並べ替え学習ソフトによる帰納的文法学習
池
上
真
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信
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渡
辺
智
恵
松 山 大 学 言語文化研究 第 巻第 号(抜刷) 年 月 Matsuyama University Studies in Language and Literature並べ替え学習ソフトによる帰納的文法学習
池
上
真
人
青
木
信
之
渡
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智
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要 旨 コンピュータを使った並べ替え学習ソフト MaG(Magnet Grammar)を用 い,小学校英語学習者が,英語の語順や文法を帰納的に学ぶことが可能かど うかを検証するとともに,彼らの英文再構築の試行錯誤データから,つまず きや理解の過程について詳細に分析を行った。肯定文,否定文,疑問文の語 順の違い及び人称と動詞の形の関係について学習させた結果,効率的に学ぶ 生徒がいる一方で,同じ試行錯誤を繰り返す生徒もみられた。しかし,学習 後のアンケートからは,調査に参加したすべての生徒がこういったソフトに よる学習を楽しんだことがわかり,説明的な文法指導が望まれない小学校英 語教育において,今後の活用の可能性が示唆された。 キーワード:帰納的学習,並べ替え学習ソフト,小学校英語.目
的
これまで小学校での英語教育に対しては,相当程度,中学校を前にして英語 嫌いを作らないための配慮がみられた。その一端は音声中心の授業であり,文 字を扱わないことであり,文法を指導しないことであった。小学校の新学習指 導要領が 年度から実施されるに当たって,これまでの音声中心の英語活 動は 年生, 年生に繰り下げられ,「外国語」という教科となる 年生, 年生には新たに書く指導が加えられることになる。この新しく加えられる書く指導については,指導要領での表現こそ「語順を意識して」となっているが, 文法指導とは言えないまでも明らかにこれまでとは違ったレベルで言葉の仕組 みについて指導することが求められている。 しかしながら,新学習指導要領に基づく教育においても,こういった「語順 を意識させる」ような指導については,文法用語を提示してその仕組みを教え るような演繹的な教え方よりも,生徒たちの気づきをもとにした帰納的な指導 が望まれるであろうことは想像に難くない(藤田 )。これまでの小学校英 語教育の方向性からも,そのような指導が想定されており,加えて,文法の指 導が始まる中学 年生に英語嫌いが劇的に増えるといった過去の報告からも (吉田 ),当然,文法規則を学習している意識なしに,いつの間にか自然 に学んでいるということが理想であるとされよう(藤田 )。実際,小学校 年生を対象に可算・不可算名詞に対する接尾辞を帰納的に学習させた結果, 事後テストだけでなく,その保持についても効果がみられたという,帰納的学 習の優位性を述べた研究もある(Takahashi & Fujiwara )。
さて,小学校英語教育において, 年生から 年生まで英語活動及び教科と しての英語を指導できる教員をどの程度準備できるのか,実際の現場では相当 程度,人材確保に苦労している話を聞く。一方で小学校英語教育においても, 「視聴覚教材やコンピュータ,情報通信ネットワーク,教育機器などを有効活 用し,児童の興味・関心をより高め,指導の効率化や言語活動の更なる充実を 図るようにすること」というように,ICT の活用が謳われている(文部科学省 : )。英語を担当できる教員の不足を考えると,こういったコンピュー タやネットワークを活用した授業や学習については,当然大きな期待がもたれ るであろう。 このような状況の中,筆者らは MaG(Magnet Grammar)と呼ぶ並べ替え学 習ソフトを開発した。MaG とは,海中で魚の形をした英単語が泳いでおり, それらを組み合わせて文を作るというものである。マグネット,つまり磁石と 呼ぶ理由は,各単語がうまく順序通りに組み合わさる場合は,お互いを引き合
い「カチッ」という音とともに気持ちよくひっつく。一方で,順序通りでない 場合は不快な音を発して単語同士が反発しあうということからである。このこ とにより,学習者は例えば I には have が,he には has がつくといった人称と 動詞の一致について経験的にルールを学ぶことができる。
