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大域確率変分法と容量

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(1)

1.は じ め に 音声の音響モデルは,声道,声帯,放射系,および収 録時の環境雑音(ノイズ)などを主な分析対象としてい る。これらの音響モデルは,微分方程式,または差分方 程式を用いて表すことが多い[板倉 84]。本稿は,これ らの微分方程式に係わる確率過程および確率微分方程式 研究の調査報告である。調査の焦点は幾何学に限定し た。ここで幾何学とは多様体上の微分幾何学を指す。 1990年あたりまでの結果に限定する。この調査の目的の ひとつは,この確率論に基づく幾何学とモース理論を 使った筆者の接近方法[白 95,白 96]との,関係の明 確化にある。

1828年,Philosophical Magazine Vol. 4 において大英博 物館の植物主任 R. Brown は花粉の微粒子の不規則な運 動について報告した[米沢 86]。ジグザグな軌跡を持つ このブラウン運動は,20 世紀の確率論の性格を特徴づけ ることになる。その性格とは,「滑らかではない動きに 対する確率の合理化」を計ることである。本稿ではブラ ウン運動の確率モデルをめぐる研究の流れをたどり,そ の幾何学的側面の整理を試みる。そこでは幾何学の基礎 づけに大偏差理論[数特 95,中川 95,DS89, Buc90]が 重要な役割を果たすことを見る。すなわち,通常の幾何 学で基本的な位相(確率解析のあつかう幾何学では,通 常の位相が意味をもたない)の代役を果たす「容量」の 基礎づけに大偏差理論が用いられる(3 章参照)。 大偏差理論は,その骨子において,微積分演算におけ るひとつの近似評価法(漸近展開:ラプラスの方法)と みなすことができ,そのことから「滑らかではない動き に対する確率の合理化」と密接な関係を持つ。歴史的に は,微積分演算での「部分積分」がこの合理化のための ひとつの道具として使われた。これらの問題のうち滑ら かではない関数に対する確率(測度)の合理化は,1923 年にウィナー測度の導入 [Wie23] によってなされ,ブラウ ン運動の変動が(連続だが)有界ではないことを取り込 む形での合理化は,1942 年に確率積分の導入[伊 42] により達成され,確率を考え得るが連続ではない関数の 合理化は 1976 年「部分積分に基づく微分(ある種の超 関数論)」の導入 [Mal76] によってなされた(本稿 2 章参 照)。ラプラスの方法はある種の「部分積分」の近似計 算のために考え出された。大偏差がラプラスの方法から 脱皮して「理論」とみなされるようになったのは,縮約 原理(本稿 1.6.2 参照)に依るところが大きい。縮約原 理によって,確率過程の径路 Xt(関数空間:無限次元) で成り立つ大偏差の性質から,軌跡の端点 XtT(T 固 定)に関する確率分布(有限次元での)の性質(その漸 近形)を導くことができる。換言すれば,有限次元のみ の漸近展開ではラプラスの方法で間に合うが,無限次元 では状況は単純ではない([楠 93b]p. 293,本稿 1.7 節, 2章参照)。 1.1 音声スペクトルの幾何学的側面 音声のスペクトルは,定常(確率)過程のパワースペ クトルとして扱われることが多い[板倉 84]。中でも有 理スペクトル(例えば AR, ARMA など)の幾何学的性質 の検討は幾つか試みられている[甘長,小原 93]。これ らの検討はその基礎を情報幾何学においている。情報幾

大域確率変分法と容量

白 木 善 尚 *

Global Geometry of Stochastic Differential Equations Based on Malliavin Calculus and Capacity

Yoshinao SHIRAKI*

We investigate some geometrical strucutures of stochastic processes through large deviation theory. Some applica-tions, such as Wiener functional space, nonlinear filtering theory and Malliavin calculus, are also examined.

