緒 言 Computed tomography(CT)画像を用いた放射線治 療計画の精度に関わる要因の一つに,金属アーチファ クトの影響がある1, 2).人工関節などの体内金属を有 する場合,金属アーチファクトが生じるため正しい CT 値が得られず,また標的体積の輪郭抽出も困難に なる.このため,体内金属の周辺および金属アーチ ファクトが発生した領域を通過した照射ビーム上の線 量計算の精度は低下する.この影響を抑えるため,金 属アーチファクト低減処理を伴う画像再構成処理によ り得られた CT 画像を治療計画に用いる検討が行われ ている1~6).しかし,金属アーチファクト低減処理を 用いても,その効果が十分に得られない場合があり7), すべての症例に金属アーチファクト低減処理が有効と なるわけではない.そこで臨床では,金属アーチファ クトの領域を抽出し軟部組織や水などの CT 値に置き 換える処理が行われる場合が多い8, 9).領域の抽出の 仕方や置き換える CT 値は線量計算の精度に影響を与 えるため10),その妥当性に関する検討が必要となる. そのような検討を行うための一つの方法として,CT 画像シミュレーション技術11~14)の適用が考えられる. 金属アーチファクトの有無を CT 画像シミュレー
放射線治療計画用 CT 画像における
金属アーチファクトの簡易生成法の研究:
ファントムを用いた検討
麦嶋大輔 成田啓廣 大久保真樹
新潟大学大学院保健学研究科放射線技術科学分野 論文受付 2020 年 4 月 15 日 論文受理 2021 年 2 月 5 日 Code No. 251A Simple Method for Computationally Generating Metal Artifacts in CT Images for
Treatment Planning: A Pilot Phantom Study
Daisuke Mugishima, Akihiro Narita,* and Masaki Ohkubo
Department of Radiological Technology, Graduate School of Health Sciences, Niigata University
Received April 15, 2020; Revision accepted February 5, 2021
Code No. 251
Summary
Purpose: In treatment planning for radiation therapy, the use of computed tomography (CT) images including
metal artifacts causes a reduction in the dose calculation accuracy. In clinical practice, the artifacts are manually contoured and assigned an appropriate fixed CT number. To validate the procedure, images taken before and after metal insertion into a patient are required, which may be impractical. We propose a simple method for computationally generating metal artifacts in clinical images. Methods: In the proposed method, a clinical image free of metal artifacts is used. To simulate metal inside a patient, CT numbers of a region in the image are replaced with a fixed extremely high value. A sinogram is created by the forward projection of the image. Data values of the sinogram in the metal region are converted into smaller values. From the sinogram, an image including artifacts is reconstructed with the filtered back projection. Results: The simulated artifacts consisted of dark and bright bands and were observed to be similar to the actual metal artifacts. CT numbers in multiple small regions of interest in the image obtained by the proposed method showed a good agreement with those in the actual image. Conclusion: The proposed method was demonstrated to generate the metal artifacts additionally on the clinical images. The method would be potentially applicable to a validation study for the clinical procedure of manually contouring and assigning CT numbers to metal artifacts.
Key words: computed tomography (CT), metal artifact, forward projection, sinogram, filtered back projection
*Corresponding author
への適用は難しい. これまでに,構造や組成を単純化した被写体を仮定 し,簡易的な画像シミュレーションにより金属アーチ ファクトを発生させた報告がある3~6).それらの報告 では金属アーチファクト低減処理法の評価を目的とし て,処理前後の画像を比較しアーチファクトの低減効 果を調べるものが多く,発生させたアーチファクトが 実際の CT 画像のアーチファクト(真値)に近い妥当な ものであるかについて詳細に検討した報告はみられ ない. 本研究の目的は,放射線治療計画用 CT 画像に金属 アーチファクトを生成するための簡便な手法を考案す ることである.考案法は元にする画像に金属領域を付 加し,その投影データ(サイノグラム)の金属領域にお ける値の一部を低減することにより金属アーチファク トを発生させるものである.手法の妥当性を検証する ために,金属を含むファントムを撮影した画像におけ る実際のアーチファクトと考案法により生成したアー チファクトの比較を行った. 1.方 法 1-1 使用機器・撮影条件
CT 装置は SOMATOM Force(Siemens Healthcare, Erlangen, Germany)を用いた.電子密度ファントム (Model 062 型; CIRS,Norfolk,VA,USA)と人体ファ ントム(LSCT ファントム,京都科学社,京都)の 2 種 類のファントムを用いて撮影を行った.撮影条件はい ずれのファントムにおいても,管電圧 120 kV,管電流 300 mA,ローテーション時間 1.0 s,スライス厚 2 mm, ヘリカルピッチは 0.6 である.画像再構成条件は field of view(FOV)500 mm,matrix 512´512 pixels,再構 成関数は腹部における標準的な関数である Bf44s と した.
