オルチア川流域の都市と集落の研究
著者 福嶋 勝浩
出版者 法政大学大学院デザイン工学研究科
雑誌名 法政大学大学院紀要. デザイン工学研究科編
巻 7
ページ 1‑8
発行年 2018‑03‑24
URL http://doi.org/10.15002/00014710
法政大学大学院デザイン工学研究科紀要Vol.7(2018年3月) 法政大学
オルチア川流域の都市と集落の研究
RESEARCH ON VAL D'ORCIA HISTORICAL CITY AND VILLAGE, OF ARCHITECTURE BUILDING TYPE
福 嶋 勝 浩
Masahiro FUKUSHIMA
主査 陣内秀信 副査 渡邊眞理 高村雅彦
法政大学大学院デザイン工学研究科建築学専攻修士課程
Research of the Val d'Orcia and give a general theory on cities and village in the Val d'Orcia. And we will clarify the architectural typology and construction principles of San Quirico d'Orcia , Rocca d'Orcia, Castiglione d'Orcia.And we will clarify the building type and construction principle of the city in MONTALCINO, RADICOFANI, PIENZA, Ultimately we compare the urban and rural architectural typologies of the six survey areas. Conclusion summarizes the results obtained in each chapter and summarizes the findings obtained in this research.
Key Words : Italy, Val d'Oricia, historical city, medieval city, urban development,Centro Storico
1.はじめに
本研究は、イタリア中部のトスカーナ州、シエナ県に あるサン・クイリコ・ドルチア、カスティリオーネ・ド ルチア、ロッカ・ドルチア、モンタルチーノ、ラディコー ファニ、ピエンツァを対象として、都市的、農村的な建 物の構成原理を明らかにする。
2.研究の方法
本研究は既往研究である「オルチア川流域 まちと田 園の形成に関するフィールド研究」[1]で行われた実測 調査、サン・クイリコ・ドルチア、カスティリオーネ・
ドルチア、ロッカ・ドルチアでの都市的、農村的な建築 類型のタイプ分けを基準に、新たにモンタルチーノ、ラ ディコーファニ、ピエンツァの 3 つの地域を現地調査し 都市的、農村的な建物の建築類型を明らかにし、6 つの 調査地の都市的、農村的の比較と分析を行う。
3.調査地の構造類型と地形の比較
調査地の町域(チェントロ・ストリコ 歴史地区)の 構造の類型と Via Francigena[2](以下、フランチジェ ナ街道と記す)と発展状況の比較を図 3-1 に示し、地形 断面との関連性についても図 3-2 に示し各調査地の構造 類型と地形を明らかにする。
(1) サン・クイリコ・ドルチア
サン・クイリコ・ドルチアは調査地の中でもラディコー ファニと共にフランチジェナ街道の本道と接続する地域 のひとつである。まちの北西に位置するカマルドリ門(別 名シエナ門)から、カトリック教会の Collegiata dei Santi Quirico e Giulitta、 市 庁 舎 で も あ る Palazzo Chigi-zondadari、中心部であるリベルタ広場、サン・
フランチェスコ教会が建ち並ぶ通りを抜け、南端の フェッレーア門(別名ローマ門)に至る通りがまさに まちの主要道路でもあるダンテ・アリギエーリ通り Via Dante Alighier で、この通りがフランチジェナ街道そ のものである。別名旧フランチジェナ街道とも呼ばれて おり、都市の主要な建造物である市庁舎、教会、中心的 な広場がこの通りに揃っていることから、サン・クイリ コ・ドルチアの発展に大きくフランチジェナ街道が影響 していることが読み取れる。
