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日本語教育人材養成と成人学習理論―『日本語教育人材の・研修の在り方(報告)』を巡って―

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日本語教育人材養成と成人学習理論

―『日本語教育人材の・研修の在り方(報告)

』を巡って―

上 田 和 子

「武庫川国文」第 85 号  抜刷

(2)

㸦㸧

日本語教育人材養成と成人学習理論

―『日本語教育人材の・研修の在り方(報告)』を巡って―

上 田 和 子

1.はじめに 平成 30(2018)年 3 月に文化審議会国語分科会より『日本語教育人材の・研修の在り方 (報告)』が発表され(文化庁、2018)、それに先立つ平成 28(2016)年法務省告示「日本 語教育機関の告示基準」とともに、日本語教員養成への転換点を示すものとして話題とな っている(注1)。教員資格認定のガイドラインとしては、平成 12 年の「日本語教育のための 教員養成について」で示された教育内容(以下、「平成 12 年教育内容」)が、履修すべき単 位数とともに現在まで踏襲されている。しかし平成 30 年報告では、その後 18 年間の社会 的変化とそれに付随する日本語学習者の多様化に基づき、「平成 12 年教育内容」の課題を指 摘し、教育課程編成の目安等も例示している。 筆者は所属大学で日本語教員養成プログラムを担当しているが、当該報告書で指摘され た問題点を理解し、日本語教育を取り巻く環境変化への対応が急務であることに同意しつ つも、目の前にいる大学生の現状とそれらの提案とに乖離を感じざるを得ない。本稿では、 おもに国内における日本語教員養成に関わるここ 30 年の動きを見たうえで、大学教育に課 せられた「養成」では、教員への入口段階として、何を設計し提供できるか、特に成人教 育の理論を援用しながら考える。 2.日本語教育に関する 30 年間の動き 2-1 国内における日本語教育の変貌 表1は、日本語教育を取り巻くこの 30 年の動きを、おもに公的機関の発表・報告等をも とにまとめたものである(表1)。これを一瞥すると、日本語教育と言っても 1980 年代中盤 からの留学生政策、日本語教員の養成と資格、1990 年代の生活者外国人とボランティア、 2000 年代のグローバル人材育成政策、そして 2010 年代に入っての公教育における児童・生 徒への日本語支援というように変貌を遂げてきたことがわかる。その間、日本語学習者の 国内外での爆発的な増加ともにその背景も多様になり、日本語教員や支援者に求められる 資質・能力にも変化が現れている。  ― 39 ―

