145
Factors
Affecting
the
Recovery
of Follicular
Oocytes
and
the
in vitro
Maturation
in Horses
Shin-ichi HOCHI1, Young-Ho CHOI1,2, Joachim W. BRAUN1,3, Kunitada SATO2, and
Norihiko OGURII
1Laboratory of Horse Production
, and 2 Theriogenology,
Obihiro University of Agriculture and Veterinary
Medicine, Obihiro, Hokkaido 080, Japan, and3 Gynakologische and Ambulatorische TTierklinik,
Universitdt
Munchen, Koniginstr. 12, 80539 Munchen, Germany
(Received 3 September 1993/Accepted 27 December 1993)
The aim of this study was to examine the factors affecting the oocyte recovery rates from slaughtered horse ovaries and the maturation rates of the oocytes in vitro. Follicle aspiration provided a constant average of 1.3 oocytes per ovary during winter up to 1.6 oocytes during spring. More oocytes were recovered by additional slicing and washing of the ovaries during winter (3.7) and spring (4.1) than during summer (2.1) and autumn (2. 5). The overall recovery rate was 3.6 oocytes per ovary in summer, 4.0 in autumn, 5.1 in winter, and 5.8 in spring. Breed of ovary donors (light and draft horse) was a source of difference in oocyte recovery (4.4 and 7.6 oocytes per ovary, respectively), whereas age of ovary donors did not influence oocyte recovery rates. In vitro maturation rates of compact-cumulus cells-enclosed oocytes in winter (58.3%) and spring (55.5%) were not significantly different, but slightly lower, from those in autumn (65.7%) and summer (64.4%). The maturation rates of oocytes from light and draft horses did not differ (53.7% vs 58.7%, respectively). Storage (3,
6, 9 h) of ovaries in 30•Ž saline prior to oocyte collection resulted in a maturation rate of 62.3% (3h), 45.0% (6h) and 30.4% (9h), respectively. The number of oocytes per culture drop (50ƒÊl volume) had no effect on the maturation rates (1-5; 55.1%, 6-10; 56.3%, 11 -15; 50 .8%). Supplementation of the medium with fetal bovine serum or B. S. A. gave similar results as in protein-free culture medium (58.1 %, 62.1 % and 65.3%, respectively). Under different atmosphere conditions (5% CO2 95% air; 5 %CO2 5 %O2 90% N2), 60,6%
