肥満 細 胞 な らび に好塩 基球 の形 態 と
機 能 に関す る研 究
第2編
Cutaneous basophil hypersensitivity
(CBH) reaction
に お け る 好 塩 基 球 な ら び に 肥 満 細 胞 の 研 究
岡山 大学 医 学部 第2内 科(主 任:木 村 郁 郎教 授)
岸
本
卓
巳
(昭 和57年3月18日
受 稿)
Key words: basophil, mast cell, degranulation,
homocytotropic antibody, 緒 言 好 塩 基 球 は トル イ ジ ン ブ ル ー に メ タ ク ロマ ジ ー を 呈 す る 顆 粒 で 満 さ れ た 白 血 球 の1つ で あ り, 1970年 以 来 石 坂 らに よ っ て 即 時 型 ア レ ル ギ ー 反 応 に 関 与 す る レ ア ギ ン様 抗 体 即 ちIgE1)のtar get cellで あ る こ と2)が 明 らか に さ れ た.一 方, Jones, Mote3)は 人 の 異 物 反 応 に お い て,古 典 的 な 遅 延 型 反 応 と は 異 な り,一 過 性 で か つ 硬 結 を と も な わ な い 遅 延 型 類 似 の 反 応 が あ る こ と を 記 載 し, Raffelら4)は 結 核 菌 を含 ま な いFreund incomplete adjuvantと 少 量 の 抗 原 に て,モ ル モ ッ トに も 同 様 の 反 応 が 惹 起 さ れ る こ と を報 告 して,こ れ を “Jones-Mote reaction” と 呼 ん だ. ま たDvorak5)∼7)は モ ル モ ッ トに 同 様 の 感 作 方 法 で “Jones-Mote reaction” を 作 製 し,そ の 反 応 局 所 に 多数 の 好 塩 基 球 が 出 現 す る こ と を 見 出 し,
Cutaneous basophil hypersensitivity,(以 下
CBH)と 名 づ け た.そ の 後 こ の 反 応 はT-cell18), B-cellの み な らず,液 性 抗 体 に よって,他 にtrans ferさ れ る9)∼13)ことな どが 明 らか に さ れ て い る が, そ の 成 因 の 詳 細 は 今 だ 不 明 確 で あ り,ま たCBH な い し遅 延 型 反 応 に 出 現 して 来 る 好 塩 基 球14)∼19) の 役 割 自体 も明 確 に され て い な い.そ こ で 今 回
モル モ ッ ト皮 膚 にCBHを
作 製 し,発 赤 皮膚 局
所 に 浸 潤 して くる各 種 細 胞 を,光 顕 レ ベ ル の
観 察 で核 の分 葉,顆 粒 の 性状 等 の 差 に よ り,好
塩基球 と組織 肥満細 胞 を鑑別 し,
50視 野観 察に てそ
の 推移 な らびに 形 態学 的 特徴 を検 討 し, CBH反
応 に お け る好塩 基球 と肥 満 細 胞 の役 割,各 種 細
胞 間 の 関連 を基 にCBH反
応 の 成 因に つ い て 検
討 した.
対 象 な ら び に 実 験 方 法 第1節 対 象300∼400gの 間 のHartley albino guinea pig,
雌, 37匹 を 使 用 し た.
第2節 実 験 方 法
第1項 モ ル モ ッ トに お け るCutaneous
basophil hypersensitivity(CBH)反 応 の 作 製
1mlのIncomplete freund adjuvant(DIF
CO)に 卵 白 ア ル ブ ミン(以 下EA)(SIGMA) 10μgを 混 和 して, 22匹 の モ ル モ ッ トの 四 肢 足 背 部 皮 下 に 注 射 し た.第6日 目 に 腹 部 体 毛 を 電 気 バ リ カ ン に て 剃 毛 し,第7日 目 に0.1mlの 生 理 食 塩 水 に 溶 解 し た50μg EAを 腹 部 皮 内 に 投 与 し た.投 与20分, 5時 間, 12時 間, 24時 間, 48時 間, 96時 間 後 に 皮 膚 発 赤 の 大 き さ,硬 結 を 計 測 707