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㸦㸧 (表1 1984∼2018 年の日本語教育関連事項まとめ) 2-2 「留学生」と日本語教員:1985∼ 戦後の日本語教育は、1960 年代からの国費留学生受け入れに伴う留学生教育を限られた 範囲で行っていたが、一つの政策により大きく転換することになった。いわゆる「留学生 10 万人計画」がそれである。昭和 58(1983)年、中曽根内閣時代に「21 世紀への留学生政 策懇談会」が設置され、「21 世紀への留学生政策に関する提言」が発表されたことに端を発 し、昭和 59(1984)年、提言を受けた文科省が報告書『21 世紀への留学生政策の展開につ いて』で「留学生 10 万人計画」を発表し、これが今日に至る日本語教育ブームの幕開けと ফಀ ਧႢ ઱ੁ؞ਾઔಉ ਌ಈ؞૿ਊ ਌ऩ৔ઍ ೣਮ    ਼౶षभ೏৾ে৆ੁपঢ়घॊ઀੉ ધఐ੄  ਼౶ऽदप೏৾ে॑  ਐযਭোَ೏৾ে  ਐযੑ઺ُقর๽உ৔దك         ೣਮ   ঩মୁચৡ૥ୡق-/37   ব੠ઐ૴੦সؚ ঩মব੠ઇ୘੍ ରੈভ ঩মୁ৾ಆ঻भ঩মୁৡ೾৒૥ୡؚব৔उेल ਼ੀ૚৉दৰ઱ ೣਮ   ঩মୁઇ୘भञीभઇ৩ുਛपणःथ ધ৲ૂ ઇ୘৔ઍ؟঩মୁઇ୘पબॊੴ௙؞ચৡৱત؟਌௧వق ౐ਜ਼كؚౢ௧వق ౐ਜ਼ك ೣਮ   َ঩মୁઇ୘ચৡਫ਼৒૥ୡُ৫઩ ঩মব੠ઇ୘੍ ରੈভ ঩মୁઇ৩धखथभ੦ຊ৓ચৡभਫ਼৒૥ୡ ਴ਛ    ਼౶भপ৾൸ध০৏भ੝୓্ੁपणःथ প৾ଟ৮ভ প৾भঽ਌ਙ؞ঽ൅ਙ॑ৈी଻ਙ્ඉभ৅มऋ઀੉ ਴ਛ   ঩মୁઇ୘भञीभઇ৩ുਛपणःथ ધ৲ૂ ؞਌௧వ؞ౢ௧వभયશఀૃ ؞॥঑গॽॣش३ঙথ৾؞ચৡുਛ॑੎ଳ ؞ઇ୘৔ઍ؟ ୩ୠ؞ યীऊैऩॊ ਴ਛ   ೏৾ে  ਐযੑ઺ ધఐ੄ ঢ়બ੄ૂ  ফ॑৯ಥप  ਐযभ೏৾েਭऐোो॑ ीकघ؛َॢটشংঝ ُব৔  প৾द؛ ਴ਛ   ঩মୁઇ৩ಉभുਛ؞ଢ଼ఊपঢ়घॊ৹ ਪ੥ટपणःथ ધ৲ૂ َেણ঻भਗবযُৌૢदमઇ৩प੷ीैोॊ ৱସऋ౮ऩॊ؛঎ছথॸॕ॔ऋরੱ ਴ਛ   ঩মୁઇ୘भ௓ਤप਱ऐञ੦ম৓ऩઅ इ্ध૛ਡभତ৶पणःथ ધ৲ଟ৮ভবୁ ীఐভ ঩মୁઇ୘भৌ଴঻म੗஘ؚ੐଑঻भኇइ্ृ ૽સु੗஘ؚുਛ؞ଢ଼ఊु৉ୠपेॉ౮ऩॊ؛ প৾भുਛमَ೏৾েُ॑୛୍प ਴ਛ   ્َશभઇ୘ୖஙُ੄ഥ੝ਫ৾ૅઇ୘১઱ষૠಋ঳৖੝ਫ ધఐ੄ ుญ؞েെषभ਄ॉলख঩মୁ੐଑્َ॑શभઇ୘ୖஙُधखथౣਛ؞ৰ઱घॊऒधऋ૭ચप ਴ਛ   ৾ૅपउऐॊਗবযుญেെಉपৌघ ॊઇ୘੍ରपঢ়घॊથ௙঻ভ৮ ધఐ੄ ঩মୁ੐଑૿ਊઇ৩भുਛ؞ଢ଼ఊऋཹಸभୖ਻ ਴ਛ   ঩মୁઇ୘ਃঢ়भઔં੦૆ ১ਜ੄ ْઔંૅٓपउऐॊَ঩মୁઇ৩भਏ੯ُૠ৒ ਴ਛ   ৾ૅपउऐॊਗবযుญেെಉपৌघॊઇ୘੍ରभౄৰ্ੁपणःथ ધఐ੄ َ৾ૅपउऐॊਗবযుญেെಉपৌघॊઇ୘੍ରपঢ়घॊથ௙঻ভ৮ُ ਴ਛ   ৗ৾ಆ੐଑ਏ୩ ੕ಋ્َશऩଦൟ॑ ૑ਏधघॊుญषभ੐଑ُ ધఐ੄ ঩মୁभಆ੭प൑୔भँॊుญपৌघॊ঩ম ୁ੐଑ ਴ਛ   ৾ૅઇ୘पउऐॊઇ৩ുਛषभ৿ऌ ધఐ੄ ঩মୁ੐଑ಉ૿ਊઇ৩؟ਸଦ৒৩ڀ੦ຊ৒ਯ৲ َਗবযుญেെಉ॑૿अઇ৩भുਛ؞ଢ଼ఊঔ ॹঝউটॢছ঒৫৅হ঵ُ ਴ਛ   َધఐ഼୒੦ম১ُਸ਼  ૖ ધ৲ૂ َ঩মୁઇ୘॑ষअਃঢ়पउऐॊઇ୘भ਷૆भ਱঱ُ ਴ਛ   ঩মୁઇ୘য౫भുਛ؞ଢ଼ఊभ૔ॉ্पणःथ ધ৲ଟ৮ভবୁীఐভ ઇ୘য౫भତ৶ ْ૽સٓ঩মୁઇపؚҾҴӇӢҬӌҴӄҴؚ৾ಆ੍ର঻ ْ஺మٓ঩মୁઇప؟ുਛؚੂભؚরම َ૑೼भઇ୘৔ઍُ॑ંघ؛ઇ୘ৰಆभ૑ఊ৲ ― 38 ―

