企業における無体財産権の担保化
著者名(日)
小林 秀年
雑誌名
東洋法学
巻
54
号
3
ページ
131-155
発行年
2011-03-29
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00000804/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止一 はじめに 二 無体財産権の担保⑴ 一般の先取特権、質権、譲渡担保 三 無体財産権の担保⑵ 財団抵当法、企業担保法 四 おわりに 一 はじめに 企 業 を 構 成 す る 財 産 と し て は、 企 業 の 種 類 に よ り 異 な る が 一 般 的 に は、 (a) 不 動 産 た る 土 地・ 建 物、 機 械・ 器 具・ 什 器・ 商 品 そ の 他 の 動 産 と い う 物 的 要 素、 (b) 顧 客 と の 継 続 的 債 権 関 係、 従 業 員 と の 雇 用 関 係、 地 主 や 家 主 と の 賃 貸 借 関 係 な ど の 法 律 関 係、 (c) 特 許、 商 号、 商 標 な ど の 無 体 財 産 権 に 基 づ く 利 益、 そ し て(d) 企 業 特 有 の技能・技術あるいは熟練に基づく事実関係、さらには得意先、暖簾のような顧客間の名声などというような諸要 素 が 考 え ら れ る。 こ れ ら の 諸 要 素 は、 一 定 の 目 的 の た め に 統 一 せ ら れ た 有 機 的 組 織 体 ( Organization ) で あ り、 こ 《 論 説 》
企業における無体財産権の担保化
小
林
秀
年
のことは、各構成要素が個々的に有する価値の集計以上に大なる特殊の独立的な価値を有するのであ ( 1) る。 民法における担保物権の規定は、企業資金の獲得および金銭資本の投下を媒介する物的担保制度に関するもので あり、これは資本主義の発達に伴ってその重要性は高まるものであったにも拘わらず十分にその機能を発揮できな か っ た の で あ ( 2) る。 そ こ で、 こ れ ら の 要 請 に 応 え る た め に 民 法 典 の 改 正 (根 抵 当 に 関 す る 制 定〈附 従 性 緩 和 の 方 向〉 ) や、特別法の制定がなされてきたのである。後者は、抵当権の目的物の範囲の拡大を図る内容であり、その法的構 造 と し て は、 従 物 理 論 の 進 展 (例 え ば、 工 場 抵 当 法 の 工 場 抵 当 ( 3) 権) 、 集 合 物 理 論 の 進 展 (例 え ば、 各 種 財 団 抵 当 法 や 企 業 担 保 法) 、 そ し て 動 産 の 不 動 産 化 (例 え ば、 農 業 動 産 信 用 法 や 自 動 車 抵 当 法) と い う 三 つ の 方 向 を 指 摘 す る こ と が で きよ ( 4) う。 わが国企業の資金調達方法としては「借入れ」が重要な役割を果たしており、伝統的に金融機関は不動産を担保 とする融資を中心として与信を行ってきている。しかし、バブル経済の崩壊により不動産担保にウェイトを置いた 融資は頭打ちの状況となり、企業は担保に提供することができる資産不足から資金調達が困難になるという問題が 顕 在 化 し て き た の で あ る。 こ の よ う な 状 況 の 下、 平 成 一 四 (二 〇 〇 二) 年 に 企 業 に よ る 新 た な 資 金 調 達 手 法 の 発 展 に 資 す る 担 保 制 度 の 見 直 し に 関 す る 報 告 書 (案) (以 下、 「報 告 書」 と い う) が 公 表 さ れ る に 及 ん だ の で あ ( 5) る。 そ こ で は、わが国もアメリカと同様に多様な資金調達手法がバランスよく発達することが強く望まれるとし、そのための コンセプトとして、①不動産以外の保有財産を有効活用すること、②事業または資産の収益性に着目すること、③ 資金提供者による経営状況の監視をあげている。これにより新たな資金調達手段を考えると、①在庫担保・債権担 保 ロ ー ン、 ② 流 動 化・ 証 券 化、 ③ プ ロ ジ ェ ク ト・ フ ァ イ ナ ン ス の 三 類 型 が 考 え ら れ る と し て い る。 「報 告 書」 は、 不動産担保から事業収益重視への転換の必要性を説いたものであった。この「報告書」は、近江幸治教授が指摘さ
れるように『プロジェクト・ファイナンスの実行力を担保するための手法としての担保制度の改革提言』であり、 従 来 の 民 法 上 の「担 保」 概 念 と は 異 な る 担 保 制 度 で あ る と い え る も の で あ ( 6) る。 「事 業 設 備 財 団 (仮 称) 」 の 法 的 構 造 と し て は、 「従 物 理 論 の 進 展」 に よ り 認 め ら れ る 工 場 抵 当 権 の 延 長 線 上 に あ る 制 度 で あ る が、 現 行 財 団 抵 当 制 度 が 「集 合 物 理 論 の 進 展」 に よ り 認 め ら れ る 企 業 の 担 保 制 度 で あ る こ と か ら、 プ ロ ジ ェ ク ト・ フ ァ イ ナ ン ス を 念 頭 に 置 い た 新 担 保 制 度 を 考 究 す る な ら ば、 企 業 担 保 法 な い し は イ ギ リ ス 法 の Floating charge の 制 度 を 活 用 す る こ と が 必 要であると思われ ( 7) る。 企業財産とその担保制度を考察するに際しては、いかなる場合においても問題の中心となるのは担保の客体の範 囲すなわち目的物についてであろう。たとえば、担保の客体が現存する財産以外のものを含むのか否か、そして法 律上の権利でないものまでも含むのであろうか。 将来の取得財産 ( after-acquired property ) 、 未払込資本金 ( uncalled capital ) 、そして資本準備金 ( reserve capital ) についてはすでに検討したことがあ ( 8) る。 企業に対する融資は、前述のごとく一般的には土地・建物や機械器具などという不動産や動産という有体物を担 保 目 的 物 と し て 行 わ れ る の で あ る。 い わ ゆ る ハ イ テ ク や バ イ オ 関 連、 マ ル チ メ デ ィ ア と い う 先 端 技 術 分 野 の ベ ン チャー企業での起業時においては、とりわけ従来型の担保資産を有しないことが予測されることから、一九九〇年 代半ば頃からそのような企業に対する融資方法として、企業が有している知的財産権を担保の目的物にする方法が 検討されるようになったのであ ( 9) る。しかし、知的財産権担保は未だ一般的に利用されているとは言い難いと指摘さ れるに及んでい ( 10) る。 そこで本稿においては、企業による新たな資金調達手法の担保制度の見直しに関する「報告書」にいう①不動産 以外の保有財産を有効活用することに触発されて、企業を構成する財産のうち(c)特許、商号、商標などの無体
