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張 善実 的 構文的特徴について検討した上で本稿における立場を論じ 3 節では 受 N す る の意味的 構文的特徴について論じ 4 節でまとめる 2. 本動詞 受ける の意味的 構文的特徴 本節では本動詞 受ける の意味的 構文的特徴について 小泉他 (1989) 森 田 (1989) 岸本 (2

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漢語サ変動詞「受 N する」の意味分析

―「N を受ける」との比較から―

張 善実

1. はじめに

本研究では「受賞する」や「受験する」のような漢語サ変動詞「受 N する」の意味 について考察する1。「受 N する」は、動詞的要素「受-」と名詞的要素 N(Noun)が「N を受ける」というヲ格の補足関係2で複合してできている。例えば、「受賞する」は動 詞的要素の「受-」と名詞的要素の「賞」が「賞を受ける」という意味関係で複合して できており、「受験する」は「受-」と「験」が「試験を受ける」という意味関係で複合し てできている。 従来、「受 N する」に関する研究は国語辞典類の記述を除いてほとんど見当たら ない。例えば、「受賞する」については「賞を受ける」、「受験する」については「試験 を受ける」といった単に「N を受ける」に言い換えただけの記述がほとんどである。し かし、「受賞する」は「賞をもらう」という意味を持っているのに対し、「受験する」は 「試験をもらう」という意味を持たない。このように「受 N する」は同じ「N を受ける」と いう意味関係を持っていても本動詞「受ける」の多義性によっていくつかのタイプに 分けられる。本稿は「N を受ける」と比較しながら「受 N する」の特徴について明らか にすることを目的とする。以下、2 節では先行研究をもとに本動詞「受ける」の意味 1 「受」を動詞的要素とする漢語サ変動詞には「受賞する」のような「受 N する」型のほかに、「受理 する」「受領する」のような「受 V する」型や「享受する」「甘受する」「授受する」のような「~受する」 型もあるが、本稿の考察対象から省く。 2 森田(1994)では、「補足関係とは、動詞的要素が前に名詞的要素が後に来て「何ヲドウスル」 「何ニドウスル」と漢文訓読式にレ点で返る意味関係の熟語を指す。当然、意味の中心は述語に 相当する動詞的要素のほうにあり、名詞的要素はその対象を示して意味を補足するに過ぎない」 (p.263)と説明されている。

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張 善実 的・構文的特徴について検討した上で本稿における立場を論じ、3 節では「受 N す る」の意味的・構文的特徴について論じ、4 節でまとめる。

2.本動詞「受ける」の意味的・構文的特徴

本節では本動詞「受ける」の意味的・構文的特徴について、小泉他(1989)、森 田(1989)、岸本(2010)の研究を概観する。 2.1 小泉他(1989) 小泉他(1989)の『日本語基本動詞用法辞典』は「受ける」について 9 つの意味 に分類し、それぞれの文型について以下のように記述している。 ① 落ちてくるもの・向かってくる物などを支え止めたり、出された物を取る。 ≪文型≫[人]{が/は}[物]を[物・身体・(部分)]{に/で}受ける (1) 母は天井からの雨漏りをバケツに受けた。 (2) ボールを素手で受ける。 (3) 先輩の酒を盃に受ける。 ② 外からの行為や働きかけに応じる。 ≪文型≫[人・組織]{が/は}([人・組織]から)[事・活動]を受ける (4) 順子は友達から相談を受けた。 (5) 先生から指図{電話/誘い/質問/お叱り}を受ける (6) 手術[試験/検査/取り調べ/来訪]を受ける ③ 外から心身に作用・行為を加えられる。 ≪文型≫[人・物・事]{が/は}[人/物/事]{から/に}[心理・活動・事]を受ける (6) 私はその知らせにショックを受けた (7) 先生は町の人々から尊敬を受けている。 ④ 他から何かよい物をもらう。 ≪文型≫[人・組織]{が/は}[人・組織]から[物]を受ける (8) 青年団は市から功労賞を受けた。 (9) 父は社長から金一封を受けた。

