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抵当権に基づく妨害排除請求 (平成17年度 退職記念号 武藤 節義 教授 田中 学 教授 丹藤 佳紀 教授) 利用統計を見る

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抵当権に基づく妨害排除請求 (平成17年度 退職記

念号 武藤 節義 教授 田中 学 教授 丹藤 佳紀 教

授)

著者名(日)

太矢 一彦

雑誌名

東洋法学

49

2

ページ

41-74

発行年

2006-03-25

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00000593/

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抵当権に基づく妨害排除請求

はじめに

東洋法学

 民法三六九条一項は、抵当権について、債務者又は第三者の抵当目的物についての占有を移すことなく、債務 の担保として供した不動産について、優先弁済権を受ける権利であると規定する。そして、抵当権は物権として 規定されていることから、これが侵害される場合には、物権的請求をもって、その侵害の排除を請求することが できることには異論がないところである。しかし、抵当権は、抵当目的物の占有を内容としない権利であること から、所有権その他の用益物権とは支配の形態を異にしている。  この点について、従来からの通説的見解とされる抵当権価値権論の立場からの説明によれば、抵当権は、抵当 目的物の交換価値のみを把握する権利であり、抵当物件を物理的に破壊、殿損して、その交換価値そのものを駿 損する場合には、抵当権者は、物上代請求権を行使して、それらの行為をする者に対し行為の排除、中止および 41

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抵当権に基づく妨害排除請求 その価値減少に伴う損害賠償の請求をすることができるが、抵当権者には、自ら目的物を使用収益する権限がな く、また他人がこれを使用収益するに付いても干渉を加えることができないことから、単に使用収益を何人がな       ︵−︶ すのか、また目的物権の占拠が不法なりやというようなことは、抵当権侵害とはなりえないとされる。  つまり、この見解をそのままあてはめるならば、目的物件を物理的に殿滅、損壊する以外の方法で、抵当権の 把握する抵当物件の価値を非物理的、非有形的に減少させる行為が行われた場合、その典型としては、抵当権者 に対抗することができない第三者による抵当物件の占有が行われたような場合には、抵当権者は物上請求権を行 使して、右占有者を排除することができないということになるのである。        ︵2︶  そして、大判昭和九年六月一五日は、﹁抵当権ハ其ノ設定者ガ占有ヲ移サズシテ債権ノ担保二供シタル不動産二 付他ノ債権者二先チテ自己ノ債権ノ弁済ヲ受クル一ノ価値権タルニ止マリ、抵当不動産ノ使用収益ハ勿論其ノ占 有ヲ為ス権利ヲモ包含セザルガ故二、縦令何人カガ無権限二当該不動産ヲ占有シ其ノ使用収益ヲ為シタリトテ、 之ガ為メ例ヘバ抵当物ヲ殿損シ其ノ価格ヲ低減スル虞アルガ如キ場合ヲ外ニシテ、抵当権ハ何等増損セラルルコ ト﹂はないとして、通説と同様の立場を述べていたのである。  その後、バブル経済の崩壊にともなって、短期賃貸借制度の濫用が社会問題とされるようになり、下級審判決 において、占有権原のない者に対する抵当権に基づく妨害排除を肯定する判決と否定する判決とが激しく対立す       ︵3︶ るようになった。そして、そのようななかで、最高裁は、短期賃貸借の排除が間題とされた最二小判平成三年三    ︵4︶ 月二二日︵以下、﹁平成三年判決﹂とする︶において、抵当権に基づく妨害排除請求を明確に否定する判断をなし

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東洋法学

たのである。  平成三年判決は、まず抵当権の性質について、﹁抵当権は、設定者が占有を移さないで債権の担保に供した不動 産につき、他の債権者に優先して自己の債権の弁済を受ける担保権であって、抵当不動産を占有する権原を包含 するものではなく、抵当不動産の占有はその所有者にゆだねられている﹂とし、﹁その所有者が自ら占有し又は第 三者に賃貸するなどして抵当不動産を占有している場合のみならず、第三者が何ら権原なくして抵当不動産を占 有している場合においても、抵当権者は、抵当不動産の占有関係について干渉し得る余地はないのであって、第 三者が抵当不動産を権原により占有し又は不法に占有しているというだけでは、抵当権が侵害されるわけではな い﹂とする。そして、さらに、﹁抵当権の実行の場合の抵当不動産の買受人が、民事執行法八三条︵一八八条によ り準用される場合を含む。︶による引渡命令又は訴えによる判決に基づき、その占有を排除することができること によって、結局抵当不動産の担保価値の保存、したがって抵当権者の保護が図られているものと観念されている﹂ とした。  この判決では、特に以下の二点が重要なポイントとなろう。まず、第一に、本判決は、従来より主張されてい た抵当権価値権論の立場を支持し、第三者が抵当目的物を占有していることが直ちに抵当権の侵害とはならない としたこと。第二に、第三者の占有は、執行手続によって排除することができることから、第三者の占有それ自 体が抵当目的物の担保価値を下落させることはないとしたことである。       ︵5︶  その後、最高裁は、抵当不動産の不法占有者の排除が間題とされた最大判平成一一年一一月二四日︵以下、﹁平 43

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抵当権に基づく妨害排除請求 成一一年判決﹂とする︶において、抵当建物の所有者が、無権原占有者に対して有する所有権に基づく妨害排除 請求権を抵当権者が代位行使を行うことを認めるとともに、傍論ながらも抵当権に基づく妨害排除請求を肯定す る。  平成一一年判決では、まず抵当権の性質について、﹁抵当権は、競売手続において実現される抵当不動産の交換 価値から他の債権者に優先して被担保債権の弁済を受けることを内容とする物権であり、不動産の占有を抵当権 者に移すことなく設定され、抵当権者は、原則として、抵当不動産の所有者が行う抵当不動産の使用又は収益に ついて干渉することはできない﹂としながらも、﹁第三者が抵当不動産を不法占有することにより、競売手続の進 行が害され適正な価額よりも売却価額が下落するおそれがあるなど、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵 当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、これを抵当権に対する侵害と評価するこ とを妨げるものではない﹂とした。そして、この場合に、﹁抵当不動産の所有者は、抵当権に対する侵害が生じな いよう抵当不動産を適切に維持管理することが予定されている﹂ので、抵当権者は、﹁右状態があるときは、抵当 権の効力として⋮⋮抵当不動産の所有者に対し、その有する権利を適切に行使するなどして右状態を是正し抵当 不動産を適切に維持又は保存するよう求める請求権を有する﹂として、その維持・保存請求権の代位請求として、 抵当権者の明渡請求を肯定した。また傍論で、抵当権に基づく妨害排除請求について、﹁なお、第三者が抵当不動 産を不法占有することにより抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難と なるような状態があるときは、抵当権に基づく妨害排除請求として、抵当権者が右状態の排除を求めることも許

