Kobe Shoin Women’s University Repository
Title
量化研究の概要
A Review of Researches an Quantification
Author(s)
郡司 隆男(GUNJI Takao)
Citation
Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin,
No.4:31-56
Issue Date
2001
Resource Type
Bulletin Paper / 紀要論文
Resource Version
URL
Right
量 化研 究 の概 要*
郡司 隆男
A Review of Researches on Quantification
GUNJI Takao
Abstract
This brief article reports what was presented at the symposium on
quan-tification at the annual meeting of the Linguistic Society of Japan, held
at Nagoya Gakuin University on November 25, 2000. In this talk, a brief
overview of the treatment of quantification in natural language semantics
was given. The talk starts with the problem of propositional Logic and
need for predicate logic. Then, it is shown that the concept of
quantifica-tion is extended in the generalized quantifier approach. The second half
focuses on the treatment of what has been called donkey sentences and
reviews several major approaches to this problem, including the discourse
representation theory, E-type pronouns, and dynamic binding.
本 稿 は2000年11月25日 に 開 か れ た 日本 言 語 学 会 第121回 大 会 公 開 シ ンポ ジ ウ ム 「量 化 一 意 味 論 は 行 き詰 ま って い る か 」 に お け る発 表 の 耶本 研 究 の 一 部 は 、 日本 学 術 振 興 会 科 学 研 究 費 補 助 金(基 盤 研 究(B)「 言 語 に お け る 制 約 間 の イ ン タ ー フ ェ ー ス に 関 す る 総 合 的 研 究 」(平 成13年 度 ∼ 平 成16年 度 、 研 究 代 表 者:西 垣 内 泰 介 、 課 題 番 号12410129)を 受 け て い る 。 TheoreticalandAppliedLinguisticsatKobeShoin4,3156,2001, OKobeShoinInstituteforLinguisticSciences.
概 要 で あn本 発 表 で は 、 白然 言 語 に お け る 量 化 の 扱 い を概 観 した 。 まず 命 題 論 理 の もつ 問 題 点 と 述語 論 理 の 必 要性 を 指 摘 した 後 、鼠 化 の 概 念 が 一 般 化 量 化 子 の ア プ ロ ー チで 拡 大 され る こ と を 見 たn後 半 は ロ バ 文 と呼 ば れ て い る 現 象 の扱 い に絞 り、 談 話 表 示 理 論 、E一しy爬代 名 詞 、 動 的 意 味 論 な ど の主 な ア プ ロ ー チ を概 説 した 1.は じ め に 本 発 表 で は 、 形 式 意 味 論 に お い て 量 化 の 問 題 が ど の よ う に 扱 わ れ て き た か を 、 発 表 者 の 知 る 限 りに お い て 概 要 を 紹 介 し、 本 シ ン ポ ジ ウ ム の 続 く発 表 に対 す る理 解 を深 め る こ と を 目的 とす る 。 な お 、 以 下 で は 、 論 理 式 ま が い の 表 現 は あ く ま で も直 観 的 に 理 解 して も ら う こ と を 目 ざ した 簡 易 表 現 で あ る 。 言 語 の 意 味 を 形 式 的 に 記 述 す る とい う 試 み は ア リス トテ レス の 時 代 か ら あ っ た わ け だ が 、 近 代 の 命 題 論 理 が そ れ を よ り一 般 的 な形 で形 式 化 し、 さ ら に 自然 言 語 の 文 の 統 語 的 構 造 に よ り よ く沿 っ た 形 の形 式 化 と して 述 語 論 理 の 体 系 が 整 備 さ れ 、 そ れ と と も に 、 量 化 現 象 と そ の 表 現 が 論 理 の 中 で も中 心 的 な話 題 と な っ て きた 。 1.1形 式 意 味 論 に お い て 、 量 化 の 問 題 は ど の よ う に扱 わ れ て き た か ス ラ イ ド1に 示 す よ う に 、 形 式 意 味 論 の も っ と も 簡 単 な 形 式 化 で あ る 命 題 論 理 で は、1文 を1つ の 命 題 記 号 で あ ら わ す た め に 、 文 の 統 論 的 な 構 造 は 見 え て こ な い 。後 に見 る よ う に 、量 化 は 自然 言 語 の統 語 構造 と密 接 に結 び つ い て い る た め に、 こ の ま ま で は 量 化 は扱 え な い の で あ る。 一 方、 自 然 言 語 の 統 語 構 造 を あ る程 度 反 映 す る 述 語 論 理 に お い て は、 文 の 中 の 動 詞(句)相 当 の 部 分 を 「述 語 」、 主 な 文 法 的 要 素 を 項(引 数)と して あ ら わ す た め に 、 量 化 を 扱 え る こ とが で きる だ け で な く、量 化 こ そ が 述 語 論 理 の 主 要 な研 究 テ ー マ と な っ て きた 。 1.2命 題 論 理 例 え ば 、 ス ラ イ ド2の 例 で は 、(1)の 命 題 をPで 、(2)の 命 題 をgで あ ら わ す と、(3)の 命 題 は 、pvqで あ らわ す こ とが で き る 。 し か し、 直 観 的 に は(3)と 同 じ意 味 を もつ が 、 共 通 す る主 語 を一 回 し か 言 わ な い(4)の 命 題 を(3)と 同 じ形 で 2司会:今 仁 生美、発 表 者:郡 司 、金沢 誠 、西 垣 内泰 介 。本稿 に挿 入 したス ラ イ ドはほ ぼ 当 日の プ ロ ジ ェ クター に よるス ラ イ ドに対 応 してい る が、 本文 は当 日口頭 で話 した こ とと必 ず しも対 応 しな い。
