• 検索結果がありません。

Spring 2012 World s Agriculture, Forestry And Fisheries No.826 SOLAW R e p o r t 1 R e p o r t 2

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "Spring 2012 World s Agriculture, Forestry And Fisheries No.826 SOLAW R e p o r t 1 R e p o r t 2"

Copied!
40
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

Spring

2012

World’s Agriculture, Forestry And Fisheries No.826

食料と農業のための

世界土地・水資源白書

SOLAW

R e p o r t 1

アフリカの農業開発問題

――タンザニアにおける南南協力ワークショップを通じて R e p o r t 2

エネルギー・スマートな食料システム

(2)

2012年は国連の定めた 「国際協同組合年」です。 協同組合は、貧困削減・ 雇用創出・社会的統合 に大きく貢献しています。 農村では、小規模農家 が契約栽培の交渉をし、土地の権利を確保し、また、 より良い市場機会を得るうえで、農業協同組合が 重要な役割を果たしています。 FAOは他の国連機関やパートナーとともに、協同 組合の貢献に対する認識を高め、その設立と成長 を促進するような政策を策定・実施するよう各国 政府や関係機関に働きかけるための取り組みを行っ ていきます。

International Year of Cooperatives 2012: http://social.un.org/coopsyear 2012年は国際協同組合年 03 特集

食料と農業のための

世界土地・水資源白書

SOLAW

09 R e p o r t 1

アフリカの農業開発問題

――タンザニアにおける南南協力ワークショップを通じて 14 R e p o r t 2

エネルギー・スマートな食料システム

20

Food Outlook

世界の食料需給見通し 2011.11 市場の概況 26

FAO

水産養殖局とは

?

8回(最終回) 漁業・養殖業の展望と水産養殖局の役割 FAO水産養殖局上席水産専門官 渡辺浩幹

30

Zero Hunger Network Japan

ゼロ・ハンガー・ネットワーク・ジャパン No.4 ブルキナファソでの野菜栽培プロジェクトを振り返って ――海外での取り組み 緑のサヘル代表 岡本敏樹 32 FAO寄託図書館のご案内 33 PHOTO JOURNAL

FAO

世界食料安全保障委員会

――20111017日­22 FAO日本事務所副代表 松田祐吾 36 FAOで活躍する日本人 No.27

コンドームからパンへ

?

FAO戦略企画資源運営室戦略企画シニア担当官 日比絵里子 38 FAO MAP

世界の主な河川流域における

物理的な水不足の分布

世界の農林水産 Spring 2012 通巻826号 平成24年3月1日発行 (年4回発行) 発行 (社)国際農林業協働協会(JAICAF) 〒107-0052 東京都港区赤坂8-10-39 赤坂KSAビル3F Tel:03-5772-7880 Fax:03-5772-7680 E-mail:fao@jaicaf.or.jp www.jaicaf.or.jp 共同編集 国際連合食糧農業機関(FAO) 日本事務所 www.fao.or.jp 編集:松岡幸子、リンダ・ヤオ (社)国際農林業協働協会 編集:森麻衣子、今井ちづる デザイン:岩本美奈子 本誌はJAICAFの会員に お届けしています。 詳しくはJAICAFウェブサイトを ご覧ください。

C o n t e n t s

古紙パルプ配合率100% 再生紙を使用

World’s Agriculture, Forestry And Fisheries No.826

Spring 2012

(3)

食料と農業のための

世界土地・水資源白書

SOLAW

世界人口の増加に対応するための食料増産が求められる一方で、 土地・水資源への圧力が高まっている。 こうしたなか、

FAO

は世界の土地・水資源の現状をまとめた新しい白書 「食料と農業のための世界土地・水資源白書(

SOLAW

)」を創刊した。 ここではその概要を紹介する。

The State of the World s

Land and Water Resources

for Food and Agriculture

ケニア東部のKyusoで行なわれるFAOのファーマー・フィールド・スクール。参加者は、肥沃な土壌表面の流 出を防ぐために土地を耕すと同時に、水を逃がさないよう干上がった川床に土手を作っている。このプロジェクトは、 脆弱な農民に対して畑の整備やウォーター・ハーベスティングシステムの設置を支援するとともに、労働の対価と して、地元の業者から食料やダム建設資材との引き換えが可能なバウチャーを支給する。©FAO / Paballo Thekiso

03

(4)

2050

年までに、世界全体ではおよそ

70%

、 開発途上国では

100%

近くの食料生産増 が必要になると見込まれている。このような 食料需要の増加は、他の競合的な食料利 用と相まって、世界全体の多くの農業生産シ ステムに前例のない圧力をかけることになる だろう。これらの「リスクにさらされたシステム」 は、土地・水資源に対する高まる競合に直 面しつつあり、持続性を欠いた営農によって しばしば阻害されることになる。したがって、 これらのリスクにさらされたシステムには、特 段の配慮と具体的な是正措置が求められる。  「食料と農業のための世界土地・水資源 白書(SOLAW)」は、リスクが高まるこれら地 域の阻害要因の克服および資源管理の改 善に関するさまざまな選択肢を分析するもの である。各地域における制度と政策手段の 複合的な変革は、土地・水資源のより良い 管理に資する技術へのアクセス強化と一体 化したものでなければならないだろう。投資 の増大、新たな財政メカニズムの入手、国 際協力と開発支援もまた、これらの阻害要 因を克服する助けとなろう。  今回の

SOLAW

の創刊は、定期的に発刊 されている

FAO

の他の「世界白書」を補完す るものとして、各国および国際レベルでの論 点や政策決定について伝えようとするもので ある。 報告書の主なメッセージ 現況と動向 ■農業適地と考えられる土地の利用可能性 には、地理的に大きな違いがある。人口 増加および他部門での需要増によって、 利用可能資源への圧力が増している。適 応力の高い生産システムの利用を想定した 場合、現時点での耕地の大半は最適(全 体の28%)もしくは良好(53%)な状態に ある。現時点で最適耕地の比率が最も高 い地域は中米とカリブ海諸国(42%)にみ られ、西欧および中欧(38%)と北米(37%) がこれに続いている。 ■高所得国全体では、最適耕地の比率は 現時点で

32%

である。低所得国では、 土壌はしばしば痩せており、最適ランクに 分類されている土地は全耕地のわずか

28%

である。 ■世界の耕地面積は、過去

50

年で

12%

拡大した。同期間中に、世界のかんがい 面積は倍増したが、それは純増した耕地 ウォーター・ハーベスティング 技術を活用し、劣化した土地を 耕すトラクター。雨水、良質な 土壌、有機物、種子などの流 出物を集めることで、在来植物 の種子を直接播くことができる。 ©FAO / Seyllou Diallo

The State of the World s Land and Water Resources for Food and Agriculture

食料と農業のための 世界土地・水資源白書 (SOLAW) 特集 1―かんがい耕地と天水耕地の面積の推移(1961­2008年) 出典:FAO(2010b) 平均熱帯家畜頭数(TLU) ボリビア 100万ha ha /人 ラテンアメリカ 0.20 0.25 0.30 0.35 0.40 0.45 0.50 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1961 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2008年 かんがい耕地 天水耕地 1人当たり耕地面積 インド南部・グティにおけるF AO地下システムプロジェクトで、 雨量観測所のひとつを計測す る農民(参加型水文監視「PHM」の 受益者)。干ばつに見舞われた この地域では、気候変動に適 応することで環境劣化と貧困 対策に取り組んでいる。 ©FAO / Noah Seelam

04

(5)

インド南部・グティでファー マー・ウォーター・スクール(F WS)に参加する農民。FWSで は参加型アプローチを採用する ことで、農民間の情報共有や スキルの向上、グループ学習を 促進し、農民が地下水を自主 的に管理できるようになること を目指している。