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されるものというべきである﹂としたのである。  平成一一年判決については、平成三年判決の第二のポイントである執行手続における減価についての判断に変 更があったとみることができるが、この判決が、第一のポイントである抵当権の性質論を大きく転換したもので    ︵6︶       ,      ︵7︶ あるのか、あるいは、その基本的な理論構成に変更はないとみるのかについて学説の見方は異なっている。そし て、この平成一一年判決において、平成三年判決の基本的な理論構成に変更はないと解する多くの見解は、後で みるように、平成三年判決を抵当権の性質論についての原則を述べたものとし、平成一一年判決はその例外につ いて判示したものであるとすることで、抵当権価値権論の枠内で抵当権の妨害排除を論拠付けようとする。  平成一一判決は、代位請求の事案であったことから、傍論として、妨害排除請求が可能であることを判示する        ︵8︶ にとどまっていた。しかし、次の最一判平成一七年三月一〇日︵以下、﹁平成一七年判決﹂とする︶は、所有者に よる占有権原の設定があるため直ちには債権者代位権構成をとれない事案であった。つまり、平成一一年判決で は、抵当不動産の占有者がまったくの無権原者であって、そのような﹁無権原占有者﹂に対する妨害排除請求の 可否が問題とされたのに対して、平成一七年判決の事案では、妨害排除の対象とされる者が転貸借を有するとみ られる者であり、そのような﹁有権原占有者﹂に対する妨害排除請求の可否が直接争われたのである。  平成一七年判決は、まず﹁所有者以外の第三者が抵当不動産を不法占有することにより、抵当不動産の交換価 値の実現が妨げられ、抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、占 有者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求として、上記状態の排除を求めることができる︵最高裁平成八年︵オ︶ 45

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抵当権に基づく妨害排除請求 第一六九七号同二年二月二四日大法廷判決・民集五三巻八号一八九九頁︶﹂とし、先の平成二年判決の立場 を確認した上で、﹁抵当権設定登記後に抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けてこれを占有する者につい ても、その占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ、その占有により抵当不 動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵 当権者は、当該占有者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求として、上記状態の排除を求めることができるもの というべきである。なぜなら、抵当不動産の所有者は、抵当不動産を使用又は収益するに当たり、抵当不動産を 適切に維持管理することが予定されており、抵当権の実行としての競売手続を妨害するような占有権原を設定す ることは許されないからである﹂として、本判決において抵当権に基づく妨害排除請求が明確に肯定されること になるのである。  このようなことからも、現在、抵当権に基づく妨害排除請求については、それを肯定する結論それ自体は、す でに判例において認められたものであり、また後でみるように学説上もその結論にはほとんど異論がない状況と いえる。しかし、先にみたように、平成一一年判決︵ないし平成一七年判決︶は、平成三年判決における抵当権 の性質の理解に転換があったとみるのか、それとも平成一一年判決は、あくまで平成三年判決の原則の例外と解 すべきであるのかについて学説の解釈が分かれているように、抵当権の性質と妨害排除請求の理論構成との関係 をどのようにみるのかについて、判例の理論構成は明確とはいえないのである。  この点を明らかにするには、従来からの通説的見解である抵当権価値権論の立場、すなわち抵当権の性質につ

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いて、抵当権者は目的物の使用収益権限には干渉しえず、交換価値のみを支配する権利であると解することを前 提とする場合、妨害排除請求をどう根拠付けることができるのか、あるいは、そのような抵当権価値権論に基づ く立論そのものが妥当であるのか、つまり、抵当権の性質をどのようなものと理解したうえで妨害排除請求につ いて立論していくのが妥当であるかという観点からの検討が必要ではないかと考えられる。  このようなことから、本稿では、抵当権に基づく妨害排除請求について、特に抵当権の性質論との関係に焦点       ︵9︶ をあてながら、学説の検討を中心に考察を試みたい。

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二 学 説  先の平成三年判決で述べられていたように、理論的には抵当物件の物理的滅失・駿損の場面とは異なり、第三 者による抵当不動産の占有がなされている場合には、抵当権の実行段階において、その占有を排除すれば、実質 的な減価は生じないことになる。しかし、短期賃貸借制度の濫用の実態を踏まえたうえで、平成一一年判決にお ける八木調査官の解説にもあるように、不動産競売の実務においては、不法占有によって評価上の減価が加えら       ︵−o︶ れるのが一般的であるとの経験的事情を考慮すれば、その後の判例が結論を変更したように、学説上も、抵当権        ︵11︶ 者に明渡請求を認めるべきだとする肯定説が圧倒的多数であるといえる。  しかし、抵当権に基づく妨害排除を肯定する場合、抵当権の性質との関係で、抵当権者の明渡請求をどのよう な論拠によって説明するかについては、学説上さまざまな見解が主張されている。本稿では、特に抵当権の性質 47

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抵当権に基づく妨害排除請求 論との関係を意識しながら妨害排除請求についての立論がなされていると思われる学説を、ω抵当権者は抵当不 動産の占有関係について干渉しえないことを前提としながらも、第三者の占有それ自体が抵当不動産の価値を減 少する場合には、抵当権の妨害排除を肯定する見解、㈹抵当権の物的支配性︵抵当権者の占有侵害の生じる場合 があるとする︶から妨害排除請求を肯定する見解とに大きく分類し、その整理検討を試みながら私見を述べてみ たい。 ω 抵当権者は抵当不動産の占有関係について干渉しえないことを前提としながらも、  が抵当不動産の価値を減少する場合には、抵当権の妨害排除を肯定する見解 第三者の占有それ自体  八木調査官は、平成一一年判決の解説のなかで、平成一一年判決は、平成三年判決における法原則を再確認し        ︵12︶ たうえで、その原則に対する例外を論じたものであるとされる。それと同様の観点から、高橋教授は、抵当権に 基づく妨害排除請求について次のように立論される。まず原則として抵当権の優先弁済権は執行手続によっての み実現されることから、占有排除措置もその中に組み込まれており、それが有効に機能する以上、抵当権者に対 抗しうる権原のない占有があっても、抵当権侵害は存しないが、﹁悪質な不法占有は、買受人の意欲を殺ぐことに よって、交換価値の正常な実現過程を妨害し、右の占有排除措置以前の段階で頓挫させる﹂ものとされる。そし て、そのような悪質な不法占有者は、﹁我妻・福島博士の示す﹃抵当権侵害の積極的な範囲﹄の定式における﹃正 当なる交換価値を抵当権者が把握することに対して妨害を加うる﹄ことにあたると同時に、﹃抵当権侵害の消極的

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限界﹄の定式の中で﹃交換価値に影響を与えるが如き使用価値の減損があれば格別﹄とされている1使用価値の 減損に媒介されない、直接のー﹃交換価値への影響﹄にあたる。抵当権者の占有権原が認められないことは自明で あり、抵当権に基づく妨害排除請求権は、右のようにして、価値権としての性格によってこそ根拠づけられうる ことになる﹂とされ、﹁抵当権は価値権であり、その価値権の実現は執行・換価手続を通じて実現される﹂ことか ら、﹁妨害排除請求権は、換価手続を適切に進めるための諸制度の実体法的な基礎をなすとともに、それらの手続 法的諸制度が不十分な場合にこれを補完するものとして、換価手続を適切に進めるために必要な限りで認められ      ︵13︶ る﹂とされる。  つまり、高橋教授の見解によれば、正常な占有状態にある場合には、抵当権価値権論の原則に従って、抵当権 者はその占有に対し、妨害排除請求権の行使はなしえないが、それが悪質な不法占有である場合には、抵当権の 換価手続を侵害することによって、交換価値への影響を及ぼすことから、抵当権者は、そのような占有に対して 妨害排除請求権を行使しうるとされるのである。  また、松岡教授も、最高裁の平成三年判決、平成一一年判決の分析から、抵当権が、﹁実行段階に入れば、抵当 権の交換価値支配への妨害を排除するために、占有関係に干渉することができる﹂と考えることは、﹁換価権行使 の段階は、﹃点﹄ではなく﹃線﹄であり、その段階では、抵当権が非占有担保であるといっても、把握した担保価 値の現実化を確保するために、その限りで設定者の占有に干渉できるのではないか、という実務家の感覚とも適         ︵14︶ 合する﹂ものとされる。そして、﹁抵当権者は、設定時から潜在的に有していた抵当不動産の交換価値支配を実行 49

