第
5
章 垂直統合性の計測に基づく地域放送産業の効率的構造に関する分析 1 本章の目的ブロードバンド化の進展により放送と通信の垣根が低くなる中、望ましいデザイン を描くためには、放送事業がどのような性質を持つ産業であるか、を明らかにしてお く必要がある。特に、日本の放送局の場合、番組制作(川上)と、伝送(川下)を兼 営していること、すなわち垂直統合に特徴があり、これら二つの機能の関係を究明し ておくことは重要である。たとえば、二つの機能を分離し、放送局が無線以外の伝送 路で放送するインセンティブを持てば、ブロードバンドのような他の伝送路も考えら れるようになる、というような議論の検証にもなるからである。浜屋[2002]は、「デ ジタル化や IP 化、ブロードバンド化という環境変化によって、情報財のインターフェ ースや取引のプロトコルが標準化されつつある。それにともなって、これまでのアナ ログ形式の情報財を扱うアナログ・メディア産業とはまったく異なる構造を持ったデ ジタル・メディア産業の主流と考えられている。アナログ・メディア産業の組織が情 報の伝達路(ネットワーク)の種類に依存した垂直統合型であったのに対して、多様 なデジタル情報を伝えることのできる IP ネットワークを伝達路とするデジタル・メデ ィア産業の組織は水平分離型になると考えるのが自然である。」と主張する。
本章では、このような問題意識に基づき、番組制作と伝送を別々の経済主体が供給 することが社会的に見てより効率的であるのか、を検討するため、現在のわが国地方 放送局が番組制作と伝送を併せて供給するということによって、どの様な便益を得て いるのか、それはどの程度の大きさであるのかという点を実証的に検証することを試 みる。
既存の放送局を分離すれば、垂直統合形態に比べ費用が増大するという垂直統合性 を用いて経済性を分析する。垂直分離の経済的な有効性は垂直統合の大きさおよび存 在に依拠する。垂直統合が効率性の観点から経済学的に支持されるのは、兼営により 費用が節約できていなければならない。そこで、地方放送局を生産単位と捉え、放送 事業を
2
生産物の生産関数ととらえて双対な費用関数を推定することにより、実証的 に確認しようとするのが本章の目的である。なお、実証にあたっては、産出物(アウトプット)の違いによって 2 つのモデルを 考えた。実証モデル 1 では放送時間を主体に考え、実証モデル 2 では事業収入を主体 に考えた。
2 放送産業の産業構造
2.1 放送産業の構造
放送の社会的影響力の強さは、番組制作機能=production(コンテンツの制作)、編 成機能=packaging(コンテンツを流通できる形に整える)と伝送機能=distribution
(実際に流通させる)という 2 つの機能を同時に保有していることにある。特に、同 時に情報を視聴者に送ることができる伝送を持つことは、放送局に特権的地位を与え る一因となっている。伝送を保有することは費用的に大きな負担となるため、参入障 壁が高い。特に放送では、電波の有限稀少性に裏付けられ免許により事業が許認可さ れており、伝送を持つことで特権的となっている1。
番組制作 編成 伝送 消費者
放送
バリュー
・映画
・ドラマ
・音楽
・娯楽
・ニュース
・スポーツ
・CM
・付加価値情報
・課金
・顧客サービス
・視聴者
・伝送サービス
・課金
・顧客サービス
通信
・ユーザー
図表‑10:放送局のバリューチェーン
デジタル化が地方局に及ぼす影響はほとんど 1 局あたり 45 億円2と言われる放送設 備のデジタル化費用の捻出に集約される。地方局は自分で番組を企画制作して、自分 で稼ぐ番組制作機能の向上を図り、自主的に番組制作や編成を試みれば企業収益は悪 化するというジレンマに陥っている。キー局の地域販社としての役割、つまり伝送機 能に集中しさえしていれば、放送免許の希少性に守られ、高い経常収益率を維持する ことが可能である。しかし、この伝送機能への依存は、地方局の費用構造を固定費(放 送設備の減価償却費と人件費)の割合が高い(損益分岐点が高い)状態にしており、
新たにデジタル投資が加わった場合、その比率が更に高まるため、広告収入が減った
場合、そのまま赤字になる危険性がある。
地方局にとっては、デジタル化経費を肩代わりしてくれる経済主体(例えば NTT)が あれば、財政負担が軽くなるが、売上の大半を番組制作機能ではなく、伝送機能に依 存している現状のままでは、伝送機能を手放すことは危険でもある。特に、伝送にそ の経営基盤を大きく依存する地方局にとって、放送デジタル化は、その経営構造のあ り方の本質を見極め、自己変革を図ること、つまり純然たる経営問題にある3。自ら伝 送機能から脱却、自立/自活した番組制作機能に頼る経営へと変換していくのか、依然 として伝送機能に依存していくのか、に集約される。
図表‑11:「放送」現状モデル
2.2 放送産業の垂直分離について
番組制作事業と伝送事業には、それぞれの事業にかかる費用構造の相違が存在する。
伝送事業は、基本的には所与の地域を全てカバーする必要があるため、中継設備を木 目細やかに整備していく必要がある。番組制作費用は放送局がどれくらい自主制作比 率を高めるかによって変動費用は異なってくるが、固定費用は伝送事業に比べて低く なる。このため、参入コストが伝送事業に比して低く、また放送免許も必要ないため、
優良コンテンツを提供できる手段(自主制作する能力)がありさえすれば、伝送事業 にはとても参入できない事業者も番組制作事業なら参入することが可能となり、ここ に番組制作事業への参入・競争インセンティブが生じる。
「放送」現状モデル
広告主 広告代理店
営業
編成 伝送
番組制作
コンテンツ 所有者
編成機能
視聴者
番組制作
伝送機能
図表‑12:放送産業の番組制作機能と伝送機能の比較
番組制作 伝送
固定費用 低水準 高水準 変動費用 場合によって高水準 低水準 利益 局によって、異なり不安定 安定 競争度 高水準 低水準
上表に見られる通り、伝送事業は競争度が低く放送免許を与えられた限定数の放送 局によって寡占状態が続いている。伝送事業を持たない事業者(例えば制作プロダク ションや CS 衛星放送の委託放送事業者)は番組制作で競争をしなければならないため、
番組制作は競争が進むが、伝送は寡占状態を保っている。広告主である企業から広告 代理店、放送局、制作会社と流れる構造の中で大きなパーセンテーヂの中間留保があ り、番組制作に使われる費用は小さい。