量化 研 究 の概 要 33 ス ラ イ ド1
形 式意 味論 にお い て、量 化 の問題 は どの よ うに扱 わ れて きたか
・ 命題 論理 ⇒ 文 の 中身 をそ れ以上 分解 しない ⇒ 量化 は扱 えな い ・ 述 語論 理 ⇒ 文 を 「主語 」 旧 的語 」 な どの項 と 「述語 」 に分 解 ⇒ 量化 現象 とそ の表現 が論 理 の 中で も中心 的 な話 題 あ ら わ して よ い か ど う か は 自 明 で は な い 。 ま た 、(5)の よ う な 「カ ッ カ レ ー 」 と い う新 し い 語 彙 項 目が 出 て くる 文 も扱 え な い 。 ス ラ イ ド2 (1)今 夜 の 夕 飯 は カ ッ だ 。 (2)今 夜 の 夕 飯 は カ レー だ 。 P 4 (3)今 夜 の 夕 飯 は カ ッ か 、 あ る い は 、 今 夜 の 夕 飯 は カ レ ー だ 。._..pVq (4)今 夜 の 夕 飯 は カ ッ か 、 あ る い は 、 カ レ ー だ 。 (5)今 夜 の 夕 飯 は カ ッ カ レー だ 。 ?ワpV4 ?ワ? 、ρnq 1.3述 語 論 理 こ れ に対 して 、 述 語 論 理 で は 、 文 を構 成 す る 要 素 を 述 語 と項 と に 分 け る 。 今 、 「カ レ ー 」 で 「カ レ ー で あ る」 と い う 述 語 を、 「夕 飯 」 で 「今 夜 の 夕 飯 」 とい う項 を 、 「カ ツ」 で 「カ ツ で あ る 」 と い う述 語 を あ らわ す こ とに す る と 、 ス ラ イ ド2の (1)か ら(5)は 、 概 略 、 ス ラ イ ド3の(6)か ら(10)の よ う に あ らわ さ れ る だ ろ う。 先 に問 題 とな っ て い た(4)(ニ(9))は 、 「カ ッ か 、 あ る い は 、 カ レ ー だ 」 に対 応 す る 複 合 述 語 を 定 義 す る こ と に よ っ て 、 ほ ぼ 自然 言 語 の 構 造 を保 っ た ま ま述 語 論 理 式 で あ らわ す こ とが で き る。 こ こ で 用 い られ て い る λκ[…x…]と い う式 は 、vが文 ど う し しか 結 び つ け る こ とが で きな い の で 、 い き な り[カ ツvカ レ ー]の よ う な 形 に 書 く こ とが で き な い た め に用 い られ る 。 こ れ は 引 数 を1つ とる 関 数 を定 義 し て お り、 そ の 関 数 の 引 数 が[…x…]の 中 のxに わ りあ て られ る よ う な もの で あ る 。 した が っ て 、 λκ[カ ツ(x)vカ レ ー(x)]と い う複 合 述 語 は 「xが カ ツ で あ る かxが カ レ ー で あ る 」 と解 釈 さ れ る 。 こ の複 合 述 語 が 「夕 飯 」 と い う引 数 を と る と、2か 所 のxの 位 置 に 「夕 飯 」 が 入 っ て 、 カ ツ(夕 飯)Vカ レー(夕 飯)に な り、 最 終 的 に得 ら れ る式 に は 「夕 飯 」 が2回 あ らわ れ る こ と に な る。 た だ し、 こ こで も、(5)(=(10))は 扱 う こ とが で き な い 。 こ こ で は 「カ ッ」 とい う語 と 「カ レ ー」 と い う語 か ら 「カ ッ カ レー 」 とい う複 合 語 が 作 ら れ て い る た め 、 語 彙 意 味 論 の レベ ル で き ち ん と意 味 を 記 述 す る 必 要 が あ る 。 ス ラ イ ド3 2.述 語 論 理 2.1構 成 性 原 理(Fregeの 原 理) 述 語 論 理 にお い て は文 を構 成 す る 要 素 をP,Qの よ う な述 語 とa,b,x,yの よ うな 項 と に 分 け る。 そ して 、文 の 意 味 は 、 述 語 の 意 味 を 関 数 、項 の 意 味 を 引 数 と して 、 P(の,Q(a,b)の よ う な 関 数 適 用 に よ っ て 得 られ る とす る 、構 成 性 原 理(Fregeの 原
量化 研 究 の概 要 35 理)に 従 っ て い る。構 成 性 原 理 は再 帰 的 に働 き、関 数 適 用 に よ って で き た命 題 を さ ら に演 算 子 に よ っ て 組 み 合 わ せ て い く と き に も適 用 さ れ る 。 例 え ば 、 、P(a)の 意 味 はP(a)に 依 存 して 決 ま り(具 体 的 に は逆 の 真 理 値 を もつ)、 ま た 、P(のAQ(a,b) の 意 味 はP(の の 意 味 とQ(a,b)の 意 味 に依 存 して 決 ま る(具 体 的 に は両 者 が と も に 真 の と き に の み 真 とな る)。 2.2量 化 量 化 表 現 を可 能 にす る た め に は 、 まず 、 項 に2種 類 の 区 別 を た て な け れ ば な ら な い 。1つ は 定 項 で あ り、通 常 、a,bの よ う な ア ル フ ァベ ッ トの 先 頭 の 方 の文 字 を 使 う 習 慣 が あ る 。 定 項 は 与 え ら れ た モ デ ル で 一 定 の 解 釈 を も ち 、 量 化 に は直 接 関 係 しな い 。 も う1つ は変 項 と呼 ば れ 、 通 常 、x,yの よ う な ア ル フ ァベ ッ トの 後 ろ の 方 の 文 字 を使 う習 慣 が あ る 。 変 項 に は 基 本 的 に は そ れ 自体 の 解 釈 は 存 在 せ ず 、 量 化 の 文 脈 に お い て は じめ て 解 釈 が 定 ま る 。 変 項 を含 む述 語 論 理 式 を 束 縛 す る 量 化 子 に は 、 「∀」(普 遍 量 化)と 「ヨ」(存 在 量 化)が あ り、 ∀xP(x),コyQ(a,y)の よ う に 、述 語 論 理 式 を 何 らか の 量 化 子 で 束 縛 す る と、 量 化 の 表 現 に な る わ け で あ る 。 2.3ス コ ー プ 量 化 表 現 の 量 化 子 の 影 響 の 及 ぶ 範 囲 をス コ ー プ(scope)と 言 う 。 ス コ ー プ は 厳 密 に決 ま っ て い る。 