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漢語サ変動詞「受 N する」の意味分析 63 ⑤ 光・風などに身をさらす。 ≪文型≫[人・物]{が/は}[光・風・方角]を([所]に)受ける (10) 船は帆に追風を受けた。 (11) 建物の壁は西日を受けている。 ⑥ 天から授けられる。 ≪文型≫[人]が{が/は}([天・神仏・自然]から)([世]に)[生命・恩恵]を受ける (12) 私はこの世に偶然、生を受けたのだ。 (13) 私たちは自然から恩恵を受けている。 ⑦ 跡を継ぐ。 ≪文型≫[人・家系]{が/は}[跡・血筋]を受ける (14) 恵子は母方の血筋を受けている。 (15) 父の仕事の跡を受ける。 (16) 彼の家系は代々音楽家の血を受けている。 ⑧ 話・うわさなどを信用する。 ≪文型≫[人・組織]{が/は}[言葉・話]を副詞的要素 受ける (17) 弟はその話を真に受けた。 (18) 人の言葉を軽々しく受ける。 ⑨ 人々の間で評判がいい。 ≪文型≫[人・物・事]{が/は}[人]に受ける (19) あの俳優は女性に受けている。 (20) この番組は子供に受けている。 小泉他(1989:57-58) 小泉他(1989)は、「受ける」は意味③(「ショックを受ける」、「尊敬を受ける」など) を除いて「受けよう」という意志形を取って意志表現を形成しうるとしている。そのう ち意味④(「功労賞を受ける」など)と⑨(「女性に受ける」など)は「受けよう」という意 志形は取るものの、「受けるように努める」という意味になると論じている。 「受ける」の意味と構文については概ね小泉他(1989)で述べた通りであるが、本 稿では以下の 2 点について記述し直す。 まず、意味②の「受ける」は「外からの行為や働きかけに応じる」ものとして一つに

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張 善実 まとめられているが、例(6)のうちの「手術を受ける」と「試験を受ける」は他の例と性 質が異なるため、別途項目を立てる必要があると考える。すなわち、「相談を受け る」、「指図を受ける」、「取り調べを受ける」などは主語が外からの行為や働きかけ に応じるという意味を表すが、「手術を受ける」や「試験を受ける」は主語自ら進ん で手術や試験をしてもらうという意味を表すという違いがある。さらに、構文的にも 前者は例(21)のようにヲ格で示される行為の動作主をカラ格で示すことができるこ とに対し、後者は(22)のようにそれができないという違いがある。 (21) 彼女から{相談/指図/取り調べ}を受ける。 (22) *専門医から手術を受ける/*大学から試験を受ける。 そこで、本稿では「{手術/試験/診察/講義}を受ける」などを「自らすすんで、ある行 為をしてもらう」ものとして、意味②とは別に項目を立てることにする。 もう一つ、小泉他(1989)は意味④(「勤労賞を受ける」、「金一封を受ける」など) について「他から何か良い物をもらう」と説明している。しかし、「罪を受ける」や「刑 を受ける」のように主語にとって良くないものを受ける場合もある。これらの「受ける」 について小泉他他(1989)には記述がないが、意味④とは別に項目を立てる必要 がないため、意味④と「他から差し出された賞罰をもらう」と記述し直すこととする。 (p.8 の表 1 を参照) 2.2 森田(1989) 森田(1989)は「受ける」の意味について、「他から向かってくるもの、働きかけて くる作用などに対し、主体がそれに身をさらし、また応ずる状態」であると論じている。 またその構文的特徴について以下の 4 種類に分けている。ここで A は主体、C は A へ向かう事物、E は主体 A に属する部分としている。3 ① 「E に C を受ける」 (23) 顎にパンチを受けてダウンする。 (24) 腕に傷を受ける。 3 森田(1989)で B について特に示していないが、「働きかけてくる側」を指すと思われる。

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漢語サ変動詞「受 N する」の意味分析 65 (25) 連結器に強い衝撃を受ける。 ② 「E で C を受ける」 (26) 素手でボールを受ける。 (27) 水滴をコップで受ける。 ③ 「A が C を受ける」 (28) 月は太陽光線を受けて輝く。 (29) 親友の死に強いショックを受ける。 ④ 「A が B から C を受ける」 (30) 彼はみんなから尊敬を受けている。 (31) 友人から苛めを受ける。 森田(1989:175-176) 森田(1989)は動詞を受ける主体は、構文①のような無意志的な場合と構文②のよ うな意志的な場合があるとしている。構文③については無意志的な現象であるが 「試験を受ける羽目になった/検査を受けねばならぬ」など意志に反する事態にも 用いられ、それがさらに進んで「教育を受ける」といった用法になり、もっと積極的に 進んで「T 大学を受けようと思う」「K 大学を受けたい」のような意志的用法ともなる、 と論じている。確かに(28)(29)は無意志的用法であるが、「{試験/教育/K 大学} を受ける」という事態はガ格がヲ格に対して「受ける」という行為を意志的に行わな いかぎり成立しないため、本来の意味での意志的用法であると考えられる。つまり、 (28)(29)のような無意志的な用法とは性質が異なる。 2.3 岸本(2010) 小泉他(1989)や森田(1989)では、「受ける」には意志的用法と無意志的用法が あると指摘しているのに対し、岸本(2010)では意志性という観点を前面に取り上げ て考察している。つまり、「受ける」には(32)~(38)のように「大きく分けて、主語が 主体的な行為を行うという「行為」の意味を表す場合と単に主語が着点として働く 「移動」の意味を表す場合がある」と主張している。