and 53.6% of oocytes reached Metaphase ‡U, respectively.
Key words : breed, culture condition, in vitro maturation, oocytes recovery, seasonal variation Jpn. J. Equine Sci. 4(2) : 145-150, 1993
ウマ卵胞卵子の採取効率 と体 外成熟率 に影響 す る要 因
保 地 真 一1,崔 龍 鎬1,2,Joachim W.BRAuN1,3,佐 藤 邦 忠2,小 栗 紀 彦1
1帯広 畜 産 大 学 総 合 馬 学 講 座,2同 大 学 家 畜 臨 床 繁 殖 学 講 座 〒080北 海 道 帯 広 市 稲 田 町 西2線11番 地,3Gynakologis che und Ambulatorische Tierklinik,Universitat Munchen,Koniginstr.12,80539 Munchen,Germany
屠 場 材 料 の卵 巣 か ら卵 母 細 胞 を採 取 し,体 外 で 成 熟 させ てか ら受 精 お よ び そ の後 の培 養 や胚 移 植 に供 す る 「体 外 成 熟 ・体 外 受 精 技 術 」 が,ウ シ を は じ め とす る多 くの産 業 家 畜 に お い て成 功 す る よ う に な っ た 〔5,7,15,18〕。 と くに ウ シ卵 子 の 体 外 成 熟 の過 程 は卵 胞 刺 激 ホ ル モ ンや エ ス トラ ジオ ー ル な ど2,3の ホ ル モ ン を添 加 したTCM199培 地 に お い て卵 子 を24時 間 程 度 培 養 す る こ と に よ っ て90%以 上 の 割 合 で 成 し遂 げ られ る 〔7,15〕。 こ の よ う に体 外 で 成 熟 させ た 卵 子 を体 外 受 精 す る こ とに よ り得 られ た 胚 は,受 胚 牛 に移 植 さ れ た と き 正 常 に 産 子 へ と 発 育 す る 能 力 を 有 し て い る (5,18)。 一方,ウ マ にお け る最 初 の体 外 受 精 に よ る産 子 の 報 告 例 は体 内で 成 熟 した卵 子 が 用 い られ た もの で 〔9〕,未だ に体 外 成 熟 卵 子 の体 外 受 精 に よ る仔
146保 地 真 一,崔 龍 鎬 ,J.W.BRAUN他 馬 は誕 生 して い な い。 しか し これ は ウマ 卵 子 の体 外 成 熟 に お け る 問題 で は な くむ し ろ,ウ マ 精 子 に とっ て適 した受 精 能 獲 得 を誘 起 す るた め の 処 理 が 確 立 され て い な い こ とに よ る もの と考 え られ て い る。 卵 巣 か ら採 取 した ウ マ卵 子 を卵 丘 細 胞 の 付 着 形 態 に よ っ て選 別 して,ウ シ卵 子 と同様 の 方 法 で 体 外 成 熟 を 行 っ た と き,培 養 時 間 を32時 間 ま で 延 長 す れ ば 約60%の 体 外 成 熟 率 を 得 る こ とが で き る 〔1〕。 我 々 の 研 究 室 にお け る この 成 熟 率 は ウ マ卵 子 を体 外 成 熟 した 他 の報 告 に お け る水 準 と一 致 す る もの で あ っ た 〔4,13,17〕。 これ ら の体 外 成 熟 ウ マ卵 子 は体 外 受 精 した の ち に正 常 に分 割 す る こ とが で き る 〔2,21〕。 屠 場 か らの ウ マ 卵 巣 の 絶 対 数 が 少 な い こ と に加 えて,卵 巣 が 漿 膜 に覆 わ れ て外 見 的 に卵 胞 の識 別 が 困 難 で あ る とい う卵 巣 構 造 上 の種 特 異 性 〔6〕が 採 取 され る卵 子 の 数 を制 約 し,結 果 と して この種 の研 究 の 進 行 を遅 らせ る 一 因 とな っ て い る 。 