Ⅰ 緒 言 広島県北部の夏秋トマト栽培においては,オンシ ツコナジラミ Trialeurodes vaporariorum(Westwood) による被害を防止するため,化学合成殺虫剤による 防除が行われている.本種は植物の汁液から栄養を 摂取してトマトの成長を阻害するほか,成虫密度が 高密度(約 400 頭 / 株以上)に達すると,排出され た甘露にすす病が発生して問題となる6).トマトの 授粉に利用されるマルハナバチ類と併用可能な殺虫 剤は限られている18)ことから,特定の殺虫剤の多 用が薬剤抵抗性を発達させ,化学合成殺虫剤による 防除を困難なものとする.愛媛県11)や大分県20)で は化学合成殺虫剤に対する感受性の低下が認められ ており,化学合成殺虫剤以外の手段を含めた防除体 系を検討する必要がある. タバコカスミカメ Nesidiocoris tenuis(Reuter)は カメムシ目カスミカメムシ科に属する雑食性の昆虫 であり,コナジラミ類やアザミウマ類などの捕食性 天敵である5), 14).本種はトマトだけでは世代を全う できないが,特定の植物のみを餌として世代交代が 可能である13), 14), 26).高知県などの西南暖地では, ナス,ピーマンおよびキュウリなどで本種の土着個 体群を利用した防除が行われている22).施設トマト 栽培では,ヨーロッパなどで活用されている21)ほか, 我が国でもタバココナジラミおよびトマト黄化葉巻 病の抑制を目的に,冬春トマト栽培における本種の 利用が検討されており,有効性が確認されている 17), 25).一方,夏秋トマト栽培における本種の利用 は関東地方での事例10), 19)はあるものの,西日本で は報告がないことから,広島県北部の夏秋トマト栽 培でのオンシツコナジラミ密度の抑制に本種が利用 可能かは検証が必要である. タバコカスミカメを害虫防除に利用するときは, 少量を放飼し作物上で増殖させることで,後代によ る防除効果を期待する方法が一般的であるが,トマ ト上で本種を増殖するには時間を要する17), 21), 25). バーベナやクレオメなど天敵温存植物1), 2)を併用す ることで早期に本種を圃場に定着させられるが,本 種が十分に増殖するまでは発生しているコナジラミ 2019 年 7 月 30 日受領 2019 年 11 月 5 日受理 Correspondence: [email protected] 〔原著論文〕
タバコカスミカメとアセチル化グリセリド乳剤の併用による
夏秋トマト栽培でのオンシツコナジラミ防除の現地実証
亀井幹夫
*・星野 滋
*・松浦昌平
*・日本典秀
** *広島県立総合技術研究所農業技術センター **農研機構中央農業研究センター(現 京都大学大学院農学研究科)Control of Trialeurodes vaporariorum (Westwood)
in the Summer-Autumn Greenhouse Culture of Tomato using a Combination
of Nesidiocoris tenuis (Reuter) and Acetylated Glyceride
Mikio Kamei
*, Shigeru Hoshino
*, Shohei Matsuura
*, Norihide Hinomoto
***Agricultural Technology Research Center, Hiroshima Prefectural Technology Research Institute **Central Region Agricultural Research Center, NARO
者慣行の防除を行う対照区を各 1 棟設けた.実証区 は株式会社神石高原農業公社の実習施設で新規就農 希望者が管理する施設,慣行区は現地生産者施設で ある.実証区は,2017 年試験ではトマト‘りんか 409’を 5 月 12 日に,2018 年試験ではトマト‘りん か 409’および‘桃太郎ワンダー’を 5 月 11 日にそ れぞれ定植した(第 1 表).慣行区は,両年ともト マト‘りんか 409’を,2017 年が 4 月 19 日,2018 年が 4 月 22 日に定植した(第 1 表).