持続可能な発展のための我が国の金属資源戦略
著者
中村 崇, 柴田 悦郎
雑誌名
東北大学多元物質科学研究所素材工学研究彙報
巻
65
号
1/2
ページ
47-53
発行年
2010-03-01
URL
http://hdl.handle.net/10097/48499
持続可能な発展のための我が国の金属資源戦略
中村 崇
*1,柴田悦郎
*1A Strategy of Metal Resources for Sustainable Development in Japan
By Takashi Nakamura and Etsuro Shibata
(Received on January 21, 2010)
1
はじめに
オゾン層破壊,有害物質の拡散など,先進国の地域限定型の公害問題が全地球規模での環境問題に 拡大されて久しい.しかしながら人類がこのような問題に対する明確な回答を持ち得ないでいる最大 の理由は,問題を設定する空間領域,時間軸に対するコンセンサスを得ることから始めなくてはなら ないからである.その最大の課題が気候変動(地球温暖化)とも言える.この問題に関しては,かな りの議論が行われ,やっとCO2発生量1位(米国)と2位(中国)の国が具体的な合意ではないが, 議論の席上に上がった状態である.地球規模での環境問題を解決するために前世紀から「循環型社会 構築」「持続可能な発展」などの重要なキーワードが多く提案されている.これらのコンセプトを実現 するために種々の活動が行われているが,それらのコンセプトの実現と現実の社会にかなりの距離が あるのは,くどいようであるが全地球規模での環境問題に対する空間領域,時間軸に対する共通認識 が得られないためである. インターネット等情報技術の発展により,空間領域の共通認識は取りやすくなると予想できるが, 時間軸に対しては,本質的に現実に存在しない人間に対する責任という簡単に認識できない意識を働 かさなくてはならず,特に困難が伴う.本資料の課題である金属鉱物資源供給の問題とこれらの環境 の課題の本質的な問題点は,非常に似通っている.最近のエネルギー資源ならびに鉱物資源の高騰は, 産業の在り方にも大きな影響を及ぼしつつある.資源の採取には環境破壊が起こる可能性があり,い ずれにしても資源問題は,観点を変えれば環境問題とも言える. 本資料では,これからの鉱物資源の状況を説明し,その後主に鉱物資源の供給制約の状況で産業発 展を若干CO2発生問題と結びつけて整理したい.2
クリティカルメタル
レ ア メ タ ル の 捉 え 方 は 立 場 に 寄 っ て 大 き く 変 わ る .資 源 エ ネ ル ギ ー 庁 で 所 管 の 総 合 資 源 エ ネ ル ギ ー 調 査 会 鉱 業 分 科 会 レ ア メ タ ル 部 会 で は ,備 蓄 を 行 っ て い る 7 鉱 種 と 追 加 2 鉱 種 (Ni,Cr,Co,Mn,W,Mo,V+In,Ga)にPt,R.E.などを加えて31鉱種をレアメタルとしている[1].た だ,従来からの備蓄7鉱種は,鉄鋼の添加元素としての必要量が大きく,一般のレアメタルのイメー ジとは異なる.多くの人のレアメタルに対するイメージは,元素としての発見が新しく,かつ資源量 が少なく,そのためにコストが高く生産量が少ないということである.例としては,ITOに使用され るInや磁石に使用される希土類金属(Nd,Dy)が挙げられる.