し た 後 皮 膚 採 取 を 行 な っ た.又,皮 膚 採 取 と 同 時 期 に 心 内穿 刺 に て 血 液 を 採 取 し,木 村 ら20)の 好 塩 基 球 好 酸 球 同 時 直 接 算 定 液 に て 白 血 球 数 と と も に 好 塩 基 球,好 酸 球 数 を, Fuchs-Rosenthal 計 算 板 上 で 算 定 し た.又,感 作 モ ル モ ッ ト血 清 中 のEAに 対 す る 抗 体 価 はEA(0.25mg/ml) で 標 識 し た タ ン ニ ン酸 処 理 ヒ ツ ジ 赤 血 球 と希 釈 系 列 血 清 との 凝 集 反 応 で 評 価 し た と こ ろ,血 清 の16倍 希 釈 ま で 陽 性 で あ っ た. 第2項 CBH皮 膚 局 所 へ の 抗 原 再 投 与 実 験 前 項 の 方 法 に 準 じ て 感 作 し た モ ル モ ッ トの24 時 間 後 に 発 赤 し たCBH皮 膚 反 応 局 所 に, 0.1ml の 生 理 食塩 水 に 溶 解 し た, 50μg, 5μg, 0.5μg, 0.05μg, 0.005μgのEA及 び 対 照 と して 生 理 食 塩 水 を 皮 内 注 射 し た.投 与20分 後 ま で 皮 膚 反 応 を 観 察 し,そ の 部 の 皮 膚 を 採 取 し た. 第3項 反 応 皮 膚 組 織 の 光 学 な らび に 透 過 型 電 子 顕 微 鏡 標 本 の 作 製 反 応 皮 膚 組 織 は 約1mm3に 細 切 し た 後, 0.5% sucrose加2.5% glutaraldehyde(TAAB) -0.1M cacodylate bufferで2時 間 前 固 定 し, 0.1M cacodylate bufferに て2回 水 洗 した. さ らに1%オ ス ミウ ム 酸(Polaron)に て 後 固 定 を2時 間 施 し,エ タ ノー ル 系 列(25, 50, 70, 80, 90%で10分 間, 95, 100%で20分 間)で 脱 水 し,プ ロ ピ レ ン オ キ サ イ ドに て1時 間 置 換 し た. そ の 後 エ ポ キ シ 樹 脂,プ ロ ピ レ ン オ キ サ イ ド等 量 混 合 液 に て 一 昼 夜 真 空 下 で 室 温 に 放 置 し た 後, 100%エ ポ キ シ 樹 脂 に 移 し, 30℃1日, 60℃2日 間 重 合 させ 包 埋 し た.光 学 顕 微 鏡 標 本 の 作 製 は L. K. B.製 ミ ク ロ トー ム に て ブ ロ ッ ク を 約1∼1.5 μmのsemi-thin sectionと し, 0.1%ト ル イ ジ ン ブ ル ー(pH 6.5)染 色 液 で60℃, 1.5分 間 染 色 した.ま た 同 時 にKOHに て 脱 エ ポ ン 後 ホ ウ 酸 ナ ト リウ ム で1:10に 希 釈 し た ギ ム ザ 染 色 液 に よ り,室 温 で30分 間 染 色 し た 標 本 も作 製 し, 比 較 検 討 し た.そ し てepidermis下 のpapilla ry dermisをFig. 1の 如 く視 野 を選 ん で, 1000 倍(光 学 顕 微 鏡)で 合 計50視 野 観 察 し,皮 膚 固 有 の 組 織 肥 満 細 胞,線 維 芽 細 胞 と と もに 局 所 へ の 浸 潤 細 胞 を 観 察 算 定 し た.一 部 の 切 片 標 本 で は 浸 潤 好 塩 基 球 数 と と も に そ の 含 有 顆 粒 数 及 び 形 態 変 化 を 観 察 し た. CBH皮 膚 反 応 局 所 の 浸 潤
Fig. 1. A schema of guinea pig skin. The num
ber of each skin layer indicates epider
mis (1), papillary dermis or upper dermis
(2), hypodermis (3), panniculus adiposus
(fat) (4), loose connective tissue (5), pan
niculus carnosus (muscle) (6). Circle in
the pappilary or upperdermis shows a li
ght microscopic field which was observed.
(•~1000)
Table 1. Peripheral blood leucocyte counts
in C. B. H. reaction
Number represents Mean•}SEM
範 囲 に88.5%が 出 現 し た. Fig. 2.はMay-Gie
msa染 色 に よ る 皮 膚 局 所 で あ る が, Fig. 2aに 示
す 如 く,核 が 分 葉 し,好 塩 基 球 と考 え ら れ る 細
胞 は,大 型 で 濃 い メ タ ク ロ マ ジ ー を 呈 す る 顆 粒
を 有 し て お り,単 核 で 小 型 の 淡 い 赤 紫 色 の 顆 粒 を 有 す る 肥 満 細 胞 と は 容 易 に 鑑 別 可 能 で あ っ た. 又, Fig. 2b.に 示 す 如 く,浸 潤 好 塩 基 球 は, papi
llary dermisに 多数 集 積 して い た.又, Fig. 3.
