日 本 平 滑 筋 誌 (Jpn. J. Smooth Muscle Res.) 24: 159-170, 1988..
後期 ダン ピング症候群 とグル カゴン分 泌動態の
関 連 に 関 す る 研 究
奈 良県 立 医 科大 学 第 一外 科 学 教室 (主 任:中 野博 重 教 授) 松 為 泰 介STUDIES ON THE RELATION BETWEEN LATE DUMPING SYNDROME AND GLUCAGON RESPONCES TO GLUCOSE
Taisuke MATSUI
The First Department of Surgery, Nara Medical University, Kashihara
(Director:
Prof. H. Nakano)
This study was planned in pursuit of the relation between glucagon responces to glucose
and the late dumping syndrome.
Clinicaly, 75 g oral glucose torerance test to seven late dumpers, ten gastrectomized
patients and ten normal subjects were performed.
And experimentary, 20ml 25% glucose was put into small intestinal blind loops
prepar-ed in dogs, which were made the jejunum region and then the ileum region.
1. The mean oral glucose tolerance curve in gastrecotmized
patients was
oxyhyperg-lycemic, and this tendency was seen in late dumpers.
But, for only late dumpers, the low
blood glucose concentration
which was under 50mg/d/
appeared within one and half to
three hours after oral glucose load.
2. The change of serum IRI in gastrectomized
patients displayed the initial
hyperin-sulinemia, that was similar in late dumpers.
3. Pancreatic glucagon (GI) levels were within normal limits in normal subjects and
late dumpers, but were significantly increased in gastrectomized
patients.
4. Enteroglucagon
(gutGLI) levels were not so increased in normal subjects, but were
significantly increased in gastrectomized
patients and late dumpers as well.
5. GutGLI levels were increased only by putting into the ileum loop.
But
hypersecre-tion of gutGLI did not affect the blood glucose curve and the change of serum IRI
significantly.
These results described above suggest that the pathogenesis of the hypoglycemia in the
late dumping syndrome may be responsible for no hypersecretion of GI, for some reason, to
prevent hypoglycemia against hyperinsulinemia
with oxyhyperglycemia,
and that gutGLI
may not play so important part in the regulation of the blood glucose level.
I. 緒 言
胃切 除 後 の稀 な 合 併 症 の一 つ に食 後1時
間半
か ら3時 間 に脱 力 感,発 汗,意 識 障 害 な どの症
状 で 出 現 す る後 期 ダ ン ピ ン グ 症 候 群 が あ り,
Adlersbergら(1947)に
よ っ て そ の 原 因 は低 血
糖 で あ る こ とが 明 らか に され た.し
か し,低 血
糖 の発 現機 序 につ い て は 現 在 まで イ ン ス リンの
反 応 性 過 分 泌 と した 説,消
化 管 ホル モ ン との 関
与 を 示 唆 した 説 な ど諸 説 が 報 告 され て きた が,
160 松 為-後 期 ダ ンピ ン グ症 候 群 とグ ル カ ゴ ン分 泌動 態
いず れ も確 定 的 で は な い.
今 回著 者 は,後 期 ダ ン ピ ン グ症 候 群 の発 現 に
及 ぼ す 膵 グ ル カ ゴ ン とエ ン テ ログ ル カ ゴ ンの 関
与 を追 求 す る 目的 で血 糖,イ ン ス リン分 泌 動 態,
膵 グル カ ゴ ン分 泌 動 態,お
よ び エ ン テ ログ ル カ
ゴ ン分 泌 動 態 の意 義 と相 互 の関 連 性 を 臨 床 的 な
らび に実 験 的 に検 討 し,興 味 あ る知 見 を得 た の
で 報 告 す る.
II. 研 究 方 法 A. 臨 床 的 研 究 1. 対 象 後 期 ダ ン ピ ン グ 症 例7例(以 下 後 期 ダ ン ピ ン グ 群)と,低 血 糖 症 状 を 伴 わ な い 胃 切 除 例10例 (以 下 胃 切 除 群)な ら び に 健 常 者 群10例(以 下 健 常 者 群)を 対 象 と し,胃 切 除 の 既 往 が あ り,食 後1時 間30分 か ら3時 間 に 低 血 糖 症 状 が 出 現 し,採 血 に よ り低 血 糖(50mg/dl以 下)が 確 認 さ れ た 症 例 を 後 期 ダ ン ピ ン グ 症 例 と し た. 施 行 さ れ て い た 術 式 は 表1に 示 す ご と く,後 期 ダ ン ピ ン グ 群 で はBillrothI法2例,Billroth II法3例,Roux-Y法2例 で,胃 切 除 群はBil-1roth I法3例,Billroth II法4例,Roux-Y法
3例 で あ っ た.術 後 経 過 年 数 は 後 期 ダ ン ピ ン グ 群6ヵ 月 ∼3年,胃 切 除 群6週 ∼3年 で あ っ た. ま た 性 別,年 齢 は,後 期 ダ ン ピ ン グ 群 は 男 性6 例,女 性1例 で 年 齢36∼76歳,平 均60.7歳 で あ り,胃 切 除 群 で は 男 性7例,女 性3例 で 年 齢 48∼68歳,平 均57.6歳 で あ っ た.な お 健 常 者 群 は,男 性6例,女 性4例 で 年 齢34∼62歳,平 均 49.8歳 で あ る.対 象 例 は 全 例,術 前 術 後 を 通 じ て 肝 機 能 障 害,腎 機 能 障 害 お よ び 甲 状 腺 機 能 障 害 を 認 め て い な い. 2. 方 法 全 対 象 者 に 対 し75g O-GTTを 早 朝 空 腹 時 に 行 い,ブ ドウ 糖75g(ト レ ー ラ ンG 225ml) 負 荷 前 と 負 荷 後 は15分,30分,60分,90分,120 分,150分,180分 に 血 糖(BG: blood glucose), 血 中 イ ン ス リ ン(IRI: immunoreactive insu-lin),膵 グ ル カ ゴ ン(GI: glucagon immunor-eactivity)お よ び エ ン テ ロ グ ル カ ゴ ン(gutGLI: gut giucagon-like immunoreactivity)を 測 定
し た.更 にGIとgutGLIに つ い て は,75gO-GTTに お け る 反 応 総 量 を 図 式 化 す る た め 各 時
表1. 後 期 ダ ン ピ ン グ 症 例
75g O-GTT施 行 時 に お け る 血 糖 の 変 動 お よ び イ ン ス リ ン分 泌 動 態 で あ る.全 例90分 か ら180分 の 間 に50 mg/dl以 下 の 低 血 糖(*)を み と め て い る.