試験期間中の 薬剤散布は各種病害虫の発生状況により生産者の判 断に一任したが,実証区において殺虫剤の散布が必 要となったときは既存の薬剤影響評価23)を参考に タバコカスミカメに影響の小さい剤の散布を依頼し た.薬剤の散布履歴は第 2 表,第 3 表に示した.な お両区ともトマトは購入苗(ベルグアース株式会社) で 2 条植え,施肥や一般管理は生産者慣行とし,授 粉にはクロマルハナバチを利用した. 2 実証区の処理方法 タバコカスミカメは,2017 年および 2018 年の試 験ともに,茨城県内で採集され,株式会社アグリ総 研によって累代飼育されている系統を用いた.郵送 された個体(成虫および幼虫)を到着翌日にバーベ ナ上に放飼した.1 回の放飼密度は既存報告23)を 参考に,トマト 1 株あたり 0.5 頭とした. 1)2017 年試験 5 月 16 日に天敵温存植物1), 2)としてバーベナ‘タ ピアン’28 株(7 株 /a)を約 5 m 間隔で各畝の中央に, クレオメ‘カラーファウンティン’6 株(1.5 株 /a) を施設内外縁に,それぞれ定植した.タバコカスミ カメは,6 月 8 日から 1 週間間隔で 3 回放飼した. AG 剤(希釈倍率 500 倍)はトマト定植後の 5 月 23 日, オンシツコナジラミ初発確認後の 7 月 18 日に散布 類は別の手段で防除する必要がある.タバコカスミ カメの利用に関するマニュアル23)では化学合成殺 虫剤による防除を組み合わせる防除体系となってい るが,タバコカスミカメおよびマルハナバチ類と併 用できる薬剤は限られており18),従来の殺虫剤とは 異なる手段を検討する必要がある. この手段として天敵や授粉昆虫への影響がほとん どない8), 9)アセチル化グリセリド乳剤(商品名ベミ デタッチ®乳剤,以下 AG 剤)の併用を検討した. AG 剤は,従来の殺虫剤とは異なり,直接的な殺虫 作用はほとんどなく,コナジラミ類成虫の定着を忌 避し,吸汁および交尾を阻害する忌避剤である8), 9). 有効成分のアセチル化グリセリドは世界的に食品添 加物として認可された安全性が高い物質で,散布回 数の制限がなく,コナジラミ類の発生に合わせ散布 することができる8), 9).直接的に殺虫する作用がほ とんどないことから,薬剤抵抗性が発達しにくいと 考えられている8), 12). 以上を踏まえて本研究では,広島県北部の夏秋ト マト栽培において,天敵タバコカスミカメおよび忌 避剤 AG 剤を併用した場合の,オンシツコナジラミ の防除効果について現地実証試験を行った.なお, 当地域の施設トマトで発生するコナジラミ類はオン シツコナジラミで,タバココナジラミの発生はみら れなかった(星野ら,未発表). Ⅱ 対象および方法 1 試験区の設定 現地実証試験は広島県神石郡神石高原町豊松内の 夏秋トマト栽培施設で 2017 年および 2018 年の 2 回 実施した. 試験区は,防除効果を実証する実証区および生産 トマト 天敵温存植物 タバコカスミカメ 年 区 品種 定植日 種類・株数 定植日 放飼日 (頭/トマト株)放飼密度 2017年 実証区 りんか409 5/12 バーベナ‘タピアン’28株 クレオメ ‘カラーファウンティン’6株 5/16 6/8 6/15 6/22 0.5 0.5 0.5 慣行区 りんか409 4/19 - - - - 2018年 実証区 りんか409 桃太郎ワンダー 5/11 バーベナ‘タピアン’14株 5/24 6/25 7/6 0.50.5 慣行区 りんか409 4/22 - - - - 第 1 表 実証区および慣行区の概要
で行った. 2)タバコカスミカメ トマトおよび天敵温存植物ともに,ポリプロピレ ン黒色チリトリ(24.5 cm × 31.0 cm;株式会社ダイ ソー)への払い落としによって,チリトリ上に落下 した個体数を計測した.払い落とし箇所はそれぞれ, トマトは上位 5 葉,バーベナはコドラート(30cm × 30cm)の茎葉部,クレオメはシュート全体とした. トマトでは成虫と幼虫を分けて計測した.調査株数 は本種密度に応じて設定することとし,2017 年はト マ ト 15 株, バ ー ベ ナ 10~15 株, ク レ オ メ 4 株, 2018 年はトマト 30 株,バーベナ 8~14 株とした. 