現在は“レアメタル”という言葉が市 民権を得て,あまりこれまで関わらなかった一般の人にまで浸透している.ただ,レアメタルの定義 は広範で都合が良い分,人によってはあいまいであり,具体的な対策を検討する場合には優先順位な どを明確に認識し難い場合がある.また,例えば銅は,いわゆるベースメタルであるが,資源状況に より供給制限が生じ,産業に大きな影響を与えかねない.それでもレアメタルの定義からは外れるた *1東北大学多元物質科学研究所48 持続可能な発展のための我が国の金属資源戦略 第 65 巻 第 1,2 号 めに,現在の鉱業政策的には重要な位置づけができない,などの問題も生じている. “クリティカルメタル”という言葉は,日本メタル経済研究所で提案された用語で,これからの我が 国の基幹産業を支える製造業のキーとなる金属元素をできるだけ客観的な指標で評価して,その時々 での資源・素材戦略を検討する一助とすることを目的とし,用いられている.その元は,米国で用い られた“Critical Minerals” [2]である.日本メタル経済研究所では,その提言で下記の定義を行って いる[3]. (1) 材料,素材としてなくてはならない必須金属(必要な機能・性能を持たせ,高める)であり, かつ, (2) 需要の伸びが大きく,資源量や回収・精製の困難性など供給上の不安がある金属 あるいは, (3) 価格が高騰し,ユーザーにとってコスト面から代替を望みつつも出来ない金属 である. また,定義後の具体的な展開法であるが,下記の6つの提言を行っている. <資源の確保・安定供給のために> 【提言1】 探鉱開発の支援,【提言2】 資源外交,【提言3】 人材育成 <クリティカルメタルの回収・代替・新機能材開発の促進> 【提言4】 効率的回収・精製,リサイクルシステムの構築,【提言5】 ユビキタス元素を活用した 新機能材開発 <資源戦略の総合的マネジメント> 【提言6】 クリティカルメタルの総合対策管理体制の構築 Precious metals
Au, Ag, PGM Base metalsCu, Zn
Base metals Fe, Al Nonmetal O, N, H, S, Cl, F Ge Metalloid B, C, Si, P Alkaline earth Mg, Ca Rare metals䞉 Rare earth Ta, Nb, Sn, Re, Co, W, In, Ga Ni, Ti, V Mn, Cr Alkali Li Na, K Elements for material
Critical metals
Ubiquitous elements
Fig.1 Conceptual diagram of “Critical metals”.
4.2 x10*9 Yen 912.8 x10*9 Yen
1.5 x10*9 Yen
Value of products of critical metals Value of secondary products used with critical metals Total value of all productions Concerning critical metals
