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Treatment Based Classification に基づいた頸部痛に対する多面的な介入

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 116 46 巻第 2 号 116 ∼ 124 頁(2019 年) 理学療法学 第 46 巻第 2 号. 症例報告. Treatment Based Classification に基づいた 頸部痛に対する多面的な介入* 三 木 貴 弘 1)2)# 藤 田 直 輝 1) 竹 林 庸 雄 3). 要旨 【目的】近年,症状ごとに患者を分類し,対応する特異的介入を行う方法が提言されており,頸部痛に おいて,Treatment Based Classification(以下,TBC)と呼ばれる分類法が提唱されている。今回,頸 部痛に対し TBC を基に臨床推理を行い,生物心理社会的モデルに基づいた介入を行ったので報告する。 【症例と経過】安静時・夜間の頸部痛が主訴であり,些細なことでも頸部痛が増強するのではないかと不 安になることが多い 70 歳代男性であった。患者情報および客観的評価より Exercise and conditioning に 分類し,「患者教育」「頸部筋および肩甲骨周囲筋の筋持久力および協調性改善」「有酸素運動」を中心と した介入を約 5 週間行った。【結果】愁訴は軽減し,さらに痛みに対して前向きに捉える発言が多くなった。 【結語】頸部痛を TBC を基に分類し,多面的な介入を行うことで効果を上げることが可能であった。 キーワード 頸部痛,Treatmend based Classification,多面的介入. 原因が解明できたとしても,理学療法に直接結びつかな. はじめに. いことも多い 7)。また,頸部痛に対して観血的治療を.  頸部痛は腰痛と並んで,筋骨格系疾患の中でもよくみ. 行ったあとに頸部または肩周囲の疼痛を生じる軸痛疼痛. られ,一年罹患率は 15%,生涯のうちで頸部痛を経験す. も存在する。. 1). る割合は 50% を超えるといわれている 。また,頸部痛 2).  近年,症状ごとに患者をサブグループに分類し,それ. は腰痛よりも疼痛や機能障害が残存する傾向がある 。. に対応する特異的介入を行う方法が提言されている。腰.  現在まで頸部痛に対する介入に対して多くの報告があ. 痛ではすでにいくつかのサブグループに分類する方法が. 。頸部痛の 50 ∼ 80% が疼痛の原. 8) 開発,報告されており ,ガイドラインに基づく介入や. 因組織を特定できないとされているにもかかわらず,長. 分類を行わない介入よりも効果を報告しているものもあ. らく病理解剖学に基づいた臨床推理が行われていること. る. るが,成果は乏しい. や. 3). 4)5). ,外傷性頸部症候群や慢性頸部痛などの多くの疾. 9). 。頸部痛においても,Child と Fritz らによって分. 類法が提唱されている. 10). 。Treatment Based Classifi-. 患があること,神経症状を伴う場合や頭痛を併発するな. cation:以下,TBC(治療結果に基づく分類)と呼ばれ. ど症状が多岐にわたる頸部痛をひとつの対象として介入. るこの分類法は,患者の症状や理学療法士の評価によ. を行っていることが理由である *. 6). 。仮に病理解剖学的な. Multimodal Physical Therapy Based on Treatment Based Classification with Biobehavioral Approach 1)札幌円山整形外科病院リハビリテーション科 (〒 060‒0007 北海道札幌市中央区北 7 条西 27 丁目) Takahiro Miki, PT, BS, Naoki Fujita, PT, AD: Department of Rehabilitation, Sapporo Maruyama Orthopedic Hospital 2)北海道大学保健科学院健康科学専攻 Takahiro Miki, PT, BS: Hokkaido University, Graduate School of Health Sciences 3)札幌円山整形外科病院 Tsuneo Takebayashi, MD, PhD: Sapporo Maruyama Orthopedic Hospital # E-mail: [email protected] (受付日 2018 年 7 月 11 日/受理日 2018 年 12 月 7 日) [J-STAGE での早期公開日 2019 年 2 月 9 日]. り,1,Mobility 2,Exercise and conditioning 3, Centralization 4,Headache 5,Pain control の 5 つの サブグループに分類し,その特徴に適した介入を行うこ とで患者のアウトカムを改善させることを目的としてい る. 11). 。.  また,頸部痛は機能障害だけではなく,イエローフ ラッグスと呼ばれる心理社会的要因により,病態を複雑 化させている. 5)12)13). 。その中でも,運動恐怖感や疼痛. の破局的思考や,患者の信念や考え方といった認知的要 因が頸部痛に影響を与えるものとして報告されてい る. 14). 。そのことからも,生物心理社会モデルに基づい.

