国立歴史民俗博物館研究報告 第117集 2004年2月 Image Processing Tech皿ologies Ibr Historical and Cultural Researc11
安達文夫・新谷幹夫
はじめに 0歴史民俗資料と画像技術 ②絵巻画像のディジタル化 ③CG技術の応用 ④歴史民俗資料ディジタル化の意義 むすび欝離垂灘懇灘垂翻羅灘欝灘繍難轟難翻
歴史学,民俗学が研究の対象とする資料は,それを利用する上で,それぞれに制約や課題がある。 画像技術を適用することにより,次のことが可能となる。絵や図が描かれた平面的な資料は,大型 なものであっても,見る箇所をシームレスに変え,自由に拡大・縮小して閲覧できる。立体物資料 は,任意の方向からの観察ができ,遠隔からの利用も可能となる。拡大して細部を見るようにする には,研究開発を要する。文献資料を多く公開するには,ディジタル画像による提供が実際的であ る。全文テキストが得られる場合に画像と併用することで高度な利用が実現する。映像資料は膨大 な量が記録されるが,ディジタル化することにより有効な利用ができる。CGの応用も進展すると 考えられる。 歴史民俗資料をディジタル化することにより,広く研究者が利用できるようになるとともに,実 物資料を扱う上での制約を補うことによって,新しい利用が可能となる。はじめに
コンピュータ技術の進展は著しく,かつては文字情報しか扱えなかったものが,今では画像,そ れも非常に精細な画像や,コンピュータグラフィックス,あるいは動きのある映像を,普通に扱え ることができるようになってきた。また,通信技術の進歩と,そのインフラストラクチャーの整備 により,速度的には,まだ不足する場面もあるが,画像を含む情報を,世界中で交換できるように なっている。 このような技術的進展を背景として,歴史学,民俗学の研究に,情報技術を適用する様々な研究 が進められている[1,2,3]。また,歴史民俗の研究の成果を公開する場の一つである展示に,こ のような技術を適用する研究が行われている[4,5]。 後述するように,歴史学,民俗学が研究の対象とする資料は,非常に幅が広い。扱われる資料全 体を通して,情報技術,特に画像技術を歴史民俗研究に適用することで,何ができるようになるか, 或いは,なりそうかを明らかにすることは,この分野へ画像技術を浸透させる意味で重要である。 その上で,技術的課題を整理することが,この分野に適用する画像技術を進展させるために必要で ある。 本論文の目的は,歴史学,民俗学の分野に画像技術を適用することの可能性と適用の方向性を明 らかにすることである。以下では,歴史民俗資料の特徴を述べ,画像技術を適用することの可能性 を考察し,そこへ向けての技術的課題を明らかにする。技術的課題の解決の一つとして,絵巻画像 のディジタル化について述べるとともに,コンピュータグラフィックスの適用性について考察する。 最後に,画像技術を適用することの意義を整理する。 0一・歴史民俗資料と画像技術
(1)歴史民俗資料の画像技術から見た分類
歴史学,民俗学が研究の対象とする資料は,実に様々な形態のものがある。文字で書き残された 文献資料や,屏風や絵巻のように描かれた絵や図が情報を伝える資料(ここでは絵画資料と呼ぶこ とにする)がある。これらは平面的なものであるが,多くの資料は立体的な形状を持ち,その形や 表面の様子に意味がある。大きさにも幅があり,石器のように小さいものから,大きいものでは, 建造物や遺構,さらには景観が研究の対象となる。また,習わしとして伝えられるような無形のも のは,音や映像資料として記録される。 これを資料の持つ情報の形態から整理すると,図1のように分類できる。これは,画像情報によ る表現方法より,動きの有無,主たる情報が文字であるか否か,平面か立体か,大きさの大小に着 目して分けている。また,これらは,資料を扱う上での課題が異なり,画像技術を適用する方法も 異なってくる。資料自身の特殊性から,通常の用途に開発された画像技術をそのまま適用できず, 新たな研究開発を要するものを,図1の右端に示す。以下では,これらについて,扱う上での特徴[画像技術と歴史民俗学研究]・・…安達文夫・新谷幹夫 歴史民俗資料 静的 外 以 字 文 通常 大型一一一一一一・大型絵画資料 立体的一一一一一一一一一一一一一一立体物資料 文字主体一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一文献資料 動的一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一映像資料 図1 歴史民俗資料の情報の形態による分類 と,画像技術適用の可能性と課題を述べる。