(2) カスティリオーネ・ドルチア
まちの南西の丘の上にそびえ立つアルドブランデスキ 要塞。囲むように斜面に建物が建ち並ぶカスティリオー ネ・ドルチア。州道 323 号線沿いにまちが広がり、フラ ンチジェナ街道からの距離は現在の州道 55 号・グロッ ソラ線の位置にあるとされ、距離は約 2.5Km の位置にあ る。まちの北東に位置する市門の前にはサンタ・マリア・
マッダレナ教会が位置する。また街道に通じる道を見下 ろすように市壁越しにサンティ・ステファノ・エ・デニャ 教会が建ち、住人にとって生活の中心的な2つの広場の ヴェッキエッタ広場、イタリア統一広場が街道へと通じ る位置に施設が集まっている。
(3) ロッカ・ドルチア
山の崖の上に建つテンテンナノ要塞がそびえるロッ カ・ドルチア。常に敵の侵入を防ぐ為の見張り台とし ての役割が伺える。近隣のカスティリオーネ・ドルチ アとの距離はわずか約 130m。アレアルド・モナチ広場 Piazzale Aleardo Monaci 通りとロッカ通りを通じてま ちは結ばれ、フランチジェナ街道[2]も同様の距離に位 置する。まちは山腹に寄り集まるように建ち並び、殆ど の施設は要塞を隔ての進入道路とは反対側の斜面に建て
られ、人工的な要塞と自然地形を上手く利用して外部か らの侵入者の防御を目的としたまちづくりが読み取れ る。
(4) モンタルチーノ
モンタルチーノは標高 600m の丘状地帯の尾根筋の街 道を中心に山腹沿いにまちを形成していることから「丘 腹型」と定義できる。また、道路の発展パターンは加藤 晃規氏の研究から[4]、道路が直線的に展開する「直線 軸型」、地形に合わせてなめらかな曲線を描く「曲線軸 型」、放射状に発展する「ヒトデ型」、円状に整備された
「環状型」、軸線があいまいな「ランダム型」に分類される。
モンタルチーノの道路パターンはフランチジェナ街道 が尾根筋に通るルート、ロッカ・モンタルチーノ要塞か らまちの中心地を通る主要道路であるチャルディーニ通 り、更に北のムレリ市門と最も南に位置するセルビア市 門を通るもう一つの主要道路であるポポロ広場を通る ジョゼッペ・マッジーニ通り、ソッコルン・サロニ通り と東西方向に走るドンノリ通りの状況から道路が放射状 に発展する「ヒトデ型」に属するものと定義できる。さ らに、丘の中腹にまちが形成され、道路パターンが直線 軸型もしくは曲線軸型に分類されたまちでは、主要道路 沿いにまちが発展する「リネア型」とさらにもうひとつ の軸に沿って発展する「リネア型+α」に分類される。
モンタルチーノは主要道路沿いに街区が形成されてお り「リネア型」に属する。かつ2つの主要道路があり、
それぞれ街区が発展しているため前述の定義を当てはめ
れば「リネア型+α」に分類できる。
このようにモンタルチーノはオルチア川流域に点在す る丘状都市の中でまちの構造類型は「丘腹型」で道路の 発展状況は「ヒトデ型」に発展し、さらに丘腹に発展し たまちの形成段階から「リネア+α型」に分類される。
(5) ラディコーファニ
ラディコーファニの町域が広がる標高は約 780m、ロッ カ・砦が建つ場所の標高は約 900m、一番下位の所は駅逓・
ポスタの建つ場所で標高約 720m と標高差が約 180m もの 落差のある地形に広がるまちである。街区の広がる場所 はローマ通り、レナード・マジ通りの主要道路を中心に 山腹沿いにまちを形成していることから「丘腹型」と定 義できる。道路パターンは市門から庁舎、ロッカ・砦に 向かう主要道路のローマ通り、レナード・マジ通り沿い に街区が展開することから、「直線軸型」に属するもの と定義できる。また、駅逓・ポスタを通る州道 478 号
(フランチジェナ街道)[5]がラディコーファニと直接繋 がるのはカスティリオーネ・ドルチアとの共通点もある
(図 3-1)。さらに、丘の中腹にまちが形成されているこ とから、道路パターンが直線軸型もしくは曲線軸型に分 類されたまちでは、主要道路沿いにまちが発展する「リ ネア型」に分類され、ラディコーファニは主要道路沿い に街区が形成されており「リネア型」に属する。
このようにラディコーファニのまちの構造は「丘腹型」
に定義でき道路パターンは「直線軸型」及び主要道路沿 いに街区が発展する「リネア型」に分類される。
図 3-1 調査地の構造類型と Via Francigena フランチジェナ街道との位置関係[3]