(2) TBC 分類に基づいた頸部痛に対する多面的な介入. 117. 図 1 再入院時の術部の MRI 画像(X 月 Y 日) 撮影日は再入院 1 日目(X 年 Y 月).背臥位で撮影.矢状面,前額面上において後方除圧され ていることに注目してほしい.それぞれを画像の囲いにて示している.また,「後方除圧はなさ れており,レッドフラッグの兆候および神経所見は認められない」と医師の見解を得ている.. 図 2 術前と術後のアライメントの比較(左:術前 右:術後) 術 後 の 画 像 は 再 入 院 1 日 目(X 年 Y 月 ) の も の で あ る. 術 前 の ① center of gravity of the head-C7 sagittal vertical axis(C-SVA)と② C7 slope はそれぞれ 29.04 mm,22.2°であり,術後 は 25.50 mm,22.2° であった.. たより多角的な評価,臨床推理が不可欠である 15)16)。. り,些細なことでも頸部痛が増強するのではないかと不.  本研究の目的は,観血的治療を行ったが頸部痛が残存. 安になることが多い。X 年 Y-5 月に,誘因なく頸部痛と. している症例に対し TBC を基に臨床推理を行い,生物. 上下肢の痺れが出現し,頸椎症性脊髄症と診断を受け,. 心理社会的モデルに基づいた多面的な介入を行った結果. 当院にて観血的治療(C5-7 選択的頸椎椎弓切除術)を. を報告することである。なお,対象者には本症例研究に. 施行。術後の理学療法は頸部から肩甲帯周囲筋のリラク. 対して説明し,同意を得ている。. セーション,頸部伸筋群の等尺性収縮運動,座位姿勢指. 症例紹介. 導などを中心に実施した。その後,上下肢の痺れは改善 し,約 1 ヵ月で退院したが,安静時・夜間の頸部痛が軽. 1.一般的情報. 減せず,退院から約 4 ヵ月後の X 年 Y 月に前回と同様.  70 代男性。妻と 2 人暮らしで,無職。趣味は読書や. の診断名にて保存的加療目的で再び入院となった。医師. 彫刻であり,1 日の中で座位姿勢を多く取っていること. の診断にて,後方除圧はされており,レッドフラッグの. が多い。受け答えははっきりしており,コミュニケー. 兆候および神経所見は認められない(図 1) 。また,術. ションは良好である。痛みがあることを常に気にしてお. 前と術後の頸部のアライメントの変化はなく(図 2),.