もし、番組制作と伝送それぞれについて競争的な市場を形成することが可能であれ ば、日本の番組制作が利益の大半を伝送段階(具体的には番組制作と伝送を兼備して いる放送局)で吸い上げられることによってその能力を衰退させてしまっている現状 の変更になる可能性もある。日本のゲーム産業において、制作側に利益の多くが分配 されるインセンティブが与えられたため、世界で有数の制作能力が発展することにな ったことが証左となる。コンテンツ事業においては、競争的な状況の方が望ましいと いう見方である。
図表‑13:垂直分離後の「放送」モデル
垂直分離後の「放送」モデル
広告主 広告代理店
営業
編成 伝送
番組制作
コンテンツ 所有者
編集機能
視聴者
番組制作
伝送機能
視聴者動向
=マーケットリサーチ
コンテンツマルチユース
・インターネット
・モバイル
・CATV
鬼木[2002]は、「通信放送分野では 21 世紀初頭に至っても、垂直統合下にある旧来 の既存事業者が通信・放送サービスに必要なインフラ、とりわけ公共スペース上に構 築されたインフラの供給を独占しており、そのため公平・公正競争の実現が阻害され ている。この点を是正するためには、独占供給に頼らざるを得ないインフラ層と、(上 部)サービス層の供給を分離することが可能である」ことを主張している。鬼木[2002]
はまた、放送事業者に電波使用権が実質無料という極端な低価格で与えられ、既得権 益を生じており、その結果、外部からの参入が拒まれ、あるいは新規事業者が既存事 業者と同じ土俵・共通ルールで競争することができず、両産業の成長と融合を阻害し ている」と指摘する。
競争の利益としては、市場競争圧力による企業の効率化、独占力の抑制と有効競争 の促進などがあり、垂直分離により生じる不利益(費用)と比較考量する必要がある。
放送のような垂直関係にある事業の場合、垂直分離は規模の経済の喪失より範囲の経 済の喪失の方がより大きな問題となる。したがって、放送事業が現在どの程度、範囲 の経済が享受しているかが問題であり、その大きさについて費用関数を用いる実証分 析により測定することが可能である。本章では、放送事業の 2 つの事業に関する範囲 の経済性の存在について検証する。
3 垂直統合の経済性
放送業界の番組制作と伝送は、発電部門と送配電部門からなる電気事業と同様、垂直統 合型企業の上流部門と下流部門の関係にあり、水平的な関係を説明する範囲の経済性とは 若干性格を異にする。放送に関する計量経済学的研究が少ないことの理由として、主とし て水平的な関係を説明する範囲の経済性の理論が垂直統合型の放送産業の分析になじみ難 かったことがある。本論文では、2 つの財生産においてある財の限界費用が他の財の生産 量を増加することによって増加させられることがないことを必要条件とする範囲の経済性 の概念を放送事業の垂直的な費用構造に応用した「垂直統合性(vertical economies)」を 用いる。
なお、放送事業は、番組制作機能、番組編成機能、伝送機能の兼営であることから、理 論的にはそれらとの複数生産物関数として推計すべきである。しかし、3 生産物を同時に 扱うと、トランスログ等の二階近似関数形ではパラメータが多くなりすぎ、精度・安定性 が著しく失われる。前述の通り、本来番組制作と番組編成を別の財として扱い、3 財に対 する費用関数を推定すべきであるが、番組制作部門と番組編成部門の間には強い相関があ る。この場合、多重共線性の問題が発生するので、本論文では、番組制作機能と番組編成 機能を合わせて「番組制作」として扱った 2 財モデルを採用した4。
Hayashi, Goo, and Chamberlain[1997]は、複数財トランスログ費用関数を用いて、2つ
の部門に対する費用関数の分離可能性(separability)を検証し、垂直統合が存在するか否 かの確認を行なった。本論文では、このHayashi, Goo, and Chamberlain[1997]の基本的 概念を応用して、垂直統合に関する経済指標として、分離可能性(separability)を基 にしたVE(vertical economies)を用いる。VEは、追加的な1単位を生産することによ って生じる費用の変化に関して、番組制作(川上)と伝送(川下)が統合された放送 局の場合と番組制作部門固有の場合の比率を1から引いた数値である。分離可能であ る場合、統合された放送局の総費用の変化は番組制作部門の費用の変化を上回り、指 標VEはマイナスとなる。この場合、垂直統合による総費用の減少効果はないと考える。
一方、分離不可能である場合、VEはプラスとなり、垂直統合によって総費用は減少す る。分析のため、統合された放送局の費用関数と川上部門に関する固有の費用関数を 推定する。
放送総費用を
C
、放送アウトプットをY
、資本インプット価格をW
k、労働インプット 価格をW
l、番組制作インプット価格をW
pとし、「放送」の費用関数を、下記の通り定義 する。2 0
) 2 (ln
ln 1
ln 2 ln
ln 1 ln
Y Y
W W W
C
yy y
i j
j i ij i
i i
β α
β α
α
+ +
+ +
= ∑ ∑∑
(i、j=L,K、P、O)
(43)番組制作総費用を
C
、番組制作アウトプットをX
、資本インプット価格をW
k、労 働インプット価格をW
lとし、「番組制作」の費用関数は、下記の通り定義する5。2 0
) 2 (ln
ln 1
ln 2 ln
ln 1 '
ln
X X
W W W
C
xx x
i j
j i ij i
i i
β α
β α
α
+ +
+ +
= ∑ ∑∑
(i、j=L,K、O)
(44)α
0、α
i、β
ij、α
y、β
yy、α
x、β
xxはパラメータである。本論文では、生産要素価格として、労働、資本、番組制作などの単位当たり費用を 用いたが、放送事業には、回線使用料、番組宣伝費、ネットワ−ク保証費等の無視で きない費用が存在する。しかし、これらの費用に関するデータを取得することには制 約があるため、労働、資本、番組制作に関わる費用以外の費用を物件費として集計し、
単位あたり物件費の価格を1と想定し、説明変数を標本平均で基準化した(それぞれ の説明変数のサンプルの平均値からの乖離を用いた)。