考案法の開発や画像解析・データ処理等は数値計算 言語 MATLAB(MathWorks, Natick, MA, USA)を用 いた.順投影処理(radon 変換)は MATLAB 組み込み 関数である radon 関数(平行ビーム投影,view 数: 720)を用いた.また,フィルタ補正逆投影(filtered られている15).この中で,考案法では線質硬化および 光子の欠乏に着目した.金属により著しい X 線の線 質硬化が生じると X 線の透過力が増加するため,金 属透過後の被写体内での減弱は少なくなり,理論的な 単色 X 線で撮影した(線質硬化を無視した)場合より も多い線量が検出器へ入射することとなる16, 17).ま た,金属による著しい光子の減弱によって検出器に入 射する線量が極端に少なくなり,ノイズの影響が相対 的に大きくなる.検出器では,入射線量に応じた出力 信号が得られる.この出力信号から算出した X 線透 過率は,投影データ算出のために対数変換される.対 数変換では 0 や負値を扱えないため,雑音を含む出力 信号が負値(および 0)となる場合には強制的に出力信 号を正値に置換するクランプ処理が行われる.入射線 量が極端に少なくなっていくと,ノイズの影響によっ て出力信号は負値となる場合が多くなりクランプ処理 が頻繁に行われるようになる18, 19).これにより,検出 器の入出力特性において入射線量が一定に減少する場 合でも,出力信号は直線的な減少ではなく徐々に緩や かな減少となる傾向を示す(入射線量が 0 のときでも 出力信号は正の値をもつ).すなわち,入射線量が極 端に少ない場合には,入射線量の減少に応じて,検出 器の出力信号は直線的な減少を示さなくなり,やや高 い値となる.以上で述べた線質硬化および光子の欠乏 はいずれも検出器における出力信号を増加させる方向 に作用するため,X 線の減弱による投影データ(投影 値)の増加が妨げられることになる.考案法はこれら の現象を再現するために,CT 画像のサイノグラム領 域において投影値に低減処理(次項 1-2-2 の式(3))を 加える.すなわち,金属を含まない元画像に金属領域 (高 CT 値)を付加し,そのサイノグラムの金属領域に おける値を低減することにより金属アーチファクトの 生成を行うものである.
考案法の各処理過程を Fig. 1 に示す.元画像(Iorig
とする)上で金属の領域を設定し,その領域の CT 値
を金属の CT 値に置き換える(画像 Imetとする).ま
た,Imetの金属の領域を表す 2 値化画像(画像 Imaskと
イノグラム(Pmetとする)を算出する.同様に Imaskに 順投影処理を行うことでサイノグラムを算出し,更に 閾値処理を加えることによりサイノグラム上で金属領 域に相当する領域を表す 2 値化画像(マスク画像 Pmask とする)を作成する.Pmetに Pmaskを用いてマスク処理 を行い,金属領域が除かれたサイノグラム(Pbaseとす る)および金属領域のサイノグラム(Ppreとする)を生 成する.Ppreに四つの式で表される変換処理(次項 1-2-2 を参照)を行うことで投影値の減少したサイノグ
ラム(Ppostとする)を算出する.Ppostを Pbaseに挿入す
ることにより新たなサイノグラム(Partとする)を得
る.Partにフィルタ補正逆投影処理を加え画像を算出
する(Iartとする).Iartは,元画像 Iorig上に金属とアー
チファクトが生成された画像となる. 1-2-2投影値変換処理 サイノグラム Ppreから Ppostを算出するための投影 値変換処理の詳細について説明する.以下,サイノグ ラム座標系は(s, θ)で表し,s は検出器(総数 2n + 1) の位置(-n, …, -1, 0, 1, …, n),θは投影角度(0°£θ< 360°)とする.Figure 2 に投影値変換処理過程の概略 を示す.Ppre(s, θ)の 1 例を Fig. 2a に示す.被写体 として撮影領域中心に位置する一様な円形を想定し, そのサイノグラムを F(s)とする(Fig. 2b).F(s)はθ に依存しない関数であり,次式(1)により定義する.