少 な く と も、 論 理 式 の 記 述 にお い て は 、 曖 昧 さ の 生 じな い よ う な 書 き方 を す る約 束 に な っ て い る。 ス ラ イ ド4の(11)や(12)で は後 続 す る式 全 体 が 量 化 子 の 影 響 を 受 け る が 、(13)で は量 化 子 の 直 後 の 式 の み が 影 響 を 受 け る 。 (14)の よ う に 、量 化 子 に 続 く部 分 全 体 に影 響 を及 ぼ す に は 、 全 体 を 括 弧 で 括 る 必 要 が あ る 。 2.4ス コ ー プ の 多 義 性 項 が 複 数 あ る場 合 に は 、 そ の 束 縛 の しか た に よ っ て ス コ ー プ の 違 い が 生 じ、 そ れ が 意 味 の 多 義 性 を 反 映 した もの で あ る との 扱 い が な され て きた 。 例 え ば 、 ス ラ イ ド5の(15)の 文 に は 、 親 戚 の 一 人 一 人 につ い て 奈 緒 美 か ら連 想 す る 人 物 が 別 々 で あ っ て も よい 解 釈(16)と 、 す べ て の 親 戚 が 同 じ人 物 を連 想 す る とい う解 釈(17) が 存 在 す る 。 こ れ ら は 、 そ れ ぞ れ 、外 側 に置 か れ た 量 化 子 が 広 い ス コー プ を も ち 、 内 側 の 量 化 子 に束 縛 され る 変 項 の 解 釈 が 外 側 の 量 化 子 に よ っ て 束 縛 さ れ る 変 項 の そ の と き に依 存 した 解 釈 を もつ 。 した が っ て(16)で は 「奈 緒 美 か ら連 想 す る 人 物
{y)」 は そ の と き の親 戚(x)が 誰 で あ る か に依 存 す る の に対 して 、(17)に は そ の よ う な 依 存 関 係 は な い 。 こ の よ う な ス コ ー プ の 多 義 性 は 自 然 言 語 の 意 味 の 多 義 性 を 反 映 して い る と考 え られ る が 、 実 際 に は 、(17)が な りた て ば(16)が 必 ず な りた つ の で 、(17)は(16)の 特 殊 な 場 合 に す ぎず 、 多 義 性 と は考 え な い とい う 立 場 も あ る 。 2.5論 理 形 式(LF) 以 上 が 量 化 の 基 本 的 な 扱 い 方 で あ る 。 自然 言 語 の 統 語 論 に お い て も、 統 語 構 造 に ス コ ー プ の 多 義 性 を 反 映 さ せ よ う とい う考 え 方 が 、70年 代 以 来 の 論 理 形 式(LF) な ど の 表 現 様 式 を 生 ん で きて い る。 こ の場 合 、 ス ラ イ ド6に 示 す よ う に 、 表 層 の 構 造 よ り さ ら に先 の 構 造 を想 定 し て 、 量 化 子 に相 当 す る表 現 を文 頭 に 移 動 して ス コー プ を明 示 的 に示 す 。 「誰 も」 と 「誰 か」 の よ う に 、 ス コー プ を と り得 る 表 現 が 2つ あ る場 合 に は 、 ど ち らが よ り先 に(木 構 造 で は よ り高 く)あ る か に よ っ て 異 な る2つ のLFが 得 られ る 。
3.一 般 量 化 子(GeneralizedQuantifier) 3.1一 階 述 語 論 理 一・方 、 同 じ70年 代 に 、Montagueが 量 化 の 少 し違 っ た観 点 か ら の 表 現 を提 案 し た(Montaguel974)。 従 来 の 述 語 論 理 は 一 階 の 論 理 で あ り、 自然 言 語 の 名 詞 句(主 語 〉 と動 詞 句 の う ち 、 後 者 を述 語 と して きた 。 こ れ は 、主 語 が 「健 」 の よ う な個 体 名 で あ る 場 合 に は都 合 が よい が 、 主 語 が 「誰 もが 」 の よ う な量 化 表 現 で あ る 場 合 に は不 都 合 が 起 こ り、 一 階 述 語 論 理 と し て 得 られ る 形 式 化 に 統 一 性 が な い 。 何 よ り も構 成 性 原 理 に 従 わ ず 、 「あ ら ゆ る」 に 相 当 す る 表 記 を 恣 意 的 に 導 入 す る し か な くな る 。例 え ば 、 ス ラ イ ド7に 示 す よ う に、 主 語 が 固 有 名 で あ る(18)の 場 合 に は 、 「笑 っ て い る(健)」 の よ う な論 理 式 が 問題 な く得 ら れ る が 、 主 語 が 量 化 表 現 で あ る(19)の 場 合 に は、 標 準 的 な論 理 式 の ∀x[笑 っ て い る(x)]で は 、 主 語 に対 応 す る の が 、 量 化 子 の ∀xお よ び そ れ に よ っ て 束 縛 さ れ る 、 「笑 っ て い る 」 の 項 のx と に分 離 して し ま っ て い る 。 こ れ は 構 成 性 原 理 に 従 っ て い な い ば か りか 、 「あ ら ゆ る 」 に相 当 す る表 記 を恣 意 的 に導 入 す る こ と に な っ て い る 。
量化研 究 の概 要 39 3.2高 階 述 語 の 導 入 こ こ でMontagueは 発 想 を変 え て 、 名 詞 句 が 述 語 、 動 詞 句 が 項 に な り得 る と し た 。 す る と、 個 体 名 を主 語 とす る 文 も 、量 化 表 現 を 主 語 とす る 文 も、 構 成 性 原 理 に従 っ た形 で 、 統 一 的 に あ ら わ せ る の で あ る 。 す な わ ち、 こ れ ら の 文 で は 、 主 語 の名 詞 句 の 意 味 を 関 数 と して 、 動 詞 の 意 味 を項 と し て 、 文 の 意 味 が 計 算 さ れ る 。 そ うす れ ば 、 ど ち ら も同 じ よ う な 関 数 適 用 に よ っ て 意 味 が 計 算 され 、 統 一 性 が 保 た れ る の で あ る 。 ス ラ イ ド8に 示 す よ う に 、(18)も(19)も 、 主 語 を 述 語 、 動 詞 句 を 項 と す る 表 現 に対 応 さ せ る こ とが で き る 。 こ の 場 合 、 主 語 の 「健 」 の 意 味 論 的 対 応 物 の健 と 「誰 も」 の 意 味 的 対 応 物 の 誰 も を 適 切 に 定 義 して お け ば 、 同 値 の 一 階 の 述 語 論 理 式 と して 伝 統 的 な もの と同 じ も の が 得 ら れ る 。 なお 、 健 と誰 も の 定 義 は 決 し て ア ドホ ッ ク な もの で な く、 前 者 は 「健 と い う 人 物 が もつ 属 性 の 集 合 」、 後 者 は 「す べ て の 人 物 が もつ 属 性 の 集 合 」 とい う 、 統 一 した 定 義 を 与 え られ て い る。