推定は直接することも可能ではあるが、推定すべきパラメータが多く、この費用関 数のみでは多重共線性により安定したパラメータが得られないので、シェパードの補
題により、要素価格のコストシェア方程式を次のように導き、費用関数と連立させて 推計し、推計の効率を高めることにした。
S
l, S
k, S
p, S
oは、総費用に占める労働費、資 本費、番組制作費、物件費のシェアである。
∂ ∂ = ∂ ∂ = = + ∑
j ij i
i i i i i
C W Y W C W W
C W
C ln
ln
ln α β
(45)また、コストシェアをすべて生産要素について合計すると1であるため、
1
1
∑ =
= n
i
S
i (但しC Y
S
i≡ W
i i ) (46)投入要素が 4 財(労働、資本、番組制作、物件)のコストシェア方程式は、
O O OO P OP L OL K KO O O
P O PO P PP L PL K PK P P
L O LO P LP L LL K LK L L
K O KO P KP L KL K KK K K
u W W
W W
S
u W W
W W
S
u W W
W W
S
u W W
W W
S
+ +
+ +
+
=
+ +
+ +
+
=
+ +
+ +
+
=
+ +
+ +
+
=
ln ln
ln ln
ln ln
ln ln
ln ln
ln ln
ln ln
ln ln
β β
β β
α
β β
β β
α
β β
β β
α
β β
β β
α
(47)
y が所与の下、要素価格に関する一次同次性(生産量を固定すればすべての価格比例 的な上昇に対し費用は比例的な増加関数)が成り立つとすると、
∑ = 1 , ∑ = ∑ = 0
j ji i
ij i
i
β β
α
(48)が成立する必要あり、計測の際には仮定をおいて推測した。展開すると、
0 0 0
0 1
= + + +
= + + +
= + + +
= + + +
= + + +
OO PO LO KO
OP PP LP KP
OL PL LL KL
KO PK LK KK
O P L K
β β β β
β β β β
β β β β
β β β β
α α α α
(49)
であり、一次同次性条件と
W
0= 1
を用いて関数式を書き換えた。アレン・宇沢(Allen‑Uzawa)の偏代替弾力性は、下式となる。
j i
j i ij
ij
S S
S + S
= β
σ
自己偏弾力性は、下式となる。i S S
S
i i ii
ii 2
) 1
( −
= β +
σ
i ≠ j
(50)垂直統合の効果を測定する経済性指標(vertical economies:
VE
) は、以下の定義式に より計測される。
∂
∂
∂
− ∂
= C X
Y VE C
ln ' ln
ln
1 ln
(51)垂直統合性の測定は主として分離可能性に依存するため、
∂ ln C ∂ ln Y
は統合されてい る放送局の費用関数から、∂ ln C ' ∂ ln X
は分離可能性を仮定する番組制作部門の費用関数 から算出される。放送局の費用関数が番組制作の費用関数から分離可能である場合、放送 局の総費用の変化(∂ ln C ∂ ln Y
)は、番組制作部門の限界費用(∂ ln C ' ∂ ln X
)(追加的な 生産量に対する追加的な生産費用)より大きくなる。もし垂直統合によって放送の総費用 が減少しない場合、VE
はマイナス、垂直統合によって放送の総費用が減少する場合、VE
はプラスとなる。
∂ ln C ∂ ln Y
を放送局の規模の経済性(追加的な1単位を生産することによって生じ る放送局の総費用の変化)、∂ ln C ' ∂ ln X
を番組制作部門の規模の経済性(追加的な1 単位を生産することによって生じる番組制作部門の費用の変化)と定義する。
4 実証分析(モデル1)
4.1 事業アウトプット
放送事業に関し、上流部門(番組制作部門)の生産
X
を地方局の自主制作番組アウトプ ット、下流部門(伝送部門)の生産Y
を地方局の送信所により産出されるアウトプットと する。自局放送する自主制作アウトプットをY
p、系列キー局から調達するアウトプットをY
k、地方局内に蓄積するアウトプットをY
s、他局(系列キー局)へ融通するために制作し たアウトプットをY
tとすると、図表‑14:放送コンテンツの流れ
番組制作(X)
系列キー局
放送コンテンツの流れ
編成
送信所(Y)
アーカイブ
Y
pY
sY
tY
kY
Y
p+Y
k上図の流れから、
k
p
Y
Y
Y = +
、X = Y
p+ Y
s+ Y
t (52)となる。なお、放送事業の場合、電力事業における送電ロス6のような財の特性変数を考 慮する必要はない。地方局が自主制作する番組はニュースや天気予報のような即時性を求 められるコンテンツであり、アーカイブ等に蓄積して放送する番組はないと考えれば、
Y
s はゼロとなる。また、地方局で自主制作する番組は基本的に全国ネットワークにおいて自 局サービスにも放送するためのものであり、他局のみへ融通する目的の番組はない7と考え れば、Y
tはゼロとなる。Y
tとY
sがゼロの場合、Y
pX =
、Y = X + Y
k= Y
p+ Y
k (53)となるので、
Y
pとY
p+ Y
kを示すアウトプットを選定すれば良いことになる8。放送事業において事業収入をアウトプットとした場合、地方局自主制作による番組制作 収入は地方局の伝送事業を通じて初めて得られる収入であり、伝送の売上も一部含まれて しまう点で課題がある。また、放送コンテンツは、他事業のアウトプットとして選択され ているものと異なり、価値が均質ではない差別財であるという特徴をもつ。放送時間をア ウトプットとして設定した場合、価値の異なるコンテンツを単位時間で同質として扱って しまう点が課題であり、魅力のないコンテンツでも長時間放送すればアウトプットが大き いことになってしまう。視聴者に対する放送時間が同じ 1 時間のコンテンツの供給であっ ても、放送局の規模および性格によって、その価値およびコストが異なる。また、サービ スエリア内台数をアウトプットとして設定した場合、年によってコストは変化しているの にアウトプットがまったく変化しない課題が残る。日本のようにほぼ 100%のサービスカ バー率を達成している場合、サービスエリア内台数は放送局の投資(例えば新たに送信局 や中継局を新設する)によって増加することはない。