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張 善実 (32) あの子が{手術/期末テスト/授業}を受けた。 (行為)4 (33) あの選手は片手でボールを上手に受けた。(行為) (34) あの選手はピッチャーから背中にデッドボールを(3 回も)受けた。(移動) (35) 私はあの団体から{奨学金/感謝状}を受けた。(移動) (36) 彼の行動は厳しい制約を受けている。(移動) (37) あの人は、事故で大きな損害を受けた。(移動) (38) メアリーはそのことにショックを受けた。(移動) 岸本(2010)は、(32)と(33)は「「受ける」という行為を積極的に行うというもので、主 語の「行為」を表す用法」であり、(34)~(38)は「主語の積極的な行動は行わない ものの、何かが主語のところに入ってくるという「移動」を表す用法 」であると指摘し ている。また、岸本(2010:207)は「受ける」の主語が行為者である場合、(39a)のよ うに道具を表すデ格が表出できるのに対し、主語が単なる着点としてしか解釈でき ない場合は(39b)のように道具を表すデ格が表出できないと論じている。 (39)a. 彼は、ボールペンだけでテストを受けた。 b. *彼は、キャッシュカードで奨学金を受けた。 岸本(2010)はさらに、起点を表すカラ格の標示について興味深い考察を行ってい る。「受ける」が主体的な行為を表す場合には、ヲ格で示される行為の与え手(岸 本 2010 では起点)を想起することができたとしても(40)のように、与え手をカラ格で 表すことができず、(41)のようにヲ格名詞句の中に標示すると論じている。 (40)a. *ジョンは、この先生から{授業/手術}を受けた。 b. *ジョンは、あの人からうまく荷物を受けた。 (41)a. ジョンは、この先生の{授業/手術}を受けた。 b. ジョンは、あの人から投げられた荷物をうまく受けた。 これに対し、岸本(2010)は主語の積極的な行為を表さない場合には、(42a)のよう 4 例(32)~(38)の後ろにある(行為)と(移動)は筆者(張)が付け加えたものである。

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漢語サ変動詞「受 N する」の意味分析 67 に起点を直接カラ格で標示することも、(42b)のようにヲ格名詞句の中に与え手表 現を入れても問題がないと述べている。 (42)a. 学生が財団から{奨学金/表彰}を受けている。 b. 学生が財団からの{奨学金/表彰}を受けている。 しかし、岸本(2010)では言及されていないが、(40b)と(41b)の「荷物を受ける」と 違って「{授業/手術}を受ける」は(43a)と(43b)のように目的語の名詞句の中にカ ラ格を用いることができない。 (43)a. *ジョンはこの先生からの授業を受けた。 b. *ジョンはこの先生から行なわれた授業を受けた。 「荷物を受ける」と「授業を受ける」は、荷物を渡す人および授業や手術を行う人が 行為の起点で、主語の「ジョン」がヲ格で示す行為の着点という点では共通してい る。ただし、前者は荷物というモノの移動を表しているのに対し、後者は授業や手 術というコトの移動を表し、さらに主語自ら進んでヲ格で示す行為をしてもらうという 意味を含意している。このことから、単なるモノの移動にはカラ格を用いられやすく、 主語の意図的な行為によるコトの移動にはカラ格が用いられにくいことが観察され る。これは(44)のように主語の意図的な行為によらずに単なるコトの移動を表す場 合にはカラ格が用いられることからも検証できる。 (44)a. ジョンはあの検察官から取り調べを受けた。 b. ジョンは彼女から相談を受けた。 c. ジョンは大手企業から注文を受けた。 2.4 「受ける」における本稿の立場 本稿では、本動詞「受ける」の意味を小泉他(1989)の分類基準に従い、以下の 表 1 のように①から⑩の用法に分類し直す。