調査はオンシツコナジラミの調査と同日に行った. 2018 年はタバコカスミカメによるトマトへの傷害の 程度を把握するため,8 月以降,個体数に加えて, 既存報告3)を参考にトマト 45 株の各上位 3 葉に生 じた褐色リング状の傷害数を計測した. 3)実証区の環境条件 実証区の施設中央部の畝上 1 m に,強制通風筒に した. 2)2018 年試験 5 月 24 日に天敵温存植物としてバーベナ‘タピア ン’14 株(3.5 株 /a)を約 10 m 間隔で各畝の中央に 定植した.タバコカスミカメは 6 月 25 日および 7 月 6 日に放飼した.AG 剤(希釈倍率 500 倍)はト マト定植後の 5 月 24 日,オンシツコナジラミ初発 確認後の 7 月 31 日に散布したが,オンシツコナジ ラミ密度の上昇が見られたため,8 月 10 日および 8 月 22 日にも追加散布した. 3 調査方法 1)オンシツコナジラミ トマト株の上位および中位に位置する各 1 複葉に 寄生するオンシツコナジラミの成虫数を計測した. また,トマトで成虫を確認した調査日以降,成虫数 の計測と同日に,各調査株の上位および中位に位置 する各 1 小葉を持ち帰り,寄生するオンシツコナジ ラミの幼虫数を実体顕微鏡下で計測した.調査株数 はいずれの試験でも,各区で均等な間隔となるよう 調査列を 3 列設定し,1 列あたり 15 株,各区合計 45 株とした.調査は両年とも 6 月以降に 2 週間間隔 剤 菌 殺 ど な 剤 虫 殺 5/23 アセチル化グリセリド乳剤* 6/6 カスガマイシン・銅水和剤 6/23 フルジオキソニル水和剤 7/18 アセチル化グリセリド乳剤* 8/1 トリフルミゾール水和剤 N P T 0 1 / 8 水和剤 10/11 トリフルミゾール水和剤 剤 菌 殺 ど な 剤 虫 殺 4/19 アセタミプリド粒剤* 5/27 カスガマイシン・銅水和剤 6/4 フルジオキソニル水和剤 6/17 ペンチオピラド水和剤 N P T 2 / 7 水和剤 7/19 フルフェノクスロン乳剤* TPN水和剤 7/26エマメクチン安息香酸塩乳剤*フルベンジアミド顆粒水和剤 ペンチオピラド水和剤ジフェノコナゾール顆粒水和剤 8/3 フロニカミド顆粒水和剤* 8/11 ミルベメクチン乳剤* TPN水和剤 8/18 フルフェノクスロン乳剤* トリフルミゾール水和剤 8/26 フルベンジアミド顆粒水和剤 ジフェノコナゾール顆粒水和剤 9/3 エマメクチン安息香酸塩乳剤* アゾキシストロビン・TPN水和剤 9/10 フロニカミド顆粒水和剤* イミノクタジンアルベシル酸塩水和剤 10/7 エマメクチン安息香酸塩乳剤* ピリベンカリブ顆粒水和剤 10/24 スピロメシフェン水和剤* カスガマイシン・銅水和剤 実証区 慣行区 第 2 表 実証区および慣行区の薬剤散布履歴(2017 年) *コナジラミ類に登録のある薬剤を示す 剤 菌 殺 ど な 剤 虫 殺 5/24 アセチル化グリセリド乳剤* 6/7 フルジオキソニル水和剤 6/20 カスガマイシン・銅水和剤 N P T 9 / 7 水和剤 7/31 アセチル化グリセリド乳剤* 8/10 アセチル化グリセリド乳剤* 8/17 ミルベメクチン乳剤* 8/22 アセチル化グリセリド乳剤* N P T 3 / 9 水和剤 9/5 フロニカミド顆粒水和剤* 9/10 TPN水和剤トリフルミゾール水和剤 9/26 フロニカミド顆粒水和剤* トリフルミゾール水和剤 剤 菌 殺 ど な 剤 虫 殺 4/22 アセタミプリド粒剤* 5/10 カスガマイシン・銅水和剤 5/27 フルジオキソニル水和剤 6/7 イミノクタジンアルベシル酸塩水和剤 6/22 フロメトキン水和剤* ペンチオピラド水和剤 7/9 フルフェノクスロン乳剤* カスガマイシン・銅水和剤 7/19 エマメクチン安息香酸塩乳剤* カスガマイシン・銅水和剤 8/4 フロニカミド顆粒水和剤* TPN水和剤 8/13 フルベンジアミド顆粒水和剤 イミノクタジンアルベシル酸塩水和剤 8/30 スピロメシフェン水和剤* ピリベンカルブ顆粒水和剤 9/11 フロニカミド顆粒水和剤* トリフルミゾール水和剤 10/2 ルフェヌロン乳剤* ピリベンカルブ顆粒水和剤 10/18 フロニカミド顆粒水和剤* ジフェノコナゾール顆粒水和剤 10/28 レピメクチン乳剤* メタラキシル・銅水和剤 実証区 慣行区 第 3 表 実証区および慣行区の薬剤散布履歴(2018 年) * コナジラミ類に登録のある薬剤を示す