Fig.2 Comparison of value of products of critical metals to total value of all productions concerning critical metals. 具体的に彼らが提案しているクリティカル メタルをまとめた図をFig.1に示す.国のレ アメタル部会で指定されているレアメタルと 大きく異なるのは,金,銀,銅,亜鉛など従来 の非鉄製錬業で取り扱う金属が含まれている ことである.現在,世界規模でe-wasteの動 きが問題視されるが,その中心的な元素は,実 はレアメタルというよりは金,銀,銅のベース メタルと貴金属である.したがって,e-waste を議論する場合は,レアメタルだけでは十分 でない.その点,クリティカルメタルでくく れば,いわゆるレアメタルや単独でほぼそれ に匹敵する銅や金も含まれる.まだ,正確な 指標が固まっていない言葉で,その位置づけ を議論するのは多少の困難を感じるが,本報 告ではクリティカルメタルの経済効果とこれ からの確保に関して多少の検討を加える.昨 年の彙報にも記載したが,Fig.2に2005年の 産業連関表から算出した鉄鋼を除く,金属素 材ならびにその部材,さらにその部材を利用 した製造業の出荷価格を模式的に示す.当然 であるが,素材→部材→最終製品と高度にな
るほど出荷価格は大きくなり,特に部材と最終製品の間で大きな飛躍がある.そこに大きな付加価値が ついていることがわかる.例として挙げれば,希土類元素のNdとDyは現在実用レベルでもっとも強 力な永久磁石であるNd-Fe-B系磁石の原材料であり,そのほぼ100%を中国からの輸入に依存してい る.その後,国内でNd-Fe-B系磁石が製造され,省エネ家電製品やハイブリッド車にモーターとして 使用されている.地球環境問題を考えるとこれからも大きく需要が伸びる製品と予想され,非常に重要 な位置づけとなる.この数年議論されているレアメタルの重要性がこのことからも認識できる.要は, レアメタルそのものの産業としての規模は大きくないが,それが係わる製品の裾野が広く,どちらかと いうとわが国の基幹産業の製品に使用され,その結果わが国の産業構造上欠かすことができない原材料 といえる.ベースメタル,例えば銅は,別な意味で重要である.電気製品には必ず使用され,典型的な 汎用性の高い素材である.市場はレアメタルより大きく,寡占も起こりにくいが,後述するように資源 の争奪戦(軍事的意味ではない)の対象となっている.自動車もこれからますます環境対応のために電 装部分が増加することが予想され,その需要は急激ではないにしても着実に伸びることが予想される. 㻯㼛㼜㼜㼑㼞㻌㻯㼛㼚㼟㼡㼙㼠㼕㼛㼚㻌㼎㼥㻌㻹㼍㼖㼛㼞㻌㻯㼛㼡㼚㼠㼞㼕㼑㼟䠄㻝㻥㻡㻜䡚㻞㻜㻜㻣䠅 㻱㼟㼠㼕㼙㼍㼠㼕㼛㼚㻔㻞㻜㻜㻤㻙㻞㻜㻝㻜㻕㻌㼎㼥㻌㻵㻯㻿㻳 㻜 㻝㻘㻜㻜㻜 㻞㻘㻜㻜㻜 㻟㻘㻜㻜㻜 㻠㻘㻜㻜㻜 㻡㻘㻜㻜㻜 㻝㻥 㻡㻜 㻝㻥 㻡㻞 㻝㻥 㻡㻠 㻝㻥 㻡㻢 㻝㻥 㻡㻤 㻝㻥 㻢㻜 㻝㻥 㻢㻞 㻝㻥 㻢㻠 㻝㻥 㻢㻢 㻝㻥 㻢㻤 㻝㻥 㻣㻜 㻝㻥 㻣㻞 㻝㻥 㻣㻠 㻝㻥 㻣㻢 㻝㻥 㻣㻤 㻝㻥 㻤㻜 㻝㻥 㻤㻞 㻝㻥 㻤㻠 㻝㻥 㻤㻢 㻝㻥 㻤㻤 㻝㻥 㻥㻜 㻝㻥 㻥㻞 㻝㻥 㻥㻠 㻝㻥 㻥㻢 㻝㻥 㻥㻤 㻞㻜 㻜㻜 㻞㻜 㻜㻞 㻞㻜 㻜㻠 㻞㻜 㻜㻢 㻞㻜 㻜㻤 㻞㻜 㻝㻜 㻯 㼛 㼜㼜 㼑 㼞㻌 㻯 㼛 㼚 㼟㼡 㼙 㼠㼕 㼛 㼚 䠄 㼗㼠 䠅 㻯㼔㼕㼚㼍 㻵㼚㼐㼕㼍 㻶㼍㼜㼍㼚 㻷㼛㼞㼑㼍 㼀㼍㼕㼣㼍㼚 㻳㼑㼞㼙㼍㼚㼥 㻾㼡㼟㼟㼕㼍 㻮㼞㼍㼦㼕㼘 㼁㻿㻭 㻲㼛㼞㼑㼏㼍㼟㼠
Fig.3 Global copper demand by country since 1950.
