 の ときに体 験 した母 との別 れが大 き く影響 して い る と考 え ら れ る。 Mahler5)は,生 後 14か月 か ら 2歳 頃 まで を再接近期 と呼 び,母 親 の持 つ意義 が大 きい時期 だ とい って い る。 この時期 は,心 理 的 な レベルで 母 親 か らの 自律欲求 と接近欲求 が交替 し,子 ど も は精神 的 に危機 の状態 にあ る。 母子一 体感 に満 た

され た段 階 か ら脱却 し,個 と して の確立 に向か う 過 程 で, も う一度,自 分 の存在 その ものを愛 して くれ る人 が い る ことを確 か め るため に,母 親 の元 に戻 って くる (再接近)の で あ る。 こう した心理 的動揺 も,生 後 24カ月 を過 ぎる頃 にな る と 『母子 間 の適切 な距離』をつ くって,安 定化 に向か ってい く。 この危機 の状態 の時期 に,補 給基地 と して の 母 親 が現 実 に 目の前 か らいな くな って しま った と した ら,子 ど もは母親 との接触 が絶 たれ た不安 に 陥 って,共 生 へ の退 行 を余儀 な くされ るに違 いな い。 そ して,「私 は好 きな人 は,だ れで もいつか は 私 を見捨 てて どこかへ い って しま うので はないか」

とい う不安 (見捨 て られ不安)に 怯 えなが ら生 きて いか な けれ ば な らな い。 Mahler5)ゃMaSterson 6) は,境 界性人格 障害 の起源 は ここにあ る とい う。

Aが 言 う 「好 きな人 とつ ら くな るまで一緒 にい た い。 包 み込 ん で ほ しい。 私 は本 当 は小 さいの」

とい う言 葉 は,『 安 定 的 な母 性 の中 で,小 さな私 か らもう一 度 や り直 したい』 とい うことをあ らわ

して い るので はないだ ろ うか。

母 子 間 の適 切 な距離 を知 る ことな く成長 した A は,今 ,人 との適切 な距離 を保 つ ことがで きず苦

しん で い る。義務教育 が終 わ りに近 づ いた頃,教 師 はAの 精神 的 な 自立 を考 えて個別 の特 別時間割 をやめ,Aが 泣 き暴 れ て も幼児 を なだめ るよ うな 扱 いを しないよ うに した。人 との コ ミュニケー ショ ンに大切 な心遣 いを折 に触 れて話 し,Aの 気持 ち が少 しで も未来 に向か って開かれて い くよ うに と 働 きか けた。 しか し,そ の教 師の意 図 は,Aに 通 じなか った。 本 当 にわか って くれ る人が いな く な った と思 った Aは ,次 の よ うに語 った。 「今, 本 当 の 自分 になれ るの は布 団 の中だ け。小 さ く身 体 を丸 めて布 団 を頭 か らかぶ って い る と,涙 がぽ ろぽ ろ流 れて くる。悲 しい ことが い っぱ い思 い出 され て た ま らな くな る。心 に穴が開 いた。 私 の心 の翼 は,片 方 が折 れ た黒 い翼 にな った」 「大人 た ちが私 の心 をつぶ した」 と,嘆 き悲 じむのだ った。

Aは ,高 校 に進学 す る ことが決 ま った。 義務教 育 で な くな る こ とに不安 を持 ち,「 高 校生 にな っ た ら, こ ん な ことを して い られ な い」 と決意 を表

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明 す るの だが, 現 実 の言動 は相 変 わ らず 自分 本位 で あ った。 Aの よ うな難 しいケニスで は,学 校 は 主 治 医 と連携 し, 担 任一 人 にA を 任 せ るので はな く, 多 くの教 師で A に 対応 して い く体制 をつ くる 必 要 が あ る。 A の 周 りにい る人 が, 心 穏 やか に安 定 的 に,   しか も, 見 捨 て る ことな くA を 見守 る雰 囲気 づ くりが大 切 で あ る。 そ して, 短 い周 期 で一 人一 人 の教 師 が′らの距離 を保 ちなが ら真剣 にAと 向 き合 うことが, 一 つ の対応策 と して考 え られ る。