(2)歴史民俗資料の特徴と画像技術
1 大型絵画資料
屏風や古地図,あるいは絵巻のように大型である上,そこに非常に細かく対象が描かれている資 料がある。例えば,江戸図屏風は,その1隻が,縦1.8m,横3.8mであるが,そこに描かれてい る人物の顔は3㎜程の大きさである。古地図にも,大きさが縦横2mで,文字が3mm程で記載され ているものがある。このような資料は,大型であることから扱いが難しく,これによって細かい箇 所の判読が困難なことが生ずる。先の大きさの古地図を,机に広げると,中央部分の小さな文字は 読み取れない。読むために資料を巻き直すことは,資料に負担を与えることになる。絵巻も同様で あって,長さが20mを越すものもあり,扱いづらい。また,絵画資料の多くは,光によって退色す るため,年間に閲覧できる時間が制限され,いつでも見ることができるわけではない。 このような理由から,写真が研究に使われる。この場合,分割された複数枚の写真となる。この とき,着目する対象が写真の縁にかかったり,隣接する写真や関連する対象が撮られた写真を探す のに手間取る,或いは見ている箇所の全体での位置を見失いやすいといった不都合がある。 画像技術を適用することにより,図2(a)に示すような,利用者から見て1枚の画像として扱うこ とができ,スムーズな画像の移動や,任意の箇所の拡大あるいは縮小によって,資料を自在に閲覧 することができるようになる。これを実現するには,画像データの作成法の他,分かりやすい操作 インタフェースの実現が課題となる。これについては,第2節で詳しく述べる。2 立体物資料
歴史民俗資料のほとんどが,立体の形状を有する。その中には一方向から撮影した2次元の画像 情報で十分な資料も多いが,図2(b)のように,回転していろいろな角度から表示することが必要な 資料もある。また,遺跡や建造物を,3次元情報として取り込み,任意の位置と方向から観察できる ことも意味がある。 対象物の3次元形状をディジタルデータとして取込み,画像を張り合わせることによって,表面 の様子を観察することのできる装置が製品化されており,大型の資料を除けば,比較的簡単に3次(a)大型絵画資料のシームレス表示
上読
げみ
(b) こノ:体物の回転表示 φ (c)文献資料のテキスト画像連動表示 (d)映像資料のインタラクティブ表示 図2 歴史民俗資料への画像技術の適用 元の情報を利用することが可能となっている、,また,ネットワークを介して,これらの情報を,任 意に方向を変えながらブラウズできるソフトウェアも入手でき,立体物資料をいろいろな方向から 見ることのできる資料公開に利用できる、、 3次元形状の入ノJ装置は,形状の計測としては,精度が0.lmm近くまできているが,張り合わさ れた画像の解像度はまだ粗いのが現状である。歴史研究の分野では,形状を表す数値データより, 外観を観察して得られる情報に意味がある場合も多い。例えば,銅鐸の表面に細かい図柄が描かれ ているような場合は,任意の方向から資料の一部分を拡大して見ることが必要である。任意に回転 したヒ,拡大して細部を閲覧できる技術の研究開発を必要とする。 一方、建造物などの大きなものを3次元のデータとして取り込むことは,容易ではない。この方 法の一つを第3節(2)で記す。 また,このような3次元ディジタル化した資料は,ネットワークを介して公開する場合に有効と 考えられる。現状では3次元のデータはその量が大きく、広帯域のネットワークでないと,実質的 には利用できない。情報を圧縮する技術の開発が望まれる。[画像技術と歴史民俗学研究}・…安達文夫・新谷幹夫
3 文献資料