そ れ ゆ え,我 々 は ウマ 卵 巣 か ら効 率 的 に卵 子 を採 取 す る方 法 を模 索 し,卵 胞 を 吸 引 す る こ とに よ り採 取 した卵 子 に加 えて,卵 巣 を細 切 ・洗 浄 した の ち に 回収 した卵 子 が 同 等 の 体 外 成 熟 能 を も つ こ と を報 告 し た 〔1〕。 し か し な が ら,屠 場 卵 巣 か らの ウ マ卵 子 の採 取 効 率 に 影響 を及 ぼす 要 因 につ い て知 る と ころ は少 な く,ま た 培 養 卵 子 密 度 や 培 養 気 相 な どの体 外 成 熟 条 件 に つ い て も ほ とん ど検 討 され て い な い。 本 研 究 の 目的 は,ウ マ の屠 場 卵 巣 か らの卵 子 の 採 取 効 率 と体 外 成 熟 率 に影 響 を及 ぼ す要 因 を調 べ る こ とで あ る。 と くに,屠 殺 の季 節 な らび に ウ マ の 品種 と年齢 の 影響,お よ び卵 巣 の保 管 時 間 や卵 子 の培 養 条 件(培 養 卵 子 密 度,培 養 液 中 の血 清 成 分,培 養 気 相)の 影 響 につ い て 検 討 した 。 材 料 と方 法 1.卵 子 の採 取 熊 本 市 食 肉 セ ンタ ー で屠 殺 され た軽 種 馬 また は 重 種 馬 の卵 巣 を30℃ に維 持 した 滅 菌 生 理 食 塩 液 に浸 し,屠 殺 か ら3時 間以 内 に実 験 室 へ と搬 送 し た 。18Gの 注 射 針 を装 着 した 注 射 筒 を 用 い て, 直 径30mm以 下 の 卵 胞 を吸 引 し,卵 胞 液 を ビ ー カ ー に集 め た(卵 胞 吸 引 法)。 そ の 後,卵 巣 を 金 属 刃 で5mm間 隔 に切 断 し,あ ら か じ め30℃ に 温 め て お い た1%の 非 働 化 ウ シ胎 子 血 清(ICN 社 製,大 阪)を 含 む リ ン酸 緩 衝 液(シ グマ 社 製, USA)で 切 断 面 を洗 浄 し,そ の 液 を 別 の ビ ー カ ー に 回収 した(卵 巣 細 切 法)。 そ れ ぞ れ の ビ ー カ ー か ら上 清 を 除 去 し,顕 微 鏡 下(倍 率 ×10)で 卵 子 を検 索 ・採 取 した 〔1〕。 卵 子 の 採 取 率 に影 響 を及 ぼ す要 因 を調 べ るた め, 試 験 季 節 ご と(春 季:3-5月,夏 季:6-8月, 秋 季:9-11月,冬 季:12-2月),ウ マ の 品 種 (軽種 馬 と重 種 馬)お よび そ の 年 齢 ご とに卵 胞 吸 引法 と卵 巣 細 切 法 に よ る一 卵 巣 当 た りの採 取 卵 子 数 を集 計 した 。 2.体 外 成 熟 2層 以 上 の 緊密 な卵 丘 細 胞 に囲 まれ て い る卵 子 の み を既 報 〔1〕に従 っ て 成 熟 培 養 に供 した 。 培 養 液 はTCMl99に,10%の ウ シ胎 子 血 清,1μ9 /mlの エ ス ト ラ ジ オ ー ル17β(シ グ マ 社 製, USA),お よ び0.02AU/mlの 卵 胞 刺 激 ホ ル モ ン (デ ン カ製 薬,神 奈 川)を 添 加 し て 用 い た。 卵 子 を培 養 液 で2回 洗 浄 し た の ち,流 動 パ ラ フ ィ ン (関東 化 学,東 京)で 覆 った50μ1の 培 養 小 滴 に6 -10個 の卵 子 を移 し,38,5℃,5%CO、95%空 気 の 気 相 下 で32時 間 培 養 し た。 培 養 終 了 後,卵 子 を500U/mlの ピア ル ロニ タ ー ゼ(持 田製 薬,東 京)を 含 む リン酸 緩 衝 液 に移 し,ピ ペ ッテ イ ング に よ り卵 丘 細 胞 を除 去 した 。 そ の後,酢 酸:エ タ ノ ー ル(1:3)で24時 間 固 定 し,1%オ ル セ イ ン (和光 純 薬 工 業,東 京)で 染 色 した 。 核 相 の判 定 は 倍 率400倍 の位 相 差 顕 微 鏡 下 で 行 い,第1極 体 と 核 の分 裂 中期 像 を も って 成 熟 卵 子 とみ な した 。 体 外 成 熟 率 に 影 響 を及 ぼす 要 因 とし て,試 験 季 節 や ウ マ の 品種 に加 えて,卵 子 回 収 まで の 卵 巣 の 保 管 時 間(3時 間 に対 し,6お よ び9時 間),培 養 小 滴 当 た りの卵 子 数(6-10個 に対 し,1-5個 お よ び11-15個),培 養 液 に添 加 す る血 清 成 分(10% ウ シ胎 子 血 清 に対 し,0.4%ウ シ血 清 ア ル ブ ミ ン 及 び血 清 成 分 無 添 加),培 養 気 相(5%CO、95% 空 気 に対 し,5%CO2 5%02 90%N2)の 影 響 を調 べ た 。