収めた温度計(本体 TR-72wf-H・センサーHHA-3151;株式会社ティアンドデイ)を設置した.温度 は 10 分間隔で測定し,各日の平均気温,最高気温, 最低気温を求めた(第 1 図). Ⅲ 結 果 1 2017 年試験 オンシツコナジラミの密度推移を第 2 図に,タバ コカスミカメの密度推移を第 3 図にそれぞれ示し た.オンシツコナジラミは,両区とも 7 月中旬に初 発を確認した後も低密度で推移した.タバコカスミ カメ放飼後の平均気温は,我が国で報告されている タバコカスミカメの発育零点14), 27)を上回っていた (第 1 図).タバコカスミカメは,バーベナおよびク レオメで放飼後の定着を確認され,7 月上旬には株 あたり 3 頭まで増加した.その後,バーベナでは一 旦密度が低下したが,8 月以降上昇して,10 月下旬 には株あたり 6 頭となった.クレオメはピーク時の 8 月中旬には株あたり 10 頭に達した.なお,10 月 第 1 図 実証区における 2017 年(A)および 2018 年(B) の気温の推移. 実線は日平均気温,上側点線は日最高気温,下側点線は日最低気 温を示す 第 2 図 実証区と慣行区におけるトマト上のオンシツコ ナジラミ成虫(A)および幼虫(B)密度の推移 (2017 年). エラーバーは標準誤差を示す 第 3 図 実証区における天敵温存植物(A)およびトマト (B)上のタバコカスミカメ(天敵温存植物:成 虫+幼虫,トマト:成虫および幼虫)の密度推 移(2017 年)
月以降増加を続けた.9 月上旬には成虫密度が 18.7 頭 / 葉に達し,すす病が散見されたため,フロニカ ミド顆粒水和剤を 2 回散布し,散布後に密度は低下 した.タバコカスミカメ放飼後の平均気温は,タバ コカスミカメの発育零点14), 27)を上回っていた(第 1 図).タバコカスミカメは,バーベナ上で放飼後の 定着は確認できたが,8 月には確認できず,密度が 上昇するのは 9 月以降であった.なお,バーベナは 7 月上旬までに定植した 14 株中 8 株が枯死した.ト マト上のタバコカスミカメは初回放飼から約 5 週間 後の 7 月 31 日には幼虫が確認された.その後,密 度は一旦上昇したものの,8 月下旬に低下し,再度 下旬までに,バーベナは定植した 28 株中 3 株が枯 死した.トマト上のタバコカスミカメは初回放飼か ら約 6 週間後の 7 月 18 日には幼虫が確認され,9 月 中旬には株あたり 5 頭まで増加した.8 月中旬以降, トマトの上位葉の葉柄を中心に,タバコカスミカメ の加害によるものと考えられるリング状の褐変が散 見され,生産者から,褐変した箇所で折れやすくな る現象がみられると指摘された.コナジラミ類を対 象とした殺虫剤散布回数は,実証区は 0 回,慣行区 は 10 回であった(第 2 表). 2 2018 年試験 オンシツコナジラミの密度推移を第 4 図に,タバ コカスミカメの密度およびトマトに対する傷害数の 推移を第 5 図にそれぞれ示した.オンシツコナジラ ミは,慣行区では作期を通して低密度に抑制された. 実証区では 7 月上旬に成虫の初発を確認した後,8 第 4 図 実証区と慣行区におけるトマト上のオンシツコ ナジラミ成虫(A)および幼虫(B)密度の推移 (2018 年). エラーバーは標準誤差を示す 第 5 図 実証区における天敵温存植物(バーベナ)(A) およびトマト(B)上のタバコカスミカメ(天敵 温存植物:成虫+幼虫,トマト:成虫および幼虫) の密度,トマト上位 3 葉に対する傷害数(C)の 推移(2018 年)