Fig. 1 Block diagram of the proposed method for metal artifact generation.
The Iorigis an original clinical image not including metal artifacts. The Imetis obtained by replacing CT numbers in a region (indicated
in the Imask) with a fixed extremely high value. The Pmetis obtained from Imetby the forward projection (FP), and the Pmaskis obtained
from Imaskby the forward projection and thresholding. Using Pmetand Pmask,the Pbaseexcluding the metal region from Pmetand the Ppre
including the metal region are only obtained. The Ppostis obtained from Pprewith a conversion process (see Eqs. 1–4) and is added into
Pbase,resulting in the Part. Finally,an image (Iart) including artifacts is reconstructed with the filtered back projection (FBP) of Part.
Fig. 2 Schematic representation of the conversion process shown in Fig. 1.
(a) The sinogram Ppre(upper) and an example of the value profile (lower) along the dashed horizontal line in Ppre.
(b) The F (upper) is determined by parameters a and b (see Eq. 1) and the value profile (lower) along the dashed horizontal line in F. (c) The Psub1(upper) obtained by subtracting F from Ppre, and the value profile (lower) along the dashed horizontal line in Psub1.
(d) The Psub2is obtained from Psub1by an exponential function with a parameter c (Eq. 3).
(e) The Psub2(upper) and the value profile (lower) along the dashed horizontal line in Psub2.
(f ) The modified sinogram Ppost(upper) is obtained by adding Psub2 to F, and the value profile (lower) along the dashed horizontal line
in Ppost.
次に,式(3)により Psub2(s, θ)を算出する.
………(3) 式(3)の算出過程の概略を Fig. 2d に示す.c は指数 関数の収束値を決定する調整パラメータである.Psub2 (s, θ)を Fig. 2e に示す.最後に,式(4)を用いて Ppost (s, θ)を算出する. (4) 算出された Ppostは元の Ppreにおける投影値が F(s) を超える場合にその値を低減したサイノグラムとなる (Fig. 2f).この投影値の低減処理により金属アーチ ファクトを生成する.以上の処理過程における三つの パラメータ(a, b, c)の最適化について次項 1-2-3 で説明 する. 1-2-3 パラメータの最適化 電子密度ファントムには円柱形のロッドを挿入でき る空洞があり,まず左右の空洞に皮質骨相当の電子密 度を有するロッドを挿入して CT 撮影を行った.得ら れた画像を元画像として用いた.次に左のロッドを鉄 製のものに換えて撮影を行った.この画像には金属 アーチファクトが生じており,これを真の金属アーチ ファクト画像(真値画像)とした. 得られた元画像を考案法の Iorigとして用いた.挿入 した鉄製のロッドの領域を抽出し Imaskおよび Imetを 作成した.Imetにおける金属の領域は,X 線の実効エ ネルギー(60 keV),鉄の密度(7.8 g/cm3)および質量 減 弱 係 数 (米 国 標 準 技 術 局 NIST XCOM:Photon Cross Sections Database よ り20)) を 仮 定 し,43000 Hounsfield units(HU)の画素値とした.前項 1-2-1 お よび 1-2-2 に示した考案法の手順により,金属アーチファクトが発生した画像 Iartを算出した.このとき,
Iartと真値画像の差が最小となるように三つのパラ
メータ(a, b, c)を最適化した.画像の差は金属領域を 除いた画像全体の root mean square error(RMSE)に
よって評価し,最適化は MATLAB 組み込み関数であ る fminsearch 関数(最適化計算アルゴリズム:シンプ レックス探索法)を用いた.ここで最適化した三つの パラメータを次項 1-3 に適用した. 1-3 考案法の検証 人体ファントム(Fig. 3)を用いて考案法の検証を 行った.人体ファントム中心部には指頭型電離箱を挿 入するための空洞があり,まず空洞の状態のまま撮影 し画像を得た(これを元画像とした).次に,ファント ムの中心部の空洞に鉄製の金属柱を挿入した状態で撮 影を行った.この画像には金属アーチファクトが生じ ており,これを真の金属アーチファクト画像(真値画 像)とした. 得られた元画像を考案法の Iorigとして用いた.挿入 した鉄製の金属柱の領域を抽出し Imaskおよび Imetを 作成した.Imetにおける金属の領域は 43000 HU の画 素値とした.前項 1-2-3 で最適化された三つのパラ メータ(a, b, c)を用いて考案法により Iartを算出した. 得られた Iartを真値画像と定性的および定量的に比較 した.定量的な比較では,Fig. 3 に示す関心領域(re-gion of interest: ROI)を用いた.1 辺が 10 ピクセルの 小正方形 ROI を計 60 個(ROI No. 1-60)用いた(金属を
含む領域は除外した).Iorig,真値画像および Iartそれぞ
れにおいて各 ROI の画素値の平均値を求め比較した.