INSTITUTE OF TECHNOLOGY Vol. 40, No. 1, 2006

*情報工学科 教授

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何学が指す「幾何学」は古典的なリーマン幾何学であ る。そこでは接続や曲率を中心とした「空間の曲がり具 合い」を表す概念が,幾何構造を調べるための主要な道 具となっている。情報幾何学が微分幾何学のこれらの道 具立てと相性が良いのは,確率分布を仲介として,情報 理論で重要なフィッシャー情報量(計量)[Fis25] と幾何 構造を定めるリーマン計量が直接結びついているためで ある。言い換えれば,既存の情報幾何学の問題点のひと つは,それの扱っている対象が確率分布のパラメータの 作る空間,つまり有限次元の空間に限定されている点に ある。 一方,確率過程や確率分布の作る空間自身は,一般に 関数空間すなわち無限次元になる。既存の情報幾何学で はこれらの無限次元空間をその直接の対象とすることは できない。その理由はフィッシャー計量が無限次元空間 での計量とはなり得ないためである。例えば,確率密度 関数全体が作る無限次元統計多様体を扱った上林の報告 を見てみよう[上林 94]。上林は,確率密度にある条件 (その導関数が自乗可積分で絶対連続な正の確率密度) をつけ加えたたものの作る空間を考察し,情報幾何学で の既存の知見と整合する幾つかの結果を得ている。しか し,これらの結果は一次元の区間 I[0, 1] 上の確率密度 の族についてのものであり,これをそのまま多次元に拡 張することはできない。その困難の所在は,上林自身も 指摘しているように([上林 94]p. 212)定義域がコンパ クトではない「確率密度関数の無限遠での挙動」にあ る。この「確率密度関数の無限遠での挙動」は,後述す る大偏差理論における直接の考察対象である。 他方,確率解析においては微分作用素のスペクトルが 多く扱われている[小 91]。これは,定常過程の場合と 同様,スペクトルと確率過程自身とが完全に対応してい るためである。本稿では,確率解析における確率過程自 体の幾何学的側面のみに焦点を当てる。そのようにする ことで,情報幾何学などの接近方法の位置づけがむしろ 明確になると思われるからである。確率解析で多く扱わ れる確率過程(例えば拡散過程)は現象的に把握しやす い対象であるためでもある。 1.2 非線型フィルターと摂動法(漸近展開) 確率論の工学的応用のひとつにフィルターがある。 フィルター,特に非線型フィルターで扱う対象は,過去 から現在までの観測値が与えられた時の,現在の状態の 推定,つまり条件付き期待値である[國田 76]。カルマ ンが開発した線形フィルターの効率的な逐次推定は,非 線型フィルターへの拡張が試みられ,その基礎方程式は Kushnerの方程式と呼ばれる形に定式化されている [Kush 64]。しかし,この方程式の最適推定値を得るためには, 無限個の方程式を解くという困難がある。この困難の打 開のため,モデルに小さなパラメータを導入して漸近展 開 で 近 似 す る ( 特 異 ) 摂 動 法 が 多 く 利 用 さ れ て い る [BS82]。大偏差理論は,この特異摂動法の理論的基礎 づけを果たす[西土 96]。フィルターは時間パラメータ をもつ確率モデル,とくに確率微分方程式での結果の応 用として貴重な役割を持つ(本稿 1.7 節参照)。 1.3 確率過程の幾何と漸近展開(大偏差) 確率過程論はブラウン運動を基礎とした物理現象の解 析 方 法 で , そ の 起 源 は 1900 年 の L. Bachelier の 論 文 [Bache]によるものとされている。Bachelier の推論は必ず しも厳密なものではないが,確率積分やマルチンゲール など,今日の確率解析で基本的な道具だての数学的基礎 づけを最初に与えたものとみることができる([楠 91] p. 6)。P. Levy は Bachelier の論文の最初の部分を見て残 りを無視したが,その後 A. Kolmogorov の仕事 [Kol31] を 見てその重要性に気付いた [Lev70]。この解析の数学的正 当化を困難にしてきた主要因は,ブラウン運動が Dirac のデルタ関数と同様の問題すなわち「滑らかではない, あるいは連続ではない対象の数学的合理化問題」を持っ ていることによる。この問題をかかえた確率過程と,滑 らかさと連続性を出発点としたリーマン幾何などの幾何 学的なものの見方の間には,長らく大きな隔たりがあっ た。この隔たりを埋める役目を,後に大偏差理論 (Large Deviation theory: LD)が果たすことになる。これは Malli-avinの確率的変分法 [Mal76] を,Wiener 空間上の Sobolev 空間の枠組みで簡潔に定式化し直した上で,Bismut のア イデア [Bis84](大偏差と Malliavin の手法との合体)を整 理し直した渡辺信三の枠組み[渡 87]によるところが大 きい。渡辺はこの枠組みを用いて,Wiener 空間上の汎関 数の漸近展開の理論を構築した(2 章参照:[楠 89]p. 154,[池 90],[渡 90]p. 99)。大偏差理論 (LD) はラプラ スの方法と呼ばれる,積分における漸近展開をその原型 としている([小重福]p. 364)。 1.4 ラプラスの方法:積分と寄与の集中化 階乗 n !の計算式として良く知られているガンマ関 数 G (n1) の近似を例にして,ラプラスの方法の適用例 をみる。ラプラスはスターリンの公式: G (n1)n! √2p nn1/2enの証明でこのラプラスの方法を用いている ([大河 76]p. 21,[ラプラス]p. 115)。この公式は,n が

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大きいときに有用である。ラプラスは,下のように G 関数の積分表示を求め,問題を g(x)の x→∞ のときの漸 近評価に帰着させている。 (1) (2) h(u)ulog u (3) ラプラスの方法の要点は下の 3 点にある([楠 93b]p. 293)。近年,確率解析や径路積分の理論 [FH65] では,法 則を記述する特徴量を道の空間上で(一般化された意味 での)積分表示を行い,被積分核の特性を利用し漸近評 価する方法がしばしば用いられるが,その考え方の 1 つ の流れはこの結果から出発している([池 92])。これは 鞍点法([江沢]p. 59)の典型例でもある。すなわち解 析関数の積分路を適切に変形することで,その寄与を集 中化し,望ましいかたち(被積分関数の指数の停留点: 導関数0 の点を通過するよう)にし,その停留点の実 部最大化問題として,積分をある近傍に局所化して漸近 表現を得る。この際,積分路の変形には分布関数の絶対 連続性(汎関数表現)を利用し,最大化問題の際に Le-gendre変換の考え方(共役空間への問題の言い換え:接 触変換([KKK80] p. 227)の特殊例)を利用する([小 95],[アーノルド]p. 56)。Legendre 変換は変分法にお いて基本的で,それにより Lagrange の 2 階微分方程式 は,(重要な)対称性をもつ 1 階の方程式系: Hamilton 方程式系(正準方程式系)に移る。 1. 式 (2) の被積分関数の最小点 x0をみつける。 2. 被積分関数が下に凸の滑らかな関数かどうか調べ る(x0でのヘシアン H を調べる:簡単のため H0 とする)。 3. 被積分関数に含まれるパラメータ(上の例では x) の値が大きいときの積分区間の積分値への寄与の 集中化:被積分関数を最小点 x0の近傍と外側にわ け,外側は適当に評価して無視できることを示し, 近傍では 2 次関数の摂動とみなして処理する。 上の例では,まず一般に区間 [a, b] が 0 を含むか否かに よって,任意の正の整数 k に対し次式が成立する。 このことは,被積分関数 exp(xu2)の積分は x が非常に 大きいと,u0 の近くだけで数値が決まること(すなわ ち 3.)から示される。 次に,h(u)を下に凸で ua に最小値をもつ十分に滑か らな関数とする。このとき