㻳㻰㻼㻌㼜㼑㼞㻌㼏㼍㼜㼕㼠㼍㻌㼍㼚㼐㻌㻯㼛㼜㼜㼑㼞㻌㻯㼛㼚㼟㼡㼙㼠㼕㼛㼚䠄㻶㼍㼜㼍㼚㻌㼍㼚㼐㻌㻯㼔㼕㼚㼍䠅 㻜㻚㻜 㻝㻚㻜 㻞㻚㻜 㻟㻚㻜 㻠㻚㻜 㻡㻚㻜 㻢㻚㻜 㻣㻚㻜 㻤㻚㻜 㻥㻚㻜 㻝㻜㻚㻜 㻝㻝㻚㻜 㻝㻞㻚㻜 㻝㻟㻚㻜 㻝㻠㻚㻜 㻜 㻡㻘㻜㻜㻜 㻝㻜㻘㻜㻜㻜 㻝㻡㻘㻜㻜㻜 㻞㻜㻘㻜㻜㻜 㻞㻡㻘㻜㻜㻜 㻟㻜㻘㻜㻜㻜 㻟㻡㻘㻜㻜㻜 㻠㻜㻘㻜㻜㻜 㻳㻰㻼㻌㼜㼑㼞㻌㼏㼍㼜㼕㼠㼍䠄㻐㻛㼜㼑㼞㼟㼛㼚䠅 㻯 㼛 㼜 㼜 㼑 㼞㻌 㻯 㼛 㼚 㼟 㼡 㼙 㼜 㼠㼕 㼛 㼚 㻌㼜 㼑 㼞㻌 㼏 㼍 㼜 㼕㼠 㼍 䠄 㼗 㼓 㻛 㼥 㼑 㼍 㼞㻛 㼜 㼑 㼞㼟 㼛 㼚 䠅 㻯㼔㼕㼚㼍䠄㻝㻥㻢㻜㻙㻝㻥㻣㻥䠅 㻯㼔㼕㼚㼍䠄㻝㻥㻤㻜㻙㻝㻥㻥㻥䠅 㻯㼔㼕㼚㼍䠄㻞㻜㻜㻜㻙䠅 㻶㼍㼜㼍㼚䠄㻝㻥㻢㻜㻙㻝㻥㻣㻥䠅 㻶㼍㼜㼍㼚䠄㻝㻥㻤㻜㻙㻝㻥㻥㻥䠅 㻶㼍㼜㼍㼚䠄㻞㻜㻜㻜㻙䠅 㻯㼔㼕㼚㼍 㻶㼍㼜㼍㼚
Fig.4 Copper demand per GDP per capita in Japan and China from 1960.
3
金属鉱物資源の現状
この数年続いた金属資源価格の 高騰は,世界金融の信用収縮のた めに生産活動が急落し,その結果 を受けて価格は急落した.金属資 源価格,特に非鉄やレアメタル金属 にとっては,下落,乱高下自体は, 珍しくないが,今回の場合は,非常 に急激で,かつ国内企業にとって は円高も重なり,大変厳しい状況 になっている.しかしながら,金 属資源の寡占状態が変化したわけ ではない.逆にこのような下落後 は,中小の体力がない資源会社や 鉱山はつぶれるので,さらに寡占 が進むことも予想される.現在の 経済状況は日本にとっても大変厳 しい状況であるが,経済が回復し た状況を見据えて資源に対応すべ きであり,逆に言えば資源確保の 良い機会といえる.本資料を準備 している2010年初頭ではすでに 一部の非鉄金属やレアメタルは最 高値の2/3以上の価格まで上昇し ている.その裏づけになっているのは,中国の需要の伸びで,最近の銅の需要の変化をFig.3に示 す[4].多くの地域では微増もしくは微減であるが,中国のみが突出して需要が伸びている.さらに一 人当たりの銅消費量をGDPの伸びとともに表したものをFig.4に示す[4].これから中国は,まだ一 人当たりでは,約3kgを超えたところで,まだ飽和しておらず,現在のGDPの伸びからは少なくと もさらに一人当たりの消費量が倍増することが予想される.このような状況の下,銅に関しては,中 国に十分な資源がないことも資源の権益確保競争が厳しい状況を生み出している.当然,それに対応50 持続可能な発展のための我が国の金属資源戦略 第 65 巻 第 1,2 号 するようにいわゆる鉱物資源メジャーの合併の動きもまだ継続している. 金属資源,とくにレアメタルの問題を議論するとき,にその資源の偏在性が取り上げられる.確か にかなりの元素が特定の国に集中している.この場合も何を対象にするかで議論の内容が大きく異な る.現在,問題となっているのは主に中国に頼ってきた希土類,W,Inなどであり,同じように偏在 しているTa,Nbはそれほど大きな問題となっていない.最近の危機意識は,中国の資源政策の転換 によるもので,場合によっては中国にとって戦略物質と認識されたら全面的な輸出禁止になる可能性 があり,そのことが供給を受ける側の最大のリスクといえる.