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張 善実 表 1 本動詞「受ける」の意味 ① 落ちてくるもの・向かってくる物などを捉えてお さめる。 ・ 彼は両手でボールを受けた。 ・ 母は雨水をバケツに受けた。 ⑥ 話やうわさなどを信用する。 ・ 社長は占い師の予言を真に受けた。 ・ 彼は人の冗談をまともに受けてしまう。 ② 自らすすんで、ある行為をしてもらう。 ・健二は眼科の診察を受けた。 ・妹は東大の入学試験を受けた。 ⑦ 一方的に外からの作用・行為をこうむる。 ・ 農家は台風で大きな被害を受けた。 ・ 先生は生徒たちから尊敬を受けている。 ③ ある行為や働きかけに対処する。 ・ 健二は大手会社から注文を受けた。 ・ 彼は生徒から質問を受けた。 ⑧ 光・風などに身をさらす。 ・ 湖面が夕日を受けて真っ赤に染まる。 ・ 船が追い風を受けて進む。 ④ 他から差し出された賞罰をもらう。 ・ チームは政府から国民栄誉賞を受けた。 ・ 彼は無免許運転で罰金刑を受けた。 ⑨ 天から授けられる。 ・ 彼は終戦の年にこの世に生を受けた。 ・ 我々は人間として生を受けている。 ⑤ 跡を継ぐ。 ・ 父は先代の跡を受けて会社を守ってきた。 ・ 彼は社長の意を受けて新製品を企画した。 ⑩ 人々の間で評判がいい。 ・ あのドラマは女性に受けている。 ・ 彼は子供たちに受けている。 通常の他動詞は、「健二がテーブルを拭いた」のように主語が目的語に対して 動詞で示される行為を及ぼすことを表す。それに対して、「受ける」は他からの行為 が主語に及ぶという意味特徴を持っている。つまり、「受ける」は向かってくる物や 行為を受ける側(受け手)を主語にした動詞である。したがって、「受ける」の基本 構文は(45)のように考えられる5。A は受け手、B は与え手、C は B から A へ向かっ てくる物や行為を表し、E は主語 A が C を受け取るための道具や手段を表す。 (45) 「受ける」の基本構文:A が(E で)(B から)C を受ける 5 表 1 の意味⑩(「あのドラマは女性に受けている」、「彼は子供たちに受けている」)は、一見ヲ格 の目的語を伴わないように思われるが、実際に「人々に評判がいい」という意味で用いられる場合 は森田(1989:176)でも指摘されたように、「あのドラマは女性に{好評を受けている/人気を受けて いる}」のヲ格が脱落して自動詞化した用法と考えられる。

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漢語サ変動詞「受 N する」の意味分析 69 この「受ける」の基本構文を図に示すと図1のようになる。右向きの矢印は A が B に 対する働きかけを表し、左向きの矢印は B が A に対する働きかけ(あるいは、対象 C の移動する向き)を表す。「受ける」は図 1 のような構図を共有し、その構図のど の部分が焦点化(profile)されるかによって諸用法が生ずると考える。 図 1 「受ける」の基本構図 以下では、図 1 の構図をもとに表 1 で示した意味②の用法について説明する。 意味②(「診察を受ける」など)は主語 A が自らすすんで、B に C(「診察」)という行 為を要求する働きかけをし、その結果 A が C という行為を受け取るという過程が焦 点化されている。よって、意味②は図 2 のように示すことができる。(焦点化されてい る部分は太線で示す。以下同様)。 図 2 「受ける」の基本構図 このように「受ける」の意味②は A の B に対する意図的な働きかけを表すため、 (46)のように道具・手段を表すデ格(E)を取ることができる。 (46) 健二は他人の保険証で診察を受けた。 一方、意味②の B には A への意図的な働きかけというより、A の要求に応じるという 意味を表すため、(47a)のようにカラ格で表すことができない。B は(47b)のようにヲ 格名詞句の中では表すことが可能である。 A B 働きかけ で を を が から E A B 働きかけ で を を C が の E 例:「診察を受ける」 C

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張 善実 (47)a. *ジョンは山田医師から診察を受けた。 b. ジョンは山田医師の診察を受けた。 以上から「受ける」の基本構文は図 1 のような基本構図を持っており、①A は B に 対して C で示される行為を要求するという働きかけがあるかどうか、②B は A に対し て C で示される行為を与えるという働きかけがあるかによって道具のデ格(E)を取り 得るかどうか、③与え手(B)はどのような格(カラ格など)を取り得るかなどの特徴に よって様々な意味に分類される。