文献資料に記されている文字をコードに置き換えた形で情報化することは,多くの研究者が資料 の中まで探すことができ,理想の形態とも言える。しかし,この全文テキスト化には多くの手間と 時間がかかる。文献資料をディジタル化した画像で提供することによって,多くの文献資料の広範 な利用を早く実現できる。 多くの文献資料は筆で書かれており,現代の印刷文字に比べて文字が大きい。このため,写真撮 影したフィルムを普通にスキャニングして得られる画像で十分読み取ることができる。ディジタル スチルカメラであっても,200万画素もあれば,解像度として十分である。このように,画像取り込 みについては現状の技術で充分実現可能である。技術的課題としては,図2(c)のように,実物の書 物を読む際の,例えばぱらぱらとめくって所望の箇所を探す動作に相当する操作インターフェース を提供できるような工美が必要である。 全文テキストが得られるときの高度な利用として,全文検索で探し出した箇所を,画像上で対応 させて表示したり,文字情報と画像を並べて表示し,一方の文字または言葉を指すと,他方の該当 する箇所が示されるような応用が考えられる。これは,文献資料を展示する際にも有効で,音声合 成技術を応用した読み上げが実用的に利用できれば,一般の入館者への展示の理解の支援に有効で ある。文字情報と画像を並べて表示することは,実現されている[6]。画像上での文字の切り出 し 特に草書体[1]一と,文字情報と切り出した画像領域との対応付けを自動化することが 課題となる。4 映像資料
民俗学では,古くから伝わる文化,各地に残る風習や,伝統技術などを映像で記録し,研究の素 材としている。収録される映像は,一つのテーマで,100時間を越えることが通常である。これを 1時間程度に編集したものを,研究会で使用したり,博物館内で公開される。残りの映像は,ビデ オテープの形で保管されるが,この形態で広く利用するのは容易ではない。 ディジタル画像技術を利用すれば,膨大な映像資料の任意の箇所を,画像によるインデックスを 手がかりに読み出し,早送り,巻き戻し,一時停止などを自由に駆使したインタラクティブな利用 ができるようになる。このイメージを図2(d)に示す。これによって,膨大な映像資料を使用した研 究を効率的に進め,研究会等で映像資料を有効に利用した討議を進めることができるようになる。 映像の連続性を判定して自動的にシーンを分割すると同時に,画像によるインデックスを生成する 技術[7]が利用できる。資料映像の利用をより効率的にするには,類似シーンを探索できる手法 の研究が必要である。 また,民俗映像の場合,それを公開する上で,撮影されている人の肖像権(プライバシー)に留 意しなければならないことがある。このとき,人の顔をコンピュータグラフィックスの技術を利用 して置き換えるようなことが望まれている。②・・
絵巻画像のディジタル化
(1)動画像からのディジタル化
絵巻を教育分野も含めた広い目的で利用できるよう,メディア教育開発センターにおいて,絵巻 を映像として取り込むことが進められている。これはレールに取り付けられて移動するHDTVカ メラの下に,開いた絵巻を置いて撮影を行うものである。絵巻を右から左ヘパンする映像が得られ る。これに,部分的にアップした映像と,音声解説を入れて編集し,映像資料が制作される。東海 道五十三駅画巻を対象としたものが,「民俗学的画像に関する基礎的研究」の共同研究会で報告され た。 これは,1本の作品として見ると解説も付いて分かりやすいが,ビデオであるため,一つの箇所を 長時間止めて見たり,任意の箇所へ移って見ることいったインタラクティブな(対話的な)使い方 は想定していない。見る側の意図で,任意の箇所を拡大して見ることはできない。対話的な見方に ついて評価を行うため,パノラマ技術[8]を応用して,ディジタル画像を作成した。 このディジタル画像作成方法の概要を,図3に示す。秒30コマで撮影された各フレームの一部 を,縦長の短冊状の画像として切り出し,これを集めて横に並べ,接合して一つの画像データとす る。この方法の長所は,各フレームの同じ部分を,短い幅で切り出せば,撮影する際の照明のむら の影響が接合部に現れることを少なくできることである。この方法で作成した画像の表示例を図4 に示す。 絵巻資料 ディジタル画像 フレーム画像 撮影 ディジタル化 接合 図3 動画像からのディジタル画像の作成[画像技術と歴史民俗学研究]一安達文夫・新谷幹夫 一漁兇燃〇三⑳!燃蹴汐吟’レ淑 三灘
