1 はじめに カーボンナノチューブ(CNT)は炭化水素を原料とし, 条件を精密に制御して製造する炭素系ナノマテリアルで ある.CNTはベンゼン環が平面上に連なるグラフェン シートが巻いて円筒を形成し,一層あるいは同心円状に 複数の層が重なった構造からなる.日本では安定した性 質のCNTを大量かつ安価に供給できる製造法が開発さ れ,CNTは少量でも樹脂の堅牢性や電気特性を向上さ せることが可能なために期待される素材となってい る1).CNTは繊維状であり,単層(Single-walled: SW) CNTでは繊維径が数nmで,多層(Multi-walled: MW) CNTでは繊維径が5nm程度~100 nm以上に及ぶ.一 次元でも100 nm以下であるような粒子は国際標準化機 構(ISO)の定義ではナノマテリアルに分類される2,3)た め,CNTもナノマテリアルに分類される. また,日本で開発されたCNTのMWNT-7は多くの 有害性試験が実施された結果,国際がん研究機関(IARC) がグループ2B(ヒトに対する発がん性の疑いがある) に分類した4)こと,日本バイオアッセイ研究センターに よる長期吸入曝露試験により発がん性が指摘された5)こ とを受けて,厚生労働省は2016年3月にMWNT-7をが ん原性物質に指定した6).CNTを取り扱う職場では,既 にナノマテリアルの取扱いに関する通達7)に従って対策 が取られている. 当研究所では以前よりCNTの炭素分析による定量法 を提案8-10)し,実環境における測定も実施して来た11,12). その方法ではシウタスカスケードインパクター(SCI) を使用した粒径別の捕集を行い,粒径によりCNTと, それ以外の物質由来の炭素を分離することを提案し た9).本研究では模擬的にCNTエアロゾルを発生し, 飛散状態を走査型電子顕微鏡(SEM)で確認し,炭素 分析の結果との関連を評価した.CNTの個人曝露測定 や作業環境測定を実施する際に必要な知見をまとめる. 2 実験方法 1)模擬エアロゾルの発生 試薬CNTとして東京化成(株)C2149(径10nm未満, 長さ1~2µm)とC2159(径60nm以上,長さ1~2µm) を用いた.繊維径と繊維長が凝集に及ぼす影響が大きい と推測されるため,この2種を試料とした.エアロゾル 発生には,日本バイオアッセイ研究センターの大西らに より開発されたn-Shotサイクロン13)を使用した.撹拌 羽を設置した容積10Lのステンレス容器に50mgの CNTを入れ,装置下部のスターラーにより,1200RPM で空気を撹拌した.空気の取入口には微小粒子を除去す るHEPAフィルターを取り付けた.容器フタ面から80 mmの位置から内径8mmのステンレス管を通して,エ アロゾルをSCIのA~Eの5段階に分級し,石英繊維ろ 紙(QF) (QAT-2500UP,Pall製)に捕集した.QFは, あらかじめ550℃で3時間空焼きした.捕集流量は9L/ min,捕集時間は2分とした.発生実験は各試料2回ず つ行い,容器は毎回洗浄した. 2)CNTの炭素分析 捕集した粒子はSunsetLaboratory社製のカーボンエ 図1 カーボンエアロゾルモニターの概略図
炭素系ナノマテリアルの飛散状態の確認
̶カーボンナノチューブについて̶
小 野 真理子
*
1,山 田 丸
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1 カーボンナノチューブ(CNT)は,日本において,安定した性質の製品が大量かつ安価に供給できる製造法 が開発された.CNTは少量でも樹脂の特性を向上させることが可能なため,産業への応用が期待される材料で あり,使用量が増加している.CNTはナノマテリアルであるため曝露対策が必要であるが,曝露測定を行う際 には,CNTの飛散の特性を考えてサンプラーを選定する必要がある.本研究では,模擬的に発生したCNTエ アロゾルを衝突型の多段インパクターで捕集して,炭素分析により炭素成分の情報と粒径の質量分布,走査型 電子顕微鏡観察による形態の情報を得た.CNTは凝集粒子として飛散することが多いが,CNTの種類によって は単独の短い繊維が繊維状粒子として飛散するものがあることを観測した.凝集粒子を多段インパクターで捕 集する際の留意点を明らかにし,以前提案したCNTの定量法の妥当性を確認した.キーワード:カーボンナノチューブ,Carbon nanotubes,CNT,SEM,シウタスカスケードインパクター, カーボンエアロゾルモニター