(3) 118. 理学療法学 第 46 巻第 2 号. 図 4 座位姿勢(左:矢状面 右:前額面) 矢状面にて骨盤後傾位,胸椎後弯増強,頭部前方偏位を認め, 前額面上では,右肩甲帯挙上・外転位を認めていた. 図 3 ボディチャート 頸部から両肩関節周囲後方全体に疼痛が広がっている.. 4)感覚検査,深部腱反射  左右差なく正常であった。 5)上肢筋力 C2 と C7 の棘突起を温存していること,新しい疼痛の.  筋力低下は認められず,握力に関しても著明な左右差. 訴えではないことより軸性疼痛の可能性は低い,との医. は認めなかった。. 師の見解を得ている。.   上 肢 筋 力 は す べ て MMT に て 5 レ ベ ル, 握 力 は 左.  特定の動作による増悪は認めないが,起床後から徐々. 45 kg,右 47 kg であった。. に疼痛増悪し,夕方ごろに最大となる傾向にあり,就寝. 6)頸部深層筋機能検査. 時,歩行時には疼痛が軽減される。疼痛の箇所のボディ.  頸部屈曲・側屈動作時,頸部深層筋の単独収縮を行う. チャートを図 3 に示す。疼痛の質および箇所は,術前か. ことができなかった。これは上記の動きの際に同時に胸. ら訴えていたものと同様である。. 鎖乳突筋や僧帽筋上部線維の過剰収縮が観察され,「そ れらの筋肉を使用しないように動かしてみてください」. 2.客観的評価(初期評価時:X 年 Y 月). と再度指示したが,行えなかったことにより判断した。. 1)姿勢評価. 7)心理社会的因子および中枢性感作の検査.  特別な指示は出さず,普段行っている姿勢にて観察し.  心理社会的要因には「疼痛の破局的思考」「運動恐怖. た。矢状面にて,座位,立位ともに骨盤後傾位,胸椎後. 感 」 な ど が 代 表 的 で あ り, 前 者 は 日 本 語 版 Pain ca-. 弯増強,頭部前方偏位を認め,前額面上では,右肩甲帯. 17) tastrophizing Scale(以下,PCS) ,後者は日本語版. 挙上・外転位を認めた(図 4)。. Tampa scale for kinesiophobia(以下,TSK). 2)頸椎可動域. て評価可能である。PCS は疼痛の破局的思考を測定す.  すべて端座位自動運動にて計測した。屈曲 30° ,伸展. る自己記入式質問用紙であり,13 個の質問より構成さ. 30° ,右側屈 15° ,左側屈 15° ,右回旋 45° ,左回旋 45°. れる。回答者は 0 ∼ 4 の中で適した回答を選び,その点. であり,著明な制限は認めず,運動時の疼痛も認められ. 数により疼痛の破局的思考が強いかどうかが判断され. なかった。. る. 3)動作観察. する自己記入式質問用紙であり,37 点がカットオフ値.  頸部側屈動作時に側屈側の僧帽筋上部線維の過剰収縮. であると報告されている. を認め,同時に肩甲帯挙上の代償運動を認め,肩甲帯内.  中枢性感作(以下,CS)は,中枢神経における痛覚. 転運動時に僧帽筋上部線維の過剰収縮による肩甲帯挙上. 過敏を誘発する信号の拡大であり,本来なら痛みを感じ. の代償運動がみられた。僧帽筋の過剰収縮においては,. ない刺激でも痛みとして感じてしまう,などの特徴があ. 側屈した際に同側に肩関節の挙上の代償動作が観察さ. る。この CS の過敏性を評価する質問紙として,Tanaka. れ,さらに僧帽筋の収縮が触診と視診にて確認できたた. らにより日本語版 Central Sensitization Inventory(以. め,僧帽筋の過剰収縮があったと評価した。. 下,CSI)が開発されている。25 項目から構成され,各. 18). によっ. 17). 。TSK は 17 個の質問からなる運動恐怖感を測定 18). 。.