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抵当権に基づく妨害排除請求 開始によって具体化させ、それを速やかに実現させることに利益を持﹂ち、﹁不法占有者によって適正価額での換 価が妨げられている事態は、まさしく交換価値支配への妨害として、抵当権侵害と評価されうる﹂ことから、﹁抵 当権の実行開始によって抵当不動産の交換価値への支配が具体化した段階に至れば、設定者の正常な使用・収益 に対してすら一定の干渉が許されるのであるから、抵当権を侵害する違法な占有を排除できるのは、当然﹂であ り、﹁この段階に至っても非占有担保性ゆえに占有関係への干渉を一切認めないのは、まさしく批判されるべき価       ︵15︶ 値権ドグマである﹂と主張される。  これらの見解に対し、伊藤教授は、﹁抵当権の非占有性は正常状態を前提とするものであり、抵当権実行妨害な ど異常状態の場合には、抵当権によって支配している価値保持のために抵当不動産への占有権能が認められる﹂          ︵16︶ との前提をとられるが、抵当権に基づく妨害排除請求権の理論構成については、次にみるように不法占有による 物理的価値︵交換価値︶の減価という観点から論拠付けられる。すなわち、抵当山林の不当伐採、抵当家屋の取 壊し、付加物や従物の不当分離・搬出の場合のような抵当権侵害に対して、抵当権者が妨害排除をなしうるのは、 抵当不動産が物理的に殿損・消滅されるからではなく、そのことによる抵当不動産の物理的価値の減価、すなわ ち抵当権によって支配している交換価値の減価の結果であるとされ、この場合には、抵当不動産を物質的に支配        ︵17︶ していなくても、抵当権侵害が生ずることから、抵当権侵害は物質的支配と関係のないことだとされる。そして、 その抵当権によって支配している交換価値の減価という観点からすれば、不法な占有による減価も元に戻すこと ができない場合があり、不法占有による交換価値の減価として、物理的駿損・消滅と同様に抵当権侵害が観念で

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         ︵18︶ きるとされるのである。  また、梶山教授は、抵当権の交換価値支配権としての性質が、実行段階に移るにつれ、使用収益権に対しても 干渉しうるものとして変化することを前提に抵当権に基づく妨害排除を説明される。すなわち、﹁抵当権の本質は        ︵19︶ 目的物件の交換価値支配にあり、その内容は設定から実行までの間に変化する﹂という見地から、﹁交換価値支配 が抽象的なものにとどまっている初期の段階では﹃目的物件の使用収益に干渉しない﹄との命題が妥当するが﹂ ﹁弁済期が到来し、競売申立てにより交換価値支配が具体化すると、右命題はもはや妥当せず、物件所有者の使用       ︵20V 収益権は、抵当権により制約される﹂とされる。すなわち、抵当権は、債権担保のために物件の交換価値を支配 することから、﹁弁済期が到来し、いつでも競売により交換価値を具体化しうる段階に至ったときに初めて、抵当 権者は、抵当物件が自ら設定時に把握した交換価値をほぼそのままの形で実現できるよう、物権的請求権又は民 法三九五条但書による解除請求権を行使し、自ら価値低減原因を除去することができる。その際、物件価額の下 落により、被担保債権の満足が受けられなくなる、もしくは配当額が減少することが必要であ﹂り、﹁それまでは、 抵当物件所有者に対し侵害是正請求権を行使することにより、間接的に物件の状態をコントロールできるにすぎ       ︵21︶ ない﹂とされるのである。 (2) 抵当権の物的支配性︵抵当権者の占有侵害の生じる場合があるとする︶から妨害排除請求を肯定する見解 ωにおける見解が、抵当権価値権論の立場を基礎に立論されるのに対し、ここでの見解は、抵当権者は、抵当 51

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抵当権に基づく妨害排除請求 権設定時から、抵当目的物に対し物的支配性を有することを前提に、抵当権に基づく妨害排除を根拠付けられる。  抵当権者が、不動産の使用収益権に干渉しえないという命題については、従来より多くの有力な批判がなされ てきた。内田教授は、立法者意思︵特に梅謙次郎博士︶の探求から、抵当権はもともと担保不動産に対する所有        ︵22︶ 者の利用権を制限するものであり、所有者のなしうるのは﹁管理行為﹂だけであると解されていたとされる。そ して、そのことから以下のような指摘をされる。つまり、﹁担保価値のみを把握すべき抵当権者が、抵当権実行前 に不動産の利用関係に容啄することへの反感が見られる。しかし、これは必ずしも理由があるとは言えない。す でに明らかにしたように、抵当権は利用価値から切り離された担保価値のみを把握するという理解自体、必ずし も普遍的ではなく、固有の要因により特異な発展をみたドイツ抵当法から抽出されたものである。しかし、ドイ ツにおいても、一般的な理想としてはともかく、現実には、抵当権者は不動産賃貸借の内容に介入している。利 用権の設定が担保価値に影響する現実を前提にすれば、抵当権者が所有権者との合意によって不動産の利用関係        ︵23︶ に介入することを拒む理由は何もないと思われる﹂と。  また、近江教授は、抵当権ドグマについては、これはコーラーの主唱にはじまる抵当権口価値権という本質が 誇張された形で定着したものであるとされ、﹁抵当権はその価値維持の範囲内で消極的にせよ確実に物的支配を行 って﹂おり、﹁更に、抵当権実行の段階に至っては、より積極的に目的物に対する物的支配を行うことは明臼であ る。いずれにせよ、抵当権は価値権を本質とするといえども、物権である以上一定の物的支配を行っているもの        ︵24︶ と考えられよう﹂とされる。平井教授も、ボアソナードや梅博士は、抵当権は物権であり、その性質上所有権を

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用益面においても制限するものと捉えられているとされ、抵当権は価値権であり目的物の用益権にはその支配が 及ばないとすることは一つのドグマであり、物権者である抵当権者が、自己の権利の対象となっている不動産上 の不法占拠者に対して撲手傍観するほかないというのはいかにも不合理であるとされる。そしてまた、占有を設 定者に留めておく不動産譲渡担保において、譲渡担保権者は不法占拠者に対して妨害排除請求をすることができ、 不法占拠者は実質が担保権にすぎないことを理由にこれを拒みえないと解されていることとの均衡を欠くのでは       ︵25︶ ないかとされる。  さらに先の内田教授の研究を前提に、生熊教授は、﹁抵当権は非占有担保であり、価値権にすぎないから、抵当 不動産の占有関係に一切介入できないという考えが自明の理ではないこと﹂は明らかであり、﹁管理行為という言 葉を使用することが適切であるかどうかはともかく、抵当権設定者は権原なきものが抵当不動産を占有している ことを放置していてよいということにはならず、またかかる占有により抵当不動産の価額が下落する場合には、       ︵26V 抵当権者はかかる占有者に対して不動産の明渡しを請求しうる﹂とされる。そして、その明渡請求については、 ﹁短期賃貸借であれ長期賃貸借であれ使用賃貸であれ、正常型の場合と濫用型の場合とで取扱いを峻別することが 必要であると考える﹂。﹁すなわち、いずれの利用権にあっても正常型の場合には、民法三九五条但書の適用ある いは類推適用による解除はなしえず、したがって抵当権者によるこれらの利用権者に対する明渡請求の余地はな い﹂。しかし、﹁執行妨害目的の濫用型の場合には、被担保債権につき履行遅滞が生じたり、あるいは債務者や抵 当権設定者が手形の不渡りを出し銀行取引停止処分を受けたりして、抵当権の実行が現実のものとなった時以降 53