3.「受 N する」の意味的・構文的特徴

本節では本動詞「受ける」の分析結果を手がかりに「受 N する」の意味 的・構文的特徴について考察する。「受 N する」は受け手 A および与え手 B の 働きかけ性・意図性によって以下で示すように(Ⅰ)~(Ⅳ)の 4 つのタイプに分けら れる。(Ⅰ)の「受診類」は、「受診する」や「受験する」のように受け手 A の主語が 与え手 B に対して意図的に N で示される行為(「試験」や「診察」)を要求し、その 結果 N で示される行為が主語に及ぶことを表す。それに対し、(Ⅱ)の「受注類」は、 「受注する」や「受給する」のように受け手 A が与え手 B から意図的に発せられてき た行為(「注文」、「任命」)に応じ対処するという意味を表す。また、(Ⅲ)の「受賞 類」は「受賞する」のようにある行為(「賞」)が主語の意志とは無関係に一方的に主 語のところに移動してきたという意味を表し、(Ⅳ)の「受傷類」は「受傷する」のよう にある行為が主語の意志とは無関係に、一方的に主語のところに降りかかってき たという意味を表す。 (Ⅰ) 「受診類」: 受診する、受験する、受講する、など (Ⅱ) 「受注類」: 受注する、受任する、受信する、など (Ⅲ) 「受賞類」: 受賞する、受章する、受刑する、など (Ⅳ) 「受傷類」6: 受傷する 6 筆者(張)が作成した「受 N する」のリスト(22 語)の中に「受傷類」に属するものは「受傷する」の 1 語のみだった。さらに、漢語サ変動詞として用いられた実例も非常に少なく、中日新聞コーパスの

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漢語サ変動詞「受 N する」の意味分析 71 以下では、これらの 4 つのタイプの特徴について、道具のデ格の表出や起点格 の表出、「受 N しない」の意味、およびヲ格の意味的性質を取り上げて検討する。 3.1 (Ⅰ)「受診類」の場合 まず、「受診する」や「受験する」のような、「受診類」の特徴について見る。この用 法は、図 3 で示すように、受け手 A が与え手 B に対して N で示される行為(「診察」 や「試験」)を要求し、その結果 A が B から N で示される行為を意図的に受け取る という意味を表す。 図 3 「受診類」の構図 前節でみたように、「診察を受ける」は主語 A の B に対する意図的な働きかけを表 すため、道具や手段を表すデ格で表すことができる。「受診類」の場合も「診察を 受ける」と同じように道具のデ格が用いられる。 (48)a. 彼は他人の保険証で受診した。 b. 弟はボールペンだけで受験した。 c. 健二はオンラインで英会話を受講している。 また、カラ格に関しても「診察を受ける」と同じく、(49)のように「受診類」の項として 用いることができない。診察という行為の与え手を文の中で表すには「大学病院の 診察」のようにノ格で表すことができる。同じく、(49b)「東大」や(49c)の「山田教 授」もカラ格ではなくノ格で表される。 (49)a. *健二は大学病院から(→の)がん検診を受診した。 1987 年から 2010 年までの 24 年分と東京新聞コーパス 1997 年から 2011 年までの 14 年分の記 事から計 5 件しかヒットされなかった。 A B 働きかけ で を を C が の E

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張 善実 b. *健二は東大から(→の)入学試験を受験した。 c. *健二は山田教授から(→の)集中講義を受講した。 さらに、「受診類」のように A の B に対する意図的な働きかけを表す動詞は(50)~ (52)のように 2 種類のヲ格名詞句を取ることができる。一つは(50a)の「皮膚科専 門医を受診する」の「皮膚科専門医を」のように、「受 N する」の N という行為を実施 する人・組織(実施先)を表すもので、もう一つは(50b)の「健康診断を受診する」 の「健康診断」のように「受 N する」の N の下位概念を表すものである。(51)(52)も 同様である。 (50)a. 市販薬などを使って数日で効果が出ない場合は、皮膚科専門医を受診 したほうがよい。(日本経済新聞 2011/8/7) b. (バンコクの大型病院には)観光しながら、半日で終わる健康診断を受診 する人も多い。(中日新聞 2009/4/24) (51)a. 受験生は一昨年から三年続けて帝京大医学部を受験し今年、合格し た。(中日新聞 2002/7/12) b. 全員が二月に看護師国家試験を受験し、・・(中日新聞 2010/3/6) (52) a. 長寿学園は六十歳以上の市民が一年間、歴史や俳句などさまざまな講 座を受講している。(中日新聞 2010/3/25) b. 参加者は血圧を測定した後、健康的な食事に関する講義を受講した。 (中日新聞 2008/6/10) 3.2 (Ⅱ)「受注類」の場合 「受注する」や「受任する」のような「受注類」は図 4 で示すように、B が A へ C と いう行為を意図的に行い、その行為を A が積極的に受け取るということを表す。 「受診類」と違って主語 A が B に対して C という行為を要求する働きかけはあって も、必ずしも B が C という行為を行うとは言えない。そのため、「受注類」は「受診類」 に比べて B から A への働きかけ性は強いが、A から B への働きかけ性は低い。