は トル イ ジ ン ブ ル ー 単 染 色 の24時 間 後 のCBH 皮 膚 局 所 で あ る が,好 塩 基 球 はdark blueに, 好 酸 球 はlight greenに 観 察 さ れ た.次 に 電 子 顕 微 鏡 標 本 の 作 製 は,ブ ロ ッ ク を70nmのUltra thin sectionと し,酢 酸 ウ ラ ニ ウ ム,ク エ ン 酸 鉛 の 二 重 染 色 を 行 な っ た 後, HS-8型, H-300型
肥満 細 胞 な らび に好塩 基 球 の 形態 と機 能 に 関す る研 究
709
Table 2. Skin reaction in C. B. H.
* Number represents Mean•}SEM for five experiments
第1項 CBH皮 膚 反 応 に つ い て CBH皮 膚 反 応 を惹 起 す る 目的 で,感 作 モ ル モ ッ トの 腹 部 皮 内 に 抗 原 を 投 与 す る と, Table 2 に 示 す 如 く,注 射5時 間 後 ま で は 全 く発 赤 は 認 め ら れ ず, 12時 間 後 よ り発 赤 が は っ き り と測 定 し得 た.さ ら に24時 間 後 ま で そ の 発 赤 は 進 展 し, そ の 直 径 は 平 均15.1(SEM=±0.7)mmと な っ た.そ の 後 消 退 傾 向 を 示 し, 96時 間 後 に は 全 く発 赤 は 認 め ら れ な くな っ た.な お 硬 結 は 全 経 過 を通 じて 認 め ら れ な か っ た.
Fig. 4. Total cell number in the time course of CBH reaction. Tissue
cells, such as mast cell and fibroblast, do not increase in number
during positive CBH skin reaction. On the contrary, the number
of infiltrating cell shows a peak at 24hr. Basophils infiltrate
markedly into CBH skin after 24hr.
透 過 電子 顕 微鏡 にて 観 察 した.
実
験
成
績
第1節 CBH惹
起 モル モ ッ トにお け る末梢 血
好 塩 基球 の 動 態
感 作 モル モ ッ トに 抗 原 を投 与 した際 の 末梢 血
白血球 の推 移 につ いて は, Table 1に 示 す 如 く,
その総 細 胞 数 に有 意 な変動 は なか っ た.し か し,
好 塩 基球 に つ い ては24時 間 及び48時 間 で有 意 な
増 加(p<0.01)を
示 した が,白 血球 総 数 に 対 す
る好塩 基 球 の 占有 率 は い ず れ も1%以
下 と低率
で あっ た.他 方好 酸 球 に つ い ては 一 定 した変 動
は認め 難 か った.
第2節 CBH反
応局所 の経時的観 察 と投 与 抗
原 濃度 差 に よ る検 討
第2項 CBH皮 膚 反 応 局 所 に お け る 細 胞 成 分 の 観 察 CBH皮 膚 反 応 局 所 の 皮 膚 固 有 組 織 を 形 成 し てい るhair follicule, epithelial cell, vascular
pericyteを 除 外 し た,全 細 胞 成 分 の 時 間 的 推 移 はFig. 4の 如 くで あ る.総 細 胞 数 は 発 赤 の 大 き さ に 一 致 して, 24時 間 後 に1663とpeakに 達 し, 以 後 漸 減 し た.皮 膚 固 有 の 線 維 芽 細 胞 に は 有 意 な 変 動 が 認 め ら れ て い な い 点 か ら全 細 胞 の 変 動 は 浸 潤 細 胞 に 依 存 し て い る と 考 え られ た.そ こ で 線 維 芽 細 胞 と 組 織 肥 満 細 胞 を 除 い た 総 浸 潤 細 胞 の 変 動 を 検 討 す る と,抗 原 投 与 後 よ り増 加 し 始 め て, 24時 間 後 に 最 大 の846と な り,以 後 減 少 傾 向 を示 し た,一 方 皮 膚 反 応 が 陰 性 化 し た96 時 間 後 に は438と 浸 潤 細 胞 は な お 組 織 に 残 存 し
Table 3. Infiltrating cell population in the time course of C. B. H. reaction after antigen challenge
Infiltrating cells* (% of infiltrating cells)
* number of infiltrating cells was counted in 50 microscopic fields (•~1,000)
Fig. 5. Relation amoung basophil, eosinophil
and mast cell in the time course of CBH
reaction. The number of basophil shows