(4) TBC 分類に基づいた頸部痛に対する多面的な介入. 119. 図 5 TBC のアルゴリズム(文献 10,11 を参考にして作図) TBC のアルゴリズムに沿って分類を行った.本症例は発症原因がむち打ちではなく,神経根の圧迫所見 がなく,頭痛の訴えはない.また発症は 1 ヵ月以上続いており,患者の年齢は 60 歳以上であることから, “Exercise and Conditioning”に分類した.. 項目 0 ∼ 4 点にて合計点を算出し,点数が高いほど CS. および肩甲骨周囲筋の筋持久力および協調性改善」を行. 19). い,さらに心理社会的要因に対応するために「患者 / 疼. の重症度が高い。40 点がカットオフ値とされている. 。.  TSK:39/47,PCS:31/52,CSI:45/100 であった。. 痛教育」を追加して行った. 10)11). 。. 8)機能的日常生活動作(Activities of Daily Living:以 1.患者 / 疼痛教育. 下,ADL)と疼痛量  疼痛量として Numerical Rating Scale(以下,NRS) ,.  「疼痛は手術によって構造的破綻を改善しただけでは. 頸部の特異的 ADL として Neck Disability Index(以下,. 改善しない場合があるため,それに加えて機能的改善や. NDI)を測定した。NDI は,世界中で使用されている頸. 心理社会的要因の改善を行う必要がある」といった疼痛. 部痛の患者立脚型評価であり,日本語での妥当性と信頼. が出現する原因を患者本人が理解することと,その解決. 性が担保されている. 20). 。初期評価時の NRS は 8/10,. NDI は 33/50 であった。. 策として姿勢の矯正や運動療法,さらには患者自身の疼 痛に対する考え方の変化が必要であることを説明し,患 者の座位姿勢について写真を使用して説明し,普段の姿. 介   入. 勢を認知させた。また,頸椎運動時の肩甲帯代償運動に.   主 観 的 評 価 と 客 観 的 評 価 か ら TBC に 基 づ い て,. ついて動画を使用して説明し,介入の効果について疼痛. Exercise and conditioning に分類した。. だけではなく機能面にも着目するように説明した。さら.  TBC を分類する際のアルゴリズムが Fritz らによっ. に心理社会的要因と頸部痛との関連について,「うつ傾. 10)11). て報告されている(図 5). 。また,各分類の特徴を. 向の人や運動恐怖感が強い人は頸部の痛みを強く感じる 14). のエビデンスを用いな. 表 1 にまとめた。Exercise and conditioning の特徴とし. 傾向がある」などの研究報告. て,発症からの期間が 1 ヵ月以上,神経症状がない,頸. がら説明した。疼痛教育については,侵害受容器の刺激. 部の可動域制限がない,等の特徴がある。. がなくとも感じること,気分や思考により疼痛の増強が.  2 人の理学療法士が別々に初期評価を行い,アルゴリ. 起こりうることを説明した. 21). 。. ズムと各分類の特徴に基づいて分類を行い,両者とも Exercise and conditioning の分類にて一致した。. 2.有酸素運動.  介入は,Exercise and conditioning に対応する介入と.  自転車エルゴメーターを患者のその日の体調に合わせ. して推奨されている「姿勢指導」「有酸素運動」「頸部筋. 1 回につき 15 ∼ 20 分行った。.