3.3集 合 に よ る 定 義 付 け こ こ で 、 や や 複 雑 な例 を と っ て 、 主 語 の 名 詞 句 と動 詞 句 との 関 係 を も う少 し詳 し く見 て い こ う。 ス ラ イ ド9の(20)の 「誰 も」 に 対 応 す る 意 味 的対 応 物 は 論 理 式 に 展 開 さ れ る形 に 定 義 さ れ て い るが 、(21)の 「誰 も」 は2つ の 集 合 を 項 と して と り、 集 合 間 の 関 係 を与 え る もの と して 定 義 され て い る 。 誰 も3の 解 釈 は 、 主 語 が あ らわ す 集 合Qが 動 詞 句 が あ ら わ す 集 合Pに そ っ く り含 ま れ る と い う こ と で あ り、 直 観 的 に 「誰 も」 が あ ら わ す 意 味 に 対 応 して い る 。 ス ラ イ ド9
集合による定義付 け
(20)親 戚 の 誰 も が 笑 っ て い る 。 働 誰 も2(親 戚)(笑 っ て い る) 誰 も2=λ9λP∀x[Q(x)→P(x)] 誰 も2(親 戚)(笑 っ て い る)=∀x[親 戚(x)→ 笑 っ て い る(x)] (21)親 戚 の 誰 も が 笑 っ て い る 。 効 誰 も3(親 戚)(笑 っ て い る) 誰 も3=λQλP[Q⊆P]=λQλP[IQ-Pl=0] (P={κlp(x)},Q={xlC(x)}) 誰 も3(親 戚)(笑 っ て い る)=親 戚 ⊆ 笑 っ て い る (親 戚={xl親 戚(x)},etc.) 3.4他 の 量 化 子 へ の 拡 張(一 般 量 化 子) 主 語 の 名 詞 句 の 意 味 を 関 数 と す る た め に は 、 「健 」 の よ う な 個 体 名 を あ らわ す 名 詞 句 の 意 味 も高 階 の 論 理 式 に せ ざ る を 得 な い が 、 こ の よ う な形 で 量 化 の 扱 い を 拡 大 す る と、 「ほ とん どの 少 年 」 「3人 以 上 の 少 女 」 な ど の よ う な 、 従 来 形 式 化 が 与 え られ な か っ た 表 現 に も、 正 確 な 形 式 化 が 与 え られ る よ う に な り、1980年 代 の量化研 究 の概 要 41 一 般 化 量 化 子 の 理 論 へ と発 展 して い っ た(BarwiseandCooperl981) 。 ス ラ イ ド10に 示 す よ う に 、 「誰 か 」 は2つ の 集 合 の 共 通 部 分 が あ る こ と、 「ほ と ん ど」 は2つ の 集 合 の 共 通 部 分 が 主 語 に対 応 す る 集 合 の 一 定 の 割 合(の よ り大 き い こ と、 とい う よ う に定 義 す る こ とが で き る。 ス ラ イ ド10
他 の量化 子 への拡張(一 般 量化 子)
(22)親 戚 の 誰 か が 笑 っ て い る 。 ∼a誰 か(親 戚)(笑 っ て い る) 誰 か=λQλP[Q∩P≠ φ]=λQλP[IQ∩Pl>0] 誰 か(親 戚)(笑 っ て い る)=1親 戚 ∩ 笑 っ て い る1>0 (23)ほ と ん どの 少 年 が 笑 っ て い る 。 紛 ほ と ん ど(少 年)(笑 っ て い る) ほ と ん ど=λQλP[IQ∩Pl>clQl] ほ と ん ど(少 年)(笑 っ て い る)i少 年 ∩ 笑 っ て い る1>cl少 年1 3.5一 般 量 化 子 の 性 質 一 般 量 化 子 理 論 は、 自然 言 語 の 名 詞 句 の 統 語 論 ・意 味 論 に密 接 に 関 係 し 、 ま た 、 言 語 の意 味 論 的 普 遍 性 の研 究 に も興 味 深 い 結 果 を 出 して き て い る 。 こ こ で 、 一 般 量 化 子 に見 られ る い くつ か の 性 質 を見 て お こ う。 ス ラ イ ド11に 見 る よ う に 、 保 守 性 は 、 主 語 につ い て 述 べ られ て い る 性 質 は主 語 に対 応 す る集 合 の 外 に言 及 す る こ と は な い とい う こ と で あ る 。 こ れ は た い て い の 一 般 量 化 子 に つ い て な りた ち 、自然 言 語 が 一 般 的 に もつ 意 味 論 的 な 普 遍 性 の 一一つ で あ る と考 え ら れ て い る 。 対 称 性 は 主 語 と動 詞 句 を 交 換 し て も同 じ こ とが 言 え る とい う性 質 だが 、 こ れ は な りた つ 量 化 子 とな りた た な い 量 化 子 とが あ る 。 反 射 性 は 主 語 と動 詞 句 に 同 じ も の が き て も よ い とい う こ とだ が 、(32)の よ う に な りた た な い もの もあ る 。(32)は 意 味 的 に逸 脱 し た文 で あ る 。 ス ラ イ ド11
一般 量化 子 の性 質
保 守 性(conservativity):GQ(Q)(P)⇔GQ(Q)(Q∩P) (24)親 戚 の 誰 もが 笑 っ て い る。 ⇔ 親 戚 の 誰 もが 笑 っ て い る 親 戚 だ 。 (25)親 戚 の 誰 か が 笑 っ て い る。 ⇔ 親 戚 の 誰 か が 笑 っ て い る親 戚 だ 。 (26)ほ と ん どの 少 年 が 笑 っ て い る 。 ⇔ ほ とん ど の 少 年 が 笑 って い る 少 年 だ 。 対 称 性(symmetry):GQ(Q)(P)⇔GQ(P)(Q) (27)親 戚 の 誰 もが 笑 っ て い る 。 ⇔ 笑 っ て い る 人 の 誰 も が 親 戚 だ 。 (28)親 戚 の 誰 か が 笑 っ て い る 。 ⇔ 笑 っ て い る 人 の 誰 か が 親 戚 だ 。 (29)ほ と ん ど の 少 年 が 笑 っ て い る 。 ⇔ ほ と ん ど の 笑 っ て い る 人 が 少 年 だ 。 反 射 性(re且exive):GQ(Q)(Q) (30)親 戚 の 誰 もが 親 戚 だ 。 (31)親 戚 の 誰 か が 親 戚 だ 。 (32)#ほ とん どの 少 年 が 少 年 だ 。 3.6単 調 性(monotonicity) さ ら に 、単 調 性 とい う興 味 深 い 性 質 が あ る 。 こ れ に は4種 類 あ る が 、 ス ラ イ ド 12の(33)を 例 に と る と、 主 語 に 対 応 す る集 合 よ り大 き い 集 合 に 対 応 す る 主 語 を もっ て き て も同 じこ とが 言 え る 場 合 に、 こ れ を左 単 調 増 加 ↑MONと 呼 ぶ 。 