上の場合 h(u)ulog u, j(u)1/u とおけば,h(u)で h(u)

1/u20 だから下に凸で,u1 で最小値 1 をもつ(すなわ ち 2.)。よって xn1 とおいてスターリンの公式を得る。 1.5 分布へのラプラスの方法の適用:大偏差 このラプラスの方法を,確率変数(のラプラス変換の 対 数 ) に 対 し て 適 用 し て 得 ら れ た も の が 大 偏 差 理 論 (LD) である。LD の発想の原点は,めったに起こらな い現象(平均的なふるまいから大きくずれた現象)にも 目をつぶらずに,できるだけ正確に考えていく点にある。 つまり LD は分布関数(確率密度)の「すそ野」に焦点 をあてる。そして,確率分布の「すそ野の大きさ(確 率)」の評価(近似)にラプラスの方法を用いる。 他方,LD は確率論においては,大数の法則,中心極 限定理,に次ぐ第 3 の基本的なものの見方である。いま, 同一の確率分布 P(平均は m)に従う独立な n 個の確率 変数列 X (i) の試行平均を S (n):SX(i)/n とする。 • 大数の法則:試行列の平均 S(n) の挙動 • 中心極限定理: S (n) の確率分布の平均 m からの 「小さな」ずれについての法則 • 大偏差理論 (LD): S(n) の確率分布の平均 m からの 「大きな」ずれについての法則 つまり,大数の法則が「試行平均 S (n)」の「確率分布の 平均 m への収束」を問題とするのに対し,LD では,m から大きくはずれた試行平均 S (n) の「収束の速度」を問 題としている。しかし数学としての基盤の確立が遅れた G( )x exp( x x) O ( ) x o x x j  2π  12 1 1                    exp( ( )) ( ) ( ) ( ) xh a x a h a O x o x j 2 1 1 1 π ϕ                   a a xh u u du    δ δ ϕ

exp( ( )) ( ) a b k k xu du x o x a b o x a b

   exp( ) ( ) , ( ) ,          2 0 0 π g( ) :x exp( xh u( )) , u du   0 ∞

G( ) :x  exp(t t)xdtxx ( ) ,x 0 1 ∞

g

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ため(1974 年からの Donsker と Varadhan による [DV74]– [DV83])か,あまり知られていない。LD をおおまかに式 で書く(c0 定数)。 P{| S (n)c|e}K(e, c, n) exp(nR(e, c)) (4) ここで は n が大きいときの主な寄与項を表し,K は exp項に比較してゆるやかに変化する関数,R は正の値 をとる関数とする(レート関数と呼ばれる)。上の式は, 平均からの大きなずれの収束の速さが,レート関数 R に 支配されることを表す。レート関数 R は確率変数 S (n) の キュムラント母関数の Legendre 変換として求まる。これ を示すには,確率分布関数に対してラプラスの方法を適 用すればよい。確率変数 X をラプラス変換したキュムラ ント母関数を q(l):log E (exp(lX ))logexp (lX ), l は実 数,とおく。ここで E ( · )と· は期待値を表す。ここで 定義した q(l) はすべての確率分布 P に関していつも収束 するわけではない。ここでは,どんな実数 l に対しても q(l) が収束するような分布 P だけを考える。このように, ある条件を満たす確率分布のみを考察対象とする発想は, その後の大偏差原理への発想につながる。すなわち,あ る条件を満たす確率分布(測度)を考え,その測度は 「大偏差原理」を満たす,とするのである(1.6 節参照)。 この q(l) はλに関して下に凸の滑らかな関数になる。こ の性質はラプラスの方法の要点 2.を満たすので,確率分 布のすそ野の評価にラプラスの方法が適用できる([小 95]p. 5)。レート関数はキュムラント母関数 q(l) のル ジャンドル変換として求まる: R(X ):supl(lX–q(l))。LD 導出の手順(有限次元版)をまとめておく。 1. S (n)の確率に対するチェビシェフ不等式の適用 2. 目的のパラメータを平均にするような絶対連続な 分布への変換 3. 母関数の Legendre 変換によるレート関数の算出 1.6 大偏差理論から大偏差原理へ この節と次節は LD の非線型フィルターへの応用を解 説した[西土 96]による。式 (4) は「同一分布に従う独 立な確率変数の部分列」S (n) に対して成り立つ(クラー メルの定理 [Cra])。この定理の主張を確率分布の満たす べき性質として抽象化する。いま,ある空間 X で定義さ れた確率分布 Peが e→0 とともに,ある点 x 0X に集中 する分布に収束していくとする。集合 AX が x0を含ま ない場合,e→0 のとき Pe(A)は 0 に近づく。その近づき 方は,多くの場合指数関数的である。式 (4) では e1/n と見ればよい。 1.6.1 確率分布の満たすべき性質:大偏差原理 Donskerと Varadhan はこのような指数関数的に 0 に近 づく性質をもつ確率分布の族を,有限次元の Rn だけで はなく,無限次元の関数空間上でも統一的に扱える形に 定式化した ([DV74])。この結果は M. Kac の問いかけ「微 分方程式を介さずに直接「確率論的に」ある等式を示せ [Kac50]」への回答になっている。その等式とは,微分作 用素(シュレジンガー作用素:ラプラシアン 発散する 関数)の最小固有値が Wiener 汎関数の期待値の対数極 限に等しいというものである。もし,上記問いに答えら れれば,汎関数化が促進(Wiener 汎関数にまで)され る。何故なら,道の空間上の確率測度の性質を使って, この等式が示されれば,通常の「積分表現された汎関 数」よりもはるかに一般的な関数に対して成り立つこと がわかるからである。このことは,物事を「変分問題」 として捉えることの重要性を示唆する。すなわち,ある 数学的,または物理的な重要な量を,ある空間上に定義 された汎関数の上限や下限(または,極値をとるもの) として理解する考え方である([数特 95]p. 28 千代延)。 そこでの確率分布 Peの性質は,式 (4) の形の指数関数的 に 0 に近づく形の一般的な表現になっている。 大偏差原理: X を可分,完備,距離づけ可能な空間 とし,Peを X 上の確率測度とする。ある汎関数(レー ト関数)R ( · ) が存在し,次の性質を満たすとき,Pe レート関数 R ( · ) の大偏差原理に従うという。 1. R ( · )は下半連続,かつ任意の tX に対し {xX; R(x)t} はコンパクト。 2. 任意の閉集合 CX と任意の開集合 GX に対し, 1.6.2 大偏差の性質の非線型変換: LD の縮約原理 大偏差理論の中でもっとも有用な定理は,確率測度の 変換に関する次の定理である。これは縮約原理と呼ばれ る。この原理は,2 つの確率変数 X と Y が互いに連続写 像で結び付けられていれば,片方で成り立つ大偏差原理 がもう一方でも成り立つことを意味する。これは,写像 が連続ならば非線型のときも成り立つ。 縮約原理(定理): Peをレート関数 R ( · ) の大偏差原理 を満たす確率測度の族とする。Y を別の可分,完備,距 離づけ可能な空間とし,p を X から Y への連続写像とす る。そのとき Y 上の測度 QePep1はレート関数 ψ π ( ) inf ( ) : ( ) y R x x x y  