ウマ卵子 の採取 と体外成熟147
Table 1, Influence of experimental seasons and breeds of ovary donors on the recovery rate of equine oocytes from slaughtered ovaries
Fig. 1. Relationship between age of ovary donors and oocyte recovery in two different breeds •›
: Light horse, • : Draft horse, Closed symbols, •œ or •¡, represent the
means. 3.統 計 処 理 体 外 成 熟 にお け る各 試 験群 間 の 有 意 差 の有 無 は x2一 検 定 に よ り検 定 した 。 結 果 ウ マ の屠 場 卵 巣 か らの卵 子 の 採 取効 率 に及 ぼす 試 験 季 節,な らび に卵 巣 の提 供 雌 馬 の 品 種 の 影 響 をTablelに 示 した。 卵 胞 吸 引法 で は 四季 を通 し て採 取 卵 子 数 は ほ とん ど変 動 しな か った(卵 巣 一 個 当 た り1.3-1.6個)が,卵 胞 吸 引 に 続 い て 行 っ た卵 巣 細 切 法 で は春 季 と冬 季 の卵 巣 か ら効 率 よ く 卵 子 が 回収 さ れ た。 そ の結 果,両 法 に よ り採 取 さ れ た卵 巣 一 個 当 た り卵 子 数 は春 季(3-5月)で 平 均5.8個,夏 季(6-8月)で3.6個,秋 季(9-11月)で4.0個,そ し て 冬 季(12-2月)で5 .1個 と季 節 に よ る 差 が 認 め ら れ た 。 ま た,軽 種 馬 (400-550kg)よ り も重 種 馬(700-1200kg)の 卵 巣 か らの ほ うが 卵 胞 吸 引 法,卵 巣 細 切 法 の い ず れ に お い て も多 くの 卵 子 が 採 取 され た(卵 巣 一 個 当 た りそ れ ぞ れ4.4個,7.6個)。3歳 か ら10歳 以 上 の範 囲 で そ れ ぞ れ の 品 種 の 年 齢 を分 類 して卵 子 採 取 率 を調 べ た と こ ろ,す べ て の 年 齢 層 に お い て卵 子 採 取 率 の 平均 は重 種 馬 が 軽 種 馬 よ り優 れ て い た (Fig.1)。 しか し個 体 変 動 が 非 常 に大 き く,そ の 変 動 幅 は卵 巣一 個 当 た り0.5個 か ら最 高 は27.5個 まで に至 っ た 。 ウ マ の 年 齢 と卵 子 採 取 率 との あ い だ に は と くに相 関 関 係 は認 め られ なか った 。 採 取 さ れ た卵 子 の体 外 成 熟 率 に影 響 を及 ぼす 諸 要 因(試 験季 節,ウ マ の 品種,屠 殺 か ら卵 子 採 取 まで の 時 間,培 養小 滴 当 た りの 卵 子 数,培 養 液 中 の血 清 成 分,培 養気 相)に つ い てTable2に 示 し た。 春 季 と冬 季 の体 外 成 熟 率(そ れ ぞ れ55.5%, 58.3%)は 夏 季 や 秋 季 の そ れ(そ れ ぞ れ64.4%, 65.7%)と 比 較 し て 若 干 低 く な る傾 向 が あ っ た もの の,統 計 的 に有 意 な差 は認 め られ な か った 。 軽 種 馬 と重 種 馬 の い ず れ の卵 巣 か ら採 取 され た 卵 子 も同 じ割 合 で体 外 成 熟 す る こ とが で きた(そ れ ぞ れ53.7%,58.7%)。 屠 殺 か ら卵 子 採 取 ま で の 時 間 が3時 間 未 満 の と き体 外 成 熟 率 は62.3%で あ っ た の に対 し,6時 間 で45.0%,9時 間 で30.4% と時 間 の延 長 に つ き成 熟 率 は減 少 した 。培 養 小 滴 当 た りの卵 子 数 は そ れ らの成 熟 率 に影 響 しな か っ た(1-5個 の とき55.1%,6-10個 の と き56.3%, 11-15個 の と き50.8%)。 ウ シ胎 子 血 清 の 存 在 下 で は58.1%の 卵 子 が 成 熟 し た が,ウ シ 血 清 ア ル