024610m
教区教会 Collegiata dei Santi Quirico e Giuditta
パラッツオ・キージ Palazzo chigi
サン・フランチェスコ教会 Chiesa di S. Francesco
0 50m
0 20m
0 20m
アルドブランデスキ要塞 Rocca Aldobrandeschi
オリーブ畑 ブーカ通り Via della Buca
コスタ通り Via della Costa
サン・セバスティアーノ教会
レストラン
「ラ・チステルナ・ネル・ボルゴ」
ファットリア(アッグラヴィ・スコット ボ ル ゴ・ マ エ ス ト ロ Borgo Mestro
サン・セバスティアーノ通り
0 50m
チャルディーニ通り
コスタ・スパニ スパニ通り
ボルドーニ通り
Coop Parazzo Pecci
Parazzo Vescovile
A A’
Fortezza di Radicofani
Chiesa di Santa Agata
Porta di Fondo
Piazza Vitorio Tassi
Piazza Ghino di Tacco
Via Roma Via Renato Magi
A 0 50m A’
A A’
Concattedarale S.MARIA Palazzo Piccolomini Palazzo Vescovile
Palazzo Simonelli
S.Francesco Porta Al Prato O Al
Al Murello Porta Al Ciglio
Piazza Pio VII アモーレ通り
ヴィア通り
0 50m
テンテンナノ要塞 サン・クイリコ・ドルチア San Quirico d'Orcia
カスティリオーネ・ドルチア Castiglione d'Orcia
ロッカ・ドルチア Rocca d'Orcia
モンタルチーノ Montalcino
ラディコーファニ Radicofani
ピエンツァ Pienza
ヴィットリオ・エマヌエーレ通り Via Vittorio Emanuele
図 3-2 調査地の地形断面と建物立面
[6]
[7]
[8]
(6) ピエンツァ
ピエンツァの町域の広がる標高は約 490m、ほぼ丘の 頂上付近に街区が広がり、コルソ・イル・ロッセーリー ノという主要道路を中心としたまちなみが形成されてい ることから「丘上型」と定義できる(図 3-1)。
ピエンツァの道路パターンは市門から主要道路のコル ソ・イル・ロッセーリーノ通りが、一直線にまちを貫い ていることから「直線軸型」に属するものと定義できる。
さらに、丘の上にまちが形成され、道路パターンが直線 軸型もしくは曲線軸型に分類されたまちでは、主要道路 沿いにまちが発展する「リネア型」に分類される。
ピエンツァは主要道路沿いに街区が形成されているの で「リネア型」に属する。
このようにピエンツァはオルチア川流域に点在する丘 状都市の中でまちの構造類型は「丘上型」で道路の発展 状況は「直線軸型」に発展し、さらに主要道路沿いに街 区が形成されていることから「リネア型」に分類される。
4.住宅の比較
各調査地の住宅のタイプ分け分類を行う。比較・分析 を行うために主な住居と貴族の邸宅、有力者の住居の建 物立面を図 4-3 に示す。次に各調査地の状況を分析する。
(1) サン・クイリコ・ドルチア
都市的なまちの住宅タイプは、街道沿いに発展した典 型的なリネア型のまちであるサン・クイリコ・ドルチア で多く見られる。まちの中心を通る街道沿いにはパラッ ツォ、有力家族の家など比較的大規模な建築や、間口が 狭いスキエラ型住宅が並ぶ。有力家族の家のように建物 の所有が1家族の場合、室内階段を取ることが多く、1 階は玄関や倉庫として利用され、2階は住空間に利用さ れていた(室内階段型)。また、1階が店舗や工房など に利用されている住宅では、道路から上階に直接アクセ スする階段室をもち、上階に住む家族が別の玄関をもっ ていた(階段室型)。これらは、1階を非居住空間、2 階より上を住空間とするタイプである[9](図 4-3)。 (2) カスティリオーネ・ドルチア、ロッカ・ドルチア 農村的なまちの住宅タイプについて「オルチア川流域 まちと田園の形成に関するフィールド研究」[10]より、
建物の内部を実測しながら農村的なまちの住宅について 調査を行っており、その事例を用いてカスティリオーネ・