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㸦㸧 なった。 昭和 59(1984)年には、日本語学習者がどの程度日本語を習得しているかを測定する「日 本語能力試験(JLPT)」が発足した。当初、全世界で 7,000 人程度の応募者数(4レベル合 計)だったが、平成 29 年度には年間応募者数(2 回開催合計)が 100 万人(5レベル合計) を突破する大規模試験へと発展を遂げている。日本語能力試験は受験者数と世界的な規模 で屈指の試験となったが、学習奨励目的だけでなく留学生受入時の基準に用いられること などから、受験が学習目的となることもあった。また、これが日本語学習内容と習得基準 を規定してきたことも事実である。功罪を論じるのは難しいが、影響力が甚大であること は認められる。 一方、日本語を教える教師側の資格については、昭和 60(1985)年『日本語教育のため の教員養成について』で、「日本語教育の専門家として必要とされる知識・能力」が挙げら れ、そのうち大学における日本語教員養成について以下のような枠組みが示された(文化 庁 1985)。 ・大学の学部に、日本語教員として必要な相当程度の知識・能力を修得させることを目的 として日本語教員の養成を主として行う主専攻課程を設ける(45 単位)。 ・他の専門分野の教育と合わせて日本語教員の養成を行う副専攻を設ける(26 単位)。 留学生数拡大という旗印のもと、即戦力となる教員が必要だったため、養成の緒に就い たばかりの大学学部生、院生だけでなく、すでに大学を卒業していた社会人たち(多くは 女性)が、カルチャーセンターなどの一般養成機関主催「日本語教師養成コース」等で 420 時間課程を修了し、資格取得を目指した。また日本語教員資格認定の一つとして「日本語 教育能力検定試験」が始まったのも、昭和が終わりに近づいた 62(1987)年である。後述 するように、この試験合格は日本語教員資格の一角を担っており、以来 30 年余、受験者数 は、毎年 5,000 人代から 8,000 人代で推移している(年 1 回実施)。 この時期、日本語教員養成や資格を担保する枠組みが次々と開発整備されていったのだ が、そこに政策の後押しがあったことは事実で、それによって留学生の日本語教育を担う 日本語教師という職業が、徐々に社会的認知を得はじめたと言える。ただし、2018 年現在 まで国家試験や学校教員免許のような公的な資格認定には至っていない。 2-3 「生活者の外国人」とボランティア:2000 年∼ 昭和 60(1985)年に日本語教員についての枠組みが示されてから 15 年、西暦 2000 年を 迎えた平成 12(2000)年、『日本語教育のための教員養成について』で教員養成に対する大 幅な見直しがあった。背景には日本語学習者の増大と多様化がある。2000 年に 10 万人を目 指していた留学生数は、日本語学校等で学ぶ就学生も含めることで目標を達成することが できたが、在留者として増加したのは留学生だけではなかった。国内ではニューカマー、 つまりバブル期を経て定住者となった、主に中南米からの日系人とその子弟(年少者)や、 ― 37 ―

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㸦㸧 産業界における技能実習生が爆発的に増えたのである。海外でも大学生だけでなく中等教 育機関で学ぶ年少者の増大など、まさに百花繚乱の勢いで様々な日本語学習者が出現した。 この背景には、バブル経済期からの好景気とそれによる人出不足があり、1990 年入国管理 法(入管法)改正により「定住者」という在留資格が創設され、日系人(日系3世まで) が日本に入国、滞在、就労することが可能になったことがある。 平成 12(2000)年『日本語教育のための教員養成について』で示された、いわゆる「平 成 12 年教育内容」では、学習者の言語運用力の習得が重視されるようになり、多様化する 日本語学習者に対応した教育内容や教授法が求められた。また教師養成にはこれまでの言 語的知識にとどまらず、社会言語学やコミュニケーション学、情報メディアの活用などを 取り入れた、より実践的な教育能力の育成が求められた。改正された主な内容は以下のと おりである。 ① 主専攻・副専攻の別や標準単位数は表示しない(注2) ② 教員資格を有する者とみなされるのは下表のとおり(表 2-1)。  ৱ ત ॑ થ घ ॊ ঩ ম ୁ ઇ ৩ ॖ প৾قಢ਋প৾॑௾ऎكྼमপ৾੹पउःथ঩মୁઇ୘पঢ়घॊઇ୘ୖங॑၎ఊखथ ਚ৒भ౐ਜ਼॑ఊ੭ख؜ऊण؜ਊჾপ৾॑෮঵खྼमਊჾপ৾੹भୖங ॑ఊവखञ঻  ট প৾ྼमপ৾੹पउःथ঩মୁઇ୘पঢ়घॊఐ৯भ౐ਜ਼॑  ౐ਜ਼ਰ঱ఊ੭ख؜ऊण؜ ਊჾ প৾॑෮঵खྼमਊჾপ৾੹भୖங॑ఊവखञ঻ ঁ ਁஇଃ੮১য঩মব੠ઇ୘੍ରੈভऋৰ઱घॊ঩মୁઇ୘ચৡਫ਼৒૥ୡप়તखञ঻  ॽ ৾૒भ৾ਜ਼॑થख؜ऊण؜঩মୁઇ୘पঢ়घॊଢ଼ఊदँढथిਊधੳीैोॊुभ॑  ౐ਜ਼ৎ৑ਰ঱ਭ൥ख؜ऒो॑ఊവखञ঻ जभ౎ॖऊैॽऽदपൕऑॊ঻ध৊ಉਰ঱भચৡऋँॊधੳीैोॊ঻ (表2「平成 12 年 日本語教員資格」) ③ 教育実習の重視 ④ 「教育内容」の領域と区分の規定(表 2-2) گ୩ୠ  યী ਌ऩ৔ઍ ঺ভધ৲पঢ়ॎॊ୩ୠ ঺ভ؞ધ৲؞৉ୠ ਼ੀध঩মؚ౮ધ৲மඡؚ঩মୁઇ୘भഄఴधਠ૾ ੉ୁपঢ়ॎॊ୩ୠ     ੉ୁ ੉ୁभଡୗ঳ಹؚ঩মୁभଡୗؚ੉ୁଢ଼஢ؚ॥঑গॽॣش३ঙথચৡ ੉ୁध঺ভ ੉ୁध঺ভभঢ়બؚ੉ୁઞ৷ध঺ভؚ౮ધ৲॥঑গॽॣش३ঙথध঺ভ ੉ୁधੱ৶ ੉ୁ৶ੰभૌஙؚ੉ୁಆ੭؞৅୸ؚ౮ધ৲৶ੰधੱ৶ ઇ୘पঢ়ॎॊ୩ୠ ੉ୁधઇ୘ ੉ୁઇ୘১؞ৰಆؚ੉ୁઇ୘धੲਾ౮ધ৲৑ઇ୘؞॥঑গॽॣش३ঙথઇ୘ؚ (表2 「平成 12 年教育内容」) ところが、実際に全国各地に居住する外国人およびその子弟に対する日本語支援は、お もに行政の関わりのもと国際交流協会や公民館の地域ボランティアに委ねられており、有 資格教員の配置が義務付けられているわけではなかった(注3)。その後、増え続ける定住者 に対し、集住地区だけでなく日本全国の自治体で、行政、大学、ボランティアが協力して 運営する日本語支援実践が多数行われるようになった(注4) ― 36 ―

