九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
Advanced Utilization of Tsunami Damage
Estimation Method Considering Diversity of Earthquakes : Beyond The 2011 off the Pacific coast of Tohoku Earthquake
大角, 恒雄
https://doi.org/10.15017/4060145
出版情報:九州大学, 2019, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
(様式2)
氏 名 :大角 恒雄
論 文 名 :Advanced Utilization of Tsunami Damage Estimation Method Considering Diversity of Earthquakes
- Beyond The 2011 off the Pacific Coast of Tohoku Earthquake -
(地震の多様性を考慮した津波被害予測手法の高度利用に関する研究
-2011 年東北地方太平洋沖地震を経験して-)
区 分 : 甲
論 文 内 容 の 要 旨
2011年東北地方太平洋沖地震(以下,2011年東北地震と称す)から既に8年が経過する.津波被 害の甚大さに鑑み,現在,様々な研究や対策が実施されている.しかしながら,想定外の被害の原 因として,既往最大の被害地震の研究のみに留まり,地震の多様性に対して,十分な踏み込みがな かったことにある.つまり,さまざまなレベルの地震に起因して、沿岸の各地点に来襲する津波に ついて,その危険性を広範に評価することが必要となる.このような観点から,沿岸での津波高さ を確率論のハザード情報として表示することが必要であると結論付けた.
2011年東北地震では,地震発生後,津波到来まで30分も余裕があったにもかかわらず,2万人の 犠牲者が出た.過去の教訓を生かせず,高台移転の遅れが問題点として挙げられる.本研究では,
まず,地震の本質を知る目的で,岩手県南部海岸地域の津波被害を数回にわたり調査し,過去の教 訓を生かせた地域と犠牲を繰り返した地域の要因を明確にした.また,「釜石の奇跡」と呼ばれる避 難の成功例を詳細に調査し,啓発の効果を数値シミュレーションにて示した.さらに,直接,防災 に携わる自治体担当者にアンケートを行い,意見を集約した.また,河川堤防に関しては,地震に よる堤防破損後に津波の来襲が懸念されるので,緊急地震速報を活用して,即時被害箇所を判定で きるシステムを構築した.
一方,日本周辺海域には,2011年東北地震のような海溝型地震に留まらず,海域の活断層型の地 震も発生する.海域の断層はかつて1940年神威(積丹)沖地震,1983年日本海中部地震等の起震断 層となり,津波による犠牲者を出した.そこで本研究では,その断層のモデル化と歴史地震との因 果関係を検証した.また,海底地すべりのモデル化と歴史地震との因果関係の検証例として,津波 の犠牲者が1万人を超えたと言われている1771年明和(八重山)地震の再現を新たな手法にて検討 し,解析のプロセスを確立した.さらに,歴史地震の一つであるAD365年ギリシャのクレタ島沖地 震については,現地に残っている9 mの地盤隆起を実施調査し,既往の研究から断層パラメータを 特定し,巨大地震と巨大津波の再現解析のプロセスを確立した.
本論文は冒頭の概要で本研究の背景と目的を示したうえで, 1章~7章で研究の具体的な成果を 示している.
1章では,2011年東北地震における岩手県南部海岸の地域に限定して数回にわたり調査し,過去 の地震・津波を教訓として生かせたかどうか,高台移転の現状及び問題点を示した.「釜石の奇跡」
と言われている事例(迅速な避難により,釜石市の小中学生の99.8%が生き延びる事ができた)を シミュレーションし,即時避難の有効性を検証した.2011年東北地震では,2万人以上の人々が津 波の犠牲となったにもかかわらず,「釜石の奇跡」では,迅速な中学生の行動が,周辺の小学生の
避難につながり,地域住民に与えた影響を数値計算でシミュレートした.その成果は,今後,発生 が予想されている南海地震において啓発の重要性を示すことが期待できる.
2章では,沿岸地域において,津波の危険度の空間的分布を一定の尺度で表現した。各種ハザー ド・リスク情報の活用を目的として,工学や損害保険等の分野における確率論的なハザード・リス ク評価を行った.また,2011年東北地震で被害を受けた茨城県・千葉県の自治体にアンケートを行 い,直面する問題点を抽出し,その結果を津波ハザード・リスク評価の手段として提言した.これ により,新たな津波ハザード・リスク情報が,地域の防災力向上に役立てられることが期待できる.
3章では,日本周辺海域の断層分布から,地震動及び津波予測計算で利用可能な断層モデルを構 築し,日本周辺において網羅的な断層モデル群の設定を行った.特に,マグニチュード7を超える 地震を発生しうる断層については,歴史記録及び断層モデルに基づく予測計算の検証を行った.具 体的には,1940年神威(積丹)沖地震,1983年日本海中部地震の津波再現計算を実施し,検証した.
これらの成果は,強震動や津波のハザードリスクの評価において、有効に活用することが可能にな った.
4章では,河川堤防の即時被害予測情報システムを緊急地震速報と連動させた.現状では,河川 堤防のような線状構造物においては,地震発生直後に被災箇所を特定するのに時間を要する.また,
地震の特性で地震動は変わるため,予め被災箇所を特定することは困難である.このため,ここで は,緊急地震速報と地震計から得られる計測震度を利用し,即時に震度分布を推定し,被災箇所を 特定する手法を構築した.
5章では,海底地すべりによる津波の再現手法を確立した.実験や数値解析モデルの再現性によ る簡易的な手法や運動力学的海底地すべりモデル(Kinematicモデル)による予測方法が原子力発電 所の設置許可申請等で用いられてきたが,不確定要素が多いため,問題点がある.ここでは,津波 高を算定するために,既存の津波解析プログラムに海底地形変動を直接,入力できるようにプログ ラムを改良し,斜面崩壊前と崩壊後の海底地形データを入力した.また,海底地すべりを生じさせ る外力を津波に起因するものとした.さらに,算定された斜面崩壊継続時間を用いて,1771年明和
(八重山)大津波を対象として検証を行った。その結果,痕跡に対する再現性(K=1.1:痕跡値を 算定値で割ったもの)が良好であり,当該アプローチが有効であったことを確認した.この再現解 析手法は,2018年インドネシア・スラウェシ地震の地すべりによる津波の解析にも適用できるもの と考えられる.
6章では,AD 365年ギリシャのクレタ島沖地震の津波の再現を行った.本研究では,様々な論文 から解析パラメータを絞り込み,現地に今でも残る痕跡とギリシャ神話の中の地震・津波に関する 伝承を教訓としてとらえた.その結果,多くの犠牲者が出たエジプト・アレキサンドリアのデルタ 地域で,2.4 mの津波が100分後に到達していたことを算定した.歴史地震・津波を再現することに より,これらの教訓から近い将来,発生が予想される巨大地震に備える対策や心構えを成果として 得た.
7章では,本論文で得られた結果を総括し,今後の課題と展望を整理した.