松為-後 期 ダ ン ピン グ症候 群 とグ ル カ ゴン分 泌動 態 161 点 のGI, gutGLIか ら 糖 負 荷 前 値 を 差 し 引 い た 値 を 算 出 し,そ れ ら を 総 和 し た 値 を Σ△GI, Σ△gutGLIと し て 表 した. B. 実 験 的 研 究 1. 腸 瘻 犬 の 作 成 雑 種 成 犬16頭(体 重9.5∼12.0,平 均10.9 kg)を 用 い,ネ ン ブ タ ー ル 麻 酔 下 に て 開 腹 後,図 1に 示 す ご と く ト ラ イ ツ 氏 靱 帯 の 肛 門 側20cm の 位 置 か ら 肛 門 側 に,ま た 回 腸 終 末 部 の 口 側10 cmの 位 置 か ら 口 側 に,各 々 長 さ20cmの 空 腸 blindloopと 回 腸blindloopを 作 成 した. 各blindloopの 両 端 に は そ れ ぞ れ 別 個 に ブ ド ウ 糖 溶 液 を 注 入 お よ び 回 収 す る た め の バ ル ン カ テ ー テ ル を 留 置 し 体 外 へ 誘 導 した. 2. ブ ド ウ 糖 溶 液 の 腸 瘻 内 へ の 注 入 方 法 こ の 腸 瘻 犬 を 用 い て 空 腸 で の 未 吸 収 ブ ド ウ糖 がgutGLIの 稠 密 分 布 領 域 と さ れ る 回 腸 に 到 達 し な い 場 合 を 想 定 し 空 腸 の み に 注 入 す る 場 合 (空 腸 注 入 群)と,到 達 す る 場 合 を 想 定 し空 腸 注 入 後 回 腸 に 注 入 す る 場 合(空 腸 回 腸 注 入 群)の 2つ の 方 法 で 注 入 し た.ブ ド ウ糖 溶 液 の 各looP 内 へ の 注 入 時 間 を 以 下 に 述 べ る ご と く30分 と 60分 と し て,こ れ ら の 場 合 に お け る 血 糖,IRI, GI, gutGLI動 態 を 測 定 比 較 し た. a. 注 入 時 間30分 図1. 腸 瘻 犬 の 作 成 ト ラ イ ッ 氏 靱 帯 の 肛 門 側 に,ま た 回 腸 終 末 部 の 口 側10cmの 位 置 か ら 口 側 に,各 々長 さ 20cmの 空 腸blind loopと 回 腸blind loop
を 作 成 し,各blind loopの 両 端 に は そ れ ぞ れ バ ル ー ン カ テ ー テ ル を 留 置 し 体 外 へ 誘 導 し た. i) 空 腸30分 注 入 群:25%ブ ド ウ糖 溶 液20 mlを 空 腸loopの み に 注 入 し30分 間 放 置 後 回 収 し た 場 合. ii) 空 腸15分 回 腸15分 注 入 群:25%ブ ド ウ 糖 溶 液20mlを 空 腸loopに 注 入 し15分 間 放 置 後 回 収 し,回 収 液 を 直 ち に 回 腸loopに 注 入 し15分 間 放 置 後 回 収 し た 場 合. b. 注 入 時 間60分 i) 空 腸60分 注 入 群:25%ブ ド ウ糖 溶 液20 mlを 空 腸loopの み に 注 入 し60分 間 放 置 後 回 収 し た 場 合. ii) 空 腸30分 回 腸30分 注 入 群:25%ブ ド ウ 糖 溶 液20mlを 空 腸loopに 注 入 し30分 放 置 後 回 収 し,回 収 液 を 直 ち に 回 腸loopに 注 入 し 30分 間 放 置 後 回 収 し た 場 合. な お,ブ ドウ 糖 溶 液 の 注 入 時 期 は,食 事 摂 取 量 が 十 分 に 回 復 した 術 後10∼12日 の 期 間 と し, ブ ド ウ 糖 溶 液 のloop内 へ の 注 入 は12時 間 絶 食 後 に 行 っ た.採 血 は 外 頸 静 脈 よ り 行 い,空 腸 loopヘ ブ ド ウ糖 を 注 入 す る 前 と 注 入 後 は15分
間 隔 で120分 間 行 い,BG, IRI, GI, gutGLIを 測 定 し た. C. 血 糖,イ ン ス リン,膵 グ ル カ ゴ ン,エ ン テ ロ グ ル カ ゴ ン の 測 定 法 血 糖(BG)は,血 清 分 離 後,グ ル コ ー ス オ キ シ ダ ー ゼ 法 に て 測 定 し,イ ン ス リ ン(IRI)は, 血 清 分 離 後-20℃ で 凍 結 保 存 し,固 相 法 に て 測 定 した. 膵 グ ル カ ゴ ン(GI)は,採 血 液 をEDTA2Na お よ び1mlあ た り1,000単 位 の ト ラ ジ ロ ー ル 入 り の 氷 冷 ス ピ ッ ツ に 入 れ 混 和 し,4.Cで 遠 心 分 離 し,得 ら れ た 血 漿 に つ い てC端 特 異 抗 体 (OAL-123)を 用 い,2抗 体 法 に て 測 定 し た. エ ン テ ロ グ ル カ ゴ ン(gutGLI)は ,同 様 に 分 離 し た 血 漿 に つ い て 非 特 異 抗 体(OAL-196)を 用 いDCC法 で 測 定 し たtotalGLIか ら 前 記 の 方 法 で 求 め たGIを 引 く こ と に よ り求 め た. 測 定 数 値 は す べ て 平 均 値 ± 標 準 誤 差(mean± SEM)で 表 現 し,有 意 差 の 検 定 はStudent's-t testを 用 い 危 険 率5%以 下 を 有 意 差 有 り と し た.