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㸦㸧 一方、大学教育に目をやると、大学審議会答申「21 世紀の大学像と今後の改革方策につ いて―競争的環境の中で個性が輝く大学―」(平成 10 年)で大学の自主性・自立性を尊重 する改革が奨励されたこととあいまって、大学における日本語教員養成の教育内容につい ても、多様な学習需要に応えた教育が求められ、「標準的な教育内容」ではなく「基礎から 応用に至る選択可能な教育内容」が示されるようになった(文科省、1998)。 2-4 「グローバル化」時代:2008 年∼ 学習者の多様化の一方で、2020 年を目途に留学生 30 万人を受け入れる計画「留学生 30 万人計画」が平成 20(2008)年に、またその一環として日本の大学の国際的競争力向上を めざした「国際化拠点整備事業(大学の国際化のためのネットワーク形成事業)」いわゆる 「グローバル 30」が文科省によって進められ、国内 13 大学が採択された(注5) これは、日本の国際化を推進する目的による留学生受け入れ数増大に向けての政策では あるが、20 年前に遡る「留学生 10 万人計画」とは明らかな相違がある。つまり、かつて日 本で学ぶ留学生とは、日本の大学制度において日本語で教育・研究を行う学生を指したが、 それに対して大学のグローバル化の文脈に置かれた留学生は「英語で授業を受ける、論文 を書く」ことも視野に入れた人材を指す。従来の日本の大学教育の枠組みを超えたところ に存在する留学生であり、拡大したその場所に日本人学生も加わり、ともに英語で学ぶこ とによってグローバル化が推進されるという認識である。必ずしも日本語を学ぶ必要はな く、日本語教育の立場からは釈然としない気持ちを抱えるが、この動きによって留学生数 がさらに増加し、「グローバル 30」採択大学だけでなく、多くの大学・大学院に留学生が在 学することが通常のこととなったことは間違いない。 一方、「生活者」もさらに増加し、集住地区の日系人だけでなく、出身国、職業、年齢と いった背景もより多様になっていった。にもかかわらず、「生活者の外国人」対象を中心に した文化庁の調査では、彼らへの日本語支援が、相変わらず主にボランティアに委ねられ ていることが指摘された(注6)。ただ、同調査では、生活者に対する日本語教員には、留学 生を対象にした日本語教育を担う教員とは求められる資質が異なることも指摘されており、 これによって「外国人生活者」が日本語学習者であり、社会参加する住民であり、それを 様々な立場から支援する人々が必要であるという複雑な様相を呈する現実が認識させられ る。 この時期、「平成 12 年教育内容」をはじめとして、日本語教員養成には幅広い教養と高 い専門性の修得を謳いあげ、多様化する学習者に対応する教員にふさわしい新たな資質が 求められるとした提言があった。その一方で、留学生支援では日本語学習を必要としない ケースもあり、また定住者への日本語支援では、有資格者というより主にボランティアに 依存するのが主流であるなど(注7)、大学・大学院で専門教育を受けた人材にとって、日本 語教員として従事する環境が整っているとは言えない状況が続いた。一教師としてもその 養成を担う者としても、筆者は大いなる矛盾を感じさせられた。 ― 35 ―