トマトにおいても本種密度の調整が可能な薬剤の検 討が必要である. 2018 年の試験では,タバコカスミカメ密度の抑制 を目的として,天敵温存植物の種類や栽植密度,放 飼時期や回数を変更した(第 1 表).2017 年と同様に, タバコカスミカメは初回放飼の約 5~6 週間後には トマト上で確認されたが,トマトに本種が定着した 後,8~9 月頃にトマト上での密度の上昇が見られな かった.これには,放飼回数を 3 回から 2 回と減ら したことで本種の初期密度が低かったことに加え て,以下の 2 点の影響を受けたからと考えられる. 第 1 に,本種の温存に用いた植物の生育不良によ る影響が考えられる.本種はトマトだけでは世代を 全うできず,コナジラミ類やアザミウマ類などの動 物質の餌を必要とする13).本研究の放飼時期にはト マト上でコナジラミ類やアザミウマ類の密度は極め て低いため,本種の温存に好適な植物種2)を併用す ることで,防除効果を高められると考えられる.本 研究では,天敵温存植物としてクレオメおよびバー ベナを用いた.両種を比べると,クレオメの方が本 種の増殖には適していたが(第 3 図),本種の密度 を適度に保つために,2018 年の試験ではクレオメを 併用しなかったことで,本種の増殖が緩慢になった 可能性がある.バーベナに関しても,2017 年の試験 では安定的に密度が維持されているが,2018 年の試 験では 2017 年に比べて,低密度で推移した.本研 究を行った施設のトマト栽培ではつるおろし誘引を 行っていたため,バーベナの植栽位置として,畝肩 や畝端はトマトの下敷きになり適当ではないと考 え,トマトの条間とした.バーベナを株間に植栽し た場合,作物によって光が遮られて開花数が減少す ることが報告1)されており,本研究でもトマトの成 長に伴う日光不足によってバーベナの開花が見られ なくなったほか,生育が停滞する株も見られた.特 に 2018 年の試験では 7 月上旬までに定植した 14 株 中 8 株が枯死するなど草勢が衰える株が多かった. タバコカスミカメの密度維持のためにはクレオメを 併用するか,バーベナに光が当たりやすいように, トマトの下葉かきの早期実施,バーベナの畝肩や畝 端への植栽などを行うことによりバーベナの草勢を 維持する必要がある. 第 2 は,使用した殺虫剤の影響が考えられる.実 上昇するのは 9 月中旬以降であった.タバコカスミ カメによるトマトの傷害は,8 月に 45 株中 1~2 株 確認できたが,9 月以降は確認できなかった.コナ ジラミ類を対象とした殺虫剤散布回数は実証区では 3 回,慣行区では 10 回であった(第 3 表). Ⅳ 考 察 本研究では広島県北部の夏秋トマト栽培におい て,天敵タバコカスミカメと忌避剤である AG 剤の 併用により,オンシツコナジラミの防除実証に取り 組んだ.その結果,2017 年の試験では天敵と忌避剤 の併用により,化学合成殺虫剤を用いることなく, オンシツコナジラミ密度を化学合成殺虫剤による防 除と同程度に抑制することができ,本防除技術の夏 秋栽培における有効性を示すことができた.しかし, 8 月以降タバコカスミカメが高い密度となった時期 から,トマトの果実や収量への影響は確認していな いが,上位葉の葉柄などにリング状の傷害が確認さ れ,褐変した箇所で折れやすくなったとの指摘を生 産者から受けた.我が国の冬春栽培での防除実証で は,栽培終期にトマトの脇芽に軽微なリング状の褐 変が確認されているが,トマトの果実や収量への影 響は確認されていない17).本種によるトマトへの傷 害は,本種成幼虫数に対するコナジラミ類幼虫数の 比が小さくなるに伴って傷害数が増加する傾向にあ る4)と報告されており,餌となる昆虫類がほぼ存在 せず,本種密度が非常に高い場合に生じる.また, 30℃ までは温度の上昇に伴って傷害数が増加する と報告されている24).傷害が生じても短期間ではト マトの成長や収量には影響しないが,6 週間以上の 長期にわたり継続的に本種の食害を受けた場合には トマトの成長や収量に影響するとの報告がある3). 当地域では,本種の発育適温は 10 月まで続くこと から(第 1 図),冬春栽培よりも本種による食害が 長期間続くと考えられる.以上のことから,冬春栽 培よりも夏秋栽培ではタバコカスミカメによる傷害 数の増加とともにトマトの成長や収量に影響する可 能性がある.広島県北部の夏秋栽培で本種を活用す るには,本種が高密度になった場合の対策を検討す る必要がある.キュウリでは傷果の発生低減を目的 に薬剤を用いて本種密度の調整が検討されている15).