本論文では、放送局ごとに異なるコマーシャルの基本標準料金が放送局の実力を示しコ ンテンツの価値を表わす一つの基準となると考え、放送時間*サービスエリア内台数に対 して放送局ごとの基本基準料金によりウェイト付けして加工した。放送には「視聴率」と いう指標があるが、視聴率調査は東阪地区に限られデータ取得に制約があるため、基本基 準料金という指標が適当と考えた9。基本電波料金とは、A タイム(18 時〜23 時)の各放 送局に対する 15 秒スポット CM 料金であり、公共料金等と異なり市場価値により決定され るため、各放送局の実力を反映した指標と言える。
4.2 事業インプット
次の生産要素投入価格をインプットとして捉えた。
①労働インプット価格=人件費/期末従業員数
②資本インプット価格=資本費/期首有形固定資産残高
③番組制作インプット価格=番組制作費/(自主制作番組放送時間*基本基準料金)
4.3 使用データ
大蔵省に有価証券報告書を提出している放送局のうち、東京キー局、独立 UHF 局を 除く地方系列局 35 局に関する平成 10 年度、11 年度および 12 年度の 3 年間分のプール データを用いた。キー局と独立 U 局を除いたのは、これらの局では自主制作比率が他 の放送局に比して高く、使用している技術がすべて同じという経済分析の前提を満た さないためである。地方局はキー局を頂点としたネットワーク傘下に位置する形態で あるという意味で比較的生産要素価格が類似しており、モデルとの整合性を維持する 上では都合が良いからである。
【使用データ出所とデータ加工方法】
データ出所
【基本標準料金】『電通広告年鑑 01 /02』,電通,pp.436‑439
【その他データ】放送局有価証券報告書(平成 10 年,平成 11 年, 平成 12 年度)
『週刊 TV 研究』, 放送ジャーナル社,平成 12 年 11 月 20 日号,13 年 9 月 10 日号,13 年 11 月 5 日号
データ加工方法
【放送総費用】営業費用 x(TV関連売上/総売上)
【番組制作費用】タレント・解説者などの出演料、放送権利金(ス ポーツ、劇場中継などのギャランティ)、脚本料、構成料、原作料、
作詞・作曲・編曲料、著作権料、隣接権料、演奏料、美術費とし ての大道具・小道具の製作/借用料、衣装料、化粧料、床山料、フ リップおよびテロップ料、スチール料、打合せ費、印刷費、出張 費、技術費として VTR 費/テープ代、局内スタジオ内での機材・設 備の使用料、人員の技能費、局内スタジオ、カメラ・照明などの 機材や中継車などの使用料、技能費としての演出費、アナウンス 費、技術費等の総計
【基本標準料金】A タイム(18 時〜23 時)スポット 15 秒 CM 料金
【自主制作放送時間】総放送時間 X 自主制作比率
【人件費】給料・手当、退職金、退職給与・賞与引当繰入の総計
【資本費】賃借料、借地借用料、施設管理費、維持運転費、保守 修繕費、減価償却費、機器貸借料、リース料の総計
4.4 推定結果
【「放送」費用関数】補正 R2 =0.8459
変数 推定値 標準誤差 t 値 p 値
α
0 8.98004 0.04130 217.403 [0.000]α
y 0.61681 0.02738 22.5293 [0.000]α
l 0.22088 0.01799 12.2769 [0.000]α
k 0.07596 0.01133 6.70467 [0.000]α
p 0.28233 0.01226 23.0332 [0.000]α
o 0.42083 0.02155 19.5311 [0.000]β
yy 0.28907 0.02998 9.64186 [0.000]β
ll 0.02772 0.02116 1.31030 [0.190]β
lk ‑0.01281 0.00918 ‑1.39457 [0.163]β
lp ‑0.03182 0.01235 ‑2.57777 [0.010]β
lo 0.01691 0.02295 0.73680 [0.461]β
kk ‑1.96E‑02 0.01215 ‑1.61263 [0.107]β
kp 0.02069 9.30E‑03 2.22533 [0.026]β
ko 0.01171 0.01648 0.71096 [0.477]β
pp 0.15364 0.01511 10.1646 [0.000]β
po ‑0.14251 0.01744 ‑8.17053 [0.000]β
oo 0.11389 0.03544 3.21306 [0.001]
【「番組制作」費用関数】補正 R2 = 0.8520
変数 推定値 標準誤差 t 値 p 値
α
0 8.26300 0.05921 139.5520 [0.000]α
x 0.50140 0.03406 14.72330 [0.000]α
l 0.37234 0.00599 62.17890 [0.000]α
k 0.20907 0.00783 26.69860 [0.000]α
o 0.41859 0.00916 45.67840 [0.000]β
xx 0.02415 0.02476 0.97568 [0.329]β
ll 0.05742 0.01903 3.01785 [0.003]β
lk 0.00935 0.00818 1.14319 [0.253]β
lo ‑0.06677 0.02096 ‑3.18631 [0.001]β
kk 0.03728 0.01096 3.40119 [0.001]β
ko ‑0.04663 0.01258 ‑3.70571 [0.000]β
oo 0.11340 0.02690 4.21507 [0.000]
上記推定結果より、評価の結果は下記の通りになる。
「放送」
アウトプット
「番組制作」
アウトプット
「放送」
規模の経済性
「番組制作」
規模の経済性 垂直統合性
「放送時間」
*「基本基準料金」
*「エリア内台数」
「自主制作放送時間」
*「基本基準料金」
*「エリア内台数」