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図4 動画像から作成した絵画画像の表示例 画像は,データを作成する装置の都合から,HDTVからNTSCに変換した映像を基にした。この ため,資料画像の縦は260画素となっている。横は20001由1素であるが,これは実験的な評価として 絵巻卜巻の半分を対象としたためである。全巻を対象としても,この大きさであれば,普通に入手 できる画像表示ソフトで閲覧できる。これによって,見る側の意図で,画像を左右にスクロールし たり,任意の箇所を拡大して見ることができる。 この方法で作成した画像データでは,NTSCに変換した映像を基にしていることもあって,あま り大きく拡大できない。HDTVから直接ディジタル画像にできたとしても,その仕様から,絵巻の 縦は1125両素以下となる。このため,クリッカブルマップの手法を応用するなどして,細部を撮影 した別の画像を表示するような拡張が必要となる。(2)写真からのディジタル化
絵巻の任意の箇所を10倍近くにまで拡大して閲覧できるようするためには,写真のフィルムを 基に作成することが考えられる。その方法を図5に示す。隣接する写真に資料の重なりがあるよう に撮影する。接合部でずれがないように,トリミングを行い,明度や色調の違いがあれば補正を 行って接合し,1枚の画像データとする。絵巻のような横長の資料は,1枚の写真で資料のできるだ け広い部分をカバーするため,写真の上下に資料が写っていない余白が生ずる。4×5のフィルム で撮影し,フィルムの解像度の限界と言われる2000dpiでスキャニングすれば,写真の余白を考慮 しても,資料の縦が4000画素の画像データを得ることができる。通常表示する画像の縦の長さを 500画素とすれば,8倍の拡大が可能となる。 東海道五十三駅画巻について,この方法でディジタル画像を作成し,−L巻とド巻を並べて 219,000×3,700画素の画像データを得た。この大きさの画像データは,普通に入手できる画像表 示ソフトでは、表示できないか,できたとしてもいわゆる重い表示となる。そこで,国立歴史民俗 博物館で研究開発した歴史資料自在閲覧システム[9,10]を適用した。その画面の例を,図6に示 す。同図(b)∼(d)は,それぞれ(a)∼(c)の一部を拡大表示した例であり,卜分な拡大画像が得られるこ とが分かる。 このシステムは,研究者だけでなく,一般の人館者への資料の公開にも使用できるよう操作性に 配意したもので,操作デバイスとしで慣れないと使えないマウスを避け,タッチパネルを利用して いる。最初の対象は江戸図屏風であったが,本節(Dに記した対話的に資料を閲覧することのできる絵巻資料 撮影 スキャニング 写真 合成,トリミング
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図5 写真からのディジタル画像の作成 機能の実現をねらいとして,以下をインプリメントしている。 ①画像は,図6の画面の右下に配置した矢印の操作ボタンにより左右に移動するほか,画像表示 領域を指でなぞることによって自由に移動できる。これにより,シームレスな閲覧ができる。 ②画像の拡大・縮小は,操作ボタンによるほか,画像表示領域上で拡大したい箇所を軽くたたく ことにより,その点を中心に拡大する。着目する箇所をすぐに大きくして見たり,縮小して全 体の位置を確認できる。 ③画像表示領域の下に配置した画巻全体を表示するマップ領域に,画像表示領域の対応箇所を枠 で表示する。全体マップに触れると,その位置に当たる画像を,画像表示領域に表示する。こ れによって,着目する箇所を直ちに見ることができる。 ④画像表示領域に表示される画像に対応した解説を,画面下中央の解説領域に表示し,収録した 音声を再生できる。編集された映像と同様な解説を加えることができる。 このシステムによって,扱いが困難な大型絵画資料の閲覧においても,原品の資料のような細心 の注意を払うことなく,任意の箇所を任意の大きさで,かつ見る箇所を速やかに変えて閲覧できる ようになった。画像技術を利用したこのような閲覧が,詳細に描かれた資料を中心として,進むと 考えられる。なお,画像データの接合は,人手で行っている。多くの資料を対象としていくために は,画像の接合の自動化が課題となる。蘇