MaGのもう一つの大きな特徴は,文が構成素ごとに分かれており,それら が完成すると一つの塊として水面に浮上するという仕組みである。例えば, [park / dog / I / running / saw / in / a / the].(私は公園で犬が走っているのを見 た)という問題が出題された場合,全体がわからなくとも in the park の組み合 わせが出来た時点で,in the park は水面に浮上する。つまり,全体が出来上が らなくても,また文頭から組み立てなくとも,分かる部分だけ塊として組み上 がれば,それを構成素,つまり英語としてのひとかたまりの表現として分離し, 明確に認識させる仕組みになっている。そのことは文というものが,いくつか の部分に分かれており,それらの部分はどういった順序で組み合わさるのかを 理解することを可能にする。 少々乱暴な言い方ではあるが,文法の理解とは,どういった語がつながり, そしてどの部分で切れ目となるかを学ぶことであり,そしてそのつながった部 分において,どういった規則性があるかを学ぶことといっても過言ではない。 そういう意味で,MaG は基本的な文や,それらを構成する仕組みを,大まか に学習者に理解させることを狙いとした学習ソフトといえる。また,英語の文 法知識は,インプットから気づき,そして理解へと進むことを考えると(村野 井 ),MaG は学習者の試行錯誤を誘出しながら,文法項目に対する気づ きを促そうとするものである。
またMaG では,学習者の試行錯誤,つまりどの語をくっつけようとしたの かといったことや,完成までに要した時間が履歴として,右のように記録され る。
海中にある網に語を入れていく動きは[Net]と表示され,最終的に完成形 を海上にある船に上げる動作が[Boat]と表示される。Boat に完成形を上げる と文の音声が流れる仕組みになっている。この例では,Net の数が つあるの で文を完成させるのに 回の動きを要したということ,そして 秒要したと いうことがわかる。 さて,本研究の目的は以下の通りである。 .コンピュータを使った並べ替え学習ソフト MaG(Magnet Grammar)を用 い,小学校英語学習者が,英語の語順や文法を帰納的に学ぶことを検証す ること。 .彼らの英文再構築の試行錯誤データから,つまずきや理解の過程について 詳細に知ること。 .学習後のアンケートから,MaG を使った学習について,彼らがどのよう に感じたかを調べること。 課題番号: 試行回数: 学習時間(秒): [NetL1]flower [NetL1]flower --are--[NetL1]flower is [NetL1]flower is beautiful [NetL1]flower is beautiful --the--[NetL1]flower is beautiful --are--[NetL1]--are-- flower is beautiful [NetL1]the flower is beautiful [BoatL]the flower is beautiful
.方
法
参加者は,広島市内の小学校 年生 名(女子 名,男子 名)である。彼 らはいずれも英語を小学校の外国語活動で学ぶのみで,英語塾等での学習経験 はない。調査場所は小学校の空き教室で,時間は昼食後の休み時間から掃除時 間までの 分を使用し,ネットワークにつないだノートパソコンを参加人数 分用意して実施した。参加者はマウスで MaG を操作し,その活動はすべてネッ トワークを通じて学習履歴として記録された。 調査は以下の手順で実施した。 .MaG の使い方の説明の後,練習問題を 問解く。 . 名を つのグループに分け(A,B),事前テスト(a,b)を実施した (Appendix 参照)。その際,練習効果を避けるため,A グループには事前 テストとして a を,事後テストとして b を,B グループにはその逆で,事 前で b,事後で a を実施した。ただし,事前・事後テストともに,学習の 前後に MaG で切れ目なく配信されるため,生徒達はこれらがテストとは 認識していない。 .事前テスト終了後,両グループとも同じ問題( 問)に解答した(Appendix 参照)。使用した教材は, ∼ 単語の簡単な英文で,肯定文,否定文, 疑問文の 種類である。例を以下に挙げる。肯定文 You like apples. (二人称) She likes apples. (三人称) 否定文 I don’t like apples. (一人称)
She doesn’t like apples. (三人称) 疑問文 Do you like apples ? (二人称)
このような問題文の学習から,学習者は肯定,否定,疑問における語順と, 人称と動詞の形との関係について帰納的に理解することが期待される。ま た, 問ほど学習した後はそれぞれ錯乱肢(上の例であれば,like/likes, don’t/doesn’t,do/does)が加えられた問題を学習した。 .問題学習後,事後テストを実施した。
.結
果