©FAO / Noah Seelam

1961 2009 耕地面積 1368 1527 12.0 天水耕地 1229 1226 ­0.2 かんがい耕地 139 301 117.0 出典:FAO(2010b,c) 出典:Fischerほか(2010)より改訂 1─主要な土地利用の純変化量(100ha) 低所得国 441 2651 0.17 28 50 22 中所得国 735 3223 0.23 27 55 18 高所得国 380 1031 0.37 32 50 19 合計 1556 6905 0.23 29 52 19 地域名 純増加量(%) 1961­2009 2─適正な生産システム下で耕作に適した世界の耕地の割合 耕地面積 (100ha) (100人口万人) 1人当たり耕地面積 (ha) 天水作物 (%) 良好地 限界地 最適地 05 SPRING 2012

(6)

にほぼ匹敵する面積である。一方、農業 生産量は主要作物の単位収量が大幅に 伸びたことから、

2.5

­

3

倍に増加した。 ■しかしながら、世界が達成した生産は、 一部の地域では土地・水資源の劣化、な らびに関連の生態系サービスの劣化を伴 うものであった。生態系サービスには、バ イオマス、炭素貯留、土壌の健全性、水 の貯留と供給、生物多様性、社会・文化 的サービスが含まれる。農業はすでに世 界の陸地面積の

11%

を作物生産に用い ており、水についても地下水、河川水、湖 沼水から得る全利用水量の

70%

を使っ ている。農業政策は、今なお高い脆弱性、 土地の劣化、不安定な気象などの貧困の 罠に閉じこめられている多くの小規模生産 者を置き去りにして、生産性の高い土地と 水利用に恵まれた農業者に一義的に利益 をもたらしてきた。 ■ 政策と制度 ■土地・水制度は、激しさを増す河川流域 開発や、土地・水資源全般にわたる相互 依存や競合の増加に追いついていない。 天然資源の欠乏や市場機会に有効に対 応するためには、より適応力があり協力的 な制度が求められる。 ■

2050

年に向けた見通し

2050

年までに、人口増加と所得の上昇に より、

2009

年の水準と比較して世界全体

70%

、開発途上国で

100%

近くの食 料増産が必要となるだろう。しかし、将来 さらに増産が必要な国々にとって、土地・ 水資源の配分は依然有利なものとはなっ ていない:低所得国における

1

人当たり耕 地の平均利用可能量は、高所得国の半 分にも満たず、耕作に当てる耕地の適合 度は概して低い。食料需要が急速に高ま りつつある一部の国は、同時に高い水準 の土地・水資源不足に直面する国でもある。 ■農業生産高向上への最大の貢献が、既 存農地の生産強化から得られることは、ま ず間違いのないところであろう。そのために は、適正な土地管理方法を広範に採用し、 配水における柔軟性や信頼性あるいは適 時性の強化を通じて、かんがい用水をより 効率的に利用することが求められる。 ■ リスクにさらされたシステム ■現在の一般的な農業生産様式は、厳密 な見直しが必要である。一連の土地・水 システムはいま、過度の人口圧と持続性を 欠いた営農が重なり合うなかで、恒常的 な生産力低下のリスクにさらされている。 このようなシステムにおける土地と水の利 用可能量の物理的な限度は、気候変動、 他セクターとの競合、社会経済変化など を含む外的要因によって、さらに悪化する 可能性がある。これらのリスクにさらされ たシステムは、他に代替えがないという単 純な理由からも、真っ先に是正措置を講 ルワンダ・カゲラ川で、湿地帯の潮流コントロールと作物管理をするために堤防を建設する地域の農民たち。 人口増加や集約的な農畜産業、持続的でない土地利用などにより川の劣化が進んでいるため、FAOは「越 境農業生態系管理システム(TAMP)」を通じた支援を行っている。 ©FAO / Giulio Napolitano

The State of the World s Land and Water Resources for Food and Agriculture

食料と農業のための 世界土地・水資源白書

(SOLAW)

(7)

3―世界の土地劣化の現況と傾向 出典:本報告 平均熱帯家畜頭数(TLU) ボリビア ラテンアメリカ タイプ1 高い劣化傾向または 劣化の著しい土地 経済的に可能なら修復、 または劣化傾向の高い 箇所の軽減 タイプ4 改良の進んだ土地 SLM(持続的土地管理) 促進を可能にする 条件の強化 タイプ2 多少の劣化が認められる 土地での中位の劣化傾向 劣化軽減手段の導入 タイプ3 多少の劣化は認められる が安定した土地 劣化防止への調整 生態系便益の劣化の類型化 調整手段 裸地 18% 水域 2% タイプ1 25% タイプ3 36% タイプ2 8% タイプ4 10% 4―土地劣化と貧困の関係

データ出典:FAO(2007a)、LADA(2010a)

平均熱帯家畜頭数(TLU) ボリビア % ラテンアメリカ 多少の劣化は認められるが安定した土地 改良の進んだ土地 高い劣化傾向または劣化の著しい土地 多少の劣化が認められる土地での中位の劣化傾向 低位 貧困水準中位 高位 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 かんがい・キャッサバプロジェ クトで、用水路からの水流を確 認する農民(マラウイ)。 ©FAO / Jon Spaull

ルワンダ・ブレラで、水力発電 所に電力を供給する流域の滝。 水力発電所は、気候変動への 対策となる一方で、土壌が浸 食されて作物や家畜の生産性 が低下しやすいという問題もあ る。

©FAO / Steve Terrille 2―かんがい整備面積の推移 出典:FAO(2010b) 平均熱帯家畜頭数(TLU) ボリビア 100万ha ラテンアメリカ 高所得国 低所得国および中所得国 1961 1967 1973 1979 1985 1991 1997 2003 2008年 0 75 150 225 300 07 SPRING 2012

(8)

The State of

the World s Land and Water Resources for Food and Agriculture (SOLAW) 食料と農業のための 世界土地・水資源白書 FAOが新しく創刊した世界の 土地・水資源に関する白書。 今後3­5年おきの発行が予定 されています。要約版(英語ほか) は以下のURLからご覧いただ けます。全文版はFAO寄託図 書館(p.32)で閲覧が可能です。 www.fao.org/nr/solaw/the-book FAO 2011年11月発行 192ページ 26×18cm 英語ほか ISBN:978-1849713276 ずるべく配慮がなされて然るべきである。 ■ 改善への諸条件 ■食料安全保障と飢餓問題に対応するため、 他の生態系価値への影響を抑えながら、 生産を効率的に拡大していく潜在的な可 能性は存在する。持続可能な土地・水の 管理を広く実践していくにあたって、政府 や農民を含む民間セクターがより一層積 極的に取り組むべき行動域がある。それは、 単に持続性強化の推進と生産リスクの軽 減に向けた技術的選択肢だけではなく、 阻害因子の除去や弾力性の確立といった 一連の条件を含むものでもある。これらは、 ①インセンティブの枠組みにある歪みの除 去、②土地権利および資源へのアクセス の改善、③土地・水関連機関の強化と一 層の連携、④知識交流、実用研究、農 村金融などを含む効率的な支援サービス、 ⑤より良くより安全な市場への参入、など を含むものである。 ■ 国際協力、投資、政策 ■持続的な土地・水資源管理を広く実践に 移していくためには、相応する営農手段の 広範な採用を促すための財政・組織支援 を導入する政策意思を、国際社会が共有 することもまた必要となる。土地・水に割 り当てられる各国予算や政府開発援助に 見られる退行的な傾向は、見直される必 要がある。可能な新しい財政上の選択肢 には、環境便益に対する支払い(PES)お よび炭素取引市場が含まれる。そして最 後に、土地・水管理を取り扱う国際的な 政策とイニシアティブの、より一層効果的 な統合化が必要である。これらの変革に よってのみ、世界は、環境の限界を超える ことなく生産を行えるような持続的な農業 を通して、世界の人々を養っていくことが できるのである。