(5) 120. 理学療法学 第 46 巻第 2 号. 表 1 TBC の各分類の特徴 Classification. 10)11). 評価結果の特徴. 対応する介入の例. Mobility. ・最近症状が発症した ・神経根症状 / 上肢への症状がない ・左右回旋・側屈の可動域制限が認められる ・神経根圧迫兆候がない. ・頸椎および胸椎の mobilization/manipulation ・関節可動域エクササイズ. Centralization. ・神経根症状 / 上肢への症状がある ・頸椎運動に伴う Peripheralization や Centralization がある ・神経根圧迫の兆候がある ・頸椎根症の病理診断が可能. ・機械的 / 徒手的頸椎牽引 ・症状を集中させるために繰り 返される動作. Exercise and conditioning. ・痛みや障害のスコアが高い ・発症からの期間が 1 ヵ月以上 ・神経根圧迫兆候がない ・頸椎運動に伴う可動域制限がない. ・頸部筋および肩甲骨周囲筋の 筋持久力および協調性改善 ・有酸素運動 ・姿勢指導. Pain control. ・痛みや障害のスコアが低い ・非常に最近の発症 ・外傷により引き起こされている ・上肢に放散する症状がある ・検査または介入に対する耐性が低い. ・痛みの範囲内での自動運動 ・関節可動域エクササイズ ・物理療法 ・痛みをコントロールするため の活動修正. Headache. ・頸部の痛みが先行して発症した片頭痛 ・頸部の動きや位置により誘発される頭痛 ・後頸部への圧迫により誘発される頭痛. ・上位頸椎 manipulation/ mobilization ・頸部および上肢筋の強化 ・姿勢指導. TBC の各分類の特徴をまとめた.Exercise and conditioning の特徴として,発症からの期間が 1 ヵ月以上,神経 症状がない,頸部の可動域制限がない,等の特徴がある.. 図 6 頭部位置修正エクササイズ 頭部の位置が前方位にあることを認識してもらい,そこから 顎を引くように後方に移動するエクササイズを行った.. 3.姿勢指導  骨盤前傾・肩甲骨内転・頭部後退・上位頸椎屈曲を意. 図 7 頸部深層筋群の収縮練習 胸鎖乳突筋等の表層筋が収縮しないように理学療法士が フィードバックを与えつつ,頸部深層筋群を収縮するように 促した.目的は,頸部深層筋群の収縮を表層筋の代償が出現 せずにできるようになることである.. 識するよう口頭指示をした。頭部位置修正 ex も併せて 実施した(図 6) 。  . 4.頸部深層筋エクササイズ.  以下の 4 と 5 は,「頸部筋および肩甲骨周囲筋の筋持.  頸部表層筋群(胸鎖乳突筋・前斜角筋)や僧帽筋上部. 久力および協調性改善」を目的として行った。. 線維が過活動していないか触診しながら,頸部深層筋群 の収縮練習として,上位頸椎屈曲エクササイズ(図 7),.

(6) TBC 分類に基づいた頸部痛に対する多面的な介入. 121. 5.肩甲骨位置修正エクササイズ  端座位にて,肩甲骨内転を口頭指示および徒手的に誘 導した。目的は,肩甲骨の位置の修正,筋持久力および 協調性改善である。 介入経過・結果  上述の治療・介入を一回につき 40 分を週に 5 日,計 29 日(4 週と 1 日)行った。介入プログラムを図 11 に 図 8 頭部挙上・頸椎中間位エクササイズ 左:開始肢位 右:終了肢位 目的は,頸部深層筋の収縮および持久力改善である.. て示す。また,退院時の結果を下記に示す。  疼痛は次第に軽減し,退院時での NRS は 2/10,NDI は 8/50 点であった。疼痛の程度や NDI の点数の経過に ついて,図 12 に示す。また,心理社会的要因は退院時 に お い て,PCS:21/52,TSK:42/52,CSI:38/100 で あり,初期評価時と比べ大きな変化は認められなかった。  頸部運動時の表層筋群の過剰な収縮は次第に抑制さ れ,頸部深層筋群の単独収縮が可能となった。頸部深層 筋群の単独収縮について,背臥位にて上位頸椎を下方向 に押すように指示した際に,表層筋群の過剰な収縮が出 現せずに行えたことにより,単独収縮が可能となった, と判断した。  姿勢において,普段の生活の中で自らの姿勢を認知. 図 9 頸部屈曲 / 伸展等尺性エクササイズ 左:頸部屈曲等尺性エクササイズ 右:頸部伸展等尺性エクササイズ 目的は,頸部周囲筋の持久力および協調性の改善である.. し,骨盤前傾・肩甲骨内転・頭部後退・上位頸椎屈曲を 意識することが可能となった(図 13) 。