本調査参加者については,実施校の校長先生とも相談し,活発な児童だけで なく,あまり落ち着きのない児童や少し配慮の必要な児童などにも参加しても らった。そのこともあって,実際に時間内に最後まで自力で到達したのは半分 の 名で,他の 名については試行錯誤しているうちに時間が迫ってきたので, まわりにいた教師がヒントを与えるなど,サポートする形で最後の問題までこ ぎつけた。 まず,事前事後テストの全体結果を表 及び図 ・ で示す。 回 数 時 間(秒) 事前テスト 事後テスト 事前テスト 事後テスト 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 生徒 A . . . . . . . . 生徒 B . . . . . . . . 生徒 C . . . . . . . . 生徒 D . NA NA . . NA NA 生徒 E . . NA NA . . NA NA 生徒 F . NA NA . . NA NA 表 .事前事後テスト結果(回数,時間)の平均値及び標準偏差 *生徒 D,E,F は完走できなかったことから,事後テストデータについては記載していない。6.6 3.7 11.8 5.0 11.2 4.8 0 2 4 6 8 10 12 14 後 事 前 事 生徒A 生徒B 生徒C (回) 37.8 12.2 43.8 28.0 48.8 15.2 0 10 20 30 40 50 60 後 事 前 事 生徒A 生徒B 生徒C (秒) 図 .事前事後テストで要した試行回数(平均値) 図 .事前事後テストで要した時間(平均値)
0 5 10 15 20 25 30 35 事前 事後 事前 事後 事前 事後 事前 事後 事前 事後 肯定文1 肯定文2 否定文1 否定文2 疑問文 生徒C 生徒B 生徒A (回) これらの図表から,完走した 名が事後テストにおいて,迷わずにかなり短 い時間,少ない手数で文を完成することができるようになったことがわかる。 それでは次に,完走した 名について肯定文,否定文,疑問文の問題別に試 行回数と要した時間を比較してみる。 肯定文 肯定文 否定文 否定文 疑問文 事前 事後 事前 事後 事前 事後 事前 事後 事前 事後 回数 生徒A (回) 生徒B 生徒C 時間 生徒A (秒) 生徒B 生徒C 表 .事前事後テスト問題別結果(回数,時間) 図 .事前事後テストで要した試行回数(問題別)
0 20 40 60 80 100 120 140 160 事前 事後 事前 事後 事前 事後 事前 事後 事前 事後 肯定文1 肯定文2 否定文1 否定文2 疑問文 生徒C 生徒B 生徒A (秒)
顕著なのは否定文に大きな違いが見られることである。I like tennis. など自 分が好きなことを述べる表現や Do you like tennis ? など相手の好き嫌いを聞 く表現については,小学校の活動の中で触れる機会が多いのであろう。一方で, You don’t like tennis. など「∼ではありません」という表現を使う機会が少な く,それが事前で試行錯誤を繰り返した原因であると推察できる。しかし,学 習後の事後テストでは肯定文なみに早く完成させている。具体的に帰納的学習 が成功したと思われる例を,学習履歴からみてみたい。
課題番号 の You don’t like baseball. を作るのに 回の試行数, 秒を要 したのに対し,課題番号 の She doesn’t like baseball. を作るのにはわずか 回, 秒しか要していない。学習開始直後の課題番号 では,doesn’t you, baseball doesn’t といった語順の間違い,doesn’t likes,you doesn’t といった人称 と動詞形の不一致,さらに doesn’t,don’t のような同一機能の語を一緒に並べ ようとするような誤りがみられる。しかし,課題番号 ではそういった試行 錯誤がほとんどみられない。 では,帰納的学習が成功しなかったと思われる例として自力で完走できな かった他の生徒の学習履歴を詳細にみてみる。この 名については,事後テス トも含む学習後半を教師にサポートされて文を完成したので,表 に示した事 課題番号: 試行回数: 学習時間(秒):
like, don’t, baseball, you, likes, doesn’t
[NetL1]doesn’t [NetL1]doesn’t --likes--[NetL1]doesn’t --you--[NetL1]--like-- doesn’t [NetL1]--baseball-- doesn’t [NetL1]doesn’t --likes--[NetL1]--you-- doesn’t [NetL1]--like-- doesn’t [NetL1]doesn’t --don’t--[NetL1]like [NetL1]like --you--[NetL1]don’t like [NetL1]don’t like baseball [NetL1]don’t like baseball --you--[NetL1]you don’t like baseball [NetU1]you don’t like baseball [BoatU]you don’t like baseball