参考:「The State of the World s Land and Water Resources for Food and Agriculture」Main messages

(下記URL)およびSummary Report

www.fao.org/nr/solaw/main-messages/en/

翻訳:真勢徹

FAOアカシア・プロジェクトによって植林されているアカシア(セネガル)。砂漠化の防止だけでなく、アラビアゴム(アカシアの樹脂)

の販売を通じて地元コミュニティーに社会経済的な恩恵をもたらしている。 ©FAO / Seyllou Diallo

The State of the World s Land and Water Resources for Food and Agriculture

食料と農業のための 世界土地・水資源白書 (SOLAW) 特集 08 SPRING 2012

(9)

田植え準備。田植えや刈入れが同時期に行われている。農作業は男女分業で、例えば苗植付けは女性、ゴミ取りは男性といった形で行われている。

アフリカの農業開発問題

R e p o r t 1

2011

11

月、タンザニアにおいてコメ・養殖分野を対象とした 南南協力ワークショップが行なわれた。 ワークショップの報告とともに、その背景としてのアフリカ、 特にタンザニアの抱える農業開発問題について考察する。

――タンザニアにおける南南協力ワークショップを通じて

FAO日本事務所 武本直子 国連ミレニアム開発目標の第

1

目標、 世界の飢餓人口半減の達成期限であ る

2015

年まであとわずかであるが、

20

11

年秋の

FAO

発表では、いまだ

9

2,500

万人が栄養不良であり、対国別 人口比ではサハラ以南アフリカ諸国の 割合が依然として高く、

8

億人の人口の うち約

2

2,000

万人が慢性的栄養不 良に苦しんでいる(2006­08年平均)とさ れている。

2011

3

11

日以降、日 本でも計画停電という言葉が頻繁に聞 かれるようになったが、コンゴ民主共和 国の「計画停電(仏語原語délestage)」 とは、電気のことを指すのではなく、計 画停電のローテーションと同様にしか 食事にありつけないという、いわば「食 の計画停電」を意味する。 世界の農業の変遷 農業は長らく労働集約的であったが、 まず

18

世紀の欧州で、輪裁式と呼ば れる農法により、農業生産力が飛躍的 に発展した。しかし、蒸気船と鉄道の 開発・普及によって、労賃も地代も大 幅に安いロシアや南北アメリカ・オセア ニアからの農産物が大量に流入するこ とになった。以後、農産物輸入を余儀 なくされていた西欧だったが、

20

世紀 最後の四半世紀において、科学技術 発展・工業化、ならびに「構造政策」と 呼ばれる少数の巨大経営企業の選別・ 育成政策、および補助金や政策等によ る自国の農業保護を推進し、再び農業 生産力を向上させ、南北アメリカ・オセ アニアに次ぐ巨大輸出地域となった。 ■ アジアにおいては、

1970

­

80

年代、 肥料を多く必要とする高品種の開発・ 導入が進められる「緑の革命」が進行 した。これにより、土地の集約的利用、 資本集約型農業へ移行し、食料増産 は食料不足の解消傾向、そして貧困問 題の解決に多大な役割を果たした。 ■ アフリカでは、その植民地時代に宗主 09 SPRING 2012

(10)

国から少数の特化した農産物の生産を 強いられ、それらはもっぱら欧州市場 向けに輸出された。

1960

年代をピーク にアフリカ諸国は政治的独立を達成し たが、不自然な国境による不安定な情 勢、経済的な農業依存度の高さ、貿 易は少数の一次産品輸出からしか外貨 獲得ができないモノカルチャーの遺産 を抱えたままの出発であった。

1970

年 代に入ると、多くの国で軍事クーデタ ー等の内紛や紛争、第一次産品の相 対的価格下落傾向、ならびに二度の 石油ショックが起こり、アフリカ諸国に 深刻な国際収支悪化をもたらした。こ の経済危機に対して、ワシントン・コン センサスとも呼ばれる思想に基づいた 世界銀行・

IMF

の国際金融機関は、 ほぼ画一的に構造調整政策をアフリカ 諸国に押し付けた。

1980

年代半ばか ら

15

­

20

年にわたってこの構造調整 政策を実施したアフリカ諸国だが、経 済開発は進まなかった。 ■

1990

年代には冷戦終結や民主化、そ して市場経済導入の社会経済基盤が、 徐々にではあるが整えられたこともあり、 アフリカ経済にもようやく発展の兆しが 見え出した。そして、

1990

年代後半 以降、それまでの経済偏重から、制度・ 社会・環境等視点から包括的・長期的・ 人間的に開発問題に取り組もうという 姿勢や、世界の絶対貧困層に対する 取組み等に重点が置かれる貧困削減 政策へと世界の潮流が変化してきた。 また、先進国ドナーの援助疲れ・政府 開発援助(ODA)減額傾向に代わって、 新興国による開発援助が増え、特にア フリカ諸国への中国の援助・投資は目 覚ましいものがある。 ■ 加えて、世界開発問題におけるアフリ カ問題の重要性が認識され、国際会 議等でもアフリカ開発に関する宣言がさ まざまに発出されている。

2005

G8

グレンイーグルズ・サミットの成果文書 「アフリカ」のほか、

2008

年洞爺湖サミ ットでは「世界の食料安全保障に関す る

G8

首脳声明」において、アフリカを 特定し、その農業生産性向上のため、 アフリカ農業総合開発プログラム(CA ADP)実施を支援し、その基準に適うア フリカ諸国での主要食用作物の生産量 を

5

­

10

年で倍増する目標へ取組むと いった具体的内容が盛り込まれた。 ■ また、アフリカ諸国自身も経済開発に 向けて動き出しており、

2001

年ザンビ ア・ルサカでアフリカ連合(AU)が採択 した「アフリカ開発のための新パートナ ーシップ(NEPAD)」は、貧困撲滅、持 続可能な成長と開発、世界の政治経 済への統合等を目指すものである。

20

03

AU

会合で策定された

CAADP

は、 食料増産による貧困削減、農地および 水資源管理、研究成果の技術移転、 インフラ整備と市場アクセス拡大を四 本柱の実施目標としている。このような 新たな展開の中で、アフリカでは

2000

年以降、急激な成長率を示す国々も出 てきている。 タンザニアの農業開発問題 タンザニアは帝国主義・植民地化により、 ドイツ東アフリカ会社の進出を経て、

1890

年にドイツ帝国植民地となったが、 第一次大戦のドイツ敗戦で

1920

年イ ギリス統治下に置かれ、第二次大戦後 に国連信託統治領となった。

1950

年 代には民族運動の高まりの中で、後の タンザニアの初代大統領となる

J. K.

ニ エレレ主導で独立運動が進み、

1961

年にタンガニーカとして独立した。一方、 イギリス保護領であったザンジバルは、

1963

年にイギリスから独立後、タンガ ニーカとの合邦を求め、アフリカ系住民 の

1964

1

月のクーデターを経て、

1964

4

月、タンガニーカとの合邦に よりタンザニア連合共和国が成立した。 ニエレレは、植民地化以前の友愛に満 ちた伝統的な社会価値観を尊重して平 等社会を達成し植民地社会の弱点を 是正しようとし、

1962

年の彼の「ウジ ャマー:アフリカ社会主義の基礎」論 文にちなみ、ウジャマー社会主義( Uja-maa Socialism)を実践しようと試みた。

1967

年の「アルーシャ宣言」は、当時 アフリカ諸国の多くが旧宗主国をモデル とした工業化志向であったのに対し、 農村と農業に基礎を置いた開発政策を 謳ったものである。しかし、理想ばかり がこの農業振興を促進したわけではな 出典:World Bank タンザニアの最近の経済成長率 % 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10年 0 1 2 3 4 5 6 7 8 10 SPRING 2012