162 松 為-後 期 ダン ピ ン グ症候 群 とグ ル カ ゴン分 泌動 態 III. 成 績 A. 臨 床 成 績 後 期 ダ ン ピ ン グ7例 のBG, IRIを 表1に 示 し,後 期 ダ ン ピ ン グ 群,胃 切 除 群 お よ び 健 常 者 群 の 血 糖 曲 線 を 図2に,IRI分 泌 動 態 を 図3に 示 し た. 1. 血 糖 値 の 変 動 血 糖 値 の 変 動 は,図2に 示 す ご と く健 常 者 群 で は 糖 負 荷 後 上 昇 し30分 で 頂 値130.0±7.8 mg/dlを 示 し た 後 漸 減 し,180分 で ほ ぼ 前 値 ま で 低 下 し た.一 方,胃 切 除 群 と後 期 ダ ン ピ ン グ 群 は,と も に 糖 負 荷 後30分 ま で 急 速 に 上 昇 し, 30分 値 は 胃 切 除 群 が174±12.2mg/dl,後 期 ダ ン ピ ン グ 群 が183.1±19.8mg/dlと な り と も に 健 常 者 群 に 比 べ 有 意(胃 切 除 群P<0.01,後 期 ダ ン ピ ン グ 群P<0.02)に 高 値 を 示 し た.30分 以 後 は 両 群 と も 急 速 に 低 下 し,60分 値 で は 胃 切 除 群 が152.5±15.1mg/dl,後 期 ダ ン ピ ン グ 群 が 図2. 75g O-GTT施 行 時 の 血 糖 曲 線 後 期 ダ ン ピ ン グ群 と 胃 切 除 群 にOxyhyperg-1ycemia型 血 糖 曲 線 が 認 め られ た. 153.3±20.2mg/dlと と も に 近 似 し た 値 と な っ た が,120分 値 で は,胃 切 除 群 の96.6±9.3mg/ dlに 対 し 後 期 ダ ン ピ ン グ 群 は65.9±13.4mg/ dlと 低 値 を 示 し た.ま た,胃 切 除 群 は150分 (P<0.01)に お い て,後 期 ダ ン ピ ン グ 群 は120 分,150分,180分 に お い て 健 常 者 群 に 比 べ て 有 意(120分P<0.05, 150分P<0.01, 180分P< 0.05)に 低 値 で あ っ た. 個 々 の 症 例 に つ い て み る と,胃 切 除 群 で は50 mg/dl以 下 の 低 血 糖 を 認 め な か っ た が,後 期 ダ ン ピ ン グ 群 で は 表1に 示 す ご と く90分 以 後 に 50mg/dl以 下 の 低 血 糖 を 全 例 に 認 め た. 2. IRI分 泌 動 態 IRI分 泌 動 態 は,図3に 示 す ご と く 健 常 者 群 で は15分 で38.0±7.4μU/mlと 上 昇 し,以 後 漸 増 し60分 で 頂 値44.6±7.3μU/mlに 達 し た 後 漸 減 し180分 で20.2±3.0μU/mlと 低 下 し 図3. 75g O-GTT施 行 時 の イ ン ス リン分 泌 動 態 後 期 ダ ン ピ ン グ群 と 胃切 除 群 に 反 応 初 期 に お いて 著 明 な分 泌亢 進 が 認 め られ た.全 経 過 を通 じて両 群 間 に有 意 差 を認 め な か った.
松 為-後 期 ダ ン ピ ング症 候 群 とグル カ ゴ ン分泌 動態 163 図4. 75g O-GTT施 行 時 の膵 グル カ ゴ ン分泌 動 態 胃切 除 群 に お い て の み 有 意 な 分 泌 亢 進 が 認 め られた.後 期 ダ ンピ ング群 と健 常 群 の間 に は 全経 過 を通 じて有 意 差 を認 め なか った. た.一 方,胃 切 除 群 と 後 期 ダ ン ピ ン グ 群 で は 糖 負 荷 後 急 激 に 上 昇 し,15分 値 は 胃 切 除 群 が 56.8±6.4μU/ml,後 期 ダ ン ピ ン グ 群72.2±11.1 μU/mlと 健 常 者 群 よ り有 意 に 高 値 と な り,60 分 で 胃 切 除 群 が119.4±13.6μU/ml,後 期 ダ ン ピ ン グ 群 が156.5±39.7μU/mlと 頂 値 に 達 し た.以 後 両 群 と も 急 速 に 低 下 し,150分 値,180 分 値 で は 胃 切 除 群 が 各 々10.8±2.4μU/ml, 5.8±0.4μU/ml,後 期 ダ ン ピ ン グ 群 が 各 々 15.6±3.6μU/ml,8.3±0.9μU/mlと,と も に 健 常 者 群 よ り有 意 に 低 値 と な っ た.ま た,全 経 過 中 に お い て 胃 切 除 群 と後 期 ダ ン ピ ン グ 群 に は 有 意 差 を 認 め な か っ た. 3. GI分 泌 動 態 3群 のGI分 泌 動 態 を 図4に,各 測 定 時 点 に お け るGI反 応 値 の 前 値 に 対 す る 増 減 分 を 総 和 し た 値(Σ △GI)を 図5に 示 し た. GI分 泌 動 態 は 図4に 示 す ご と く,健 常 者 群 で 図5. 75g O-GTT施 行 時 の膵 グ ル カ ゴソ反応 総 量 胃切 除群 は,健 常 群 お よ び後期 ダ ンピ ング群 に対 して有 意 な(p<0.01)な 増 加 が認 め られ た.健 常 者 群 と後 期 ダン ピ ング群 の間 には有 意 差 を認 め な か った. は,糖 負 荷 前 値57.0±9.0 pg/mlで,糖 負 荷 後 は 180分 ま で 前 値 と比 べ て 有 意 な 分 泌 亢 進 な ら び に 抑 制 反 応 を 認 め な か っ た. ま た,後 期 ダ ン ピ ン グ 群 で も,糖 負 荷 後 は 糖 負 荷 前 値 の53.9±6.1 pg/mlに 比 べ 有 意 な 分 泌 亢 進 あ る い は 抑 制 反 応 を 認 め ず,全 経 過 中 健 常 者 群 と比 べ 有 意 差 を 認 め な か っ た. 一 方,胃 切 除 群 で は,糖 負 荷 前 値 が67.5±4.4 pg/mlと 健 常 者 な ら び に 胃 切 除 群 の 前 値 と比 べ 有 意 差 を 示 さ な か っ た が,15分 値 で136 .4± 12.0pg/mlと 有 意 な 分 泌 亢 進 を 示 し,そ の 後 180分 ま で15分 値 と 近 似 した 値 で 推 移 し た.胃 切 除 群 の15分 か ら180分 ま で の 値 は 健 常 者 群 な ら び に 胃 切 除 群 と比 べ 有 意(P<0.01)に 高 値` で あ っ た. 次 に,Σ △GIは 図5に 示 し た ご と く,健 常 者 群 は-58.2±28.1pg/ml,胃 切 除 群 は375.3±67.2 pg/ml,後 期 ダ ン ピ ン グ 群 は31.9±40.Opg/ml と な り,胃 切 除 群 は 健 常 者 群 お よ び 後 期 ダ ン ピ ン グ 群 に 比 べ 有 意(P<0.01)に 高 値 を 示 し,健 常 者 群 と後 期 ダ ン ピ ン グ 群 の 間 に は 有 意 差 を 認 め な か っ た.