lim sup ( ) inf ( ) , lim inf ( ) inf ( ) .

ε ε ε ε ε ε →0 P Cx CR x →0 P G x GR x

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の大偏差原理を満たす。 1.7 確率微分方程式に対する LD :変分原理 縮約原理を用いると,例えば関数空間上で導かれた大 偏差原理から,有限次元空間での確率分布の漸近形を導 くことができる。確率微分方程式の場合にその例を見よ う。e は小さいパラメータ,XteRnは状態変数,BtRn はブラウン運動,b, s は滑らかな関数とする。 dXteb(Xte)dt√es(Xte)dBt (5) 今,T0 を任意に一つ固定し,W を区間 [0, T] から Rn への連続関数の空間とする。 上式 (5) の解を Xe{X te; 0tT}と表すと,Xeは W に値をとる確率変数と見なせ る。任意の元 x:{xt; 0tT}W に対し汎関数を次式で 定義する。 (6) 被積分関数 L は確率微分方程式 (5) 対応して, (7) a(x):s(x)s (x) (8) と定義する。xtが絶対連続でないか,あるいは上の積分 が発散する場合には R(x)∞ とおく。次の定理が成り立 つ。 Wentzel Freidlin の定理:確率微分方程式 (5) の解 Xte の確率測度を Peとすると,Peは上で定義したレート関 数 R ( · ) の大偏差原理を満たす。 この定理は確率過程の径路 Xe{X te; 0tT}に関する ものである。これに上の縮約原理を適用する。そうする と,径路の端点 XTeに関しての R n 上での確率分布の漸近 形が導かれる。そのために XW, YRn, p (x)x Tとすれ ば良い。このとき,Rn 上でのレート関数は (9) となる。ここでは,y を x とともに端点の時間 T の関数 とみて y(T, x) と書いている。R(x) から y(T, x) を具体的 に求めるには変分問題を解くことになる。これは古典力 学において,径路の汎関数として定義された作用から, 時間の座標の関数としての作用を求める手順と全く同じ である。作用汎関数に対応するものが R(x) であり,位置 と座標の関数として作用するのが y(T, x)である。式 (5) の 解の分布の漸近形を求めるのに,ハミルトン – ヤコビの 方程式を解くこと(1 階の偏微分方程式である)になる。 これはもとの方程式 (5) から直接解の分布を近似なしに求 めること(2 階の偏微分方程式: Fokker-Planck 方程式) よりも容易である。 2.確 率 解 析 この章では,確率解析研究の主な流れ(以下の 5 点) のうち 1. 3. 4.に絞って確率解析の要点をおおまかに述べ る([楠 91,池 92,小重福])。これらは多様体上の解析 (微分幾何学)を理解する上で必要なものと考えられる。 1. ウィナー測度の導入:ブラウン運動の多項式展開 による近似:可算無限個の独立変数を持つ非線型 汎 関 数 を ブ ラ ウ ン 運 動 の 定 め る 確 率 で 調 べ た (N. Wiener)。 2. 確率積分への 2 つのアプローチ:確率面積: Bache-lierのアイデアのスケーリングの修正 (P. Levy),拡 散過程(刻々と独立なノイズが加わり連続的に変 化していく確率過程で,ブラウン運動とは違って, そのノイズの分布は現在位置に依存してもよいと するもの)の(分布)の平均量の満たすべき性質 の検討:それらの性質を用いた拡散方程式(2 階 の放物型微分方程式)の導出 (A. Kolmogorov)。 3. 確率積分,確率微分方程式の数学的概念の確立: ノイズを係数とする常微分方程式(伊藤 清)。 4. 確率変分および付随する確率的微分に関する部分 積分公式の確立:無限次元微分幾何学の導入:確 率分布の「滑らかさ」および「非退化」の概念の 導入 (P. Malliavin)。 5. Wiener-Riemann多様体上の de-Rham 理論の創始: 超曲面の局所化理論(楠岡成雄)。 2.1 ウィナーの出発点 ウィナーはノイズ x(t) と調べたいブラウン運動 B(t) と の関係を考える際,次の 3 点を出発点とした。 1. ノイズ x(t) そのものの定義はしない。 2. ブラウン運動は独立なノイズ x(t) の積分によって与 えられる(仮定)。 3. ブラウン運動の分布はガウス分布(正規分布)で ある(仮定)。 2.1.1 ウィナー空間とウィナー測度 r次元ユークリッド空間 Rr上の道の空間 W0(R r){w; t[0, ∞) Rr, 連続,w(0)0} の上にウィナー測度 P を与えたもの (W0(R r), P ) を r 次元 ψ ( , ) : inf ( ) , T x R x x xT x   ∈Ω L x x( , ˙) :t  ( ˙x b x a( )) ( )( ˙x x b x( )) 1 2 1 R x L x x dt T t ( ) : ( , ˙) 0