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図6 歴史資料自在閲覧システムによる表示例③一 一
CG技術の応用
(1)CGの概要
CGは,大きくモデリングとレンダリングの2つの工程によって実現される。モデリングは,物体 の形状を記述することと,その動きを記述することからなる。レンダリングは,モデリングによっ て得られた物体の形状記述などをもとに,画像を生成する。 モデリングにおける形状の記述は,多面体(ポリゴン)として頂点の座標とその接続関係で表す 方法や,Bスプラインや2次曲面などの曲面として表す方法などがある。動きの記述は,物体が剛 体と見なせる場合は,運動は平行移動と回転のみであるから,マトリックスで記述できる。一方, 柔軟に形状が変わる非剛体の場合は,頂点の軌道(位置の変化)を与える必要がある。モデリング を行う実際の手法としては,①マウスで対話的に入力する手入力による方法,②関節角度などを計 測するモーションキャプチャを利用する方法,③3次元スキャナによる方法がある。 レンダリング処理は,視点と物体を描画する面を与えたときに,描画面の画素の色(値)を決め る処理であり,投影処理,陰影処理,可視判定の三つから構成される。投影処理は,描画面上の塗 りつぶすべき画素を求めるもので,3次元形状が与えられた物体上の点(x,y, z)から透視変 換によって計算される。陰影処理は,塗りつぶすべき画素の色を決める処理で,まず物体に当たる 光量を求め,次にどれだけ視点に反射するかを計算する。前者が影つけ処理であり,後者がシェイ ディング処理,テクスチャ処理と呼ばれる。影つけ処理は,点光源の場合,光源から見えなければ 影と単純に決定できるが,面光源の場合は,相互反射を考慮して,Radiosity法と呼ばれる線形方程 式系を解く必要がある。シェイディング処理は,質感を表す反射特性を与えて求める。テクスチャ 処理は,模様を表面に張りつけるもので,反射率を模様に合わせて変化させることに当たる。可視 判定は,物体が隠されていないかを判定する処理で,複数の物体が同一の画素に投影されると計算 されたときに,視点に最も近い物体を描画するものである。zバッファ法や光線追跡法などが知ら れる。(2)CGの作成手法
CGにより制作されたコンテンツの例として,厳島神社を舞台とした能がある[11]。これは,静的 な建物だけでなく,人の動きまでをCG化している,視点を自由に移動して見ることができ,音響処 理も加えられている。形状,動きとも人手で入力を行っており,作成がかなり大変であるが,手間 さえかければ,現実感のあるCGを制作できる段階にきている。 CGによるコンテンツを広く利用できるようにするためには,特別なものだけでなく,どんなもの も,誰でも簡単に作れるようにしなければならない。以下では,そのための研究の例を述べる。1 映像CG変換
3次元CGモデルの作成は,多数のポリゴンを入力することが必要であり,誰でもできるものでは ない。そこで,ビデオ映像からCGモデルを自動生成することを考える。静止物体を対象とした[画像技術と歴史民俗学研究]一…安達文夫・新谷幹夫 VMODELAR法と呼ばれている方法[12,13]の原理を図7に示す。 まず,カメラの光軸と垂直方向に等速直線運動をさせながら,物体を撮影する。次に,撮影した 画像を積み重ねて得られる画像ボリュームをyニー定の面でスライスする。この結果得られるエ ピポーラ画像から直線を検出すれば,その傾きから奥行き情報を得ることができる。この方式では, カメラのぶれや速度が等速でないことが,誤差の原因となるが,特徴点の軌跡を直線化する補正処 理を加えることにより,高い精度で3次元形状を取得できる。これに撮影した画像を基にテクス チャ処理を行うことにより,3次元CG化され,自由な方向から眺めることができるようになる。こ の方法により,太宰府天満宮の本殿,桜門,太鼓橋のモデルの自動生成を行った。その一例を,図 8に示す。このように,リアルな画像を生成でき,よい結果が得られている。 2 高度モーションキャプチャ 現状のモーションキャプチャでは,マーカと呼ぶ印を付けた状態で動きを獲得する必要がある。 テクスチャ,形状,動きを同時に獲得できるようになれば,動きのあるCGの生成が容易になる.