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漢語サ変動詞「受 N する」の意味分析 73 図 4 「受注類」の構図 「受注類」も「受診類」と同じく受け手(A)が C を意図的に受け取るため、(53)の 「電話で受注する」や「B 弁護士の名前で受任する」のように道具・手段を表すデ格 が用いられる。 (53)a. パソコンなどインターネットに直接アクセスする手段を持たない会社で も、ファクスやプッシュホン式電話、携帯電話で受注できるようにし、門 戸を広げている。(中日新聞 1999/10/14) b. A7事務員は・・報酬目的で、依頼者七人から B 弁護士の名前で受任し た債務整理事件の法律相談や書類作成、債権者との交渉などの法律 事務を行い、・・(東京新聞 1999/9/21) もちろん、「受診類」も「受注類」も主語にとってある程度予測できることであり、主語 が N という行為に対して意図的にコントロールできる事態であるため、道具や手段 を表すデ格が用いられやすい。「受診する」や「受験する」、「受講する」などの場合 は、主語は自分の意志で「N を受ける」かどうかを決めることができる。それに対し、 「受注する」、「受任する」などの場合、主語にとって「注文が来る」や「任命が来る」 といった仕事が来ることを前提にしているため(53)のように「電話」や「印鑑」などの 道具・手段を利用できるように事前に備えることはできるが、仕事がいつどこからく るかまでは予測できない。 次に、「受注類」は B から A に対して C を与えているため(54)のように N という 行為の与え手をカラ格で表すことができる。 7 例(53b)、(56a)において個人名を付せてある。 A B 働きかけ で を を C が から E

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張 善実 (54)a. 三社は芸能事務所からアイドルのファンクラブ会報誌の印刷業務を受 注していたが、(後略)(東京新聞 2010/11/18) b. A 事務員は・・報酬目的で、依頼者七人から B 弁護士の名前で受任し た債務整理事件の法律相談や書類作成、債権者との交渉などの法律 事務を行い、(後略)(=(53b)) (54a)の「芸能事務所」は主語の「三社」に注文をする主体、つまり主語にとって は発注先(与え手)である。同じく、(54b)の「依頼者七人」は主語の「A 事務員」に とって事件解決の依頼を任命する主体(与え手)である。この場合、与え手をカラ 格で標示することができる。 最後に、どの性 質のヲ格 名 詞句 を取 るかについて見 る。「受注 類」は(55a)と (56a)のように N の内容としてのヲ格名詞句しか取らず、(55b)と(56b)のように N の 下位概念としてのヲ格名詞句は取りにくい。 (55)a. 三社は芸能事務所からアイドルのファンクラブ会報誌の印刷業務を受注 していたが、(後略)(=(54a)) b. ??三社は印刷業務の注文を受注した。 (56)a. A 弁護士は(中略)B さんの民事事件を受任し着手金など七十万円を受 け取った。(中日新聞 2001/3/9) b. ??A 弁護士は B さんの民事事件の任命を受任した。 3.3 (Ⅲ)「受賞類」の場合 「受賞する」のような「受賞類」は図 5 で示すように受け手(A)と与え手(B)の意図 的に働きかけ性はほとんど薄れており、単なる「受 N する」の N が主語のところに移 動してきたことを表す。 図 5 「受賞類」の基本構図 A B 働きかけ を を C が