小 川7 ) は, 「 境 界 例 の人 の病 理 の根 は深 く, 神 経症 水準 の人 の心理 療 法 と同列 に考 え る ことは困 難 で あ る」 と して, 「 ク ライ エ ン トの動 きに応 じ て,他 の治療者 との ネ ッ トワー クをつ くる必要 が あ る。支援体制 もな くただ一 人 で こ う した クライ エ ン トに立 ち向か うことは,治 療者側 に多大 の犠 牲 を強要す ることに もな りかねない」 とネ ッ トワー クづ くりの必要性 を強調 して い る。 一 人 の教 師が 単 独 で, 長 期 間 に渡 って対応 す る と, 教 師 の ほ う が精神的 にまい って しま うだ けでな く,結 果的 に, A の ̀ 見

捨 て られ不安' が

助 長 され る ことにな り か ね ない危 険性 が あ る。

2 . 症 例 B (29歳 ・理系女子学生) ( 1 ) 生育歴 ・家 族歴

B が 3 歳 の ころ,母 親 は男性 と失踪する。養子だ っ た父親は離婚 して家を出る。 Bは 弟 と一緒に祖母 と暮 らしていた。父親 は再婚 し,あ らたに 2人 の子 どもを もうけ, 家 族で B と 同 じN 市 に住んでいる。11歳のと きに母親が家に戻 ってきて同居する。 Bが 25歳になる まで母親 とBは 一緒 に暮 らしていたが,そ の間 も母親 はいろいろな男性 と失踪するなど,出 入 りがあった。

その間, Bは 母親か ら煙草の火を身体に押 しつけられ た り,叩 かれたり,怒 鳴 られたりという虐待を うけて いた。その時は,逃 げることもできずに,そ の場で じっ としているしかなか った。頭のなかが真 っ白になった。

今で もだれかにきつい調子でいわれると, 頭 が真 っ白 になりなにも喋 られな くなるという。

1 0 年ほど前か ら精神科の受診歴,入 院歴がある。境 界型の人格障害 と診断 される。対人関係がいつ も問題 になり,食 欲不振,不 眠,全 身倦怠感などの症状が出 て受診する。母親 との トラブルで薬を大量 に服用 し入

院 したこともある。治療関係のなかで も病院職員 との 関係が うま くいかず,   トラブルになる。主治医に陽性 転移を起 こし, 退 院をほのめか されると病状が悪化 し 入院が伸びることが多か った。

整形外科の整復師 として勤務 していたが, 大 学 に進 学 し, 人 間の身体にかかわる勉強を したいとい うこと で退職。予備校に通い, 社 会人選抜で本大学 に入学す る。

(2)現在 の状 況

Bが 保健管理 セ ンターを訪 れ たの は, 2回 生 の 前 期試験 が始 ま る 7月 上 旬。 IVHを つ けて来所 し,ど う して もテス トを受 けた くて入 院先 か ら強 引 に退 院 して きた と言 う。

水 も受 けつ けな い ほ どの状 態 で,数 日間下 宿 に い たが,結 局,N市 の病 院 に再入院 す る ことにな っ た。 1年 間 の入 院 の あ と, IVHが とれ,経 口栄 養 が取 れ るよ うにな った とい うこ とで退 院。 保 健 管 理 セ ンターに病 院 を紹 介 して ほ しい と訪 ね て き た。 附属病 院 の精神科 を紹介。以後,病 院 で投薬 を うけなが ら保健管理 セ ンターで週一 回 の心理療 法 を受 け る。 Bの 相談 室 での態度 は非常 に控 え め で言葉少 な く,一 見,頼 りな い雰 囲気 のす る女性 だ った。生 活 や食事 に関 す る話題 に は気乗 りが し な い様子 で言葉少 ないが,自 分 の過 去 につ いて の 話 題 は,淡 々 とで はあ るが流 暢 に語 る。 筆者 の 目 を じっと見 つ めて話 す その姿 に は,積 極 的 に 自分 の過去 を語 りたい とい うBの 意思 が見 え た。