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㸦㸧 2-5 公的な文脈に置かれはじめた「日本語教員」:2014∼ 2-5-1 初等・中等教育における日本語教育 2010 年代に入り、2000 年前後にニューカマーとして来日した(両)親の子弟が、全国の 公教育の場で急増した(注8)。児童・生徒が国内小学校中学校で教育を受ける際、生活言語 としてだけでなく、各教科内容に対応できる学力を育てるための学習言語としての日本語 教育を必要としており、その教員不足が指摘された。しかし、学校教育現場に教員あるい は支援者として入るためには、学校教員資格と日本語教育の専門性が同時に求められる。 このような人材への需要が多いにもかかわらず、対応が十分であるとは言い難く、学校教 育における日本語教育支援者養成が急務であることが指摘されている(石井他 2018、浜田 2018、齋藤 2016)。 これに対して公教育に動きが見られたのは、平成 26(2014)年である。この年、文科省 省令「特別の教育課程」、その後、学校教育法施行規則一部改正となり、これまで「取り出 し授業」で行っていた日本語指導を、学校教育において編成・実施することが可能となっ た。続く平成 28(2016)年に「学校における外国人児童生徒等に対する教育支援に関する 有識者会議」が発足、平成 29(2017)年、新学習指導要領総則に「特別な配慮を必要とす る児童への指導」が、さらに日本語指導等担当教員の加配定員を基礎定数化するなど、学 校教育制度の中に児童・生徒への明確に位置づけられるようになった。 これらを管轄するのは文科省だが、従来文科省が主導していたのは留学生政策であった。 大学・大学院における留学生は、いわば短期的に滞在する成人学習者で、留学期間を終え れば帰国する人々だと受け止められがちである。それに対して初等・中等学校教育に存在 する児童・生徒は、短期滞在か否かは別として、公教育を受ける権利を持ち、市民教育の 一環として扱われなければならない。つまり、2014 年「特別の教育課程」省令は、日本の 初等・中等教育施策の中に日本語指導が正式に位置づけられたことを意味する点で重要な のである。彼らへの日本語教育の内容、方法、教員の資質などに対して、従来の留学生へ のそれと異なる内容が求められるのは当然のことである。それが何か、どのように養成す るのか、それが喫緊の課題であるといずれの報告書も述べている。 2-5-2 日本語教育機関の告示基準と「告示校」:2016∼ 法務省告示校とは、法務省「出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定 める省令の留学の在留資格に係る基準の規定に基づき日本語教育機関等を定める件」で定 められた教育機関のことを指し、日本の在留資格として正規留学生を受け入れることが可 能な日本語教育機関である。急増する日本語学校等の教育機関が「告示校」となるために は、資格を有する専任教員の採用などの規定が守られなければならない(注9)。そして平成 28 年、文科省文化庁を通じて、各大学にも法務省告示の通達があり、教員養成の際の留意 として促された(表3)。 ― 34 ―

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㸦㸧 ْ૽સٓ ْ஺మٓ ଢ଼ఊ؞ઇ୘৔ઍ ঩মୁઇప ⋇ ുਛ ⋈ ੂભ ⋉ রම ⋇ ઇ౸১ؚ঩মୁীෲಉ  ૑೼भઇ୘৔ઍ ⋈ ૚ણ৿ী৙શपଢ଼ఊभઇ୘৔ઍؚঔॹঝढ़জय़গছ঒ ⋉ ৰᄷ৓ଢ଼ఊ॑୳৒खञઇ୘৔ઍ ঩মୁઇ୘॥شॹॕॿشॱش ⋇ ৉ୠ঩মୁઇ୘ ॥شॹॕॿشॱش ⋈ ਌ભઇ৩ ⋇ ધ৲ૂಉऋৰ઱घॊଢ଼ఊभઇ୘৔ઍؚঔॹঝढ़জय़গ ছ঒ ⋈ ଵ৶঻ଢ଼ఊभઇ୘৔ઍ఺लঔॹঝढ़জय़গছ঒ ঩মୁ৾ಆ੍ର঻  ੗ધ৲ુে؞঩মୁઇ୘भଢ଼ఊभઇ୘৔ઍ (表 4-2 日本語教育人材の【役割】と【段階】) つまり日本語教育人材は、「教師」としての役割が求められるだけでなく、対象となる学 習者によって異なる【役割】を果たす必要があり、どの役割でも、業務上の経験を重ねる ごとに求められる資質・力量が異なるようになる。したがって教育現場で経歴を積むだけ でなく、どの【段階】でも自己研鑽を積むためにその都度適切な研修を受けていく必要が ある、という主旨であろう。個々人に委ねるだけでなく、職業人として成長していくプロ セスを支援してくれるような教育機会と内容が提供されるということであれば、それは非 常に喜ばしいことである。しかし、ここにはいくつかの疑問が挙げられるが、それについ ては 3 で述べる。 2-6 まとめ 概観してきたように、日本語教育を取り巻く状況は刻々と変化しており、日本語教師が 向き合う学習者は、30 年前に想定した学習者像とはかけ離れたものになっている。同時に 教師養成に求められる資質・能力は質も量もともに拡大していることがわかる。 【学習者】 1)日本語教育は、大学・大学院等の「留学生」政策を対象として始まった(注 10) 2)国内の日本語教育に関しては、文化庁が主に所掌としてきた(注 11) 3)外国人の出入国にかかわる点からは、法務省入国管理局からの告示があった。「告示校」 では、学生数に合わせた教員数および専任教員数の取り決めがあり、そこには採用す べき教員の資格も明記されている。 4)2016 年文科省省令により初等・中等教育機関における児童・生徒への日本語教育・日 本語支援について、「特別の教育課程」として実施することが可能となった。 【日本語教員・支援者】 5)地域社会の生活者の日本語教育・日本語支援は、おもにボランティアに依存している。 6)学校教育における児童・生徒に対する日本語教育・日本語支援に、公的な人員措置が 認められ始めた。 7)今後、「告示校」日本語学校での専任教員の需要が見込まれる。 8)日本語教育人材育成について、資格付与の養成だけでなく、長期的な職能教育として ― 32 ―