164 松 為-後 期 ダ ン ピン グ症候 群 とグ ル カ ゴ ン分 泌 動態 4. gutGLI分 泌 動 態 3群 のgutGLI分 泌 動 態 を 図6に,各 測 定 時 点 に お け るgutGLIの 増 減 分 を 総 和 し た 値 (Σ△gutGLI)を 図7に 示 し た. gutGLI分 泌 動 態 は 図6に 示 す ご と く,健 常 者 群 で は,前 値 の206.0±34.9pg/mlに 対 し,15 分 値 は290.7±21.6pg/mlと や や 上 昇 し,以 後 180分 ま で15分 値 と近 似 した 値 で 推 移 し た.一 方,胃 切 除 群 と後 期 ダ ン ピ ン グ 群 で は,前 値 が そ れ ぞ れ180.8±18.8pg/ml,231.4±14.1pg/ mlと 健 常 者 群 の 前 値 と 比 べ 有 意 差 を 認 め な か っ た が,糖 負 荷 後15分 で は 胃切 除 群 が1,242. 4±119.7pg/ml,後 期 ダ ン ピ ン グ 群 が1,173.9± 164.2pg/mlと と も に 著 明 に 上 昇 し,30分 で 胃 切 除 群 が1,692.5±206.6pg/ml,後 期 ダ ン ピ ン グ 群 が1,713.6±279.9 pg/mlの 頂 値 に 達 し た. そ の 後 は 漸 減 し,180分 で 胃 切 除 群 は731.0± 115.9pg/ml,後 期 ダ ン ピ ン グ 群 は854.1±128.4 図6. 75g O-GTT施 行 時 の エ ンテ ログル カ ゴ ン分 泌 動 態 後 期 ダ ン ピ ン グ群 と胃切 除群 に お い て 著 明 な分 泌 亢 進 が認 め られ た.全 経 過 を 通 じて両 群 間 には 有 意 差 を認 め な か った. 図7. 75g O-GTT施 行時 の エ ソテ ロ グル カ ゴ ン反 応 総量 後 期 ダ ン ピ ン グ群 と 胃切 除 群 は健 常 者 群 に 対 して有 意(p<0.01)な 増 加 が 認 め られ た が,両 群 間 に は有 意差 を 認 め なか った. pg/mlま で 低 下 し た.両 群 と も に15分 値 か ら 180分 値 ま で 健 常 者 群 に 比 べ 有 意(P<0.01)に 高 値 を 示 し た が,胃 切 除 群 と後 期 ダ ン ピ ン グ 群 との 間 に は 全 経 過 を 通 じ て 有 意 差 を 認 め な か っ た. Σ△gutGLIは 図7に 示 し た ご と く,胃 切 除 群 の7,151.1±747.2pg/mlお よ び 後 期 ダ ソ ピ ソ グ 群 の7,200.7±1,149.8pg/mlは,健 常 者 群 の 524.3±130.2 pg/mlに 比 べ 有 意(P<0.01)に 高 値 を 示 し た が,胃 切 除 群 と後 期 ダ ン ピ ン グ 群 に は 有 意 差 を 認 め な か っ た. 5. 小 括 臨 床 例 に お い て は 後 期 ダ ン ピ ン グ 群 は,糖 負 荷 後Oxyhyperglycemia型 血 糖 曲 線 と,そ れ に 伴 うIRIの 分 泌 亢 進 を 認 め,90分 以 降 に50 mg/dl以 下 の 低 血 糖 が 生 じ た.し か し,低 血 糖 を 生 じ な い 胃 切 除 群 に お い て も 同 様 にOxy-hyperglycemia型 血 糖 曲 線 とIRIの 分 泌 亢 進 を 認 め た. GIに つ い て は,健 常 者 群 で は 分 泌 亢 進 は 見 ら れ ず,ま た 後 期 ダ ン ピ ン グ群 は 健 常 者 群 に 対 し て 有 意 な 分 泌 亢 進 反 応 を 認 め な か っ た が,胃 切
松為-後 期 ダ ン ピン グ症候 群 と グル カ ゴソ分 泌動 態 165 除 群 に お い て は 糖 負 荷 後 健 常 者 群 に 対 し て 有 意 (P<0.01)な 分 泌 亢 進 反 応 を 認 め た. 一 方,gutGLIは,糖 負 荷 後 健 常 者 に お い て 軽 度 の 上 昇 を 認 め た に 過 ぎ な か っ た の に 対 し,胃 切 除 群 お よ び 後 期 ダ ン ピ ン グ 群 で は と も に 糖 負 荷 後 著 明 に 上 昇 を 示 し,両 群 に は 全 経 過 を 通 じ て 有 意 差 を 認 め な か っ た. B. 実 験 成 績 1. 空 腸30分 注 入 群 お よ び 空 腸15分 回 腸 15分 注 入 群 空 腸30分 注 入 群,空 腸15分 回 腸15分 注 入 群 の 血 糖 値 の 変 動,IRI分 泌 動 態,GI分 泌 動 態, gutGLI分 泌 動 態 を 図8に 示 し た. 血 糖 値 の 変 動 は,空 腸30分 注 入 群,空 腸15分 回 腸15分 注 入 群 と も に 類 似 し た 血 糖 曲 線 を 示 し,糖 負 荷 後30分 で 前 者 は185.0±17.7mg/dl, 後 者 は172.2±17.5mg/dlの 頂 値 に 達 し,糖 負 荷 後120分 で ほ ぼ 前 値 ま で 低 下 し た.全 経 過 を 通 じ て 両 群 間 に 有 意 差 を 認 め な か っ た. IRI分 泌 動 態 は,空 腸30分 注 入 群,空 腸15分 回 腸15分 注 入 群 は と も に 類 似 し た 分 泌 動 態 を 示 し,糖 負 荷 後30分 で 前 者 は18.4±2.3μU/ ml,後 者 は17.6±1.5μU/mlの 頂 値 に 達 し,90 分 で 各 々 ほ ぼ 前 値 ま で 低 下 し た.全 経 過 を 通 じ て 両 群 間 に 有 意 差 を 認 め な か っ た. GI分 泌 動 態 は,空 腸30分 注 入 群,空 腸15分 回 腸15分 注 入 群 は,と も に 各 々 前 値 の111.6± 23.4pg/ml, 101.2±16.1pg/mlに 対 し て15分 で は や や 低 下 し 以 後120分 ま で15分 値 と 近 似 し た 値 で 推 移 し た.