4
これからの方向性
Stable Supply of Mineral Resources
䛆Stable Supply of Mineral Resources䛇
For sustainable reservation of mineral resources, key issues are ; exploration and exploitation of nonferrous metals, further promotion of recycling, development of substitutes, stockpile of minor rare metals and etc.
exploration and exploitation of metal resources Need to develop a multidisciplinary and comprehensive strategy for mineral security in its competitive market. exploration and exploitation of metal resources Need to develop a multidisciplinary and comprehensive strategy for mineral security in its competitive market. exploration and exploitation of metal resources Need to develop a multidisciplinary and comprehensive strategy for mineral security in its competitive market.
further promotion of recycling
Further promotion of metal recovery from end of life products and
the new technology to make the recovery possible are necessary.
further promotion of recycling
Further promotion of metal recovery from end of life products and
the new technology to make the recovery possible are necessary.
further promotion of recycling
Further promotion of metal recovery from end of life products and
the new technology to make the recovery possible are necessary.
development of substitutes
Searching for replaceable new material (substitute), and the further efforts to reduce minor rare metal consumption are
necessary. development of substitutes Searching for replaceable new material (substitute), and the further efforts to reduce minor rare metal consumption are
necessary. development of substitutes Searching for replaceable new material (substitute), and the further efforts to reduce minor rare metal consumption are
necessary.
stockpile of minor rare metals
Expeditious reservation and release of minor rare metals should be implemented under the joint effort of the public and private sectors.
stockpile of minor rare metals
Expeditious reservation and release of minor rare metals should be implemented under the joint effort of the public and private sectors.
stockpile of minor rare metals
Expeditious reservation and release of minor rare metals should be implemented under the joint effort of the public and private sectors.
Source) METI
Fig.5 Measures of mineral resource securing. レアメタル資源確保対策は経済産 業省資源エネルギー庁内の総合資源 エネルギー調査会鉱業分科会レアメ タル対策部会で検討され,おおむね 下記の4つの総合対策が重要との結 論になった[5].その内容をFig.5に 示す. (1) 探鉱開発の推進 レアメタル探 査の強化を中心とした海外資源 の確保 (2) リサイクルの推進 いわゆる都 市鉱山の開発 (3) 代替材料開発 特殊な希少金属 を使用しなくても機能を出現さ せる材料の開発 (4) レアメタル備蓄 それぞれ,効果の出る時間軸が異なり,速効性は,(4)の備蓄で,それから(2)リサイクルの推進, (3)代替材料開発,(1)探鉱開発の推進と続く.本来資源が関与する政策は,長期的視野が重要であり, このように時間軸を考慮し,長期的な対策まで明示したことは大きな意味がある.これまで備蓄につ いては,前述したようにNi,Cr,Co,Mn,W,Mo,Vで鉄鋼材料の添加合金元素が中心であったが,最近 InとGaが追加され,より本来の意味のレアメタル備蓄になりつつある. 本来,資源は数年の短期では対応できないものであり,一時の価格低下で問題が解決したとすると 政策ならびに対応の方針を誤る可能性がある.わが国は,本質的に自国の地殻中の地下資源を開発し 終わっており,もはや地下から採掘するわけにはいかない.その意味では,外国の政府や企業と協力 して他国で鉱山開発を行うことが本質的に重要である.この場合,いまだ低開発の資源保有国に単に 経済的な支援のみで協力する手法は通じず,それなりに直接的に資源開発の技術やインフラ整備を国 として支援することが重要である.幸いわが国は,衛星を利用したリモートセンシングによる鉱物資 源探査について高い技術力を保有しており,それらの活用がなされている. 自国内での金属資源の確保の可能性は,一つは経済水域にある海底熱水鉱床であり[5],もう一つは いわゆる“都市鉱山”である[6].それとまったく思考が変わるが,問題となる元素を使用しないで機 能を発揮する代替材料開発が挙げられる[7].