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㸦㸧 の支援・研修の仕組みや内容が検討されるようになっている。 9)日本語教員の年齢構成を見ると、若年層(20 代∼30 代)が少ない(注 12)。危機感を共有 し、長期的な職業選択の対象としての地位向上を図るべきである。 3.問題点 3-1 日本語教育の規模の拡大と複雑さの確認 以上、主に公的機関が発表している報告書等に基づいて整理してきたが、このような監 督省庁による見解と分析、方針、施策は、この時期の日本語教育現場に遭遇してきた者に とっては、省庁が政策によって牽引してきたというより、社会変化への対応の後追いをし てきた感が否めない。とはいえ、現在の日本語教育が、30 年余り前に想定していた状況を 遥かに超える広がりと複雑さを呈していることは間違いなく、またそれが 2020 年を直前に した日本社会における大きな課題を孕んでいることも改めて認識できる。 3-2 雇用状況 さて、平成 30 年『日本語教育人材の養成・研修の在り方について』で示された人材育成 と研修に関して、筆者にはいくつかの疑問がある。真っ先に思うのが雇用との関係である。 果たしてこのような研修制度が、ほとんどを非常勤講師(非正規雇用者)で構成されている 日本語教師に当てはめることができるのだろうか。学校教員の場合と比較してみると、教育 公務員(私学の場合は専任教員)として職業と雇用が守られている立場の教諭が、初任者研 修、教員免許更新講習を受けるのとは明らかな相違がある。「告示校」において専任教員雇 用が促進されていくという前提で、支援体制も同時に検討、推進されるのであろうか。 この点について、当該報告書では「新たに定められた教育内容に基づく養成・研修が各 地の教育現場に定着するような方策を国として検討すべき」「初任や中堅日本語教師に対す る研修受講機会の充実が図られるとともに、これらの研修の受講が促されるよう、何らか のインセンティブとなる仕組みがあると良い」とするに留めている。 3-3 キャリアパスの事例 当該報告書の巻末には「日本語教育人材のキャリアパスの事例」が、「日本語教師【養成】 から、様々な活動分野を経験し、日本語教師の【初任】や【中堅】、日本語コーディネータ ーとして活躍する日本語教育人材のキャリアパスの事例を示す」として五つのケースが示 されている。30 代∼50 代男女の日本語教員としての経路が流れ図で描かれているが、いず れも様々な場面で求められる【役割】を務めながら、自己研鑽を積み、次の【段階】へと 進むことによってキャリア形成を行っている様子がわかる。 ところで、この流れ図は、20 歳の大学生に対して「日本語教育人材」という職業のイメ ージを構築するのに、どのように役立つのだろうか。これから日本語教員という職を生涯 の仕事として選択しようとする学生たちにとって、あまりに長い道のりのような気がする。 ― 31 ―

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㸦㸧 おそらく日本語教育人材だけでなく、今後多くの職業で生涯を見据えた自己研鑽が、求め られるであろう。それ故、公的な支援が重要になってくるに違いない。日本語教育人材の 養成と支援がその先鞭をつける立場になるのであろうか。 さらに、筆者自身の経験をすべてに当てはめるわけにはいかないが、自身の経てきた教 育現場が決して直線的段階的ではなかったことが思い巡らされる。教師としてのキャリア が始まったときから遭遇してきた問題点は、順を追って出現したこともあれば、教育現場 の混沌の中で突然に難題が突きつけられたこともあった。必ずしも図式どおりに進まない ことに遭遇したとき、どのように考え対応するのか。現場ではその力が求められるのでは ないだろうか。 4.考察:成人教育の理論から 成人教育理論の第一人者である M.ノールズは、自身の 50 年におよぶ教師研究を振り返り、 理論的枠組み、研究対象や手法、そしてそれらを取り巻く社会的文脈がほぼ 10 年ごとに変 化しており、「現代的」という表現がいかに一時的な状態を指すに過ぎないかということを その主著の冒頭で述べている(ノールズ、2002)。ノールズがそう述解するのが 1980 年代 のことである。その後の長寿社会の到来と、社会の産業構造の変化のサイクルを考えると、 20 歳代前半で得た資格・職能で生涯過ごしていける見通しはない。「社会変動のタイムスパ ンの個人のライフスパンに対する関係」では、かつては社会変動よりも人生の方が短く、 現代社会では、人が人生を送る間に何度かの社会変動を経験することが図示されている(ノ ールズ、前掲書)。 さらに、ノールズは現代社会が教育に対する考えに与えた衝撃を 4 点挙げている。 x第一の衝撃は、教育の目的が「知識伝授型」から自分の知識を応用する「能力獲得型」へ と変化したこと x第二の衝撃は、教育と研究と実践において「教えることから学ぶことへ」と焦点が移行し たこと。教師が何をするかより、学習者の内面で何が起こっているかへの注目。 x第三の衝撃は、学習が生涯にわたるプロセスとなってきたこと x第四の衝撃は、人々が生涯にわたって学び続ける仕組みの開発。教育はもはや教育機関と そこで働く教師たちの専有物だとはみなされない。 上記は、成人を対象とした日本語教育実践で、しばしば引用されてきた教育感であり学 習理論である。日本語教育の対象者の多くは成人であり、多様な言語、文化背景を持つ人々 であった。それ故、彼らの学習を設計するとき、「多くの学習者は職業を持ち社会生活を送 っている。子どもではないのだから、彼らのニーズや学習方法を尊重し、目的に合わせた 日本語学習を支援していく。そしてその学習が生涯にわたって継続できるように学習をデ ザインする力、自己決定する方策を、教師と学習者で構築していくべき」というものだっ た。 ― 30 ―