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抵当権に基づく妨害排除請求 は、競売申立て前でも抵当権者がこれらの濫用的利用権者に対して抵当不動産の明渡しを請求しうるとすること が重要である。そこで、かかる場合には、抵当権者は当該利用権が執行妨害目的で無効︵民法一条三項、九四条二 項あるいは九〇条︶のものであることを証明して濫用的利用権者を無権原占有者とし、これに対して抵当不動産の 明渡しを請求することもできるし、民法三九五条但書の適用︵短期賃貸借の場合︶あるいは類推適用︵長期賃貸借や 使用貸借の場合︶により、抵当権者は当該利用権の存在やかかる第三者の占有により抵当不動産の価格が下落し被 担保債権の十分な弁済が得られなくなることを証明して当該利用権設定契約を解除し、濫用的利用権者を無権原       ︵27︶ 占有者としてこれに対して抵当不動産の明渡しを請求することもできると解すべきである﹂とされる。  また、佐久間教授は、まず抵当権の侵害が生じる場合について、﹁抵当権が交換価値にしろ使用価値にしろ価値 支配権を有するのは、目的不動産を換価することによってその価値を実現し、配当という形で被担保債権の弁済 に充てるためである。したがって、価値支配権の侵害は、第一に換価権の侵害ということになろう。すなわち、 競売手続において、抵当権に対抗できない賃借人等の占有者︵権原者のみでなく無権原占有者も含む︶の存在によ って、競落人が現れず、競売手続の進行が妨害されて換価が困難となる状況が生じている場合である﹂とされ、 ﹁しかし、抵当権の価値支配権の侵害をこのような換価権が侵害される場合に限定するのは妥当ではない、このほ かに、抵当権に対抗できない占有者の存在によって、目的不動産の価格が下落し、抵当権者が被担保債権の弁済 として受ける配当の額が、占有減価が生ずる前に比して減少することによって、抵当権者に﹃損害﹄が生ずる場 合も含まれると解すべきである﹂とされる。そしてその理由について、﹁抵当権は、右の占有状態の場合には、目

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的不動産の使用価値を含む価値をも支配していると解するので、その占有状態によって不動産価格の下落が生じ ているときは、抵当権の価値支配の侵害︵すなわち抵当権に対する侵害︶があったものとし、抵当権に内在する物 権的請求権として所有者の使用権に干渉し、下落した不動産価格の回復を請求することができると解されるから        ︵28︶ である︵抵当権に基づく物権的妨害排除請求権︶﹂とされるのである。

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三 検 討  抵当権の性質について、平成三年判決の理論構成を支持し、原則として抵当権者は、設定者の占有関係あるい は使用収益の内容には干渉しえないが、異常な状態が生じる場合には、例外として妨害排除請求を肯定する見解 は、従来より主張されてきた抵当権価値権論の考え方に沿うものであり、抵当権に関するこれまでの全体的な理 解と一貫性を有するものと思われる。しかし、このような立場に対しては、以下の点において疑間がある。  まず、第一に、抵当権の性質論に関し、何故価値支配性しか有していないとされる権利が、例外としてではあ り、物的支配権原に基づく妨害排除請求をなしうるのか。この点につき、抵当権が担保物権であるからという理 由では、原則・例外の区別はできず、例外の場合に、何らかの形での抵当不動産に対しての物的支配性を論拠付 ける必要があるのではないかと考えられる。また、この点について、先にみたように、抵当権の性質の変化をも って説明を試みようとする見解も主張されている。しかし、この見解に対しても、何故抵当権の実現の段階にお いて、抵当権の支配性が変化するのかについて、抵当権の性質論との関係で十分な論拠は示されていないのでは 55

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抵当権に基づく妨害排除請求 ないかと思われる。  第二に、悪質な不法占有の場合には、例外的に妨害排除請求が認められるようになる理由として、通常の占有 状態には侵害されない交換価値が侵害されるからであると説明される。しかし、この場合の交換価値の侵害とは、 交換価値の正常な実現過程が妨害され、換価価格が下落することを意味されているものと思われる。そして、そ のことからすれば、抵当目的物の換価が正常に行われれば、交換価値の下落は生じないのであり、その意味で、 妨害排除は、この換価を侵害する行為に対して行使されることになるのではないか。また、そうであるとすれば、 妨害排除の対象とされる行為は、交換価値侵害行為というより、むしろ換価を侵害する行為に対してであるとい えるのではないか。  以上のような疑間から、私見としては、抵当権に基づく妨害排除を肯定するにあたっては、抵当権の性質を交 換価値支配という観点から説明するよりも、抵当権設定時から抵当権者は、抵当目的物に対し、物的支配性を有 していると構成する方がより明快であると考える。  以下、このように、抵当権の性質を物的支配性より考察する立場をとる場合、解釈上生じる間題点について検 討してみたい。  まず、第一は、抵当権の性質を、抵当目的物に対する関係でどのように解するのが妥当かという点であろう。 この点について、私見としては、抵当権を換価支配権と捉え、抵当権設定時より抵当目的物を物的に支配する権 利と解する。つまり、抵当権の権利の内容は、終局的には、被担保債権についての優先弁済を確保することであ

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る。しかし、その優先弁済効は、抵当目的物の換価を通して︵正確には、換価するのは抵当目的物の所有権であ ると考えるが、この点については後述する︶実現されるものであり、抵当権は、抵当目的物の換価を通し、その 換価価格から、被担保債権の範囲内で優先弁済効を主張しうる権利であると考える。その意味で、抵当権は、抵 当目的物全体を換価権により物的に支配し、その支配を通して優先弁済を実現する権利と解するのである。  第二に、この換価権を実体法上の権利とみることができるか否かについて、八木調査官より﹁抵当権者は、抵 当不動産が競売等により売却︵換価︶されること自体によって利益を受けるのではなく、買受人が納付した代金 から配当等を受けることによって利益を受けるのであるから、競売申立て権又は﹃換価の実現を請求する権利﹄ は、抵当権者の法律上の権能の一つという意味でこれを権利と呼ぶことの当否はともかくとして、実際には、配 当等の受領という終局の目的を実現する手段としての手続上の資格ないし地位にとどまるもの﹂との見解が述べ     ︵29︶ られている。  この間題については、八木調査官と同様に、担保権に内在する換価権は、執行機関に対する競売申立権として        ︵30︶ 構成すべきであり、実体的権利としての観念は否定されるべきとする見解も主張されている。しかし、このよう な考え方に対しては、換価権と競売申立権との関係は、債権の掴取力と執行請求権とのそれに対応するものであ り、換価権なり掴取権は、実体私法上の権能であり、実体権としての担保権の属性に他ならないとの見方も有力   ︵3 1︶ であり、私見としても、抵当権は実体法上の効力を有する換価権と優先弁済効が一体となり、被担保債権の満足 を得ることを目的とする権利と解する。 57