面 談 は食 事 につ いて の話 題 を中心 に した。 1日 に ロー ルパ ン 1個 と牛乳 200mlの 食事 か ら徐 々 に メニ ューを増 や して, う どん や煮物 ,魚 ,柔 らか い煎餅 な どを口にす ることがで きるよ うにな った。

Bに 特徴 的 だ ったの は,自 分 の病状 を話 す際 に, 医学専 門用語 を頻繁 に使 うことだ った6薬 品名 や 身体 の部 位 ,症 状 を詳 し く語 る様 子 は, 自分 の病 態 につ いて困 って い る とい うよ り も,む しろ,誇

ら しげに語 るとい う印象 を うけた。

4カ 月 ほ どた った頃 に,試 験 が近 づ いた とい う ことで,落 ち込 みが激 しくな り,食 事 が摂 れ な く な る。薬 も嘔吐 す る。 不 眠 や拒 食 な どが続 き,保 健 管理 セ ンターヘ足 を運 ぶ が,過 呼 吸 で倒 れ入 院

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す る。

( 3 ) 考    察

B は ,中 学生 の ころか ら自分 の気持 ちの動 きを 感 じ られ な くな った とい う。 他人 に意 見 を求 め ら れ て も,「 わか らない」 と答 え る しか なか った し, 事 実 , ど う答 え れ ば よ いのか わか らなか った。 ま た,他 人 か らきつ い調子 で言 われ た ときに は頭 が 真 っ白 にな り, ぼ 一 っと して しま うの だ った。現 在 も, 母 親 か らどの よ うな扱 いを うけたか を語 る ことはで きるの に,そ の時 に自分が何 を考 え たか, 母親 に対 して ど う思 ったか を語 る ことがで きない。

被 虐 待 児 に よ くみ られ る情 緒 的 な反 応 と して, 物 事 に対 す る反 応 の乏 しさ と無 関心 0 無 表情 が あ

る 8 ) 。基 本 的 な安 心 感 に満 た され るべ き母親 との 関係 が非 常 に劣悪 だ った とい う事 実 を,   B は 意 識 下 に封 じ込 めて生 きて こな けれ ば な らなか ったの だ ろ う。

B の 大学生 活 は,初 めの半年 間 は順調 だ った。

ク ラス メー トも,10歳 ほ ど年上 で穏 やかで面倒 み の よい B に ,頼 りが いのあ る人 とい う印象 を持 っ た よ うだ。 Bは ,頻 繁 に友人 を夕 食 に招 き,自 分 の過去 を語 ったよ うで あ る。 友 人 たち は, Bの 経 歴 に大 きな シ ョックを受 け, 私 たちが B を 守 って 支 え て あ げな けれ ば,   と感 じたのだ った。

B が 保 健管理 セ ンターで面談 を は じめて lヵ 月 た った ころ, Bの 友人 とい う女子学生 が 4人 で筆 者 を訪 れ て きた。 B へ の対 応 の仕方 を聞 きた い と い うことだ った。 これ まで の い きさつ を訊 ねてみ る と,次 の よ うな状 況 が確認 され た。

① 英語 が苦 手 だ とい う B に , 英 訳 の宿 題 を教 え た と ころ,い つ まで た って も完全 に頼 りき り にな り, 自分 で しよ うとは しない。

② B か ら電話 が頻繁 にか か り, 行 動 を チ ェ ック され る。 留 守 に して い る と,「 ど こに行 って いたの」 と叱 られ る。 また,手 帳 もチ ェ ック され,予 定 を知 ろ うとす る。