(11)

い。タンザニアは当時の東西冷戦時に おいて非同盟外交を採った。経済的自 立を達成するためには農業・農村重視 の開発政策が必須であり、資本集約的 な工業化戦略は外国から多額の資金 援助を必要とするため援助依存に陥り、 政治的独立が危うくなるため、開発は できるだけ国内に賦存する資源・労働 力に依拠すべきと考えたのである。 ■ 目標としたのは、低開発の自給農業地 域における集村化と、共同耕作を通し た労働集約的農業発展であり、

3

段階 を経て農村の共同体化を図り、農業生 産の大規模化・近代化を実現しようと いう「ウジャマー政策」が打ち出された。

1968

年就任のマクナマラ世銀総裁 は、小農中心の発展と

Basic Human

Needs

(BHN)重視に傾斜していたこと から、ウジャマーの集村化は部分的に 世銀にも支持され、世銀にとってタンザ ニアは格好の支援対象となった。加えて、 タンザニアが政治的従属を求めない中 立的ドナーと考えた国連諸機関や北欧 諸国は、むしろニエレレ政権の平等主 義的

BHN

志向を評価し、開発援助を 強化していった。 ■ しかし、農民の自主性に委ねられて始 まったウジャマー政策は遅々として進ま ず、政策の進展度と合わせた社会サー ビスの提供を行うというアメとムチ政策、 さらには半ば強制的な移住政策が実施 された。ウジャマー政策が進まなかった 理由は、第

1

に、農業を工業の発展基 盤とする独立当初の路線が継承され工 業や都市近代部門優先を断ち切れな かったことから、

1970

年代までタンザ ニアの農産物市場向け生産の価格イン センティブが生産者の農民にとって著し く不利であったことである。第

2

には、 社会主義政策下で個人の利益追求が 排撃される傾向があり、それらが生産 を阻害する要因となったこと、第

3

に、 そうはいっても農民は、ウジャマーとい う村の共有地で全体の利益のために働 くことに興味を示さず、強制・半強制の 集住や協同生産の義務付けが生産にマ イナスの影響を及ぼしたことである。 ■ このように農業生産が伸び悩み、

1970

年代の石油ショックが追い討ちをかけ、 農産物輸出が低迷、恒常的食料輸入 の必要性が生じる事態となった。さらに、

1978

­

79

年の対ウガンダ戦争への戦 費等により外貨不足が深刻となり、製 造業への外貨振分ができず、製品輸入 が縮小するにもかかわらず、資本財・ 中間財を輸入に依存する国内工業部 門からの産出量も減少することになり、 著しい消費財不足に陥った。 ■ タンザニアは独立後、さまざまな理由で 三大援助国(英・米・西独)からの援助 が止まり、中国や北欧諸国などに援助 協力を拡大したが、このことが逆に援 助の多様化を促し、ウジャマーの自力 更生路線とは裏腹の状況となった。こう したなか、深刻な経済危機を脱するため、 援助を復活させていた英・米・西独、 そして北欧諸国までもが、援助の条件 として構造調整政策への合意をタンザ ニアに提示した。画一的な構造調整政 策を放棄することは、世銀・

IMF

との 決別により他の国際機関や二国間の援 助も断念することになり、援助依存財 政に陥っていたタンザニアには大変難し いことであった。 ■ 構造調整政策は、関税引下げを伴う貿 易自由化、農産物流通自由化、平価 切下げ、金融制度改革、信用創出の 制限、公営企業の民営化、公務員数 削減、公共サービスに対する受益者負 担原則の導入等が主な施策であるが、 政策を採用したタンザニアや他のアフリ カ諸国では、そのマクロ経済指標の改 善が進まず、国際収支の改善と政府財 政赤字の解消は実現できなかった。む しろ、平価切下げに伴い輸入品価格は 高騰し、他方、公正な市場管理やイン フラ整備を欠いたまま無理に市場経済 原理を持ち込んだことにより、都市と農 村との経済格差が拡大し、農村から都 市への出稼ぎが増大し、所得格差は一 層拡大した。国民は期限明示のない耐 乏生活を強いられ、構造調整政策はい 農地(1,000ha) かんがい地(1,000ha) 割合(%) 世界 1,381,204 311,679 22.57 アフリカ 224,418 13,730 6.12 アジア 473,206 224,645 47.47 タンザニア 9,600 184 1.92 出典:FAOSTAT, 2011年2月現在 2─土地利用(2009年) 人口 4,500万人 平均寿命 56歳 第一次産業人口 3,300万人 栄養不足人口割合 34% 1人当たりカロリー摂取 2,017Cal 幼児死亡率 108 / 1000 人間開発指標(HDI)※ 0.466 187か国中152位 サハラ以南アフリカ平均0.463 Low Human Development 平均0.456

※人々の生活の質や開発度合いを示す指標。平均余命、教育、G

  DPの指標から算出される

1─タンザニアの各種指標

11

(12)

わば直接生産者の犠牲の上に成り立っ ていた。 ■ さらに、農業以外に現金収入を得る機 会が少ない農村部では、木材や薪炭 の販売、換金作物増産を目的として、 集落周辺の森林が無秩序に伐採され た。それにより、畑の休閑期間が短縮 され環境への負荷が高まり、連作によ り農地が疲弊し、森林劣化等の環境 問題が悪化した。 ■

1990

年代末から

2000

年に入り、貧 困削減が国際協力の潮流の中で主流 を占めるにつれ、当該国主導、結果重視、 包括性、長期的取組、構造調整政策 の骨格は継承しつつも、セクターレベル への重点移行、制度構築・組織能力 強化、優先付け、パートナーシップ・ド ナーの緊密な協調等を特徴とする貧困 削減戦略文書を被援助国に作成させ、 それに基づいて援助が支援されるように なってきた。タンザニアも

2000

年に初 めてこれを策定し、

2005

年に更新した。 貧困削減戦略では数値目標が達成さ れつつあることを示さないと重債務貧困 国適格国から外されて旧来の債務が軽 減されないため、タンザニアにとっては 死活問題であった。 いて、日本の技術協力により開発が進 んだ途上国での成功事例をアフリカの 農業生産や生産性向上に役立てよう、 という趣旨であり、そのフレームワークと して、近年経済開発の進んだアジア・ アフリカにおける途上国からの専門家 が、トレーニングや技術普及に協力す るというこの南南協力が活用されている。 当該プロジェクトはまた、

2008

年の第

4

回アフリカ開発会議(TICAD IV)で表 明されたアフリカ稲作振興のための共 同体(CARD)イニシアティブと、国家食 料安全プログラム(NPFS)や、

NEPAD

-CAADP

等の他の国家プログラムの枠 組みの中で、国が行動実施をするため のプロジェクトでもある。今回のワーク ショップも、タンザニアの

NPFS

と連携し、 コメ生産および養殖増産のための関連 政府関係者や各セクターの生産者リー ダーを対象にしたものであった。

5

日間 のワークショップ期間中、参加者はコメ 増産・養殖に関するアジアにおける経 験を聞き、実際の戦略・計画を国家コ メ・養殖開発戦略の中で実施するため の議論が重ねられた。最終日には、コ メについて、種子、肥料、現場での技 術普及、品質改良、市場アクセス、資 金アクセスに関する優先課題がまとめら れた国家コメ開発戦略実施策の草案 が発表された。養殖に関しては、コン ■ タンザニア農業の成長が妨げられてきた 要因として、貧困削減文書は、農地の 非集約傾向等による土地生産性/労 働生産性の低さ、農業資材投入レベ ルの低さ、かんがい施設の未整備、投 資資金不足および金融サービスへのア クセス不足、不適切な農業技術支援 サービス、都市と地方を結ぶインフラ 未整備、作物・家畜への疫病の蔓延、 天然資源および環境の劣化等を挙げ ている。また、構造調整政策がそうで あったように、タンザニアの社会・文化・ 気候/環境的条件等の現地事情を十 分に考慮せず、別な地域で成功した農 業をそのまま持ち込もうとしたことを要 因に挙げる説もある。この関連で、タン ザニアの社会価値観は、農村の相互 扶助を求めることにより、生産性向上 に対してのインセンティブが減少し、農 業の集約化が起こりにくい、との指摘も あり、実際、