財 産 権 に 基 づ く 利 益 の 担 保、 す な わ ち 企 業 に お け る 有 体 財 産 で は な く 無 体 財 産 の 担 保 に つ い て 考 察 す る も の と す る。知的財産権の担保化の方法としては、例えば特許権に質権を設定することは規定されており (特許九五条) 、そ のほか仮登記担保や譲渡担保なども考えられる。そこで、知的財産権の担保化に関する研究のプロローグとして、 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、および著作権を考察の対象に、実定法を中心として考察するものとする。 ( 1 ) 水 島 廣 雄「イ ギ リ ス 浮 動 担 保 の 素 描(企 業 担 保 の 理 論) 」 中 央 大 学 七 〇 周 年 記 念 論 文 集(昭 和 三 〇 年) 五 頁 以 下、 同・ 増 補 特 殊 担 保 法 要 義(企 業 担 保 法 制 理 論) (八 千 代 出 版 平 成 三 年) 三 九 頁 以 下 所 収。 水 島 廣 雄「各 国 に お け る 企 業 担 保 制 度 の 概 観」 法 律時報二六巻一〇号三五頁、同・増補特殊担保法要義二頁以下所収。 ( 2 ) 我妻栄・新訂担保物権法 民法講義Ⅲ(岩波書店 昭和四三年)七頁。 ( 3 ) 拙 稿「抵 当 権 と 工 場 抵 当 法 三 条 目 録 と の 関 係 に つ い て」 東 洋 法 学 四 四 巻 一 号(平 成 一 二 年) 一 頁 以 下、 同「工 場 抵 当 法 三 条 目 録の効力について」現代民法学の理論と課題(遠藤浩先生傘寿記念) (第一法規出版 平成一四年)二九三頁以下。 ( 4 ) 拙 稿・ 前 掲 注( 3 )「抵 当 権 と 工 場 抵 当 法 三 条 目 録 と の 関 係 に つ い て」 三 頁 以 下。 日 本 に お け る 担 保 法 の 二 類 型 化 お よ び 新 し い 担 保 法 の 方 向 性 に つ い て 言 及 す る、 道 垣 内 弘 人「講 演 録 担 保 法 改 革 元 年」 旬 刊 金 融 法 務 事 情(創 刊 五 〇 周 年 記 念 特 大 号) 一六八二号一七頁以下。 ( 5 ) 西 田 章「企 業 法 制 研 究 会(担 保 制 度 研 究 会) 報 告 書 の 概 要
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「不 動 産 担 保」 か ら「事 業 の 収 益 性」 に 着 目 し た 資 金 調 達 へ―
」 金 融 法 務 事 情 一 六 六 六 号 一 三 頁。 経 済 産 業 省 経 済 産 業 政 策 局 長 の 私 的 研 究 会 で あ る 企 業 法 制 研 究 会(担 保 制 度 研 究 会) か ら の報告書、新しい担保法の動き 別冊NBL八六号一八五頁以下。 ( 6 ) 近 江 幸 治「財 団 抵 当 制 度 拡 張・ 改 善 の た め の 立 法 課 題」 ジ ュ リ ス ト 一 二 三 八 号 五 九 頁。 こ の 制 度 は、 従 来 の い わ ゆ る「狭 義 の 工場抵当権」規定の改正であると指摘されている。( 7 ) 拙 稿「企 業 担 保 制 度 と そ の 法 的 構 造
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新 財 団 抵 当 制 度 の 立 法 的 課 題 に 関 す る 検 討―
」 東 洋 法 学 五 〇 巻 一・ 二 合 併 号(平 成 一 九 年) 二 三 頁。 企 業 の 資 金 調 達 手 段 と し て 企 業 担 保 法 の 利 便 性 を 考 究 す る も の と し て、 吉 田 光 碩「企 業 担 保 法 の 改 正―
企 業 の 資金調達手段として使えるものにするために―
」社会の変容と民法典(円谷峻編著) (成文堂 平成二二年)一六八頁以下。 ( 8 ) 拙稿「企業担保制度の客体」東洋法学二七巻二号(昭和五九年)六一頁以下。 ( 9 ) 渋谷達紀・知的財産法講義Ⅰ〔第二版〕 (有斐閣 平成一八年)三六六頁。 ( 10) 青 山 紘 一・ 特 許 法(一 一 版) (法 学 書 院 平 成 二 一 年) 四 八 頁、 小 川 幸 士「知 的 財 産 権 の 担 保 化 ― 特 許 権 を 中 心 に ―」 判 例 タ イムズ一二〇八号六四頁以下。 二 無体財産権の担保⑴ 一般の先取特権、質権、譲渡担保 (ア)概説 知 的 財 産 権 は Intellectual Property の 邦 訳 で あ り、 無 体 財 産 権 も 同 じ 意 味 で 使 用 さ れ て い た が、 平 成 一 四 年 七 月 政府の知的財産戦略会議が策定した知的財産戦略大綱では、知的所有権の用語は可能な限り、知的財産、知的財産 権 に 統 一 し て 使 用 す る こ と が 提 案 さ れ て い る。 他 方、 パ リ 条 約 の propri été industrielle を 工 業 所 有 権 と 邦 訳 し て い た が、 ア メ リ カ 合 衆 国 や イ ギ リ ス で は Industrial Property と 称 し て い る の で あ る。 日 本 で は、 工 業 所 有 権 は 権 利 が 特 許 庁 に よ り 取 り 扱 わ れ て き た 特 許 権、 実 用 新 案 権、 意 匠 権 そ し て 商 標 権 を 指 称 す る 意 味 で 使 用 さ れ て き て い ( 11) る。 人間の精神的創作活動の結果生じた発明・意匠そして著作物などの創作物は、財産的価値を有することから模倣 されやすいのである。知的財産権は、財産的価値を有するばかりでなく創作活動の意欲増進や競業秩序の維持などを図るためにも、保護の必要性があ ( 12) る。 知的財産権の法的性質につき盛岡一夫名誉教授は、排他的独占権、権利の不安定性そして権利の存続期間につい て指摘してい ( 13) る。そこでこの三点を概観すると、 (a) 排 他 的 独 占 権 知 的 財 産 権 は、 発 明、 著 作 物 等 の 独 占 的 に 利 用 す る こ と が で き る 排 他 的 権 利 で あ る。 知 的財産権の客体は、発明や著作物等の無体物で物理的には存在しない観念的なものであることから事実上の支配が 不可能であるので、その利用は権利者および他人も同時に同じ知的財産を利用することができる。知的財産権は、 無体物を客体とすることから知的財産権の排他性はその性質に基づくものではなく、有体物を客体とする所有権の 法理を借用するものである。知的財産権の排他的独占権は、他人が独自に創作などしたような場合にもその利用を 排 除 す る 絶 対 的 な も の (絶 対 的 な 排 他 的 独 占 権) と、 他 人 の 模 倣 に 対 し て 排 除 す る 相 対 的 な も の (相 対 的 な 排 他 的 独 占 権) が あ り、 特 許 権、 実 用 新 案 権、 意 匠 権 そ し て 商 標 権 は 前 者 に、 著 作 権 は 後 者 に 属 し て い る。 前 者 の 効 力 は、 他人が模倣した場合のみならず、他人が独自に創作した場合にも及んでいるのである。特許権は、他人が独自に創 作 し た 場 合 で も そ の 実 施 を 排 除 し (消 極 的 効 力) 、 自 己 が 独 占 的 に 実 施 す る こ と (積 極 的 効 力) が で き る 権 利 で あ る (特許法六八条) 。 (b) 権 利 の 不 安 定 性 知 的 財 産 権 に つ い て は、 審 査 主 義 あ る い は 登 録 主 義 を 採 用 す る 例 が 多 い の で あ る。 特 許 権、 意 匠 権 そ し て 商 標 権 は、 そ れ ぞ れ 審 査 (特 許 四 七 条、 意 匠 一 六 条、 商 標 一 四 条) そ し て 登 録 さ れ る た め の 法 定 要 件 が 具 備 さ れ て い る 場 合 に 権 利 を 付 与 す る 決 定 が 行 わ れ、 登 録 さ れ て 権 利 が 発 生 す る の で あ る (特 許 六 六 条、 意 匠 二 〇 条、 商 標 一 八 条) 。 実 用 新 案 権 は 無 審 査 主 義 を 採 用 し て お り、 基 礎 的 要 件 の み を 審 査 し て 登 録 さ れ る と 権 利 が 発 生 す る (実 用 新 案 一 四 条) 。 こ の よ う な 知 的 財 産 権 で あ っ て も 無 効 審 判 の 請 求 に よ り 特 許 権、 実 用 新 案 権、 意 匠 権