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抵当権に基づく妨害排除請求  第三に、換価権侵害と構成することに対しては、梶山教授から﹁換価権侵害という考えかたをつきつめると、 売却に支障をきたす限り、配当可能性又は配当額における損失がなくても﹃抵当権侵害﹄と観念される可能性が あるが、わが国の抵当権が交換価値支配を通した債権担保を目的としていることを考えると、疑間である﹂との         ︵3 2︶ 批判がなされている。この点について、抵当権は抵当目的物全体を、物的に支配する権利と解する立場からすれ ば、妨害排除請求権の行使の要件について、必ずしも被担保債権額を基準とする必要はないと考える。  また、この配当可能性の要件については、物理的な滅失・殿損との対比においても考察すべき間題であろう。 すなわち、抵当不動産に対する物理的な滅失・殿損がなされた場合、多くの学説は、抵当権者は、滅失・殿損さ れた抵当目的物の価値が、被担保債権額を下回るか否かに関係なく、かかる侵害行為に対して物権的請求権に基       ︵33︶       ︵34︶ づき妨害排除請求をなしうると解する。そして、その根拠として、担保物権の不可分性から説明する学説や、抵        ︵35︶ 当権の実行前にはかかる予測を付けにくいことを理由とする学説がある。  では、学説上、何故物理的な滅失・殿損による減価の場合と、占有による減価との場合が区別されるのであろ うか。それについて鎌田教授は、不動産の物理的な殿損の場合には、一般的にはそれで価値が下落したままの状 態になり、その殿損行為をやめさせない限り抵当権侵害を回避できないが、不法占有の場合には、その人が出て        ︵3 いけば元の状態に戻るのであって、この点で物理的な殿損と不法占拠は全く異なるものであると説明される。し かし、ここで言われているのは、抵当権の侵害が顕在化する時期の間題であって、物理的な滅失・殿損に対する 妨害排除を肯定する学説の根拠とされる不可分性の原則や、損害予測の困難性などについては、占有による減価

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が生じる場合にも同様にあてはまるのであって、この点についての説明はここではなされていないのである。こ のようなことからしても、占有侵害に対しても、物理的な滅失・殿損がなされる場合と同様に、被担保債権額を       ︵37︶ 妨害排除請求権行使の基礎とすべき必然性はないと考えることもできるのではなかろうか。  以上のことから、抵当権の侵害とは、換価権侵害のことをいい、換価権の侵害とは、換価による売却価格に減 価が生じること、および換価手続自体が侵害されるなど、抵当権の物的支配が侵害される場合のことをいうと解 する。  平成二年判決および平成一七年判決においても、﹁抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ、抵当権者の優先 弁済請求権の行使が困難となるような状態があるとき﹂を抵当権侵害の要件としており、さらに平成一一年判決 では、﹁第三者が抵当不動産を不法占有することにより、競売手続の進行が害され適正な価額よりも売却価額が下 落するおそれがある﹂ときを、その抵当権侵害の例としてあげていることからしても、判例においても、必ずし       ︵38︶ も配当額の減少を要件としているとはいえないであろう。  第四に、先に述べた抵当権に基づく妨害排除の請求がなしうる時期については、物理的な滅失・駿損の場合と、 占有による侵害の場合とを別個に考察する必要がある。  まず、物理的な滅失、殿損の場合には、先の鎌田教授の指摘にもあるように、一般にその侵害によって、換価 価格が下落したままの状態になることから、かかる侵害行為に対しては、抵当権の実行と関わりなく、抵当権侵 害による妨害排除請求がなしうるものと解される。これに対し、占有侵害の場合には、抵当権侵害を確定するこ 59

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抵当権に基づく妨害排除請求 とが必要であり、そのことは、抵当権が非占有担保とされていることとの関係で考察しなければならない。  抵当権の性質については、先に述べたように、従来から有力に主張されている抵当権価値権論をもって説明す るよりも、抵当目的物についての物的支配性を有する権利と考える方がより抵当権の性質を明確に説明しうると 考える。また、一般に抵当権は物権であることから、物についての権利であると主張される。しかし、抵当権に おけるその物的支配の実質は、被担保債権の弁済がなされないときに初めて実体化するものであると解する。つ まり、抵当権設定者は、被担保債権の弁済期が到来し抵当権が実行されるまでは、設定者自身の責任において、 その抵当目的物を使用・収益・処分をすることができ、弁済期に弁済がなされず、抵当権の実行がなされる場合 にはじめて、抵当権者は、抵当目的物に実質的な支配を及ぽすことができるものではなかろうか。そして、その ことからすれば実体的に抵当目的物の支配をなすのは抵当権実行以降であり、それまでは、抵当目的物そのもの についての物的支配は実体化しておらず、したがって物を直接支配していると解するよりも、設定者の有する所 有権を換価権によって支配していると解するのである。  従来から、抵当権は非占有担保であることから使用・収益権を有しない権利であり、交換価値のみを支配する 権利であるとの理解がなされてきた。しかし、抵当権の性質に関する私見の立場からすれば、抵当権は、その設 定時より使用・収益・処分を生じる所有権そのものを換価権によって支配している権利であり、ただその権利が        ︵39︶ 設定者の所有権に対して実体的支配を及ぽすことができるのは、抵当権実行以降においてと解するのである。こ       ︵40︶ のことを前提とすれば、占有による侵害がなされている場合、抵当権設定者に対し、抵当権に基づく妨害排除を

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       ︵4 1︶ なしうるのは、抵当権の実行である担保不動産競売手続開始時点以降とみるのが妥当であろう。       ︵42︶  これに対して、債権回収の実効性確保の観点から、抵当権侵害を確定できるならば、競売申立前にも妨害排除 請求を認めるべきとする見解も有力である。ただし、この見解においても、その多くのものは、抵当権が非占有 担保であることから、債務者が履行遅滞に陥り、抵当権の実行が現実的な間題となった時点以降に妨害排除請求     ︵43︶ を肯定する。  民事執行法五五条の保全処分との関係で考察する場合、担保不動産競売申立て前に、抵当権に基づく妨害排除 請求を認めるメリットとして、任意売却が容易になり、競売よりも高価な換価の可能性が生じることになるとの         ︵44︶ 指摘がなされている。しかし、この点については、高橋教授より﹁任意売却は抵当権の実行でないのみならず、 抵当権に基づく換価権ではなく所有権の処分権に基づき、しかも抵当権を外して行われるものであるから、この 場合における妨害排除を抵当権の効力として認めるのは背理﹂であり、抵当権に基づく妨害排除請求権は換価手       ︵45︶ 続を離れ、任意売却だけを前提としては認められないとの指摘がなされており、また平成一五年改正で、不動産 競売における売却促進の整備などもなされたことからしても、任意売却を容易にすることを目的として、競売前 に、抵当権に基づく妨害排除を肯定するのは妥当ではないであろう。  また担保不動産競売申立て前に、妨害排除請求を認めるとすれば、平成一一年判決および平成一七年判決にお いて、抵当権者自身への抵当不動産の明渡しが認められたことから、抵当権者は、その目的物を管理占有するこ とができることになる。しかし、その場合、管理占有の内容については今のところ必ずしも明確であるとはいえ 61

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抵当権に基づく妨害排除請求 ず、またそのことから、滝澤裁判官は﹁管理占有が抵当権の実行により抵当不動産の買受人に抵当不動産を引き 渡すまでの間の、任意売却の場合にも、買主に抵当不動産を引き渡すまでの間の限られた占有で足りることに着 目すると、その占有は、明渡請求を提起した抵当権者に固有の利害が生ずる占有ではなく、抵当権全体の利害に かかる占有であることになるから、あえて明渡請求を提起した抵当権者を管理占有の主体に据える必要はないは ずであ﹂り、﹁抵当不動産の管理占有の主体として適切な機関ないし機構が確立すれば間題はないが、執行官を管        ︵46︶ 理占有の主体とすることも考えられてよいのではないか﹂との見方を述べられている。       ︵47︶  このようなことからしても、今後、管理占有のあり方については議論がより深められていくであろうが、現在 の状況においては、平成一五年改正において、保全処分の要件が緩和されたことからも、あえて担保不動産競売 申立て前に、抵当権に基づく妨害排除請求を認めなければならない程の必要性があるとは考えられず、私見とし ては、抵当権の侵害の確定のみならず、抵当権の実行が開始されることをもって、抵当権者の妨害排除請求が認         ︵48︶ められると解したい。  また配当額の減少を要件としないことにも関連して、平成一一年判決の奥田裁判官の補足意見にもあるように、       ︵49︶ ﹁後順位抵当権者による救済手段の濫用﹂の危惧が指摘されている。しかし、この点についても、抵当権者の妨害 排除請求を抵当権の実行を前提とすれば、実行の段階で配当の可能性が明らかになるため、後順位抵当権者によ る救済手段の濫用については、権利濫用の法理によって、その請求を封じることができるであろう。