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㸦㸧 翻って大学生に対する日本語教員養成を考えてみよう。日本語教育で繰り返し述べられ てきた言説「多様な背景を持つ学習者にそれぞれの目的に応じた日本語学習を提供すると いうことや、学び方、内容、到達目標を立てる際に学習者が選択し自己決定をする余地を 持ちつつともに進めていく」は、今後の教師教育の場においても援用できるのではないか。 むしろ日本語教育が得た知見の一つが成人学習理論の実践であるとすると、成人である大 学生が生涯にわたって(あるいは人生の一時期に)遭遇する仕事にどのように向き合い、 状況に応じていくか、その能力を獲得するような教師教育が必要なのではないか。 教師教育学の実践から、「教えることを学ぶ、とは、経験に基づく学びのプロセス」であ り、学生自身の経験と省察の往還こそ教師教育の基盤であるという理論があるが、それを 日本語教師教育の現場に構築していくことは、一つの方法といえる(コルトハーヘン 2014)。 それには、教育現場との密接な連携と支援体制が必要になるのは言うまでもない。 5.おわりに 本稿では、ここ 30 年の日本語教育を取り巻く変化を、いくつかの報告書を元に振り返り、 教員養成の問題点について考えた。どのような立場で学習者に接するか、組織の中でどの ような役割が求められるか、この仕事は決して固定したものではない。日本語教育を必要 とする場が広がっているのは事実だとして、また近い将来、専任職として就職していく卒 業生を育てる立場からは、おろそかにできない動きばかりである。 報告書には施策がまとめられているが、地域社会、日本語学校、大学を含めた教育現場 が培ってきたこと、日本語教育がこの 30 年出会ってきたのは、日本語を教える技法ではだ けでなく、人と関わること、互いに受け入れること(受け入れられないことも含め)、様々 な価値観と接することで、それを学んできたのではないか。 日本語教育人材が異なる場、異なる立場、異なる段階であっても、等しく重要でありなが ら見落とされがちであるもの、それは【養成】の段階からも存在しなければならない。職業 人としての始まりである【養成】段階を、学生がどのように過ごすべきか、そのために養成 を受け持つ側は何を提供するのか、明らかにすべき課題が立ち現れている。 1. 平成 30(2018)年度日本語教育学会春季大会(於:東京外国語大学)。 2. 平成 12(2000)年以降、主専攻(45 単位)副専攻(26 単位)という区別について取りやめることに はなったが、現在でも日本語学校で教員募集の際、資格欄に「日本語教育を主専攻・副専攻とする者」 と示す例がまだ多い。また平成 30 年『日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)』でも、 「教育課程編成の目安」の例として「大学における 26 単位以上の日本語教師養成課程」や「大学にお ける 45 単位以上の日本語教師養成課程(主専攻)」として「26 単位」「45 単位」「主専攻」という表現 が用いられている。 3. 日本語教育に携わる者を「職務別割合」でみると、平成 28 年度でもボランティアが 58.1%を占めてい る。それに対して、非常勤講師が 29.7%、常勤講師は 12.2%にとどまっている「平成 28 年度国内の日 ― 29 ―