そ し て 商 標 権 は、 は じ め か ら 権 利 が 発 生 し な か っ た も の と さ れ る 場 合 が あ る (特 許 一 二 三 条・ 一 二 五 条、 実 用 新 案 三 七 条・ 四 一 条、 意 匠 四 八 条・ 五 〇 条、 商 標 四 六 条・ 四 六 条 の 二) 。 知 的 財 産 権 は、 権 利 が 消 滅 し た り、 急 激 な 技 術 進 歩や時代の変化により、その財産的価値が希薄化する虞がある不安定な権利であるともいえる。 (c)権利の存続期間 知的財産権には、それぞれの権利によって存続期間が設けられている。 特 許 権 の 存 続 期 間 は、 特 許 出 願 の 日 か ら 二 〇 年 を も っ て 終 了 す る (特 許 六 七 条 一 項) 。 そ の 理 由 と し て は、 特 許 権 は絶対的な排他的独占権であり、第三者の競業的利用を制限すること、そして、特許権者の利益と長期にわたる保 護は産業の阻害になるという産業政策的な配慮、および、技術は時の経過とともに陳腐化することなどを考慮した からである。 実 用 新 案 権 の 存 続 期 間 は、 実 用 新 案 登 録 出 願 の 日 か ら 一 〇 年 を も っ て 終 了 す る (実 用 新 案 一 五 条) 。 意 匠 権 の 存 続 期 間 は、 設 定 の 登 録 の 日 か ら 二 〇 年 を も っ て 終 了 す る (意 匠 二 一 条 一 項) 。 商 標 権 の 存 続 期 間 は、 設 定 の 登 録 の 日 か ら一〇年をもって終了するが、更新登録の申請により更新することができるのである (商標一九条) 。この商標登録 制度は、商標に化体された信用を保護することおよび市場の秩序を維持することを目的としているから、存続期間 を制限する必要がないからである。 著 作 権 の 存 続 期 間 は、 著 作 物 の 創 作 の 時 に 始 ま り、 著 作 者 の 死 後 五 〇 年 を 経 過 す る ま で の 間、 存 続 す る (著 作 五一条) 。なお、映画の著作物の著作権は、その著作物の公表後七〇年を経過するまでの間、存続する (同五四条) 。 これは、著作権が相対的な排他的独占権であること、そして、保護機関が長くても第三者に及ぼす影響が特許権な どと比べて弱いことに因っている。
本 稿 に い う 無 体 財 産 権 は 工 業 所 有 権 お よ び 著 作 権 を 対 象 と し 民 法 八 五 条 の「有 体 物」 に 対 す る「無 体 物」 で あ り、無体財産権とは特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、等を指称するものとす ( 14) る。工業 所有権とは、特許権、実用新案権、意匠権、そして商標権を総称する概念である。特許権は技術的思想の創作のう ち 高 度 の も の で あ る 発 明 を 客 体 と し、 実 用 新 案 権 は 技 術 的 な 考 案 を 客 体 と し、 意 匠 権 は 物 品 の 外 形 の 美 的 創 作 (デ ザイン) を客体とし、商標権は商品の標識 (トレードマーク) を客体としている。換言すれば、特許権は外部に表白 さ れ た 思 想 そ の も の に 対 す る 無 体 物 で あ り、 実 用 新 案 や 意 匠 の よ う な 物 品 (有 体 物) に 内 在 す る 考 案 や 外 在 す る 外 観美のように有体物と切り離しがたいもの、商標のように商品に付着する標章のように有体物と切り離しえないも のもある。これらが無体物といえるのは有体物に化体した無形の財産という点に重要な要素があるからであって、 各権利の特殊性は異なっている。すなわち、無体財産権は無体物ではあるが一種の財産権であり、譲渡性を有し、 換価が可能であることからすれば、担保の目的となると考えることができるのであ ( 15) る。 (イ)一般の先取特権 先取特権に関する規定については、特許法、実用新案法、意匠法そして商標法の各法が規定を設けていないこと か ら、 民 法 の 規 定 に よ る こ と に な る。 そ こ で、 工 業 所 有 権 (特 許 権、 実 用 新 案 権、 意 匠 権、 そ し て 商 標 権) は、 一 般 の 先 取 特 権 の 目 的 物 と な り、 債 務 者 の 総 財 産 を 構 成 す る (民 法 三 〇 六 条) 。 こ の 場 合、 一 般 の 先 取 特 権 と し て 成 立 し た 工 業 所 有 権 は、 特 許 原 簿 な ど に 登 録 を し な く て も 第 三 者 に 対 抗 す る こ と が で き る (特 許 九 八 条 一 項 三 号) 。 な お、 工業所有権は動産の先取特権や不動産の先取特権の目的にはならない (民法三一一条、三二五条) 。 著作権は、人の精神的労作の所産を客体とする知能的権利であるところから、無体財産権の一種であるが工業所 有 権 に 比 べ る と、 さ ら に 無 形 的 そ し て 人 格 的 側 面 が 濃 厚 で あ る と い え ( 16) る。 著 作 権 も 譲 渡 性 の あ る 財 産 権 で あ り (著
作六一条一項) 、担保の目的となる。そこで、著作権が一般の先取特権の目的物となることについては、論を俟たな い。 (ウ)質権 工業所有権には、質権を設定することができる。質権の設定は、当事者間における質権設定の合意および質権の 設 定 を 特 許 庁 に 備 え る 特 許 原 簿 (実 用 新 案 原 簿、 意 匠 原 簿、 商 標 原 簿) に 登 録 す る こ と に よ り 効 力 を 生 ず る (特 許 九 八 条 一 項 三 号、 実 用 新 案 二 五 条 三 項、 意 匠 三 五 条 三 項、 商 標 三 四 条 三 項) 。 質 権 は、 債 権 者 と 債 務 者 あ る い は 第 三 者 と の間の質権設定契約により成立する約定担保物権である。工業所有権も財産権であることから言えば質権の目的物 となり、民法上の権利質に該当することになるが、工業所有権の客体は無形であることから質権者による目的物の 占 有 は 成 立 し な い こ と に な る。 民 法 上 の 質 権 の 効 力 は、 質 物 の 留 置 的 効 力 と 質 物 か ら の 優 先 弁 済 的 効 力 で あ る が (民 法 三 四 二 条) 、 工 業 所 有 権 を 対 象 と す る 質 権 に は 留 置 的 効 力 は な く、 担 保 目 的 物 の 価 値 に 対 す る 優 先 弁 済 的 効 力 の み と な る。 そ の こ と か ら、 工 業 所 有 権 を 目 的 と す る 質 権 の 実 質 は、 抵 当 権 に 近 い 性 質 を 有 す る も の (抵 当 権 類 似 説) と 言 わ れ て い ( 17) る。 し た が っ て、 工 業 所 有 権 法 で は、 民 法 上 の 質 権 と は 異 な っ た 規 定 を 種 々 に 設 け て い る の で あ る。 (a) 質 権 の 目 的 は、 特 許 権 (以 下、 特 筆 し な い 限 り 実 用 新 案 権、 意 匠 権、 そ し て 商 標 権 を 含 む。 実 用 新 案 法、 意 匠 法 そ し て 商 標 法 の 各 法 が 特 許 法 の 規 定 を 準 用 し て い る こ と か ら。 ) 、 そ し て 専 用 実 施 権 と 通 常 実 施 権 で あ り (商 標 で は 実 施 権 と い わ ず 使 用 権 と い う) (特 許 九 五 条、 七 七 条 四 項、 九 四 条 二 項) 、 特 許 を 受 け る 権 利 に は、 質 権 を 設 定 す る こ と は で き な い (特 許 三 三 条 二 ( 18) 項) 。 ① 工 業 所 有 権 の 専 用 実 施 権 者 (使 用 権 者) は、 工 業 所 有 権 者 の 承 諾 を 得 た 場 合 に 限 り、 そ の 専 用 実 施 権 (使 用 権) を 目 的 と す る 質 権 を 設 定 す る こ と が で き る (特 許 七 七 条 四 項・ 五 項、 実 用 新 案 一 八 条 三 項、