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漢語サ変動詞「受 N する」の意味分析 75 そのため、「受賞類」は(57)と(58)のように道具のデ格が用いられない。 (57) *健二は{両手/他人の名前}で受賞した。 次に、「受賞類」は B を起点のカラ格で表せるかどうかについて検討してみると、 「賞を受ける」は 2 節で見たように「チームは政府から国民栄誉賞を受けた」のよう に賞の与え手である「政府」をカラ格で標示できるが、「受賞する」の場合は(58a) の「政府から」ように与え手 B をヲ格で表すことができない。 (58)a. *チームは政府から国民栄誉賞を受賞した。 b. チームは国民栄誉賞を受賞した。 与え手を表すには(59)のように「授与する」のような与え手主語の文にしたり(60) の「アカデミー賞で」のように賞の与え手を含意したデ格などの表現を用いたりしな ければならない。 (59) 政府はなでしこジャパンに国民栄誉賞を授与した。 (60) 第 33 回日本アカデミー賞で木村は最優秀監督賞を受賞。(朝日 2011/10/5) このことから「受賞する」は「賞を受ける」と違って文の焦点は、受け手がどんな賞 を受けたかという結果にあるのであって、どこから受けたかという与え手にはないと いうことが観察される。 続いて、ヲ格名詞句の性質について見ると「受賞類」の場合は(61a)のように N の下位概念としてのヲ格名詞句しか取ることができない。(61b)のように N の内容を 表すヲ格も、(62c)のように N の実施先を表すヲ格も取らない。 (61)a. 第 33 回日本アカデミー賞で木村は最優秀監督賞を受賞。(=(60)) b. *第 33 回日本アカデミー賞で木村は最優秀監督を受賞。 c. *木村は日本アカデミーを受賞。 さらに興味深いことに「受賞しない」という否定形は主語の意志を表さないことで

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張 善実 ある。通常、意志的用法を持つ動詞(「行く」、「食べる」、「読む」など)の否定形 (「行かない」、「食べない」、「読まない」)は動詞で示される動作を主語の意志で行 わないことを表す。しかし、「受賞する」は(62)のように「受賞しない」という否定形に した場合、主語が自分の意志で受賞をしないという意味にはならない。 (62) イタリアで開催されているベネチア・ビエンナーレの授賞式が4日行わ れ、・・ドイツ館が、最高賞の金獅子賞に選ばれた。・・日本館は受賞しな かった。(東京新聞 2011/6/10) 「日本館は受賞しなかった」は「賞に選ばれなかった」という結果を表しており、「日 本館」が受賞を意図的に断ったという意味を表すのではない。なお、主語が受賞を 意図的に断るということを表すには(63)の「受賞を拒否する」のように表さなければ ならない。 (63) (ロシアの数学者、グリゴリ・ペレリマン氏は)数学界最高の栄誉とされるフ ィールズ賞の受賞が決まったが、彼はなぜか受賞を拒否し、表舞台から 消えてしまった。(東京新聞 2007/10/22) 3.4 (Ⅳ)「受傷類」の場合 最後に、「受傷する」のような「受傷類」について考察する。この用法は図 6 で示 すように主語(A)から B への働きかけ性はなく、かつ B が A への働きかけ性もない。 単なる B によって引き起こされた影響が結果的に A に降りかかってきたことを表す。 図 6 「受傷類」の構図 そのため、(64)のように道具のデ格を取ることも(65b)のように与え手にカラ格を用 いることもできない。 A B を C が で

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漢語サ変動詞「受 N する」の意味分析 77 (64) *健二はナイフを使って受傷した。 (65)a. 日本では空襲などで数限りない人が、受傷しただろう。(東京 2001/1/17) b. *日本では空襲から数限りない人が受傷した。 次に、「受傷する」が取り得るヲ格の性質について見てみると、上記の「試験類」や 「受注類」、「賞類」はいずれも N と何らかの関係(N の下位概念や内容など)を持っ たヲ格が取り得る。それに対し、「傷類」の「受傷する」の場合は上記のどの類とも違 って、N と関係付けられたヲ格を取り得るのではなく、(66)のように主語の身体部位 を表す名詞をヲ格として取ることができる。 (66) 健二は試合で右足を受傷した。 最後に、「受賞する」と同じく「受傷しなかった」という否定形は(67)のように怪我を せずに済んだという結果を表しており、「受傷」を意図的に避けたという意味を表さ ない。 (67) 彼は今回の火事で幸いに受傷しなかった。 以上のように、3 節では「受 N する」を受け手と与え手の意図的な働きかけ性とい う観点から考察した。その結果、「受診類」と「受傷類」は両極を成しており、「受注 類」と「受賞類」はその中間に位置していることが分かる。(p.19 の表 3 を参照)

4.結論

本節では、「受 N する」の意味的・構文的特徴について、本動詞「受ける」との比 較を通して考察した。その結果を表 2 と表 3 にまとめる。表 2 は「受 N する」を本動 詞「受ける」の意味(表 1)と対応させたもので、表 3 は「受 N する」の統語的特徴を 「N を受ける」と比較したものである。