原稿受付 2019年1月10日(Received date: January 10, 2019) 原稿受理 2019年3月5日(Accepted date: March 5, 2019)
J-STAGE Advance published date: March 28, 2019 *1労働安全衛生総合研究所作業環境研究グループ 連絡先:〒214-8585 川崎市多摩区長尾6-21-1 労働安全衛生総合研究所作業環境研究グループ 小野 真理子 E-mail: [email protected] doi: 10.2486/josh.JOSH-2019-0003-TA 短 報
アロゾルモニター(図1)を使用して炭素分析を行った. 炭素分析装置の分析プロトコルはIMPROVE法14)を 参考にした(表1).カーボンエアロゾルモニターの試 料オーブン内の所定位置に試料を入れ,ヘリウム気流下 で温度を上昇させることにより脱離する炭素を有機性炭 素(OC)とする.その後,雰囲気ガスに酸素を添加して, 更に温度を上昇させ,酸化される炭素を元素状炭素(EC) とする.なお,OC,ECともに酸化オーブンで二酸化 炭素に酸化し,メタネーターで還元してメタンにした後, 水素炎イオン化検出器(FID)で検出し,メタンで検量 して定量する.CNTの主成分はグラファイト性の炭素 であるため,高温で燃焼するEC2とEC3 として検出さ れる.CNTの質量とEC2+EC3には直線関係が認められ ている8)ので,CNT量はEC2+EC3として評価した. 3)エアロゾル粒子のSEM観察 粒子の形態をSEMで観察した.SEM観察用の試料は ポリカーボネート製の平滑なメンブレンろ紙(Isopore, VCTP2500,孔径100nm; Millipore製)を使用してSCI により捕集した.SEMは日本電子JSM-9700Fを使用し, 加速電圧は2kVとした.観察前には高真空蒸着装置(EM ACE600:LeicaMicrosystems製)により,試料にPtコ ーティング(膜厚4nm)を施した. 3 結果 1)CNTの粒径分布 CNT(EC2+EC3)を発生した2種のCNTエアロゾ ルの粒径分布を,レスピラブルサイズよりやや大きい6.6 µm以下について図2に示す. C2149はA段(2.5~6.6 µm)にピークのある一山分布,C2159はA段とE段(0.25 µm以下)にピークがある二山分布となった.なお,図 中の#1,#2は繰り返し実験の結果である. 2)エアロゾル粒子の炭素成分 それぞれのCNTについてA段とD段の炭素分析結果 を図3に示す.D段でOCのピークが顕著であるのは, 炭素量が少なく縦軸が拡大されてガス成分が強調されて いるためである.図3a),b)はC2149のA段とD段で あるが,D段のEC2の燃焼速度が速く,ピークが鋭い のが観察される.図3c),d)はC2159のA段とD段で あり,EC2とEC3のピーク形状が似ていることが観察 される.一般に細いCNTはEC2の割合が多く,太い CNTではEC3が多いが,本研究の結果でも矛盾はなか った. 3)エアロゾルのSEM観察 図3のa)-d)に対応するSEM写真を図4に示す.図4a) のC2149A段では,メーカーからのデータでは繊維径 が10nm未満とあるが,それよりも太くて長い繊維が 単独あるいは絡まった形態で観察された.E段のバック アップにはガラス繊維ろ紙を使用しているが,繊維ろ紙 は表面が平滑でなくSEM観察に適さないため,微小粒 子のSEM観察は空気力学径0.25~0.5µmに相当するD 段の試料について行った.C2149D段の結果を図4b) に示す.D段では繊維状の物質を観察できなかった. 図4のc)とd)はC2159のA段とD段を示している.径 が50~100nm,長さは数μmに達する曲線状のCNTが A段で観察された.D段には繊維状の物質は少なかった が,長さが1µm程度に切れたCNTが観察された. 4 考察 SCIでは,一定流速で一定幅のスリットを通過する粒 子がろ紙に衝突することで粒子が捕集される.