③ 夕 食 時 に突 然 訪 れ て きて, 「 まだ, 夕 食 を食 べ て い な い」 と言 う。 しか たな く,「一 緒 に 食 べ よ う」 と誘 うことにな る。 食 べ たあ と吐

き気 がす る と言 って周 囲 に心配 をか ける。

B の 友 人 は,「 Bの た め に,み ん な で交 代 に I V H の 薬 を病 院 に取 りにい って あ げ るの に, B はそれが 当然 とい う顔 をす る。逆 に ̀ 早

く取 りに い って きて よ'   と

叱 られ る こと もあ る」 とい う。

通常 の人間関係 で は当然 と思 われ る心 の通 じ合 い が, Bと の関係 で は成立 しな い。 自分 た ちの誠意 に対 して, Bは 当 た り前 とい う態度 を し, も っと して くれて当然 とい う態度 をす る。 また,通 常 の 人 間関係 だ った ら当然 の ル ールを踏 み越 えて, B は 自分 た ちの プ ライバ シーに入 り込 んで くる。 友 人 の一 人 は,   B か らの電話 にび くび くし,突 然 の 訪 間 を恐 れ, 家 に帰 れ な い と泣 いて訴 え るのだ っ た。

B の 対人 関係 は,支 配 と依存 の両極端 を示 して い た。苦手 な英語 を教 えて くれ る頼 りが いのあ る 友 人 に は全 面 的 に依存 し, 少 し幼 い感 じのす る友 人 に は支配 的 に振 る舞 うのだ った。 この よ うな B の対人 関係 の問題 は, さ まざまな場面 に影響 して い た。 入 院す る と主治 医 には陽性転移 し,カ ウ ン セ ラーを姉 の よ うに慕 う。 しか し,看 護婦 には点 滴 を嫌 が った り, 食 事 を拒否 した りとわが ままに 振 る舞 った。

B は , 自立 した一 人 の人間 と して人 と向 き合 う こ とが で きなか った。 彼女 に とって, 自立 とは両 親 の喪失 , つ ま り, 絶 対 的 な安 定 の なか の愛情 の 喪 失 を紡彿 させ る孤 独 につ なが る もので はなか っ ただ ろ うか。母親 が 自分 を置 いて 出て い き,父 親

も離婚 して家 を出て, 家 には年老 いた祖母 と幼 い 弟 と自分 が取 り残 され た。 両親 が 自分 た ちを見捨 て て い った とい う事実 が,自 分 を取 り巻 く人 々へ の不信感 と,言 いよ うの な い孤独感 につ なが って い るので はな いだ ろ うか。 これ は,人 格 障害 の大 きな特徴 と して D S M 一 Ⅳ に も取 り入 れ られて い る,Mastersonの い う見捨 て られ感 と同一 の もの で あ り,そ の背景 にあ るの は分離 不安 , 自立 への 不安 , 依 存 心 につ なが って い る と解釈 で きる6 ) 。 B は ,人 に依存 し,人 を支配 す る ことで,人 と のつ なが りを求 め,自 分 の存在 を確信 して い った。

人 を強 く求 めなければ, 人 は自分 か ら去 ってい く。

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その不安感 が,さ らに強 く人 を 自分 の ほ うへ向か わせ よ うとす るので あ る。

現 在 Bは ,N市 の病 院 に入院 中で あ る。 それ以 前 に救 急車 で入 院 した附属 病 院 で は,担 当医 が 自 分 の意思 を無視 して不 当 な扱 いを した とい って, 現 在 の病 院 に転 院 した経 過 が あ る。 内観 療 法 を中 心 と した心 理療法 が行 われて い ると聞 くが, 1年 た った現在 も 3回 目の体学 届 けが 出て い る状 態 で あ る。