Fig. 3 CT image of anthropomorphic abdominal phantom with an iron rod inserted into the cavity.
The image is presented at a window level of 0 HU and a window width of 500 HU. Multiple small square regions of interest (ROIs) were placed and numbered sequentially from 1 to 60 (the regions containing the metal were excluded beforehand as shown in the figure). The size of each small ROI was 10´10 pixels (approximately 9.8´9.8 mm). The mean CT number in each ROI was measured.
また,各画像における CT 値プロファイルを比較し, 更に,一様な領域に ROI を設定し CT 値の変動を標 準偏差(standard deviation: SD)により評価した. 2.結 果 2-1 パラメータの最適化 電子密度ファントムを用いて投影値変換処理におけ る三つのパラメータを最適化した結果,パラメータは それぞれ,a=2.53´105,b=3.15´102,c=2.01´106となっ た.Figure 4 に最適化に用いたファントム画像 Iorig (Fig. 4a),真値画像(Fig. 4b),および最適化したパラ メータを用いて考案法により算出した画像 Iart(Fig. 4c)を示す.Iartにおいて,主に金属と空洞を結ぶ線上 の領域に金属アーチファクトが発生する傾向がみら れ,真値画像と同様の傾向であった. 2-2 考案法の検証 人体ファントムを用いた考案法の検証結果を Fig. 5 に示す.撮影により得られた真値画像では,ファント ム中央の空洞に挿入した金属柱の影響により金属アー チファクトが発生している(Fig. 5b).考案法により 算出した画像 Iartは,金属アーチファクトの生じる方 向や形状および強度が真値画像と類似したものになっ ている(Fig. 5c).ただし,真値画像で観察される非常 に細かいストリーク状のアーチファクトは Iartではみ られない.各画像の ROI(Fig. 3)における CT 値を比 較した結果を Fig. 6 に示す.元画像 Iorigと真値画像を 比較すると CT 値の差の絶対値は平均で 14.3 HU で あった.真値画像で金属アーチファクトが強く発生し ている ROI(No. 40)では,差は最大(83.8 HU)となっ た.一方,Iartと真値画像を比較すると CT 値の差の 絶対値は平均で 3.6 HU であり,最大で 22.7 HU(ROI No. 33)であった.画像の CT 値プロファイルを比較 した結果を Fig. 7 に示す.垂直方向のプロファイル (Fig. 7 中段)において,ダークバンド領域における CT 値の低下の傾向が真値画像(Fig. 7b 中段)と考案
Fig. 4 Optimization of parameters (a, b, c) used in the conversion process shown in Fig. 2. (a) CT image of the electron density phantom including rods in the left and right sides
with an electron density corresponding to that of cortical bone.
(b) CT image of the phantom with a replacement of the rod in the left side with an iron rod, which generates metal artifacts.
(c) Image calculated by the proposed method from the image in (a), which includes simulated artifacts.
All images are presented at a window level of 0 HU and a window width of 500 HU. The parameters are optimized so that the simulated artifacts are close to actual artifacts in the image in (b).
Fig. 5 Results of the proposed method.
(a) CT image of the anthropomorphic abdomen phantom.
(b) CT image of the phantom with an iron rod inserted into the cavity, which includes actual metal artifacts.
(c) Image calculated by the proposed method from the image in (a), which includes simulated artifacts.
All images are presented by a window level of 0 HU and a window width of 500 HU.
a b c
Fig. 6 Comparison of simulated metal artifacts with actual ones.
Mean CT numbers in ROIs (numbered 1-60) indicated in Fig. 3 are shown for the original image [Fig. 5a], the image including actual metal artifacts (Fig. 5b), and the image including simulated artifacts (Fig. 5c).
Fig. 7 Comparison of CT number profiles and CT number standard deviations (SDs).