意 匠 二 七 条 三 項、 商 標 三 〇 条 四 項) 。 ② 通 常 実 施 権 者 (使 用 権 者) は、 特 定 の 通 常 実 施 権 以 外 は 工 業 所 有 権 者 お よ び そ の 専 用 実 施 権 者 (使 用 権 者) の 承 諾 を 得 た 場 合 に 限 り、 そ の 通 常 実 施 権 (使 用 権) を 目 的 と す る 質 権 を 設 定 す る こ と が で き る (特 許 九 四 条 二 項・ 五 項、 実 用 新 案 一 九 条 三 項・ 二 四 条 二 項、 意 匠 二 八 条 三 項・ 三 四 条 二 項、 商 標 三 一 条 四 項) 。 ③ 工 業 所 有 権 が 共 有 に 係 る と き は、 各 共 有 者 は 他 の 共 有 者 の 同 意 を 得 な け れ ば、 そ の 持 分 を 目 的 と す る 質 権 を 設 定 す る こ と が で き な い (特 許 七 三 条、 実 用 新 案 一 九 条 三 項・ 二 六 条、 意 匠 二 八 条 三 項・ 三 六 条、 商 標 三 一 条 四 項・ 三五条) 。 (b) 工 業 所 有 権 を 目 的 と し た 質 権 を 設 定 し た と き は、 質 権 者 は 契 約 で 別 段 の 定 め を し た 場 合 を 除 き、 当 該 工 業 所 有 権 の 客 体 の 実 施 (使 用) を す る こ と が で き な い (特 許 九 五 条、 実 用 新 案 二 五 条、 意 匠 三 五 条、 商 標 三 四 条) 。 そ の 理由としては、特許発明の実施においては相当な設備と技術などが必要であること、そして質権の存続は一時的な こ と で あ る こ と か ら、 質 権 者 に 実 施 を 認 め た と し て も そ の 効 率 は 十 分 で な い こ と が 予 測 さ れ る か ら で あ る。 そ こ で、質権設定者が継続して実施することにより、そこから得られる金銭から優先弁済を受けることが望まれること に な る の で あ ( 19) る。 質 権 者 が 工 業 所 有 権 の 客 体 の 実 施 (使 用) 能 力 者 以 外 の 場 合 に は、 質 権 の 目 的 で あ る 工 業 所 有 権 の 客 体 の 実 施 (使 用) を 質 権 設 定 者 (工 業 所 有 権 者) に 委 ね て 債 権 の 弁 済 を 容 易 な こ と と し、 質 権 設 定 者 (工 業 所 有 権 者 な ど) が 質 権 の 目 的 で あ る 工 業 所 有 権 な ど を 放 棄 す る 場 合 ま た は 質 権 の 目 的 で あ る 特 許 権 (実 用 新 案 権) の 客 体である内容を訂正する場合は、質権者の承諾をも必要としてい ( 20) る。 (c) 工 業 所 有 権、 専 用 実 施 権 (使 用 権) ま た は 通 常 実 施 権 (使 用 権) を 目 的 と す る 質 権 は、 特 許 庁 に 備 え る 特 許 原 簿 な ど に 登 録 し、 そ れ ら を 公 示 す る (特 許 二 七 条、 実 用 新 案 四 九 条、 意 匠 六 一 条、 商 標 七 一 条) 。 な お、 工 業 所 有 権 ま た は 専 用 実 施 権 (使 用 権) を 目 的 と す る 質 権 は、 特 許 原 簿 な ど へ の 登 録 が 効 力 発 生 要 件 で あ る (特 許 九 八 条 一 項 三
号、実用新案二五条三項、意匠三五条三項、商標三四条三項) 。 (d) 工 業 所 有 権、 専 用 実 施 権 (使 用 権) ま た は 通 常 実 施 権 (使 用 権) を 目 的 と す る 質 権 に は、 物 上 代 位 性 が 認 め ら れ て い る。 そ の 効 力 は、 工 業 所 有 権 な ど の 対 価 ま た は 工 業 所 有 権 の 客 体 の 実 施 (使 用) に 対 し て そ の 工 業 所 有 権 者 あ る い は 専 用 実 施 権 者 (使 用 権 者) が 受 け る べ き 金 銭 そ の 他 の 物 に 及 ぶ の で あ る。 そ し て、 質 権 者 が 物 上 代 位 権 を 行 使 す る に は、 金 銭 の 払 渡 し ま た は 物 の 引 渡 し 前 に 差 押 え る こ と が 必 要 で あ る (特 許 九 六 条、 実 用 新 案 二 五 条 二 項、意匠三五条二項、商標三四条二項) 。物上代位権行使における差押えの意義についての主な学説・判例としては、 第 三 債 務 者 保 護 説・ 特 定 性 維 持 説 そ し て 優 先 権 保 全 説 (物 上 代 位 権 保 全 説) が あ る。 判 例 の 動 向 と し て は、 古 く は 特 定 性 維 持 説 を 採 っ て い た が (大 判 大 正 四 年 六 月 三 〇 日 民 録 二 一 輯 一 一 五 七 頁) 、 連 合 部 判 決 (大 連 判 大 正 一 二 年 四 月 七 日 民 集 二 巻 五 号 二 〇 九 頁) に よ り 優 先 権 保 全 説 (物 上 代 位 権 保 全 説) に 見 解 を 改 め た が ( 最 判 昭 和 五 九 年 二 月 二 日 民 集 三 八 巻 三 号 四 三 一 頁、 最 判 昭 和 六 〇 年 七 月 一 九 日 民 集 三 九 巻 五 号 一 三 二 六 頁) 、 平 成 一 〇 年 に 民 法 三 〇 四 条 一 項 但 書 の 文 言そして目的債権に抵当権の効力が及ぶことは抵当権の登記によって公示がなされていることなどを理由に、第三 債 務 者 保 護 説 を 採 る こ と を 明 ら か に し た の で あ ( 21) る (最 判 平 成 一 〇 年 一 月 三 〇 日 民 集 五 二 巻 一 号 一 頁) 。 中 山 信 弘 名 誉 教 授は、債務者の一般財産の中に混入したものに対して質権の実行を認めると、他の債権者の利益を害する虞が大き いとして特定性維持説を採られてい ( 22) る。 質 権 が 設 定 さ れ て い る と き は、 工 業 所 有 権 者 は 専 用 実 施 権 者 (使 用 権 者) ま た は 通 常 実 施 権 者 (使 用 権 者) あ る い は 質 権 者 の 承 諾 を 得 な け れ ば、 工 業 所 有 権 を 放 棄 す る こ と は で き な い の で あ る (特 許 九 七 条 一 項、 実 用 新 案 二 六 条、意匠三六条、商標三五条) 。
著作権法は大別すると、第二章「著作者の権利」と第四章「著作隣接権」について規定している。そして第二章 「著 作 者 の 権 利」 に は、 著 作 者 人 格 権 (著 作 一 八 条 ~ 二 〇 条) と 著 作 権 に 含 ま れ る 権 利 の 種 類 (著 作 二 一 条 ~ 二 八 条) が含まれている。後者の著作権に含まれる権利の種類は、前者の著作者人格権に対するという意味で著作者財産権 とも呼ばれ、権利の財産的価値、譲渡性そして第三者によるこの財産権の行使の可能性からみて、質権の目的とな ることができる。 著 作 権 者 は、 質 権 を 設 定 す る こ と が で き ( 23) る。 著 作 権 を 目 的 と す る 質 権 の 設 定 は、 当 事 者 の 合 意 に よ っ て 成 立 す る。 そ し て、 こ の 質 権 を 第 三 者 に 対 抗 す る た め に は、 文 化 庁 長 官 が 著 作 権 登 録 原 簿 に 記 載 し て 行 う 登 録 (著 作 七 八 条一項) をしなければならない (著作七七条二号) 。 著作権者は、著作権を目的として質権を設定した場合においても、設定行為に別段の定めがない限り、自ら著作 権 を 行 使 す る こ と が で き る (著 作 六 六 条 一 ( 24) 項) 。 質 権 者 は、 著 作 権 の 譲 渡 ま た は 著 作 権 に 係 る 著 作 物 の 利 用 に つ い て 著作権者が受けるべき金銭その他の物に対しても、質権を行使することができるのである。そして、質権者が物上 代 位 権 を 行 使 す る に は、 金 銭 の 払 渡 し ま た は 物 の 引 渡 し 前 に こ れ ら を 受 け る 権 利 を 差 押 え る こ と が 必 要 で あ る (著 作六六条二項) 。なお、他者に利用の許諾を与える場合、質権者の許諾を得る必要はないとする見解もあ ( 25) る。 共同著作物の共有持分を目的とする質権の設定は、各共有者は他の共有者の同意を得なければ設定することがで きず、他の共有者は正当な理由がなければこの同意を拒むことができない (著作六五条一項・三 ( 26) 項) 。 (エ)譲渡担保 債 権 を 担 保 す る 方 法 と し て は、 物 の 所 有 権 を 債 務 者 (第 三 者) の 手 元 に 留 め、 物 の 占 有 の み を 債 権 者 に 移 転 す る と い う 制 限 物 権 型 と、 物 の 所 有 権 を 債 権 者 に 移 転 す る が、 そ の 占 有 は 債 務 者 (第 三 者) の 手 元 に 留 め る と い う 権 利