左 単 調 減 少 ↓MONは 逆 に 主 語 に 対 応 す る 集 合 よ り小 さ い 集 合 に 対 応 す る 主 語 で 同 じ こ と が 言 え る場 合 で あ る。 これ らの 右 の 版 は 動 詞 句 に対 応 す る 集 合 の 大 小 を 問 題 に す る 点 を 除 い て 同様 に 定 義 さ れ る 。量化 研 究 の概 要 43 ス ラ イ ド12 単 調 性(monotonicity) ↑MON:GQ(R)(P)⇒GQ(Q)(P)ifR⊆Q (33)遠 い 親 戚 の 誰 か が 笑 っ て い る 。 ⇒ 親 戚 の 誰 か が 笑 っ て い る 。 ↓MON:GQ(Q)(P)⇒GQ(R)(P)ifR⊆Q (34)親 戚 の 誰 も が 笑 っ て い る 。 ⇒ 遠 い 親 戚 の 誰 も が 笑 っ て い る 。 MoN↑:GQ(Q)(R)⇒GQ(Q)(P)ifR⊆P (35)ほ と ん ど の 少 年 が 笑 い 泣 き し て い る 。 ⇒ ほ と ん ど の 少 年 が 笑 っ て い る 。 MON↓:GQ(Q)(P)⇒GQ(Q)(R)ifR⊆P (36)せ い ぜ い5人 の 少 年 が 笑 っ て い る 。 ⇒ せ い ぜ い5人 の 少 年 が 笑 い 泣 き し て い る 。 (せ い ぜ い5人=λQλP[IQ∩Pl≦5]) ス ラ イ ド13に 、 い くつ か の 一 般 量 化 子 に つ い て 、 そ の 形 式 的 な 定 義 と、 こ れ ま で に見 て き た性 質 を ま とめ て お く。 4.ロ バ 文(DonkeySentence) 4.1ロ バ 文 と は? 1970年 の も う一 つ の 動 き と して 、 一 階述 語 論 理 の 世 界 に 限 っ て も、 一 見 説 明 さ れ な い 自然 言 語 の代 名 詞 の 扱 い を め ぐ る議 論 が あ る 。 典 型 的 な 症 状 を示 す 例 文 か ら 「ロ バ 文 」 と呼 ば れ る 一 群 の 文 に お い て は 、 一 階 述 語 論 理 式 で は ス コ ー プ の 外 に 出 て し ま う よ う な変 項 に対 応 す る こ と に な っ て し ま う もの が 代 名 詞 で あ ら わ さ れ て お り、 しか も 、 話 者 の直 観 で は 、 そ の よ う な 代 名 詞 は束 縛 され て い る よ う に 理 解 さ れ る の で あ る(Geach1962)。 例 え ば 、 ス ラ イ ド14の(37)で は 、b.の よ う に、itをyと し て も コyの ス コー プ の外 に あ る の で 束 縛 さ れ な い 。 か とい っ て 、c, の よ う に ヨyの ス コ ー プ を強 引 にyを 含 む よ う に 拡 大 す る と奇 妙 な 解 釈 に な っ て しま う。 ス ラ イ ド14の(37)のc.の 解 釈 は 、概 略 、 ス ラ イ ドi5の よ う に な る 。 問 題 は 、
ス ラ イ ド13
保守性 対称性 反射性
↑MON ↓MON MON↑ MON↓誰 も Y Y 寸
v
誰 かv
'Vv
v
ほ と ん どv
v
せ い ぜ い5人v
v
v
Y ■ 誰 も 耳 λQ,聖P〔IQ-Pl百01 ■ 誰 か 置 」Q'IP[IQnPI>01 ・ ほ と ん ど=1Q・IP[IQ∩PT>c'1GII] ・ せ い ぜ い5人=λQ濯P[IQ∩Pl≦5] ス ラ イ ド14 ロ バ 文 と は? {37>Every面ml母rwhoow嘔adonk¢yb巳aζ 呂iし.乱 ∀11[f註mlef(.t}Aヨ ン 【d曲nkey(ア)Aown(躍,♪ ・〕】]→b{}atα,ゴr〕 】
1t
b・Vよ1【 『a㎜ 俳 α)Aヨy〔do]血 已y砂}Aown(エ,)う 】】→beat(」 〔,y)】
Lj↑ 束 縛 さ れ な い
ロ.甘x三 夙 【f註rmεr(めAldo雌 皐yOウAoii{x,y川 →b¢at( ,馬ン)】
量化 研 究の概 要 45 も と の文 に こ の よ う な読 み が あ る の か 、 とい う こ と で あ る 。 ス ラ イ ド15 4.2複 数 の 読 み ロ バ 文 に は 複 数 の 読 み が あ る こ とが あ る 。 普 遍 読 み(universalreading) 普 遍 読 み(あ る い は全 称 読 み)は 、 英 語 のadonkeyの よ う な 表 現 も論 理 上 は 普 遍 量 化 子 に よ っ て 束 縛 され る よ う な 変 項 に 対 応 す る とす る 読 み で あ る 。 こ の場 合 、 ス ラ イ ド14の(37)は 、 ス ラ イ ド16に 示 す よ う に 、 「ロ バ を飼 っ て い る 農 夫 の 誰 も が 、 飼 っ て い る ロバ の す べ て を ぶ つ」 とい う解 釈 を 受 け る 。 ス ラ イ ド16
存 在 読 み(existentialreading) 一 方、 存 在 読 み は 、 ス ラ イ ド17の(38)の よ う な 文 の 一 般 的 な 読 み で あ る 。 こ の 場 合 、(39)の よ う な 普 遍 読 み の 解 釈 を 与 え て し ま う と 、(40)の よ う な 読 み が あ る こ と に な る が 、 こ れ は 奇 妙 で あ り、 直 観 的 に は 、(41)の よ う な 読 み に な る で あ ろ う 。 そ れ に 対 応 す る の は(42)の よ う な 論 理 式 で あ る 。 ス ラ イ ド17 存 在 読 み(existentialreading) (38}Everymanwhohadaquarterputitinthemeter. (39)∀x∀Y[[man(x)A[quarter(y)Aown(x,y)】1→puトin-the-meter(x,y)]
L===:==:===:,