148保 地 真 一,崔 龍 鎬,J .W.BRAUN他
Table 2. Factors affecting in vitro maturation of equine oocytes
a-b Different superscripts denote significant difference (p <0 .05). ブ ミ ン や 無 血 清 下 で さ え そ れ ぞ れ62.1%,65.3 %成 熟 率 が 得 られ た 。 培 養 気 相 は 体 外 成 熟 に 影 響 し な か っ た(5%CO2 95%空 気 で60.6%に 対 し, 5%CO2 5%CO2 90%N2 で53 .6%の 成 熟 率)。 考 察 本 実 験 で ウマ 卵 巣 の供 給 を受 け た熊 本 市 食 肉 セ ン タ ー で は1992年 度 に屠 殺 され た ウ マ5 ,540頭 の う ち雌 馬 が 約45%を 占 め る。 品 種 別 に は重 種 馬 が82%と 最 も多 く,続 い て 軽 種 馬(16%),小 型 馬(2%)の 順 とな る。 季 節 変 動 に 関 して は試 験 期 間 内 にお い て 体 外 成 熟 の み の実 験 に 用 い た と き の 記 録 を抜 粋 し た もの で,約400頭 分 の卵 巣 か ら の 結 果 が集 計 され た。 卵 子 の採 取 率 は冬 季 一春 季 (12-5月)の 方 が 夏 季 一秋 季(6-11月)に 比 べ て 高 い傾 向 が 認 め られ た。 卵 胞 吸 引法 で の卵 子 の採 取 率 は一 定 の 範 囲 で 推 移 した が,卵 巣 細 切 法 で は 冬 季 一春 季 に 多 くの卵 子 が 採 取 さ れ る傾 向 に あ っ た 。 卵 胞 吸 引 法 で は比 較 的 大 きな卵 胞 か らの卵 子 が 採 取 され るの に対 し,卵 巣 細 切 法 で は卵 巣 の 内 部 に潜 在 す る小 さ な卵 胞 か らの卵 子 採 取 が 可能 と な る。 繁 殖 季 節 期 間 中 で活 発 に動 い て い る優 性 卵 胞 の 存 在 下 で は比 較 的 小 さ な卵 胞 の発 育 は抑 制 さ れ て い るの か も しれ な い。 品種 の比 較 か ら,重 種 馬 と軽 種 馬 との あ い だ で卵 子 の採 取 率 に差 が認 め られ た 。 屠 殺 され る とき の ウ マ の年 齢 は一 般 に重 種 馬 よ り も軽種 馬 の ほ うが 高 か っ た が,ウ マ の 年 齢 と卵 子 の 採 取 率 との あ い だ に は何 ら相 関 は認 め られ なか った 。 した が っ て,こ の違 い は 品種 そ の もの の 遺 伝 的 背 景 と関 係 す る よ うに考 え られ る。 しか し,そ れ ぞれ の品 種 で屠 殺 に至 る過 程 に は解 析 困 難 な よ り多 くの要 因(飼 養 環 境,繁 殖 経 歴, 屠 殺 理 由 な ど)を 含 ん で お り,そ れ らが卵 子 の採 取 率 に影 響 し て い る可 能 性 は除 外 で きな い。 我 々 は ウマ 卵 子 の体 外 成 熟 法 と して,卵 胞 吸 引 法 と卵 巣 細 切 法 の両 方 に よ り採 取 した 緊密 な卵 丘 細 胞 に包 まれ た 卵 子 をTCM199に ウ シ胎 子 血 清 と ホ ル モ ン(FSHとE2)を 添 加 した 培 養 液 に お い て32時 間 培 養 す る とい う方 法 〔1〕を採 用 して い る。 各 試 験 季 節 に お け る体 外 成 熟 率 は最 も高 い秋 季 と最 も低 い 春 季 の間 に は統 計 的 な有 意 差 はな か っ た が 約10%の 差 が 認 め られ た 。 雌 牛 で は 季 節 変 化 は ホル モ ン動 向 に影 響 を及 ぼ し,冬 期 間 は血 中 の プ ロ ラ ク チ ン 〔16〕の 濃 度 が 低 下 す る。 ウ サ ギ 卵 子 の 体 外 成 熟 培 地 ヘ プ ロ ラ ク チ ン を添 加 す る と体 外 受 精 後 の 胚 の発 生 率 が 向上 す る とい う報 告