ドルチア、ロッカ・ドルチアの住居タイプについて取り まとめた。各調査地及び各住居の平面構成は住まいの中 心が1階の道路レベルと繋がっているという特徴があ る。地形に合わせて外階段を配する「外階段型」の住居 も多く確認でき、都市的な要素である壁面を揃える必要 がなく庭を有する大規模な住宅、農村的な住宅タイプが 多く点在することを確認することができた。カスティリ オーネ・ドルチアはスキエラ型住宅も確認できた他、ロッ カ・ドルチアは多くの農村的な住居を確認することがで きた(図 4-3)。
(3) モンタルチーノ
モンタルチーノの住居の分類については現地調査を 行った結果、基本的には都市の中に高密に集合する必要 性のあるスキエラ型[11]の住宅が建っていることが明ら かとなった。また、そのスキエラ型の住宅タイプについ ても住居の裏手が中庭タイプのスキエラ型の住宅と山の 傾斜地に町域が広がっているため、正面側の入口は道路 と接続し住居の裏側は崖、或は急斜地となっている住居 タイプがあることが明らかとなった(図 4-2)。
その他には農村的な集落に見られる外階段式の住居も いくつか確認することができ農村的な住居タイプも存在 することが明らかとなった(図 4-1)。
このようにモンタルチーノの住居タイプはその殆どが
0 100m
裏庭構造の住宅エリア 建物立面エリア
C
C’
図 4-1 スキエラ型住宅の階段の 3 つのカテゴリー[12]
半外階段 外階段
内階段
1F 2F 3F
1F 2F 3F
1F 2F 3F
裏庭のあるスキエラ型の住宅エリア
図 4-2 スキエラ型住宅の裏庭タイプの住居エリア モンタルチーノ
サン・クイリコ・ドルチア San Quirico d’ Orcia
カスティリオーネ・ドルチア Castrione d’ Orcia
ロッカ・ドルチア Castrione d’ Orcia
モンタルチーノ Montalcino
ラディコーファニ Radicofani
ピエンツァ Pienza
0 10m
0 10m
0 10m
0 10m
0 10m
0 10m
0 10m
0 10m
スキエラ型住宅で裏庭のあるタイプ
スキエラ型住宅で裏庭のあるタイプ 裏庭
裏庭 コスタ・スパニ
コスタ・スパニ
Palazzo Ruchini Convento di S.Agostino Chiesa di S.Agostino
Palazzo Vescovile Concattedarale S.Maria
0 50m
Via Roma 通り沿いの正面1階に出入口、
建物の裏2階に出入口+外階段のあるスキエラ型の住宅タイプ
Via Roma ローマ通り Piazza Ghino di Tacco パラッツォ・キージ
B&B カーザ・レンミ 教区教会
スキエラ型住宅で 1 階が店舗の住宅商業ゾーンと住居エリアの混在
住居エリアのスキエラ型住宅 商業ゾーンのスキエラ型住宅
アッグラヴィ・スコット家
ボルゴ・マエストロ 貸し部屋
0 10m
ヴェッキエッタ広場 市庁舎 ヴェッキエッタ広場 R 邸
図 4-3 調査地の主な建物の立面
[13] [14]
[15] [16]
[17]
[18]
C
C'
0 50m コルソ・イル・ロッセーリーノ
コルソ・イル・ロ ッセーリーノ コンドッティ通り
グリェルモ・マルコーニ通 り アンジェロ通り
カーゼ・ヌォーヴェ通り
ヴェルベ通 り アッパリタ通り ビーア通り
ドガーリ通り
アモーレ通 り エリザ通
り ゴッツァンテ通り
ジリオ通り
12〜13世紀のアーチ 12〜13世紀の都市空間
アーチの分布
現地調査による作図
○調査日
・2013年08月11日〜20日
・2014年03月19日〜28日
・2014年10月30日〜11月6日
・2017年09月27日〜10月5日
0 50m
コルソ・イル・ロッセーリーノ
コルソ・イル・ロッセーリーノ コンドッティ通り
グリェルモ・マルコーニ通 り アンジェロ通り
カーゼ・ヌォーヴェ通り
ヴェルベ通 アッパリタ通り り ビーア通り
ドガーリ通り
アモーレ通 り エリザ通
り ゴッツァンテ通り
ジリオ通り
住居エリア
住居エリア
住居エリア 商業ゾーン
商業ゾーン 理想郷エリア
現地調査による作図
○調査日
・2013年08月11日〜20日
・2014年03月19日〜28日
・2014年10月30日〜11月6日
・2017年09月27日〜10月5日
(4) ラディコーファニ