0.6168 0.5014 ‑0.2302 放送、番組制作の規模の経済性が共に1より小さいという結果は、両機能に固有の規模 の経済性が存在することを示唆する。垂直統合性がマイナスであるという結果は、関数の 近似点(平均値)における局所的な経済性の評価では、垂直統合は放送の総費用に影響 を及ぼさないことを示唆する。一般的にわが国の地方局は、番組制作と伝送の間に垂直統 合性が存在しない(放送の限界費用は、垂直統合によって減少はしない)ことが計算結果 より示唆された。個々のデータで垂直統合性がどの程度存在するかに関する直接的な分 析を行なうと、対称とした 34 局のうち、準キー局(大阪・名古屋地区)や基幹局(札 幌、福岡)でより分離可能の傾向が顕著となる。このような実力ある地方局は自主制 作比率が高く、番組制作機能に規模の経済性が見られるのが特徴であり、放送全体の それを上回る。
5 実証分析(モデル2)
5.1 事業アウトプット
地方局が得ている営業収入は、キー局等から番組の提供を受けると同時に得られる 収入(ネットワークタイム収入)と、ローカル局が自ら営業して得るローカル営業収 入からなる。このうちローカル営業収入は地方局の収入の約70%を占めており、残り 30%はネットワークタイム収入である10。わが国の地方局の売上構造を、縦軸に番組制 作主体、横軸に営業主体を取ると次の4つのケースに区分することが可能である。
図表‑15:地方局の売上構造モデル
①地方局が自社で制作したローカルコンテンツ(例えばニュースや天気予報)を自ら 地元のスポンサーに対して営業活動して広告費を得ているケース(製造業としての機 能)。また実力ある地方局は自主制作番組を他局や海外の放送局に販売して収入を得て いる場合もあるが、このような「番組販売収入」もこのカテゴリ−に含まれる。
②地方局が自社で制作したローカルコンテンツを系列キー局に提供し、キー局から営 業保障してもらうケース。地方局の自主制作番組は赤字のものが多く、キー局は④の ネットワーク配分金を地方局に支払う際に、全国ネット番組を一括して売上げた地方 局分の金額にさらに金額を上乗せして補填している。この金額をネット保証(補償)
金と呼んでいるが、かつてキー局が全国にネットワークを構築する際に地方局が受け
<営業主体>
<営業主体>
<番組制作主体>
<番組制作主体>
④「伝送」機能
(放送設備 リース業)
①「番組制作」機能
(製造業)
③「編成」機能
(地域支社)
②営業保障
(保証金)
自社セールス
自社セールス 他社他社 他社制作他社制作
自社制作自社制作
手市場であった時代に、ライバルの在京局に対してネット受けしていたものの名残で あり、現状では自主制作番組で赤字を出し経営が厳しくなる地方局に対する補填とし て、ネットワーク配分金に加えてキー局が上乗せしたものとなっている。菅谷[1997]
は「新規局の場合には、各局への配分比率決定の過程で実質的なネットワーク内にお ける内部補助が行なわれる」と指摘する。本ネット保証(補償)金を地方局は自主制 作費の不足分に充当し、引き続き自主制作を継続することを可能としている。
③系列キー局が制作したコンテンツを放映する枠を設け、その放送枠に対して地元の スポンサーから広告費を得るケース(キー局の支社・支店とも言うべき存在)。他人が 作った番組をエリア内で売るという地域販社業務は、放送ではキー局の制作する番組 に付随するCMを販売する業務に該当する。自動車ディーラーや家電の系列販売店と同 様の存在である。
④系列キー局が制作したコンテンツが全国ネットで放映される場合、地方局はただ キー局からの番組を伝送する11だけの機能となるケース(いわば、放送設備のリース業 のような存在)。他人が作った番組を放送することの見返りとして収入を得るという放 送設備リース業務は、東京広域圏にしか放送免許も放送機器(送信局とスタジオ)を 持たないキー局に代替して、各地方において放送免許を所有し設備投資を行ない、放 送設備のリース料金をキー局から受け取る(伝送機能から獲得する)行為ということ になる。本ケースにおいて地方局として必要な業務は放送設備の保守点検と定期的な 更新(設備投資)である。地方局の売上構造の最大の特徴は、地方局が所有するCM時 間枠(タイム枠)をキー局へ供出、キー局にまとめ売りしてもらうことで、ネットワ ーク配分金と放送コンテンツを自動的に入手できることにある。ネットワーク配分金12 は、キー局から受け取るものと広告代理店から直接受け取るものに大別でき、広告代 理店からキー局を経由して地方局へ支払われる配分金を局配分、一括配分と呼び、広 告代理店から直接地方局へ支払われる配分金を代理店配分と呼ぶ13。優良コンテンツが 資金を付随してキー局から与えられるため、自主制作をまったくせずにネット番組を 垂れ流す方が黒字になるという体質を生み易い。地方局にとって見れば、自ら販売に かける手間とコストを掛けなくても、キー局が番組と共に広告費を配分してくれる都 合の良いシステムと言える。
地方局が1週間の番組表のうち自局で制作する番組の放送時間の比率(自主制作比率)
は、全国平均で10%前後であるが、この数字は、毎日約2時間分の番組を制作している ことに該当、
①ローカルニュース番組が毎日30分(ローカルニュース番組枠18時30分〜19時)
+ミニ枠ニュース5分*数回
②ローカル天気予報が毎日5分*数回
③番組紹介が毎日5分*3回
④自治体の広報番組が週1回30分
⑤生活情報番組が週1回1時間
程度に留まっているのが現状である。近年になって、平日の17時台に1時間の夕方ロー カルワイド番組も出現しつつあるが、自主制作番組のうち高視聴率を獲得し、採算が 取れているものは少ない。これ以外に毎年1〜2本のキー局への上り単発番組を制作、
地方局が発局となって60分ないしは90分の単発番組をネットワークを通じて全国へ発 信することがあるが、自主制作に振り向けられる予算も人材も制作ノウハウも乏しい 中では、ドキュメンタリーや紀行という内容になりがちである14。
本モデルでは、①、②、③、④によって得られる全ての収入を「放送」収入、①と
②によって得られる収入を「番組制作」収入と捉えた15。具体的には、「スポット収入16」
「制作収入」「番組販売」の合計を番組制作収入、「タイム収入17」(「ネット配分金」
を含む)を加えた総計を放送収入とするモデルを考える18。
5.2 事業インプット
次の生産要素投入価格をインプットとして捉えた。
①労働インプット価格=人件費/期末従業員数
②資本インプット価格=資本費/期首有形固定資産残高
5.3 使用データ