全 経 過 を 通 じ て 両 群 間 に 有 意 差 を 認 め な か っ た. gutGLI分 泌 動 態 は,空 腸30分 注 入 群 で は 前 値 の220.2±29.9pg/ml対 し,糖 負 荷 後 は 有 意 な 変 動 を 認 め な か っ た.一 方,空 腸15分 回 腸15 分 注 入 群 値 で は 前 値 の202.0±33.4 pｇ/mlに 対 し15分 ま で 有 意 な 変 動 を 示 さ な か っ た が,糖 負 荷 後30分(回 収 液 を 回 腸loop注 入 後15分)よ り 上 昇 し,糖 負 荷 後45分 で 頂 値375.4±38.7 pg/mlに 達 し 空 腸30分 注 入 群 の45分 値 に 対 し て 有 意(P<0.05)に 高 値 を 示 し た.60分 以 後 減 少 し,120分 で ほ ぼ 前 値 ま で 低 下 した. 2. 空 腸60分 注 入 群 お よ び 空 腸30分 回 腸 図8. 25%ブ ド ウ 糖 溶 液 を30分 間loop内 に 注 入 した 場 合 の 血 糖(BG)の 変 動,血 中 イ ン ス リ ン(IRI)分 泌 動 態,膵 グ ル カ ゴ ン(GI)分 泌 動 態,お よ び エ ン テ ロ グ ル カ ゴ ン(gutGLI) 分 泌 動 態 BG, IRI, GIは,空 腸30分 注 入 群,空 腸15分 回 腸15分 注 入 群 の 両 群 間 に 全 経 過 を 通 じ て 有 意 差 を 認 め な か っ た.gutGLIは 空 腸15分 回 腸15分 回 腸15分 注 入 群 の 回 腸 注 入 後 上 昇 し,45分 に 空 腸30分 注 入 群 よ り有 意(p< 0.05)に 高 値 を 示 した.
30分 注 入 群
空 腸60分
注 入 群,空 腸30分
回 腸30分
注 入 群
の 血 糖 値 の 変 動,IRI分
泌 動 態,GI分
泌 動 態,
gutGLI分
泌 動 態 を 図9に 示 した.
血 糖 値 の変 動 は,空 腸60分
注 入 群,空 腸30分
回 腸30分
注 入 群 は と も に 類 似 した 血 糖 曲 線 を
166 松 為-後 期 ダ ン ピン グ症候 群 と グル カ ゴ ソ分泌 動 態 BG IRI gutGLl 図9. 25%ブ ド ウ糖 溶 液 を60分 間loop内 に 注 入 し た 場 合 の 血 糖(BG)の 変 動,血 中 イ ン ス リ ン(IRI)分 泌 動 態,膵 グ ル カ ゴ ソ(GI)分 泌 動 態,お よ び エ ン テ ロ グ ル カ ゴ ソ(gutGLI) 分 泌 動 態 BG,IRI,GIは,空 腸60分 注 入 群,空 腸30分 注 入 群 回 腸30分 注 入 群 の 両 群 間 に 全 経 過 を 通 じ て 有 意 差 を 認 め な か っ た.gutGLIは 空 腸30分 注 入 群 の 回 腸 注 入 上 昇 し,60分,75 分 で 空 腸60分 注 入 群 よ り有 意(p<0.02)に 高 値 を 示 し た. 示 し,糖 負 荷 後30分 で 各 々199.2±13.3mg/dl, 180.4±15.3mg/dlの 頂 値 に 達 し た 後 減 少 し, 120分 で は ほ ぼ 前 値 ま で 低 下 し た.全 経 過 を 通 じ て 両 群 間 に 有 意 差 を 認 め な か っ た. IRI分 泌 動 態 は,空 腸60分 注 入 群,空 腸30分 回 腸30分 注 入 群 は と も に 類 似 し た 分 泌 動 態 を 示 し 糖 負 荷 後30分 で 各 々20.6±1.2μU/ml, 19.1±1.3μU/mlの 頂 値 に 達 し た 後 減 少 し,糖 負 荷 後120分 で ほ ぼ 前 値 ま で 低 下 し た.全 経 過 を 通 じ て 両 群 間 に 有 意 差 を 認 め な か っ た. GI分 泌 動 態 は,空 腸60分 注 入 群,空 腸30分 回 腸30分 注 入 群 は,と も に 各 々 前 値 の91.4±8. 6 pg/ml,104.2±5.9 pg/mlに 対 し15分 で や や 低 下 し,以 後105分 ま で15分 値 と近 似 し た 値 で 推 移 し,120分 で と も に ほ ぼ 前 値 ま で 回 復 し た. gutGLI分 泌 動 態 は,空 腸60分 注 入 群 で は 前 値 の227.2±41.0pg/mlに 対 し て 糖 負 荷 後 有 意 な 動 変 を 認 め ず 推 移 し た.一 方,空 腸30分 回 腸 30分 注 入 群 で は 前 値 の210.0±35.1pg/mlに 対 し て 糖 負 荷 後30分 ま で 有 意 な 変 動 は 認 め な か っ た が,糖 負 荷 後45分(回 収 液 を 回 腸loopに 注 入 後15分)よ り上 昇 し,60分 で467.2±47.8 pg/mlの 頂 値 に 達 し た 後,90分 で は256.6± 18.0pg/mlと 減 少 し,120分 で ほ ぼ 前 値 ま で 低 下 した.60分 値,75分 値 は 空 腸60分 注 入 群 の 60分 値,75分 値 に 対 し て 有 意(P<0.02)に 高 値 を 示 し た. C. 小 括 血 糖 値 の 変 動,IRI分 泌 動 態,GI分 泌 動 態 は, 空 腸30分 注 入 群 と 空 腸15分 回 腸15分 注 入 群
松為-後 期 ダ ンピ ン グ症候 群 とグ ル カ ゴソ分泌 動 態 167
との 間 に お い て,ま た,空 腸60分 注 入群 と空 腸
30分 回腸30分
注 入 群 との 間 に お い て も有 意 差
の な い 類 似 した 変 動 を 示 した.
一 方
,gutGLIに
つ い て は,空 腸30分
注 入 群
と空 腸15分
回 腸15分
注 入 群 間 の比 較 お よ び空
腸60分
注 入 群 と空 腸30分
回 腸30分
注 入 群 間
の 比 較 の い ず れ にお い て も回腸 に ブ ドウ糖 溶 液
を 注 入 す る こ と に よ っ て有 意 に 分 泌 が 増 加 す る
こ とが 認 め られ た.
