おもしろレオロジー
(+レオロジーとプラスチック
CAE)
京大化研 増渕雄一
まとめ
• レオロジーとは何か?
– 物質のひずみと応力の関係を調べる学問
– 弾性率=応力/ひずみ,粘度=応力/ひずみ速度
– 現象論レオロジー:物質挙動を応力/ひずみで定量化
• 興味ぶかいレオロジー挙動の例
– 理想液体と理想固体の間に様々な挙動がある.以下は例.
– 粘度がせん断速度の増加で低下するシアシニング流体
– 降伏応力以上の外力で流れる塑性流体
– 粘度と弾性率が時間変化する粘弾性流体
• レオロジーとプラスチックCAE
– 溶融プラスチックは粘弾性流体である
– 射出CAEではシアシニング流体と近似することがある
– ブローや押出等では粘弾性流体として計算する必要がある
レオロジーの世界:液体?固体?
• 歯磨き粉は液体?固体?
– チューブから出せるから液体?
– 歯ブラシの上で動かないから固体?
• ボールペンのインクの謎
– 字が書けるから液体?
– 勝手に出てこないから固体?
• マヨネーズとハチミツはどちらが粘い?
– ハチミツの方が取り出すとき力が必要
– マヨネーズの方が皿の上では流れない
液体:流れる 固体:流れない
レオロジーとは
物質の流動と変形の科学
学問領域
対象物質
対象変形
/流動
流体力学
単純な液体
複雑な流れ
材料力学
単純な固体
複雑な変形
レオロジー
複雑な液体
/
固体
単純な流れ
/
変形
レオロジーの役割
1. 物性
モノの指標としてつかう
材料選択,品質管理,加工性
現象論的レオロジー
2. スペクトロスコピー
1からモノの内部のミクロなダイナミクスを議論
(論文や学会発表はほとんどこの立場)
分子論的レオロジー
本日の内容はこちら
(の,さわりのみ)
レオロジー(流動・変形の科学)を学ぶには
以下を定義して定量化する必要がある
• 物質の変形量
• 物質の流動速度
• 物質の応答
• 物質の弾性率
• 物質の粘度
レオロジーの準備その1:変形と流動
d
x
せん断変形
せん断ひずみ
(変形量の指標)
€
γ = x /d
ひずみ速度
(変形速度の指標)
€
d
γ
dt
(単位なし)
(sec-‐1
)
一般には変形はテンソルで記述されるが,
せん断変形だけ知っていればレオロジーの
論文の大半は読める
7
テンソル表記については末尾の参考資料を参照
せん断以外の変形の例:
一軸伸長変形
Lo
L
材料力学の定義
レオロジーの定義
ε
=
ln
L /
Lo
€
ε = (L − Lo) /Lo
L/Lo~1ならば近似的に双方等しいが,
材料力学の定義では大変形に対応できない
様々な工程とせん断速度
10−6
10−3
100
106
103
潤滑,スプレー
ブラッシング,ラビング,射出
粒子の沈降
レベリング,液ダレ
カレンダリング,ボトリング,飲む,かむ,
ディッピング,押出,混合,撹拌
断
速
度
物性データをみるとき
どこで使うかを想定するのが
重要
なぜ変形様式や変形速度が重要か?
• 物質の挙動(レオロジー)は
変形速度に強く依存する
場合がある
→問題とする現象や工程の
変形速度を知っておかないと,
物性データの取り方や見方が分からなくなる
レオロジーの準備その2:応力
面をずらすのに必要な力
F
面の面積
A
応力
σ ≡ F/A
(N/m
2
)
→
(Pa)
11
応力
σとひずみγの関係で物質を特徴付けする
本来はテンソル量,詳しくは参考資料参照
一軸伸長変形の場合の応力
22
11
σ
σ
−
11
σ
この面にかかる
法線応力を面積で
割ったもの�
測定される量は大気圧の影響があるので以下である�
22
σ
大気圧に対する抗力
レオロジーによる物質の分類
• ニュートン流体(液体の理想型)
– 粘度が定数: 低分子の液体や希薄分散系
• 非ニュートン流体
– 粘度がひずみ速度に依存
• 塑性体
– ある一定の応力(降伏応力)以上で流れる
• 粘弾性液体
– 粘度,弾性率が時間変化
• フック弾性体(固体の理想型)
– 弾性率が定数: 種々の固体で変形が小さいとき
13
理想的な固体:フック弾性体の
キャラクタリゼーション → 弾性率
ひずみ
γ
応力
σ
応力がひずみに比例
σ
= G
γ
比例定数
G 弾性率
(Pa)
せん断変形の場合は剛性率,一軸伸長の場合はヤング率と呼ぶ
様々な物質の弾性率(ヤング率)
Material
Modulus
(Pa)
ダイヤ
1012
炭素繊維,鉄,ガラス
1011
コンクリート,
骨
,木材
1010
Polyester
10
9
Polyethylene
10
8
ゴム
107
肉
105
卵の白身(生)
10
固すぎ
(骨が変形)
やわすぎ