また,初期評価 時には頸部痛のことを常に気にしている発言が聞かれた が,次第に疼痛を意識することが少なくなり,痛みに対 して前向きに捉える発言が多くなった。本症例の発言の 変化を表 2 にて示す。 考   察  頸部痛を主観的評価および客観的評価を元に TBC に 基づいて分類し,それに対応する介入を生物心理社会モ デルに基づいて行った。Fritz と Brennan は,主観的評 価および客観的評価よりサブグループに分類し,それに 対応した介入を行うことで NDI と疼痛量が軽減したこ とを報告しているが. 22). ,本症例も NDI,疼痛量が改善. した。臨床上有益と判定可能な最小変化量(Minimal Clinically Important Difference:MCID)は NDI が 3.5, 図 10 頸椎中間位・上肢エクササイズ 左:開始肢位 右:終了肢位 目的は頸部と上肢の協調性の改善である.. NRS は 2.0 であるため. 23). ,どちらも十分な効果量であっ. た。本症例の主訴である頸部痛は術前から生じており, 術前後の経過(今回入院時まで)をみても改善は認めら れていなかった。今回,介入していく中で NRS や NDI. 上位頸椎屈曲等尺性エクササイズ,頭部挙上・頸椎中間. の点数が経時的に軽減したこと,頸部運動時の表層筋群. 位エクササイズ(図 8) ,頸椎屈曲 / 伸展等尺性エクサ. の過剰な収縮の抑制,頸部深層筋群の単独収縮の獲得,. サイズ(図 9),頸椎中間位・上肢エクササイズ(図 10). といった頸部機能の改善や本症例の痛みに対する捉え方. を行った。これらはすべて頸部深層筋の収縮および協調. の変化を認めたことから,介入効果によりもたらされた. 性改善のために行った。. 結果であるといえる。  また,本症例は運動恐怖感や疼痛の破局的思考などの 心理社会的因子の点数も高かったため,患者教育を積極.

(7) 122. 理学療法学 第 46 巻第 2 号. 図 11 介入プログラム 初回から退院時(29 日目)までの介入の流れ.Self Exercise の指導 / 実践と患者 / 疼痛教育は,初回から退院時 まで通して行った.. 図 12 NDI と NRS の変化の推移 ⃝:NDI  □:NRS の 変 化 を 示 す. 最 終 評 価 時 に NDI は 8/50,NRS は 2/10 に変化した.臨床上有益と判定可能な最 小変化量(Minimal Clinically Important Difference:MCID) は NDI が 3.5,NRS は 2.0 であるため,どちらも十分な効果 量であったと判断した。 ※ NRI: Numerical Rating Scale NDI: Neck Disability Index.. 図 13 入院時と退院時の姿勢の変化(左:入院時 右:退院時) 退院時において,骨盤前傾・肩甲骨内転・頭部後退・上位頸椎 屈曲を保持できている.. いる. 25)26). 。本症例は,介入を重ねるごとに患者の発言. にも変化が見られた。このことは,患者教育によって疼 痛に対する認識,理解が進んだことが要因だと思われる。 的に取り入れた。筋骨格筋系の疾患,特に慢性化してい.  頸部深部筋の機能不全が認められていたが,頸部深部. る症例に対して生物心理社会的モデルに基づいた介入を. 3) 筋群と頸部痛は関連があり ,頸部深部筋エクササイズ. 行うことが推奨されており. 24). ,患者教育や認知面に対. は,慢性頸部痛に効果があることが示唆されている. 27). 。. する介入は現在において必須である。認知行動療法と. よって,積極的に頸部深部筋の筋機能向上を図ること. モーターコントロールエクササイズを組み合わせた介入. で,機能面および疼痛改善の手助けになったことが推測. は単独で行うものよりも効果的であることが報告されて. される。.