a peak at 24hr after challenge of antigen. On the contrary, mast cells are decreased in number at 48hr after challenge of anti gen. て い る こ とが 窺 わ れ た.そ れ ら の 浸 潤 細 胞 中 増 加 し て い る の は 単 核 球 の み な らず,好 中 球,好 塩 基 球 も 同 様 で あ り,い ず れ も24時 間 後 が 最 大 で あ っ た(Table 3).ま た ア レ ル ギ ー 性 炎 症 反 応 に 最 も 密 接 に 関 与 し て い る と 考 え られ る 組 織 肥 満 細 胞,好 塩 基 球 及 び 好 酸 球 に つ い て そ の 変 動 を観 察 す る と, Fig. 5の 如 く,ま ず 組 織 肥 満 細 胞 は 抗 原 投 与 後 漸 減 し, 20分 後 に37で あ っ た も の が, 48時 間 後 に は8に ま で 減 少 し,しか もFig. 6 に 示 す 如 く,細 胞 内 顆 粒 が 減 少 し て い る もの が 多か っ た. 96時 間 後 に は 再 び43と 投 与 前 と同 じ レベ ル に ま で 回 復 し,そ の 顆 粒 もFig. 7に 示 す 如 く正 常 の 肥 満 細 胞 と同 程 度 のdensityの も の が 大 部 分 で あ っ た.一 方,好 塩 基 球 はFig. 5に 示 す 如 く抗 原 投 与 後5時 間 で 出現 し は じめ て, 24時 間 で 著 明 に 増 加 し, 96時 間 後 に も浸 潤 細 胞
Table 4. Morphological changes of infiltrating basophils in C. B. H. reac
tion site
* Cell count was done in 20 different fields by light microscopy (•~1000)
肥 満細 胞 な らび に好塩 基 球 の 形 態 と機 能 に 関す る研 究
711
Table 5. Morphological changes of infiltrating basophils after rechallenge
of antigen
* Cell count was done in 40 different fields by light microscopy (•~1000) ** Number represents Mean•}SEM
の23.5%と
なお 高率 を 占め て い た.他 方,好 酸
球 につ い て は24時 間後 まで は増 加傾 向 に あ るが,
そ の後96時 間 までplateauで
あ っ た.
第3項 投 与抗 原濃 度差 に よ るCBH皮
膚
局所 に お け る好塩 基球 の 形 態学 的 観 察
CBH皮
膚反応惹起 に用 いられ る抗 原 の各 濃 度
での浸 潤好 塩 基球 の形 態 的 変化 を,そ の顆 粒 の
性 状 を 中心 に比 較検 討 した.そ の結 果 は,
Table
4に 示 す如 く, 20視 野 での 浸潤 好 塩 基球 数,含
有 顆粒 数 の減 少 あ るい は脱 顆粒 像 と考 え られ る
空 胞 を形 成 した好塩 基球 数 は50μgと500μg投 与
群 の 間 では,推 計 学 的 に有 意(p<0.01)で
あ り,
抗 原 濃度 に依 存 す る傾 向が 示 され た.
第3節 CBH皮
膚 反応局所へ の抗 原 再 投 与
実 験
第1項 抗原再投与 に よる皮膚反応 につい て
24時 間後 に淡 く発赤 したCBH皮
膚 反 応局 所
に,再 度0.5μgのEAを
再 投 与 した際 の 皮 膚局
所 は5分 後 に は その 赤 味 を増 し, 10分 後 に は朱
色 とな り, 20分 後 に は 皮下 出血 を思 わせ る深紅
色 の皮 膚反 応 を呈 した.
第2項 投 与 抗 原 濃度 差 に よ る皮膚 反 応局
所 好塩 基球 の 形 態学 的 検討
CBH皮
膚反応局所 に各濃度 の 抗 原 を再 投 与 し
た際 の 好塩 基球 の形 態 変化 は, Table 5の 如 く,
浸潤 好塩 基 球数 の減 少,顆 粒 数 の 減 少 な らび に
脱顆粒 好塩 基球 の 出現 頻 度 は前 項 の 成績 と同 様
抗 原濃度 が 上昇 す る につ れ て高 率 に な る傾 向 で
あった.又, Fig. 8は 抗 原 濃 度 が0.005μgの 浸 潤
好塩 基球 で あ るが,好 塩 基球 顆 粒 の 減 少,空 胞
の形 成 あ る いは 明 らか に 顆粒 を放 出 して い る像
が観 察 され た.
第3項 皮 膚 反応 局 所 好塩 基球 の 超微 形 態
学 的検 討
CBH皮
膚 反応局所 に抗 原 を再 投 与 した 際 の浸
潤 好 塩 基 球 を超 微 形 態 学 的 に 検 討 し た.ま ず
CBH皮
膚反応局 所に浸潤 した好塩 基球(Fig. 9)
で は顆 粒 のdensityが
均 一 で それ ぞ れ顆 粒 膜 を
有 して いた が,他 方0.5μg/mlのEA再
投 与 後
20分 で の好塩 基 球(Fig. 10)は,明
らか な開 口
部 あ る いは 顆粒 の逸 脱 像 は 認め られ な い もの の,
顆粒 膜 は相 互 に 融合 消 失 して お り,ま た 各 々の
顆 粒密 度 に は不 均 一 性 が 強 く,顆 粒 の 細 胞 内融
解 に 引 き続 く顆 粒 の放 出像 と考 え られ る所 見が
観 察 され た.ま た, Fig. 11で は 明 らか な 顆粒 逸
脱 像 も観 察 され た.