モデル1と同様、東京キー局、独立UHF局を除く地方系列局35局に関する平成11年度 分および平成12年度分のパネルデータを用いた。系列地方局はキー局を頂点としたネ ットワーク傘下に位置する形態であるという意味で比較的生産要素価格が類似してお り、モデルとの整合性を維持する上では都合が良いからである。
【使用データ出所とデータ加工方法】
データ出所
【基本標準料金】『電通広告年鑑 01 /02』,電通,pp.436‑439
【その他データ】放送局有価証券報告書(平成 10 年,平成 11 年, 平成 12 年度)
『週刊 TV 研究』, 放送ジャーナル社,平成 12 年 11 月 20 日号,13 年 9 月 10 日号,13 年 11 月 5 日号
データ加工方法
【放送総費用】営業費用 x(TV 関連売上/総売上)
【番組制作費用】タレント・解説者などの出演料、放送権利金(ス ポーツ、劇場中継などのギャランティ)、脚本料、構成料、原作料、
作詞・作曲・編曲料、著作権料、隣接権料、演奏料、美術費とし ての大道具・小道具の製作/借用料、衣装料、化粧料、床山料、フ リップおよびテロップ料、スチール料、打合せ費、印刷費、出張 費、技術費として VTR 費/テープ代、局内スタジオ内での機材・設 備の使用料、人員の技能費、局内スタジオ、カメラ・照明などの 機材や中継車などの使用料、技能費としての演出費、アナウンス 費、技術費等の総計
【人件費】給料・手当、退職金、退職給与・賞与引当繰入の総計
【資本費】賃借料、借地借用料、施設管理費、維持運転費、保守 修繕費、減価償却費、機器貸借料、リース料の総計
6 推定結果
推定結果は下表の通りである。
【「放送」費用関数】補正 R2 =0.94315
変数 推定値 標準誤差 t 値 p 値
α
0 9.02362 0.029401 306.919 [0.000]α
y 0.80160 0.02283 35.11180 [0.000]α
l 0.21571 0.01839 11.72910 [0.000]α
k 0.08469 0.00755 11.21410 [0.000]α
p 0.29456 0.01247 23.61350 [0.000]α
o 0.40504 0.01992 20.32920 [0.000]β
yy 0.195271 0.05119 3.81465 [0.000]β
ll 0.03198 0.02175 1.47032 [0.141]β
lk ‑0.00688 0.00813 ‑0.84585 [0.398]β
lp ‑0.04677 0.01276 ‑3.66631 [0.000]β
lo 0.02167 0.02328 0.93054 [0.352]β
kk 2.35E‑03 6.21E‑03 0.379077 [0.705]β
kp 0.014364 7.13E‑03 2.01327 [0.044]β
ko ‑9.84E‑03 0.010754 ‑0.915252 [0.360]β
pp 0.177384 0.01508 11.7626 [0.000]β
po ‑0.144976 0.016624 ‑8.72094 [0.000]β
oo 0.133152 0.032761 4.06438 [0.000]【「番組制作」費用関数】補正 R2 = 0.7268
変数 推定値 標準誤差 t 値 p 値
α
0 7.81486 0.06872 113.72 [0.000]α
x 0.74976 0.03985 18.81550 [0.000]α
l 0.66595 0.00927 71.82280 [0.000]α
k 0.08120 0.00968 8.38780 [0.000]α
o 0.25285 0.01083 23.34180 [0.000]β
xx 0.12034 0.06925 1.73788 [0.082]β
ll ‑0.08297 0.02001 ‑4.14660 [0.000]β
lk ‑0.03254 0.00905 ‑3.59559 [0.000]β
lo 0.11551 0.02246 5.14397 [0.000]β
kk 0.00123 0.01379 0.08897 [0.929]β
ko 0.03131 0.01171 2.67324 [0.008]β
oo ‑0.14683 0.02707 ‑5.42336 [0.000]
上記推定結果より、評価の結果は下記の通りになる。
「放送」
アウトプット
「番組制作」
アウトプット
「放送」
規模の経済性
「番組制作」
規模の経済性 垂直統合性
「放送」収入
「番組制作」収入 0.8016 0.7497 ‑0.069
7
パラメータの制約条件トランスログ型費用関数は費用関数であるため、次のパラメータに関する制約条件 を満たさなければならない(中山・浦上[2002]を参考にした)。
1)係数の対称性
2)生産要素価格の総費用に対する一次同次性 3)総費用が産出物の単調非減少関数
4)生産要素価格の単調非減少関数
5)総費用は生産要素価格に対して凹関数
上記項目1)と2)の生産要素価格に関する対称性と一次同次性については、予め 仮定した。推定は、対称性と一次同次性の制約を課したトランスログ型費用関数とシ ェパードの補題により導出されたコストシェア方程式を同時推定した結果、係数の対 称性と生産要素価格の可変費用に対する一次同次性はあらかじめ制約として課して仮 定しているので、すでに満たされていることになる。
項目3)の、推定された可変費用関数が生産物の非減少関数であることは、可変費 用関数の近似点である標本の平均値において、生産量の1次項のパラメータが非負と
なることであるが、この条件は満たされている。
項目4)の、推定された可変費用関数が可変的生産要素価格の非減少関数であるこ とは、可変費用関数の近似点である標本の平均値において、生産要素価格の1次項の パラメータが非負となることであるが、この条件は満たされている。
項目5)の、費用関数が生産要素価格に対して凹関数の条件を満足するためには、生 産要素価格の代替・補完関係である「アレン・宇沢の偏代替弾力性 (Partial Elasticity of Substitution)」
j i
j i ij
ij
S S
S + S
= β
σ
で自己偏弾力性が非正とならなければならないが、全ての生産要素について非正値となっており、条件を満足している。
8 推定結果に対する考察