ウマ卵子 の採取 と体 外成熟149 〔20〕も あ り,季 節 に よ っ て 変 動 す る生 殖 ホ ル モ ンが卵 胞 の発 育 や卵 子 の成 熟 に影 響 を及 ぼ す 可 能 性 が考 え られ る。 また,卵 巣 の保 管 時 間 が3時 間 を越 え る と卵 子 の そ の後 の 成 熟 に影 響 を及 ぼ した 。 ウ シ卵 巣 を37℃ で3時 間 以 上 保 管 す る と体 外 受 精 後 の卵 子 の 分割 能 や 胚 盤 胞 へ の 発 育 能 に影 響 す る と い う報 告 が あ る 〔14〕。 一 方,卵 巣 の 保 管 温 度 を24℃ 程 度 に ま で 下 げ て 維 持 す れ ば,ウ シ の 卵 巣 は卵 子 採 取 を開 始 す る まで8時 間以 上 維 持 で き る こ とが 報 告 さ れ て い る 〔19〕。 そ れ ゆ え ウ マ の 卵 巣 の 場 合 も保 管 温 度 の設 定 を低 くす れ ば よ り長 い 時 間 卵 巣 を保 管 す る こ とが 可 能 とな るか も しれ な い。 培 養 小 滴 当 た りの 卵 子 数(卵 子 密 度)は1 か ら15個 まで の 範 囲 で そ の 体 外 成 熟 率 に影 響 を 及 ぼ さ な か っ た。 この結 果 は ウ マ の個 体 単 位 で 回 収 さ れ た卵 子 を体 外 成 熟 に供 す る こ と を容 易 にす る。 一 方 ウ シ卵 子 の体 外 成 熟 にお い て卵 子 密 度 が 高 す ぎ る(培 養 小 滴 当 た り30個 以 上)と 体 外 成 熟 率 ・体 外 受 精 率 と も に低 下 す る こ とが 報 告 され て い る 〔7〕。 ウマ 卵 子 は ウ シ卵 子 で の 報 告 〔ll〕と 同様 に培 養液 中 の血 清 成 分 の 有 無 に係 わ らず 体 外 で成 熟 す る こ とが で きた 。 しか し,こ の結 果 は成 熟 や 受精 の 現 象 を解 析 す るた めの よ り簡 単 な人 工 合 成培 地 を提供 す る可 能 性 を示 唆 す る もの で,ウ マ 卵 子 の 体 外 成 熟 に とっ て血 清 成 分 が 必 要 で は な い と結 論 す る もの で は な い。 血 清 中 に は受 精 後 の 胚 発 育 の 段 階 で 影 響 とし て現 れ て くる様 々 な ホ ル モ ンや 成 長 因 子 が 含 ま れ て い る 〔10〕。 さ ら に無 血 清 条 件 下 で体 外 成 熟 した マ ウ ス卵 子 の透 明帯 は 硬 化 して 受 精 率 が低 下 す る こ とが 報 告 さ れ 〔3〕, 血 清 中 の フ ェ チ ュ イ ンが透 明帯 の硬 化 防 止 に 有効 で あ る ら し い 〔12〕。 調 べ た2種 類 の 培 養 気 相 は 異 な る酸 素 濃 度 を提 供 す る。 ウマ卵 子 の体 外 成 熟 また は体 外 受精 の過 程 にお け る酸 素 濃 度 の 影 響 に つ い て の報 告 は な い 。体 外培 養 で は,ウ シの 体 外 成 熟 ・体 外 受 精 卵 は低 酸 素濃 度 の5%CO2 5%0 2 90%N2の 気 相 下 で は ウ シ卵 管 上 皮 細 胞 と共 培 養 す る こ とな し に胚 盤 胞 へ と発 育 で き るが,共 培 養 す る と きは5%CO2 95%空 気 の気 相 が 必 要 とな る こ とが 報 告 され て い る 〔8〕。 細 胞 の種 類 や 絶 対 数 に よ って 要 求 され る気 相 が 異 な っ て い る可 能 性 が あ るが,卵 丘 細 胞 と卵 母 細 胞 の複 合 体 と して の ウマ 卵 子 の体 外 成 熟 率 に は気 相 は影 響 しな か った 。 卵 子 の体 外 成 熟 は そ の後 の受 精 能 や胚 の 発 育 能 と密 接 に 関連 して い る。 本 実験 で 得 られ た 体 外 成 熟 ウ マ卵 子 の正 常 性 を受精 や そ の 後 の 発 育 を通 し て調 べ て い くこ とが今 後 の課 題 で あ る。 