以上 抗 原再 投 与 に よ り超 微 形 態学 的に 好塩 基
球 の 脱顆 粒 現 象 が示 され,前 述 のCBH皮
膚 反
応 局 所 で の好 塩 基球 の形 態 学 的 変化 に比 較 して,
そ の局 所 で の強 い 反 応が 窺 われ た.
総 括 な ら び に 考 案Cutaneous basophil hypersensitivity(CBH)
反 応 皮 膚 局 所 に 多 数 出 現 す る 好 塩 基 球 の 役 割 を, 生 理 学 的,免 疫 学 的 に 類 似 し た 組 織 肥 満 細 胞 や 反 応 局 所 に 遊 出 し た 各 種 細 胞 と の 相 互 関 係 を 含 め て 形 態 学 的 に 検 討 し た と こ ろ,好 塩 基 球 は 反 応 局 所 へ の 出 現 のphaseが 肥 満 細 胞 の 反 応 後 で あ り,か つ 肥 満 細 胞 と 同 様 の 形 態 学 的 変 化,即 ち,浸 潤 好 塩 基 球 に 空 胞 の 形 成 が か な りに 認 め られ る こ と,又,抗 原 量 に 依 存 し て 脱 顆 粒 現 象 が 明 瞭 に な る 所 見 か ら,両 細 胞 はCBH反 応 下 でchemical mediatorを 放 出 し,免 疫 反 応 の 場 に 於 い て 重 要 な 役 割 を果 し て い る こ とが 示 唆 さ れ た.今 回 の 観 察 に お い て, CBH反 応 皮 膚 局 所 へ の 細 胞 の 遊 出 態 度 と し て は 皮 膚 発 赤 反 応 に 伴
な っ て 総 浸 潤 細 胞 数 は24時 間 後 ま で 増 加 傾 向 を 示 し,そ れ 以 降 減 少 傾 向 を 認 め た.浸 潤 好 塩 基 球 に つ い て は24時 間 か ら48時 間 後 に 総 浸 潤 細 胞 に お け る 占有 率 は 最 高 と な り,皮 内 反 応 が 陰 性 と な る96時 間 後 に 於 い て も な お 好 塩 基 球 数 は か な りの 高 率 を 占め て お り,こ の 反 応 の 全 経 過 を 通 じ て,好 塩 基 球 が 主 座 を 占 め て い る こ とが 容 易 に 推 察 さ れ た. CBH反 応 局 所 へ の 好 塩 基 球 の 集 積 に 関 して は,ま ずDvorak10)に よ りT-cell の 関 与 が 示 さ れ た.す な わ ちCBH反 応 を 呈 す る モ ル モ ッ トのT-cellを 移 入 す る こ と よ り, CBHが 作 製 で き, Anti-T-cell serumに て 前 処 置 し て お く と, CBH反 応 が 減 弱 し21),ま た リ ン パ 球 をPHAま た は 特 異 抗 原 に て 培 養 し たsuper natantに 好 塩 基 球 のchemotaxisが 証 明 さ れ た22)∼24)こと な ど の 事 実 か ら, T-cellの 関 与 が 明 ら か に され た.ま たAskenaseら25),26)に よ りAn
tigen specific B-cellに よ るCBHの 作 製 やhap
ten specific CBHが 成 立 す る こ と,ま たB-cell
に よ りmodifyさ れ た 古 典 的遅 延 型 反 応 のproduct
と してCBHを 作 製 で き る27)こ と よ り, B-cellに
よ るCBH反 応 へ の 関 与 も 示 さ れ た.さ ら に
CBHのimmune serumに よ る移 入 が 可 能 で, Ig
G1に そ の 因 子 が 含 ま れ る こ と28)も実 験 的 に 示 さ
れ, cellular immunityの み な ら ず, humoral
immunityが 関 与 し て い る こ と が 明 ら か に さ れ た が,そ れ らの 相 互 関 係 な ら び に 成 因 に つ い て は,ま だ 不 明 な 点 が 多 い.そ れ ら を 解 明 す る た め に,本 実 験 で は 感 作 動 物 に お け る 末 梢 血 好 塩 基 球 及 びCBH反 応 局 所 に 浸 出 し た 好 塩 基 球 の 反 応 性 も検 討 し た.末 梢 血 に お け る 好 塩 基 球 数 は24時 間, 48時 間 に は 実 数 と して 有 意(p<0.01) な 増 加 を示 す が 占 有 率 で は1%以 下 で あ り,特 に 増 加 し て お ら ず,こ れ は モ ル モ ッ トの 末 梢 血 好 塩 基 球 が 非 常 に 低 率 で あ る た め 絶 対 数 の 増 加 と し て は 著 明 で な い も の と考 え ら れ た.