今回、番組制作事業と伝送事業を垂直統合している放送局の経営について、統合に よる費用節約の効果、統合経営の規模の経済性に関して分析を行なった。この結果を 基にして、次表に 2 モデルについて規模の経済性、垂直統合性の有無をまとめて示す。
「○」と表記されている場合は規模の経済性、垂直統合性が存在、「×」と表記されて いる場合は規模の経済性、垂直統合性が存在しないことを示す。
アウトプット インプット 番組制作 伝送 1 2
規模の経済
性 垂直統合性 1 自主制作番
組放送時間 放送時間 人件費価格 資本費価格 ○ × 2 「番組制作」
収入 「放送」収入 人件費価格 資本費価格 ○ ×
2 財生産のトランスログ型費用関数を実際にモデルを用いて計測することにより、規 模の経済性と垂直統合性とが存在するかどうかを確認、これら計測結果より、下記の 知見が得られた。
①放送局の経営には、規模の経済性が存在する
②番組制作事業と伝送事業の組み合わせについて、費用の補完性は存在しない。
以上のことから、放送と通信の融合時代に備え、放送局のソフト(コンテンツ)と ハード(設備・通信網)を垂直分離しても、両事業の間に垂直統合性が存在しないこ とから大きな支障は生じないだろうことが示唆される。
8.1 規模の経済性
地方局の場合、自主番組制作による売上が大きい局(準キー局や基幹局)では、タレ ント・解説者・ゲストなどの出演料、放送権利金、脚本料等の番組制作費用を投じた バラエティ、スポーツ番組を自主制作して、伴った大きな広告収入を獲得している。
一方、売上規模の小さな局の地方局自主制作番組は、ローカルニュース番組、ミニ枠 ニュース、ローカル天気予報、番組紹介、自治体の広報番組、生活情報番組程度に留 まる。魅力あるコンテンツを制作しうる資本力(規模の経済)が重要であり、番組制作 部門では固有の規模の経済性を有している。
一方、伝送事業については、費用の固定的性格が強く、規模の経済性が大きく推定 された。つまり、伝送事業のような初期投資として莫大な固定資本を必要とする場合、
平均固定費用も大きく、その結果として平均費用逓減が生じる。但し、伝送事業につ いては、カバーエリアの人口分布、地形、面積等の要因による影響が大きいため、デ ータにバイアスを持ち込む恐れがあり、注意を要する。つまり、面積が大きな北海道、
離島が多い長崎、鹿児島では数多くの中継局を必要とするため、伝送売上の規模にか かわらず伝送費用が大きくなる。海外で言えば、狭い国土に人口が密集しているシン ガポールや香港は売上に比して伝送費用が小さくて済むが、面積が大きく密林があり line of sight(見通し)が取り難いインドネシアや多くの島が点在しているフィリピ ンでは伝送費用が膨らむ。また、デジタル化のような巨額投資を一度に行なう場合に は、事業規模が拡大すると、投資資金の調達コストが上昇して規模の不経済性が生じ てくる可能性もある。
図表‑16:売上規模と収入・費用の関係
①「ローカルニュース番組」が毎日30分 (枠18時30分〜19時)
+「ミニ枠ニュース」5分*数回
②「ローカル天気予報」が毎日5分*数回
③「番組紹介」が毎日5分*3回
④「自治体の広報番組」が週1回30分
⑤「生活情報番組」が週1回1時間
売上規模と収入・費用の関係
売上規模
広告料収入、コスト 広告料収入
番組制作費
伝送コスト
一般地方局 基幹局
(札幌、仙台、広島、福岡) 準キー局
(大阪、名古屋)
番組制作 規模の経済性高い 番組制作
規模の経済性低い
タレント・解説者・ゲスト などの出演料、放送権利金
(スポーツ、劇場中継、催 し物などのギャランティ)、
脚本料、構成料、原作料、
作詞・作曲・編曲料、著作 権料等を要す自主制作
各局固有の垂直統合性を算出した場合、大阪・名古屋にある準キー局、札幌・仙台・
広島・福岡にある基幹局19は、マイナス値が大きいため、分離可能性が高い。一方、経 営基盤の弱い地方局では垂直統合性の数値がプラスとなる局が一部(10 局)あり、統 合効果が見られた。藤野[1997]は、郵便局の郵便、郵貯、保険事業について範囲の経 済性を測定した際、「配置人員が少ない(特定郵便局)において、そのメリットが大き い」と導いており、小規模の放送局ほど垂直統合の効果が見られる実証結果と同じ傾 向が見られた。
8.2 垂直統合性
垂直統合されていることにより費用の補完性が生まれ、収益が高くなるはずであるが、
実際には計算結果からは存在していなかったことになる。放送局が高い収益性を有し ているのは、2 つの事業を行なうことで生まれる費用の補完性によるものではなく、2 つの事業の統合(電波という稀少有限の所有する伝送事業の所有)により、他業界(下 請プロダクション)との交渉力(バーゲニングパワー)を強く維持できたため、利益 配分において有利な存在となっていることが考えられる20。
Baumol,Panzar, and Willig[1982]は、範囲の経済性の発生理由として、複数サービ ス間で共有できる生産要素の存在を指摘している。青木・伊丹[1985]は、「範囲の経済」
が発生する理由として「新分野で利用可能な資源が既存分野の事業活動から発生しか つ既存分野では未利用なまま残されていることである。その未利用資源を新分野が使 うことによって対価を支払うべき資源の節約が出来、それが専門企業と比較した時の 費用の低下となってあらわれる。つまり、複数の分野で共通利用可能な未利用資源が 企業の中に発生してくることが範囲の経済の源なのである。この資源がいわば企業内 公共財として機能するのである」としている。たとえば、筒井[1991]は、郵政事業に おける郵便、貯金、保険の 3 事業の兼営のメリットとして「郵便局員 1 名ないし 2 名 で 3 業務を行なっている場合に、もし店舗の分布密度を同一に保った上で各業務に別 の局員を配置しなければならないとすると、3 名の従業員が必要となり、各従業員は若 干の時間を経営の民間から見ると、無駄に過ごさざるをえなくなる」としている。
また、中島[1989]は、「複数の生産活動を行なう企業においてエコノミーズオブスコ ープが発生するメカニズムとして、各種生産活動間でなされる情報の交換がある。そ のとき、業務 A を行なうことから得られる情報が業務 B にとって有益であり、またそ の逆も成り立つ時には業務 A と B を同時に行なう企業においてエコノミーズオブスコ ープが発生する」とした。