一般に分 級装置の特性評価は球形の非凝集粒子を使用して行われ るため,CNTのように径や長さが一様でない粒子の捕 集の状態は,捕集された粒子の形態観察を行わなければ 分からない.CNTが一山分布,あるいは二山分布を示 す理由について,SEMによる形態観察と比較して考察 する. SEM観察の結果,C2149のように細い繊維は絡まっ てミクロンサイズで存在している割合が多いと考えら れ,図2の粒径分布と矛盾がない.図3のa)とb)で EC2のピークの形状が異なっているが,観察された炭素 エアロゾルの形態がA段とD段で大きく異なることか ら,A段とD段では異なる状態の炭素を成分とするエア A A E D D a) b) 図2 CNTエアロゾルの粒径分布 #1, #2は2回の実験の結果を示し,A, B, Dは SCIの捕集ステージを示す 表1 炭素分析のプロトコル
Temperature (°C) Ovengas
OC1 120 He OC2 250 OC3 450 OC4 550 EC1 550 2% O2/He EC2 700 EC3 920 Title:03-02_12_JOSH-2019-0003-TA.indd p96 2019/06/27/ 木 15:36:28 96
ロゾルであったことが原因と推測される.従って, CNTはA~C段の炭素を測定して,微小粒子に存在す るバックグ ラウンドの炭素成分を無視することができ る,とした既報9)の考え方が支持される結果となった. C2159について見ると,図3の炭素分析チャートc),d) のEC2とEC3のピークの形状が似ているのは,上段に は長いCNTが,下段には短いCNTが捕集されるが,同 程度の結晶性のCNTであるためと考えられる.図2b) のような粒径分布になる場合には,CNTを定量する時 に,微小粒子由来の炭素成分が正の誤差となるため,バ ックグラウンド測定を別途実施し,バックグラウンド由 来の炭素量を差し引けば,正味のCNTを定量できる. CNTの炭素分析時に妨害となる一般環境中の粒子に 含まれるECは,化石燃料の不完全燃焼に由来するもの が多い.例えばディーゼルエンジンからの排出粒子は排 出 直後には数十nmの粒子であるが,数百nmの凝集体 に成長する.粒子中のECの割合は燃焼条件に依存する. また,ゴムや樹脂の改質に使用するカーボンブラックは 95%以上が炭素である.一次粒子径が数十~100nm程 度であり,凝集体はミクロンサイズになる.カーボンブ b) C2149 D 段 d) C2159 D 段 EC2 c) C2159 A 段 EC3 EC3 EC2 EC2 EC2 EC3 a) C2149 A 段 EC3 図3 CNTのサイズによる炭素成分の違い a) C2149 A 段 b) C2149 D 段 d) C2159 D 段 c) C2159 A 段 1 µm 1 µm 200 nm 200 nm 図4 CNT模擬エアロゾルのSEM観察像 Vol. 12, No. 2, pp. 95 99, (2019)
ラックは造粒されて数百µmで使用されることが多いが, 本研究で使用したSCIでは捕集時に衝撃を受けるため, 0.5µm以下の下段でもECが観測される. 5 まとめ CNTの模擬エアロゾルを用いてCNTのレスピラブル サイズの飛散状態について,分級捕集,炭素分析,SEM 観察を用いて確認した.衝突型のサンプラーを使用した 場合には,凝集が弱い粒子では実際の粒径分布を反映す ることは難しいため,分級せずにレスピラブル粒子とし て評価することが簡便である.この場合は,別途バック グラウンドの炭素量を測定して,総合的にCNT量を判 断する必要がある.衝撃によって微小粒子が発生しない 形状のCNTでは,分級捕集することで大気由来の粒子 の影響を取り除いて定量することができる.現在の有害 性情報を考慮するとレスピラブル粒子としてCNT取扱 い環境の曝露を評価するのが,妥当であろう.なお,評 価する際の曝露限界値として,中西らが提案した0.030 mg/m3が国内では一般的に用いられている. 本研究の結果から,吸入されたCNT粉じんが呼吸器 内で分級され,沈着位置で形態が異なる可能性が示唆さ れた.今後もCNTの新しい有害性情報が公表され,曝 露限界値が更新されるので,注意して行く必要がある. 文 1) 高分子学会編集.カーボンナノチューブ・グラフェン.最 先端材料システムOnePoint 第1巻,2012: 共立出版.