類成虫の初発期となるように設定する必要がある. また,幼虫の発生時期には卵や幼虫に対して作用す る薬剤と混用することで,より高い防除効果が得ら れると考えられる. 天敵タバコカスミカメと忌避剤 AG 剤の併用は, 夏秋トマト栽培でのオンシツコナジラミ密度の抑制 に有効であると考えられる.しかし,タバコカスミ カメ密度を適度に維持することが課題である.この ため,放飼時期や放飼回数,天敵温存植物の管理方 法の最適化を検討し,コナジラミ類を低密度に抑制 できる体系を構築する必要がある. Ⅴ 摘 要 コナジラミ類の天敵タバコカスミカメと忌避剤ア セチル化グリセリド乳剤(AG 剤:ベミデタッチ® 乳剤)との併用による防除実証を,2017 年と 2018 年に広島県神石郡内の夏秋トマト栽培施設で行っ た.2017 年はタバコカスミカメ(0.5 頭 / トマト株) を 6 月 8 日から 1 週間間隔で 3 回放飼した.AG 剤(500 倍)はトマト定植直後に 1 回,オンシツコナジラミ 初発確認後に 1 回散布した.2018 年はタバコカスミ カメ(0.5 頭 / トマト株)を 6 月 25 日,7 月 2 日に 放飼した.AG 剤(500 倍)はトマト定植直後に 1 回, オンシツコナジラミ初発確認後に約 2 週間間隔で 3 回散布した.その結果 2017 年は,オンシツコナジ ラミ密度は低く抑制できたが,タバコカスミカメが 9 月に 5 頭 / トマト株まで増加し,上位葉の葉柄な どにリング状の褐変を生じさせる傷害が生じた. 2018 年はタバコカスミカメが増加せず,オンシツコ ナジラミ成虫密度が 9 月上旬に 18.7 頭 / 葉まで増加 し,すす果が発生した.本防除技術の夏秋栽培への 適用にあたっては,タバコカスミカメの密度を適度 に維持するために,放飼時期や放飼回数,天敵温存 植物の管理方法の最適化を検討する必要がある. 謝 辞 タバコカスミカメを分譲いただいた株式会社アグ リ総研の手塚俊行氏,小原慎司氏,ベミデタッチ® 乳剤を分譲いただいた石原産業株式会社の加嶋崇之 氏にお礼申し上げる.本研究は,内閣府 戦略的イノ 証区の薬剤散布は,タバコカスミカメへの影響が小 さいと考えられる薬剤を選択した.しかし,2018 年 の実証区では 8 月下旬にタバコカスミカメ密度が一 旦低下した.8 月 17 日にトマトサビダニの防除のた めにミルベメクチン乳剤(希釈倍率 1500 倍)が散 布された.同剤(希釈倍率 1500 倍)は,成虫に対 する虫体浸漬法の処理 5 日後の補正死虫率は 25.6% と影響は比較的小さく14),静岡県における実証では 同剤による影響は見られていない17).しかし,虫体 浸漬法(希釈倍率 1000 倍)による試験での処理 5 日後の補正死虫率は,成虫で 46.4% だが,幼虫では 75.5% と影響が大きい16).同剤の散布時期が幼虫の 比率が高い時期となったため,影響を大きく受けた と考えられる. 本研究では,タバコカスミカメの放飼をトマト定 植から 1ヶ月後以降となる 6 月頃に行った.これは, 我が国の茨城系統では幼虫期間の発育零点が 15.9℃ であるとの報告27)を踏まえて,日平均気温(アメ ダス油木・平年値)が 15.9℃ を上回る 5 月第 6 半旬 以降が適していると考えたためである.しかし,施 設内気温は外気温とは異なると考えられること,お よび,関東地方では 5 月のトマト定植前後に放飼し た例19)や,トマトの定植と同時期の 3 月末から放 飼開始した例10)もあることから,広島県北部の夏 秋栽培でも放飼時期を早められる可能性が示唆され る.本種の放飼時期を早めることで,増殖させる期 間が長くなり,結果として,コナジラミ類の発生が 見られ始める 7 月下旬頃には,本種密度を高くする ことが可能となると考えられる.放飼時期の早期化 により,放飼回数の低減につながると考えられるた め,今後の検討が必要である. 本研究では,タバコカスミカメが十分に増えるま での防除として,AG 剤を併用した.2017 年の試験 では,オンシツコナジラミの発生初期には慣行区に 比べて実証区で成虫密度は低く,密度抑制に一定の 効果があったと考えられる.一方,2018 年の試験で は約 2 週間間隔で 3 回散布しても,密度抑制の効果 を十分に得られなかった.同剤は卵や幼虫に対する 効果はほとんど無い7), 12).7 月下旬の時点で幼虫密 度が 1.3 頭 / 小葉と既に高かったことから,密度抑 制の効果を十分に得られなかったと考えられる.同 剤の使用に当たっては,散布開始時期をコナジラミ