移 転 型 の 二 類 型 が あ ( 27) る。 後 者 は、 ロ ー マ 法 の fiducia と し て 発 達 し た 後 に イ ギ リ ス に 承 継 さ れ て 信 託 制 度 ( use か ら use upon use, trust ( 28) へ) と 相 ま っ て、 mortgage と し て 現 代 イ ギ リ ス の 担 保 制 度 の 主 要 な も の と な っ て い ( 29) る。 こ の 担 保制度は、ヨーロッパ大陸の国々では立法化をみることはなかったが、ドイツを初めわが国においても金融担保と して活発に利用されるに及んでいるのであ ( 30) る。このような譲渡担保が、なにゆえ取引界で利用されているのであろ うか。その理由としては、①債権者に動産を引き渡すことなく、担保化することができること ②いわゆる形成途 上にある財産権で、これを担保化するための法律上の根拠がないものについて、その担保化の手段となること ③ 優先弁済を得る換価方法として、質権や抵当権は競売手続きに拠るが譲渡担保では当事者が任意に定めることがで きること、などであ ( 31) る。 なお、譲渡担保の目的となることができる財産権には特に制限があることはなく、財産的価値がある権利で譲渡 することができるものは、すべて譲渡担保の目的とすることができるのであ ( 32) る 工 業 所 有 権 あ る い は 専 用 実 施 権 (使 用 権) に 対 す る 譲 渡 担 保 権 の 設 定 に つ い て は、 譲 渡 担 保 目 的 の 譲 渡 で あ る 旨 の登録はできないことから、債権者への譲渡の登録をすることにより行うことになる。すなわち、譲渡担保の目的 物 で あ る 権 利 の 移 転 が 特 許 原 簿 な ど に 登 録 さ れ る こ と を、 担 保 権 の 効 力 発 生 要 件 と し て い る こ と か ら (特 許 二 七 条、 実 用 新 案 四 九 条、 意 匠 六 一 条、 商 標 七 一 条) 、 そ の 権 利 移 転 の 登 録 が 譲 渡 担 保 成 立 の 要 件 と な る の で あ る。 な お、 専 用 実 施 権 (使 用 権) を 目 的 と す る 場 合 は、 工 業 所 有 権 者 の 承 諾 が 必 要 で あ る (特 許 七 七 条、 実 用 新 案 一 八 条、 意 匠 二七条、商標三〇条) 。 通 常 実 施 権 (使 用 権) を 目 的 と す る 譲 渡 担 保 は、 担 保 の 目 的 物 で あ る 権 利 の 移 転 が 特 許 原 簿 な ど に 登 録 さ れ る こ と を 効 力 発 生 要 件 と せ ず に、 第 三 者 へ の 対 抗 要 件 と し て い る (特 許 九 九 条、 実 用 新 案 一 九 条、 意 匠 二 八 条、 商 標 三 一
条) 。 こ の こ と か ら、 担 保 権 者 と 被 担 保 権 者 と の 合 意 の み で、 契 約 は 成 立 す る こ と に な る。 こ の 場 合、 通 常 実 施 権 者 (使 用 権 者) は、 工 業 所 有 権 者 お よ び 専 用 実 施 権 者 (使 用 権 者) の 承 諾 が 必 要 で あ る (特 許 九 四 条、 実 用 新 案 二 四 条、意匠三四条、商標三一条) 。 な お、 特 許 を 受 け る 権 利 は 質 権 の 目 的 と す る こ と は で き な い が (特 許 三 三 条 二 項) 、 譲 渡 担 保 の 目 的 と す る こ と に ついては特に禁止規定がないことから、譲渡担保の目的とすることはできると解されてい ( 33) る。 譲 渡 担 保 設 定 後 に お け る 工 業 所 有 権 等 の 客 体 の 実 施 (使 用) は、 工 業 所 有 権 等 を 目 的 と す る 質 権 の 場 合 と 同 様 で あると考えられ ( 34) る。 著 作 者 財 産 権 は、 そ の 譲 渡 性 が 規 定 さ れ て お り (著 作 六 一 条 一 項) 、 譲 渡 担 保 の 目 的 と す る こ と が で き る。 著 作 権 の譲渡担保は、質権設定の場合と基本的には同じであるが、第三者対抗要件は譲渡担保のための移転の登録である (著作七七条一項) 。 ( 11) 半 田 、 盛 岡 他 ・ 知 的 財 産 権 事 典 ― 第 二 版 ― ( 丸 善 平 成 一 七 年 ) 三 頁 、 盛 岡 一 夫 ・ 知 的 財 産 権 法 概 説 〔 第 四 版 〕( 法 学 書 院 平 成 一 九 年) 三 頁、 青 山・ 前 掲 注( 10) 一 頁、 中 山 信 弘・ 特 許 法(弘 文 堂 平 成 二 二 年) 二 頁 以 下。 特 許 庁 編・ 工 業 所 有 権 法 (産業財産権法)逐条解説〔第一七版〕 (発明協会 平成二〇年)序説。 ( 12) 盛岡・前掲注( 11)四頁以下。 ( 13) 盛岡・前掲注( 11)六頁以下。 ( 14) 我 妻 栄・ 新 版 新 法 律 学 辞 典(有 斐 閣 昭 和 四 二 年) 一 一 六 五 頁 で は、 無 体 財 産 権 と は、 有 体 物 に 対 す る 排 他 的 支 配 権 で あ る 物 権 に 対 し て、 非 有 体 的 利 益 に 対 す る 排 他 的 支 配 権 の 総 称 で、 著 作 権 を 含 む 点 で 工 業 所 有 権(特 許 権・ 実 用 新 案 権・ 意 匠 権・ 商 標
権)より広い概念をいう。 ( 15) 播 磨 良 承「無 体 財 産 権 の 担 保」 日 本 私 法 学 会 民 法 部 会 シ ン ポ ジ ウ ム(現 代 に お け る 担 保 法 の 諸 問 題) 資 料(昭 和 五 七 年) 一二二頁。 ( 16) 松本嵩「著作権」石井眞司=西尾信一編・特殊担保―その理論と実務―(経済法令研究会 昭和六一年)五七八頁。 ( 17) 中 山・ 前 掲 注( 11) 四 一 五 頁、 渋 谷・ 前 掲 注( 9) 三 六 五 頁、 後 藤 晴 男「工 業 所 有 権」 石 井 眞 司 = 西 尾 信 一 編・ 特 殊 担 保 ― そ の 理 論 と 実 務 ―(経 済 法 令 研 究 会 昭 和 六 一 年) 五 五 六 頁。 登 録 質 説 を 採 る も の と し て は、 豊 崎 光 衛・ 工 業 所 有 権 法〔新 版〕 (有 斐閣 昭和五五年)三二一頁、兼子一=染野義信・新特許 商標(青林書院新社 昭和三七年)一四〇頁がある。 ( 18) 特 許 を 受 け る 権 利 を 担 保 の 目 的 と す る に は、 現 行 法 上 で は 譲 渡 担 保 に よ ら ざ る を 得 な い の で あ る。 中 山・ 前 掲 注( 11) 一 五 八 頁 で は、 少 な く と も、 特 許 出 願 後 の 特 許 を 受 け る 権 利 に つ い て は 質 権 を 認 め る 方 向 で 検 討 す べ き で あ る と 指 摘 す る。 