Hyden

は、タンザニア農 村のこのような相互扶助的な交換ネッ トワークを「情の経済(economy of af-fection)」と称した。この「情の経済」で は、経済的な生産性向上よりも、生物 的・社会的な再生産を優先させる傾向 があるため、農業開発へネガティブに働 くと論じたのである。 ワークショップに参加して 貧困削減対策の新たな流れとして、従 来の「先進国­被援助国」という南北 関係の支援の他に、南南協力の支援へ、 と考え方も広がっていった。 ■ 今回筆者が参加したワークショップは、 日本支援のプロジェクトの一環として開 催されたもので、その対象分野(コメ、 養殖、市場アクセス、小規模かんがい)にお キブリのJICAかんがいトレーニング。ノリのよい掛け 声が特徴で、例えば指導者が「XXは何時からやるか?」 というと、参加者が「今日から!」と答える。かんがい 設備によって一部の村人が潤うと、それを妬む人々も いて設備への破壊活動があることもある。 JICAの南南協力事業の代表的成功例であるキリマン ジャロ農業研修センター(KATC)の農業技術指導室。 トレーニングで造った機具を農民が持ち帰り、技術普 及に努める。 12 SPRING 2012

(13)

セプトノート草案として、魚の種苗・餌 の利用可能性、品質、アクセスに加え、 養殖技術とその管理や環境との整合性、 社会・労働条件、収穫とポストハーベ ストの質と輸送、市場アクセス、信用 貸しアクセス、総合的な政策・ガバナ ンスに関する重要事項について発表さ れた。 ■ 過去の開発計画ではトップダウンであっ たために、ウジャマー政策や構造調整 政策等の失敗によって現場農民が政府 に対する不信感を持ち、面従腹背の態 度であったと考えられた。しかし今回の ようなワークショップは、実際に農業増 産・養殖に携わる人々が、そのプロジ ェクト・計画を策定し、必要なトレーニ ングも受けることにより、オーナーシップ・ 責任を持ち、プロジェクト実施に努める ようになるという利点がある。 結語 アフリカ農業は素晴らしい可能性を持 っており、自然資源も豊富である。しかし、 アフリカのかんがい率は未だ

3%

に過 ぎず(世界平均は約20%)、穀物の単収 は約

1.2

トン

/ ha

で(途上国全体は約3ト ン平均)、肥料利用は約

13kg/ha

に過 ぎない(中近東・北アフリカ:73kg、東アジ ア・太平洋:190kg)。また機械化も遅れ ており、例えばタンザニアでは、人の手 作業

70%

、牛耕

20%

に対し、トラク ターの利用は

10%

とも言われている。 アジアでは「緑の革命」が進んだことで、 更なる増産が難しいなか、アフリカは単 収を増加させる適切で効率的な技術・ 種子や肥料、農機具等の投入資材供 給さえあれば、将来の世界人口増加に 対応する食料庫とも成り得る可能性を 秘めている。すでに

2008

年に、ローマ に本部を置く食料関連の国連機関(FA O、WFP、IFAD)と

AGRA

(Alliance for a Green Revolution in Africa)は、覚書 を取り交わし、アフリカの中で豊かな穀 物庫といわれる地域での農業生産拡大 強化に努めている。加えて、アフリカは、 森林の破壊・火災等による温室効果ガ ス排出がある一方で、逆にその吸収に も貢献できていると言われており、地球 温暖化を緩和することも可能なのであ る。この意味で、人類の発展には、ア フリカ農業開発がカギを握るとも言え、 日本の遠く離れている出来事ではなく、 我々の明日に関わってくる問題であると 認識して改善に向けた努力をしていくこ とが必要と考える。 参考文献 FAO 本部サイト:www.fao.org

(Media Centre / News Room, 食料価格指数、タ ンザニア関連)

FAOSTAT:PopSTAT, TradeSTAT, CountrySTAT Bill Gates, 2012, The truth about foreign aid , International Herald Tribune, Jan. 27, 2012, p.6.

A. Durand, 2012, The food délestage in Con-go:Today we eat. Tomorrow we don t , New

York Times, Jan. 3, 2012

Collier, Paul and Dercon, Stefan, 2009, African Agriculture in 50 Years? Smallholders in a rapidly changing World? , at Expert meeting on How to Feed the World in 2050, Rome Wiggins, Steve, 2009, Can the smallholder model deliver poverty reduction and food security for a rapidly growing population in Africa? , at Expert meeting on How to Feed the World in 2050, Rome

The Special Challenge for Sub-Saharan Africa , How To Feed the World 2050 High Level Expert Forum, Oct. 12 -13, 2009, Rome

Binswanger - Mkhize, Hans, P., Challenges and Opportunities for African Agriculture, and Food Security , at Expert meeting on How to Feed the World in 2050, Rome

Nov. 18, 2011, (DRAFT) Enabling Implementation of National Rice Development Strategies of Tanzania, CARD, FAO, and Ministry of

Agricul-ture, Food Security and Cooperatives

FAO, 2011, The State of Food And Agriculture

2010−11 (SOFA)

UNDP, 2011, Human Development Report Utz, Robert J., 2008, Sustaining and Sharing

Economic Growth in Tanzania, World Bank

World Bank, 2008, Putting Tanzania’s Hidden

Economy to Work? Reform, Management, and Protection of its Natural Resource Sector, World

Bank Country Study, Washington, DC

外務省国際協力局 2011『政府開発援助(ODA)国 別データブック2010』 平野克己 2009『アフリカ問題―開発と援助の世界 史―』日本評論社 池野旬 2010『アフリカ農村と貧困削減―タンザニア 開発と遭遇する地域―』京都大学出版会 JICA農村開発部 2007『タンザニア・キリマンジャロ 農業技術者訓練センターフェーズII終了時評価調査 団報告書』2007年1月 掛谷誠伊谷樹一編著 2011『アフリカ地域研究と農 村開発、京都大学学術出版会』 近藤史 2011『タンザニア南部高地における在来農業 の創造的展開と互助労働システム―谷地耕作と造林 焼畑をめぐって―』京都大学アフリカ研究シリーズ 003 2011年3月松香堂書店 京都大学地域研究統合情報センター 2009『地域研 究Vol.9, No.1』 『総特集アフリカ―〈希望の大陸〉のゆくえ』昭和堂 みずほ情報総合研究所 2009『地球的規模の問題に 対する食料・農業・農村分野の貢献手法に関する検 討調査』2009年3月 野田公夫編 2007『生物資源問題と世界』生物資源 から考える21世紀の農学第七巻京都大学学術出版 会 太田妃樹 2011「タンザニア「村土地法」と貧困層― 農村調査からの一考察―」『六甲台論集』No.12, 20 11年1月pp.23­48 高橋基樹藍澤淑雄佐々木亮 2002「アフリカ農村開 発における政府の役割―タンザニアにおける農業・農 村開発セクター・プログラムの導入と日本の新しい取 り組み―『IDCJ Forum』No.22, pp.75­100