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ウィナー空間と呼ぶ。ウィナー空間 W0(R r) の上のルベー グ測度 dw を考えると,ウィナー測度 P(dw) とはおおよそ 次のようなものである。微分学ではまず関数を局所的に 直線で近似し接線を考える。しかし,確率過程で考えて いるランダムな関数の場合,平均値のまわりのゆらぎは 無限小ではガウス確率変数である。そこで,正規分布を 初期分布にもつブラウン運動のモデルを,ランダムな関 数に対する「接線的役割」として採用する。すなわち, 直感的に式で書くとウィナー測度 P(dw) とはつぎのよう になる。 (10) このような測度(確率)P(dw)の一意性は明らかだが,存 在を示すのは容易ではない。この存在を初めて数学的に 厳密に示したウィナーにちなみ,この測度はウィナー測 度と呼ばれ,初期分布をウィナー測度(確率分布)にも つ確率過程をウィナー過程(ブラウン運動のモデル化) という。この測度は連続関数の空間上の測度として構成 できる。 2.1.2 無限個の独立変数による多項式展開:ウィ ナー汎関数 ウィナーは,ブラウン運動 B(t),ノイズ x(t),調べたい 確率過程 Y(t) の 3 者について次のように考えた。NL( · ) は 非線型変換関数。 ウィナーの多項式展開:ブラウン運動 B(t)(またはノ イズ x)が非線型変換(NL (B(t))または NL (x(t)))されて 作られる確率過程 Y(t) を調べることとは,可算無限個の 独立変数( ノイズ x(t) のフーリエ係数)を持つ非線型 汎関数についてブラウン運動の定める確率(ウィナー測 度)で調べることに相当する。 2.1.3 「ウィナー測度の写像」による「他の測度」 ウィナーの多項式展開の目論みは,そのままではうま くいかなかったが,測度を前面に出して標語的にまとめ ておくと有意義である。実際,この考えかたは,その後 の Malliavin 解析,渡辺信三の理論においても基本的な 指針となった(2.3.2 参照)。 ウィナー測度と他の測度との関係を調べる際の指針: 「ウィナー測度 P をウィナー空間上のひとつの典型的な 測度とみるだけではなく,他のウィナー空間上の測度 Pu はある連続関数の作る空間ウィナー空間上における,「そ れぞれの写像(NL :ウィナー汎関数)によるウィナー 測度の像:例えば PuNL(P)」として解析を進める([池 90]p. 162)。」 2.2 微分方程式と伊藤解析:確率拡張 伊藤清は,ブラウン運動自体は最初から与えられてい るものとして扱い,確率積分の形で,Levy や Bachelier など先人達の直感を「微積分の公式」の中にとりこん だ。Levy らはノイズから出発してブラウン運動を含むす べてのものを定義しようとしたため,ノイズの定義でつ まづいた。伊藤の発想の特質は,無限分解可能分布の族 を時間的に一様な加法過程(X(tk)X(tk1)が互いに独立 であるものを加法過程とよび,その増分 X(t)X(s), ts の 確率分布が ts のみに依存するもの。)の増分 X(t)X(s) の分布として捉え,その特性関数の標準形に応じた加法 過程の道の分解を考察した点にある。これが,一般の加 法過程を,より基本的な加法過程であるブラウン運動と ポアソン過程の重ね合わせの二つの部分の和に表現する 結果へとつながった([池 92]p. 122)。 さらに,伊藤は「微分」を用いて,過去とは独立なノ イズが加わっていく拡散過程 X(t) はブラウン運動 B(t) の 微分 dB(t) を用いて確率微分方程式 dX(t)b(X(t))dts(X(t))dB(t) (11) で記述されることを合理化した。ブラウン運動の微分 dB は次の性質を満たすとする。 (12) 上式の第一式はブラウン運動が有界変動ではないという 性質を示す。 2.2.1 テイラー展開と伊藤の公式 伊藤の結果を直感的に説明する。伊藤解析の要点は, 次の伊藤の「ウィナー測度に基づく解析における微積分 の代数公式」にある。 dBk(t)dBl(t)d kldt, dB k(t)dt0, (dt)20 (13) ここで dklはクロネッカー記号である。この公式を使う と,ブラウン運動の微分公式が得られる。通常の微積分 学では df (t)f (t)dt だが,これはテイラー展開 (14) f t dt( ) f t( ) f t dt( ) 1f t dt( )( ) f( )( )t dt  2 1 6 2 3 L 0 0 2 t t dB dB t

| |∞,

( ) P dw d dtw t dt dw ( ) :( ) exp1 ( ) 2 0 2 ∞

        正規化定数

(7)