(8) TBC 分類に基づいた頸部痛に対する多面的な介入. 123. 表 2 発言の変化 初期. 「なにをしていても首が痛い。就寝しているときも痛みが出現しそうで目が覚 めてしまう。」. 1週. 「地下鉄の揺れでも首が痛くなったり重苦しくなりそうで不安だから,退院は まだできそうにないね。」. 2週. 「夜は眠れるようになった。書籍を読んでいるときやテレビを見ているときは 痛くない。気にしているから痛いっていうのはわかっているんだよね。」. 3週. 「今日の朝は絶好調だった。昨日は自転車を漕いでいい汗をかいた。今日もや ろうと思う。」. 4週. 「入院前よりは身体全体の調子がいいんだ。前はあちこちが痛い感じがしたん だけど。このままで退院は不安だけど,来週にはもっとよくなるかもしれな いし,とりあえず退院は来週で考えているんだ。」. 退院時. 「痛みにとらわれることが少なくなってきた。痛みがでるときはあるけど,動 かしたりしていると忘れていることも多い。家に帰っても,教えてもらった 運動を継続しようと思う。ありがとう。」. 週を重ねるごとに,発言が前向きになっており,理学療法においても前向きに取り組むよう に変化した..  PCS,TSK,CSI のスコアは開始時と終了時において 大きな変化は認められなかった。これらに代表される心 理社会的因子は,その人自身の特徴であり,基本的には 変化が生じない. 28). 。よって,今回の症例でも,疼痛や. 機能障害は改善されたが,運動恐怖感や疼痛の破局的思 考は変化しなかったと考える。しかし最近の報告では, 腰痛患者に対して,長期期間を経ての PCS 等の変化が 生じることが報告されているため. 29). ,今後は長期的な. 推移を追うことで,頸部痛の患者に対しても心理社会的 要因は変化しうるのかを明らかにすることが可能である と考える。  本症例は長期間での follow-up はできておらず,今後 は長期的な効果を検討することが必要であるが,TBC を用いた介入は,頸部痛を改善させることに一定の効果 が認められた。 結   語  頸部痛は腰痛と同じように疼痛の原因組織や正確な機 能障害を明らかにすることは難しい。そのため,症状や 評価により頸部痛を分類し,それに対応した生物心理社 会モデルに基づいて多角的な介入を行うことで一定の効 果を上げることが可能であった。今後,ランダム化比較 試験などよりエビデンスレベルの高い研究報告の検討を 行うことでより TBC に基づいた理学療法の効果が立証 されるだろう。 利益相反  本論文に関して開示すべき利益相反はない。 文  献 1)Gross AR, Paquin JP, et al.: Exercises for mechanical neck disorders: A Cochrane review update. Man Ther.. 2016; 24: 25‒45. 2)Cleland JA, Childs JD, et al.: Immediate effects of thoracic manipulation in patients with neck pain: a randomized clinical trial. Man Ther. 2005; 10: 127‒135. 3)Chiu TTW, Law EYH, et al.: Performance of the craniocervical flexion test in subjects with and without chronic neck pain. J Orthop Sports Phys Ther. 2005; 35: 567‒571. 4)Buchbinder R, Goel V, et al.: Classification systems of soft tissue disorders of the neck and upper limb: do they satisfy methodological guidelines? J Clin Epidemiol. 1996; 49: 141‒149. 5)Shahidi B, Curran-Everett D, et al.: Psychosocial, Physical, and Neurophysiological Risk Factors for Chronic Neck Pain: A Prospective Inception Cohort Study. J Pain. 2015; 16: 1288‒1299. 6)Lewis M, James M, et al.: An economic evaluation of three physiotherapy treatments for non-specific neck disorders alongside a randomized trial. Rheumatology. 2007; 46: 1701‒1708. 7)Borghouts JA, Koes BW, et al.: The clinical course and prognostic factors of non-specific neck pain: a systematic review. Pain. 1998; 77: 1‒13. 8)Karayannis NV, Jull GA, et al.: Movement-based subgrouping in low back pain: synergy and divergence in approaches. Physiotherapy. 2016; 102: 159‒169. 9)Fritz JM, Delitto A, et al.: Comparison of classificationbased physical therapy with therapy based on clinical practice guidelines for patients with acute low back pain: a randomized clinical trial. Spine. 2003; 28: 1363‒1371. 10)Childs JD, Fritz JM, et al.: Proposal of a classification system for patients with neck pain. J Orthop Sports Phys Ther. 2004; 34: 686‒700. 11)Fritz JM, Brennan GP: Preliminary examination of a proposed treatment-based classification system for patients receiving physical therapy interventions for neck pain. Phys Ther. 2007; 87: 513‒524. 12)Fejer R, Kyvik KO, et al.: The prevalence of neck pain in the world population: a systematic critical review of the literature. Eur spine J. 2006; 15: 834‒848. 13)Ariens GA, van Mechelen W, et al.: Psychosocial risk factors for neck pain: a systematic review. Am J Ind Med. 2001; 39: 180‒193..