Bに は,医 者 にな りた い とい う希望 が あ る。 ま た,予 備校 に通 って いた ときに知 り合 った予備校 講 師 との結 婚 も考 えて い る。 母親 の ことを 自分 の なかで整理 しな ければいけない とも言 う。 しか し, Bは 摂食 障害 で あ る ことと対 人 的 な問題 を, 自分 の問題 と して捉 え る ことがで きな いで い る。 そ し て,現 実 的 に大学生活 につ いて も,能 力 的 な問題 や 自分 の将来像 な ど無理 が あ る ことに気 づ いて い な い。総 合的 に現実 の 自分 を客観視 で きな い Bの パ ー ソナ リテ ィー障害 は,母 親 の喪失 と母親 か ら の虐待 とい う二重 の トラウマ によ つて,よ り複雑 さを増 して い るよ うに思 う。今 の大学生活 自体 が, 実 現 不可 能 な Bの 将来 の夢 の一 部 にす ぎない とい

う感 じさえ持 って しま うので あ る。

3.症 例 C (7歳 ・男児) (1)生育歴 ・家 族歴

Cは ,母 親が32歳のときに生 まれる。父親 は伝統工 芸の職人でおとな しい性格。 Cは 保育所でまった く話 さず,情 緒不安定な様子が見受 けられたため児童相談 所の指導 を うけたところ,場 面織黙 と診断 される。偶 然, Cを 観察 に来た児童相談所の判定員が, Cの 母親 の子 どもの ころを知 ってお り,「あの人が結婚 して母 親 になるなんて,思 って もみなか った」 と驚 いていた という。母親 は幼児期に保母か ら情緒面の問題を指摘 され,さ らに小学生のころには強迫的行為がみ られ, 児童相談所の指導を受 けていたのである。

Cが 保育所に入所する 3歳 ころに両親が別居。祖父 母 は別居の事実を知 らなか った。 Cが 小学校 に入学直 前の 2月 に両親 は離婚 し, Cは 母親 とともに実家 に戻

る。

母親は,身 体が弱 く頻繁に熱が出て寝込むので,パ

卜の仕事 もやめ, 家 事 を少 し手伝 う程度 の生活 を送 っ て い る。 母 の気分 が不安定 で,   ̀ 変な ことを□走 る' ので, 祖 母 は精神科 の受診 を勧 めて い るが, 「私 はお か しくない」 と言 って, 絶 対 に病院 に行 こうと しない。

C は , 学 校 で ま った く声 を出 さず, 家 で近所 の人 に 出合 って も喋 る ことはなか った。 しか し,   1 歳 年下 の 従兄弟 ( 母の妹) が 遊 びに くると大 きな声 で は じゃい で, 楽 しそ うに過 ごす ことがで きた。 い とこと一緒 な らば, 外 出先で も しゃべ ることがで きるのだ った。 ま た, 叔 母 さん に も話す ことがで きた。 C は , 場 面絨黙 の他 に夜尿 と著 しい偏食が あ った。入学 当時,   C は ひ ど く痩せていて, 給 食 を食べ ることがで きない くらい の偏食だ った。家で もチ ャーハ ン,オ ム レツ,カ レー ライス, パ ン,   ラーメ ンしか食べず, 食 卓 に上 る食事 には手 をつ けなか った。

1 年 生 の担任 は,   C 母 子 が通常 の母子 関係 とは異 な る雰囲気 を持 って いることに入学式 当初 か ら気づ いて いた とい う。 C は 無表情 で, 呼 名 に も返事 を しない。

また, C が 自分の座席 に気づかず に戸惑 っているとき, 母親 はそれ に気 づかず, 離 れ た ところに一人突 っ立 っ て いた。言葉 のや り取 りどころか, そ ばによること も な く, 視 線 の交 わ りもない。担任 は, 母 親 に話 しか け て も反応 が な く無表情 なので, 非 常 に戸惑 いを感 じた と話 して い る。