以 上 か ら,gutGLIの
分 泌 増 加 が 血 糖 の 変 動
お よ びIRI分
泌 動 態 の 変 化 に 及 ぼ す 影 響 は 認
め られ なか った.
IV. 考 察 胃 切 除 後 の 合 併 症 の 一 つ に ダ ン ピ ン グ 症 候 群 が あ る.Adlersbergら(1947)は,食 後 の 症 状 が 発 現 す る ま で の 時 期 に よ っ て 早 期 ダ ン ピ ン グ 症 候 群 と後 期 ダ ン ピ ン グ 症 候 群 に 分 け,後 者 の 原 因 が 食 後1時 間 半 頃 か ら3時 間 頃 に 発 生 す る 低 血 糖 に 起 因 す る血 管 運 動 症 状 で あ る こ と を 明 ら か に し た. 後 期 ダ ン ピ ン グ 症 例 に 対 し経 口糖 負 荷 試 験 を 行 う と,著 明 な 血 糖 上 昇 後 急 速 な 下 降 を 示 す Lawrence(1936)の 言 うOxyhyperglycemia 型 の 耐 糖 曲 線 を 示 す こ とか ら,後 期 ダ ン ピ ン グ 症 候 群 に お け る 低 血 糖 の 発 現 機 序 は, Oxyhyperglycemiaに 対 す る イ ン ス リ ン 分 泌 反 応 で あ る イ ン ス リ ン の 分 泌 亢 進 の 結 果 で あ ろ う と 考 え ら れ て き た(Connら,1955).さ ら に, Rothら(1965)は,Oxyhyperglycemiaと そ れ に よ っ て 惹 起 さ れ る イ ン ス リ ン 分 泌 亢 進 の 機 序 に つ い て,胃 切 除 後 は 健 常 者 に 比 べ 経 口 的 に 摂 取 さ れ た 糖 が 急 速 に 小 腸 に 移 行 し て 吸 収 さ れ る た め 過 血 糖 が 生 じ,そ れ に 伴 っ て イ ン ス リ ン の 分 泌 亢 進 が 生 じ,そ の 結 果 低 血 糖 が 生 じ る の で は な い か と報 告 し た. た し か に,自 験 例 で も 後 期 ダ ン ピ ン グ 症 候 群 に お い て 経 口 糖 負 荷 後 にOxyhyperglycemia と イ ン ス リ ン 分 泌 亢 進 を 示 し て い る.し か し,そ れ ら は 後 期 ダ ン ピ ン グ 症 候 群 の み に 特 徴 的 な 反 応 で は な く,自 験 例 な ら び に 諸 家 の 報 告(河 合 ら,1973;三 村 ら,1967;上 松 ら,1974;近 藤, 1986)に 見 ら れ る ご と く 胃 切 除 者 に も 出 現 し て い る.そ し て,自 験 例 で は 後 期 ダ ン ピ ン グ 症 候 群 の イ ン ス リ ン 分 泌 は 低 血 糖 を 伴 わ な い 胃 切 除 者 よ り必 ず し も 高 値 で は な い.ま た,大 西(1968) は 健 常 者 の 上 部 空 腸 に 留 置 した ゾ ン デ か ら ブ ド ウ 糖 を 注 入 す る こ と に よ り 胃 切 除 者 の 経 口 糖 負荷 後 と同 様 な血 糖,血
中 イ ン ス リンの 反 応 曲線
を 得 た と報 告 し て い る.し た が って,糖
の小 腸
へ の 急 速 流 入 と吸収 に対 す る イ ン ス リン分 泌 亢
進 は,後 期 ダ ン ピン グ症 候 群 の み な らず 胃切 除
例 全 般 に認 め られ る現 象 で あ る こ とが 示 唆 さ
れ,後 期 ダ ン ピ ン グ症 候 群 の低 血 糖 の 発 生 機 序
に つ い て はOxyhyperglycemiaと
そ れ に 伴 う
イ ン ス リン の分 泌 亢 進 か らだ けで は説 明 し得 な
い と考 え られ る.McIntyreら(1964)は,空
腸
内 注 入 と同等 量 の ブ ドウ糖 を 経 静 脈 的 に注 入 し
空 腸 内 注 入 と同様 の 高血 糖 を 発 生 させ た場 合 に
空 腸 内 注 入 に見 られ る よ うな イ ン ス リン分 泌 亢
進 は 生 じ な い と 報 告 し た が,Holdsworthら
(1969)は そ の場 合 に 両 者 の 血 糖 の 降下 速 度 には
大 差 が な い こ とを示 し,低 血 糖 の発 生 は イ ン ス
リ ン分 泌 亢 進 か らだ け で は 説 明 出 来 な い と述
べ,後 期 ダ ン ピ ン グ症 候 群 は イ ン ス リン分 泌 亢
進 に よる急 激 な血 中 か ら の糖 の消 費 に 対 して 肝
臓 か らの糖 の供 給 が 遅 れ るた め に 生 じ るの で は
な い か と推 察 した.
血 糖 調 節 に イ ン ス リン拮 抗 ホ ル モ ンの 一 つ と
し て 重 要 な役 割 を 果 た して い る 膵 グ ル カ ゴ ン
は,肝 細 胞 膜 の グ ル カ ゴ ンreceptorと
結 合 し て
phosphorylaseを
活 性 化 し,肝glycogenの
分 解
を 促 し,ブ
ドウ糖 の 血 中 放 出 を促 す こ とに よ っ
て 血 糖 値 を上 昇 させ る作 用 を持 つ.し た が って,
高 血 糖 時 に 分 泌 が 抑 制 され,低 血 糖 時 に分 泌 さ
れ て血 糖 上 昇 作 用 を 発 揮 す る.