要 約 ウ マ の屠 場 卵 巣 か らの 卵 子 の 採 取 効 率,な らび に それ らの体 外 培 養 に お け る第2減 数 分 裂 中 期 へ の成 熟 率 に影響 を及 ぼす 要 因 を検 討 し た。 卵 胞 吸 引 法 で は1年 の試 験 期 間 を通 し て一 定 の 卵 子 数(卵 巣 当 た り1.3-1.6個)が 採 取 さ れ た が, 卵 胞 吸 引 に続 い て行 っ た卵 巣 細 切 法 で は春 季 と冬 季 の 卵 巣 か ら効 率 よ く卵 子 が 回収 さ れ た。 両 法 に よ り採 取 され た一 卵 巣 当 た り卵 子 数 は,春 季(3 -5月)で 平 均5 .8個,夏 季(6-8月)で3.6個, 秋 季(9-ll月)で4.0個,冬 季(12-2月)で5.1 個 とな っ た。 ウ マ の 品種 に 関 して は軽 種 馬 よ りも 重 種 馬 の卵 巣 か ら多 くの卵 子 が採 取 され た(卵 巣 一個 当 た りそ れ ぞ れ4 .4個,7.6個)。 い ず れ の 品 種 に お い て も屠 殺 時 の ウマ の 年齢 は卵 子 の 採 取 率 に影 響 を及 ぼ さ な か っ た 。 春 季 と 冬 季 の 体 外 成 熟 率(そ れ ぞ れ55.5%, 58.3%)は 夏 季 や 秋 季 の そ れ(そ れ ぞ れ64.4%, 65.7%)と の あ い だ に 有 意 な 差 は な か っ た が, 若 干 低 くな る傾 向 が 認 め られ た 。 軽 種 馬 と重 種 馬 か ら 採 取 さ れ た 卵 子 の 体 外 成 熟 率 に は 差 は 認 め ら れ な か っ た(そ れ ぞ れ53.7%,58.7%)。 卵 巣 の 保 管 時 間 に つ い て は ウ マ の 屠 殺 か ら卵 子 採 取 ま で の 時 間 が3時 間 の と き の 卵 子 の 成 熟 率 は62.3% で あ っ た の に 対 し,6時 間 で45.0%,9時 間 で 30.4%に 低 下 し た 。 培 養 小 滴 当 た り の 卵 子 数 は そ れ ら の 成 熟 率 に 影 響 を 及 ぼ さ な か っ た(卵 子 数 が1-5個 の と き55.1%,6-10個 の と き56.3%, 11-15個 の と き50.8%)。 ウ シ 胎 子 血 清 の 存 在 下 で は58.1%の 卵 子 が 成 熟 し た が,ウ シ 血 清 ア ル ブ ミ ン や 無 血 清 下 で さ え そ れ ぞ れ62.1%,65.3 %の 成 熟 率 が 得 ら れ た 。 培 養 気 相 は 成 熟 率 に 影 響 を 及 ぼ さ な か っ た(5%CO295%空 気 で60.6%に 対 し,5%CO2 5%02 90%N2 で53.6%)。
150保 地 真 一 ,崔 龍 鎬,1.W.BRAUN他 謝 辞 帯広畜産 大学総 合馬学 講座 にお け る研究 は 日本 中央 競 馬会か らの研究費 の支援 を受 けて行 なわ れてい ます。 記 して謝意 を表 し ます。 また,ウ マ卵巣 の供 給 に御 協 力頂 きま した熊本 市食 肉衛生検 査所 の諸氏 に感 謝致 し ます。 引用文献
1. Choi, Y, H., Hochi, S., Braun , J., Sato, K., and Oguri, N. (1993). In vitro maturation of equine oocytes col lected by follicle aspiration and by the slicing of ovaries .
Theriogenology 40 : 959-966.
2. Del Campo, M . R., Donoso, M . X., Parrish, J. J., and Ginther, O .J. (1990). In vitro fertilization of in vitro matured equine oocytes. Equine Vet. Sci. 10 :18-22 . 3. Eppig, J. J., Wigglesworth, K., and O'brien , M. J.
(1992). Comparison of embryonic developmental competence of mouse oocytes grown with and with out serum. Mol. Reprod. Dev. 32 : 33-40.