( 2 ) 現在 の状 況

祖 父 母 の 家 に 同 居 す る よ うに な って ,   C は 祖 母 に非 常 に甘 え, 片 時 も傍 を離 れ る こ とが な い よ う な 状 況 だ っ た。 彼 が よ く祖 母 に訴 え る こ と は,

「保 育 所 の こ ろ, 遊 び に きた と き, 僕 は帰 りた く な い の に, お ば あ ち ゃん は僕 を笑 って 見 送 って い た。 な ん で僕 を返 した の ? 僕 はお ば あ ち ゃん と 緒 に い たか つた の に」 とい う こ とだ つた。 祖 母 は,

「確 か に帰 る と き は, 車 の後 ろ の窓 に顔 を く っつ け, い つ まで も こち らを見 て泣 い て い たが , そ こ まで 強 い思 いが あ る と は思 わ なか った」 とい う。

C が 祖 母 を求 め る姿 は, 凄 ま じい もの だ った。 家 の なか に い て も祖 母 が 見 え な い と慌 て て探 し, 外 出 に は一緒 に出か け,食 事 の よ うにや入 浴 も常 に 一 緒 に行動 す る。従兄弟が くると,祖 母 の膝 を取 られ な いよ うに,片 時 も離 れ よ うとは しない。 身 体 を くっつ けて いな い と不安 で仕方 が な い とい う 様 子。 寝 る と き も祖 母 と同 じ布 団 で,祖 母 の足 に

(7)

自分 の足 を絡 ませ,腕 を祖 母 の首 に巻 いて全 身 を 密着 させ て眠 る。 朝 は,祖 母 が起 こさな い と起 き て こな い。祖母 が両手 で Cを 抱 き抱 えて起 こ し, 三 階か らおんぶ を して下 りて くるとい う状 態 だ っ

た。

た まに祖母 に □答 え をす るので,「 そん な こと い うと,お ばあち ゃん は Cち ゃんを嫌 いにな るよ」

と言 うと,慌 てて,「 おばあ ち ゃん大好 きだか ら, そん な こと言 わ ないで。 ど う して こん なにおばあ ち ゃん の こと好 きなんだ ろ う。 おば あ ち ゃんが僕 の こと嫌 い とい って も,僕 はおばあち ゃんが好 き」

と甘 えて くるのだ った。 こ の よ うな状況 のなか, Cは 2年 生 にな り,祖 父母 と同居 す るよ うにな っ て 1年 が経過 す る ころか ら, Cの 態度 に変化 が み

られ るよ うにな った。

夜 尿 につ いて は, Cが 「夜 に牛乳 を飲 まな いよ うにす る」 とい う努力 もあ って, 1年 生 の 3学 期 に はな くな った。 また,給 食 を ほ とん ど残 さず食 べ るよ うにな り,家 で も大人 と同 じものを食べ る よ うにな った。 また,寝 るときの布 団 を祖母 と別 に し,隣 で眠 るだ けで満足 す るよ うにな った。朝 起 きる と きの儀式 はな くな り,祖 母 が声 をか け る と一 人 で階段 を降 りて くるよ うにな った。乳 児 の よ うに身体 を密着 させ る ことが少 な くな り,代 わ りにプ ロ レス ごっこをせ がむよ うにな った とい う。

学 校 で は,表 情 が 出て きて,友 人 の言動 に微笑 む ことがあるとい う。 また,休 み時間 には ドッチボー ル に参加 し,積 極 的 に ボールを追 いか ける姿 も見 られ るよ うにな った。 ささや くよ うな小 さな声 で はあ るが,挙 手 を して発言 す ること もあ るとい う。