自験 例 の膵 グル カ ゴ ン分 泌 動 態 を み る と,経
口糖 負 荷 後 に は 健 常 者 で 見 られ る ご と く抑 制 さ
れ る はず の膵 グル カ ゴ ン の 分 泌 が 胃切 除 者 に お
い て は増 加 が 認 め られ た の に 対 して,後 期 ダ ン
ピン グ症 例 に お い て は 胃切 除 者 で 見 られ る よ う
な増 加 が 見 られ な か った.こ
の 成 績 は,後 期 ダ
168 松 為-後 期 ダ ンピ ン グ症 候 群 とグ ル カ ゴ ン分 泌動 態
ン ピ ン グ症 候 群 に お い て は 胃切 除 者 よ り膵 グル
カ ゴ ンを 介 して の 肝 臓 か らの 糖 の供 給 が少 な い
こ とを示 し て お り,Holdsworthら
の 言 う ご と
く後 期 ダ ン ピ ン グ症 候 群 が イ ン ス リン分 泌 亢 進
に対 す る肝 臓 よ りの糖 の 供 給 の 遅 れ に よ る も の
で あ る こ とを 強 く示 唆 して い る.し た が って,胃
切 除 者 に お い て 経 口糖 負 荷 後 に膵 グ ル カ ゴ ン の
分 泌 が 亢 進 す る こ とは,そ の 機 序 につ い て は 不
明 で あ る と され て きた(須 藤 ら,1981;田
港 ら,
1981;中
谷 ら,1985)が,Oxyhyperglycemiaに
伴 うイ ン ス リン分 泌 亢 進 に よ っ て,糖 が 急 激 に
血 中 よ り消 費 され 低 血 糖 に陥 る こ とを 防 止 す る
た め に肝 臓 か ら糖 を供 給 し よ う と して 生 じ る と
考 え られ,後
期 ダ ン ピ ン グ症 候 群 で は膵 グル カ
ゴ ン の分 泌 亢 進 が 生 じ な いた め低 血 糖 が 発 現 す
る と考 え られ る.
一 方
,Rehfeldら(1973)は,エ
ンテ ロ グル カ
ゴ ンが 肝 細 胞 膜 の グル カ ゴ ンreceptorと
弱 い
なが ら も結 合 能 を 有 し膵 グ ル カ ゴ ン と競 合 す る
た め 膵 グ ル カ ゴ ンの 肝 臓 に お け る血 糖 上 昇 作 用
を 阻 害 す る可 能 性 が あ る こ と(Batilleら1973;
Holst, 1975)と,後
期 ダ ン ピ ング症 候 群 で は経
口糖 負 荷 後 エ ソ テ ロ グル カ ゴ ンは 著 明 に上 昇 す
るが 膵 グ ル カ ゴ ンは 上 昇 を示 さな い こ と に着 目
し,後 期 ダ ン ピ ン グ症 候 群 は糖 新 生 に 関 し て膵
グル カ ゴ ンが 相 対 的 不 足 に陥 り,エ ン テ ログ ル
カ ゴ ン が膵 グル カ ゴ ン の肝 臓 に お け る血 糖 上 昇
作 用 を 阻 害 し,低 血 糖 を防 止 出来 な くな る の で
は な い か と報 告 した.そ
して,エ
ン テ ログ ル カ
ゴ ン が 分 泌 増 加 し低 血 糖 の生 じな い 場 合 に は膵
グ ル カ ゴ ンが 上 昇 し て い るで あ ろ う とも述 べ て
い る.こ のRehfeldら
の 報 告 か ら,胃 切 除者 に
お い て 経 口糖 負 荷 後 に膵 グ ル カ ゴ ン の分 泌 が 増
加 す る こ と は,エ
ン テ ロ グル カ ゴ ン の分 泌 増 加
にた い し膵 グ ル カ ゴ ンが相 対 的 不 足 に陥 り低 血
糖 とな ら な い よ うに分 泌 が 増 加 す る の で は な い
か と推 察 出来 そ うで あ る.し か し,自 験 例 に お
い て 後 期 ダ ン ピ ン グ 群 で 低 血 糖 が 生 じ る90分
以 降 に は エ ン テ ログ ル カ ゴ ン は 下 降 傾 向 に あ
り,ま た,著 者 の 実 験 成 績 で は,エ
ン テ ログ ル
カ ゴ ンの 分 泌 が 増 加 しな い 場 合 の血 糖 曲線 と分
泌 が 増 加 した 場 合 の血 糖 曲 線 に有 意 な変 化 を 認
め な か った こ とか ら,エ ソ テ ログ ル カ ゴ ン の血
糖 へ の影 響 は あ って も軽 微 な も の と考 え られ,
エ ン テ ログル カ ゴ ンが 増 加 す る こ とに よ っ て膵
グ ル カ ゴ ン の血 糖 維 持 作 用 が 阻 害 され て 低 血 糖
が 生 じ る とは考 え られ な い.
と こ ろで,経
口糖 負 荷 後 の エ ソテ ログ ル カ ゴ
ンの 分 泌 動 態 に つ い てBloomら(1967)は
後 期
ダ ン ピ ン グ症 例 に お い て 最 も高 値 と な り,次 い
で 胃切 除,健 常 者 の 順 に低 値 を示 す と報 告 した
が,岸 本(1983)お
よ び佐 々木 ら(1986)は
健
常 者 で は変 動 は見 られ な か っ た が後 期 ダ ン ピ ン
グ症 例 と胃切 除者 は 同 様 な分 泌 動 態 で 共 に 高値
を 示 す と報 告 し,自 験 例 に お い て も岸 本,佐
々
木 ら の報 告 と一 致 した.エ
ン テ ロ グ ル カ ゴ ンを
分 泌 す るEG細
胞 は組 織 学 的 に は腸 管 内 腔 に 面
して 存 在 す る 開放 型 で あ り(堤 ら,1982),EG細
胞 の 最 も 稠 密 な 分 布 領 域 は 人 間 に お い て
(Mathuyamaら,1977)も
犬 に お い て も(蓑 田,
1984)回
腸 で あ る と され て い る こ と,著 者 の 犬
の 実 験 で 回腸loopに
ブ ドウ糖 を 注 入 した 場 合
に のみ エ ンテ ロ グル カ ゴ ン分 泌 増 加 が認 め られ
た こ とか ら,後 期 ダ ン ピン グ症 例 を 含 む 胃切 除
者 で は,健 常 者 よ り多 くの未 吸 収 ブ ドウ糖 が 速
や か に 回腸 に達 し,回 腸 へ の ブ ドウ糖 に よ る刺
激 が 増 強 す る こ と に よ っ て エ ン テ ログ ル カ ゴ ン
の 分 泌 亢 進 が 生 ず る も の と考 え られ る.