??? (40)#25セ ン ト貨 を も っ て い る 男 の 誰 も が 、 も っ て い る 硬 貨 の す べ て を メ ー タ に 入 れ る 。 (41)25セ ン ト貨 を も っ て い る 男 の 誰 も が 、 も っ て い る 硬 貨 の い くつ か を メ ー タ に 入 れ る 。 (42)∀x[[man(x)Aヨy[quarter(Y)Aown(x,y)]] → ヨy[[quarter(Y)Aown(x,y)]Aput-in-the-meter(x ,y)]] ど の よ う な文 の 場 合 に どち らの 解 釈 に な る の か と い う問 題 は 盛 ん に研 究 さ れ て い る分 野 で あ る 。Kanazawa(1994)な ど を参 照 さ れ た い 。 4.3何 を数 え る の か こ こ で 、 ロバ 文 に 含 ま れ る 量 化 表 現 は何 の量 を 計 っ て い る の か を考 え て お く必 要 が あ る ・ こ れ は 歴 史 的 に 比 率 問 題(ProportionProblem)と 呼 ば れ て い る 問 題 で あ る 。(43)を 次 の よ う な 状 況 で 考 え て み よ う。 (43)お もち ゃ を も っ て い る ほ と ん どの 少 年 は そ れ を大 事 に しな い 。 状 況 ・ お もち ゃ を も っ て い る少 年 が100人 。 お も ち ゃ の 総 計 は300個 。 ・99人 は 一 人 一 個 ず つ の お も ち ゃ、100人 目 の少 年 は一 人 で201個 の お も ち ゃ を も っ て い る 。量 化研 究 の概 要 47 ・99人 の 少 年 は お も ち ゃ を 大 事 に す る ・100人 目 の 少 年 は 、201個 の う ち 、1個 しか 大 事 に し な い 。 こ の 場 合 、 ス ラ イ ド18に 示 す よ う に 、少 年 の 数 で 数 え る場 合 とお もち ゃ の 数 で 数 え る 場 合 と で は 、文 の真 理 値 が ち が っ て しま う。 少 年 の 数 で 数 え る 場 合 、 一 般 に 「ほ とん ど」 の意 味 か らCは0.5よ り大 き い の で 、 文 は偽 に な る 。 一 方 、 お も ち ゃ(あ る い は お もち ゃ と少 年 の 対)の 数 で 数 え る場 合 に は 、cが213を 越 え な い 場 合 に真 とな る の で 、 「ほ とん ど」 を 過 半 数 程 度 に考 え て い る 場 合 に は真 に な る 。 ス ラ イ ド18 ・ 少 年 の 数 で 数 え る場 合 ほ と ん ど(お も ち ゃ を も っ て い る 少 年)(そ れ を 大 事 に しな い) ニiお も ち ゃ を も っ て い る 少 年 ∩ そ れ を 大 事 に し な い1 >CIお も ち ゃ を も っ て い る 少 年l lお も ち ゃ を も っ て い る 少 年i=100 【お も ち ゃ を も っ て い る 少 年 ∩ そ れ を大 事 に しな い1=1 1≠ ひ100forO.01<C<1 文 は 偽 ・ お も ち ゃ(あ る い は お も ち ゃ と少 年 の 対)の 数 で 数 え る場 合 ほ と ん ど(少 年 の も っ て い る お も ち ゃ)(それ を大 事 に しな い) =1少 年 の も っ て い る お も ち ゃ ∩ そ れ を 大 事 に し な い1 >cl少 年 の も っ て い る お も ち ゃl I少 年 の も っ て い る お も ち ゃ1=300 1少 年 の も っ て い る お も ち ゃ ∩ そ れ を大 事 に しな い1=200 200>c・300forO<c<2/3 文 は 真 に な り得 る 4.4唯 一 性 の 前 提(uniquenesspresupposition) さ らに 問 題 と さ れ る の が 、 「そ れ 」 やitの よ う な 単 数 代 名 詞 で表 現 さ れ る もの に 、 しば しば 、 そ れ が た だ1つ だ け存 在 す る とい う前 提 が 伴 う と主 張 さ れ る こ と
で あ る 。例 え ば 、 ス ラ イ ド19の(44)で は 、 買 っ て も ら っ た お も ち ゃが1つ の 場 合 、 「そ れ 」 は 唯 一 の お も ち ゃ を指 す だ ろ うが 、(44)や(45)で は 、 お も ち ゃや ク レ ジ ッ トカ ー ドを1つ し か も っ て い な い 状 況 は む しろ考 え に くい 。 ま た 、(47)に 至 っ て は 、 セ ー ジ の 苗 を 同 時 に9つ 買 っ て い る わ け な の で 、 唯 一 の セ ー ジ の 苗 と い う もの は存 在 し得 な い 。 この 問 題 に つ い て は 、 次 節 で ま た 考 え る 。 ス ラ イ ド19 唯 一 性 の 前 提(uniquenesspresupposition) (44)お も ち ゃ を 買 っ て も ら っ た 少 年 は 誰 も そ れ を 大 事 に す る 。 そ れ=買 っ て も ら っ た(そ の 〉 お も ち ゃ 。 (45)お も ち ゃ を も っ て い る 少 年 は 誰 も そ れ を 大 事 に す る 。 そ れ=も っ て い る(そ の)お も ち ゃ (4b)Everymanwhohasacreditcardwilluseit. it卑thecreditcardthatthemanhas (47}Everygirlwhoboughtasageplantboughteightotherswithit. it≠the(unique)sageplantthatthcgirlbought
5.古
典 的述語 論理 の拡 張
5.1無 差 別 束 縛(unselectivebinding) 今 ま で 見 て き た 現 象 に は い くつ か の ア プ ロ ー チ が 提 案 さ れ て い る 。 一 つ は 、 自 然 言 語 の代 名 詞 や あ る 種 の 表 現 は本 質 的 に 自 由 変 項 で あ り、 そ れ が 、 一 定 の 環 境 で は 、 一 括 して(無 差 別 的 に)束 縛 さ れ る とい う考 え方 で あ る 。 そ の 結 果 、 一 階 述 語 論 理 と して は 自 由 変 項 の な い表 現 が 得 られ る が 、 束 縛 を指 示 す る表 現 が 自 然 言 語 の 表 現 の 中 に 直 接 あ る わ け で は な い 。 こ の よ う な考 え 方 は 、 従 来 手 が 付 け ら れ て い な か っ た 、 文 を 越 え た 談 話 の 扱 い を も可 能 に し、1980年 代 の 談 話 表 示 理 論 (DiscQurseRepresentationTheory)へ と発 展 し て い っ た(Kamp1981,Heim1982)。 自然 言 語 の 表 現 が そ の ま ま論 理 的 な 量 化 子 に対 応 す る の で な く、 単 な る 自 由 変 項 に す ぎ な い と い う の が そ の 基 本 的 な 考 え 方 で あ る 。 日本 語 の 「誰 」 と い う表 現量化 研 究 の概 要 49 も、 そ れ 自体 に 意 味 が あ る とい う よ りは 、 そ の 後 に つ く 「か 」 や 「も」 に よ っ て 量 化 へ の 関 与 の しか た が 変 わ っ て くる とい う点 で 自 由 変 項 に似 て い る と言 え る だ ろ う。 以 下 、 も う少 し詳 し く見 て い こ う。 文 を越 え た 談 話 と談 話 表 示 理 論 ま ず 自 由 変 項 を導 入 し て、 後 に そ れ を束 縛 す る とい う 考 え 方 は 、 文 境 界 を 越 え て 代 名 詞 が 使 わ れ る状 況 を う ま く説 明 で き る 。 ス ラ イ ド20に 示 す よ う に 、(48) の 文 単 独 で はXとYと い う2つ の 自 由 変 項 が 導 入 さ れ る 。 ス ラ イ ド20