渋 谷・ 前 掲 注 ( 9) 三 六 五 頁 で は、 特 許 を 受 け る 権 利 に 質 権 を 設 定 で き な い 理 由 に つ い て は、 技 術 的、 法 理 的 に 克 服 で き な い 問 題 で は な い と 指 摘する。両者ともに、立法的解決を望まれている。 ( 19) 中山・前掲注( 11)四一五頁。 ( 20) 後藤・前掲注( 17)五五七頁以下。 ( 21) 拙稿「物上代位権行使における「差押え」の意義」東洋三七巻一二月号(平成一二年)一四頁以下。 ( 22) 中山・前掲注( 17)四一五頁。 ( 23) 相 澤 英 孝 = 西 村 あ さ ひ 法 律 事 務 所 編 著・ 知 的 財 産 法 概 説〔第 四 版〕 (弘 文 堂 平 成 二 二 年) 三 九 五 頁。 松 本・ 前 掲 注( 16) 五 八 〇 頁 で は、 著 作 権 法 は、 著 作 権 の 質 入 れ を 許 す 直 接 の 規 定 は な い が、 質 権 設 定 を 前 提 と す る 著 作 権 法 六 六 条 が あ る こ と か ら、 その可能性については疑問の余地がないとする。 ( 24) 松 本・ 前 掲 注( 16) 五 八 一 頁 で は、 著 作 権 質 は 質 権 と は 言 っ て も、 著 作 権 の 行 使 が 原 則 と し て 設 定 者 で あ る 著 作 権 者 に 留 保 さ れていることから、実質的には抵当権に近い性質を持つに至ったことを示すものであると、指摘している。 ( 25) 田村善之・著作権法概説〔第二版〕 (有斐閣 平成一三年)五一一頁。
( 26) 加 戸 守 行・ 著 作 権 法 逐 条 講 義(四 訂 新 版) (著 作 権 情 報 セ ン タ ー 平 成 一 五 年) 三 八 四 頁 で は、 本 規 定 は 著 作 権 共 有 者 間 の 連 帯性を確保する観点から、民法上の準共有に関する規定の一部の適用を排除したとする。 ( 27) 水島・前掲注( 1 )増補特殊担保法要義二九三頁。 ( 28) 水 島 廣 雄・ 信 託 法 史 論(学 陽 書 房 昭 和 四 九 年) 二 三 四 頁 以 下、 同・ 二 重 信 託〈 use upon use 〉(学 陽 書 房 昭 和 五 四 年) 一九頁以下。 ( 29) 水島廣雄「イギリス譲渡抵当の変遷とその内容」法律時報二八巻一一号三〇頁以下・二九巻三号一一一頁以下。 ( 30) 水島・前掲注( 1)増補特殊担保法要義二九四頁。 ( 31) 柚木馨=福地俊雄・注釈民法( 9)(有斐閣 昭和四〇年)三一九頁以下。 ( 32) 我妻・前掲注( 2 )六〇九頁。 ( 33) 中 山・ 前 掲 注( 11) 一 五 八 頁、 青 山・ 前 掲 注( 10) 四 七 頁、 渋 谷・ 前 掲 注( 9) 三 六 五 頁、 盛 岡・ 前 掲 注( 11) 三 三 頁、 相 澤 =西村あさひ法律事務所・前掲注( 23)三九一頁など。 ( 34) 元木伸・特許民法(発明協会 昭和五一年)二七一頁。 三 無体財産権の担保⑵ 財団抵当法、企業担保法 (ア)財団抵当法 財団抵当制度の制定には、次のような産業界からの要望が存した。その一つとしては、民法典施行後、日清・日 露の戦争を契機にわが国の経済はにわかに発展したことにより金融資本が欠乏したことであった。そこで、鉄道や 紡績業を中心に産業界は、低金利で豊富な外国資本の導入の必要性に迫られたことから、綿紡工業の事業家たちは 「抵 当 の 機 械 に も 相 当 の 価 格 を 附 し 評 価 さ れ る こ と」 な ど、 抵 当 制 度 に 関 す る 建 議 要 望 は 多 く を 数 え、 工 業 分 野 に
おける生産信用への要望は十分に高まっていたのであ ( 35) る。 これに対してわが国の法律は、どのようになっていたのであろうか。民法は約定担保物権として質権と抵当権を 規 定 し て い る が、 物 権 に は 独 立 す る 物 の 集 合 体 に は 一 つ の 独 立 し た 所 有 権 は 成 立 し な い と い う 原 則 が 存 在 し て い る。そして、工場に属する土地または建物に抵当権を設定した場合に、従物理論から工場に属する土地または建物 に備え付けられた機械・器具などの動産に抵当権の効力が及ぶのかという問題 (民法三七〇条との関連) が存す ( 36) る。 さらに、工場に属する土地または建物に備え付けられた機械・器具などの動産に質権を設定する場合には、担保の 目 的 物 で あ る 機 械・ 器 具 な ど の 動 産 を 債 権 者 に 引 渡 す 必 要 性 か ら (民 法 三 四 四 条) 、 こ の こ と は 企 業 の 生 産 手 段 を 奪 うことになるので、動産質権は企業にとっては利用することができない担保制度となるのである。 そこで、工場の設備を担保化する方法としては、工場に属する土地または建物については抵当権を、機械・器具 などの動産には譲渡担保権を設定する方法が採られることになった。しかしながら、このような担保方法では担保 権 の 設 定 に 多 額 の 費 用 が か か る ば か り で な く、 担 保 権 が 個 々 に 実 行 さ れ た 場 合 に は 企 業 が 崩 壊 す る 虞 が あ る の で あった。また、企業を構成する物的設備は互いに有機的に結合されて一体をなしていることから、これらを単一体 として担保の目的とすることが望まれたのであった。このような状況下において、外債の担保としてドイツ法系の 財団抵当制度を導入すべきか、イギリス法系の浮動担保制度を採用すべきかが論争されたのである。その結果、立 法策としてドイツ・プロイセンの鉄道抵当法 ( Gesetz über die Bahneinheiten 1895 ) などを参考にして鉄道抵当法・ 工場抵当法および鉱業抵当法ならびに担保附社債信託法が、明治三八年に制定・施行されたのである。 財団抵当とは、企業を構成する土地・建物、機械・器具などの物的施設はもちろん、地上権・賃借権・無体財産 権などの権利をも含めてこれらを有機的単一体として把握し、企業独自の担保価値を各業種の財団抵当法により、
財団目録を作成して財団登記簿に記載して抵当の目的とする制度であ ( 37) る。しかし、財団抵当法における財団は、企 業財産のすべてを以て構成されるのではなく、各種財団の組成物件の範囲をどのように定めるかは財団抵当法に於 いて重要な問題であり、併せて担保権実行の関係などから組成物件は法定せざるを得ないのであ ( 38) る。 工 業 所 有 権 は、 工 場 財 団・ 鉱 業 財 団・ 漁 業 財 団 の 組 成 物 件 と す る こ と が で き る (工 場 抵 当 法 一 一 条 五 号、 鉱 業 抵 当 法 二 条 六 号、 漁 業 財 団 抵 当 法 二 条 八 号) 。 こ こ に い う 工 業 所 有 権 と は、 特 許 権・ 実 用 新 案 権・ 意 匠 権 そ し て 商 標 ( 39) 権 と こ れ ら 本 権 と 経 済 上 同 一 の 作 用 を な す そ の 実 施 権 あ る い は 使 用 権 を い ( 40) う。 こ の 工 業 所 有 権 そ し て 実 施 権 (使 用 権) は、 近 代 的 な 工 場 の 生 産 設 備 と 密 接 な 関 係 と 重 要 な 価 値 を 有 す る も の で あ る こ と か ら 工 場 財 団 の 組 成 物 件 と な る が、特許権、実用新案権、意匠権および商標権は登録によって発生する権利であることから、組成物件とするため に は、 そ の 設 定 の 登 録 を 受 け て い る こ と が 必 要 で あ る (特 許 六 六 条 一 項、 実 用 新 案 一 四 条 一 項、 意 匠 二 〇 条 一 項、 商 標 一 八 条 一 項) 。 工 業 所 有 権 そ し て 実 施 権 (使 用 権) が 共 有 の 対 象 と な っ て い る と き の 各 共 有 者 が そ の 共 有 持 分 を 譲 渡 す る に は、 他 の 共 有 者 の 同 意 を 得 な け れ ば な ら な い (特 許 七 三 条 一 項・ 七 七 条 五 項・ 九 四 条 五 項、 実 用 新 案 二 六 条・ 一 八 条 三 項・ 一 九 条 三 項、 意 匠 三 六 条・ 二 七 条 三 項・ 二 八 条 三 項、 商 標 三 五 条・ 三 〇 条 四 項・ 三 一 条 四 項) 。 