において (dt)n0, n 2 とおけば得られる。同様に考えて ブラウン運動 B(t) に関して に伊藤の公式 (13) を使うと となる。 2.2.2 ヒルベルト空間の確率拡張と骨格 Malliavin解析に関しその要点を述べる準備として,渡 辺信三[渡 87,渡 90]に従って伊藤の結果を整理して おく。特に,ウィナー空間内で頻繁に使われる確率拡張 の視点から述べる。基本となるのは「空間の拡張」とい う数学的合理化の方法である。この考え方は,おおよそ 次のようなものである。ある概念 a を空間 H に対して定 義したいとき,定義することが不可能(H には a は存在 しない)あるいは困難であることが判明したとする。し かし空間 H というものは捨てたくない。そこで,H を膨 らませた空間 BH を考え,この B に対して a を定義し よう,というものである。このような膨らませ(拡張) はいつもうまくいくわけではないが,うまくいく場合を 数学では「自然な拡張ができる」「a が意味をもつ世界に 拡張する」という言い方をする。確率論では,このよう な拡張を確率拡張とよび,その拡張のもとになるものを 骨格(拡張された空間 B に対し a の構造を決定すること から)と呼ぶ。 2.2.3 確率拡張と骨格:ウィナー空間に対するもの ウィナー空間の上で,個々の道 wW0(R r) はランダム 化されてウィナー過程の見本関数(と呼ぶ)になる。r 次元ウィナー空間 (W0(R r), P ) は,ヒルベルト空間を (H 上にヒルベルトノルム || · ||2 Hを与える)としたときの H標準測度 P を W0(Rr)上で実現したものである。この P,すなわち r– 次元標準ウィナー測度がフレッチェ空間 W0(R r) 上で実現できることを示したのが N. Wiener であっ た(2.1.1 参照)。このウィナー空間においては,それに 付随するヒルベルト空間 H の上で定義された関数やその 上の演算が W0(Rr)上への P– 可測関数や,その上の演算 に自然に拡張できる場合があり,このような拡張を確率 拡張と呼んでいる。いまの場合,ヒルベルト空間 H に対 するウィナー測度 P (H )は P (H )0 となってしまうため, 空間 H 上で定義された関数はウィナー汎関数積分の直接 の考察対象とはならない。しかしこれを P 測度 1 の道の 上,すなわちウィナー汎関数積分が意味をもつ世界に拡 張するのが,確率拡張である。ここでも,ヒルベルト空 間 H 上の確率拡張のもとになった関数は,拡張の骨格と 呼ばれている。2.2 節の伊藤の確率微分方程式の理論は, このような確率拡張のひとつの場合,しかも最も重要な 場合,と考えることができる。 このヒルベルト空間 H は Cameron-Martin 空間とも呼ば れる。Malliavin 解析で基礎となる事実は次の定理である ([Bas 95] p. 58)。すなわち,基本的なウィナー空間での測 度の「微分」を考える際に必要な指針(2.3.2 参照)とな る。 定理(Cameron-Martin): uW0(R d )に対して写像 Su: W0(Rd)→W0(Rd)を Suw :wu(シフト演算)で定義する と像測度 Pu:P °Su1が P に対して絶対連続(定義は [ヌブ]p. 117)となるための必要十分条件は uH とな ることである。 2.2.4 確率拡張:多様体上のベクトル場,常微分方程 式から多様体上の確率微分方程式への確率 拡張 多様体 M を考え,V0, V1, · · ·, Vrを M 上の完備なベクト ル場とする。hH に対し M 上の常微分方程式 (15) が定義される。このとき Xx,wは常微分方程式 (15) を確率 拡張した確率微分方程式 (16) X(0)x (17) の解によって定まる。 2.2.5 確率拡張の例:多様体上のブラウン運動 リーマン多様体 M の次元を d とする。まず,微分幾 何学の展開の方法によって Rd 上の滑らかな道を多様体 dX t V X t dw t V X t dt r ( ) ( ( )) ( ) ( ( ))  α α α o 0 1

dX t dt V X t dh dt t V X t r ( ) ( ( )) ( ) ( ( ))    α α α 1 0

w dw dt t dt H | | | |  ( )  ∞     ∞

2 0 2 H: w W|(Rr),t w t( ) は絶対連続で  ∈ →  0 d f B t( ( ( ))) f B t dB t( ( )) ( )1 f B t dt( ( )) 2  f B t dB t( ( )) ( )1 f B t dB t( ( ))( ( )) f( ( ))(B t dB t( )) 2 1 6 2 3L f B t dt( ( ))f B t( ( ))

(8)