半減する新たなトマト地上部病害虫防除体系マ ニュアル―個別技術集―,33-38,国立研究開 発法人農業・食品産業技術総合研究機構中央農 業研究センター,2019 10) 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究 機構中央農業研究センター:化学合成殺虫剤を 半減する新たなトマト地上部病害虫防除体系マ ニュアル―北関東版―,2019 11) 窪田聖一・池内 温・武知和彦:久万高原町の 夏秋トマトにおけるコナジラミ類の発生生態と 防除,愛媛県農林水産研究所企画環境部・農業 研究部研究報告,9,14-27,2017
12) Matsuura S., T. Kashima, T. Kitamura, S. Kajihara, and H. Abe: Suppressive effect of acetylated glyceride (BemidetachTMEC) on Tomato yellow leaf curl virus transmitted by the whitefly Bemisia tabaci
on greenhouse tomato plants, Phytoparasitica, 45, 239-242, 2017 13) 中石一英・福井 康・荒川 良:ゴマにおける タバコカスミカメ Nesidiocoris tenuis(Reuter)(カ メムシ目:カスミカメムシ科)の繁殖能力,日 本応用動物昆虫学会誌,55,199-205,2011 14) 中石一英:タバコカスミカメ Nesidiocoris tenuis (Reuter)およびコミドリチビトビカスミカメ
Campylomma chinense Schuh の生態と生物的防
除資材としての有効性に関する研究,高知県農 業技術センター特別研究報告,13,1-51,2013 15) 中石一英・下元満喜:促成栽培キュウリにおけ るタバコカスミカメを利用した総合的害虫管理 (IPM),日本典秀編集,施設キュウリとトマト における IPM のためのタバコカスミカメ利用技 術マニュアル(2015 年版),7-12,国立研究開 発法人農業・食品産業技術総合研究機構中央農 業総合研究センター病害虫研究領域,2015 16) 中石一英:農薬の影響評価,日本典秀編集,施 設キュウリとトマトにおける IPM のためのタバ コカスミカメ利用技術マニュアル(2015 年版), 19-22,国立研究開発法人農業・食品産業技術 総合研究機構中央農業総合研究センター病害虫 研究領域,2015 17) 中野亮平・土田祐大・土井 誠・石川隆輔・多々 良明夫・天野喜也・村松嘉和:タバコカスミカ ベーション創造プログラム(SIP)「次世代農林水産 業創造技術」(管理法人:農研機構生研支援センター) によって実施された. 引 用 文 献 1) 安部順一朗・綱島健司・飛島光治:バンカー植 物の選定と管理法,日本典秀編集 , 施設キュウ リとトマトにおける IPM のためのタバコカスミ カメ利用技術マニュアル(2015 年版),23-37, 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究 機構中央農業総合研究センター病害虫研究領 域,2015 2) 安部順一朗:天敵温存植物 10 草種の特性と利 用場面,一般社団法人農山漁村文化協会編集, 天敵活用大辞典,技術 10-13,一般社団法人農 山漁村文化協会,2016
3) Arnó J., C. Castañé, J. Riudavets, and R. Gabarra: Risk of damage to tomato crops by the generalist zoophytophagous predator Nesidiocoris tenuis (Reuter)(Hemiptera: Miridae), Bulletin of
Entomological Research, 100, 105-115, 2010
4) Calvo J., K. Bolckmans, P.A. Stansly, and A. Urbaneja: Predation by Nesidiocoris tenuis on
Bemisia tabaci and injury to tomato, BioControl, 54,
237-246, 2009 5) 古家 忠・横山 威:タバコカスミカメが捕食 する害虫類,九州農業研究,63,82,2001 6) 林 英明:コナジラミ―おもしろ生態とかしこ い防ぎ方―,121,社団法人農山漁村文化協会, 1994