ラディコーファニの住宅タイプには基本的にスキエラ 型の住宅タイプでも裏庭があるタイプ[19]、裏庭がない タイプ、1階正面に出入り口、裏手の傾斜地の2階部分 にも出入り口のある住宅タイプ。この住宅タイプは中央 通り沿いに多く分布している。
一方、裏路地に入ると外階段のある住宅が多く分布し、
また1階と2階部分に出入り口を持つ住宅も数多く確認 することができた。結果、ラディコーファニでは都市的 なスキエラ型の住宅と農村的な住宅が上手く混在し、町 全体を構成することが明らかになった(図 4-5)。
(5) ピエンツァ
ピエンツァの住宅タイプには基本的にはスキエラ型の 住宅タイプで住居エリアにあるスキエラ型の住居の中で も裏庭があるタイプ、裏庭がないタイプ、商業ゾーンに 建つ1階が店舗で 2 階以降が住居のタイプの分類である ことが判明した。
また、住居エリア、商業ゾーンとは関係がなく、内階 段、外階段、半外階段のタイプの住宅が建っていること が明らかとなった。但し、商業エリアについては圧倒的 に外階段の住居はなく、住居エリアの中でも比較的中心 部より離れているエリアに外階段の建物があることが明 らかとなった(図 4-7)。
都市的な住居タイプのスキエラ型の住居タイプの割合を 多く占め、農村的な住居タイプ、外階段型の住居は僅か であり、都市的な住居が多数を占める状況が明らかと なった。
パラッツォ Palazzo Pretorio
Palazzo Luchini
現地調査による作図
・2013年08月11日〜20日
・2014年03月19日〜28日
・2014年10月30日〜11月6日
・2017年09月27日〜10月5日 出典:現地観光案内書 “RADICOFANI”参照
0 50 100m
建物の裏2階に出入口+外階段のあるスキエラ型の住宅範囲
図 4-5 裏側に外階段のある住居エリア ラディコーファニ
図 4-7 ピエンツァの住居エリア・商業ゾーン
0 100 200 m
ポポロ広場 チャルディーニ通り
ジュゼッペ・マッジーニ通り
ピエトロ・ストロッツィ通り ローマ通り
ヴィーコロ・テッラ・スクオーラ
ジュゼッペ・
ガリバルディ広場り通ィテッオテッマモ・コャジ
ソッ コルン・サ
ロニ通 り
ドンノリ通り カステッラーナ通り
スパニ通り スパニ通
り
コスタ・スパニ ムレリ市門
コルニオ市門
カセロ市門 モンタルチーノ要塞
12〜13世紀の都市空間 12〜13世紀のアーチ アーチの分布
12〜13世紀のアーチ 12〜13世紀の都市空間
アーチの分布
0 50 100m
立面図表示エリア
図 4-4 12-13 世紀の代表的なアーチの分布 モンタルチーノ
図 4-6 12-13 世紀の代表的なアーチの分布 ラディコーファニ
図 4-8 12-13 世紀の代表的なアーチの分布 ピエンツァ
これらのことからピエンツァにおいては都市的なスキ エラ型の住居タイプが大部分を占め、農村的な住居を確 認することは出来なかった。
但し、ピウス II 世が目指した理想郷は農業に従事す るための住人の為の集合住宅 ”Case Per Il Popolo”
を建設していたことが明らかとなった。僅か 7 か月で建 設したという記録も残っており[20]、ピウス II 世の理 想郷は都市的な性格を帯びたものだけではなく、農業に
5.本研究のまとめ
本研究はオルチア川流域における都市と集落において 以下のような共通点。相違点がある。その点に注視して 本論の結果を明らかにしたい。
(1) サン・クイリコ・ドルチア、カスティリオーネ・
ドルチア、ロッカ・ドルチア
本論の基礎ともなる「オルチア川流域 まちと田園の 形成に関するフィールド研究」[22]書の中でロッカ・ド ルチア、カスティリオーネ・ドルチアは農村的な住宅で ある外階段型の住宅が多く構成され、農村集落の様相を 呈する(図 4-3)。
サンクイコ・ドルチアは都市を構成する要素として フランチジェナ街道が通り、12-13 世紀の特徴的な尖塔 アーチの分布が多く分布し[23]、都市機能の主要な市庁 舎、宗教施設、市壁、城郭などで構成され面積は調査地 域中でも小さいながらもコンパクトな都市としての機能 を有する丘状都市として明らかとなっている。
この事例を踏まえて新たに研究対象地域として加えた モンタルチーノ、ラディコーファニ、ピエンツァの 3 地 域を分析すると次のような結論となった。
(2) モンタルチーノ
調査地の中で最も広い面積を有し、丘状都市の中でも 最も多くの住宅、宗教施設、広場、公共施設を有する地 域である。中世時代では市壁で囲まれ多くの市門を有し、