(9) 124. 理学療法学 第 46 巻第 2 号. 14)Thompson DP, Woby SR: Acceptance in chronic neck pain: associations with disability and fear avoidance beliefs. Int J Rehabil Res. 2017; 40: 220‒226. 15)Ariens GA, van Mechelen W, et al.: Physical risk factors for neck pain. Scand J Work Environ Health. 2000; 26: 7‒19. 16)Guzman J, Hurwitz EL, et al.: A new conceptual model of neck pain: linking onset, course, and care: the Bone and Joint Decade 2000-2010 Task Force on Neck Pain and Its Associated Disorders. J Manipulative Phys Ther. 2009; 32: 17‒28. 17)Matsuoka H, Sakano Y: Assessment of cognitive aspect of pain: development, reliability, and validation of Japanese version of Pain Catastrophizing Scale. Jpn J Psychosom Med. 2007; 47: 95‒102. 18)Kikuchi N, Matsudaira K, et al.: Psychometric properties of the Japanese version of the Tampa Scale for Kinesiophobia (TSK-J) in patients with whiplash neck injury pain and/or low back pain. J Orthop Sci. 2015; 20: 985‒992. 19)Tanaka K, Nishigami T, et al.: Validation of the Japanese version of the Central Sensitization Inventory in patients with musculoskeletal disorders. PLoS One. 2017; 12: e0188719. 20)Nakamaru K, Vernon H, et al.: Crosscultural Adaptation, Reliability, and Validity of the Japanese Version of the Neck Disability Index. Spine. 2012; 37: 1343‒1347. 21)Louw A, Diener I, et al.: The effect of neuroscience education on pain, disability, anxiety, and stress in chronic musculoskeletal pain. Arch Phys Med Rehabil. 2011; 92: 2041‒2056.. 22)Fritz JM, Brennan GP: Preliminary Examination of a Proposed Treatment-Based Classification System for Patients Receiving Physical Therapy Interventions for Neck Pain. Phys Ther. 2007; 87: 513‒524. 23)Pool JJ, Ostelo RW, et al.: Minimal clinically important change of the Neck Disability Index and the Numerical Rating Scale for patients with neck pain. Spine. 2007; 32: 3047‒3051. 24)Lluch GE, Meeus M, et al.: Balancing “hands-on” with “hands-off” physical therapy interventions for the treatment of central sensitization pain in osteoarthritis. Man Ther. 2015; 20: 349‒352. 25)Soderlund A, Lindberg P: An integrated physiotherapy/ cognitive-behavioural approach to the analysis and treatment of chronic whiplash associated disorders, WAD. Disabil Rehabil. 2001; 23: 436‒447. 26)Fersum KV, Sullivan PO, et al.: Efficacy of classificationbased cognitive functional therapy in patients with nonspecific chronic low back pain: A randomized controlled trial. Eur J Pain. 2012; 17(6): 916‒928. 27)Ylinen J, Takala EP, et al.: Active neck muscle training in the treatment of chronic neck pain in women: a randomized controlled trial. JAMA. 2003; 289: 2509‒2516. 28)Sullivan MJ, Lynch ME, et al.: Dimensions of catastrophic thinking associated with pain experience and disability in patients with neuropathic pain conditions. Pain. 2005; 113(3): 310‒315. 29)Kim, HJ, Kwon O, et al.: Change in pain catastrophizing in patients with lumbar spinal surgery. Spine J. 2018; 18(1): 115‒121..

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図 13 入院時と退院時の姿勢の変化(左:入院時 右:退院時)

参照

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