(3)考  察

筆者 が Cの 祖母 の面談 を行 ったの は, 1年 生 の 1学 期 の終 わ りだ った。 「学 校 で話 さな い」 とい うことを心配 して,ど う した ら喋 るよ うにな るか とい う相談 で あ った。 Cの 祖母 は,非 常 に表情豊 か で,愛 情 にああ、れ た人柄 で あ った。 Cと 同居 し て は じめて, cが 母親 に十 分甘 え られ ない寂 しい 環 境 で育 って いた ことを知 り,い とお しくて た ま らな い様子 だ った。 また, Cの 母親 に対 す る心配 もあ ったが,「 なん とか うま く育 てて い る」 と思 っ

て いた とい う。

母親 とは一度面談 したが,筆 者 を非常 に警戒 し,

「私 は Cの 将 来 を考 え て,職 業 や結 婚 の ことにつ いて,今 晩,家 族会議 を開 か な くて はい けない。

一 人 しか子 どもがいないと,世 間の人が私 の こと を一 人前 で はな い とい うか ら, も う一 人子供 を産 まな けれ ば な らな い」 「子 ど もは育 児書 に書 いて あ る とお りに育 て た」 と,自 分 の思 いを一方 的 に 話 す だ けで, コ ミュニケー シ ョンが とれ な い状態 だ った。 表情 は固 く,能 面 の よ うで,語 調 は強 く 抑 揚 が なか った。不釣 り合 いな濃 い化粧 に無表情 で整 った顔 つ きが印象 的 な母 であ った。

Cと 母親 との二人 の生 活 は,生 き生 きと した情 動 の通 い合 ったや り取 りはな く,日 の前 の生 身 の 人 間 を無視 した育児書 どお りの子育 て に終始 して い たので はないだ ろ うか。乳児 は基本的 な欲求 を 満 たす ため に泣 き,母 親 はその欲求 が なん で あ る か を乳 児 の反応 をみ なが ら捜 し当て,満 た して あ げ よ うとす る。 その よ うな関 わ りの なかか ら,乳 児 は母親 の存在 を認 め,信 頼感 をつ くって い き, 母親 は母性 を呼 び起 こされ,母 親 と しての 自覚 と 愛 情 を確 認 して い くの で あ る 1'3,9)。cの 育 った 環境 を見 る と, この よ うな安 全基地 と しての母親 の存在 はな く,ネ グ レク ト (虐待)に 近 い環境 で あ った と推測で きる。現在,家 ではCが 「ど うして お母 さん は,家 にいて何 も しないの ?ど う して変 な ことを言 ってばか りい るの ?僕 ,お 母 さんが嫌 い」 と母親 の言動 の奇妙 さに気づ いているとい う。

祖母 に対 して は,今 は,喋 る ことよ りも, Cが 心 か ら安心 で きる環境 を作 り,愛 情 で満 た して あ

げ る ことが必要 で あ ると指導 した。 つ ま り,① 喋

らないことを責めない,② 求めてくるだけ,愛 情 をかけてあげる,③ 少 しずつ食事のレパー トリー

を増 やす ことを当面 の 目標 に した。 Cは ,祖 母 の 絶 対 的で安定 的 な愛情 の中で,乳 児 の ころに退行 し,人 との信頼 関係 を取 り戻 して い った。 あたか も胎児 に戻 ったか の よ うな祖母 との密着 した身体 接 触 か ら始 ま り, 排 泄 と食事 の 自立 を経 て,精 神 的 な 自立 へ と向か って い ったのであ る。

(8)

3. お わ りに

環境的 な要因か ら, さ まざまな不適応行動 を引 き 起 こ した事例 を紹介 した。 Aと Bは 母親不在 あるい は虐待か ら対人関係 に破綻 を きた したケースで,い まだに人 との適切 な距離 を取 ることがで きずに,「依 存 と支配」 を繰 り返 しなが ら苦 しんでいる。 Cも ま た同様のケースで はあ るが,母 親 に代わ る祖母が C の危機的状況 を乗 り越え るキーパ ソンと しての役割 を果た し,症 状を軽減 させている。