し か し, 末 梢 血 好 塩 基 球 の 反 応 性 に つ い て は,木 村 ら29) の 反 応 好 塩 基 球 の 直 接 算 定 を行 な っ て,好 塩 基 球 の 変 形 率 を 検 討 し た と こ ろ(成 績 未 発 表),抗 原 添 加 群 で の 変 化 率 が 高 率 で あ っ た こ と よ り, CBH感 作 が 成 立 し た 時期 に は,既 に 好 塩 基 球 も 感 作 さ れ て お り, chemotaxisに よ っ て 反 応 局 所 に 遊 出 しや す い 状 態 に あ る こ とが 示 唆 さ れ た. 次 にCBH反 応 局 所 に 遊 出 し た 好 塩 基 球 の 役 割 に つ い て は,そ のchemical mediatorが 何 ら か の 形 で 関 与 して い る も の と考 え ら れ る.こ の 点 に 関 し て, Richerson5)は 卵 白 ア ル ブ ミン,人 血 清 ア ル ブ ミ ン を 用 い て 作 製 し たCBHへ の 抗 原 再 投 与 に お い て は 脱 顆 粒 を 認 め て い な い が,
Askenase30)のKeyhole limpet hemocyaninを
用 い た 同 様 の 再 投 与 実 験 で は,好 塩 基 球 が 脱 顆
粒 を 起 こ し て そ の 数 が 半 減 し,ま たhistamine
releaseに よ る と考 え ら れ る 血 管 透 過 性 の 亢 進 を
観 察 し,こ の 反 応 をCutaneous basophil ana
phylaxisと 呼 ん で お り,相 反 す る 成 績 が 報 告 さ れ て い る.今 回 著 者 は 投 与 抗 原 濃 度 差 あ る い は さ ら に 浸 潤 好 塩 基 球 へ の 抗 原 再 投 与 に よ り,好 塩 基 球 の 出 現 頻 度 を そ の 形 態 学 的 変 化 を 検 討 し た 結 果,投 与 抗 原 を10倍 に す る とか え っ て 出 現 好 塩 基 球 数 が 減 少 す る だ け で な く,そ の 含 有 顆 粒
が 減 少 し て お り, residual local antigenが そ の
反 応 部 位 に 集 積 し た 好 塩 基 球 と相 互 作 用 し た た め の 脱 顆 粒 に よ る も の と考 え ら れ た.又24時 間 後 に 各 種 抗 原 濃 度 を 再 投 与 し た場 合, 0.005μg と い う低 濃 度 で も 同 様 の 好 塩 基 球 数 の 高 度 減 少 と と もに,著 明 に 脱 顆 粒 し た 細 胞(Fig. 11)が 高 頻 度 に み ら れ た.こ の 成 績 よ り, CBH反 応 局 所 に 集 績 し た 好 塩 基 膜 表 面 に はhomocytotropic antibodyが 存 在 し,そ の 反 応 は 抗 原 濃 度 依 存 性 の 傾 向 を 示 す こ とが 示 唆 さ れ た. 一 方,観 察 視 野 で あ る 表 皮 下 の 肥 満 細 胞 に つ い て は,抗 原 投 与 後20分 で は ほ とん ど そ の 数 に 変 動 は な か っ た が,投 与 後48時 間 ま で は 漸 減 傾 向 に あ り,し か も好 塩 基 球 の 場 合 と同 様,そ の 含 有 顆 粒 数 の 減 少 を認 め た が, 96時 間 後 に は 再 び 細 胞 数 と と も に 含 有 顆 粒 数 も投 与 前 と同 程 度 度 に 回 復 した.こ の 現 象 は 反 応 局 所 で の 肥 満 細 胞 と好 塩 基 球 の 出 現 比 率,そ の 際 の 形 態 変 化, 特 にchemical mediator放 出 の 示 標 で あ る 顆 粒 の 消 失 あ る い は 細 胞 外 放 出 像 か ら両 細 胞 の 密 接 な 関 連 が 考 え ら れ た.こ の 点 に 関 し て, allog raft rejectionで は,ま ず 好塩 基 球 が 増 加 し,そ の 後 好 塩 基 球 が 減 少 す る に つ れ て 肥 満 細 胞 が 増 加 し て く る こ とが 報 告31)さ れ て い る.こ の 際 の 好 塩 基 球 集 積 因 子 は リ ン フ ォ カ イ ン で あ り,肥 満 細 胞 が 再 度 増 加 す る 因 子 は 不 明 で あ る が,そ
肥 満 細 胞 な らび に好 塩 基球 の形 態 と機能 に関 す る研 究
713