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張 善実 表 2 本動詞「受ける」と漢語サ変動詞「受 N する」の対応 「受ける」 「受 N する」 意 志 的 用 法 ① 落ちてくるもの・向かってくる物などを捉えてお さめる。 ・素手でボールを受ける。 ・杯を両手で受ける。 *受球する 受杯する ② 自らすすんで、ある行為をしてもらう。 ・眼科の診察を受ける。 ・東大の入学試験を受ける。 ・NHK 講座の講義を受ける。 ① 自らすすんで、ある行為をしてもらう。 ・眼科を受診する。 ・東大を受験する。 ・NHK 講座を受講する。 ③ 外からの行為や働きかけに対処する。 ・政府から道路建設の注文を受ける。 ・上司から仕事の任務を受ける。 ② 外からの行為や働きかけに対処する。 ・政府から道路建設を受注する。 ・上司から仕事を受任する。 ④ 他から差し出された賞罰をもらう。 ・直木賞を受ける。 ・死刑を受ける。 ③ 他から差し出された賞罰をもらう。 ・直木賞を受賞する。 ・死刑を受刑する。 ⑤ 話・うわさなどを信用する。 ・人の話を真に受ける *受話する ⑥ 跡を継ぐ。 ・先代の跡を受ける/社長の意を受ける。 *受跡する/受意する 無 意 志 的 用 法 ⑦ 一方的に外からの作用・行為をこうむる。 ・戦争で頭に傷を受ける/台風で災害を受ける ④ 一方的に外からの作用・行為をこうむる。 ・彼は戦争で頭を受傷する/*受災する ⑧ 光・風などに身をさらす。 ・夕日を受ける/追い風を受ける *受光する/受風する ⑨ 天から授けられる。 ・生を受ける。 *受生する ⑩ 人々の間で評判がいい。 ・あの俳優は女性に(評判を)受けている。 *受評する

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漢語サ変動詞「受 N する」の意味分析 79 表 3 漢語サ変動詞「受 N する」の諸特徴 受診類 受注類 受賞類 受傷類 「受診する」 「受注する」 「受賞する」 「受傷する」 道具のデ格 ○ ○ × × 起点のカラ格 × ○ × × 否定形が主語の意志を表す × × ヲ 格 の 性 質 N の実施先 × × × N の内容 × × N の下位概念 × × 主語の身体部位 × × × 表 2 に示されるように①~⑩の意味をなす「受ける」に対し、「受 N する」は「受け る」の意味のうち②、③、④、⑦の意味に限定されていることが分かる。 また、表 3 の分析結果から、「受 N する」について以下の 5 点が明らかになった。 ① 「受 N する」は受け手 A と与え手 B の働きかけ性・意図性によって「受診類」、 「受注類」、「受賞類」および「受傷類」の 4 つに分けられる。 ② 受け手 A が N で示される行為に対して意図的に受け取るという意味を持つ 「受診類」と「受注類」は道具のデ格を取り得るが、意図的に受け取るという 意味を持たない「受賞類」と「受傷類」は道具のデ格を取らない。 ③ 「受注類」は、受け手 A に対する与え手 B の意図的な働きかけがあるためカ ラ格が標示しやすい。それに対し、「受診類」や「受賞類」、「受傷類」は受け 手 A に対する与え手 B の意図的な働きかけがないためカラ格が標示しにく い。 ④ 主語の受け手 A が与え手 B に対する働きかけ性が強いほど N との関連性が 緩いヲ格名詞句(N の実施先など)を取りやすい。 ⑤ 「受賞類」と「受傷類」は受け手と与え手の両方に意図的な働きかけ性がな い場合、「受 N しない」は主語の受け手の意志を表せない。 今まで「受 N する」に関する研究は、「N を受ける」といった単に分析的に記述した

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張 善実 ものがほとんどであった。しかし、本研究の考察を通して「受 N する」は、「受ける」よ り意味が限定されているものの、主語の意志性や働きかけ性によって 4 つの意味 に分かれていることを指摘した。またこれらは道具のデ格、起点のカラ格、 ヲ格名 詞句の性質、「受 N しない」の意味などの面で異なる特徴を持っていながら、互い に連続体を成していることが明らかになった。 [参考文献] 仁田義雄(2004)「意志性から見た主語」『月刊言語』33−2 大修館書店 森田良行(1989)『基礎日本語辞典』 角川書店 岸本秀樹(2010)「受け身の意味を表す「受ける」の語彙概念構造」影山太郎編 『レキシコンフォーラム』No.5 ひつじ書房 小泉保・船城道雄・本田皛治・仁田義雄・塚本秀樹編(1989)『日本語基本動詞辞 典』 大修館書店

参照

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