そ こ で、 こ れ らの共有持分を財団の組成物件とするためには、あらかじめ他の共有者全員の同意を得ていることが必要となる。 そ し て、 こ れ ら の 工 業 所 有 権 そ し て 実 施 権 (使 用 権) の 共 有 持 分 を 財 団 の 組 成 物 件 と す る た め に は、 そ の 共 有 持 分 の登録 (特許登三三条、実用新案登七条、意匠登七条、商標登八条) がなされていることを要すると解されてい ( 41) る。 なお、工業所有権を受ける権利は財産権であり移転性を有するものではあるが、担保に供することはできないも の と さ れ て い る こ と か ら (特 許 三 三 条 一 項・ 二 項、 実 用 新 案 九 条 二 項、 意 匠 一 五 条 二 項、 商 標 一 三 条 二 項) 、 工 場 抵 当 法 一一条も工業所有権を受ける権利を工場財団の組成物件とすることは認めていな ( 42) い。
(イ)企業担保法 わが国において企業を担保化して金融を図る制度としては、前述の各種財団抵当法と企業担保法がある。財団抵 当 制 度 で は 、 ① 担 保 の 客 体 で あ る 財 団 の 組 成 物 件 が 法 定 さ れ て い る こ と か ら 、 企 業 の 全 体 を 把 握 す る こ と が 不 十 分 な 点 ② 各 種 財 団 は 各 種 財 団 抵 当 法 に よ り 成 立 す る こ と か ら、 財 団 組 成 に つ い て は 業 種 的 に 制 約 さ れ て い る 点 ③財団の組成ならびに管理のために煩瑣な手続きと高額な費用を要する点、という欠陥を払拭するためにイギリ スの Floating charge を範として企業担保法が成立したのであ ( 43) る。 イ ギ リ ス の Floating charge と は、 「従 来 わ が 国 に 行 わ れ て い る 財 団 抵 当 と 異 な り、 担 保 物 を 固 定 せ し め な い 特 殊な謂わば企業そのものを担保とする制度である。この制度によれば担保設定会社に債務の不履行、事業の停止、 解散等のことがあればその時に会社の総財産が担保物として特定するが、それまでは従来の財団抵当と異なり担保 設定会社は自由にその財産を処分し得ると同時に新たに取得した財産が自動的に担保の目的物に繰入れられること となるので浮動担保と称せられている。要するに担保物件を固定せしめる財団抵当に比しはるかに機動的であり、 且つ企業が順調に行われている限り、担保権の設定によってその経営に何らの制約を受けない所がこの制度の特徴 で英法系に発達した制度であ ( 44) る。 」 企業担保法は、株式会社の発行する社債を担保するために、その会社の総財産を一体として企業担保権の目的と す る こ と が で き る と 規 定 し、 こ の 企 業 担 保 権 を 物 権 と し て い る (企 業 担 保 一 条) 。 企 業 担 保 権 の 目 的 物 (客 体) と な るものは、株式会社の一体としての総財産であり、企業の運営過程でその内容は変動する状態における総財産であ る (企 業 担 保 二 条 一 項) 。 こ こ に い う「総 財 産」 と は、 企 業 を 構 成 す る 総 財 産 と い う 意 味 で は な く、 民 法 が 規 定 し て い る 一 般 の 先 取 特 権 の 対 象 と な っ て い る 総 財 産 (民 法 三 〇 六 条) と 同 様 に 解 釈 さ れ て い る。 具 体 的 に は、 不 動 産・
動産・債権・用益権・工業所有権・鉱業権・漁業権・電話加入権などが該当する。商号・企業特有の技術あるいは 熟 練 ま た は 暖 簾 な ど は、 「総 財 産」 の 対 象 に は 含 ま れ な い。 営 業 権 は、 直 接 に は「総 財 産」 に は 含 ま れ な い が、 実 質的には担保価値に含まれると解されるであろ ( 45) う。 企業担保権の目的物である「総財産」が企業の運営過程において浮游すること、すなわち担保目的物の流出そし て 流 入 は 自 由 で あ り (企 業 担 保 二 条) 、 こ の こ と は 企 業 を 生 き た ま ま の 状 態 で 担 保 化 す る う え で 重 要 な こ と で あ り、 この担保制度の特異性を示すことでもあ ( 46) る。 企 業 担 保 権 の 設 定 あ る い は 変 更 を 目 的 と す る 契 約 は、 公 正 証 書 に よ る こ と を 要 し (企 業 担 保 三 条) 、 そ の 得 喪 お よ び 変 更 は 株 式 会 社 登 記 簿 へ の 登 記 を 効 力 発 生 要 件 と し て い る (企 業 担 保 四 条) 。 企 業 担 保 権 は、 総 財 産 に 含 ま れ る 個々の財産に対して設定されるのではなく、一体としての一個の総財産上に一個の企業担保権が設定されるのであ る。 そ こ で、 個 々 の 財 産 に つ い て 企 業 担 保 権 が 公 示 さ れ な い こ と か ら、 企 業 担 保 権 の 登 記 後 に 対 抗 要 件 を 備 え た 個々の財産上の権利である一般の先取特権や質権そして抵当権などは、企業担保権に優先することになる。 ( 35) 水 島・ 前 掲 注( 1) 増 補 特 殊 担 保 法 要 義 八 八 頁、 福 島 正 夫 = 清 水 誠「日 本 資 本 主 義 と 抵 当 制 度 の 発 達」 法 律 時 報 二 八 巻 一 一 号 四頁。 ( 36) 我 妻・ 前 掲 注( 2 ) 二 五 九 頁、 於 保 不 二 雄「附 加 物 及 び 従 物 と 抵 当 権」 民 商 法 雑 誌 二 九 巻 五 号 一 頁 以 下、 湯 浅 道 男「抵 当 権 の 効 力 の 及 ぶ 範 囲」 星 野 英 一 編 民 法 講 座 3 (有 斐 閣 昭 和 五 九 年) 四 七 頁 以 下 な ど が あ り、 最 近 の 研 究 論 文 と し て は、 た と え ば 拙 稿・前掲注( 3 )「工場抵当法三条目録の効力について」三一一頁参照。 ( 37) 財 団 抵 当 に 関 す る 詳 細 な 文 献 と し て は、 水 島・ 前 掲 注( 1) 増 補 特 殊 担 保 法 要 義 八 七 頁 以 下、 清 水 誠「財 団 抵 当 法」 講 座 日
本 近 代 法 発 達 史 4 (勁 草 書 房 昭 和 三 三 年) 九 五 頁 以 下、 香 川 保 一・ 特 殊 担 保(金 融 財 政 事 情 研 究 会 昭 和 三 八 年) 、 栗 栖 赳 夫・ 信 託 法 = 財 団 抵 当 法 の 研 究(有 斐 閣 昭 和 四 三 年) 、 島 津 一 雄・ 工 場 抵 当、 財 団 抵 当 の 実 務(商 事 法 務 研 究 会 昭 和 四 六 年) 、 酒 井 栄 治・工場抵当法〈特別法コンメンタール〉 (第一法規出版 昭和六三年)など。 ( 38) 拙稿・前掲注( 7 )八頁以下。 ( 39) 香 川 保 一・ 工 場 及 び 鉱 業 抵 当 法(港 出 版 合 作 社 昭 和 二 八 年) 一 二 三 頁 で は、 工 場 財 団 の 組 成 物 件 の 一 つ で あ る 工 業 所 有 権 の う ち 商 標 権 を 含 む か 否 か に つ い て 二 説 を 紹 介 し、 消 極 説 を 支 持 し て い る。 香 川・ 前 掲 注( 37) 二 二 二 頁 で は、 昭 和 三 五 年 三 月 三 一 日 付 民 事 甲 第 七 八 五 号 民 事 局 長 通 達 に よ り、 従 来 は、 商 標 権 は 含 ま な い と 解 さ れ て き た が、 昭 和 三 四 年 の 商 標 法 全 面 改 正 に よ り 商 標権およびその専用使用権、通常使用権なども工場財団の組成物件となった、と指摘している。 ( 40) 香 川・ 前 掲 注( 37) 二 二 〇 頁、 津 島・ 前 掲 注( 37) 一 四 四 頁 は、 本 条 に い う 工 業 所 有 権 と は 狭 義 の 意 味 で あ っ て、 独 立 し て 譲 渡 性 を 有 し な い も の は 工 場 財 団 の 組 成 物 件 に は 該 当 し な い。 平 野 忠 昭・ 鉱 業 抵 当 法〈特 別 法 コ ン メ ン タ ー ル〉 (第 一 法 規 出 版 昭 和五一年)一七頁。 ( 41) 酒井・前掲注( 37)一一五頁。 ( 42) 香川・前掲注( 37)二二二頁。 ( 43) 水島・前掲注( 1)増補特殊担保法要義一二九頁以下。 ( 44) 昭和二八年一〇月二六日毎日新聞朝刊。 ( 45) 香川・前掲注( 37)七六六頁。 ( 46) 財 団 抵 当 制 度 で は、 財 団 組 成 時 に お け る 組 成 物 件 に つ い て の 登 記・ 登 録 な ら び に 新 陳 代 謝 に 伴 う 登 記・ 登 録 の 変 更 が 必 要 で あ る が、 こ れ に 関 す る 手 続 き の 煩 雑 さ も 企 業 担 保 法 は 払 拭 し て い る。 す な わ ち、 企 業 財 産 の 流 失・ 流 入 に あ た っ て は 民 法 一 三 七 条・ 一七六条・一七七条の適用がないのである。
四 おわりに わが国における担保物権制度の発達の契機は、近代経済取引の発展が必然的に信用の拡大を伴い、素朴な一物一 権主義の原則を崩壊させたことである。このことは、民法の担保物権の規定が近代資本主義においてその役割を十 分に発揮することについて甚だしく不十分であったことを物語っていることでもあ ( 47) る。近代経済取引の発展は、周 知のごとく財団抵当制度をはじめとして抵当証券や動産抵当など幾多の新制度を創設させて、担保物権法が民法の 中で最も多くの特別法を擁することになったのである。しかし、これらの目覚ましい立法をもってしても、経済的 要請は満足せず根抵当や譲渡担保の制度を確立させてきたのである。財団抵当制度は、企業を担保する制度として 活用されてきたが、企業担保としての本質そして近代的経営形態の企業の担保としては、批判を免れないのであっ た。このような財団抵当制度の欠陥を払拭し、更に醇化された企業の担保制度として企業担保法の創設を見たので あった。 無 体 財 産 権 を 担 保 の 目 的 と す る こ ( 48) と に つ い て、 本 稿 で は 実 定 法 を 中 心 に 考 察 し て き た が、 銀 行 取 引 で こ の 無 体 財 産権を担保の目的とする例は、担保評価が困難なこともありほとんど無いとされる。その理由としては、次のよう な指摘がなされている。 石井・杉山の両氏は、無体財産権を担保に取ったとしても債権保全のための担保というよりは、むしろ債務者に 対して心理的圧迫を加えて弁済を促すという点に重点が置かれると指摘してい ( 49) る。 金井高志氏は、知的財産権の担保目的物としての問題点として、不動産と異なり存続期間が限られていること、 知的財産権の価値の下落や同一性および価値維持の必要性、そして担保対象の流通市場の整備を指摘してい ( 50) る。
土 生 哲 也 氏 は、 知 的 財 産 権 担 保 融 資 を 行 う た め の 主 要 課 題 を 時 系 列 で 区 分 し、 融 資 実 行 前 (担 保 評 価) で は 法 的・ 技 術 的・ 市 場 性 の 各 側 面 を 考 慮 す る こ と、 融 資 実 行 後 (担 保 管 理) で は 年 金 納 付 状 況 の 確 認 な ど 知 的 財 産 権 に 固有の課題が生ずること、そして債権回収時 (担保処分) では処分先の確保を指摘す ( 51) る。 小川幸士教授は、特許権の担保価値評価と担保権実行に伴う担保特許の困難さが、特許権の担保化を阻害してい る主要因であり、知的財産権の流通市場が存在しないことも要因として指摘され、主要因についての解決方法を提 案してい ( 52) る。 田代泰久氏は、知的財産担保のリスクが高いことを指摘し、あわせて財団抵当制度におけるソフトウェアが財団 組成物件となっていないことに対する知的財産の財団組成物件化と新しい財団の創設について論究してい ( 53) る。 相澤英孝=西村あさひ法律事務所編著によれば、知的財産権の取引の特色を指摘し、とくにファイナンス取引と の関係においては取引対象の寿命の問題・利用者にとって取引の対象となる権利の価値が変化すること・担保価値 の予測が困難であることをあげてい ( 54) る。 渋谷達紀名誉教授は、質権あるいは譲渡担保により知的財産権を担保化するにしても、一個の知的財産権のみを 目的として担保権を設定することは、通常は意味をなさないことであり、特許権であれば周辺の特許権やそれらを 実施するためのノウハウも含めなければ、担保価値は生じないことを指摘する。工場抵当法では、ノウハウなどの 権 利 化 さ れ て い な い 財 産 権 を 財 団 組 成 物 件 と す る こ と は で き ず (工 場 抵 当 一 一 条) 、 企 業 担 保 法 に よ れ ば 株 式 会 社 が 有 す る 総 財 産 を 担 保 化 す る こ と は で き る が、 被 担 保 債 権 が 社 債 で あ る こ と が 法 定 さ れ て お り (企 業 担 保 一 条 一 項) 、 それ以外では利用できないところに限界があると指摘してい ( 55) る。
企業における無体財産権の担保化を指向するためには、まず渋谷名誉教授が説かれるごとく、一個の知的財産権 のみを担保権の客体とすることは企業においては通常あまり意味がないということから出発して、当該無体財産権 およびその周辺の無体財産権や実施するためのノウハウを含めて担保として評価すること、あるいは企業の総財産 としてそれらの担保価値を評価の対象とすることが考えられよう。 この場合、個別担保である民法上の担保物権では担保価値の把握について問題が残り、集合物担保である財団抵 当 制 度 で は 担 保 物 権 (目 的 物) が 法 定 さ れ て い る こ と や 利 用 に お け る 財 団 に 業 種 的 な 制 約 が あ る こ と、 そ し て 企 業 担保法では被担保債権が社債に限られていることから、企業における無体財産権の担保化は、現行実定法の解釈論 では困難な問題であるといえよう。 ( 47) 我妻・前掲注( 2 )七頁。 ( 48) 田 代 泰 久・ 知 的 財 産 権 担 保 融 資 の 理 論 と 実 務(清 文 社 平 成 八 年) 三 頁 以 下 で は、 「知 的 財 産 権 担 保 化 論 の 背 景 と 位 置 づ け」 と し て、 ① 歴 史 的 視 点 か ら み た 知 的 財 産 の 担 保 化 ② 金 融 構 造 か ら み た 知 的 財 産 の 担 保 化 ③ 社 会 構 造 か ら み た 知 的 財 産 の 担 保 化 ④事業資産担保としての知的財産 という視点から知的財産の担保化について論究している。 ( 49) 石 井 真 司 = 杉 山 清 次「企 業 担 保、 そ の 他 の 無 体 財 産 権 担 保」 金 融 取 引 法 大 系 五 巻 担 保・ 保 証(有 斐 閣 昭 和 五 九 年) 二 〇 二 頁。 ( 50) 金井高志・民法でみる知的財産法(日本評論社 平成二〇年)一三二頁。 ( 51) 土生哲也・よくわかる知的財産権担保融資(社団法人金融財政事情研究会 平成二〇年)一三二頁以下。 ( 52) 小川・前掲注 ( 10) 六五頁、 六九頁では、 特定の特許権を中心とする 「事業」 の担保化 (延長型特許権譲渡担保) を指向する。 ( 53) 田代・前掲注( 48)五五頁以下、六三頁以下。
( 54) 相澤=西村あさひ法律事務所・前掲注( 23)三八四頁以下。 ( 55) 渋谷・前掲注( 9)三六六頁以下。 ―こばやし ひでとし・法学部教授―