4. Fulka, J. Jr. and Okolski, A. (1981). Culture of horse oocytes in vitro. J. Reprod. Fertil. 61: 213-215. 5. Goto, K., Kajihara, S., Kosaka , S., Koda, M., Nakani
shi, Y., and Ogawa, K. (1988). Pregnancies after co culture of cumulus cells with bovine embryos der ived from invitro fertilization of in vitro matured fol licular oocytes. J. Reprod. Fertil. 83 : 753-758 . 6. Kainer, R. A. (1993). Reproductive organs of the
mare. In : Mckinnon, A. O. and Voss , J. L. (eds.), Equine Reproduction, pp. 5-19, Lea & Febiger, Philadelphia.
7. Leibfried-Rutledge, M. L., Critser, E. S., Parrish , J. J., and First, N. L. (1989). In vitro maturation and ferti lization of bovine oocytes. Theriogenology 31: 61-74 . 8. Nagao, Y., Saeki, K., Hoshi, M., and Kainuma , H.
(1993). Effect of oxygen concentration on the devel opment of in vitro matured and fertilized bovine oocytes cultured in a protein-free medium. Theriogenology 39 273 (abstr.).
9. Palmer, E., Bezard, J., Magistrini ,M., and Duchamp, G. (1991). In vitro fertilization in the horse . A retro
spective study. J. Reprod. Fertil. Suppl. 44 : 375-384. 10. Reed, M. L., Estrada, J. L., Illera, M . J., and Petters
R. M. (1993). Effects of epidermal growth factor ,
insulin - like growth factor - I, and dialyzed porcine follicular fluid on porcine oocyte maturation in vitro. J. Exptl. Zool. 266 : 74-78.
11. Saeki, K., Hoshi,M., Leibrfried-Rutledge, M. L., and First, N. L. (1991). In vitro fertilization and develop ment of bovine oocytes matured in serum - free medium. Biol. Reprod. 44 : 256-260.
12. Schroeder, A. C., Schultz, R. M., Kopf,G. S., Taylor, F. R., Becker, R. B., and Eppig, J. J. (1990). Fetuin inhibits zona hardening and conversion of ZP2 to ZP2f during spontaneous mouse oocyte maturation in
vitro in the absence of serum. Biol. Rep rod. 43 : 891-897. 13. Shabpareh, V., Squires, E. L., Seidel Jr., G. E., and
Jasko, D. J. (1992). Methods for collecting and maturing equine oocytes in vitro. Proc. 12th Intern. Congr. Anim. Reprod . pp. 375-377.
14. Shioya, Y., Kuwayama, M., Ueda, S., Saitou, S., Oota, H., and Hanada, A. (1988). Effect of the time between slaughter and aspiration of follicles on the developmental capability of bovine oocytes matured and fertilized in vitro. Jpn J. Anim. Re/,rod. 34 : 39-44. 15. Sirard, M. A., Parrish, J. J., Ware, C. B., Leibfried - Rutledge, M. L., and First, N. L. (1988). The culture
of bovine oocytes to obtain developmentally competant embryos. Biol. Reprod. 39 : 546-552.
16. Tucker, H. A. (1982). Seasonality in cattle. Ther iogenology 17 : 53-59,
17. Willis, P., Caudle, A. B., and Fayrer-Hosken, R. A. (1991). Equine oocyte in vitro maturation : influence of sera, time, and hormones. Mol. Reprod. Dev. 30 : 360 -368 .
18. Xu, K. P., Greve, T., Callesen, H., and Hyttel, P. (1987). Pregnancies resulting from cattle oocytes matured and fertilized in vitro. J. Reprod. Fertil. 81: 501-504.
19. Yang, N. S., Lu, K. H., and Gordon, I. (1990). In vitro fertilization (IVF) and culture (IVC) of bovine oocytes from stored ovaries. Theriogenology 33 : 352 (abstr).
20. Yoshimura, Y., Hosoi, Y., Iritani, A., Nakamura, Y., Atlas, S. J., and Wallach, E. E. (1989). Developmental potential of rabbit oocytes matured in vitro : the possible contribution of prolactin. Biol. Reprod. 40 : 26 -33 .
21. Zhang, J. J., Muzs, L. Z., and Boyle, M. S. (1990). In vitro fertilization of horse follicular oocytes matur ed in vitro. Mol. Reprod. Dev. 26 : 361-365.