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労働経済学研究のこれから(PDF:507KB)

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労働経済学研究のこれから

三谷 直紀

提 言

 労働経済学研究の環境は近年大きく変化した。 その要因のひとつは IT 化である。つい(?)30 年ほど前までは,計量分析をするにも大型計算機 を使うしかなかった。データもパンチカードなど を使って手入力をすることも多かった。そして, 計算をするにも自前で FORTRAN などの汎用言 語で長時間かけてプログラムを組んで処理を行う 必要があった。しかし,今日では学部学生でも統 計パッケージを使ってパソコンで大量のデータを 用いた計量分析が簡単にできる。また,統計法の 改正による官庁統計利用の規制緩和やデータアー カイブの整備で容易に個票データにアクセスでき るようになった。さらに,COE などのプロジェ クトの成果として日本でもパネルデータが整備さ れてきている。また,当時は文献サーベイも図書 館で学術誌をひとつひとつめくって忍耐強く行う 以外になかった。しかし,今日文献サーベイはイ ンターネットでいとも簡単に効率よく行うことが できる。IT 化によって労働経済学の研究環境は 格段によくなり,生産性が向上した。昔に比べれ ば何不自由のない研究環境が現出している。  また,グローバル化も進展した。地域的には西 欧諸国における労働経済学研究の発展がめざまし い。1980 年代の初めまでは,たとえばフランス の大学では社会政策の講義はあっても労働経済学 の講義はなかった。しかし,第二次石油危機後の 若年失業問題の深刻化や EU 統合の機運の高まり を反映した EU 地域の国際比較可能な労働統計の 整備などもあって,労働経済学の研究が盛んに行 われるようになった。この地域の労働経済学の特 徴は,労働市場の制度や政策との関連を重視して いることである。OECD などの国際機関が労働 市場政策の効果について積極的に国際比較分析を 行ったことも,この地域の労働経済学研究の活性 化に寄与したものと思われる。また,この地域に 限らず,英文の学術論文が増え,共通の言語で労 働経済学の問題を論じる環境が整ったことも大き な変化である。日本の労働市場に関する英文の研 究成果の増加は,日本の労働市場に対する国際的 な理解を深める上で意義深い。  IT 化やグローバル化は労働経済学研究の生産 性や多様性を高め,競争を促進し,質の高い研究 を数多く生み出すという意味で大変好ましい変化 である。しかし,一方で短期に結果を出さなけれ ばならないという研究の短期化という現象も引き 起こしている可能性がある。加えて,日本では大 学等の研究職のポストが限られている中で,政府 の大学院政策によって課程博士が急増した結果, 他の分野と同様競争が激化している。  今後,労働経済学研究の IT 化やグローバル化 はさらに進み,競争はますます激しくなっていく ものと思われる。こうした環境変化の中で,日本 の労働経済学研究がさらに発展していくためには どのようなことが求められるのであろうか。  第一は,問題に対する長期的な取り組みである。 もちろん,その時々の問題に対する研究は必要で ある。いわゆる「時論」に積極的に関与すること は労働経済学の研究者の当然の責務である。しか し,労働経済学研究の短期化が進行する中で,同 じテーマで長期に研究を持続することの重要性は むしろ高まっている。簡単には解の出ない労働経 済の問題に対して時間をかけて研究を行うことに よってこそ,質の高い,そして時間がたっても色 あせない研究成果が生まれる可能性がある。  第二は,独創性の追求である。たとえば日本の 雇用システムに対する評価はこれまで毀誉褒貶が 激しかった。しかし,同時に労働経済学の独創的 な研究をはぐくんできた歴史がある。その中で独 創性ゆえに一時は異端とされた研究が後年高く評 価された例もある。  第三は,聞き取り調査である。聞き取りによっ てデジタル化されない労働現場の生々しい実態が 明らかになる可能性がある。労働経済学研究の成 長の源泉のひとつである。  今後とも,時間をかけた,良質で独創的な日本 の労働経済学研究が現れるための貴重な場として の本誌の役割を期待したい。 (みたに・なおき 岡山商科大学経済学部教授) 1 日本労働研究雑誌

参照

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