また,エ
ンテ ロ グル カ ゴ ンに イ ン ス リン分 泌
促 進 作 用 が あ るか 否 か につ い て,著 者 の 実 験 成
績 で は エ ンテ ロ グル カ ゴ ンの 分 泌 上 昇 を 認 め な
か った 空 腸loopの
み に 糖 を 注 入 した 場 合 の イ
ン ス リン分 泌 動 態 と,エ ンテ ロ グル カ ゴ ン の分
泌 上 昇 を 認 め た 空 腸loop注
入 後 回 腸loopに
糖
を注 入 した 場 合 の イ ン ス リン分 泌 動 態 との 比 較
で 両 者 の 間 に 違 い が 見 られ な か っ た こ と か ら,
エ ンテ ロ グル カ ゴ ン に は イ ン ス リン 分 泌 の 促 進
作 用 は な い と考 え られ る.田 中 ら(1976)も ラ ッ
ト膵 を ブ ドウ糖 溶 液 で灌 流 した 場 合 に 豚 小 腸 下
部 粘 膜 よ り抽 出 しaffinity chromatographyに
よ り精 製 した 消 化 管 グ ル カ ゴ ン は有 意 な イ ンス
リン 分 泌 促 進 能 を 示 さ な か った と報 告 し て い
る.し た が っ て,エ
ンテ ロ グル カ ゴ ン は後 期 ダ
ン ピ ン グ症 候 群 お よび 胃切 除 者 に お け る イ ン ス
松為-後 期 ダ ン ピン グ症候 群 とグ ル カ ゴソ分 泌動 態 169
リン 分 泌 亢 進 に は 関 与 し て い な い と考 え られ
る.
以 上 か ら著 者 は,後 期 ダ ン ピ ン グ症 候 群 で は
胃 切 除 者 同 様Oxyhyperglycemiaと
そ れ に 伴
うイ ン ス リン分 泌 亢 進 を示 して い るに もか かわ
らず,低 血 糖 が 生 じる理 由 と して,後 期 ダ ン ピ
ン グ症 候 群 で は イ ン ス リン分 泌 亢 進 に よ る急 激
な 糖 の 消 費 に対 して,血 糖 を維 持 す るた め に必
要 な膵 グ ル カ ゴ ン 分 泌 増 加 が 何 らか の 原 因 に
よ って 作 動 し な い た め に 低 血 糖 に な る と考 え
る.ま た,エ
ン テ ログ ル カ ゴ ン は血 糖 調 節 に は
明 らか な 役 割 を 果 た して い な い よ うに 思 わ れ
た.
V. 結 語後 期 ダ ン ピ ン グ症 候 群 の 発 現 に及 ぼ す 膵 グ ル
カ ゴ ン と エ ン テ ログ ル カ ゴ ンの 関 与 を 追 求 す る
た め 臨 床 的 に は 後 期 ダ ン ピ ン グ症 例7例
と 胃切
除 例10例
お よ び 健 常 者10例
に 対
し75g0-GTT施
行 時 の,ま
た実 験 的 に は 空 腸loopと
回
腸loopを
作 成 した 腸 瘻 犬 を用 い て25%ブ
ドウ
糖 溶 液20mlをloop内
に 負 荷 し た 場 合 の 血
糖,血
中 イ ン ス リン,膵 グ ル カ ゴ ソお よび エ ン
テ ログ ル カ ゴ ソ 分 泌 動 態 につ い て検 討 し,以 下
の 成 績 を得 た.
1. 胃 切 除 例 に お け る 血 糖 曲 線
はOxy-hyperglycemia型
曲線 を 示 し,後 期 ダ ン ピ ング
症 例 に お い て も 同 様 な 曲線 を示 した.し か し,胃
切 除 者 に お い て は50mg/dl以
下 の 低 血 糖 を 認
め る こ とは な か った が,後 期 ダ ン ピ ン グ症 例 に
お い て は90分
か ら180分
の 間 に50mg/dl以
下 の低 血 糖 を認 め た.
2. 胃切 除 例 は,糖 負 荷 後 の 反 応 初 期 に健 常
者 よ り高 イ ン ス リン反 応 を 示 した.後 期 ダ ン ピ
ン グ症 例 も 同様 に高 イ ン ス リン反 応 を示 し,イ
ンス リン分 泌 動 態 に お い て は,後 期 ダ ン ピ ン グ
症 例 と 胃切 除 例 とに有 意 差 を 認 め な か った.
3. 膵 グ ル カ ゴ ン は,健 常 者 例 で は 分 泌 亢 進
反 応 は見 られ な か っ た が,胃 切 除 例 に お い て 分
泌 亢 進 反 応 が 認 め られ た.し
か し,後 期 ダ ン ピ
ン グ症 例 に お い て は健 常 者 同様 分泌 亢 進 は 見 ら
れ な か っ た.
4. エ ン テ ロ グ ル カ ゴ ン は,健 常 者 例 で は 軽 度 上 昇 を 認 め る の み で あ っ た が,胃 切 除 例 で は 著 し い 分 泌 亢 進 反 応 が 認 め ら れ,後 期 ダ ン ピ ン グ 症 例 に お い て も 胃 切 除 者 同 様 分 泌 亢 進 反 応 が 認 め ら れ た. 5. 犬 実 験 に お い て エ ン テ ロ グ ル カ ゴ ン は, 回 腸 に 糖 が 流 入 す る こ と に よ り分 泌 が 亢 進 し た が,エ ン テ ロ グ ル カ ゴ ン の 分 泌 亢 進 の 有 無 に よ る イ ン ス リ ン 分 泌 動 態 お よ び 血 糖 曲 線 の 有 意 な 変 動 は 認 め な か っ た. 以 上 よ り,後 期 ダ ン ピ ン グ 症 候 群 に お け る 低 血 糖 発 生 の 機 序 は,Oxyhyperglycemiaに 伴 う イ ン ス リ ン 分 泌 亢 進 に よ る 低 血 糖 を 防 止 す る た め の 膵 グ ル カ ゴ ン の 分 泌 亢 進 が 何 ら か の 原 因 に よ り生 じ な い こ と に よ る も の で あ る こ とが 示 唆 さ れ た.ま た,エ ン テ ロ グ ル カ ゴ ン は 血 糖 調 節 に 明 ら か な 役 割 を 果 た し て い な い よ う に 思 わ れ た. 稿 を終 え るに臨 み,終 始御 指 導 と御 校 閲 を賜 った 白鳥 常 男名 誉 教 授 に 深 甚 な る謝 意 を捧 げ る と と もに,御 助 言,御 校 閲 を賜 った 当 大学 第 三 内科 辻 井 正教 授,薬 理 学 黒河 内寛 教 授 に深 く感 謝致 し ます.ま た,本 研 究 を御 援 助 くだ さった 中 野博 重教 授,金 泉 年郁 博 士 を は じめ教 室 の諸 兄 に感 謝 の 意 を表 します. 本 論 文 の要 旨の一 部 は第30回 日本 消 化 器 外 科 学 会総 会 に おい て発 表 した.文
献
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