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四 終わりに

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 平成一七年判決において、抵当権に基づく妨害排除の間題については、判例上それを肯定する結論自体は、一 応の決着をみたといえる。しかし、この平成一七年判決に関しては、本稿で触れた抵当権の性質論に関する間題 のみならず、妨害排除請求を認める要件として、抵当不動産所有者が抵当不動産を適切に維持管理することが期 待できないということや、また抵当権侵害についての主観的害意を必要としていることなど検討すべき間題も多 く残されており、それらについては今後改めて考察してみたい。  本稿では、抵当権に基づく妨害排除請求について、特に抵当権の性質論との関係を中心に考察し、抵当権の性 質を、物的支配性を有する権利とすることで、抵当権の妨害排除請求の根拠付けを試みた。  そして、抵当権の性質論をこのように解する場合、派生する重要な問題として、抵当権に基づく賃料債権への 物上代位の問題がある。この間題について、筆者は、以前次のように解していた。すなわち、設定者が債務不履 行に陥った場合、抵当権は、抵当目的物を売却し︵先に述べたように、売却するのは、抵当目的物についての所 有権である︶、そこから優先弁済を受けうるという権利であり、使用・収益権能の対価である賃料までをも把握す       ︵50︶ るものではない。しかし、抵当権には強制管理が認められておらず、それを認める必要性があること、また、最 近の地価の急激な下落などから、被担保債権回収のために、物上代位によって賃料へ抵当権の効力を及ぼす社会 的要請があることなどから、抵当権設定者が債務不履行に陥ったならば、抵当権者には換価権以外に、その抵当 63

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抵当権に基づく妨害排除請求        ︵5 1︶ 目的物から生じる価値についても、法政策的なものとして物上代位権が認められると解し、その物上代位権を通 して賃料債権をも支配することができる。つまり、抵当権の性質を換価権と解する私見の立場からすれば、抵当 権者は、抵当権の実行までは、使用、収益の対価である賃料債権を把握することはできず、賃料債権についての 物上代位は否定すべきこととなるが、賃料債権への物上代位は、実際上の必要性から認めざるを得ないのではな いかと考えたのである。  しかしこの点については、平成一五年の担保・執行法の改正で不動産収益執行制度が創設され、また保全処分 の要件も緩和されたこと、さらに先にみた平成一七年判決によって、抵当権に基づく妨害排除請求が判例上明確 に認められた現在の状況においては、私見における抵当権の性質論からして、本来認められないと解される賃料 への物上代位を、認める必要性はもはや失われたとみることができる。賃料債権への物上代位については、これ       ︵52︶ までの私見を改め解釈上否定すべきものと考えたい。  賃料債権への物上代位については、担保不動産収益執行制度創設のさい、存置させておくべきか、廃止すべき       ︵53︶ かの議論が多くなされた。そして結果的に、物上代位が実務上定着した債権回収方法であり、特に小規模不動産 の賃料からの債権回収には有意義であるとの意見が取り入れられ、物上代位は存置されることになったようであ ︵55︶ る。しかし、そもそも不動産収益執行が新たに設けられたのは、強制管理および賃料への物上代位においては多 くの間題が生じていることから制度として整備する必要からであり、今後は、抵当権に基づく妨害排除請求を有 効に活用しながら、不動産競売と不動産収益執行において債権回収が適切に図られていくことが望ましいといえ

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るであろう。

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V

) パ

パパ

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︵7︶  我妻栄・福島正夫﹁抵当権判例法﹂︵初出一九三五年︶我妻栄﹃民法研究W2﹄︵一九六七年︶二〇三∼二〇四頁。  大判昭和九年六月一五日︵民集二二巻二六四頁︶。  裁判例の全体的な流れについては、一宮なほみ﹁抵当権の短期賃貸借解除請求と明渡請求︵下︶﹂判タ六九三号︵一 九八九年︶一六頁以下、井口博﹁抵当権者の短期賃貸借に対する明渡請求﹂判タ七〇五号︵一九八九年︶四頁以下、 生熊長幸﹁短期賃貸借の解除と抵当権者の明渡請求﹂法時六三巻九号︵一九九一年︶四四頁以下において詳しい整理 がなされている。  最二小判平成三年三月二二日︵民集四五巻三号二六八頁︶。  最大判平成一一年一一月二四日︵民集五三巻八号一八九九頁︶。  特にその旨を主張する学説として、生熊長幸﹃執行妨害と短期賃貸借﹄︵有斐閣、二〇〇〇年︶四二二∼四二四頁、 佐久間弘道﹁抵当権価値権論と抵当権による占有排除﹂金法一六〇三号︵二〇〇一年︶一〇∼一一頁。他にも、金法 一五六六号︵一九九九年︶での特集﹁抵当権者による抵当物件の占有排除に関する最大判平11・11・24を読んで﹂の なかで、小林明彦﹁今後の裁判例の展開に注目﹂二二頁、椿寿夫﹁判旨に賛成、より具体化と明確化を望む﹂二四頁、 堀龍見﹁抵当権の伝統的な考え方を破る画期的な判決﹂二八頁、吉田光碩﹁抵当権の法的性格について画期的な判断﹂ 三一∼三二頁も抵当権の本質論についての転換があったと捉えられている。  このような立場をとる見解として以下のようなものがある。小笠原浄二ほか﹁︿座談会﹀最大判平n・n・24と抵 当権制度の将来﹂金法一五六九号二八∼二九頁︹鎌田薫発言︺、梶山玉香﹁民事判例研究抵当不動産の不法占拠者に 対する明渡請求︵最高裁判所大法廷平成11・n・24判決︶﹂法時七二巻七号︵二〇〇〇年︶七六頁、高橋眞﹁抵当不 動産の長期賃貸借に基づく占有者に対する抵当権者の妨害排除請求﹂金法一六一六号︵二〇〇一年︶三八頁、同﹁抵 当権による賃料の把握について﹂法学雑誌四六巻三号︵二〇〇〇年︶九頁。 65

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抵当権に基づく妨害排除請求

((

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))