高梨和紘編 2006『アフリカとアジア―開発と貧困削 減の展望―』慶應義塾大学出版会 上田元 2011『山の民の地域システム−タンザニア農 村の場所・世帯・共同性』東北大学出版会 山本佳奈 2008「季節湿地における農地拡大とその 背景―タンザニア・ボジ県の事例―」『アジア・アフリ カ地域研究』2008年8­2号 pp.125­146 ワークショップ最終日の様子。 13 SPRING 2012

(14)

©Reuters / Arko Datta

エネルギー・スマートな

食料システム

R e p o r t 2 現在の食料システムは、世界のエネルギー消費量の約

30%

を利用し、 化石燃料に依存している。そのため食料価格は乱高下する 化石燃料価格に影響されやすく、農業が今後、 増加する世界人口を養っていくための大きな制約となっている。 さらに、フードチェーン全体が排出する温室効果ガスは、 全排出量の

22%

を占める。こうした状況を背景に、

FAO

は、 エネルギー利用の効率化や再生可能エネルギーの生産を可能とする 「エネルギー・スマート」な農業のアプローチを提唱している。 食料システムにおけるバイオ エネルギーと再生可能エネルギー 農業は、食料とともに、エネルギーに 転換可能なバイオマスの生産も最大化 することが可能であり、バイオエネルギ ーは「エネルギー・スマート」な食料シ ステムにおいて重要な役割を担っている。 食料システムは、エネルギーを必要とす る一方で、再生可能エネルギーを生み 出す資源を供給することもできる。こう した再生可能エネルギー資源を活用す ることで、農村では、より多くの食料を 生産、保存し、収入を引き上げること ができる。食料システムと関連する再生 可能エネルギーは、照明や通信手段と いったエネルギーサービスの供給にも 役立つ可能性を持っており、その結果、 現地の教育や保健医療サービスが改 善され、各家庭の生活の質を向上させ ることができるだろう。 ■ 現在、再生可能エネルギーは世界の 一次エネルギー需要の

13%

以上を満 たしている。液体および気体のバイオ 燃料や、固形バイオマスを利用してエ ネルギーを生み出すバイオエネルギー は、すでに再生可能エネルギーを代表 するエネルギーとなっている。バイオエ ネルギーや、風力、太陽光、小型水力、 地熱といった他の再生可能エネルギー のプラットフォームは、農業や食料セク ターのエネルギー自給率を高める助け となる。現在消費されているバイオエネ ルギーの約半分は従来のバイオマス燃 料資源を利用したもので、主に農村世 帯での調理や暖房に使われている。よ りクリーンなエネルギー資源を利用する ことは、こうした世帯に直接的な利益を もたらす。フードチェーンに沿って、バイ オエネルギーと他の再生可能エネルギ ーを統合すれば、各世帯のエネルギー 需要を満たし、生活を改善し、現地の 発展につながる余剰エネルギーを生成 できるようになるだろう。

バイオ燃料にするため牛糞を乾燥させている(バングラデシュ)。 ©FAO / Giulio Napolitano

14

(15)

バイオエネルギー作物 一部の国々では、トウモロコシやキャッ サバ、サトウキビ、ナタネといった作物が、 輸送用やコージェネレーション(熱電併 給)用の液体バイオ燃料に変換するため のバイオマス資源として栽培されている。 バイオ燃料生産を適切に管理すること は、農業市場の多様化を支えると同時 に、特に開発途上国で必要とされる資 本・技術投資に対する経済的インセン ティブにもなる。エネルギー作物の管理 はまた、持続的な食料生産を支える土 壌肥沃度を維持し、ときには改善する こともできる。オーストラリアでは、食料 生産と連携したアグロフォレストリーによ るバイオマス生産を通してアルカリ性土 壌の改善が行われており、これはバイオ エネルギー作物開発が潜在的に持って いる環境的利益の好例である。 「ゴミの話

?

バイオマス残渣をエネルギーに 動物の排泄物、作物・森林残渣、食 品加工副産物、小売業者や家庭、レス トランから出る食品廃棄物などは、フー ドサプライチェーンのさまざまな段階で 発生するバイオマスの一例である。これ らのバイオマス資源は、柔軟なエネル ギー資源として次のように利用できる。 必要とされる場合に、適時に現地で 直接利用する 現地で生成し、外部に販売する 地域暖房やコージェネレーション(熱 電併給)向けにエネルギーを回収・利 用するため、外部に売却する 外部に売却し、より大規模で大量の エネルギーを回収して商業用液体バ イオ燃料の生産プラントに供給する ■ エネルギー転換プラントに供給されるバ イオマス残渣の回収・運搬方法は、場 所によって異なる。農場では、動物の 排泄物や、梱包された藁などの作物残 渣を回収・保管する必要があるため、 バイオマス運搬のコストは増える。食品 加工工場では、バイオマスは加工過程 ですでに回収されているため、費用は 比較的少ない。バイオマスをエネルギ ー資源として利用すれば、廃棄費用が 削減され、コスト削減にもつながる。 ■ 製糖所では、サトウキビの搾りかす(バ ガス)をコージェネレーション(熱電併給) に利用することが多い。モーリシャスで はすでに、総電力量の

40%

近くが、 バガスを利用したコージェネレーション (熱電併給)システムによって供給されて いる。農場や加工工場が既存の送電 網もしくはガス供給網から離れた場所 に位置し、流通費用が高くなる場合は、 電力やバイオメタンの輸出量は制限され る可能性がある。また、食品加工工場 の中には季節操業という場合もあり、 年間を通して一定のエネルギーを供給 できない可能性もある。このような場合 は、具体的な取り決めが必要となる。 再生可能エネルギープロジェクト バイオエネルギーを含む再生可能エネ ルギープロジェクトは、地域経済の収 入を拡大し、地域社会に利益をもたらす。 新たな収入源の一部を、公共事業の 改善や新事業の誘致に活用することも できる。初期のプロジェクトにより新規 雇用が創出されるだけでなく、再生可 能エネルギー技術の改善や部品製造、 関連エネルギーサービスの提供を行う 現地企業の設立により、長期的な雇用 機会も増えると考えられる。こうした高 賃金の仕事が増えると、現地技術が発 展し、農村に熟練労働者を呼び込む助 けとなる。耐用年数に基づいて計算し た再生可能エネルギー技術の配備費 用は、一般的には現行の電気や熱源、 輸送燃料の平均価格よりも高くなる。し かし、より多くの知識と経験を得ること により、再生可能エネルギー技術の費 用は減少していくものと思われる。多く の特定の状況下で、再生可能エネルギ ーは経済的競争力を持つ。例えば、送 電網に接続されていない遠隔地の農村 地域では、送電網に接続するために高 額の支出を行わなくてすむため、自立し た再生可能エネルギー・システムを確 立する方が有利である。 リスクと利益の評価 土壌と水は、食料システム全体にとって 必要不可欠な天然資源である。特にバ イオ燃料の大規模開発など、バイオエ ネルギー開発の影響に関しては、食料 生産と土壌や水資源を取り合うことによ り食料価格が上昇し食料不安を助長す るのではないか、あるいは、温室効果 ガス排出を本当に大幅に削減できるの か、といった懸念もある。したがって、 予想されるリスクと利益については、各 国・各地域特有の変数を考慮し、慎 重に評価する必要がある。

FAO

はここ 数年、パートナーと協力し、「持続可能 なバイオエネルギー政策決定のための 支援パッケージ(Support Package for Decision - Making for Sustainable Bioen-ergy)」を開発した。この支援パッケー ジには、

FAO

のさまざまなプロジェクト や活動を通して開発されてきた

5

つの 要素が含まれる。

FAO

のこれまでの研 究では、バイオエネルギー生産は適切 に管理さえされれば、食料安全保障を 損なわず、持続可能な方法で農村開発 15 SPRING 2012

(16)