に写す(撮す)ことができる。簡単な 2 次元球面 MS2 の場合でいえば,平面 R2上の曲線をインキで画いてそ の球面 M を滑らぬように転がすときに, インキの痕 (跡)が球面に画く曲線である。このようにして Rdの道 hHW0(R d) から多様体上の道 Wx(M )への写像 f が得ら れる。 この写像 fHの確率拡張として, ウィナー空間 (W0(R d ), P)から Wx(M )に値をとるウィナー写像 fWienerが定 まる。このウィナー写像 fWienerによる,d 次元ウィナー 測度 Pd の像(像測度と呼ぶ)Pd Wienerが M 上のブラウン 運動を与える。より正確に述べておく。微分幾何におけ る展開は M 上正規直交枠バンドル O(M ) 上の常微分方程 式によって実現される。 そのため, この確率拡張は O(M )上の確率微分方程式によって与えられる(前節参 照)。つまり,Wr(O(M ))に値をもつウィナー写像 Rr,w: wW 0(R d)→Rr,wW r(O(M )) が得られる。この Wr(O(M ))に値をもつウィナー写像 R r,w は確率動標構と呼ばれている。これは多様体の問題に ウィナー汎関数積分を応用する際の基礎概念である。こ の概念は,1962 年の伊藤による確率平行移動のアイデア に始まっている。この例のようにウィナー空間上で重要 なウィナー汎関数やウィナー写像が伊藤解析によって与 えられる。このことが汎関数積分のうちで,ウィナー汎 関数積分をとりわけ重要なものにしている大きな理由の 一つである。 2.3 確率変分: Malliavin 解析:位相の放棄 確率微分方程式 (11) の枠組みの上に「変分学」を構築 する際の困難は,方程式 (11) の解 Xt,xがウィナー空間 W 0r の一様収束の位相に関しては連続ではない([池 90]p. 163)ことである。つまり,ウィナー汎関数の興味ある 多くの場合,特に伊藤解析を通して得られるウィナー汎 関数の重要な場合は,古典的な変分学やバナッハ空間あ るいはフレッチェ空間におけるフレッチェ解析の対象に はならない。 2.3.1 背景:微分の意味の修正 Hを内積が定義できる空間(有限次元でも無限次元で もよい)とし,a として,H 上の測度μを考える。空間 Hが有限次元の場合例えばリーマン多様体では,その リーマン計量 g(内積)から「自然に」測度 m を与える ことができる。しかし,H の次元が無限大(例えば一般 のヒルベルト空間)の場合,すなわち dim H∞ のとき 事情は一変する。つまり,H の内積から「自然な」測度 を構成することはできない。換言すれば,内積を重視す れば測度を考えることを放棄しなければならない。 従来,非線型関数解析においては,内積やノルムを重 視し,微分を定義するにはフレッチェ微分のようにその ノルムに基づいて定義していた。この状況では,微分可 能な関数は連続でなければならない。ところが確率論に おいては,可測だが連続ではない関数の大事な例が多数 あらわれる。このため,ほとんどの確率論研究者はその ような関数の「微分」といったものを考えるのはあきら めていた。 この困難(変分学が構成できない)に対し,Malliavin は微分( 変分)の意味をウィナー測度に関連させて修 正した意味で考えれば,この種のウィナー汎関数は十分 微分可能であり,多くの場合 C級であるという事実を 見いだした。Malliavin はこの微分の概念を,ウィナー空 間上の Ornstein-Uhlenbeck 過程(無限次元の拡散過程で ある)に関する確率解析を用いて定義したが,その後の 研究によって,丁度有限次元の場合のソボレフの意味の 弱微分,あるいはシュワルツの超関数微分 [Schw61] に対 応する概念と同等であることがわかった。 2.3.2 ウィナー空間 W0(Rr)に与えられているもの ウィナー空間 W0(R r )(以後 W と書く)の上に与えら れているものを整理する。 1. ヒルベルト空間 HW,その内積 ||w||H,ウィナー 測度 P。 2. w, uW に対するシフト演算 (wu) に対して,そ のシフトされた測度 Puが意味をもつ(P に対し絶 対 連 続 な 測 度 と な る ) の は , す な わ ち W 内 の wW での「微分」が意味をもつのは,そのシフ トが H 方向のものに限られる: hH に対する方 向微分 Dhが定義できる: ここで F は W 上の多項式(正確には実ヒルベルト空間 Eに値を値をもつウィナー汎関数)である。ここで注意 すべきことは,2.でのシフトされた測度 Pu を考察する際 に,2.1.3 の指針と,2.2.3 の Cameron-Martin の定理が用い られていることである。これら 1. 2. を使ってソボレフ 空間を以下のように構成する。Malliavin 解析は,このよ うに構成されるソボレフ空間上の解析学を指す。 2.3.3 ウィナー空間 W0(Rr) 上のソボレフ空間 ここではソボレフ空間を構成するための大まかな道筋 だけを述べる。まず,E は可分な実ヒルベルト空間を表 し E 値の Lp空間をつぎのように定義する。 D Fh :lim ( (F w h)F w( )) / ε→0 ε ε

(9)

これを精密化するかたちでソボレフ空間を構成する。上 記の F 全体が作る空間を(E ) と書く。まず (E ) 上の線 形作用素で LF(E ) 満たすものが定まる(Ornstein Uh-lenbeck作用素という)。

LF (w)D*(DF)(w)

作用素 L の別の表現を考える。2(E )の直交分解n(E )