金融機関において範囲の経済性が生じる原因として、顧客に関する情報が複数業務 で共通の非排除生産要素として使用できる点を挙げることが多い。丸山[1993]は、金融
機関における銀行・証券・保険業務について、ある業務で得られた顧客情報を他の業務で 活用する利点がどの程度あるのかを、情報生産の観点から検証している。顧客情報を業務 量の増加関数としてモデル化し、費用関数としてトランスログ型を採用して計測している。
一般に金融機関の本質的業務は情報の生産であり、例えば銀行は、日常的な取引において 消費者(個人顧客)に関する様々な情報を収集・生産している。結論的には、費用の補完 性の計量的分析の結果から、ある業務で得られた顧客情報は別の業務の費用を節約する一 定の効果があることを導いている。
放送事業の場合、送信所(伝送事業の場)は通常山の上(例えば、大阪なら生駒山、
札幌なら手稲山)にあり、スタジオ(番組制作の場)は県庁所在地のような街の中心 地に位置する21ため、生産要素(人、設備)の共通性は存在しない。機器の運用や保守 に関する専門知識も番組制作(映像技術)と伝送(無線技術)では大きく異なる。ま た番組制作に必要な情報やノウハウと伝送に必要な情報やノウハウとは異なる。番組 制作に必要な情報やノウハウとは、時間帯、曜日、季節、地域ごとに変化する視聴ニ ーズ情報を捕え、対応してタイムテーブル上に効果的な番組を並べていくことである。
番組制作で必要とされる情報・ノウハウは、編成力である。時間枠が連続する番組に は視聴ターゲットを変えずに視聴者を引き付けるノウハウや番組構成や CM 挿入タイミ ング等も含まれ、競合放送局による裏番組に関する情報も重要となる。また、エリア 内の視聴者が時間帯ごとに何を求めているのか、視聴者のライフスタイル、消費動向 などの情報も求められる。一方、伝送に必要な情報やノウハウとは、間断なく視聴者 に放送サービスを継続して提供することであり、一つのコンテンツでできるだけ多く の視聴者をカバーすることにより採算点を引き下げるべく、膨大な機材、施設を用い てネットワークを構築、番組を安定的に送信(供給)することにある22。OECD[2002]
は、このような二つの部門を運営するのに必要な経営スキルがまったく異なっている 場合を「経営の焦点(management focus)の喪失」と呼び、英国ブリティッシュ・ガス が分離された後、分離された事業の合計価値額が統合されていた時の価値額の 2 倍以 上にも増大したことを挙げている。二つの業務に共通性が有ると考えられるスタッフ 部門(経理、人事他)のコストも全社員 50 人足らずの 地方局においては業務をアウ トソーシングするなどしてスリム化を図っている局が多く、僅少に留まる。範囲の経 済 性 が 存 在 す る 要 因 は 、 そ の サ ー ビ ス を 供 給 す る に 関 わ ら ず 必 要 と な る 共 通 費 用
(overhead cost)が存在することにあるが、放送事業では、特に地方局経営において はこの部分が極めてゼロ近くになっている。
生産の 2 つの連続する部門を垂直統合することによる費用節約は、市場間のこれら の部門をつなぐ費用と企業内の移転を通じて、これらの部門をつなぐ費用との差と同 じである。このように、もし内部移転が市場交換よりも費用的に小さいならば垂直統 合の経済性は存在する。川上部門が中間生産物(番組コンテンツ)に価格付けをする
独占力を行使するならば、川下部門における費用は非効率な投入物の組み合わせによ って上昇する。中間生産物市場の多様な特徴に依存して、市場メカニズムを使用する 取引費用が大きくなるためである。デジタル化による大規模な固定投資は、少数のバ ーゲニングとともにご都合主義的な傾向を悪化させる準レントを発生させる結果とな る。本質的な市場の不確実性(放送前にその番組が視聴者に受け入れられるかは分からな い)、少数のバーゲニング(スポーツのような人気コンテンツに対する放映権は大きなバー ゲニングパワーを持つ)、市場支配力、大きな準レント(企業収入−サンクコストを除いた 生産費用)23(免許産業として参入企業は限られるため、大きな準レントを生みやすい)、
外部性のために、中間生産物市場は特徴づけられる。
放送事業における、番組制作部門と伝送部門との中間生産物市場は、供給と需要の両面 における多大な不確実性によって特徴づけられるが、デジタル化によって、新たに中間生 産物市場が創出される可能性がある。舟田[1997]は、これを「中間領域的サービス」と定 義しているが、本論文では番組(コンテンツ)に関わる流通市場だけに限定して定義する。
わが国では、米国におけるような番組流通市場であるシンジケーションは未だ実現してい ない。中間生産物市場は今後、わが国においても成立する可能性はあるが、番組編成機能 が川上部門側にある限り、本質的な取引費用が中間生産物市場を通じた取引により生じる ことはなく、川下の費用が非効率な投入物の組み合わせによって増える可能性は低いと考 える。放送事業における番組制作部門と伝送部門の間の垂直分離は、本質的な費用増加を 招くことはない。一方で、中間生産物市場の番組制作部門および伝送部門の両方の企業は、
ご都合主義的行動を恐れ、必要とされた投資を行なうことを嫌がる恐れがある。垂直分離 により伝送側の投資インセンティブの減退に対する懸念である。(これについては、後章で 述べる「ネットワークシェアリング」によって解消しうる)
9 本章のまとめ
本章では、地上波のデジタル化という歴史的転換点を迎える放送業界について、番 組制作と伝送を垂直統合していることによる費用節約効果の分析の枠組みを示すこと を狙いとした。放送産業の費用構造は部門固有の規模の経済性は認められたものの、垂直 の費用補完性の存在は見られなかった。効率的産業構造についてこれらの費用特性の混合 した効果は存在しない。垂直の経済性が存在しないことは、もし産業が垂直分割された場 合、費用が上昇しないことを示す。本論文では複数財生産の費用概念を拡張し、垂直の経 済性を一般的に測定した。放送産業における複数部門の費用関数を推定することと、そし てこの産業において垂直統合の経済性の測定を行なった。結論としては、放送産業の番組 制作部門と伝送部門間に有意な垂直の経済性の存在の経験的証拠を提供する。番組制作と 伝送の 2 財生産モデルのトランスログ型費用関数を実際に計測することにより、実際