課題番号: 試行回数: 学習時間(秒):
like, likes, she, baseball, don’t, doesn’t
[NetL1]she [NetL1]she --don’t--[NetL1]she doesn’t [NetL1]she doesn’t like [NetL1]she doesn’t like baseball [NetU1]she doesn’t like baseball [BoatU]she doesn’t like baseball
帰納的学習が成功した例
前テストにおける試行回数や要した時間以外は,信頼できるデータでないので 記載しない。
これは 人のうちの一人が事前テスト(課題番号 )として I don’t like baseball. を作った学習履歴と,まだ教師のサポートを受ける前に 番目の課 題として They don’t like dogs. を作った履歴である。要した試行回数及び時間 そのものは短縮している。しかし,課題番号 にみられるような,don’t の後 に doesn’t をつけようとするなど,同じ品詞,つまり同じカテゴリーの語の識
課題番号: 試行回数: 学習時間(秒):
like, don’t, I, baseball, doesn’t, likes
[NetL1]baseball [NetL1]baseball --doesn’t--[NetL1]baseball --I--[NetL1]baseball --don’t--[NetL1]--don’t-- baseball [NetL1]--likes-- baseball [NetL1]--I-- baseball [NetL1]--don’t-- baseball [NetL1]baseball --don’t--[NetL1]--likes-- baseball [NetL1]baseball --likes--[NetL1]I [NetL1]I don’t
[NetL1]I don’t --doesn’t--[NetL1]I don’t --baseball--[NetL1]I don’t --doesn’t--[NetL1]--baseball-- I don’t [NetL1]I don’t like [NetL1]I don’t like baseball [NetU1]I don’t like baseball [BoatL]I don’t like baseball
課題番号: 試行回数: 学習時間(秒):
like, don’t, dogs, they, likes, doesn’t
[NetL1]likes [NetL1]likes --doesn’t--[NetL1]likes [NetL1]likes --like--[NetL1]don’t [NetL1]don’t --dogs--[NetL1]don’t --likes--[NetL1]don’t like
[NetL1]--doesn’t-- don’t like [NetL1]they don’t like [NetL1]--likes-- they don’t like [NetL1]they don’t like dogs [NetU1]they don’t like dogs [BoatL]they don’t like dogs
帰納的学習が成功しなかった例⑴
別が,課題番号 でも未だに出来ていない。また,likes の後に like をつけよ うとしたり,doesn’t の後に don’t をつけようとするなど,これらの語が同一機 能をもつカテゴリーであり,文の中でどちらかしか使わないということが,課 題番号 でも理解できていない。さらに,likes の後に doesn’t をつけようと するなど,語順についても理解が進んでいないことがわかる。 サポートを受けた別の生徒の例をもうひとつ提示する。ある程度学習が進ん だ課題 においても,この生徒は網に入れた語の前後にとにかく手当たり次 第すべての語を入れてみるというやり方のようで,何らかのルールを導き出し ながら試行錯誤しているようにはみえない。 さて,本調査のあと,すべての生徒に簡単なアンケートを実施した。 課題番号: 試行回数: 学習時間(秒):
like, don’t, dogs, they, likes, doesn’t