文 を越 えた談 話 と談 話表 示理 論(1)
(48)Afannerownsadonkey. こ の後 に 、 ス ラ イ ド21の(49)の よ う に 代 名 詞 を伴 う文 が 続 く と、 と りあ え ず 、 そ れ ぞ れ の 代 名 詞 に 対 応 して 新 た な 自 由変 項uとvが 導 入 さ れ 、 そ れ らが 先 行 す る文 で 導 入 さ れ た 自由 変 項 と同 定 さ れ る(そ の 際 に は 、heは 人 間 の男 と、itは 人 間 で な い もの と 同定 さ れ る が 、 こ れ は 談 話 表 示 理 論 の外 に あ る 意 味 的 制 約 に 依 存 して 決 ま る)。 ロ バ 文 と 談 話 表 示 理 論 談 話 表 示 理 論 の 代 名 詞 の 同 定 は 先 の ロバ 文 に も適 用 で き る 。 ス ラ イ ド22に 概 略 を示 した よ う に 、 関 係 節 を含 む 主 語 に よ っ て導 入 さ れ た 自 由 変 項 の1つ が ロ バ 代 名 詞 のitと 同 定 さ れ る 。 こ の メ カ ニ ズ ム は文 を越 え た 代 名 詞 の 同 定 と ま っ た く 同 じで あ る 。 た だ 、 こ の 形 で ロ バ 文 を表 示 して し ま う と、 普 遍 読 み の 解 釈 しか 得 ら れ ず 、 存在 読 み を ど うや っ て得 る の か と い う問 題 が 残 る 。 5.2E・type代 名 詞 以 上 見 て きた ア プ ロ ー チ は 、従 来 量 化 表 現 と して 扱 わ れ て き た 自然 言 語 の表 現 の い くつ か を 単 な る変 項 と し、必 ず し も論 理 式 で の 量 化 子 に対 応 させ な い とい う 考 え 方 だ が 、一 方 、 あ くま で も これ ら の量 化 表 現 を量 化 子 に 対 応 させ た ま ま 、 代 名 詞 の 解 釈 を 変 更 す る と い う考 え方 も あ り得 る。 特 に 、E-type代 名 詞 と 呼 ば れ る ア プ ロ ー チ(Evans1980)で は 、存 在 量 化 子 に後 続 す る 文 で は代 名 詞 が 照 応 的 に使 え る こ と を 、 そ の よ うな 代 名 詞 を、 概 略 「前 文 に よ っ て 云 々 の もの 」 と い う形 の 確 定 記 述 に よ っ て と ら え る 。 ロ バ 文 とE・type代 名 詞 例 え ば 、 ス ラ イ ド23の(51)の 文 はE-type代 名 詞 の ア プ ロ ー チ で は 、(52)の よ う な 表 示 を 与 え ら れ る 。 こ こ で 、`the-donkey-x-awns'は 、 厳 密 に は 、(53)の よ う に あ ら わ さ れ 、xが 所 有 す る 唯 一 の ロ バ を さ す 。 こ の 方 法 の 旨 味 は 、(54)の よ
量 化研 究 の概 要 51 う な文 に 対 して も適 切 な 表 示 を 与 え る こ と が で き る こ と で 、 こ の 場 合 、 ヨ!xで 無 差 別 にbeatの 第2項 を束 縛 し て し ま う と 、 ロ バ を ぶ つ 農 夫 が た だ1人 しか い な い こ と も主 張 し て し まい 、 不 適 切 な 解 釈 に な っ て し ま う。 他 の例 ス ラ イ ド24に 、 代 名 詞 の 特 異 な用 法 の 他 の 例 を あ げ て お く。(55a)と 違 っ て 、 (55b)は 特 定 の ワ イ ンの 瓶 を指 す こ と が で きな い 。(56a)と 違 っ て 、(56b)は 特 定 の 下 院議 員 を指 す こ と が で き な い 。 ま た 、(57)で は 、 文 の 後 半 のitが 文 の前 半 に 出 て きたpaycheckを 指 す こ とが で きな い例 で あ る。 こ の よ う に 、E-typeア プ ロ ー チ が 得 意 と す る 現 象 が あ る が 、 一 方 、 確 定 記 述 は あ る条 件 を 満 た す も の が 唯 一 存 在 す る こ と を前 提 とす る た め 、 先 に見 た 唯 一 性 の 前 提 が な り た た な い 場 合 は ど う す る の か 、 とい う 問 題 が あ る 。 5.3動 的 意 味 論(dynamicsemantics) 自 然 言 語 の量 化 表 現 を 量 化 子 に対 応 させ た ま ま 、 自 由 変 項 の解 釈 の しか た を 変 え る も う 一 つ の ア プ ロ ー チ は 動 的 意 味 論 で あ る。 こ れ は、 一 文 の解 釈 は 、 そ の 文