(a) The original image (upper) (corresponding to the image in Fig. 5a), the CT number profile (middle) corresponding to the dashed vertical line in the image, and the profile (lower) along the dashed horizontal line.
(b) The image including actual metal artifacts (upper) (corresponding to the image in Fig. 5b), the profile (middle) along the dashed vertical line in the image, and the profile (lower) along the dashed horizontal line.
(c) The image including simulated artifacts (upper) (corresponding to the image in Fig. 5c), the profile (middle) along the dashed vertical line in the image, and the profile (lower) along the dashed horizontal line. Values of CT number SDs are measured in elliptical ROIs indicated in the images.
All images (upper) are presented at a window level of 0 HU and a window width of 500 HU.
法による画像(Fig. 7c 中段)で類似している.水平方 向のプロファイルは,真値画像において細かいスト リーク状のアーチファクトがみられる領域におけるも のであるが(Fig. 7b 下段),各画像のプロファイルに は大きな差異はみられず,ノイズと同程度の CT 値の 変動であった.各画像の楕円形 ROI における CT 値 の SD は,元画像(Fig. 7a)では 10 HU,真値画像(Fig. 7b)では 12 HU,考案法による画像(Fig. 7c)では 11 HU であり,差異は少なかった. 3.考 察 考案法は元画像に金属領域(高 CT 値)を付加し,そ のサイノグラムの金属領域における値(投影データ値) を低減することにより金属アーチファクトを生成する ものである.低減処理に用いた変換関数は,投影値の 増加に伴って緩やかに一定値に収束する形状とした (式(3)).これは,金属による X 線の線質硬化および 検出器へ入射する光子の欠乏によって,投影値の増加 が頭打ちとなる傾向を再現したものである.また,低 減処理は金属領域における投影値(Ppre(s, θ))から F (s)(式(1))を減算した値(Psub1(s, θ))に対して行っ た.Psub1(s, θ)の正値のみが低減され,負値は不変と した(式(3)).すなわち,F(s)を超える投影値のみに 低減処理が加わるものである.投影値 Ppre(s, θ)は, 元画像の物質構成と付加した金属の両方を反映した値 となり,投影角度によって異なる.例えば元画像に骨 などの高原子番号物質を含む場合,骨と金属が重なる 角度の投影データは高値になる.このとき F(s)を超 える値は大きくなり,変換関数により大きく低減され る.また元画像に空気が含まれる場合,空気と金属が 重なる角度の投影データは骨と金属の場合よりも低値 となる.このとき F(s)を超える値は小さく,低減効 果も小さくなる.F(s)を用いることにより,元画像に おける物質構成を加味した投影値の低減処理を行うこ とができる.考案法では,これらの F(s)および変換 関数を最適化して用いることにより,実際の画像に近 い金属アーチファクトの生成が可能であったと考えら れる. 考案法では,真値画像で観察された非常に細かいス トリーク状のアーチファクトは生成されなかった (Fig. 5b).ただし,ストリーク状のアーチファクトが みられる領域のプロファイル(Fig. 7abc下段)および SD の比較結果から,ストリークによる画素値の変動 は周囲のノイズと同程度の大きさであり,今回の真値 画像におけるストリーク状のアーチファクトは軽微な ものであると考えられる.一般に治療計画における線 量計算を行う際には CT 画像上に計算グリッドを設定 し各グリッド内の画素値を平均化して扱う場合が多 く,画像ノイズや非常に細かいストリーク状のアーチ ファクトによる局所的な画素値の変動は線量計算に大 きな影響を及ぼす可能性は低いと予想される21, 22).そ こで,考案法と真値画像との比較評価では各画素値の 差に基づいた検討ではなく,線量計算に大きな影響を 及ぼす可能性の高い顕著な金属アーチファクトの評価 を目的として,ある程度の広さの領域(Fig. 3 の小 ROI)における平均値の差により評価した.