7) Kashima T., T. Kimura, K. Yoshida, and Y. Arimoto: Observation on the effectiveness of a novel repellent, acetylated glyceride, against the adult and the progeny of sweet potato whiteflies, Bemisia
tabaci, Journal of Pesticide Science, 40, 44-48, 2015
8) 加嶋崇之・北村登史雄・大西 純・古家 忠: コナジラミ類行動制御剤,アセチル化グリセリ ド乳剤の特徴と使い方,植物防疫,73,594-597,2019 9) 北村登史雄・大西 純・加嶋崇之:アセチル化 グリセリド,日本典秀編集,化学合成殺虫剤を
農研機構中央農業総合研究センター:タバコカ スミカメ利用技術マニュアル―施設トマト― (養液栽培),2015
24) Siscaro G., C. Lo Pumo, G. Tropea Garzia, S. Tortorici, A. Gugliuzzo, M. Ricupero, A. Biondi, and L. Zappalà: Temperature and tomato variety influence the development and the plant damage induced by the zoophytophagous mirid bug
Nesidiocoris tenuis, Journal of Pest Science, 92,
1049-1056, 2019 25) 土田祐大・土井 誠・石川隆輔・影山智津子: 施設トマトにおけるタバコカスミカメ(カメム シ目:カスミカメムシ科)によるトマト黄化葉 巻病抑制効果,日本応用動物昆虫学会誌,61, 215-222,2017
26) Urbaneja A., G. Tapia, and P. Stansly: Influence of host plant and prey availability on developmental time and surviorship of Nesidiocoris tenius (Het.: Miridae), Biocontrol Science and Technology, 15, 513-518, 2005
27) Yano E., M. Nakauchi, H. Watanabe, S. Hosaka, Y. Hayashi, and N. Hinomoto: Reproduction of
Nesidiocoris tenuis reared on Ephestia kuehniella
eggs and Bemisia tabaci nymphs, IOBC-WPRS Bulletin, 102, 241-244, 2014 メ放飼とバンカー植物の併用による施設トマト のタバココナジラミ防除,関西病虫害研究会報, 58,65-72,2016 18) 日本生物防除協議会:天敵等に対する農薬の影 響目安の一覧表,URL:http://www.biocontrol.jp/ Tenteki.html,2019 年 6 月 26 日参照,日本生物 防除協議会,2019 19) 大井田寛・木内 望:タバコカスミカメ(カメ ムシ目:カスミカメムシ科)の定植前放飼また は定植後放飼による施設トマトのオンシツコナ ジラミ(カメムシ目:コナジラミ科)の防除効果, 関東東山病害虫研究会報,64,80-83,2017 20) 岡崎真一郎・塩崎尚美・和田志乃・廣末 徹・ 山本千恵・吉松英明:大分県におけるオンシツ コナジラミのイチゴ圃場での発生実態および薬 剤感受性,大分県農林水産研究指導センター研 究報告,1,1-8,2011
21) Pérez-Hedo M., R. Suay, M. Alonso, M. Ruocco, M. Giorgini, C. Poncet, and A. Urbaneja: Resilience and robustness of IPM in protected horticulture in the face of potential invasive pests, Crop Protection, 97, 119-127, 2017
22) 下元満喜・中石一英:土着天敵タバコカスミカ メを高知県内でリレーして利用する技術の開 発,植物防疫,71,406-410,2017