ス ラ イ ド23 ロ バ 文 とE・type代 名 詞 (S1)Everyfarmerwhoownsadonkeybeatsit. (52)∀x[farmer(x)Aヨy[donkey(Y)Aown(x,y)]→beat(x,`the-donkey-x-owns')]. (53)`the-donkey-x-owns':「xが 所 有 す る 唯 一 の ロ バ 」 ヨu[[donkey(u)Aown(xu)]A∀v[[donkey(v)Aown(x,v)]→v=u] (54)Exactlyonefarmerownsadonkey,andhebeatsit, ]κlf㎜erωAヨy[donkey{y)Aown(x,y)】] nbeat(`thefarmer-who-owns-a-donkey',`the-donkey-thefarmer-owns')]. #ヨ!x【farmer(x)Aヨ ツ[donkey(y)Aown(x,y)]Abeat(x,ン)]. 無 差 別 束 縛 で は う ま くい か な い? の 真 理 値 を与 え る だ け で な く、後 続 す る 自 由 変 項 の 解 釈 に も影 響 を 与 え る と い う 考 え 方 を形 式 的 な論 理 解 釈 の 中 に組 み 込 ん だ 理 論 で あ り、 発 話 と そ の 処 理 に よ っ て ダ イ ナ ミ ッ ク に 文 脈 情 報 が 蓄 積 さ れ て い くさ ま を形 式 的 に と ら え る も の で あ る (GroenendijkandStokhof1991,Chierchia1992,1995)。 こ れ も、 従 来 の 静 的 意 味 論 で は う ま く扱 え な い 、 ロ バ 文 や 文 を越 え る 談 話 に対 して 、 適 切 な意 味 論 を 与 え る こ とが で き る。 そ の 正 確 な定 式 化 は 文 献 に 譲 る こ と に しそ 、 こ こで は そ の 基 本 的 な考 え 方 を簡 単 な 例 に 即 し て み る こ と に す る 。 文 を越 え た 談 話 と動 的 意 味 論 ス ラ イ ド25の(58)の よ う な文 の 列 が 与 え ら れ た と き、 第1文 の 意 味 表 示 を得 る 前 に は 、2つ の 自 由変 項u,vに 適 当 な値(お そ ら く こ の 文 よ り以 前 の 文 脈 に依 存 した値)が 割 り当 て ら れ い る が 、(58)に 登 場 す る2つ の 量 化 子 ヨxと ヨYの 解 釈 が お こ な わ れ る と 、 こ の 文 を真 にす るuとvの 値(こ の 例 で は 、PedroとChiquita) の 割 り当 て の 結 果 が 残 り、次 の文 の解 釈 に対 して文 脈 と して伝 え られ る 。 した が っ
53 量化研 究 の概 要 ス ラ イ ド24
匝
代 名 詞 の 指 示 的 用 法 で は な い 。 (55)a.Johnboughtjustonebottleofwineandserveditwiththedesert. b.Everyhostboughtjustonebottleofwineandserveditwiththedesert. (56}a.PresidentClintonthoughtthatonlyonecongressmanadmiredhimand hewasveryjunior. b.Everypresidentthoughtthatonlyonecongressmanadmiredhimand hewasveryjunior. `PronounofLaziness'a. A man who gave his paycheck to his wife is wiser than one who gave
it to his mistress. (Karttunen 1969)
b. A woman who puts her paycheck in a federally insured bank is wiser than one who puts it in the Brown Employees' Credit Union.
son 1979) (57) て 、 次 の 文 でheとitと い う代 名 詞 が 出 て き て も 、 人 間 で あ る か な い か な ど の 他 の 基 準 と照 ら し合 わ せ て 、 適 切 に解 釈 され る め で あ る。 ロバ 文 と動 的 意 味 論 基 本 的 に は ま っ た く同 じメ カ ニ ズ ム で 、 ス ラ イ ド26の(59)の よ う な ロバ 文 も 適 切 に解 釈 され る 。 こ の場 合 の 論 理 式 は、 普 遍 量 化 子 と含 意 に お い て 、 動 的 な解 釈 を与 え られ る も の で 置 きか え られ た もの 哩 と ゴ)が 使 わ れ る 。 そ の 正 確 な 定 義 は省 略 す るが 、∀xに 伴 って 、動 的 に変 項 へ の値 の 割 り当 て が お こ な わ れ 、 結 果 と して 、Xへ の 値 の 割 り当 て に 依 存 して 、itに 対 応 す る 変 項Vに 適 切 な 値 が 割 り当 て られ る 。
ス ラ イ ド25
文 を越 えた談話 と動的意味論
Hebeatsit. (58)Afarmerownsadonkey. beat(u,v) 旺He];Pedro 【[it]=・Chiquita ↑ ヨxヨY[farmer(κ)Adonkey(Y)Aown(x,y)1↑ u→?u→Pedro v→?v→Chiquita ス ラ イ ド26ロバ文 と動的意味論
(59) Every farmer who owns a donkey beats it.
v) A p]] Vx[Ap[farmer(x) A iy[donkey(y) A own(x, y) A p]] — A p[b e at ( x , T
x —> d
v —> the donkey d owns
for each d X ->? V ->? 6.お わ り に 最 後 に あ げ た3つ の ア プ ロ ー チ は 、 一 概 に どれ が 優 れ て い る と い う結 論 は 出 せ ず 、 最 近 で も活 発 に 論 争 が お こ な わ れ て い る 。 本 発 表 で は 、 そ れ ぞ れ の 基 本 的 な 考 え方 を で き る だ け非 形 式 的 に紹 介 す る と と も に 、 そ れ ぞ れ が 得 意 ・不 得 意 とす る 典 型 的 な 例 文 を多 くあ げ 、 問題 の あ りか を指 摘 し た 。 中 に は 、 例 文 の 判 断 が 微 妙 な も の が あ り、 簡 単 に は 結 論 を 出 せ な い 場 合 も あ る 。 本 発 表 で は 、 状 況 の 数 え 上 げ 、 な ど の 新 し い ア プ ロ ー チ な ど、 よ り最 近 の 動 き に は立 ち 入 る余 裕 は な か っ た が 、幸 い 、意 味 論 の 概 説 書 と して 、HeimandKratzer (1998),deSw飢(1999),金 水 ・今 仁(2000),ChierchiaandMcConnell-Ginet(2000) な ど が あ る の で 、 よ り詳 し くは こ れ ら を参 照 した 上 で 、 さ ら に そ こ に 紹 介 さ れ て い る よ り高 度 な文 献 に あ た っ て い た だ き た い 。
55
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