2) InternationalStandardOrganization. ISO/TS80004-1:
Nanotechnologies-Vocabulary-Part1. 2015.
3) InternationalStandardOrganization. ISO/TS80004-2:
Nanotechnologies-Vocabulary-Part2. 2015.
4) IARC. Arsenic, metals, fibres, anddusts. IARCMonogr EvalCarcinogRisksHum, (2012)100C:1‒499.
5) Kasai T, Umeda Y, Ohnishi M, Mine T, Kondo H,
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6) 厚生労働省労働基準局長.「労働安全衛生法第28条第3項 の規定に基づき厚生労働大臣が定める化学物質による健 康障害を防止するための指針」について.基発0331第26号, 平成28年3月31日.2016: 7) 厚生労働省労働基準局長 (2009)「ナノマテリアルに対 する曝露防止等のための予防的対応について」.基発 0331012号,平成21年3月31日.2009:
8) Ono-OgasawaraM, MyojoT. Proposalofmethodfor evaluatingairborneMWCNTconcentration. Ind. Health.
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9) Ono-Ogasawara M, Myojo T. Characteristicsof multi-walled carbonnanotubesandbackgroundaerosols by carbon analysis; particlesizeandoxidationtemperature.
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10) 小野真理子,明星敏彦.多層カーボンナノチューブの作 業環境における測定法.作業環境.2017; 38; 44‒52.
11) TakayaM, Ono-OgasawaraM, ShinoharaY, KubotaH,
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12) Ono-Ogasawara M, TakayaM, YamadaM. Exposure assessmentofMWCNTsintheirlifecycle. J. Phys. Conf.
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13) 大西 誠, 笠井 辰也, 山本 正弘, 鈴木 正明, 平井 繁行, 福 島 昭治.N-SHOtCycloneによるナノ酸化チタンの浮遊 係数の提案.第43回日本毒性学会学術年会.2016: doi.
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14) Chow, JG, Watson, JG, Pritchett, LC, PiersonWR, Frazier,
CA, Purcell, RG. TheDRIthermal/opticalreflectance carbon analysissystem: description, evaluation and applicationsinUS airqualitystudies. Atmos. Environ.
1993; 27A: 1185‒1201. Title:03-02_12_JOSH-2019-0003-TA.indd p98 2019/06/27/ 木 15:36:28
Vol. 12, No. 2, pp. 95 99, (2019)
Size distribution of Carbonaceous Nanomaterials:
Simulated CNT aerosols
by
Mariko Ono-Ogasawara*
1and Maromu Yamada*
1Carbon nanotube (CNT) is a promising material that enhances the characteristics of plastic, because of this, its production volume is increasing. To evaluate CNT exposure in the workplace by carbon analysis, the size distribution of CNT aerosols is a key factor in separating CNT aerosols from ambient small particles. In this study, the mass size distributions of the simulated CNT aerosols were measured for samples collected using a Sioutas cascade impactor. Both monomodal and bimodal distributions were observed. Thinner CNTs tended to show monomodal distribution in the scanning electron microscopic observations because they contained strong agglomerates of tangled fiber.
Key Words: Carbon nanotubes, CNTs, Sioutas cascade impactor, Size distribution, Carbon aerosol monitor, Carbon
analysis.