Masterson 6)は ,分 離 一個 体 化 の段 階 で発達 が 障害 され て い るケー スで は,再 度,そ の段 階 に も う一 度立 ち返 る必要 が あ る と して い る。 つ ま り, 患者 は絶対 的 な安定 の なかで支持 的 に受 け止 め ら れ,や がて,自 分 の見捨 て られ感 の分析 を行 い,

自我 を再 構 成 して い くとい う。 また,Adlerは 界型 人格 障害 の よ うな発達 初期 の養育環境 によ る ダメー ジを抱 え た人 は, 自 分 が愛 されて い るとい うイ メー ジは乏 しいか,欠 損 して い る ことが多 い とい う。 したが って彼 らを治療 す る際 に,安 定 し た h01ding(抱 え込 み)が 重 要 で あ り,彼 らの良 い 自己イ メー ジを作 り上 げ,慰 め る ことが重要 で あ る とい う2)。

人生 の初期 に出会 う母親 は,絶 対 的 な愛情 で満 た して くれ る。 それ は,そ の後 の人生 にお け る人 へ の信頼感 につ なが る。 その最 も大切 な出会 いに 失 敗 した と き,人 は 自分 自身 の存在 で さえ確 か な

もの で は な くな るので あ ろ う。̀私' と

い う人 間 が この世 に存在 して もいい と感 じ,人 か ら愛 され るにふ さわ しい人間 で あ るとい う確信 を取 り戻 す

に は, 人 生 の最 初 に 出会 うべ き母 親 の愛 情 と同 じ く らい の大 きな愛 情 で, 根 気 強 く,   しか も決 して 裏 切 らな い h o l d i n g ( 抱 え 込 み ) が 必 要 な の で あ

る。

文    献

1 ) 青 木紀久代 : 乳幼児期. 馬 場證子 ・永井徹編 『ラ イ フサ イ クルの臨床心理学』所収, 培 風館, 東 京, 1997.

2 ) 福 島章, 町 沢静夫, 大 野裕編 : 人格障害. 金 剛 出 版, 東 京, 1 9 9 5 。

3 ) 濱 田庸子 : 授乳 と母子 の精神衛生。小此木啓吾 ・ 渡辺 久子編 『乳 幼児精 神 医学 へ の招 待』 ( 男1 冊発達

9 ) 所 収,   ミネル ヴァ書房, 京 都, 1 9 8 9 .

4 ) 原 田正文, 府 川満晴, 林 秀子 : ス クールカウ ンセ リング再考。朱鷺書房, 大 阪, 1 9 9 7 .

5)Mahler,WII.S.,Pine,F.,&Bergmann,A.:The psycho―

logical birth of the human infant.Basic Books.1975。

( 高橋雅士 ・織 田正美 ・浜畑紀 ( 訳) 『乳幼児 の心理 的誕生 ―母子共生 と個体化』黎明書房, 東 京, 1 9 8 1 . 6)MastersnO,」 .F. : Treatrnent of the Borderline

A d o l e s c e n t : A   D e v e l o p m e n t a l   A p p r o a c h . ( 成田善 弘 ・笠原嘉 ( 訳) : 青 年期境 界例 の治療。金剛 出版, 東京, 1 9 7 9 。

7 ) 小 川捷之 : 境 界例 と臨床心理. 河 合隼雄 ・成 田善 弘編 『こころの科学3 6 , 境 界例』所収,   日本評論社, 東京, 1 9 9 1 .

8 ) 斉 藤  学 : 児 童虐待 ( 危機介入編) 。金剛 出版, 東京, 1 9 9 4 .

9 ) 佐 藤員子 : 乳 幼児期 の人間関係 の発達的意義. 佐 藤員子編 『人間関係 の発達心理学 2 , 乳 幼児期 の人 間関係』所収, 培 風館, 東 京, 1 9 9 6 .

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参照

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