[NetL1]likes [NetL1]likes [NetL1]likes --doesn’t--[NetL1]--they-- likes [NetL1]likes --dogs--[NetL1]--dogs-- likes [NetL1]--don’t-- likes [NetL1]doesn’t [NetL1]doesn’t --like--[NetL1]--they-- doesn’t [NetL1]doesn’t --dogs--[NetL1]--don’t-- doesn’t [NetL1]like [NetL1]like --they--[NetL1]they [NetL1]--doesn’t-- they [NetL1]they don’t [NetL1]they don’t like [NetL1]they don’t like --likes--[NetL1]they don’t like dogs [NetU1]they don’t like dogs [BoatU]they don’t like dogs
生徒 人全員が,MaG を使った英語学習は楽しかった,また続けたいと回 答した。しかし,全員が「楽しかった」ということではあるが,自由記述にお いて,「ゲームもできて,英語も学べました。このゲームをして英語が好きに なりました」と,完走できずサポートを受けた生徒が記載していることから, 学習としてというより,ゲームのようで楽しかった可能性もあり,今後詳しく 調査していく必要がある。 一方で,「英文の作り方はわかるようになりましたか」という問いについて は,教師サポートを受けた 人のうち 人が,さすがに気が引けたのか,「 : わりとわかるようになった」と回答している。
.考
察
並べ替え学習ソフトMaG を使った文法の帰納的学習についてみてきた。教 師のサポートを受けずに完走した 人の生徒達は,明らかに語順や人称と動詞 の一致などについて,そのパタンを帰納的に学んでいた。これまでに受けてき た英語授業との関係であろうが,肯定文に比べて疑問文,それよりも否定文に 馴染みがなかったことから,事前テストでは時間がかかり,試行回数が多かっ たが,事後テストではそれが劇的に改善されていた。大学生に対する英語教育 でも,「人称」という言葉を知らない学生がいたり,また一人称,二人称,三 質 問 )MaG を使 っ た 勉 強は楽しかったですか? 質問 )英文の作り方はわ かるようになりましたか? 質 問 )MaG を使 っ た 勉 強を続けたいですか? 生徒A 生徒B 生徒C 生徒D 生徒E 生徒F 表 .学習後アンケート結果人称の区別ができない,また三人称単数現在の s と複数形の s の区別がつかな い学生の存在が報告される中で(佐藤他 : ),この小学生達の学習結果 は英語の苦手な大学生についても可能性を感じさせるものであった。 一方で,完走できずに教師サポートを受けた残りの生徒達の学習履歴からは, 単に問題を解くだけでは,帰納的な理解に結びつきにくいことが明らかになっ た。すべての単語を片っ端から組み合わせてみるような無駄な動きも多く見ら れ,それまでの試行錯誤を活かして問題を解いているとは思えない学習行動が 見られた。特に like の後に likes をつけたり,don’t の前に doesn’t をもってき たりと,これらの語が同一機能を持っていることや,それゆえに文の中では二 者択一であることなどが,そもそも理解されていないように思われた。 単に放って学習させておいても,こちらが期待するようにはルールを導き出 すことができないということから,よりきめ細かな支援が必要なことがわかっ た。今回の学習で言えば,どういった語が同じ機能を持つ同一カテゴリーとな り,それらの語の使い分けは別のどの語の影響を受けるのか,また肯定文と疑 問文といった機能の異なる文ではどのように語順が異なるのかといった支援で ある。例えば,そういった支援の一つとして,like と likes を画面上同一色に しておき,ルールとして同一色の語は同じ役割を果たすこと,そしてどちらか 一つを選ぶこと,そしてそれはどういった語に注意しながら選ばなければなら ないかに注意を促すなど,彼らの思考に合ったより精緻な学習支援が重要な鍵 となることがわかったように思う。 もちろん,教師サポートを受けず,帰納的学習が成功した生徒達についても, 彼らが実際のパタン化をどのように行ったか,仮説として立てたルールをどの 程度自覚しているのか,さらには言語化できるかどうか,もっと詳しくみてい く必要がある。帰納的推論を「問題解決者が,提示された材料にもとづいて, 一般原理や構造の発見を試みること」(市川 : )とすると,それにはま ず事例を集めること,それに基づき仮説を形成すること,そしてその仮説を検 証することが必要となる。つまり,単に法則を見つけるだけでなく,その法則