︵10︶ ︵11︶  最一判平成一七年三月一〇日︵民集五九巻二号三五六頁︶。  抵当権の妨害排除請求について、抵当権の本質論からの考察の重要性を指摘するものとして、平井一雄﹁最判平成 一一年二月二四日判批﹂ジュリ一一八九号︵二〇〇〇年︶一〇三頁、山野目章夫﹁抵当不動産を不法に占有する者 に対する所有者の返還請求権を抵当権者が代位行使することの許否ー最大判平11・11・24をめぐって﹂金法一五六九 号︵二〇〇〇年︶四七頁、鈴木録彌・升田純﹁新春特別対談 最大判平11・11・24をめぐる諸間題﹂登記情報四五八 号︹鈴木発言︺︵二〇〇〇年︶一九頁、椿寿夫﹁特集H抵当権者による明渡請求●抵当権の効力拡大現象﹂銀法五七 二号︵二〇〇〇年︶九頁、松岡久和﹁抵当権の本質論ついてー賃料債権への物上代位を中心にー﹂﹃高木多喜男先生 古稀記念 現代民法学の理論と実務の交錯﹄︵成文堂、二〇〇一年︶八頁。また、村田教授は、抵当権の本質に関し て、特に目的物に対する抵当権の支配内容を中心に検討されており、筆者と同様の視点に基づくものと思われる。村 田博史﹁抵当権の本質に関する一考察﹂法学新報一一〇巻一・二号︵二〇〇三年︶三六一頁以下。  八木一洋﹁判例解説﹂法曹時報五二巻九号︵二〇〇〇年︶二八六∼二八七頁。また、佐久間教授は、このような経 験則は、既に最二小判平成八・九・二二民集五〇巻八号二一二七四頁における調査官解説からもうかがうことができる とされている。佐久間弘道﹁代位請求・物上請求の構成による抵当権者の明渡請求﹂銀法五七二号︵二〇〇〇年︶二 七頁。  栗田教授は、無権限者による担保物の占有の甘受を抵当権者に求める社会・経済的必要までは存在せず、また、抵 当不動産を無権限者に占有させておくことは抵当権法によって債務者に留保された﹁利用﹂方法とは言い難いから、 少なくとも、無権原者の占有によって売却価格︵交換価値︶が現実に低下し、価値権としての抵当権が侵害されてい るのであれば、抵当権者に不法占有者を排除する手段が与えられるべきであり、そのことは抵当権が非占有担保権で あることの趣旨に何ら反しないとされる。栗田隆﹁大阪地判昭和五五年四月二五日判批﹂関大法学三一巻︵一九八二 年︶二五五頁。  また椿教授も、抵当権が占有権限を含まないという命題の意味ないし射程距離が間題であるとされ、その性質が徹 頭徹尾−設定の当初から消滅時まで1抵当権に付着するとみることは行き過ぎであり、競売による所有者の変更が

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パ  ハ  ハ  パ  パ 16 15 14 13 12 )  )  )  )  ) パ  パ 1817 ︵19︶ 見込まれる時期になってなお設定者の占有権限を肯定的に論ずる意味があるのか。もし、投資抵当が実際を支配し、 価値権説が理論として通説的に信奉されていれば、抵当権が占有すべき権原を全面的かつ絶対的にもたない、との考 え方も維持できようが、そうではなく、いわゆる占有権原には限定が可能であり必要でもあるとされる。椿・前掲︵注 6︶二四頁。鈴木教授も、椿教授と同趣旨の指摘をされている。鈴木・前掲︵注9︶二一頁。  八木・前掲︵注10︶二八四頁。  高橋眞﹁抵当権に基づく妨害排除請求と抵当権の性質論﹂法時七四巻二号︵二〇〇二年︶八七頁。  松岡・前掲︵注9︶三〇頁。  松岡・前掲︵注9︶二九∼三一頁。  伊藤進﹁抵当権︵その一︶﹂椿寿夫編﹃担保法理の現状と課題﹄別冊NBL三一号︵一九九五年、商事法務研究会︶ 二七頁。  伊藤・前掲︵注16︶二〇頁。  伊藤・前掲︵注16︶二一頁。また、安永教授も、買受人が現れる以前の段階で既に、引渡命令の威光にもかかわら ず競売の代価が通常の占有減価にとどまらないということが予測できる場合︵例えば、詐害的短期賃貸借人の占有で あって、特別な事情が存在し執行に際し通常の占有減価以上の減価が予測される場合︶は、ちょうど通常の使用を超 える物理的侵害に対比することができるのであって、交換価値侵害H抵当権侵害︵のおそれ︶があるといえるのでは ないかとされる。安永正昭﹁最判平成三年三月二二日判批﹂判例批評三九五号︵一九九二年︶二八頁。  梶山玉香﹁抵当物件の使用収益について﹂同志社法学五四巻三号︵二〇〇二年︶二六一頁。同様に、鈴木教授も、 升田教授との対談において、﹁事柄の成行きに従って、ある時点からは、抵当権についても自分の権利を守るための 権限が出てくるのではないかというふうに考えます。どの時点で抵当権の性質が変わるのかという間題はもう少し 精密に考えてみなければなりませんし、それも、あることがあると急にぱっと変ってしまうというのではなくて、漸 次変わっていって、いわば価値権から占有権限の方へ変わっていくといえるかもしれない、という気がします﹂と の発言をされている。鈴木・前掲︵注9︶二一頁。 67

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抵当権に基づく妨害排除請求 ハ  パ  パ    23 22 21 20 ︵24︶ ︵25︶ パ  パ  パ

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)  )  ) 佐久間﹄前掲︵注6︶九頁。  生熊・前掲書︵注6︶四六一頁。  生熊・前掲︵注3︶五〇頁。 比較で、抵当権の妨害排除請求が認められないのは妥当でないとする見解として、鈴木・前掲︵注9︶二一頁。  平井一雄﹁東京高判昭和六〇年八月二七日批評﹂法時五八巻七号︵一九八六年︶一二〇頁。同様に、譲渡担保との 二八頁。 きであろう﹂との批判もなされている。石田喜久夫﹁最判平成元年六月五日判批﹂判例評論三七六号︵一九九〇年︶ きは、妥当な帰結を導くことが困難とみられる場合には、既存のドグマを金科玉条とすることは、本末転倒というべ との比較からこれに異論を唱えることに、どれほどの意義があるかは、疑わしい。しかしながら、右の定説によると 学説が固まって定説化し、おおむね判例もこれに倣っている法状況のもとにおいては、制度や立法の経緯ないし他国 た理解は、現在でも、かなりの民法学者によって、さしたる反省もなく、継承されているように思われる。もっとも、 るべき姿として解釈されてきたことは、我妻榮博士や柚木馨博士の担保物権法を一べつすれば明らかであり、そうし 年︶九四頁。さらに、抵当権ドグマについて、石田教授から﹁わが抵当権法ないし担保物権法が、ドイヅのそれをあ  近江幸治﹁短期賃貸借の解除と明渡請求ー名古屋高裁昭和五九年六月二七日判批﹂法律時報五七巻九号︵一九八五 二八頁。 除要件についての検討については同様の作業がなされなくてはならないとの指摘がなされている。安永・前掲︵注18︶ 合、それが承認されれば排除の基礎付け自体は、通説よりも容易となるが、この立場にたっても、侵害の存在など排 ついても何らかの権限を有するとの考えから、短期賃貸借解除後の占有排除、不法占有の排除の基礎付けを行う場  内田・前掲︵注22︶二一〇∼二一一頁。ただし、このような考え方に対して、安永教授より、抵当権者が用益面に  内田貴﹁抵当権と短期賃貸借﹂﹃民法講座3﹄︵有斐閣、一九八四年︶一七六∼一八O頁。  梶山・前掲︵注19︶二六三頁。  梶山・前掲︵注19︶二二七頁。