その結果, 考案法と真値画像の小 ROI における平均値の差は平 均で 3.6 HU 程度の小さいものであることが確認さ れ,考案法が治療計画における精度評価に適用できる 可能性が示唆された. 考案法における投影値変換処理で用いられる F(s) (式(1))および変換関数(式(3))のパラメータは,電子 密度ファントムを用いて最適化した.最適化したパラ メータを人体ファントム画像に適用したところ,良好 な結果が得られた(Fig. 5~7).電子密度ファントム と人体ファントムは,いずれも人体の体幹部を想定し た大きさ・形状を有しているが,内部の構造や物質の 組成,金属の大きさや配置などは異なるものである. すなわち,電子密度ファントムを用いて最適化したパ ラメータを異なる被写体の元画像に適用し,実際に近 い金属アーチファクトの生成が可能であることが示さ れた.電子密度ファントムにはさまざまな強度や角度 のアーチファクトが発生しており(Fig. 4b),パラメー タの最適化が効果的に行われたものと思われる.臨床 画像と異なる構造のファントムを用いて最適化したパ ラメータを,そのまま臨床画像に適用できる可能性が 示唆された.今後,最適化に用いるファントムと臨床 画像の違いについて,許容できる差異を調査する必要 があると考える. 放射線治療計画における金属アーチファクト領域の CT 値置き換え処理の妥当性を評価するために,例え ば,人工関節を有する患者(A とする)と人工関節を有 しない別の被験者の CT 画像データ群の中から,人工 関節の領域を除いて A の画像と類似している画像を 選択し,考案法の元画像(Iorig)として用いる.元画像 に設定する金属領域は,A の人工関節に相当する領域 とする.考案法により,人工関節(高 CT 値)のみを含 んだ画像(Imet),および人工関節と金属アーチファク トの両方を含む画像(Iart)が得られる.人工関節と金 属アーチファクトの両方を含む画像を用いて CT 値置 き換え処理を伴った線量計算を行い,人工関節のみを 含んだ画像で行った線量計算の結果(真値)と比較
た CT 装置と同じメーカの装置における値(60 keV)23) と同等であると仮定し,Imetにおける金属(鉄)の CT 値を設定した.実効エネルギーの違いによって設定す る金属 CT 値に誤差が生じる可能性がある.しかし, 考案法では発生させる金属アーチファクトが実際の アーチファクト(真値)に近づくように投影値低減処理 に用いる変換関数の最適化が行われる.設定した金属 CT 値に誤差がある場合には,それを補って真値に近 づけるような変換関数が最適化により得られると考え られる.すなわち,金属 CT 値の誤差は変換関数によ りある程度吸収され,金属アーチファクトに与える影 響は少ないと推測される.予備的検討において金属 CT 値を変動させてもアーチファクトにほとんど影響 を及ぼさないことを確認しているが,詳細な検討は今 後の課題である. 近年,金属アーチファクト低減処理を伴う画像再構 成法が搭載された CT 装置が普及し始めている.治療 計画用 CT 画像への適用も試みられているが3),治療 計画を想定した場合,金属アーチファクトを低減し正 確な組織の CT 値を与えることがより重要となる.そ の評価のために,アーチファクト低減処理を伴う再構 成画像をアーチファクトのない画像(真値)と比較し CT 値の精度を評価する必要があるが,そのような検 討を臨床画像を用いて行うことは一般的に困難である (金属の有無を再現できない).そこでわれわれの考案 法の適用の可能性がある.金属を有さない患者の画像 (元画像)に考案法を適用することにより,投影値変換 処理後のサイノグラム Ppostが得られる.これを投影 データ(生データ)として CT 装置に戻し,金属アーチ ファクト低減処理を伴う再構成画像を生成する.生成 した画像を金属のない元画像(真値)と比較すればアー アーチファクトは生じる17).考案法における投影値変 換処理後の Ppost(s, θ)(式(4))にノイズを付加するこ とによってストリークアーチファクトの生成ができる と考えられる24).しかし生成されるアーチファクトは ランダムノイズに起因することから,アーチファクト の発生位置や強度がランダムとなり真値画像における ストリークアーチファクトを正確に再現することは難 しい.より精度の高い金属アーチファクトの生成のた めにストリークアーチファクトの生成に関する検討が 必要である. 今後,考案法により得られた画像を治療計画に適用 し,CT 値の置き換え処理の妥当性を評価し本法の有 用性を探る予定である. 4.結 語 治療計画用 CT 画像に金属アーチファクトを生成す るための簡便な手法を考案した.考案法により人体 ファントム画像に生成した金属アーチファクトは,撮 影した画像における実際のアーチファクトと類似した ものとなることが確認され,手法の妥当性が示唆され た.本法は放射線治療計画における CT 値の置き換え 処理に関する評価に適用できる可能性があると考えら れる. 本研究は JSPS 科研費 20K08046 の助成を受けたも のである. 利益相反 筆頭著者および共著者全員が開示すべき利益相反は ない.
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