VMODELAR法の「動」物体版といえる4次元VMODELAR法を検討した。
この基本原理は,複数台のカメラで被写体を同時撮影し,同じ時刻の複数枚の画像から3次元の 点群を復元する。その例を図9に示す。この点を結んで三角形の面を構成してポリゴンを作成する。 これを時間軸に沿って表示することにより実時間動画表示が可能となる。これを実現するためには, カメラの位置・方向を求める必要があり,Tsai法[14]を用いることでこれらの推定を行う。3次 元点群復元の処理は,複数画像間の画素の対応を求めることで実現できる。これは,MulUple base− 1ine stereo法[15]によって行う。面の構成には, Delaunay三角化の後,可視性に基づく隠蔽三角形 除去を施した。 この方法による撮影実験を,太宰府天満宮舞楽竹の曲を素材に行った。26台のテレビカメラを使 用し,フラッシュにて同期調整した。カメラ方向推定誤差などの影響で面の復元精度が不十分であ り,よりロバストな手法の適用が必要であることが判明した。 句/ ./ 十し、難 三向
移動方向 静止物体を撮影する カメラの光軸と垂直方向に 等速直線運動させる / / y / ン ” 人 A 塔 ぶ≧ ・・,. A .■‘・.・..,・A・ . ミ [︽’ 叉 駕L ル肖 シ 〉 溺 X 撮影された画像を積み重ね, 画像ボリュームを y=一定の面でスライスする図7 VMODELAR法の原理
t X エピポーラ画像(EPI) 画像中の直線を検出し, その傾きから奥行きを得る[画像技術と歴史民俗学研究} ・安達文夫・新谷幹夫 元画像 距離画像 8枚 図9 複数カメラ画像からの距離画像復元の例 ④・・
歴史民俗資料ディジタル化の意義
これまで述べたことをまとめて,歴史民俗資料をディジタル化することの意義を,研究で利用す ることの観点から整理する。 ディジタルの形態で公開することにより,多くの研究者が,利用できるようなることは明らかで あろう。ネットワークを介してディジタル化した資料を公開すれば,いつでも,どこからでも,誰 もが 国内だけでなく,国外の研究者も 利用できる。また,保存のため,公開できる期間が 限られている資料でも,いつでも閲覧できる。 次に,特に大型で,記載が細かな資料は,その画像をディジタル化することによって,資料の全 ての箇所を実物の資料と違って扱いに気を配ることなく,細部を自由に観察できることである、こ の利用により,実物の資料を見る機会を減ずることができれば,実物資料の保存にもつながる。また,ディジタル化によって,資料を探しやすくなる。これは,資料自身の探し易さと,資料の 中の探し易さがある。前者は,目録に相当するデータが付与されることによる。後者は,ディジタ ル化した画像による目視による探し易さと,コンピュータの画像処理によって得られるようになる。 さらに,大きすぎて,研究室に入らない,例えば建造物や遺構などの研究対象や,動きを持つ研 究対象を自由に扱うことがCGの応用によってできるようになる。研究段階のものもあるが,技術 の進展は著しく,実現が急速に進むものと考えられる。 このように,歴史民俗資料を広く利用できるよう,そのディジタル化が進むとともに,実物の資 料にはない利便性を持つディジタル資料が制作されてゆくと考えられる。
むすび
歴史学,民俗学の研究分野に画像技術を適用することの可能性とその方向性について述べた。歴 史民俗資料をディジタル化することにより,資料の公開を促進できることはもとより,詳細な観察 や,対象の探索,あるいは関連する箇所の比較など,実物の資料によるよりも有用な場面がある。 実物の資料を基に研究を進めることが基本であろうが,それを利用する際の制約を補うためにも, 画像技術が有効に作用する。 今後は,歴史民俗資料を,より精細かつ高度にディジタル化する画像技術の他,この大容量の ディジタルデータをネットワークに乗せる技術と,ネットワークでの提供によって派生する不正使 用の問題を起こさないための電子透かしやコンテンツID等のコンテンツの保護を高度化する技術 が必要となる。 本論は,国立歴史民俗学博物館共同研究「民俗学的画像に関する基礎的研究」の研究会において, 平成12年7月に安達が報告した「画像データベースの新展開」と平成13年3月に新谷が報告した 「CG技術の歴史研究への応用」を,その後の進展も加えてまとめている。画像技術の研究に長く携 わってきた両者の歴史民俗の研究と展示を近くで見た目を通した,歴史,民俗の分野の研究者への 画像技術適用の提案である。同時に,情報技術,画像技術の分野の研究者,技術者の目に止まり, この応用分野の技術開発が促進される一つの機会になることを期待している。 謝辞 本研究における映像CG変換のVMODELAR法の実験を行うにあたり,多大なご協力を頂 いた太宰府天満宮の皆様に謝意を表する。また,本研究を進める上で,ご支援とご協力を頂い たNTTサイバースペース総合研究所の関係各位,中でも谷口行信氏と南田幸紀氏に深く感謝 する。また,歴史資料自在閲覧システムを研究開発するに当たり,共同研究会の中で有益な示 唆を頂いた国立歴史民俗博物館の朝岡康二教授と山本光正助教授,ならびにその研究開発に共 同で取り組んだ鈴木卓治助手に感謝する。[画像技術と歴史民俗学研究]・一・安達文夫・新谷幹夫 参考文献 1 尾崎浩司・柴山守・山田奨治・荒木義彦「古文書画像の標題文字セグメンテーション」『情報処理学会シンポジウ ムシリーズ』vol.2000, No.17, pp.279−286(2000). 2 赤間亮「人文系利用者側の視点で構築するデジタルアーカイブ 画像資料とデータベースの有機的・可変的リ ンク 」『情報処理学会シンポジウムシリーズ』vol.2000, No.17, pp.255−262(2000). 3 権藤千恵「映画資料のデジタル・アーカイヴ構築:失われた映画作品のカタロギングを中心に」『情報処理学会シ ンポジウムシリーズ』vo▲.2001, No.18, pp.117−124(2001). 4 馬場章他「ディジタルァーカイヴからディジタルエキジビションへ」『情報処理学会シンポジウムシリーズ』vol. 2001,No.18, pp.17−24 (2001). 