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パ  パ  ハ

313029

)  )  ) ︵3 2︶ ︵33︶ ︵3 4︶ ︵35︶ ︵36︶  八木・前掲︵注10︶二八八頁。  生熊長幸﹁執行権と換価権﹂﹃法学と政治学の現代的展開﹄︵有斐閣、一九八二年︶二六三頁以下。  中野貞一郎﹁担保執行の基礎﹂﹃特別法からみた民法︵民商法雑誌創刊五十周年記念論文H︶﹄︵有斐閣、一九八六 年︶二〇八頁以下。  梶山・前掲︵注19︶二四五頁。佐久間教授も、﹁抵当権の価値支配権の侵害とは、抵当権が支配する価値の実現が 妨害される場合のほかに、価値の実現額の減少によって抵当権者に配当額の減少という損害が生ずる場合も含むも の﹂とされる。佐久間・前掲︵注6︶九頁。  我妻栄﹃新訂担保物権法﹄︵有斐閣、一九六八年︶三八六頁、星野英一﹃民法概論H︵物権・担保物権︶﹄︵良書普 及会、一九七六年︶二五八頁、鈴木禄彌﹃物権法講義︹四訂版︺﹄︵創文社、一九九四年︶二〇六頁、高木多喜男﹃担 保物権法︹第4版︺﹄︵有斐閣、二〇〇五年︶一六〇頁、道垣内弘人﹃担保物権法 現代民法H︹第2版︺﹄︵有斐閣、 二〇〇五年︶一八○∼一八一頁など。これに対して、抵当権の侵害により直ちに抵当権の目的物の価値が減少するわ けではないから、抵当権が実行された場合に価値が減少して抵当債権の十分な満足が受けられなくなることが予想 されるときに、抵当権者は妨害排除を請求しうるとする説も主張されている。川井健﹃担保物権法﹄︵青林書院、一 九七五年︶一二〇頁。近江幸治﹃担保物権法︹新判︺﹄︵弘文堂、一九九二年︶一六五頁も川井教授と同様の見解である。  その根拠として担保物権の不可分性を挙げられるものとして、我妻・前掲︵注3 3︶三八六頁、星野・前掲︵注33︶ 二五八頁、道垣内・前掲︵注33︶一八O∼一八一頁などがある。  高木教授は、抵当権の実行前には、抵当債権の充分な満足が得られないことの予測を付けにくいのが通常であり、 侵害の可能性ありとして、その予防を請求しうるとするのが、現実的処理ではないかとされる。高木・前掲︵注33︶ 一六〇頁。また、最低売却価額を決定する際の、占有減価の確定の困難さについて詳しく説明されたものとして、生 熊・前掲︵注6︶四四八頁参照。  鎌田薫﹁抵当権の効力1﹃価値権﹄論の意義と限界ー﹂司法研修所論集九一号︵一九九四年︶一六頁。小笠原浄二 ほか・前掲︵注7︶三〇頁︹鎌田薫発言︺。 69

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抵当権に基づく妨害排除請求 ︵37︶ ︵38︶ ︵39︶ ︵40︶ ︵41︶  生熊教授も、第三者による抵当不動産の不法占拠も、それにより抵当不動産の価格の下落が予想される場合には、 抵当権者の被担保債権が抵当権の実行により十分弁済されることになるときであっても、抵当不動産の物理的滅 失・殿損の場合と同様、これを肯定してよいとされる。生熊長幸﹁特集目抵当権者による明渡請求 抵当権者による 明渡請求と﹃占有﹄﹂銀法五七二号︵二〇〇〇年︶一六頁。  また、堀教授も、まったく担保価値のないと思われる抵当権であっても、実際には配当段階でないとその価値は確 定しないことから、権利行使は可能であるとされている。堀・前掲︵注6︶二七頁。椿ほか﹁︿新春座談会﹀抵当権 者による明渡請求−最大判平成n・11・24をめぐってー﹂銀法五七一号︵二〇〇〇年︶二二頁︹三上徹発言︺も同様 の趣旨と思われる。  八木調査官は、平成一一年の大法廷判決では、抵当権に対する侵害の成否は、﹁第三者が抵当不動産を不法占有す ることにより抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態﹂ の有無に関する各種の事情を総合的に考慮して判断されるものと解されている。八木・前掲︵注10︶二八九頁。  詳しくは、拙稿﹁抵当権の性質について1抵当権価値権論への一疑間1﹂濁協法学四六号︵一九九八年︶四四七頁 以下、同・﹁抵当権の物権性についてーフランスにおける学説を中心としてー﹂猫協法学四八号︵一九九九年︶一六 七頁以下、同・﹁抵当権の性質について1特にその物権性を中心としてー﹂法政論叢三九巻二号︵二〇〇三年︶一四 頁以下を参照いただきたい。  先に述べた私見の立場からは、抵当権の侵害を換価権侵害として捉え、換価権の侵害とは、換価による売却価格に 減価が生じること、および換価手続き自体が侵害される場合のことを指すものと解することから、占有による侵害 が、物理的な滅失・殿損に相当するような換価による売却価格の減価を生じるような場合には、妨害排除請求権行使 の時期についても、物理的侵害と同様に考えることになる。松岡教授も、土砂や産業廃棄物が大量に運び込まれたり、 抵当土地が墓地や有害処理場などに転用された事例については、原状回復が困難なものとして、物理的損壊と同視す ればよいとされる。松岡・前掲︵注9︶三二頁。  私見と同様に、抵当権に基づく妨害排除請求が認められるのは、競売手続開始時点以降と解する学説として、鈴木

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東洋法学

︵42︶ ︵43︶ 録彌﹁最近担保法判例雑考161﹂判タ五〇六号︵一九八三年︶四二頁、鈴木・前掲︵注9︶二三頁、浦野雄幸﹁二 つの最高裁判決の執行法間題点∼平三年第二小判決と平一一年大法廷判決の民事執行手続に残した課題﹂債権管理 八八号︵二〇〇〇年︶一〇四頁、小笠原ほか・前掲︵注7︶三三頁︹塩崎勤発言︺などがある。  なお、松岡教授は、この間題について﹁抵当制度の趣旨との調和を考えると競売申立ての時点としつつ、民事執行 法一八七条の二との均衡や、抵当権侵害の蓋然性の高さと干渉の必要性・適切性との衡量によって、妨害排除請求が 可能となる時点をどこまで前倒しできるかという方向で慎重に検討すべきである﹂とされる。松岡・前掲︵注9︶三 二頁。  また、八木調査官は、不法占有による抵当権者の事実上の不利益の発生は、その機序からして、競売手続における 売却の実施と切り離しては論じられないとされ、少なくとも、抵当権実行のための要件を欠く被担保債権の弁済期の 到来前において、抵当権に対する侵害の成立を肯定することは間題であり、抵当権実行との関係で抵当権者の利益が 具体化したという意味では、事実審の口頭弁論終結時に競売申立てがされていること︵民訴一八一条︶をもって、一 応の目安とする考えも成り立ちうるとされる。八木・前掲︵注10︶二八九頁。  安永教授も、執行前の段階ではかかる侵害は具体化したとは言い難いから、交換価値の実現が現実化した時点、す なわち競売手続開始時点以降に侵害が存在するとみるかあるいは、より厳格には、解除の裁判の口頭弁論終結時点に おいて﹁侵害のおそれ﹂が認定されるときとされる。安永・前掲︵注18︶一五八頁。  山本教授は、﹁競売申立て前に占有取得が認められれば、任意売却によることが容易になり、競売よりも高価な換 価の可能性があるし﹂、また﹁仮に競売を前提にしても、競売申立て後に保全処分をすると、その点が執行記録に残 り、当該物件が市場で一種の﹃傷物﹄扱いを受け価格が低落するおそれがあるが、事前の明渡しによりそれを避けう る﹂とされる。山本和彦﹁抵当権者による不法占有排除と民事執行手続−最大判平n・11・24の民事執行法上の意義﹂ 金法一五六九号︵二〇〇〇年︶六一頁。  滝澤孝臣﹁︽金融判例研究会報告︾抵当権者による抵当不動産の不法占有者に対する明渡請求の可否﹂金法一五六 九号︵二〇〇〇年︶一四頁、小林明彦ほか﹁︿座談会﹀抵当権者による不法占有者の排除﹂ジュリ一一七四号︵二〇 71

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