ロッカをはじめとする要塞を有する規模も他の地域と比 べスケールも大きく他を圧倒する。
12-13 世紀の代表的な尖塔アーチの分布も数多く確 認できシエナ支配の影響を確認することが出来た(図 4-4)。基本となるサン・クイリコ・ドルチアの都市の機 能と比較しても相違点が見受けられ調査地域中、都市ら
しい都市としての特徴が多く確認できた。モンタルチー ノは調査地域中で最も都市的な町域として結論づけるも のとした。
(3) ラディコーファニ
研究対象地域の中で 21 世紀に至るまで色濃く中世時 代からの建物、施設が多く保存されている特徴的な地域 である。町域の中心を通るローマ通り、レナード・マジ 通り沿いに建つ住宅、貴族の邸宅、宗教施設等は道に沿っ て建物の壁面をきっちりと揃える都市型の特徴を印象づ けるものとなっている。また、12-13 世紀の代表的な尖 塔アーチも数多く確認することが出来、その特徴が明ら かとなった(図 4-6)。
このように都市的な特徴を現す一方で、主要道路から 裏手の路地に入り込むと有機的な壁面を有する住宅が広 がっている。農村的な特徴のある外階段のある住宅も数 多く見受けられる。ラディコーファニは調査地の中で都 市的な特徴と農村的な特徴の両方の特徴を併せ持つ地域 として結論づけるものとした。
(4) ピエンツァ
調査地域中で最も中世都市から発展したまちピエン ツァ。ピウス II 世が目指した都市の理想郷[24]として ルネサンス様式を取り入れ都市の設計に活かした。その 成果は Pio II 広場とその周辺の建物に活かされている。
他の地域とは明らかに異なる特徴を持つピエンツァは、
ピウス II 世がルネサンス様式を取り入れた理想郷の都 市を構築した証が随所に残される最も特徴的な地域であ る。その一つが各主要な施設にグラフィティ[25]と呼ば れる装飾を施した壁面を有し、或はピウス II 世広場と 大聖堂との間に遠近法を用いた視覚的な効果を施す技法 を活かした 15 世紀のルネサンス期の特徴を現す建物が 数多く現存する。その一方で”Le dociici Case uove”
のような農業を考慮した集合住宅も建設しており、農村 的要素の建築構成をピウス II 世は計画していたことも 明らかとなった。さらに12-13 世紀の特徴的な尖塔アー チの分布も確認できた(図 4-8)。
このような結果からピエンツァは特徴的なルネサンス 様式を取り入れた都市機能を有する地域として結論づけ るものとした。
本研究で明らかとなった項目について以下のとおり。
6 つの調査地の主な共通点 ① 中世の都市又は集落である ② 丘腹・丘上の都市・集落である
③ 市壁又は市門を有する或は両方を有する ④ 広場を有する
⑤ 宗教施設を有する
⑥ 有力者・貴族の邸宅を有する ⑦ 泉・井戸を有する
⑧ 都市・集落の発展状況においてフランチジェナ街 道との関連性を見出すことが出来た。
図 4-6 ピエンツァの delle dodici Case Nuove[21]
従事する為の住人にも住む為のゾーンを分け、集合住宅 という形で、現代社会にも通じる設計コンセプトで、ル ネサンス期の都市計画を行っていたということが、この 調査で明らかとなった。
6つの調査地の主な相違点 ①城郭・要塞を有するか否か
② 12-13 世紀を起源とする代表的なアーチをファサー ドに有するか否か
③住宅のタイプがそれぞれ異なる
④中世都市かルネサンス様式の都市か集落か ⑤フランチジェナ街道と直接接続する地域か否か それぞれ6つの調査地は特徴的ではあるが共通点、相 違点が明らかとなり、他の地域に見られない固有性が認 められた。また、都市的であるか農村的であるかについ ては、明確に分類の出来るもの、その区別が曖昧なもの があることも今回の調査・分析において明らかとなった。
6.結論
本研究ではトスカーナ州オルチア川流域の6つの調査 地である都市と集落における都市・集落構造とその構 成原理を 12・13 世紀の建築類型タイプ別けを発端とし て、各調査地の建築構造物の構成原理の分析を進めてき た。その結果、オルチャ川流域の各都市と集落は互いに 中世の時代において深く関係しながらも、独自の発展を 遂げてきたことも明らかとなり、建築と街路の関係性 や 12-13 世紀の代表的なアーチの分布状況から都市の形 成過程やその階層的な都市・集落の構造までも明らかと なった。