を促進できることが示されている。一方、 バイオエネルギー生産が妥当ではなく、 実行不可能なケースもある。 ■ 太陽光や風力発電技術の配備に必要 とされる土地の面積は、比較的小さい。 世界の化石燃料を再生可能エネルギ ー技術に転換するために必要な土地の 面積を計算すると、現在農地として使 用されている土地の約

1.5%

となる。つ まり、農業生産に与える影響はわずか であると考えられる。 食料システムにおける エネルギー効率の改善 エネルギー・スマートを実現するには、 エネルギー効率を改善し、生産性を損 なわずにエネルギー消費を削減する必 要がある。過去数十年の間に、大規模 な食料システムにおいてエネルギー効 率を向上させるための選択肢は広がっ た。しかし、開発途上諸国の自作農に とっては、エネルギー効率の改善に着 手するためのエネルギーへのアクセスが わずかであったり皆無であることから、 その選択肢は限られている。 ■ 省エネと効率向上に向けた対策は、フ ードチェーンのすべての段階において可 能である。こうした対策は、技術や行 動の変化を通して直接的な省エネにな るだけでなく、農業生態学的な農法を 採用すれば、コベネフィット(相乗便益) という形で、間接的な省エネにもつなが る。 保全農業 保全農業とは、土壌の栄養状態を強 化するため、輪作によって農場管理を 改善するアプローチである。このアプロ ーチには土壌保全の原則が適用され、 通常、不耕起農業もしくは低耕起農業 が採用される。保全農業により、無機 窒素の需要は低減し、害虫が減り、土 壌障害を最少化できる。エネルギー投 入の削減も、保全農業で一般的に見ら れるコベネフィットである。不耕起農業 もしくは低耕起農業を導入することによ り、栽培用の燃料消費を

60

­

70%

削 減することができる。また、この手法では、 作物残渣を表面に鋤き込むことによっ て土壌の保水性を高め、浸食を減らし、 土壌炭素の損失を削減する。従来の 農法による炭素損失は

40

­

80G

トン(ギ ガトン)と見積もられ、主に熱帯地方で、 年間

1.6

±

0.8G

トンの割合で増加して いる。 かんがい 機械揚水は世界の耕作地の約

10%

(約3億ha)で行われており、年間約

0.

225Ej

(エクサジュール=1018ジュール)が 消費されている。ポンプを動かすために は膨大なエネルギーが必要となる。また、 かんがい施設の製造と供給には、さら に年間

0.05Ej

の間接エネルギーが必 要となる。 ■ かんがい農業は、世界の食料生産の

40

%

に寄与している。水不足は世界各地 の農業生産を脅かしており、食料生産 における水使用量の低減が真に求めら れている。水の使用効率を高めることも、 ポンプ揚水の需要を削減することにつ ながるため、エネルギー・スマートの一 環であるといえる。既存のかんがいシス テムにおける省エネは、基本的な操作 条件を改善し、漏洩箇所を修理し、摩 耗したりサイズの不適切なポンプを交 換することで実現できる。水不足の時 期を避けて種を蒔き、マルチングを施す ことにより、水とエネルギーの投入量は 削減できる。精密かんがい、低水頭点 滴かんがい、排水再利用といった、よ り効率的なかんがいシステムの導入を 奨励する水管理政策も、エネルギー・ スマートである。 肥料 無機肥料の生産においては、世界的に 多量のエネルギーが使用されている。 窒素肥料の生産だけで、一次生産に 使用される化石燃料の約半分を占める。 農業従事者は、土壌の肥沃度をモニタ リングし、ガスを検知するバイオセンサ ーなどのコンピュータ支援技術を利用し て、肥料の必要量を正確に把握し、使 用量を減らすことで、間接エネルギーを 節約することができる。先進諸国では

1980

年代半ばからこうした技術を活用 し、肥料の使用量が大幅に削減された。 例えば米国では、

1979

年から

2000

年にかけて施肥量が約

30%

削減され た。有機肥料や窒素固定植物の栽培 にシフトすることも、間接的なエネルギ ー投入を減らすことができる。これはま た、温室効果ガスの排出を削減し、帯 水層や地表水への過度な硝酸流出を 避けることができる。 貯蔵と冷蔵 食料貯蔵には、小売食品

1kg

当たり

1

­

3Mj

(メガジュール)を必要とすると推定 されている。フードチェーン全体におけ る低価格の冷蔵システムは、先進諸国 に住む人々の食品選択を予測すること を可能にした。 ■ 開発途上諸国に同様のシステムを導入 することは難しく、膨大なエネルギーを 16 SPRING 2012

(17)

必要とする。経済発展が先進諸国への 食品輸出に依存する場合には、冷蔵に 頼るシステムを避けることは難しい。可 能な解決策としては、現地市場に輸送 する場合は輸送中のみ大量貯蔵を行い、 電力供給に依存する能動冷却ではなく 受動蒸発冷却技術を利用することが考 えられる。経済性が認められれば、独 立型の太陽熱冷却装置の利用も検討 できる。作物によっては、電力投入、 冷却装置の製造、廃棄冷媒による温 室効果ガス排出などを考慮した場合、 冷蔵貯蔵による二酸化炭素排出量が 全体の最大

10%

を占める。 輸送と流通

2000

年には、世界で

800M

トン(メガ トン)以上の食料が出荷された。過去

20

年間のグローバル化により、食品の 平均輸送距離は

25%

拡大した。化石 燃料は価格が変動するため、輸送と流 通はフードチェーンの中でも特に脆弱な 分野である。食料の生産・出荷拠点を 人口密度の高い地域の近くに設置する ことにより、輸送にかかるエネルギー消 費量を削減することができる。しかし、 船舶や鉄道による長距離輸送のエネル ギー消費係数(Mj /トン/ kg)は比較的 低いことから、もともと生産性の高い地 域で特定の作物や畜産物を生産すれ ば、遠隔地市場への輸送に必要なエ ネルギー量と相殺され、全体的な省エ ネにつながり得る。 食品調理 食料生産に使われるエネルギーが比較 的少ない開発途上諸国においては、調 理に使用されるエネルギーのシェアがか なり高い。調理は一般的に、食料

1kg

当たり

5

­

7Mj

を消費する。しかし、開 発途上諸国では

1kg

当たり

10

­

40Mj

である。 ■ エネルギー生成に使われる従来のバイ オマス(薪、作物残渣、動物の糞)は、開 発途上国の家庭での調理や暖房など に広く使用されており、たき火を使った 非効率な調理や煙の吸引による健康リ スクが頻繁に指摘されている。たき火 ではなく、より燃焼効率の良いバイオマ ス調理用コンロを使うことにより、薪の 需要を従来の半分まで減らすことがで きる。 食料ロスと食料廃棄 現在、生産された食料の約

3

分の

1

が ロスまたは廃棄されている。こうした食 料ロスはサプライチェーンの各段階で 発生し、年間約

1,200M

トンに達する。 食料が廃棄された場合、その食料を生 産するために使われたエネルギーも無 駄になる。世界中で廃棄された食料に 使われた年間エネルギー量は、フード チェーン全体で消費されたエネルギー 総量の約