-Cobalt-rich Manganese Crusts -Manganese Nodules -Hydrothermal Deposits 㼑㼤㼜㼍㼚㼐㼕㼚㼓㻌㼍㼤㼕㼟㻌㼕㼚㻌㼟㼑㼍㼒㼘㼛㼡㼞 㻵㼟㼘㼍㼚㼐㻌㼍㼞㼏 㼟㼑㼍㻌㼙㼛㼡㼚㼠㼍㼕㼚 㼎㼍㼏㼗㻌㼍㼞㼏㻌㼎㼍㼟㼕㼚㼟 㼐㼑㼜㼠㼔 㻤㻜㻜㻙 㻞㻘㻠㻜㻜㼙 㻰㼑㼜㼠㼔 㻠㻘㻜㻜㻜㻙 㻢㻘㻜㻜㻜㼙 㼟㼡㼎㼐㼡㼏㼠㼕㼛㼚 㼐㼑㼜㼠㼔㻤㻜㻜㻙㻟㻘㻜㻜㻜㼙 㻯㼡㻝䡚㻟㻑䚸㻼㼎㻚㻝䡚㻜㻚㻟㻑䚸 㼆㼚㻟㻜䡚㻡㻡㻑䚸㻭㼡䚸㻭㼓䚸㼛㼠㼔㼑㼞㻌 㼙㼕㼚㼛㼞㻌㼞㼍㼞㼑㻌㼙㼑㼠㼍㼘㼟 㻹㼚 㻞㻤㻚㻤㻑㻌䚸㻯㼡㻝㻚㻜㻑䚸㻺㼕㻌㻝㻚㻟㻑䚸㻯㼛 㻜㻚㻟㻑䚸㼙㼛㼞㼑㻌㼠㼔㼍㼚㻌㻟㻜㻌㼑㼘㼑㼙㼑㼚㼠㼟 㻹㼚㻞㻠㻚㻣㻑䚸㻯㼡 㻜㻚㻝㻑䚸㻺㼕㻌㻜㻚㻡㻑䚸㻯㼛 㻜㻚㻥㻑䚸 㻼㻳㻹㻜㻚㻡㼜㼜㼙 oceanic trench
Fig.6 Mineral resources in sea water.
Fig.7 Outline of SMS development program.
4.1
海底熱水鉱床
海 底 資 源 に 関 す る 簡 単 な 説 明 を Fig.6に示す.この図には,従来か ら開発が検討されているマンガン団 塊,コバルトリッチクラフト,海底 熱水鉱床の3つの海底での存在状態 を示す.これからわかるように海底 熱水鉱床は,もっとも浅い海底(数 百mから千m程度)に存在する.ま た,よく知られているように,沖縄 や伊豆小笠原沖に発見されており, 日本の経済水域にある.上記の条件 より,海底熱水鉱床はもっとも可能 性が高い海底鉱物資源と考えられて いる.その主体は,海底火山から噴 出したマグマが凝固したもので,主 に亜鉛,鉛,銅の硫化物である.そ の中に金,銀,その他のレアメタル が濃度は低いが含まれている.Fig.7 に示すように現在経済産業省が国の プロジェクトとして,5ヵ年計画を 進行中である.資源開発には多くの 課題があり,現在は,鉱量探査,周 囲の環境調査,採鉱技術,製錬技術 の調査と一部技術開発がなされてい る.我々の研究室では,その製錬技 術の基礎について検討を行っている.現在は,硫化物の濃縮物である精鉱試料を使い,従来の硫化鉱 製錬が可能かどうかの検討を行っている.2013年の中間評価後,予定ではさらに5年かけて実証化を 行う予定である. 実用化に向けて多くの問題があるのは当然であるが,課題が多い分ある意味では資源・製錬分野の フロンティアといえる分野である.4.2
リサイクル
リサイクルについては,前年度(2009)に本誌に掲載したので省略する[7].当然,大事な要素であ り,本質的に持続可能を大上段に構えれば,リサイクルは最も優先されるべき政策である.リサイクル の場合は,法律で規制する場合と経済合理性をもって自主的に進める場合がある.当然,経済合理性 があれば問題はないが,現実に資源と廃棄物は紙一重なので,社会システムの構築には難しさがある. ここで,基本的には従来のリサイクルシステムと技術を十分に使うことが必要である.新たにリサイ クルのためだけに設備投資を行うには,十分な量が確保しづらいクリティカルメタルはリサイクルしに くい.やはり,従来の非鉄製錬業でどのような元素が回収されているのかを十分に認識し,その上で新 たにシステムを検討すべきである.その意味で,参考のために現在のわが国非鉄製錬の中でどのような 金属元素が回収されているかをFig.8にまとめた.主体となる非鉄製錬は,銅,亜鉛,鉛であり,それ らの鉱石処理と関連元素が含まれる廃棄物処理を行いながら多くのレアメタルの回収が行われている.52 持続可能な発展のための我が国の金属資源戦略 第 65 巻 第 1,2 号