(肉も変形
しない)
人間が
感じる
領域
理想的な液体:ニュートン流体の
キャラクタリゼーション
→ 粘度
ひずみ速度 γ
応力
σ
応力がひずみ速度に比例
σ
=
η
γ
比例定数
η 粘度(Pa
sec)
せん断変形の場合はせん断粘度,一軸伸長の場合は一軸伸長粘度と呼ぶ
様々な物質の粘度
(Pa
sec)
空気や水蒸気
10
-‐5
水
10
-‐3
シャンプーや液体石けん
1
蜂蜜
5
溶岩
10
2-‐
10
6
マントル
10
20
レオロジーによる物質の分類
• ニュートン流体(液体の理想型)
– 粘度が定数: 低分子の液体や希薄分散系
• 非ニュートン流体
– 粘度がひずみ速度に依存
• 塑性体
– ある一定の応力(降伏応力)以上で流れる
• 粘弾性液体
– 粘度,弾性率が時間変化
• フック弾性体(固体の理想型)
– 弾性率が定数: 種々の固体で変形が小さいとき
ニュートン流体でない物質の評価:
フローカーブで理想挙動からのズレを議論する
応力とひずみ速度の関係
粘度とひずみ速度の関係
(フローカーブ)
ひずみ速度
ひずみ速度
粘度
応力
傾き=粘度
ニュートン流体:理想型
ゼロせん断粘度
ニュートン流体:理想型
19
シアシニング流体
(ヌルヌルする)
• せん断速度を上げると粘度が低下する
応力
せん断速度
ニュートン流体
粘度
せん断速度
(=速度/液膜厚み)
ニュートン流体
シアシニング流体
シアシニング流体
シアシックニング流体(ダイラタント流体)
• 粘度がせん断速度を上げると増加する
応力
せん断速度
ニュートン流体
粘度
せん断速度
ニュートン流体
シアシックニング流体
シアシックニング
流体
レオロジーによる物質の分類
• ニュートン流体(液体の理想型)
– 粘度が定数: 低分子の液体や希薄分散系
• 非ニュートン流体
– 粘度がひずみ速度に依存
• 塑性体
– ある一定の応力(降伏応力)以上で流れる
• 粘弾性液体
– 粘度,弾性率が時間変化
• フック弾性体(固体の理想型)
– 弾性率が定数: 種々の固体で変形が小さいとき
22
塑性体
ある応力(降伏応力)以上の力がかかると流れるモノ
→ 応力 vs
せん断速度の図(ビンガムプロット)で評価する
応力
σ
せん断速度
ニュートン流体
σ = η γ
γ
ビンガム流体
(理想塑性体)
σ = η γ +σ
c
降伏応力σC
一般的な塑性体
一般的な塑性体
レオロジーによる物質の分類
• ニュートン流体(液体の理想型)
– 粘度が定数: 低分子の液体や希薄分散系
• 非ニュートン流体
– 粘度がひずみ速度に依存
• 塑性体(plasWc)
– ある一定の応力(降伏応力)以上で流れる
• 粘弾性液体
– 粘度,弾性率が時間変化
• フック弾性体(固体の理想型)
– 弾性率が定数: 種々の固体で変形が小さいとき
24
粘弾性=応答が時間変化(緩和)する
応答に遅れがある
ひ
ず
み
時間
応力
フック弾性体
粘弾性液体
弾性率
弾性率の時間変化
時間
粘弾性液体
ひ
ず
み
応力
ニュートン流体
粘度
粘度の時間変化
ひ
ず
み速度
非ニュートン流体
→ 時間変化は
ニュートン流体と同じ
25
粘弾性で重要なのは緩和時間
•
緩和時間
固体から液体に変わる時間
粘度成長曲線
(定常せん断流下の
粘度の時間変化)
時間(対数表示)
粘度(対数表示)
粘度
緩和時間
弾性率(対数表示)
時間(対数表示)
緩和弾性率
(ステップ変形後の
弾性率の時間変化)
弾性率
緩和時間
緩和時間と射出成形
原料
金型
成形機
緩和時間長:固体的
射出困難,
成形サイクル低,
離型後の反り変形大
緩和時間短:液体的
バリ発生
レオロジーとプラスチックCAE
• 溶融プラスチックのレオロジー
– 階段状ひずみの下では,弾性率は時間とともに低下,ひ
ずみが大きくなると弾性率全体が低下(ダンピング)
– 定常流動の下では,粘度は時間とともに増加,
• せん断下では,ひずみ速度が大きくなると定常粘度は低下
(シアシニング)
• 伸長下では,ひずみ速度が大きくなると粘度が増加
(ひずみ硬化)
• プラスチックCAEでの利用
– 純粘性非ニュートン流体と見なす→射出成形でよく使う
– 粘弾性流体として解く→難しいがブローや押出では必須
純粘性と見なせる(粘弾性が無視できる)条件
→デボラ数が1より十分小さい
De
>
1
-‐>
粘度の時間変化は無視できない
De
<
1
-‐>
粘度の時間変化は無視できる
デボラ(Deborah)って誰?
聖書にでてくる預言者で,“神々の前では山々も流れる.”と歌った
-‐>
神の観察時間の前では山さえ液体である
De=
物質の緩和時間
観察時間(プロセス時間)