38%

を占める。欧州や北米 諸国での食料廃棄量は、

1

人当たり年 間

95

­

115kg

である。食料が不足し がちなサハラ以南アフリカ、南アジア、 東南アジアでは、食料廃棄量は

1

人当 たり年間

6

­

11kg

である。こうした食 料ロスは、不適切な収穫技術、質の 悪い貯蔵設備、輸送インフラの不足、 不適切な梱包や市場システムが原因で ある。財政的、技術的制約が、こうし たロスを削減しようとする努力の妨げと なっている。農村部の生活を改善する ためには、食料ロスを削減する方法を 小規模農家に教育することは、比較的 費用効率の高い方法であると思われる。 しかし、消費者意識を変えるためには 大規模な取組みが必要であり、これは 大きな挑戦課題となるだろう。 食料システムにおける 生活用エネルギーのアクセス 再生可能エネルギーの利用とエネルギ ー効率の改善は、いずれもエネルギー アクセスの向上につながる。バイオエネ ルギーや他の再生可能エネルギーが利 用できるようになれば、現地の農業や 食品加工に必要なエネルギーを十分に 供給し、エネルギー不足を解消し、農 村開発を促進することができる。バイオ 燃料の小規模生産も、農機や、現地 市場への食品輸送車両用のエネルギ ーを供給できる可能性を持っている。 例えば、純植物油(植物原料から抽出し た油で、燃料として使われる)はそのままデ ィーゼルエンジンに使用でき、発電した り農業設備を稼働させることができる。 しかし、エネルギー効率の最適化と、 特に農村地域の貧困層にも手の届くエ ネルギー価格の維持という、矛盾した 課題のバランスをとる必要がある。 ■ エネルギーの安定供給を向上させるこ とは、人間の基本的なエネルギーニー ズに応え、食料セクター以外の中小企 業の設立を支援するエネルギーサービ スを提供し、収入を多様化する助けと なる。新たなエネルギー資源へのアク セス改善と既存エネルギーの効率向上 との、適切なバランスを探る必要がある。 現地の状況や各選択肢における経済 的な代償に応じて決定すべきである。 各国政府は、輸入した化石燃料の小売 価格を助成したり、農村地域での再生 可能エネルギー技術の導入支援策を 実施することにより、農村のエネルギー アクセスの改善を支援することができる。 17 SPRING 2012

(18)

食料・エネルギー統合システム(IFES)

FAO

の食料・エネルギー統合システム (IFES)に関する研究によると、食料とエ ネルギーは農場で同時生産し、それぞ れの需要を満たすことができる。これは、 エネルギー用と食料用の作物を組み合 わせた土地利用を最適化したり、食料 システムで発生したバイオマス残渣をエ ネルギー生成のために活用することで 可能となる。こうしたシステムを導入す ることにより、エネルギー・スマートな 食料システムの

3

つの主要目標(エネル ギー効率の向上、再生可能エネルギー利用 の促進、エネルギーアクセスの改善)を実現 するための機会が得られる。一部の

IF

ES

は、持続可能な作物の強化を支援し、 一次生産におけるエネルギー効率を改 善するランドスケープ・アプローチをとっ ている。

IFES

の枠組みにより、利益の 最大化を追求する大規模事業と、長期 的な混合農業システムとのバランスを保 つことができる。また、地域レベルでの エネルギー・食料生産システムの開発 にも役立つ。

IFES

には、多額の資本投 資を必要とせずに導入できるケースもあ る。 よりエネルギー・スマートな 食料システムを実現するための政策 政策立案者たちは、エネルギー・スマ ートな食料システムへのパラダイム・シ フトを実現するため、長期的な政策を 採択する必要がある。しかし、ただ短 期間でシフトするのは難しいという理由 で、それを待ってよいという意味ではな い。目下の重要な問題は、「エネルギー・ スマートな食料システムへの移行を行う か否か、いつ行うべきか」ではなく、「段 階的かつ着実な移行を実施するにはど うすべきか」である。投資や政策に関す る重要な決定を行い、効果的に実施す るために、政治的意思を動員する必要 がある。

FAO

は先頭に立ち、エネルギー、 食料、気候問題に複合的に取り組む 加盟諸国を支援する意向である。その ため

FAO

は、「人々と気候のためのエネ ルギー・スマートな食料(Energy - smart food for people and climate)」を目指す マルチパートナー・プログラムの設立を 推奨している。このプログラムは、最近 立ち上げられた国連イニシアティブ「す べての人に持続可能なエネルギーを

(Sustainable Energy for All)」や、地球

サミット「リオ+

20

」の主要テーマとな った「グリーンエコノミー(Green Econ-omy)」の達成に大きく貢献するだろう。 共通目標を認識する よりエネルギー・スマートな食料システ ムの確立は、他の開発目標と密接に関 連している。こうした相互協力的な関係 を十分に理解することにより、食料、農 業、エネルギー、保健衛生、運輸、 経済開発、環境を担当する各政府省 庁の間で、より協調的な政策を策定で きる。各セクターが協力することで、農 業生産・天然資源管理と製品サプライ チェーンの改善を通した貧困削減とを 結びつけるエネルギー・スマートな食料 システムへの総合的なランドスケープ・ アプローチを前進させることができる。 利害関係者間の対話を強化する 開発途上国における既存の政策枠組み やエネルギー国家政策は、貧困社会の エネルギー需要や生産量に適応してい ないケースが多い。新たな政策を策定 する際には、エネルギー価格が高すぎ ないか、順応性のある技術であるかど うか、といった点を検討すべきである。 社会的観点から言えば、どのような政 策決定においても、水供給の安全強化、 より健全な景観、生物多様性の促進と いったコベネフィットを考慮する必要も ある。 ■ 特にバイオエネルギー生成においては、 土地権利問題についても慎重に検討す べきである。近年、将来的な食料供給 を確保し、バイオ燃料を生産するための、 大規模な土地取得への関心が高まって いる。こうした開発は、土地権利の安 全性に関する懸念を高めている。最も 脆弱な人々は、土地やその天然資源に よって生活を維持し、食料を確保して いるからである。エネルギー・スマート な食料システムへの移行は、エネルギ ーの生産及び消費、ならびに、望まれ る結果を達成するのに必要とされる政 策および制度的な取り決めに関する選 択肢についての実質的な利害関係者間 の対話がなければ、達成することはで きない。 官民パートナーシップを確立する 食料セクターの化石燃料依存を減らす エネルギー・スマートな食料システムを 確立するためには、官民パートナーシッ プが必要不可欠である。投資家が、支 払能力の限られた農村にエネルギーサ ービスを提供する新たな投機的事業を 展開するには、インセンティブが必要と なる。政府は、エネルギー生産コスト に基づいた再生可能エネルギー生産者 との長期契約など、助成金や何らかの 財政支援を提供すべきだろう。公共セ クターも、エネルギー技術を必要とする 地域社会への適切な技術移転や、現 地でのエネルギー技術の研究開発を支 援する必要がある。価格やリスクに関 18 SPRING 2012

図 3 ―世界の土地劣化の現況と傾向 出典:本報告 平均熱帯家畜頭数( TLU ) ボリビアラテンアメリカタイプ1高い劣化傾向または劣化の著しい土地経済的に可能なら修復、または劣化傾向の高い箇所の軽減タイプ4改良の進んだ土地SLM(持続的土地管理)促進を可能にする条件の強化タイプ2多少の劣化が認められる土地での中位の劣化傾向劣化軽減手段の導入タイプ3多少の劣化は認められるが安定した土地劣化防止への調整生態系便益の劣化の類型化調整手段18裸地%水域2%タイプ125%タイプ336%タイプ28%タイプ410%図4
表 1 ─タンザニアの各種指標

参照

関連したドキュメント

Abstract: The existence and uniqueness of local and global solutions for the Kirchhoff–Carrier nonlinear model for the vibrations of elastic strings in noncylindrical domains

のようにすべきだと考えていますか。 やっと開通します。長野、太田地区方面  

[r]

Key polynomials were introduced by Demazure for all Weyl groups (1974)..

At the end of the section, we will be in the position to present the main result of this work: a representation of the inverse of T under certain conditions on the H¨older

[r]

[r]

1,600/m 1,100/m 3,400/m 3,450/本 2,300/個 24,000/個 4,000/箇所 1,750/箇所 14,500/m