Copper Smelting
Zinc Smelting Lead Smelting
Cu,Au,Ag,PGM. Ni,Co,Cd,As,Se,Te Pb,Sn,Bi,Sb Zn,In,Ga Pb Cu Pb Zn Zn Cu Zinc concentrate EAF dust Copper concentrate Shredder dust Lead concentrate
Waste lead battery Fly ash
Sulfuric acid䠛
Copper Smelting
Zinc Smelting Lead Smelting
Cu,Au,Ag,PGM. Ni,Co,Cd,As,Se,Te Pb,Sn,Bi,Sb Zn,In,Ga Pb Cu Pb Zn Zn Cu Zinc concentrate EAF dust Copper concentrate Shredder dust Lead concentrate
Waste lead battery Fly ash
Sulfuric acid䠛
More than 20 metals can be recovered except RE,W,Mo,Mn,Cr,Nb,Ta and Li
Fig.8 Base metals and minor metals recovered from pri-mary and secondary resources in non-ferrous industry. 特に金,銀,PGM(Platinum Group Metal)ならびにSe,Teなどは本質的 に非鉄製錬の不純物として鉱石中にも 含まれており,回収は古くから行われ ていた.その他,In, Ga, Sb, Biなど多 くの元素が回収されている.この図に 記述されている元素は,非鉄製錬のプ ロセスに装入すれば,自動的に回収さ れることになるので,わざわざ別のプ ロセスを構築する意欲が小さくなる. 当然,貴金属は非常に高価であるので, 従来の非鉄製錬とは別に回収されても いる.その他,最近は希土類金属やLi 電池などがこれから伸びるであろう電 子機器に多く使用されている.そのため,それらの元素のリサイクルが検討されている.これらのこ とを考えると廃電気・電子機器,将来の自動車伝送部品などは,一度収集後,固体選別を行い,従来 の精錬プロセスが存在する元素が多い部品とそうでない部品に分離後,それぞれに適した手法でリサ イクルすることが望ましい.このシステムを確立するためにも従来の非鉄製錬所が必要である.さら に,すぐに経済合理性を持たない元素をリサイクルするためには,それらを含有する廃棄物を一時期 保管(Reserve)し,蓄積を行い,将来の原料(Stock)とすることが必要といえる.我々は,そのよ うな保管・管理を行うことを“人工鉱床を作ること”と考えている.具体的に人工鉱床は,ある種の中 間処理物の資源化目的の管理場所といえる.