の正確さを確かめる機会をいかに提供するか,それが生徒の納得につながり, ひいては法則の記憶に大きく影響すると思われることから(麻柄 ),今後 はこういった確かめる機会というものをどう提供するかも検討課題の一つであ ろう。 文法を explicit に教授するか,implicit に取り扱うかは第二言語習得研究にお いても,大きな課題の一つである。また explicit に教授するとしても,先に教 授する proactive か,後に教 え る reactive か,ま た deductive か,inductive か な ど,様々なやり方がある。明示的教授は必ず文法項目を直接的に指導するとい うのは狭い見方であり,consciousness raising task を含むといった inductive な explicit instructionもあり得る(Ellis )。また,ある法則を教授するための 説明的方法と発見的方法を比較するにあたって,法則の発見には事例を先行さ せることから発見法と帰納的順序が結びつきやすいことは事実であるが,説明 的と発見的,演繹的学習順序と帰納的学習順序は別の次元とする見方もあるな ど(麻柄 ;森正他 ),その教材提示のあり方は e−ラーニングにおい ても様々な方法が考えられる。 今回の調査は,ある文法項目や語順に明らかに焦点を絞っているという意味 では explicit であり,学習者に対してルールを意識させることを狙いとしたと いう点では inductive,さらに間違いに対して磁石が反発して示すという意味で は reactive と言えるのかもしれない。いずれにせよ,explicit で proactive で, そして deductive な文法指導が望まれない小学校英語教育においては,いかに 生徒に自然な気づきとルールの内在化を促すかが大きなポイントとなることは 間違いない。 また注意を要するのは,上述したような分類の不統一も相まって,第二言語 習得の観点からはもちろん,文法教授という点からでも,この演繹的方法と帰 納的方法の優位性について決着がついているわけではないという点である。帰 納的な方法が優ったというもの(Alzu’bi ; Cerezo et al . ; Haight et al . ; Pudelek ),演繹的な方法が有効であったというもの(Mahjoob
; Spada et al . ),両者に有意な差がみられなかったというものから (Andringa et al . ; Iteogu ),男子生徒と女子生徒では結果が異なった というもの(Behjat )など,その結果は様々である。そういった点から言 えば,本研究の結果については,あくまで帰納的学習が成立するかどうかをみ たものとして解釈すべきであって,演繹的な教授方法と比較したものではない ことから,両教授法について,文法教授の点から,あるいは第二言語習得の点 から優劣を論ずるものではないという点は留意しておく必要がある。 ところで,新指導要領においても「外国語」であれ,「外国語活動」であれ, 「児童が身に付けるべき資質・能力や児童の実態,教材の内容などに応じて, 視聴覚教材やコンピュータ,情報通信ネットワーク,教育機器などを有効活用 し,児童の興味・関心をより高め,指導の効率化や言語活動の更なる充実を図 るようにすること」(文部科学省 : )とある。アンケート結果からは すべての生徒が MaG を使った学習を楽しんだことがわかり,ややもすると演 繹的な指導に終始し,英語嫌いを生み出す要因にもなり得る文法や語順の指導 が,こういったソフトを活用することでより受け入れられやすくなる可能性が 示唆された。指導の効率化といった観点だけでなく,興味・関心を高めるとい う意味でも MaG のようなソフトを使った学習はさらに活用していく余地があ ると思われる。 また実際の教室で活用していくにあたっては,よりそれぞれの実態に合った 形での検討が必要であろう。帰納的学習を効果的に促すためには,いかに文法 項目を既知のものと機能面や概念面で関連づけて提示するかといった緻密な教 材配列が必要と考えられる(藤田 )。今回は実験のために,あまりコミュ ニケーションに使うような表現ではなく,また人工的な日本語訳をつけた英文 を用意したが,今後実際の教室で使われているような英語表現を MaG の中に 搭載し,授業を補完するような形でも MaG の使い方等も検討していきたい。 また,今回は個々の生徒がそれぞれのパソコンで学習したが,実際の小学校 の PC 教室やネットワーク環境を考えると,PC 教室を使用するより,それぞ
れの教室で教師パソコンをプロジェクタにつないで問題を投影する形で,一斉 授業として活用するほうが,より実態に即した使い方となるかもしれない。そ して,元来個別学習を旨とする e−ラーニングにあっても,教室全体に MaG 画 面を投影することで,クラス全員で一緒に問題を解き,試行錯誤も敢えて示し ながら,ポイントとなる部分,例えば don’t と doesn’t のどちらを選択するか といった場面も強調することで,気づきを共有したり,また規則性を発見しよ うとする態度を学ぶなど,上記でみたような完走できなかった生徒たちも考慮 した,より有効な提示方法を今後検討していきたい。 引 用 文 献
Alzu’bi, M.( ). Effectiveness of Inductive and Deductive Methods in Teaching Grammar. Advances in Language and Literary Studies, ( ), − .