の 一 因 と し て 肥 満 細 胞 のmitosisが 関 与32)し て い る可 能 性 を あ げ て い る.し か し本 来 局 在 し て い た 肥 満 細 胞 と の 関 連 に つ い て 検 討 が な さ れ て お ら ず,今 回 の 成 績 の 如 く,肥 満 細 胞 の 脱 顆 粒 が 好 塩 基 球 の 局 所 集 積 に 先 行 す る こ とか ら す れ ば,肥 満 細 胞 が こ の 反 応 の 第1段 階 で あ る こ と も考 え られ る.ま たKay33)はpollenで 感 作 さ れ た 肺 組 織 と そ のantigen extractを 反 応 さ せ た 際 の 上 清 中 に 好 塩 基 球 のchemotatic factor が あ る と して い る こ と,又Kimura34)はCBH反 応 に お い て,時 々 好 塩 基 球 が 肥 満 細 胞 に 近 接 し て お り,こ れ ら の 細 胞 内 のcytoplasmic conti nuityが 部 分 的 に あ る と報 告 して お り,ま たDvorak ら35)は人 のPPD, Dinitrochlorobenzene testに お け る遅 延 型 反 応 に お い て,肥 満 細 胞 のhypogranulationが 特 にpapillary∼reticular der
misに み られ る こ と,ま た教 室 の 高 橋36)は 人 のPPD
や 真 菌 類 に よ る遅 延 型 皮 膚 反 応 局 所 に 好塩 基 球 が 出 現 す る こ と をskin vesicle testを 用 い て 観 察
し て い る. 以 上 を総 括 す る と, CBH反 応 局 所 に お け る好 塩 基 球 の 集 積 に 肥 満 細 胞 が リ ン パ 球 と と も に 強 く関 与 して い る こ とが 示 唆 さ れ,好 塩 基 球 と肥 満 細 胞 の 関 連 に つ い て は 形 態 学 的 な 面 だ け で な く,生 化 学 的 な 検 索 が 今 後 に 残 さ れ た 問 題 で あ る と考 え,現 在 検 討 中 で あ る. 結 語 CBH反 応 に お け る 好塩 基 球 の 生 理 学 的 機 能 及 びCBH反 応 の 機 序 を解 明 す る 目 的 で, Dvorakら の 方 法 に 準 じ て,モ ル モ ッ トにCBH反 応 を作 製 し,皮 膚 反 応 所 見 と と も に 好 塩 基 球 を 含 む 浸 潤 細 胞 を 組 織 肥 満 細 胞 と の 関 連 に 於 い て 形 態 学 的 に 観 察 し,以 下 の 結 果 を得 た. 1) CBH皮 膚 反 応 時 の 末 梢 血 白 血 球 数 に は 著 明 な 変 化 は な か っ た が,好 塩 基 球 数 は24時 間 か ら48時 間 で 有 意 に 増 加 し た(p<0.01). 2) CBH皮 膚 局 所 の 浸 潤 好 塩 基 球 は 抗 原 投 与 後24時 間 か ら48時 間 でpeakを 示 し た が,組 織 肥 満 細 胞 は 抗 原 投 与 後 漸 減 し, 48時 間 で 最 低 と な り,形 態 学 的 に もhypogranulationを 呈 した. さ らに96時 間 後 に は 再 び 肥 満 細 胞 数 と含 有 顆 粒 数 は 増 加 し,元 の レベ ル に 回 復 し た.こ の 結 果 よ り, CBH反 応 に お け る好 塩 基 球 の 動 員 に 肥 満 細 胞 の 関 与 が 示 唆 さ れ た. 3)抗 原 を再 投 与 し た 場 合 に は 局 所 に 即 時 型 の 反 応 が 見 られ, CBH反 応 に 動 員 さ れ た 好 塩 基 球 は 抗 原 と 反 応 し脱 顆 粒 を起 こ す こ とが 光 顕 の み な ら ず,顆 粒 のhalo形 成,あ る い は 細 胞 外 放 出 像 等 の 脱 顆 粒 現 象 と し て 透 過 型 電 顕 に よ る 超 微 形 態 学 的 観 察 で 明 ら か に さ れ た. 以 上CBH反 応 の 好 塩 基 球 は 抗 原 に よ り感 作 さ れ て お り,膜 表 面 にhomocytotropic antibody が 存 在 す る こ と,又 好 塩 基 球 の 動 員 の 一 因 子 と し て 組 織 肥 満 細 胞 の 関 与 が 示 唆 さ れ た. 擱 筆 に あ た り,終 始 御 懇 篤 な る教 示,御 指 導 を戴 い た恩 師 木 村 郁 郎 教 授,な らび に 高 橋 清 助 手,宗 田 良研 究 生 に 深 甚 な る謝 意 を表 す る. 本 論文 の 要 旨は,昭 和56年 度 第31回 ア レ ル ギー 学 会 総 会 に 於 い て 発 表 した.