4.3
代替技術開発
代替技術開発は,やはりレアメタル対策としては重要な位置づけにある.平成19年度には,文部科 学省の元素戦略,経済産業省の希少金属代替プロジェクトが両省の共同プログラムとして始まった. 文部科学省のテーマは,シーズ中心で長期的視野に立った基礎テーマが多く,経済産業省のテーマは 実用化を目指したテーマが主体である.平成20年度開始の元素戦略の具体的テーマを下記に示す[8]. (1) 高分散貴金属ミニマム化触媒の物質設計 およびプロセシング (2) 貴金属フリー・ナノハイブリッド触媒の創製 (3) 貴金属代替分子触媒を用いる革新的エネルギー変換システムの開発 (4) 材料ユビキタス元素協同戦略 (5) ケイ素酸素系化合物の精密合成による機能設計 であり,かなり実用が近いものから相当基礎研究に近いものまで存在する.一方,希少金属代替材料 開発プロジェクト[9]では,我々が行っているテーマも含め下記の4件である. (1) 透明電極向けインジウム使用量低減技術開発 (2) 透明電極向けインジウム代替材料開発 (3) 希土類磁石向けディスプロシウム使用量低減技術開発 (4) 硬工具向けタングステン使用量低減技術開発 ITOに関しては,元素戦略で1つ,希少金属代替プロジェクトで2つ取り上げられているが,それ ぞれターゲットとしている部分が異なる.我々が行っている(1)透明電極向けインジウム使用量低減New Industry Creation Hatchery Center, Tohoku University Development of 60% In2O3 ITO
film by sputtering technique
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Target
Development of a new composition ITO film by Sputtering method , Prof.Otsuka, Tohoku University
First-principle calculation for finding new composition in ITO by
Prof.Kawazoe, IMR, Tohoku University Development of a new process to making a very thin ITO film , Ulvac Corporation
Development of a pilot scale process for ITO Nano-Ink and 㼟㼜㼞㼑㼍㼐㼕㼚㼓㻌㼠㼑㼏㼔㼚㼕㼝㼡㼑㼟㻌㻘㻌Mitsui Mining & Metals Corporation and DOWA Electronics Corporation
Project Leader: Prof.Nakamura, Tohoku University
Development of a new composition ITO target , Ulvac Corporation and Mitsui Mining & Metals Corporation
Development of a ITO Nano- particles
for ITO Nano- Ink, Prof.Muramatsu , Tohoku University
Fig.9 Development of technologies for reducing indium us-age in a transparent conducting electrode.
技 術 開 発 は ,最 も 要 求 が 厳 し い LCD(Liquid Crystal Display)の共通 電極に使用する部分で,他のITO完全 代替はTFT(Thin Film Transitor)電 極側を対象としている.また,従来の スパッタ法のみならず,ターゲットを 使用しない塗布法による製膜について も開発を行っている.プロジェクトの 全体の概要をFig.9に示す.東北大学 未来科学技術センターが主体で,同じ く多元物質科学研究所,金属材料研究 所,企業は株式会社アルバック,三井 金属鉱業株式会社,DOWAエレクト ロニクス株式会社,シャープ株式会社 の共同で推進している.現在は,中間評価を終わり,次の実証化に向けて精力的に研究を進めている.
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まとめ
簡単にわが国の資源戦略の考え方をまとめた.これからさらに資源確保は,重要な課題になってく ると思われる.資源は主にその土地に依存しており,したがって,国の関与がおきやすい分野である. また,多くの場合が国として対応しないと解決しない.したがって,国の戦略を十分に持つ必要があ る.特にわが国のようにハイテク技術の蓄積はあっても資源がない国は,技術をどのように生かしな がら,総合的に資源確保を進めるかをしっかり議論し,実行しなくてはいけない.特に一企業では対 応できないことも多い資源分野では,多くの組織の協力が重要である.文 献
[1] 独 立 行 政 法 人 石 油 点 ガ ス・金 属 鉱 物 資 源 機 構 資 料 (3)『 レ ア メ タ ル 備 蓄 デ ー タ 集(31 鉱 種 )』(2005) “http://www.jogmec.go.jp/mric web/organization/japan/g3/ shiryo haihu page/haihu.html”.[2] クリティカルメタル対策に関する提言(2007) 11月 技術同友会.
[3] Minerals, Critical Minerals, and the U.S. Economy:“Committee on Critical Mineral Im-pacts of the U.S. Economy, Committee on Earth Resources”, National Research Council, the National Academies Press (2007).
[4] Private communication from JOGMEC (2009).
[5] 平成18年度総合資源エネルギー調査会鉱業分科会 資料(2006). [6] 平成19年度鉱物資源対策調査報告 経済産業省 資源エネルギー庁 鉱物資源課(2008). [7] 中村 崇、柴田悦郎、白鳥寿一:素材工学研究彙報、64 (2008), 65. [8] 文 部 科 学 省 ウ ェ ブ サ イ ト “http://www.mext.go.jp/b menu/houdou/20/09/08090307/ 002.htm”. [9] NEDOウェブサイト“http://www.nedo.go.jp/activities/portal/p08023.html”