(ウィナーの homegeneous chaos による)から,(E ) から  (E ) へ の 作 用 素 Tj

Í

njnJn( Jnは 正 射 影 作 用 素 2(E )→n(E ))が定まるが,実は次式が成り立つ: LTj. このこと(正射影であること)から,Tjを(IL) s, sR と表す。このとき,P. A. Meyer の結果などを用いて, (E ) 上のノルム族 ||·||p,sを次のように定める。 ||F ||p,s:||((IL)s/2F ||p. (18) このノルムは,単調性,両立性,双対性,ノルムの同値 性,などの性質をもつ。このとき,E 値ウィナー汎関数 のなすソボレフ空間p s (E )は下のように定義される。 p s(E ):{T ; ||T|| p,s∞}, (19) ||T ||p,s:sup {T(G); G(E ), ||G||q,s1}. (20) ここで (E)は (E ) の代数的な双対空間である:  (E):{T; (E)→R, 線形}. 標語的に言えば,ソボレフ空間p s(E ) (E ) をノルム || · ||p,sで完備化した Banach 空間と考えてよい。 2.3.4 内積,測度,微分作用素:超関数とソボレフ 空間 有限次元空間 Rn 上のソボレフ空間(超関数論を展開 するための空間([Roe88] p. 38,[島倉 78]p. 222)は, ユークリッド距離(内積)とルベーグ測度を基礎とした 空間で,その微分作用素はラプラス作用素 D である。こ のとき,ソボレフ空間は Wp s:(ID)s/2Lp(Rn ; R, dx)で定 義される (p (1, ∞), sR)。Lp(Rn ; R, dx)とその双対空間の 同一視が行われていることに注意する(Riesz の定理 [Bas95] p. 238による)。有限次元空間 Rn の上で,Malli-avin解析を考えるときは,その基礎となるのは,ユーク リッド距離とガウス測度 g (dx):2pn/2exp (|x|2 /2)dxであ る。微分作用素は Ornstein-Uhlenbeck 作用素 LDx で, 対応するソボレフ空間はps:(IL)s/2Lp(Rn; R, dg) で定 義される。無限次元空間上ではルベーグ測度を考えるの は困難なのに対し,ガウス測度は容易に(ウィナー測度 になる)考えることができる。 この無限次元空間での解析では,超関数(d 関数)的 なあつかいを可能にする次の拡張定理が基本である[渡 87]p. 7 (Th.2.1),[渡 90]p. 104,[楠 89]p. 155)。 基本定理 (Malliavin-Watanabe):自然な写像の連続 線形写像への拡張,特にデルタ関数が定義される。 2.3.5 熱方程式と基本解の漸近挙動: LD の利用 Euclid空間上でのベクトルに対する熱方程式 (15) が, いかに確率微分方程式 (16) の「解」を用いて表される か?という基本的な問題を考える。 基本的な方針は,(16) の基本解 ([KKK] p. 153, [Roe88] p. 65)が「デルタ関数の積分」を用いて表されること(これ を保障するのが基本定理),である。その道筋は次のよ うなものである。まず,ウィナー測度のもとでの w(t)は tについて滑らかでないことに注意する。従って,その ままの形で,基本解の t→0 における漸近挙動を考えるの は効率が悪い。そこで,ウィナー測度のスケール不変性 を利用して,e1w(e2)のウィナー測度のもとでの確率分 布を考える。さらに,この変換のあと Mallianin-Watanabe の基本定理が適用可能な形にするために(定理の仮定を 満たすための十分条件)は,Rn1上のベクトル場の族の 生成する Lie 環が退化していないことであることがわか る(分布が退化しないための条件)。そこでのポイント は,d(Xee( 1, x, w)x)をいかにうまく(分布が退化しない ように)変形するかにある(以降[楠 89]参照)。 2.3.6 確率変分とウィナー汎関数積分の極限:大偏差 一方,無限次元空間の積分論は確率過程論と結び付い て発展してきた。無限次元空間(関数空間)での微分学 は古典的には,オイラー,ラグランジェ,ハミルトンー ヤコビ等の「変分学」であった。変分学で取り扱う汎関 数は通常滑らかな関数の上で定義されており,ウィナー 汎関数に関連していえば,その「骨格」となるべき空間 H上の関数が変分学の(適用)対象となる。そしてこの H上の関数の変分学とウィナー汎関数積分とはパラメー タに関する極限状態においてつながってくる。この極限 で,大きな偏差 (LD) の理論における基本原理が登場する ([渡 90]p. 101)。 p p p E p W E F W E P F F w P dw ( ) : ; → , ,|| || | ( )| ( )∞     

可測

(10)

3.確率解析と容量,位相 この章は[楠 90,楠 91b]による。ウィナー空間の部 分多様体を考える。確率微分方程式を多様体の上で解く ことにより,多様体上の道の空間あるいはループの空間 と対応づけることが可能になるという観点,が以下での 基本的考え方である。 3.1 基礎的概念(容量)と消滅定理 先に述べたように,ウィナー空間上の Malliavin 解析で は通常の「位相」は使えない。従って,そこに微分幾何 学を展開するためには位相に準じた概念の導入が必要に なる。それが容量 (capacity) と呼ばれる概念である。抽象 ウィナー空間を (m, H, B ) とする。容量 Cs,pの例をあげる。 GB 開集合に対して Cs,p(G ):inf {||u|| p s p(R); up s(R), ma.e.z} (21) A(B)に対して

Cs,p(A):inf{Cs,p(G ); GB, AB} (22)

さらに C (23) で定義する。このように定義された容量 Cs,pは位相に準じ た性質をもっている(満たすべき性質は[楠 91b]p. 25)。 今,ヒルベルト空間 H を次のように定義する。 このヒルベルト空間 H はウィナー測度に対して特別な意 味をもっており,これを接空間と考えて,微分幾何学を 構築可能である。容量の他の基礎的概念には,1 の分解, support定理,微分形式,外微分,引き戻し,非線型変 換,写像の滑らかさ,などがあり,随所に確率拡張が使 われる。その結果,ポアンカレ型のド・ラームコホモロ ジー消滅定理などが示された([小重福]p. 362)。 3.2 確率解析と Morse 理論との関係 前に述べたように,多様体の上の道が作る無限次元空 間にはルベーグ測度は存在しない。これに対応するため のひとつの解決策は,測度を捨ててしまうことである。 Palais-Smaleの Morse 理論などの非線型関数解析はこの 立場に立っている[浦川]。あくまで,測度を捨てずに 無限次元解析を構築しようとする立場に,構成的場の理 論([深谷 95]p. 265 参照)と確率解析(Malliavin 解析) がある([楠 93b]p. 289)。 謝辞 御自身の貴重な論文と資料をお送り下さり,確 率解析の丁寧な解説をして下さった東京大学教授の楠岡 成雄氏,この楠岡氏の解説に出向かれ御自身のノートの コピーを下さった NTT CS 基礎研究所の今井潤氏,著者 の疑問点(Riemann 多様体上のブラウン運動の直感的理 解の方法)に明快な説明を下さった京都大学名誉教授の 渡辺信三氏,大偏差理論について種々御教示下さった長 岡技科大学助教授の中川健治氏,本稿の執筆に際しご支 援頂いた早稲田大学教授の誉田雅彰氏に感謝いたしま す。 参 考 文 献 [甘長]甘利俊一,長岡浩司,情報幾何の方法,岩波講 座応用数学,岩波書店,1993. 11 [アーノルド]V. I. アーノルド,古典力学の数学的方法, 岩波書店,1980

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d dt h t( ) dt ∞ .     ∞

0 2 H: h W R( d); ( ) h t は について絶対連続で  ∈  0 t C A Cn n A A B n ∞ ∞ ∈

( ) : ,( ) , ( ) .   2

(11)

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参照

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