これらの点を踏まえて都市と集落における建築の構成 原理について、本研究はオルチア川流域の 6 つの都市と 集落という限定的な領域ではあったが、イタリアに点在 する同様の小都市、集落においても同様の研究方法によ り比較、分析を行うことが可能であることについても呈 示することができた。
以上を要するに、今後は更なる実測調査を重ねて複数 の小都市を研究対象とし、都市と集落の構成原理を明ら かにして、都市間の比較研究へと発展させていくことが 課題である。
謝辞:本研究にあたり、陣内教授にはとりわけ親切丁寧 なるご指導、ご鞭撻のほどをいただきました。また、陣 内研究室をはじめ建築系研究室の皆様には、公私にわた り有益な助言、意見をしていただきました。
以上の方々のご協力のおかげで、本論文を作成するこ とができました。改めて深く感謝の意を表します。
参考文献
1) オルチア川流域 - まちと田園の形成に関するフィールド研究 - 法 政大学デザイン工学部建築学科 陣内研究室 2012
2)DE STRATA FRANCIGENA
Studi e ricerche sulle vie di pellegrinaggio del Medioevo Annuario del Centro Studi Romei CENTRO STUDI ROMEI 2011 3)2017 CNES / Airbus, Digital Globe 社 Google Earth より作図
4) オルチア川流域 - まちと田園の形成に関するフィールド研究 - 法 政大学デザイン工学部建築学科 陣内研究室 2012 - p.13
5)DE STRATA FRANCIGENA
Studi e ricerche sulle vie di pellegrinaggio del Medioevo Annuario del Centro Studi Romei CENTRO STUDI ROMEI 2011 p.23 6)-8) 図中の断面図 オルチア川流域 - まちと田園の形成に関する フィールド研究 - 法政大学デザイン工学部建築学科 陣内研究室 2012 pp.21-89.
9) オルチア川流域 - まちと田園の形成に関するフィールド研究 - 法 政大学デザイン工学部建築学科 陣内研究室 2012 p.14
10) オルチア川流域 - まちと田園の形成に関するフィールド研究 - 法政大学デザイン工学部建築学科 陣内研究室 2012
11) 都市を読む - イタリア – 陣内秀信 法政大学出版局 1988 p.460 12) 都市を読む - イタリア – 陣内秀信 法政大学出版局 1988 p.251 13)-14) オルチア川流域 - まちと田園の形成に関するフィールド研究 - 法政 大学デザイン工学部建築学科 陣内研究室 2012 p.30、p.36
15)-16) オルチア川流域 - まちと田園の形成に関するフィールド研究 - 法政大学デザイン工学部建築学科 陣内研究室 2012 p.60、p.70 17)-18) オルチア川流域 - まちと田園の形成に関するフィールド研究 - 法政 大学デザイン工学部建築学科 陣内研究室 2012 p.82、p.88
19) 都市を読む - イタリア – 陣内秀信 法政大学出版局 1988 p.461 20)GIANCARLO CATALDI FAUSTO FORMICHI,PENZA FORMA URBIS AION EDIZIONI 2007 p.114
21)GIANCARLO CATALDI FAUSTO FORMICHI,PENZA FORMA URBIS AION EDIZIONI 2007 p.114
22) オルチア川流域 - まちと田園の形成に関するフィールド研究 - 法政大学デザイン工学部建築学科 陣内研究室 2012
23) オルチア川流域 - まちと田園の形成に関するフィールド研究 - 法政大学 デザイン工学部建築学科 陣内研究室 2012 pp.40-41.
24)GIANCARLO CATALDI FAUSTO FORMICHI,PENZA FORMA URBIS AION EDIZIONI 2007 pp.92-98.
25)Pienza,The Creation of a Renaissance City Charles R. Mack Cornell University Press 1987 p.145