5 安達文夫「画像情報が博物館で利用されるために」画像電子学会第30回年次大会予稿集,pp.17−23(2002). 6 鈴木卓治・安達文夫・小林光夫「博物館におけるデジタルデータの活用と保存に関する一考察」「情報処理学会シ ンポジウムシリーズ』voL 2000, No.17, pp.25−32(2000). 7 谷口行信・南憲一・佐藤隆・桑野秀豪・児島治彦・外村佳伸「Scene Cabinet:映像解析技術を統合した映像イン デクシングシステム」『電子情報通信学会論文誌』D−II, vol. J84−D2, No.6, pp.1112−1121(2001). 8 谷口行信・阿久津明人・外村佳伸「Panorama Excerpts:パノラマ画像の自動生成・レイアウトによる映像一覧」 「電子情報通信学会論文誌』D−II, vol.」82−D2, No.3, pp.390−398(1999). 9 鈴木卓治・安達文夫「歴史研究・展示用画像表示システムの機能に関する検討」『情報処理学会シンポジウムシ リーズ』vol.2001, No.18. pp.229−234(2001). 10 F.Adachi,et al“Super High Definition Digital Collections for History Research and Exhibition”, Tokyo Symposium for Digital Snk Roads,Abstracts,Dec.12 (2001). 11 高橋寛幸・住田修一・野須潔「バーチャルリアリティによる学習・知識共有環境構築に関する研究」電子情報通 信学会技術報告,IE−2000−10(2000). 12 新谷幹夫・納富幹人・南田幸紀・斎藤隆文「生成画像誤差最小法によるEPI解析」信学論D2, VblJ84−D−2, No.9, pp.2020−2028 (2001). 13 南田幸紀・新谷幹夫・納富幹人「EPI解析におけるカメラ運動の制限緩和」信学論D2, Vbl.」84−D−2, No.11, pp.2416−2426 (2001). 14 R.Tsai,Aversatile camera calibration technique for high−accuracy 3D machine vision metrology using ofFthe−shelf tv camera and lenses, IEEEJ. of Robotics and Auto mation, voL RA−3, No.4, pp.323−344(1987) 15 M.OkUtOmi,TKanade, A mUltiple−baSeline StereO, IEEE TranS. On PAML VOI.15, NO.4, pp.353−363(1993) * このデータ作成について,NTTサイバーコミュニケーション総合研究所の協力を頂いた。 (安達 国立歴史民俗博物館情報資料研究部) (新谷 東邦大学理学部,国立歴史民俗博物館共同研究ゲストスピーカー) (2003年5月16日受理,2003年7月18日審査終了)
Image Processing Ibchnologies fbr Historical and Cultuml Research ADAcHI Fumio and SHINYA Mikio Developments in computer technology have been remarkable, such that we have now advanced f㌃om text−based documents and the like to easy−to−use high−definition images, computer graphics and moving pictures. Similarly, because of the progress in communication technology and the development of its inf士astructure, it has become possible to exchange large volumes of infbmation− including images−worldwide. Against a background of this kind of growth, research using in飾㎜ation technology is progressing in many丘elds of histodcal and cultural studies. Funhe㎜ore, even in the 6eld of infbrmation studies, multi−faceted research into the application of inb㎜ation technology to historical and cultural studies is being carried out as research into its uses in museums. This paper describes certain possibilities and directions fbr applying image processing technology to research fields in history and culture. An extremely high definition digital image of a historical material like a scroll painting realizes seamless and detailed observation. Computer graphic technology enables to f士eely handle research o句ects that are otherwise too large to take into a laboratory, such as buildings or excavation sites.