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㸦㸧 本語教育概要」(文化庁)より。 4. 『地域における日本語教育の推進に向けて −地域における日本語教育の実施体制及び日本語教育に 関する調査の共通利用項目について―[報告]』では、地域における日本語教育の実施体制について報告 があり、同じく『地域における日本語教育の推進に向けて −地域における日本語教育の実施体制及 び日本語教育に関する調査の共通利用項目について―事例集』では、全国 44 の機関・団体の事例が報 告されている(文化審議会国語分科会、2016)。 5. 在留外国人数:平成 28 年末に 238 万人を超え留学生は約 28 万人となっており、2020 年留学生 30 万 人計画」はほぼ達成されている。「平成 28 年末現在における在留外国人について(確定値)」(法務省) 6. 平成 24(2012)文化庁「日本語教員等の養成・研修に関する調査結果について」より。 7. もちろん、定住者への支援者として必要な人材が、日本語教育の有資格者に限られるかどうかは議論 の余地がある。おそらく外国人生活者支援体制は、ボランティアに代表される地域住民や職場、学校、 行政、日本語教師など複数の立場の者が多角的に関わる必要があろう。その意味で「ボランティア」 という市民の関わりは重要である。 8. 全国の公立の小・中・高校等に在籍している外国人児童生徒は 8 万人を超え(平成 28 年現在)このう ち日本語指導が必要な児童生徒は 4.4 万人となっている。 9. 法務省告示日本語教育機関(いわゆる「告示校」)は、平成 29 年末現在で 643 校にのぼる。「日本語教 育機関の告示基準解釈指針」(法務省)によると、日本語教育委機関に在籍する学生と教員の割合は、 40 名に1名の教員、うち 2 分の1が専任、とされている。ただし平成 34 年 9 月までは 60 名に1名の 教員、うち専任が 3 分の1とすることが可能とのこと。 10. 従来、ビジネスマンや駐在員の家族など、多様な学習者は常に存在しているが、本稿では、特に日本 語教育政策と関連した動きを中心に見ているので、留学生 10 万人計画をその発端と認識する。 11. 「留学生 10 万人計画」は、主に大学への受入を想定しているので、文科省のものであるが、日本語教 育に関する文書の多くの出所は文化庁である。これは文部科学省設置法では「外国人に対する日本語 教育に関すること(外交政策に係るものを除く。)」を文化庁の所掌としているためである。 12. 年代別教師数では、20 代 5.7%、30 代 10.3%と合計で 16%にとどまるが、50 代 17.5%、60 代 21.6%と なっている。「平成 28 年度国内の日本語教育概要」(文化庁)より。 参考文献: 石井恵理子他(平成 29:2017)『外国人児童生徒等教育を担う教員の養成・研修モデルプロ グラム開発事業―報告書―』日本語教育学会 齋藤ひろみ(平成 28:2016)「「多文化教員」に求められる資質・能力―多様な言語文化背 景の子どもたちの学びの場をデザインするために―」『教員養成大学におけるグローバル 人材育成を考える』奈良教育大学国際交流センター コルトハーヘン(2010)『教師教育学 ―理論と実践をつなぐ リアリスティック・アプロ ーチー』学文社 ノールズ、M(2002)『成人教育の現代的実践 ペダゴジーからアンドラゴジーへ』鳳書房 浜田麻里(平成 30:2018)『日本語指導教員の成長過程に関する研究−成長を支えるシステ ムに着目して−報告書』平成 25∼29 年度科学研究費補助金基盤研究(B)課題番号 25284095 ― 28 ―

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㸦㸧 文化審議会国語分科会日本語教育小委員会課題整理に関するワーキンググループ(平成 25:2013)『日本語教育の推進に向けた基本的な考え方と論点の整理について(報告)』文 化庁 文化審議会国語分科会(平成 28:2016)『地域における日本語教育の推進に向けて−地域に おける日本語教育の実施体制及び日本語教育に関する調査の共通利用項目について―[報 告]』文化庁 文化審議会国語分科会(平成 28:2016)『地域における日本語教育の推進に向けて−地域に おける日本語教育の実施体制及び日本語教育に関する調査の共通利用項目について―事 例集』文化庁 文化庁文化部国語課(平成 28:2016)『平成 28 年度国内の日本語教育概要』文化庁 文化審議会国語分科会(平成 30:2018)『日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報 告)』文化庁 関連サイト ・「日本語教員の養成等について」(昭和 60:1985)文部省 http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/t19850530001/t19850530001.html(アクセス日 2018.07.20) ・「日本語教育のための教員養成について」日本語教員の養成に関する調査研究協力者会議 (平成 12:2000)文化庁 http://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/nihongokyoiku_suishin/nihongokyoiku_yos ei/(アクセス日 2018.07.20) ・日本語教育機関の告示基準および告示基準解釈指針(法務省入国管理局)(第1条第 1 項 第 13 号)http://www.moj.go.jp/content/001264205.pdf(アクセス日 2018.07.20) ・留学生 10 万人計画(昭和 59 年:1984)文科省 http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/others/detail/1318576.htm ・「21 世紀の大学像と今後の改革方策について―競争的環境の中で個性が輝く大学―」 (平成 10:1998)文科省 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/old_chukyo/old_daigaku_index/toushin/1315882.htm アクセス日 2018.07.20 ・「日本語指導が必要な児童生徒に対する 「特別の教育課程」の在り方等について」(2014) 文科省 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/kaigi/__icsFiles/afieldfile/2013/03/04/1330284_1.pdf(ア クセス日 2018.07.20) (うえだ・かずこ 本学教授) ― 27 ―

参照

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