Andringa, S., Glopper, K., & Hacquebord, H.( ). Effect of Explicit and Implicit Instruction on Free Written Response Task Performance. Language Learning, ( ), − .
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Cerezo, L., Caras, A., & Leow, R.( ). The Effectiveness of Guided Induction versus Deductive Instruction on the Development of Complex Spanish“Gustar”Structures : An Analysis of Learning Outcomes and Processes. Studies in Second Language Acquisition, ( ), −
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Ellis, R.( ). Does Explicit Grammar Instruction Work ? 『国語研プロジェクトレビュー』 No. , − .
藤田直也( ).「演繹的文法指導の問題点と文法理解を向上させる方法論」『近畿大学英 語研究会紀要』第 号, − .
Haight, C., Herron, C., & Cole, S.( ). The Effects of Deductive and Guided Inductive Instructional Approaches on the Learning of Grammar in the Elementary Foreign Language College Classroom. Foreign Language Annals, ( ), − .
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森正義彦・浜田昌子・三宅洋子( ).「法則学習における説明的方法と発見的方法の比較 ⑷−帰納法対演繹法の次元との識別−」『岡山大学教育学部研究集録』 巻 号, − . 村野井仁( ).『第二言語習得研究から見た効果的な英語学習法・指導法』大修館書店. Pudelek, J.( ). The Effectiveness of a Guided Inductive Approach to Teaching English
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問題番号 問題文 錯乱肢 日本語訳 I like dogs. likes, don’t わたしはいぬがすきです。 She likes dogs. like, does かのじょはいぬがすきです。
You don’t like baseball. likes, doesn’t あなたはやきゅうがすきではありません。 They don’t like baseball. likes, doesn’t かれらはやきゅうがすきではありません。 Does she like baseball ? likes, do かのじょはやきゅうがすきですか。
Appendix 事前テスト a
問題番号 問題文 錯乱肢 日本語訳 You like dogs. likes, do あなたはいぬがすきです。 They like dogs. like, don’t かれらはいぬがすきです。
I don’t like baseball. likes, doesn’t わたしはやきゅうがすきではありません。 She doesn’t like baseball. likes, don’t かのじょはやきゅうがすきではありません。 Do you like baseball ? likes, does あなたはやきゅうがすきですか。
問題番号 問題文 錯乱肢 日本語訳 I like apples. なし わたしはりんごがすきです。 You like apples. なし あなたはりんごがすきです。 She likes apples. なし かのじょはりんごがすきです。 They like apples. なし かれらはりんごがすきです。 I like tennis. likes わたしはテニスがすきです。 You like tennis. likes あなたはテニスがすきです。 She likes tennis. like かのじょはテニスがすきです。 They like tennis. likes かれらはテニスがすきです。
I don’t like apples. なし わたしはりんごがすきではありません。 You don’t like apples. なし あなたはりんごがすきではありません。 She doesn’t like apples. なし かのじょはりんごがすきではありません。 They don’t like apples. なし かれらはりんごがすきではありません。 I don’t like dogs. likes, doesn’t わたしはいぬがすきではありません。 You don’t like dogs. likes, doesn’t あなたはいぬがすきではありません。 She doesn’t like dogs. likes, don’t かのじょはいぬがすきではありません。 They don’t like dogs. likes, doesn’t かれらはいぬがすきではありません。 Do you like apples ? なし あなたはりんごがすきですか。 Does she like apples ? なし かのじょはりんごがすきですか。 Do they like apples ? なし かれらはりんごがすきですか。 Do you like dogs ? likes, does あなたはいぬがすきですか。 Does she like dogs ? likes, do かのじょはいぬがすきですか。 Do they like dogs ? likes, does かれらはいぬがすきですか。
事前テスト b