文
献
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36.高 橋 清:ア レル ギ ー 反 応 局 所 の 好 塩 基 球 の動 態 に 関す る研 究:第3編,中 間 型 お よ び遅 延 型 ア レル ギー
Fig. 2a. Fig. 2b
Fig. 3a Fig. 3b Fig. 6
肥 満細 胞 な らび に好 塩 基球 の形 態 と機 能 に 関 す る研 究
717
Fig. 9 Fig. 10
附
図
説
明
Fig. 2a. CBH反 応 局所 の好塩 基球 と肥満 細 胞:濃 紫 色 に染 色 され る大 き な顆 粒 を もつ 多核 の 好 塩 基 球(B)と メ
タ ク ロマ ジー を呈 す る小 さな顆 粒 を持 つ 単 核 の 肥満 細 胞(M)は 容 易 に鑑 別 で き る.(エ ポ キ シ樹 脂 包
埋 標 本 のsemi-thin sectionのMay-Giemsa染 色, ×4000)
Fig. 2b.抗 原 投 与 後24時 間 の表 皮 下 のpapillary dermis:濃 紫 色 に染 色 され る好 塩 基 球 が 多数 観 察 され る.
(▲)(×2600)
Fig. 3a.抗 原 投 与 後24時 間 のCBH反 応 発 赤 局 所:メ タ ク ロマ ジー を呈 す る顆 粒 を持 つ 肥 満 細 胞(▲)と ,紫
色 に 染 色 され る顆 粒 を持 つ 好 塩 基 球(▲)が 多数 観 察 され る(Semi-thin sectionの トル イ ジ ン ブ ル ー
染 色, ×1800)
Fig. 3b. Fig. 3aと 同 一 の場 所.好 塩 基 球(▲)と と もに ラ イ トグ リー ン に 染 色 され る顆 粒 を持 つ 好 酸 球 が 観 察
さ れ る(←)(×1800)
Fig. 6.抗 原 投 与 後48時 間 のCBH反 応 皮 膚局 所:細 胞 内 顆 粒 が 減 少 し,一 部 そ の顆 粒 の 細 胞 外逸 脱 を認 め る
肥 満 細 胞(←),と 大 型 の 濃 い顆 粒 を持 ち,正 常 構 造 を有 す る好 塩 基球 が 観 察 され る.(Semi-thin sec
tionのMay-Giemsa染 色, ×3400)
Fig. 7.抗 原 投 与 後96時 間 のCBH反 応 皮 膚 局 所 の 肥 満 細 胞:単 核 で 多数 のmicrovilliを 有 し顆 粒 はuni-densi
tyで あ り,未 反 応 の肥 満 細 胞 と思 わ れ る.(×10000) Fig. 8.抗 原(0.005μg)再 投 与 後20分 で のCBH反 応皮 膚局 所 の好塩 基 球:好 塩 基球 顆 粒 の 減 少,空 胞 の 形 成 あ るい は 明 らか に 細 胞 外 に 顆 粒 を放 出 して い る像 が 観 察 され る.(←)(Semi-thin sectionのMay-Gie msa染 色, ×2700) Fig. 9. CBH反 応 皮 膚局 所の好 塩 基球:抗 原 投 与 後24時 間 に 遊 出 して 来 る好 塩 基 球 の顆 粒 はdensityが ほ ぼ均 一 で 明 瞭 な 脱 顆粒 の 所 見 を呈 す る もの は 少 な かっ た.(×11000) Fig. 10. CBH反 応 皮 膚局 所 の好塩 基球:抗 原(0.5μg)再 投 与 後20分 で の 浸 潤 好 塩 基 球 は顆 粒 膜 が 相 互 に 融合 消失 し,各 々 の顆 粒 の 細 胞 内 融 解 の 像 とそ の部 に一 致 した 開 口部 を認 め 顆 粒 放 出 の 所 見 が 観 察 され た. (×12000) Fig. 11. CBH反 応 皮 膚 局 所 の 好 塩 基 球: 0 .5μg再 投 与 後20分 での 浸 潤 好塩 基球 で あ るが, Fig. 10と 同様 明 ら か な顆 粒 放 出像(←)を 認 め た.(×19000)
